本実施形態の赤外線式ガス検知器(赤外線受光ユニット)は、図1および図2に示すように、複数(ここでは、2つ)の焦電素子41,42を有する赤外線受光素子40および赤外線受光素子40の出力を信号処理する信号処理回路が設けられた回路ブロック6と、回路ブロック6を収納するキャンパッケージからなるパッケージ7とを備えている。なお、本実施形態では、赤外線受光素子40が赤外線受光部を構成し、焦電素子41,42それぞれが熱型赤外線検出素子を構成している。
パッケージ7は、回路ブロック6が絶縁材料からなるスペーサ9を介して実装される金属製のステム71と、回路ブロック6を覆うようにステム71に固着される金属製のキャップ72とを備え、回路ブロック6の適宜部位と電気的に接続される複数本(ここでは、3本)の端子ピン75がステム71を貫通する形で設けられている。ここにおいて、ステム71は、円盤状に形成され、キャップ72は、後面が開放された有底円筒状の形状に形成されており、後面がステム71により閉塞されている。なお、スペーサ9と回路ブロック6およびステム71とは接着剤により固着されている。
また、パッケージ7の一部を構成する上述のキャップ72において赤外線受光素子40の前方に位置する前壁には、矩形状(本実施形態では、正方形状)の窓孔7aが形成されており、赤外線光学フィルタ20が窓孔7aを覆うようにキャップ72の内側から配設されている。要するに、赤外線光学フィルタ20は、赤外線受光素子40の前方においてパッケージ7の窓孔7aを閉塞する形でパッケージ7に接合されている。なお、本実施形態では、赤外線光学フィルタ20が赤外線光学フィルタ部を構成している。
また、ステム71は、上述の各端子ピン75それぞれが挿通される複数の端子用孔71bが厚み方向に貫設されており、各端子ピン75が端子用孔71bに挿通された形で封止部74により封着されている。
上述のキャップ72およびステム71は鋼板により形成されており、ステム71の周部に形成されたフランジ部71cに対して、キャップ72の後端縁から外方に延設された外鍔部72cを溶接により封着してある。
回路ブロック6は、上述の信号処理回路の構成要素であるIC63およびチップ状の電子部品64が互いに異なる面に実装されたプリント配線板(例えば、コンポジット銅張積層板など)からなる第1の回路基板62と、第1の回路基板62における電子部品64の実装面側に積層された樹脂層65と、ガラスエポキシなどからなる絶縁性基材の表面に金属材料(例えば、銅など)からなる金属層(以下、シールド層と称す)が形成され樹脂層65に積層されたシールド板66と、赤外線受光素子40が実装されるとともにシールド板66に積層されたプリント配線板(例えば、コンポジット銅張積層板)からなる第2の回路基板67とで構成されている。なお、シールド板66の代わりに、銅箔や金属板のみでシールド層を形成してもよい。
第1の回路基板62は、図2における下面側にIC63がフリップチップ実装され、図2における上面側に複数の電子部品64が半田リフローにより実装されている。
上述の赤外線受光素子40は、互いに極性の異なる2つ1組の焦電素子41,42が焦電材料(例えば、リチウムタンタレートなど)からなる焦電素子形成用基板41において並設され且つ2つの焦電素子41,42の差動出力が得られるように逆直列に接続されたデュアル素子であり(図3(b)参照)、IC63は、赤外線受光素子40の所定周波数帯域(例えば、0.1〜10Hz程度)の出力を増幅する増幅回路(バンドパスアンプ)63a(図18参照)や当該増幅回路63aの後段のウインドウコンパレータなどが集積化されている。ここで、本実施形態における回路ブロック6では、上述のシールド板66が設けられているので、赤外線受光素子40と上記増幅回路との容量結合などに起因した発振現象の発生を防止することができる。また、赤外線受光素子40は、2つ1組の焦電素子41,42の差動出力が得られるものであればよく、2つ1組の焦電素子41,42が逆直列に接続されたものに限らず、例えば、図3(c)に示すように、逆並列に接続されたものでもよい。
第2の回路基板67には、赤外線受光素子40の焦電素子41,42と第2の回路基板67とを熱絶縁するための熱絶縁用孔67aが厚み方向に貫設されているので、赤外線受光素子40の焦電素子41,42とシールド板66との間に空隙が形成され、感度が高くなる。なお、第2の回路基板67に熱絶縁用孔67を貫設する代わりに、第2の回路基板67に、赤外線受光素子40の焦電素子41,42と第2の回路基板67との間に空隙が形成される形で赤外線受光素子40を支持する支持部を突設してもよい。
回路ブロック6は、第1の回路基板62、樹脂層65、シールド板66、第2の回路基板67それぞれに、上述の端子ピン75が挿通されるスルーホール62b,65b,66b,67bが厚み方向に貫設されており、赤外線受光素子40と上記信号処理回路とが端子ピン75を介して電気的に接続されている。なお、第1の回路基板62、樹脂層65、シールド板66、第2の回路基板67を積層し、回路ブロック6の厚み方向に貫通する貫通孔を形成する1回の孔あけ加工でスルーホール62b,65b,66b,67bを形成するような部品内蔵基板工法を採用すれば、製造工程の簡略化を図れるとともに回路ブロック6内の電気的な接続が容易になる。
上述の3本の端子ピン75は、1本が給電用の端子ピン75(75a)、他の1本が信号出力用の端子ピン75(75b)、残りの1本がグランド用の端子ピン75(75c)であり、シールド板66におけるシールド層はグランド用の端子ピン75cと電気的に接続されている。ここで、端子ピン75a,75bを封着する封止部74,74(74a,74b)は、絶縁性を有する封着用のガラスにより形成されており、端子ピン75cを封着する封止部74(74c)は、金属材料により形成されている。要するに、端子ピン75a,75bはステム71と電気的に絶縁されているのに対し、グランド用の端子ピン75cはステム71と同電位となっている。したがって、シールド板66の電位はグランド電位に設定されるが、シールド機能を果たすことが可能な特定の電位であれば、グランド電位以外の電位に設定してもよい。なお、本実施形態では、キャップ72とステム71とで、外部からの電磁波を遮蔽するシールド部を構成している。要するに、本実施形態では、パッケージ7が、シールド部を備えている。
本実施形態の赤外線式ガス検知器の製造にあたっては、赤外線受光素子40が搭載された回路ブロック6をステム71にスペーサ9を介して実装した後、赤外線光学フィルタ20が窓孔7aを閉塞する形で固着されたキャップ72の外鍔部72cとステム71のフランジ部71cとを溶接することにより、キャップ72とステム71とからなる金属製のパッケージ2内を封止すればよい。ここで、パッケージ7内は、湿度などの影響による赤外線受光素子40の特性変化を防止するために、ドライ窒素が封入されている。なお、本実施形態におけるパッケージ7は、上述のようにキャンパッケージであり、外来ノイズに対するシールド効果を高めるとともに、気密性の向上による耐候性の向上を図れる。ただし、パッケージ7は、シールド部として金属層からなるシールド層が設けられてシールド効果を有するセラミックスパッケージにより構成してもよい。
ところで、上述の赤外線光学フィルタ20は、後述の各狭帯域透過フィルタ部21,22および広帯域遮断フィルタ部3が形成されたフィルタ本体部20aと当該フィルタ本体部20aの周部から外方に延設されキャップ72における窓孔7aの周部に固着されるフランジ部20bとを有している。ここにおいて、赤外線光学フィルタ20は、フィルタ部20aの平面視形状が矩形状(本実施形態では、正方形状)であり、フランジ部20bの外周形状が矩形状(本実施形態では、正方形状)に形成されている。なお、本実施形態では、フィルタ本体部20aの平面形状を数mm□の正方形状としてあるが、フィルタ本体部20aの平面形状や寸法は特に限定するものではない。
赤外線光学フィルタ20は、図4に示すように、赤外線透過材料(例えば、Siなど)からなるフィルタ形成用基板1と、当該フィルタ形成用基板1の一表面側(図4における上面側)において各焦電素子41,42それぞれに対応する部位に形成され互いに異なる所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させる2つ1組の狭帯域透過フィルタ部21,22と、フィルタ形成用基板1の他表面側(図4における下面側)に形成され、各狭帯域透過フィルタ部21,22により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長の赤外線を吸収する広帯域遮断フィルタ部3とを備えている。つまり、広帯域遮断フィルタ部3は、各狭帯域透過フィルタ部21,22の選択波長よりも長波長の所定波長を超える赤外線を吸収する。なお、本実施形態では、1つの狭帯域透過フィルタ部21とフィルタ形成用基板1および広帯域遮断フィルタ部3それぞれにおいて狭帯域透過フィルタ部21に重なる各部位とで1つのフィルタ要素部が構成され、他の1つの狭帯域透過フィルタ部22とフィルタ形成用基板1および広帯域遮断フィルタ部3それぞれにおいて狭帯域透過フィルタ部22に重なる各部位とで他の1つのフィルタ要素部が構成されている。しかして、本実施形態では、複数のフィルタ要素部でフィルタ形成用基板1が共用されている。
上述の赤外線光学フィルタ20は、フィルタ形成用基板1の上記一表面側で2つ1組の狭帯域透過フィルタ部21,22が並設されており、各狭帯域透過フィルタ部21,22は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類(ここでは、2種類)の薄膜21b,21aが積層された第1のλ/4多層膜21と、第1のλ/4多層膜21におけるフィルタ形成用基板1側とは反対側に形成され上記複数種類の薄膜21a,21bが積層された第2のλ/4多層膜22と、第1のλ/4多層膜21と第2のλ/4多層膜22との間に介在し所望の選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜21a,21bの光学膜厚とは異ならせた波長選択層231,232とを備えている。なお、2種類の薄膜21a,21bについての光学膜厚のばらつきの許容範囲は±1%程度であり、当該光学膜厚のばらつきに応じて物理膜厚のばらつきの許容範囲も決まる。
ところで、赤外線光学フィルタ20は、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22における低屈折率層である薄膜21bの材料(低屈折率材料)として遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料の一種であるAl2O3を採用し、高屈折率層である薄膜21aの材料(高屈折率材料)としてGeを採用しており、波長選択層231,232の材料を当該波長選択層231,232直下の第1のλ/4多層膜21の上から2番目の薄膜21b,21aの材料と同じ材料とし、第2のλ/4多層膜22のうちフィルタ形成用基板1から最も遠い薄膜21b,21bが上述の低屈折率材料により形成されている。ここで、遠赤外線吸収材料としては、Al2O3に限らず、Al2O3以外の酸化物であるSiO2や、Ta2O5を採用してもよく、SiO2の方がAl2O3よりも屈折率が低いので、高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくできる。
ところで、例えば住宅内などで発生する可能性のある各種ガスを検知(センシング)するための特定波長は、CH4(メタン)が3.3μm、SO3(三酸化硫黄)が4.0μm、CO2(二酸化炭素)が4.3μm、CO(一酸化炭素)が4.7μm、NO(一酸化窒素)が5.3μmであり、ここに列挙した全ての特定波長を選択的に検知するためには、3.1μm〜5.5μm程度の赤外領域に反射帯域を有する必要があって、2.4μm以上の反射帯域幅Δλが必要不可欠である。なお、反射帯域は、各薄膜21a,21bに共通する光学膜厚の4倍に相当する設定波長をλ0とすれば、図5に示すように、入射光の波長の逆数である波数を横軸、透過率を縦軸とした透過スペクトル図において、1/λ0を中心として対称となる。
ここにおいて、本実施形態では、波長選択層231,232の各光学膜厚を適宜設定することによって上述の各種ガスの検出が可能となるように、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の設定波長λ0を4.0μmとしている。また、各薄膜21a,21bの物理膜厚は、薄膜21aの材料である高屈折率材料の屈折率をnH、薄膜21bの材料である低屈折率材料の屈折率nLとすると、それぞれλ0/4nH、λ0/4nLとなるように設定してある。具体的には、高屈折率材料がGe、低屈折率材料がAl2O3の場合、nH=4.0、nL=1.7として、高屈折率材料により形成する薄膜21aの物理膜厚を250nmに設定し、低屈折率材料により形成する薄膜21bの物理膜厚を588nmに設定してある。
ここで、Si基板からなるフィルタ形成用基板1の一表面側に低屈折率材料からなる薄膜21bと高屈折率材料からなる薄膜21aとを交互に積層したλ/4多層膜(屈折率周期構造)の積層数を21とし、各薄膜21a,21bでの吸収がない(つまり、各薄膜21a,21bの消衰係数を0)と仮定して、設定波長λ0を4μmとした場合の透過スペクトルのシミュレーション結果を図6に示す。
図6は、横軸が入射光(赤外線)の波長、縦軸が透過率であり、同図中の「イ」は高屈折率材料をGe(nH=4.0)、低屈折率材料をAl2O3(nL=1.7)とした場合の透過スペクトルを、同図中の「ロ」は高屈折率材料をGe(nH=4.0)、低屈折率材料をSiO2(nL=1.5)とした場合の透過スペクトルを、同図中の「ハ」は高屈折率材料をGe(nH=4.0)、低屈折率材料をZnS(nL=2.3)とした場合の透過スペクトルを、それぞれ示している。
また、図7に、高屈折率材料をGeとして、低屈折率材料の屈折率を変化させた場合のλ/4多層膜(屈折率周期構造)の反射帯域幅Δλをシミュレーションした結果を示す。なお、図7中の「イ」、「ロ」、「ハ」は、それぞれ図6中の「イ」、「ロ」、「ハ」の点に対応している。
図6および図7から、高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差が大きくなるにつれて反射帯域幅Δλが増大することが分かり、高屈折率材料がGeの場合には、低屈折率材料としてAl2O3もしくはSiO2を採用することにより、少なくとも3.1μm〜5.5μmの赤外領域の反射帯域を確保できるとともに、反射帯域幅Δλを2.4μm以上とできることが分かる。
次に、図8に示すように、第1のλ/4多層膜21の積層数を4、第2のλ/多層膜22の積層数を6として、薄膜21aの高屈折率材料をGe、薄膜21bの低屈折率材料をAl2O3、第1のλ/4多層膜21と第2のλ/4多層膜22との間に介在させる波長選択層23の材料を低屈折率材料であるAl2O3とし、当該波長選択層23の光学膜厚を0nm〜1600nmの範囲で種々変化させた場合の透過スペクトルについてシミュレーションした結果を図9および図10に示す。ここで、図8中の矢印A1は入射光、矢印A2は透過光、矢印A3は反射光をそれぞれ示している。また、波長選択層23の光学膜厚は、当該波長選択層23の材料の屈折率をn、当該波長選択層23の物理膜厚をdとすると、屈折率nと物理膜厚dとの積、つまり、ndで求められる。なお、このシミュレーションにおいても、各薄膜21a,21bでの吸収がない(つまり、各薄膜21a,21bの消衰係数を0)と仮定して、設定波長λ0を4μm、薄膜21aの物理膜厚を250nm、薄膜21bの物理膜厚を588nmとした。
図9および図10から、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22により、3μm〜6μmの赤外領域に反射帯域が形成されていることが分かるとともに、波長選択層23の光学膜厚ndを適宜設定することにより、3μm〜6μmの反射帯域の中に狭帯域の透過帯域が局在していることが分かる。具体的には、波長選択層23の光学膜厚ndを0nm〜1600nmの範囲で変化させることにより、透過ピーク波長を3.1μm〜5.5μmの範囲で連続的に変化させることが可能であることが分かる。より具体的には、波長選択層23の光学膜厚ndを、1390nm、0nm、95nm、235nm、495nmと変化させれば、透過ピーク波長がそれぞれ、3.3μm、4.0μm、4.3μm、4.7μm、5.3μmとなる。
したがって、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の設計を変えることなく波長選択層23の光学膜厚ndの設計のみを適宜変えることにより、特定波長が3.3μmのCH4、特定波長が4.0μmのSO3、特定波長が4.3μmのCO2、特定波長が4.7μmのCO、特定波長が5.3μmのNOなどの種々のガスや、特定波長が4.3μmの炎のセンシングが可能となる。なお、光学膜厚ndの0nm〜1600nmの範囲は、物理膜厚dの0nm〜941nmの範囲に相当する。また、波長選択層23の光学膜厚ndが0nmの場合、つまり、図9において波長選択層23がない場合の透過ピーク波長が4000nmとなるのは、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の設定波長λ0を4μm(4000nm)に設定しているからであり、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の設定波長λ0を適宜変化させることにより、波長選択層23がない場合の透過ピーク波長を変化させることができる。
ところで、薄膜21bの低屈折率材料として、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22により設定される赤外線の反射帯域(つまり、狭帯域透過フィルタ部21,22により設定される赤外線の反射帯域)よりも長波長域の赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料であるAl2O3を採用しているが、遠赤外線吸収材料としては、MgF2、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNxの5種類について検討した。具体的には、MgF2膜、Al2O3膜、SiOx膜、Ta2O5膜、SiNx膜それぞれについて膜厚を1μmに設定してSi基板上に成膜する際の成膜条件を下記表1のように設定し、MgF2膜、Al2O3膜、SiOx膜、Ta2O5膜、SiNx膜それぞれの透過スペクトルを測定した結果を図11に示す。ここで、MgF2膜、Al2O3膜、SiOx膜、Ta2O5膜、SiNx膜の成膜装置としては、イオンビームアシスト蒸着装置を用いた。
ここにおいて、表1中の「IB条件」は、イオンビームアシスト蒸着装置で成膜する際のイオンビームアシストの条件であり、「IBなし」は、イオンビームの照射なし、「酸素IB」は、酸素イオンビームの照射あり、「ArIB」は、アルゴンイオンビームの照射あり、を意味している。また、図11は、横軸が波長、縦軸が透過率であり、同図中の「イ」がAl2O3膜、「ロ」がTa2O5膜、「ハ」がSiOx膜、「ニ」がSiNx膜、「ホ」がMgF2膜、それぞれの透過スペクトルを示している。
また、上述のMgF2膜、Al2O3膜、SiOx膜、Ta2O5膜、SiNx膜について、「光学特性:吸収」、「屈折率」、「成膜容易性」を評価項目として、検討した結果を下記表2に示す。
ここにおいて、「光学特性:吸収」の評価項目については、図11の透過スペクトルから算出した6μm以上の遠赤外線の吸収率により評価した。表2では、各評価項目それぞれについて、評価の高いランクから低いランクの順に「◎」、「○」、「△」、「×」を記載してある。ここで、「光学特性:吸収」の評価項目については、遠赤外線の吸収率が高い方が評価のランクを高く、遠赤外線の吸収率が低い方を評価のランクを低くしてある。また、「屈折率」の評価項目については、高屈折率材料との屈折率差を大きくする観点から、屈折率が低い方が評価のランクを高く、屈折率が高い方が評価のランクを低くしてある。また、「成膜容易性」の評価項目については、蒸着法もしくはスパッタ法により緻密な膜の得やすい方が評価のランクを高く、緻密な膜の得にくい方が評価のランクを低くしてある。ただし、各評価項目について、SiOxはSiO2として、SiNxはSi3N4として評価した結果である。
表2より、MgF2、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNxの5種類に関して、「成膜容易性」の評価項目については大差がなく、「光学特性:吸収」および「屈折率」の評価項目に着目した結果、遠赤外線吸収材料としては、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNxのいずれかを採用することが好ましいとの結論に至った。ここにおいて、遠赤外線吸収材料としてAl2O3もしくはT2O5を採用する場合には、遠赤外線吸収材料がSiOxやSiNxである場合に比べて、遠赤外線の吸収性を向上させることができる。ただし、高屈折率材料との屈折率差を大きくするという観点からは、T2O5よりもAl2O3の方が好ましい。また、遠赤外線吸収材料としてSiNxを採用する場合には、遠赤外線吸収材料により形成される薄膜21bの耐湿性を高めることができる。また、遠赤外線吸収材料としてSiOxを採用すれば、高屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の積層数の低減を図れる。
以下、赤外線光学フィルタ20における狭帯域透過フィルタ部21,22の製造方法について図12を参照しながら説明する。
まず、Si基板からなるフィルタ形成用基板1の一表面側の全面に、低屈折率材料であるAl2O3からなる所定の物理膜厚(ここでは、588nm)の薄膜21bと高屈折率材料であるGeからなる所定の物理膜厚(ここでは、250nm)の薄膜21aとを交互に積層することで第1のλ/4多層膜21を形成する第1のλ/4多層膜形成工程を行い、続いて、フィルタ形成用基板1の上記一表面側(ここでは、第1のλ/4多層膜21の表面側)の全面に、第1のλ/4多層膜21の上から2番目に位置する薄膜21bと同じ材料(ここでは、低屈折率材料であるAl2O3)からなり1つの狭帯域透過フィルタ部21の選択波長に応じて光学膜厚を設定した波長選択層231を成膜する波長選択層成膜工程を行うことによって、図12(a)に示す構造を得る。なお、各薄膜21b,21aおよび波長選択層231の成膜方法としては、例えば、蒸着法やスパッタ法などを採用すれば2種類の薄膜21b,21aを連続的に成膜することができるが、低屈折率材料が上述のようにAl2O3の場合には、イオンビームアシスト蒸着法を採用し、薄膜21bの成膜時に酸素イオンビームを照射するようにして薄膜21bの緻密性を高めることが好ましい。また、低屈折率材料としては、Al2O3以外の遠赤外線吸収材料であるSiOx、T2O5、SiNxを採用してもよい。いずれにしても、遠赤外線吸収材料からなる薄膜21bの成膜にあたっては、イオンビームアシスト蒸着法により成膜することが望ましく、低屈折率材料からなる薄膜21bの化学的組成を精密に制御できるとともに、薄膜21bの緻密性を高めることができる。
上述の波長選択層成膜工程の後、狭帯域透過フィルタ部21に対応する部位のみを覆うレジスト層31をフォトリソグラフィ技術を利用して形成するレジスト層形成工程を行うことによって、図12(b)に示す構造を得る。
その後、レジスト層31をマスクとし、第1のλ/4多層膜21の一番上の薄膜21aをエッチングストッパ層として波長選択層231の不要部分を選択的にエッチングする波長選択層パターニング工程を行うことによって、図12(c)に示す構造を得る。ここで、波長選択層パターニング工程では、上述のように低屈折率材料が酸化物(Al2O3)、高屈折率材料が半導体材料(Ge)であれば、エッチング液としてフッ酸系溶液を用いたウェットエッチングを採用することにより、ドライエッチングを採用する場合に比べて、エッチング選択比の高いエッチングが可能となる。これは、Al2O3やSiO2のような酸化物はフッ酸系溶液に溶解しやすいのに対して、Geはフッ酸系溶液に非常に溶けにくいためである。一例を挙げれば、フッ酸系溶液としてフッ酸(HF)と純水(H2O)との混合液からなる希フッ酸(例えば、フッ酸の濃度が2%の希フッ酸)を用いてウェットエッチングを行えば、Al2O3のエッチングレートが300nm/min程度で、Al2O3とGeとのエッチングレート比が500:1程度であり、エッチング選択比の高いエッチングを行うことができる。
上述の波長選択層パターニング工程の後、レジスト層31を除去するレジスト層除去工程を行うことによって、図12(d)に示す構造を得る。
上述のレジスト層除去工程の後、フィルタ形成用基板1の上記一表面側の全面に、高屈折率材料であるGeからなる所定の物理膜厚(250nm)の薄膜21aと低屈折率材料であるAl2O3からなる所定の物理膜厚(588nm)の薄膜21bとを交互に積層することで第2のλ/4多層膜22を形成する第2のλ/4多層膜形成工程を行うことによって、図12(e)に示す構造を得る。ここにおいて、第2のλ/4多層膜形成工程を行うことによって、狭帯域透過フィルタ部22に対応する領域では、第1のλ/4多層膜21の最上層の薄膜21a上に直接、第2のλ/4多層膜22の最下層の薄膜21aが積層されることとなり、当該最上層の薄膜21aと当該最下層の薄膜21aとで狭帯域透過フィルタ部22の波長選択層232を構成している。ただし、この狭帯域透過フィルタ部22の透過スペクトルは、図10のシミュレーション結果では、光学膜厚ndが0nmの場合に相当する。なお、各薄膜21a,21bの成膜方法としては、例えば、蒸着法やスパッタ法などを採用すれば2種類の薄膜21a,21bを連続的に成膜することができるが、低屈折率材料が上述のようにAl2O3の場合には、イオンビームアシスト蒸着法を採用し、薄膜21bの成膜時に酸素イオンビームを照射するようにして薄膜21bの緻密性を高めることが好ましい。
要するに、赤外線光学フィルタ20の狭帯域透過フィルタ部21,22の製造にあたっては、フィルタ形成用基板1の上記一表面側に屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類(ここでは、2種類)の薄膜21b,21aを積層する基本工程の途中で、当該途中における積層膜(ここでは、第1のλ/4多層膜21)の上から2番目の層と同じ材料からなる波長選択層23i(ここでは、i=1)であって複数の狭帯域透過フィルタ部21,・・・,2m(ここでは、m=2)うちの任意の1つの狭帯域透過フィルタ部2i(ここでは、i=1)の選択波長に応じて光学膜厚を設定した波長選択層23iを上記積層膜上に成膜する波長選択層成膜工程と、波長選択層成膜工程にて成膜した波長選択層23のうち上記任意の1つの狭帯域透過フィルタ部2iに対応する部分以外の不要部分を上記積層膜の1番上の層をエッチングストッパ層としてエッチングする波長選択層パターニング工程とからなる波長選択層形成工程を1回行っており、複数の狭帯域透過フィルタ部21,22が形成される。ここで、上述の基本工程の途中で、波長選択層形成工程を複数回行うようにすれば、より多くの選択波長を有する赤外線光学フィルタ20を製造することができ、上述の全てのガスをセンシングする赤外線光学フィルタ20を1チップで実現することもできる。
また、上述の製造方法においては、基板1の上記一表面側に複数種類の薄膜21a,21bを積層する基本工程の途中で、当該途中における積層膜(ここでは、第1のλ/4多層膜21)の上から2番目の層と同じ材料からなる薄膜であって各狭帯域透過フィルタ部21,・・・,2m(ここでは、m=2)のうちの任意の1つの狭帯域透過フィルタ部2i(ここでは、i=1)の選択波長に応じて光学膜厚を設定した薄膜を上記積層膜上に成膜し、上記積層膜上に成膜した薄膜のうち上記任意の1つの狭帯域透過フィルタ部2i(ここでは、i=1)に対応する部分以外の部分をエッチングすることで少なくとも1つの波長選択層231のパターンを形成しているが、少なくとも1つの波長選択層231のパターンを形成すればよく、例えば、波長選択層232が、波長選択層231と同じ材料であり且つ波長選択層231よりも光学膜厚が小さく設定されている場合には、上記積層膜上の薄膜を途中までエッチングすることで2つの波長選択層231,232のパターンを形成するようにしてもよい。
また、上述の製造方法に限らず、フィルタ形成用基板1の上記一表面側に第1のλ/4多層膜21を形成する第1のλ/4多層膜形成工程と、第1のλ/4多層膜におけるフィルタ形成用基板1側とは反対側に第2のλ/4多層膜22を形成する第2のλ/4多層膜形成工程との間で、各狭帯域透過フィルタ部21,・・・,2m(ここでは、m=2)に対応する各部位それぞれに互いに光学膜厚の異なる波長選択層231,・・・,23m(ここでは、m=2)をマスク蒸着により形成するようにしてもよい。
また、上述の製造方法において、上述の2種類の薄膜21a,21bのうち一方の薄膜21bの遠赤外線吸収材料がSiOxもしくはSiNxであり、他方の薄膜21aがSiである場合には、Siを蒸発源とするイオンビームアシスト蒸着装置を用い、Siからなる薄膜21aを成膜するときは真空雰囲気とし、酸化物であるSiOxからなる薄膜21bを成膜するときは酸素イオンビームを照射し、窒化物であるSiNxからなる薄膜21bを成膜するときは窒素イオンビームを照射するようにすれば、2種類の薄膜21a,21bの蒸発源を共通化することができるので、複数の蒸発源を備えたイオンビームアシスト蒸着装置を用意する必要がなく、製造コストの低コスト化を図れる。同様に、上述の製造方法において、上述の2種類の薄膜21a,21bのうち一方の薄膜21bの遠赤外線吸収材料がSiOxもしくはSiNxであり、他方の薄膜21aがSiである場合、Siをターゲットとするスパッタ装置を用い、Siからなる薄膜21aを成膜するときは真空雰囲気とし、SiOxからなる薄膜21bを成膜するときは酸素雰囲気とし、SiNxからなる薄膜21bを成膜するときは窒素雰囲気とするようにすれば、2種類の薄膜21a,21bのターゲットを共通化することができるので、複数のターゲットを備えたスパッタ装置を用意する必要がなく、製造コストの低コスト化を図れる。
上述の赤外線光学フィルタ20の狭帯域透過フィルタ部21,22では、波長選択層231,232それぞれの光学膜厚ndを適宜設定することにより、図13に示すように、3.8μmと4.3μmとに透過ピーク波長を有する赤外線光学フィルタ20を1チップで実現することができる。
なお、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22は、屈折率周期構造を有していればよく、3種類以上の薄膜を積層したものでもよい。
次に、赤外線光学フィルタ20の広帯域遮断フィルタ部3について説明する。
広帯域遮断フィルタ部3は、屈折率が異なる複数種類(ここでは、2種類)の薄膜3a,3bが積層された多層膜により構成されている。ここにおいて、広帯域遮断フィルタ部3は、相対的に屈折率の低い低屈折率層である薄膜3aの材料として、遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料の一種であるAl2O3を採用し、相対的に屈折率の高い高屈折率層である薄膜3bの材料としてGeを採用しており、薄膜3aと薄膜3bとを交互に積層し積層数を11としてあるが、この積層数は特に限定するものではない。ただし、広帯域遮断フィルタ部3は、フィルタ形成用基板1から最も遠い最上層を低屈折率層である薄膜3aにより構成することが光学特性の安定性の観点から望ましい。ここで、遠赤外線吸収材料としては、Al2O3に限らず、Al2O3以外の酸化物であるSiO2、Ta2O5を採用してもよく、SiO2の方がAl2O3よりも屈折率が低いので、高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくできる。また、遠赤外線吸収材料としては、窒化物であるSiNxを採用してもよい。
上述のように、広帯域遮断フィルタ部3は、2種類の薄膜3a,3bのうちの1種類の薄膜3aが遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料であるAl2O3により形成されているが、複数種類のうちの少なくとも1種類が遠赤外線吸収材料により形成されていればよく、例えば、3種類の薄膜としてGe膜とAl2O3膜とSiOx膜とが、Si基板よりなる半導体基板1に近い側からGe膜−Al2O3膜−Ge膜−SiOx膜−Ge膜−Al2O3膜−Ge膜・・・の順に積層された多層膜としてもよく、この場合は、3種類の薄膜のうち2種類の薄膜が遠赤外線吸収材料により形成されることとなる。
ところで、上述の広帯域遮断フィルタ部3では、狭帯域透過フィルタ部21,22により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する。ここで、広帯域遮断フィルタ部3では、赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料としてAl2O3を採用しているが、上述の狭帯域透過フィルタ部21,22と同様、遠赤外線吸収材料としては、MgF2、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNxの5種類について検討した。
ここにおいて、本願発明者らは、イオンビームアシストの効果を確認するために、Si基板上にAl2O3膜を成膜する時のイオンビームの照射量を種々変化させたサンプルを用意し、各サンプルのAl2O3膜の膜質の違いをFT−IR(フーリエ変換赤外分光)により分析した。図14は、FT−IRによる分析結果を示し、横軸が波数、縦軸が吸収率であり、同図中の「イ」はイオンビームアシストなしの場合のサンプル、「ロ」、「ハ」、「ニ」、「ホ」、「ヘ」はイオンビームの照射量を少ない方から多い方へ変化させた場合の各サンプルそれぞれの分析結果を示しており、イオンビームを照射することにより、水分に起因した3400cm−1付近の吸収率を低減でき、イオンビームの照射量を多くするほど水分に起因した3400cm−1付近の吸収率が低下していることが分かる。要するに、イオンビームアシストによりAl2O3膜の膜質を向上でき、緻密性を高めることができるものと推測される。
また、上述のように、遠赤外線吸収材料としてAl2O3もしくはT2O5を採用する場合には、遠赤外線吸収材料がSiOxやSiNxである場合に比べて、遠赤外線の吸収性を向上させることができる。
また、本願発明者らは、Si基板上に1μmのAl2O3膜を成膜した参考例の透過スペクトルを測定したところ図15(a)の「イ」に示すような実測値が得られ、実測値「イ」が同図(a)中の「ロ」に示す計算値からずれているという知見を得て、Al2O3により形成される薄膜3aの光学パラメータ(屈折率、吸収係数)を図15(a)の実測値「イ」からCauchyの式により算出した。この算出した光学パラメータを図15(b)に示してある。図15(b)に示した新規の光学パラメータでは、屈折率および吸収係数のいずれも800nm〜20000nmの波長域で一定という訳ではなく、波長が長くなるにつれて屈折率が徐々に低下し、また、波長が7500nm〜15000nmの波長域では波長が長くなるにつれて吸収係数が徐々に大きくなる。
上述のAl2O3膜の新規の光学パラメータを用いて赤外線光学フィルタ20として、下記表3の積層構造を有し透過ピーク波長が4.4μmの狭帯域透過フィルタ部21と、下記表4の積層構造を有する広帯域遮断フィルタ部3とがフィルタ形成用基板1の厚み方向において重なるように形成されている部分の透過スペクトルのシミュレーション結果を図16の「イ」に示す。また、上述のAl2O3膜の新規の光学パラメータを用いずに、Al2O3膜の屈折率を一定、吸収係数を0で一定とした比較例のシミュレーション結果を図16の「ロ」に示す。なお、実施例、比較例のいずれもGeの屈折率を4.0で一定、吸収係数を0.0で一定としてシミュレーションした。
上述の図16は、横軸が入射光(赤外線)の波長、縦軸が透過率であり、Al2O3膜の新規の光学パラメータを用いていない比較例の透過スペクトル「ロ」では、9000nm〜20000nmの遠赤外線が遮断されていないのに対して、Al2O3膜の新規の光学パラメータを用いた実施例の透過スペクトル「イ」では9000nm〜20000nmの遠赤外線も遮断されており、積層数が29層の広帯域遮断フィルタ部3と積層数が11層の狭帯域透過フィルタ部21とで波長が800nm〜20000nmの広帯域の赤外線を遮断でき、4.4μm付近のみに狭帯域の透過帯域を局在させ得ることが分かる。なお、広帯域遮断フィルタ部3の透過スペクトルは、例えば、図17に示すようになり、図17の例では、4μm以下の近赤外線と5.6μm以上の遠赤外線とが遮断される。
本実施形態の赤外線光学フィルタ20の製造にあたっては、まず、Si基板からなるフィルタ形成用基板1の上記他表面側に例えばAl2O3膜からなる薄膜3aと例えばGe膜からなる薄膜3bとを交互に積層することで広帯域遮断フィルタ部3を形成する広域遮断フィルタ部形成工程を行い、その後、フィルタ形成用基板1の上記一表面側に上述のようにして狭帯域透過フィルタ部21,22を形成すればよい。
次に、本実施形態の赤外線式ガス検知器を用いた赤外線式ガス計測装置について図18を参照しながら説明する。
図18に示した赤外線式ガス計測装置は、ハロゲンランプなどからなる赤外線光源10と、赤外線光源10を駆動する駆動回路11と、赤外線光源10から放射された赤外線をコリメートするレンズ12と、計測ガス(検知対象ガス)が導入されるガス流入路13bおよび排出されるガス排出路13cが形成されたチャンバ13と、上述のように互いに極性の異なる2つ1組の焦電素子41,42が焦電素子形成用基板において並設され且つ逆直列に接続された赤外線受光素子40と、広帯域遮断フィルタ部3および互いに透過波長域の異なる2つの狭帯域透過フィルタ部21,22を有し赤外線受光素子40の前方に配置された赤外線光学フィルタ20と、赤外線受光素子40の出力(2つ1組の焦電素子41,42の差動出力)を増幅する増幅回路63aと、増幅回路63aの出力に基づいてガスの濃度を求める演算を行う演算回路(図示せず)とを備えている。要するに、図18に示した構成の赤外線ガス計測装置は、赤外線光源10から赤外線をチャンバ13の内部空間である所定空間へ放射させて所定空間内の検知対象ガスでの赤外線の吸収を利用して検知対象ガスを検出する赤外線式ガス計測装置であって、赤外線光源10と、赤外線光源10を駆動する駆動部たる駆動回路11とを備え、赤外線光源10から放射され所定空間を通過した赤外線を受光する赤外線受光ユニットとして上述の赤外線式ガス検知器を備えている。なお、増幅回路63aと演算回路とは上述のIC63に設けられているが、これらの回路は、パッケージ7の外側に設けてもよい。
ところで、図18に示した構成の赤外線式ガス計測装置では、赤外線光源10としてハロゲンランプのような熱の放射により赤外線を発生するものを用いる場合、放射スペクトルは発光ダイオードに比べて非常にブロードなスペクトルとなる。ここで、物体が黒体の場合、物体の温度と放射エネルギとの関係は図19に示すようになり、物体から放射される赤外線の放射エネルギ分布は、物体の温度に依存する。なお、ウィーンの変位側によれば、放射エネルギ分布の極大値を与える赤外線の波長をλ〔μm〕、物体の絶対温度をT〔K〕とすれば、波長λは、λ=2898/Tとなる。
ここにおいて、図18に示した構成の赤外線式ガス計測装置では、赤外線光源10としてハロゲンランプを用いる一方で、赤外線受光素子40のセンシングエレメントして焦電素子41,42を用いているので、駆動回路11によって赤外線光源10から放射される光の強度(発光パワー)を変調させる。ここで、駆動回路11は、赤外線光源10から放射される光の強度が一定周期で周期的に変化するようにしているが、連続的に変化させてもよいし間欠的に変化させてもよい。
また、赤外線光源10は、ハロゲンランプに限らず、例えば、図20に示すように、単結晶のシリコン基板(半導体基板)からなる支持基板111の一表面側にヒータ層(発熱体層)114が形成されるとともに、ヒータ層114と支持基板111との間に多孔質シリコン層からなる熱絶縁層113が形成された赤外線放射素子110と、当該赤外線放射素子110が収納されたキャンパッケージからなるパッケージ100とで構成されたものでもよい。ここにおいて、赤外線放射素子110は、ヒータ層114に電気的に接続された一対のパッド115,115を備えており、各パッド115,115それぞれがボンディングワイヤ124,124を介して端子ピン125,125と電気的に接続されている。しかして、図20に示した構成の赤外線光源10は、一対の端子ピン125,125間に通電してヒータ層114へ入力電力が与えることによりヒータ層114から赤外線を放射させることができる。なお、図20に示した構成の赤外線光源10は、パッケージ100における赤外線放射素子110の前方の窓孔100aが、赤外線を透過する光学部材130により閉塞されている。また、赤外線放射素子110は、支持基板111の上記一表面側において熱絶縁層113が形成されていない部分にシリコン酸化膜からなる絶縁膜112が形成されている。
上述のヒータ層114の材料は特に限定するものではないが、例えば、W、Ta、Ti、Pt、Ir、Nb、Mo、Ni、TaN、TiN、NiCr、導電性アモルファスシリコンなどを採用できる。図20にて説明した赤外線放射素子110は、支持基板111が単結晶のシリコン基板により形成されるとともに、熱絶縁層113が多孔質シリコン層により形成されており、支持基板111の熱容量および熱伝導率それぞれが熱絶縁層113よりも大きく、支持基板111がヒートシンクとしての機能を有するので、小型で入力電圧または入力電流に対する応答速度が速く且つ赤外線の放射特性の安定性を向上させることができる。
ここで、測定対象のガスがCO2であり、狭帯域透過フィルタ部21,22の透過ピーク波長がλ1=3.9μm、λ2=4.3μmであるとし、ハロゲンランプよりなる赤外線光源10から放射される光の強度(発光パワー)が図21に示す曲線のように変化するとして、赤外線光学フィルタ20が図22に示すような透過特性を有すると仮定する。ここにおいて、赤外線光学フィルタ20の狭帯域透過フィルタ部21の波長λ1での透過率をτ1、狭帯域透過フィルタ部22の波長λ2での透過率をτ2とし、図21の曲線の振幅をPa、バイアス成分(太陽光などの外来光による直流成分)をPb、角振動数をω(=2πf)として、測定対象のガスによる赤外線の吸収率をT(C)とすると、狭帯域透過フィルタ部21,22それぞれを透過した赤外線の強度(パワー)P1,P2は、それぞれ下記(6)式、下記(7)式で表される。
P1=τ1(Pasin(ωt)+Pb) (6)式
P2=T(C)τ2(Pasin(ωt)+Pb) (7)式
また、狭帯域透過フィルタ部21を透過した赤外線を受光する焦電素子41の受光面側の極性を+、狭帯域透過フィルタ部22を透過した赤外線を受光する焦電素子42の受光面側の極性を−とすると、各焦電素子41,42の出力I1,I2は、それぞれ下記(8)式、下記(9)式で表される(ただし、焦電素子41,42での電流変換による定数は省いてある)。
I1=ωτ1Pacos(ωt) (8)式
I2=−T(C)ωτ2Pacos(ωt) (9)式
ここで、赤外線受光素子40は、焦電素子形成用基板41上で2つの焦電素子41,42の差動出力が得られるように両焦電素子41,42が図3(b)のように接続されているから、赤外線受光素子40の出力をIとすると、出力Iは下記(10)式で表される。
I=I1+I2=ωτ1Pacos(ωt)−T(C)ωτ2Pacos(ωt) (10)式
ここにおいて、τ1=τ2とすれば、赤外線受光素子40の出力Iは、下記(11)式で表される。
I=ωτ1Pacos(ωt)(1−T(C)) (11)式
ここで、赤外線の吸収率T(C)は、上述のランベルト・ベールの法則に基づいて求められる(4)式より、ガスの濃度をC、光路長をLとすれば、下記(12)で表される。
T(C)=10−αCL (12)式
したがって、赤外線受光素子40の出力Iは、(11)式に(12)式を代入することにより、下記(13)式で表される。
I=ωτ1Pacos(ωt)(1−10−αCL) (13)式
この(13)式に基づいて、ガスの濃度Cと赤外線受光素子40の出力信号(出力I)との関係をグラフにすると、図23に示すようになるから、赤外線受光素子40の出力信号の振幅を計測することでガスの濃度を求めることができる。
以上説明した本実施形態の赤外線式ガス検知器では、赤外線受光素子40は、互いに極性の異なる2つ1組の焦電素子41,42が逆直列に接続されているので、組をなす2つの焦電素子41,42の直流バイアス成分(雑ガスや太陽光などの外来光によるバイアス成分)を相殺することができる(つまり、測定対象のガスの濃度が零の場合には、赤外線受光素子40の出力も零となる)とともに、赤外線受光素子40の出力のダイナミックレンジを大きくでき、特に2つ1組の焦電素子41,42が1枚の焦電素子形成基板41に形成されている場合には赤外線検出素子40の出力を増幅する増幅回路63aをパッケージ7内に収納する場合の小型化を図りやすく、しかも、赤外線受光素子40の出力を増幅する増幅回路63aのゲインを大きくできてS/N比の向上が可能となる。
また、本実施形態の赤外線ガス検知器では、赤外線光学フィルタ20が、赤外線透過材料からなるフィルタ形成用基板1と、当該フィルタ形成用基板1において焦電素子(熱型赤外線検出素子)41,42に対応する部位に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させる狭帯域透過フィルタ部21,22と、フィルタ形成用基板1に形成され狭帯域透過フィルタ部21,22の選択波長よりも長波長の赤外線を吸収する広帯域遮断フィルタ部3とで構成され互いに狭帯域透過フィルタ部21,22の選択波長の異なる複数のフィルタ要素部を備え、パッケージ7における赤外線受光素子(赤外線受光部)40の前方の窓孔7aを閉塞する形でパッケージ7に接合されているので、広帯域遮断フィルタ部3において赤外線を吸収することにより発生した熱がパッケージ7を通して効率良く放熱されるから、狭帯域透過フィルタ部21,22の温度上昇や温度分布を抑制でき、低コストで高感度化が可能となる。また、本実施形態の赤外線式ガス検知器では、パッケージ7内に赤外線受光素子40の出力を信号処理する増幅回路63aなどの回路部品を含む回路ブロック9を収納してあるが、回路部品の温度上昇により回路部品から放射されパッケージ7の内壁面で反射される赤外線を広帯域遮断フィルタ部3により吸収することができ、S/N比の向上による高感度化を図れる。ここで、本実施形態では、2つ1組の焦電素子41,42を焦電素子形成基板41上で逆直列もしくは逆並列に接続してあるが、2つ1組の焦電素子41,42を接続せず、2つ1組の焦電素子41,42の出力を差動増幅する増幅回路を備えるようにしてもよく、この場合には、各焦電素子41,42それぞれの出力を個別に増幅する複数の増幅回路を設ける場合に比べて、小型化および低コスト化を図れる。
また、本実施形態の赤外線式ガス検知器では、赤外線光学フィルタ20のフィルタ形成用基板1における焦電素子(熱型赤外線検出素子)41,42側である上記一表面側に狭帯域透過フィルタ部21,22が形成され、フィルタ形成用基板1の上記他表面側に広帯域遮断フィルタ部3が形成されているので、広帯域遮断フィルタ部3において赤外線を吸収することにより発生した熱が焦電素子41,42へ伝熱されにくくなり、広帯域遮断フィルタ部3が焦電素子41,42側となる形で配置されている場合に比べて、パッケージ7の低背化を図りながらも応答性の向上を図れる。また、本実施形態では、焦電素子41,42側に狭帯域透過フィルタ部21,22が形成されているので、赤外線光学フィルタ20に斜め方向から入射する赤外線に起因したクロストークの発生を抑制でき、焦電素子41,42の受光領域を大きくすることによる高感度化を図れる。
なお、上述の赤外線受光素子40は、2つ1組の焦電素子41,42の組が1組だけであるが、これに限らず、例えば、図24(a)に示すように、更に、2つ1組の焦電素子43,44を設けて、これら焦電素子41,42,43,44を同図(b)や同図(c)に示すように接続することで差動出力が得られるようにして、赤外線光学フィルタ20において各焦電素子41,42,43,44に対応する部位に狭帯域透過フィルタ部を形成するようにしてもよく、図24(b)の場合には、2種類のガスの検知が可能となる。
また、本実施形態の赤外線式ガス検知器では、赤外線光学フィルタ20は、赤外線透過材料からなるフィルタ形成用基板1と、当該フィルタ形成用基板1の上記一表面側において各焦電素子41,42それぞれに対応する部位に形成され互いに異なる所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させる2つ1組の狭帯域透過フィルタ部21,22と、フィルタ形成用基板1の上記他表面側に形成され、各狭帯域透過フィルタ部21,22により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長の赤外線を吸収する広帯域遮断フィルタ部3とを備え、各狭帯域透過フィルタ部21,22は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜21a,21bが積層された第1のλ/4多層膜21と、第1のλ/4多層膜21におけるフィルタ形成用基板1側とは反対側に形成され複数種類の薄膜21a,21bが積層された第2のλ/4多層膜22と、第1のλ/4多層膜21と第2のλ/4多層膜22との間に介在し上記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜21a,21bの光学膜厚とは異ならせた波長選択層231,232とを有しているので、複数の狭帯域透過フィルタ部21,22を有する赤外線光学フィルタ20の小型化による低コスト化を図れ、しかも、複数の狭帯域透過フィルタ部21,22の中心間距離を短くできて検出光と参照光との光路長の差を小さくすることができ、赤外線受光素子40の各焦電素子41,42の受光効率の向上を図れる。また、本実施形態の赤外線式ガス検知器では、赤外線光学フィルタ部たる赤外線光学フィルタ20の複数のフィルタ要素部でフィルタ形成用基板1が共用されているので、狭帯域透過フィルタ部21,22が互いに異なるフィルタ形成用基板1に形成されている場合に比べて、狭帯域透過フィルタ部21,22同士の温度差をより低減でき、検出精度や感度の向上を図れる。なお、赤外線光学フィルタ部は、複数のフィルタ要素部を個別部品として、パッケージ7に窓孔7aをフィルタ要素部の数だけ設けてもよい。
また、本実施形態の赤外線式ガス検知器では、赤外線光学フィルタ20の広帯域遮断フィルタ部3は、屈折率が異なる複数種類の薄膜3a,3bが積層された多層膜からなり、当該複数種類の薄膜3a,3bのうち少なくとも1種類の薄膜3aが遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料により形成されているので、広帯域遮断フィルタ部3を構成する多層膜による光の干渉効果と、当該多層膜を構成する薄膜3aの遠赤外線吸収効果とにより、サファイア基板を用いることなく、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を実現することができ、低コスト化を図れる。
また、本実施形態の赤外線式ガス検知器では、赤外線光学フィルタ20の狭帯域透過フィルタ部21,22においても、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜21と波長選択層231,232と第2のλ/4多層膜22とで構成される多層膜における薄膜21bの遠赤外線吸収材料での遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有するから、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタ20を実現できる。
また、上述の赤外線光学フィルタ20では、遠赤外線吸収材料として、酸化物もしくは窒化物を採用しているので、遠赤外線吸収材料からなる薄膜3a,21bが酸化して光学特性が変化するのを防止することができる。また、上述の赤外線光学フィルタ20では、広帯域遮断フィルタ部3および各狭帯域透過フィルタ部21,22のいずれもフィルタ形成用基板1から最も遠い最上層が上述の酸化物もしくは窒化物により形成されているので、空気中の水分や酸素などとの反応や不純物の吸着や付着などに起因して最上層の薄膜3a,21bの物性が変化するのを防止できてフィルタ性能の安定性が高くなるとともに、広帯域遮断フィルタ部3および各狭帯域透過フィルタ部21,22の表面での反射を低減でき、フィルタ性能の向上を図れる。
また、上述の赤外線光学フィルタ20では、遠赤外線吸収材料により形成された薄膜3aと、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるGeにより形成された薄膜3bとが交互に積層されて広帯域遮断フィルタ部3の多層膜が構成されているので、高屈折率材料がSiやPbTeやZnSである場合に比べて、高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、当該多層膜の積層数を低減できる。また、高屈折率材料としてSiを採用した場合には、高屈折率材料がZnSである場合に比べて、多層膜における高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、多層膜の積層数を低減できる。また、狭帯域透過フィルタ部21,22に関しても、同様の理由により積層数を低減できる。
ところで、本実施形態では、赤外線光学フィルタ20のフィルタ形成用基板1としてSi基板を用いているが、フィルタ形成用基板1はSi基板に限らず、Ge基板を用いてもよい。SiおよびGeそれぞれの透過特性についてインターネット上で開示されているデータをそれぞれ、図25,26に示す(〔平成21年2月25日検索〕、インターネット<URL:http://www.spectra.co.jp/kougaku.files/k_kessho.files/ktp.htm>)。
本実施形態の赤外線式ガス検知器では、上述のように、フィルタ形成用基板1としてSi基板もしくはGe基板を用いることにより、フィルタ形成用基板1がサファイア基板やMgO基板やZnS基板である場合に比べて低コスト化を図れ、しかも、フィルタ形成用基板1の温度上昇を抑制でき、赤外線光学フィルタ20の温度上昇による赤外線放射を抑制できる。
また、本実施形態の赤外線式ガス検知器は、パッケージ7が金属製であり、フィルタ形成用基板1がパッケージ7のキャップ72に対して導電性の接合材料(例えば、銀ペースト、半田など)からなる接合部58により接合して電気的に接続されているので、フィルタ形成用基板1とパッケージ7とで電磁シールドを行うことができ、赤外線受光素子40への外来の輻射ノイズ(電磁ノイズ)の影響を防止でき、S/N比の向上による高感度化を図れる。
また、本実施形態の赤外線式ガス検知器では、キャップ72の窓孔7aが矩形状に開口されるとともに、赤外線光学フィルタ20に、キャップ72における窓孔7aの内周面および周部に位置決めされる段差部20cが形成されており、赤外線光学フィルタ20における段差部20cを上記接合材料からなる接合部58を介してキャップ72に固着してある。したがって、赤外線光学フィルタ20と赤外線受光素子40との平行度を高めることができ、赤外線光学フィルタ20の各狭帯域透過フィルタ部21,22の光軸方向における各狭帯域透過フィルタ部21,22と赤外線受光素子40の各焦電素子41,42との距離精度を高めることができるとともに、各狭帯域透過フィルタ部21,22の光軸と各焦電素子41,42の受光面の光軸との合わせ精度を高めることができる。
また、本実施形態の赤外線式ガス検知器では、赤外線受光素子40の出力を増幅する増幅回路63aの構成部品がパッケージ7内に収納されているので、赤外線受光素子40と増幅回路63aとの電路を短くできるとともに、増幅回路63aも電磁シールドされるので、S/N比のより一層の向上による高感度化を図れる。
ところで、上述の実施形態では、赤外線受光部を構成する赤外線受光素子40の熱型赤外線検出素子として焦電素子41,42を例示したが、熱型赤外線検出素子は、これに限らず、例えば、図27に示すようなサーモパイル型の熱型赤外線検出素子や抵抗ボロメータ型の赤外線検出素子でもよく、2つ1組のサーモパイルの出力を差動増幅回路で差動増幅するようにしてもよいし、図28に示すように2つ1組のサーモパイルTP1,TP2を逆直列に接続して出力電圧Voutを増幅回路で増幅するようにしてもよいし、2つ1組のサーモパイルTP1、TP2を逆並列に接続して出力電圧を増幅回路で増幅するもよいし、2つ1組の抵抗ボロメータと互いに抵抗値の等しい2つの固定抵抗とでブリッジ回路を構成し、当該ブリッジ回路の出力に基づいて検知対象ガスの有無や濃度を求めるようにしてもよい。
上述の図27に示した構成の熱型赤外線検出素子は、主表面が{100}面の単結晶のシリコン基板からなる支持基板42と、支持基板42の主表面側に形成されて支持基板42に支持されたシリコン窒化膜からなるメンブレン部43と、メンブレン部43における支持基板42側とは反対側に形成されたサーモパイルTPとを備え、支持基板42に、メンブレン部3における支持基板42側の表面を露出させるように矩形状に開口された開孔部42aがエッチング速度の結晶方位依存性を利用した湿式の異方性エッチングにより形成されている。上述のサーモパイルTPは、メンブレン部43において支持基板42の開孔部42aに重なる領域と支持基板42の開孔部42aの周部に重なる領域とに跨って形成された細長の第1の熱電要素44および細長の第2の熱電要素45とで構成される複数の熱電対が直列接続されている。ここで、サーモパイルTPは、第1の熱電要素44と第2の熱電要素45との一端部同士の接合部で温接点を構成し、互いに異なる熱電対の第1の熱電要素44の他端部と第2の熱電要素45の他端部との接合部で冷接点を構成している。また、第1の熱電要素44は、ゼーベック係数が正の材料により形成し、第2の熱電要素は、ゼーベック係数が負の材料により形成してある。
また、図27に示した構成の熱型赤外線検出素子は、支持基板42の主表面側に各熱電要素44,45およびメンブレン部43において各熱電要素44,45が形成されていない部位を覆う絶縁膜46が形成され、絶縁膜46上においてサーモパイルTPの各温接点を含む所定領域を覆う赤外線吸収材料(例えば、金黒など)からなる赤外線吸収部47が形成されている。ここで、赤外線受光素子40の一対のパッド49,49は、絶縁膜46に形成された開口部(図示せず)を通して露出している。なお、絶縁膜46は、BPSG膜とPSG膜とNSG膜との積層膜により構成してあるが、これに限らず、例えば、BPSG膜とシリコン窒化膜との積層膜により構成してもよい。また、図27(b)は、図27(a)のX−X’断面に相当する概略断面図であり、図27(a)では、絶縁膜46の図示を省略してある。
また、図28に示した構成の赤外線受光素子40の基本構成は、図27に示した構成の熱型赤外線検出素子と略同じであり、図27におけるサーモパイルTPと同じ構成の2つのサーモパイルTP1,TP2を備え、これら2つのサーモパイルTP1,TP2が金属層48を介して逆直列に接続(逆極性で直列接続)されている点が相違するだけである。なお、上述の2つのサーモパイルTP1,TP2を逆並列に接続(逆極性で並列接続)してもよい。このように2つのサーモパイルTP1,TP2を逆直列もしくは逆並列に接続することにより、組をなす2つのサーモパイルの直流バイアス成分を相殺することができるとともに、赤外線受光部である赤外線受光素子40の出力のダイナミックレンジを大きくでき、特に2つ1組のサーモパイルTP1,TP2が1枚の支持基板42に形成されている場合には、赤外線受光素子40の出力を増幅する増幅回路63aをパッケージ7内に収納する場合の小型化を図りやすく、しかも、赤外線受光素子40の出力を増幅する増幅回路63aのゲインを大きくできてS/N比の向上が可能となる。