本発明を、印刷装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」と略す場合もある)において具体化した実施形態について、以下図を用いて説明する。図1に示すように、プリンター11は、図示しないホストコンピューターなどから送信される印刷データを受信して、受信した印刷データに基づき画像等の印刷を行う装置である。
プリンター11は、本実施形態ではシリアルプリンターであり、図示するように略矩形箱状をなすフレーム12を備えている。フレーム12内の下部には、その長手方向である主走査方向Xに沿ってプラテン13が延設されている。プラテン13上には、フレーム12の背面下部に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づき、図示しない紙送り機構により媒体としての用紙Pが後方側から前方側に向かう副走査方向Yへ給送されるようになっている。
フレーム12内におけるプラテン13の上方には、該プラテン13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、該ガイド軸15の軸線方向に沿って往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。すなわち、キャリッジ16の支持孔16aにガイド軸15が挿通されることにより、キャリッジ16がガイド軸15によって主走査方向Xに往復移動可能に支持されている。
フレーム12の後壁内面におけるガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されており、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとの間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛装されている。従って、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介して主走査方向Xに移動可能になっている。
キャリッジ16の下面には、液体としてのインクを噴射する複数のノズル31,32(図2参照)が形成された印刷ヘッド19が設けられている。そして、キャリッジ16上には印刷ヘッド19に対して複数色(本実施形態では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色)のインク(液体)をそれぞれ供給するためのインクカートリッジ20K,20C,20M,20Yが着脱可能に装着されている。そして、キャリッジ16への装着に際して、各インクカートリッジ20K,20C,20M,20Yは、キャリッジ16に形成されたそれぞれのカートリッジホルダー(不図示)に挿入されることによって、それぞれ定められた位置に装着されるようになっている。
各インクカートリッジ20K,20C,20M,20Yには、図示しない記憶素子KSがそれぞれ備えられている。記憶素子KSには、各インクカートリッジ20K,20C,20M,20Yのそれぞれに固有の個体情報(例えば個体番号やインクの種類など)が記憶されている。なお、以降の説明において、インクカートリッジ20K,20C,20M,20Yを区別しない場合は、単にインクカートリッジと呼ぶ。
印刷ヘッド19の用紙Pと対向する面(図面下側)には、図2に示すように複数のノズル31,32が、副走査方向Yに沿って延びるノズル列を形成するようにして並ぶとともに、各ノズル列が主走査方向Xに並設されるように設けられている。各ノズル列は、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各インクを噴射するためのものである。そして、各インクカートリッジ20K,20C,20M,20Yから印刷ヘッド19内へ供給されたインクは、印刷ヘッド19内においてノズル31,32毎に1つずつ設けられた加圧部19a(図2参照)により加圧され、それぞれ対応するインク色のノズル列のノズル31,32からそれぞれ噴射されるようになっている。なお、加圧部19aは、例えば圧電駆動素子又は静電駆動素子、あるいは発熱素子を有して構成されている。
また、図1に示すように、プリンター11には、キャリッジ16の位置を検出するためのリニアエンコーダー(不図示)を構成するスケール板24がガイド軸15に沿って延びるように架設されている。キャリッジ16はリニアエンコーダーの出力パルスを用いてその速度制御及び位置制御は行われる。そして、キャリッジ16を主走査方向Xに往復動させながら、第1のノズルとしてのノズル31からブラックインクを、また第2のノズルとしてのノズル32の各々からシアン、マゼンタ、イエローの各インクを、それぞれ用紙Pに向けて噴射する印字動作が行われる。
一方、用紙Pについては、紙送りモーター14の駆動回転に伴って回転する図示しないローラーよって副走査方向Yに所定の搬送量で搬送される紙送り動作が行われる。そして、この紙送り動作と、上述した印字動作とを略交互に繰り返すことで、用紙Pに印刷データに基づいた文字や画像等の印刷が施されるようになっている。
また、フレーム12内のプラテン13の配置領域にほぼ対応する印刷領域に対し主走査方向Xに外側へ外れた一端部(図1では右端部)に位置する非印刷領域が、クリーニング領域MAになっている。このクリーニング領域MAには、印刷ヘッド19に設けられたノズル31,32の目詰まり等を予防したり解消したりして噴射機能を維持するためのクリーニング処理を行うクリーニング手段としてのクリーニング装置25が設けられている。
クリーニング装置25は、図1及び図2に示すように、印刷ヘッド19に設けられたノズル31,32内のインクの増粘や乾燥を抑制する蓋体として機能する有底略四角環状のキャップ26と、キャップ26を昇降させる昇降機構27とを備えている。キャップ26は、ホーム位置(ホームポジション)に位置するキャリッジ16の直下に位置している。なお、ホーム位置とは、キャリッジ16が印刷を行わない際に位置する待機位置のことである。
キャップ26は、複数(本実施形態では2つ)の空間に区画されている。各空間のうち、第1の空間33aは、ブラックインクを噴射するノズル31によって形成されるノズル列に対応した位置に形成されている。一方、第2の空間33bは、ブラックインク以外の他のインク、即ちカラーインクを噴射するノズル32によって形成される各ノズル列に対応した位置に形成されている。
キャップ26は、昇降機構27の駆動により、印刷ヘッド19に設けられた全てのノズル31,32を包囲するように該印刷ヘッド19に当接するキャッピング位置と、印刷ヘッド19から離間する退避位置との間を昇降駆動される。昇降機構27は、例えば、キャリッジ16がホーム位置へ移動する過程で係合し押し込む力でキャップ26を上昇させ、キャリッジ16がホーム位置から離れるとキャップ26が下降するようになっている。
また、クリーニング装置25は、キャッピング位置に位置するキャップ26と該キャップ26に当接する印刷ヘッド19によって形成されるキャップ26内の閉鎖空間、即ち第1の空間33a及び第2の空間33bを減圧するためのダクト34及びポンプ35を備えている。このポンプ35の駆動源は、紙送り機構の駆動源でもある紙送りモーター14である。
さらに、クリーニング装置25は、クリーニング処理の対象とするノズル列を選択する切替バルブ28、及び印刷ヘッド19から排出されたインクが収容される廃インクタンク29などが備えられている。切替バルブ28は、図示しない駆動装置によって図2における左右方向に移動可能になっている。すなわち、切替バルブ28の図2における左右方向の移動によって、クリーニング装置25内に形成されたダクト34の分岐ダクトであるダクト34aかダクト34bかのいずれか一方が、キャップ26側と連通するように切り替えられる。この結果、キャップ26内の第1の空間33aが負圧になることによってダクト34aを介してブラックインクが吸引される。また、キャップ26内の第2の空間33bが負圧になることによってダクト34bを介してシアン、マゼンタ、イエローのカラーインクが吸引される。そして吸引された各インクはダクト34を介して廃インクタンク29に排出されるようになっている。
次に、このように構成されたプリンター11の動作を制御する電気回路を含むシステム構成についてブロック図を用いて説明する。図2は、プリンター11のシステム構成を示すブロック図である。図示するように、プリンター11は、印刷処理に関する種々の動作を制御するコントローラー70を備える。
コントローラー70は、コンピューター71(マイクロコンピューター)、モーター駆動回路72、インターフェイス(以下、「I/F」ともいう)73、ヘッド駆動回路74、バルブ制御回路75、モーター駆動回路76、インターフェイス(以下、「I/F」ともいう)77及び表示駆動回路78を備える。コンピューター71は、CPUと、ROM、RAM及び不揮発性メモリーなどのメモリーを備え、さらに必要に応じてASIC(Application Specific IC(特定用途向けIC))を備える。そして、コンピューター71は、ROM又は不揮発性メモリーに記憶されたプログラムをCPUが実行することにより、印刷設定部81、装着検知部82、情報取得部83、液量検出部84、判定部85、および主制御部86、メモリー87、イメージバッファー88として機能するようになっている。このプログラムには、後述する図3,4,5にフローチャートで示す処理ルーチンのプログラムや、印刷処理動作つまり紙送りモーター14、キャリッジモーター18及び印刷ヘッド19の加圧部19aを駆動制御する各種制御プログラムなども含まれる。各部は主として以下の処理を司る。
主制御部86は、プリンター11において後述するモード設定処理を含む印刷動作およびクリーニング動作に関する各種処理を行う。例えば、印刷動作に関しては、後述する印刷設定部81が設定した印刷状態に応じた印刷データに基づいて、主制御部86は、モーター駆動回路72を介してキャリッジモーター18を駆動させるとともに、ヘッド駆動回路74を介して加圧部19aを制御し、インクをノズル31,32から噴射させる。さらに、主制御部86は、モーター駆動回路76を介して紙送りモーター14を駆動(正転駆動)させ用紙Pを搬送させる。
また、主制御部86は、I/F77を介してプリンター11に備えられた入力手段(例えば、コンピューター用ケーブルの接続端子(例えばD−SUB端子)や入力用の操作ボタンを備えた操作パネル)91から入力データを取得し、メモリー87やイメージバッファー88に記憶する。例えば、外部のパーソナルコンピューターから入力端子に入力された印刷データを取得してイメージバッファー88に取り込む。また、使用者が操作ボタンを用いて入力したデータをメモリー87に記憶する。さらに、主制御部86は、表示駆動回路78を制御して表示手段92に情報(例えば、交換すべきインクカートリッジなど)を表示させる。
また、主制御部86は、印刷動作によって使用したインクの液量に基づいて、インクカートリッジに収容されているインクの残量を演算し、印刷終了後にインクカートリッジに備えられた記憶素子KSに、I/F73を介して記憶する。
印刷設定部81は、モード設定処理において印刷状態を設定する。すなわち、全ての種類のインクを使用して印刷する通常印刷状態か、使用するインクを、全ての種類のインクのうちの一部の種類のインクに特定した特定印刷状態かの設定を行う。この設定処理は、後述する判定部85の判定結果や、主制御部86が行ったクリーニング処理動作に応じて行われる。
装着検知部82は、キャリッジ16に各インクカートリッジ20K,20C,20M,20Yが装着されたか否かを検知する。インクカートリッジは、例えば図2において白抜き矢印で示したように、プリンター11のフレーム12に取り付けられた外装ケース12aに設けられた開口部から、キャリッジ16に形成されたカートリッジホルダーに挿入される。装着検知部82は、この挿入によって、各インクカートリッジ20K,20C,20M,20Yに備えられた記憶素子KSとコンピューター71との間でのデータ交信がI/F73を介して可能となった状態を、キャリッジ16への装着状態であると検知する。あるいは、装着検知部82は、インクカートリッジがキャリッジ16のカートリッジホルダーに挿入されたときに電気的に導通するスイッチ(例えばマイクロスイッチ)を用いて、キャリッジ16にインクカートリッジが装着されたか否かを検知するようにしてもよい。本実施形態では、装着検知部82は、少なくとも印刷設定部81によって設定された特定印刷状態において使用される一部の種類のインクを収容したインクカートリッジについて、その装着を検知する。なお、装着検知部82は、記憶素子KSとコンピューター71との間でのデータ交信ができない状態を、インクカートリッジがキャリッジ16から抜かれた状態であると検知する。
情報取得部83は、インクカートリッジが装着されたとき、インクカートリッジに備えられた記憶素子KSとコンピューター71との間でI/F73を介してデータ交信する。そして、情報取得部83は、少なくとも特定印刷状態において使用されるインクを収容した特定インクカートリッジ(特定液体収容体)について、個体情報として記憶素子KSに記憶されている個体番号(例えばシリアル番号)と収容されているインクの種類(ここでは色相)とを取得してメモリー87に記憶する。
液量検出部84は、インクカートリッジが装着された状態において、インクカートリッジに備えられた記憶素子KSとコンピューター71との間でI/F73を介してデータ交信する。そして、液量検出部84は、少なくとも特定印刷状態において使用される種類のインクを収容した特定インクカートリッジについて、キャリッジ16に装着された状態にある間、個体情報として記憶素子KSに記憶されているインクの残量を継続して取得する。さらに、液量検出部84は、取得したインクの残量が、印刷時に使用不能となる基準量以下となったときを、液量終了状態(「インクエンド」と呼ぶ)として検出して、検出結果を示す識別情報(例えばフラグ情報)をメモリー87に記憶する。
判定部85は、装着検知部82の検知結果に基づいて、インクカートリッジが装着されたか否かを判定する。そして、特定インクカートリッジが装着されたとき、情報取得部83が取得した個体番号が、前回キャリッジ16の同じカートリッジホルダーの位置に装着された特定インクカートリッジについて取得した個体番号と同一であるか否かを判定する。また、判定部85は、液量検出部84がインクエンドを検出した特定インクカートリッジについて、今回情報取得部83が取得したインクの種類が、前回キャリッジ16の同じ位置に装着された特定インクカートリッジについて取得したインクの種類と同一であるか否かを判定する。判定部85は、これらの判定結果を示す識別情報として、例えばフラグ情報(同一であれば「1」)をメモリー87の指定領域にそれぞれ記憶する。
また、判定部85は、印刷が終了したか否かの判定や、主制御部86によってクリーニング処理が行われたか否か、さらにどのインクカートリッジに対応するノズルについてクリーニング処理が行われたのかの判定も行うようになっている。さらに、判定部85は、印刷設定部81が設定した印刷状態が、通常印刷状態か特定印刷状態かの判定も行うようになっている。
本実施形態のプリンター11では、上述したように、各種のインクの残量などに基づき、印刷状態を、通常印刷状態又は特定印刷状態に設定するモード設定処理が行われる。「通常印刷状態」とは、全種類のインクを用いて印刷を行うことができる状態であって、「通常印刷モード」ともいう。もちろん、通常印刷モードの設定時に用紙Pへの印刷を行う場合であっても、必ずしも全種類のインクが使用されるとは限らない。また、「特定印刷状態」とは、一部の種類のインクのみを用いた印刷を行うことができる状態である。本実施形態では、「一部の種類のインク」がブラックインクに予め設定されており、「特定印刷状態」のことを「ブラック印刷モード」ともいう。なお、本実施形態では、このようなブラック印刷モードに対応する印刷データがイメージバッファー88に記憶され、ブラック印刷モードでは、この記憶された印刷データを用いて印刷処理が行われるようになっている。
次に、本実施形態のプリンター11において行われるモード設定処理について説明する。このモード設定処理は、予め設定された所定周期毎に主制御部86によって実行される処理である。なお、説明を判り易くするため、従来のモード設定処理について、最初に図3を用いて説明する。その後、本実施形態におけるモード設定処理の要部について図4を用いて説明する。
図3に示すように、モード設定処理が開始されると、ステップS110において、判定部85は、印刷禁止フラグがオフであるか否かを判定処理する。この印刷禁止フラグは、各種インクのうちいずれかの種類のインクがインクエンドとなった際にオンにセットされるフラグである。判定の結果、印刷禁止フラグがオフでなければ(NO)、印刷禁止状態(フラグがオン)であるのでステップS120に進み、判定部85は、液量検出部84による検出結果に基づき、全種類のインクがインクエンドではないか否かを判定処理する。この処理は、インクエンドのインクカートリッジについて、インク残量を有したインクカートリッジ(例えば、新しいインクカートリッジ)に交換がなされたかを判定する処理になる。
そして、ステップS120での判定の結果、全種類のインクのうち少なくとも一種類のインクがインクエンドであれば(NO)、主制御部86は、印刷禁止状態のままモード設定処理を終了させる。一方、全種類のインクがインクエンドでなければ(YES)、主制御部86は、全ての種類のインクが使用可能であることから印刷禁止フラグをオフにセットし(ステップS125)、モード設定処理を終了する。
一方、ステップS110での判定の結果、印刷禁止フラグがオフであれば(YES)、ステップS130に進み、判定部85は、ブラック印刷モードが設定されているか否かを判定処理する。ステップS130での判定の結果、ブラック印刷モードが設定されていれば(YES)、判定部85は、その処理を後述するステップS170に移行させる。一方、判定の結果、ブラック印刷モードが設定されていなければ(NO)、判定部85は、その処理を次のステップS140に移行させる。
ステップS140において、印刷設定部81は、印刷状態を通常印刷モードに設定処理する。ここでは、印刷禁止フラグがオフの状態つまりインク残量を有した状態で各インクカートリッジ20K,20C,20M,20Yが装着されているので、全てのインクカートリッジに収容されているインクを用いた通常印刷状態である「通常印刷モード」に設定される。
次に、ステップS150にて、判定部85は、シアン、マゼンタ、イエローのいずれかのインクがインクエンドか否かを判定処理する。ここでは、判定部85は、インクカートリッジ20C,20M,20Yのそれぞれに収容されているインク残量のうちいずれかが、インクエンドになったか否かを、メモリー87に記憶されたフラグ情報によって判定する。
判定の結果、シアン、マゼンタ、イエローのいずれのインクもインクエンドでなければ(NO)、主制御部86は、モード設定処理を終了させる。一方、判定の結果、シアン、マゼンタ、イエローのインクのうち少なくとも一種類のインクがインクエンドであれば(YES)、ステップS160に進み、印刷設定部81は、印刷状態をブラック印刷モードに設定処理する。ここでは、インクカートリッジ20C,20M,20Yに収容されているカラーインクのうちいずれかのインクがインクエンドとなったときは、通常印刷モードによるカラー画像印刷ができないことになる。そこで、前述したように印刷内容だけでもわかるようにするため、印刷状態は、インクカートリッジ20Kに収容されているブラックインクのみを用いた特定印刷状態、すなわちブラック印刷モードに設定される。
次に、ステップS170にて、判定部85は、いずれかのカートリッジホルダーにインクカートリッジが装着されたか否かを判定処理する。判定の結果、いずれのインクカートリッジも装着されなければ(NO)、すなわちインクカートリッジの脱着が行われていないことになるので印刷を継続することができる。従って、主制御部86は、モード設定処理を終了させる。一方、判定の結果、いずれかのインクカートリッジが装着された場合は(YES)、主制御部86は、その処理を次のステップS180に移行させる。
ステップS180において、印刷設定部81は、印刷状態を、ブラック印刷モードから通常印刷モードに変更する。すなわち、ブラック印刷モードの設定が解除される。次のステップS190において、主制御部86は、印刷禁止フラグをオンにセットし、モード設定処理を終了させる。
従って、従来例では、ブラックインクを用いたブラック印刷モードにおいて、例えばブラックのインクを収容したインクカートリッジ20Kを間違って脱着してしまった場合においても、ブラック印刷モードが解除されてしまうことになっている。この結果、プリンター11の使用者が、ブラックインクを用いたブラック印刷モードの継続を意図する場合、ブラック印刷モードが解除されてしまうことは、使用者にとって不利益になる。そこで、本実施形態では、ブラック印刷モードに設定されたステップS160以降のモード設定処理を、図4に示した処理に変更した。以下、本実施形態の処理を、図を参照して説明する。
本実施形態では、図示するように、ステップS160に続くステップS165にて、ブラックインクの残液量を取得処理する。液量検出部84は、前述するように、インクカートリッジ20Kの記憶素子KSに記憶されたインクの液量を取得し、取得したインクの液量すなわちインクの残量が、印刷時に使用できなくなる基準量以下となったことを示すフラグ情報をメモリー87に記憶処理する。ここでの処理は、後述するステップS172の判定処理において必要となる処理である。
続くステップS170では、判定部85は、いずれかのカートリッジホルダーにインクカートリッジが装着されたか否かを判定処理する。判定の結果、いずれのインクカートリッジも装着されていなければ(NO)、すなわちインクカートリッジの脱着が行われていないことになるので、印刷を継続することができることからブラック印刷モードの設定を維持してモード設定処理を終了する。
一方、判定の結果、いずれかのカートリッジホルダーにインクカートリッジが装着された場合は、従来とは異なる処理を行う。すなわち、装着されたインクカートリッジがカラーインクを収容したインクカートリッジ20C,20M,20Yのいずれかであった場合は(YES1)、ステップS180の処理へ移行する。この場合は、使用者が、インクエンドになったカラーインクが収容されたインクカートリッジを交換して、カラー画像の印刷を行うことを意図していることになる。従って、ステップS180にて、印刷設定部81は通常印刷モードの設定処理を行うことによってブラック印刷モードの設定を解除する。そして、次のステップS190にて、主制御部86は、印刷禁止フラグをオンにセットして印刷禁止状態とし、モード設定処理を終了させる。
一方、装着されたインクカートリッジが、ブラックインクが収容されたインクカートリッジ20Kであった場合(YES2)、使用者は、ブラック印刷モードによる印刷の継続を意図していることになる。そこで、本実施形態では、次に説明するブラック印刷モードの維持条件に基づく判定処理となるステップS171、ステップS172、ステップS173によって、維持条件が成立した場合はブラック印刷モードが維持されるようにする。
まず、装着されたインクカートリッジが、ブラックインクが収容されたインクカートリッジ20Kであった場合(S170:YES2)、続くステップS171にて、判定部85は、同一のインクカートリッジか否かを判定処理する。ここでは、メモリー87に記憶されたフラグ情報によって判定する。そして、判定の結果、同一である場合は(YES)、使用者がブラック印刷モードの継続を意図していると推定されることから、ブラック印刷モードの設定を維持してモード設定処理を終了する。言い換えれば、この処理は1つのブラック印刷モードの維持条件が成立したことを意味する。
一方、判定の結果、同一でない場合は(NO)、ステップS172に進んで、インクエンドだったか否かを判定処理する。ここでは、今回装着されたインクカートリッジのカートリッジホルダーに、前回挿入されて装着されていたインクカートリッジについて、判定部85がインクエンドだったか否かをメモリー87に記憶されたフラグ情報を用いて判定する。
判定の結果、インクエンドでなかった場合は(NO)、ステップS180の処理へ移行する。この場合は、使用者が、インクが途中でなくならないようにインクカートリッジを交換して、高品位なカラー画像の印刷を行うことを意図していると推定される。従って、ステップS180にて、印刷設定部81は通常印刷モードの設定処理を行うことによってブラック印刷モードの設定を解除したのち、主制御部86は、前述したステップS190の処理を行ってモード設定処理を終了する。
一方、判定の結果、インクエンドだった場合は(YES)、ステップS173に進む。この場合は、ブラックインクが使い切られた状態であることから、使用者がブラック印刷モードの継続を意図していると推定される。従って、ステップS173に進み、判定部85は、装着されたインクカートリッジが同色か否かを判定処理する。
判定の結果、同色であった場合は(YES)、ブラック印刷モードの設定を維持してモード設定処理を終了する。この場合は、ブラックインクが収容された新たなインクカートリッジ20Kが、キャリッジ16のカートリッジホルダーに正しく装着されたことになるので、ブラック印刷モードによる印刷を継続することができる。従って、ブラック印刷モードによる印刷を維持する。言い換えれば、この処理は1つのブラック印刷モードの維持条件が成立したことを意味する。
一方、判定の結果、同色でない場合は(NO)、間違ったインクカートリッジが装着されたことになる。このような場合、本実施形態では、ステップS180に移行して通常印刷モードが設定されるようにしている。なお、プリンター11では、通常1つの種類(ここでは色)のインクが収容されたインクカートリッジは、他の異なる種類のインクが収容されたカートリッジホルダーに挿入できないように構成されているので、実際にはこのような処理は殆ど生じないことになる。
本実施形態のプリンター11では、上述するようにモード設定処理が行われることによって、ブラック印刷モードの維持条件が成立した場合、ブラック印刷モードの設定が解除されないようになっている。
ところで、前述したように、インクカートリッジの脱着(交換)が行われたとき、ノズルからのインクの噴射機能を維持するため、脱着されたインクカートリッジを収容したインクを噴射するノズルについてクリーニング処理が行われる。このとき、本実施形態のプリンター11のクリーニング装置25は、上述するようにカラーインクとブラックインクとを別々にクリーニング処理できる構成である。従って、ブラック印刷モードの維持を意図した使用者が、ブラックインクを噴射するノズルをクリーニング処理して噴射機能を維持しようとすることが推定される。
そこで、本実施形態では、ブラック印刷モードが設定されている状態においてクリーニング処理が行われたとき、ブラック印刷モードの設定を維持するか否かを判定する処理を行う。この処理について図5を用いて説明する。この処理は、プリンター11において、ブラック印刷モードに設定中、クリーニング処理が行われたときに主制御部86によって行われるようになっている。なお、本実施形態では、通常印刷モードにおいてクリーニング処理が行われた場合は通常印刷モードが維持されるようになっている。
この処理がスタートすると、図5に示すように、まずステップS210にて、判定部85は、ブラックインクのクリーニングか否かを判定処理する。判定の結果、ブラックインクのクリーニングであった場合は(YES)、この処理を終了する。つまり、ブラック印刷モードの設定を維持するのである。この場合は、使用者が、クリーニング処理によってブラックインクを安定してノズル31から噴射させたいと意図していると推定されることから、ブラック印刷モードの設定を維持する。言い換えれば、この処理は1つのブラック印刷モードの維持条件が成立したことを意味する。
一方、判定の結果、ブラックインクのクリーニングでない場合は(NO)、ステップS220にて通常印刷モードに設定処理する。つまり、ブラック印刷モードの設定が解除されるようにするのである。この場合は、カラーインクがノズル32から吸引されてクリーニング処理されているので、使用者が、クリーニング処理によってカラーインクを安定してノズル32から噴射させたいと意図していると推定される。従って、印刷設定部81はブラック印刷モードの設定を解除して、カラー画像を印刷する通常印刷モードに設定するのである。本実施形態のプリンター11では、上述したようにモード設定処理が行われるようになっている。
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ブラック印刷モードにおいて、ブラックインクを収容したインクカートリッジ20Kが脱着されても、維持条件が成立すればブラック印刷モードの設定を維持することができる。そして、維持条件を、使用者がブラック印刷モードの継続を意図していると推定できる条件とすれば、使用者の不利益を解消することができる。
(2)装着されたインクカートリッジ20Kが同一の場合は、ブラック印刷モードの設定を維持するようにした。このような場合とは、例えばプリンター11の使用者が誤ってインクカートリッジ20Kを抜き、抜いた後同一のインクカートリッジ20Kを装着した場合であることから、プリンター11の使用者が、ブラック印刷モードの継続を意図していると推定される。従って、使用者の意図に反してブラック印刷モードの設定が解除されることを抑制できる。
(3)インクエンドになったインクカートリッジ20Kが、同じブラックのインクを収容した新しいインクカートリッジ20Kに交換された場合は、ブラック印刷モードの設定を維持する。このような場合は、プリンター11の使用者が、ブラック印刷モードの継続を意図していると推定される。従って、使用者の意図に反してブラック印刷モードの設定が解除されることを抑制できる。
(4)インクカートリッジ20Kに収容されたブラックインクのみを吸引するクリーニング処理が行われた場合は、ブラック印刷モードの設定を維持する。この場合は、プリンター11の使用者がインクカートリッジ20Kのブラックインクを用いたブラック印刷モードの継続を意図していると推定される。従って、使用者の意図に反してブラック印刷モードの設定が解除されることを抑制できる。
(5)プリンター11において通常はカラー印刷が行われることからカラーインクが早く消費される。そこで、印刷に使用するインクをカラーインクと異なるブラックインクに特定したブラック印刷モードを設定することによって、カラーインクがインクエンドになっても継続して印刷を行うことができる確率が高くなる。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、設定されたブラック印刷モードの維持もしくは解除について、クリーニング処理に関係なく、インクカートリッジの脱着時における判定処理(ステップS170〜ステップS173)によってのみ処理が行われることとしてもよい。クリーニング処理は、ノズル31,32からのインクの噴射機能を維持する処理である。従って、通常印刷モードでもブラック印刷モードでも行われるべき処理であるので、クリーニング処理をブラック印刷モードの設定の維持もしくは解除の判定条件としなくても差し支えない。
・上記モード設定処理(図4)において、ステップS171の判定結果が否定(NO)の場合には、ステップS172およびステップS173の処理を省略して、ステップS180に移行するようにすることによって、ブラック印刷モードの設定を解除するようにしてもよい。なお、この場合は、ステップS165の処理は不要である。
・上記モード設定処理(図4)において、ステップS170の判定結果が肯定(YES2)の場合には、ステップS171の判定処理を省略して、ステップS172の判定処理に移行するようにしてもよい。例えば、常に新しいインクカートリッジが装着される場合は、ステップS171の判定処理は必ずしも行う必要がない。
・上記実施形態のクリーニング装置25において、切替バルブ28はダクト34aとダクト34bとをそれぞれ独立して開閉するバルブ構成を採用することもできる。この場合は、カラーインクとブラックインクの両方のノズル31,32を同時にクリーニング処理することもできる。あるいは、切替制御について、キャリッジ16の主走査方向Xの移動を利用した切替機構を備える構成を採用して行うようにしてもよい。
・上記実施形態において、カラーインクのいずれかがインクエンドになったときにブラック印刷モードに設定されることとしたが、特にこれに限らず、カラーインクのいずれかがインクエンドになる前において、ブラック印刷モードに設定されるようにしてもよい。ブラック印刷モードがプリンター11の使用者の意図する印刷状態である場合がある。例えば、印刷される画像の印刷品質を許容して印刷する場合や、カラーインクの代替ではなく初めから特定したインク(ここではブラックインク)で印刷したい場合などである。このような場合では、インクエンドに関係なくブラック印刷モードを設定できるようにすることが好ましい。この場合、例えばプリンター11の使用者に設定させるようにしてもよい。具体的には、印刷動作の実行に先んじて、ブラック印刷モードを設定するか否かの選択画面を表示手段92に表示させ、使用者に入力手段91を用いてブラック印刷モードの設定を選択したデータを入力させるようにすればよい。
・上記実施形態において、特定するインクを必ずしもブラックインクとしなくてもよい。また、必ずしも一色のインクとしなくてもよい。例えば、ブラックインクがインクエンドになった場合は、シアン、マゼンタ、イエローの3つのカラーインクをブラックインクの代わりに使用する特定印刷状態としてもよい。あるいは、例えばマゼンタインクが最も多く残っている場合は、マゼンタインクを特定インクとして使用する特定印刷状態とすることが好ましい。なお、この場合は、クリーニング装置25は、インクの種類毎に別々にインクを吸引できる構成であってもよい。
・上記実施形態において、インクの種類として色相の異なるインクとしたが、必ずしもこれに限る必要はない。例えば、明度や彩度の異なるインクや、染料と顔料との違いなど性質(溶質)の異なるインクであってもよい。
・上記実施形態において、液量検出部84は、インクカートリッジにインクエンドを検出するためのセンサーが設けられている場合は、該センサーからの検出信号に基づいてインクエンドを検出することとしてもよい。
・上記実施形態において、プリンター11は、用紙Pの幅方向(主走査方向X)に渡ってヘッドが1つまたは複数配置されるフルラインタイプのプリンターでもよい。
・上記実施形態では、印刷装置をインクジェット式のプリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする印刷装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド(印刷ヘッド)等を備える各種の印刷装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記印刷装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、印刷装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクが挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。印刷装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する印刷装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する印刷装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する印刷装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する印刷装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する印刷装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の印刷装置に本発明を適用することができる。