本発明の態様に係るパターン描画装置について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。なお、本発明の態様は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、多様な変更または改良を加えたものも含まれる。つまり、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれ、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態によるパターン描画装置(露光装置)EXの概略的な全体構成を示す図であり、図2は図1のパターン描画装置EXに組み込まれる描画ユニットの配置を示す斜視図である。図1、図2において、特に断わりのない限り重力方向をZ方向とするXYZ直交座標系を設定し、図に示す矢印にしたがってX方向、Y方向、およびZ方向とする。
本実施の形態におけるパターン描画装置EXは、可撓性の基板Pに露光処理を施して、主に電子デバイスを製造するデバイス製造システムで使われるが、精密なメタルハードマスクを製造するマスク製造システムとしても使われる。基板Pは、製造システム内で施される各処理において熱を受ける場合があるため、熱膨張係数が顕著に大きくない材質を選定することが好ましい。例えば、無機フィラーを樹脂フィルムに混合することによって熱膨張係数を抑えることができる。無機フィラーは、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、または酸化ケイ素などでもよい。また、基板Pは、フロート法などで製造された厚さ100μm程度の極薄ガラスの単層体であってもよいし、この極薄ガラスに上記の樹脂フィルムや箔などを貼り合わせた積層体であってもよい。さらに、基板Pはステンレス(SUS)等の金属薄板(厚さは1mm程度)であっても良い。基板Pとして、セルロースナノファイバー(CNF)を含有した数百μm以下の厚みのフィルム(以下、CNFシート基板とも呼ぶ)を用いると、PET(ポリエチレン・テレフタレート)等のフィルムに比べて高温(例えば200℃程度)の処理にも耐え、CNFの含有率を高めることで線熱膨張係数を銅やアルミニウム程度にすることができる。
図1に示すように、枚葉の基板Pは、モータ等を含む駆動ユニットDUによってXY面内で2次元に移動可能なステージ機構ST上に真空吸着等により平坦に保持される。ステージ機構STに支持された基板Pの表面の感光層には、図2にも示すように配置された6つの描画ユニットU1~U6の各々から投射されるビームLB1~LB6の各々によるスポット光によって所望のパターンが描画される。6つの描画ユニットU1~U6の各々の内部構成は同一であって、図1に示すようにポリゴンミラーPMとテレセントリックな走査用レンズ系(例えば、fθレンズ系)FTとを含む。描画ユニットU1~U6の各々のポリゴンミラーPMで走査されるビームLB1~LB6は、fθレンズ系FTによって基板P上で直径が数μm程度のスポット光として集光され、Y方向に一次元走査される。ポリゴンミラーPMによるスポット光の走査方向(Y方向)を主走査方向とし、それと直交するX方向を副走査方向とする。基板Pにパターンを描画する際、ステージ機構STは基板Pを副走査方向(X方向)に等速度で移動させる。6つの描画ユニットU1~U6の各々は、図1、図2に示すように、XZ面内での断面形状が角柱状でY方向に延設された基準コラム部材CF2のX方向の両側に、Z軸方向に延設された回転シャフト部LEn(図2では、描画ユニットU1に対応した回転シャフト部LE1のみを示す)を介して軸支されている。
基準コラム部材CF2の-X方向側には、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5がY方向に一定の間隔で配置され、基準コラム部材CF2の+X方向側には、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6がY方向に一定の間隔で配置される。このように、複数の描画ユニットU1~U6の各々を、回転シャフト部LEnで軸支してXY面内で微少回転可能とする構成の具体例は、例えば国際公開第2016/152758号パンフレットに開示されている。なお、図2に代表して示すように、描画ユニットU1から基板Pに投射されるスポット光が主走査方向(Y方向)に走査される際の軌跡を描画ラインSL1としたとき、他の奇数番の描画ユニットU3、U5の各々によるスポット光の走査軌跡である描画ラインSL3、SL5は、描画ラインSL1と同軸にY方向に延びる線上に配置され、同様に、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々によるスポット光の走査軌跡である描画ラインSL2、SL4、SL6の各々は、Y方向に延びる線上に配置される。6つの描画ラインSL1~SL6の各々によって基板P上に描画されるパターンは、基板P上でY方向に継ぎ合わせることができる。
図1、図2に示すように、基準コラム部材CF2のY方向の両端部付近には、ステージ機構STのX方向の移動位置を計測するための測長用の干渉計IFSxの基準となる固定鏡MRxが固定される。干渉計IFSxは、ステージ機構STのX方向の端部にY方向に棒状に延びて設けられた移動鏡(バーミラー)SMxと固定鏡MRxとの各々にレーザビームを投射して、固定鏡MRxを基準にして移動鏡SMx(即ちステージ機構ST)のX方向の移動位置、及びXY面内での微少な回転誤差(ヨーイング量)を計測する。また、図1では図示を省略したが、ステージ機構STのY方向の移動位置を計測するための測長用の干渉計IFSyも設けられ、干渉計IFSyは、ステージ機構STのY方向の端部にX方向に棒状に延びて設けられた移動鏡(バーミラー)SMyと、基準コラム部材CF2のY方向の中央内部に設けられた固定鏡MRyとの各々にレーザビームを投射して、固定鏡MRyを基準にして移動鏡SMy(即ちステージ機構ST)のY方向の移動位置を計測する。図2に示すように、固定鏡MRxの反射面はYZ面と平行であり、干渉計IFSxから固定鏡MRxに向かうビーム(及び反射ビーム)IBrxは、X軸と平行に設定される。また、基準コラム部材CF2のY方向の中央内部に設けられる固定鏡MRyの反射面はXZ面と平行であり、干渉計IFSyから固定鏡MRyに向かうビーム(及び反射ビーム)IBryは、基準コラム部材CF2のY方向の端部から中央部に向けてくり貫かれた貫通部CF2aを通るように配置される。その他に、ステージ機構STのピッチング(例えば、Y軸回りの微小傾斜)量とローリング(例えばX軸回りの微小傾斜)量との各々を計測する干渉計ユニットも設けられ、ステージ機構ST(基板P)の3次元的な姿勢変化も計測される。
以上の構成で、干渉計IFSxの計測基準となる固定鏡MRxの反射面は、XY面内でみたとき、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5が通るY軸と平行な線と、偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6が通るY軸と平行な線とのX方向の中間位置に配置され、干渉計IFSyの計測基準となる固定鏡MRyの反射面は、XY面内でみたとき、6つの描画ラインSL1~SL6をY方向に継ぎ合わせた全長(全幅)の中間位置に配置される。従って、干渉計IFSx、IFSyによるステージ機構STの2次元の移動位置は、XY面内でみたとき、6つの描画ラインSL1~SL6で囲まれる長方形の領域(ビーム投射領域)の幾何学的な中心点を基準として計測される。なお、図1に示すように、ステージ機構STの周辺部には、載置される基板Pの表面と同じ高さに設定された基準板FMが固定されている。基準板FMの表面には、描画ユニットU1~U6の各々から投射されるスポット光によって走査可能な基準パターンや、基板P上のマークを検出する為のアライメント系(マーク検出ユニット)AMA、AMBによっても検出可能な基準マーク等が形成されている。アライメント系AMA、AMBは、基板P上の感光層に対してほとんど感度を持たない波長域(波長500nm以上)の照明光を、基板P上のマーク(基板マーク)や基準板FM上の基準マークに照射する照明系と、基板マークや基準マークからの反射光を受光して、各マークの拡大像を撮像する撮像素子を含む検出系と、を備える。
図1に示すように、6つの描画ユニットU1~U6の各々に入射するビームLB1~LB6は、コラム定盤CF1上に取り付けられた光源装置LSからの紫外波長域のレーザビームLBを高速に時分割にスイッチングして供給される。光源装置LSは、本実施の形態では、後で個別に説明するが、周波数(発振周波数、所定周波数)Faでパルス状に発光するビーム(パルスビーム、パルス光、レーザ)LBを射出する。このビームLBは、240~400nm程度の紫外波長帯域のいずれかにピーク波長を有し、波長幅が数十pm以下の紫外線光であり、基板Pの感光層に対して感度を有する。本実施の形態における光源装置LSは、例えば、赤外波長域のパルス状の種光を発生する半導体レーザ素子、ファイバー増幅器、および、増幅された赤外波長域の種光を355nmの紫外波長のパルス光に変換する波長変換素子(高調波発生素子)などで構成されるファイバーアンプレーザ光源とする。このように光源装置LSを構成することで、発振周波数Faが数百MHz(例えば400MHz)で、1パルス光の発光時間が数十ピコ秒以下の高輝度な紫外線のパルス光が得られる。光源装置LSからX方向に発生するビームLBは、ビーム径が1mm程度のほぼ平行な光束となって第1のビーム調整系BMUを通り、ミラーM1で-Z方向に反射された後、コラム定盤CF1上に、6つの描画ユニットU1~U6の各々に対応して配置された6つの選択用光学素子(音響光学変調器:AOM)をXY面と平行な面内でシリアルに透過するように導かれる。その6つのAOMのいずれか1つをオン状態(偏向状態)にすることで、光源装置LSからのビームLBは、6つの描画ユニットU1~U6のいずれか1つに順番にスイッチングして供給される。このように、複数の描画ユニットU1~U6のいずれか1つに順番にビームLBをスイッチングして供給する方式は、例えば、国際公開第2015/166910号パンフレット、又は国際公開第2017/057415号パンフレットに開示されている。なお、図1のミラーM1は、第1のビーム調整系BMUから射出するビームLBに対して98%程度の反射率と2%程度の透過率を有する誘電体多層膜によるレーザミラーであり、ミラーM1を透過したビームLBの一部(2%程度)は、光電センサDTaによって受光され、ビームLBの強度に対応した信号が得られる。
6つのAOMの各々のいずれかでスイッチングされたビームLB1~LB6は、コラム定盤CF1の開口部を-Z方向に透過して、それぞれ描画ユニットU1~U6の各々に対応して設けられた第2のビーム調整系BV1~BV6を通って、描画ユニットU1~U6に供給される。ビーム調整系BV1~BV6の各々は、内部に光路長を調整する為の複数の折り返しミラーの他に、レンズ素子、ビームLB1~LB6の各々の進行方向を横方向に微少シフトさせる傾斜可能な石英の平行平板、ビームLB1~LB6の各々の進行方向を微少角度だけ傾ける回転可能な頂角プリズム等を備える。ビーム調整系BV1~BV6の各々は、描画ユニットU1~U6に入射するビームLB1~LB6の各々を、Z軸と平行な状態で、且つXY面内の規定位置を通るように調整することができる。6つの描画ユニットU1~U6の各々は、図2では代表して描画ユニットU1内のビーム光路として模式的に示すように、ビーム調整系BV1から-Z方向に進むビームLB1を-X方向に直角に反射させるミラーM20、ミラーM20からのビームLB1を-Y方向に折り曲げるミラーM20a、ミラーM20aからのビームLB1を偏光状態により-X方向に折り曲げる偏光ビームスプリッタBS1、偏光ビームスプリッタBS1からのビームLB1を-Z方向に折り曲げるミラーM21、ミラーM21からのビームLB1を+X方向に折り曲げるミラーM22、ミラーM22からのビームLB1をポリゴンミラーPMの反射面に向けてXY面内で折り曲げるミラーM23、ポリゴンミラーPMで偏向されてfθレンズ系FT(図2では図示省略)を通ったビームLB1(XY面内でY方向にテレセントリックに走査される)を-Z方向に折り曲げるミラーM24と、を備える。
〔描画ユニットUnの光学構成〕
次に、図3を参照して描画ユニットUn(U1~U6)の光学的な構成について説明するが、ここでは、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5を想定して構成を説明する。図3に示すように、描画ユニットUn内には、ビームLBnの入射位置から被照射面(基板Pの表面)までのビームLBnの進行方向に沿って、図2で説明したミラーM20、ミラーM20a、偏光ビームスプリッタBS1、ミラーM21、ミラーM22、M23、ポリゴンミラーPM、ミラーM24の他に、レンズ系Gu1、レンズ系Gu2、開口絞りNPA、第1のシリンドリカルレンズCYa、fθレンズ系FT、及び第2のシリンドリカルレンズCYbが、ユニットフレーム内に一体となるように設けられる。ユニットフレームは図1、図2で示した基準コラム部材CF2に回転シャフト部LEnを介して取り付けられる。ミラーM20で-X方向に反射されてミラーM20aに向かうビームLBnの光路中の2つのレンズ系Gu1、Gu2は、入射してくるビームLBn(直径が1mm以下)の断面の直径を数mm(一例としては8mm)程度に拡大した平行光束に変換するビームエキスパンダ系として構成される。レンズ系Gu1は入射してくるビームLB1(平行光束)を集光面Po1でビームウェストとなるように収斂させ、レンズ系Gu2は集光面Po1から発散して進むビームLBnを平行光束に変換する。ビームエキスパンダ系で拡大されたビームLBnは、ミラーM20aで-Y方向に反射された後、偏光ビームスプリッタBS1に入射する。ビームLBnは、偏光ビームスプリッタBS1で-X方向に効率的に反射されるような直線偏光に設定されている。なお、偏光ビームスプリッタBS1の開口絞りNPA側の面には1/4波長板が設けられている。
偏光ビームスプリッタBS1で反射されたビームLBn(円偏光)は、円形開口を有する開口絞りNPAによって、ビームLB1の強度プロファイル上の周辺部(例えば裾野の1/e2以下の強度部分)がカットされる。開口絞りNPAを透過してミラーM21で-Z方向に反射されたビームLBnは、第1のシリンドリカルレンズCYaに入射する。また、描画ユニットUn内には、基板Pの表面(または基準板FMの表面)で反射したビームLBnの反射光を、fθレンズ系FT、ポリゴンミラーPM、および、偏光ビームスプリッタBS1等を介して検出するためのレンズ系Gu4と光検出器(光電センサ)DToが設けられる。光電センサDToとしては、PINフォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード(APD)、金属-半導体-金属(MSM)フォトダイオード等が利用できる。
描画ユニットUnに入射したビームLBnは、回転シャフト部LEnの回転中心軸と同軸になるように-Z方向に進み、XY平面に対して45°傾いたミラーM20に入射する。ミラーM20で反射したビームLBnは、レンズ系Gu1、レンズ系Gu2を通って-X方向に離れたミラーM20aに向けて平行光束となって進む。ミラーM20aは、YZ平面に対して45°傾いて配置され、入射したビームLBnを偏光ビームスプリッタBS1に向けて-Y方向に反射する。偏光ビームスプリッタBS1の偏光分離面はYZ平面に対して45°傾いて配置され、P偏光のビームを反射し、P偏光と直交する方向に偏光した直線偏光(S偏光)のビームを透過する。描画ユニットUnに入射するビームLBnをP偏光のビームとすると、偏光ビームスプリッタBS1は、ミラーM20aからのビームLBnを-X方向に反射させて開口絞りNPAを介してミラーM21側に導く。ミラーM21はXY平面に対して45°傾いて配置され、入射したビームLBnを第1のシリンドリカルレンズCYaを通すようにミラーM22に向けて-Z方向に反射する。ミラーM22は、XY平面に対して45°傾いて配置され、入射したビームLBnをミラーM23に向けて+X方向に反射する。ミラーM23は、入射したビームLBnをポリゴンミラーPMに向けて反射する。
第1のシリンドリカルレンズCYaは、図3中ではX方向(副走査方向)にビームLBnを収斂する屈折力を有し、Y方向(主走査方向)には屈折力を有しないように、母線方向が設定される非等方性の屈折力を有する屈折光学素子である。従って、シリンドリカルレンズCYaを通った後のビームLBnは、結果的に、副走査方向(図3に示したポリゴンミラーPMの回転軸AXpの方向)に関しては収斂ビームとなり、主走査方向(ポリゴンミラーPMによるビームの偏向方向)に関しては平行ビームとなる。さらに、シリンドリカルレンズCYaから射出して、ミラーM22、M23を介してポリゴンミラーPMの反射面上に照射されるビームLBnは、主走査方向に関しては細長く延び、副走査方向に関しては絞られたスリット状に集光される。
ポリゴンミラーPMは、入射したビームLBnをX軸と平行な光軸AXfを有するfθレンズ系FTに向けて+X方向側に反射する。ポリゴンミラーPMは、ビームLBnのスポット光SPを基板Pの表面上で走査するために、入射したビームLBnをXY平面と平行な面内で1次元に偏向(反射)する。ポリゴンミラーPMは、Z軸方向に延びる回転軸AXpの周りに形成された複数の反射面(本実施の形態では正八角形の各辺)を有し、回転軸AXpと同軸の回転モータRMによって回転される。回転モータRMは、描画制御装置200(次の図4で後述する)によって、指定された回転速度(例えば、3万~4万rpm程度)で回転する。パターンデータに応答して実際に描画が可能な描画ラインSLn(SL1~SL6)の実効的な長さ(例えば、50mm)は、このポリゴンミラーPMによってスポット光SPを走査することができる最大走査長(例えば、52mm)以下の長さに設定されており、初期設定(設計上)では、最大走査長の中央に描画ラインSLnの中心点(fθレンズ系FTの光軸AXfが通る点)が設定されている。さらに、描画ユニットUn内には、描画ユニットUnの描画開始タイミング(スポット光SPがfθレンズ系FTの光軸AXfに対して特定の像高位置になった瞬間)を検出するために、ポリゴンミラーPMの各反射面の角度が所定の角度位置になった瞬間にパルス状に変化する原点信号SZnを出力する原点センサ(原点検出器)としてのビーム送光系60aとビーム受光系60bとが設けられる。ポリゴンミラーPMが8つの反射面を有する場合、ビーム受光系60bは、ポリゴンミラーPMの1回転中に8回の原点信号SZn(8回の波形変化)を出力する。
第1のシリンドリカルレンズCYaによって、ビームLBnはポリゴンミラーPMの反射面上でXY平面と平行な方向に延びたスリット状(長楕円状)に収斂する。fθレンズ系FTの後に配置され、副走査方向にビームLBnを収斂する屈折力を有し、Y方向(主走査方向)には屈折力を有しない第2のシリンドリカルレンズCYbと、第1のシリンドリカルレンズCYaとによって、ポリゴンミラーPMの各反射面がZ軸(回転軸AXp)と平行な状態から傾いても、基板Pの表面に照射されるビームLBnのスポット光SP(描画ラインSLn)の照射位置を副走査方向(X方向)にずれないようにする面倒れ補正系が構成される。図3に示すビームLBnの光路において、副走査方向に関してはポリゴンミラーPMの各反射面と基板Pの表面(又はビームLBnがスポット光SPとして集光されるベストフォーカス面)とは、fθレンズ系FTとシリンドリカルレンズCYbの合成光学系によって光学的に共役な関係(結像関係)に設定される。従って、レンズ系Gu1の後の集光面Po1と、基板Pの表面(又はベストフォーカス面)とは、光学的に共役関係となっている。その為、レンズ系Gu1の光軸方向の配置を調整することにより、集光面Po1の位置が光軸方向に微調整され、基板P上でのスポット光SPのフォーカス状態を調整することができる。なお、基板P上のスポット光SPのフォーカス状態は、レンズ系Gu1の後のレンズ系Gu2を光軸方向に位置調整しても変えることができる。
ビームLBnのfθレンズ系FTへの入射角θ(光軸AXfに対する角度)は、ポリゴンミラーPMの回転角(θ/2)に応じて変わる。ビームLBnのfθレンズ系FTへの入射角θが0度のとき、fθレンズ系FTに入射したビームLBnは、光軸AXf上に沿って進む。fθレンズ系FTからのビームLBnは、ミラーM24で-Z方向に反射され、第2のシリンドリカルレンズCYbを介して基板Pに向けて投射される。fθレンズ系FTおよび母線がY方向と平行なシリンドリカルレンズCYb、さらにはビームエキスパンダ系(レンズ系Gu1、Gu2)と開口絞りNPAの作用によって、基板P上に投射されるビームLBnは、波長355nm、開口数(NA)を0.06としたとき、ベストフォーカス面で直径が2~3μm程度の微小なスポット光SPに収斂される。以上の図3に示した描画ユニットUnの構成は、描画ユニットU1~U6の各々についても全く同じに構成される。これによって、6つの描画ユニットU1~U6の各々がビームLB1~LB6の各スポット光SPを主走査方向(Y方向)に一次元に走査しつつ、基板PをX方向に移動させることによって、基板Pの表面がスポット光SPによって相対的に2次元走査され、基板P上には描画ラインSL1~SL6の各々で描画されるパターンがY方向に継ぎ合わされた状態で露光される。
本実施の形態の場合、光源装置LSからのビームLBが、数十ピコ秒以下の発光時間のパルス光である為、主走査の間に描画ラインSLn上に投射されるスポット光SPは、ビームLBの発振周波数Fa(例えば、400MHz)に応じて離散的になる。そのため、ビームLBの1パルス光によって投射されるスポット光と次の1パルス光によって投射されるスポット光とを、主走査方向(並びに副走査方向)にオーバーラップさせる必要がある。そのオーバーラップの量は、スポット光の実効的なサイズφ、スポット光の主走査の速度Vsp、および、ビームLBの発振周波数Faによって設定される。スポット光の実効的なサイズ(直径)φは、スポット光の強度分布がガウス分布で近似される場合、スポット光のピーク強度1/e2(または半値全幅)の強度となる幅寸法で決まる。本実施の形態において、典型的(標準的)な装置設定では、実効的なサイズ(寸法)φに対して、スポット光SPがφ/2程度でオーバーラップするように、スポット光の走査速度Vsp(ポリゴンミラーPMの回転速度)と発振周波数Faとの関係が設定される。したがって、パルス状のスポット光SPの主走査方向に沿った投射間隔はφ/2となる。そのため、副走査方向(描画ラインSLnと交差した方向)に関しても、描画ラインSLnに沿ったスポット光の1回の走査と、次の走査との間で、基板Pがスポット光の実効的なサイズφの略1/2の距離だけ移動するように設定することが望ましい。さらに、Y方向に隣り合う描画ラインSLnを主走査方向に継ぐ場合も、φ/2だけオーバーラップさせることが望ましい。本実施の形態での標準的な装置仕様では、スポット光の基板P上での実効的なサイズ(寸法)φと、描画データ上で設定される1画素の寸法とが同程度に設定される。しかしながら、標準的ではない特別な条件下での描画モード(特殊露光モード)の場合、1画素の寸法をスポット光の実効的なサイズ(寸法)φに対して1/2~1/3程度に小さく設定する場合もある。
一例として、描画ラインSLn(SL1~SL6)の実効的な走査長をLTとして50mmに設定し、スポット光SPの実効的な直径φを4μm、光源装置LSからのビームLBのパルス発光の発振周波数Faを400MHzとし、描画ラインSLn(主走査方向)に沿ってスポット光SPが直径φの1/2ずつオーバーラップするようにパルス発光させる場合、スポット光SPのパルス発光の主走査方向の間隔は基板P上で2μmとなり、これは発振周波数Faの周期Tf(=1/Fa)である2.5nS(1/400MHz)に対応する。また、この場合、描画データ上で規定される画素寸法をDpxとしたとき、Dpxが基板P上で4μm角に設定されるものとすると、1画素は主走査方向と副走査方向の各々に関してスポット光SPの2パルス分で露光される。したがって、スポット光SPの主走査方向の走査速度Vspと発振周波数Faは、Vsp=(φ/2)/Tf=(φ/2)・Faの関係になるように設定される。一方、走査速度Vspは、ポリゴンミラーPMの回転速度VR(rpm)と、実効的な走査長LTと、ポリゴンミラーPMの反射面の数Np(=8)と、ポリゴンミラーPMの1つの反射面による走査効率1/αとに基づいて、以下のように定められる。
Vsp=(8・α・VR・LT)/60〔mm/秒〕 ・・・ 式(1)
したがって、発振周波数Fa(周期Tf)と回転速度VR(rpm)とは、以下の関係になるように設定される。
(φ/2)/Tf=(8・α・VR・LT)/60 ・・・ 式(2)
以上のことから、発振周波数Faを400MHz(Tf=2.5nS)、スポット光SPの直径φを4μmとしたとき、発振周波数Faから規定される走査速度Vspは、0.8μm/nS(=2μm/2.5nS)となる。この走査速度Vspに対応させるためには、走査効率1/αを0.3(α≒3.33)、走査長LTを50mmとしたとき、式2の関係から、8面のポリゴンミラーPMの回転速度VRを36000rpmに設定すればよい。また、本実施の形態では、標準的な装置仕様として、ビームLBnの2パルス分を主走査方向と副走査方向の各々に関して、スポット光SPの直径φの1/2だけオーバーラップさせて1画素とするが、露光量(DOSE量)を高める為に、スポット光SPの直径φの2/3ずつオーバーラップさせた3パルス分、又はスポット光SPの直径φの3/4ずつオーバーラップさせた4パルス分を1画素とするように設定しても良い。従って、1画素当りのスポット光SPのパルス数をNspとすると、先の式2の関係式は、一般化して以下の式3のように表せる。
(φ/Nsp)/Tf=(Np・α・VR・LT)/60 ・・・ 式(3)
標準的な装置仕様(描画条件)においては、この式3の関係を満たすように光源装置LSの発振周波数Fa(周期Tf)とポリゴンミラーPMの回転速度VRとの少なくとも一方が調整される。
〔描画制御系〕
次に、図4を参照して、本実施の形態における描画ユニットU1~U6の各々によるパターン描画の制御、及びスポット光SPの強度や露光量を調整する為の制御を行う描画制御系の概略構成を説明する。図4は、図1に示した光源装置LSからのビームLBを描画ユニットU1~U6の各々に選択的に供給するビーム切換部として図1のコラム定盤CF1上に設けられる6つの選択用光学素子(AOM)OS1~OS6、ミラーM1、M7、M8、M13、6つの選択ミラーIM1~IM6等の配置を模式的に示すと共に、光源装置LS、描画制御装置(描画制御部)200、及び光量計測部202の接続関係を示す。描画制御装置200は、図3に示した描画ユニットUn(U1~U6)の各々のビーム受光系60bからの原点信号SZ1~SZ6を入力して、各描画ユニットUnのパターン描画のタイミングを決定すると共に、選択用光学素子(AOM)OS1~OS6の各々に入射ビームLBを回折により偏向する為の駆動信号DF1~DF6を出力する。図1で説明したように、第1のビーム調整系BMUを通った光源装置LSからのビームLBは、ミラーM1で反射されて、選択用光学素子OS5、OS6、OS3、OS4、OS1、OS2の順に通される。コラム定盤CF1上に設けられるビーム切換部には多数の折り返しミラーが設けられるが、図4では、光路中のミラーM1、M7、M8のみを示し、ビーム光路に沿った最後の選択用光学素子OS2の後には、ミラーM13と吸収体(光トラップ)TRとが設けられる。ミラーM13は、最後の選択用光学素子OS2で偏向されずに透過してきたビームLB(0次回折ビーム)を吸収体TRに向けて反射する。
選択用光学素子OSnの各々は、偏向された1次回折光である描画用のビームLBn(LB1~LB6)を、入射するビームLB(0次ビーム)の中心軸に対して所定角度だけ偏向させるように設置される。選択用光学素子OSnの各々で偏向されたビームLBn(LB1~LB6)は、選択用光学素子OSnの各々から所定距離だけ離れた位置に設けられた選択ミラーIMn(IM1~IM6)に投射される。各選択ミラーIMnは、入射したビームLBn(LB1~LB6)を-Z方向に反射することで、ビームLBn(LB1~LB6)をそれぞれ対応するビーム調整系BV1~BV6(図1参照)を介して描画ユニットUn(U1~U6)に導く。
各選択用光学素子OSnの構成、機能、作用などは互いに同一のものを用いるものとする。複数の選択用光学素子OSnの各々は、描画制御装置200からの駆動信号(高周波信号)DF1~DF6のオン/オフにしたがって、入射したビームLBを回折させた回折光(ビームLBn)の発生をオン/オフする。例えば、ビーム光路の最初の選択用光学素子OS5は、駆動信号DF5が印加されずにオフ状態のとき、入射した光源装置LSからのビームLBを偏向(回折)させずに透過する。したがって、選択用光学素子OS5を透過したビームLBは、次段の選択用光学素子OS6に入射する。一方、駆動信号DF5が印加されて選択用光学素子OS5がオン状態のとき、選択用光学素子OS5は入射したビームLBの1次回折ビームを選択ミラーIM5に向けて偏向(回折)させる。すなわち、駆動信号DF1~DF6のオン/オフによって選択用光学素子OSnによるスイッチング(ビーム選択)動作が制御される。このようにして、各選択用光学素子OSnのスイッチング動作で偏向された光源装置LSからのビームLBを、選択ミラーIMn(IM1~IM6)のいずれか1つで反射させて、対応する描画ユニットUnに導くことができ、且つ、ビームLBnが入射する描画ユニットUnを順次に切り換えることができる。このように、複数の選択用光学素子OSnを光源装置LSからのビームLBが順番に通るように直列(シリアル)に配置して、対応する描画ユニットUnに時分割でビームLBnを供給する構成は、国際公開第2015/166910号パンフレットや国際公開第2017/057415号パンフレットに開示されている通りである。なお、図4では、4段目の選択用光学素子OS4のみが駆動信号DF4の印加によってオン状態になって、光源装置LSからのビームLBの1次回折ビームを描画用のビームLB4として描画ユニットU4に導いている状態を示している。
図4において、図1にも示したが、ミラーM1の裏面側には、光源装置LSから射出したビームLBの強度(光量)を検出する光電センサDTaが設けられ、ミラーM13の裏面側には、全ての選択用光学素子OS1~OS6がオフ状態のときに透過してくるビームLBの強度(光量)を検出する光電センサDTbが設けられる。光電センサDTa、DTbは、図3中に示した光電センサDToと同様に、PINフォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード(APD)、金属-半導体-金属(MSM)フォトダイオードのいずれかで構成される。光電センサDTaから出力される光電信号Saは、光源装置LSから射出されるビームLBの元の強度(光量)をモニターする為に光量計測部202に送られ、光電センサDTbから出力される光電信号Sbも、6つの選択用光学素子OS1~OS6の透過率の変動や回折効率の変動をモニターする為に光量計測部202に送られる。光電センサDToから出力される光電信号Soも、ステージ機構STの基準板FMに形成された基準パターンや基準マークからの反射光量を計測する為に光量計測部202に送られる。
光源装置LSは、ビームLBを周波数Faでパルス発光させる為のクロック信号LTC(例えば、400MHz)を生成するが、そのクロック信号LTCは描画制御装置200と光量計測部202に送られる。描画制御装置200は、スポット光SPの1走査中に描画される画素数分に対応したビット数を含む描画ビット列データSDn(nは描画ユニットU1~U6のいずれかに対応した数)を光源装置LSに送出する。さらに光源装置LSと描画制御装置200とは、インターフェイスバス(シリアルバスでも良い)SJを介して、各種の制御情報(コマンドやパラメータ)をやり取りする。また、描画制御装置200には、図1で説明したステージ機構STの移動位置や移動速度を制御する為のステージ制御装置204が接続されている。ステージ制御装置204は、描画制御装置200から送られてくる指令情報(位置情報や速度情報)と、図1で説明した干渉計IFSx、IFSyで計測されるステージ機構STの位置情報とに基づいて、駆動ユニットDUをサーボ制御する。
〔光源装置LS〕
光源装置LSは、図5に示すようなファイバーアンプレーザ光源(光増幅器と波長変換素子によって紫外パルス光を発生するレーザ光源)とする。図5のファイバーアンプレーザ光源(LS)の構成は、例えば国際公開第2015/166910号パンフレットに詳しく開示されているので、ここでは簡単に説明する。図5において、光源装置LSは、ビームLBを周波数Faでパルス発光させる為のクロック信号LTCを生成する信号発生部120aを含む制御回路120と、クロック信号LTCに応答して赤外波長域でパルス発光する2種類の種光S1、S2を生成する種光発生部135とを含む。種光発生部135は、DFB半導体レーザ素子130、132、レンズGLa、GLb、偏光ビームスプリッタ134等を含み、DFB半導体レーザ素子130は、クロック信号LTC(例えば、400MHz)に応答してピーク強度が大きく峻鋭、若しくは尖鋭なパルス状の種光S1を発生し、DFB半導体レーザ素子132は、クロック信号LTCに応答してピーク強度が小さく緩慢(時間的にブロード)なパルス状の種光S2を発生する。種光S1と種光S2は発光タイミングが同期(一致)していると共に、ともに1パルス当たりのエネルギー(ピーク強度×発光時間)が略同一となるように設定される。さらにDFB半導体レーザ素子130が発生する種光S1の偏光状態はS偏光に設定され、DFB半導体レーザ素子132が発生する種光S2の偏光状態はP偏光に設定される。偏光ビームスプリッタ134は、DFB半導体レーザ素子130からのS偏光の種光S1を透過させて電気光学素子(ポッケルスセル、カーセル等によるEO素子)136に導くと共に、DFB半導体レーザ素子132からのP偏光の種光S2を反射させて電気光学素子136に導く。
電気光学素子136は、図6の描画制御装置200から送られてくる描画ビット列データSDnに応じて、2種類の種光S1、S2の偏光状態を駆動回路136aにより高速に切り換える。駆動回路136aに入力される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がL(「0」)状態のとき、電気光学素子136は種光S1、S2の偏光状態を変えずにそのまま偏光ビームスプリッタ138に導き、描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がH(「1」)状態のとき、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光方向を90度回転させて偏光ビームスプリッタ138に導く。従って、電気光学素子136は、描画ビット列データSDnの画素の論理情報がH状態(「1」)のときは、S偏光の種光S1をP偏光の種光S1に変換し、P偏光の種光S2をS偏光の種光S2に変換する。偏光ビームスプリッタ138は、P偏光の光を透過してレンズGLcを介してコンバイナ144に導き、S偏光の光を反射させて吸収体140に導くものである。偏光ビームスプリッタ138を透過する種光(S1とS2のいずれか一方)を種光ビームLseとする。光ファイバー142aを通ってコンバイナ144に導かれる励起光源142からの励起光(ポンプ光、チャージ光)は、偏光ビームスプリッタ138から射出してくる種光ビームLseと合成されて、ファイバー光増幅器146に入射する。
ファイバー光増幅器146にドープされているレーザ媒質を励起光で励起することにより、ファイバー光増幅器146内を通る間に種光ビームLseが増幅される。増幅された種光ビームLseは、ファイバー光増幅器146の射出端146aから所定の発散角を伴って放射され、レンズGLdを通って第1の波長変換光学素子148に集光するように入射する。第1の波長変換光学素子148は、第2高調波発生(Second Harmonic Generation:SHG)によって、入射した種光ビームLse(波長λ)に対して、波長がλの1/2の第2高調波を生成する。種光ビームLseの第2高調波(波長λ/2)と元の種光ビームLse(波長λ)とは、レンズGLeを介して第2の波長変換光学素子150に集光するように入射する。第2の波長変換光学素子150は、第2高調波(波長λ/2)と種光ビームLse(波長λ)との和周波発生(Sum Frequency Generation:SFG)により、波長がλの1/3の第3高調波を発生する。この第3高調波が、370nm以下の波長帯域(例えば、355nm)にピーク波長を有する紫外パルス光(ビームLB)となる。第2の波長変換光学素子150から発生するビームLB(発散光束)は、レンズGLfによって、ビーム径が1mm程度の平行光束に変換されて光源装置LSから射出する。
駆動回路136aに印加される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がL(「0」)の場合(当該画素を露光しない非描画状態のとき)、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光状態を変えずにそのまま偏光ビームスプリッタ138に導く。そのため、コンバイナ144に入射する種光ビームLseは種光S2由来のものとなる。ファイバー光増幅器146(或いは波長変換光学素子148、150)は、そのようなピーク強度が低く、時間的にブロードな鈍った特性の種光S2に対する増幅効率(或いは波長変換効率)が低いため、光源装置LSから射出されるP偏光のビームLBは、露光に必要なエネルギーまで増幅されないパルス光となる。このような種光S2由来で生成されるビームLBのエネルギーは極めて低く、基板Pに照射されるスポット光SPの強度は極めて低レベルとなる。このように、光源装置LSからは非描画状態のときも、微弱ではあるが紫外パルス光のビームLBが射出し続けるので、そのような非描画状態のときに射出されるビームLBを、オフ・ビーム(オフ・パルス光)とも呼ぶ。
一方、駆動回路136aに印加される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がH(「1」)の場合(当該画素を露光する描画状態のとき)、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光状態を変えて偏光ビームスプリッタ138に導く。そのため、コンバイナ144に入射する種光ビームLseは種光S1由来のものとなる。種光S1由来の種光ビームLseの発光プロファイルは、ピーク強度が大きく尖鋭なので、種光ビームLseはファイバー光増幅器146(或いは波長変換光学素子148、150)によって効率的に増幅(或いは波長変換)され、光源装置LSから出力されるP偏光のビームLBは基板Pの露光に必要なエネルギーを持つ。描画状態のときに光源装置LSから出力されるビームLBは、非描画状態のときに射出されるオフ・ビーム(オフ・パルス光)と区別するために、オン・ビーム(オン・パルス光)とも呼ぶ。このように、光源装置LSとしてのファイバーアンプレーザ光源内に、2種類の種光S1、S2のいずれか一方を描画用光変調器としての電気光学素子136で選択してから光増幅することにより、ファイバーアンプレーザ光源を、描画ビット列データ(SDn)に応答して高速にバースト発光する紫外パルス光源とすることができる。
ところで、図4に示した描画制御装置200は、描画ユニットU1~U6の各々からの原点信号SZ1~SZ6を入力して、描画ユニットU1~U6の各々のポリゴンミラーPMの回転速度を一致させると共に、その回転角度位置(回転の位相)を互いに所定の関係とするようにポリゴンミラーPMの回転を同期制御する機能も備える。さらに描画制御装置200は、原点信号SZ1~SZ6に基づいて、描画ユニットU1~U6の各々のスポット光SPによる描画ラインSL1~SL6で描画すべき描画ビット列データSDnを記憶するメモリを含む。描画制御装置200には、メモリに記憶された描画ビット列データSDnの1画素分のデータ(1ビット)をビームLBの何パルス分で描画するかが予め設定されている。例えば、1画素をビームLBの2パルス(主走査方向と副走査方向との各々に2つのスポット光SP)で描画すると設定されている場合、描画ビット列データSDnのデータは、クロック信号LTCの2クロックパルス毎に1画素分(1ビット)ずつ読み出されて、図5の駆動回路136aに印加される。
本実施の形態では、描画ユニットU1~U6の各々に入射してきたビームLB1~LB6を主走査するためのポリゴンミラーPMの各々が、同一の回転速度で精密に回転しつつ、互いに一定の回転角度位相を保つように、図4の描画制御装置200によって同期制御される。これによって、描画ユニットU1~U6の各々から基板Pに投射されるビームLB1~LB6の各々の主走査のタイミング(スポット光SPの主走査期間)を、互いに重複しないように設定することができる。したがって、ビーム切換部に設けられた選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々のオン/オフの切り替えを、6つのポリゴンミラーPMの各々の回転角度位置に同期して制御することで、光源装置LSからのビームLBを複数の描画ユニットUnの各々に時分割で振り分けた効率的な露光処理ができる。
なお、本実施の形態では、ポリゴンミラーPMが8つの反射面を有し、その1つの反射面による走査効率1/αを1/3程度としたので、ポリゴンミラーPMの約15°未満の回転角度範囲が基板P上でのスポット光SPの1走査の最大走査長(例えば52mm)に対応する。その為、6つのポリゴンミラーPMを相対的に15°ずつ角度位相をずらして回転させると共に、各ポリゴンミラーPMが8つの反射面を一面飛ばしでビームLBnを走査するように選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々のオン/オフの切り替えが制御される。このように、ポリゴンミラーPMの反射面を1面飛ばしで使った描画方式についても、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されている。
次に、図6を参照して、図1のパターン描画装置EXを標準的な装置仕様(描画条件)の下で使ってパターン露光する際の状態を説明する。図6は、一例として主走査方向の線幅が16μmで副走査方向に直線的に伸びたラインパターンLTPの2本を、主走査方向に間隔12μmで描画する際の様子を示し、図6(A)は、ラインパターンLTPに対応した描画ビット列データSDnの画素のビット値の並びを表し、1画素の基板P上での寸法は4μm×4μmとする。各画素のビット値「0」は非描画(オフ・パルス光)を意味し、ビット値「1」は描画(オン・パルス光)を意味する。図6(B)は、描画ビット列データSDnの画素に対応した信号発生部120aからのクロック信号LTCを表し、図6(C)は、スポット光SPの主走査による軌跡である走査線のうち、例えば、副走査方向の4本の走査線SL1a、SL1b、SL1c、SL1dの各々に沿ってオン・パルス光のスポット光SPが照射される様子を示す。図6(C)において、スポット光SPの実効的な直径φは、画素の寸法と同じ4μmに設定されている。先の式(1)~(3)で説明したように、標準的なパターン描画時の設定では、主走査方向と副走査方向の各々に関して、スポット光SPは実効的な直径φの1/2ずつ、ずれて重なるようにパルス照射されるものとする。図6(D)は、基板Pの表面の感光層が単層のネガ・レジストで、厚さRTが標準的な1μm程度の場合に、現像処理後に基板P上に残膜したラインパターンLTPのレジスト像LTP’の断面を表し、図6(E)は、基板Pの表面の感光層が単層のポジ・レジストで、厚さRTが標準的な1μm程度の場合に、現像処理後に基板P上に残膜したラインパターンLTPのレジスト像LTP’の断面を表す。
図6(D)のように、ネガ・レジストの場合はスポット光SPのオン・パルス光で照射された部分が現像液に対して不溶解性となって残膜し、図6(E)のように、ポジ・レジストの場合はスポット光SPのオン・パルス光で照射されなかった部分が現像液に対して不溶解性となって残膜する。いずれの場合も、感光層(レジスト)の厚さRTが標準的な厚み程度(1μm程度)である場合、スポット光SPのオン・パルス光は、感光層での光吸収率が高く透過性が低くても感光層の上面から底面まで十分に届き、現像後のラインパターンLTPのレジスト像LTP’のエッジ部分は、ほぼ垂直な状態になっている。
特開2002-187374号公報に開示されているように、現像後の感光層の開口部分に電解メッキ(電鋳)方式でメタルマスク(電鋳マスク)となる金属を析出させる場合、感光層によるレジスト像LTP’(残膜部)が隔壁となって、メタルマスク中の開口部を規定するので、メタルマスクの電解メッキによる厚みに対応して、感光層の厚みRTを設定する必要がある。メタルマスクの厚みは、一例として10μm以上であり、感光層の厚みRTも10μm以上に設定される。さらに、蒸着工程で使われるメタルマスクは蒸着装置内で被処理基板の表面に重ねて設置されるが、被処理基板上にメタルマスクの開口形状に従って蒸着される薄膜の形状特性や、その薄膜の膜厚均一性等を良好にする為に、メタルマスク中の開口部のエッジには、比較的に大きな傾斜が付けられる。このことから、基板P上に厚みRTが10μm以上で形成された感光層の現像後のレジスト像LTP’のエッジ部(サイドウォール)も、その傾斜になるように制御する必要がある。その為の一例は、感光層の種類や材質によって異なる光吸収特性も考慮して、感光層のパターンのエッジ部に相当する部分に与えられる光量(ドーズ量)に、エッジ部が延びる方向と直交する方向の分布(傾斜)を与えることである。
図7は、横軸に照射光(ビームLBn)の波長(nm)を取り、縦軸に規格化された吸収率(0~1)を取ったレジストの光吸収特性の一例を示す。図7のレジストの場合、波長320nm付近に吸収のピークがあり、波長320nm~450nmの間で吸収率はほぼ線形に減少するような特性を有し、波長355nmでの吸収率は約0.55である。この図7の特性は一例であって、レジストの材料物質によって大きく異なる。感光層の厚みRTが大きい場合でも、レジスト像LTP’のエッジ部(サイドウォール)を垂直に近い状態にするには、使用波長において吸収率が小さいレジストを用いるのが良い。本実施の形態では、ビームLBnの波長355nmにおける吸収率が比較的に大きくなるレジストが使われる。
図8は、本実施の形態によるパターン描画装置EXによって露光されて、現像された後の基板Pの一部分の断面の構成を示す。図8において、基板Pの母材基板LK1はステンレス(SUS)であり、その表面に所定の厚さでニッケル(Ni)によるベース層LK2が積層されている。ベース層LK2の上には、ネガタイプのレジスト層Luvが厚さRT(10μm以上)で形成され、現像後にレジスト層Luvの未露光部(非照射部)が除去されてエッジ部Ewa、Ewbで挟まれた開口部HLが形成される。電鋳マスクを作る場合、その開口部HLで露呈したベース層LK2上に電解メッキにより金属層(ニッケルや銅等)が堆積される。レジスト層Luvのエッジ部Ewa、Ewbとなるサイドウォールは、開口部HL側に向けて傾斜する状態、所謂逆テーパー状に形成される。このような傾斜を与える為の一例として、本実施の形態では、図9に示すように、エッジ部Ewa、Ewbに照射される露光光(ビームLBn)の強度分布に大きな傾斜を与えるようにする。図9は、図8中のエッジ部Ewaとなるレジスト層Luvの部分9Aでの露光の状態を模式的に説明する図である。レジスト層Luvの光吸収率が大きい場合、露光光はレジスト層Luvの上面Supから底面Sbmに進むにつれて減衰するので、露光光の強度によっては、レジスト層Luvの底面Sbmまで十分な感光エネルギーが与えられない状態になる。そこで、図9の上段に示すように、エッジ部Ewaとなる部分であって、開口部HL側に向けて与えられる露光光の強度Ipの分布を規定値Th(適正露光量を与える強度)から減少するような特性にする。それによって、図9の下段に黒丸で示すように、レジスト層Luv内の感光部分は傾斜したものとなり、現像の後には、レジスト層Luvの黒丸で示した部分が残膜するような傾向となる。
そこで、図8のような開口部HLの内側に向けて傾斜したエッジ部Ewa、Ewbを形成する為には、図10に示すように開口部HLのエッジ付近で大きな傾斜を持つ強度分布の露光光をレジスト層Luvに照射する。この図10のような露光光の強度分布は、フォトマスクのパターンを投影露光方式でレジスト層Luvに露光する場合は、パターンの像をデフォーカスさせることで、エッジ部の露光光の強度分布に連続した傾斜を与えることができる。しかしながら本実施の形態のように、光源装置LSとしてファイバーアンプレーザ光源を用いて、ポリゴンミラーPMによって高速に走査されるスポット光SPのオン/オフ(照射/非照射)でパターンを描画する装置では、スポット光SPとなるパルス光(オン・パルス光)自体のピーク強度を、パルス毎に大きく変化させることは難しい。その為、本実施の形態では、描画するパターンのエッジ部の画素に対応して投射されるパルス光を1パルスだけ抜く(本来はオン・パルス光である処をオフ・パルス光に切り換える)ようにする。
図11、図12、図13は、パルス抜きを行う場合の露光光の強度分布の変化をシミュレーションにて求めたグラフであり、それぞれ上段はスポット光SPの規格化された強度分布を模式的に表し、下段は上段のスポット光SPの強度分布を合成した規格化された強度分布を模式的に表す。また、図11~図13において、横軸は基板P上の主走査方向の位置(μm)を表し、縦軸は規格化された強度Iprを表す。図11は、基板Pに投射されるビームLBnの開口数(NA)を0.06として、ガウス分布に近似したスポット光SPの基板P上の直径φをおおよそ4μm、1画素の寸法を4×4μmとし、主走査方向にφ/2のピッチでスポット光SPを照射する間に、中心位置0の付近で4パルス分のスポット光SPに相当する未露光部(2画素分の8μm線幅)を形成する場合を示す。図11の上段のように、スポット光SPは位置-13μm、-11μm、-9μm、-7μm、-5μm、5μm、7μm、9μm、11μm、13μmの各々でオン・パルス光として投射され、2画素分の線幅に相当する位置-3μm、-1μm、1μm、3μmの各々ではオフ・パルス光として未露光とされる。図11の下段に示すように、このようなスポット光SPによって合成された強度分布のエッジ部に相当する強度傾きΔIPaは、比較的に急峻となる。
そこで、図12に示すように、主走査方向に関して、未露光とされる非露光画素(「0」)の隣に位置する露光画素(「1」)に対して与えられる2つのスポット光SPのオン・パルス光のうち、未露光とされる画素側の一方のスポット光SPはオン・パルス光とし、他方のスポット光SPはオフ・パルス光となるように制御してみる。図12の上段は、図11と同じ光学条件(ビームLBnの開口数、スポット光SPの直径φ)のもとで、図11と同じパターンを描画する際に、8μm(2画素分)の線幅のエッジ位置に最も近い位置-5μm、5μmの各々に投射されるスポット光はオンとし、その隣の位置-7μm、7μmの各々に投射される1つのスポット光SPは意図的にオフとした場合を示す。この場合、図12の下段に示すように、合成された露光光の強度分布のエッジ部付近には大きな強度ムラが発生する。このような強度ムラは、レジスト層Luvのエッジ部Ewa、Ewbのサイドウォールプロファイル(側壁面形状)を乱す場合があるので、好ましくない。
そこで、図13の上段に示すように、光学条件としてのビームLBnの開口数(NA)を0.03に低下させてスポット光SPの直径φを2倍程度の約8μmのスポット光SP’に拡大し、図12と同じようにオン・パルス光とオフ・パルス光とを制御した場合をシミュレーションしてみると、図13の下段に示すように、スポット光SP’によって合成された強度分布のエッジ部に相当する強度傾きΔIPbは、比較的に緩やかになる。なお、図13に示したスポット光SP’のピーク値は、図12に示したスポット光SPのピーク値と同じ規格化強度Ipr上で1.0としたが、実際の強度値はスポット光SP’の直径φを大きくした為、図12のスポット光SPのピーク値に対して半分程度になる。従って、図13の下段に示す合成された強度分布の実際の強度値は、規格化強度Ipr上では図12の下段に示す合成された強度分布の規格化強度Iprと同程度になる。以上のシミュレーションより、パターンのエッジ部を規定する画素(エッジ部露光画素)に対してオン・パルス光を照射する際は、そのエッジ部露光画素に対して主走査方向の隣に位置する未露光となる画素(非露光画素)側に照射するスポット光の一方はオン・パルス光とし、他方はオフ・パルス光とするように制御すると共に、標準的な光学条件として設定されるスポット光SPの直径φ(1画素の寸法と同程度)を2倍程度に拡大したスポット光SP’にすると良い。
図14は、以上の条件の下で、4×4μm角の画素PICが主走査方向(Y方向)に4画素並び、副走査方向(X方向)に5画素並ぶ矩形の開口部HLとなる未露光パターンをレジスト層(感光層とも呼ぶ)Luvに描画するときのオン・パルス光とオフ・パルス光の基板P上の照射位置の配列を模式的に示す図である。図14において、黒丸はオン・パルス光ONpとなるスポット光の中心位置を表し、白丸はオフ・パルス光OFpとなるスポット光の中心位置を表し、本実施の形態では標準的に設定されるスポット光SPの直径φに対して、描画時に設定されるスポット光SP’の直径φ’は2倍程度に設定されると共に、主走査方向に関するスポット光SP’のパルス光の照射ピッチはφ/2(標準的に設定されるピッチのまま)に設定される。また、図14において、副走査方向に一定ピッチφ/2で並ぶ走査線SLnA、SLnB、SLnC、・・・SLnRは、ポリゴンミラーPMの各反射面による偏向で走査されるスポット光SP’の軌跡である。
図14に示すように、主走査方向に並ぶ4つの画素PIC(非露光画素)のY方向の外側の両端に隣接する画素PICの各々はパターンのエッジ部に対応したエッジ部露光画素PIC’(一部に斜線を付して破線で表す)となるので、このエッジ部露光画素PIC’に照射される主走査方向に並ぶ2つのスポット光SP’は、主走査方向に関して非露光画素に隣接する側がオン・パルス光ONp(黒丸)とされ、非露光画素から離れる側がオフ・パルス光OFp(白丸)とされる。すなわち、図14の場合、X方向に等ピッチφ/2で並ぶ走査線SLnA、SLnB、SLnC、・・・SLnRのうち、X方向に並ぶ5画素の未露光パターンを通る走査線SLnE~SLnMのY方向の位置Yp1、Yp2の各々に照射されるスポット光SP’はオフ・パルス光OFp(白丸)とされる。さらに、副走査方向に並ぶ5つの画素PIC(非露光画素)に対して副走査方向のX方向の外側に隣接する露光画素はエッジ部露光画素PIC’(一部に斜線を付して破線で表す)となり、X方向の両端のエッジ部露光画素PIC’の各々に照射される副走査方向に並ぶ2つのスポット光SP’は、副走査方向に関して非露光画素に隣接する側がオン・パルス光ONp(黒丸)とされ、非露光画素から離れる側がオフ・パルス光OFp(白丸)とされる。すなわち、図14の場合、4×5画素の未露光パターンのX方向の両端の外側に隣接するエッジ部露光画素PIC’を通る2本の走査線SLnC、SLnDと、2本の走査線SLnO、SLnPのうち、4×5画素の未露光パターンから離れた側の走査線SLnC上と走査線SLnP上では、Y方向に並ぶ非露光画素PICに対応した範囲がオフ・パルス光OFp(白丸)とされる。
先の図6で説明したように、本実施の形態では、1画素(PIC、PIC’)が描画ビット列データSDnの1ビットで表され、その1ビットに対応して、光源装置LSからのクロック信号LTCの2クロックパルス(すなわちスポット光SP’の2パルス分)が対応するように設定されている。そこで、本実施の形態では、クロック信号LTCの1クロック毎に、発振されるビームLBをオン・パルス光とオフ・パルス光とに切り換えられるように、図4の描画制御装置200内、又は図5の制御回路120内に、描画ビット列データSDnに基づいて、主走査方向に関して1画素を2ビットで表すパルス発光用のマップデータ(図14中のオン・パルス光ONpかオフ・パルス光OFpの配置列データ)を作成して記憶するメモリ部が設けられる。即ち、そのパルス発光用のマップデータの1本の走査線に対応した総ビット数は、描画ビット列データSDnの1本の走査線に対応した総ビット数の2倍となる。光源装置LS内の駆動回路136a(図5)には、描画ビット列データSDnの代わりに、そのメモリ部からクロック信号LTCのクロックパルスに応答して読み出されるパルス発光用マップデータのシリアルなビットストリーム信号が印加され、光源装置LSからのビームLBは、クロック信号LTCの1クロックパルス毎にオン・パルス光とオフ・パルス光のいずれかに切り換えるように制御される。
さらに本実施の形態では、光学条件としてのスポット光SP’の直径φ’を標準的に設定される直径φの約2倍にする為に、基板Pに投射されるビームLBnの開口数(NA)を標準的に設定される0.06から約半分の0.03に調整する機構が設けられる。図15は、先の図3に示した描画ユニットUn内のレンズ系Gu1とレンズ系Gu2によるビームエキスパンダ系から開口絞りNPAまでの光路を示し、図15(A)は、基板Pに投射されるビームLBnの開口数(NA)を標準設定である0.06にした状態を表し、図15(B)は基板Pに投射されるビームLBnの開口数(NA)を0.03にした状態を表す。本実施の形態では、ビームLBnの開口数(NA)を調整する為に、ビームエキスパンダ系のレンズ系Gu1を構成する複数枚(例えば2枚)のレンズ素子の少なくとも一部の位置を光軸方向に調整できる可動機構を設け、レンズ系Gu2の後の開口絞りNPAから射出するビームLBnの直径を可変できるようにする。図15(A)に示すように、標準的な光学条件では、開口絞りNPAの位置で、ビームLBnの強度分布の裾野の1/e2(ピーク強度の約13.5%)の強度が開口絞りNPAの開口径φb1でカットされることで、開口数(NA)が0.06に設定される。なお、レンズ系Gu1の後でビームLBnがビームウェストとなる集光面Po1は、レンズ系Gu2の前側焦点距離の位置に設定されているので、レンズ系Gu2から開口絞りNPAに向かうビームLBnは平行光束となる。また、開口絞りNPAはレンズ系Gu2の後側焦点距離の位置に配置される。
開口数(NA)を標準的な設定条件である0.06から0.03に低下させる際は、図15(B)に示すように、レンズ系Gu1を構成する複数枚のレンズ素子の光軸AXe方向の位置を変更して、レンズ系Gu1’から射出するビームLBnが光軸AXe上で図15(A)の集光面Po1と同じ位置でビームウェストになるように収斂させると共に、その収斂度(或いは集光面Po1からの発散度)を図15(A)の場合に比べて小さくなるように調整する。これによって、図15(B)のように、開口絞りNPAの開口から射出するビームLBnは、図15(A)の場合の直径φb1よりも小さな直径φb2(≒φb1/2)に調整される。開口絞りNPAを通るビームLBnの直径をDφとし、図3に示した描画ユニットUnのfθレンズ系FTの焦点距離をFftとすると、ビームLBnの基板P上に投射される際の開口数(NA)は近似的にDφ/Fftで表され、スポット光SP’の直径φ’は、φ’≒0.6λ/NA(λはビームLBnの波長)で表される。従って、開口数(NA)を小さくする(直径Dφを小さくする)ことで、スポット光SP’の直径φ’を大きくすることができる。以上のような光学条件(開口数又はスポット光の直径)の調整と、図14に示したようなスポット光SP’のオン・パルス光とオフ・パルス光との設定によって、基板Pの感光層Luvに露光されるパターンのエッジ部には傾斜した強度分布の露光光が与えられる。
以上、本実施の形態では、スポット光SP’として基板P上に投射される描画ビームLBnの強度を、多数の画素PICで規定されるパターンの描画データ(描画ビット列データSDn)に基づいてオン・パルス光ONp又はオフ・パルス光OFpのいずれかに変調しつつ、スポット光SP’の投射位置を基板P上で画素PICの2次元的な配列に沿って主走査方向(Y方向)と副走査方向(X方向)とに相対走査することにより、基板P上にパターンを描画するパターン描画装置において、描画ビット列データSDnに基づいて、相対走査中にスポット光SP’が照射される露光画素の各々に対しては、描画ビームLBnとして所定周期Tfで発振されるパルス光の所定数を射出し、相対走査中にスポット光SP’が非照射とされる非露光画素の各々に対しては所定数のパルス光の射出を中断する光源装置LSと、描画ビット列データSDnに基づいて、露光画素のうちでパターンのエッジ部に対応したエッジ部露光画素PIC’に対して射出されるパルス光(オン・パルス光ONp)の数が、所定数に対して相対的に増減されるように光源装置LSを制御する描画制御装置200と、が設けられる。
〔変形例1〕
以上の第1の実施の形態では、光学条件としてのスポット光SPの直径を拡大(即ち、ビームLBnの開口数を縮小)する為に、図15のように、6つの描画ユニットU1~U6の各々に設けられているレンズ系Gu1の位置調整を行う必要があった。本変形例1では、図1、図4に示した第1のビーム調整系BMUによって、描画ユニットU1~U6の各々に入射するビームLBn(平行光束)の直径を調整する。図16は、変形例1としてのビーム調整系BMUの概略構成を示し、光源装置LSから射出されるビームLBの光路(光軸)に沿って、ビームエキスパンダを構成するレンズ系LG1(凹レンズ)とレンズ系LG2(凸レンズ)、光軸回りに回転可能な波長板QPP、偏光ビームスプリッタBSp、及び縮小ズーム光学系VBCが設けられている。光源装置LSから射出されるビームLBは、直径が1mm程度の平行光束であるが、レンズ系LG1、LG2によるビームエキスパンダによって直径が数mm程度の平行光束に変換される。波長板QPPは、回転機構210によって、レンズ系LG2から射出されるビームLBの偏光状態を、縦の直線偏光状態から横の直線偏光状態の間で回転させることができる。偏光ビームスプリッタBSpはXY面に対して45°傾いた偏光分離面を有し、波長板QPPを通ったビームLBを、その偏光状態に応じて偏光分離面を透過する成分と偏光分離面で-Z方向に反射する成分とに分割する。その分割の比率は、波長板QPPの回転角度位置に応じて任意に調整可能であり、それによって偏光ビームスプリッタBSpの偏光分離面を透過して縮小ズーム光学系VBCに向かうビームLBの強度を調整することができる。なお、偏光ビームスプリッタBSpの偏光分離面で反射されたビームLBの成分は、光吸収体(トラップ)LTRで吸収される。
偏光ビームスプリッタBSpを透過したビームLB(平行光束)は、縮小ズーム光学系VBCによって、入射時のビーム径を所定の倍率で縮小した平行光束に変換して射出される。縮小ズーム光学系VBCは、先の図15に示したビームエキスパンダのレンズ系Gu1、Gu2の配置を逆にしたようなレンズ系を備え、一部のレンズ素子(1枚、又は2枚)の光軸方向の位置が移動機構212によって調整される。これによって、縮小ズーム光学系VBCから射出されるビームLB(平行光束)は、直径が所定範囲内で任意の径に変更された状態で、ミラーM1によって反射されて、図4に示したビーム切換部のシリアルに接続された6つの選択用光学素子OSn(OS1~OS6)に入射する。選択用光学素子OSnの各々で回折によって偏向されて、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に入射するビームLBn(LB1~LB6)は、縮小ズーム光学系VBCから射出されるビームLBと同じ直径になるように設定されている。従って、図15(A)に示したように、描画ユニットUn内のビームエキスパンダ(レンズ系Gu1、Gu2)の拡大倍率が標準的な値のまま(固定値)であっても、レンズ系Gu1に入射するビームLBnの直径を標準的な値から縮小することにより、図15(B)に示したように、開口絞りNPAを通るビームLBnを、標準的な直径φb1から直径φb2に縮小することができる。このように、本変形例1によれば、複数の描画ユニットUn(U1~U6)の各々のレンズ系Gu1の配置(ビームエキスパンダの倍率)を個別に調整することなく、1か所の縮小ズーム光学系VBCを調整するだけで、描画ユニットUn(U1~U6)の各々から基板Pに投射されるビームLBn(LB1~LB6)の開口数(NA)を共通に低減させることができる。
〔変形例2〕
以上の第1の実施の形態や変形例1では、光学条件としてのスポット光SPの直径を、ビームLBnの開口数の縮小によって、ベストフォーカス位置(ビームウェスト位置)で拡大するようにしたが、ビームLBnの開口数は変えずに、フォーカス位置を変えることによって、スポット光SPの直径φを拡大することもできる。図17は、スポット光SPが基板P上にベストフォーカス状態で投射されている状態を誇張して表し、ビームLBnは所定の開き角θnaで決まる開口数NA(=sinθna)で収斂されて、基板Pに達する。ビームLBnには、ビームウェスト位置に対して一定幅の焦点深度(DOF)範囲が存在し、そのDOF範囲内に基板Pの表面が位置する場合、スポット光SPは基板Pの表面にフォーカス状態で投射されたとみなされる。標準的な設定ではDOF範囲内に基板Pの表面が位置するように、例えば図1に示したステージ機構ST内に基板Pの高さ位置(Z方向位置)を微調整するフォーカス調整機構が設けられている。そこで、図14に示したような露光を行う際、ビームLBnの開口数(NA)は標準的な値である0.06にしたまま、ステージ機構ST内のフォーカス調整機構により、基板Pの表面が図17中に示したDOF範囲の外側のZ位置+Pz、又はZ位置-Pzに位置するように設定する。これにより、基板Pの表面に投射されるスポット光SPはデフォーカス状態となり、スポット光SPの直径φを拡大させることができる。
そのようなデフォーカス状態は、例えば、図3、図15に示したビームエキスパンダ(レンズ系Gu1、Gu2)内の集光面Po1の位置(ビームLBnのビームウェスト位置)を設計上の位置から光軸方向にずらすことによっても作り出せる。デフォーカス状態は、図15(A)に示した描画ユニットUn内のレンズ系Gu1全体の位置を光軸方向に移動させる構成、或いは図16に示した第1のビーム調整系BMU内のレンズ系LG1の位置を光軸方向に移動させる構成とすることで容易に作り出せる。
〔変形例3〕
上記の変形例2と類似の方法ではあるが、基板P上に投射されるスポット光SPの直径φを拡大する為に、光源装置LSから射出されるビームLBの中心波長λoを僅かにシフトさせたり、ビームLBの波長幅(スペクトル幅)Δλを僅かに広げたりすることで、意図的に色収差を発生させるようにしても良い。図3に示した描画ユニットUn内の屈折光学素子(特にレンズ系Gu1、Gu2、シリンドリカルレンズCYa、CYb、fθレンズ系FT)の硝材は、波長355nmに対する透過率が高い石英であることから、ビームLBnの中心波長λoを僅かにシフトさせると、石英の色収差特性によりフォーカス位置(ビームウェスト位置)が光軸方向にずれ、基板P上のスポット光SPはデフォーカス状態になる。また、中心波長λoは変えずに波長幅Δλを広げた場合も、石英の色収差特性によりビームウェスト位置でのビーム径が太くなるので、基板P上のスポット光SPの直径が拡大する。このように、ビームLBの中心波長λoや波長幅Δλを意図的に調整することは、光源装置LSを図5に示したようなファイバーアンプレーザ光源の構成上の制約により難しい。
しかしながら、2台のファイバーアンプレーザ光源の各々を1つのクロック信号LTCに応答して同期発振させて、それぞれのファイバーアンプレーザ光源から同一のタイミングでオン・パルス光又はオフ・パルス光が発生するように制御し、各ファイバーアンプレーザ光源からのビームLBを同軸に合成して、図1又は図4のビーム調整系BMUに供給するように構成することは容易である。このように2台のファイバーアンプレーザ光源を用いる場合、DFB半導体レーザ素子130、132からパルス発光される種光S1、S2の波長、励起光源142からの励起光(ポンプ光、チャージ光)の波長、及び波長変換光学素子148、150におけるマッチング条件を、2台のファイバーアンプレーザ光源間で僅かに異ならせることで、中心波長λoが僅かに異なる2本のビームLBを同軸にして得ることができる。中心波長λoの差は、例えば平均的な波長幅Δλ(一例としては40pm)と同程度、或いはそれ以上に設定される。このように中心波長λoが僅かに異なる2本のビームLBのオン・パルス光を同時に用いると、ビーム全体としての波長幅が広がったことになり、色収差の影響によってスポット光SPの直径が拡大される。また、本変形例では、2台のファイバーアンプレーザ光源の各々から射出されるビームLBを同軸に合成して描画ユニットUnの各々に供給するため、基板Pに投射されるビームLBnの光エネルギーを2倍にすることができ、感光層Luvの感度が低い場合、感光層Luvの光吸収率が高い場合、或いは感光層Luvの厚さRTが大きい場合でも、感光層Luvに適正な露光量を与えることができる。
〔変形例4〕
以上の第1の実施の形態、及び変形例1~3では、 図14で説明したように、基板P上の寸法として設定される1つの画素PICのXY方向の寸法と、標準的に設定されるスポット光SPの直径φとは同程度に設定され、1つの画素PICは、拡大された直径φ’のスポット光SP’のオン・パルス光ONp、又はオフ・パルス光OFpで、主走査方向(Y方向)と副走査方向(X方向)の各々にφ/2のピッチで照射された。しかしながら、画素PICの寸法に対して、標準的に設定されるスポット光SPの直径φが小さい場合であっても良い。図18は、図14と同様に、X方向とY方向の寸法がDpx(μm)の正方形の画素PICの複数のうち、斜線部で示した画素を非露光画素とし、その周囲の画素を露光画素とするようなパターンを、直径φ’のスポット光SP’のオン・パルス光ONp(黒丸)又はオフ・パルス光OFp(白丸)のいずれかで照射する際に設定される、基板P上の照射位置の配列を模式的に示す図である。本変形例4では、画素PICの寸法Dpxに対して、標準的に設定されるスポット光SPの直径φが、φ=(2/3)Dpxに設定され、走査線SLnA~SLnHの各々に沿った主走査方向のオン・パルス光ONp又はオフ・パルス光OFpの照射ピッチはφ/2に設定され、走査線SLnA~SLnHの副走査方向のピッチもφ/2に設定される。従って、標準的な設定条件では、1つの露光画素PICが、3×3の9つのスポット光SP(直径φ)で描画される。
先の図14で説明したように、スポット光SPの直径φを、拡大された直径φ’のスポット光SP’に調整して、エッジ部露光画素PIC’に隣接して非露光画素が存在するときは、そのエッジ部露光画素PIC’内で最も非露光画素に近い位置に照射されるスポット光SP’がオン・パルス光ONpとされ、その位置から一列分だけエッジ部露光画素PIC’の内側にずれた位置に照射されるスポット光SP’はオフ・パルス光OFpとするように制御される。このように、標準的に設定されるスポット光SPの直径φを1画素の寸法Dpxよりも小さくすると、露光画素の1画素当りに照射されるオン・パルス光ONpが9つになるため、感光層Luvに与える露光量を増加させることができる。但し、光源装置LSから射出されるビームLBのパルス発振の周波数Fa(周期Tf)が一定だとすると、図18のような描画制御の際には、ポリゴンミラーPMの回転速度を、図14のように露光画素の1つを4つのオン・パルス光ONpで描画するときの回転速度の2/3に設定し、ステージ機構STによる基板Pの副走査方向の移動速度も2/3に設定する必要がある。
〔第2の実施の形態〕
以上の第1の実施の形態や変形例1~4では、図13で示したシミュレーションの結果に基づいて、図14や図18のように、露光光の照射を受けるパターンのエッジ位置に最も近い位置に照射されるスポット光はオン・パルス光ONpとし、その内側で本来はオン・パルス光ONpとして照射されるスポット光をオフ・パルス光OFpとすることで、パターンのエッジ部分を横切る方向の露光光の強度分布を、図9や図10のように傾斜させることとした。しかしながら、感光層Luvの化学的な構造や成分の違いによって、図10のような強度分布の露光光でパターンを描画しても、図8に示すように、現像後の感光層Luv中の開口部HLの両側のエッジ部Ewa、Ewbが期待通りに逆テーパー状にならないこともある。一部のフォトレジスト、例えば化学増幅型のフォトレジストに対して、フォトマスク上のライン&スペース状のパターンを高いコントラスト像にして投影露光すると、現像後に残膜したラインパターンのレジスト像の厚み方向の線幅が、表面側では太く、底面側では細くなるような傾向を示すことがある。すなわち、第1の実施の形態とは逆に、描画すべきパターンのエッジ部の画素に対しては、露光光の強度を高めるような制御が必要になる。
そこで、本実施の形態では、そのような特性を有するフォトレジストが感光層Luvとして形成された基板Pを露光する場合にも、現像後にエッジ部が逆テーパー状のサイドウォール、或いはテーパーがほとんど無い垂直なサイドウォールに形成されるように、描画条件や光学条件を調整する。図19は、先の図14と同様に、画素寸法Dpxが4×4μm角の画素PICが主走査方向(Y方向)と副走査方向(X方向)とに配列され、斜線部の非露光画素以外の露光画素に対して、直径φが画素PICの寸法Dpxと同程度のスポット光SP(ビームLBnの開口数は0.06)のオン・パルス光が照射される状態を模式的に示した図である。本実施の形態では、走査線SLnA~SLnE・・・の各々に沿ったスポット光SPのオン・パルス光(又はオフ・パルス光)の照射タイミングが、スポット光SPの直径φの1/4毎に生じるように、光源装置LSのクロック信号LTC(周期Tf)に基づいてポリゴンミラーPMの回転速度が調整され、さらに走査線SLnA~SLnE・・・が副走査方向にφ/2のピッチで並ぶように、ポリゴンミラーPMの回転速度とステージ機構STの副走査方向の移動速度とが同期制御される。そして、描画ビット列データSDnの1画素のビットデータは、クロック信号LTCの周期Tfの4つ分に対応するように設定される。なお、本実施の形態において、副走査方向に露光画素が連続しているときは、各描画ユニットUnのポリゴンミラーPMが8つの反射面を1面飛ばしでビームLBnを偏向走査して、図19のように副走査方向に並ぶ画素PICの各々に対して2本の走査線が対応するように設定される。
図4に示した描画制御装置200、又は図5に示した光源装置LS内には、描画ビット列データSDnに基づいて、クロック信号LTCのクロックパルスを1つおき(1パルス飛ばしずつ)にアサインするようなパルス発光用のビットマップ情報が生成され、そのビットマップ情報をクロック信号LTCの各クロックパルスに同期して読み出したパルス発光用のビットストリーム信号PTSを出力するパルス生成回路が設けられる。このパルス生成回路は、描画ビット列データSDnを先読みして、着目する画素が論理値「1」の露光画素であって、且つ主走査方向の前後も論理値「1」の露光画素であるときは、着目する画素を主走査方向にφ/2の間隔で2つのオン・パルス光が照射されるようなビット列を生成し、着目する画素が論理値「1」の露光画素であって、且つ主走査方向の前後のいずれか一方に論理値「0」の非露光画素があるときは、着目する画素を主走査方向にφ/4の間隔で3つのオン・パルス光が照射されるようなビット列を生成する。従って、図19に示すように、エッジ部以外の露光画素に対しては、クロック信号LTCのクロックパルスの1つおきに(1パルス飛ばしで)歯抜け状態でオン・パルス光ONpが照射されるが、パターンの主走査方向のエッジ部に相当する露光画素に対しては、歯抜けが無いようにオン・パルス光ONpが追加される。
このように、多数の画素PIC中の露光画素のうち、パターンの主走査方向のエッジ部となる画素以外の露光画素の各々には、ビットストリーム信号PTSに応答して、クロック信号LTCのクロックパルスの1つおきにスポット光SPの2つのオン・パルス光ONpを照射し、主走査方向のエッジ部となる露光画素の各々には、ビットストリーム信号PTSに応答して、クロック信号LTCの連続した3つのクロックパルスによって3つのオン・パルス光ONpを照射することにより、エッジ部に対応した露光画素に与えられる露光光の強度が増大され、パターンのエッジ部のコントラストを高めるエッジ強調が行われる。図20は、主走査方向に連続した4つの露光画素と、連続した4つの非露光画素とが交互に配列されるライン&パターンを、図19のような描画制御のアルゴリズムによってオン・パルス光ONpを照射したときに得られる主走査方向に関する露光光の強度分布を模式的に表す図である。これにより、化学増幅型、或いはアクリル樹脂を含有する特定のフォトレジスト(ネガタイプ)による感光層Luvの場合、現像後は露光画素の部分が残膜し、感光層Luvのエッジ部(サイドウォール)は逆テーパー状の傾斜がより強調されて現れる。但し、感光層Luvの種類によっては、サイドウォールが垂直に近い角度になることもある。
以上の図19では、主走査方向に並ぶ多数の画素PICのうち、パターンのエッジ部に対応した露光画素に対しては、画素PICの寸法Dpx(=スポット光SPの直径φ)の1/4のピッチで主走査方向に並ぶ3つのオン・パルス光ONpを照射し、その他の露光画素に対しては画素PICの寸法Dpxの1/2の間隔で主走査方向に並ぶ2つのオン・パルス光ONpを照射した。一方、パターンのエッジ部は、副走査方向に並ぶ多数の画素PIC中にも存在する。すなわち、エッジ部となる露光画素(或いは非露光画素)が主走査方向に連続して並んでいる部分が存在する。図21は、そのような部分における描画制御の一例を示す図である。図21において、スポット光SPの直径φ、画素PICの寸法Dpx、及び走査線SLnA~SLnG・・・に沿った主走査方向のオン・パルス光ONpとオフ・パルス光OFpの照射の配列制御は、図19の場合と同じである。図21では、パターンのエッジ部となる斜線部で示した非露光画素が主走査方向に連続して並び、その非露光画素に対して副走査方向に隣接して露光画素が主走査方向に連続して並んでいる。パターンのエッジ部となる画素以外の画素PICは、副走査方向に関して2本の走査線によって描画される。
しかしながら、パターンの副走査方向のエッジ部となる露光画素に対しては、副走査方向に関する露光光の強度分布が通常よりも大きくなるように設定する必要がある。そこで、本実施の形態では、副走査方向に関してエッジ部となる露光画素を3つの走査線によって描画するような制御を行う。図21では、図19で示したように、ピッチφ/2で副走査方向に並ぶ走査線SLnA~SLnG・・・のうち、エッジ部の露光画素に対応した2本の走査線SLnC、SLnDの間に追加の走査線SLnC’を設定し、走査線SLnC(又はSLnD)に対応したビットストリーム信号PTSと同じビットデータに基づいて、走査線SLnC’上でもスポット光SPのオン・パルス光ONpとオフ・パルス光OFpとが照射されるように制御する。その制御の為に、先の図19で説明したように、走査線SLnA~SLnE・・・毎に設定されるクロック信号LTCのクロックパルスの1パルス毎にオン・パルス光ONp(論理値「1」)かオフ・パルス光OFp(論理値「0」)かを設定するビットストリーム信号PTSが生成される。しかしながら、図21のように、間隔φ/4で追加される走査線SLnC’が存在することから、本実施の形態では、図22に示すように、他の走査線SLnAとSLnBの間、走査線SLnBとSLnCの間、走査線SLnDとSLnEの間、走査線SLnEとSLnFの間、・・・の各々に、間隔φ/4で追加の走査線SLnA’、走査線SLnB’ 走査線SLnD’ 走査線SLnE’・・・を設定し、追加の走査線SLnA’、走査線SLnB’ 走査線SLnD’ 走査線SLnE’・・・の各々に対してもビットストリーム信号PTS(PTS-A、PTS-A’、PTS-B、PTS-B’、PTS-C、PTS-C’、PTS-D、PTS-D’、PTS-E、PTS-E’、PTS-F、・・・)を生成する。
図21では、2本の走査線SLnA、SLnBが副走査方向に関して共に非露光画素上に位置する為、その走査線SLnA、SLnBの各々に対応したビットストリーム信号PTS-A、PTS-Bのビット列は「0」である。従って、走査線SLnAとSLnBの間、及び走査線SLnBとSLnCの間に追加された走査線SLnA’、SLnB’の各々に対応したビットストリーム信号PTS-A’、PTS-B’の各ビット列は「0」にセットされる。2本の走査線SLnC、SLnDは副走査方向に関して共にエッジ部となる露光画素上に位置する為、走査線SLnC、SLnDの各々に対応したビットストリーム信号PTS-C、PTS-Dのビット列は、図22に示したように、「0」と「1」を繰り返し並べたものとなる。走査線SLnC、SLnD上の露光画素はエッジ部となるため、走査線SLnCとSLnDの間に追加される走査線SLnC’に対応したビットストリーム信号PTS-C’のビット列は、一つ手前の走査線SLnCに対応したビットストリーム信号PTS-C(又はPTS-D)のビットデータをコピーしたものにする。さらに、エッジ部となる露光画素から1つ内側の露光画素上に位置する走査線SLnE、SLnFの各々に対応したビットストリーム信号PTS-E、PTS-Fのビット列は、図22で示したように、「0」と「1」を繰り返し並べたものにセットされ、走査線SLnDとSLnEの間に追加される走査線SLnD’と、走査線SLnEとSLnFの間に追加される走査線SLnE’との各々に対応したビットストリーム信号PTS-D’、PTS-E’の各ビット列は「0」にセットされる。
ポリゴンミラーPMの8つの反射面の各々によるビームLBnの走査開始のタイミング毎に、ビットストリーム信号PTS-A、PTS-A’、PTS-B、PTS-B’、PTS-C、・・・が順番に読み出され、光源装置LS内の駆動回路136aに印加される。光源装置LSは、クロック信号LTCの1クロックパルス毎にビットストリーム信号PTSのビット列の各ビット値(「0」か「1」)に応じて、ビームLBをオン・パルス光ONpsとオフ・パルス光OFpのいずれかに切り替えて発振する。これにより、副走査方向に関してエッジ部となる露光画素は、3本の走査線(SLnC、SLnC’、SLnD)の各々によって露光され、エッジ部ではない内側の露光画素は2本の走査線(SLnE、SLnF)の各々によって露光されるので、図21に示した副走査方向のエッジ部に対応した露光画素に与えられる露光光の強度が他の露光画素に与えられる露光光の強度よりも大きくできる。エッジ部ではない内側の露光画素を描画する2本の走査線SLnE、SLnFの間に追加される走査線SLnE’に関しては、対応するビットストリーム信号PTS-E’のビット列がすべて「0」であるため、スポット光SPは走査線SLnE’に沿った全ての露光画素に対してオフ・パルス光OFpとして照射される。このことは、図22において、追加の走査線SLnA’、SLnB’、SLnD’、SLnE’の各々の走査期間中は、光源装置LSからのビームLBが対応する描画ユニットUnにオン・パルス光ONpとなって供給されていないことを意味し、ポリゴンミラーPMは1面飛ばしでビームLBnを走査していることになる。
なお、図22のように生成されたビットストリーム信号PTSのデータ量(ビット数)は、描画すべきパターンの形状を正方形の画素PICに分解し、1つの画素PICを1ピットで表す描画ビット列データSDnのデータ量(ビット数)に比べて、16(4×4)倍になる為、ビットストリーム信号PTSを一時的に記憶するビットマップメモリは、副走査方向に関して一定の画素数、例えば100画素(走査線では400本)分だけ記憶できる容量とし、1本の走査線による描画動作が完了する度に、新たなビットストリーム信号PTSを書き込むようにするのが良い。
以上、本実施の形態でも、先の第1の実施の形態と同様に、スポット光SPとして基板P上に投射される描画ビームLBnの強度を、多数の画素で規定されるパターンの描画データ(描画ビット列データSDn)に基づいてオン・パルス光ONp又はオフ・パルス光OFpのいずれかに変調しつつ、スポット光SPの投射位置を基板P上で画素の2次元的な配列に沿って主走査方向(Y方向)と副走査方向(X方向)とに相対走査することにより、基板P上にパターンを描画するパターン描画装置において、描画ビット列データSDnに基づいて、相対走査中にスポット光SPが照射される露光画素の各々に対しては、描画ビームLBnとして所定周期Tfで発振されるパルス光の所定数(図19では2パルス)を射出し、相対走査中にスポット光SPが非照射とされる非露光画素の各々に対しては所定数のパルス光の射出を中断する光源装置LSと、描画ビット列データSDnに基づいて、露光画素のうちでパターンのエッジ部に対応したエッジ部露光画素PIC’に対して射出されるパルス光(オン・パルス光ONp)の数が、所定数(図19では2パルス)に対して相対的に増える(3パルスにする)ように光源装置LSを制御する描画制御装置200と、が設けられる。
〔変形例5〕
以上の第2の実施の形態では、スポット光SPの直径φと画素PICの寸法Dpxとを、φ≒Dpxに設定したが、1つの露光画素に対して照射するオン・パルス光ONpの数を、先の図18のように3×3個と多くできる場合は、ビームLBnの開口数(NA)を大きくして、(Dpx/2)<φ<Dpxの関係にしても良い。この場合、ビームLBnの開口数(NA)が大きくなることにより、感光層Luvに露光されるパターンのエッジ部のコントラスト(強度分布)を高めることができる。ビームLBnの開口数(NA)の最大値は、図3、図15に示した描画ユニットUn内の開口絞りNPAでビームLBnの裾野の1/e2の強度以下をカットする場合は、開口絞りNPAの開口の直径(φb1)、ポリゴンミラーPMの各反射面の主走査方向に対応した方向(回転の周方向)の寸法、fθレンズ系FTの焦点距離等によって制限される。しかしながら、開口絞りNPAの開口を通るビームLBnの断面内の強度分布における径方向の周辺強度を高めるように調整すると、基板P上に投射されるビームLBnの開口数(NA)を見かけ上で大きくすることができる。
図23(A)は、先の図15で示した開口絞りNPAとレンズ系Gu2の配置を示し、本変形例では、図15(B)で説明したように、レンズ系Gu1の配置を調整してレンズ系Gu2から開口絞りNPAに向かうビームLBn(平行光束)の直径を可変にする機能を利用する。標準的な光学条件の設定では、ビームLBnの強度分布上の裾野の1/e2の強度以下がカットされるようにビームLBnの直径が設定され、開口数(NA)はほぼ0.06に設定される。これに対してレンズ系Gu1の配置を変えて、標準的な設定よりも大きな直径となるようにビームLBnを調整すると、開口絞りNPAの開口を通った後のビームLBn’は、強度分布上の周辺部が1/e2の強度よりも高くなる。その為、開口絞りNPAの開口を通った後のビームLBn’には、回折現象による回折光の拡がり(太り)が生じ、開口数(NA)を高めることができる。
図23(B)は、図23(A)の開口絞りNPAの位置に配置される輪帯絞りNPA’の平面図である。輪帯絞りNPA’は、光軸AXeが通る中心点から一定半径の円形の遮光部NSaと、光軸AXeが通る中心点から一定半径で、ビームLBn(又はLBn’)の周辺部をカットする輪帯状の遮光部NSbと、円形の遮光部NSaと輪帯状の遮光部NSbとの間に輪帯状に形成される透過部NScとを備えている。このような輪帯絞りNPA’を用いると、輪帯絞りNPA’の透過部NScを通ったビームLBn(又はLBn’)の断面内での強度分布は周辺部が高くなることになり、最終的に基板P(感光層Luv)に投射されるビームの開口数(NA)を高めることができる。
図23(C)は、図23(B)のように光源装置LSからのビームLBの断面内の強度分布を輪帯状にする為に、図16に示した第1のビーム調整系BMU内の偏光ビームスプリッタBSpと縮小ズーム光学系VBCとの間の光路中に設けられる輪帯化光学系の構成を示す。輪帯化光学系は、偏光ビームスプリッタBSpからのビームLB(平行光束)の断面内の強度分布Ds1における裾野の1/e2の強度以下をカットした強度分布Ds2に整形する輪帯絞りNPA’と、光軸AXeに沿って適当な間隔で配置される2つの平凸状の円錐プリズム(コーンプリズム)CP1、CP2とで構成される。2つのコーンプリズムCP1、CP2の各々の頂点は光軸AXe上に配置され、前段のコーンプリズムCP1は、入射するビームLBの光軸AXe上の中心光線からビームLBの外周付近を通る周辺光線までを、円錐状の入射面によって光軸AXeの方向に一定の角度で屈折(偏向)させる。後段のコーンプリズムCP2は、コーンプリズムCP1によって偏向された中心光線から周辺光線までを、円錐状の射出面によって元の光軸AXeと平行な状態に戻す。従って、コーンプリズムCP1の円錐状の入射面の頂角と、コーンプリズムCP2の円錐状の射出面の頂角とは等しく設定されている。コーンプリズムCP1、CP2を光軸AXe方向に適切な間隔で配置すると、コーンプリズムCP2を通ったビームLBの断面内の強度分布Ds3は、中心部の強度が低く周辺部の強度が高い輪帯状となる。コーンプリズムCP1、CP2のいずれか一方を、図23(C)の位置から光軸AXeに沿った方向に移動させると、輪帯状の強度分布Ds3の中心部と周辺部との強度のバランスや輪帯の径を、トータルの光エネルギーの損失が無い状態で調整できる。
以上、第1の実施の形態、第2の実施の形態、及び変形例1~5では、感光層Luvとしてのフォトレジストをネガタイプとしたが、ポジタイプであっても、スポット光の走査による直描方式の露光機において、現像後のパターンのエッジに対応したレジスト像LTP’のサイドウォールの傾斜量を所望の状態に制御することが可能である。特に、描画すべきパターンを画素単位でパルス状のスポット光で描画する際に、画素の寸法(Dpx)に対するスポット光の寸法(直径φ)を調整して、パターンのエッジ部となるエッジ部露光画素PIC’に対して与えられる複数のパルス状のスポット光の数を、他の露光画素に与えられるスポット光の数に対して相対的に増減させることで、エッジ部に対応した画素PIC’、又はその周囲の画素に与えられる露光光の強度分布を任意の状態に変えることが可能となる。その為、感光層Luvの厚みRTが、1画素の寸法(Dpx)、或いは描画すべきパターンの最小線幅よりも大きい場合にも、感光層Luvの残膜した部分のエッジ部(図8中のEwa、Ewb)のサイドウォールを、制御された傾斜量(逆テーパー状と順テーパー状のいずれであっても良いし、ほぼ垂直な状態でも良い)に仕上げることができる。
また、感光層Luvを電鋳マスク製造時や配線層の形成時のメッキ工程でのマスキングとする場合は、東京応化工業株式会社からメッキ用フォトレジストして販売されている、商品名PMER P-CSシリーズ、PMER P-LAシリーズ、PMER P-HAシリーズ、PMER P-CEシリーズ、或いはナフトキノン型や化学増幅型によるPMER P-WEシリーズ、PMER P-CYシリーズのフォトレジスト、商品名PMER-N-HC600PYのネガタイプのフォトレジスト等が利用できる。その他、山栄化学株式会社から販売されている商品名がSPR-558C-1、SPR-530CMT-Aのメッキ用レジストも利用できる。また、パターン描画用のビームLBnの波長λにおいて適当な光吸収率を有し、紫外線硬化型モノマー・オリゴマー(エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート)、光重合開始剤、光増感剤、添加剤等を組成とする紫外線硬化型樹脂を感光層Luvとして塗布しても良い。
さらに、可撓性の樹脂フィルムや極薄のガラス板による基板上に電子デバイスを直接形成する工程では、基板上に形成される薄膜トランジスタの電極間の絶縁や多層配線間の絶縁の為に、微細な領域(局所領域)のみに選択的に絶縁層を形成することがあり、そのような絶縁層として利用されるフォトレジストもある。絶縁層は電子デバイスの動作性能に応じて種々の厚みで形成されるが、図24に示すように、局所的な絶縁層ISLを跨ぐように配線パターン層PLcを局所的な絶縁層ISL上に形成する場合、その絶縁層ISLの周辺エッジのサイドウォールEwa、Ewbは、絶縁層ISLの内側に向けて比較的に大きく傾斜していることが望ましい。そのように、現像後の感光層Luvを電子デバイスの絶縁層ISLとして利用する場合も、第1の実施の形態、第2の実施の形態、及び変形例1~5で示したパターン描画方法によれば、絶縁層ISLの周辺エッジ部を比較的に大きな順テーパー状に形成することが可能となり、絶縁層ISLの上にエッジ部(Ewa、Ewb)を横切るように積層して形成されるパターン層(配線層や電極層)PLcの断線やクラックを回避することができる。
上記のように、感光層Luvとしては種々のものが利用され得るが、フォトレジストや紫外線硬化型樹脂は、その材料成分によって感光感度や光吸収特性が異なる為、描画用のビームLBnの強度を適宜調整して感光層Luvに与える露光量を調整することも必要である。先の図5に示したように、光源装置LSをファイバーアンプレーザ光源とする場合、光源装置LSから射出されるビームLBの強度(パワー)自体を大きく変更させることは難しい。そこで、描画用のビームLBnの強度を低減させる(露光量を減少させる)場合は、図16に示したビーム調整系BMU内の波長板QPPを回転機構210によって回転させて、偏光ビームスプリッタBSpを透過するビームLBの強度を低下させれば良い。逆に、感光層Luvに与える露光量を増加させる場合は、1つの露光画素を描画する為に必要な副走査方向の走査線の本数を増やす多重露光モードにする。多重露光モードでは、ポリゴンミラーPMの回転速度に応じて最も少ない走査線の本数で露光画素が描画されるように設定された基板P(ステージ機構ST)の副走査方向の移動速度(規定速度、標準設定速度とする)に対して、ポリゴンミラーPMの回転速度は変えずに、基板Pの移動速度を規定速度の2/3、1/2、1/3、1/4、・・・のいずれかに低減させたり、ポリゴンミラーPMの回転速度と基板Pの移動速度とを規定速度の2/3、1/2、1/3、1/4、・・・のいずれかに低減させたりすることで、露光画素の各々に対してより多くの走査線(多くのオン・パルス光ONp)を割り当てて露光量を増大させる。多重露光モードで、基板P(ステージ機構ST)の移動速度が規定速度の1/2になると感光層Luvに与えられる露光量が2倍となり、1/4になると露光量が4倍となる。
〔第3の実施の形態〕
以上の第1の実施の形態、或いは第2の実施の形態において、基板Pの感光層Luvに露光されるパターンの主走査方向(Y方向)又は副走査方向(X方向)の寸法は、設計上で予め定められた正方形の画素PIC(PIC’)のXY方向の寸法Dpx(例えば、2μm角)の整数倍の関係で設定される。その為、設計上で線幅が14μmとして規定されたパターンを基板Pの感光層Luvに通常に描画する場合は、主走査方向(Y方向)又は副走査方向(X方向)につながった7画素分の描画データが、オン・パルス光ONp(又はオフ・パルス光OFp)となるように設定される。しかしながら、図8に示したように、感光層Luvの現像後のパターン像のエッジ部Ewa、Ewbを逆テーパー状にするような特殊露光モードの場合、描画すべきパターンのエッジ部に位置するエッジ部露光画素PIC’に対しては、先の図19~図21で説明したように、より多くの数のスポット光SPをパルス照射する場合がある。
すなわち、描画されるパターンのエッジ部となる感光層Luvの部分に、大きな積算露光量(DOSE量)が与えられることから、現像後に感光層Luvに形成されるレジスト像LTP’の線幅(エッジ部Ewa、Ewbの間隔等)が、設計上で規定された線幅(例えば14μm)に対して、誤差を生じることがある。感光層Luvがネガレジストの場合、露光量が過多(オーバードーズ)になると、描画用の露光光(スポット光SP)の照射を受けた感光層Luvの部分の外側(非露光部)にも残膜部が広がる為、現像後に除去される感光層Luvの線幅、図8ではエッジ部Ewaとエッジ部Ewbの間の線幅が、設計上の目標値に対して減少することになる。また、ネガレジストの厚みを通常の厚み(約1μm)よりも10倍以上に厚くする場合、全体的にDOSE量を増大させる必要も生じる。
そこで、本実施の形態では、描画データ上で設定される1画素が、標準露光モード時に設定されるスポット光SP(SP’)の走査回数(2回)に比べて、MP倍(MPは、例えば、2、3、・・・8、10等の整数)だけ増大させた走査回数で描画されるように、スポット光SP(SP’)の主走査方向の走査速度と基板Pの副走査方向の移動速度とを標準露光モード時に比べて1/MP倍に低下させる。併せて、パターンのCADデータから生成される描画ビット列データSDn(又はパルス発光用マップデータ)は、線幅の忠実度を確保しつつ、感光層Luvの現像後のパターンのエッジ部Ewa、Ewbを逆テーパー状にするような条件に修正されて、図4の描画制御装置200内、又は図5の制御回路120内のメモリ部に生成される。
図25は、一例として、スポット光SPの主走査方向(Y方向)の線幅Lyが14μmで副走査方向(X方向)に直線的に延びたライン&スペースパターンを、標準設定の描画条件の下で露光する標準露光モードの場合の描画ビット列データSDnとスポット光SPのパルス発光タイミングとの関係を模式的に示した図である。図25(A)は、感光層Luvをネガレジストとした場合に、現像後にレジスト像として残膜するラインパターン部LTPaと、現像後に除去されるスペースパターン部LTPb(斜線部)との配置を示す。ネガレジストの場合、走査線SLnに沿って走査されるスポット光SPがオン・パルス光ONp(黒丸)となった部分は現像後に除去され、オフ・パルス光OFp(白丸)となった部分は現像後も残膜する。
図25(B)は、描画データ上で規定される基板P上での画素寸法Dpxを、X方向とY方向の各々で2μmとした場合のスペースパターン部(斜線部)LTPbの描画ビット列データSDnの画素毎のビットパターン(「0」又は「1」)と、図5の光源装置LSの信号発生部120aから送出されるクロック信号LTCと、スポット光SPのパルス発光の様子とを示した図である。本実施の形態では、画素寸法Dpxを2μmとしたので、スペースパターン部(斜線部)LTPbとラインパターン部LTPaとは、主走査方向に7画素(描画ビット列データSDn上では7ビット分)で規定され、描画ビット列データSDn中のスペースパターン部LTPbに対応した7画素(7ビット)には論理値「1」が設定され、ラインパターン部LTPaに対応した7画素(7ビット)には論理値「0」が設定される。また、スポット光SPをパルス発光させる為のクロック信号LTCの周波数Faは400MHz(周期Tf=2.5nS)とする。
標準露光モードの場合、1画素を主走査方向と副走査方向の各々に関してスポット光SPの2パルス(オン・パルス光ONp)分で露光するものとすると、走査線SLnに沿ったスポット光SPの走査速度Vsp、スポット光SPのパルス発振の周期Tf、スポット光SPの実効的な直径φ、ポリゴンミラーPMの回転速度VR(rpm)、ポリゴンミラーPMの反射面数Np、ポリゴンミラーPMの1つの反射面による走査効率1/α、及び走査線SLnの実効的な走査長LTに基づいて、先の式(2)で導出したように、
(φ/2)/Tf=(8・α・VR・LT)/60 ・・・ 式(2)
の関係に設定される。
しかしながら、感光層Luv(ネガレジスト等)の厚みが10μm以上(例えば、10~20μm)に厚くなると、感光層Luvでの露光波長における吸収の影響も考慮して、露光画素に与えるオン・パルス光ONpのDOSE量を相当に大きく設定する必要がある。光源装置LSから射出されるビームLBのパワー(オン・パルス光ONpのピーク強度)を倍増することが難しく、さらに発振周波数Faを倍増することも難しい場合、DOSE量を増大させる為には、発振周波数Faを変えずに、スポット光SPの走査速度Vspと基板Pの移動速度(副走査速度)とを、標準的な設定値に対して1/MPに低下させる多重露光モードによる描画が行われる。
図26は、図25に示した標準露光モードでの描画条件に対して、スポット光SPの走査速度Vspと基板Pの移動速度(副走査速度)とを1/10(MP=10)に低下させて、スペースパターンLTPbに対してDOSE量を増大させる場合のパルス発光用ビット列データSEnの生成の様子と、スポット光SPのパルス発光タイミングの様子とを示す図である。スポット光SPの走査速度Vsp(即ち、ポリゴンミラーPMの回転速度VR)を標準的な設定値に対して1/10に低下させる場合、1画素の寸法Dxpを2μm角で規定した描画ビット列データSDnに基づいて、描画ビット列データSDnの1画素(1ビット)分を10ビット分(10画素分)とするようなパルス発光用ビット列データSEnを生成する。従って、描画ビット列データSDnにおいて7画素(7ビット)で規定されるスペースパターンLTPbの主走査方向の線幅Ly(14μm)は、パルス発光用ビット列データSEnにおいて70ビット(70画素)で規定される。従って、標準露光モードにおいて、画素寸法Dpxが2μm角で、スポット光SPの実効的な走査長LTが50mmである場合、走査長LTに渡る1本の走査線SLnに対応した描画ビット列データSDnの全画素数(全ビット数)は2万5千(3125バイト)であるのに対し、パルス発光用ビット列データSEnの全画素数(全ビット数)はその10倍となる。
パルス発光用ビット列データSEnの70画素分(70ビット分)の全てに論理値「1」を設定し、パルス発光用ビット列データSEnの1画素(1ビット)分をスポット光SPの1パルスに対応させる。これにより、線幅Lyが14μmのスペースパターンLTPbは、クロック信号LTCの連続した70のクロックパルスの各々に応答して投射されるスポット光SPのオン・パルス光ONpによって、図26のようにスポット光SPの直径φの1/10程度ずつずれて多重露光され、DOSE量を大幅に増大させることができる。なお、図26においては、図示の都合上、スポット光SPの実効的な直径φ(ピーク強度の1/e2の強度で規定されるエアリーディスク径とも呼ばれる)を、描画ビット列データSDnで規定される画素の寸法Dpx(2μm角)と同じ程度に示した。しかしながら、先の図14、図15でも説明したように、スポット光SPの直径φは、基板Pに投射されるビームLBnの開口数(NA)とビームLBnの波長λ(例えば、355nm)とによって、φ≒0.6λ/NAの関係から、おおよそ一義的に決まってくる。その為、波長λを355nm、開口数(NA)を0.06とした標準設定の場合、実際のスポット光SPの実効的な直径φは約3.55μmとなり、画素寸法Dpx(2μm角)に対して1.8倍程度大きく設定されている。スポット光SPの直径φを小さくする場合は、開口数(NA)の増大と波長λの短波長化との少なくとも一方を行うことになる。
図26のように、描画ビット列データSDnで規定される1画素の画素寸法Dpx(2μm)に対して、パルス発光用ビット列データSEnで規定される1画素(1ビット)の寸法は、スポット光SPの走査速度Vsp(ポリゴンミラーPMの回転速度VR)が標準設定値の1/10に設定されることから、基板P上では0.2μmに相当する。仮に、標準露光モードの状態で、パルス発光用ビット列データSEnに基づいてスポット光SPのオン・パルス光ONpを基板Pに照射すると、基板P上には主走査方向の線幅が140μmのスペースパターンLTPbが描画されることになる。このように、標準露光モードの際に設定される画素寸法Dpx(例えば、2μm角)の1画素に与えられるスポット光SPのオン・パルス光ONp(又はオフ・パルス光OFp)の数を、標準的な設定値よりも多くした多重露光モードでは、その多重回数MP(2、3、4、・・・の整数)に比例して、積算露光量を増大させることができる。この多重露光モードは、パターン描画に要する時間(タクト・タイム)を標準露光モードに比べてMP倍に増大させることになるが、以下で説明する特殊露光モードの場合には、感光層Luvのパターンのエッジ部Ewa、Ewb(図8参照)のサイドウォールを所望の傾斜角に制御し易くなるといった利点がある。
図27は、図26で説明した多重露光モード用のパルス発光用ビット列データSEn中のビットパターン(論理値「1」、「0」の配列)を補正して、感光層Luvのエッジ部Ewa、Ewbのサイドウォールを逆テーパー状にする特殊露光モードの様子を説明する図である。図27においても、スポット光SPの走査速度Vspと基板Pの移動速度(副走査速度)は、標準露光モード時の設定に対して1/10(MP=10)に低下され、基板P上で主走査方向の線幅Lyが14μmのスペースパターンLTPbを描画するものとする。図26では、パルス発光用ビット列データSEn中のスペースパターンLTPbに対応した70画素(70ビット)の全てに論理値「1」(オン・パルス光ONp)が設定されていた。しかしながら、特殊露光モードでは、図27のように、その70画素(70ビット)中の特定の画素位置(ビット位置)に論理値「0」(オフ・パルス光OFp)が混在するようなパルス発光用ビット列データSEnが生成される。シミュレーションの結果、本実施の形態では、スペースパターンLTPbの線幅Lyを14μmにしつつ、逆テーパー状のサイドウォールを形成する為に、パルス発光用ビット列データSEn中の70画素(70ビット)の左端を1画素(1ビット)目とし、右端を70画素(70ビット)目としたとき、画素位置の1~5画素(5ビット分)、16~25画素(10ビット分)、31~40画素(10ビット分)、46~55画素(10ビット分)、66~70画素(5ビット分)の各々は論理値「0」に設定され、6~15画素(10ビット分)、26~30画素(5ビット分)、41~45画素(5ビット分)、56~65画素(10ビット分)の各々は論理値「1」に設定される。なおスペースパターンLTPbの両側のエッジ部に対応する最も左側の画素位置1~5画素(5ビット分)と最も右端の画素位置66~70画素(5ビット分)の各々には、現像後のレジスト像(残膜像)の線幅を目標値(14μm)にする為に、シミュレーションの過程から意図的に論理値「0」(オフ・パルス光OFp)が設定される。
図27に示すように、標準露光モードの際に設定される画素寸法Dpxが2μm角の7画素のうち、エッジ部に対応する左端の画素1と右端の画素7は、エッジ部露光画素PIC’に相当する。本実施の形態では、パルス発光用ビット列データSEn中のスペースパターンLTPbに対応した70画素(70ビット)分の各々に設定された論理値「0」、「1」によるシリアルなビットパターンに応答して、光源装置LSからのビームLBが、クロック信号LTCのクロックパルスの周期Tfでオフ・パルス光OFpとオン・パルス光ONpとにスイッチングされる。なお、図27でも、図示の都合上、スポット光SPの実効的な直径φを、標準露光モードの際に設定される画素寸法Dpxの2μm角と同じ程度に示したが、実際のシミュレーションでは、スポット光SPの直径φを半値全幅(ピーク強度の1/2の強度となる直径)で規定して3.6μmとした。
図28は、図27に示したパルス発光用ビット列データSEn中のスペースパターンLTPb(線幅14μm)に対応した70画素(70ビット)分のオン・パルス光ONpとオフ・パルス光OFpとの積算された光量(強度)分布のシミュレーション結果を示すグラフである。図28において、横軸はスペースパターンLTPbの主走査方向(Y方向)の中心位置を原点0とした線幅値(μm)を表し、縦軸は図11~図13と同様の規格化強度Iprを表す。図28において、閾値は、露光後の感光層(ネガレジスト)Luvを現像した後に出現するレジスト像の線幅になると見込まれる相対強度である。図28中の光量分布SCbは、図27に示したパルス発光用ビット列データSEnのビットパターンに基づいてパルス発光したスポット光SPのオン・パルス光ONpで積算された分布を表す。本実施の形態における特殊露光モードでは、スペースパターンLTPbのエッジ部付近(±5μmの位置)で光量が最大(規格化強度Iprで約9.0)となり、中央部分(±2μmの範囲)で光量が減少(規格化強度Iprで約5.9)するような、ダブル・ピーク状(猫耳状)の分布が得られる。なお、図28中の光量分布SCaは、図25(B)の標準露光モードで露光されるスペースパターンLTPbに対応した光量分布のシミュレーション結果のグラフであり、特殊露光モードで得られる光量分布SCbとの比較の為に併記した。
図25(A)に示したライン&スペースパターン(LTPa、LTPb)を基板P上に露光(描画)する際、スペースパターン部LTPbに対応した積算光量の分布を、図28の光量分布SCbのようなダブル・ピーク状にすると、現像後に基板P上に残膜する感光層(レジスト層)Luvの断面形状は、図29に示すようなプロファイルになる。図29(A)は先の図25(A)と同じライン&スペースパターン(LTPa、LTPb)を表し、図29(B)は、現像後に基板P上に残膜する感光層(ネガレジスト)Luvの断面形状を模式的に表したものである。本実施の形態では、感光層Luvがスペースパターン部LTPbの線幅(14μm)と同等の厚み(例えば、15μm)を持つものとし、残膜した感光層Luvのエッジ部Ewa、Ewbのサイドウォールは、図28中の光量分布SCbのように、スペースパターン部LTPbのエッジ部付近の光量を中央部の光量に対して増大させることで、逆テーパー状に傾けることができる。
図30は、実際に、図28中の光量分布SCbを持たせてスペースパターン部LTPbを感光層Luvに露光して現像した後のレジスト像の断面形状を、走査型電子顕微鏡(SEM)で計測したSEM観察像である。この露光実験では、基板Pはステンレスの薄板の表面にニッケル(Ni)をメッキし、その表面にネガ型フォトレジストのPMER-N-HL600PY(東京応化工業株式会社製、商品名)を感光層Luvとして所定の厚み(例えば15μm)で塗布し、所定の乾燥時間後に、図3の描画ユニットUnを用いて、図25(A)に示したライン&スペースパターン(LTPa、LTPb)を特殊露光モードで露光した。露光時のDOSE量(図27中のパルス発光用ビット列データSEnのビットパターンとオン・パルス光ONpの強度から算定)は約140mJ/cm2とした。さらに、露光後の基板Pは現像液N-A5(東京応化工業株式会社製、商品名)に210秒浸漬し、感光層Luvをフォトエッチングした。この条件によって、基板P上に残膜したスペースパターン部LTPbに対応した感光層Luvのエッジ部Ewa、Ewbのサイドウォールの傾斜角θRは、実測の結果、約29°となった。なお、図30において、残膜した感光層Luvのボトム部分での線幅は、目標とした14μmよりも若干短くなっていたが、これはDOSE量の微調整や現像時間の最適化等により改善され得る。
〔変形例6〕
以上の第3の実施の形態では、図26にて説明した多重露光モード、又は図27にて説明した特殊露光モードにおいて、光源装置LSからのビームBMの発振周波数Faを400MHzとした条件の下で、スポット光SPの走査速度Vsp(ポリゴンミラーPMの回転速度VR)と基板Pの副走査方向への移動速度とを、標準露光モードの際に設定される標準値の1/MP(例えば、MP=10)に設定した。ビームLBの発振周波数Faを2倍の800MHzにできれば、スポット光SPの走査速度Vspと基板Pの移動速度とを標準値の2/MP(=1/5)に設定でき、基板Pの1枚当たりの露光処理時間を半減することができる。
しかしながら、図5に示したように光源装置LSをファイバーアンプレーザ光源(波長変換光学素子を用いて紫外波長域のレーザ光を出力する高調波レーザ光源)とする場合、発振周波数の増大に伴って、得られるレーザパワー(オン・パルス光ONpのピーク強度)が低減してしまうことがある。そこで、例えば特開2017-067823号公報に開示されているように、ビームBMの発振周波数Faを400MHzとした光源装置LSを2台用意し、第1の光源装置LSからのビームBMのパルス光(オン・パルス光ONpとオフ・パルス光OFp)の発振周期の1/2のタイミングで、第2の光源装置LSからのビームBMのパルス光(オン・パルス光ONpとオフ・パルス光OFp)が発振されるように同期制御し、第1の光源装置LSからのビームBMと第2の光源装置LSからのビームBMとを同軸に合成して、800MHzで発振するビームBMを得ても良い。