以下、本発明を記録装置の一種であるインクジェット式複合型プリンタに具体化した一実施形態を図1〜図16を用いて説明する。
図1に示すように、インクジェット式複合型プリンタ(以下、単に「プリンタ11」という)は、一台で、スキャナ、プリンタ、コピーの3つの機能を備えるカラープリンタである。プリンタ11は、原稿の画像を読み取って画像データとして入力するスキャナ部12と、印刷データに基づく画像を所定の記録媒体(メディア)に印刷するプリンタ部13と、操作パネル14とを備えている。コピー機能は、スキャナ部12で読み取った画像データをプリンタ部13で印刷データに変換し、その印刷データに基づく画像をプリンタ部13で印刷することにより実現される。
スキャナ部12はプリンタ部13の上側に配置され、スキャナ部12の上部には、原稿を載置するための原稿台ガラス15と、該原稿台ガラス15を覆う原稿台カバー16とが設けられている。原稿台カバー16は、スキャナ部12に開閉可能に設けられている。
プリンタ11の下部には、プリンタ部13に給送すべき用紙P(記録媒体)を収容する給紙カセット17が取り外し可能な状態で挿着されている。給紙カセット17の上側には、プリンタ部13により印刷された用紙Pを排出するための排出部18が設けられている。排出部18には、排出された用紙Pが載置される3段伸縮式の排紙スタッカ20が設けられている。
プリンタ11の前面やや上段寄り位置に配置された操作パネル14は、ユーザが操作するための操作部21と、各種表示を行うための表示部22とを備えている。表示部22は、例えばカラー液晶ディスプレイから構成されている。表示部22には、メニュー画面や、各種モードにおける設定状態、動作状態を示す文字(テキスト)、印刷したい画像の選択や画面上での印刷画像の確認を行うための画像などが表示される。
操作部21には、ユーザが各種操作を行うための操作ボタンが設けられている。例えば、この操作ボタンとしては、電源を投入(ON)/遮断(OFF)するための電源スイッチ23(電源ボタン)や、印刷処理を開始するための印刷開始スイッチ24、コピー処理を開始するためのコピースイッチ25、キャンセルスイッチ26等の他、各種メニューを選択するための選択ボタン、モード選択ボタン等も設けられている。例えばレーベル印刷は、モード選択ボタンによりレーベル印刷モードを選択し、その設定画面で必要な設定項目(CDサイズ,画像の選択等)を選択した後、印刷開始スイッチ24を押すことで実行される。
また、プリンタ11の前面右側にはカードスロット27が設けられ、例えばデジタルカメラ等により撮影された画像を保存するメモリカードMCをカードスロット27に挿着することで、メモリカードMCの画像をパーソナルコンピュータ等のホスト装置を介さず印刷することが可能となっている。さらに、プリンタ11はUSBケーブルの端子を接続するためのUSBポート(図示せず)を備え、デジタルカメラからUSBケーブルを介して画像データを直接読み込んで印刷したり、ホスト装置のプリンタドライバからUSBケーブルを介して受信した印刷データに基づいて印刷したりすることも可能となっている。なお、プリンタ11の前部左右下側には、カバー13aに覆われた状態で複数個のインクカートリッジ28が、図示しないカートリッジホルダに接続された状態で収容されている。
次にプリンタ部の構成を説明する。図2はプリンタ部の斜視図である。
図2に示すように、プリンタ部13は、上側及び前側が開放された略四角箱状の本体フレーム29を備えている。本体フレーム29の同図における左右の側壁間には所定長さを有するガイド軸30が架設されており、キャリッジ31はこのガイド軸30に沿って主走査方向Xに往復移動可能に設けられている。キャリッジ31は、本体フレーム29の背板内面に取着された一対のプーリ32に巻き掛けられた無端状のタイミングベルト33に固定されており、図2における右側のプーリ32が駆動軸に取着されたキャリッジモータ(以下、「CRモータ34」という)が正逆転駆動されて、タイミングベルト33が正転・逆転することにより、キャリッジ31は主走査方向Xに往復移動するようになっている。
キャリッジ31の下部には、インクジェット式の記録ヘッド35が設けられており、この記録ヘッド35の下面は、液体としてのインクを噴射する複数列のノズルが開口するノズル形成面35a(図3、図4、図8参照)となっている。
本体フレーム29内の記録ヘッド35と対向する位置には、記録ヘッド35と用紙との間隔を規定するプラテン36が設けられている。また、記録ヘッド35はインク色毎の複数本のインク供給チューブが集束状態に配管されたフレキシブル配管板37を介して複数のインクカートリッジ28と接続され、例えば黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクが各インクカートリッジ28から記録ヘッド35へ個別に供給されるようになっている。なお、フレキシブル配管板37には記録ヘッド35を駆動させるための電気系配線も含まれている。また、キャリッジ31の背面側には、キャリッジ31の移動量に比例する数のパルスを出力するリニアエンコーダ38がガイド軸30に沿って延びるように設けられている。
また、本体フレーム29の図2における右側下部には、紙送りモータ(以下、「PFモータ39」という)が配設されている。PFモータ39の駆動により、プラテン36を搬送方向に挟んだその上流側と下流側にそれぞれ配置された搬送ローラ対40及び排出ローラ対41(図3参照)が回転駆動され、用紙Pが副走査方向Yに搬送される。なお、搬送ローラ対40は、PFモータ39の動力で回転駆動する搬送駆動ローラ40aと、搬送駆動ローラ40aに当接して連れ回りする従動ローラ40bとから構成される。
また、プリンタ11には、記録ヘッド35とプラテン36との間隔(プラテンギャップ)を調整可能に、キャリッジ31を上下方向に移動させるプラテンギャップ自動調整装置(以下、「APG装置42」と称す)が装備されている。ホスト装置から又は操作パネル14での設定情報から取得した紙種の情報に基づきその紙種に応じた適切なプラテンギャップが確保されるようにAPG装置42は駆動され、キャリッジ31が所定のペーパーギャップ(記録ヘッド35と用紙との間隔)が確保される高さに調整される構成となっている。
プリンタ11は、その後部に用紙Pの搬送経路が内部に形成された延出部29aを有し、給紙カセット17(図1参照)から給送された用紙Pは延出部29a内の搬送経路を通って、記録ヘッド35による印刷が可能なプラテン36上の位置へ搬送される。そして、キャリッジ31を主走査方向Xに往復動させながら記録ヘッド35のノズルから用紙Pにインクを吐出する印字動作と、用紙Pを副走査方向Yに所定の搬送量で搬送する送り動作とを交互に繰り返すことで、用紙Pに画像やテキスト等の印刷が施される。
本実施形態では、自動両面印刷を行うときには、用紙Pの表裏を自動で反転させる機能を持つ着脱式の反転ユニット43が、図2に示すように延出部29aの後部に装着されている。この反転ユニット43は、一方の面(表面)の印刷が終わった図1及び図2に示す状態の用紙Pを、搬送方向Yの上流側へ逆送りして表裏を反転させて再び給送する機能を備えている。なお、この反転ユニット43の詳細については後述する。
図2においてキャリッジ31の移動経路上の同図における右端位置は、記録が行われないときにキャリッジ31が待機するホーム位置(ホームポジション)となっている。ホーム位置に配置されたキャリッジ31の直下には、記録ヘッド35に対してノズルクリーニング等のメンテナンスを行うメンテナンス装置44が配設されている。
メンテナンス装置44は、記録ヘッド35のノズル内のインクが乾燥することを防止する蓋体として機能するキャップ45と、ノズル形成面35aを払拭するためのワイパ46と、キャリッジ31をホーム位置にロックするためのロック部材47と、これらの部材45〜47を同期して昇降させる昇降機構44aと、吸引ポンプ48とを備える。昇降機構44aによって、各部材45〜47は記録ヘッド35と干渉しない退避位置(最下降位置)と、上昇位置との間を昇降する。上昇位置では、キャップ45がノズルを囲む状態で記録ヘッド35のノズル形成面35aに当接するとともにワイパ46がノズル形成面35aを払拭可能な高さに配置され、さらにロック部材47がキャリッジ31の側面に設けられたロック用の凹部31aに係入されて、キャリッジ31をホーム位置にロックするようになっている。
キャップ45は、上記のノズル開口の乾燥を防ぐ目的の蓋体機能(キャッピング機能)の他、記録ヘッド35のノズル形成面35aをキャップしてそのキャップ内空間に吸引ポンプ48からの負圧を与えてノズルからインクを強制的に吸引排出させる液体吸引手段の一部としての機能も備えている。吸引ポンプ48は、例えばチューブポンプからなり、ノズルからキャップ45内へ吸引排出された廃インクはプラテン36の下側に配置された廃液タンク49に排出されるようになっている。
また、キャリッジ31のホーム位置近傍には、動力伝達切換装置50が設けられている。動力伝達切換装置50は、キャリッジ31がホーム位置近傍の切換位置に配置されることで接続から切断の状態に切り換えられ、搬送駆動ローラ40aの回転により接続先(切り換え先)を選択し、キャリッジ31が切換位置から退避することで、PFモータ39の動力伝達経路が、選択された接続先へ切り換えられるように構成されている。本実施形態では、PFモータ39は、APG装置42、メンテナンス装置44及び自動給送装置(以下、単に「給送装置52」という)(図3参照)及び等の共通の動力源となっている。そして、動力伝達切換装置50の切り換えにより、これらの装置42、44,52等のうち一つへの動力伝達経路が選択されるようになっている。なお、PFモータ39から搬送ローラ対40及び排出ローラ対41への動力伝達経路は動力伝達切換装置50の切換位置に関係なく常に接続されるようになっている。
次にプリンタ部13の詳細な構成を説明する。図3は、プリンタの内部構造の概略を示す側断面図である。プリンタ部13の前面13bの中央下部に多数枚の用紙Pを積畳状態で収容し得る給紙カセット17が着脱可能に装着されている。給紙カセット17内に収容された用紙Pは、給送装置52によって最上位のものから順番に1枚ずつ繰り出されて後述するU字状の湾曲反転経路53に向けて給送されるようになっている。
給送装置52は、給紙カセット17と、ピックアップローラ54と、ガイドローラ55と、分離手段56と、第1中間送りローラ57とを備えている。給紙カセット17には複数枚の用紙Pを積層状態でセット可能であり、図示しないエッジガイドによって収容された用紙Pが給送位置に位置決めされるようになっている。
ピックアップローラ54は、揺動軸58を中心に揺動する揺動部材59に設けられており、PFモータ39(図2)を動力源として、給紙カセット17にセットされた用紙Pの最上位のものと接して回転することにより、最上位の用紙Pを給紙カセット17から送り出す。
ピックアップローラ54の回転により送り出された用紙Pの先端が分離斜面60に摺接しつつ下流側に進むことで、次位以降の用紙Pとの予備的な分離が行われる。分離斜面60の下流側には自由回転可能なガイドローラ55が設けられ、このガイドローラ55の下流側には、分離ローラ61と駆動ローラ62とを備えて構成された分離手段56が設けられている。分離ローラ61は、その弾性材よりなる外周面が駆動ローラ62と圧接し、且つトルクリミッタ機構により、所定の回転抵抗が与えられた状態に設けられている。従って、次位以降の用紙Pが、分離ローラ61と駆動ローラ62との間で止められ、重送が防止されるようになっている。
分離手段56の下流側には、駆動ローラ63と、駆動ローラ63との間で用紙Pをニップして従動回転するアシストローラ64とからなる第1中間送りローラ57が設けられており、この第1中間送りローラ57により、用紙Pが更に下流側へと送られる。なお、第1中間送りローラ57の下流側には、用紙Pが湾曲反転経路53を通過する際の負荷を軽減する従動ローラ65が設けられている。
続いて給送装置52(従動ローラ65)の下流側には、駆動ローラ66と、駆動ローラ66との間で用紙Pをニップして従動回転するアシストローラ67とからなる第2中間送りローラ68が設けられており、この第2中間送りローラ68により、用紙Pが更に下流側へと送られる。第2中間送りローラ68の下流側には、搬送ローラ対40と、記録ヘッド35と、プラテン36と、排出ローラ対41とが設けられている。なお、本実施形態では、搬送ローラ対40、排出ローラ対41及び第2中間送りローラ68等により、搬送手段が構成される。
用紙Pは搬送駆動ローラ40aと従動ローラ40bにニップされてその先端が印刷開始位置に達するまで給送(頭出し)され、印刷開始後の紙送り動作時には下流側へ精密送りされる。
キャリッジ31は主走査方向(図3の紙面直交方向)に延びるガイド軸30にガイドされながら、CRモータ34(図2)によって主走査方向に往復動するように駆動される。なお、キャリッジ31はインクカートリッジを搭載しない所謂オフキャリッジタイプであり、インクカートリッジ28(図1)からフレキシブル配管板37のインク供給チューブ(図示せず)を介して記録ヘッド35へとインクが供給される。
記録ヘッド35と対向する位置にはプラテン36が設けられ、プラテン36によって、用紙Pと記録ヘッド35との間のギャップが規定されるようになっている。
プラテン36の搬送方向下流側にある排出ローラ対41は、駆動ローラ41aと、駆動ローラ41aに接して従動回転する従動ローラ41bとを備え、記録ヘッド35によって記録の施された用紙Pは、排出ローラ対41により、装置前方側に設けられた排紙スタッカ20(図1参照)へと排出される。なお、給送装置52を構成するピックアップローラ54、駆動ローラ62,63,66は、PFモータ39の動力により回転駆動される。以上説明した用紙Pの搬送経路(第1面にのみ記録を行う際の搬送経路)は、図3において破線及び矢印で示される。
湾曲反転経路53は、プリンタ部13の後部スペースを利用して設けられている。湾曲反転経路53は、その外側案内面53aを形成する上部ハウジング69及び搬送案内上70と、下方に位置する下部ハウジング71と、その内側案内面53bを形成する前述の経路構成部材72とにより構成されている。
<反転ユニット>
続いて反転ユニット43について説明する。反転ユニット43は、第2中間送りローラ68が用紙搬送方向として第2搬送方向(図4の左方向)を選択する際に、第2中間送りローラ68の下流側に位置している。
この反転ユニット43は回転軸80aを中心に回転駆動される大径の反転ローラ80と、この反転ローラ80との間で用紙Pをニップして従動回転するアシストローラ81、82と、揺動軸83aを中心に揺動することにより用紙搬送経路を切り換える経路切換部材83と、同じく揺動軸84aを中心に揺動することにより用紙搬送経路を切り換える経路切換部材84と、を備えている。
給紙カセット17から送り出されて第1面(表面)に記録の行われた用紙Pは、第2中間送りローラ68、搬送ローラ対40、排出ローラ対41、のこれらによる用紙逆送り動作によって、第1面に記録が実行された際に用紙後端となっていた側が先端となって、反転ローラ80とアシストローラ82との間に誘い込まれる。なお、このとき経路切換部材83、84は自重によって下方に下がった状態にあり(但し、経路切換部材83は図4、経路切換部材84は図3の状態)、用紙先端が斜め下方の経路に入り込まないよう用紙先端を反転ローラ80とアシストローラ82との間に向けて案内する。
反転ローラ80は、PFモータ39(図2)を動力源とするが、後述する回転方向維持装置90により一定の回転方向(図3、4の反時計回り方向)が維持されるよう構成されている。反転ローラ80とアシストローラ82との間に誘い込まれた用紙Pは、反転ローラ80とアシストローラ81との間を通って、第2面(裏面)が記録面側となる向きに反転された状態で、再び第2中間送りローラ68に到達し、記録ヘッド35側へと導かれ、以降同様に記録が実行される。なお、以上説明した用紙Pの両面に記録を行う際に用紙Pを反転させる用紙搬送経路は、図4において破線矢印で示される。
なお、搬送ローラ対40の上流側近傍には、用紙Pを検出する紙検出センサ87が設けられている。紙検出センサ87は、給送される用紙Pの先端あるいは搬送される用紙Pの後端の通過を検出する。本実施形態では、紙検出センサ87は例えば光学センサにより構成されている。もちろん、紙検出センサ87を接触式センサとしてもよい。
また、紙幅センサ88は、光学式のセンサであり、キャリッジ31における記録ヘッド35と隣接する位置に設けられている。そして、キャリッジ31が主走査方向Xへ移動するとき、紙幅センサ88から出射した光の反射光を受光し、その反射率の高低によって用紙Pの有無および端部を検出するように構成されている。これら紙検出センサ87及び紙幅センサ88は、制御装置150へ検出状態を知らせる信号を送信するように設けられている。なお、キャリッジ31の移動方向(主走査方向X)においてホーム位置側を「1桁側」と呼び、反ホーム位置側を「80桁側」と呼ぶ場合がある。
なお、湾曲反転経路53を構成する経路構成部材72の内部空間74には、経路構成部材72と一体化された支持部材73の上面にトレイ75が支持された状態で前後方向(図3、図4における左右方向)に移動可能に設けられている。トレイ75は、同図の格納位置から、PFモータ39により回転するピニオン76とラック75aとの噛合を介してその先端部が搬送ローラ対40にニップされるまでの範囲で搬送され、それより先(搬送方向下流側)は搬送ローラ対40及び排出ローラ対41によりニップされた状態で搬送されて、排出部18(図1参照)から出退可能に構成されている。トレイ75には、CD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RWあるいは次世代の光ディスクとして注目されているブルーレイディスク等の光ディスクをセットしてそのレーベル面に印刷するときに用いられる。
搬送駆動ローラ40a、駆動ローラ41a、駆動ローラ66(第2中間送りローラ68)、のこれら用紙搬送経路に設けられるローラは、PFモータ39と一対一に連結されており、PFモータ39の回転方向切り換え(正転/逆転)に伴い、その回転方向を切り換える。すなわちPFモータ39の正転時には、上記各ローラは用紙Pを図3及び図4の右方向に搬送し、逆転時には、用紙Pを同図左方向に搬送する。
<反転ユニットの回転方向維持装置)
しかし反転ローラ80(反転ユニット43)へは、回転方向維持装置90(図5に示す)を介してPFモータ39の動力が伝達され、これにより反転ローラ80は、PFモータ39の回転方向の切り換えに関わらず、常に用紙Pを下流側に搬送する回転方向(図3及び図4において反時計方向)に回転するように構成されている。
図5(a),(b)は回転方向維持装置90の構成を示す。プリンタ部13の装置本体側には伝達歯車79が設けられており、プリンタ部13の装置本体に対して着脱自在な反転ユニット43が装着されると、伝達歯車79が、反転ユニット43側の入力歯車91と噛合するようになっている。そしてこの入力歯車91と同軸上に設けられた歯車92が歯車93と噛合され、さらにこの歯車93が太陽歯車94と噛合されている。
ここで、太陽歯車94の回転軸94aを中心に揺動可能なレバー部材95に軸支される遊星歯車96は、太陽歯車94の周囲を遊星運動するように構成されており、PFモータ39の正転時(図5(a))には、遊星歯車96は歯車97を介して歯車98と間接的に噛合し、これにより反転ローラ80の回転軸80aが同図反時計回り方向に回転する。
一方、PFモータ39の逆転時(図5(b))には、遊星歯車96が歯車98と直接噛合し、これにより図5(a)に示すPFモータ39の正転時と同様に、反転ローラ80の回転軸80aが同図反時計方向に回転する。以上のような遊星歯車機構を備えた回転方向維持装置90により、反転ローラ80は、PFモータ39の回転方向切り換えに関わらず常に用紙Pを下流側に搬送する回転方向に回転する。
<動力伝達切換装置>
次に動力伝達切換装置50の構成について説明する。まず、図6を参照しながら動力伝達切換装置50の構成について概説する。図6に示すように、プリンタ11は動力源としてPFモータ39とCRモータ34を備え、これら2つのモータは、制御装置150により制御される。PFモータ39は、駆動ローラ40a,41a,54,62,63,66の共通の動力源であるとともに、動力伝達切換装置50を介してその動力伝達先を切り換えることで、給送装置52、APG装置42、メンテナンス装置44、機構A99及び機構B100など、プリンタ11において動力を必要とする種々の被駆動部を駆動する。但し、駆動ローラ40a,41a,66などの用紙搬送経路に設けられるローラは、動力伝達切換装置50を介さずにPFモータ39と一対一で動力伝達可能に連結されており、PFモータ39が回転駆動すると、それに応じて常に回転するようになっている。なお、図6において機構B100は、例えばインクカートリッジ28のインクを記録ヘッド35に加圧供給するインク供給ポンプの被駆動部を示す。本実施形態では、動力伝達切換装置50の動力伝達先の切り換え数を5つとしているが、複数であればよく例えば6つ以上としてもよい。
図6に示すように、搬送駆動ローラ40aには一体回転可能な駆動歯車102が設けられている。動力伝達切換装置50は、搬送駆動ローラ40aを動力軸(動力の入力軸)とし、この搬送駆動ローラ40aの駆動歯車102から回転トルクを受け、入力歯車101A〜101Eのうち一つを選択可能に回動するように設けられるとともにその選択した一つの入力歯車に回転トルクを伝達する動力伝達部103を備えている。入力歯車101A〜101Eは、機構A99、給送装置52、機構B100、APG装置42及びメンテナンス装置44が有する入力歯車を示している。これら5つの入力歯車101A〜101Eは、図6に示すように、搬送駆動ローラ40aからそれぞれ等距離の位置で、かつ搬送駆動ローラ40aの軸線と直交する面内において円弧を描くような一列で等間隔に配置されている。
動力伝達部103は、ローラ駆動軸40cの端部に回動可能な状態で取着されたアーム部材104と、アーム部材104に対して駆動歯車102と噛合可能な位置に回転自在に支持された第1遊星歯車105と、第1遊星歯車105と噛合する状態で回転自在に支持された第2遊星歯車106とを有している。アーム部材104はローラ駆動軸40cを回動軸として相対回動可能かつローラ駆動軸40cのスラスト方向に移動可能な状態で取着されている。図6の紙面手前方向に移動したキャリッジ31がキャリッジ係合部108aを同図紙面手前方向に押し込むことで、動力伝達部103はローラ駆動軸40cに沿ってスラスト方向に第1ポジションから第2ポジションへ移動し、入力歯車101A〜101Eとの噛合が解除されるとともに、ローラ駆動軸40cと一体回転可能な状態に係合される。そして、ローラ駆動軸40cを所定回転量だけ回転させると、アーム部材104が回動し、第2遊星歯車106が噛合しうる一つの入力歯車が選択される。その後、キャリッジ31が図6の紙面直交方向奥側へ退避すると、動力伝達部103が付勢力で同奥側の第1ポジションへ復帰し、第2遊星歯車106が、選択した一つの入力歯車と噛合する。例えば第2遊星歯車106が入力歯車101Eと噛合した状態で回転トルクが伝達されると、メンテナンス装置44(昇降機構44a)が駆動するようになっている。
次に動力伝達切換装置50の詳細な構成を図6及び図7を用いて説明する。図7は動力伝達切換装置50の斜視図を示す。なお、図7では、動力伝達部103が入力歯車との噛合が解除された第2ポジションに位置する状態を示す。図6及び図7に示す動力伝達部103は、ローラ駆動軸40cの軸線方向に沿って位置する第1ポジションと第2ポジションとの間を変位可能(ポジション切り換え可能)に設けられている。
アーム部材104は、ローラ駆動軸40cを挿通させる軸孔を有するスリーブ部104aを備え、スリーブ部104aを介して、ローラ駆動軸40cの軸線方向にスライド変位可能に、且つ図6に示すa矢印方向にローラ駆動軸40cを揺動軸として揺動可能に設けられている。図7に示すように、アーム部材104においてスリーブ部104aの端部には、スラスト方向に突出する突歯が周方向に複数配置されてなる第1係合歯部104bが形成されている。
また、図7に示すように、第1係合歯部104bと対向する位置には、円筒状部材107がローラ駆動軸40cと一体的に回転するよう固定されており、この円筒状部材107において第1係合歯部104bと対向する位置には、第1係合歯部104bと噛み合い可能な複数の突歯を有する第2係合歯部107aが形成されている。
また、図7に示すように第1係合歯部104bと第2係合歯部107aを内側に収容する円筒形状をなすケース部材108が設けられており、その一方側の開口部から、スリーブ部104aがケース部材108の内側に入り込むように構成されている。このケース部材108は、ローラ駆動軸40c及びアーム部材104がケース部材108に対して相対回転できるように設けられており、アーム部材104が回動しても、ケース部材108は、キャリッジ係合部108aが上方へ突出した状態が維持される姿勢を保つようになっている。
図7に示すように、ローラ駆動軸40cの軸端にはストッパ109が設けられており、このストッパ109とケース部材108との間に介在する第1コイルバネ110の付勢力により、アーム部材104はフレーム部材111に向かう方向(図7の左方向)へ付勢されている。この付勢力によりアーム部材104がフレーム部材111の規制部(図示せず)に当接することで、第1ポジションが保持されるようになっている。
また、ケース部材108の図7における左側内端面と第1係合歯部104bとの間には、第2コイルバネ112が設けられている。キャリッジ31がキャリッジ係合部108aを図7の右方向へ押して、ケース部材108が第1コイルバネ110の付勢力に抗して図7の右方向へ変位すると、第2コイルバネ112を介して第1係合歯部104bが図7の右方向に押され、これと一緒にアーム部材104も右方向に変位する。その結果、アーム部材104の揺動先端側に支持された第2遊星歯車106と入力歯車との噛合が解除される。そして、動力伝達部103が第2ポジションまで移動すると、図7に示すように第1係合歯部104bと第2係合歯部107aとが噛み合うようになっている。
このとき、両係合歯部104b,107aが正しく噛み合わずに両者の歯の先端同士が衝突しても、第2コイルバネ112の弾性力がクッションとなって、破損等が生じないようになっている。そして両者の歯の先端同士が衝突した状態で搬送駆動ローラ40aが所定量回転すれば、図7に示すように両係合歯部104b,107aが正しく噛み合うことが可能となる。そして、図7に示すように動力伝達部103が第2ポジションにあり両係合歯部104b,107aが噛み合った状態で、PFモータ39が所定方向に所定回転量だけ回転駆動されると、ローラ駆動軸40cと共にアーム部材104が回動し、第2遊星歯車106が入力歯車101A〜101Eのうち次の接続先とすべき一つの入力歯車と噛合可能な位置に選択されるようになっている。
そして、図7に示す第2ポジションの状態から、キャリッジ31がキャリッジ係合部108aから離間すると、第1コイルバネ110の付勢力によって、動力伝達部103が第1ポジションへ移動し、第1係合歯部104bと第2係合歯部107aとの噛み合いが解除されるとともに、第2遊星歯車106が、選択された一つの入力歯車と噛合する。
また、フレーム部材111には位置決めピン112A〜112Eが、入力歯車101A〜101Eのそれぞれに対応する近傍位置から垂直に突出形成されている。例えばアーム部材104に設けられた第2遊星歯車106が入力歯車101Eと噛合した状態では、アーム部材104の先端部に形成された孔104Cに位置決めピン112Eが入り込むことにより、アーム部材104の揺動動作が拘束され、第2遊星歯車106と入力歯車101Eとの噛合状態が維持されるようになっている。
このように動力伝達部103が第1ポジションにある状態では、第1遊星歯車105が駆動歯車102と噛合し、駆動歯車102→第1遊星歯車105→第2遊星歯車106→入力歯車101A〜101Eのうち選択された一つの入力歯車の順で回転トルクが伝達され、いずれか一つの被駆動部が駆動されるようになっている。なお、図6に示すように、アーム部材104が図6における反時計方向にエンドまで回動したときに当接する位置決めフレーム113が設けられており、アーム部材104が位置決めフレーム113に当接した位置を基準(原点)としてアーム部材104の回動位置は管理される。
また、動力伝達部103は、第1ポジションと第2ポジションとの間の中間ポジションにも配置される。動力伝達部103の第1ポジションと第2ポジションとの間には、中間ポジションが設定されており、且つ保持手段(図示せず)によって、第1コイルバネ110の付勢力に抗して、動力伝達部103がキャリッジ31から独立してその中間ポジションを保持可能となっている。
図8は、上昇駆動状態(キャッピング状態)におけるメンテナンス装置の模式正面図を示す。図8に示すように、メンテナンス装置44を構成する昇降機構44aは、図7に示す入力歯車101Eを備え、入力歯車101Eを介してPFモータ39からの動力が入力される。昇降機構44aは、入力歯車101Eを介して入力された動力で駆動するカム機構が内蔵されており、カム機構の2つのカムに昇降スライダ44bとロック部材47の下端部とがそれぞれカムフォロアとして係合しており、昇降スライダ44bとロック部材47は、カム機構を介して同期して昇降するように構成されている。昇降スライダ44bの上部には、バネ44cを介してキャップ45が上方へ付勢された状態で支持されるとともに、キャップ45に対して主走査方向Xにおいて印刷領域側に隣接する位置にワイパ46が立設状態に固定されている。キャリッジ31には、図8に示すホーム位置に配置された状態においてロック部材47と対応する部位に、ロック部材47が係入可能な凹部31aが凹設されている。
キャリッジ31がホーム位置に配置された状態で、昇降機構44aが上昇駆動されると、昇降スライダ44bが上昇することでキャップ45が記録ヘッド35のノズル形成面35aにノズルを囲む状態に当接するキャッピング位置に配置されるとともに、ロック部材47が上昇して凹部35aに係入されるロック位置に配置される。一方、昇降機構44aが下降駆動されると、昇降スライダ44bが下降することでキャップ45が記録ヘッド35のノズル形成面35aから離間する退避位置に配置されるとともに、ロック部材47が下降して凹部35aから抜けたアンロック位置に配置される。また、クリーニング時などにおいてキャップ45はキャッピング位置から中間位置に下降され、その状態でキャリッジ31が印刷領域側(図8における左方向側)へ移動する過程で、ノズル形成面35aがワイパ46により払拭される構成となっている。なお、本実施形態では、キャップ45及びロック部材47が可動部材に相当する。また、キャップ45のキャッピング位置が係合位置、退避位置が非係合位置に相当し、ロック部材47のロック位置が係合位置、アンロック位置が非係合位置に相当する。
次に動力伝達切換装置50の切り換え時の動作について図9を用いて説明する。図9は、動力伝達切換装置50の切り換え動作を説明する模式正面図である。
本実施形態では、給送装置52により給送された用紙Pに印刷が行われるときは、動力伝達切換装置50は図9(c)に示す中間ポジションに配置される。この中間ポジションでは、第2遊星歯車106と入力歯車との噛合が解除されるとともに、両係合歯部104b,107aの噛み合いが解除された状態にある。このため、印刷中においてはAPG装置42、メンテナンス装置44、給送装置52、機構A99及び機構B100は駆動されることはなく、搬送ローラ対40、排出ローラ対41、第2中間送りローラ68及び反転ローラ80が駆動される。
例えば表面の印刷が終了して用紙Pが規定位置に配置された後、キャリッジ31はホーム位置へ移動し、そのとき裏面印刷用の印字データ(記録データ)が生成されるまでの待ち時間が長い場合は、ノズル内のインクの増粘や乾燥を防止するために記録ヘッド35がキャッピングされる。
このキャッピングを行うときには次のような切り換え動作が行われる。キャリッジ31がホーム位置よりさらに1桁側の図9(a)に示す切換選択位置まで移動すると、キャリッジ31がキャリッジ係合部108aを全押ししてアーム部材104を第2ポジションに移動させる。その結果、第1係合歯部104bが第2係合歯部107aと噛み合う。そして、この状態でPFモータ39が回転駆動されて搬送駆動ローラ40aが回転すると、両係合歯部104b,107aの噛み合いを介してアーム部材104が回動し、第2遊星歯車106が次に接続先とすべきメンテナンス装置44の入力歯車101Eと噛合可能な位置に選択される。そして、キャリッジ31が切換選択位置からホーム位置へ移動すると、図9(b)に示すように、第2遊星歯車106が昇降機構44aの入力歯車101Eと噛合する。
この状態で、PFモータ39が正転駆動されると、搬送駆動ローラ40aの回転トルクが動力伝達切換装置50を介して入力歯車101Eに伝達され、昇降機構44aが駆動されて、キャップ45、ワイパ46及びロック部材47が上昇し、記録ヘッド35がキャップ45によってキャッピングされるとともに、ロック部材47によりキャリッジ31がホーム位置にロックされる(図8の状態)。そして、図8に示すキャッピング及びロック状態において、PFモータ39が逆転駆動されると、キャップ45、ワイパ46及びロック部材47が下降し、キャッピングが解除されるとともにキャリッジ31のロックが解除される。
そして、動力伝達切換装置50が図9(b)に示す第1ポジションの状態から、CRモータ34を逆転駆動してキャリッジ31をホーム位置よりさらに1桁側の図9(c)に示す中間位置まで移動させると、キャリッジ31がキャリッジ係合部108aを半押してアーム部材104を第2ポジションに移動させる。その結果、第2遊星歯車106と入力歯車101Eとの噛合が解除されるが、第1係合歯部104bは第2係合歯部107aと噛み合わない。そして、キャリッジ31がこの中間位置からホーム位置へ戻っても、保持手段により動力伝達切換装置50は中間ポジションに保持される。そして、この中間ポジションの状態で、PFモータ39が正転駆動されると、駆動ローラ40a,41a,66が用紙Pを搬送方向下流側へ搬送する回転方向に正転し、一方、PFモータ39が逆転駆動されると、駆動ローラ40a,41a,66が用紙Pを搬送方向上流側へ搬送する回転方向に逆転するようになっている。このときPFモータ39が正転駆動か逆転駆動かに関わらず、反転ローラ80は図4に矢印で示す反転方向(図4の反時計方向)へ回転するようになっている。
次にプリンタ11の電気的構成について説明する。図11はプリンタ11の電気的構成を示すブロック図である。図11に示すように、プリンタ11は制御装置150を備える。制御装置150はプリンタ11を統括的に制御する。
制御装置150には、入力系として、操作パネル14を構成する印刷開始スイッチ24、コピースイッチ25及びキャンセルスイッチ26をはじめとする各種スイッチ、表示部22、カードリーダ151、リニアエンコーダ38、エンコーダ152、紙検出センサ87及び紙幅センサ88が接続されている。また、制御装置150には、出力系として、スキャナエンジン155、CRモータ34、PFモータ39及び記録ヘッド35が接続されている。
制御装置150は、コンピュータ160(マイクロコンピュータ)、表示ドライバ161、第1モータ駆動回路162、第2モータ駆動回路163及びヘッド制御ユニット164を備えている。コンピュータ160は、表示ドライバ161を介して表示部22の表示制御を行う。また、コンピュータ160は、第1モータ駆動回路162を介してCRモータ34を駆動制御するとともに、第2モータ駆動回路163を介してPFモータ39を駆動制御する。さらにコンピュータ160は、ヘッド制御ユニット164を介して記録ヘッド35を駆動制御することでインク滴の吐出制御を行う。
また、コンピュータ160は、CPU171、ASIC172(Application SpecificIC)、ROM173、RAM174、不揮発性メモリ175、CRカウンタ181、PFカウンタ182、アームカウンタ183及びクリーニングタイマ184を備え、これらはバス188を介して互いに接続されている。また、ASIC172は、スキャナ処理回路191、JPEG解凍回路192及び画像処理回路193を備えている。また、RAM174には、CRロックフラグ176及び中間ポジションフラグ177が設けられている。
ROM173には、CPU171により実行される制御プログラムなどが記憶されている。RAM174には、CPU171の演算結果や制御プログラムを実行して処理する各種データなどが一時的に記憶される。また、RAM174は、CPU171やASIC172内のスキャナ処理回路191及び画像処理回路193における処理の前後の画像データや印刷データが一時的に格納されるバッファとしてその一部が用いられる。
スキャナエンジン155は、原稿台ガラス15に載置された原稿を光学的に読み取ってCCD(電荷結合素子)に蓄えられた電荷を、A/D変換回路によってA/D変換してスキャナ処理回路191に出力する。スキャナ処理回路191は、CPU171の制御の下、スキャナエンジン155から入力される各ラスタラインデータ(RGBの多階調画像データ)をバッファに蓄えた後、このRGB画像データを画像処理回路193に送る。
JPEG解凍回路192は、JPEG形式の画像データを例えばRGBの多階調画像データに解凍する。例えばデジタルカメラで撮影したJPEG形式の画像データが、メモリカードMCから入力端子151aを介してカードリーダ151によって読み取られASIC172内のJPEG解凍回路192に転送される。JPEG解凍回路192は、JPEG形式の画像データに対して復号化処理を施すことで、画像データから例えばRGBの多階調画像データに解凍(デコード)し、その画像データは画像処理回路193に転送される。
画像処理回路193は、スキャナ処理回路191又はJPEG解凍回路192から、転送されてきた例えばRGB形式の画像データに対して、色変換処理、ハーフトーン処理、マイクロウィーブ(Micro Weave)処理などの公知の画像処理を行い、処理後の画像データをRAM174(バッファ)に転送する。CPU171はバッファに記憶された画像データを基にヘッド駆動データ(印刷データ)を生成し、ヘッド制御ユニット164へ転送する。ヘッド制御ユニット164は、ヘッド駆動データに基づいて記録ヘッド35を駆動し、インク滴の吐出の有無や、吐出するインク滴の量を制御する。
リニアエンコーダ38は、キャリッジ31の移動経路に沿って張設されてその長手方向に一定刻みでスリットが形成された黒系半透明のテープ状の符号板と、該符号板のスリットを検知可能な状態でキャリッジ31の所定位置に固定された光学センサ(いずれも図示せず)とを有する。光学センサは、符号板を挟んで対向配置された一対の発光素子と受光素子とを有し、受光素子が発光素子から発光されて符号板上のスリットを通過した光を受光する。よって、リニアエンコーダ38は、キャリッジ31の移動距離に比例するパルス数で、かつキャリッジ31の移動速度に反比例する周期をもつパルスを出力する。CPU171は、キャリッジ31のホームシーク処理において、キャリッジ31を1桁側に移動させてキャリッジ31が1桁側のエンドに当接して、CRモータ34の駆動電流値が所定の閾値を超えると、CRカウンタ181をリセットし、以後、リニアエンコーダ38からの入力するパルスエッジを計数する。そして、キャリッジ31が80桁側の方向へ移動するときにCRカウンタ181の値をインクリメントし、キャリッジ31が1桁側へ向かう方向に移動するときにCRカウンタ181の値をデクリメントすることで、CPU171はCRカウンタ181の計数値から、キャリッジ31の主走査方向Xにおける位置を把握する構成となっている。
また、エンコーダ152は、PFモータ39と動力伝達可能に連結された軸部(例えば搬送駆動ローラ40aの軸部)の端部に固定された回転式の符号円板と、その符号円板の周方向に一定刻みで形成されたスリットを透過した発光素子からの光を受光素子が受光して90度位相のずれた2つのパルス信号を出力するセンサとを有する。
PFカウンタ182(計測手段)は、紙検出センサ87が用紙Pの先端を検知した時にリセットされ、その後、用紙Pの先端が記録ヘッド35の最上流ノズル位置(基準位置)に達した時に再リセットされる。この再リセット後、PFカウンタ182は、エンコーダ152から入力するパルス信号のパルスエッジを計数することで、CPU171はPFカウンタ182の計数値(計測値)から基準位置を原点とする用紙Pの搬送位置を把握する構成となっている。
アームカウンタ183は、動力伝達切換装置50のアーム部材104が図6の反時計方向に回動して位置決めフレーム113に当接し、PFモータ39の駆動電流値が所定の閾値を超えるとリセットされる。このリセット後、アームカウンタ183は、エンコーダ152から入力するパルス信号のパルスエッジを計数することで、CPU171はアームカウンタ183の計数値からアーム部材104の位置を把握する構成となっている。
クリーニングタイマ184は、前回の吸引動作(クリーニング)からの経過時間を計時する。CPU171は、クリーニングタイマ184の計時する経過時間が予め設定された設定時間(例えば数時間〜数日)を超えたとき、またはその超えた後の最初の電源投入時に、クリーニングタイマ184からその旨の通知を受けると、クリーニング動作を実行する。すなわち、CPU171はCRモータ34を駆動させてキャリッジ31をホーム位置に移動させ、次にPFモータ39を駆動させてメンテナンス装置44の昇降機構44aを駆動させてキャップ45及びロック部材47を上昇させることで記録ヘッド35をロック部材47によりホーム位置にロックする状態でキャップ45をノズル形成面35aに当接させた状態にキャッピングする。さらにPFモータ39を駆動することで、吸引ポンプ48(図1、図8参照)をポンプ駆動させることでキャップ45の内部空間に吸引力を及ぼして、記録ヘッド35のノズルからインクを強制的に吸引する。
なお、メンテナンス装置44の昇降機構44aは吸引ポンプ48にも動力伝達可能に構成され、その動力伝達経路上には遅延機構(図示省略)が設けられ、キャップ45及びロック部材47がキャッピング位置、ロック位置にそれぞれ上昇した後、さらにPFモータ39の正転駆動が継続されると、先のキャッピング完了及びCRロック完了時期から所定回転量だけ遅延したタイミングで吸引ポンプ48との動力伝達が接続される構成となっている。そして、吸引ポンプがポンプ駆動されている間、キャップ45及びロック部材47を上昇させる動力伝達経路の途中に設けられた歯車は空転するようになっている。そして、吸引ポンプ48による吸引動作が終了すると、PFモータ39が逆転駆動され、このとき吸引ポンプはレリース状態になるとともに、正転駆動時に空転していた前記歯車は噛み合いカムが回転してキャップ45及びロック部材47が下降するように構成されている。
ここで、CRロックフラグ176は、表面印刷終了時点において印字データが未生成であることにより、裏面印字データが生成されるまで待機するためにキャリッジ31をホーム位置へ移動させてCRロック状態かつキャッピング状態とするときに、CPU171により「TRUE」とされる。一方、表面印刷終了時点において印字データが生成されていれば、CRロックフラグ176はCPU171により「FALSE」とされる。
また、中間ポジションフラグ177は、動力伝達切換装置50が図9(c)に示す中間ポジションに切り換えられたときに、CPU171により「TRUE」とされ、一方、中間ポジション以外のポジション(つまり第1ポジション及び第2ポジション)へ切り換えられたときに、CPU171により「FALSE」とされる。
不揮発性メモリ175には、図12にフローチャートで示す自動両面印刷の基本プログラムが記憶されている。この基本プログラムは、図13にフローチャートで示す表面印刷終了処理ルーチンのプログラム、図14にフローチャートで示す裏面印刷開始処理ルーチンのプログラム、図15にフローチャートで示すエラー監視処理ルーチンのプログラム、及び図16にフローチャートで示す裏面印刷処理ルーチンのプログラムなどから構成される。なお、本実施形態では、図12〜図16にフローチャートで示すプログラムを実行するCPU171により、制御手段が構成される。
以下、自動両面印刷のときに行われる処理について説明する。自動両面印刷には、複数ページ分の印刷データをプリンタ11に送信して両面印刷を行う場合や、コピーモードにおいてスキャナ部12で読み取った原稿を両面印刷する場合などがある。自動両面印刷の処理は図11にフローチャートで示すように実行される。
まずステップS10では、表面印刷を行う。すなわち、表面用の印字データが生成されると、動力伝達切換装置50を給送装置52が選択された状態に切り換えた後、PFモータ39を正転駆動することで、給送装置52を構成するピックアップローラ54により給紙カセット17から最上位の一枚の用紙Pが給送され、各ローラによって図3に破線矢印で示す搬送経路に沿って記録ヘッド35の記録位置まで搬送される。そして、搬送された用紙Pの第1の面に表面印刷が施される。
ステップS20では、表面印刷終了処理ルーチンを実行する。このルーチンは、第1の面(表面)への印刷が終了したときに実行すべき処理であり、その表面印刷終了時に裏面用の印字データが未生成であって裏面印刷開始までに待ち時間が発生した場合に所定処理を行う。本実施形態では、待ち時間が予め設定した設定時間に達すると、記録ヘッド35をノズル内のインクの増粘等を防止するためにキャップ45を記録ヘッド35のノズル形成面35aに当接させるキャッピングピングを行う。このとき、一緒に上昇したロック部材47が凹部31aに係入することで、キャリッジ31はホーム位置にロックされる。
このキャップ45やロック部材47の上昇時には、PFモータ39が駆動されることで用紙Pの位置がずれてしまう。例えばこのキャリッジロック時に用紙Pが搬送方向下流側に送られると、排出部18から用紙Pが徒に長く出ることになる。そのため、ユーザが触りやすくなって、誤って用紙Pを引っ張ったりすると、用紙位置がずれて印刷ミスに繋がる。
このため、ロック部材を上昇させたときに一緒に移動してしまう用紙の移動方向と反対方向へ予め用紙をロック動作時の移動量に応じた所定量だけ移動させておき、その状態で、キャッピング動作及びロック動作を行うことでロック動作後の待機中における用紙の規定位置からのずれ量を少なくするようにしている。
本実施形態では、ロック動作はPFモータ39の正転方向なので、ロック動作を行うと用紙は排出されることになるが、事前のPFモータ39を逆方向に所定量駆動させておくことで、ロック動作後の用紙位置を規定位置から大きくはずれないようにしている。
そして、裏面印刷開始には、ロック部材47を下降させるロック解除動作によって用紙Pが逆送りされるため、そのロック解除動作の後、そのロック解除動作時の用紙Pの移動量に応じた所定量だけ用紙を順送りすることで、ロック動作後の待機中と、ロック動作解除後の裏面印刷開始時との両方で、用紙が規定位置からさほどずれないようにしている。
なお、本実施形態では規定位置とは、用紙サイズを確認するために用紙サイズに関わらず一意の位置となっており、用紙の後端を紙検出センサ87で検知して用紙サイズを確認した後、所定量搬送した位置で用紙を停止させる。このため、紙検出センサ87の検出位置から用紙の後端が常に一定距離の位置で用紙は停止することになる。
また、裏面印刷開始時期になってそのままキャリッジ31を動かそうとすると、キャリッジロック状態であるためPFモータ39の負荷(駆動電流値)が閾値を超えてしまいフェイタルエラーとなる。
そして、裏面用の印字データが生成されると、裏面印刷を開始するに先立ち、ステップS30の裏面印刷開始処理ルーチンを実行する。このルーチンを終了してから、ステップS50で裏面印刷を実行する。
次に、表面印刷終了処理ルーチン(S20)、裏面印刷開始処理ルーチン(S30)、及び裏面印刷処理ルーチン(S50)について順番に説明する。なお、図13が表面印刷終了処理ルーチン、図14が裏面印刷開始処理ルーチン、図16が裏面印刷処理ルーチンのそれぞれフローチャートを示す。また、図15は、裏面印刷開始処理ルーチン及び裏面印刷処理ルーチンにおいてPFモータ39を駆動する際に実行されるエラー監視処理ルーチンのフローチャートを示す。まず裏面印刷開始処理ルーチンについて図13に従って説明する。前述のとおり、CPU171は表面印刷を終了したときに裏面印刷開始処理ルーチンを実行する。ここで、表面印刷終了時の用紙Pの位置は、その用紙サイズによらず用紙Pの後端が紙検出センサ87の検出位置を通過した位置から搬送方向下流側へ所定量(所定ステップ数)だけ搬送された規定位置で停止する(例えば図9(a))。なお、以下の処理でPFモータ39を駆動する際のステップ数は、ステップモータであるPFモータ39の駆動量(回転量)を指示するステップ数であり、PFモータ39はCPU171が第2モータ駆動回路163に指示したステップ数に応じた回転量だけ回転駆動する。
まずステップS110では、裏面印字データありか否かを判断する。例えばコピーモードで自動両面印刷を行うときは、表面印刷用の原稿をスキャナ部12で読み込んでから、ユーザが次の原稿を原稿台ガラス15にセットしてスキャン操作するまでに、時間的な間ができる場合がある。そのため、表面印刷終了時点で、ユーザが裏面印刷用の原稿をどれにするか探していたり、原稿のスキャン中であったり、さらにはスキャン画像から印字データを生成する画像処理中であったりする。かかる場合、表面印刷終了時点で裏面印字データが未生成となる。
裏面印字データ「あり」の場合、印字データ未生成によるCRロックフラグを「FALSE」にする(ステップS120)。一方、裏面印字データ「なし」の場合、ステップS130に進んで、用紙位置の前調整を行う。すなわち、PFモータ39を「Aステップ」だけ正転駆動させる。ここで、「Aステップ」とは、キャリッジロック動作(CRロック動作)を行ったときに用紙が移動する方向と逆方向へ事前に移動させておくべき、CRロック動作時の用紙移動量よりも大きな用紙移動量となるように設定されたモータステップ数を指す。本実施形態ではCRロック動作はPFモータ39の正転により実現され、その動作に伴い用紙Pは搬送方向下流側へ搬送されるため、用紙位置の前調整時は、PFモータ39を「Aステップ」だけ逆転駆動させる。その結果、図9(a)に示す表面印刷終了時点の規定位置にあった用紙Pは、図9(b)に示すように、CRロック時の用紙移動量よりも大きい移動量だけ一旦搬送方向上流側へCRロック動作に先立ち逆送りされる。
次のステップS140では、印字データ未生成によるCRロックフラグを「TRUE」にする。
そして、次のステップS150では、CRロックを行う。すなわち、表面印刷中は動力伝達切換装置50が中間ポジションにあるため、その動力伝達先を一旦メンテナンス装置44の入力歯車101Eに切り換えた後、PFモータ39を「Bステップ」(本例ではB<A)だけ正転駆動させる。この結果、メンテナンス装置44の昇降機構44aが駆動されてロック部材47が上昇してキャリッジ31の凹部31aに係入することで、CRロックが行われる。このとき、同時にキャップ45及びワイパ46も上昇し、キャップ45が記録ヘッド35のノズル形成面35aにノズルを囲む状態で当接することで、記録ヘッド35がキャッピングされる。よって、裏面印字データが生成されるまでの待ち時間ができても、そのノズル内のインクが増粘に起因するノズル目詰まりは効果的に回避される。
このCRロックの結果、用紙Pは搬送方向下流側へ移動するが、図9(b)に示す位置調整後の用紙位置が起点になるので、用紙Pが規定位置よりも搬送方向下流側へずれてしまうことはない(図9(c)の実線位置)。よって、表面印刷終了後において排出部18(つまりプリンタ部13の前面13b)からの用紙Pの延出長が想定(CRロックなしの場合の延出長)より徒に長くなることを回避できる。例えば用紙位置の前調整なしでCRロックを行った場合は、図9(c)に二点鎖線で示すように用紙Pの排出部18からの延出長が長くなる。この場合、ユーザが用紙Pを触れやすいので、用紙Pが引っ張られたりする虞が増し、仮に引っ張られた場合は用紙Pの位置がずれ印刷ミス(例えば紙ジャム)になってしまう。
こうして表面印刷終了処理ルーチンを終えると、次に裏面印字データが生成された旨の通知をトリガとして裏面印刷開始処理ルーチンを実行する。ここで、裏面印字データは画像処理回路193が生成し、記録ヘッド35の例えば2パス分(2行印刷分)の裏面印字データが生成された時点でASIC172からCPU171に裏面印字データの生成の旨が通知される。つまり、裏面印刷を開始できる分の印字データが生成されると、CPU171は裏面印刷開始指示を受け付ける。そして、この裏面印刷開始指示を受け付けると、CPU171は裏面印刷開始処理ルーチンを実行する。
以下、図14に従って裏面印刷開始処理ルーチンについて説明する。
まずステップS210では、CRロックフラグが「FALSE」であるか否かを判断する。「FALSE」でなければ(つまり「TRUE」であれば)、CRロック状態にあるため、その場合は、ステップS220に進んで、CRロックを解除する。すなわち、PFモータ39を「Cステップ」だけ逆転駆動する。キャッピング中は動力伝達切換装置50の動力伝達先がメンテナンス装置44となっているので、PFモータ39を逆転駆動すれば、昇降機構44aが駆動されてキャップ45、ワイパ46及びロック部材47は下降する。このPFモータ39のCステップ分の逆転駆動によって、用紙Pは図9(c)に示すキャッピング中の待機位置から、図9(b)に示す用紙位置まで搬送方向上流側へ逆送りされる。
そして、次のステップS230において、用紙位置の後調整を行う。すなわち、PFモータ39を「Aステップ」だけ正転駆動させる。このとき、動力伝達切換装置50がメンテナンス装置44を動力伝達先として選択した状態にあるので、CRロック解除後、動力伝達切換装置50を中間ポジションに切り換える。すなわち、キャリッジ31をホーム位置から1桁側へ少し移動させてキャリッジ係合部108aを半押ししてアーム部材104を中間ポジションに配置して第2遊星歯車106の噛合を解除した後、キャリッジ31をホーム位置へ復帰させる。こうして、キャリッジ31がホーム位置へ復帰しても、動力伝達切換装置50は動力伝達先として何も選択していない状態(PF系ローラ(搬送駆動ローラ40a、駆動ローラ41a,66及び反転ローラ80)のみ駆動可能な状態)となる。そして、この状態でPFモータ39を「Aステップ」だけ正転駆動させる。
その結果、用紙Pは図9(a)に示すように、元の規定位置に戻る。こうして、搬送ローラ対40及び排出ローラ対41と、メンテナンス装置44とがPFモータ39を共通の動力源とする構成であっても、裏面印刷開始までの待機時にCRロックされても規定位置からあまりずれない位置で待機でき、裏面印刷開始時におけるCRロック解除後にも用紙Pを規定位置に配置できる。なお、ステップ数については、A+B=C+Aである必要はなく、用紙位置の後調整後において、用紙の後端が紙サイズによらず一定の位置に配置できればよい。
こうして、用紙サイズによらず常に一定の規定位置から、次の裏面印刷処理ルーチンが実行されることになる。
ところで、図13の表面印刷終了処理ルーチンでは、裏面印字データの未生成を理由とする想定されたCRロックをCRロックフラグで記憶するが、他のシーケンス処理により想定しないCRロックが行われる場合もありうる。例えば、表面印刷終了時にクリーニングタイマ184がタイムアップしたときには、クリーニングが実施される。この場合、メンテナンス装置44が駆動されて記録ヘッド35のキャッピング及びCRロックが行われ、さらにPFモータ39の駆動による吸引クリーニング動作、その後のキャッピング解除及びCRロック解除の動作が行われる。また、例えば自動両面印刷中に反転ユニット43が取り外され、その取り外しを検知するセンサ153がオフ(取り外し検知状態)になると、キャッピング及びCRロックを行うシーケンス動作が実行される。これらの場合、キャリッジ31を1桁側へ移動させてキャリッジ係合部108aを全押しして動力伝達切換装置50を第2ポジションに切り換え、必要があればPFモータ39を駆動してアーム部材104をメンテナンス装置44(入力歯車101E)が動力伝達先として選択される位置まで回動させる。その後、キャリッジ31をホーム位置に戻すことで動力伝達切換装置50を第2ポジションから第1ポジションに切り換え、第2遊星歯車106を入力歯車101Eに噛合させる。そして、この状態でPFモータ39を「Bステップ」だけ正転駆動してキャッピング及びCRロックを行う。
このように他のシーケンスが実行されたことにより想定しないCRロックが行われた場合、PFモータ39が駆動されて用紙Pの位置が規定位置からずれてしまう。そのため、本実施形態では、CPU171は、動力伝達切換装置50の切換ポジションを監視し、中間ポジションに切り換えられた場合に中間ポジションフラグ177を「TRUE」とし、一方、中間ポジションから他の切換ポジション(第1ポジション及び第2ポジション)に切り換えられた場合には、中間ポジションフラグ177を「FALSE」にする。
ここで、想定しないCRロックが行われたり、その後にそのCRロックが解除されていても、動力伝達切換装置50が第1ポジションにあれば、被駆動部が動力伝達先として選択されている。そのため、想定しないCRロック中である場合や、想定しないCRロックが行われた可能性がある場合(つまり、CRロックが一旦行われてその後にCRロックが解除された場合)に、裏面印刷のために用紙Pを反転させるべくPFモータ39を逆転駆動させると、フェイタルエラーが発生することになる。そこで、本実施形態では、この種のフェイタルエラーの発生を未然に防止するため、CRロックフラグが「FALSE」であった場合(S210で肯定判定)には、ステップS240に進んで、中間ポジションフラグが「TRUE」であるか否かを判断する。そして、中間ポジションフラグが「TRUE」であればそのまま当該ルーチンを終了するが、「FALSE」であれば、ステップS250において紙ジャムエラー通知を行う。
一方、PFモータ39が駆動されているときには、図15に示すエラー監視処理ルーチンが行われる。すなわち、PFモータ39の駆動開始からの駆動量が目標ステップ数に到達したか否かを判断し(ステップS310)、目標ステップ数到達前であれば、PFモータ39の駆動電流値Ipfが閾値Ithrsを超えたか否かを判断し、Ipf>Ithrsが成立すると、フェイタルエラー通知を行う(ステップS330)。
動力伝達切換装置50が中間ポジション以外のポジション、例えば第1ポジションにある場合は、第2遊星歯車106がいずれか一つの入力歯車と噛合している。この状態で裏面印刷を行うために用紙を反転すべくPFモータ39が駆動されると、被駆動系の部材(APG装置42選択時のキャリッジ31、メンテナンス装置44選択時のキャップ45など)がエンドに到達し、Ipf>Ithrsが成立してフェイタルエラーとなる。また、動力伝達切換装置50が第2ポジションにあれば、アーム部材104が回動して例えば位置決めフレーム113に当接してIpf>Ithrsが成立し、フェイタルエラーとなる。しかし、ステップS240において、動力伝達切換装置50が中間ポジションにないと判断されると(中間ポジションフラグ=TRUE)、紙ジャムエラー通知が行われるので、フェイタルエラーになることを回避することができる。
ここで、フェイタルエラーの場合は、電源スイッチ23を押下してプリンタ11の電源を一旦遮断してから、再度、電源スイッチ23を押下してプリンタ11を再起動させる必要がある。そのため、プリンタ起動時に初期化動作が入り、印刷可能状態に回復するまでに時間を要する。これに対して紙ジャムエラーの場合は、用紙Pを除去してキャンセルスイッチ26を押下すれば、印刷可能状態に回復させることができる。このため、中間ポジションフラグが「TRUE」の場合に、紙ジャムエラーにすることで、フェイタルエラーになることを未然に防止し、フェイタルエラー発生時の電源遮断を伴う面倒な回復処理を回避することができる。
次に裏面印刷処理ルーチンについて図16に従って説明する。この処理は裏面印刷開始処理ルーチンがエラーなく終了したときに実行され、このとき表面印刷終了時における印字データ未生成による待機の有無によらず、用紙Pは規定位置に配置されることになる。
まずステップS410では、PFモータ39を「Dステップ」だけ逆転駆動させる。この「Dステップ」は、規定位置にある用紙Pの後端(搬送方向上流端であって反転方向では先端)を駆動方向切換位置まで逆送り可能なモータステップ数である。ここで、駆動方向切換位置とは、用紙Pの後端が搬送手段を構成する第2中間送りローラ68にニップされる直前の位置であり、用紙の反転のための逆送り開始位置が規定位置にあれば、PFモータ39を「Dステップ」だけ逆転駆動させれば、用紙Pの後端は駆動方向切換位置に到達することになる。なお、駆動方向切換位置は、想定される最大用紙サイズの用紙を反転させる際にその反転送方向後端が第2中間送りローラ68を通過しており、かつ反転方向先端が第2中間送りローラ68にニップされるまでの範囲内に設定でき、特に本実施形態では、反転ユニット43の小型化を図るために、第2中間送りローラ68に反転方向先端がニップされる直前の位置(例えば1〜30mmの範囲内の所定値だけ手前の位置)に設定されている。
そして、逆転駆動されたPFモータ39の駆動ステップ数が「Dステップ」に到達すると、次のステップS420において、PFモータ39の駆動方向を逆転方向から正転方向に切り換える。この結果、図4に破線矢印で示す搬送経路を通って反転ローラ80で反転された用紙Pの先端が第2中間送りローラ68に到達する手前の駆動方向切換位置で、第2中間送りローラ68が逆転から正転に切り換えられることで、その後、第2中間送りローラ68に先端がニップされた用紙Pは記録ヘッド35側へ搬送される。
そして、裏面が記録面となるように反転された用紙Pの頭出し処理が行われる(ステップS430)。頭出し処理は、用紙Pの先端が紙検出センサ87により検知されると、その検知位置から印刷開始位置まで搬送する。頭出しされると、印刷処理を行う(ステップS440)。すなわち、キャリッジ31を主走査方向Xに移動させながら記録ヘッド35のノズルからインク滴を吐出する印字動作と、用紙Pを要求された送り量だけ副走査方向Yへ搬送する紙送り動作とを交互に行う。そして、排紙コマンドを受け付けると、排紙処理を行う(ステップS450)。こうして両面印刷が終了すると、用紙Pは排紙される。
以上詳述したように本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)表面印刷終了時に裏面印字データが未生成であれば、キャリッジ31をホーム位置に移動させてキャッピング及びCRロックを行う。このとき、PFモータ39をCRロックを行うときの駆動方向と反対方向に「Aステップ」だけ逆転駆動させる用紙位置の前調整を行ってから、「Bステップ」だけ正転駆動させてCRロックを行う(S110,S130,S150)。この結果、キャッピング及びCRロック状態で用紙Pがホーム位置で待機する待機中における用紙Pの排出部18から延出長が、待機なしのときの想定延出長より長くなることを回避できる。
(2)特に本実施形態では、用紙位置の前調整用のステップ数Aを、A>Bが成立する条件に設定したので、待機中における用紙Pの排出部18からの延出長を、待機なし時の想定延出長より短く抑えることができる。このため、ユーザが待機中の用紙Pを引っ張るなどの用紙の位置ずれの原因を回避することができる。
(2)また、CRロックを行った際はCRロックフラグを「TRUE」にする。そして、裏面印刷開始処理ルーチンにおいて、CRロックフラグが「TRUE」であれば、CRロック解除を行うとともにPFモータ39を「Aステップ」だけ正転駆動させて、用紙Pを規定位置に配置する。そのため、待機の有無に関わらず、用紙反転開始位置を規定位置に設定できる。そして、PFモータ39を「Dステップ」だけ逆転駆動させた時点で逆転から正転へ切り換えることで、第2中間送りローラ68の逆転で反転ローラ80へ送った用紙Pが反転ローラ80で反転されてその先端が第2中間送りローラ68にニップされるまでに、第2中間送りローラ68が逆転から正転に切り換わっているので、第2中間送りローラ68に先端がニップされた用紙Pを記録ヘッド35側へ給送することができる。例えば用紙Pが規定位置からずれた場合、用紙の反転方向後端をまだニップしている段階で第2中間送りローラ68が逆転から正転に切り換えられたり、反転後の用紙の反転方向先端が到達したときに第2中間送りローラ68がまだ逆転していたりした場合、用紙を反転できずに紙ジャムエラーになるが、本実施形態では、第2中間送りローラ68の回転方向の切換えを適切に行うことができるので、この種の紙ジャムエラーの発生を回避できる。
(3)動力伝達切換装置50が中間ポジションかそれ以外のポジションにあるかを示す中間ポジションフラグを用意し、クリーニング実施や反転ユニット43の取り外しなどによる想定しないCRロック等が行われて、動力伝達切換装置50が中間ポジション以外のポジションへ切り換えられたときには中間ポジションフラグを「FALSE」にする。そして、裏面印刷開始処理ルーチンにおいて、CRロックフラグが「FALSE」であっても、中間ポジションフラグが「FALSE」であれば紙ジャムエラー通知(S250)を行う。その結果、フェイタルエラーになることを未然に防止し、紙ジャムエラーで済ますことで電源遮断を伴わない簡単な操作でプリンタ11をエラーから復帰させることができる。
(4)特にスキャナ部12を備えた複合型プリンタに適用したので、例えばコピー機能を用いて両面印刷を行うときに、表面印刷終了時点で裏面印字データが未生成であることが比較的高い頻度で起こりうるが、裏面印字データ生成までの待機中の用紙の排出部18からの延出長を短くでき、かつ裏面印刷時の用紙の反転を確実に行うことができる。
前記実施形態は上記に限定されず、以下の態様に変更することもできる。
(変形例1)前記実施形態ではロック部材47(可動部材)をロック位置へ移動させるときのPFモータ39の駆動方向を正転方向としたが、逆転方向であっても構わない。この場合、ロック部材47をロック位置へ移動させると、用紙を逆送りすることになるが、事前にPFモータ39をAステップだけ正転方向に駆動させる前調整を行うことで、表面印刷終了後の待機時に用紙位置が、待機なし時の想定位置に比べ、搬送方向上流側に搬送されてしまう量を比較的少なく済ませられる。例えば用紙が想定位置より搬送方向上流側に配置されたことに起因して、上流側の部品などに印刷面が当たった状態で待機する不都合を回避できる。
(変形例2)前記実施形態では、裏面印刷用の印字データが生成されて裏面印刷開始指示を受け付けると、PFモータ39のCステップの逆転駆動の後、Aステップの正転駆動と、Dステップの逆転駆動とを別々に行って、待機あり(キャッピングあり)と待機なし(キャッピングなし)とで、共通のDステップの逆転駆動を行うことで、反転制御の簡素化を図った。これに対し、待機ありの場合は、PFモータ39のCステップの逆転駆動の後、動力伝達切換装置50の中間ポジションへ切り換え後に、(D−A)ステップだけ逆転駆動させ、この逆転駆動後にPFモータ39を正転駆動に切り換える構成も採用できる。
(変形例3)前記実施形態では調整駆動量と補正駆動量とを共にAステップと等しくしたが、両者の大小関係として、調整駆動量>補正駆動量や、調整駆動量<補正駆動量であってもよい。
(変形例4)前記実施形態では、調整駆動量AをCRロック時の駆動量Bより大きな値(A>B)としたが、A=Bや、0<A<Bの条件を採用してもよい。
(変形例5)前記実施形態では、可動部材をロック部材47及びキャップ45の両方としたが、このうち一方のみが備えられた構成でもよい。さらにこれら部材に加え他の可動部材が設けられた構成でもよい。
(変形例6)キャップの移動手段と、ロック部材の移動手段のちの一方のみが搬送手段と動力源を共通にする構成でもよい。
(変形例7)表面印刷と裏面印刷との間のキャッピング及びCRロックによる待機は、裏面印字データの未生成によるものに限定されない。例えば用紙Pの表面のインクを乾燥させる乾燥時間の経過までキャッピング及びCRロックして待機する構成であってもよい。
(変形例8)第1面の記録終了後、記録媒体の反転開始時期になるまで常に記録手段に可動部材を係合させた状態で待機する構成としてもよい。この場合、記録媒体を適切な位置に配置した状態で待機させることができる。
(変形例9)第1面の記録終了後、一定時間経過しても印字データが生成されず裏面印刷開始指示を受け付けない場合に、はじめてキャッピング及びCRロックを行ってもよい。
(変形例10)情報及び第2情報は、フラグに限定されない。2ビット以上のデータでもよい。例えば各ポジションを区別できる情報としてもよい。また、記録手段はRAMに限定されず、レジスタでもよい。
(変形例11)搬送手段は、反転手段へ反転前の記録媒体を送る第1搬送部と、反転手段から反転されて送られてくる第2搬送部とを備えた構成でもよい。例えば記録手段が上下2段に設けられ、そのうち第1記録部で表面印刷を行い、第1記録部による第1面の記録が終わった記録媒体は、第1搬送部から反転手段へ送られて反転手段により反転されてから第2搬送部へ送られてくると、第2搬送部が第2記録部へ搬送することで、第2記録部による記録媒体の第2面への記録が施される構成を採用できる。
(変形例12)記録媒体は、用紙に限定されず、樹脂製フィルム、金属製フィルム、布、フィルム基板、樹脂基板などでもよい。
(変形例13)各処理(図12〜図16)をCPU171がプログラムを実行して実現されるソフトウェアにより構成としたが、ハードウェアにより構成してもよい。例えばASIC(Application Specific IC)等の集積回路などにより各処理(図12〜図16)を実行させることができる。さらに各処理がソフトウェアとハードウェアとの協働により実現される構成でもよい。
(変形例14)両面記録装置はシリアルプリンタに限定されず、ラインプリンタあるいはページプリンタに適用してもよい。また、記録方式についても、インクジェット方式に限定されず、ドットインパクト式プリンタや感熱式プリンタ、レーザープリンタなども採用できる。
前記実施形態及び変形例から把握される技術的思想を以下に記載する。
(1)前記駆動機構は複数備えられ、前記動力伝達切換手段は、前記接続位置及び前記切断位置に加え、前記接続位置における接続先として前記複数の駆動機構のうち一つを選択可能な選択位置にも切り換えられ、前記選択位置に切り換えられた状態で前記動力源が駆動されることで前記複数の駆動機構のうち一つが選択され、当該一つが選択された状態で前記接続位置に切り換えられることで、前記選択された一つの駆動機構に動力伝達可能に接続されるように構成され、前記切断位置では、前記複数の駆動機構のいずれとも接続しない状態で、前記動力源の動力が前記搬送手段及び前記反転手段へ伝達されるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一項に記載の両面記録装置。この発明によれば、動力伝達切換手段が切断位置にある状態では、動力源は複数の駆動機構のいずれとも接続されず、動力源の動力は搬送手段及び反転手段へ伝達される。動力伝達切換手段が選択位置に切り換えられた後、動力源が駆動されることで、複数の駆動機構のうち一つを動力伝達先として選択され、この一つが選択された状態で動力伝達切換手段が接続位置に切り換えられると、その選択された一つの駆動機構に動力源の動力が伝達可能になる。そして、第1面の記録終了後、第2面の記録が開始可能となるまでの待機中に、複数の駆動機構のうちどの駆動機構が駆動されたとしても、制御手段は、第2面の記録が開始可能となって動力源を駆動させるのに先立ち、動力伝達切換手段が切断位置にあるか否かの単純な情報から、切断位置になければエラーにすることで、動力源が駆動されて発生するフェイタルエラーを未然に防止することができる。
(2)報知手段(22)を備え、前記制御手段は前記報知手段にエラーを報知することを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一項に記載の両面記録装置。
11…両面記録装置としてのプリンタ、12…スキャナとしてのスキャナ部、13…プリンタ部、24…印刷開始スイッチ、25…コピースイッチ、26…キャンセルスイッチ、30…記録用移動機構を構成するガイド軸、31…記録手段を構成するキャリッジ、33…記録用移動機構を構成するタイミングベルト、34…第2動力源としてのCRモータ、35…記録手段を構成する記録ヘッド、34…CRモータ、39…動力源としてのPFモータ、40…搬送手段を構成する搬送ローラ対、40a…搬送手段を構成する搬送駆動ローラ、41…搬送手段を構成する排出ローラ対、41a…搬送手段を構成する駆動ローラ、42…駆動機構としてのAPG装置、43…反転手段としての反転ユニット、44…メンテナンス装置、44a…駆動機構及び移動機構としての昇降機構、45…可動部材としてのキャップ、47…可動部材としてのロック部材、50…動力伝達切換手段としての動力伝達切換装置、52…駆動機構としての給送装置、54…ピックアップローラ、56…分離手段、57…第1中間送りローラ、66…搬送手段を構成する駆動ローラ、68…搬送手段を構成するとともに搬送部としての第2中間送りローラ、80…反転ローラ、87…検出手段としての紙検出センサ、88…紙幅センサ、90…反転手段を構成する回転方向維持装置、99…駆動機構としての機構A、100…駆動機構としての機構B、101A〜101E…入力歯車、102…駆動歯車、103…動力伝達部、104…アーム部材、104b…第1係合歯部、106…第2遊星先歯車、107a…第2係合歯部、150…制御手段としての制御装置、171…制御手段を構成するCPU、174…記憶手段としてのRAM、176…第2情報としてのCRロックフラグ、177…切断位置にあるか否かの情報としての中間ポジションフラグ、182…計測手段としてのPFカウンタ、193…画像処理手段としての画像処理回路、P…記録媒体としての用紙、A…調整駆動量及び補正駆動量のステップ数。