JP5375694B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、インヒビターを含有しない素材では、スラブ加熱時にインヒビターによる粗大化抑制作用もないが、スラブの加熱温度を低温化できたとしても熱間圧延での耳割れを完全に無くすことは出来なかった。このため、インヒビターを含有しない素材にNbを添加することが、鋼板の耳割れ防止に有効であると考えられる。
以下、本発明を成功に至らしめた実験について説明する。
質量%および質量ppmで、C:0.045〜0.062%、Si:3.15〜3.25%、Mn:0.06〜0.09%、Al:30〜70ppm、N:36〜44ppmおよびS:12〜21ppmを含み、さらにNbの添加量を種々に変更し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1250℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.7mmの厚さに仕上げた。ついで、1100℃,20秒の熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.30mmの板厚に仕上げた。その後、均熱条件が830℃,80秒の脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を施した後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃,10時間保定する最終仕上焼鈍を行った。
鋼中の析出物は、磁壁の移動を阻害してヒステリシス損を劣化させることが知られているが、上記観察の結果、この劣化を抑制するためには、Nb添加量を0.015質量%以下に制限する必要があることが分かった。
この原因を調査するため、二次再結晶前のNbの形態を調べたところ、Nbは、鋼中に微細析出物を形成しつつ存在していることが明らかとなった。これら析出物は、前掲Nbの炭化物(NbC)であり、また、NbCがインヒビターの役割を担っていると推測した。
このように考えると、NbCのインヒビター機能を充分に発現させるための最適な工程条件は、最終冷間圧延直前の焼鈍で固溶させた後、最終冷間圧延後の再結晶焼鈍で析出させて、その後の再結晶焼鈍時には、NbCを再び固溶させないことが重要であると推測される。
[実験2]
質量%および質量ppmで、C:0.023%、Si:3.11%、Mn:0.15%、S:25ppm、Al:71ppm、N:42ppm、Sn:0.11%、Nb:0.003%、Sb:0.04%およびCr:0.03%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、連続鋳造にて製造し、1200℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.4mmの厚さに仕上げた。その後、表1に記載の保定温度、保定時間および冷却速度により熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.23mmの板厚に仕上げた。
よって、今回の実験では、この両者で焼鈍条件が大きく異なっている。
その後、均熱条件が50%N2−50%H2湿潤雰囲気で、830℃,60秒の再結晶焼鈍を施した後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃で5時間保定する最終仕上焼鈍を行った。
前述したとおり、連続焼鈍タイプの冷却速度はバッチ焼鈍タイプより速いため、NbCは固溶したまま、過飽和の状態で、鋼中に存在すると考えられる。すなわち、鋼板の冷却速度には適正範囲があることがここに示唆されているのである。
そこで、さらに検討を行ったところ、NbCが固溶したままの過飽和状態を達成するためには、1℃/s以上の冷却速度が必要であることが分かった。
[実験3]
実験2で使用した成分の鋼スラブを、1200℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により1.2〜2.7mmの厚さに仕上げた。その後、1050℃で90秒保定する連続焼鈍タイプの熱延板焼鈍を施し、冷間圧延により0.23〜0.35mmの板厚に仕上げた。この時、熱延板焼鈍の900℃から600℃までの冷却速度は60℃/sとした。また、熱間圧延後と冷間圧延後の板厚を種々作製することで、冷延圧下率を変更した。ついで、均熱条件が50%N2−50%H2湿潤雰囲気で、830℃,60秒の再結晶焼鈍を施した後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃で8時間保定する最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を875℃,30秒の条件で施した。
すなわち、冷間圧延前に過飽和に固溶したNbが鋼中に均一に析出物を形成させるためには、圧延による歪を多量かつ均一に、鋼板に導入する必要があると推定される。
Nbは、NbCの微細析出物を形成し、インヒビター機能を発現することで磁気特性が良好になると考えられる。ただし、NbCは固溶温度が低いため、途中工程での、例えば、焼鈍工程でも、固溶および再析出をする場合がある。従って、インヒビター効果を充分発揮させるためには、最終冷間圧延前の焼鈍で900℃以上に保定してNbCを固溶させ、その焼鈍時の冷却速度を速くすることで、固溶したままの過飽和状態をつくり、さらに次工程の最終冷間圧延の圧下率を80%以上とすることで、NbCの析出サイトとなりうる圧延歪を、鋼板に均一に導入することが重要であると考えられる。
[実験4]
実験2で使用した成分の鋼スラブを、1250℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.7mmの厚さに仕上げた。それから1065℃で50秒保定する連続焼鈍タイプの熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.27mmの板厚に仕上げた。熱延板焼鈍の900℃から600℃までの冷却速度は45℃/sとした。その後、50%N2−50%H2湿潤雰囲気で、均熱温度が840℃の再結晶焼鈍を施した。この際、鋼板が800℃以上の温度で保持される時間(図3に保持時間として記載する)を種々変更した。
さらに、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後、1200℃で10時間保定する最終仕上焼鈍を行い、ついで、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を840℃,30秒の条件で施した。
本発明は上記知見に立脚するものである。
1.C:0.002〜0.10質量%、Si:2.0〜8.0質量%、Mn:0.005〜1.0質量%およびNb:0.001〜0.015質量%を含有し、Al:100質量ppm以下、N、SおよびSeをそれぞれ50質量ppm以下とし、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延し、1回または、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚に仕上げ、ついで、得られた鋼板に脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を施した後、最終仕上焼鈍を施す一連の工程よりなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
該最終冷間圧延の直前に、900℃以上、かつ900℃から600℃までの冷却速度を平均で1℃/s以上とする焼鈍を施し、さらに、前記最終冷間圧延における圧下率を80%以上とし、該再結晶焼鈍は、温度が900℃以下で、かつ鋼板が800℃以上の温度に保持される時間を600秒以内とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
まず、本発明において、本発明の構成要件の限定理由について述べる。なお、以下、特に断らない限り、鋼中等の成分組成は質量%および質量ppmを表すこととする。
Cは、スラブ鋼中の含有量が0.10%を超えると、鋼板の脱炭焼鈍時に磁気時効の起こらない含有量である50ppm以下とすることが困難になる。一方、0.002%に満たないと、Nb炭化物のインヒビター効果が発揮されず、磁気特性が劣化する。従って、Cは0.002〜0.10%に限定される。
Siは、鋼の比抵抗を高め、鉄損を改善させるために必要な元素であるが、2.0%未満であると鉄損改善の効果がなく、一方8.0%を超えると鋼の加工性が劣化し、圧延が困難となることから2.0〜8.0%に限定される。
Mnは、熱間加工性を良好にするための元素であるが、0.005%未満であると効果がなく、一方1.0%を超えると製品板の磁束密度が低下するので、Mnは0.005〜1.0%とする。
Nbは、本発明の根幹を成す元素であり、鋼板の耳割れの防止にも効果が有るが、本発明では、その炭化物をインヒビターとして用いるところに特徴がある。前記した実験より、0.001%に満たないと、NbCのインヒビターとしての効果が無く、一方0.015%を超えると、磁壁の移動を阻害してヒステリシス損を増加させる。なお、この範囲内でも、Nbが多いとヒステリシス損は増加する傾向が認められるため、0.005%以下が好適な範囲である。
かかる成分は、いずれも極力低減することが磁気特性の観点からも好ましい。しかしながら、これら成分の低減することはコスト増につながることから、少なくとも前記した含有量以下に低減すことが必要である。このうち、AlとSeは純化焼鈍時に鋼中から除去することが比較的難しいことから、Alは80ppm以下、Seは20ppm以下とすることが好ましい。また、N、Sの軽元素は鋼スラブ作製前の成分調整時に完全に除去することは困難であるため、特殊な処理を行なわない場合は、20ppm程度が実質的な下限値である。
Ni:0.010〜1.50%
本発明では、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるためにNiを添加することができる。添加量が0.010%未満であると磁気特性の向上が小さく、一方1.50%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Niを添加する場合は、0.010〜1.50%とする。
それぞれ添加量が、下限量より少ない場合には鉄損の低減効果が少なく、上限量を超えると、二次再結晶が不安定になり鉄損が増大する。
それぞれ添加量が、下限量より少ない場合には磁気特性向上効果がなく、上限量を超えると二次再結晶粒の発達が抑制され磁気特性が劣化する。
前記成分を有する溶鋼は、通常の造塊法や、連続鋳造法でスラブを製造してもよいし、100mm以下の厚さの薄鋳片を直接鋳造法で製造してもよい。
本発明におけるスラブは、Al、N、SおよびSeを低減したインヒビター成分を含まないものであるから、インヒビター成分を固溶させる目的で従来必須であった高温のスラブ加熱は必要としない。したがって、熱間圧延するに十分な温度に加熱すればよく、1250℃以下の低温とすることがコスト面から好ましい。その後、熱間圧延を施す。
なお、本発明では、冷間圧延を1回しか行わない場合は、熱延板焼鈍を必ず行うこととなるが、この場合は、熱延板焼鈍が最終冷間圧延の直前の焼鈍となるため、熱延板焼鈍温度を900℃以上とすることが必須となり、また900℃から600℃までの冷却速度を、平均で1℃/s以上とすることも必須となる。
また、打ち抜き加工性を重視してフォルステライト被膜を必要としない場合には、焼鈍分離剤を適用しないか、適用する場合でもフォルステライト被膜を形成するMgOは使用せずにシリカやアルミナ等を用いる。
これら焼鈍分離剤を塗布する際は、水分を持ち込まない静電塗布を行うことなどが有効である。また耐熱無機材料シート(シリカ、アルミナ、マイカ等)を用いてもよい。
なお、鉄損を重視する場合やトランスの騒音を低下させるためにフォルステライト被膜を形成させる場合は、1200℃程度まで昇温させることが望ましい。
表2記載の成分、および残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1240℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.7mmの厚さに仕上げた。ついで、1025℃,30秒、かつ900℃から600℃までの冷却速度を45℃/sとした熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.30mmの板厚(圧下率88.9%)に仕上げた。その後、40%N2−60%H2湿潤雰囲気で、830℃,60秒の再結晶焼鈍を行った。このとき、鋼板が800℃以上の温度で保持される時間は約150秒であった。
さらに、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後に1200℃で6時間の最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を870℃,15秒の条件で施した。
得られたサンプルの磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定し、表2に併記する。
C:0.026%、Si:3.31%、Mn:0.05%、Al:55ppm、N:36ppm、S:5ppm、Se:10ppm、Nb:0.005%、Sn:0.05%、Sb:0.038%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、連続鋳造にて製造し、1200℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.3mmの厚さに仕上げた。
ついで、表3に記載の保定温度、保定時間および900℃から600℃までの冷却速度で熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.23mmの板厚(圧下率90%)に仕上げた。その後、50%N2−50%H2湿潤雰囲気で、均熱条件が850℃,60秒の再結晶焼鈍を施した。このとき、鋼板が800℃以上の温度で保持した時間は約150秒であった。さらに、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後、1200℃,10時間保定する最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を850℃,40秒の条件で施した。得られたサンプルの磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定し表3に併記する。
C:0.035%、Si:3.08%、Mn:0.21%、S:12ppm、Al:48ppm、N:18ppm、Se:20ppm、Nb:0.002%、Sb:0.06%、Cr:0.05%およびP:0.012%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1120℃でスラブ加熱した後、表4に示すとおり、熱間圧延により1.5〜2.7mmの厚さに仕上げた。その後、1050℃,90秒保定する熱延板焼鈍を施した後、表4に示したとおり、冷間圧延により0.23〜0.35mmの板厚に仕上げた。
なお、熱延板焼鈍の900℃から600℃までの冷却速度は30℃/sとした。その後、50%N2-50%H2湿潤雰囲気で、均熱条件が840℃,80秒の再結晶焼鈍を施した。このとき、鋼板を800℃以上の温度で保持した時間は約140秒であった。さらにMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後、1200℃,10時間保定する最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を850℃,40秒の条件で施した。
得られたサンプルの圧下率を計算し、またその磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定した。結果を表4に併記する。
C:0.050%、Si:3.30%、Mn:0.11%、S:34ppm、Al:81ppm、N:20ppm、Nb:0.008%、Sn:0.05%、Cr:0.03%およびNi:0.04%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1230℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により3.0mmの厚さに仕上げた。ついで、1000℃,40秒保定する熱延板焼鈍を施し、冷間圧延により1.8mmの板厚に仕上げた。その後、1025℃,30秒保持する中間焼鈍を施した。このときの900℃から600℃までの冷却速度は28℃/sとした。さらに冷間圧延により0.23mmの板厚に仕上げた。続いて、50%N2-50%H2湿潤雰囲気での再結晶焼鈍を施した。このとき、保定温度と鋼板が800℃以上の温度で保定される時間を、表5に示す種々の条件で実施した。
Claims (3)
- C:0.002〜0.10質量%、Si:2.0〜8.0質量%、Mn:0.005〜1.0質量%およびNb:0.001〜0.015質量%を含有し、Al:100質量ppm以下、N、SおよびSeをそれぞれ50質量ppm以下とし、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延し、1回または、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚に仕上げ、ついで、得られた鋼板に脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を施した後、最終仕上焼鈍を施す一連の工程よりなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
該最終冷間圧延の直前に、900℃以上、かつ900℃から600℃までの冷却速度を平均で1℃/s以上とする焼鈍を施し、さらに、前記最終冷間圧延における圧下率を80%以上とし、該再結晶焼鈍は、温度が900℃以下で、かつ鋼板が800℃以上の温度に保持される時間を600秒以内とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 前記鋼スラブ成分中に、さらに、Ni:0.010〜1.50質量%、Cr:0.01〜0.50質量%、Cu:0.01〜0.50質量%およびP:0.005〜0.50質量%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼スラブ成分中に、さらに、Sb:0.005〜0.50質量%、Sn:0.005〜0.50質量%、Bi:0.005〜0.50質量%、Mo:0.005〜0.100質量%、B:2〜25質量ppm、V:0.001〜0.010質量%およびTa:0.001〜0.010質量%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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