以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、本発明を適用するエンジン(内燃機関)について説明する。
−エンジン−
図1は本発明を適用するエンジンの概略構成を示す図である。なお、図1にはエンジンの1気筒の構成のみを示している。
エンジン1は、車両に搭載されるポート噴射型多気筒ガソリンエンジンであって、その各気筒を構成するシリンダブロック1a内には上下方向に往復動するピストン1cが設けられている。ピストン1cはコネクティングロッド16を介してクランクシャフト15に連結されており、ピストン1cの往復運動がコネクティングロッド16によってクランクシャフト15の回転へと変換される。
クランクシャフト15にはシグナルロータ17が取り付けられている。シグナルロータ17の外周面には複数の突起(歯)17aが等角度ごとに設けられている。シグナルロータ17の側方近傍にはエンジン回転数センサ(クランクポジションセンサ)37が配置されている。エンジン回転数センサ37は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト15が回転する際にシグナルロータ17の突起17aに対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
エンジン1のシリンダブロック1aにはエンジン冷却水の水温を検出する水温センサ31が配置されている。また、シリンダブロック1aの上端にはシリンダヘッド1bが設けられており、このシリンダヘッド1bとピストン1cとの間に燃焼室1dが形成されている。エンジン1の燃焼室1dには点火プラグ3が配置されている。点火プラグ3の点火タイミングはイグナイタ4によって調整される。
エンジン1のシリンダブロック1aの下部には、潤滑油を貯留するオイルパン18が設けられている。このオイルパン18に貯留された潤滑油は、エンジン1の運転時に、異物を除去するオイルストレーナ20(図4参照)を介してオイルポンプ19によって汲み上げられて、ピストン1c、クランクシャフト15、コネクティングロッド16などに供給され、各部の潤滑・冷却等に使用される。そして、このようにして供給された潤滑油は、エンジン1の各部の潤滑・冷却等のために使用された後、オイルパン18に戻され、再びオイルポンプ19によって汲み上げられるまでオイルパン18内に貯留される。
また、この例においては、オイルパン18に貯留された潤滑油を、後述する可変バルブタイミング機構(以下、VVTという)100in,100exの作動油にも利用している。なお、オイルポンプ19は、エンジン1のクランクシャフト15の回転によって駆動される機械式ポンプである。
エンジン1の燃焼室1dには吸気通路11と排気通路12とが接続されている。吸気通路11の一部は吸気ポート11a及び吸気マニホールド11bによって形成されている。また、排気通路12の一部は排気ポート12a及び排気マニホールド12bによって形成されている。
エンジン1の吸気通路11には、エアクリーナ7、熱線式のエアフロメータ32、吸気温センサ33(エアフロメータ32に内蔵)、エンジン1の吸入空気量を調整するための電子制御式のスロットルバルブ5などが配置されている。スロットルバルブ5はスロットルモータ6によって駆動される。スロットルバルブ5の開度はスロットル開度センサ36によって検出される。
スロットルバルブ5のスロットル開度はECU(Electronic Control Unit)300によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ37によって検出されるエンジン回転数、及び、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ5のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ36を用いてスロットルバルブ5の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ5のスロットルモータ6をフィードバック制御している。
また、エンジン1の排気通路12には、排気ガス中の酸素濃度を検出するO2センサ34及び三元触媒8が配置されている。
吸気通路11と燃焼室1dとの間に吸気バルブ13が設けられており、この吸気バルブ13を開閉駆動することにより、吸気通路11と燃焼室1dとが連通または遮断される。また、排気通路12と燃焼室1dとの間に排気バルブ14が設けられており、この排気バルブ14を開閉駆動することにより、排気通路12と燃焼室1dとが連通または遮断される。これら吸気バルブ13及び排気バルブ14の開閉駆動は、クランクシャフト15の回転がタイミングチェーン等を介して伝達される吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22の各回転によって行われる。吸気カムシャフト21と排気カムシャフト22の各端部にはそれぞれ吸気側VVT100inと排気側VVT100exとが設けられている。これら吸気側VVT100in及び排気側VVT100exについては後述する。
また、吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22の近傍にはそれぞれカムポジションセンサ38,39が配置されている。各カムポジションセンサ38,39は、例えば電磁ピックアップであって、吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22に一体的に設けられたロータ外周面の1個の突起(図示せず)に対向するように配置されており、その各カムシャフト21,22が回転する際にパルス状の信号を出力する。
なお、吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22は、クランクシャフト15の1/2の回転速度で回転するので、クランクシャフト15が720°回転するごとに各カムポジションセンサ38,39が1つのパルス状の信号を発生する。
そして、吸気通路11には燃料噴射用のインジェクタ(燃料噴射弁)2が配置されている。インジェクタ2には燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、吸気通路11の吸気ポート11a内に燃料が噴射される。この噴射燃料は吸入空気と混合されて混合気となってエンジン1の燃焼室1dに導入される。燃焼室1dに導入された混合気(燃料+空気)は点火プラグ3にて点火されて燃焼・爆発する。この混合気の燃焼室1d内での燃焼・爆発によりピストン1cが往復運動してクランクシャフト15が回転する。以上のエンジン1の運転状態はECU300によって制御される。
−VVT−
次に、吸気側VVT100in及び排気側VVT100exについて図2〜図4を参照して説明する。
吸気側VVT100in及び排気側VVT100exは、略中空円盤状のハウジング101と、このハウジング101内に回転自在に収容されたベーンロータ104とを備えている。ベーンロータ104には複数(この例では4枚)のベーン105が一体形成されている。ベーンロータ104はセンタボルト106によって吸気カムシャフト21(または排気カムシャフト22)に固定されており、吸気カムシャフト21(または排気カムシャフト22)と一体となって回転する。
ハウジング101の前面側はフロントカバー107によって覆われている。これらハウジング101とフロントカバー107とはボルト108にてスプロケット109に固定されており、ハウジング101及びフロントカバー107はスプロケット109と一体となって回転する。スプロケット109は、タイミングチェーン110等を介してクランクシャフト15(図1参照)に連結される。
なお、図3に示すように、排気側VVT100exのフロントカバー107exには、ベーンロータ104(図2及び図4参照)を進角方向に向けて付勢するねじりコイルばね115(進角アシストスプリング)が設けられており、エンジン停止時に排気バルブ14のバルブタイミングが最進角位置となるようにベーンロータ104に進角方向へのトルクを付与している。
ハウジング101の内部には、ベーンロータ104のベーン105と同数の凸部102が形成されており、その各凸部102間に形成された凹部103内にベーンロータ104の各ベーン105が収容されている。各ベーン105の先端面は凹部103の内周面に摺動可能に接触している。ベーンロータ104は、作動油の圧力をベーン105で受けることによりハウジング101に対して相対回転する。この相対回転により、クランクシャフト15に対する吸気カムシャフト21(または排気カムシャフト22)の回転位相が変化する。
ハウジング101の各凹部103には、ベーンロータ104のベーン105によって区画された2つの空間が形成されている。これら2つの空間のうち、ベーン105に対してカムシャフト回転方向(図4の矢印の方向)の後側の空間が進角側油圧室111を構成しており、カムシャフト回転方向の前側の空間が遅角側油圧室112を構成している。
以上の構造のVVT100in,100exでは、進角側油圧室111内の油圧と遅角側油圧室112内の油圧によってベーンロータ104がハウジング101に対して相対回転する。すなわち、進角側油圧室111内の油圧を遅角側油圧室112内の油圧よりも高くすると、ベーンロータ104はハウジング101に対して吸気カムシャフト21(または排気カムシャフト22)の回転方向に相対回転する。このとき、吸気カムシャフト21(または排気カムシャフト22)の回転位相はクランクシャフト15の回転位相に対して進められる(進角)。これとは逆に、遅角側油圧室112内の油圧を進角側油圧室111の油圧よりも高くすると、ベーンロータ104はハウジング101に対して吸気カムシャフト21(または排気カムシャフト22)の回転方向と逆方向に相対回転され、吸気カムシャフト21(または排気カムシャフト22)の回転位相はクランクシャフト15の回転位相に対して遅らされる(遅角)。そして、このような回転位相の調整によって吸気バルブ13(または排気バルブ14)のバルブタイミング(開閉タイミング)を可変とすることができる。
ここで、この例においては、吸気側VVT100in及び排気側VVT100exの各ハウジング101内部に形成された凸部102,102(図2及び図4参照)に、ベーンロータ104のベーン105が当接することによってカムシャフト21,22の回転位相の最遅角位置と最進角位置とが規制される。つまり、ハウジング101の凸部102,102が、当該ハウジング101に対するベーンロータ104の相対回動範囲(可変バルブタイミング機構の可動範囲)の遅角側と進角側とを規制するためのストッパとして機能する。なお、このような吸気側VVT100in及び排気側VVT100exの各ベーンロータ104の回動範囲の遅角側と進角側とを規制するための機械的なストッパは他の部材で構成してもよい。
そして、エンジン停止時には、吸気側VVT100inのベーン105は最遅角位置にロックピン(図示せず)によって固定され、排気側VVT100exのベーン105は最進角位置にロックピン(図示せず)によって固定される。エンジン1が始動すると各ロックピンは油圧にて解除される。
次に、進角側油圧室111と遅角側油圧室112に供給する作動油の油圧を制御する油圧制御系の構成について図4を参照して説明する。
まず、吸気側VVT100in及び排気側VVT100exには、その各進角側油圧室111と遅角側油圧室112とに供給する作動油の油圧を制御するオイルコントロールバルブ(以下、OCVという)200in,200exが接続されている。
OCV200in,200exには、オイルポンプ19によってオイルパン18からオイルストレーナ20を介して汲み上げられた潤滑油(作動油)がオイル供給通路131を介して供給される。また、各OCV200in,200exには2つのオイル排出通路132,133が接続されている。OCV200in,200exは電磁駆動式の流量制御弁であり、ECU300(図6参照)によって制御される。
OCV200in,200exは、4ポート弁であって、ケーシング201の内部に往復移動可能に配設されたスプール202と、スプール202に弾性力を付勢する圧縮コイルばね203と、電磁ソレノイド204とを備えており、電磁ソレノイド204に電圧が印加されたときにスプール202が吸引されるようになっている。電磁ソレノイド204に印加する電圧は、ECU300(図6参照)によってデューティ制御される。電磁ソレノイド204が発生する吸引力は印加電圧のデューティ比に応じて変化する。この電磁ソレノイド204が発生する吸引力と圧縮コイルばね203の付勢力との釣り合いによってスプール202の位置が決定される。
そして、スプール202が移動することによって、進角側通路121及び遅角側通路122と、オイル供給通路131及びオイル排出通路132,133との連通量が変化し、進角側通路121及び遅角側通路122に対して供給される作動油の量、あるいは、これら進角側通路121及び遅角側通路122から排出される作動油の量が変化する。
例えば、吸気側のOCV200inは、電磁ソレノイド204に印加される電圧のデューティ比が大きいほど、進角側通路121に供給される作動油の供給量が多くなって吸気
カムシャフト21の回転位相が進角される。一方、デューティ比が小さいほど、遅角側通路122に供給される作動油の供給量が多くなって吸気カムシャフト21の回転位相が遅角される。このようにして進角側油圧室111及び遅角側油圧室112内の油圧を調整することにより、ベーンロータ104の回転位相(クランクシャフト15に対する吸気カムシャフト21の回転位相)を調整することができ、これによって吸気バルブ13のバルブタイミングを最遅角位置から最進角位置までの範囲で任意に調整することができる。
なお、排気側のOCV200exについても、吸気側のOCV200inと同様にデューティ制御され、排気バルブ14のバルブタイミングを最進角位置から最遅角位置までの範囲で任意に調整することができる。ただし、遅角と進角との関係が吸気側のOCV200inの場合とは逆になる。
以上の吸気側VVT100in及び排気側VVT100exの各作動(OCV200in,200exの制御)はECU300によって制御される。ECU300は、エンジン1の運転状態(例えばエンジン回転数Ne・負荷率KL・温度等)に基づいてマップ等を参照して、VVT100in,100exの作動を制御する。さらに、ECU300は、後述するように、エンジン回転数Ne及び負荷率KLに基づいてマップを参照して目標バルブオーバーラップ量を算出し、吸気バルブ13のバルブタイミング(以下、INバルブタイミングともいう)、及び、排気バルブ14のバルブタイミング(以下、EXバルブタイミングともいう)を制御する。なお、吸気バルブ13と排気バルブ14とのバルブオーバーラップを図5に示す。
−ECU−
ECU300は、図6に示すように、CPU301、ROM302、RAM303及びバックアップRAM304などを備えている。ROM302は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。
CPU301は、ROM302に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM303はCPU301での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM304はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
これらCPU301、ROM302、RAM303、及び、バックアップRAM304はバス307を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース305及び出力インターフェース306と接続されている。
入力インターフェース305には、水温センサ31、エアフロメータ32、吸気温センサ33、O2センサ34、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ35、スロットル開度センサ36、エンジン回転数センサ37、及び、カムポジションセンサ38,39などの各種センサが接続されており、これらの各センサからの信号がECU300に入力される。
出力インターフェース306には、インジェクタ2、点火プラグ3のイグナイタ4、スロットルバルブ5のスロットルモータ6、及び、OCV200in,200exなどが接続されている。
そして、ECU300は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、吸入空気量の制御、インジェクタ2の噴射時期制御、及び、点火プラグ3の点火時期制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。さらに、ECU300は、吸気側VVT100in及び排気側VVT100exの各作動(OCV200in,200exの制御)を制御して、INバルブタイミング及びEXバルブタイミングを可変に制御するバルブタイミング制御(下記の制限処理も含む)を実行する。
以上のECU300により実行されるプログラムによって本発明のエンジン(内燃機関)のバルブタイミング制御装置が実現される。
−バルブタイミング制御−
まず、この例のエンジン1では、吸気バルブ13のバルブタイミングを油圧にて制御しており、最遅角状態のときには、吸気側VVT100inのベーンロータ104のベーン105をハウジング101の凸部102(ストッパ)に油圧によって押しつけた状態としている。これに対し、吸気バルブ13のバルブタイミングが最遅角位置から進角された進角状態では、吸気側VVT100inの遅角側油圧室112と進角側油圧室111(図4参照)との油圧バランスにより目標とするバルブタイミングを確保している。このため、吸気バルブ13のバルブタイミングが最遅角位置に対して進角側にある状態(ストッパから離れた状態)で油圧に揺動(変動)等が生じるとバルブタイミング位置も揺動(変動)する。そして、このようなバルブタイミング位置の揺動が、ハウジング101の凸部102(ストッパ)の付近で発生すると、吸気側VVT100inのベーンロータ104のベーン105(可動部)がハウジング101の凸部102(ストッパ)に当たってしまい、音などが発生する場合がある。また、排気側についても、同様に、油圧等の揺動(変動)によるバルブタイミング位置の揺動(変動)がハウジング101の凸部102(ストッパ)の付近で発生した場合、排気側VVT100exのベーンロータ104のベーン105がハウジング101の凸部102(ストッパ)に当たる場合がある。
このような問題を解消するため、この例では、図12〜図27に示すように、吸気バルブ13のバルブタイミングの最遅角位置(ハウジング101の凸部102(ストッパ)で規制される最遅角位置)から進角値αまでの領域(可変バルブタイミング機構の可動範囲の限界値近傍の領域)をIN使用制限領域Dinとして、ハウジング101の凸部102(ストッパ)付近でのバルブタイミング制御を制限(禁止)して、吸気バルブ13の実バルブタイミングが、IN使用制限領域Din(制限領域下限値(初期値0)及び制限領域上限値(進角値α)は除く)に入らないようにすることで、ストッパ当たりを防止している。
また、排気側についても、排気バルブ14のバルブタイミングの最進角位置(ハウジング101の凸部102(ストッパ)で規制される最進角位置)から遅角値βまでの領域(可変バルブタイミング機構の可動範囲の限界値近傍の領域)をEX使用制限領域Dexとして、ハウジング101の凸部102(ストッパ)付近でのバルブタイミング制御を制限(禁止)して、排気バルブ14の実バルブタイミングがEX使用制限領域Dex(制限領域下限値(初期値0)及び制限領域上限値(遅角値β)は除く)に入らないようにすることで、ストッパ当たりを防止している。
なお、この例では、IN使用制限領域Dinの幅(初期値(0)〜進角値(上限値)α)とEX使用制限領域Dexの幅(初期値(0)〜遅角値(上限値)β)とを同じ値としているが、IN使用制限領域Dinの幅とEX使用制限領域Dexの幅とは異なる値としてもよい。
また、各使用制限領域Din,Dexの上限値α,βは、吸気側VVT100in及び排気側VVT100exを作動する油圧等が揺動(変動)してもストッパ当たりが生じないような値(進角値、遅角値)が設定されている。
次に、この例で実行するバルブタイミング制御(制限処理も含む)の一例について図7〜図9のフローチャートを参照して説明する。図7〜図9の処理ルーチンはECU300において所定周期(例えば数msec〜数十msec程度)毎に繰り返して実行される。
まず、図7のステップST101では、エンジン回転数センサ37の出力信号から得られるエンジン回転数Ne及び負荷率KLに基づいて図10のマップを参照して、吸気バルブ13の仮目標バルブタイミングInVT(以下、IN仮目標値ともいう)を算出する。また、エンジン回転数Ne及び負荷率KLに基づいて図11のマップを参照して目標バルブオーバーラップ量OL(以下、オーバーラップ目標値ともいう)を算出する。さらに、これら算出したIN仮目標値及びオーバーラップ目標値を用いて、排気バルブ14の仮目標バルブタイミング(以下、EX仮目標値ともいう)を、演算式[EX仮目標値=オーバーラップ目標値−IN仮目標値]から算出する。
図10のマップは、エンジン回転数Ne及び負荷率KLをパラメータとして、吸気バルブ13の目標バルブタイミングInVTを実験・計算等によって適合した値をマップ化したものであって、ECU300のROM302内に記憶されている。また、図11のマップについても、エンジン回転数Ne及び負荷率KLをパラメータとして、エンジン出力及び燃費などを考慮して、オーバーラップ目標値OLを実験・計算等によって適合した値をマップ化したものであって、ECU300のROM302内に記憶されている。ここで、負荷率KLは、エンジン1への最大吸入空気量に対する現在の運転状態における吸入空気量の割合であって、例えば、エアフロメータ32の出力信号から得られる吸入空気量とエンジン回転数センサ37の出力信号から得られるエンジン回転数Neとに基づいて算出される。
なお、IN仮目標値及びオーバーラップ目標値については、エンジン回転数Ne及び負荷率KLに加えて、エンジン1の冷却水温度などを考慮して算出するようにしてもよい。
次に、ステップST102において、ステップST101で算出したIN仮目標値がIN使用制限領域Din(図12等参照)内(下限値(初期値=0)<IN仮目標値<上限値(進角値α))であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合、ステップST103において[INOKフラグ]をOFFに設定してステップST105に進む。ステップST102の判定結果が否定判定である場合、ステップST104おいて[INOKフラグ]をONに設定してステップST105に進む。
ステップST105では、ステップST101で算出したEX仮目標値がEX使用制限領域Dex(図16等参照)内(下限値(初期値=0)<EX仮目標値<上限値(遅角値β))であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合、ステップST106において[EXOKフラグ]をOFFに設定してステップST108に進む。ステップST105の判定結果が否定判定である場合、ステップST107において[EXOKフラグ]をONに設定してステップST108に進む。
ステップST108では、前回領域(実際にバルブタイミング制御を実行した前回の領域)が通常使用領域であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合は、[通常領域フラグ]をONに設定し、[IN初期フラグ]をOFFに設定する(ステップST109、ST111)。ステップST108の判定結果が否定判定である場合は、[通常領域フラグ]をOFFに設定し、[IN初期フラグ]をOFFに設定する(ステップST110、ST111)。
次に、ステップST112において、IN前回領域が初期領域、つまり、前回のIN実バルブタイミング位置が最遅角位置(初期値)であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合は、[IN初期フラグ]をONに設定し、[EX初期フラグ]をOFFに設定する(ステップST113、ST114)。ステップST112の判定結果が否定判定である場合は[EX初期フラグ]をOFFに設定する処理(ステップST114)のみを実行する。
さらに、ステップST115において、EX前回領域が初期領域、つまり、排気バルブ14の前回の実バルブタイミング位置が最進角位置(初期値)であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合は[EX初期フラグ]をONに設定する(ステップST116)。ステップST115の判定結果が否定判定である場合はフラグ処理を行わずに図8のステップST201に進む。
以上の[INOKフラグ]、[EXOKフラグ]、[通常領域フラグ]、[IN初期フラグ]、及び、[EX初期フラグ]を総称して判定フラグという。
次に、図8のステップST201において、上記判定フラグのON/OFF判定結果に基づいて、[IN仮目標値が通常使用領域Dnor、かつ、EX仮目標値がEX使用制限領域Dex]であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(INOKフラグ:ONであり、EXOKフラグ:OFFである場合)はステップST202に進む。ステップST201の判定結果が否定判定である場合はステップST204に進む。
ステップST202では、上記判定フラグのON/OFFの判定結果に基づいて前回領域が通常使用領域であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(通常領域フラグ:ONである場合)は、ステップST101で求めたオーバーラップ目標値及びEX使用制限領域Dex(図12、図16等参照)の上限値(EX制限上限値;遅角値β)を用いて、IN実目標値(実際にINバルブタイミング制御を行うための目標値)を、演算式[IN実目標値=オーバーラップ目標値−EX制限上限値]にて算出する(ステップST203)。ステップST202の判定結果が否定判定である場合はステップST204に進む。
ステップST204では、ステップST101で算出したIN仮目標値がIN使用制限領域Dinであるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(INOKフラグ:OFFである場合)はステップST205に進む。ステップST204の判定結果が否定判定である場合はステップST208に進む。
ステップST205においては、上記判定フラグのON/OFF判定結果に基づいて前回領域(IN前回領域)が通常使用領域Dnorであるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(通常領域フラグ:ONである場合)は、ステップST206においてIN実目標値をIN使用制限領域Din(図12等参照)の上限値(IN制限上限値;進角値α)に制限してステップST211に進む。ステップST205の判定結果が否定判定である場合(前回領域が初期領域である場合)は、ステップST207においてIN実目標値を初期値(IN制限下限値=0)に制限してステップST211に進む。
一方、ステップST204の判定結果が否定判定である場合(INOKフラグ:ONである場合)は、ステップST208において、IN実目標値をIN制限上限値以上(IN実目標値≧制限上限値)に制限してステップST211に進む。
ステップST211では、上記判定フラグのON/OFF判定結果に基づいて、[EX仮目標値が通常使用領域Dnor、かつ、IN仮目標値がIN使用制限領域Din]であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(EXOKフラグ:ONであり、INOKフラグ:OFFである場合)はステップST212に進む。ステップST211の判定結果が否定判定である場合はステップST214に進む。
ステップST212では、上記判定フラグのON/OFFの判定結果に基づいて前回領域が通常使用領域であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(通常領域フラグ:ONである場合)は、ステップST101で算出したオーバーラップ目標値及びIN使用制限領域Din(図12等参照)の上限値(IN制限上限値;進角値α)を用いて、EX実目標値(実際にEXバルブタイミング制御を行うための目標値)を、演算式[EX実目標値=オーバーラップ目標値−IN制限上限値]にて算出する(ステップST213)。ステップST212の判定結果が否定判定である場合はステップST214に進む。
ステップST214では、ステップST101で算出したEX仮目標値がEX使用制限領域Dexであるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(EXOKフラグ:OFFである場合)はステップST215に進む。ステップST214の判定結果が否定判定である場合(EXOKフラグ:ONである場合)はステップST218に進む。
ステップST215においては、上記判定フラグのON/OFF判定結果に基づいて前回領域(EX前回領域)が通常使用領域Dnorであるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(通常領域フラグ:ONである場合)は、ステップST216においてEX実目標値をEX使用制限領域Dex(図16等参照)の上限値(EX制限上限値;遅角値β)に制限して図9のステップST301に進む。ステップST215の判定結果が否定判定である場合(前回領域が初期領域である場合)は、ステップST217においてIN実目標値を初期値(IN制限下限値=0)に制限して図9のステップST301に進む。
一方、ステップST214の判定結果が否定判定である場合(EXOKフラグ:ONである場合)は、ステップST218において、EX実目標値をEX制限上限値以上(EX実目標値≧制限上限値)に制限して図9のステップST301に進む。
図9のステップST301では、上記判定フラグのON/OFF判定結果に基づいて、[IN仮目標値がIN使用制限領域Din、かつ、EX仮目標値がEX使用制限領域Dex]であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(INOKフラグ:OFFであり、EXOKフラグ:OFFである場合)、つまり、IN仮目標値及びEX仮目標値がともに使用制限領域Din,Dexである場合はステップST302に進む。ステップST301の判定結果が否定判定である場合はステップST305に進む。
ステップST302では、上記判定フラグのON/OFFの判定結果に基づいて前回領域が通常使用領域であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(通常領域フラグ:ONである場合)は、ステップST303において、IN実目標値をIN使用制限領域Din(図24等参照)の上限値(IN制限上限値;進角値α)に制限するとともに、EX実目標値をEX使用制限領域Dex(図24等参照)の上限値(EX制限上限値;遅角値β)に制限する。
ステップST302の判定結果が否定判定である場合(前回領域が初期領域である場合)は、ステップST304においてIN実目標値を初期値(IN制限下限値=0)に制限するとともに、EX実目標値を初期値(EX制限下限値=0)に制限する。
一方、ステップST301が否定判定である場合は、ステップST305において、上記判定フラグのON/OFF判定結果に基づいて、[IN仮目標値が通常使用領域Dnor、かつ、EX仮目標値が通常使用領域Dnor]であるか否かを判定する。ステップST305の判定結果が肯定判定である場合(INOKフラグ:ONであり、EXOKフラグ:ONである場合)、つまり、IN仮目標値及びEX仮目標値がともに通常使用領域である場合はステップST306に進む。ステップST305の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
ステップST306では、ステップST101で算出したIN仮目標値及びEX仮目標値を用い、そのIN仮目標値をIN実目標値とするとともに、EX仮目標値をEX実目標値とする。つまり、バルブタイミング制御に制限を加えないでIN実バルブタイミング及びEX実バルブタイミングを制御する。
次に、図7〜図9に示すバルブタイミング制御の制限処理の具体的な例について図12〜図27を参照して説明する。
<制限処理例(1−1)>
図12に示すように、図7のステップST101で算出したIN仮目標値及びEX仮目標値のうち、片方のIN仮目標値が、通常使用領域Dnor(前回領域)からIN使用制限領域Dinに入った場合(図8のステップST201が否定判定であり、ステップST204及びST205が肯定判定である場合)、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの上限値(進角値α)に制限する。
そして、このようにIN仮目標値が通常使用領域DnorからIN使用制限領域Dinに入った場合、図8のステップST211及びステップST214がともに否定判定となるので、他方のEX実目標値についてはEX使用制限領域Dexの上限値(遅角値β)以上(EX実目標値≧制限上限値)に設定する。このとき、EX実目標値として、図7のステップST101で算出した計算値(EX仮目標値)をそのまま用いると、バルブタイミングの制御値(実バルブタイミング)が図12の破線丸印の値となってしまい、目標とするバルブオーバーラップ量(オーバーラップ目標値)を得ることができず、バルブオーバーラップ量が増加する側となってしまう。
こうした点を解消するため、この例では、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの上限値(進角値α)に制限した上で、そのIN実目標値及びオーバーラップ目標値を用いて目標オーバーラップを維持できるようにEX実目標値を再計算する。つまり、図12においてバルブタイミングの実目標値が同一オーバーラップライン上となるように、EX実目標値を再計算する(EX実目標値=オーバーラップ目標値−IN実目標値)。
このような処理によってIN実目標値及びEX実目標値を制限することにより、IN実バルブタイミング及びEX実バルブタイミングの双方が使用制限領域Din,Dexに入らないように制御することができる。これによってストッパ当たりを防止することができる。しかも、この例では、IN実目標値及びEX実目標値を制限しても、目標バルブオーバーラップを維持することができるので、ストッパ当たりを防止しながら、良好な機関燃焼状態及び燃費を維持することができる。
なお、INバルブタイミングとEXバルブタイミングとのバルブオーバーラップ量(図5参照)は、[オーバーラップ量=INバルブタイミング(進角値)+EXバルブタイミング(遅角値)]の関係があるので、図12に示すように、同一オーバーラップラインは破線で示すような1次直線となる。
<制限処理例(1−2)>
制限処理例(1−1)の変形例について図13を参照して説明する。
この例では、IN仮目標値が通常使用領域DnorからIN使用制限領域Dinに入った場合、そのIN仮目標値が、IN使用制限領域Dinの上限値αに近い値(図13に示すヒステリシスラインよりも上限値α側の値)である場合は、上記した制限処理例(1−1)と同様に、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの上限値αに制限し、EX実目標値については目標バルブオーバーラップを維持できるように再計算を行う。
一方、IN仮目標値が、IN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に近い値(図13に示すヒステリシスラインよりも下限値側の値)である場合は、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に制限する。この場合、EX実目標値については、図7のステップST101で算出した計算値(EX仮目標値)そのままの値としてもよいし(黒丸印)、バルブタイミングの実目標値が同一オーバーラップライン上となるようにEX実目標値を再計算してもよい(破線丸印)。なお、EX実目標値を、図7のステップST101で算出した計算値(EX仮目標値)そのままの値(黒丸印)としても、実目標値(実バルブタイミング)は、図13に示すようにバルブオーバーラップ量が減少する側の値となるので、エンジン1の燃焼状態の安定性を維持することができる。
<制限処理例(1−3)>
制限処理例(1−1)の他の変形例について図14を参照して説明する。
図14に示すように、IN仮目標値が、通常使用領域Dnor(前回領域)からIN使用制限領域Dinに入った場合に、EX仮目標値がEX使用制限領域Dexの上限値(遅角値β)に近い値である場合、目標とするバルブオーバーラップを維持しようとすると、EX実目標値がEX使用制限領域Dex内の値(破線丸印)になってしまう。これを避けるために、この例では、EX実目標値に対して[EX実目標値≧制限上限値]という制限を加える(図8のステップST218の処理)。このような処理によって、EX実バルブタイミングがEX使用制限領域Dexに入らないように制御することができる。
<制限処理例(1−4)>
上記した制限処理例(1−2)において、図15に示すように、EXバルブタイミングのEX使用制限領域Dexを上側(最遅角値近傍)にも設定する場合、上記した制限処理例(1−2)の処理(目標オーバーラップを維持する処理)を行うと、図15(a)に示すように、EX実目標値(EX実バルブタイミング)がEX使用制限領域Dexに入ってしまう。
これを解消するため、この例では、図15(b)に示すように、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に制限し、EX実目標値については、図7のステップST101で算出した計算値(EX仮目標値)そのままの値とする。このような処理によってIN実目標値及びEX実目標値を設定することにより、IN実バルブタイミング及びEX実バルブタイミングの双方が使用制限領域Din,Dexに入らないように制御することができる。
<制限処理例(2−1)>
図16に示すように、図7のステップST101で算出したIN仮目標値及びEX仮目標値のうち、片方のEX仮目標値が、通常使用領域Dnor(前回領域)からEX使用制限領域Dexに入った場合(図8のステップST211が否定判定であり、ステップST214及びST215が肯定判定である場合)、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの上限値(遅角値β)に制限する。
そして、このようにEX仮目標値が通常使用領域DnorからEX使用制限領域Dexに入った場合、図8のステップST201及びステップST204がともに否定判定となるので、他方のIN実目標値についてはIN使用制限領域Dinの上限値(進角値α)以上(IN実目標値≧制限上限値)に設定する。このとき、IN実目標値について、図7のステップST101で算出した計算値(IN仮目標値)をそのまま用いると、バルブタイミングの制御値(実バルブタイミング)が図16の破線丸印の値となってしまい、目標とするバルブオーバーラップ量(オーバーラップ目標値)を得ることができず、バルブオーバーラップ量が増加する側となってしまう。
こうした点を解消するため、この例では、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの上限値(遅角値β)に制限した上で、そのEX実目標値及びオーバーラップ目標値を用いて目標オーバーラップを維持できるようにIN実目標値を再計算する。つまり、図16においてバルブタイミングの実目標値が同一オーバーラップライン上となるように、IN実目標値を再計算する(IN実目標値=オーバーラップ目標値−EX実目標値)。
このような処理によってIN実目標値及びEX実目標値を制限することにより、IN実バルブタイミング及びEX実バルブタイミングの双方が使用制限領域Din,Dexに入らないように制御することができる。しかも、この例では、IN実目標値及びEX実目標値を制限しても、目標バルブオーバーラップを維持することができるので、ストッパ当たりを防止しながら、良好な機関燃焼状態及び燃費を維持することができる。
<制限処理例(2−2)>
制限処理例(2−1)の変形例について図17を参照して説明する。
この例では、EX仮目標値が通常使用領域DnorからEX使用制限領域Dexに入った場合、そのEX仮目標値が、EX使用制限領域Dexの上限値βに近い値(図17に示すヒステリシスラインよりも上限値β側の値)である場合は、上記した制限処理例(2−1)と同様に、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの上限値βに制限し、IN実目標値については目標バルブオーバーラップを維持できるように再計算を行う。
一方、EX仮目標値が、EX使用制限領域Dexの下限値(初期値=0)に近い値(図17に示すヒステリシスラインよりも下限値側の値)である場合は、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの下限値(初期値=0)に制限する。この場合、IN実目標値については、図7のステップST101で算出した計算値(IN仮目標値)そのままの値としてもよいし(黒丸印)、バルブタイミングの実目標値が同一オーバーラップライン上となるようにIN実目標値を再計算してもよい(破線丸印)。なお、IN実目標値を、図7のステップST101で算出した計算値(IN仮目標値)そのままの値(黒丸印)としても、実目標値(実バルブタイミング)は、図17に示すようにバルブオーバーラップ量が減少する側の値となるので、エンジン1の燃焼状態の安定性を維持することができる。
ここで、この制限処理例(2−2)において、INバルブタイミングのIN使用制限領域Dinを上側(最進角値近傍)にも設定する場合、上記した制限処理例(1−4)と同様な処理(INとEXとを逆にした処理)により、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの下限値(初期値=0)に制限し、IN実目標値については、図7のステップST101で算出した計算値(IN仮目標値)そのままの値を設定することによって、EX実バルブタイミング及びIN実バルブタイミングの双方が使用制限領域Dex,Dinに入らないように制御することができる。
<制限処理例(2−3)>
制限処理例(2−1)の他の変形例について図18を参照して説明する。
図18に示すように、EX仮目標値が、通常使用領域Dnor(前回領域)からEX使用制限領域Dexに入った場合に、IN仮目標値がIN使用制限領域Dinの上限値(進角値α)に近い値である場合、目標とするバルブオーバーラップを維持しようとすると、IN実目標値がIN使用制限領域Din内の値(破線丸印)になってしまう。これを避けるために、この例では、IN実目標値に対して[IN実目標値≧制限上限値]という制限を加える(図8のステップST208の処理)。このような処理によって、IN実バルブタイミングがIN使用制限領域Dinに入らないように制御することができる。
<制限処理例(3−1)>
図19に示すように、図7のステップST101で算出したIN仮目標値及びEX仮目標値のうち、片方のIN仮目標値が、初期領域(初期値=0;前回領域)からIN使用制限領域Dinに入った場合(図8のステップST201が否定判定、ステップST204が肯定判定、及び、ステップST205が否定判定である場合)、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に制限する。
そして、このようにIN仮目標値が初期領域からIN使用制限領域Dinに入った場合には、図8のステップST211及びステップST214がともに否定判定となるので、他方のEX実目標値についてはEX使用制限領域Dexの上限値(遅角値β)以上の値に設定する。図19の例の場合、EX実目標値を、図7のステップST101で算出した計算値(EX仮目標値)そのままの値としている。
このような処理によってIN実目標値及びEX実目標値を設定することにより、IN実バルブタイミング及びEX実バルブタイミングの双方が使用制限領域Din,Dexに入らないように制御することができる。これによってストッパ当たりを防止することができる。
なお、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に制限すると、吸気側VVT100inのベーン105がハウジング101の凸部102(ストッパ)に油圧にて押しつけられた状態となるので、吸気側VVT100inを作動する油圧等が揺動(変動)しても、ベーン105が動くことがなく、ストッパ当たりが発生することはない。
<制限処理例(3−2)>
制限処理例(3−1)の変形例について図20を参照して説明する。
この例では、IN仮目標値が初期領域(初期値=0;前回領域)からIN使用制限領域Dinに入った場合、そのIN仮目標値が、IN使用制限領域Dinの上限値αに近い値(図20に示すヒステリシスラインよりも上限値α側の値)である場合は、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの上限値αに制限し、EX実目標値については目標オーバーラップを維持できるように再計算する。つまり、図20においてバルブタイミングの実目標値が同一オーバーラップライン上となるようにEX実目標値を再計算する(EX実目標値=オーバーラップ目標値−IN実目標値)。
一方、IN仮目標値が、IN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に近い値(図20に示すヒステリシスラインよりも下限値側の値)である場合は、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に制限する。この場合、EX実目標値については、図7のステップST101で算出した計算値(EX仮目標値)そのままの値としてもよいし(黒丸印)、バルブタイミングの実目標値が同一オーバーラップライン上となるようにEX実目標値を再計算してもよい(破線丸印)。なお、EX実目標値を、図7のステップST101で算出した計算値(EX仮目標値)そのままの値(黒丸印)としても、実目標値(実バルブタイミング)は、図20に示すようにバルブオーバーラップ量が減少する側の値となるので、エンジン1の燃焼状態の安定性を維持することができる。
<制限処理例(3−3)>
例えば図21に示すように、前回制御によりIN実目標値(IN実バルブタイミング)がIN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に制限されている状態から、IN仮目標値が大きく変化した場合、今回のIN仮目標値がIN使用制限領域Dinの制限上限値以上となることがある。こうした状況になると、IN実目標値(IN実バルブタイミング)がIN使用制限領域Dinをスキップ(飛び越し)してしまう。そして、このような領域スキップが発生すると、バルブオーバーラップ量が急に増大してしまい、エンジン1の燃焼状態が悪化する場合がある。
こうした点を解消するため、この例では、前回のIN実目標値(IN実バルブタイミング)が初期値であり、次回のIN実目標値がIN使用制限領域Dinをスキップする状況となる場合(IN実バルブタイミングがIN使用制限領域Dinの下限値から上限値以上に遷移する場合)は、INバルブタイミングを徐々に変更する徐変処理(なまし処理)を行う。このような処理によって、エンジン1の燃焼状態の急激な変化を抑制することができ、燃焼状態を良好に維持することができる。
なお、EXバルブタイミングについても、EX実目標値がEX使用制限領域Dexをスキップする状況となる場合(EX実バルブタイミングがEX使用制限領域Dexの下限値から上限値以上に遷移する場合)は、EXバルブタイミングを徐々に変更する徐変処理(なまし処理)を行う。さらに、IN実目標値及びEX実目標値が使用制限領域Din,Dexをスキップする状況となる場合も同様に徐変処理(なまし処理)を行う。
<制限処理例(4−1)>
図22に示すように、図7のステップST101で算出したIN仮目標値及びEX仮目標値のうち、片方のEX仮目標値が、初期領域(初期値=0;前回領域)からEX使用制限領域Dexに入った場合(図8のステップST211が否定判定、ステップST214が肯定判定、及び、ステップST215が否定判定である場合)、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの下限値(初期値=0)に制限する。
そして、このように、EX仮目標値が初期領域からEX使用制限領域Dexに入った場合、図8のステップST201が肯定判定で、ステップST202及びステップST204がともに否定判定となるので、IN実目標値についてはIN使用制限領域Dinの上限値(進角値α)以上の値に設定する。図22の例の場合、IN実目標値を、図7のステップST101で算出した計算値(IN仮目標値)そのままの値とする。
このような処理によってIN実目標値及びEX実目標値を設定することにより、IN実バルブタイミング及びEX実バルブタイミングの双方が使用制限領域Din,Dexに入らないように制御することができる。これによってストッパ当たりを防止することができる。
なお、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの下限値(初期値=0)に制限すると、排気側VVT100exのベーン105がハウジング101の凸部102(ストッパ)に油圧にて押しつけられた状態となるので、排気側VVT100enを作動する油圧等が揺動(変動)しても、ベーン105が動くことがなく、ストッパ当たりが発生することはない。
<制限処理例(4−2)>
制限処理例(4−1)の変形例について図23を参照して説明する。
この例では、EX仮目標値が初期領域(初期値=0;前回領域)からEX使用制限領域Dexに入った場合、そのEX仮目標値が、EX使用制限領域Denの上限値βに近い値(図23に示すヒステリシスラインよりも上限値β側の値)である場合は、EX実目標値をEX使用制限領域Denの上限値βに制限し、IN実目標値については目標オーバーラップを維持できるように再計算する。つまり、図23においてバルブタイミングの実目標値が同一オーバーラップライン上となるようにIN実目標値を再計算する(IN実目標値=オーバーラップ目標値−EX実目標値)。
一方、EX仮目標値が、EX使用制限領域Dexの下限値(初期値=0)に近い値(図23に示すヒステリシスラインよりも下限値側の値)である場合は、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの下限値(初期値=0)に制限する。この場合、IN実目標値については、図7のステップST101で算出した計算値(IN仮目標値)そのままの値としてもよいし(黒丸印)、バルブタイミングの実目標値が同一オーバーラップライン上となるようにIN実目標値を再計算してもよい(破線丸印)。なお、IN実目標値を、図7のステップST101で算出した計算値(IN仮目標値)そのままの値(黒丸印)としても、実目標値(実バルブタイミング)は、図23に示すようにバルブオーバーラップ量が減少する側の値となるので、エンジン1の燃焼状態の安定性を維持することができる。
<制限処理例(5−1)>
図24に示すように、図7のステップST101で算出したIN仮目標値及びEX仮目標値の双方が、通常使用領域Dnor(前回領域)からIN使用制限領域Din及びEX使用制限領域Dexに入った場合(図9のステップST301及びステップST302が肯定判定である場合)、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの上限値(進角値α)に制限し、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの上限値(遅角値β)に制限する。
このような処理によってIN実目標値及びEX実目標値を制限することにより、IN実バルブタイミング及びEX実バルブタイミングの双方が使用制限領域Din,Dexに入らないように制御することができる。これによってストッパ当たりを防止することができる。
<制限処理例(5−2)>
制限処理例(5−1)の変形例について図25を参照して説明する。
この例では、IN仮目標値及びEX仮目標値の双方が、通常使用領域Dnor(前回領域)からIN使用制限領域Din及びEX使用制限領域Dexに入った場合、IN,EX仮目標値が使用制限領域Din,Dexの上限値α,βに近い値である場合(例えば図13、図17に示すヒステリシスラインを考慮して判定)、上記した制限処理例(5−1)と同様に、IN実目標値及びEX実目標値をそれぞれ使用制限領域Din,Dexの上限値(進角値α、遅角値β)に制限する。一方、IN,EX仮目標値が使用制限領域Din,Dexの下限値(初期値=0)に近い値である場合は、図25に示すように、IN実目標値及びEX実目標値をそれぞれ使用制限領域Din,Dexの下限値(初期値=0)に制限する。
<制限処理例(6−1)>
図26に示すように、図7のステップST101で算出したIN仮目標値及びEX仮目標値の双方が、初期領域(初期値=0;前回領域)からIN使用制限領域Din及びEX使用制限領域Dexに入った場合(図9のステップST301が肯定判定であり、ステップST302が否定判定である場合)、IN実目標値をIN使用制限領域Dinの下限値(初期値=0)に制限し、EX実目標値をEX使用制限領域Dexの下限値(初期値=0)に制限する。
このような処理によってIN実目標値及びEX実目標値を制限することにより、IN実バルブタイミング及びEX実バルブタイミングの双方が使用制限領域Din,Dexに入らないように制御することができる。これによってストッパ当たりを防止することができる。
<制限処理例(6−2)>
制限処理例(6−1)の変形例について図27を参照して説明する。
この例では、IN仮目標値及びEX仮目標値の双方が、初期領域(初期値=0;前回領域)からIN使用制限領域Din及びEX使用制限領域Dexに入った場合、IN,EX仮目標値が使用制限領域Din,Dexの下限値(初期値=0)に近い値である場合(例えば図13、図17に示すヒステリシスラインを考慮して判定)、上記した制限処理例(6−1)と同様に、IN実目標値及びEX実目標値をそれぞれ使用制限領域Din,Dexの下限値(初期値=0)に制限する。一方、IN,EX仮目標値が使用制限領域Din,Dexの上限値α,βに近い値である場合は、図27に示すように、IN実目標値及びEX実目標値をそれぞれ使用制限領域Din,Dexの上限値(進角値α、遅角値β)に制限する。
−他の実施形態−
以上の例において、IN使用制限領域Dinの上限値α(制限領域の範囲)、及び、EX使用制限領域Dexの上限値β(制限領域の範囲)は、一定の値(固定値)としてもよいし、それら上限値α、βを可変に設定するようにしてもよい。
例えば、吸気側VVT100in及び排気側VVT100exを作動する作動油が高油温である場合は、粘度低下によってオイル抜けが発生し、油圧変動が悪化する。一方、作動油が低油温である場合は、粘度上昇によって制御性悪化やクリアランス大によるオイル抜けが発生し、油圧変動が悪化する。これらのことを考慮して、例えば、油温に関連するエンジン冷却水温に基づいて図28に示すマップを参照して、使用制限領域Din,Dexの上限値α、βを可変に設定するようにしてもよい。また、作動油の油温を検出する油温センサが装備されている場合、その油温センサの出力信号から得られる油温に応じて使用制限領域Din,Dexの上限値α、βを可変に設定するようにしてもよい。
なお、IN使用制限領域Dinの上限値αとEX使用制限領域Dexの上限値βとは異なるマップを用いて可変に設定するようにしてもよい。
以上の例では、吸気バルブのバルブタイミング及び排気バルブのバルブタイミングの双方を油圧にて可変に制御するバルブタイミング制御装置に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、吸気バルブまたは排気バルブのいずれか一方の機関バルブの可変バルブタイミング機構の作動方式が油圧式であり、他方の機関バルブの可変バルブタイミング機構の作動方式が、電動式等の油圧以外の作動方式であるバルブタイミング装置にも適用可能である。
また、本発明は吸気バルブまたは排気バルブのいずれか一方の機関バルブに油圧式の可変バルブタイミング機構が設けられ、他方の機関バルブには可変バルブタイミング機構が設けられていないエンジンのバルブタイミング装置にも適用可能である。
以上の例では、ベーン式VVTを搭載したエンジンの制御について説明したが、これに替えて、例えばヘリカルスプライン式VVT等の他の方式のVVTを搭載したエンジンの制御にも本発明を適用することができる。
以上の例では、ポート噴射型ガソリンエンジンのバルブタイミング制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、筒内直噴型ガソリンエンジンの制御にも適用可能である。また、直列多気筒ガソリンエンジンのほか、V型多気筒ガソリンエンジンのバルブタイミング制御にも本発明を適用することができる。