ところで、特許文献1のがんぎ車は、歯の先端部である指状体の第一部分と第二部分との間に段差を設け、その段差の領域を保油部分として構成しているため、摺動部に潤滑油が供給されにくいという問題がある。例えば、がんぎ車を別部品と摺動させる際に、がんぎ車と別部品の摺動面が平行に接触する場合には潤滑油が供給されるが、がんぎ車の保油部分から離れる方向に傾いて接触する場合には潤滑油が供給されない。
また、特許文献1のがんぎ車のような構造では、別部品と摺動させる際に、がんぎ車と別部品とが面接触してしまうため、摩擦力が大きくなってしまうという問題がある。
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、別部品と摺動させる際に、摺動部に確実に潤滑油を供給することができ、かつ摩擦力を低減することができる機械部品、機械部品の製造方法および時計を提供するものである。
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明に係る機械部品は、電鋳により形成され、軸部を中心に回動し隣接する別部品と摺動可能に構成された機械部品において、前記軸方向に少なくとも三つの層が積層され、前記少なくとも三つの層の最上層と最下層に挟まれた少なくとも一つの層の前記別部品と当接する摺動面に凹部が形成され、前記少なくとも三つの層の前記凹部に対して凸となる少なくとも一つの層に山部が形成され、該山部が前記別部品に当接可能に構成されていることを特徴としている。
また、前記山部が、前記摺動面に周方向に沿うように形成されていることを特徴としている。
または、前記山部が、前記摺動面に軸方向に沿うように形成されていることを特徴としている。
このように構成することで、潤滑油保持部となる凹部が積層方向の片側に位置しなくなるため、別部品と摺動させる際に、接触角度に影響を受けずに摺動部に確実に潤滑油を供給することができる。
また、機械部品の山部の周りに潤滑油を塗布することにより、潤滑油を摺動面に確実に供給することができる。また、山部を複数形成すると、隣接する山部の間に潤滑油を保持することができるため、潤滑油の保持量を増加させることが可能となる。さらに、山部を周方向または軸方向に沿って複数形成すると、機械部品の摺動面(外周面)の表面積が増加するため、潤滑油の保持量をさらに増加させることができる。したがって、摺動面に確実に潤滑油を供給することができるとともに、潤滑油を長期間供給することができるため、メンテナンスの頻度を少なくすることができる。
また、このように構成することで、機械部品と別部品とを摺動させる際に、山部と別部材とが点接触しながら摺動させることができる。したがって、機械部品と別部品との接触面積を小さくすることができるため、摩擦力を低減することができる。
さらに、機械部品は電鋳により形成されるため、十分な強度を有するとともに、製品の精度を均一化することができる。したがって、歩留まりを向上することができる。
また、前記凹部が積層された少なくとも3つの層の最上層と最下層に挟まれた少なくとも1つの層のうちの少なくとも1つの層が後退して形成されてもよい。
また、前記凹部が前記軸方向に複数形成されていることを特徴としている。このように構成することで、別部品と摺動させる際に接触角度による影響をより受けにくくなり、潤滑油をより確実に供給することができる。
また、前記凹部が、外周面の全周にわたって形成されていることを特徴としている。このように構成することで、凹部による潤滑油の保持量を多くすることができる。したがって、摺動面に確実に潤滑油を供給することができるとともに、潤滑油を長期間供給することができるため、メンテナンスの頻度を少なくすることができる。
また、本発明に係る機械部品は、すくなくとも2種類以上の異なる材料からなる少なくとも3つの層が積層された構造であってもよい。このとき、前記層のうち少なくとも1つの層の材料が他の層の材料よりも熱伝導性が良くてもよい。
また、前記山部は、曲面形状を有することを特徴としている。このように構成することで、機械部品と別部品とを摺動させる際に、曲面形状の山部と別部材とが点接触しながら摺動させることができる。したがって、機械部品と別部品との接触面積を確実に小さくすることができるため、摩擦力を低減することができる。
また、前記山部が1つの層に複数形成されていることを特徴とする。このように構成することで、隣接する山部の間に潤滑油を保持することができるため、潤滑油の保持量を増加させることが可能となる。さらに、山部を周方向または軸方向に沿って複数形成すると、機械部品の摺動面(外周面)の表面積が増加するため、潤滑油の保持量をさらに増加させることができる。したがって、摺動面に確実に潤滑油を供給することができるとともに、潤滑油を長期間供給することができるため、メンテナンスの頻度を少なくすることができる。
また、前記山部が複数の層に形成されていることを特徴とする。このように構成することで、機械部品と別部品とを摺動させる際に、接触角度の影響を受けずに、いずれの層と別部品が接触しても山部と別部材とが点接触しながら摺動させることができる。したがって、機械部品と別部品との接触面積を小さくすることができるため、摩擦力を低減することができる。
また、前記機械部品が歯車であり、前記山部が外周面の全周に亘って形成されていることを特徴としている。このように構成することで、摺動面となる歯車の外周面に潤滑油を多く保持することができるため、摺動面の摩耗を抑制することができるとともに、滑らかに歯車を回動させることが可能となる。つまり、歯車をメンテナンスを行うことなく長期間に亘って精度良く回動させることが可能となる。
また、前記機械部品が歯車であり、前記山部が前記別部品と当接する歯先部のみに形成されていることを特徴としている。このように構成することで、摺動面となる歯車の歯先部に潤滑油を多く保持することができるため、歯先部の摩耗を抑制することができるとともに、滑らかに歯車を回動させることが可能となる。つまり、歯車を精度良く回動させることが可能となる。
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、複数層からなる基板を用いて、別部品と摺動可能な摺動面を有する機械部品を製造する方法であって、前記基板の上層における前記機械部品の形成領域以外の領域に、前記摺動面に相当する位置を輪郭に含む第一マスク材を形成する工程と、該第一マスク材を用いて前記上層を所定深さまで等方性エッチングするエッチング工程と、前記等方性エッチングにより形成された凹部の底面および側面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、前記凹部の底面に形成された前記保護膜を除去する保護膜除去工程と、前記エッチング工程、前記保護膜形成工程および前記保護膜除去工程を繰り返して、前記基板の下層を露出させる工程と、該下層の表面に少なくとも2種類以上の材料層を電鋳によって堆積する電鋳物形成工程と、前記摺動面に相当する位置に残存する前記上層を含めて前記基板を除去する工程と、前記材料層の表面の一部を選択的に除去する工程と、を有していることを特徴としている。
このように半導体プロセスを利用することにより、精密機械加工を用いることなく低コストで山部を形成することができる。また、複数層からなる基板を用いることにより、下層の露出時点で上層のエッチングを停止することが可能になり、機械部品を精度よく製造することができる。
また、前記機械部品が歯車であり、前記摺動面は前記歯車の歯先部であり、前記第一マスク材が、前記機械部品の外周における前記歯先部に相当する位置のみを輪郭に含むように形成され、前記電鋳物形成工程の前に、前記機械部品の形成領域以外の領域に第二マスク材を形成する第二マスク材形成工程を有し、前記電鋳物形成工程では、前記第一マスク材および前記第二マスク材を用いて前記機械部品の形成領域に前記電鋳物を形成することを特徴としている。
このように構成することで、電鋳部の形成工程の前に電極として基板上に金属層を形成する場合に、金属層を基板上に連続的に形成することが可能となる。つまり、電鋳物形成工程において、金属層の一箇所に電源を接続するだけで全ての電鋳物の形成領域に電源が供給され、電鋳物を形成することができる。
また、前記機械部品が軸部材を嵌合可能な貫通孔を有し、前記第一マスク材を形成する工程において、前記貫通孔の形成領域にも第一マスク材を形成することを特徴としている。
このように構成することで、機械部品の貫通孔にも山部を形成することができる。このようにして製造された機械部品に軸部材を嵌合すると、機械部品と軸部材とが点接触することとなり、頂部が変形して軸部材を保持するため応力が緩和される。すなわち、その応力は、機械部品の山部の部分で吸収されるため、機械部品全体には反りや割れなどの発生を抑制することができる。さらに、機械部品の貫通孔の形状は周方向に一様であるため、機械部品に軸部材を嵌合する際に、位置合わせの必要がなくなり、生産効率を向上することができる。
また、前記基板は、前記下層に金属層を備え、前記電鋳物形成工程では、前記金属層を電極として前記電鋳物を形成することを特徴としている。
このように構成することで、基板の下層に形成された金属層を電極として利用することができるため、電極(金属層)を形成する工程を省略することができる。したがって、生産効率を向上することができる。
また、前記基板は、前記下層に埋め込み酸化膜層を備えたSOI基板であり、前記第二マスク材形成工程の前に、前記埋め込み酸化膜層の表面に金属層を形成する工程を有し、前記電鋳物形成工程では、前記金属層を電極として前記電鋳物を形成することを特徴としている。
このように一般に流通しているSOI基板を用いることにより、製造コストを低く抑えることが可能となる。また、埋め込み酸化膜層の表面に金属層を形成することにより、金属層の一箇所に電源を接続するだけで全ての電鋳物の形成領域に電源が供給され、電鋳物を形成することができる。
また、本発明に係る時計は、上述した機械部品が時計の組立部品に用いられていることを特徴としている。
また、前記組立部品が、番車、かな、がんぎ車、角穴車および香箱歯車の少なくともいずれか一つであることを特徴としている。
このように構成することで、摺動面に形成された凹部に潤滑油が保持されることにより、各機械部品と該機械部品の回転時に噛合う別部品(例えば、番車とかな)の摺動部に確実に潤滑油が供給されることとなり、摺動性が向上する。また、摺動面に形成された山部により、各機械部品と該機械部品の回転時に噛合う別部品とが点接触することとなり、耐摩耗性が向上する。また機械部品の摺動面(外周面)の表面積が増加するため、潤滑油の保持量を増加させることができる。また、摺動面に山部を複数形成することにより、隣接する山部の間に潤滑油を保持することが可能となり、潤滑油の流出を防ぐことができる。
摺動部に形成された凹部と、さらには複数形成された山部の間に潤滑油が保持されることにより、摺動面に確実に潤滑油が供給される。したがって、歯車が噛合う際のエネルギー損失が少なくなり、てんぷの振り角が大きくなるため、正確に時を刻む高精度な時計を提供することができる。そして、潤滑油の保持量を増加させることができるため、時計のメンテナンス頻度を少なくすることができる。
本発明に係る機械部品によれば、機械部品の凹部に潤滑油を保持し、かつ山部の周りに潤滑油を塗布することにより、潤滑油を摺動面に確実に供給することができる。また、山部を複数形成すると、隣接する山部の間に潤滑油を保持することができるため、潤滑油の保持量を増加させることが可能となる。さらに、山部を周方向または軸方向に沿って複数形成すると、機械部品の摺動面(外周面)の表面積が増加するため、潤滑油の保持量をさらに増加させることができる。したがって、摺動面に確実に潤滑油を供給することができるとともに、潤滑油を長期間供給することができるため、メンテナンスの頻度を少なくすることができる。
また、機械部品と別部品とを摺動させる際に、曲面形状の山部と別部材とが点接触しながら摺動させることができる。したがって、機械部品と別部品との接触面積を小さくすることができるため、摩擦力を低減することができる。
また、機械部品と摺動する別部品も本発明の構造を有する場合、山部を選択的に形成することにより常に一定のエネルギー伝達を行うことができる。
さらに、機械部品は電鋳により形成されるため、十分な強度を有するとともに、製品の精度を均一化することができる。したがって、歩留まりを向上することができる。
(第一実施形態)
次に、本発明に係る機械部品の第一実施形態を図1〜図44に基づいて説明する。なお、本実施形態では、機械部品として機械式時計に用いられる歯車(番車)の場合について説明する。
(機械式時計)
図1〜図3に示すように、機械式時計のムーブメント100は、ムーブメント100の基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。文字板104(図2参照)はムーブメント100に取り付けられる。一般に、地板102の両側のうち、文字板104が配される側をムーブメント100の裏側と称し、文字板104が配される側の反対側をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント100の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194、裏押さえ196を含む切換装置により、巻真110の軸線方向の位置が決められている。きち車112は巻真110の案内軸部に回転可能に設けられている。巻真110が、回転軸線方向に沿ってムーブメント100の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真110を回転させると、つづみ車の回転を介してきち車112が回転する。丸穴車114は、きち車112の回転により回転する。また、角穴車116は、丸穴車114の回転により回転する。角穴車116が回転することにより、香箱車120に収容されたぜんまい122(図2参照)を巻き上げる。
二番車124は、香箱車120の回転により回転する。がんぎ車130は、四番車128、三番車126、二番車124の回転を介して回転する。香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128は表輪列を構成する。
表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、てんぷ140と、がんぎ車130と、アンクル142とを含む。てんぷ140は、てん真140aと、ひげぜんまい140cとを含む。二番車124の回転に基づいて、筒かな150が同時に回転する。筒かな150に取り付けられた分針152が「分」を表示する。筒かな150には、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かな150の回転に基づいて、日の裏車の回転を介して、筒車154が回転する。筒車154に取り付けられた時針156が「時」を表示する。
ひげぜんまい140cは、複数の巻き数をもったうずまき状(螺旋状)の形態の薄板ばねである。ひげぜんまい140cの内端部は、てん真140aに固定されたひげ玉140dに固定され、ひげぜんまい140cの外端部は、てんぷ受166に固定されたひげ持受170に取り付けたひげ持170aを介してねじ締めにより固定されている。緩急針168は、てんぷ受166に回転可能に取り付けられている。また、てんぷ140は、地板102およびてんぷ受166に対して回転可能に支持されている。
香箱車120は、香箱歯車120dと、香箱真120fと、ぜんまい122とを備えている。香箱真120fは、上軸部120aと、下軸部120bとを含む。香箱真120fは、炭素鋼などの金属で形成されている。香箱歯車120dは黄銅などの金属で形成されている。
二番車124は、上軸部124aと、下軸部124bと、かな部124cと、歯車部124dと、そろばん玉部124hとを含む。二番車124のかな部124cは香箱歯車120dと噛み合うように構成されている。上軸部124aと、下軸部124bと、そろばん玉部124hは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部124dはニッケルなどの金属で形成されている。
三番車126は、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cと、歯車部126dとを含む。三番車126のかな部126cは歯車部124dと噛み合うように構成されている。
四番車128は、上軸部128aと、下軸部128bと、かな部128cと、歯車部128dとを含む。四番車128のかな部128cは歯車部126dと噛み合うように構成されている。上軸部128aと、下軸部128bは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部128dはニッケルなどの金属で形成されている。
がんぎ車130は、上軸部130aと、下軸部130bと、かな部130cと、歯車部130dとを含む。がんぎ車130のかな部130cは歯車部128dと噛み合うように構成されている。アンクル142は、アンクル体142dと、アンクル真142fとを備えている。アンクル真142fは、上軸部142aと、下軸部142bとを含む。
香箱車120は、地板102および香箱受160に対して回転可能に支持されている。すなわち、香箱真120fの上軸部120aは、香箱受160に対して回転可能に支持される。香箱真120fの下軸部120bは、地板102に対して、回転可能に支持される。二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130は、地板102および輪列受162に対して回転可能に支持されている。すなわち、二番車124の上軸部124a、三番車126の上軸部126a、四番車128の上軸部128a、がんぎ車130の上軸部130aは、輪列受162に対して回転可能に支持される。また、二番車124の下軸部124b、三番車126の下軸部126b、四番車128の下軸部128b、がんぎ車130の下軸部130bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
アンクル142は、地板102およびアンクル受164に対して回転可能に支持されている。すなわち、アンクル142の上軸部142aは、アンクル受164に対して回転可能に支持される。アンクル142の下軸部142bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
香箱真120fの上軸部120aを回転可能に支持する香箱受160の軸受部と、二番車124の上軸部124aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、三番車126の上軸部126aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、四番車128の上軸部128aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、がんぎ車130の上軸部130aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、アンクル142の上軸部142aを回転可能に支持するアンクル受164の軸受部には、潤滑油が注油される。また、香箱真120fの下軸部120bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、二番車124の下軸部124bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、三番車126の下軸部126bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、四番車128の下軸部128bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、がんぎ車130の下軸部130bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、アンクル142の下軸部142bを回転可能に支持する地板102の軸受部には、潤滑油が注油される。この潤滑油は、精密機械用油であるのが好ましく、いわゆる時計油であるのが特に好ましい。
地板102のそれぞれの軸受部、香箱受160の軸受部、輪列受162のそれぞれの軸受部には、潤滑油の保持性能を高めるために、円錐状、円筒状、または円錐台状の油溜め部を設けるのが好ましい。油溜め部を設けると、潤滑油の表面張力により油が拡散するのを効果的に阻止することができる。地板102、香箱受160、輪列受162、アンクル受164は、黄銅などの金属で形成してもよいし、ポリカーボネートなどの樹脂で形成してもよい。
(番車の構造)
次に、本実施形態の番車の構造について説明する。なお、番車の構造は略同一であるため、三番車126を用いて説明する。
図4〜図6に示すように、三番車126は、三番かな126fと、三番歯車126gとを備えている。三番かな126fは、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cとを備えている。三番歯車126gは、中心支持部126hと、あみだ部126j(本実施形態では、5本)と、歯車部126dとを備えている。三番かな126fは、炭素鋼などの金属で形成されている。三番歯車126gはニッケルなどの金属で形成されている。そして、三番車126は、三番歯車126gの中心に形成された貫通孔126kに三番かな126fを挿通して固定されている。
ここで、図7、図8に示すように、歯車部126gは、三番かな126fの軸方向に沿って少なくとも3つの層126p、126q及び126rが積層された多層構造を有し、例えば本実施形態では、同一の材料の第1及び第3の金属層126p、126rと、第1及び第3の金属層に挟まれこれらとは異なる材料の第2の金属層126qとから成る。第2の金属層126qの外形は、第1及び第3の金属層126p、126rの外形よりも小さい。第2の金属層126qの外周面は、三番歯車126gの外形から後退している。そのため、三番歯車126gは、少なくとも摺動面の一部に、本実施形態では三番歯車126gの外周面126eの全周に亘って、三番かな126fの軸方向には開放されない凹部126nを有する。さらに、歯車部126dの歯先126iの摺動面(四番車128のかな部128cと噛み合う箇所)の形状は、第1及び第3の金属層126p、126rには三番かな126fの軸方向に沿って、曲面形状の山部126mが複数形成され、山部126mがかな部128cに当接するように構成されている。
三番歯車126gの厚みT0は、例えば、10μm以上10mm以下である。第1の金属層126pの厚みT1と第3の金属層126rの厚みT3は、1μm以上900μmとする。厚みT1とT3が同じ値である必要はない。第2の金属層126qの厚みT2は、500nm〜500μmとする。凹部126nの深さD1は1μm〜1mmとする。また、一つの山部126mの軸方向の幅W1は、例えば、1μm以上10mm以下である。山部126mの断面形状は、ほぼ円弧でその半径R1はW1のおよそ半分である。山部126mの数は1以上10000以下である。
(番車の製造方法)
次に、本実施形態の番車(三番歯車126g)の製造方法について説明する。
図9〜図37は三番歯車126gの製造方法を説明する図である。
図9は、三番歯車126gを形成するための基板10である。基板10は、支持層10aと活性層10bの間にBOX層10cが挟まれたSOI(Silicon On Insulater)基板であり、支持層10aと活性層10bはシリコン(Si)、BOX層10cは二酸化珪素(SiO2)で形成されている。支持層10aの厚さは、後の工程で破損あるいは変形が起こらないよう、100μm以上1mm以下とする。活性層10bの厚さは、製造する三番歯車126gの厚さT0以上とする。BOX層10cの厚さは、1μm以上1mm以下とする。なお、SOI基板の他に、支持層10aのSiと活性層10bのSiの間に金属材料を挟んだ基板(図38参照)や、支持層10aに金属材料を用い、その上に活性層10bのSiがある基板(図39参照)でも三番歯車126gを製造することが可能である。この製造方法については後述する。
図10は、フォトレジスト11を塗布した図である。活性層10b上にフォトレジスト11を堆積する。フォトレジスト11は、ネガ型でもポジ型でもよいが、ネガ型の場合を用いて説明する。フォトレジスト11の厚さは1μm以上1mm以下で形成する。
図11は、フォトレジスト11を露光・現像した図である。三番歯車126gの歯先126iのパターンが形成されたフォトマスク(不図示)を用いて、フォトレジスト11に紫外線やX線等の露光光を照射し、三番歯車126gの歯先126iにあたる部分および三番歯車126gの径方向外側に相当する領域のフォトレジスト11を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト11部分を除去し、エッチングパターンが完成する。図12は、図11の部分平面図である。図11に示すように、隣接する歯先126iに対応したフォトレジスト11はそれぞれ連結されずに独立して残されている。
図13は、活性層10bをエッチングした図である。フォトレジスト11の部分を残して、活性層10bのSiをBOX層10cの表面までエッチングする。ここで、本実施形態では、活性層10bに歯先126iの軸方向に沿って形成される断面略半円形状の山部126mに相当する谷部15が複数連なるように形成されている。図14は、図13の部分平面図である。
ここで、活性層10bに谷部15を連続形成しながらエッチングする方法を図15〜図21を用いて説明する。
図15は、図11の状態を示す部分拡大図である。図15では歯先126iに対応した位置のフォトレジスト11を2箇所表示している。
図16は、一回目のSiエッチング工程を説明する図である。一回のSiエッチング工程で削るSiの厚みはW1とする。ここで、隣接するフォトレジスト11間には凹部14が形成される。フォトレジスト11の無い、Si面の露出している部分がエッチングされるが、等方性エッチングを行うことで、フォトレジスト11の下にある活性層10bの側面17も部分的にエッチングされ、谷部15が形成される。エッチングする厚みW1を制御することで、三番歯車126gの歯先126iに対応する側面17の谷部15の半径R1を任意の大きさにできる。一回のエッチングにより一つの山部126mに相当する一つの谷部15が形成される。
図17は、保護膜を形成した図である。二回目のエッチングでフォトレジスト11の下にある活性層10bが図16の状態以上に削られないよう、一回目のエッチング面(凹部14)に保護膜19を形成する。保護膜19は、例えばフッ化炭素などで形成されている。保護膜19は、C4F8ガスなどを用いてCVD法によりSiの表面に膜を形成する。
図18は、凹部14の底面21の保護膜19のみを除去した図である。凹部14の側面(側面17)の保護膜19を残し、底面21の保護膜19のみを除去して活性層10b(Si面)を露出させる。このように底面21の保護膜19のみを除去するには、例えばSF6ガスを用いてエッチングを行うと、イオンが底面21の保護膜19に対して鉛直方向から衝突し、そのイオン衝撃により底面21の保護膜19のみが除去される。
図19は、二回目のSiエッチング工程を説明する図である。図16と同様に、Siの等方性エッチングを行う。すると、保護膜19が形成されていない底面21のSiが等方エッチングされる。この後、図17〜図19の工程を所定回数行う。
図20は、Siエッチング、保護膜形成、底面の保護膜除去をBOX層(SiO2面)10cの表面に到達するまで繰り返し行った図である。図16のSiエッチング工程、図17の保護膜形成工程、図18の保護膜除去工程を、基板10のBOX層10cに達するまで繰り返し行う(本実施形態では、9回繰り返している)。すると、活性層10bの側面17には谷部15が複数(9個)形成される。
図21は、保護膜19を全て除去した図である。保護膜19は、酸素プラズマアッシングによって除去する。活性層10bの側面17に形成された保護膜19を除去する。図21は、図13と同じ状態である。
図22は、フォトレジスト11を除去した図である。エッチングあるいは物理的な力等によってフォトレジスト11を除去する。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。図23は、図22の平面図である。
図24は、電極を形成した図である。基板10(BOX層10c)上に電極23を蒸着等によって形成する。電極23は、クロム(Cr)、金(Au)、銅(Cu)、チタン(Ti)等で形成される。電極23の厚さは、10nm以上10μm以下とする。図25は、図24の平面図である。図25に示すように、電極23は一体的に連接するように形成されている。
図26は、フォトレジスト25を塗布した図である。電極23の上にフォトレジスト25を堆積する。フォトレジスト25は、ネガ型でもポジ型でもよいが、ネガ型の場合を用いて説明する。フォトレジスト25の厚みは、三番歯車126gの厚みT0より厚く形成する。図27は、図26の平面図である。
図28は、フォトレジスト25を露光・現像した図である。三番歯車126g全体のパターンが形成されたフォトマスク(不図示)を用いて、フォトレジスト25に紫外線やX線等の露光光を照射し、三番歯車126gの電鋳に使用する部分以外のフォトレジスト25を硬化させる。未硬化のフォトレジスト27部分を除去し、電鋳型31が完成する。図29は、図28の平面図である。なお、三番歯車126gの貫通孔126kに対応する位置のフォトレジスト25bは残している。
図30は、電鋳工程を説明する図である。電極23上に、第1の電鋳物33を厚みがT1になるよう堆積させる。電鋳する材料は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、Cr、パラジウム(Pd)等の金属や、Ni−W、Ni−B等の合金、あるいは前記金属マトリックス中にアルミナ(Al2O3)や炭化珪素(SiC)等のセラミックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂、その他の有機物質又は無機物質の粒子又は繊維を共析させた複合物が挙げられる。
図31は、電鋳工程を説明する図である。第1の電鋳物33の上に、第2の電鋳物34を厚みT2になるよう堆積させる。なお、厚みT1とT2の合計は、厚みT0よりも小さい。電鋳する材料は、Cu、Au、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、鉄(Fe)、スズ(Sn)等の金属や、Cu−Au、Cu−Ag等の合金、あるいは前記金属マトリックス中に前記粒子又は繊維を共析させた複合物が挙げられる。
図32は、電鋳工程を説明する図である。第2の電鋳物34の上に、第3の電鋳物35を厚みT3以上になるよう堆積させる。但し、この後図33に示す研削・研磨工程を省略する場合は、第3の電鋳物35を厚みT3まで堆積させる。電鋳する材料は、第1の電鋳物33と同様である。第1の電鋳物33と第3の電鋳物35の材料が同じである必要はない。但し、この後図35に示す凹部形成工程において、第2の電鋳物34をエッチングして凹部126nを形成するため、第2の電鋳物34のみを選択的にエッチングできる材料の組合せ、又はエッチング速度の差のある材料の組合せを採用する。
なお、電鋳工程は図36、図37に示すように、電鋳液41の中に電極23が形成された電鋳型31を冶具42に取り付けた状態で浸し、陽極43と電極23との間に電源44を配し、電圧を印加することにより電極23の表面に金属(図37では第1の電鋳物33)が析出する。
図33は、研削・研磨工程を説明する図である。研削によって電鋳物の厚みT1、T2、T3の合計が三番歯車126gの厚みT0になるように第3の電鋳物35及びフォトレジスト25を削る。さらに研磨を行い、第3の電鋳物35の表面を鏡面に仕上げる。
図34は、第1、第2及び第3の電鋳物33、34、35(三番歯車126g)を取出した図である。基板10、フォトレジスト25、電極23をエッチングあるいは物理的な力等によって除去し、第1、第2及び第3の電鋳物33、34、35(三番歯車126g)を取り出す。なお、支持層10aおよび活性層10bのSiは、エッチング液に浸して溶かして除去してもよい。
図35は、凹部形成工程を説明する図である。第2の電鋳物34をエッチングし、第1及び第3の電鋳物33、35をエッチングしない液に三番歯車126gを浸漬する。第2の電鋳物34のみをエッチングし、深さD1の凹部126nを形成する。一例として、第1及び第3の電鋳物にNi、第2の電鋳物にCuを堆積させた場合は、エッチング液に過硫酸アンモニウム溶液を用いるとCuのみをエッチングできる。
このようにして製造された三番歯車126gは、歯車の外周面126eに凹部126nを有している。このように構成することで、凹部126nに潤滑油が保持され、三番歯車126gとかな部128cとを噛み合わせると、摺動部に確実に潤滑油を供給することができる。また、歯車の歯先126iに軸方向に沿って曲面形状の山部126mを複数有している。このように構成することで、歯先126iの表面積が増加するため、潤滑油の保持量を増加させることができる。また、隣接する山部126mの間に潤滑油を保持することが可能となり、潤滑油の流出を防ぐことができる。さらに、潤滑油が隣接する山部126mの間に保持されるため、かな部128cとの摺動面により確実に潤滑油が供給される。したがって、三番歯車126gとかな部128cとが噛み合う際のエネルギー損失が少なくなり、てんぷ140の振角が大きくなるため、正確に時を刻む高精度な時計を提供することができる。そして、潤滑油の保持量を増加させることができるため、時計のメンテナンス頻度を少なくすることができる。
また、このように構成することで、三番歯車126gの歯先126iとかな部128cを噛み合わせると、山部126mと四番車128のかな部128cとが点接触することとなり、山部126mとかな部128cとの接触面積を小さくすることができるため、摩擦力を低減することができ、耐摩耗性が向上する。なお、三番歯車126gは電鋳により形成されるため、十分な強度を有している。
また、上述した製造方法により三番歯車126gを製造することにより、歯車の外周面126eの全周にわたって凹部126nを有し、歯先126iに複数の山部126m有する三番車126gを電鋳により容易に形成することができる。
次に、番車(三番歯車126g)の別の製造方法について説明する。
図38は、三番歯車126gを製造する際に用いる基板の断面図である。図38に示すように、基板50は、支持層50aのSiと活性層50bのSiの間に金属層50cが形成された基板である。金属層50cは、Cr、Au、Cu、Ti等で構成されている。支持層50aのSiの厚みは、上述の場合と同様、100μm以上1mm以下とする。活性層50bのSiの厚みは、製造する三番歯車126gの厚みT0以上とする。金属層50cの厚みは、1μm以上1mm以下とする。
このような基板50を用いることにより、上述の図13の工程を終了した時点で、金属層50cが露出するため、後の電鋳工程の際に電極として利用することができる。また、上述の図23の電極形成工程が不要となるため、生産効率を向上することができる。
なお、図39に示すように、支持層55aに金属材料を用い、その上に活性層55bのSiがある基板55でも同様の工程で三番歯車126gの製造が可能である。金属材料は、Cr、Au、Cu、Ti等で構成されている。支持層55aの厚みは、100μm以上1mm以下とし、活性層55bのSiの厚みは、製造する三番歯車126gの厚みT0以上とする。このような基板55を用いても上述と同様、生産効率を向上することができる。
ここで、上述した基板50または基板55を用いて三番歯車126gを製造する場合には、図40に示すように歯先126iだけでなく外周面126eの全周に亘って山部126mを形成することができる。このように外周面126eの全周に山部を形成する際には、三番歯車126gに相当する位置のフォトレジスト25のみを除去し、その他の領域のフォトレジスト25は残すこととなるため、基板10を用いると電極23が孤立してしまい、電極23に対して導通をとることができず、電鋳できない。しかしながら、基板50または基板55を用いると、図41に示すように、三番歯車126gに相当する位置の活性層50bまたは55bのみを除去した際に、電極23の機能を果たす金属層50cまたは55aが露出し、この金属層50c,55aは基板50,55に一体的に形成されているため、導通をとることができ、電鋳により三番歯車126gを製造することができる。図42は、図41の平面図である。
このように山部126mを外周面126eの全周に亘って形成することで、潤滑油の保持量をさらに増加させることができるため、より確実に、かつ、長期間に亘って摺動面に潤滑油を供給することができる。
また、基板50または基板55を用いることにより、金属層50c,55aを電極として利用することができるとともに、活性層50b、55bをエッチングした後に電極を形成する工程を省略することができる。したがって、生産効率を向上することができる。
さらに、基板50または基板55を用いることにより、三番歯車126gを一枚のフォトマスクで作製することができる。三番歯車126gの全形が形成されたフォトマスク(不図示)を用いてフォトレジスト11の露光・現像を行い、活性層50bまたは55bをエッチングすると、図43に示すように、三番歯車126gの外形と貫通孔126kに対応する位置の活性層50bまたは55bが残る。そして、電極23の機能を果たす金属層50cまたは55aが露出し、この金属層50c,55aは基板50,55に一体的に形成されているため、導通をとることができ、電鋳により三番歯車126gを製造することができる。このように、本実施形態では三番歯車126gを一枚のフォトマスクで作製したため、マスク合わせの誤差がなくなり、寸法精度を向上させることができる。
また、寸法精度を向上させることができるとともに、活性層50b、55bをエッチングした後に電極を形成する工程と、フォトレジスト25を塗布し、露光・現像する工程を省略することができる。したがって、生産効率を向上することができる。
そして、上述した製造方法を用いて時計の組立部品である二番車124、四番車128、がんぎ車130、角穴車116および香箱歯車120dを製造し、外周面に凹部を形成することにより、各機械部品と該機械部品の回転時に噛み合う別部品(例えば、番車とかな)との摺動部に確実に潤滑油を供給することができる。また、歯先または外周面に山部を形成することにより、各機械部品と該機械部品の回転時に噛み合う別部品とが点接触することとなり、耐摩耗性が向上する。
さらに、歯先または外周面に山部を複数形成することにより、摺動面(外周面)の表面積が増加するため、潤滑油の保持量を増加させることができる。また、隣接する山部の間に潤滑油を保持することが可能となり、潤滑油の流出を防ぐことができる。さらに、潤滑油が隣接する山部の間に保持されるため、摺動面により確実に潤滑油が供給される。したがって歯車が噛み合う際のエネルギー損失が少なくなり、てんぷ140の振角が大きくなるため、正確に時を刻む高精度な時計を提供することができる。そして、潤滑油の保持量を増加させることができるため、時計のメンテナンス頻度を少なくすることができる。
なお、これらの組立部品は電鋳により形成されるため、十分な強度を有している。
(第二実施形態)
次に、本発明に係る機械部品の第二実施形態を図38〜図58に基づいて説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態と歯車(三番歯車)の歯先の形状が異なるのみであり、その他の部分については第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。また、本実施形態における三番歯車の符号を226gとする。
図45、46に示すように、歯車部226gは、三番かな226fの軸方向に沿って少なくとも3つの層226p、226q及び226rが積層された多層構造を有し、例えば本実施形態では、同一の材料の第1及び第3の金属層226p、226rと、第1及び第3の金属層に挟まれこれらとは異なる材料の第2の金属層226qとから成る。第2の金属層226qの外形は、第1及び第3の金属層226p、226rの外形よりも小さい。第2の金属層226qの外周面は、三番歯車226gの外形から後退している。そのため、三番歯車226gは、少なくとも摺動面の一部に、本実施形態では三番歯車226gの外周面226eの全周に亘って、三番かな226fの軸方向には開放されない凹部226nを有する。さらに、歯車部226dの歯先226iの摺動面の形状は、第3の金属層226rには三番かな226fの軸方向に沿って、曲面形状の山部226mが複数形成され、山部226mがかな部128cに当接するように構成されている。金属層の厚み、凹部の深さ、山部の幅、半径、数は第一実施形態と同一である。
次に、本実施形態の番車(三番歯車226g)の製造方法について説明する。なお、本実施形態では第一実施形態と異なる工程を中心に説明する。
まず、三番歯車226gを形成するための基板10は図9と略同一の基板を用いる。そして、基板10の活性層10b上にフォトレジスト11を塗布する。続いて、フォトレジスト11を露光・現像し、三番歯車226gの歯先226iにあたる部分および三番歯車226gの径方向外側に相当する領域のフォトレジスト11を硬化させる。続いて、未硬化のフォトレジスト11部分を除去し、図12に示すようなエッチングパターンが完成する。
図47は、活性層10bをエッチングした図である。フォトレジスト11の部分を残して、活性層10bのSiをBOX層10cの表面までエッチングする。ここで、本実施形態では、活性層10bに歯先226iの軸方向に沿って形成される断面略半円形状の山部226mに相当する谷部115が、第3の金属層226rに相当する部分に形成されている。
図47に示した形状に活性層10bをエッチングする方法を図48、図49を用いて説明する。
図48は、図15〜19で説明した活性層10bに谷部115を連続形成しながらエッチングする工程で、第3の金属層226rの山部226mに相当する部分に谷部115を形成し、保護膜19を形成した図である(その他の実施形態)。
図49は、BOX層(SiO2面)10cに到達するまでSiエッチングを行った図である。異方性エッチングを行うことで、第1及び第2の金属層226p、226qに相当する活性層10bの側面17には谷部115を形成せずにBOX層10cに達するまで基板10に垂直にSiをエッチングする。
この後、第一実施形態の図22〜図29に示す方法と同一の方法により、図50に示す電鋳型31を作製する。
図51は、電鋳工程を説明する図である。電極23上に、第1の電鋳物133を厚みがT1になるよう堆積させる。電鋳する材料は、第一実施形態と同様である。
図52は、電鋳工程を説明する図である。第1の電鋳物133の上に、第2の電鋳物134を厚みT2になるよう堆積させる。なお、厚みT1とT2の合計は、厚みT0よりも小さい。電鋳する材料は、第一実施形態と同様である。
図53は、電鋳工程を説明する図である。第2の電鋳物134の上に、第3の電鋳物135を厚みT3以上になるよう堆積させる。電鋳する材料は、第一実施形態と同様である。
この後、第一実施形態の図33〜35に示す方法と同一の方法により、図54に示す電鋳物(三番歯車226g)を作製する。図54は第一実施形態の図35に相当する。
このようにして製造された三番車226gは、歯車の外周面226eに凹部226nを有し、第3の金属層226rに三番かな226fの軸方向に沿って複数形成された曲面形状の山部226mを有している。つまり、第3の金属層226rに形成された山部226mがかな部128cに当接するように構成されている。
このように構成することで、第一実施形態と略同一の作用効果を得ることができるとともに、三番歯車226gと当接する四番車228のかな部228cを本実施形態で作製した場合、三番歯車226gとかな部228cとの摺動を安定して行うことができる。つまり、第一実施形態の三番歯車126gと当接するかな部128cを、第一実施形態で作製した場合、図57、図58に示すように、山部126mと山部128mが摺動する。このとき、図57のようにお互いの山部126mと128mの頂部が摺動する場合は、接触面積が最小限になるので摩擦によるエネルギー損失が小さい。しかし、当接する位置にずれが生じ、頂部からずれた箇所で摺動する場合、エネルギー伝達が図57で示す状態とは異なってしまう可能性がある。特に、図58のように頂部が相手の山部と山部の間に入った場合、接触面積が増加し摩擦によるエネルギー損失が大きくなる。つまり、てんぷ140の振り角が小さくなるので時計の精度が悪くなる。一方、図55、図56に示すように第二実施形態の歯車226gと228cが当接する場合、山部を形成していない第1の金属層と山部を形成した第3の金属層を当接させれば、当接する位置が軸方向にずれても接触面積は変わらないので、安定したエネルギー伝達が行える。つまり、時計の精度が安定する。
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、図59に示すように山部を形成する各金属層において、軸方向両側部の山部326mのみを他の山部から突出するように形成しても良い。つまり、軸方向中央部が凹状になるように山部226mを複数形成してもよい。このように構成することで、凹状になった部分に潤滑油を保持できるので、潤滑油の保持量をより多く確保することができる。また、図60に示すように各金属層において軸方向中央部の山部326mのみを他の山部から突出するように形成したり、図61に示すように各金属層において軸方向中心部に向かうほど山部326mの幅が大きくなるように幅の異なる山部326mを複数形成しても良い。このように構成することで、三番歯車326gと四番車128のかな部128cとの接触面積を最小限にすることができるため、摺動時の摩擦によるエネルギー損失を低減することができる。
また、図62に示すように、歯車の歯先426iの形状を突起426zが周方向に略等間隔に複数形成されたような形状にし、軸方向に山部426mを複数形成するような構成にしてもよい。このように構成すると、歯車426gと四番車128のかな部128cとが点接触するようになり、潤滑性能をさらに向上することができる。
また、上述の実施形態では、金属層が3層の場合について説明したが金属層が3層以上あってもよい。図63、図64は金属層が5層の場合である。歯車部526gは、三番かな526fの軸方向に沿って5つの層526p、526q、526r、526s及び526tが積層された多層構造を有し、例えば本実施形態では、同一の材料の第1、第3及び第5の金属層526p、526r、526tと、第1、第3及び第5の金属層に挟まれこれらとは異なる材料の第2及び第4の金属層526q、536sとから成る。第2及び第4の金属層526q、526sの外形は、第1、第3及び第5の金属層526p、526r、526tの外形よりも小さい。第2及び第4の金属層526q、526tの外周面は、三番歯車526gの外形から後退している。そのため、三番歯車526gは、少なくとも摺動面の一部に、本実施形態では三番歯車526gの外周面526eの全周に亘って、三番かな526fの軸方向には開放されない凹部526nを複数有する。さらに、歯車部526dの歯先526iの摺動面(四番車128のかな部128cと噛み合う箇所)の形状は、第1、第3及び第5の金属層526p、526r、526tには三番かな526fの軸方向に沿って、曲面形状の山部526mが複数形成され、山部526mがかな部128cに当接するように構成されている。このように構成することで、複数の凹部を有するため潤滑油の保持量が増すとともに、潤滑油の保持部が軸方向に広く分布することで、より確実に摺動部に潤滑油を供給することができる。
また、本実施形態では、歯車の歯先や外周面のみに山部を形成した場合の説明をしたが、歯車部に形成されたかな部が挿通(嵌合)される貫通孔の内周面にも同様の山部を形成してもよい。歯車部の貫通孔の内周面に山部を形成することにより、かな部を嵌合する際に応力を緩和することができる。
また、本実施形態では、歯車の摺動面に周方向に沿うように山部を形成した場合の説明をしたが、上記実施形態で説明した手法を用いれば、軸方向に延びる山部を製造することができるのは勿論のことである。
さらに、例えば、上記実施形態で図35または図54に示す工程の後に、図65に示すように、コーティング膜99でめっきをしてもよい。コーティング膜99の材料としては、Ni,Cr,Rh,Auなどの金属や、Ni−W,Ni−Coなどの合金、あるいはNi−Al2O3,Ni−PTFEなどの複合物を採用することができる。コーティング膜99の厚みは、100nm〜100μm程度とする。特に、摺動性能を向上させたい場合は、Cr,Ni−W,Ni−SiCなどの耐摩耗性めっきや、Au,Ni−PTFEなどの潤滑性めっきを行うとよい。また、めっきは無電解・電解のどちらでもよく、イオンプレーティングやスパッタなどの手法で金属膜やセラミックス膜などを形成してもよい。このように電鋳物33〜35にコーティング膜99をめっきすることにより、電鋳物33〜35(歯車)の耐食性、耐摩耗性、装飾性などの機能を向上させることができる。
そして、本実施形態では、三番歯車の場合について説明したが、図66に示すように、がんぎ車130の歯車部130dの周面に凹部130nを形成し、先端部に山部130mを形成してもよい。なお、上記実施形態のように山部130mを歯車部130dの周面に形成してもよい。また、山部の形状は上記した実施形態のいずれかの形状にすればよい。