電動工具では、一定の回転数を保つように構成されてはいるが、電動工具の使用環境や、モータ及び駆動系の製造誤差等から、ある程度の回転数のばらつきが発生している。このばらつきが、一定の回転数より高い方へ回転数がばらついている場合には、負荷時の回転数が閾値より高くなることがあり、この状態では、作業状態を検出できずにモータの回転数が低速回転から高速回転へと移行することができない。またこのばらつきが、一定の回転数より低い方へばらついている場合には、無負荷状態においても閾値より低い回転数となり、無負荷であっても閾値より低いので常に負荷状態と誤って検出されて常に回転数が高い状態となるおそれがあった。よって本発明は、モータの回転状態のばらつきに関係なく、作業状態を検出することができる電動工具を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために本発明は、モータと、該モータを内蔵するハウジングと、該モータで駆動され被加工部材を加工する先端工具を装着可能な装着部と、該モータの回転を制御する制御部と、を備え、該制御部には、該モータ又は該ハウジングの動作状態を検出する動作状態検出手段と、検出された該動作状態に基づいて基準値を導出する基準値導出手段と、該基準値に対する該動作状態に基づき該先端工具の該被加工部材に対する作業開始を検出する作業開始検出手段と、を有する電動工具を提供する。
上記構成の電動工具において、該制御部は、該モータの回転開始時から始まる該モータが低出力状態の第一期間から該第一期間後であって該モータが高出力状態の第二期間にかけて該モータの出力を増加させる出力増加手段を更に有し、該出力増加手段は、該作業開始検出手段によって検出された作業開始に応じて該モータの出力を増加させることが好ましい。
このような構成によると、電動工具の特性に応じた基準値を規定することができるので、モータの回転状態のばらつきに関係なく、基準値に応じて作業状態を検出することができる。
また該動作状態検出手段で該第一期間を検出した後の時間を計測する時間計測手段と、該時間計測手段で計測した計測結果に基づき、該作業開始検出手段による該作業開始の検出を許可する作業開始検出許容手段と、を備えていてもよい。
このような構成によると、第一期間において確実に低出力状態になった状態で第一期間における作業状態を検出することができる。
また該基準値導出手段は、該モータの無負荷時における該動作状態を検出して該基準値として規定し、該作業開始検出手段は、該モータが回転開始した後に該動作状態が該基準値から該モータの負荷時における該動作状態に変化したことを検出して該作業開始を規定することが好ましい。
このような構成によると、閾値に関係なくモータの回転数低下を検出することができるので、ばらつきに関係なく作業状態、特に先端工具が被対象物に当接して作業を開始したことを検出することができる。
また該基準値導出手段は、該モータの無負荷時における該動作状態を検出すると共に該無負荷時の該動作状態から少なくとも該モータに負荷が発生した時における該動作状態を導出して該基準値として規定し、該作業開始検出手段は、該モータが回転開始した後に該動作状態が該基準値に対して該モータの負荷発生側にあることを検出して該作業開始を規定してもよい。
このような構成によると、個々の電動工具に最適の閾値を求めることができる。よって第一期間において無負荷状態から負荷状態への変化がない場合、例えば作業開始から負荷状態の電動工具においても、作業状態を検出することができる。
また該基準値導出手段は、該モータの無負荷時における該動作状態を検出して設定する第一基準値と、該モータの無負荷時における該動作状態を検出し該無負荷時の該動作状態から少なくとも該モータに負荷が発生した時における該動作状態を導出して設定する第二基準値とを規定し、該作業開始検出手段は、該モータが回転開始した後に該動作状態が該第一基準値から該モータの負荷時における該動作状態に変化したこと、若しくは該モータが回転開始した後に該動作状態が該第二基準値に対して該モータの負荷発生側にあること、のいずれか一方を検出して該作業開始を規定してもよい。
また上記課題を解決するために本発明は、モータと、該モータを内蔵するハウジングと、該モータで駆動され被加工部材を加工する先端工具を装着可能な装着部と、該モータの回転を制御する制御部と、を備え、該制御部には、該モータ又は該ハウジングの動作状態を検出する動作状態検出手段と、検出された該動作状態に基づいて基準値を導出する基準値導出手段と、該基準値に基づき該先端工具の該被加工部材に対する作業終了を検出する作業終了検出手段と、該作業終了に基づき該モータの回転を停止させるモータ停止手段と、を有する電動工具を提供する。
上記構成の電動工具において、該制御部は、該モータの回転開始時から始まる該モータが低出力状態の第一期間から該第一期間後であって該モータが高出力状態の第二期間にかけて該モータの出力を増加させる出力増加手段を更に有し、該作業終了検出手段は、該モータの出力増加後に該作業終了を検出することが好ましい。
このような構成によると、電動工具の特性に応じた基準値を規定することができるので、モータの回転状態のばらつきに関係なく、基準値に応じて作業状態を検出することができる。
また該動作状態検出手段で該第二期間を検出した後の時間を計測する時間計測手段と、該時間計測手段で計測した計測結果に基づき、該作業終了検出手段による該作業終了の検出を許可する作業終了検出許容手段と、を更に備えていてもよい。
このような構成によると、第二期間において確実に高出力状態になった状態で第二期間における作業状態を検出することができる。
また該基準値導出手段は、該被加工部材に対して該先端工具が加工している時の該動作状態を検出して該基準値として設定し、該作業終了検出手段は、該動作状態が該基準値から該モータの無負荷時における該動作状態に変化したことを検出して該作業終了を規定することが好ましい。
このような構成によると、閾値に関係なくモータの回転数上昇を検出することができるので、ばらつきに関係なく作業状態、特に先端工具が被対象物へ当接されなくなった状態、即ち作業が終了したことを検出することができる。
また該基準値導出手段は、該被加工部材に対して該先端工具が加工している時の該動作状態から少なくとも該モータが無負荷になった時における該動作状態を導出して該基準値として設定し、該作業終了検出手段は、該動作状態が該基準値に対して該モータの無負荷側にあることを検出して該作業終了を規定してもよい。
このような構成によると、個々の電動工具に最適の閾値を求めることができる。よって第二期間において負荷状態から無負荷上位への変化がない場合、即ち第二期間に到達した時点において先端工具が被対象物へ当接されなくなりすでに作業が終了している場合においても、容易にその作業終了を検出することができる。
また該基準値導出手段は、該被加工部材に対して該先端工具が加工している時の該動作状態を検出して設定する第三基準値と、該被加工部材に対して該先端工具が加工している時の該動作状態から少なくとも該モータが無負荷になった時における該動作状態を導出して設定する第四基準値とを規定し、該作業終了検出手段は、該動作状態が該第三基準値から該モータの無負荷時における該動作状態に変化したこと、若しくは該動作状態が該第四基準値に対して該モータの無負荷側にあること、のいずれか一方を検出して該作業終了を規定してもよい。
また該動作状態は、該モータの回転数、該モータが消費する電力量、該モータ及び該ハウジングに加えられる振動量のうち、少なくともいずれか一つの値に応じた状態であることが好ましい。このような構成によると、容易に動作状態を検出することができる。
また該動作状態は、該モータの回転数に応じた状態であり、該制御部は、入力される電力の実電圧を検出する実電圧検出手段と、基準電圧を記憶する基準電圧記憶手段と、該モータの実回転数を検出する実回転数検出手段とを更に有し、該動作状態検出手段は、該基準電圧を該実電圧で除した値に該実回転数を乗じて該回転数を検出していることが好ましい。
このような構成によると、特にAC電源において電圧変動に応じた回転状態が変動する場合であっても、回転状態検出手段で検出する回転状態を安定した値にすることができる。
本発明の電動工具によれば、モータの回転状態のばらつきに関係なく、作業状態を検出することができる。
以下、本発明の第一の実施の形態に係る電動工具を、図1乃至図8に基づき説明する。図1に示される電動工具である穿孔工具1は、被穿孔材Wに穿孔するロータリーハンマドリルであり、ハンドル部10と、モータハウジング20と、ギヤハウジング60とによりハウジングが構成されている。以下においては、図1における右側(穿孔ビット2の先端側)を穿孔工具1の前端側として前後方向を定義し、前後方向と直交する方向であってハンドル部10がモータハウジング20から延出される方向を下側として上下方向を定義して説明する。また被穿孔材Wは、穿孔工具1の前端側に位置する。ハウジングの先後方向におけるハウジングの長さ、即ち図1における左右方向における長さは30cm〜40cm程度である。
ハンドル部10は、プラスチックで一体成型されて略U字状をなしており、その上部には、モータハウジング20の一部であって後述のモータ21を収容しているモータ収容部20Aが規定され、モータハウジング20の一部をなしている。ハンドル部10の後部10A下部には、電源ケーブル11が取付けられていると共に、後述のモータ21等に接続されるスイッチ機構12が内蔵されている。スイッチ機構12には、作業者によって操作可能なトリガ13が機械的に接続されている。トリガ13を操作することにより、インバータ回路部102への電源供給又は停止が切り替えられる。また、ハンドル部10の後部10Aであってトリガ13よりもすぐ下の部分は、後部10Aを穿孔工具1のユーザが把持したときに、中指と薬指によって把持される部分たる把持部10Cをなす。
ハンドル部10の前部10Bにおいて、その上部には先端方向に指向する距離センサ14が設けられている。距離センサ14は、波長は850nm程度の赤外線センサにより構成されており、先端・後端方向における距離センサ14から被穿孔材Wまでの間の距離:Xを測定値として測定可能である。
距離センサ14は、図2に示すようにその略全体が樹脂製のカバー14Aにより覆われている。カバー14Aの後部はゴムからなる弾性部材14Bを介してハンドル部10の前部10Bの上部に固定されている。距離センサ14は後述のマイコン110(図4)に電気的に接続されている。また、距離センサ14は後述の入力部23の穴深さ設定ボタン117に電気的に接続されており、穴深さ設定ボタン117においては後述のように所望の穿孔深さを入力可能である。入力される穿孔深さの値は、より具体的には、3cm〜6cm程度である。
モータハウジング20には、その外表面であって上方位置に入力端末(入力手段)である入力部23が設けられ、その内部にモータ21が収納されている。入力部23は、図3に示されるように、デジタル表示される表示部23Aと、深さ制御機能オン・オフボタン116と、穴深さ設定ボタン117と、原点位置設定ボタン118と深さ補正処理オン・オフボタンとを備えている。深さ制御機能オン・オフボタン116は、後述する穴深さ設定ボタン117により設定された穴の深さで穿孔を行うか(深さ制御機能オン)、当該設定された穴の深さに係らず穿孔を行うか(深さ制御機能オフ)、の切換えを行っている。
穴深さ設定ボタン117は、穿孔しようとする穴の深さの設定を行っており、UPボタン117AとDOWNボタン117Bとを有している。原点位置設定ボタン118は、穿孔しようとする穴に対する原点位置に穿孔工具1をセットしたときに押圧することで原点位置の設定を行っている。これらボタンは、それぞれ後述のマイコン110に接続されている。
図1に示されるモータ21は三相直流ブラシレスモータにより構成されており、後述のマイコン110により回転の制御が行われる。モータ21は前端側へ延出されて前後方向を軸方向とする出力軸22を備えており出力軸22は回転駆動力を出力する。出力軸22の基部には軸流ファン22Aが出力軸22と同軸的に一体回転可能に設けられている。
ギヤハウジング60は樹脂成型されて構成されており、モータハウジング20の前端側に設けられている。ギヤハウジング60内には、第一中間シャフト61が、出力軸22を延ばすように同軸的に配置され、軸受63により回転可能に支承されている。第一中間シャフト61の後端は出力軸22と連結している。第一中間シャフト61の先端には第四ギヤ61Aが設けられている。また、ギヤハウジング60内には、出力軸22と平行に第二中間シャフト72が、軸受72Bによってその軸心を中心に回転可能に支承されている。
第二中間シャフト72の後端部には、第四ギヤ61Aと噛合する第五ギヤ71が同軸固定されている。第二中間シャフト72の前端側にはギヤ部72Aが形成され、後述する第六ギヤ73と噛合している。ギヤハウジング60内であって第二中間シャフト72の上方の位置には、シリンダ74が設けられている。シリンダ74は第二中間シャフト72と平行に延びて回転可能に支承されている。第六ギヤ73はシリンダ74の外周に固定され、上述したギヤ部72Aとの噛合により、シリンダ74はその軸心を中心として回転可能である。
シリンダ74の前端側には工具保持部15が設けられており、後述の穿孔ビット2が着脱自在に取付けられる。第二中間シャフト72の中間部分には、バネによって後端側へ付勢されるクラッチ76がスプライン係合されており、クラッチ76は、ギヤハウジング60に設けられた図示せぬチェンジレバによってハンマドリル・モードとドリルモードとを切換え可能である。クラッチ76のモータ21側には、回転運動を往復運動に変換する運動変換部80が第二中間シャフト72に回転可能に外装されている。運動変換部80の腕部80Aは、第二中間シャフト72の回転により穿孔工具1の前後方向に往復動作可能に設けられている。
シリンダ74内にはピストン82が設けられている。ピストン82は、第二中間シャフト72と平行な方向に往復運動可能且つシリンダ74内で摺動可能に装着されている。ピストン82内には打撃子83が内装されており、シリンダ74内であってピストン82と打撃子83の間には空気室84が画成される。打撃子83の空気室側の反対位置には、中間子85がシリンダ74内にピストン82の運動方向に摺動可能に支承されている。中間子85の打撃子側反対位置には、先端工具である穿孔ビット2が位置している。よって打撃子83は中間子85を介して穿孔ビット2を打撃可能である。
クラッチ76がハンマドリル・モードに切換えられているときには、クラッチ76により第二中間シャフト72と運動変換部80とが結合している。運動変換部80は、ピストンピン81を介して、シリンダ74内に設けられたピストン82と連動するように接続されるように構成されている。
穿孔ビット2はドリルビットであり、図1に示されるように、丸棒状を成し螺旋状の溝が切られた胴部2Aと、その胴部の先端に位置する先細り形状の先端部を備えており、先端部が先頭となって被穿孔材Wに孔を穿孔可能に構成されている。また穿孔ビット2は、工具保持部15に対して着脱可能であり、交換可能である。
次に、図4を用いて、演算部(制御部)であるマイコン110を含む制御回路部と、整流回路101、インバータ回路部102及びモータ21の回路構成について説明する。制御回路部は、スイッチ操作検出回路111と、印加電圧設定回路112と、入力電圧検出回路113と、電流検出回路114と、回転子位置検出回路115と、モータ回転数検出回路116と、制御信号出力回路119と、図示せぬ距離深さ設定回路及び原点位置設定回路を備えている。
スイッチ操作検出回路111は、トリガ13の押込の有無を検出し、その検出結果をマイコン110へ出力する。印加電圧設定回路112は、トリガ13から出力された目標値信号に応じて、インバータ回路部102のスイッチング素子Q1〜Q6を駆動するためのPWM駆動信号のPWMデューティを設定し、マイコン110へ出力する。
入力電圧検出回路113は、整流回路101とインバータ回路部102との間の電圧を検出し、その検出結果をマイコン110に出力している。電流検出回路114は、整流回路101とインバータ回路部102との間の電流量を検出し、その検出結果をマイコン110に出力している。回転子位置検出回路115は、ホールIC21Aから出力された回転位置検出信号に基づいてモータ21のロータの回転位置を検出し、その検出結果をマイコン110に出力している。モータ回転数検出回路116は動作状態検出手段であり、回転子位置検出回路115で検出した回転位置から、モータ21の回転数を検出して、その検出結果をマイコン110に出力している。図示せぬ距離深さ設定回路には穴深さ設定ボタン117が接続されており、深さ制御機能オンの状態で孔深さ設定ボタン117より入力された値まで穿孔ビット2で穿孔した時に、モータ21への電力供給を停止する信号をマイコン110に出力するように構成されている。図示せぬ原点位置設定回路には、原点位置設定ボタン118が接続されており、原点位置設定ボタン118が押された時に、穿孔ビット2で穿孔する孔の原点設定に係る信号をマイコン110に出力している。
マイコン110は、印加電圧設定回路112からの出力に基づいてPWMデューティーの目標値(パワーセーブモード:70%、フルパワーモード:100%)を算出する。また、回転子位置検出回路115からの出力に基づいて、適切に通電するステータ巻線を決定し、出力切替信号H1〜H3およびPWM駆動信号H4〜H6を生成する。PWM駆動信号H4〜H6はPWMデューティーの目標値の大きさに基づいてデューティー幅が決定されて出力される。制御信号出力回路119は、マイコン110で生成された出力切替信号H1〜H3及びPWM駆動信号H4〜H6をインバータ回路部102に出力する。
インバータ回路部102には、商用電源からの交流電力が整流回路101を介して給電される。インバータ回路部102では、出力切替信号H1〜H3およびPWM駆動信号H4〜H6に基づきスイッチング素子が駆動されて、通電されるステータ巻線が決定される。さらにPWM駆動信号はPWMデューティーの目標値でスイッチングされている。これにより、モータ21の三相のステータ巻線(U、V、W)に電気角120°の三相交流電圧が順に印加されることとなる。
また、マイコン110は、ROM等の記憶手段である記憶装置120とタイマ120Aとを備えており、記憶装置120は後述する各々の基準値を記憶する記憶手段として機能し、タイマ120Aは、作業に係る時間を測定している。このタイマ120Aが時間計測手段に該当する。
以上の構成の穿孔工具1のモータ21の駆動時には、モータ21の回転出力が第一中間シャフト61、第四ギヤ61A、及び第五ギヤ71を介して第二中間シャフト72に伝わる。第二中間シャフト72の回転は、ギヤ部72Aと第六ギヤ73との噛合によりシリンダ74に伝わり、穿孔ビット2に回転力が伝えられる。クラッチ76をハンマドリル・モードに移動させると、クラッチ76が運動変換部80と結合し、第二中間シャフト72の回転駆動力が運動変換部80に伝わる。運動変換部80では回転駆動力がピストンピン81を介してピストン82の往復運動に変換される。ピストン82の往復運動により打撃子83とピストン82との間に画成された空気室84中の空気の圧力は上昇及び低下を繰り返し、打撃子83に打撃力を付与する。打撃子83が前進して中間子85の後端面に衝突し、中間子85を介して打撃力が図示せぬ穿孔ビット2に伝達される。このようにしてハンマドリル・モードでは図示せぬ穿孔ビット2に回転力と打撃力が同時に付与される。
クラッチ76がドリルモードにあるときは、クラッチ76は第二中間シャフト72と運動変換部80との接続を断ち、第二中間シャフト72の回転駆動力のみがギヤ部72A、第六ギヤ73を介してシリンダ74に伝達される。よって、穿孔ビット2には回転力のみが付与される。
上述の、ハンマドリル・モード若しくはドリルモードにおいては、穿孔ビット2の中心軸(穿孔ビット2の前後方向と平行な軸)と被穿孔材Wの平面とが直交するように穿孔工具1を保持すると共に、深さ制御機能オン・オフボタン116を押してマイコン110を深さ制御機能オン状態にする。この状態で、UPボタン117AとDOWNボタン117Bとを操作して、穿孔深さを設定し、原点位置設定ボタン118を操作して原点位置を設定し、その後にトリガ13を引いて穿孔を行う。穿孔中においては、距離センサ14によって穿孔深さを常に検出しており、その穿孔深さが設定値に達したところでマイコン110により、自動的にモータ21への電源供給が停止される。
また穿孔ビット2で被穿孔材Wに穿孔する際に、穿孔当初から穿孔ビット2を高回転(フルパワーモード:PWMデューティー100%)にすると、穿孔ビット2が被穿孔材Wから弾かれて、適切な作業を行えない場合がある。よってそれを避けるために、穿孔当初は、低回転(パワーセーブモード:PWMデューティー70%)で穿孔作業を行うと共に一定期間経過後かつ負荷検出後に高回転(フルパワーモード:PWMデューティー100%)まで回転数を上げて作業を行う、所謂スローアイドリングを行う。
このスローアイドリングに係る制御としては、図5に示されるように、作業者がトリガ13を引いて回転開始後(作業開始後)の第一期間において低回転でモータ21を回転させ、その後に、モータ21の回転数を上昇させる上昇期間を経て、高回転でモータ21を回転させる第二期間に移行する。第二期間において、穿孔作業が終了した後に、モータ21の回転数を低下させる下降期間を経て、再び低回転でモータ21を回転させる図示せぬ第三期間へと移行する。そして第三期間において作業者がトリガ13から手を離すことにより、モータ21の回転が停止する。
穿孔ビット2が予め被穿孔材Wに当接した状態でトリガ13を引いた場合(作業を開始した場合)には、モータ21に負荷が掛かった状態が作業開始時から保たれるため、図5の実線L1に示されるように、第一期間において、モータ21は低回転の状態を保ち、特に回転数の変動は無い。
これに対して穿孔ビット2が被穿孔材Wに当接していない状態でトリガ13を引いた場合(作業を開始した場合)には、図5の破線l1に示されるように、作業開始時に無負荷でモータ21が回転するため第一期間の初期において回転数が上昇し、パワーセーブモードにおける最高回転数N1maxに到達する。その後に時刻t1で穿孔ビット2が被穿孔材Wに当接して穿孔を始めることによりモータ21に負荷が掛かり、回転数が低下して実線L1と同一回転数に収束する。
上昇期間を経て第二期間へと移行した際に、すでに所定の穿孔深さまで穿孔している場合には、作業者が穿孔工具1を被穿孔材Wに押し付けることを停止するため、モータ21に負荷が掛からない。また穿孔ビット2が被穿孔材Wを貫通した場合には、穿孔ビット2の先端が被穿孔材Wに当接しない状態であるため、モータ21に負荷が掛からない。この場合には、図5の破線l2に示されるように、第二期間の初期において回転数が上昇し、フルパワーモードにおける最高回転数に到達する。
これに対して第二期間において未だ穿孔ビット2先端が被穿孔材Wに当接して穿孔作業を行っている場合には、モータ21に負荷が掛かるため、図5の実線L2に示されるように回転数の上昇は抑制され、第二期間の開始時においてフルパワーモードにおける最小回転数N2minに到達する。その後に時刻t2で所定の穿孔深さまで穿孔することにより、モータ21に負荷が掛からなくなり、回転数が上昇して破線l2と同一回転数に収束(フルパワーモードにおける最高回転数に到達)する。
上述の第一期間から第二期間への移行は、第一期間における回転数に基づき行われる。具体的には、第一期間における最高回転数N1max(第一基準値)と、最高回転数N1maxの90%の値N09(第二基準値)とを予め記憶装置120に記憶しておき、この基準値に基づき、第一期間の開始時においてモータ21の回転数Nが第一基準値まで達した後に第一基準値の90%以下まで低下するか(タイムチャートの破線l1に対応した判断)、若しくは第一期間の開始後において回転数Nが上昇せずに第二基準値より下回ったままの状態であるか(タイムチャートの実線L1に対応した判断)、のいずれかを判断した場合に、上昇期間を経て第二期間へと移行する。尚、本実施の形態では、第二基準値と、第一基準値の90%の値とが等しい値である。
また上述の第二期間から第三期間への移行には、第二期間における回転数に基づき行われる。具体的には、第二期間における最小回転数N2min(第三基準値)と、最小回転数N2minの110%の値N11(第四基準値)と、を記憶装置120に記憶しておき、この基準値に基づき、第二期間の開始時において、モータ21の回転数Nが第三基準値若しくは第三基準値より小さい値を示した後に第三基準値の110%以上まで上昇するか(タイムチャートの実線L2に対応した判断)、若しくは第二期間の開始時において、第四基準値を上回った状態であるか(タイムチャートの破線l2に対応した判断)、のいずれかを判断した場合に、下降期間を経て第三期間へと移行する。尚、本実施の形態では、第四基準値と、第三基準値の110%の値とが等しい値である。
上記タイムチャートに係るマイコン110で行われる制御について図6のフローチャートに基づき説明する。先ずS01において、記憶装置120から予め記憶している第一基準値〜第四基準値をマイコン110に読み出し、次にS02に進んでトリガ13が引かれたか否かを判断する。S02でトリガ13が引かれたと判断したらS03へと進み、パワーセーブモードでモータ21を起動する。次にS04へ進んで、現在のモードがパワーセーブモードであるか否かを判断する。現状はS03においてパワーセーブモードで起動しているので(S04:YES)、S05へと進み、PWMデューティーを70%に設定し、次にS06へと進んでモータ回転数検出回路116によりモータ回転数Nを検出する。この検出したモータ回転数Nに基づき、S07でモータ回転数Nが第一基準値を上回っているか否かを判断する。S07でモータ回転数Nが第一基準値を上回っていると判断された場合(S07:YES)には、S08へと進み、この上回ったモータ回転数Nを新たな第一基準値として記憶装置120に記憶し、S09へと進む。S07でモータ回転数Nが第一基準値を上回っていないと判断された場合(S07:NO)には、S08を回避してS09へと進む。
S09では、現在のモータ回転数Nが第二基準値以下、即ち最高回転数N1maxの90%以下にあるか否かを判断する。ここでモータ回転数Nが第二基準値以下と判断される場合(S09:YES)には、S10に進んでフルパワーモードへ移行し、S11に進み、トリガ13が引かれたままであれば(S11:NO)、S04にループする。またモータ回転数Nが第二基準値以上と判断される場合(S09:NO)には、S10を回避してS11に進み、トリガ13が引かれたままであれば(S11:NO)、S04にループし、未だパワーセーブモードであるのでS04からS05へと進み、以下S09がYESと判断されるまで上記ループを繰り返す。ここでS09がYESと判断される、即ち穿孔ビット2先端が被穿孔材Wに当接し負荷が発生してモータ21の回転数が低下した状態にあるのは、図5のタイムチャートにおいて少なくとも時刻t1以降である。また、S09がNOと判断されるのは、タイムチャートにおいて時刻t1より前である。このS07(YES)−S08−S09(YES)、及びS07(YES)−S08−S09(NO)に係る制御が、図4に示されるタイムチャートの破線l1に対応する。またS07(NO)−S09(YES)に係る制御が、図4に示されるタイムチャートの実線L1に対応する。またS5〜S10を含むフローが第一期間に該当する。
S10−S11からループしたS04においては、現在フルパワーモードで有るため、S04:NOと判断し、S13へと進み、PWMデューティーを100%に設定し、次にS14へと進んでモータ回転数検出回路116によりモータ回転数Nを検出する。この検出したモータ回転数Nに基づき、S15でモータ回転数Nが第三基準値を下回っているか否かを判断する。S15でモータ回転数Nが第三基準値を下回っていると判断された場合(S15:YES)には、S16へと進み、この下回ったモータ回転数Nを新たな第三基準値として記憶装置120に記憶し、S17へと進む。S15でモータ回転数Nが第三基準値を下回っていないと判断された場合(S15:NO)には、S16を回避してS17へと進む。S17では、現在のモータ回転数Nが第四基準値以上、即ち最高回転数N1maxの110%以上にあるか否かを判断する。ここでモータ回転数Nが第四基準値以上と判断される場合(S17:YES)には、S18に進んでパワーセーブモードへ移行し、S11に進む。またモータ回転数Nが第四基準値以下と判断される場合(S17:NO)には、S18を回避してS11に進み、トリガ13が引かれたままであれば(S11:NO)、S04にループし、未だフルパワーモードであるのでS04からS13へと進み、以下S17がYESと判断されるまで上記ループを繰り返す。ここでS17がYESと判断されるのは、図4のタイムチャートにおいて少なくとも時刻t2以降であり、S17がNOと判断されるのは、タイムチャートにおいて時刻t2より前である。このS15(YES)−S16−S17(YES)、及びS15(YES)−S16−S17(NO)が、図5に示されるタイムチャートの実線L2に対応する。またS15(NO)−S17(YES)が、図4に示されるタイムチャートの破線l2に対応する。またS13〜S18を含むフローが第二期間に該当する。
S17において、モータ回転数Nが第四基準値以上(S17:YES)と判断された場合は、穿孔作業が終わった状態であるため、S17(YES)−S18−S11とフローが流れた場合には、S18でモータ21の回転数を低下させた後にS11においてトリガ13が元に戻され(S11:YES)、S12に進んでモータ21を停止して作業を停止し、S02へループする。このS11−S12を含むフローが第三期間に該当する。
上記フローチャートにおいて、S08、S16が基準値導出手段に該当し、S08、S17が作業開始検出手段、作業終了検出手段に該当する。またS10が出力増加手段に該当し、S12がモータ停止手段に該当する。
上記の制御に係るモータ21の回転は、上述のように印加電圧設定回路112によって設定される印加電圧に基づいている。この印加電圧は、上述のように商用電源からの交流電力を整流回路101により直流とした時の入力電圧Einに基づき設定されるが、この入力電圧は必ずしも平滑ではなく、図7に示されるように、変動し、この変動に応じてモータ21の回転数も変動する。モータ21の回転数が変動すると、例えば第一期間において、本来ならモータ回転数Nが第一基準値を上回っているのに上回っていないと判断される場合がある。よってこのような誤判断を低減するため、図8に示されるように、一例として約230Vの基準電圧Ebを定め、実際のモータ21の回転数を実回転数Noと規定した時に、モータ回転数N=No×(Eb/Ein)として定義する。このようにモータ回転数Nを定義することにより、入力電圧Einの変動の影響を排除することができ、モータ21が同一負荷状態にある場合において、モータ回転数Nを平滑にすることができ、上述のような誤判断を低減することができる。
本実施の形態で、図6に示される回転数に基づく制御は、穿孔ビット2が被穿孔材Wを穿孔する際の負荷発生に基づく回転数の低下に着目して制御を行っている。これに対して穿孔ビット2が被穿孔材Wを穿孔する際の負荷発生に基づく電流量の上昇に着目して制御を行っても良い。具体的には図9に示されるフローチャートに基づき制御を行う。この図9に示される電流量に係るフローチャートは、図6に示される回転数に係るフローチャートと同一の構成を成しており、回転数が電流量に置き換わったチャートである。また上述のように、モータ21への負荷が増加すると回転数は低下するが電流量は増加するため、図9のフローチャートは、大小関係が図6のフローチャートと逆に設定されている。よって図9のフローチャートに係る第一基準値と第三基準値とは、それぞれモータ21の第一期間における最高回転数N1maxに対応した最小電流量I1minと、第二期間における最小回転数N2minに対応した最大電流量I2maxになる。また、第二基準値と第四基準値とは、それぞれ第一基準値の110%の値と、第三基準値の90%の値となる。また例えば図6のS07でモータ回転数Nが第一基準値を上回っているか否かを判断するのに対して、図9のS27では、モータ電流値Iが第一基準値を下回っているか否かを判断する。
このように電流量Iに基づいても回転数Nと同様な制御を行うことができる。また電流量の他に、例えば穿孔工具1で発生する振動に着目し、加速度センサにより振動量を検出して制御を行ってもよい。この振動量は、穿孔ビット2による被穿孔材Wへの穿孔時と非穿孔時とでは、穿孔時の振動量が多く、またパワーセーブモードとフルパワーモードでは、フルパワーモードの振動量が多くなる。この振動量の大小関係は、電流量Iの穿孔時と非穿孔時、及びパワーセーブモードとフルパワーモードにおける大小関係と同様であるため、図9に示される電流量Iのフローチャートと同様のフローチャートにより制御を行うことができる。
上述の回転数に係る制御では、図6に示されるように、S04でパワーセーブモードかフルパワーモードかのいずれかを判断し、S05、S13でパワーセーブモードとフルパワーモードとのそれぞれのPWMデューティー値に設定し、これら所定のPWMデューティー値に到達したとして、S06以降、若しくはS14以降のフローを実行している。これに対して、図10に示されるように、S104でパワーセーブモードかフルパワーモードかを判断した後に、S105及びS114で、パワーセーブモードとフルパワーモードとのそれぞれのPWMデューティー値に設定し、その後にS106及びS115で所定のモードに移行した後に所定時間経過したかを判断してもよい。
具体的には、例えば時刻pret1(図5)において、S105でパワーセーブモードとしてPWMデューティー値を70%に設定する。次にS106へと進み、パワーセーブモードに移行した後にタイマ120Aにより所定時間(図5における期間p1)経過したか否かを判断する。ここで所定時間経過していなければ(S106:NO)、S113へと進み、今だトリガ13が引かれている状態であるので(S113:NO)、S104とループし、更にS105、S106へと進んで、所定時間経過するまで上記フローを繰り返す。
S106で所定時間経過していれば(S106:YES)、S107へと進み、モータ回転数を検出し、以降、図6のフローチャートと同様の処理を行う。
また時刻pret2(図5)において、S114でフルパワーモードとしてPWMデューティー値を100%に設定する。次にS115へと進み、フルパワーモードに移行した後にタイマ120Aにより所定時間(図5における期間p2)経過したか否かを判断する。ここで所定時間経過していなければ(S115:NO)、S113へと進み、今だトリガ13が引かれている状態であるので(S113:NO)、S104とループし、更にS114、S115へと進んで、所定時間経過するまで上記フローを繰り返す。
S115で所定時間経過していれば(S115:YES)、S116へと進み、モータ回転数を検出し、以降、図6のフローチャートと同様の処理を行う。
このようにパワーセーブモードとフルパワーモードとのそれぞれのPWMデューティー値に設定し所定時間経過した後にモータ回転数を検出することにより、確実にパワーセーブモード若しくはフルパワーモードに移行した状態でモータ回転数を検出することができ、パワーセーブモード若しくはフルパワーモードにおける回転数を正確に検出することができる。尚、S106、S115がそれぞれ作業開始検出許容手段、作業終了検出許容手段に該当する。
また図6に示されるフローチャートでは、第一基準値(最高回転数N1max)と第三基準値(最小回転数N2min)については、フローチャート内で数値を更新するのみ(図6のS08、S16)であったが、これに加えて、これら第一基準値、第三基準値をリセットするフローを備えていてもよい。具体的には、図10に示されるように、パワーセーブモードからフルパワーモードとへと移行するS111の後にS112においてフルパワーモードで用いる第三基準値をリセットし、フルパワーモードからパワーセーブモードに移行するS120の後にS121においてパワーセーブモードで用いる第一基準値をリセットする。
このように第一基準値と第三基準値とをリセットすることにより、S109及びS118で異常値が第一基準値(最高回転数N1max)と第三基準値(最小回転数N2min)として更新されたとしても、異常値を排除することができる。
本実施の形態に係る電動工具として穿孔工具について説明したが、これに限らず先端工具により被加工材を加工する電動工具であれば、いずれも本発明を適用することができる。例えば図11に示されるような、携帯用丸鋸201においても適用可能である。この携帯用丸鋸201は、被加工材である図示せぬ板材上に載置されるベース202と、ベース202上に設けられたハウジング203と、図示せぬ板材を切断する鋸刃201Aを備えている。ハウジング203には、図12に示されるように、モータ204とモータ204の駆動力が伝達されるギヤ機構205とが設けられており、ギヤ機構205に前述の鋸刃201Aが接続され、鋸刃201Aが回転駆動されている。また図11に示されるようにハウジング203には、外部電源に接続されモータ204(図12)のON/OFFを制御するトリガ231が設けられると共に、モータ204に供給する電力を制御する制御装置である図示せぬマイコンを備えている。
この携帯用丸鋸201において板材を切断するには、トリガ231を引き鋸刃201Aを回転させた状態で板材に接触して切り進む場合と、鋸刃201Aを予め板材に接触させた状態からトリガ231を引き鋸刃201Aを回転させて切り進む場合がある。いずれの場合においても、切断開始時においては鋸刃201Aの回転数を小さくし(パワーセーブモード)、確実に切り進み出した状態で、鋸刃201Aの回転数を最大値(フルパワーモード)にすることにより、切断開始時に鋸刃201Aが板材から弾かれることが無く、好適に切断作業をすることができる。
よって、上述の実施の形態と同様に、携帯用丸鋸201において第一〜第四基準値を設定し、この基準値に基づき、図6のフローチャートと同じ制御を行うことにより、鋸刃201Aの作業状態を検出することができ、最適な切断状態(パワーセーブモードとフルパワーモードとのいずれか)を選択することができる。
また本変形例以外にも、被加工材を切断する電動工具、例えばジグソーやセイバーソー、また切断、穿孔以外で、サンダー等の切削・研磨を行う電動工具にも本発明を適応可能であるのは言うまでもない。