以下、本発明を実施するための形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1及び図2に基づいて自動変速機11の概略構成を説明する。
図2に示すように、エンジン(図示せず)の出力軸には、トルクコンバータ12の入力軸13が連結され、このトルクコンバータ12の出力軸14に、油圧駆動式の変速歯車機構15(変速機構)が連結されている。トルクコンバータ12の内部には、流体継手を構成するポンプインペラ31とタービンランナ32が対向して設けられ、ポンプインペラ31とタービンランナ32との間には、オイルの流れを整流するステータ33が設けられている。ポンプインペラ31は、トルクコンバータ12の入力軸13に連結され、タービンランナ32は、トルクコンバータ12の出力軸14に連結されている。
また、トルクコンバータ12には、入力軸13側と出力軸14側との間を係合又は切り離しするためのロックアップクラッチ16が設けられている。エンジンの出力トルクは、トルクコンバータ12を介して変速歯車機構15に伝達され、変速歯車機構15の複数のギヤ(フロントプラネタリギヤ23やリアプラネタリギヤ22等)で変速されて、車両の駆動輪(前輪又は後輪)に伝達される。変速歯車機構15には、複数の変速段を切り換えるための複数の摩擦係合要素である複数のクラッチRC,HC,LCとブレーキB0,B1が設けられていると共に、ワンウェイクラッチ34(OWC)が設けられ、図3に示すように、これら各クラッチRC,HC,LCと各ブレーキB0,B1の係合/解放を油圧で切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることによって変速比を切り換えるようになっている。
ここで、ワンウェイクラッチ34は、トルク伝達を一方向(車両駆動方向)のみに規制するものであり、このワンウェイクラッチ34と並列にブレーキB1(OWC並列クラッチ)が設けられている。
尚、図3は4速自動変速機のクラッチRC,HC,LCとブレーキB0,B1の係合の組み合せを示すもので、○印はその変速段で係合状態(トルク伝達状態)に保持されるクラッチとブレーキを示し、無印は解放状態を示している。
例えば、Dレンジ(ドライブレンジ)のアクセル踏み込み状態では、車速が上がるにつれて、1速、2速、3速、4速へとアップシフトしていく。1速から2速への変速では、LCの係合状態から新たにB0を係合する。2速から3速への変速では、LC及びB0の係合状態からB0を解放し、新たにHCを係合する。3速から4速への変速では、HC及びLCの係合状態からLCを解放し、新たにB0を係合する。Lレンジ(ローレンジ)では、LC及びB1の係合状態とし、Rレンジ(リバースレンジ)では、RC及びB1の係合状態とする。Pレンジ(パーキングレンジ)とNレンジ(ニュートラルレンジ)では、全ての摩擦係合要素を解放する。
図1に示すように、変速歯車機構15には、エンジン動力で駆動される油圧ポンプ18と、モータ(図示せず)で駆動される電動式の油圧ポンプ24が設けられている。エンジン運転中は、エンジン駆動式の油圧ポンプ18で油圧が供給され、後述するアイドリングストップ中は、エンジン駆動式の油圧ポンプ18が停止するため、電動式の油圧ポンプ24で油圧が供給されるようになっている。
作動油(オイル)を貯溜するオイルパン(図示せず)内には、油圧制御回路17が設けられている。この油圧制御回路17は、ライン圧制御回路19、自動変速制御回路20、ロックアップ制御回路21、手動切換弁26等から構成され、オイルパンから油圧ポンプ18(又は油圧ポンプ24)で汲み上げられた作動油がライン圧制御回路19を介して自動変速制御回路20とロックアップ制御回路21に供給される。
ライン圧制御回路19には、油圧ポンプ18(又は油圧ポンプ24)からの油圧を所定のライン圧に制御するライン圧制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられ、自動変速制御回路20には、変速歯車機構15の各クラッチRC,HC,LCと各ブレーキB0,B1に供給する油圧を制御する複数の変速用の油圧制御弁(図示せず)が設けられている。また、ロックアップ制御回路21には、ロックアップクラッチ16に供給する油圧を制御するロックアップ制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられている。
また、ライン圧制御回路19と自動変速制御回路20との間には、シフトレバー25の操作に連動して切り換えられる手動切換弁26が設けられている。シフトレバー25がNレンジ(ニュートラルレンジ)又はPレンジ(パーキングレンジ)に操作されているときには、自動変速制御回路20の油圧制御弁への通電が停止(OFF)された状態になっていても、手動切換弁26によって変速歯車機構15に供給する油圧が変速歯車機構15をニュートラル状態とするように切り換えられる。
一方、エンジンには、エンジン回転速度Ne(トルクコンバータ12の入力軸13の回転速度)を検出するエンジン回転速度センサ27が設けられ、変速歯車機構15には、変速歯車機構15の入力軸回転速度Nt(トルクコンバータ12の出力軸14の回転速度であるタービン回転速度)を検出する入力軸回転速度センサ28と、変速歯車機構15の出力軸回転速度Noを検出する出力軸回転速度センサ29が設けられている。
これら各種センサの出力信号は、自動変速機電子制御回路(以下「AT−ECU」と表記する)30に入力される。このAT−ECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各ルーチンを実行することで、変速制御手段として機能し、予め設定した変速パターンに従って変速歯車機構15の変速が実行されるように、シフトレバー25の操作位置や運転条件(スロットル開度、車速等)に応じて自動変速制御回路20の各油圧制御弁への通電を制御して、変速歯車機構15の各クラッチRC,HC,LCと各ブレーキB0,B1に作用させる油圧を制御することによって、図3に示すように、各クラッチRC,HC,LCと各ブレーキB0,B1の係合/解放を切り換えて、エンジンの動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることで、変速歯車機構15の変速比を切り換える。
更に、AT−ECU30は、エンジン制御装置37に接続されて、両者間で制御信号等を送受信する。エンジン制御装置37は、1つ又は複数のECU(例えばエンジン用ECU、アイドリングストップ用ECU)によって構成されている。このエンジン制御装置37には、運転状態を検出する各種センサ(例えば、エアフローメータ、スロットル開度センサ、吸気管圧力センサ、排出ガスセンサ、冷却水温センサ、クランク角センサ、ブレーキスイッチ、アクセルセンサ、車速センサ等)からの信号が入力される。
エンジン制御装置37は、エンジン運転中に、上記各種センサで検出した運転状態に応じて、燃料噴射量、吸入空気量(スロットル開度)、点火時期等を制御する。更に、エンジン制御装置37は、特許請求の範囲でいうアイドリングストップ制御手段としても機能し、エンジン運転中に運転者が車両を停車又は減速させて自動停止要求が発生(自動停止条件が成立)したときに、エンジンの燃料噴射を停止(燃料カット)してエンジンの燃焼を自動的に停止させ、その後、エンジンの自動停止中(燃料カット中)に運転者が車両を発進又は加速させようとする操作(例えば、ブレーキ踏み込み解除、アクセル踏み込み操作等)を行って再始動要求が発生(再始動条件が成立)したときに、燃料噴射を再開してエンジンを自動的に再始動させるアイドリングストップ制御を実行する。
ところで、Dレンジ(ドライブレンジ)等の走行レンジが選択されて自動変速機11の変速歯車機構15が動力伝達状態に維持された状態で、アイドリングストップ制御が実行されると、エンジンの再始動時に、エンジンの始動トルクが変速歯車機構15を介して車輪側に伝達されて、不快なショックが発生する可能性がある。
この対策として、本実施例では、エンジンの燃料カット中(燃焼停止中)に、変速歯車機構15の係合側クラッチ(走行レンジで係合状態となる摩擦係合要素)に作用させる油圧を減少させて係合側クラッチを解放状態にする減圧制御を実行し、その後、エンジンの再始動時に係合側クラッチに作用させる油圧を増加させて係合側クラッチを半係合状態(スリップ状態)にした後に係合側クラッチを係合状態に戻す増圧制御を実行する。これにより、エンジンの再始動時に、係合側クラッチを半係合状態にして、エンジンの始動トルクが変速歯車機構15を介して車輪側に伝達されることを抑制する。
更に、減圧制御中に変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntと出力軸回転速度Noに基づいて基準油圧(係合側クラッチが滑り始める油圧)を学習し、減圧制御や増圧制御の際に、その基準油圧の学習値を基準にして係合側クラッチに作用させる油圧を制御する。これにより、システムの製造ばらつきや経時変化等によって油圧に対する係合側クラッチの動作特性が変化しても、その影響を受けずに減圧制御や増圧制御の際に係合側クラッチに作用させる油圧を適正に制御する。
具体的には、図4に示すように、まず、エンジン自動停止条件が成立した時点t1 で、エンジンの燃料カットを開始してエンジンの燃焼を自動的に停止させる。この後、所定の減圧制御開始条件が成立した時点t2 で、係合側クラッチ(例えばクラッチLC)の減圧制御を実行する。この減圧制御では、まず、基準油圧の学習値(例えば前回の減圧制御中に学習した基準油圧)に対して補正値A(第1補正値)を加算補正した油圧を減圧制御の初期油圧として設定して、係合側クラッチの油圧指令値を初期油圧に設定する。
初期油圧=基準油圧+補正値A
この場合、初期油圧は、補正値Aが正値のときには基準油圧の前回学習値に対して補正値Aの絶対値を加算した油圧となり、補正値Aが負値のときには基準油圧の前回学習値に対して補正値Aの絶対値を減算した油圧となる。
この後、係合側クラッチの油圧指令値を初期油圧から一定勾配で減少させて、係合側クラッチに作用させる油圧を一定勾配で減少させることで、係合側クラッチの係合力を徐々に減少させる。
この後、所定の油圧学習条件が成立した時点t3 で、クラッチ出力側回転速度(変速歯車機構15の出力軸回転速度Noに車両発進時の変速段である1速の変速比を乗算した回転速度)と入力軸回転速度Ntとの回転速度差ΔNが学習判定値以上であるか否かを判定する処理を開始し、クラッチ出力側回転速度と入力軸回転速度Ntとの回転速度差ΔNが学習判定値以上になった時点t4 で、係合側クラッチが滑り始めたと判断して、そのときの油圧(例えば係合側クラッチの油圧指令値)を基準油圧(係合側クラッチが滑り始める油圧)として学習する。
この後、基準油圧の学習値(例えば今回の減圧制御中に学習した基準油圧)に対して補正値B(第2補正値)を減算補正した油圧を減圧制御の最終油圧として設定して、係合側クラッチの油圧指令値を最終油圧に設定することで、係合側クラッチを解放状態にする。 最終油圧=基準油圧−補正値B
その後、エンジン再始動条件が成立した時点t5 で、エンジンの燃料噴射を再開してエンジンを自動的に再始動させると共に、係合側クラッチの増圧制御を実行する。この増圧制御では、まず、基準油圧の学習値(例えば今回の減圧制御中に学習した基準油圧)に対して補正値C(第3補正値)を減算補正した油圧を増圧制御の初期油圧として設定して、係合側クラッチの油圧指令値を初期油圧に設定することで、係合側クラッチを半係合状態にする。
初期油圧=基準油圧−補正値C
この後、エンジンの再始動が完了した時点t6 で、係合側クラッチの油圧指令値を初期油圧から一定勾配で増加させて、係合側クラッチに作用させる油圧を一定勾配で増加させることで、係合側クラッチの係合力を徐々に増加させる。
この後、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntが低下し始めた時点t7 で、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntを目標同期回転速度(変速歯車機構15の出力軸回転速度Noに車両発進時の変速段である1速の変速比を乗算した回転速度)に一致させるように係合側クラッチの油圧指令値を制御するF/B制御を実行し、1速の変速比が成立した時点t8 で、係合側クラッチの油圧指令値を最高圧まで上昇させる制御を実行する。
以上説明した本実施例のアイドリングストップ制御及びクラッチ油圧制御(減圧制御と増圧制御)は、AT−ECU30及び/又はエンジン制御装置37によって図5乃至図11の各ルーチンに従って実行される。以下、これらの各ルーチンの処理内容を説明する。
[燃料カット制御ルーチン]
図5に示す燃料カット制御ルーチンは、AT−ECU30とエンジン制御装置37の電源オン期間中(イグニッションスイッチのオン期間中)に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、アクセルセンサ(図示せず)の出力信号に基づいてアクセルOFF(アクセル操作が行われていない状態)であるか否かを判定する。
このステップ101で、アクセルOFFであると判定された場合には、ステップ102に進み、エンジン回転速度センサ27で検出したエンジン回転速度が所定値以上であるか否かを判定し、エンジン回転速度が所定値以上であると判定された場合には、ステップ105に進み、燃料カットを実施する。
一方、上記ステップ102で、エンジン回転速度が所定値よりも低いと判定された場合には、ステップ103に進み、後述する図6のエンジン自動停止条件判定ルーチンを実行して、エンジン自動停止条件が成立しているか否かを判定する処理を行う。
この後、ステップ104に進み、エンジン自動停止条件判定処理(ステップ103)の判定結果に基づいて、エンジン自動停止条件が成立しているか否かを判定し、エンジン自動停止条件が成立していると判定された場合には、ステップ106に進み、燃料カットを実施してエンジンの燃焼を自動的に停止させる。
一方、上記ステップ103で、エンジン自動停止条件が不成立であると判定された場合には、ステップ107に進み、燃料カットを中止して燃料噴射を再開する。また、上記ステップ101で、アクセルON(アクセル操作中)であると判定された場合には、ステップ108に進み、燃料カットを中止して燃料噴射を再開する。
[エンジン自動停止条件判定ルーチン]
図6に示すエンジン自動停止条件判定ルーチンは、前記図5の燃料カット制御ルーチンのステップ103で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、車速センサ(図示せず)で検出した車速が所定値以下であるか否かを判定する。
このステップ201で、車速が所定値以下であると判定された場合には、ステップ202に進み、ブレーキスイッチ(図示せず)の出力信号に基づいてブレーキON(ブレーキ操作中)であるか否かを判定する。
上記ステップ201で車速が所定値以下であると判定され、且つ、上記ステップ202でブレーキONであると判定された場合には、ステップ203に進み、エンジン自動停止条件が成立していると判定する。
一方、上記ステップ201で車速が所定値よりも高いと判定された場合、又は、上記ステップ202でブレーキOFF(ブレーキ操作が行われていない状態)であると判定された場合には、ステップ204に進み、エンジン自動停止条件が不成立であると判定する。
[スタータ制御ルーチン]
図7に示すスタータ制御ルーチンは、AT−ECU30とエンジン制御装置37の電源オン期間中に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、運転者がイグニッションスイッチ(図示せず)を操作してエンジンを始動する手動始動時であるか否かを判定し、手動始動時であると判定された場合には、ステップ304に進み、スタータ(図示せず)を駆動してエンジンのクランク軸を回転駆動(クランキング)することでエンジンを始動する。
これに対して、上記ステップ301で、手動始動時ではないと判定された場合には、ステップ302に進み、燃料カット状態から燃料噴射を再開してエンジンを始動する自動始動時(再始動時)であるか否かを判定し、自動始動時でなければ、そのまま本ルーチンを終了する。
一方、上記ステップ302で、自動始動時であると判定された場合には、ステップ303に進み、燃料噴射のみのスタータレス始動ではエンジンの始動困難であるか否かを判定する。例えば、エンジン停止位置(エンジン始動位置)がスタータレス始動に適した所定クランク角範囲内になければ、燃料噴射のみでは始動困難と判定する。また、冷却水温が所定温度以下であれば、クランキング時のエンジンのフリクションが大きくて、燃料噴射のみでは始動困難と判定する。
このステップ303で、燃料噴射のみでは始動困難と判定された場合には、ステップ304に進み、スタータを駆動してエンジンのクランク軸を回転駆動することでエンジンを始動する。一方、上記ステップ303で、燃料噴射のみで始動可能(スタータレス始動可能)と判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。この場合は、燃料噴射のみのスタータレス始動を実行する。
[クラッチ油圧制御ルーチン]
図8に示すクラッチ油圧制御ルーチンは、AT−ECU30とエンジン制御装置37の電源オン期間中に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ401で、燃料カット状態から燃料噴射を再開してエンジンを始動する自動始動時(再始動時)であるか否かを判定する。
このステップ401で、自動始動時ではないと判定された場合には、ステップ402に進み、燃料カット中(燃焼停止中)であるか否かを判定し、燃料カット中ではないと判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
一方、上記ステップ402で、燃料カット中であると判定された場合には、ステップ403に進み、減圧制御開始条件が成立しているか否を、例えば、車速が所定値以下であるか否か、燃料カット開始から所定時間以上が経過したか否か等によって判定し、減圧制御開始条件が不成立であると判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
その後、上記ステップ403で、減圧制御開始条件が成立していると判定された場合には、ステップ404に進み、後述する図9の減圧制御ルーチンを実行することで、エンジンの燃料カット中に変速歯車機構15の係合側クラッチ(例えばクラッチLC)に作用させる油圧を減少させて係合側クラッチを解放状態にする減圧制御を実行する。
その後、上記ステップ401で、自動始動時(再始動時)であると判定された場合には、ステップ405に進み、後述する図11の増圧制御ルーチンを実行することで、エンジンの再始動時に係合側クラッチ(例えばクラッチLC)に作用させる油圧を増加させて係合側クラッチを半係合状態(スリップ状態)にした後に係合側クラッチを係合状態に戻す増圧制御を実行する。
[減圧制御ルーチン]
図9に示す減圧制御ルーチンは、前記図8のクラッチ油圧制御ルーチンのステップ404で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう減圧制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ501で、減圧制御の段階を判定するための制御段階フラグFlagN_Gの値が0〜3のいずれであるかで、現在の減圧制御の段階を判定する。
減圧制御を開始する時点では、制御段階フラグFlagN_Gは、初期値「0」に設定されているため、ステップ502に進み、基準油圧の学習値(例えば前回の減圧制御中に学習した基準油圧)を読み込んだ後、ステップ503に進み、前回学習時(例えば前回の減圧制御中に基準油圧を学習したとき)の車速と油温を読み込む。
この後、ステップ504に進み、前回学習時の車速と現在の車速との差を算出すると共に、前回学習時の油温と現在の油温との差を算出した後、ステップ505に進み、基準油圧の学習値を基準にして減圧制御の初期油圧を求めるための補正値Aを算出する。
この場合、図12(a)に示す補正値A1のマップを参照して、前回学習時の車速と現在の車速との差に応じた補正値A1を算出すると共に、図12(b)に示す補正値A2のマップを参照して、前回学習時の油温と現在の油温との差に応じた補正値A2を算出した後、補正値A1と補正値A2から補正値Aを求める。
補正値A=補正値A1+補正値A2
図12(a)に示す補正値A1のマップは、前回学習時の車速と現在の車速との差が大きくなるほど補正値A1が大きくなるように設定され、図12(b)に示す補正値A2のマップは、前回学習時の油温と現在の油温との差が大きくなるほど補正値A2が大きくなるように設定されている。これらの補正値A1のマップと補正値A2のマップは、それぞれ予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、AT−ECU30又はエンジン制御装置37のROMに記憶されている。
ここで、車速に応じて変速歯車機構15の出力軸回転速度Noが変化して係合側クラッチが滑り始める油圧が変化すると共に、油温に応じて作動油の流動性が変化して係合側クラッチが滑り始める油圧が変化するため、実際の基準油圧(係合側クラッチが滑り始める油圧)は、そのときの車速や油温に応じて変化する。
このような事情を考慮して、本ルーチンでは、車速と油温に基づいて補正値Aを算出することで、車速や油温に応じて基準油圧(係合側クラッチが滑り始める油圧)が変化するのに対応して、補正値Aを変化させて減圧制御の初期油圧を適正値に設定することができる。
尚、本ルーチンでは、車速に応じた補正値A1と油温に応じた補正値A2を別々に算出して、これらの補正値A1と補正値A2から補正値Aを算出するようにしたが、これに限定されず、例えば、車速と油温をパラメータする補正値Aのマップを用いて、車速と油温に応じた補正値Aを直接算出するようにしても良い。
この後、ステップ506に進み、基準油圧の学習値(例えば前回の減圧制御中に学習した基準油圧)に対して補正値Aだけ補正した油圧を減圧制御の初期油圧として設定して、係合側クラッチ(例えばクラッチLC)の油圧指令値を初期油圧に設定する。
初期油圧=基準油圧+補正値A
この場合、初期油圧は、補正値Aが正値のときには基準油圧の前回学習値に対して補正値Aの絶対値を加算した油圧となり、補正値Aが負値のときには基準油圧の前回学習値に対して補正値Aの絶対値を減算した油圧となる。
これにより、減圧制御の初期油圧を、基準油圧の前回学習値を適正に補正して設定することができ、減圧制御の際に、係合側クラッチに作用させる油圧を、この初期油圧から減少させていくことで、減圧制御中に基準油圧を確実且つ速やかに学習することができる。
この後、ステップ507に進み、制御段階フラグFlagN_Gを「1」に設定して、本ルーチンを終了する。
上記ステップ507で、制御段階フラグFlagN_Gが「1」に設定された場合には、次回の本ルーチンの起動時に、ステップ501からステップ508に進み、車速が所定値以下であるか否かを判定し、車速が所定値よりも高いと判定された場合には、ステップ509に進み、制御段階フラグFlagN_Gを「1」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
その後、上記ステップ508で、車速が所定値以下であると判定されたときに、ステップ510に進み、制御段階フラグFlagN_Gを「2」に設定して、本ルーチンを終了する。
上記ステップ510で、制御段階フラグFlagN_Gが「2」に設定された場合には、次回の本ルーチンの起動時に、ステップ501からステップ511に進み、係合側クラッチの油圧指令値を初期油圧から一定勾配で減少させて、係合側クラッチに作用させる油圧を一定勾配で減少させる。これにより、係合側クラッチの係合力を徐々に減少させる。
この後、ステップ512に進み、クラッチ出力側回転速度(変速歯車機構15の出力軸回転速度Noに車両発進時の変速段である1速の変速比を乗算した回転速度)と、入力軸回転速度Ntとの回転速度差ΔNを算出する。
この後、ステップ513に進み、後述する図10の油圧学習条件判定ルーチンを実行して、油圧学習条件が成立しているか否かを判定する処理を行う。この後、ステップ514に進み、油圧学習条件判定処理(ステップ513)の判定結果に基づいて、油圧学習条件が成立しているか否かを判定し、油圧学習条件が成立していると判定されて場合には、ステップ515に進み、クラッチ出力側回転速度と入力軸回転速度Ntとの回転速度差ΔNが学習判定値以上であるか否かを判定する。
このステップ515で、クラッチ出力側回転速度と入力軸回転速度Ntとの回転速度差ΔNが学習判定値よりも小さいと判定された場合には、ステップ516に進み、制御段階フラグFlagN_Gを「2」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
その後、上記ステップ515で、クラッチ出力側回転速度と入力軸回転速度Ntとの回転速度差ΔNが学習判定値以上であると判定されたときに、係合側クラッチが滑り始めたと判断して、ステップ517に進み、そのときの油圧(例えば係合側クラッチの油圧指令値)を基準油圧(係合側クラッチが滑り始める油圧)として学習すると共に、この基準油圧の学習時の車速及び油温を取得する。この基準油圧の学習値と車速及び油温は、AT−ECU30又はエンジン制御装置37のバックアップRAM(図示せず)等の書き換え可能な不揮発性メモリ(電源オフ中でも記憶データを保持する書き換え可能なメモリ)に記憶する。これらのステップ512〜517の処理が特許請求の範囲でいう油圧学習手段としての役割を果たす。
この後、ステップ518に進み、制御段階フラグFlagN_Gを「3」に設定して、本ルーチンを終了する。
一方、上記ステップ514で、油圧学習条件が不成立であると判定された場合には、ステップ519に進み、車速が所定値(例えば後述する下限側閾値)以下であるか否かを判定し、車速が所定値よりも高いと判定された場合には、油圧学習条件が成立する可能性があると判断して、ステップ520に進み、制御段階フラグFlagN_Gを「2」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
これに対して、上記ステップ519で、車速が所定値以下であると判定された場合には、油圧学習条件が成立する可能性がないと判断して、ステップ521に進み、制御段階フラグFlagN_Gを「3」に設定して、本ルーチンを終了する。
上記ステップ518又は上記ステップ521で、制御段階フラグFlagN_Gが「3」に設定された場合には、次回の本ルーチンの起動時に、ステップ501からステップ522に進み、基準油圧の学習値(例えば今回の減圧制御中に学習した基準油圧)を読み込んだ後、ステップ523に進み、基準油圧の学習値を基準にして減圧制御の最終油圧を求めるための補正値Bを算出する。
この場合、図13(a)に示す補正値B1のマップを参照して、現在の車速に応じた補正値B1を算出すると共に、図13(b)に示す補正値B2のマップを参照して、現在の油温に応じた補正値B2を算出した後、補正値B1に補正値B2を加算して補正値Bを求める。
補正値B=補正値B1+補正値B2
図13(a)に示す補正値B1のマップは、車速が高くなるほど補正値B1が大きくなるように設定され、図13(b)に示す補正値B2のマップは、油温が高くなるほど補正値B2が小さくなるように設定されている。これらの補正値B1のマップと補正値B2のマップは、それぞれ予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、AT−ECU30又はエンジン制御装置37のROMに記憶されている。
本ルーチンでは、車速と油温に基づいて補正値Bを算出することで、車速や油温に応じて基準油圧(係合側クラッチが滑り始める油圧)が変化するのに対応して、補正値Bを変化させて減圧制御の最終油圧を適正値に設定することができる。
尚、本ルーチンでは、車速に応じた補正値B1と油温に応じた補正値B2を別々に算出して、これらの補正値B1と補正値B2から補正値Bを算出するようにしたが、これに限定されず、例えば、車速と油温をパラメータする補正値Bのマップを用いて、車速と油温に応じた補正値Bを直接算出するようにしても良い。
この後、ステップ524に進み、基準油圧の学習値(例えば今回の減圧制御中に学習した基準油圧)に対して補正値Bだけ低い油圧を減圧制御の最終油圧として設定して、係合側クラッチの油圧指令値を最終油圧に設定する。
最終油圧=基準油圧−補正値B
これにより、減圧制御の最終油圧を、基準油圧よりも適度に低くして係合側クラッチを解放状態にする油圧に設定することができ、減圧制御の際に、係合側クラッチに作用させる油圧を最終油圧に制御することで、係合側クラッチを確実且つ速やかに解放状態にすることができる。
[油圧学習条件判定ルーチン]
図10に示す油圧学習条件判定ルーチンは、前記図9の減圧制御ルーチンのステップ513で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう学習実行条件判定手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ601,602で、車速が所定範囲内(下限側閾値≦車速≦上限側閾値)であるか否かを判定し、車速が所定範囲内であると判定されれば、次のステップ603,604で、油温が所定範囲内(下限側閾値≦油温≦上限側閾値)であるか否かを判定する。
その結果、上記601,602で車速が所定範囲内であると判定され、且つ、上記ステップ603,604で油温が所定範囲内であると判定された場合には、基準油圧を精度良く学習可能であると判断して、ステップ605に進み、油圧学習条件が成立していると判定する。
これに対して、上記601,602で車速が所定範囲外である(車速が上限側閾値よりも高い又は車速が下限側閾値よりも低い)と判定された場合、又は、上記ステップ603,604で油温が所定範囲外である(油温が上限側閾値よりも高い又は油温が下限側閾値よりも低い)と判定された場合には、基準油圧を精度良く学習できない可能性があると判断して、ステップ606に進み、油圧学習条件が不成立であると判定する。
[増圧制御ルーチン]
図11に示す増圧制御ルーチンは、前記図8のクラッチ油圧制御ルーチンのステップ405で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう増圧制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ701で、増圧制御の段階を判定するための制御段階フラグFlagN_Kの値が0〜3のいずれであるかで、現在の増圧制御の段階を判定する。
増圧制御を開始する時点では、制御段階フラグFlagN_Kは、初期値「0」に設定されているため、ステップ702に進み、基準油圧の学習値(例えば今回の減圧制御中に学習した基準油圧)を読み込んだ後、ステップ703に進み、基準油圧の学習値を基準にして増圧制御の初期油圧を求めるための補正値Cを算出する。
この場合、図14(a)に示す補正値C1のマップを参照して、現在の車速に応じた補正値C1を算出すると共に、図14(b)に示す補正値C2のマップを参照して、現在の油温に応じた補正値C2を算出した後、補正値C1に補正値C2を加算して補正値Cを求める。
補正値C=補正値C1+補正値C2
図14(a)に示す補正値C1のマップは、車速が高くなるほど補正値C1が大きくなるように設定され、図14(b)に示す補正値C2のマップは、油温が高くなるほど補正値A2が小さくなるように設定されている。これらの補正値C1のマップと補正値C2のマップは、それぞれ予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、AT−ECU30又はエンジン制御装置37のROMに記憶されている。
本ルーチンでは、車速と油温に基づいて補正値Cを算出することで、車速や油温に応じて基準油圧(係合側クラッチが滑り始める油圧)が変化するのに対応して、補正値Cを変化させて増圧制御の初期油圧を適正値に設定することができる。
尚、本ルーチンでは、車速に応じた補正値C1と油温に応じた補正値C2を別々に算出して、これらの補正値C1と補正値C2から補正値Cを算出するようにしたが、これに限定されず、例えば、車速と油温をパラメータする補正値Cのマップを用いて、車速と油温に応じた補正値Cを直接算出するようにしても良い。
この後、ステップ704に進み、基準油圧の学習値(例えば今回の減圧制御中に学習した基準油圧)に対して補正値Cだけ低い油圧を増圧制御の初期油圧として設定して、係合側クラッチ(例えばクラッチLC)の油圧指令値を初期油圧に設定する。
初期油圧=基準油圧−補正値C
これにより、増圧制御の初期油圧を、基準油圧よりも少し低くして係合側クラッチを半係合状態(スリップ状態)にする油圧に設定することができ、増圧制御の際に、係合側クラッチに作用させる油圧を初期油圧に制御することで、係合側クラッチを確実且つ速やかに半係合状態にすることができる。
この後、ステップ705に進み、エンジン回転速度が所定値(完爆判定値)以上であるか否かを判定し、エンジン回転速度が所定値以上であると判定されたときに、エンジンの再始動が完了したと判断して、ステップ706に進み、制御段階フラグFlagN_Kを「1」に設定して、本ルーチンを終了する。
上記ステップ706で、制御段階フラグFlagN_Kが「1」に設定された場合には、次回の本ルーチンの起動時に、ステップ701からステップ707に進み、係合側クラッチの油圧指令値を初期油圧から一定勾配で増加させて、係合側クラッチに作用させる油圧を一定勾配で増加させる。これにより、係合側クラッチの係合力を徐々に増加させる。係合側クラッチの油圧が上昇して係合側クラッチの係合力がある程度まで増加すると、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntが低下し始める。
この後、ステップ708に進み、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntが低下し始めたか否かを判定し、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntが低下していないと判定されれば、ステップ709に進み、制御段階フラグFlagN_Kを「1」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
その後、上記ステップ708で、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntが低下し始めたと判定されたときに、ステップ710に進み、制御段階フラグFlagN_Kを「2」に設定して、本ルーチンを終了する。
上記ステップ710で、制御段階フラグFlagN_Kが「2」に設定された場合には、次回の本ルーチンの起動時に、ステップ701からステップ711に進み、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntを目標同期回転速度(変速歯車機構15の出力軸回転速度Noに車両発進時の変速段である1速の変速比を乗算した回転速度)に一致させるように係合側クラッチの油圧指令値を制御するF/B制御を実行する。
この後、ステップ712に進み、1速の変速比が成立したか否かを、例えば、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntと目標同期回転速度との回転速度差が判定値以下の状態が所定時間以上継続したか否かによって判定し、1速の変速比が成立したと判定されたときに、ステップ713に進み、制御段階フラグFlagN_Kを「3」に設定して、本ルーチンを終了する。
上記ステップ713で、制御段階フラグFlagN_Kが「3」に設定された場合には、次回の本ルーチンの起動時に、ステップ701からステップ714に進み、係合側クラッチの油圧指令値を最高圧まで上昇させる制御を実行して、係合側クラッチの油圧を最高圧まで上昇させた後、ステップ715に進み、増圧制御の制御段階フラグFlagN_Kを初期値「0」にリセットすると共に、次のステップ716で、減圧制御の制御段階フラグFlagN_Gを初期値「0」にリセットして、本ルーチンを終了する。
以上説明した本実施例では、エンジンの燃料カット中(燃焼停止中)に、変速歯車機構15の係合側クラッチに作用させる油圧を減少させて係合側クラッチを解放状態にする減圧制御を実行し、その後、エンジンの再始動時に係合側クラッチに作用させる油圧を増加させて係合側クラッチを半係合状態(スリップ状態)にした後に係合側クラッチを係合状態に戻す増圧制御を実行するようにしたので、エンジンの再始動時に、係合側クラッチを半係合状態にして、エンジンの始動トルクが変速歯車機構15を介して車輪側に伝達されることを抑制することができ、不快なショックが発生することを防止できる。
更に、減圧制御中に、クラッチ出力側回転速度(出力軸回転速度Noに1速の変速比を乗算した回転速度)と入力軸回転速度Ntとの回転速度差ΔNに基づいて基準油圧(係合側クラッチが滑り始める油圧)を学習し、減圧制御や増圧制御の際に、その基準油圧の学習値を基準にして係合側クラッチに作用させる油圧を制御するようにしたので、システムの製造ばらつきや経時変化等によって油圧に対する係合側クラッチの動作特性が変化しても、その影響を受けずに減圧制御や増圧制御の際に係合側クラッチに作用させる油圧を適正に制御することができる。これにより、エンジンの再始動時に不快なショックが発生することを防止しながら、再始動後に車両を速やかに発進又は加速させることができる。
尚、上記実施例では、クラッチ出力側回転速度(出力軸回転速度Noに1速の変速比を乗算した回転速度)と入力軸回転速度Ntとの回転速度差ΔNが所定値以上になったときに、係合側クラッチが滑り始めたと判断して、そのときの油圧を基準油圧として学習するようにしたが、これに限定されず、例えば、入力軸回転速度Ntと出力軸回転速度Noから求めた変速比が所定値以上になったときに、係合側クラッチが滑り始めたと判断して、そのときの油圧を基準油圧として学習するようにしても良い。
その他、本発明は、上記実施例に限定されず、例えば、変速歯車機構15の構成、変速段の数、摩擦係合要素の係合/解放と変速段との関係等を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
また、本発明は、変速段(変速比)を段階的に切り換える有段変速機に限定されず、無段階に変速する無段変速機(CVT)に適用しても良い。