以下、本発明の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しつつ、詳細に説明する。
<1. 第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態における露光装置1を示す図である。なお、図1において、図示および説明の都合上、Z軸方向が鉛直方向を表し、XY平面が水平面を表すものとして定義する。ただし、これらの方向は位置関係を把握するために便宜上定義するものであって、以下に説明する各方向を限定するものではない。以下の各図についても同様である。
また、以下の説明では、「ビームピッチ」とは、像面において隣接して照射されるビーム(同時に照射されるか、時間順次に照射されるかを問わない)の光軸間隔を意味するものとする。また、「制御ピッチ」とは、露光装置1において、露光するパターンの位置や線幅などの幾何学的なパラメータを制御する場合に、制御可能な最小のピッチを言い、露光分解能を示す値とする。例えば、露光するパターンの最小線幅が1μmであっても、線の位置や線幅を20nmで制御することを所望するならば、露光分解能を20nmにする必要がある。
露光装置1は、可動ステージ10、露光ヘッド11および制御部2を備え、可動ステージ10に支持された基板9に微細なパターン(像)を露光する装置として構成されている。なお、基板9としては、プリント基板や液晶ディスプレイ用のガラス基板、マスク用のガラス基板、半導体基板等が想定される。ただし、パターンを露光する対象物はここに示した基板9に限定されるものではなく、紙や立体的な物体であってもよい。また、本発明に係る露光装置は、ビームによって直接パターンを露光するダイレクト露光装置に限定されるものではなく、マスク露光装置であってもよいし、露光される像が視認できない装置(例えば現像を要する装置)に限定されるものではなく、いわゆる描画装置と呼ばれる装置をも含むものとする。
可動ステージ10の上面は水平面に加工されており、基板9を水平姿勢で保持する機能を有している。可動ステージ10は、図示しない吸着口から吸引を行うことにより、載置された基板9の裏面を吸着して当該基板9を所定の位置に保持する。
また、可動ステージ10は、制御部2からの制御信号に応じて、X軸方向およびY軸方向に直線的に移動できる構造となっている。すなわち、詳細は省略するが、可動ステージ10は、基板9をY軸方向に移動させる主走査駆動機構と、基板9をX軸方向に移動させる副走査駆動機構とを備えている。このような機構としては、例えば、リニアモータをもちいた直動駆動機構を採用することができる。
これにより、露光装置1は、露光ヘッド11から照射されるビームを基板9の表面の任意の位置に照射することが可能とされている。このように、露光装置1から照射されるビームは基板9の表面を像面として結像される。
露光ヘッド11は、レーザ光を照射する光源としてのレーザ発振器13、レーザ発振器13から照射されたレーザ光を所定の方向に導く照明光学系14、照明光学系14によって導かれたレーザ光を変調する空間光変調デバイス15、および、変調されたレーザ光を基板9に結像させる結像光学系16を備えている。
レーザ発振器13は、制御部2から周期Tで伝達されるリセット信号に応じて、所定のパルス幅のレーザ光を断続的に点灯させる(パルスレーザとなる)。これにより、本実施の形態におけるレーザ発振器13は、周期T(所定の周期)でレーザ光を照射する光源として機能する。
一般に露光間隔が短い場合、その間に可動ステージ10の移動を完了しなければならないため、可動ステージ10を比較的高速で移動させることが必要となる。一方、露光間隔が長いと、可動ステージ10の移動を完了するための許容時間が長くなるため、可動ステージ10を低速で移動させることが可能となる。しかしながら、可動ステージ10を低速で移動させると、パターン全体の露光を完了するために要する時間が長くなり処理自体が遅延する。
本実施の形態におけるレーザ発振器13は、先述のように、一定の露光時間(パルス幅)および一定の露光間隔(周期T)でレーザ光を照射するため、可動ステージ10の移動速度は一定でよい。したがって、駆動制御が容易になるとともに、速度変更によって可動ステージ10の移動が不安定になることを防止することができる。
なお、本実施の形態における露光装置1では、パルスレーザを照射するレーザ発振器13としてエキシマレーザを採用する。また、パルス幅は、10[nsec]ないし数十[nsec]程度である。ただし、露光装置1において用いられるレーザ光は、このようなレーザ光に限定されるものではない。
照明光学系14は、ミラー140、レンズ141およびミラー142,143を備えている。
レーザ発振器13から照射され、照明光学系14に入射したレーザ光は、ミラー140およびレンズ141によりミラー142へと導かれる。また、ミラー142はレンズ141によって導かれたレーザ光をミラー143に向けて反射し、ミラー143は入射したレーザ光を空間光変調デバイス15に向けて反射する。すなわち、ミラー142およびミラー143によって、レーザ光は所定の角度(入射角)で空間光変調デバイス15に入射するように調整される。
このように、照明光学系14は、レーザ発振器13から照射されたレーザ光の光路を適宜調整して空間光変調デバイス15に導く機能を有している。なお、照明光学系14が備える構成は本実施の形態に示すものに限定されるものではなく、レーザ光の光路上に適宜、別のレンズやミラー等の光学素子が配置されてもよい。
照明光学系14によって導かれたレーザ光が入射される空間光変調デバイス15は、シリコン基板の上に、微少なミラーが格子状にN個(Nは2以上の自然数)配列した構造を有している。以下の説明では、空間光変調デバイス15が備える微小ミラーを「マイクロミラー」と称し、他のミラー(例えばミラー142)と区別する。
空間光変調デバイス15の各マイクロミラーによって反射されたレーザ光は、結像光学系16へと導かれ、それぞれが、パターンを露光するために用いられ得るビームを形成する。すなわち、空間光変調デバイス15を用いる露光装置1では、レーザ発振器13がレーザ光を照射するたびに、N本のビーム(マルチビーム)が形成される構造となっている。このような構造により、本実施の形態における露光装置1では、露光面で結像されたマイクロミラーの間隔が「ビームピッチ」となる。
なお、詳細は後述するが、露光装置1では、形成されたN本のビームの全てが基板9に照射されるとは限らない。また、本発明は、マルチビームの装置にのみ適用されるものではなく、単一のビームによってパターンを露光する装置(走査ピッチがビームピッチとなる装置)にも応用可能である。また、空間光変調デバイス15によってマルチビームを実現する構成ではなく、例えば、複数の露光ヘッド11を備えることによりマルチビームを実現する装置であってもよい。
本実施の形態では、空間光変調デバイス15としてマイクロミラーデバイスを採用する。
空間光変調デバイス15における複数のマイクロミラーの反射面の配置角度θ(反射面とXZ平面との成す角)は、θon(第1角度)とθoff(第2角度)との間で連続的に変位することが可能となっている。本実施の形態では、通常時において各マイクロミラーの反射面の配置角度θはθoffとなっている。そして、空間光変調デバイス15の各マイクロミラーは、制御部2から伝達される開始信号に応じて、配置角度θをθoffからθonへと変位させる動作を開始する。すなわち、開始信号とは、反射面の配置角度θがθoffとなっている状態のマイクロミラーに対して、配置角度θがθonとなる状態へと状態の切り替えを開始するタイミングを示す信号である。
結像光学系16は、アパーチャ160、ミラー161および結像レンズ162を備えている。
アパーチャ160は、通過するビームの位置によってビームの光量が変化する光学素子として構成されている。アパーチャ160は空間光変調デバイス15から入射する複数のビームについて、その一部を透過させるとともに、その一部を遮蔽する機能を備えている。アパーチャ160によってビームの光量が個々に調整される原理については後述する。
また、アパーチャ160は、入射した複数のビームを互いに平行な向き(Y軸方向に平行な向き)に調整するとともに、各ビームのスポット形状を同一の形状に調整する機能をも有している。そして、アパーチャ160を通過したビームはミラー161に向けて出射される。
アパーチャ160からミラー161に向けて出射されたビームは、ミラー161によって反射され、結像レンズ162を介して像面たる基板9の表面に照射される。
図1に示すように、制御部2は、主にCPU20および記憶装置21を備えている。
パターンデータ210は、基板9に露光するパターンを表現した2値のビットマップデータである。一般に、パターンを表現したデータ(本実施の形態におけるパターンデータ210)は、当該パターンを露光する装置の露光分解能に応じて作成され、当該装置に入力される。したがって、パターンデータ210は、露光装置1の露光分解能(制御ピッチ)に応じたサイズの画素(以下、「制御ピクセル」と称する。)にパターンを分割して表現したデータとなっている。すなわち、制御ピクセルの縦横の長さサイズは、それぞれ制御ピッチと等しいサイズである。
また、パターンデータ210は、CADシステム等で作成されたデータに基づいて外部のコンピュータ等によってビットマップデータに変換処理され作成されるものとする。そして、作成されたパターンデータ210は、図示しないネットワークおよび通信部を介してデータ通信によって露光装置1に取得されて記憶装置21に格納される。
光量データ211は、パターンデータ210に基づいてCPU20によって作成されるデータであって、パターンを露光するために基板9に照射されるビームの光量を各ビームごとに格納したデータである。したがって、光量データ211は、縦横の長さサイズがビームピッチに等しいサイズの画素(以下、「露光ピクセル」と称する。)にパターンを分割して表現した多値のビットマップデータである。これにより、1つの露光ピクセルは1本のビームに対応し、1つのマイクロミラーに対応する。なお、ここに言う「多値」とは、2値より多いことを意味するものとする。
CPU20は、記憶装置21に記憶されているプログラム(図示せず)に基づいて動作することにより、各種データの演算を実行するとともに、制御信号を生成して露光装置1の各構成を制御する機能を有する。
特に、本実施の形態におけるCPU20は、レーザ発振器13が周期Tでレーザ光を照射するように、リセット信号を周期Tで生成し、レーザ発振器13に伝達する。また、露光ヘッド11と基板9との相対位置を調整するために、可動ステージ10の位置を調整する。また、詳細は後述するが、光量データ211を作成し、作成した光量データ211に基づいて、空間光変調デバイス15を制御する。
記憶装置21は、図1では一つのハードウェアであるかのように図示しているが、一般に、読み取り専用のROMや、CPU20の一時的なワーキングエリアとして使用されるRAM、比較的大容量のデータを記憶するディスク装置等からなる装置である。記憶装置21は、上述のプログラムや、パターンデータ210、光量データ211等の各種データを記憶する。
図2は、露光装置1が有する機能ブロックをデータの流れとともに示す図である。図2に示す光量制御部200およびデータ変換部201は、制御部2のCPU20が上述のプログラムに従って動作することにより実現される機能ブロックである。
光量制御部200は、光量データ211に基づいて空間光変調デバイス15を制御することにより、アパーチャ160とともに各ビームの光量を個々に制御する機能を有している。なお、「光量を制御する」とは、ビームのON/OFF制御(狭義には光量を制御することになる。)ではなく、ON状態のビームの光量とOFF状態のビームの光量との間の中間光量のビームも意図的に制御してパターンの露光に使用する制御形態を言うものとする。
図3は、アパーチャ160の表面に形成される入射面163を例示する図である。アパーチャ160の空間光変調デバイス15に対向する側の表面には、複数の入射面163が一面に形成されている。具体的には、アパーチャ160の空間光変調デバイス15に対向する側の表面は、N個の入射面163に分割されている。そして、各入射面163には、対応するマイクロミラーからのビームのみが入射するように配置されている。なお、以下の説明では、ビームの断面形状を「円形」として説明するが、ビームの断面形状は円形に限定されるものではなく、矩形であってもよい。
図3では、(n−1)番目のビーム((n−1)番目のマイクロミラーによって形成されたビーム)に対応する入射面163n-1と、n番目のビーム(n番目のマイクロミラーによって形成されたビーム)に対応する入射面163nとを示している。なお、nは、1<n≦Nを満たす自然数である。
また、各入射面163には、それぞれ受光領域164が形成されており、受光領域164に入射したビームだけがアパーチャ160を透過し、露光ヘッド11から照射される。言い換えれば、入射面163に入射したビームのうち、受光領域164以外の領域に入射したビームはアパーチャ160によって遮蔽される。
図3に示す円形領域80は、n番目のマイクロミラーの反射面の配置角度θが「θon,n」となった状態のときに、当該マイクロミラーによって反射されたビームが入射する領域を示す。すなわち、配置角度θが「θon」となったとき、マイクロミラーによって反射されたビームの全光束は、対応する入射面163の受光領域164に入射される。したがって、当該マイクロミラーによって形成されたビームのうち、基板9に照射されるビームの光量は「100%」となる。
一方、図3に示す円形領域81は、n番目のマイクロミラーの反射面の配置角度θが「θoff,n」となった状態のときに、当該マイクロミラーによって反射されたビームが入射する領域を示す。すなわち、配置角度θが「θoff」の状態のマイクロミラーによって反射されたビームの全光束は、受光領域164に入射しない状態となる。したがって、当該マイクロミラーによって形成されたビームのうち、基板9に照射されるビームの光量は「0%」となる。
先述のように、マイクロミラーの反射面の配置角度θは、「θon」と「θoff」との間を連続的に変位する。したがって、例えば、n番目のマイクロミラーによって反射されたビームが入射しうる領域は、結局、図3に示す領域82(斜線で網掛けされた領域)となる。
図3に示す円形領域83は、(n−1)番目のマイクロミラーの配置角度θが「θon,n-1」と「θoff,n-1」との間で変位しているときに、当該マイクロミラーに反射されたビームが入射する領域を示す。このような場合には、反射されたビームの一部だけが受光領域164に入射し、その他の部分は遮蔽される。すなわち、領域83と受光領域164との重なる領域84(斜線で網掛けされた領域)に入射したレーザ光のみがアパーチャ160を透過し、そのビームの光量は、反射されたビームの全光束が受光領域164に入射した場合に比べて、アパーチャ160に遮蔽された分だけ減少する。
すなわち、アパーチャ160を透過するビームの光量はビームの入射位置によって変化する領域84の面積に依存し、当該面積はマイクロミラーの配置角度θに依存する。逆に言えば、n番目のマイクロミラーによって形成するビームの所望の光量を「Ωn」とすると、当該光量Ωnを得るための当該マイクロミラーの配置角度θnは、連続関数Snを用いて式1と表すことができる。
θn=Sn(Ωn)・・・式1
また、制御部2がn番目のマイクロミラーに開始信号を与えてからの経過時間を「τn」とすると、配置角度θnと経過時間τnとの関係は連続関数Fnを用いて式2で表される。
τn=Fn(θn)・・・式2
したがって、式1および式2から、Qn=Fn(Sn)となる関数Qnを用いれば、経過時間τnは、式3と表現できることがわかる。
τn=Qn(Ωn)・・・式3
ここで、関数Qnは再現性のある関数であるため、実験等により予め求めて特性データとして露光装置1の記憶装置に記憶しておくことができる。なお、関数Snおよび関数Fnを実験により求めておいて、式1を式2に代入して演算により経過時間τnを求めてもよい。
式3によれば、ビームにおける所望の光量「Ω」が決まれば、当該ビームを形成するマイクロミラーに開始信号を与えてからどのタイミングで当該マイクロミラーにレーザ光を照射すべきかが決定できることがわかる。
本実施の形態におけるレーザ発振器13は周期Tでレーザ光を照射するため、空間光変調デバイス15の全てのマイクロミラーには同時にレーザ光が照射される。すなわち、各マイクロミラーにレーザ光が照射されるタイミングは予め固定されており、個々のマイクロミラーごとに任意の時刻にレーザ光を照射することはできない構造となっている。したがって、次回のレーザ光の照射が行われるときに、各マイクロミラーの配置角度θが所望の角度となるように、各マイクロミラーに予め開始信号を適切なタイミングで与える必要がある。
ここで、直近のレーザ光が照射されてから、次のレーザ光が照射されるまでの時間はTである。したがって、直近のレーザ光が照射されてからn番目のマイクロミラーに開始信号を与えるまでの経過時間を「tn」とおくと、n番目のマイクロミラーの配置角度が所望の配置角度θnとなったときに、当該マイクロミラーにレーザ光が照射されるためには、式4が成立すればよいことになる。
tn+τn=T・・・式4
したがって、次回のレーザ光の照射時にn番目のマイクロミラーによって形成されるビームの光量を所望の光量「Ωn」とするために、当該マイクロミラーに開始信号を与えるタイミングは、前回のレーザ光が照射されてからの経過時間tnを用いて、式5で求まることがわかる。
tn=T−Qn(Ωn)・・・式5
先述のように、n番目のマイクロミラーによって形成されるビームの光量は、n番目の露光ピクセルの光量として光量データ211に示されている。
したがって、光量制御部200は、前回のレーザ光の照射を実行させたリセット信号を、光量データ211と式5とに基づいて各マイクロミラーごとに求めた経過時間tnだけ遅延させてそれぞれの開始信号とし、これらの開始信号を空間光変調デバイス15に伝達することによって、ビームの光量を個々に制御することができる。
なお、基板9に照射されるビームの光量を制御するための構成は、ここに示す構成に限定されるものではなく、従来から知られた様々な手法を適宜用いることができる。例えば、アパーチャ160に代えて、通過する光の位置によって光量が変化する光学素子、例えば、連続濃度可変フィルタなどを用いてもよい。
また、アパーチャ160において、空間光変調デバイス15に対向する側の表面をN個の入射面に分割する代わりに、単一の入射面のみ形成し、空間光変調デバイス15とアパーチャ160との間に、結像レンズ162と両側テレセントリック光学系を成すフィールドレンズを配置して、マイクロミラーから反射されたそれぞれのレーザ光がこの単一の入射面を透過、遮蔽、または一部透過する構成としてもよい。
さらに、光量制御のための構成として、上記実施の形態のようなマイクロミラーデバイスの代わりに、GLV(Grating Light Valve)のような回折格子型の空間光変調素子や磁気光学式の空間光変調素子を用いた構成でもよい。
次に、ビームの光量を変更した場合に、ビームによって露光される領域(以下、「露光領域」と称する)がどのように変化するかについて説明する。言い換えれば、ビームの光量を制御することによって、どのようにして露光分解能が向上するかについて説明する。
図4は、ビームの光量を変更したときの光量分布と、各光量のビームにおける露光領域を示す図である。図4に示す例では、6つの異なる光量について、それぞれのビームの光量分布(グラフPF1,PF2,PF3,PF4,PF5,PF6)と、当該ビームによって露光される露光領域(6つの円)とを示している。
なお、グラフPF1は100%の光量のビームの光量分布を示し、グラフPF2は85%の光量のビームの光量分布を示し、グラムPF3は75%の光量のビームの光量分布を示す。また、グラフPF4は65%の光量のビームの光量分布を示し、グラフPF5は45%の光量のビームの光量分布を示し、グラフPF6は40%の光量のビームの光量分布を示す。ただし、これらの数値は例示であって、ここに示す数値に限定されるものではなく、露光装置1に用いるビームの特性として実験により求めて記憶しておくことが可能である。
一般的なビームの光量分布は、図4に示すように、ガウシアン分布に近似した分布状態となっており、ビームの中央部ほど光量が多く、周辺部ほど光量が減少する。一方、基板9には、感光材料(例えばフォトレジスト)が塗布されており、感光材料の性質上、感光する光量の閾値V(感光スレッショルドレベル)が決まっている。言い換えれば、ビームが照射された領域のうち、光量が「V」を超えた領域は当該ビームによって露光される(露光領域となる)が、光量が「V」に満たない領域では露光されない。
したがって、実際には実ビーム径(図4に示す例ではビームピッチの約5倍のサイズ)のビームが基板9に照射されたとしても、当該ビームによって露光される露光領域は実際のビームが照射された領域よりも狭い領域となる。図4に示す例では、光量が100%のビームを照射した場合の露光領域は、そのときの露光ビーム径(ビームピッチの3倍のサイズ)を直径とする円形領域(図4における最大円)となっている。
図4を見れば、ビームの光量を変更しても実ビーム径はほとんど変化しないが、露光領域は直径(露光ビーム径)の異なる同心円状の領域として変化することがわかる。これにより、ビームの光量分布に応じて閾値Vとして適切な感光材料を選択し、所望する露光分解能に応じてビームの光量を調節することによって、露光ビーム径を、所望の露光分解能で変化させることができる。
したがって、このような原理により、露光装置1において、光量制御部200がビームの光量を適切に制御すれば、当該ビームの露光ビーム径を制御することができ、当該ビームによって露光される露光領域のサイズを制御できることがわかる。
図4では、ビームピッチの5分の1程度のピッチで露光領域のサイズを制御する例を示している。逆に言えば、図4に示す例では、ビームピッチの5分の1のピッチが露光装置1によって制御可能な最小のピッチ(制御ピッチ)となる例を示している。このように、本実施の形態における露光装置1によれば、ビームピッチではなく、ビームピッチの数分の1程度のピッチを「制御ピッチ」とすることができる。
露光装置1は、ビームの光量と感光材料上で現像される露光領域との関係(図4に示す関係)を、予め、実験や理論的なシミュレーション等によって求めておき、露光装置1におけるビーム特性データ(図示せず)として記憶しておくものとする。
このように、露光装置1は、ビームの光量を制御することにより、ビームピッチを変更することなく、制御ピッチを小さくすることができ、露光分解能を向上させることができる。また、ビームピッチを小さくすることによって露光分解能を向上させる技術と異なり、露光速度の低下という問題も生じない。また、光量を変更してもビームの光軸位置はほとんど変化せず、ビームが照射される位置(中心位置)は変化しない。すなわち、ビームの光量を変更しても、位置ずれを生じることはない。
なお、本実施の形態では、ビームピッチの5分の1のサイズが制御ピッチとなるように制御する例を挙げて説明したが、光量の制御量はこれに限定されるものではない。また、以後の説明では、特に断らない限り、ビーム径とは露光ビーム径のことを意味するものとして用いる。
図2に戻って、データ変換部201は、記憶装置21に記憶されているパターンデータ210と、先述のビーム特性データ(図示せず)とに基づいて、光量データ211を作成して、記憶装置21に格納する機能を有している。
先述のように、パターンデータ210は露光装置1の制御ピクセルに応じて作成された2値のビットマップデータである。一方、光量データ211は露光装置1の露光ピクセルに応じて光量値が格納された多値のビットマップデータである。すなわち、データ変換部201は、高分解能ビットマップデータ(パターンデータ210)を、相対的に低分解能の多値ビットマップデータ(光量データ211)に変換する。なお、データ変換部201が光量データ211を作成する手法については後述する。
以上が第1の実施の形態における露光装置1の構成および機能の説明である。
次に、データ変換部201が光量データ211を作成する方法について説明する。
図5は、露光ピクセルPを示す図である。本実施の形態における露光装置1においては、露光ピクセルPの縦横サイズはビームピッチ(0.1μm)であり、制御ピクセルQの縦横サイズは制御ピッチ(20nm、ビームピッチの5分の1)とする。したがって、1つの露光ピクセルPは、25個の制御ピクセルQ(制御ピクセルQ00〜Q44)から構成される。
図6は、単位領域Eを示す図である。すでに図4に示したように、露光装置1において、光量が最大のビームのビーム径はビームピッチの3倍のサイズである。すなわち、図6において露光ピクセルP11に注目すると、露光ピクセルP11にビームを照射したときに、当該ビームによって露光されうる領域は、図6において斜線の網掛けで示す円形領域EEとなる。
したがって、露光ピクセルP11に照射されるビームによって影響を受けうるのは露光ピクセルP00〜P22である。そこで、露光ピクセルP00〜P22によって構成される領域を、「単位領域E」と定義すれば、データ変換部201は、1つの単位領域Eにおけるパターン(パターンデータ210における部分パターン)に応じて、1つの露光ピクセルP11によって形成されるビームの光量を決定する必要があることがわかる。
なお、図5および図6より、1つの単位領域Eには、15×15個(=225個)の制御ピクセルQが含まれていることがわかる。また、露光ピクセルP11に照射されるビームの光軸位置となる制御ピクセルQは、制御ピクセルQ22である。
図7は、データ変換部201によって実行される作成処理を示す流れ図である。図7に示すように、データ変換部201は、光量データ211を作成するために、まず、エッジ光量データを作成する(ステップS11)。
ステップS11において、データ変換部201は、先述のビーム特性データに基づいて、制御ピクセルQがパターンのエッジを構成するピクセル(エッジ制御ピクセル)に該当する場合のビームの光量値を求める。この光量値は、単位領域E内に存在する225個の制御ピクセルQについて求められ、エッジ光量データとして格納される。すなわち、エッジ光量データは、個々の値が制御ピクセルQに対応した、225個の多値のデータとなる。
一般に、ステップS11で求める光量値は、該当する制御ピクセルQの単位領域E内における位置と、ビームの光軸位置(露光ピクセルP11における制御ピクセルQ22の位置)との距離と方向(すなわちベクトル)に依存する。ただし、本実施の形態では、先述のように、ビームの断面形状を円形としているため方向には依存しない。
次に、データ変換部201は、注目する露光ピクセルPを決定し(ステップS12)、決定した露光ピクセルPを露光ピクセルP11とする単位領域Eを決定する。さらに、決定した単位領域Eに含まれる225個の制御ピクセルQの画素値をパターンデータ210から取得する(ステップS13)。パターンデータ210における画素値は2値であるから、ステップS13において取得されるデータは225bitのデータとなる。
図8は、パターンデータ210の例である。図8において網掛けされた制御ピクセルQはパターンデータ210における画素値が「1」の制御ピクセルQを示す。図8に示す単位領域EがステップS12において決定した単位領域Eの一例であり、この単位領域Eに含まれる制御ピクセルQの画素値がステップS13において取得される。
次に、データ変換部201は、ステップS13において取得した画素値に対してエッジ検出処理を実行し、パターンにおけるエッジを構成する制御ピクセルQをエッジ制御ピクセルEQとして検出する(ステップS14)。なお、エッジ検出処理は従来から提案されている様々な手法を適用することができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図9は、エッジ制御ピクセルEQを示す図である。図9は、図8に示す単位領域Eにおいて検出されるエッジ制御ピクセルEQを示している。ここに示す例では、15個の制御ピクセルQが、エッジ制御ピクセルEQとして検出されている。
ステップS14を実行すると、データ変換部201は、ステップS11で求めたエッジ光量データから、ステップS14で検出したそれぞれのエッジ制御ピクセルEQに対する光量値を取得する(ステップS15)。
次に、データ変換部201は、ステップS15で取得した光量値(検出されたエッジ制御ピクセルEQの数だけ存在する。)から、最適値を、ステップS12で決定した露光ピクセルPの光量値として決定し(ステップS16)、当該露光ピクセルPの光量値として光量データ211に格納する。なお、本実施の形態では最適値を「最小値」とするが、最適値を選択する規則はこれに限定されるものではなく、例えば「平均値」であってもよい。以下の実施例においても同様である。
ステップS16が実行されると、データ変換部201は、全ての露光ピクセルPについてステップS16が実行されたか否かを判定する(ステップS17)。
そして、未だ光量値が決定されていない露光ピクセルPが存在する場合(ステップS17においてNo)、ステップS12に戻って、処理を繰り返す。一方、全ての露光ピクセルPについて既に光量値が決定された場合(ステップS17においてYes)、データ変換部201は、光量データ211の作成を終了する。
なお、データ変換部201は、ステップS12において決定された露光ピクセルPにおける制御ピクセルQ22(ビームの光軸位置となる制御ピクセルQであって、単位領域Eについて言えば、露光ピクセルP11における制御ピクセルQ22)の画素値が、パターンデータ210において「0」であった場合には、ステップS14,S15の処理を実行せずに、ステップS16において、当該露光ピクセルPの光量を「0」と決定する。すなわち、ビームの光軸位置の画素値が「0」である場合とは、当該位置を露光する必要がない場合であり、ビームを照射する必要がないからである。
図10は、露光ピクセルP11の光量値が「0」となる単位領域Eの例を示す図である。
このようにして、データ変換部201は、制御ピクセルQに基づいて作成された高分解能の2値のビットマップデータであるパターンデータ210から、比較的低分解能の露光ピクセルPに基づいて作成される多値のビットマップデータである光量データ211を作成する。
なお、本実施の形態では、ビーム特性データを予め記憶しておくと説明したが、ビーム特性データの代わりにエッジ光量データを記憶しておいてもよい。その場合は、ビーム特性データを記憶しておく必要がなく、また、新たなパターンデータ210が入力され、新たに光量データ211を作成する必要が生じた場合でも、そのたびにエッジ光量データを作成する必要がない。
また、本実施の形態では、全ての制御ピクセルQについて、エッジ光量データを作成しておくと説明したが、エッジ制御ピクセルEQが検出されてから、検出されたエッジ制御ピクセルEQについてのみ、ビーム特性データに基づいて光量値を決定してもよい。
図11は、パターンデータ210の例を示す図である。既に説明したように、パターンデータ210は、制御ピッチに応じたサイズの制御ピクセルQによって露光するパターンを2値(「1」または「0」)で表現したビットマップデータである。なお、太線Lは、露光するパターンのエッジを示す。
図12は、図11に示すパターンデータ210から作成された光量データ211を示す図である。図12に示すように、光量データ211は、ビームピッチに応じたサイズの露光ピクセルPによって露光するパターンを多値(図12に示す例では、「100」、「85」、「75」、「60」、「45」または「0」)で表現したビットマップデータとなっている。なお、図12では、パターンのエッジを露光するビームによって露光される露光領域(すなわち、パターンのエッジを構成する露光領域)を示している。これらの露光領域は、図12に示すように、直径の異なる円径領域となる。
次に、光量データ211に基づいてパターンを基板9に露光する方法について説明する。
図13は、本発明に係る露光方法を示す流れ図である。ただし、図13に示す各工程が開始されるまでに、既に説明した作成処理(図7)が露光装置1のデータ変換部201によって実行されているものとする。また、露光装置1は、レーザ発振器13がレーザ光をM回照射することによりパターンデータ210に表現されたパターンを露光するものとして説明する。
まず、CPU20は、露光回数をカウントするカウンタmの値を「1」に初期化してから(ステップS21)、m回目の露光位置に可動ステージ10を移動させる(ステップS22)。
次に、光量制御部200が光量データ211に基づいて、光量制御処理を実行する(ステップS23)。
図14は、光量制御処理を示す流れ図である。光量制御処理が開始されると、光量制御部200は、まず、露光ピクセルPの番号を示すカウンタnの値を「1」に初期化する(ステップS31)。
次に、n番目の露光ピクセルPの光量を光量データ211から取得し(ステップS32)、取得した光量と式5とに基づいて、n番目のマイクロミラーの経過時間tnを求める(ステップS33)。なお、光量が「0」の露光ピクセルPに対応するマイクロミラーについては経過時間tnを便宜上「U」とする(ただし、U>T)。
n番目のマイクロミラーについての経過時間tnが求まると、求めた経過時間tnを当該マイクロミラーについてのリセット信号の遅延時間としてセットする(ステップS34)。
次に、カウンタnの値をインクリメントして(ステップS35)、カウンタnの値がNより大きいか否かを判定する(ステップS36)。空間光変調デバイス15には、N個のマイクロミラーが設けられており、1回の露光でN個の露光ピクセルPが露光される。ステップS36が実行されるときに、カウンタnの値がN以下の場合とは、N個の露光ピクセルPについての処理が未だ完了していない場合であるから、ステップS32に戻って処理を繰り返す。
一方、ステップS36が実行されるときに、カウンタnの値がNより大きい場合とは、空間光変調デバイス15が備えるN個のマイクロミラーについて遅延時間をセットする処理(ステップS34)が完了したことを示す。したがって、この場合、光量制御部200はステップS36においてYesと判定し、ステップS34においてセットした遅延時間を経過したマイクロミラーに開始信号を伝達しつつ(ステップS37)、前回の露光(m−1回目の露光)から周期Tだけ時間が経過したか否かを監視する(ステップS38)。
そして、周期Tだけ時間が経過すると(ステップS38においてYes)、図14に示す光量制御処理を終了して図13に示す処理に戻る。これにより、周期Tよりも大きい値「U」が遅延時間としてセットされたマイクロミラーについては、ステップS37が実行されることはないので開始信号が伝達されることはない。したがって、当該マイクロミラーはビームをOFFにする状態(配置角度θoffの状態)のままとなり、当該マイクロミラーによるビームの光量は「0」となる。
図13に戻って、ステップS23の光量制御処理が終了すると、制御部2がレーザ発振器13にm回目のリセット信号を伝達し、レーザ発振器13によってレーザ光が照射される。照射されたレーザ光は、照明光学系14によって空間光変調デバイス15に導かれ、空間光変調デバイス15によって複数のビームに変調される(マルチビーム化される)。各マイクロミラーにより形成されるビームは、レーザ光が入射したときの各マイクロミラーの配置角度θに応じた光量となり、結像光学系16に導かれて基板9に向けて照射される。このとき複数のビームはビームピッチで露光ヘッド11から照射され、これにより、パターンの露光が行われる(ステップS24)。
ステップS24が実行され、m回目の露光が終了すると、カウンタmの値をインクリメントして(ステップS25)、カウンタmの値が「M」より大きいか否かを判定する(ステップS26)。ステップS26が実行されるときにカウンタmの値がM以下の場合とは、露光(ステップS24)が未だM回実行されていないことを意味するので、この場合はパターンの露光が完了していないと判断してステップS22に戻って処理を繰り返す。一方、ステップS26が実行されるときにカウンタmの値がMより大きい場合とは、露光(ステップS24)が既にM回実行されたことを意味するので、この場合はパターンの露光が完了したと判断して処理を終了する。
図15は、図12に示す光量データ211に基づいて露光されるパターンを示した図である。ただし、パターンのエッジを形成する露光領域以外の一部の露光領域については円の図示を省略している。
図12に示す光量データ211に基づいて、ステップS24を実行してパターンを露光すると、図15に網掛けで示す領域が各ビームによって露光される領域となり、この領域がパターンを形成する領域となる。本実施の形態における露光装置1は、ビームピッチより小さい制御ピッチでパターンを露光できており、図22に示す従来の露光方法によるパターンのエッジよりも、より太線Lに沿った滑らかなエッジが表現できている。
以上のように、第1の実施の形態における露光装置1は、ビームとなる照明光を照射するレーザ発振器13と、所定のビームピッチに応じたサイズの露光ピクセルPによってパターンを表現した光量データ211に基づいて、ビームの光量を制御する光量制御部200と、光量制御部200により制御されたビームを所定のビームピッチで照射しつつ、少なくとも所定のビームピッチよりも小さい制御ピッチでパターンを露光する露光ヘッド11とを備えることにより、ビームピッチよりも小さい制御ピッチを露光分解能とすることができるため、ビームピッチのサイズに依拠した解像度よりも優れた解像度でパターンを露光することができる。
また、制御ピッチに応じたサイズの制御ピクセルQによってパターンを表現したパターンデータ210に基づいて、光量データ211を作成するデータ変換部201をさらに備えることにより、露光分解能に応じたデータを露光装置1に与えるだけでパターンを露光できる。
<2. 第2の実施の形態>
第1の実施の形態では、パターンデータ210を光量データ211に変換する機能を、ソフトウェアによって実現される機能ブロックとしてのデータ変換部201によって実現するとして説明した。しかしながら、このような機能をハードウェアによって実現してもよい。
図16は、第2の実施の形態における露光装置1aを示す図である。第2の実施の形態における露光装置1aは、制御部2の代わりに制御部2aを備えている点が第1の実施の形態における露光装置1と異なっている。そして、制御部2aは、主にハードウェアとして実現されるデータ変換部3を備えている点と、図示は省略するがデータ変換部201に相当する機能ブロックを有していない点とが、第1の実施の形態における制御部2と異なっている。以下、第1の実施の形態における露光装置1と共通する点については適宜説明を省略しつつ、第2の実施の形態における露光装置1aを説明する。
図17は、第2の実施の形態におけるデータ変換部3の構成を示す図である。図17に示すように、データ変換部3は、単位領域メモリ30、8個のLUT回路31,32,33,34,35,36,37,38、および、選択回路39を備えている。
単位領域メモリ30は、記憶装置21に記憶されているパターンデータ210から、注目する単位領域Eに含まれる全ての制御ピクセルQ(15×15個)の画素値を読み出してきてバッファリングすることが可能な記憶容量を備えたメモリである。ただし、単位領域メモリ30は、少なくとも図17にハッチングで示す制御ピクセルQ(57個)の画素値を記憶できればよい。
各LUT回路31ないし38は、ビームの光軸位置となる制御ピクセルQ(図17において黒色の制御ピクセルQ)から、図17に示すそれぞれの方向(8方向)に並ぶ制御ピクセルQ(いずれの方向についても7個存在する。)を入力信号(7bitの信号となる。)とする。すなわち、各LUT回路31ないし38には、それぞれの方向に並んだ7個の制御ピクセルQが単位領域メモリ30から入力される。
ビームの光軸位置となる制御ピクセルQに対して左上方向に存在する露光ピクセルP00の制御ピクセルQ22がエッジ制御ピクセルEQであった場合、LUT回路31には、「0011111」を示す入力信号が入力される。なお、本実施の形態では、各LUT回路31ないし38に入力される入力信号において、下位bitほど単位領域Eにおける中央に近い位置にある制御ピクセルQを示すものとする。ただし、入力信号のうちのどのbitが7個の制御ピクセルQのうちのいずれに対応するかは自由に設定すればよい。
各LUT回路31ないし38は、ルックアップテーブルを構成しており、7個の制御ピクセルQのそれぞれがエッジ制御ピクセルEQとなった場合の光量値を格納している。ここに言う光量値は、ビーム特性データに応じて、各制御ピクセルQごとに求めて格納しておくことができる。
第1の実施の形態では、エッジ光量データとして、単位領域Eを構成する全ての制御ピクセルQ(225個の制御ピクセルQ)について光量値を求めて記憶していた。しかしながら、第2の実施の形態における露光装置1aは、ビームの光軸位置に対応する制御ピクセルQの位置からの所定の方向(8方向)についてのみ(7個×8方向=56個)の光量値を記憶するだけでよい。したがって、データ変換部3は、簡易な構成で、高速に光量データ211を作成できる。
各LUT回路31ないし38は、入力信号に応じて、ルックアップテーブルに格納されている光量値のいずれか(入力信号に示される制御ピクセルQがエッジ制御ピクセルEQとなった場合の光量値)を選択回路39に出力する。
選択回路39は、各LUT回路31ないし38から入力される光量値から最適値(最小値)を選択して、露光ピクセルP(注目している単位領域Eにおける露光ピクセルP11)の光量値とする。これにより、データ変換部3によって、記憶装置21に光量データ211が作成される。
図18は、図8に示したパターンデータ210および単位領域Eについて、第2の実施の形態におけるデータ変換部3が8方向についての判定を行う様子を概念的に示す図である。図18に示すように、データ変換部3は、8方向についてのパターンでのみ判定する。したがって、選択回路39に入力される光量値も8個である。
そして、図18に示す例では、右上方向に検出されたエッジ制御ピクセルEQ(露光ピクセルP11の制御ピクセルQ13)の光量値(LUT回路33の出力値)が最小値となる。したがって、この値が選択回路39から出力され、露光ピクセルP11の光量値となる。
以上のように、第2の実施の形態における露光装置1aは、ビームの光軸位置に対応する制御ピクセルQの位置からの8方向についてのみ判定するデータ変換部3を備えることにより、全ての制御ピクセルQに対してエッジ検出する場合に比べて高速に光量データ211を作成できる。なお、所定の方向は8方向に限定されるものではなく、4方向や16方向であってもよい。
また、このように簡素化することにより、データ変換部3をハードウェアによって容易に実現でき、ソフトウェアによって実現する場合に比べて、さらに高速に光量データ211を作成できる。ただし、第2の実施の形態におけるデータ変換部3の機能の一部または全部をソフトウェアによって実現してもよい。その場合であっても、エッジ検出を8方向に限定したことによって、第1の実施の形態におけるデータ変換部201よりも高速に光量データ211を作成できる。
なお、第2の実施の形態におけるデータ変換部3においても第1の実施の形態と同様に、ビームの光軸位置の制御ピクセルQ(露光ピクセルP11の制御ピクセルQ22)の画素値がパターンデータ210において「0」の場合は、露光ピクセルP11の光量値を「0」とする。
<3. 第3の実施の形態>
パターンデータ210を光量データ211に変換する手法はエッジ制御ピクセルEQを検出する手法に限定されるものではない。
図19は、第3の実施の形態における露光装置1bのデータ変換部4を示す図である。第3の実施の形態における露光装置1bは、データ変換部3の代わりにデータ変換部4を備えている点が、第2の実施の形態における露光装置1aと異なっている。以下、第3の実施の形態における露光装置1bにおいて露光装置1aと異なる点について説明する。
データ変換部4は、単位領域メモリ40、メモリ48、選択回路49、s個のテンプレートメモリ411ないし41s、および、s個のマッチング回路421ないし42sを備えている(sは2以上の整数。ただし、sは10程度が好ましい。)。
単位領域メモリ40は、単位領域メモリ30に相当する構成であり、注目する単位領域Eに含まれる全ての制御ピクセルQ(225個の制御ピクセルQ)の画素値をバッファリング可能な記憶容量をもつメモリである。なお、図19では、図8に示すパターンデータ210および単位領域Eについて画素値が単位領域メモリ40に読み込まれた状態を示す。
各テンプレートメモリ411ないし41sには対応するマッチング回路421ないし42sが設けられている。各テンプレートメモリ411ないし41sには、ビームの光量に応じた露光領域のビットマップデータがテンプレートとして、それぞれに1つずつ格納されている。すなわち、各テンプレートメモリ411ないし41sはそれぞれが異なるテンプレートを記憶しており、データ変換部4はs個のテンプレートを記憶している。なお、各テンプレートはビームの光量ごとに実験により予め求めておくことができる。
各テンプレートメモリ411ないし41sに格納されているテンプレートは、格納されているテンプレートメモリ411ないし41sに対応するマッチング回路421ないし42sにパターンとして入力される。
各マッチング回路421ないし42sには、単位領域メモリ40に格納されているパターンと、対応するテンプレートメモリ411ないし41sに格納されているテンプレートのパターンとが入力され、2つのパターンについてのマッチング処理が行われる。2つのパターンのマッチング処理については、従来から様々な手法が提案されており、これらを適宜用いることが可能であるため詳細は省略する。
各マッチング回路421ないし42sは、マッチング処理の結果を選択回路49に出力する。
メモリ48は、各テンプレートに対応した光量値を示すテンプレート光量データ480を記憶している。テンプレート光量データ480として格納される光量値は、実験により各テンプレートを求めたときのビームの光量として取得され、記憶される。
選択回路49は、各マッチング回路421ないし42sからの入力に応じて、最もよくマッチングしたテンプレートを決定し、当該テンプレートに対応する光量値をテンプレート光量データ480を参照することにより取得する。
例えば、選択回路48は、マッチング回路421からのマッチング結果が最も優れていた場合には、テンプレートメモリ411に記憶されているテンプレートを、単位領域メモリ40に記憶されているパターンと最もよくマッチングしたパターンとして決定する。さらに、テンプレートメモリ411に記憶されているテンプレートに対応した光量値をメモリ48のテンプレート光量データ480から取得して、注目している単位領域Eの露光ピクセルP11の光量値とする。
以上のように、第3の実施の形態における露光装置1bにおいても、データ変換部4によって光量データ211を作成することができる。また、露光装置1bは、光量データ211を主にハードウェアによって構成されるデータ変換部4によって作成することにより、高速に処理することができる。ただし、データ変換部4の機能の一部または全部をソフトウェアによって実現してもよい。
<4. 第4の実施の形態>
パターンデータ210から光量データ211を求める手法は、上記実施の形態に示した例に限定されるものではない。
図20は、第4の実施の形態における露光装置1cのデータ変換部3aを示す図である。第4の実施の形態における露光装置1cは、データ変換部3の代わりにデータ変換部3aを備えている点が、第2の実施の形態における露光装置1aと異なっている。以下、第4の実施の形態における露光装置1cにおいて、主に露光装置1aと異なる点について説明する。
データ変換部3aは、単位領域メモリ30a、9個のLUT回路310ないし318、および、選択回路39を備えている。
単位領域メモリ30aは、注目する単位領域Eに含まれる全ての制御ピクセルQ(225個の制御ピクセルQ)の画素値をバッファリング可能な記憶容量をもつメモリである。なお、図20では、図8に示すパターンデータ210および単位領域Eについて画素値が単位領域メモリ30aに読み込まれた状態を示す。
LUT回路310ないし318には、注目している単位領域Eにおいて、対応する露光ピクセルP00ないしP22の画素値が入力信号として入力される。言い換えれば、単位領域Eにおけるパターンは単位領域Eを構成する露光ピクセルP00ないしP22に応じて9個に分割され、分割された各パターンは対応するLUT回路310ないし318に1つずつ入力される。
例えば、LUT回路310には、単位領域メモリ30aに記憶されている225個の画素値のうち、露光ピクセルP00を構成する25個の制御ピクセルQの画素値が入力される。また、LUT回路318には、単位領域メモリ30aに記憶されている225個の画素値のうち、露光ピクセルP22を構成する25個の制御ピクセルQの画素値が入力される。したがって、各LUT回路310ないし318への入力信号はいずれも25bitの信号となる。
LUT回路310ないし318は、入力信号(露光ピクセルPごとに分割されたパターンを表現した信号)をアドレスとするルックアップテーブルを構成している。そして、各アドレスに格納されるデータは、露光ピクセルP11に照射された場合に入力信号に表現されたパターンを最も精度よく再現するビームの光量値である。
したがって、例えば、注目する単位領域Eの露光ピクセルP00を構成する25個の制御ピクセルQの画素値をLUT回路310に入力すると、当該露光ピクセルP00におけるパターンを再現するために、注目する単位領域Eの露光ピクセルP11に照射すべきビームの最も適した光量値がLUT回路310から出力される。
すなわち、各LUT回路310ないし318に入力信号が与えられると、注目する単位領域Eを構成する露光ピクセルP00ないしP22に示されているパターン(分割パターン)を露光するために最も適した光量値が各LUT回路310ないし318から選択回路39に向けて出力される。
選択回路39は、入力される9個の光量値から最小値を最適値として選択し、選択した光量値を、注目する単位領域Eの露光ピクセルP11に照射されるビームの光量値として決定する。
以上のように、第4の実施の形態における露光装置1cのデータ変換部3aは、ルックアップテーブルを参照しつつ光量データ211を作成することができる。なお、露光装置1cでは、データ変換部3aを主にハードウェアによって実現すると説明したが、データ変換部3aの機能の一部または全部をソフトウェアによって実現してもよい。
<5. 変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
例えば、上記実施の形態では、光量データ211は露光ピクセルごとの光量値が格納されたデータであると説明したが、データ変換部201,3,3a,4が露光ピクセルごとに式5に従って経過時間tnを予め演算してこれを光量データ211としてもよい(実質的な意味では遅延時間データとなる)。この場合、光量制御部200は、式5を演算する必要がない。すなわち、光量データ211は、光量に応じて決定される値であって、ビームの光量を制御できる数値であれば、直接的に光量値を示していないデータであってもよい。
また、光量データ211は、露光装置1がパターンデータ210に基づいて作成すると説明した。しかし、光量データ211に相当するデータを外部のコンピュータによって作成してから露光装置1に入力し、記憶させるように構成してもよい。すなわち、光量データ211に相当するデータは露光装置1によって作成される構成に限定されるものではない。
また、上記実施の形態に示した各工程は一例であって、これに限定されるものではない。すなわち、同様の効果が得られるならば、各工程の内容や順序を適宜変更してもよい。