以下、図面を参照しながら、本発明の各実施形態を説明する。
[リチウムイオン電池正極および該正極を用いたリチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池用正極は、主要活物質が、一般式:xLi2MO3・(1−x)Li[Ni1−y−zCoyAz]O2で表されることを特徴とし、本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用正極を用いてなることを特徴とする。
ここで、上記一般式中のxは、0.4<x<1.0を満たす数であり、0<y≦0.3であり、0<z≦0.1である。また、上記一般式中のMは、Mn、TiおよびZrよりなる群から選ばれる一つ以上の元素であり、Aは、B、Al、GaおよびInよりなる群から選ばれる一つ以上の元素である。
上記主要活物質は、既存の基本組成に比して、0.4<x<1とし、更に電気化学的に活性な層状のLiNiO2のNiサイトの一部にCo及び上記A元素を適量入れた(置換した)固溶体構造とすることにより、正極や該正極を用いた電池の放電容量を大幅に増加できる。
以下、図1〜図3を参照して、本発明のリチウムイオン電池用正極および該正極を用いたリチウムイオン電池の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
まず、本発明に係るリチウムイオン電池は、高容量とできることから、車両の駆動電源用等のリチウムイオン二次電池として好適に利用できるほか、携帯電話などの携帯機器向けのリチウムイオン二次電池にも十分に適用可能である。
すなわち、本発明の対象となるリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用正極を用いてなるものであればよく、他の構成要件に関しては、特に制限されるべきものではない。
例えば、上記リチウムイオン電池を形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
また、リチウムイオン電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。
リチウムイオン電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質層に高分子電解質を用いたポリマー電池など従来公知のいずれの電解質層のタイプにも適用し得るものである。該ポリマー電池は、更に高分子ゲル電解質(単にゲル電解質ともいう)を用いたゲル電解質型電池、高分子固体電解質(単にポリマー電解質ともいう)を用いた固体高分子(全固体)型電池に分けられる。
したがって、以下の説明では、本発明のリチウムイオン電池用正極を用いてなる非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池及び双極型(内部直列接続タイプ)リチウムイオン二次電池につき図面を用いてごく簡単に説明する。但し、本発明のリチウムイオン電池の技術的範囲が、これらに制限されるべきものではない。
図1は、本発明のリチウムイオン電池の代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に非双極型リチウムイオン二次電池、または非双極型二次電池ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、非双極型リチウムイオン二次電池10では、電池外装材22に高分子−金属を複合したラミネートフィルムを用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素17を収納し密封した構成を有している。即ち、実際に充放電反応が進行する略直方形の発電要素17が、電池外装材22であるラミネートシートの内部に封止された構造を有する。
ここで発電要素17は、正極集電体11の両面(発電要素の最外層用は片面)に正極(正極活物質層)12が形成された正極板、電解質層13、および負極集電体14の両面に負極(負極活物質層)15が形成された負極板を積層した構成を有している。この際、一の正極板片面の正極(正極活物質層)12と前記一の正極板に隣接する一の負極板片面の負極(負極活物質層)15とが電解質層13を介して向き合うようにして、正極板、電解質層13、負極板の順に複数積層されている。
これにより、隣接する正極(正極活物質層)12、電解質層13、および負極(負極活物質層)15は、一つの単電池層16を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、単電池層16が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素17の両最外層に位置する最外層正極集電体11aには、いずれも片面のみに正極(正極活物質層)12が形成されている。なお、図1と正極板と負極板の配置を変えることで、発電要素17の両最外層に最外層負極集電体(図示せず)が位置するようにし、該最外層負極集電体の場合にも片面のみに負極(負極活物質層)15が形成されているようにしてもよい。
また、上記の各電極板(正極板及び負極板)と導通される正極タブ18および負極タブ19が、正極端子リード20および負極端子リード21を介して各電極板の正極集電体11及び負極集電体14に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられている。これにより、正極集電体11及び負極集電体14に電気的に接続された正極タブ18および負極タブ19は、上記熱融着部に挟まれて上記の電池外装材22の外部に露出される構造を有している。電解質層13は、セパレータの空隙部分には電解質が充填された構造を有しており、いわば、セパレータを介して正極12と負極15が対向し、空隙部分に電解質が充填された電池構成となっている。
図2は、本発明のリチウムイオン電池の他の代表的な一実施形態である双極型の扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に双極型リチウムイオン二次電池、または双極型二次電池とも称する)の全体構造を模式的に表わした概略断面図である。
図2に示すように、双極型リチウムイオン二次電池30は、実際に充放電反応が進行する略直方形の発電要素37が、電池外装材42の内部に封止された構造を有する。本実施形態の双極型二次電池30の発電要素37は、1枚または2枚以上で構成される双極型電極34で電解質層35を挟み、隣合う双極型電極34の正極(正極活物質層)32と負極(負極活物質層)33とが対向するようになっている。ここで、双極型電極34は、集電体31の片面に正極(正極活物質層)32を設け、もう一方の面に負極(負極活物質層)33を設けた構造を有している。即ち、双極型二次電池30では、集電体31の片方の面上に正極(正極活物質層)32を有し、他方の面上に負極(負極活物質層)33を有する双極型電極34を、電解質層35を介して複数枚積層した構造の発電要素37を具備してなるものである。
隣接する正極(正極活物質層)32、電解質層35および負極(負極活物質層)33は、一つの単電池層(=電池単位ないし単セル)36を構成する。従って、双極型二次電池30は、単電池層36が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層35からの電解液の漏れによる液絡を防止するために単電池層36の周辺部にはシール部(絶縁層)43が配置されている。該シール部(絶縁層)43を設けることで隣接する集電体31間を絶縁し、隣接する電極(正極32及び負極33)間の接触による短絡を防止することもできる。電解質層35は、セパレータの空隙部分には電解質が充填された構造を有しており、いわば、セパレータを介して隣接する正極32と負極33が対向し、空隙部分に電解質が充填された電池構成となっている。
なお、発電要素(電池要素)37の最外層に位置する正極側電極34a及び負極側電極34bは、双極型電極構造でなくてもよい。例えば、集電体31a、31b(または端子板)に必要な片面のみの正極(正極活物質層)32または負極(負極活物質層)33を配置した構造としてもよい。発電要素37の最外層に位置する正極側の最外層集電体31aには、片面のみに正極(正極活物質層)32が形成されているようにしてもよい。同様に、発電要素37の最外層に位置する負極側の最外層集電体31bには、片面のみに負極(負極活物質層)33が形成されているようにしてもよい。また、双極型リチウムイオン二次電池30では、上下両端の正極側最外層集電体31a及び負極側最外層集電体31bにそれぞれ正極タブ38および負極タブ39が、必要に応じて正極端子リード40及び負極端子リード41を介して接合されている。但し、正極側最外層集電体31aが延長されて正極タブ38とされ、電池外装材42であるラミネートシートから導出されていてもよい。同様に、負極側最外層集電体31bが延長されて負極タブ39とされ、同様に電池外装材42であるラミネートシートから導出される構造としてもよい。
また、双極型リチウムイオン二次電池30でも、発電要素37部分を電池外装材(外装パッケージ)42に減圧封入し、正極タブ38及び負極タブ39を電池外装材42の外部に取り出した構造とするのがよい。かかる構造とすることで、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止することができるためである。この双極型リチウムイオン二次電池30の基本構成は、複数積層した単電池層(単セル)36が直列に接続された構成ともいえるものである。
上記した通り、非双極型リチウムイオン二次電池と双極型リチウムイオン二次電池の各構成要件および製造方法に関しては、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)が異なることを除いては、基本的には同様である。よって上記した非双極型リチウムイオン二次電池の各構成要件を中心に以下説明するが、双極型リチウムイオン二次電池の各構成要件および製造方法に関しても、同様の構成要件及び製造方法を適宜利用して構成ないし製造することができる。また、本発明の非双極型リチウムイオン二次電池および/または双極型リチウムイオン二次電池を用いて、組電池や車両を構成することもできる。
(リチウムイオン電池用正極)
本発明では、その特徴的な構成として、正極の主要活物質が、一般式:xLi2MO3・(1−x)Li[Ni1−y−zCoyAz]O2で表される、いわゆる固溶体系の正極であることを特徴とする。
ここで、上記式中のxは、0.4<x<1.0を満たす数であればよい。好ましくは0.5≦x≦0.9、より好ましくは0.6≦x≦0.8である。xの値を上記範囲とすることで、放電容量を増大させることができる(実施例の表1参照)。即ち、電気化学的に不活性な層状構造(=Mn量)の割合よりも、むしろ電気化学的に活性な層状構造の割合(=Ni量)が少ない固溶体構造とすることで、放電容量を増大できることを知得し得たものである。特に、こうした固溶体構造では、後述するように、室温よりいくらか高い温度(35〜80℃)にすると放電容量が室温での値に比べて大幅に増大できる点で顕著な効果を奏する。従って、該正極を用いた電池温度を室温よりいくらか高くして(35〜80℃で)使用することにより、この大きな容量を活用できる。電動車用電池の場合には、電池の充放電の際、電池の内部抵抗による多少の発熱とそれによる電池温度の上昇は避けられないので、本発明の正極を用いた電池は電動車両用としては見方によれば好都合に出来ている。つまり電気自動車で連続走行するような場合には、電池の使用とともに電池の温度が徐々に上がって、本発明の正極を用いた電池の構成では、大きな容量をすべて使用できる点でも優れている。
上記式中のMは、Mn、TiおよびZrよりなる群から選ばれる一つ以上の元素である。好ましくはMnである。Mとして、Mn、Ti、Zrを用いることで、上記一般式で表される固溶体正極のうちの電気化学的に不活性な層状のLiMO2の結晶構造をとることができる。特にMがMnの場合、都合のいい電位(3〜4V)に大きな容量を持つため、放電容量を増大させる上で有利である。また、MnにTi、Zrを適量加える形態では、Ti、ZrはMnのような大きな容量がない反面、結晶構造の安定化に寄与することから、Mnの持つ高容量の一部(本発明の放電容量を増大効果を損なわない範囲)を犠牲にしても安定化が求められる用途に有効活用できる。
上記式中のy(Coの組成比率)は、0<y≦0.3を満たす数であればよい。好ましくは0.1≦y≦0.2である。yの値を上記範囲とすること、即ち、上記一般式で表される固溶体正極のうちの電気化学的に活性な層状のLiNiO2のNiの一部(0%超〜30%)をCoで置換することで、放電容量を増大させるのに大いに貢献できる。
上記式中のAは、13族元素であるB、Al、GaおよびInよりなる群から選ばれる一つ以上の元素である。好ましくはAlである。即ち、上記一般式で表される固溶体正極のうちの電気化学的に活性な層状のLiNiO2のNiの一部(0%超〜10%)を、A元素、特にAl元素で置換することで、放電容量を増大させるのに大いに貢献できる。またAがAlの場合、活性な層状構造の[Ni、Co、Al]の組成の中では、Niが多いので、Niとの関係で、該層状構造の結晶表面の特性(構造安定性)などの改良効果やNiのガス発生傾向を抑制できる効果などが得られるものと推測される。これは、Alはイオン半径が小さく層状のLiNiO2の結晶格子に入ることで該層状構造を安定化させる作用などが、上記した結晶表面の特性などの改良に寄与しているものと思われる。
上記式中のz(A元素の組成比率)は、0<z≦0.1を満たす数であればよい。好ましくは0.03≦z≦0.07である。zの値を上記範囲とすること、即ち、上記一般式で表される固溶体正極のうちの電気化学的に活性な層状のLiNiO2のNiの一部(0%超〜10%)をA元素で置換することで、放電容量を増大させるのに大いに貢献できる。特に、AがAlの場合、活性な層状構造の[Ni、Co、Al]の組成の中では、Niが多いので、Niとの関係で、該層状構造の結晶表面の特性(構造安定性)などの改良効果やNiのガス発生傾向を抑制できる効果などが得られる。
上記式中の1−y−z(Niの組成比率)は、0.6≦(1−y−z)<1を満たす数であればよい。好ましくは0.73≦(1−y−z)≦0.87である。上記一般式で表される固溶体正極のうちの、電気化学的に活性な層状のLiNiO2のNiが高い組成比率で含まれないと高容量正極材料の活物質としての意味が低くなる(=放電容量の増大効果が得られにくくなる)。
次に、上記一般式:xLi2MnO3・(1−x)Li[Ni1−y−zCoyAz]O2で表される固溶体(正極の主要活物質)の作製方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の作製方法を適宜利用して行うことができる。例えば、実施例に示すように、スプレードライ法を用いて以下のように行うことができる。
出発物質として上記式中のLi、M元素(Mnなど)、Ni、Co、A元素(Alなど)に相当する元素の各酢酸(金属)塩、硝酸(金属)塩などを使用し、所定の量を秤量し、これら(金属)塩と等モルのクエン酸を加え溶液を調製する。Li、M元素、Ni、Co、A元素に相当する元素の各酢酸(金属)塩、硝酸(金属)塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸マンガン、酢酸チタン、酢酸ジルコニウム、硝酸アルミニウム、硝酸ガリウム、硝酸インジウム、ボロンニトラート(boron nitrate)などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。次に、調製した溶液をスプレードライ法を用いて粉体とした後、熱処理により前駆体を得る。熱処理としては、大気下で、359〜500℃で5〜10時間熱処理すればよいが、かかる範囲に制限されるものではない。次に、熱処理で得られた前駆体は、焼成温度850〜1000℃、保持時間3〜20時間、大気下で焼成することで、上記一般式で表される固溶体を作製することができる。焼成後、液体窒素等を用いて急冷(クエンチ)するのが、反応性及びサイクル安定性のために好ましい。
上記一般式で表される固溶体(正極の主要活物質)の同定は、実施例で行ったような、X線回折(XRD)、誘導結合プラズマ(ICP)元素分析、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて分析することができる。
次に、本発明のリチウムイオン電池用正極では、上記一般式:xLi2MO3・(1−x)Li[Ni1−y−zCoyAz]O2で表される固溶体の正極において、酸化処理や充電電気量を規制した放電前処理が施されているのが望ましい。
このうち酸化処理としては、特に制限されるものではない。例えば、
(1)所定の電位範囲での充電あるいは、充放電、詳しくは固溶体正極結晶構造の大幅な変化を最初から引き起こすことのない低い電位領域での充電あるいは充放電(以下、電位を規制した充放電前処理ともいう);
(2)充電に対応する酸化剤(例えば、臭素、塩素などのハロゲン)での酸化;
(3)レドックスメディエーターを用いての酸化;などの酸化処理を挙げることができる。
ここで、上記(1)の酸化処理(電位を規制した充放電前処理)方法に関しては、後述する本発明のリチウムイオン電池の固溶体の正極の酸化処理方法において説明する。
また、上記(2)の酸化処理方法で用いられる酸化剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、臭素、塩素などのハロゲンなどを用いることができる。これらの酸化剤は単独であるいは併用で使用しても良い。酸化剤による酸化は、例えば、固溶体の正極材料が溶解しない溶媒に固溶体微粒子を分散させて、その分散溶液に酸化剤を吹き込んで溶解させて徐々に酸化させることができる。
さらに上記(3)の酸化処理方法で用いられるレドックスメディエーター(電子伝達剤)としては、適度な酸化還元ポテンシャルや電子移動性を有し、ラジカルを形成する化合物、あるいは電子を受容又は供与する電気化学的に活性な任意化合物とすることができる。レドックスメディエーターとしては、例えば、トリフェニルアミンのパラ位がブロックされて安定化した一連の誘導体を用いることができる。中でもパラ位、及びもしくはメタ位の水素が臭素などのハロゲンで置換されたものが好ましく使用できる。これらは、置換基の位置、種類、数により酸化還元電位を微妙に制御できるので好ましく使用できる。このほか、適当な酸化還元電位をもって安定な各種遷移金属錯体も好ましく使用できる。この例としては、ルテニウムやオスミウムなどの2,2’−ビピリジン及びその誘導体の錯体がある。その他、いわいるリチウムイオン電池の過充電を防止するためのレドックスシャトルとして使用できるもので、適当な酸化還元電位をもつものは好適に使用できる。これらのレドックスメディエーターは単独であるいは併用で使用しても良い。酸化還元電位の低いものから段階的に高いものへと段階的に使用してもよい。更に、酸化還元電位の高いものをもちいて反応量を確実に制御しながら段階的に酸化していくことも有効である。これを逆に使用して還元して、電池電極の放電に対応するプロセスを入れたり、充電(酸化)と放電(還元)に対応するプロセスを繰り返して行うことも好適である。レドックスメディエーターを用いての酸化は、例えば、作用極に白金網を用い、イオン導電性の隔膜で隔てられた対極と、必要に応じて参照電極を用いて、次のように行うことができる。即ち、レドックスメディエーターを溶解させた電解液中に固溶体を分散させて、作用極の電位を参照電極に対して制御しながらレドックスメディエーターを電極酸化して、それを用いて固溶体系の正極(材料)を酸化させることができる。
次に、上記したリチウムイオン電池の正極(材料)の酸化処理方法としては、特に制限されるものではないが、好ましくは酸化処理が、所定の電位範囲での充電あるいは、充放電(=電位を規制した充放電前処理)であることを特徴とするものが望ましい。すなわち、本発明の固溶体系の正極(材料)の有効な酸化処理方法として、電池を構成した状態、または電極または電極相当の構成にて、所定の最高電位を超えないようにして、充電あるいは、充放電をすること(=電位を規制した充放電前処理)が有効である。これにより、高容量で、なおかつサイクル耐久性がよいリチウムイオン電池用正極、ひいては該正極を用いた高エネルギー密度の電池を製造できるためである。
電位を規制した充放電前処理法として好ましくは、所定の電位範囲の最高の電位が、リチウム金属対極に対して3.9V以上4.6V未満、より好ましくは4.4V以上4.6V未満となる条件下で充放電を1〜30サイクル行うことが望ましい。すなわち、充放電の上限電位として、リチウム金属またはリチウム金属に換算した電位で、3.9V以上4.6V未満で、より好ましくは4.4V以上4.6V未満で、充放電を行えばよく、充放電の必要なサイクル回数は、1回から30回が効果的に適用できる。上記範囲内で充放電による酸化処理(=電位を規制した充放電前処理)を行うことにより、高容量でサイクル耐久性がよいリチウムイオン電池用正極、ひいては高エネルギー密度の電池を製造できる点で優れている。上記リチウム金属またはリチウム金属に換算した電位は、リチウムイオンが1モル溶解した電解液中でリチウム金属が示す電位を基準とした電位に相当する。特に、上記酸化処理(電位を規制した充放電前処理)後に高容量とすべく、最高の電位を4.8V程度として充電あるいは充放電を行う場合に、特に顕著なサイクル耐久性等の効果を有効に発現することができるものである。更に、この場合には初期の所定上限電位にての充放電のあと、上限電位を徐々に(段階的に)上げていくこと(実施例5参照のこと)が耐久性向上に好ましい。
また、上記所定の電位範囲の最高の電位を、リチウム金属対極に対して4.4V以上4.6V未満となる条件下で充放電を1〜30サイクル行ったあとさらに、充放電の所定の電位範囲の最高の電位を段階的に上げていくのが望ましい。特に、4.7V、4.8Vvs.Liという高電位の容量分まで使用(高容量使用)する場合において、上記の如く酸化処理での充放電電位の最高電位を段階的に上げていくことで、短時間の酸化処理(上記充放電前処理)でも電極の耐久性を改善することができる点で優れている。
ここで、充放電の所定の電位範囲の最高電位(上限電位)を段階的に上げていく際の各段階ごとの充放電に必要なサイクル回数は、1回から10回の範囲内が効果的である。但し、上記範囲に制限されるものではなく、上記効果を奏することができるものであれば、より多くのサイクル回数であってもよい。また、充放電の所定の電位範囲の最高電位(上限電位)を段階的に上げていく際の酸化処理(電位を規制した充放電前処理)工程を通じた充放電サイクル回数(各段階ごとの充放電に必要なサイクル回数を足し合わせた回数)は、4回〜20回の範囲内が効果的である。但し、上記範囲に制限されるものではなく、上記効果を奏することができるものであれば、より多くのサイクル回数であってもよいし、より少ないサイクル回数であってもよい。
また、充放電の所定の電位範囲の最高電位(上限電位)を段階的に上げていく際の各回の電位の上げ幅(上げ代)は、0.05V〜0.1Vが効果的である。但し、上記範囲に制限されるものではなく、上記効果を奏することができるものであれば、より大きな電位の上げ幅(上げ代)で行ってもよいし、より小さな電位の上げ幅(上げ代)で行ってもよい。
充放電の所定の電位範囲の最高電位(上限電位)を段階的に上げていく際の最終的な最高電位(終止最高電位)は、4.6V〜4.9Vとするのが効果的である。但し、上記範囲に制限されるものではなく、上記効果を奏することができるものであれば、より高い終止最高電位まで酸化処理(電位を規制した充放電前処理)を行ってもよい。
ただし、本発明では、上記した所定の電位範囲での充電を行うだけでもよい。この際の所定の電位範囲の最高の電位に関しても、上記したようにリチウム金属対極に対して3.9V以上4.6V未満、より好ましくは4.4V以上4.6V未満となる条件下で充電を行うことが望ましい。
なお、所定の電位範囲の最低の電位は、特に制限されるものではなく、リチウム金属対極に対して2V以上3.5V未満、より好ましくは2V以上3V未満となる条件下で充放電を1〜30サイクル行うことが望ましい。上記範囲内で充電あるいは充放電による酸化処理(電位を規制した充放電前処理)を行うことにより、高容量でサイクル耐久性がよいリチウムイオン電池用正極、及び高エネルギー密度の電池を製造できる点で優れている。
なお、上記充放電の電位(V)は、単電池(単セル)当たりの電位を指すものとする。
また、上記リチウムイオン電池用正極(材料)の酸化処理方法では、上記酸化処理(電位を規制した充放電前処理)として充放電する電極(材料)の温度としては、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、任意に設定することができる。具体的には、室温下で行ってもよいし、室温より高い温度で行ってもよいし、室温より低い温度で行ってもよい。経済性の観点からは、特段の加熱冷却を要しない室温下で行うのが望ましい。
また、より大きな容量を発現でき、なおかつ短時間の充放電処理によりサイクル耐久性が向上し得る点からは、室温より高い温度で行うのが望ましい。特に本発明の固溶体構造では、室温よりいくらか高い温度にすると放電容量が室温での値に比べて大幅に増大できる点で顕著な効果を奏する。従って、上記酸化処理(電位を規制した充放電前処理)として充放電する電極の温度も、室温よりいくらか高くして使用することが、大きな容量を活用する観点からは望ましい(実施例5参照)。この際の、上記酸化処理(電位を規制した充放電前処理)として充放電する電極(材料)の温度としては、室温より高い温度であればよいが、35℃以上80℃以下が好ましく、より好ましくは40〜60℃の範囲である。なお、ここでいう室温は、特段の加熱冷却を行っていない状態での温度をいうものであるが、概ね15℃以上35℃未満といえる範囲である。ただし、上記範囲を外れる場合であっても、特段の加熱冷却を行っていない状態での温度であれば、室温下での実施ともいえる。
上記リチウムイオン電池用正極(材料)の酸化処理(電位を規制した充放電前処理)方法を適用する工程(時期)としては、特に制限されるものではない。例えば、かかる酸化処理(電位を規制した充放電前処理)は、上記したように、電池を構成した状態、または電極または電極相当の構成にて、行うことができる。即ち、正極活物質粉体の状態での適用、電極を構成しての適用、負極とあわせて電池を組んでからの適用のいずれであってもよい。電池への適用に際しては、組み合わせる負極の電気容量の電位プロファイルを考えて、酸化処理条件(電位を規制した充放電前処理条件)を適用することによって実施できる。ここで、電池を構成した状態の場合には、個々の電極または電極相当の構成ごとに行うよりも、一度にまとめて多くの電極の酸化処理(電位を規制した充放電前処理)が行える点で優れている。一方、個々の電極または電極相当の構成ごとに行う場合には、電池を構成した状態よりも、酸化電位等の条件の制御が容易であるほか、個々の電極への酸化の度合いのバラツキが生じにくい点で優れている。
次に、上記リチウムイオン電池用正極(材料)の充電電気量を規制した充放電前処理としては、まず初回に所定の正の電気量Qc(1)を充電した後、所定の正の電位Ed(1)まで電気量Qd(1)(0<Qd(1)<Qc(1))を放電する。2回目に、初回の放電電気量Qd(1)に所定の正の電気量ΔQ(2)を加えた電気量Qc(2)=Qd(1)+ΔQ(2)を充電する。以後同様の充放電操作を充電後の電位Ec(n)(nは2以上の整数)が所定の最高電位Ec(max)になるまで繰り返す処理(充放電前処理)を行うものである。ここで、電気量の単位はmAh/g(ミリアンペア・アワー/グラム)であり、電位の単位はV(ボルト)である。電気量は、正極活物質1グラム当たりの電気量を指すものとする。電位は、単電池(単セル)当たりの電位を指すものとする(以下、特に断らなければ、同様の単位である)。
ここで、同様の充放電操作を充電後の電位Ec(n)(nは2以上の整数)が所定の最高電位Ec(max)になるまで繰り返すとは、詳しくは、以下の通りである。
上記した第2回目充電後に、まず所定の電位Ed(2)まで第2回目の放電を行う。次に第2回目の放電電気量Qd(2)に所定の電気量ΔQ(3)を加えた電気量Qc(3)=Qd(2)+ΔQ(3)を充電する第3回目の充電を行う。かかる1連の充放電操作を1サイクルとして、この充放電サイクルを充電後の電位Ec(n)(nは2以上の整数)が所定の最高電位Ec(max)になるまで繰り返すことをいう。即ち、ある任意の充放電サイクルにおいて、電気量Qc(n−1)を充電する第n−1回目(nは2以上の整数)充電後に、まず所定の正電位Ed(n−1)まで電気量Qd(n−1)(0<Qd(n−1)<Qc(n−1))を放電する第n−1回目の放電を行う。次に第n−1回目の放電電気量Qd(n−1)に所定の正の電気量ΔQ(n)を加えた電気量Qc(n)=Qd(n−1)+ΔQ(n)を充電する第n回目の充電を行い、該充電後の電位Ec(n)が所定の最高電位Ec(max)になるまで、この充放電サイクルを繰り返せばよい。以上は、nが3以上の場合の理解を助けるための説明であり、Ec(2)でEc(max)に到達する場合には、当然ながら不要となる。
なお、この際、充電電位Ec(n)が所定の最高電位Ec(max)に達した第n回目の充電を行った段階で充放電前処理を終えてもよい。あるいは充電電位Ec(n)が所定の最高電位Ec(max)に達するまで第n回目の充電をした後、所定の電位Ed(n)まで第n回目の放電をして充放電前処理を終えてもよい。これらは使用用途に応じて、適宜使い分ければよい。例えば、前者の場合、上記充放電前処理後、更に必要があれば満充電まで充電して、いつでも使用可能な状態にしておくような場合が挙げられる。後者の場合、更に必要があれば放電可能な残存容量分を空(放電終止電圧)になるまで放電した状態にしておくような場合が挙げられる。
(1)初回(第1回目)充電での所定の電気量Qc(1)について
上記した初回(第1回目)充電での所定の電気量Qc(1)は、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、特に制限されるものではない。即ち、初回の充電曲線の平らな部分での反応により、固溶体正極結晶内の結晶構造の大幅な変化を最初から引き起こすことなく、より低い電位領域での充放電により構成元素のより安定配置、安定構造への穏やかな移行により構造的に安定化が行えるものであればよい。ここで、初回の充電曲線で使用される充電条件は、上記充放電前処理の初回の充電条件と同じにして求めたものを用いるものとする。即ち、同じ電極構成(正極及び対極(負極)共に同じ組成)とし、同じ温度環境下で、同じ電流値(例えば、0.5C以下の電流レート)を用いて定電流充電して求めたものを用いるものとする。温度や負極の材料が異なっても、得られる充電曲線が異なる為である。
好ましくは、初回の充電曲線において、平らな部分(プラトーの部分)の始まり(始点P)付近の電気量Qcpとするのが望ましい。詳しくは、初回の充電曲線の平らな部分の外挿線Aと初回の充電曲線の平らな部分に到達する手前であって、平らな部分の近傍の電位の傾きが一定している部分の外挿線Bとの交点C直下の充電曲線上の点(容量Qcp、電位Ecp)を指す。
(a)初回充電での所定の電気量Qc(1)の下限値
但し、初回充電での所定の電気量Qc(1)は、必ずしも平らな部分の始まり付近の電気量Qcpとする必要はない。言い換えれば、初回充電での所定の電気量Qc(1)の下限としては、上記電気量Qcpより少ない電気量としてもよい。つまり第2回目以降の充電電気量を段階的に増やして最高電位Ec(max)になるまで上記充放電前処理を繰り返して進めると、必ずその途中の段階で平らな部分の始まり付近までの電気量Qcpに達することになるためである。つまり、最高電位Ec(max)は、平らな部分の電位Ec’以上、より好ましくは平らな部分の電位Ec’よりも高く設定することで、構成元素のより安定配置、安定構造への穏やかな移行により構造的に安定化が行えるためである。最高電位Ec(max)が、平らな部分の電位Ec’より低い場合には、構成元素のより安定配置、安定構造への移行が十分でなく、構造的な安定化が十分行えていない。そのため、その後の高電位での使用(充放電)により、始めて平らな部分での反応が起こり、その際に結晶構造の大幅な変化が起こるため、その結果として充放電サイクル劣化が起こるおそれがある。
(b)初回(第1回目)充電での所定の電気量Qc(1)の上限値
初回充電での所定の電気量Qc(1)の上限値は、固溶体正極結晶内の結晶構造の大幅な変化を最初から引き起こすことがないように、初回の充電曲線の平らな部分の始まりPを大幅に超えて充電しなければよいと言える。即ち、上記したように初回の充電曲線に見られるプラトーの部分での反応には、M元素(Mnなど)、Ni、Co、A元素(Alなど)の酸化還元は関係しておらず、結晶中のLi+の脱離とそれに伴う酸素ジアニオンの酸化である。従ってこの部分での反応をマイルドに行なうというのが充電電気量を規制した充放電前処理のポイントである。即ち、このプラトーの部分は、固溶体正極結晶内の酸素のジアニオンが酸化されると共に、Liイオンが放出されるプロセスと考えられており、この反応が激しく起こると結晶構造の大幅な変化が起こる。そのため、初回充電でプラトーの部分での上記反応の電気量(充電量)が大きくならない程度に制限するのが望ましいといえる。
初回の充電曲線のプラトーの部分より前の容量は、Li[Ni1−y−zCoyAz]O2におけるNi、Co、A元素の寄与と考えられる。そして、このプラトーの部分が始まる容量Qcpを大幅に超えてしまうとLi2MO3の部分からのLi+の放出と結晶を構成するO2−の酸化が激しく起こり結晶が大幅に痛んでしまう。そのため以後のサイクルにおいて劣化が急速におこると考えられる。すなわち、初回の充電曲線のプラトーの部分は、Li2MO3の部分からのLi+の放出と結晶を構成するO2−の酸化であると考えられるので、このプラトーの部分より前の容量領域(0〜Qcp)を大幅に超えない範囲で充放電前処理を行なうのが適切である。
初回の充電曲線のプラトーの部分より前の容量領域は、前記Li[Ni1−y−zCoyAz]O2でNi、Co、A元素を一電子反応としたときの理論容量への寄与の電気量に相当する。従って、初回の充電電気量が、Li[Ni1−y−zCoyAz]O2でNi、Co、A元素を一電子反応としたときの理論容量への寄与の130%を越えない電気量であるのが望ましい。130%としたのはこの付近を超えると充放電前処理効果が小さくなるためである。即ち、Ni、Co、A元素の理論容量への寄与の130%以下の電気量であれば、より十分な充放電前処理効果が得られるものといえる。但し、130%を超える場合でも、充放電前処理が施されていない正極を用いた電池よりも高電位充放電での劣化抑制効果があれば、上記充電電気量を規制した充放電前処理を行うのが良いと言える。これは、平らな部分の電位Ec’の始まる容量Qcpを超えて初回充電の電気量が増えれば、当該Qcpを超えた電気量分に相当する反応が結晶内で進行していき、結晶構造の変化も増大していくことになる。その結果、充放電前処理による結晶内の構成元素のより安定な配置、構造への穏やかな移行による構造的な安定化が図れる結晶領域が漸減していくことになり、充放電サイクル劣化の抑制効果が低減していくことになる。
なお、初回の電気量が上記の平らな部分の始まりより前だと、最初の充放電前処理の効果がないことになるが、第2回目から所定の正の電気量を加えて充電を行なうので、結果として前処理は行なわれるが、時間がかかる。以上の観点から、初回の充電電気量が、前記Li[Ni1−y−zCoyAz]O2でNi、Co、A元素を一電子反応としたときの理論容量への寄与の80%以上130%以下の電気量であるのが望ましく、より好ましくは80〜120%の電気量である。
(2)初回放電での所定の電位Ed(1)について
初回放電での所定の電位Ed(1)については、少なくとも初回充電電位に保持するだけでは充放電前処理効果が十分でないことを確認している。これは、リチウム金属またはリチウム金属に換算した電位(単にLi対極ともいう。リチウムイオンが1モル溶解した電解液中でリチウム金属が示す電位を基準とした電位に相当する。)で1.5Vを下回ると、別の劣化反応が始まってしまう恐れがある。従って、所定の電位Ed(1)は、リチウム金属またはリチウム金属に換算した電位で1.5V〜4.0Vの範囲が好ましい。この範囲であれば、充放電前処理効果が十分に得られ、別の劣化反応が始まることもないためである。より好ましい範囲としては、2.0V〜3.5Vである。この範囲であれば、副反応を伴わず、マイルドな充放電前処理をできて、さらにあまり長い時間を要さないためである。
(3)第2回目以降に加える所定の電気量ΔQ(n)について
第2回目以降の充電で、直前の放電電気量Qd(n−1)に加える所定の電気量ΔQ(n)は、第2回目以降の充放電でも結晶構造の大幅な変化を引き起こさず、構成元素のより安定配置、安定構造への穏やかな移行を継続でき、より構造的に安定化できる電気量が望ましい。すなわち、所定の電気量ΔQ(n)が、小さすぎると効果はある程度大きいが、最高電位Ec(max)に達するまでに要する処理に時間がかかりすぎる(充放電を繰り返す回数が多くなりすぎる)ことになる。一方、所定の電気量ΔQ(n)が、大きすぎると効果が小さくなり、あまり大きいと第2回目以降の充放電によって結晶構造の大幅な変化を引き起こしてしまい効果がなくなるおそれがある。以上の理由から、所定の電気量ΔQ(n)は、初回の充電曲線で、平らな部分以降の電気量の30%(例えば、70mAh/g)以下が望ましい。平らな部分の始まりを定めるには、初回の充電曲線の平らな部分(プラトー部分)の近傍において、微分曲線の傾きが一定になる部分の始点と終点に対応する初回の充電曲線の2点間を結んで外挿線Bを引く。同じようにして、微分曲線の傾きがゼロになる部分の始点と終点に対応する初回の充電曲線の平らな部分(プラトー部分)の2点間を結んで外挿線Aを引く。外挿線A、Bの交点Cの直下の初回の充電曲線上の点を初回の充電曲線の平らな部分(プラトー部分)の始まり(始点P)とすることができる。
したがって、逐次一定電気量ΔQを加えていく場合には、初回の充電曲線の平らな部分以降の電気量の3〜30%(例えば、10〜70mAh/g)の範囲が好適である。また、加える電気量ΔQ(n)は一定でなくとも、回ごとに変化させてもよい。加える電気量ΔQ(n)が一定でない場合には、初回の充電曲線の平らな部分以降の電気量の0〜30%(例えば、0〜70mAh/g)の範囲から適宜選択して行うのが好適である。これらの範囲であれば、第2回目以降の充放電でも結晶構造の大幅な変化を引き起こさず、構成元素のより安定配置、安定構造への穏やかな移行を継続でき、より構造的に安定化できるためである。なお、加える電気量ΔQ(n)が0mAh/gの場合、即ち直前の放電電気量Qd(n−1)+ΔQ(n)=電気量Qd(n−1)で第n回目の充電を行う場合が一部に含まれていてもよいことを意味するものである。ただし、第2回目以降の全ての回の充電で、加える電気量ΔQ(n)を0mAh/gとする場合は、第2回目以降の充放電による結晶構造内の構成元素をより安定配置、安定構造に移行させることが困難になる為、本発明に含まれないものとする。
上記充放電前処理の特徴は、充電の上限電位を決めなくとも、充電の電気量を規制することにより、サイクル耐久性向上の改善のための前処理を行なえるということで、これは充電状態により電位が変化する負極と電池を組んだときに現実的な意味(優位性)を持つ。即ち、負極により多少電池電圧が変化しても、放電状態で副反応などの問題が起きなければ、正極については確実に、平らな部分での充電を徐々に確実に行なえる。そのため、放電容量を増大した上で、結晶構造の大幅な変化を最初から引き起こすことなく、構造的に安定化でき、サイクル耐久性がよいリチウムイオン電池を提供できる。
(4)第2回目以降の放電での所定の電位Ed(n)について
上記充電電気量を規制した充放電前処理では、第2回目以降の放電での放電終止電位Ed(n−1)を規定する必要がないように、次の充電電気量Qc(n)の算出に、前回の放電電気量Qd(n−1)の値を用いて、それに所定の電気量ΔQ(n)を加えている。これは、この材料を正極活物質として電池を組んだ場合に、負極の電位がはっきりわからない場合でも確実に問題なく充放電前処理をできるようにするためである。従って、第2回目以降、放電終止電位Ed(n−1)を厳密に一定の値にするという条件はつける必要はないといえる。但し、先に説明した初回放電での所定の電位Ed(1)と同様に、2Vを大きく下回ると、別の劣化反応が始まってしまう恐れがある。従って、所定の電位Ed(n)についても、Li対極については1.5V〜4.0Vの範囲が好ましい。より好ましい範囲としては、2.0V〜3.5Vである。この範囲であれば、副反応を伴わず、マイルドは充放電前処理をできて、さらにあまり時間を要さないためである。
なお、各回の放電を電位Ed=2V(一定)にしていても、充電電気量を規制した充放電前処理を繰り返すことで放電終了時の容量(電気量)が徐々に増加する現象が見られることがある。これは以下の理由によるものといえる。初回の充電曲線で、平らな部分での充電反応は、Li2MO3からLi2Oが抜ける反応である。この反応の後の放電では、残ったMO2が還元されてLi+が挿入される。これにより、先のNi、Co、A元素の充放電容量にこの分が追加されて放電容量Qdが増加するものといえる。
(5)所定の最高電位Ec(max)について
所定の最高電位Ec(max)としては、Li金属の対極に対しては、初回の充電曲線からみて、4.5V付近の平らな部分の電位Ec’より高い電位に設定すればよい。但し、充電の際の温度を高めることで平らな部分の電位Ec’高くなる他、活物質の基礎特性の他、活物質の粒子のサイズによっても異なる。そこで、こうした平らな部分の電位Ec’の変動幅を考慮し、充電曲線が急に立ち上がり始める4.8Vが特に好ましい値といえる。これを超えると充電曲線が急に立ち上がってくる(即ち、僅かな充電量で充電電位が急に高くなる)ので、4.9Vでも、5.0Vでも大きな違いはない。即ち、所定の最高電位Ec(max)が4.8V以上のいずれに設定しようとも、充電電気量を規制した充放電前処理の充放電サイクル数は増えないか、増えても余分に1サイクル行うことで、所定の最高電位Ec(max)に達する。そのため、充電電気量を規制した充放電前処理に要する時間に大きな違いはないといえる。即ち、所定の最高電位が、リチウム金属またはリチウ金属に換算した電位で、4.5V付近の平らな部分の電位Ec’より高い電位の4.6V以上、好ましくは4.7V〜5.0Vの範囲、より好ましくは4.8V〜5.0Vの範囲、特に好ましくは4.8Vである。なお、4.6V未満の場合には、平らな部分の電位との差異が小さく、温度条件や活物質の種類や負極の種類によっては、平らな部分の電位の変動幅の範囲で最高電位になり、十分な充放電前処理が施されないおそれがある。この許容性のため、適当な負極と組み合わせて電池を組んだときにも、負極の充放電曲線から、電池の最高充電電位Ec(max)を見積もれば電池の正極についても同様な処理ができる。
なお、上記充電電気量を規制した充放電前処理では、充電中に所定の最高電位Ec(max)に達した時点で充電を終えるのがよい。例えば、第n回目の充電中に所定の最高電位Ec(max)に達した時点で、第n回目の充電電気量Qc(n)(=Qd(n−1)+ΔQ(n))が充電できていなくても、充電を終えるのが望ましい。これは、所定の最高電位Ec(max)を超えて充電を続けると、いわゆる過充電の状態になるおそれがあるためである。かかる観点から、所定の最高電位Ec(max)の上限値は、Li金属の対極に対しては、上記したように5.0V程度を上限とし、かかる電位を超えて更なる充電を行わないようにするのが望ましいと言える。これは、適当な負極と組み合わせて電池を組んだときに、負極の充放電曲線から、電池の最高充電電位Ec(max)を見積もって電池の正極について同様な処理を行う場合にも言える事である。
(6)充放電前処理の充電・放電条件について
充電性能は、活物質の基礎特性の他、活物質の粒子のサイズ、電極の構造による。充電速度が遅い分には時間はかかるが、問題はないことが確認できている。他方、あまり充電速度が速いと、上記充電電気量を規制した充放電前処理を結晶内部まで十分行なえない恐れがある。また、マイルドに処理するという本発明の考えともずれてくる。以上の観点から、上記充電電気量を規制した充放電前処理の充電条件としては、本発明の作用効果を損なわない範囲で行えばよく、特に規定するまでもないが、敢えて規定するとすれば、0.5C以下の電流レートを用いるのが望ましいと言える。ただし、上記した充電性能は、活物質の基礎特性の他、活物質の粒子のサイズ、電極の構造によって異なることから、上記電流レートを超える場合であって、充電電気量を規制した充放電前処理を結晶内部まで十分行ない得る場合には、本発明の技術範囲に含まれるものである。上記充電電気量を規制した充放電前処理の放電条件についても、上記した充電条件と同様である。即ち、0.5C以下の電流レートを用いるのが望ましいと言えるが、必ずしも条件に制限されるものではない。
また、上記充電電気量を規制した充放電前処理を施す際の温度は、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、任意に設定することができる。具体的には、室温下で行ってもよいし、室温より高い温度で行ってもよいし、室温より低い温度で行ってもよい。経済性の観点からは、特段の加熱冷却を要しない室温下で行うのが望ましい。
また、より大きな容量を発現でき、なおかつ短時間の充放電前処理によりサイクル耐久性が向上し得る点からは、室温より高い温度で行うのが望ましい。特に本発明の固溶体構造では、室温よりいくらか高い温度にすると放電容量が室温での値に比べて大幅に増大できる点で顕著な効果を奏する。従って、上記充電電気量を規制した充放電前処理として充放電する電極の温度も、室温よりいくらか高くして使用することが、大きな容量を活用する観点からは望ましい。上記充電電気量を規制した充放電前処理を施す際の温度としては、室温より高い温度であればよいが、35℃以上80℃以下が好ましく、より好ましくは40〜60℃の範囲である。なお、ここでいう室温は、特段の加熱冷却を行っていない状態での温度をいうものであるが、概ね15℃以上35℃未満といえる範囲である。ただし、上記範囲を外れる場合であっても、特段の加熱冷却を行っていない状態での温度であれば、室温下での実施ともいえる。
上記充電電気量を規制した充放電前処理を施す工程(時期)としては、特に制限されるものではない。例えば、かかる充放電前処理は、電池を構成した状態、または電極または電極相当の構成にて、行うことができる。即ち、電極を構成しての適用、負極とあわせて電池を組んでからの適用のほか、正極活物質粉体の状態での適用であってもよい。電池への適用に際しては、組み合わせる負極の電気容量の電位プロファイルを考えて、上記充放電前処理条件;特に所定の最高電位Ec(max)等を決定することによって実施できる。上記充放電前処理では、一つの正極材料についてひとたび上記の電気量を規制した充放電前処理パターンを決定すれば、リチウム等の電位基準を使用しなくとも、正極は適切に充放電前処理を実施できる。そのため、正極及び正極材料の大量処理、さらには電池を組んでのこの正極の充放電前処理を適切な電位基準を使用せずに実施できることから、サイクル耐久性がよい高エネルギー密度のリチウムイオン電池を効率よく大量に製造できる。ここで、電池を構成した状態の場合には、個々の電極または電極相当の構成ごとに行うよりも、一度にまとめて多くの電極の上記充放電前処理が行える点で優れている。一方、個々の電極または電極相当の構成ごとに行う場合には、電池を構成した状態よりも、個々の電極への上記充放電前処理の度合いのバラツキが生じにくい点で優れている。
リチウムイオン電池の正極(材料)の上記充電電気量を規制した充放電前処理(方法)は、上記した通りである。すなわち、正極の有効な上記充放電前処理(方法)としては、電池を構成した状態、または電極または電極相当の構成にて、上述した充電電気量を規制した充放電前処理を施すことが有効である。これにより、高容量で、なおかつサイクル耐久性がよいリチウムイオン電池の正極を用いた高エネルギー密度の電池を大量かつ安定的に製造できる。なお、上記一般式の固溶体(正極の主要活物質)は、上記した各種の酸化処理あるいは充放電前処理を施す場合には、当該酸化処理あるいは充放電前処理を施す前の状態のものをいう。
上記した電位や充電電気量を規制した充放電前処理を、製造履歴によらずに判定する基準について説明する。
(i)上記した電位や充電電気量を規制した充放電前処理を施したと考えられる電池を準備(入手)して、放電状態にして電池を解体して正極を取り出し、リチウムを対極とした電池を構成する。なお、機器に搭載される電池は、電池構成後単電池の段階で数回の初期充放電、モジュール電池(小型の組電池)、組電池に構成されてから、更に機器に搭載されてからの初期充放電検査を経て市場へ出回ることもある。従って、準備(入手)できる電池は、電池構成後5〜50回程度充放電試験を経たものと考えられる。
(ii)そこで、解体した電池から取り出した正極を用いて構成した電池について、室温で、電圧範囲2.0V〜4.8Vにて定電流充放電試験を行う。
(iii)得られたデータから電気量(Q)の電位微分(dQ/dE)を計算して電位(E)に対してプロットする。
電位や充電電気量を規制した充放電前処理を施した場合と、施さない場合について比較した場合、双方のデータをプロットしたdQ/dE曲線における3.0V〜3.3V領域での波形の比較をすると、充放電前処理を施した正極は、3.2Vに特徴的なピークを示す。他方、充放電前処理を施していないものはこのピークがない。
このピークの有無により充放電前処理を施したか否かを判定できる。また、もし電池が50サイクルに至らない充放電サイクルで出荷されていても、いくつかの電池を取り出して、それぞれ10サイクル、20サイクル、30サイクル、40サイクルの充放電を行なって、同様な電池解体検査を行なえば、同様の判定基準(3.2Vの特徴的なピークの有無)にて充放電前処理を施したか否かを判定できる。
上記した電位や充電電気量を規制した充放電前処理により、正極の主要活物質の高電位領域での充放電サイクル特性が顕著に改善されるが、このメカニズムについては次のように考えている。この主要活物質はLiCoO2のような層状構造であるが、遷移金属層にもLi+を含む。高容量を発現させるため高電位領域まで充電すると、Li+層のLi+のみならずこの遷移金属層のLi+と結晶骨格の酸素が放出され、結晶内部で大きなイオンの移動(再配列)が起こると考えられる。充放電前処理をしないと、この急激に起こるイオンの再配列の際に、劣化が進行してしまうと考えられる。劣化のメカニズムとしては、従来の層状LiMnO2でそうであったように、結晶内の小さな領域で充放電で層状構造からスピネル構造へ変化してしまうことにより劣化してしまうと考えられる。
高電位にて溶媒の酸化分解によって発生する可能性のあるH+によるLi+のイオン交換は、この急激なイオンの再配列のさいに結晶表面が開いたり、欠陥ができて起こりやすくなり、さらにこれが劣化を加速しうる。
これに対して、上記した電位や充電電気量を規制した充放電前処理により、上記の結晶内部でのイオンの再配列が徐々に進行するため、初期の層構造を大きく乱すことなく、安定な層状構造へ到達するためサイクル耐久性が改善されると考えられる。安定な層状構造の候補としては、相対的により欠陥の少ない結晶構造や、ごくわずかのNi2+が結晶内のリチウム層に入ってピラーとして機能しているものや、ごくわずかのナノ結晶がこのピラーの役目をしているものなどが考えられる。
また、上記した電位や充電電気量を規制した充放電前処理による活物質粒子表面でのクラック発生が抑制される。このために以後のサイクル劣化が大幅に抑制されるということもありそうである。
以上が、本発明のリチウムイオン電池の特徴的な構成要件(正極、主要活物質)に関する説明であり、他の構成要件に関しては特に制限されるものではない。よって、以下では、本発明のリチウムイオン電池の特徴的な構成要件以外の他の構成要件に関し、図1及び図2に示す非双極型及び双極型リチウムイオン二次電池に関し、非双極型リチウムイオン二次電池を中心に説明する。ただし、本発明は、がこれらに制限されるものではない。
[集電体]
集電体は、非双極型及び双極型リチウムイオン二次電池のいずれに関しても、特に制限されるものではない。具体的には、集電体として、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金およびカーボンよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種類の集電体材料で構成された集電体を用いることができる。また本発明では、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材、あるいはこれらの集電体材料の組み合わせのめっき材なども好ましく使える。また、上記集電体材料である金属(アルミニウムを除く)表面に、他の集電体材料であるアルミニウムを被覆させた集電体であってもよい。また、場合によっては、2つ以上の上記集電体材料である金属箔を張り合わせた集電体を用いてもよい。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。また、集電体の形態も特に制限されるものではなく、例えば、箔形態(実施例5参照)、メッシュ形態やエキスパンドメタル形態(実施例1〜4参照)など、従来公知の形態を適宜利用できる。
[電極(正極及び負極)]
正極(正極活物質層)および負極(負極活物質層)の構成は、非双極型及び双極型リチウムイオン二次電池のいずれに関しても、特に限定されず、公知の正極および負極が適用可能である。電極には、電極が正極であれば正極活物質、電極が負極であれば負極活物質が含まれる。
正極活物質および負極活物質の材料(材質)としては、本発明のリチウムイオン電池の特徴的な構成要件を具備するものであればよく、特に制限されるものではなく、電池の種類に応じて適宜選択すればよい。
具体的には、正極活物質としては、上記一般式;xLi2MnO3・(1−x)Li[Ni1−y−zCoyAz]O2で表される正極材料を正極の主要活物質として用いるものである。
正極活物質としては、上記一般式;xLi2MnO3・(1−x)Li[Ni1−y−zCoyAz]O2で表される正極材料を単独で使用してもよいほか、さらに必要に応じて、従来公知の他の正極活物質を併用してもよい。他の正極活物質としては、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni−Co−Mn)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物が挙げられる。この他にも、例えば、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物なども挙げられる。場合によっては、2種以上の他の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物であるが、上記以外の他の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
ここで、正極活物質のうち、上記一般式;xLi2MnO3・(1−x)Li[Ni1−y−zCoyAz]O2で表される主要活物質の含有量は、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。なかでも、全量(100質量%)を200mAh/gを超える大きな電気容量を示し得る上記一般式で表される固溶体系材料を用いるのが特に望ましい。
負極活物質としては、通常リチウムイオン二次電池に用いられている負極活物質なら何でもよく、具体的には、カーボンもしくはリチウム−遷移金属複合酸化物を好適に用いることができる。上記カーボンとしては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、活性炭、カーボンファイバ、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン(難黒鉛化炭素材料)などの結晶性炭素材や非結晶性炭素材等のカーボンなどが挙げられる。リチウム−遷移金属複合酸化物としては、リチウム−スズ合金、リチウム−シリコン合金、さらにこれらに他の元素を添加したリチウム合金;リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:Li4Ti5O12)などのリチウム−移金属複合酸化物などが挙げられる。但し、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
各正極活物質層、負極活物質層に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜20μmである。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、活物質の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。他の構成成分の粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
活物質それぞれの固有の効果を発現する上で最適な粒径が異なる場合には、それぞれの固有の効果を発現する上で最適な粒径同士をブレンドして用いればよく、全ての活物質の粒径を必ずしも均一化させる必要はない。
正極(正極活物質層:片面)及び負極(負極活物質層:片面)の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して適宜決定すればよく、共に、通常1〜500μm程度である。
正極(正極活物質層:片面)及び負極(負極活物質層)は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、混練法、スパッタ、蒸着、CVD、PVD、イオンプレーティングおよび溶射のいずれかの方法によっても形成することもできる。こうした形成法に適した負極活物質としては、チタン酸リチウムのほか、カーボン、リチウム金属、リチウムアルミ合金、リチウムスズ合金、リチウムケイ素合金などが好適に利用可能である。正極活物質については、上記般式;xLi2MnO3・(1−x)Li[Ni1−y−zCoyAz]O2で表される正極材料を含むものであればよい。
電極(正極および負極)は、電子伝導性を高めるための導電材(以下、導電助剤とも称する)、バインダ、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性高分子、電解液など)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)などが含まれ得る。
上記導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などが挙げられる。導電助剤を含ませることによって、電極で発生した電子の伝導性を高めて、電池性能を向上させることができる。
上記バインダ(結着剤)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム、ポリイミドなどが挙げられる。ただし、これらに限られるわけではない。
また、上記導電助剤とバインダの機能を併せ持つ導電性結着剤をこれら導電助剤とバインダに代えて用いてもよいし、あるいはこれら導電材とバインダの一方ないし双方と併用してもよい。導電性結着剤としては、既に市販のTAB−2(宝泉株式会社製)などを用いることができる。
電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、それらの共重合体などのリチウム塩を含むイオン伝導性高分子(固体高分子電解質)などが挙げられる。
使用される電解質支持塩(リチウム塩)は、電池の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiAlCl4、Li2B10Cl10等の無機酸陰イオン塩;LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N等の有機酸陰イオン塩;これらの混合物などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
活物質、導電材、バインダ、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性高分子、電解液など)、電解質支持塩(リチウム塩)等の電極の構成材料の配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定することが好ましい。
[電解質層]
電解質層としては、非双極型及び双極型リチウムイオン二次電池のいずれに関しても、従来公知の材料を用いることができる。具体的には、(a)高分子ゲル電解質(ゲルポリマー電解質)、(b)全固体高分子電解質(高分子固体電解質、無機固体型電解質)、(c)液体電解質(電解液)、または(d)これら電解質を含浸(充填)させたセパレータ(不織布セパレータを含む)を用いることができる。好ましくは上記(d)の形態である。
(a)ゲルポリマー電解質(高分子ゲル電解質)
ゲルポリマー電解質(高分子ゲル電解質)とは、ポリマーマトリックス中に電解液を保持させたものをいう。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、導電性高分子膜などの集電体層への電解質の流出をおさえ、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。
高分子ゲル電解質として用いるポリマーマトリックス(高分子)ないしゲル電解質のホストポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PEO)、ポリプロピレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVdF−HFP)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)およびそれらの共重合体が望ましい。中でもPEO、PPOおよびそれらの共重合体、あるいは、PVdF−HFPを用いることが望ましい。また、可塑剤としては通常リチウムイオン電池に用いられる電解液を用いることが可能である。かかる電解液とは、電解質塩を溶媒に溶かしたものである。電解質(塩)としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiAlCl4、Li2B10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N等の有機酸陰イオン塩等から選ばれる少なくとも1種が望ましい。溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびそれらの混合物が望ましい。
本発明におけるゲル電解質中の電解液の割合としては、特に制限されるべきものではないが、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが望ましい。本発明では、電解液の割合が70質量%以上の、電解液が多いゲル電解質について、特に効果がある。
(b)全固体型電解質(全固体高分子電解質、高分子固体電解質、無機固体型電解質)
電解質として全固体型電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、集電体層への電解質の流出がなくなり各層間のイオン伝導性を遮断することが可能になる点で優れている。
全固体高分子電解質としては、例えば、PEO、PPO、これらの共重合体などの公知の固体高分子電解質、セラミックなどのイオン伝導性を持つ無機固体型電解質が挙げられる。固体高分子電解質中には、イオン伝導性を確保するためにリチウム塩が含まれる。リチウム塩としては、LiBF4、LiPF6、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、またはこれらの混合物などが使用できる。
(c)液体電解質(電解液)
電解液とは、電解質塩を溶媒に溶かしたものが挙げられる。電解質(塩)としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiAlCl4、Li2B10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N等の有機酸陰イオン塩から選ばれる少なくとも1種が望ましい。溶媒としては、EC、PC、GBL、DMC、DECおよびそれらの混合物が望ましい。
(d)上記電解質を含浸させたセパレータ(不織布セパレータを含む)
セパレータに含浸させることのできる電解質としては、既に説明した(a)〜(c)と同様のものを用いることができる。
上記セパレータとしては、例えば、上記電解質を吸収保持するポリマーからなる多孔性シートおよび不織布を挙げることができる。
多孔性シートとしては、例えば、微多孔質セパレータを用いることができる。該ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドが挙げられる。上記セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。ただし、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。上記セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)、その空孔率は20〜80%であることが望ましい。
不織布としては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。不織布セパレータの空孔率は50〜90%であることが好ましい。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満では電解質の保持性が悪化し、200μmを超える場合には抵抗が増大することになる。
[シール部(シーラントないし周辺絶縁層とも称されている)]
シール部は、双極型リチウムイオン二次電池に関して、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止するために単電池層の周辺部に配置されている。双極型リチウムイオン二次電池では、電解質層の漏れによる液絡を防止するために有効に活用されている。該シール部としては、例えば、PE、PPなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミドなどが使用でき、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂が好ましい。ただし、これらに何ら制限されるものではない。
[正極および負極タブ]
本発明の非双極型および双極型リチウムイオン電池においては、電池外部に電流を取り出す目的で、各集電体に、あるいは最外層集電体に、電気的に接続されたタブ(正極タブおよび負極タブ)が電池外装材の外部に取り出されている。具体的には、図1に示すように各正極集電体に電気的に接続された正極タブと各負極集電体に電気的に接続された正極タブとが、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。あるいは図2に示すように正極用最外層集電体に電気的に接続された正極タブと、負極用最外層集電体に電気的に接続された負極タブとが、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。
タブ(正極タブおよび負極タブ)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用のタブとして従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極タブと負極タブとでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。また、各集電体あるいは最外層集電体を延長することにより正極および負極タブとしてもよいし、別途準備した正極および負極タブを各集電体あるいは最外層集電体に接続してもよい。
[正極および負極リード]
正極および負極リードに関しても、必要に応じて使用する。例えば、各集電体あるいは最外部の集電体から出力電極端子となる正極タブ及び負極タブを直接取り出す場合には、正極および負極リードは用いなくてもよい。
正極および負極リードの材料は、公知のリチウムイオン電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
[電池外装材]
電池外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができほか、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた発電要素(電池要素)を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。
[リチウムイオン二次電池の外観構成]
図3は、本発明に係るリチウムイオン電池の代表的な実施形態である積層型の扁平な非双極型あるいは双極型のリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図3に示すように、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58及び負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図1あるいは図2に示す非双極型あるいは双極型のリチウムイオン二次電池10、30の発電要素17、37に相当するものである。具体的には、正極(正極活物質層)12、32、電解質層13、35および負極(負極活物質層)15、33で構成される単電池層(単セル)16、36が複数積層されたものである。
なお、本発明のリチウムイオン電池は、図1、2に示すような積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。例えば、巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
また、図3に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。例えば、正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図3に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
本発明のリチウムイオン電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源装置や補助電源装置に好適に利用することができる。
[リチウムイオン電池用電極とこれを用いた電池の製造方法]
本発明のリチウムイオン電池の製造方法としては、上記にて説明した本発明の正極の主要活物質の製造方法、更には酸化処理ないし充放電前処理を適当な工程にて行うこと以外は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
よって、以下では、上記にて説明した本発明の正極の主要活物質の製造方法、並びに酸化処理ないし充放電前処理方法以外の本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法につき説明する。ただし、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、これらに何ら制限されるものでない。
電解質が電解液の電池の作製は、正極の主要活物質の製造方法により得られた正極活物質を用いた正極および既存の負極活物質を用いた負極を作製した。次に、作製した正極を更に前記のようにして酸化処理ないし充放電前処理を施した正極と作製した負極から、少し負極を大きくして切り出し、それぞれを所定の温度(例えば、90℃)の真空乾燥機にて1日乾燥して用いた。正極と負極の間に、所定の厚さ(例えば、25μm)のポリプロピレンの多孔質膜を介して最外側が負極になるようにして正極と負極を交互に積層して、各正極と負極を束ねてリードを溶接して、積層体を形成する。この積層体に正負極のリードを取り出した構造にて、アルミニウムのラミネートフィルムバックに収めて、注液機により電解液を注液して、減圧下シールをして電池とする。なお、酸化処理ないし充放電前処理を施していない正極を用いて、電池とした後で、前記のようにして酸化処理ないし充放電前処理を施してもよい。この場合には、シールの一部をシールせずに適当なクリップなどで密封しておき、充放電前処理で発生したガスをクリップを外して当該未シール部分よりガス抜きした後、当該未シール部分を減圧下シールするようにしてもよい(実施例5参照のこと)。
電解質が電解液の電池の他、電解質がゲルの電池、全固体ポリマーの電池、及びここで挙げた電解質を用いた双極電池の作製は、公知になった我々の技術により実施できるのでここでは省略する。
[電源装置]
次に、図4〜図8を参照して、本発明のリチウムイオン電池を用いた電源装置について説明する。
図4は、本発明の一実施形態における電源装置の概略構成を示す図である。本実施形態の電源装置は、リチウムイオン二次電池の充放電時の温度を所定の温度範囲に調整することによって、リチウムイオン二次電池の容量を増大するものである。
図4に示すように、本実施形態の電源装置100は、組電池110、温度センサ120、ファン130、およびコントローラ140を備える。
組電池110は、複数積層されたリチウムイオン二次電池50が、電池ケース150に収容されてなる。複数のリチウムイオン二次電池50は、互いに電気的に直列または並列に接続されている。積層されるリチウムイオン二次電池50の間には、薄膜ヒータおよび波板部材が設けられている。薄膜ヒータは、リチウムイオン二次電池50を加熱するものであり、波板部材は、リチウムイオン二次電池50を冷却する空気の流路を形成するものである。薄膜ヒータは、コントローラ140と電気的に接続されており、コントローラ140によって制御される。組電池110についての詳細な説明は後述する。
温度センサ120は、リチウムイオン二次電池50の温度を検出するものである。温度センサ120は、たとえば、熱電対であって、組電池110を構成するリチウムイオン二次電池50の表面に設けられる。温度センサ120は、コントローラ140と電気的に接続されており、温度センサ120からの信号は、コントローラ140に送信される。
ファン130は、組電池110に形成される流路に空気を供給するものである。ファン130は、流体供給手段として、電池ケース150に設けられ、電池ケース150内部に空気の流れを発生させることにより流路に空気を供給する。ファン130は、コントローラ140に電気的に接続されており、コントローラ140によって制御される。なお、ファン自体は、一般的なファンであるため、詳細な説明は省略する。
コントローラ140は、薄膜ヒータおよびファン130を制御するものである。コントローラ140は、制御手段として、薄膜ヒータおよびファン130を制御して、リチウムイオン二次電池の温度を所定の温度範囲に調整する。コントローラ140は、温度センサ120から信号を受信して、薄膜ヒータおよびファン130のオン/オフを制御する。
次に、図5を参照して、図4に示される組電池110について詳細に説明する。
図5は、本実施形態における組電池をより詳細に説明するための図である。
図5に示すように、本実施形態の組電池110は、扁平型のリチウムイオン二次電池50が複数積層されて構成される。積層されるリチウムイオン二次電池50の間には、薄膜ヒータ111および波板部材112が設けられている。
より具体的には、積層方向に隣接する第1のリチウムイオン二次電池50aと第2のリチウムイオン二次電池50bとの間には、一の薄膜ヒータ111が設けられている。薄膜ヒータ111と第1のリチウムイオン二次電池50aとの間、および、薄膜ヒータ111と第2のリチウムイオン二次電池50bとの間には、金属製の波板部材112a,112bがそれぞれ設けられている。
薄膜ヒータ111は、リチウムイオン二次電池50を加熱してリチウムイオン二次電池50の温度を上昇させるものである。薄膜ヒータ111は、加熱手段として、通電によって発熱し、リチウムイオン二次電池50を加熱する。本実施形態において、薄膜ヒータ111から発生される熱は、金属製の波板部材112を通じてリチウムイオン二次電池50に伝達される。リチウムイオン二次電池50は、金属製の波板部材112から熱を受けることによって加熱される。なお、薄膜ヒータ自体は、一般的な薄膜ヒータであるため、詳細な説明は省略する。
波板部材112は、リチウムイオン二次電池50を冷却する流体の流路を形成するものである。波板部材112は、冷却手段として、ファン130により流れが発生される空気の流路を形成する。本実施形態の波板部材112は、アルミニウムから形成されており、長手方向に垂直な断面がジグザグ形状を有する。波板部材112とリチウムイオン二次電池50とが重ねられることにより、波板部材112の表面とリチウムイオン二次電池50の表面とによって流路が形成される。
このように構成される本実施形態の組電池110によれば、薄膜ヒータ111が作動されることによってリチウムイオン二次電池50が加熱される一方で、ファン130が作動されて流路に空気が供給されることによってリチウムイオン二次電池50が冷却される。
なお、薄膜ヒータ111と波板部材112との位置関係は、図5に示す形態に限定されるものではない。図6は、本実施形態における組電池の変形例を説明するための図である。図6に示すように、本変形例の組電池110では、積層方向に隣接する第1のリチウムイオン二次電池50aと第2のリチウムイオン二次電池50bとの間には、一の波板部材112が設けられている。波板部材112と第1のリチウムイオン二次電池50aとの間、および、波板部材112と第2のリチウムイオン二次電池50bとの間には、薄膜ヒータ111a,111bがそれぞれ設けられている。このような構成にすると、組電池110の厚さを減少させることができる。
以上のとおり構成される本実施形態の電源装置100によれば、リチウムイオン二次電池50の温度が所定の温度範囲に調整されつつ、リチウムイオン二次電池50が使用される。以下、図7を参照して、本実施形態の電源装置100におけるリチウムイオン二次電池の充放電方法について詳細に説明する。
図7は、本実施形態の電源装置における温度制御処理を説明するためのフローチャートである。図7に示すフローチャートは、本実施形態の電源装置100が電気自動車の駆動用電源として用いられ、車両の運転時におけるリチウムイオン二次電池の温度を調整する場合を示す。
図7に示すように、本実施形態の温度制御処理では、まず、リチウムイオン二次電池50の温度が検出される(ステップS101)。本実施形態では、リチウムイオン二次電池50の表面に設けられた温度センサ120により、リチウムイオン二次電池50の温度が検出される。
次に、リチウムイオン二次電池50の温度が所定の下限値以上か否かが判断される(ステップS102)。本実施形態では、ステップS101に示す処理で検出された温度が所定の下限値と比較されることにより、リチウムイオン二次電池50の温度が所定の下限値以上か否かが判断される。ここで、下限値は、たとえば、45℃であり、リチウムイオン二次電池50の正極が高容量を発現できる温度である。
リチウムイオン二次電池50の温度が所定の下限値以上であると判断される場合(ステップS102:YES)、ステップS107以下の処理に移行する。
一方、リチウムイオン二次電池50の温度が下限値未満であると判断される場合(ステップS102:NO)、薄膜ヒータ111が作動される(ステップS103)。本実施形態では、コントローラ140が、薄膜ヒータ111に通電して薄膜ヒータ111を発熱させる。薄膜ヒータ111の熱が、金属製の波板部材112を通じてリチウムイオン二次電池50に伝達されることにより、リチウムイオン二次電池50が加熱される。なお、薄膜ヒータ111は、組電池110からの電力により発熱する。
次に、所定の加熱時間が経過したか否かが判断される(ステップS104)。ここで、加熱時間は、たとえば、10秒であり、任意に設定される。
所定の加熱時間が経過していない場合(ステップS104:NO)、所定の加熱時間が経過するまで薄膜ヒータ111の作動が維持される。一方、所定の加熱時間が経過した場合(ステップS104:YES)、薄膜ヒータ111が停止される(ステップS105)。
次に、所定の休止時間が経過したか否かが判断される(ステップS106)。ここで、休止時間は、たとえば、20秒であり、薄膜ヒータ111近傍に配置される温度センサ111が、薄膜ヒータ111の温度ではなく、リチウムイオン二次電池50の温度を正確に検出するために必要とされる時間である。
所定の休止時間が経過していない場合(ステップS106:NO)、所定の休止時間が経過するまで待機する。一方、所定の休止時間が経過した場合(ステップS106:YES)、ステップS101に示す処理に移行する。
以上のとおり、ステップS101〜S106に示す処理によれば、リチウムイオン二次電池50の温度が所定の下限値よりも低い場合、薄膜ヒータ111が作動され、リチウムイオン二次電池50が加熱される。したがって、リチウムイオン二次電池50の温度が下限値以上に調整される。
一方、ステップS102に示す処理において、リチウムイオン二次電池50の温度が下限値以上であると判断される場合(ステップS102:YES)、リチウムイオン二次電池50の温度が所定の上限値未満か否かが判断される(ステップS107)。本実施形態では、ステップS101に示す処理で検出された温度が所定の上限値と比較されることにより、リチウムイオン二次電池50の温度が所定の上限値未満か否かが判断される。ここで、上限値は、たとえば、60℃であり、リチウムイオン二次電池50の劣化が防止され、かつ、正極が高容量を発現できる温度である。
リチウムイオン二次電池50の温度が上限値未満の場合(ステップS107:YES)、ステップS101に示す処理に移行する。その結果、電気自動車が稼動している間、フローチャートの処理が繰り返される。なお、図7に示すフローチャートの処理は、電気自動車の稼動開始とともに開始され、稼動停止とともに終了される。
一方、リチウムイオン二次電池50の温度が上限値以上の場合(ステップS107:NO)、ファン130が作動される(ステップS108)。本実施形態では、コントローラ140が、ファン130を作動させて空気の流れを発生させる。波板部材112により形成される流路を空気が流れることにより、リチウムイオン二次電池50が冷却される。
次に、リチウムイオン二次電池50の温度が検出され(ステップS109)、所定の設定値未満か否かが判断される(ステップS110)。ここで、設定値は、たとえば、50℃であって、リチウムイオン二次電池50の温度が上昇する傾向にあることを考慮して、上限値よりも低く設定される。
リチウムイオン二次電池50の温度が設定値以上であると判断される場合(ステップS110:NO)、リチウムイオン二次電池50の温度が設定値未満になるまで、ファン130の作動が維持される。一方、リチウムイオン二次電池50の温度が設定値未満であると判断される場合(ステップS110:YES)、ファン130が停止される(ステップS111)。そして、ステップS101以下の処理が繰り返される。
以上のとおり、ステップS107〜S111に示す処理によれば、リチウムイオン二次電池50の温度が所定の上限値よりも高い場合、ファン130が作動され、波板部材112によって形成される流路を空気が通過する。流路を通過する空気によって、リチウムイオン二次電池50が冷却される。したがって、リチウムイオン二次電池50の温度が上限値未満に調整される。
そして、図7に示すフローチャートの処理によれば、車両に搭載されるリチウムイオン二次電池50の温度が、所定の温度範囲に調整される。充放電時のリチウムイオン二次電池50の温度が所定の温度範囲に調整されることにより、リチウムイオン二次電池50の容量を増大できる。
次に、図8を参照して、本実施形態の電源装置100によるリチウムイオン二次電池の容量増大効果について説明する。
図8は、リチウムイオン二次電池の放電容量の温度依存性を示す図である。図8の縦軸は、正極活物質の単位質量あたりの放電容量であり、横軸は、温度である。
図8に示すように、リチウムイオン二次電池の放電容量と温度との関係を示す放電容量−温度曲線は、温度が35℃付近で急激に上昇して、45℃付近で飽和状態となる。したがって、リチウムイオン二次電池の温度を35℃よりも高い温度に調整することにより、リチウムイオン二次電池の放電容量が増大した状態が実現される。なお、リチウムイオン二次電池の劣化を抑制する見地から、リチウムイオン二次電池の温度は、80℃以下に調整されることが好ましい。
そして、本実施形態の電源装置100によれば、車両の運転時におけるリチウムイオン二次電池50の温度が45〜60℃の範囲に調整されるため、リチウムイオン二次電池50の容量を最大化することができる。
加えて、本実施形態の電源装置100によれば、低温環境下でも、薄膜ヒータ111によりリチウムイオン二次電池50の温度が加熱され、電池性能が維持される。
なお、上記実施形態では、リチウムイオン二次電池50が放電する車両の稼動時にリチウムイオン二次電池50の温度を調整する場合について述べた。しかしながら、車両が非稼動な状態でリチウムイオン二次電池50が充電される場合にも、上記温度制御処理が実施されることが好ましい。本実施形態の電源装置100によってリチウムイオン二次電池50の温度を上記温度範囲まで上昇させた後、リチウムイオン二次電池50を充電すれば、より多くの電力が蓄積される。加えて、このような充電処理によれば、充電時間を短縮できるという効果もある。
また、本発明の電源装置は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、技術思想の範囲内において、種々改変することができる。
たとえば、上記実施形態では、波板部材によって形成される流路に空気を流すことによってリチウムイオン二次電池を冷却した。しかしながら、他の気体または液体(たとえば、オイル)を流路に流すことによってリチウムイオン二次電池を冷却してもよい。あるいは、ラジエータを用いて冷却手段を構成してもよい。
また、上記実施形態では、薄膜ヒータによりリチウムイオン二次電池を加熱した。しかしながら、他の熱源によって加熱されたオイルを波板部材によって形成される流路に流すことにより、リチウムイオン二次電池を加熱してもよい。あるいは、リチウムイオン二次電池がハイブリッド電気自動車に搭載される場合、負荷と発電機を利用して、微小な深度の充放電を繰り返すことにより、リチウムイオン二次電池を加熱してもよい。
また、上記実施形態では、リチウムイオン二次電池を加熱または冷却することによって、リチウムイオン二次電池の温度範囲を調整した。しかしながら、積層されるリチウムイオン二次電池の間に波板部材を設けずに薄膜ヒータのみを設け、薄膜ヒータのオン/オフによりリチウムイオン二次電池の温度を上記温度範囲に調整してもよい。
また、上記実施形態では、組電池の上下の最外電池表面にも、上記した加熱手段、更には冷却手段を設けた構成としてもよい。
また、上記実施形態では、流路に流体を供給する流体供給手段としてファンを設ける場合、組電池の電池ケースには、ファンを通じて外部空気を導入する吸気口と、流体の流路を形成する波板部材を通じて熱交換された空気を外部に排気する排気口を設けてもよい。あるいは、外部空気を用いずに、組電池の電池ケース内部の空気を循環するようにしてもよい。あるいは、外気温度との温度差などによって、これらを適宜切り替えることができるようにしてもよいなど、特に制限されるものではない。
また、上記実施形態では、温度センサを組電池内の1つのリチウムイオン二次電池表面に設けた構成を例示したが、温度センサの設置数は特に制限されるものではない。例えば、組電池内の全てのリチウムイオン二次電池表面に設置してもよい。この場合、薄膜ヒータのオン/オフは、個別の薄膜ヒータごとに実施可能である。また冷却ファンのオン/オフは、組電池内のいずれか1つでも所定の温度範囲の上限値に達したらオンとするのが、電池の劣化防止の観点からは望ましい。但し、所定の温度範囲の上限値を低めに設定している場合などでは、組電池内の全てが所定の温度範囲の上限値に達してからオンとしてもよいなど、電池構成や温度範囲の設定条件などにより、適宜、これらオン/オフのタイミングを制御すればよい。
また、上記実施形態では、金属製の波板部材は、熱伝導性及び機械的強度に優れるものが好ましく、アルミニウム又はその合金などが軽量かつ経済性にも優れることから好適に利用可能であるが、これらに制限されるものではない。
また、上記実施形態では、加熱手段の薄膜ヒータや冷却手段のファンは、組電池からの電力を利用することができるが、ハイブリッド車などガソリンエンジンの駆動により発生する電力の一部を供給するようにしてもよい。組電池からの電力とガソリンエンジンからの電力のいずれを用いるかは、経済性および環境(CO2削減)効果等の観点から、適宜最適な電力を用いるようにすればよい。
[車両]
次に、図9を参照して、上記電源装置が搭載された車両について説明する。
図9は、本実施形態における電源装置が搭載された電気自動車を示す図である。
本実施形態の車両200は、駆動用電源として電源装置100を搭載している。電源装置100は、駆動輪に動力を与えるためのモータ(不図示)に電力を供給する。その結果、駆動輪が回転し、車両200が走行する。
本実施形態の電源装置100を備えた車両200は、リチウムイオン二次電池の電池容量が最大化されるため、リチウムイオン二次電池の一回の充電による車両200の走行距離(航続距離)が延長される。
なお、車両200が連続走行する場合には、リチウムイオン二次電池の内部抵抗によってリチウムイオン二次電池の温度は自然に上昇する。しかしながら、車両200の走行パターンによってはリチウムイオン二次電池の温度が上記温度範囲まで上昇しない場合がある。このような場合においても、本実施形態の電源装置100は有効である。