以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1、図3は、本発明の参考例にかかる変倍光学系の構成例を示す断面図であり、それぞれ、実施例1、3と称されている変倍光学系に対応しており、図2、図4〜図6は、本発明の実施形態にかかる変倍光学系の構成例を示す断面図であり、それぞれ、実施例2、4〜6の変倍光学系に対応している。図2においては、左側が物体側、右側が像側である。図2(A)が広角端でのレンズ配置に対応し、図2(B)が中間焦点距離状態でのレンズ配置に対応し、図2(C)が望遠端でのレンズ配置に対応している。図2(A)のW、図2(B)のM、図2(C)のTはそれぞれ広角端、中間焦点距離状態、望遠端を意味する。
この変倍光学系は、光軸Zに沿って、物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズ群G1と、開口絞りStと、正の屈折力を有する第2レンズ群G2とが配されてなり、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2の光軸方向の間隔を変化させることにより変倍を行うように構成されている。また、この変倍光学系では、開口絞りStは変倍時に像面Simに対して固定されている。なお、図2に示す開口絞りStは必ずしも大きさや形状を表すものではなく、光軸Z上の位置を示すものである。
この変倍光学系を撮像装置に適用する際には、レンズを装着するカメラ側の構成に応じて、光学系と像面Simの間にカバーガラス、プリズム、赤外線カットフィルタやローパスフィルタなどの各種フィルタを配置することが好ましいため、図2では、これらを想定した平行平板状の光学部材PPを第2レンズ群G2と像面Simとの間に配置した例を示している。
本変倍光学系の第1レンズ群G1は、物体側から順に、両凹レンズL1と、物体側に凸面を向けた正レンズL2とが配されてなる2枚構成である。本変倍光学系のように、物体側から順に、負レンズ群、開口絞りSt、正レンズ群からなる2群構成の変倍光学系においては、第1レンズ群G1を、物体側から順に配された負レンズ、正レンズの2枚からなるようにすることが、高性能を維持するための最も簡易な構成である。
このように、レンズが大径化しやすい第1レンズ群G1を、レンズ枚数を極力減らした2枚構成とすることで低コストな系を実現できる。また、最も物体側のレンズ形状を両凹とすることで、第1レンズ群G1に必要な強い負の屈折力を確保しやすくなるとともに広角化に有利となる。
両凹レンズL1は、物体側の面の曲率半径の絶対値よりも像側の面の曲率半径の絶対値が小さくなるように構成することが好ましい。以下に両凹レンズL1のこの好ましい形状の理由について説明する。
第1レンズ群G1は負レンズ群であるから、画角の大きな軸外光束の第1レンズ群G1への入射角はこの軸外光束の第1レンズ群G1からの射出角よりも大きくなる。よって、単純に広角化を進めると、軸外光束の両凹レンズL1への入射角は軸外光束の両凹レンズL1からの射出角よりも大きくなる。ここで例えば、軸外光線の主光線に注目し、この主光線が両凹レンズL1を通る際に発生する収差を最小にするには、両凹レンズL1の物体側の面と像側の面とでこの主光線に対してほぼ等量の屈折力を分担させた構成とすることがレンズ設計上好ましい。
上記のレンズ設計上好ましい構成に近づけるには、両凹レンズL1の物体側の面における上記主光線の入射角を小さくするように、この面の曲率半径の絶対値を大きくすることが好ましく、逆に、両凹レンズL1の像側の面については、この面における上記主光線の射出角を大きくするように、この面の曲率半径の絶対値を小さくすることが好ましい。以上のことから、両凹レンズL1は、物体側よりも像側の面の曲率半径の絶対値が小さい形状となることが好ましい。
広角端においては、軸上光線の光線高は低く、球面収差の発生量は小さいが、軸外光線の光線高は高く、軸外収差の発生量が格段に大きいので、軸外光線の収差を極力小さくするためにこのような形状とすることが好ましい。両凹レンズL1に非球面を施す場合は、軸外光束の各光線に関して、両凹レンズL1への入射角と両凹レンズL1からの射出角がほぼ等しくなるような形状とすることが好ましい。
なお、望遠端においては、第1レンズ群G1と開口絞りStが接近するためさほど軸外収差の発生量は大きくならないが、軸上光線の光線高が高くなり、球面収差が影響されやすくなる。このときの球面収差の発生量を抑制するためには、両凹レンズL1と正レンズL2を接合せずにこれらの間に間隙を持たせた構成とし、正レンズL2の物体側の面を凸形状として、正レンズL2の像側の面よりも物体側の面の曲率半径の絶対値が小さくなるように構成して正レンズL2の収斂作用を強化することが好ましい。
正レンズL2は、メニスカスレンズあるいは両凸レンズとすることができる。正レンズL2をメニスカスレンズとした場合は、第1レンズ群G1が強い負の屈折力を確保しやすくなる。特に、正レンズL2を物体側に凸面を向けたメニスカスレンズとした場合には、収差を極力抑えながら物体側から広い画角で入射した光束を第2レンズ群G2へ導くとともに、球面収差を抑制して大口径比を達成することが容易になる。
正レンズL2を両凸レンズとした場合は、メニスカスレンズとする場合よりも、両凹レンズL1の強い発散性を緩和する作用がより強くなる。正レンズL2を両凸レンズとすることにより、広角側では負の像面湾曲を抑制することができ、軸上光線の光線高が高い望遠側では両凹レンズL1で生じる過剰の球面収差を緩和することができる。正レンズL2の像側の面の曲率半径の絶対値が小さいほど、これらの作用は強くなる。
本変倍光学系にあっては、望遠端から広角端へ変倍する際、固定の開口絞りStに対して、第1レンズ群G1、第2レンズ群G2が互いに遠ざかる方向へ移動するが、その移動量は第1レンズ群G1の方が大きい。第1レンズ群G1の移動量は、第1レンズ群G1の負の屈折力に依存する。従って、変倍も含めた光学系全体の光軸方向の大きさは、第1レンズ群G1の負の屈折力に大きく依存するといってよく、光学系の大きさを規定するためには、第1レンズ群G1の負の屈折力の範囲を規定する必要がある。
第1レンズ群G1においては、両凹レンズL1の負の屈折力が第1レンズ群G1の屈折力をほぼ代表することになる。そこで、本変倍光学系は、第1レンズ群G1の両凹レンズL1の焦点距離をf1とし、広角端における全系の焦点距離をfwとしたとき、下記条件式(1)を満たすように構成されている。
−2.9<f1/fw<−2.0 … (1)
条件式(1)の下限を下回ると、両凹レンズL1の屈折力が弱くなりすぎて、これが第1レンズ群G1の負の屈折力を弱めることに繋がり、変倍比を維持するために、第1レンズ群G1の移動量が大きくなる。本変倍光学系は開口絞りStが変倍時に固定されているため、広角端で第1レンズ群G1と開口絞りStとの間隔が拡がり過ぎて、光軸方向の全長が長くなるとともにレンズの径方向も大型化してしまい高コストになってしまう。
条件式(1)の上限を上回ると、両凹レンズL1の負の屈折力が強くなりすぎて、両凹レンズL1および正レンズL2に非球面を施しても、球面収差と非点収差とのアンバランス化を解消できなくなる。条件式(1)を満たすことで、小型化と低コスト化を図りながら所望の変倍比を達成するとともに、良好な結像性能を実現することができる。
条件式(1)を満たすことにより得られる効果をさらに高めるためには、下記条件式(1−1)を満たすことがより好ましい。
−2.85<f1/fw<−2.05 … (1−1)
本変倍光学系の第2レンズ群G2は、物体側から順に、両凸レンズL3と、両凹レンズL4と、正レンズL5とを有するように構成される。コストよりも性能を重視する場合は、第2レンズ群G2は上記3枚以外のレンズを含むように構成してもよいが、低コスト化のためには第2レンズ群G2は、上記3枚のレンズのみからなる構成とすることが好ましい。上記3枚からなる第2レンズ群G2は、広角でF値の小さな変倍光学系を実現するには最少レンズ枚数の構成である。その際、少ないレンズ枚数で第2レンズ群G2に必要な正の屈折力を確保するためには、正レンズL5は両凸レンズであることが好ましい。
第2レンズ群G2が上記3枚のレンズのみからなる場合には、両凹レンズL4は、物体側の面の曲率半径の絶対値よりも像側の面の曲率半径の絶対値の方が小さいレンズであることが好ましい。以下に、第2レンズ群G2の各レンズの作用の説明を交えながらこの点について説明する。第2レンズ群G2の最も物体側の両凸レンズL3は、負の第1レンズ群G1からの発散光の発散力をほぼ吸収するように作用し、後続の両凹レンズL4と正レンズL5は両凸レンズL3からの射出光を像面Simへ導いて結像させるように作用する。
このため、正レンズL5も強い正の屈折力が必要となる。正レンズL5は、像面Simに最も近いため、軸外の諸収差である倍率色収差、像面湾曲、コマ収差に関して、両凸レンズL3よりも影響が強い。正レンズL5のこのような強い正の屈折力に起因する影響を補正するため、正レンズL5に対向する両凹レンズL4の像側の面は、強い発散作用を持つ必要がある。
一方、両凸レンズL3の正の屈折力は第1レンズ群G1の負の屈折力により緩和され、球面収差等が小さく抑えられるため、両凸レンズL3に対向する両凹レンズL4の物体側の面については、強い発散作用を持たせて両凸レンズL3の強い正の屈折力に起因する影響を補正する必要はない。したがって、両凹レンズL4は、物体側の面よりも像側の面の方がより強い屈折力をもつことになる。
本変倍光学系は、図2に示す例のように、全てのレンズが接合されていない単レンズであることが好ましい。接合レンズを用いず単レンズ構成とすることで、設計自由度が向上し、少ないレンズ枚数でも高諸元を満たしながら高い光学性能のレンズ系を実現することが可能となるとともに、製作コストを安価に抑えることができる。
さらに低コスト化を図るためには、第1レンズ群G1の両凹レンズL1および正レンズL2がともに合成樹脂材料からなることが好ましい。合成樹脂レンズの製造コストは数量が多ければガラス球面レンズの1/3程度で済むため、合成樹脂レンズを使用すれば大幅なコストダウンが可能である。特に、全系で1、2番目に外径が大きな第1レンズ群G1の負、正の2枚のレンズを合成樹脂製にすることで、コスト低減の効果は非常に大きなものとなる。外径の大きなレンズを合成樹脂製にすることで、レンズの駆動系にかかる負担を低減でき、駆動系を含めた装置全体の軽量化を図ることができる。
さらに、第2レンズ群G2の両凸レンズL3および両凹レンズL4をともに合成樹脂材料で構成することが好ましい。第1レンズ群G1だけでなく、第2レンズ群G2にも合成樹脂レンズを用いることで、レンズ系をより安価に製造することができる。特に、第2レンズ群G2を上記の3枚構成とし、両凸レンズL3および両凹レンズL4をともに合成樹脂レンズとした場合には、非常に安価な構成となる。
なお、合成樹脂はガラスに比べて硬度が劣るため傷がつきやすく、レンズ系の最も物体側に合成樹脂レンズを配置する場合はこの点が懸念材料となる。しかし、変倍光学系を搭載する撮像装置がレンズ系の物体側に保護部材を備える監視カメラのような装置であれば、問題になることはない。また、合成樹脂の特性として、温度に対する形状変化や屈折率変化がガラスに比べて大きい点があり、これによる像位置の変化が懸念される。しかし、上記のように、負レンズ、正レンズといった異符号の屈折力を持つ相隣るレンズ同士を合成樹脂レンズにすることで、温度変化による影響を相殺させ、全系でみたときの影響を最小限にすることができる。
デジタルカメラやムービーカメラのような撮像装置では、オートフォーカス機能が内蔵されているため、像位置のズレは自動的に補正できるが、CCTV用変倍光学系が搭載される撮像装置はオートフォーカス機能を有しないものもあるため、そのような撮像装置にも対応可能なように、レンズ系のみである程度補償する必要がある。このような観点からも、上記のように相隣る正、負両方のレンズを合成樹脂レンズにすることは有効である。
そして、第2レンズ群G2が上記3枚構成で、両凸レンズL3および両凹レンズL4が合成樹脂レンズである場合は、正レンズL5はガラス材料からなることが好ましい。正レンズL5を合成樹脂材料で構成することは可能であるが、この場合、正レンズL5を合成樹脂製とすると、正負レンズの対を成さない合成樹脂レンズが存在することになり、温度変化による影響が相殺されずに残ってしまうため、好ましくない。
なお、光学材料として使用可能な合成樹脂材料の種類は少ないので、結像性能を高く維持しながら変倍光学系の仕様を満たすためには各レンズの屈折力の配分を規定する必要がある。そのため、第1レンズ群G1の両凹レンズL1と正レンズL2を合成樹脂製とする場合は、両凹レンズL1の焦点距離をf1とし、中心厚をd1としたとき、下記条件式(2)を満たすことが好ましい。
2.5<|f1|/d1<5.5 … (2)
条件式(2)は、両凹レンズL1の焦点距離と中心厚との関係を規定し、合成樹脂レンズの成形適正化を計るために重要である。両凹レンズL1は、特に負の屈折力が強く、両凹形状のため、レンズの中心と周縁部との肉厚比が大きくて成形が難しいとされる。
条件式(2)の下限を下回ると、両凹レンズL1の負の屈折力が強くなるか、または両凹レンズL1の中心厚が大きくなるかで体積が増すため、成形時間が長くなったり、成形歪が大きくなったりし、いずれも成形性が悪化し、製造コストが高くなる。
条件式(2)の上限を上回って、両凹レンズL1の中心厚が小さくなりすぎた場合は、周縁部との肉厚比が大きくなり、面形状の転写性が悪くなり高い面精度が望めないため高性能の光学系を実現できなくなるとともに、成形条件も悪くなり、製造コストが高くなる。条件式(2)の上限を上回って、両凹レンズL1の負の屈折力が弱くなる場合は、条件式(1)の下限を下回った場合と同様に、光軸方向の全長が長くなるとともに、レンズの径方向も大型化してしまい、高コストになってしまう。
従って、両凹レンズL1の焦点距離と中心厚の比が条件式(2)の範囲以内であることが望ましい。両凹レンズL1および正レンズL2をともに合成樹脂材料で構成し、条件式(2)を満たすことで、全系にわたって結像性能を良好に維持しながら低コスト化を図ることができる。
条件式(2)を満たすことにより得られる効果をさらに高めるためには、下記条件式(2−1)を満たすことがより好ましい。
2.6<|f1|/d1<5.4 … (2−1)
第1レンズ群G1の両凹レンズL1は少なくとも1面の非球面を有することが好ましい。開口絞りStから遠く離れて軸上光線と軸外光線が比較的分離されている両凹レンズL1に非球面を施すことで良好な収差補正が可能となる。両凹レンズL1を合成樹脂材料で作製し、非球面レンズとした場合には、ガラス製の非球面レンズを作製する場合と比較して、大幅にコストを削減することができる。
また、第2レンズ群G2の両凸レンズL3も少なくとも1面の非球面を有することが好ましい。負の第1レンズ群G1からの発散光が入射する第2レンズ群G2の最も物体側のレンズに非球面を施すことで良好な収差補正が可能となる。
さらに、本変倍光学系においては、第2レンズ群G2の最も物体側の両凸レンズL3の焦点距離をf3としたとき、下記条件式(3)を満たすことが好ましい。
2.2<f3/fw<3.5 … (3)
条件式(3)は、第2レンズ群G2の両凸レンズL3の正の屈折力に関するものである。条件式(3)の下限を下回ると、両凸レンズL3の正の屈折力が強くなりすぎて、両凸レンズL3より像側の後続のレンズの形状を最適化したり、両凸レンズL3に非球面を施したりしても、全変倍域で球面収差を小さく維持することが困難である。また、固定の開口絞りStに対して両凸レンズL3は、広角側への変倍時は遠ざかり、望遠側への変倍時は逆に近づくので、軸外の非点収差に対する影響度が異なるため、条件式(3)の下限を下回ると、全変倍域で像面特性を良好に維持するようバランスをとることが困難になる。
条件式(3)の上限を上回ると、両凸レンズL3の正の屈折力が弱くなりすぎて、強い負の屈折力を有する第1レンズ群G1から射出された光束を収束させて像面Simで結像するように導くことが困難になるため、全系のバックフォーカスが増大してコンパクト性を損ねるほか、両凸レンズL3より像側の例えば正レンズL5の屈折力を強くすることが必要となり、像面特性を全系にわたって良好に維持することが困難になる。
条件式(3)を満たすことにより得られる効果をさらに高めるためには、下記条件式(3−1)を満たすことがより好ましい。
2.4<f3/fw<3.4 … (3−1)
また、本変倍光学系においては、第2レンズ群G2の両凹レンズL4の焦点距離をf4としたとき、下記条件式(4)を満たすことが好ましい。
−3.0<f4/fw<−2.0 … (4)
条件式(4)は、第2レンズ群G2の唯一の負レンズである両凹レンズL4の屈折力に関する条件式である。条件式(4)の下限を下回っても、または上限を上回っても、両凸レンズL3との屈折力の配分のバランスが崩れてしまい、球面収差、色収差等の諸収差を良好に維持できなくなる。
条件式(4)を満たすことにより得られる効果をさらに高めるためには、下記条件式(4−1)を満たすことがより好ましい。
−2.4<f4/fw<−2.2 … (4−1)
また、本変倍光学系においては、第2レンズ群G2の最も像側の正レンズL5の焦点距離をf5としたとき、下記条件式(5)を満たすことが好ましい。
2.2<f5/fw<3.5 … (5)
条件式(5)は、第2レンズ群G2の正レンズL5の屈折力に関する式である。条件式(5)の下限を下回っても、または上限を上回っても、倍率色収差、非点収差等の軸外収差と球面収差とのバランスが崩れ、画面全域での結像性能を良好に維持できなくなる。
条件式(5)を満たすことにより得られる効果をさらに高めるためには、下記条件式(5−1)を満たすことがより好ましい。
2.4<f5/fw<3.4 … (5−1)
また、本変倍光学系においては、広角端における第1レンズ群G1の両凹レンズL1の物体側の面から像面までの光軸上の距離をLwとし、望遠端における第1レンズ群G1の両凹レンズL1の物体側の面から像面までの光軸上の距離をLtとしたとき、下記条件式(6)を満たすことが好ましい。なお、LwとLtの算出においては、レンズ系のバックフォーカス分は空気換算した値を用いるものとする。例えば、図2のように光学部材PPが挿入されている場合は、光学部材PPの厚み分は空気換算した値を用いるものとする。
1.3<Lw/Lt<1.8 … (6)
条件式(6)は、広角端と望遠端での両凹レンズL1の物体側の面の中心から像面Simまでのレンズ系全長に関する式である。条件式(6)の下限を下回れば、レンズ系全体をコンパクトに纏められるが、第1レンズ群G1、第2レンズ群G2群の負、正の屈折力が強くなりすぎて、結像性能を良好に維持できない。条件式(6)の上限を上回れば、各群の屈折力が弱まり結像性能には有利であるが、レンズ系が大型化し、コンパクト性に欠ける。また、合成樹脂レンズの大径化をまねき製造適性が悪くなり、高コストになってしまう。
本変倍光学系が厳しい環境において使用される場合には、保護用の多層膜コートが施されることが好ましい。さらに、保護用コート以外にも、使用時のゴースト光低減等のための反射防止コートを施すようにしてもよい。
図2に示す例では、レンズ系と像面との間に光学部材PPを配置した例を示したが、ローパスフィルタや特定の波長域をカットするような各種フィルタ等を配置する代わりに、各レンズの間にこれらの各種フィルタを配置してもよく、あるいは、いずれかのレンズのレンズ面に、各種フィルタと同様の作用を有するコートを施してもよい。
上述した本実施形態の変倍光学系によれば、広角乃至超広角であり、F値が1.4〜1.7程度、変倍比が2.6〜3.3倍程度の使い勝手の良い仕様を満たすことができ、高い結像性能を確保しつつ、低コスト化が図られた、CCTV用光学系として好適な光学系を実現することができる。
次に、本発明の変倍光学系の数値実施例について説明する。なお、実施例1〜6のうち、実施例2、4〜6は本発明の実施例であるが、実施例1、3は本発明に含まれない参考例である。実施例1の変倍光学系のレンズ断面図は図1に示したものである。実施例2〜6の変倍光学系のレンズ断面図をそれぞれ図2〜図6に示す。図2〜図6のレンズ断面図の図示方法は前述した実施例1のレンズ断面図のものと同様であり、左側が物体側、右側が像側であり、各図の(A)、(B)、(C)がそれぞれ、広角端、中間焦点距離状態、望遠端でのレンズ配置に対応するものである。また、図2〜図6においても、光学部材PPも合わせて示しており、図示されている開口絞りStは必ずしも大きさや形状を表すものではなく、光軸Z上の位置を示すものである。
実施例1の変倍光学系の基本レンズデータを表1に、変倍に関するデータを表2に、非球面データを表3に示す。同様に、実施例2〜6の変倍光学系の基本レンズデータ、変倍に関するデータ、非球面データをそれぞれ表4〜表18に示す。以下では、表中の記号の意味について、実施例1のものを例にとり説明するが、実施例2〜6のものについても基本的に同様である。
表1の基本レンズデータにおいて、Siの欄には最も物体側の構成要素の面を1番目として像側に向かうに従い順次増加するi番目(i=1、2、3、…)の面番号を示し、Riの欄にはi番目の面の曲率半径を示し、Diの欄にはi番目の面とi+1番目の面との光軸Z上の面間隔を示している。また、Ndjの欄には最も物体側の光学要素を1番目として像側に向かうに従い順次増加するj番目(j=1、2、3、…)の光学要素のd線(波長587.6nm)に対する屈折率を示し、νdjの欄にはj番目の光学要素のd線に対するアッベ数を示している。なお、曲率半径の符号は、物体側に凸の場合を正、像側に凸の場合を負としている。基本レンズデータには、開口絞りSt、光学部材PPも含めて示している。開口絞りStに相当する面の面番号の欄には面番号とともにそれぞれ(開口絞り)という語句を記載している。また、面間隔の最下欄(D13に相当)の数値は光学部材PPの像側の面(S13)から像面Simまでの距離である。
表1の基本レンズデータにおいて、変倍時に間隔が変化する面間隔の欄にはそれぞれD4(可変)、D5(可変)、D11(可変)と記載している。D4は第1レンズ群G1と開口絞りStとの間隔であり、D5は開口絞りStと第2レンズ群G2との間隔であり、D11は第2レンズ群G2と光学部材PPとの間隔である。
表2の変倍に関するデータに、広角端、中間焦点距離状態、望遠端それぞれにおける、D4、D5、D11、焦点距離、F値、全画角の値を示す。表2のW、M、Tはそれぞれ広角端、中間焦点距離状態、望遠端を意味する。基本レンズデータおよび変倍に関するデータにおいて、角度の単位としては度を用い、長さの単位としてはmmを用いているが、光学系は比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、他の適当な単位を用いることもできる。
表1の基本レンズデータでは、非球面は面番号に*印を付しており、非球面の曲率半径として近軸の曲率半径の数値を示している。表3の非球面データは、これら非球面に関する非球面係数を示すものである。表3の非球面データの数値の「E−n」(n:整数)は「×10−n」を意味し、「E+n」は「×10n」を意味する。非球面係数は、以下の式(A)で表される非球面式における各係数κ、Am(m=4、6、8、10)の値である。ただし、式(A)におけるΣはm(m=4、6、8、10)の項に関する和を意味する。
Zd=C・h2/{1+(1−κ・C2・h2)1/2}+ΣAm・hm … (A)
ただし、
Zd:非球面深さ(高さhの非球面上の点から、非球面頂点が接する光軸に垂直な平面に下ろした垂線の長さ)
h:高さ(光軸からのレンズ面までの距離)
C:近軸曲率
κ、Am:非球面係数(m=4、6、8、10)
実施例1の変倍光学系は、両凹レンズL1、正レンズL2、両凸レンズL3、両凹レンズL4が合成樹脂材料からなり、正レンズL5がガラス材料からなる。実施例1の変倍光学系は、両凹レンズL1の両面、正レンズL2の両面、両凸レンズL3の両面が非球面である。実施例1の変倍光学系の変倍比は2.60であり、広角端における全画角は124度、F値は1.44である。
実施例2の変倍光学系は、両凹レンズL1、正レンズL2、両凸レンズL3、両凹レンズL4が合成樹脂材料からなり、正レンズL5がガラス材料からなる。実施例2の変倍光学系は、両凹レンズL1の両面、正レンズL2の物体側の面、両凸レンズL3の両面が非球面である。実施例2の変倍光学系の変倍比は3.30であり、広角端における全画角は99.0度、F値は1.47である。
実施例3の変倍光学系は、両凹レンズL1、正レンズL2、両凸レンズL3、両凹レンズL4が合成樹脂材料からなり、正レンズL5がガラス材料からなる。実施例3の変倍光学系は、両凹レンズL1の両面、正レンズL2の両面、両凸レンズL3の両面が非球面である。実施例3の変倍光学系の変倍比は3.30であり、広角端における全画角は72.1度、F値は1.75である。
実施例4の変倍光学系は、両凹レンズL1、正レンズL2、両凸レンズL3、両凹レンズL4が合成樹脂材料からなり、正レンズL5がガラス材料からなる。実施例4の変倍光学系では、両凹レンズL1の両面、両凸レンズL3の両面が非球面である。実施例1の変倍光学系の変倍比は3.30であり、広角端における全画角は63.2度、F値は1.53である。
実施例5の変倍光学系は、両凹レンズL1、正レンズL2、両凸レンズL3、両凹レンズL4が合成樹脂材料からなり、正レンズL5がガラス材料からなる。実施例5の変倍光学系では、両凹レンズL1の両面、両凸レンズL3の両面が非球面である。実施例5の変倍光学系の変倍比は3.30であり、広角端における全画角は71.6度、F値は1.66である。
実施例6の変倍光学系は、両凹レンズL1、正レンズL2、両凸レンズL3、両凹レンズL4が合成樹脂材料からなり、正レンズL5がガラス材料からなる。実施例6の変倍光学系では、両凹レンズL1の両面、正レンズL2の両面、両凸レンズL3の両面が非球面である。実施例6の変倍光学系の変倍比は3.30であり、広角端における全画角は90.9度、F値は1.39である。
実施例1〜6の変倍光学系の条件式(1)〜(6)に対応する値を表19に示す。なお、全実施例ともd線を基準波長としており、上記の変倍におけるデータの表および下記の表19に示す値はこの基準波長におけるものである。
実施例1の変倍光学系の収差図を図7に示す。図7の左端に記載されているW、M、Tはそれぞれ広角端、中間焦点距離状態、望遠端を意味する。広角端における球面収差、像面湾曲、歪曲収差(ディストーション)をそれぞれ図7(A)、図7(B)、図7(C)に示し、中間焦点距離状態における球面収差、像面湾曲、歪曲収差(ディストーション)をそれぞれ図7(D)、図7(E)、図7(F)に示し、望遠端における球面収差、像面湾曲、歪曲収差(ディストーション)をそれぞれ図7(G)、図7(H)、図7(I)に示す。
球面収差図ではd線に関する収差を実線で、g線(波長435.8nm)に関する収差を短い破線で、C線(波長656.3nm)に関する収差を長い破線で示している。像面湾曲の収差図では、d線、g線、C線に関する収差を示し、サジタル方向については実線で、タンジェンシャル方向については点線で示している。歪曲収差図はd線に関するものである。球面収差図の縦軸に付した数値はF値であり、像面湾曲と歪曲収差の縦軸に付した数値は像高(単位はmm)である。
像高0は光軸上であるから、像高0におけるサジタル方向とタンジェンシャル方向の像面湾曲の値は一致する。また全実施例において、像面湾曲の収差図の像高0における収差曲線の波長ごとの配列順は、球面収差図の縦軸の最も下の位置における収差曲線の波長ごとの配列順と同じである。例えば、実施例1の球面収差図の縦軸の最も下の位置においては、左から順に、d線、C線、g線の収差曲線が並んでおり、像面湾曲の収差図の像高0の位置においては、同様に左から順に、d線のサジタル方向とタンジェンシャル方向、C線のサジタル方向とタンジェンシャル方向、g線のサジタル方向とタンジェンシャル方向の収差曲線が並んでいる。
なお、歪曲収差図はTVディストーションで記載してある。光軸に垂直な平面物体の光学系によって結ばれる光軸に垂直な物体像のゆがみの程度を歪曲収差として表すが、写真レンズ等は一般的な、理想像高と実像高との差を理想像高で割った数値を百分率で表したものであるのに対して、TVレンズの分野ではこれとは異なった定義式を用い、これをTVディストーションとして区別している。この定義によれば、TV画面における長辺の曲がり量を対象として歪曲量として扱う。
具体的には、TVディストーションDTVは、長辺の曲がりの深さΔhを垂直画面長2hで割って百分率で表したもので、下記式の通り表される。
DTV=Δh/2h×100
歪曲収差図は、光軸からの実像高Yを光軸中心からの画面4対角方向の4点とし、これらの4点で結ばれた平面像の物体側での矩形平面物体を想定し、この像の長辺の中央部での実像高がhであり、対角上の点の光軸までの垂直高さからの差がΔhである。従って、画面の縦横比で異なる数値になるが、図7(C)に示す歪曲収差図では、TV画面で一般的な3:4の比率で算出したものとなっている。
同様に、実施例2の変倍光学系の広角端、中間焦点距離状態、望遠端における各収差図を図8(A)〜図8(I)に示し、実施例3の変倍光学系の広角端、中間焦点距離状態、望遠端における各収差図を図9(A)〜図9(I)に示し、実施例4の変倍光学系の広角端、中間焦点距離状態、望遠端における各収差図を図10(A)〜図10(I)に示し、実施例5の変倍光学系の広角端、中間焦点距離状態、望遠端における各収差図を図11(A)〜図11(I)に示し、実施例6の変倍光学系の広角端、中間焦点距離状態、望遠端における各収差図を図12(A)〜図12(I)に示す。
以上のデータから、実施例1〜6の変倍光学系は全て、条件式(1)〜(6)を満たし、小さなF値と広い画角を実現し、各収差が良好に補正されて高い光学性能を有することがわかる。また、実施例1〜6の変倍光学系は全て、5枚のレンズからなるコンパクトな構成で、そのうち最も像側のレンズを除く4枚のレンズが合成樹脂製であるため、安価に作製可能である。
図13に、本発明の実施形態の撮像装置の一例として、本発明の実施形態の変倍光学系を用いた撮像装置の概略構成図を示す。撮像装置としては、例えば、CCDやCMOS等の固体撮像素子を記録媒体とする監視カメラ、ビデオカメラ、電子スチルカメラ等を挙げることができる。
図13に示す撮像装置10は、変倍光学系1と、変倍光学系1の像側に配置されたフィルタ2と、変倍光学系によって結像される被写体の像を撮像する撮像素子3と、撮像素子3からの出力信号を演算処理する信号処理部4を備える。変倍光学系1は、負の第1レンズ群G1と、開口絞りStと、正の第2レンズ群G2を有するものであり、図13では各レンズ群を概略的に示している。撮像素子3は、変倍光学系1により形成される光学像を電気信号に変換するものであり、その撮像面は変倍光学系の像面に一致するように配置される。撮像素子3としては例えばCCDやCMOS等を用いることができる。
また、撮像装置10は、変倍光学系1の変倍を行うためのズーム制御部5と、変倍光学系1のフォーカスを調整するためのフォーカス制御部6と、開口絞りStの絞り径を変更するための絞り制御部7を備える。なお、図13では、第1レンズ群G1を移動させることによりフォーカス調整する場合の構成を示しているが、フォーカス調整方法は必ずしもこの例に限定されない。
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各レンズ成分の曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数、非球面係数等の値は、上記各数値実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得るものである。