JP5569769B2 - グラフェンフィルム製造方法 - Google Patents
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Description
sp2結合された炭素原子の2次元蜂の巣状格子であるグラフェンは、整数量子ホール効果(integer quantum Hall effect)及び準粒子結合(quasiparticle coupling)における特異な挙動などの際立った性質を豊富に持っていることが示されている。室温での非常に高いキャリア移動度と長いバリスティック輸送距離、ナノリボン中での量子閉じ込め、化学ドーピングの可能性、また単分子ガス検出感度により、グラフェンは光電子技術、センサから電極に至るまでの広い範囲に及ぶ用途の可能性が認められている(非特許文献1を参照のこと)。
(a) HOPG(Highly Ordered (Oriented) Pyrolytic Graphite、高配向熱分解黒鉛)基板を準備する。
(b) 上述のHOPG基板上に触媒層を設ける。
(c) 上述の触媒層が設けられたHOPG基板を所定時間加熱する。
(d) 上述のHOPG基板を冷却する。
本発明の他の側面によれば、上述の触媒層の材料はNi、Pt、Co、Fe、Cr、Cu、Mn、Rh、Ti、Pd、Ru、Ir、Reからなる群から選択された1つまたは選択された複数の要素の組み合わせを含むグラフェンフィルム製造方法が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、上述の触媒層を設けるステップはデポジションによって行われるグラフェンフィルム製造方法が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、上述の加熱するステップは350℃から1600℃で1秒から200時間の間継続するグラフェンフィルム製造方法が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、上述の加熱するステップは真空中で、または不活性の雰囲気中で行われるグラフェンフィルム製造方法が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、上述のHOPG基板を劈開して触媒層をその上に設ける新たな表面を得るグラフェンフィルム製造方法が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、以下のステップ(e)を上述の冷却するステップの後に設けたグラフェンフィルム製造方法が与えられる。
(e) 上述のHOPG基板と上述のグラフェンフィルムの間の触媒層を除去する。
本発明の更に他の側面によれば、上述の除去するステップは以下の(e−1)から(e−3)のステップを更に含むグラフェンフィルム製造方法が与えられる。
(e−1) 上述のグラフェンフィルムの表面をポリマー被覆する。
(e−2) 上述の触媒層、グラフェンフィルム及びポリマー被覆を有するHOPG基板をベーキングする。
(e−3) 上述の触媒層をエッチングして、上述のポリマー被覆が付いたグラフェンフィルムをHOPG基板から分離する。
(f) 前記ポリマー被覆付きの前記グラフェンフィルムを他の基板に転写する。
(g) 前記転写されたグラフェンフィルムから前記ポリマー被覆を除去する。
本発明の更に他の側面によれば、以下の(a)から(c)を設けた、グラフェンフィルムを有する基板が与えられる。
(a) HOPG基板。
(b) 上述のHOPG基板表面上の介在層。
(c) 上述の介在層上のグラフェンフィルム。
本発明の更に他の側面によれば、上述の介在層はNi、Pt、Co、Fe、Cr、Cu、Mn、Rh、Ti、Pd、Ru、Ir、Reからなる群から選択された1つまたは選択された複数の要素の組み合わせを含むグラフェンフィルムを有する基板が与えられる。
大きなサイズで一様であり、かつ転写可能なグラフェンフィルムを製造する方法が以下で開示される。本発明の方法で製造されたグラフェンフィルムはHOPG(Highly Ordered (Oriented) Pyrolytic Graphite、高配向熱分解黒鉛)基板の形状、サイズ、厚さに制限なく、多様な用途のための多様な分野に適用することができる。このようなHOPG基板は商業的に入手可能であり当該技術分野で周知の多様な技術を使用して製造することができる。HOPG基板はまた多数の供給業者から入手することができる。HOPG基板の厚さ、平坦性/粗さ、モザイク・スプレッド(mosaic spread)、等級には特定の制限はない。しかしながら、最小の粗さ、少ない段差、及び小さなモザイク・スプレッドの高品質HOPGを使うことは、大サイズ、一様かつ高品質のグラフェンフィルムを製造するためには好ましくまた重要である。
触媒表面上でグラフェンフィルムを形成するための炭素は、HOPG基板100からの炭素の偏析(segregation)に由来する。従って、ガス状の炭素源の必要性はない。しかし、ガス状の炭素源を追加的に与えることもできる。ガス状炭素源は炭素を含む任意の化合物、とりわけ、10個以下の炭素を含む化合物、であってよい。このようなガス状炭素源を例示すれば、一酸化炭素、エタン、エチレン、エタノール、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、及びトルエンからなるグループから選択された少なくとも1つの物質を含んだ炭素源である。
HOPGの新たな表面上の触媒層は、スパッタリング法、電子ビーム・デポジション、熱蒸発のような、関連する微小エレクトロニクス製造分野における知識を有する者なら知っている従来のプロセスによって製作することができる。この触媒は、Ni、Pt、Co、Fe、Cr、Cu、Mn、Rh、Ti、Pd、Ru、Ir、Reからなるグループ中から選択した少なくとも一つの要素、あるいはこのグループ中のいくつかの要素の組み合わせを含んでいてよい。触媒層は薄いフィルムの形態でも、あるいは厚いフィルムの形態でもよく、その厚さの範囲は5mmから2mmの範囲、特に10nmから400nmの範囲であってよい。炭素原子はHOPG基板から触媒層中を拡散して触媒表面上に到達する。
この触媒は触媒表面で偏析した炭素原子と接触し、これらの炭素原子が互いに結合して平面状の六角形構造を形成するのを助ける。大きなサイズの高品質グラフェンフィルムを形成するため、この触媒層は大きな台地状の領域(terrace)を有する単結晶であることが好ましい。単結晶フィルムである触媒層は、触媒材料を高温でデポジットし、及び/または高温で処理することで得ることができる。
室温への冷却処理はアルゴンなどの不活性のガス雰囲気中で行ってもよいし、あるいは超高真空(約1.3×10 −10 Pa)に至るまでの真空中で行ってもよい。冷却は約0.1℃/分から約500℃/分の範囲の速度で行ってよいし、あるいは電源を切ることによる自然冷却処理を行ってもよい。
熱処理は、当該技術分野で周知であるように、抵抗加熱、放射加熱、誘導加熱、レーザー、赤外放射、マイクロウエーブ、プラズマ、紫外線放射、表面プラズマ加熱、あるいはそれに類する方法などによって実行することができる。
グラフェンフィルム形成の進行度は加熱プロセス及び冷却プロセスの温度と時間を調整することによって制御することができる。更に、大きなサイズで、一様であり、また高品質のグラフェンフィルムが得られるかどうかは、触媒表面が滑らかな単結晶で、かつ大きなサイズの台地状の領域を有するとともに段差が僅かしかないかどうかに依存するが、このような表面の性質はHOPG表面及び加熱と冷却の処理に依存している。HOPG表面は高品質の触媒表面のエピタキシャル成長のためのテンプレートの役割を果たす。グラフェンの形成は、HOPGから触媒表面上への炭素の偏析の結果であり、この過程では、先ず複数個の単層の島状部が形成され、次いでこれらが融合して触媒表面全体を覆う完全な単層グラフェンとなる。単層が出来上がると、それを核として以降の層が一層毎に成長する。
Ni/HOPG基板上へのグラフェンフィルムの合成を以下の通り行った。
1.クリーンルーム中で、米国の3M社から発売されているスコッチテープ(スコッチに対応する「SCOTCH」は3M社の登録商標)を使用して、HOPGの新たな表面を準備した。
2.電子銃デポジションにより、1cm×1cm HOPG基板上に、300nm厚のNiフィルムを、デポジションレート0.1nm/秒、ベースプレッシャー1.3×10 −6 Paでデポジットした。
3.このようにして作成されたNi/HOPGサンプルを石英管炉中に装填して、約6.7×10 −6 Pa下で800℃で28時間アニールした。
4.アニール温度を850℃まで昇温して、約6.7×10 −6 Pa下で更に8時間保持した。
5.アニール温度を600℃まで低下させて、約4.0×10 −6 Pa下で更に30分間保持した。
6.炉の電源を落とすことで、室温まで冷却した。
7.Ni/HOPG基板上にグラフェンフィルムを得た。
図2は、実験1によって得られたグラフェンフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。この走査型電子顕微鏡写真はJSM7001F走査型電子顕微鏡によって得られたものであり、この写真には、大きなサイズの単結晶(単層グラフェン領域)が、二層及び三層の領域とともに示されている。
実験1によって合成されたNi/HOPG基板上のグラフェンフィルムを他の基板へ転写するための、以下のような実験を行った。
1.実験1に従ってNi/HOPG基板上に合成されたグラフェンフィルムの上に、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA、2%のアニソール溶液)を200nmの厚さにスピンコートした。
2.PMMAで被覆された上記基板を、大気中で180℃で5分間加熱した。
3.FeCl3(1M)を使用して、グラフェンフィルムとHOPG層の間に介在するNi層をエッチングした。すなわち、PMMAで被覆された上記基板を1MのFeCl3溶液に浸漬した。数分後、Ni層が除去されたことにより、PMMA+グラフェンフィルムがHOPGから分離して、エッチング液の表面に浮いてきた。
4.PMMA+グラフェンフィルムを、手作業で300nmのSiO2/Si基板に転写した。
5.対象の基板上にPMMA+グラフェンフィルムを転写後、アセトンを使ってPMMAフィルムを溶解して除去した。
6.300nmのSiO2/Si基板上にグラフェンフィルムを得た。
図3は、実験2に従ってNi/HOPGから300nmのSiO2/Si基板に転写されたグラフェンフィルムの光学顕微鏡写真である。この写真は大きなサイズの一様な単層のグラフェン(図中で”monolayer graphene”と書いてある箇所の付近)、二層グラフェン(図中で”bilayer graphene”と書いてある箇所の付近)、更に裸のSiO2表面(図中で”SiO2”と書いてある箇所の付近)を示している。
図4は、90倍の対物レンズを使用し、514.53nmで10mWのレーザパワーの励起の下で、Ni/HOPGから300nmのSiO2/Si基板へ転写されたグラフェンフィルムの、図3中に示す単層領域において得られたラマンスペクトル(横軸:波数、縦軸:強度)である。このスペクトル中にはGバンド(約1570cm−1)及び2Dバンド(約2700cm−1)が示されている。
なお、上のステップ2で使用した被覆材料はPMMAに限定されるものではなく、たとえばPDMS(ポリジメチルシロキサン)などの他のポリマーも使用可能である。
Ni/HOPG基板上へのグラフェンフィルムの合成を、別の条件下で以下の通り行った。
1.クリーンルーム中で、実験1と同様に、スコッチテープを使用してHOPGの新たな表面を準備した。
2.電子銃デポジションにより、1cm×1cm HOPG基板上に、300nm厚のNiフィルムを、デポジションレート0.1nm/秒、ベースプレッシャー1.3×10 −6 Paでデポジットした。
3.このようにして作成されたNi/HOPGサンプルを石英管炉中に装填して、約6.7×10 −6 Pa下で、900℃で18時間アニールした。
4.アニール温度を600℃まで低下させて、約4.0×10 −6 Pa下で、更に30分間保持した。
5.炉の電源を落とすことで、室温まで冷却した。
6.Ni/HOPG基板上にグラフェンフィルムを得た。
図5(a)は、実験3によって得られたグラフェンフィルムの26.5μm×26.5μmの領域の走査型電子顕微鏡写真である。図5(b)は実験3によって得られたNi上のグラフェンフィルムの走査オージェ電子スペクトル(scanning Auger electron spectra)(横軸:運動エネルギー、縦軸:強度)である。同図中に2本のカーブが示されているが、これらはグラフェンフィルムの異なる箇所の測定結果を示すものである。これらの走査オージェ電子スペクトルなどから、基板表面のほとんどの領域が単層のグラフェンで覆われていることが確認できた。
Ni/HOPG基板上へのグラフェンフィルムの合成を、更に別の条件下で以下の通り行った。
1.クリーンルーム中で、実験1と同様に、スコッチテープを使用してHOPGの新たな表面を準備した。
2.電子銃デポジションにより、1cm×1cm HOPG基板上に、300nm厚のNiフィルムを、デポジションレート0.1nm/秒、ベースプレッシャー1.3×10 −6 Paでデポジットした。
3.このようにして作成されたNi/HOPGサンプルを石英管炉中に装填して、約6.7×10 −6 Pa下で600℃で28時間アニールした。
4.炉の電源を落とすことで、室温まで冷却した。
5.Ni/HOPG基板上にグラフェンフィルムを得た。
図6(a)は、実験4によって得られたグラフェンフィルムの26.5μm×26.5μmの領域の走査型電子顕微鏡写真である。図6(b)は実験4によって得られたNi上のグラフェンフィルムの走査オージェ電子スペクトルである。同図中にはグラフェンフィルムの異なる箇所の測定結果を示す2本のカーブが示されているのだが、両者はほとんど一致しているため、重なり合って1本のカーブのように見える。これらの走査オージェ電子スペクトルなどから、実験3と同様に、実験4の結果でも基板表面のほとんどの領域が単層のグラフェンフィルムで覆われていることが確認できた。
以上説明したように、本発明によれば、大きなサイズで、一様であり、転写可能なグラフェンフィルムを製造する方法、及びHOPG基板上に設けられたグラフェンフィルムが与えられる。当業者であれば、このようなグラフェンフィルムは光学デバイス、センサ、電極、水素吸蔵媒体のような多様な用途に効果的に適用できることが理解できるであろう。
なお、以上の説明においては、形状、層、要素は、単純化や理解のしやすさの目的で特定の寸法、及び/または特定の向きを持つように記載されているが、実際の寸法や向きは個々に記載したものと異なることがありえる。
本発明を特定の具体例に基づいて図示しまた説明したが、均等な代替例や修正例は、当業者であれば本出願の明細書や図面中の開示を読み理解することによって思いつくことができるであろう。本願発明はこのような代替例や修正例を全て包含するものであり、特許請求の範囲によってのみ限定される。更に、本件発明の特定の特徴や側面は一部の実施例のみに関して開示したかもしれないが、このような特徴あるいは側面は、任意の所与のあるいは特定の応用について望まれあるいは有利であれば、他の特徴あるいは側面と組み合わせることができることに注意されたい。
101 触媒層
102 グラフェンフィルム
Claims (11)
- 以下の(a)から(d)のステップを設けたグラフェンフィルム製造方法。
(a) HOPG基板を準備する。
(b) 前記HOPG基板上に触媒層を設ける。
(c) 前記触媒層が設けられた前記HOPG基板を1秒から200時間の間加熱する。
(d) 前記HOPG基板を冷却する。 - 前記触媒層の材料はNi、Pt、Co、Fe、Al、Cr、Cu、Mg、Mn、Rh、Ti、Pd、Ru、Ir、Reからなる群から選択された1つまたは選択された複数の要素の組み合わせを含む、請求項1記載の方法。
- 前記触媒層の厚さは5nmから2mmの範囲にある、請求項1または請求項2に記載の方法。
- 前記触媒層を設けるステップはデポジションによって行われる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
- 前記加熱するステップは350℃から1600℃で行われる、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法。
- 前記加熱するステップは真空中で、または不活性の雰囲気中で行われる、請求項1から請求項5のいずれかに記載の方法。
- 前記HOPG基板を劈開して前記触媒層をその上に設ける新たな表面を得る、請求項1から請求項6のいずれかに記載の方法。
- 以下のステップ(e)を前記冷却するステップの後に設けた、請求項1から請求項7のいずれかに記載の方法。
(e) 前記HOPG基板と前記グラフェンフィルムの間の前記触媒層を除去する。 - 前記除去するステップは以下の(e−1)から(e−3)のステップを更に含む請求項8記載の方法。
(e−1) 前記グラフェンフィルムの表面をポリマー被覆する。
(e−2) 前記触媒層、前記グラフェンフィルム及び前記ポリマー被覆を有する前記HOPG基板をベーキングする。
(e−3) 前記触媒層をエッチングして、前記ポリマー被覆が付いた前記グラフェンフィルムを前記HOPG基板から分離する。 - 以下の(f)及び(g)のステップを更に設けた、請求項9記載の方法。
(f) 前記ポリマー被覆付きの前記グラフェンフィルムを他の基板に転写する。
(g) 前記転写されたグラフェンフィルムから前記ポリマー被覆を除去する。 - 以下の(a)から(c)を設けた、グラフェンフィルムを有する基板。
(a) HOPG基板。
(b) 前記HOPG基板表面上に設けられ、Ni、Pt、Co、Fe、Cr、Cu、Mn、Rh、Ti、Pd、Ru、Ir、Reからなる群から選択された1つまたは選択された複数の要素の組み合わせを含む介在層。
(c) 前記介在層上のグラフェンフィルム。
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