以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.リチウムイオン二次電池用負極
2.リチウムイオン二次電池
2−1.第1の二次電池(角型)
2−2.第2の二次電池(円筒型)
2−3.第3の二次電池(ラミネートフィルム型)
<1.リチウムイオン二次電池用負極>
図1は本発明の一実施の形態に係るリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に「負極」という。)の断面構成を表している。この負極は、例えば、リチウムイオン二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、一対の面を有する負極集電体1と、それに設けられた負極活物質層2とを有している。
負極集電体1は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料により構成されているのが好ましい。この金属材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどが挙げられる。中でも、金属材料としては、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
特に、負極集電体1を構成する金属材料としては、電極反応物質と金属間化合物を形成しない1種あるいは2種以上の金属元素を含有するものが好ましい。電極反応物質と金属間化合物を形成すると、電気化学デバイスの動作時(例えば二次電池の充放電時)において負極活物質層2の膨張および収縮による応力の影響を受けて破損するため、集電性が低下したり、負極活物質層2が剥離したりしやすくなるからである。この金属元素としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、鉄あるいはクロムなどが挙げられる。
また、上記した金属材料としては、負極活物質層2と合金化する1種あるいは2種以上の金属元素を含有するものが好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するため、その負極活物質層2が負極集電体1から剥離しにくくなるからである。電極反応物質と金属間化合物を形成せず、しかも負極活物質層2と合金化する金属元素としては、例えば、負極活物質層2の負極活物質がケイ素を有する場合には、銅、ニッケルあるいは鉄などが挙げられる。これらの金属元素は、強度および導電性の観点からも好ましい。
なお、負極集電体1は、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。この負極集電体1が多層構造を有する場合には、例えば、負極活物質層2と隣接する層がそれと合金化する金属材料によって構成される一方で、隣接しない層が他の金属材料によって構成されるのが好ましい。
負極集電体1の表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果によって負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層2と対向する負極集電体1の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理によって微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法によって負極集電体1の表面に微粒子を形成することにより凹凸を設ける方法である。この電解処理が施された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。
この負極集電体1の表面の十点平均粗さRzは、1.5μm以上6.5μm以下の範囲内であるのが好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性がより高くなるからである。
負極活物質層2は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質である複数の負極活物質粒子と共に、その電極反応物質と合金化しない金属元素を有する金属材料を含んでいる。この金属材料を含んでいるのは、例えば、気相法などによって負極活物質粒子が形成された場合においても、高い結着性が得られるからである。
複数の負極活物質粒子は、ケイ素を構成元素として有している。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。この負極活物質粒子は、ケイ素の単体、合金あるいは化合物であってもよいし、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するものであってもよい。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてよい。なお、本発明における合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。もちろん、本発明における合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらの2種以上が共存するものもある。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン(Mn)、亜鉛、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものなどが挙げられる。
ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、酸素および炭素(C)を有するものなどが挙げられる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金について説明した一連の構成元素の1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。
この負極活物質粒子は、負極集電体1に連結されており、すなわち負極集電体1の表面から負極活物質層2の厚さ方向に成長している。この場合には、負極活物質粒子が気相法によって形成されており、上記したように、負極集電体1と負極活物質層2(負極活物質粒子)との界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、両者の界面において、負極集電体1の構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体1に拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。充放電時に負極活物質層2が膨張および収縮することに対して破損しにくくなると共に、負極集電体1と負極活物質層2との間において電子伝導性が向上するからである。
上記した気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、より具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(chemical vapor deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。
負極活物質粒子は、1回の成膜工程を経て形成されることにより、単層構造を有していてもよいし、複数回の成膜工程を経て形成されることにより、粒子内に多層構造を有していてもよい。ただし、成膜時に高熱を伴う蒸着法などによって負極活物質粒子を形成する場合に、負極集電体1が熱的ダメージを受けることを抑制するためには、負極活物質粒子が多層構造を有しているのが好ましい。負極活物質粒子の成膜工程を複数回に分割して行う(負極活物質粒子を順次形成して積層させる)ことにより、その成膜工程を1回で行う場合と比較して、負極集電体1が高熱に晒される時間が短くなるからである。
さらに、負極活物質粒子は、酸素を有しているのが好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。この負極活物質層2では、少なくとも一部の酸素が一部のケイ素と結合しているのが好ましい。この場合には、結合の状態が一酸化ケイ素や二酸化ケイ素であってもよいし、他の準安定状態であってもよい。
負極活物質粒子中における酸素の含有量は、3原子数%以上40原子数%以下の範囲内であるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。詳細には、酸素の含有量が3原子数%よりも少ないと、負極活物質層2の膨張および収縮が十分に抑制されず、一方、40原子数%よりも多いと、抵抗が増大しすぎるからである。なお、例えば、電気化学デバイスにおいて負極が電解液と共に用いられる場合には、その電解液の分解によって形成される被膜などは負極活物質層2に含めないこととする。すなわち、負極活物質層2中における酸素の含有量を算出する場合には、上記した被膜中の酸素は含めない。
酸素を有する負極活物質粒子は、気相法によって負極活物質粒子を形成する際に、チャンバ内に連続的に酸素ガスを導入することにより形成可能である。特に、酸素ガスを導入しただけでは所望の酸素含有量が得られない場合には、チャンバ内に酸素の供給源として液体(例えば水蒸気など)を導入してもよい。
さらに、負極活物質粒子は、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、クロムおよびモリブデンからなる群のうちの少なくとも1種の金属元素を有しているのが好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。負極活物質粒子中における金属元素の含有量は、任意に設定可能である。ただし、例えば、負極が二次電池に用いられる場合には、金属元素の含有量が多くなりすぎると、所望の電池容量を得るために負極活物質層2を厚くしなければならず、負極活物質層2が負極集電体1から剥がれたり割れたりしやすくなるため、実用的でない。
上記した金属元素を有する負極活物質粒子は、例えば、気相法として蒸着法によって負極活物質粒子を形成する際に、金属元素を混合させた蒸着源を用いたり、多元系の蒸着源を用いたりすることにより形成可能である。
また、負極活物質粒子は、その厚さ方向において、さらに酸素を有する酸素含有領域を有し、その酸素含有領域における酸素の含有量がそれ以外の領域における酸素の含有量よりも高くなっているのが好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。この酸素含有領域以外の領域は、酸素を有していてもよいし、有していなくてもよい。もちろん、酸素含有領域以外の領域も酸素を有している場合に、その酸素の含有量が酸素含有領域における酸素の含有量よりも低くなっていることは言うまでもない。
この場合には、負極活物質層2の膨張および収縮をより抑制するために、酸素含有領域以外の領域も酸素を有しており、すなわち負極活物質粒子が、第1の酸素含有領域(より低い酸素含有量を有する領域)と、それよりも高い酸素含有量を有する第2の酸素含有領域(より高い酸素含有量を有する領域)とを含んでいるのが好ましい。この場合には、第1の酸素含有領域により第2の酸素含有領域が挟まれているのが好ましく、第1の酸素含有領域と第2の酸素含有領域とが交互に繰り返して積層されているのがより好ましい。より高い効果が得られるからである。第1の酸素含有領域における酸素の含有量は、できるだけ少ないのが好ましく、第2の酸素含有領域における酸素の含有量は、例えば、上記した負極活物質粒子が酸素を有する場合の含有量と同様である。
第1の酸素含有領域および第2の酸素含有領域を含む負極活物質粒子は、例えば、気相法によって負極活物質粒子を形成する際に、チャンバ内に断続的に酸素ガスを導入したり、チャンバ内に導入する酸素ガスの量を変化させることにより形成可能である。もちろん、酸素ガスを導入しただけでは所望の酸素含有量が得られない場合には、チャンバ内に液体(例えば水蒸気など)を導入してもよい。
なお、第1の酸素含有領域と第2の酸素含有領域との間では、酸素の含有量が明確に異なっていてもよいし、明確に異なっていなくてもよい。特に、上記した酸素ガスの導入量を連続的に変化させた場合には、酸素の含有量も連続的に変化していてもよい。第1の酸素含有領域および第2の酸素含有領域は、酸素ガスの導入量を断続的に変化させた場合には、いわゆる「層」となり、一方、酸素ガスの導入量を連続的に変化させた場合には、「層」というよりもむしろ「層状」となる。後者の場合には、負極活物質粒子中において酸素の含有量が高低を繰り返しながら分布する。この場合には、第1の酸素含有領域と第2の酸素含有領域との間において、酸素の含有量が段階的あるいは連続的に変化しているのが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、イオンの拡散性が低下したり、抵抗が増大する可能性があるからである。
負極活物質層2に負極活物質粒子と共に含まれている金属材料が電極反応物質と合金化しない金属元素を有しているのは、負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。この金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、銅、クロム、チタン、マグネシウムおよびマンガンからなる群のうちの少なくとも1種などが挙げられる。中でも、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、コバルトがより好ましい。もちろん、金属材料は、電極反応物質と合金化しない金属元素であれば、上記以外の他の金属元素を有していてもよい。本発明において負極活物質層2に負極活物質粒子と共に含まれる金属材料とは、広義の意味であり、電極反応物質と合金化しない金属元素を有していれば、単体、合金あるいは化合物のいずれであってもよい。
上記した金属材料は、結晶性を有しているのが好ましい。結晶性を有していない(非晶質である)場合よりも、負極全体の抵抗が低下すると共に、負極において電極反応物質が吸蔵および放出されやすくなるからである。また、電気化学デバイスの初期動作時(例えば二次電池の初期充電時)において電極反応物質が均一に吸蔵および放出され、負極に局所的な応力が発生しにくくなるため、しわの発生が抑制されるからである。この場合には、X線回折により得られる金属材料の(111)結晶面に起因するピークの半値幅2θが20°以下であるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
この金属材料は、上記したように、負極活物質粒子が負極集電体1の表面から負極活物質層2の厚さ方向に成長している場合に、隣り合う負極活物質粒子間の隙間に設けられている。また、金属材料は、例えば、負極活物質粒子の露出面、すなわち他の負極活物質粒子と隣り合っていない表面の少なくとも一部を被覆している。さらに、金属材料は、例えば、負極活物質粒子が粒子内に多層構造を有している場合に、その粒子内の隙間に設けられている。
図2は負極の断面構造を表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)であり、(B)は(A)に示したSEM像を模式的に示したものである。図2の(A)において、(B)でハッチングを付していない部分が負極活物質粒子201であり、ハッチングを付している部分が金属材料202である。なお、図2では、負極活物質粒子201が粒子内に多層構造を有している場合を示している。
図2に示したように、粗面化された負極集電体1の表面に突起部(例えば、電解処理によって形成された微粒子)が存在する場合には、その負極集電体1の表面に複数回に渡って負極活物質が堆積されて積層されることになる。これにより、複数の負極活物質粒子201は、上記した突起部ごとに厚さ方向に段階的に成長しており、負極集電体1上に配列されている。この場合には、金属材料202が、例えば、隣り合う負極活物質粒子201間の隙間に設けられており(金属材料202A)、負極活物質粒子201の露出面を部分的に被覆しており(金属材料202B)、負極活物質粒子201の粒子内の隙間に設けられている(金属材料202C)。これらの金属材料202A,202Cを含む金属材料202は、金属材料202Aを柱として、その柱から金属材料202Cが複数に枝分かれした構造を有している。
金属材料202Aは、負極活物質層2の結着性を高めるために、隣り合う負極活物質粒子間の隙間に入り込んでいる。詳細には、気相法などによって負極活物質粒子201が形成される場合には、上記したように、負極集電体1の表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子201が成長するため、負極活物質粒子201間に隙間が生じる。この隙間は、負極活物質層2の結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間に金属材料202Aが充填されている。この場合には、隙間の一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層2の結着性がより向上するからである。金属材料202Aの充填量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
金属材料202Bは、最上層の負極活物質粒子201の露出面に生じるひげ状の微細な突起部(図示せず)が電気化学デバイスの性能に悪影響を及ぼすのを避けるために、その突起部を被覆している。詳細には、気相法などによって負極活物質粒子201が形成される場合、その表面にひげ状の微細な突起部が生じるため、その突起部間に空隙が生じる。この空隙は負極活物質の表面積の増加を招き、その表面に形成される不可逆性の被膜の量も増加させるため、電極反応の進行度を低下させる原因となる可能性がある。したがって、電極反応の進行度の低下を抑えるために、上記した空隙が金属材料202Bによって埋め込まれている。この場合には、空隙の一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込む量が多いほど好ましい。電極反応の進行度の低下がより抑えられるからである。図2において負極活物質粒子201の最表面に金属材料202Bが点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していること表している。もちろん、金属材料202Bは、必ずしも負極活物質粒子201の表面に点在していなければならないわけではなく、その表面全体を被覆していてもよい。
金属材料202Cは、負極活物質層2の結着性を高めるために、負極活物質粒子201内の隙間に入り込んでいる。詳細には、負極活物質粒子201が多層構造を有する場合には、各階層間に隙間が生じる。この隙間は、上記した隣り合う負極活物質粒子201間の隙間と同様に、負極活物質層2の結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間に金属材料202Cが充填されている。この場合には、隙間の一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層2の結着性がより向上するからである。
特に、金属材料202Cは、金属材料202Bと同様の機能も果たしている。詳細には、負極活物質が複数回に渡って堆積されることにより積層される場合には、その堆積時ごとに表面に上記した微細な突起部が生じる。このことから、金属材料202Cは、負極活物質粒子201内の隙間に充填されているだけでなく、上記した微細な空隙も埋め込んでいる。
この金属材料は、例えば、気相法および液相法からなる群のうちの少なくとも1種の方法によって形成されている。中でも、金属材料は、液相法によって形成されているのが好ましい。図2を参照して説明した隙間に金属材料が充填されやすく、同様に空隙に金属材料が埋め込まれやすいと共に、金属材料の結晶性が高くなるからである。
上記した気相法としては、例えば、負極活物質粒子の形成方法と同様の方法が挙げられる。また、液相法としては、例えば、電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などの鍍金法が挙げられる。中でも、液相法としては、無電解鍍金法よりも電解鍍金法が好ましい。隙間や空隙に金属材料がより充填されやすくなると共に、金属材料の結晶性がより高くなるからである。
負極活物質粒子の単位面積当たりのモル数M1と金属材料の単位面積当たりのモル数M2との比(モル比)M2/M1は、1/15以上7/1以下の範囲内であるのが好ましい。また、負極の表面において金属材料が占める原子数の割合(金属材料の占有割合)は、2原子数%以上82原子数%以下の範囲内であるのが好ましく、2.3原子数%以上82原子数%以下の範囲内であるのがより好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。この金属材料の占有割合は、例えば、負極の表面をエネルギー分散型蛍光X線分析(energy dispersive x-ray fluorescence spectroscopy :EDX)で元素分析することにより測定可能である。
特に、金属材料は、さらに、酸素を構成元素として有しているのが好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。金属材料中における酸素の含有量は、1.5原子数%以上30原子数%以下の範囲内であるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。詳細には、酸素の含有量が1.5原子数%よりも少ないと、負極活物質層2の膨張および収縮が十分に抑制されず、一方、30原子数%よりも多いと、抵抗が増大しすぎるからである。酸素を有する金属材料は、例えば、酸素を有する負極活物質粒子と同様の手順によって形成可能である。
図3は負極活物質層2の表面の粒子構造を表しており、(A)はSEM写真であり、(B)は(A)に示したSEM像を模式的に示したものである。図4は図3に示した負極活物質層2の断面を表しており、(A)はSEM写真であり、(B)は(A)に示したSEM像を模式的に示したものである。図5は図3に示した粒子構造の一部を拡大して表しており、(A)は走査型イオン顕微鏡(scanning ion microscope :SIM)写真であり、(B)は(A)に示したSIM像を模式的に示したものである。なお、図3〜図5では、負極活物質粒子が単層構造を有している場合を示している。
図3の(A)において、(B)でハッチングを付している部分が2次粒子205であり、その中に粒状に見えているのが1次粒子である。また、図4の(A)において、(B)でハッチングを付している部分が1次粒子204(単層構造の負極活物質粒子)である。
図3〜図5に示したように、2次粒子205は、負極活物質層2の厚さ方向に深さを有する溝203によって負極活物質層2の面内方向において分離されている。また、図4および図5に示したように、各1次粒子204は単に隣接しているのではなく、互いに少なくとも一部が接合して2次粒子205を形成しており、溝203はほぼ負極集電体1まで達している。溝203の深さおよび幅は、例えば、それぞれ5μm以上および1μm以上である。この溝203は、電極反応(負極が二次電池に用いられた場合には充放電反応)によって形成されたものであり、1次粒子204に沿って割れているのではなく、比較的直線状に生じている。これにより、図3および図5に示したように、一部の1次粒子204は溝203によって断裂された断裂粒子206となっている。図5の(A)において、(B)で網掛けを施した部分が断裂粒子206である。
断裂粒子206の数は、隣接する5つ以上の2次粒子205における1つ当たりの平均で10個以上であるのが好ましい。1次粒子204がある程度の密着性を有して接合し、ある程度以上の大きさの2次粒子205を形成することにより、電極反応時における負極活物質層2の膨張および収縮による応力が緩和されるからである。なお、断裂粒子206の平均数は、負極の中央部において満たしていればよい。周縁部は電流の集中などが起こりやすく、溝203の発生にもばらつきが生じやすいからである。
また、2次粒子205としては、図4(B)に示した厚さ方向の断面において、連続する10個のうち、厚さ方向の長さT1よりもそれに垂直な方向の長さT2の方が長いものが、個数比で50%以上となる程度であるのが好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮による応力がより緩和されるからである。この個数比は、上記した断裂粒子206の数と同様に、負極の中央部において満たしていればよい。なお、厚さ方向の長さT1およびそれに垂直な方向の長さT2は、2次粒子205ごとに、その断面における最大値を測定する。
これらの粒子構造については、例えば、図3(A)および図4(A)に示したようにSEMで観察してもよいし、図5(A)に示したようにSIMで観察してもよい。また、観察する断面については、集束イオンビーム(focused ion beam:FIB)あるいはミクロトームなどで切り出すのが好ましい。
図6は、図1および図2に示した負極の断面構造を模式的に表している。なお、図6では、負極活物質粒子201が単層構造を有している場合を示している。
図6に示したように、負極活物質層2では、複数の負極活物質粒子201が負極集電体1の突起部1Rごとに成長しており、負極集電体1上に配列されている。この負極活物質層2は、負極活物質粒子201間の隙間に金属材料202(202A)を含んでいる。
負極活物質層2に負極活物質粒子201と共に金属材料202が含まれている場合には、その金属材料202は負極活物質層2内においてどのように分布していてもよいが、中でも、負極集電体1に近い側に多く存在しているのが好ましい。詳細には、複数の負極活物質粒子201の配列方向に沿った負極活物質層2の断面において、任意の隣り合う2つの負極活物質粒子201間の隙間に存在する金属材料202の存在範囲を所定の領域Sと見積もった場合、その領域Sを上下に2等分したときの下側領域SB中に占める金属材料202の面積の割合は、60%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましい。金属材料202のうちの大部分が負極活物質層2の内部(負極集電体1に近い側)に存在するため、負極活物質粒子の結着性が確保されつつ、金属材料202のうちの大部分が負極活物質層2の表面近傍(負極集電体1から遠い側)に存在する場合に生じる不具合、例えば電極硬化やショートなどが防止されるからである。特に、鍍金法を用いて金属材料202を形成する場合には、負極活物質粒子201の表面に金属材料202が偏析する(金属材料202が過剰に形成される)ことが抑制されるため、その偏析に起因するショートも防止される。この下側領域SB中に占める金属材料202の面積の割合は、例えば、負極の断面をSEMで観察することにより特定可能である。
上記した「領域S」とは、負極集電体1の表面を略平坦面と考えた場合に、その負極集電体1の表面と交差する方向に延在すると共に隣り合う2つの負極活物質粒子201の頂点201Pを通る2本の直線LP1,LP2と、負極集電体1の表面に沿った方向に延在すると共に金属材料202の上端点202Tおよび下端点202Bを通る2つの直線LT,LBとにより囲まれる領域である。また、「下側領域SB」とは、領域Sを直線LHにより上下に(上側領域STと下側領域SBとに)2等分した場合に、4本の直線LP1,LP2,LH,LBにより囲まれる領域である。なお、確認までに、「上」とは負極集電体1から遠い側を意味し、「下」とは負極集電体1に近い側を意味する。これらのことから、「下側領域SB中に占める金属材料202の面積の割合」とは、(下側領域SB中に占める金属材料202の面積/領域S中に占める金属材料202の面積)×100で表される値(%)である。
この領域Sを決定する場合には、隣り合っている2つの負極活物質粒子201の組み合わせであれば、負極活物質層2中に存在する複数組の負極活物質粒子201の中から、任意の負極活物質粒子201の組み合わせを選択可能である。ただし、負極活物質粒子201がある程度規則的に配列している場所において領域Sを決定するのが好ましく、より具体的には、隣り合う2つの負極活物質粒子201の頂点201P間の距離Lが1μm以上30μm以下である場所において領域Sを決定するのが好ましい。領域Sが再現性よく決定されるため、下側領域SB中に占める金属材料202の面積の割合も再現性よく算出可能だからである。
なお、図6では、負極活物質粒子201が単層構造を有している場合について説明したため、金属材料202が金属材料202Aだけを含み、直線LT,LBが金属材料202Aの上端点および下端点によって決定される。これに対して、負極活物質粒子201が多層構造を有している場合には、金属材料202が金属材料202A,202Cを含むこととなるため、直線LT,LBが金属材料202A,202Cの集合体の上端点および下端点によって決定される。なお、領域Sを決定する場合には、上記したように、負極活物質粒子201の粒子間および粒子内に位置する金属材料202A,202Cに着目し、負極活物質粒子201の最表面に位置する金属材料202Bには着目しない。
下側領域SB中に占める金属材料202の面積の割合が上記した範囲内である場合、負極活物質粒子201の単位面積当たりのモル数M1と金属材料202の単位面積当たりのモル数M2との比(モル比)M2/M1は、1/100以上1/1以下の範囲内であるのが好ましく、1/50以上1/2以下の範囲内であるのがより好ましい。下側領域SB中に占める金属材料202の面積の割合を上記した範囲内とする場合に、その金属材料202の量が適正化されるため、負極活物質粒子201の結着性が確保されつつ、電極硬化やショートなどが防止されるからである。
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。
まず、負極集電体1を準備し、その表面に必要に応じて粗面化処理を施したのち、負極集電体1上に、気相法などを用いてケイ素を有する複数の負極活物質粒子を形成する。この場合には、1回の成膜工程によって負極活物質粒子を単層構造となるように形成してもよいし、複数回の成膜工程によって負極活物質粒子を多層構造となるように形成してもよい。続いて、液相法などを用いて電極反応物質と合金化しない金属元素を有する金属材料を形成する。これにより、隣り合う負極活物質粒子間の隙間に金属材料が入り込むため、負極活物質層2が形成される。この場合には、例えば、負極活物質粒子の露出面の少なくとも一部が金属材料によって被覆される。また、例えば、負極活物質粒子を多層構造となるように形成した場合には、負極活物質粒子内の隙間に金属材料が入り込む。
金属材料を形成する場合には、図6に示した下側領域SB中に占める金属材料の面積の割合が60%以上となるように、その金属材料の形成範囲を調整するのが好ましい。この金属材料の面積の割合は、例えば、電解鍍金法を用いて金属材料を形成する場合に、電流密度を調整することにより制御可能である。詳細には、電流密度を低くすると、負極集電体1の表面から鍍金膜が緻密に成長するため、下側領域SB中に占める金属材料の面積の割合が大きくなる。一方、電流密度を高くすると、鍍金膜が緻密に成長せず、負極活物質粒子の表面に沿って局所的に成長するため、下側領域SB中に占める金属材料の面積の割合が小さくなる。
こののち、負極を加熱(いわゆるアニール)するのが好ましい。金属材料の結晶化が進むため、その結晶性が高くなるからである。なお、アニール時の温度や時間などは、金属材料の結晶性などの条件に応じて任意に設定可能である。ただし、アニール温度が高すぎると、負極集電体1と負極活物質粒子との界面で合金化が過剰に進行する可能性がある点に注意すべきである。
特に、金属材料の形成方法として液相法を用いた場合についてアニールの必要性を説明しておくと、以下の通りである。すなわち、電解鍍金法を用いた場合には、アニールしなくても十分な結晶性が得られるが、アニールすれば結晶性がより高くなる。一方、無電解鍍金法を用いた場合には、アニールしなければ十分な結晶性が得られない可能性があるが、その場合にはアニールすれば十分な結晶性が得られる。
この負極およびその製造方法によれば、負極集電体1上にケイ素を有する負極活物質粒子を形成したのち、電極反応物質と合金化しない金属元素を有する金属材料を形成したので、負極活物質粒子間の隙間に金属材料が入り込む。これにより、負極活物質粒子同士が金属材料を介して結着されるため、負極活物質層2が粉砕および崩落しにくくなる。したがって、負極を用いた電気化学デバイスにおいてサイクル特性を向上させることができる。しかも、電気化学デバイスが動作時に膨らみにくくなるため、サイクル特性だけでなく膨れ特性も向上させることができる。
特に、金属材料が負極活物質粒子の露出面の少なくとも一部を被覆していれば、その露出面に生じるひげ状の微細な突起部による悪影響が抑制される。また、負極活物質粒子が粒子内に多層構造を有し、その粒子内の隙間に金属材料が入り込んでいれば、負極活物質粒子間の隙間に金属材料が入り込んでいる場合と同様に、負極活物質層2が粉砕および崩落しにくくなると共に、電気化学デバイスが膨らみにくくなる。したがって、サイクル特性および膨れ特性をより向上させることができる。
また、負極活物質粒子と金属材料とのモル比M2/M1が1/15以上7/1以下の範囲内であり、あるいは負極活物質層2の表面において金属材料が占める原子数の割合が2原子数%以上82原子数%以下の範囲内であれば、より高い効果を得ることができる。
また、負極活物質粒子がさらに酸素を有し、負極活物質中における酸素の含有量が3原子数%以上40原子数%以下の範囲内であり、あるいは負極活物質粒子がさらに鉄、コバルト、ニッケル、チタン、クロムおよびモリブデンからなる群のうちの少なくとも1種の金属元素を有し、または負極活物質粒子がその厚さ方向において酸素含有領域(さらに酸素を有し、酸素の含有量がそれ以外の領域よりも高い領域)を含んでおり、あるいは金属材料がさらに酸素を有し、金属材料中における酸素の含有量が1.5原子数%以上30原子数%以下の範囲内であれば、より高い効果を得ることができる。
また、負極活物質層2が、隣接する5つ以上の2次粒子205における1つ当たりの平均で10個以上の断裂粒子206を有していれば、負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が高くなると共に、負極活物質層2における各1次粒子204(負極活物質粒子)間の密着性も高くなる。これにより、負極活物質層2の膨張および収縮による応力が緩和されるため、その負極活物質層2が粉砕および崩落しにくくなる。したがって、サイクル特性をより向上させることができる。この場合には、負極活物質層2の厚さ方向の断面において、2次粒子205として、連続する10個のうち、厚さ方向よりもそれに垂直な方向の長さの方が長いものが個数比で50%以上存在すれば、より高い効果を得ることができる。
また、金属材料が結晶性を有していれば、負極全体の抵抗が低下し、電極反応物質が吸蔵および放出されやすくなり、負極にしわが発生しにくくなるため、より高い効果を得ることができる。この場合には、X線回折により得られる金属材料の(111)結晶面に起因するピークの半値幅2θが20°以下であれば、サイクル特性をより向上させることができる。
また、金属材料が液相法によって形成されていれば、負極活物質粒子間の隙間および負極活物質粒子内の隙間に金属材料が入り込みやすくなると共に、ひげ状の微細な突起部間の空隙に金属材料が埋め込まれやすくなり、しかも金属材料の結晶性が高まるため、より高い効果を得ることができる。この場合には、金属材料を形成したのちに負極をアニールすれば、その金属材料の結晶性が促進するため、さらに高い効果を得ることができる。
また、複数の負極活物質粒子が負極集電体1上に配列されている場合に、その複数の負極活物質粒子の配列方向に沿った負極活物質層2の断面において、図6に示した下側領域SB中に占める金属材料の面積の割合が60%以上、好ましくは70%以上であれば、サイクル特性をより向上させることができると共に、電極硬化やショートなどの不具合の発生を防止することができる。この場合には、負極活物質粒子と金属材料とのモル比M2/M1が1/100以上1/1以下、好ましくは1/50以上1/2以下の範囲内であれば、より高い効果を得ることができる。
さらに、負極活物質層2と対向する負極集電体1の表面が電解処理で形成された微粒子によって粗面化されていれば、負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性を高めることができる。この場合には、負極集電体1の表面の十点平均粗さRzが1.5μm以上6.5μm以下の範囲内であれば、より高い効果を得ることができる。
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を例に挙げると、負極は以下のようにして二次電池に用いられる。
<2−1.第1の二次電池:角型>
図7および図8は第1の二次電池の断面構成を表しており、図8では図7に示したVIII−VIII線に沿った断面を示している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極22の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、電池缶11の内部に、扁平な巻回構造を有する電池素子20が収納されたものである。
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材とは、図8に示したように、長手方向における断面が矩形型あるいは略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有するものであり、矩形状の角型電池だけでなくオーバル形状の角型電池も構成するものである。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状、あるいは円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型あるいは有底長円形状型の器状部材である。なお、図8では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。この電池缶11を含む電池構造は、いわゆる角型と呼ばれている。
この電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウム(Al)あるいはそれらの合金を含有する金属材料により構成されており、負極端子としての機能も有している。この場合には、充放電時に電池缶11の固さ(変形しにくさ)を利用して二次電池の膨れを抑えるために、アルミニウムよりも固い鉄が好ましい。電池缶11が鉄によって構成される場合には、例えば、ニッケル(Ni)などのめっきが施されていてもよい。
また、電池缶11は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、その開放端部に絶縁板12および電池蓋13が取り付けられることにより密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に、その電池素子20の巻回周面に対して垂直に配置されており、例えば、ポリプロピレンなどにより構成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されており、それと同様に負極端子としての機能も有している。
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどにより構成されている。また、電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して電池の内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されることにより内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aにより塞がれている。
電池素子20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層されたのちに巻回されたものであり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。正極21の端部(例えば内終端部)にはアルミニウムなどの金属材料により構成された正極リード24が取り付けられており、負極22の端部(例えば外終端部)にはニッケルなどの金属材料により構成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されることにより端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されることにより電気的に接続されている。
正極21は、例えば、帯状の正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。この正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。正極活物質層21Bは、正極活物質を含んでおり、必要に応じて結着剤や導電剤などを含んでいてもよい。
正極活物質は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この正極材料としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムあるいはそれらを含む固溶体(Li(Nix Coy Mnz )O2 ;x、yおよびzの値はそれぞれ0<x<1,0<y<1,0<z<1,x+y+z=1である。)や、スピネル構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn2 O4 )あるいはその固溶体(Li(Mn2ーv Niv )O4 ;vの値はv<2である。)などのリチウム複合酸化物が挙げられる。また、正極材料としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4 )などのオリビン構造を有するリン酸化合物も挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。なお、正極材料は、上記した他、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化鉄、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子であってもよい。
負極22は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、帯状の負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ上記した負極における負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などにより構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
このセパレータ23には、液状の電解質として電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上を含有している。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸メチルプロピルなどの炭酸エステル系溶媒が挙げられる。優れた容量特性、保存特性およびサイクル特性が得られるからである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、溶媒としては、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒とを混合したものが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
特に、溶媒は、ハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルやハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルなどのハロゲン化炭酸エステルを含有しているのが好ましい。負極22の表面に安定な被膜が形成されることにより電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。このハロゲン化炭酸エステルとしては、フッ素化炭酸エステルが好ましく、炭酸モノフルオロエチレンよりも炭酸ジフルオロエチレンがより好ましい。より高い効果が得られるからである。この炭酸モノフルオロエチレンとしては、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、炭酸ジフルオロエチレンとしては、例えば、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
また、溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。この不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
さらに、溶媒は、スルトンを含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上すると共に、二次電池の膨れが抑制されるからである。このスルトンとしては、例えば、1,3−プロペンスルトンなどが挙げられる。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩の1種あるいは2種以上を含んでいる。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )あるいは六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )などが挙げられる。優れた容量特性、保存特性およびサイクル特性が得られるからである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、電解質塩としては、六フッ化リン酸リチウムが好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
特に、電解質塩は、ホウ素およびフッ素を有する化合物を含んでいるのが好ましい。サイクル特性が向上すると共に、二次電池の膨れが抑制されるからである。このホウ素およびフッ素を有する化合物としては、例えば、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )などが挙げられる。
溶媒中における電解質塩の含有量は、例えば、0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下の範囲内である。優れた容量特性が得られるからである。
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
まず、正極21を作製する。すなわち、正極活物質と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などを用いて圧縮成型することにより、正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
また、上記した負極の作製手順と同様の手順によって負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成することにより、負極22を作製する。
次に、電池素子20を作製する。すなわち、溶接などによって正極集電体21Aおよび負極集電体22Aにそれぞれ正極リード24および負極リード25を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させたのち、長手方向において巻回させる。最後に、扁平な形状となるように成形することにより、電池素子20を形成する。
最後に、二次電池を組み立てる。すなわち、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置する。続いて、溶接などにより正極リード24および負極リード25をそれぞれ正極ピン15および電池缶11に接続させたのち、レーザ溶接などにより電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。これにより、図7および図8に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
この角型の二次電池によれば、負極22が上記した負極と同様の構成を有しているので、充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくくなると共に、充放電時に膨らみにくくなる。したがって、サイクル特性および膨れ特性を向上させることができる。この場合には、負極22が高容量化に有利なケイ素を含む場合にサイクル特性が向上するため、炭素材料などの他の負極材料を含む場合よりも高い効果を得ることができる。特に、負極活物質層22Bが金属材料を含む場合においても負極22の電極硬化が防止されるため、電池素子20を作製する際に、負極活物質層22Bの割れや崩落を抑制しながら負極22を巻回させることができる。この二次電池に関する上記外の効果は、上記した負極と同様である。
<2−2.第2の二次電池:円筒型>
図9および図10は第2の二次電池の断面構成を表しており、図10では図9に示した巻回電極体40の一部を拡大して示している。この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に、セパレータ43を介して正極41と負極42とが巻回された巻回電極体40と、一対の絶縁板32,33とが収納されたものである。この電池缶31を含む電池構造は、いわゆる円筒型と呼ばれている。
電池缶31は、例えば、上記した第1の二次電池における電池缶11と同様の金属材料により構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶31の開放端部には、電池蓋34と、その内側に設けられた安全弁機構35および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)36とがガスケット37を介してかしめられることにより取り付けられている。これにより、電池缶31の内部は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の材料により構成されている。安全弁機構35は、熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転することにより電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続が切断されるようになっている。熱感抵抗素子36は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体40の中心には、例えば、センターピン44が挿入されていてもよい。この巻回電極体40では、アルミニウムなどの金属材料により構成された正極リード45が正極41に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料により構成された負極リード46が負極42に接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接されることにより電池蓋34と電気的に接続されており、負極リード46は、電池缶31に溶接されることにより電気的に接続されている。
正極41は、例えば、帯状の正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bが設けられたものである。負極42は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、帯状の負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bが設けられたものである。正極集電体41A、正極活物質層41B、負極集電体42A、負極活物質層42Bおよびセパレータ43の構成、ならびに電解液の組成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成、ならびに電解液の組成と同様である。
この二次電池は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、正極41に正極リード45を取り付けると共に、負極42に負極リード46を取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを介して巻回させることにより巻回電極体40を形成し、正極リード45の先端部を安全弁機構35に溶接すると共に負極リード46の先端部を電池缶31に溶接したのち、巻回電極体40を一対の絶縁板32,33で挟みながら電池缶31の内部に収納する。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36をガスケット37を介してかしめることにより固定する。これにより、図9および図10に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極41からリチウムイオンが放出され、セパレータ43に含浸された電解液を介して負極42に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極42からリチウムイオンが放出され、セパレータ43に含浸された電解液を介して正極41に吸蔵される。
この円筒型の二次電池によれば、負極42が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性および膨れ特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
<2−3.第3の二次電池:ラミネートフィルム型>
図11は第3の二次電池の分解斜視構成を表しており、図12は図11に示したXII−XII線に沿った断面を拡大して示している。この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、フィルム状の外装部材60の内部に、正極リード51および負極リード52が取り付けられた巻回電極体50が収納されたものである。この外装部材60を含む電池構造は、いわゆるラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード51および負極リード52は、例えば、いずれも外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード51は、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されており、負極リード52は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
外装部材60は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材60は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体50と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤によって互いに接着された構造を有している。
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料により構成されている。この種の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
なお、外装部材60は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムにより構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されていてもよい。
電極巻回体50は、セパレータ55および電解質56を介して正極53と負極54とが積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ57により保護されている。
正極53は、例えば、一対の面を有する正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bが設けられたものである。負極54は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、帯状の負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bが設けられたものである。正極集電体53A、正極活物質層53B、負極集電体54A、負極活物質層54Bおよびセパレータ55の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
電解質56は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル電解質である。ゲル電解質は、高いイオン伝導率(例えば室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。この電解質56は、例えば、正極53とセパレータ55との間および負極54とセパレータ55との間に設けられている。
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、高分子化合物としては、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定化するからである。
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質56に代えて、電解液がそのまま用いられてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
このゲル状の電解質56を備えた二次電池は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを形成して負極54を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極53および負極54のそれぞれに塗布したのちに溶剤を揮発させることにより、ゲル状の電解質56を形成する。続いて、正極集電体53Aに正極リード51を取り付けると共に、負極集電体54Aに負極リード52を取り付ける。続いて、電解質56が形成された正極53および負極54をセパレータ55を介して積層させたのち、長手方向に巻回させると共に最外周部に保護テープ57を接着させることにより、巻回電極体50を形成する。続いて、例えば、外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込み、その外装部材60の外縁部同士を熱融着などで密着させることにより巻回電極体50を封入する。その際、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に、密着フィルム61を挿入する。これにより、図11および図12に示した二次電池が完成する。
なお、上記した二次電池は、以下のようにして製造されてもよい。まず、正極53および負極54にそれぞれ正極リード51および負極リード52を取り付けたのち、セパレータ55を介して正極53と負極54とを積層および巻回させると共に最外周部に保護テープ57を接着させることにより、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成する。続いて、外装部材60の間に巻回体を挟み込み、一辺の外周縁部を除く残りの外周縁部を熱融着などで密着させることにより、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材60の内部に注入したのち、外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質56を形成する。これにより、図11および図12に示した二次電池が完成する。
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極54が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性および膨れ特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
本発明の実施例について詳細に説明する。
(実験例1−1)
以下の手順により、図11および図12に示したラミネートフィルム型の二次電池を製造した。この際、負極54の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
まず、正極53を作製した。すなわち、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、リチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体53Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、正極活物質層53Bを形成した。こののち、正極集電体53Aの一端に、アルミニウム製の正極リード51を溶接して取り付けた。
次に、負極54を作製した。すなわち、電解銅箔からなる負極集電体54A(厚さ=18μm,十点平均粗さRz=3.5μm)を準備したのち、チャンバ内に連続的に酸素ガスおよび必要に応じて水蒸気を導入しながら、偏向式電子ビーム蒸着源を用いた電子ビーム蒸着法によって負極集電体54Aの両面に負極活物質としてケイ素を片面側の厚さが6μmとなるように堆積させることにより、負極活物質粒子を単層構造となるように形成した。この際、蒸着源として純度99%のケイ素を用い、堆積速度を10nm/秒とし、負極活物質粒子中における酸素含有量を3原子数%とした。続いて、鍍金浴にエアーを供給しながら電解鍍金法によって負極集電体54Aの両面にコバルトを堆積させて金属材料を形成することにより、負極活物質層54Bを形成した。この際、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のコバルト鍍金液を用い、電流密度を2A/dm2 〜5A/dm2 とし、鍍金速度を10nm/秒とした。また、金属材料中における酸素含有量を5原子数%とし、負極活物質粒子の単位面積当たりのモル数M1と金属材料の単位面積当たりのモル数M2との比(モル比)M2/M1を1/50とした。この際、金属材料の含有率については、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma:ICP)発光分析で測定した。完成した負極54について、FIBによって断面を露出させたのち、オージェ電子分光法(auger electron spectrometer :AES)によって局所元素分析を行ったところ、負極集電体54Aと負極活物質層54Bとの界面において両者の構成元素が拡散しあっており、すなわち合金化していることが確認された。こののち、負極集電体54Aの一端に、ニッケル製の負極リード52を溶接して取り付けた。
次に、正極53と、多孔性のポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた3層構造のポリマーセパレータ55(厚さ=23μm)と、負極54と、上記したポリマーセパレータ55とをこの順に積層し、長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ57で巻き終わり部分を固定することにより、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成した。続いて、外側から、ナイロン(厚さ=30μm)と、アルミニウム(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレン(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)からなる外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着することにより、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材60の開口部から電解液を注入してセパレータ55に含浸させることにより、巻回電極体50を形成した。
この電解液を調製する際には、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合した混合溶媒を用い、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を用いた。この際、混合溶媒の組成(EC:DEC)を重量比で50:50とし、電解質塩の濃度を1mol/kgとした。
最後に、真空雰囲気中において外装部材60の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。この二次電池については、負極54の充放電容量が正極53の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層53Bの厚さを調節することにより、充放電の途中で負極54にリチウム金属が析出しないようにした。
(実験例1−2〜1−15)
モル比M2/M1を1/50に代えて、1/30(実験例1−2)、1/20(実験例1−3)、1/15(実験例1−4)、1/10(実験例1−5)、1/5(実験例1−6)、1/2(実験例1−7)、1/1(実験例1−8)、2/1(実験例1−9)、3/1(実験例1−10)、4/1(実験例1−11)、5/1(実験例1−12)、6/1(実験例1−13)、7/1(実験例1−14)、あるいは8/1(実験例1−15)としたことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1)
金属材料を形成しなかったことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
これらの実験例1−1〜1−15および比較例1の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。この場合には、金属材料の量とサイクル特性との間の相関を調べるために、負極54の表面において金属材料が占める原子数の割合も調べた。
サイクル特性を調べる際には、以下の手順でサイクル試験を行うことにより、放電容量維持率を求めた。まず、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中において1サイクル充放電させたのち、再び充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中において99サイクル充放電させることにより、101サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(101サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、充電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに到達するまで充電したのち、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に到達するまで充電した。また、放電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで放電した。
膨れ特性を調べる際には、以下の手順で二次電池を充電させることにより、膨れ率を求めた。まず、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中において1サイクル充放電させたのち、2サイクル目の充電前の厚さを測定した。続いて、同雰囲気中において再び充電させたのち、2サイクル目の充電後の厚さを測定した。最後に、膨れ率(%)=[(充電後の厚さ−充電前の厚さ)/充電前の厚さ]×100を算出した。この際、充電条件としては、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
負極54の表面において金属材料が占める原子数の割合を調べる際には、その負極54の表面をEDXで元素分析することにより、金属材料の占有割合(原子数%)を測定した。
なお、サイクル特性および膨れ特性等を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例および比較例に関する同特性の評価についても同様である。
表1に示したように、電解鍍金法によって金属材料を形成した実験例1−1〜1−15では、モル比M2/M1の値に依存せず、金属材料を形成しなかった比較例1よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この結果は、負極活物質粒子の形成後に金属材料が形成されたため、負極活物質層54Bの結着性が向上したことを表している。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質層54Bがケイ素を有する複数の負極活物質粒子を含む場合に、電極反応物質と合金化しない金属元素を有する金属材料を併せて含むことにより、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例1−1〜1−15では、モル比M2/M1が大きくなるにしたがって、金属材料の占有割合が増加すると共に、放電容量維持率が増加したのちに減少し、膨れ率が低下する傾向を示した。この場合には、モル比M2/M1が1/15よりも小さくなると共に金属材料の占有割合が2原子数%(厳密には2.3原子数%)よりも少なくなると、放電容量維持率が極端に減少し、膨れ率が極端に増加した。また、モル比M2/M1が7/1よりも大きくなると共に金属材料の占有割合が82原子数%よりも多くなると、膨れ率は変化しなかったが、放電容量維持率が極端に減少した。このことから、サイクル特性および膨れ特性をより向上させるためには、モル比M2/M1が1/15以上7/1以下の範囲内であると共に、負極54の表面において金属材料が占める原子数の割合が2原子数%以上82原子数%以下の範囲内、好ましくは2.3原子数%以上82原子数%以下の範囲内であればよいことが確認された。
(実験例2−1〜2−8)
6回に渡って負極活物質を堆積して片面側の総厚が6μmとなるように積層させることにより、負極活物質粒子を6層構造となるように形成したことを除き、実験例1−4〜1−11と同様の手順を経た。この際、堆積速度を100nm/秒とした。
(実験例2−9〜2−12)
金属材料の形成材料としてコバルト鍍金液に代えて、鉄鍍金液(実験例2−9)、ニッケル鍍金液(実験例2−10)、亜鉛鍍金液(実験例2−11)、あるいは銅鍍金液(実験例2−12)を用いたことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。この際、電流密度として、鉄鍍金液を用いる場合には2A/dm2 〜5A/dm2 とし、ニッケル鍍金液を用いる場合には2A/dm2 〜10A/dm2 とし、亜鉛鍍金液を用いる場合には1A/dm2 〜3A/dm2 とし、銅鍍金液を用いる場合には2A/dm2 〜8A/dm2 とした。上記した一連の鍍金液は、いずれも日本高純度化学株式会社製である。
(実験例2−13〜2−16)
モル比M2/M1を1/2に代えて1/1としたことを除き、実験例2−9〜2−12と同様の手順を経た。
(比較例2)
金属材料を形成しなかったことを除き、実験例2−1〜2−8と同様の手順を経た。
これらの実験例2−1〜2−16および比較例2の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
表2に示したように、負極活物質粒子が6層構造である実験例2−1〜2−8においても、単層構造である実験例1−4〜1−11と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。また、金属材料の形成材料が異なる実験例2−9〜2−16においても、実験例2−4,2−5と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子の層数を変更した場合においてもサイクル特性が向上すると共に、コバルト、鉄、ニッケル、亜鉛および銅からなる群の中であれば金属材料の形成材料を変更した場合においてもサイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、モル比M2/M1が1/2である実験例2−4,2−9〜2−12では、金属材料の形成材料として銅、亜鉛、ニッケル、鉄およびコバルトの順に放電容量維持率が高くなった。この傾向は、モル比M2/M1が1/1である実験例2−5,2−13〜2−16においてもほぼ同様であった。このことから、サイクル特性をより向上させるためには、金属材料の形成材料としてコバルトを用いればよいことが確認された。
(実験例3−1〜3−4)
電解鍍金法に代えて、無電解鍍金法によって金属材料を形成したことを除き、実験例1−7〜1−10と同様の手順を経た。この際、鍍金液として日本高純度化学株式会社製の無電解コバルト鍍金液を用い、鍍金時間を60分とした。
これらの実験例3−1〜3−4の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表3に示した結果が得られた。なお、表3には、比較例2の結果も併せて示した。
表3に示したように、無電解鍍金法によって金属材料を形成した実験例3−1〜3−4においても、電解鍍金法によって金属材料を形成した実験例1−7〜1−10と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、金属材料の形成方法として無電解鍍金法を用いた場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例4−1〜4−5)
無電解鍍金法によって金属材料を形成して負極54を作製したのち、減圧雰囲気中で負極54をアニールしたことを除き、実験例3−2と同様の手順を経た。この際、圧力を10-2Pa以下とし、アニール時間を3時間とし、アニール温度を100℃(実験例4−1)、150℃(実験例4−2)、200℃(実験例4−3)、250℃(実験例4−4)、あるいは300℃(実験例4−5)とした。
これらの実験例4−1〜4−5の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表4に示した結果が得られた。なお、表4には、実験例3−2および比較例2の結果も併せて示した。
表4に示したように、負極54をアニールした実験例4−1〜4−5においても、実験例3−2と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、負極54をアニールした場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例4−1〜4−5では、実験例3−2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。しかも、この場合には、アニール温度が高くなるにしたがって、放電容量維持率が高くなると共に膨れ率が小さくなる傾向を示した。この結果は、負極54がアニールされたため、金属材料の結晶性が促進されたことを表している。これらのことから、負極54をアニールすることによってサイクル特性および膨れ特性がより向上すると共に、両特性をさらに向上させるためにはアニール温度を高くすればよいことが確認された。なお、ここでは、金属材料の形成方法として電解鍍金法を用いた場合に負極54をアニールした実験例を開示していないが、その電解鍍金法を用いた場合についても同様に、負極54をアニールしてサイクル特性および膨れ特性を調べたところ、やはり両特性が向上することが確認された。
(実験例5−1〜5−4)
電解鍍金法に代えて、負極活物質粒子の形成方法と同様の電子ビーム蒸着法を用いて金属材料を形成したことを除き、実験例1−7〜1−10と同様の手順を経た。この際、蒸着源として純度99.9%のコバルトを用い、堆積速度を5nm/秒とした。特に、金属材料を形成する際には、1層当たりの厚さが830nmとなるように負極活物質粒子を形成したのちに同一チャンバ内でコバルトを蒸着する工程を繰り返し、最上層が負極活物質粒子となるようにした。
これらの実験例5−1〜5−4の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表5に示した結果が得られた。なお、表5には、比較例2の結果も併せて示した。
表5に示したように、電子ビーム蒸着法によって金属材料を形成した実験例5−1〜5−4においても、電解鍍金法によって金属材料を形成した実験例1−7〜1−10と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、金属材料の形成方法として電子ビーム蒸着法を用いた場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例6−1)
無電解鍍金法によって金属材料を形成して負極54を作製したのち、減圧雰囲気中において300℃で負極54をアニールしたことを除き、実験例3−1と同様の手順を経た。この場合の圧力およびアニール時間は、実験例4−1〜4−5と同様である。
(実験例6−2)
電解鍍金法に代えて、RFマグネトロンスパッタ法を用いて金属材料を形成したことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。この際、純度99.9%のコバルトをターゲットとして用い、堆積速度を3nm/秒とした。
(実験例6−3)
電解鍍金法に代えて、CVD法を用いて金属材料を形成したことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。この際、原材料および励起ガスとしてそれぞれシラン(SiH4 )およびアルゴン(Ar)を用い、堆積速度および基板温度をそれぞれ1.5nm/秒および200℃とした。
これらの実験例6−1〜6−3の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表6に示した結果が得られた。なお、表6には、実験例2−4,3−1,5−1および比較例2の結果も併せて示した。
表6に示したように、負極54をアニールした実験例6−1では、実験例3−1と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この場合には、特に、負極54をアニールしなかった実験例3−1よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。また、スパッタ法あるいはCVD法によって金属材料を形成した実験例6−2,6−3においても、電解鍍金法等によって金属材料を形成した実験例2−4,3−1,5−1,6−1と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、金属材料の形成方法としてスパッタ法あるいはCVD法を用いた場合においてもサイクル特性および膨れ特性が向上すると共に、負極54をアニールすればより高い効果が得られることが確認された。
特に、実験例2−4,3−1,5−1,6−1〜6−3では、金属材料の形成方法として気相法(電子ビーム蒸着法,スパッタ法,CVD法)を用いた場合よりも液相法(電解鍍金法,無電解鍍金法)を用いた場合において膨れ率が小さくなる傾向を示した。この場合には、さらに、無電解鍍金法を用いた場合よりも電解鍍金法を用いた場合において膨れ率がより小さくなり、無電解鍍金法を用いた場合には、上記したように、アニールしない場合よりもアニールした場合において膨れ率がより小さくなった。また、実験例2−4,3−1,5−1,6−1〜6−3では、上記した一連の気相法を用いた場合よりも液相法(電解鍍金法)を用いた場合において放電容量維持率が高くなる傾向を示した。なお、液相法(無電解鍍金法)を用いた場合には、アニールしない場合には気相法を用いた場合よりも放電容量維持率が低くなったが、アニールした場合には気相法を用いた場合とほぼ同等の放電容量維持率が得られた。これらの結果は、気相法を用いて金属材料を形成した場合には、その金属材料が非晶質であるため、負極活物質層54Bの結着性向上による利点は得られるが、金属材料の結晶性向上による利点は得られないことを表している。これに対して、液相法を用いて金属材料を形成した場合には、その金属材料が結晶性を有するため、上記した結着性向上および結晶性向上の双方による利点が得られる。これらのことから、金属材料の形成方法として液相法を用いることによってサイクル特性および膨れ特性がより向上すると共に、両特性をさらに向上させるためには無電解鍍金法よりも電解鍍金法を用いればよいことが確認された。
(実験例7−1〜7−6)
X線回折により得られる金属材料の(111)結晶面に起因するピークの半値幅2θを変化させるためにアニール温度を変更したことを除き、実験例4−1〜4−5と同様の手順を経た。この際、アニール温度を70℃(実験例7−1)、80℃(実験例7−2)、90℃(実験例7−3)、125℃(実験例7−4)、175℃(実験例7−5)、あるいは225℃(実験例7−6)とした。
(実験例7−7)
半値幅2θを変化させるために、電解鍍金法によって金属材料を形成して負極54を作製したのち、その負極54をアニールしたことを除き、実験例2−5と同様の手順を経た。この際、アニール温度を200℃とし、その他の条件は実験例4−1〜4−5と同様にした。
これらの実験例7−1〜7−7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表7および図13に示した結果が得られた。なお、表7には、実験例2−5,3−2,4−1〜4−5の結果も併せて示した。
表7および図13に示したように、液相法(無電解鍍金法,電解鍍金法)を用いると共に必要に応じて負極54をアニールした実験例2−5,3−2,4−1〜4−5,7−1〜7−7では、金属材料が結晶性を有し、半値幅2θが0.1以上25以下の範囲内で変化した。この場合には、半値幅2θが小さくなるにしたがって、放電容量維持率が増加してほぼ一定となったのちに再び増加する傾向を示し、半値幅2θが20°以下になると、80%以上の高い放電容量維持率が得られた。これらのことから、本発明の二次電池では、金属材料が結晶性を有する場合に、X線回折により得られる金属材料の(111)結晶面に起因するピークの半値幅2θが20°以下であれば、サイクル特性がより向上することが確認された。
ここで、上記した一連の実験例および比較例を代表して、実験例2−4および比較例2の二次電池における負極54の断面をSEMで観察したところ、以下の図14〜図16に示した結果が得られた。
図14はサイクル試験前における負極54の断面構造を表すSEM写真であり、(A)は比較例2および(B)は実験例2−4の観察結果をそれぞれ示している。なお、図14(B)には、図6に示した下側領域SB等を示している。図14に示したように、比較例2および実験例2−4のいずれにおいても、粗面化された負極集電体54Aの表面に形成された負極活物質層54Bでは、その表面上に負極活物質粒子が6層構造となるように成長している様子が観察された。しかしながら、比較例2では、図14(A)に示したように、負極活物質粒子間および負極活物質粒子内に隙間が生じており、負極活物質層54Bが十分に結着されていなかったのに対して、実験例2−4では、図14(B)に示したように、上記した隙間に金属材料が充填されており、その金属材料によって負極活物質層54Bが十分に結着されていた。特に、実験例2−4では、負極活物質粒子の露出面の一部が金属材料によって被覆されていた。これらのことから、本発明の二次電池では、金属材料によって負極活物質層54Bの結着性が向上することが確認された。
図15は図14(B)に示した実験例2−4における負極54の断面をEDXで元素分布分析(いわゆる元素分布のマッピング)した結果である。図15では、(A)中に15Aで示したコントラストの淡い部分がケイ素の分布範囲を示し、(B)中に15Bで示したコントラストの淡い部分がコバルトの分布範囲を示している。図15に示したように、負極活物質粒子であるケイ素が存在していない範囲(図15(A)中の15Aで示した部分により囲まれたコントラストの濃い部分)は、金属材料であるコバルトが存在している範囲(図15(B)中の15Bで示したコントラストの淡い部分)と一致しており、その範囲は、負極活物質粒子間の隙間および負極活物質粒子内の隙間であった。特に、実験例2−4では、負極活物質粒子の露出面上にも金属材料が点在していた。これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子間の隙間および負極活物質粒子内の隙間に金属材料が入り込むと共に、負極活物質粒の露出面の一部を金属材料が被覆することが確認された。
図16はサイクル試験後における負極54の断面構造を表すSEM写真であり、(A)は比較例2および(B)は実験例2−4の観察結果をそれぞれ示している。図16に示したように、比較例2および実験例2−4のいずれにおいても、複数回の充放電過程を経て負極活物質層54Bが膨張および収縮して割れている様子が観察された。しかしながら、比較例2では、図16(A)に示したように、負極活物質層54Bが多数箇所で開裂することにより粉砕しており、その負極活物質層54Bが部分的に崩落しやすくなっていた。これに対して、実験例2−4では、図16(B)に示したように、負極活物質層54Bがほとんど開裂しておらず、その負極活物質層54Bが崩落しにくくなっていた。これらのことから、本発明の二次電池では、金属材料によって負極活物質層54Bの結着性が向上するため、その負極活物質層54Bが粉砕および崩落しにくくなることが確認された。
(実験例8−1〜8−6)
負極活物質粒子中における酸素の含有量を3原子数%に代えて、2原子数%(実験例8−1)、10原子数%(実験例8−2)、20原子数%(実験例8−3)、30原子数%(実験例8−4)、40原子数%(実験例8−5)、あるいは45原子数%(実験例8−6)としたことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
これらの実験例8−1〜8−6の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表8に示した結果が得られた。なお、表8には、実験例2−4および比較例2の結果も併せて示した。
表8に示したように、負極活物質粒子中における酸素の含有量が異なる実験例8−1〜8−6においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子中における酸素の含有量を変更した場合においてもサイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例2−4,8−1〜8−6では、酸素の含有量が多くなるにしたがって、放電容量維持率が増加したのちに減少する傾向を示した。この場合には、含有量が3原子数%よりも少なくなると、放電容量維持率が大幅に減少した。また、含有量が40原子数%よりも多くなると、十分な放電容量維持率が得られたが、電池容量が大幅に低下したため、実用的でなかった。このことから、サイクル特性をより向上させるためには、負極活物質粒子中における酸素の含有量が3原子数%以上40原子数%以下の範囲内であればよいことが確認された。
(実験例9−1〜9−6)
モル比M2/M1を1/2に代えて1/1としたことを除き、実験例8−1〜8−6と同様の手順を経た。
これらの実験例9−1〜9−6の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表9に示した結果が得られた。なお、表9には、実験例2−5および比較例2の結果も併せて示した。
表9に示したように、モル比M2/M1を変更した実験例2−5,9−1〜9−6においても、実験例2−4,8−1〜8−6と同様の結果が得られた。すなわち、実験例2−5,9−1〜9−6では、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この場合には、酸素の含有量が3原子数%以上40原子数%以下の範囲内において、より高い放電容量維持率が得られ、十分な電池容量も得られた。これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子中における酸素の含有量を変更した場合に、さらにモル比M2/M1を変更しても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例10−1〜10−6)
金属材料中における酸素の含有量を5原子数%に代えて、1原子数%(実験例10−1)、1.5原子数%(実験例10−2)、10原子数%(実験例10−3)、20原子数%(実験例10−4)、30原子数%(実験例10−5)、あるいは35原子数%(実験例10−6)としたことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
これらの実験例10−1〜10−6の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表10に示した結果が得られた。なお、表10には、実験例2−4および比較例2の結果も併せて示した。
表10に示したように、金属材料中における酸素の含有量が異なる実験例10−1〜10−6においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、金属材料中における酸素の含有量を変更した場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例2−4,10−1〜10−6では、酸素の含有量が多くなるにしたがって、放電容量維持率が増加したのちに減少する傾向を示した。この場合には、含有量が1.5原子数%よりも少なくなるか、あるいは30原子数%よりも多くなると、放電容量維持率が極端に減少した。このことから、サイクル特性をより向上させるためには、金属材料中における酸素含有量が3原子数%以上30原子数%以下の範囲内であればよいことが確認された。
(実験例11−1〜11−3)
純度99%のケイ素に代えて、ケイ素と金属元素とを含む混合物を蒸着源として用いることにより、それらを有する負極活物質粒子を片面側の厚さが6.5μmとなるように形成したことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。この際、金属元素として鉄を用い、負極活物質粒子の単位面積当たりのモル数M1と金属材料の単位面積当たりのモル数M2と負極活物質粒子に含有された金属元素の単位面積当たりのモル数M3との比(モル比)M2/M3/M1を1/0.1/2(実験例11−1)、1/0.2/2(実験例11−2)、あるいは1/0.4/2(実験例11−3)とした。この場合においても、負極54の充放電容量が正極53の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層53Bの厚さを調節することにより、充放電の途中で負極54にリチウム金属が析出しないようにした。
(実験例11−4〜11−7)
金属元素として鉄に代えて、コバルト(実験例11−4)、ニッケル(実験例11−5)、チタン(実験例11−6)、あるいはクロム(実験例11−7)を用いたことを除き、実験例11−2と同様の手順を経た。
(比較例11)
金属材料を形成しなかったことを除き、実験例11−4と同様の手順を経た。
これらの実験例11−1〜11−7および比較例11の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表11に示した結果が得られた。なお、表11には、実験例2−4および比較例2の結果も併せて示した。
表11に示したように、負極活物質粒子がケイ素と共に金属元素を有する実験例11−1〜11−7においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。もちろん、負極活物質粒子がケイ素と共にコバルトを有する実験例11−4では、比較例11よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子に金属元素を含有させた場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。なお、ここでは金属元素としてモリブデンを用いた場合について実験例を開示していないが、そのモリブデンを用いた場合についても同様にサイクル特性および膨れ特性を調べたところ、やはり両特性が向上することが確認された。
特に、実験例11−1〜11−7では、実験例2−4よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率がほぼ同程度に抑えられた。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子に金属元素を含有させることにより、膨れ特性が維持されたまま、サイクル特性がより向上することが確認された。
ここで、上記した一連の実験例および比較例を代表して、実験例2−5,5−2および比較例11の二次電池における負極54をX線回折(x-ray diffraction :XRD)により分析したところ、それぞれ図17〜図19に示した結果が得られた。図17〜図19の縦軸に示した強度は、負極集電体54Aである銅の(111)結晶面について規格化を行った値である。
電解鍍金法によって金属材料(コバルト)を形成した実験例2−5では、図17に示したように、負極集電体54Aである銅のピークP1と共に、金属材料であるコバルトのピークP2が見られた。電子ビーム蒸着法によって金属材料(コバルト)を形成した実験例5−2では、図18に示したように、銅のピークP1だけが見られ、コバルトのピークP2が見られなかった。負極活物質粒子(ケイ素およびコバルト)を共蒸着し、金属材料を形成しなかった比較例11では、図19に示したように、銅のピークP1だけが見られた。これらのXRDの分析結果と共に、放電容量維持率が比較例11および実験例5−2,2−5の順に高くなっていることから、以下のことが推測される。
すなわち、実験例2−5では、電解鍍金法によって形成された金属材料が結晶性を有するため、XRDの分析結果中にコバルトのピークP2が見られる。この場合には、負極活物質粒子同士が金属材料を介して十分に結着されると共に、その金属材料の抵抗が十分に低くなるため、放電容量維持率が実験例5−2および比較例11よりも高くなる。実験例5−2では、電子ビーム蒸着法によって形成された金属材料が非晶質であるため、XRDの分析結果中にピークP2が見られない。この場合には、金属材料の抵抗が実験例2−5と同程度までは低くならないものの、負極活物質粒子同士が金属材料を介して十分に結着されるため、放電容量維持率が実験例2−5よりは低くなるが比較例11よりは高くなる。比較例11では、金属材料が形成されていないため、当然ながら、XRDの分析結果中にピーク2が見られない。この場合には、金属材料による負極活物質粒子同士の結着性向上や抵抗の低下が得られないため、放電容量維持率が実験例2−5,5−2よりも低くなる。
これらのことから、金属材料の形成の有無がサイクル特性に寄与することが確認された。また、サイクル特性を向上させるためには、電子ビーム蒸着法などの気相法よりも電解鍍金法などの液相法を用いればよいことがXRDの分析結果から確認された。
(実験例12−1〜12−3)
チャンバ内に連続的に酸素ガス等を導入しながら負極活物質を堆積させることにより負極活物質粒子に酸素を含有させる代わりに、チャンバ内に断続的に酸素ガス等を導入しながら負極活物質を堆積させることにより、第1の酸素含有領域とそれよりも酸素含有量が高い第2の酸素含有領域とが交互に積層されるように負極活物質粒子を形成したことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。この際、第2の酸素含有領域中における酸素の含有量を3原子数%としたと共に、その数を2つ(実験例12−1)、4つ(実験例12−2)、あるいは6つ(実験例12−3)とした。
これらの実験例12−1〜12−3の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表12に示した結果が得られた。なお、表12には、実験例2−4および比較例2の結果も併せて示した。
表12に示したように、負極活物質粒子が第1および第2の酸素含有領域を有する実験例12−1〜12−3においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、第1および第2の酸素含有領域を有するように負極活物質粒子を構成した場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例12−1〜12−3では、実験例2−4よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。しかも、この場合には、第2の酸素含有領域の数が2つである実験例12−1、4つである実験例12−2、6つである実験例12−3の順に、放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなる傾向を示した。これらのことから、本発明の二次電池では、第1および第2の酸素含有領域を有するように負極活物質粒子を形成することによってサイクル特性および膨れ特性がより向上すると共に、両特性をさらに向上させるためには第2の酸素含有領域の数を増やせばよいことが確認された。
(実験例13−1〜13−3)
モル比M2/M1を1/2に代えて1/1としたことを除き、実験例12−1〜12−3と同様の手順を経た。
これらの実験例12−1〜12−3の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表13に示した結果が得られた。なお、表13には、実験例2−5および比較例2の結果も併せて示した。
表13に示したように、モル比を変更した実験例2−5,13−1〜13−3においても、実験例2−4,12−1〜12−3と同様の結果が得られた。すなわち、実験例2−5,13−1〜13−3では、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この場合には、第2の酸素含有領域の数が増えるにしたがって、放電容量維持率が高くなる傾向を示した。これらのことから、本発明の二次電池では、第1および第2の酸素含有領域を有するように負極活物質粒子を形成した場合に、モル比を変更しても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例14−1〜14−8)
負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを3.5μmに代えて、1μm(実験例14−1)、1.5μm(実験例14−2)、2.5μm(実験例14−3)、4.5μm(実験例14−4)、5μm(実験例14−5)、5.5μm(実験例14−6)、6.5μm(実験例14−7)、あるいは7μm(実験例14−8)としたことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
これらの実験例14−1〜14−8の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表14に示した結果が得られた。なお、表14には、実験例2−4および比較例2の結果も併せて示した。
表14に示したように、十点平均粗さRzが異なる実験例14−1〜14−8においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを変更した場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例2−4,14−1〜14−8では、十点平均粗さRzが大きくなるにしたがって、放電容量維持率が増加したのちに減少する傾向を示した。この場合には、十点平均粗さRzが1.5μmよりも小さくなるか、あるいは6.5μmよりも大きくなると、放電容量維持率が極端に減少した。このことから、サイクル特性をより向上させるためには、十点平均粗さRzが1.5μm以上6.5μm以下の範囲内であればよいことが確認された。
(実験例15−1〜15−7)
モル比M2/M1を1/2に代えて1/1としたことを除き、実験例14−1〜14−4,14−6〜14−8と同様の手順を経た。
これらの実験例15−1〜15−7の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表15に示した結果が得られた。なお、表15には、実験例2−5および比較例2の結果も併せて示した。
表15に示したように、モル比を変更した実験例2−5,15−1〜15−7においても、実験例2−4,14−1〜14−4,14−6〜14−8と同様の結果が得られた。すなわち、実験例2−5,15−1〜15−7では、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この場合には、十点平均粗さRzが1.5μm以上6.5μm以下の範囲内において、放電容量維持率がより高くなる傾向を示した。これらのことから、本発明の二次電池では、負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを変更した場合に、さらにモル比M2/M1を変更しても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例16−1)
電子ビーム蒸着法に代えて、RFマグネトロンスパッタ法を用いて負極活物粒子を片面側の厚さが6μmとなるように形成したことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。この際、純度99.99%のケイ素をターゲットとして用い、堆積速度を0.5nm/秒とした。この場合においても、負極54の充放電容量が正極53の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層53Bの厚さを調節することにより、充放電の途中で負極54にリチウム金属が析出しないようにした。
(実験例16−2)
電子ビーム蒸着法に代えて、CVD法を用いて負極活物質粒子を片面側の厚さが6μmとなるように形成したことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。この際、原材料および励起ガスとしてそれぞれシランおよびアルゴンを用い、堆積速度および基板温度をそれぞれ1.5nm/秒および200℃とした。この場合においても、実験例16−1と同様に、負極54の充放電容量と正極53の充放電容量とを調節し、充放電の途中で負極54にリチウム金属が析出しないようにした。
これらの実験例16−1,16−2の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表16に示した結果が得られた。
表16に示したように、負極活物質粒子の形成方法が異なる実験例16−1,16−2においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子の形成方法を変更した場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例2−4,16−1,16−2では、負極活物質粒子の形成方法がCVD法である実験例16−2、スパッタ法である実験例16−1、電子ビーム蒸着法である実験例2−4の順に、放電容量維持率が高くなる傾向を示した。このことから、サイクル特性をより向上させるためには、負極活物質粒子の形成方法として蒸着法を用いればよいことが確認された。
(実験例17−1,17−2)
モル比M2/M1を1/2に代えて1/1としたことを除き、実験例16−1,16−2と同様の手順を経た。
これらの実験例17−1,17−2の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表17に示した結果が得られた。なお、表17には、実験例2−5および比較例2の結果も併せて示した。
表17に示したように、モル比を変更した実験例2−5,17−1,17−2においても、実験例2−4,16−1,16−2と同様の結果が得られた。すなわち、実験例2−5,17−1,17−2では、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この場合には、負極活物質粒子の形成方法としてCVD法、スパッタ法および電子ビーム蒸着法の順に、放電容量維持率が高くなる傾向を示した。これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子の形成方法を変更した場合に、さらにモル比を変更しても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例18−1)
溶媒としてECに代えて、フッ素化炭酸エステル(炭酸モノフルオロエチレン)である4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を用いたことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
(実験例18−2)
溶媒としてフッ素化炭酸エステル(炭酸ジフルオロエチレン)である4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を加え、混合溶媒の組成(EC:DFEC:DEC)を重量比で25:5:70としたことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
(実験例18−3)
電解液に溶媒として不飽和結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC)を加えたことを除き、実験例18−1と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるVCの含有量を10重量%とした。
(実験例18−4)
電解液に溶媒として不飽和結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニルエチレン(VEC)を加えたことを除き、実験例18−1と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるVECの含有量を10重量%とした。
(実験例18−5)
電解液に溶媒としてスルトンである1,3−プロペンスルトン(PRS)を加えたことを除き、実験例18−1と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるPRSの濃度を1重量%とした。
(実験18−6)
電解液に電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )を加えたことを除き、実験例18−1と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるLiBF4 の濃度を0.1mol/kgとした。
これらの実験例18−1〜18−6の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表18に示した結果が得られた。なお、表18には、実験例2−4および比較例2の結果も併せて示した。
表18に示したように、溶媒の組成および電解質塩の種類が異なる実験例18−1〜18−6においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、溶媒の組成や電解質塩の種類を変更した場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例18−1,18−2では、実験例2−4よりも放電容量維持率が高くなった。しかも、この場合には、溶媒がDFECを含む実験例18−2においてFECを含む実験例18−1よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。これらのことから、サイクル特性をより向上させるためには、溶媒にフッ素化炭酸エステルを含有させればよいことが確認されたと共に、そのサイクル特性をさらに向上させるためには、フッ素化炭酸エステルとして炭酸モノフルオロエチレンよりも炭酸ジルフルオロエチレンを用いればよいことが確認された。
また、実験例18−3〜18−6では、実験例2−4よりも放電容量維持率が高くなった。しかも、この場合には、溶媒がVCあるいはVECを含む実験例18−3,18−4においてPRSあるいはLiBF4 を含む実験例18−5,18−6よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。このことから、サイクル特性をより向上させるためには、溶媒に不飽和結合を有する環状炭酸エステル、スルトン、あるいはホウ素およびフッ素を有する電解質塩を含有させればよいことが確認されたと共に、そのサイクル特性をさらに向上させるためには、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いればよいことが確認された。
なお、溶媒がPRSあるいはLiBF4 を含む実験例18−5,18−6では、それらを含まない実験例2−4と比較して、膨れ率が大幅に小さくなった。この場合には、LiBF4 を含む場合よりもPRSを含む場合において、膨れ率がより小さくなる傾向を示した。これらのことから、本発明の二次電池では、溶媒にスルトン等を含有させることにより膨れ特性が向上すると共に、スルトンを含有させればより高い効果が得られることが確認された。
(実験例19−1〜19−6)
モル比M2/M1を1/2に代えて1/1としたことを除き、実験例18−1〜18−6と同様の手順を経た。
これらの実験例19−1〜19−6の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表19に示した結果が得られた。なお、表19には、実験例2−5および比較例2の結果も併せて示した。
表19に示したように、モル比を変更した実験例2−5,19−1〜19−6においても、実験例2−4,18−1〜18−6と同様の結果が得られた。すなわち、実験例2−5,19−1〜19−6では、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この場合には、FEC等を含む場合において放電容量維持率がより高くなり、さらにFECよりもDFEC、あるいはPRS,LiBF4 よりもVC,VECを含む場合において放電容量維持率がより高くなる傾向を示した。また、PRSおよびLiBF4 を含む場合において膨れ率がより小さくなる傾向を示した。これらのことから、本発明の二次電池では、溶媒の組成および電解質塩の種類を変更した場合において、さらにモル比を変更しても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例20−1)
以下の手順により、ラミネートフィルム型の二次電池に代えて、図7および図8に示した角型の二次電池を製造したことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
まず、正極21および負極22を作製したのち、正極集電体21Aおよび負極集電体22Aにそれぞれアルミニウム製の正極リード24およびニッケル製の負極リード25を溶接した。続いて、正極21と、セパレータ23と、負極22とをこの順に積層し、長手方向において巻回させたのち、扁平状に成形することにより、電池素子20を作製した。続いて、アルミニウム製の電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置した。続いて、正極リード24および負極リード25をそれぞれ正極ピン15および電池缶11に溶接したのち、電池缶11の開放端部に電池蓋13をレーザ溶接して固定した。最後に、注入孔19を通じて電池缶11の内部に電解液を注入し、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐことにより、角型電池が完成した。この二次電池については、負極22の充放電容量が正極21の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層21Bの厚さを調節することにより、充放電の途中で負極22にリチウム金属が析出しないようにした。
(実験例20−2)
アルミニウム製の電池缶11に代えて、鉄製の電池缶11を用いたことを除き、実験例20−1と同様の手順を経た。
これらの実験例20−1,20−2の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表20に示した結果が得られた。なお、表20には、実験例2−4および比較例2の結果も併せて示した。
表20に示したように、電池構造が異なる実験例20−1,20−2においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、電池構造を変更した場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例20−1,20−2では、実験例2−4よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。しかも、この場合には、電池缶11が鉄製である実験例20−2においてアルミニウム製である実験例20−1よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。これらのことから、サイクル特性および膨れ特性をより向上させるためには、電池構造をラミネートフィルム型よりも角型とすればよいと共に、両特性をさらに向上させるためには、鉄製の電池缶11を用いればよいことが確認された。なお、ここでは具体的な実験例を挙げて説明しないが、外装部材が金属材料からなる角型の二次電池においてラミネートフィルム型の二次電池よりもサイクル特性および膨れ特性が向上したことから、外装部材が金属材料からなる円筒型の二次電池においても同様の結果が得られることは明らかである。
(実験例21−1,21−2)
モル比M2/M1を1/2に代えて1/1としたことを除き、実験例20−1,20−2と同様の手順を経た。
これらの実験例21−1,21−2の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表21に示した結果が得られた。なお、表21には、実験例2−5および比較例2の結果も併せて示した。
表21に示したように、モル比M2/M1を変更した実験例2−5,21−1,21−2においても、実験例2−4,20−1,20−2と同様の結果が得られた。すなわち、実験例2−5,21−1,21−2では、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この場合には、ラミネートフィルム型よりも角型において放電容量維持率が高くなると共に膨れ率が小さくなり、さらに角型ではアルミニウムよりも鉄において放電容量維持率が高くなると共に膨れ率が小さくなった。これらのことから、本発明の二次電池では、電池構造を変更した場合において、さらにモル比を変更しても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例22−1,22−2)
負極活物質粒子の堆積速度を100nm/秒に代えて、40nm/秒(実験例22−1)あるいは80nm/秒(実験例22−2)としたことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
(実験例22−3〜22−5)
負極活物質粒子の堆積速度を100nm/秒に代えて、15nm/秒(実験例22−3)、25nm/秒(実験例22−4)、あるいは40nm/秒(実験例22−5)としたと共に、負極活物質粒子を形成したのちに減圧雰囲気中において400℃で5時間に渡って熱処理したことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
(比較例22−1,22−2)
負極活物質粒子の堆積速度を100nm/秒に代えて、15nm/秒(比較例22−1)あるいは25nm/秒(比較例22−2)としたことを除き、実験例2−4と同様の手順を経た。
これらの実験例22−1〜22−5および比較例22−1,22−2の二次電池についてサイクル特性および膨れ率等を調べたところ、表22に示した結果が得られた。なお、表22には、実験例2−4および比較例2の結果も併せて示した。
この際、実験例2−4,22−1〜22−5および比較例22−1,22−2の二次電池については、以下の手順によって負極活物質粒子の粒子状態も調べた。まず、二次電池を10サイクル充放電させたのち、その二次電池を解体して放電状態の負極54を取り出した。続いて、炭酸ジメチルで負極54を洗浄したのち、その負極54の中央部の表面および断面をSIMで観察した。この際、FIBによって負極54の断面を露出させた。最後に、SIM写真から、隣接する5つの2次粒子205における1つ当たりの断裂粒子206の平均数、100μm×70μmの範囲内で100μmの長さの線を10μm間隔で8本引いた場合の1本当たりの2次粒子205の平均数、この2次粒子205に含まれる1つ当たりの1次粒子204の平均数、および連続する10個の2次粒子205のうちの厚さ方向長さT1よりもそれに垂直な方向の長さT2の方が長いものの比率をそれぞれ調べた。なお、図20および図21はサイクル試験後における負極54の表面のSEM写真であり、それぞれ比較例2および実験例2−4の観察結果を示している。図20および図21中の(B)は、(A)に示した像の一部を拡大している。
表22に示したように、負極活物質粒子の堆積速度および熱処理の有無が異なる実験例22−1〜22−5および比較例22−1,22−2においても、実験例2−4と同様に、比較例2よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。この場合には、断裂粒子206の平均数が10個以上であると共に、厚さ方向の長さT1よりもそれに垂直な方向の長さT2の方が長い2次粒子205の個数比が50%以上である実験例2−4,22−1〜22−5において、それらの条件を満たさない比較例22−1,22−2よりも放電容量維持率が高くなった。これらの実験例2−4,22−1〜22−5では、さらに、2次粒子205の平均数が5個以上11個以下の範囲内であり、1次粒子204の平均数が20個以上であった。なお、比較例22−1,22−2では、充放電後に負極活物質層54Bが粉砕して崩落したため、粒子状態を観察することができなかった。これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子の粒子状態として、断裂粒子206の平均数が10個以上であると共に、厚さ方向の長さT1よりもそれに垂直な方向の長さT2の方が長い2次粒子205の個数比が50%以上であることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
特に、熱処理をしなかった場合には、実験例2−4,22−1,22−2および比較例22−1,22−2の結果から明らかなように、負極活物質粒子の堆積速度が40nm/秒以上の場合において上記した粒子状態が得られた。一方、熱処理をした場合には、実験例22−3〜22−5の結果から明らかなように、負極活物質粒子の堆積速度に依存せずに上記した粒子状態が得られた。これらのことから、サイクル特性の向上に寄与する負極活物質粒子の粒子状態を得るためには、負極活物質粒子の形成後に熱処理をしない場合には堆積速度に依存せず、熱処理をする場合には堆積速度を40nm/秒以上とすればよいことが確認された。
(実験例23−1〜23−9)
電解鍍金法を用いて金属材料を形成する際に電流密度を変更し、図6に示した下側領域SB中に占める金属材料の面積の割合(下側領域中における金属材料の占有割合)を15%(実験例23−1)、50%(実験例23−2)、55%(実験例23−3)、60%(実験例23−4)、65%(実験例23−5)、70%(実験例23−6)、76%(実験例23−7)、81%(実験例23−8)、あるいは93%(実験例23−9)としたことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。この際、負極活物質粒子の単位面積当たりのモル数M1と金属材料の単位面積当たりのモル数M2との比(モル比)M2/M1を1/5とした。
(実験例23−10〜23−14)
金属材料の形成材料としてコバルト鍍金液に代えて、鉄鍍金液(実験例23−10)、ニッケル鍍金液(実験例23−11)、銅鍍金液(実験例23−12)、クロム鍍金液(実験例23−13)、あるいはチタン鍍金液(実験例23−14)を用いたことを除き、実験例23−7と同様の手順を経た。上記した一連の鍍金液は、いずれも日本高純度化学株式会社製である。
(比較例23)
金属材料を形成しなかったことを除き、実験例23−1〜23−9と同様の手順を経た。
これらの実験例23−1〜23−14および比較例23の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表23に示した結果が得られた。この場合には、負極活物質層54Bが金属材料を含む場合における負極54の硬さ(折り曲げやすさ)を調べるために、電極状態も調べた。
電極状態を調べる際には、完成した負極54を約90℃折り曲げ、その負極54の硬さを触感で評価した。この際、軟らかくて折り曲げやすかった場合を◎、やや硬くて折り曲げる際に若干の抵抗を感じた場合を○、硬くて折り曲げにくかった場合を△とした。なお、電極状態を調べる際の手順は、以降の一連の実験例および比較例に関する同特性の評価についても同様である。
表23に示したように、電解鍍金法によって金属材料を形成した実験例23−1〜23−14では、下側領域中における金属材料の占有割合の値に依存せず、金属材料を形成しなかった比較例23よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質層54Bがケイ素を有する複数の負極活物質粒子を含む場合に、電極反応物質と合金化しない金属元素を有する金属材料を併せて含むことにより、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。
特に、実験例23−1〜23−9では、下側領域中における金属材料の占有割合が大きくなるにしたがって、放電容量維持率が増加し、膨れ率が低下する傾向を示した。この場合には、金属材料の占有割合が60%よりも小さくなると、放電容量維持率が極端に減少すると共に膨れ率が極端に増加し、その傾向は、占有割合が70%以上になるとより顕著になった。なお、実験例23−1〜23−9では、負極54が極端に硬くなることはなく、比較例23とほぼ同様の良好な電極状態が得られた。これらのことから、サイクル特性および膨れ特性をより向上させるためには、下側領域中に占める金属材料の面積の割合が60%以上、好ましくは70%以上であればよいことが確認された。
また、金属材料の形成材料が異なる実験例23−10〜23−14においても、実験例23−7と同様に、比較例23よりも放電容量維持率が高くなると共に膨れ率が小さくなり、良好な電極状態も得られた。この場合には、コバルトを用いた実験例23−7において、鉄等を用いた実験例23−10等よりも放電容量維持率が高くなった。これらのことから、金属材料を変更した場合においてもサイクル特性および膨れ特性が向上すると共に、サイクル特性をより向上させるためには金属材料の形成材料としてコバルトを用いればよいことが確認された。
(実験例24−1〜24−7)
モル比M2/M1を1/5に代えて、1/200(実験例24−1)、1/100(実験例24−2)、1/50(実験例24−3)、1/20(実験例24−4)、1/2(実験例24−5)、1/1(実験例24−6)、あるいは2/1(実験例24−7)とし、そのモル比M2/M1を上記した各値とするために下側領域中における金属材料の占有割合を適正範囲内(60%以上)で調整したことを除き、実験例23−7と同様の手順を経た。
(実験例24−8)
下側領域中における金属材料の占有割合を上記した適正範囲外である21%としたことを除き、実験例24−6と同様の手順を経た。
これらの実験例24−1〜24−8の二次電池について電極状態、サイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表24に示した結果が得られた。なお、表24には、実験例23−7および比較例23の結果も併せて示した。
表24に示したように、実験例23−7,24−1〜24−8では、モル比M2/M1が大きくなるにしたがって、放電容量維持率が増加したのちに減少し、膨れ率が低下する傾向を示した。この場合には、モル比M2/M1が1/100以上1/1以下であると良好な放電容量維持率および膨れ率が得られ、それらの放電容量維持率および膨れ率は、モル比M2/M1が1/50以上1/2以下であるとより良好になった。なお、実験例24−1〜24−7では、負極54が極端に硬くなることはなく、比較例23とほぼ同様の良好な電極状態が得られた。これらのことから、サイクル特性および膨れ特性をより向上させるためには、モル比M2/M1が1/100以上1/1以下の範囲内、好ましくは1/50以上1/2以下の範囲内であればよいことが確認された。
なお、下側領域における金属材料の占有割合が上記した適正範囲外である実験例24−8では、比較例23よりも放電容量維持率が高くなると共に膨れ率が小さくなったが、負極54が硬くて折り曲げにくくなった。このことから、下側領域中に占める金属材料の面積の割合が電極状態に影響を及ぼし、その割合が上記した適正範囲内(60%以上)であれば良好な電極状態が得られることが確認された。
(実験例25−1,25−2)
電解鍍金法に代えて、電子ビーム蒸着法(実験例25−1)あるいはスパッタ法(実験例25−2)を用いて金属材料を形成したことを除き、実験例23−7と同様の手順を経た。電子ビーム蒸着法あるいはスパッタ法に関する詳細は、実験例5−1〜5−4あるいは実験例6−2と同様である。
(実験例25−3,25−4)
電子ビーム蒸着法に代えて、スパッタ法(実験例25−3)あるいはCVD法(実験例25−4)を用いて負極活物質粒子を片面側の厚さが6μmとなるように形成したことを除き、実験例23−7と同様の手順を経た。スパッタ法あるいはCVD法に関する詳細は、実験例16−1,16−2と同様である。
これらの実験例25−1〜25−4の二次電池について電極状態、サイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表25に示した結果が得られた。なお、表25には、実験例23−7および比較例23の結果も併せて示した。
表25に示したように、電子ビーム蒸着法あるいはスパッタ法によって金属材料を形成した実験例25−1,25−2においても、電解鍍金法によって金属材料を形成した実験例23−7と同様に、比較例23よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。特に、実験例23−7,25−1,25−2では、金属材料の形成方法として気相法(電子ビーム蒸着法,スパッタ法)を用いた場合よりも液相法(電解鍍金法)を用いた場合において放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなる傾向を示した。なお、実験例25−1,25−2では、負極54が極端に硬くなることはなく、比較例23とほぼ同様の良好な電極状態が得られた。これらのことから、金属材料の形成方法として電子ビーム蒸着法あるいはスパッタ法を用いた場合においてもサイクル特性および膨れ特性が向上すると共に、サイクル特性および膨れ特性をより向上させるためには金属材料の形成方法として液相法を用いればよいことが確認された。
また、スパッタ法あるいはCVD法によって負極活物質粒子を形成した実験例25−3,25−4においても、電子ビーム蒸着法によって金属材料を形成した実験例23−7と同様に、比較例23よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。特に、実験例23−7,25−3,25−4では、負極活物質粒子の形成方法としてスパッタ法あるいはCVD法を用いた場合よりも電子ビーム蒸着法を用いた場合において放電容量維持率が高くなる傾向を示した。また、実験例25−3,25−4では、負極54が極端に硬くなることはなく、比較例23とほぼ同様の良好な電極状態が得られた。これらのことから、負極活物質粒子の形成方法を変更した場合においてもサイクル特性および膨れ特性が向上すると共に、サイクル特性が向上すると共に、サイクル特性をより向上させるためには負極活物質粒子の形成方法として蒸着法を用いればよいことが確認された。
(実験例26−1〜26−5)
負極活物質粒子中における酸素の含有量を3原子数%に代えて、1原子数%(実験例26−1)、10原子数%(実験例26−2)、35原子数%(実験例26−3)、40原子数%(実験例26−4)、あるいは50原子数%(実験例26−5)としたことを除き、実験例23−7と同様の手順を経た。
これらの実験例26−1〜26−5の二次電池について電極状態、サイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表26に示した結果が得られた。なお、表26には、実験例23−7および比較例23の結果も併せて示した。
表26に示したように、負極活物質粒子中における酸素の含有量が異なる実験例26−1〜26−5においても、実験例23−7と同様に、比較例23よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。特に、実験例23−7,26−1〜26−5では、酸素の含有量が多くなるにしたがって、放電容量維持率が増加したのちに減少する傾向を示した。この場合には、含有量が3原子数%よりも少なくなるか、40原子数%よりも多くなると、放電容量維持率が大幅に減少した。また、含有量が40原子数%よりも多くなると、電池容量も大幅に低下した。なお、実験例26−1〜26−5では、負極54が極端に硬くなることはなく、比較例23とほぼ同様の良好な電極状態が得られた。これらのことから、負極活物質粒子中における酸素の含有量を変更した場合においてもサイクル特性および膨れ特性が向上すると共に、サイクル特性をより向上させるためには負極活物質粒子中における酸素の含有量が3原子数%以上40原子数%以下の範囲内であればよいことが確認された。
(実験例27−1〜27−5)
ケイ素と共に、鉄(実験例27−1)、コバルト(実験例27−2)、ニッケル(実験例27−3)、チタン(実験例27−4)、あるいはクロム(実験例27−5)を有する負極活物質粒子を片面側の厚さが6.5μmとなるように形成したことを除き、実験例23−7と同様の手順を経た。負極活物質粒子に鉄等を含有させる方法に関する詳細は、実験例11−1〜11−7と同様である。
これらの実験例27−1〜27−5の二次電池について電極状態、サイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表27に示した結果が得られた。なお、表27には、実験例23−7および比較例23の結果も併せて示した。
表27に示したように、負極活物質粒子がケイ素と共に金属元素を有する実験例27−1〜27−5においても、実験例23−7と同様に、比較例23よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。特に、実験例27−1〜27−5では、実験例23−7よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。なお、実験例27−1〜27−5では、負極54が極端に硬くなることはなく、比較例23とほぼ同様の良好な電極状態が得られた。これらのことから、負極活物質粒子に金属元素を含有させた場合においてもサイクル特性および膨れ特性が向上すると共に、負極活物質粒子に金属元素を含有させればサイクル特性および膨れ特性がより向上することが確認された。
(実験例28−1)
溶媒としてECに代えてFECを用いたことを除き、実験例23−7と同様の手順を経た。
(実験例28−2)
溶媒としてDFECを加え、混合溶媒の組成(EC:DFEC:DEC)を重量比で25:5:70としたことを除き、実験例23−7と同様の手順を経た。
(実験例28−3〜28−6)
電解液に溶媒としてVC(実験例28−3)、VEC(実験例28−4)、PRS(実験例28−5)、あるいはLiBF4 (実験例28−6)を加えたことを除き、実験例28−1と同様の手順を経た。この際、VC等の添加量を実験例18−3〜18−6と同様にした。
これらの実験例28−1〜28−6の二次電池について電極状態、サイクル特性および膨れ特性等を調べたところ、表28に示した結果が得られた。なお、表28には、実験例23−7および比較例23の結果も併せて示した。
表28に示したように、溶媒の組成および電解質塩の種類が異なる実験例28−1〜28−6においても、実験例23−7と同様に、比較例23よりも放電容量維持率が高くなり、膨れ率が小さくなった。特に、溶媒がFECあるいはDFECを含む実験例28−1,28−2では、実験例23−7よりも放電容量維持率が高くなり、DFECを含む場合において放電容量維持率がより高くなる傾向を示した。また、電解液がVC等を含む実験例28−3〜28−6では、実験例23−7よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。さらに、電解液がPRSあるいはLiBF4 を含む実験例28−5,28−6では、それらを含まない実験例23−7よりも膨れ率が小さくなる傾向を示した。なお、実験例28−1〜28−6では、負極54が極端に硬くなることはなく、比較例23とほぼ同様の良好な電極状態が得られた。これらのことから、溶媒の組成や電解質塩の種類を変更した場合においても、サイクル特性および膨れ特性が向上することが確認された。特に、サイクル特性をより向上させるためには、溶媒にフッ素化炭酸エステルあるいは不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有させたり、電解液にスルトン、あるいはホウ素およびフッ素を有する電解質塩を含有させればよいことが確認された。また、膨れ特性をより向上させるためには、電解液にスルトン、あるいはホウ素およびフッ素を有する電解質塩を含有させればよいことが確認された。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、負極がリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料を含む場合に、そのリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分とリチウムの析出および溶解に基づく容量成分とを含み、かつ、それらの容量成分の和により表される二次電池についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態または実施例では、電池構造が角型、円筒型およびラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の二次電池は、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1A族元素や、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などの2A族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。これらの場合においても、負極活物質として、上記した実施の形態で説明した負極材料を用いることが可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の負極および二次電池における負極活物質粒子の単位面積当たりのモル数と金属材料の単位面積当たりのモル数との比(モル比)について、実施例の結果から導き出された数値範囲を適正範囲として説明しているが、その説明は、モル比が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、モル比が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、上記したモル比に限らず、負極活物質層の表面において金属材料が占める原子数の割合、断裂粒子の平均数、負極活物質粒子中における酸素の含有量、金属材料中における酸素の含有量、負極集電体の表面の十点平均粗さRz、X線回折により得られる金属材料の(111)結晶面に起因するピークの半値幅2θ、および下側領域中に占める金属材料の面積の割合などの数値についても同様である。