JP5166689B2 - シリカ被覆炭素繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
ところが、アルミナや窒化アルミナなどの無機フィラーは、電気絶縁性を必要とする場合には熱伝導性に若干不満がある。フィラーによる熱伝導はフィラー微粒子同士の接触点において主に行われる。この接触点が熱伝導を律速している。アルミナや窒化アルミナなどの無機フィラーを用いた複合材では、無機フィラーが微粒子であるために、接触点における伝熱面積が小さく、且つ経由すべき接触点が多いので、無機フィラー自身が持っている高熱伝導性を大きく減殺して、複合材としては放熱性が不十分となってしまうのである。従って、放熱性の改良には、この接触点数を減らすために、例えば細い繊維状の放熱フィラーを用いることが望ましいことになる。
炭素繊維は、その高強度、高弾性率、高導電性、高熱伝導性等の優れた特性から各種の複合材料に使用されている。従来から応用されてきた優れた機械的特性ばかりでなく、炭素繊維あるいは炭素材料に備わった熱伝導性を生かし、近年のエレクトロニクス技術の発展やパソコン、携帯電話、携帯端末の小型化等により、電子デバイスや部品等からの放熱用のフィラー、電磁波シールド材、静電防止材用の導電性フィラーとして、あるいは自動車の軽量化に伴い樹脂への静電塗装のためのフィラーとしての用途が期待されてきている。また、炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性と微細構造との特徴を生かし、フラットディスプレー等の電界電子放出素材としての用途が期待されている。
有機系カーボンファイバーは、PAN、ピッチ、レーヨン、セルロース等の繊維を熱処理し炭化することによって得られる。有機系カーボンファイバーは、その原料となる有機繊維の糸径が5〜10μm程度であるので、比較的太くてアスペクト比が小さい。
気相法炭素繊維は、導電性や熱伝導性に優れ、比較的細くてアスペクト比が大きい。具体的には10〜200nm程度の径で、アスペクト比10〜500程度のものが量産化されている。そのために、気相法炭素繊維は、樹脂補強用フィラー、導電性あるいは熱伝導性フィラー、鉛蓄電池の添加材として利用されている。さらにVGCFは、形状や結晶構造に特徴があり、炭素六角網面の結晶が年輪状に円筒形に巻かれ積層した構造を示し、その中心部には極めて細い中空部を有する繊維である。
そこで、本出願人は、特許文献4において、炭素繊維を電気絶縁体で被覆することにより、熱伝導性に優れ且つ電気絶縁性を持つフィラーを提案し、具体例として、気相法炭素繊維を窒化ホウ素で被覆し、電気絶縁性と熱伝導性とを合わせ持つ炭素繊維を開示した。しかし、窒化ホウ素膜を作製するには、2000〜3000℃という高温での熱処理が必要である。
さらに、本発明の目的は、マトリックス中への分散性が高く、マトリックスとの接着性が高く、かつマトリックスとの無用な反応が抑制された、炭素繊維を提供することにある。
そして、本発明者ら、さらに鋭意検討した結果、実質的に均一な厚みのシリカ膜で炭素繊維を被覆することによって、高温熱処理を必要としない安価な製造工程によって、高い熱伝導性と電気絶縁性とを兼ね備え、マトリックス中への分散性が高く、マトリックスとの接着性が高く、かつマトリックスとの無用な反応が抑制された、炭素繊維が得られることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
(1)炭素繊維、及びその炭素繊維を被覆する実質的に均一な膜厚を持つシリカ膜、を含んでなるシリカ被覆炭素繊維、
(2)高熱伝導性である前記シリカ被覆炭素繊維。
(3)シリカ膜の平均厚が1000nm以下であることを特徴とする前記シリカ被覆炭素繊維、
(4)炭素繊維が気相法炭素繊維であることを特徴とする前記シリカ被覆炭素繊維、
(5)炭素繊維の格子定数C0値が、0.68nm以上であることを特徴とする前記シリカ被覆炭素繊維、
(6)炭素繊維が酸化処理をしたものであることを特徴とする前記シリカ被覆炭素繊維、
(7)炭素繊維が、質量減少率1〜10質量%になるまで空気中で加熱処理をしたものであることを特徴とする前記シリカ被覆炭素繊維、
(8)シラン系カップリング剤で処理したことを特徴とする前記シリカ被覆炭素繊維、
(9)水との接触角が3度以下であることを特徴とする前記シリカ被覆炭素繊維、及び/又は
(10)1150〜1250cm−1の赤外吸収スペクトルの吸収ピーク強度I1と1000〜1100cm−1の赤外吸収スペクトルの吸収ピーク強度I2との比I(=I1/I2)が0.2以上であり、かつ屈折率が1.435以上であるシリカ膜に被覆されたことを特徴とするシリカ被覆炭素繊維、が提供される。
(11)前記シリカ被覆炭素繊維を熱処理して得られることを特徴とする炭化珪素被覆炭素繊維が提供される。
(12)イ)珪酸、ロ)水、ハ)アルカリ、及びニ)有機溶媒を必須成分とするシリカ膜形成用組成物に炭素繊維を接触させることを特徴とするシリカ被覆炭素繊維の製造方法、
(13)炭素繊維と有機溶媒と水とアルカリとからなる懸濁液を調製し、この懸濁液に、溶媒で希釈したテトラアルコキシシランを添加することを特徴とするシリカ被覆炭素繊維の製造方法、及び/又は
(14)オルガノシロキサン類及びシリコーン樹脂から選ばれる1種以上の化合物を非気相状態で炭素繊維に被覆した後、酸素含有雰囲気中で600〜1000℃の温度にて加熱することを特徴とするシリカ被覆炭素繊維の製造方法、が提供される。
(15)前記炭素繊維と、マトリックスとからなる複合材料、
(16)マトリックスが樹脂であることを特徴とする前記複合材料、
(17)マトリックスが金属であることを特徴とする前記複合材料、及び/又は
(18)マトリックスがセラミックスであることを特徴とする前記複合材料が提供され、
(19)前記炭素繊維を含有することを特徴とする放熱材料、及び/又は
(20)熱伝導度が2W/(m・K)以上で、且つ体積固有抵抗が1010Ωcm以上であることを特徴とする放熱材料、が提供され、
(21)前記放熱材料を備えた電子機器が提供される。
そのため、本発明のシリカ被覆炭素繊維を含有する材料は、サーマルインターフェースマテリアルなどとして、電子機器、電子部品の廃熱管理のために好適に用いることができる。
本発明のシリカ被覆炭素繊維を構成する炭素繊維としては、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などの有機系カーボンファイバー;気相法炭素繊維などが挙げられる。これらのうち、特に、結晶性が高く、熱伝導性の高い、気相法炭素繊維が好ましい。気相法炭素繊維は、例えば、ベンゼン等の有機化合物を原料とし、触媒としてのフェロセン等の有機遷移金属化合物をキャリアーガスとともに高温の反応炉に導入し生成し、続いて熱処理して製造される(特開昭60−54998号公報、特許2778434号公報等参照)。その繊維径は、0.01〜0.5μmで、アスペクト比10〜500程度のものである。
熱分解物が付着していない炭素繊維又は炭素構造の結晶性が高い炭素繊維は、例えば、不活性ガス雰囲気下で、炭素繊維、好ましくは気相法炭素繊維を焼成(熱処理)することによって得られる。具体的には、熱分解物が付着していない炭素繊維は、約800〜1500℃でアルゴン等の不活性ガス中で熱処理することによって得られる。また、炭素構造の結晶性が高い炭素繊維は、約2000〜3000℃でアルゴン等の不活性ガス中で熱処理することによって得られる。なお、本発明ではシリカを被覆する工程で熱処理を行うので、原材料として用いる炭素繊維は、上記のような焼成(熱処理)を予め行った炭素繊維でなくてもよい。
本発明のシリカ被覆炭素繊維を構成するシリカ膜は、前記炭素繊維を被覆しており、実質的に均一な膜厚を持つものである。膜厚が実質的に均一であれば、膜厚を薄くしても繊維全体が被覆されており、絶縁性が保たれる。具体的には、膜厚分布が平均膜厚の±30%以内であることが好ましく、±10%以内であることがより好ましい。
液相堆積法は、イ)珪酸、ロ)水、ハ)アルカリ、及びニ)有機溶媒を必須成分とするシリカ膜形成用組成物を用いて炭素繊維上にシリカを析出させる方法である。
シリカ膜形成用組成物の一成分である珪酸は、例えば化学大辞典(共立出版(株) 昭和44年3月15日発行 第七刷)の『珪酸』の項に示される、オルト珪酸、及びその重合体である、メタ珪酸、メソ珪酸、メソ三珪酸、メソ四珪酸等である。
アルカリの添加量は、例えば、炭酸ナトリウムの場合0.002モル/リットル程度の微量添加で成膜可能であるが、1モル/リットル程度の大量の添加を行ってもかまわない。しかし、固形アルカリを溶解しない量添加すると、炭素繊維中に不純物として混入するので好ましくない。
本発明で用いられる有機溶媒には、特に制限はなく、工業用、あるいは試薬として広く一般に用いられているものでよいが、好ましくはより高純度のものが適している。
ここで、本発明者らは、炭素繊維と有機溶媒と水とアルカリにより懸濁液を作成した後、溶媒で希釈したテトラアルコキシシランを経時的に投入すると、緻密性の良好なシリカ膜を形成でき、これにより、工業的に有用な連続プロセスを構成できることも見いだした。
シリカ膜形成後、固・液の分離を行う。方法は濾過、遠心沈降、遠心分離等の一般的な分離法を用いることができる。
分離後、固形分を乾燥する。方法は自然乾燥、温風乾燥、真空乾燥、スプレードライ等の一般的な乾燥法を用いることができる。
ポリシロキサン法は、オルガノシロキサン類及びシリコーン樹脂から選ばれる1種以上の化合物を非気相状態で炭素繊維と接触させ、次いで酸素含有雰囲気中で600〜1000℃の温度で加熱して、炭素繊維表面にシリカ膜を形成する方法である。
好ましいオルガノシロキサン類又はシリコーン樹脂は、メチルハイドロジェンポリシロキサンやジメチルポリシロキサンであり、より好ましくはメチルハイドロジェンポリシロキサンである。さらに、これらの化合物の中でも、珪素原子数が8〜100の範囲にあるものが、均一処理に優れるために特に好ましい。
接触方法として、例えば、アルコール、塩化メチレン、トルエン、水、揮発性シリコーン等の溶媒中で、炭素繊維と、オルガノシロキサン類及びシリコーン樹脂から選ばれる1種以上の化合物を混合し、よく撹拌・分散し、次いで溶媒を除去する方法(湿式法);炭素繊維と、オルガノシロキサン類及びシリコーン樹脂から選ばれる1種以上の化合物をミキサーなどの混合装置を用いて混合する方法(乾式法)とがある。
また、本発明のシリカ被覆炭素繊維は、シラン系カップリング剤で処理したものであることが好ましい。
接触角が小さいこと、あるいはシラン系カップリング剤で処理したことによって、後述するマトリックスとの密着性が良くなり、良好な複合材料を得やすくなる。
本発明のシリカ被覆炭素繊維を熱処理することにより、炭素とシリカが反応して、炭化珪素被覆炭素繊維を得ることができる。炭化珪素(熱伝導率100Wm−1k−1)はシリカ(熱伝導率15Wm−1k−1)に比べて熱伝導率が高いので、より高い熱伝導性を持ったフィラーが得られる。また、シリカ膜と炭素繊維が反応するので原子の相互拡散が起こり膜が剥離しにくくなる。
本発明の複合材料は、前記本発明のシリカ被覆炭素繊維、又は炭化珪素被覆炭素繊維(以下、これらを併せて「シリカ被覆炭素繊維等」という。)と、マトリックスとからなるものである。
樹脂としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のどちらも使用することができ、特に制限はない。
熱可塑性樹脂としては、成形分野で使用される樹脂であれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル(LCP)等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテンー1(PB−1)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC),ポリメチレメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルフォン(PSU)、ポリエーテルスルフォン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール(ノボラック型など)フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー等やこれらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂でもよい。
また、マトリックスには、あらゆる金属が使用できる。例えば、アルミ、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、白金、金、銀など、およびこれらの合金を使用できる。特に複合化の際に炭素と化合物を形成するような金属、例えばアルミは、炭素繊維の強度を維持する上で有効である。
また、本発明の複合材料又は放熱材料は、その熱伝導率が、好ましくは2W/(m・K)以上、より好ましくは5W/(m・K)以上である。熱伝導率の測定は、JIS A−1412の平板比較法、円筒法、平板直接法やレーザーフラッシュ法などの非定常法で行うことができる。
さらに、本発明の複合材料又は放熱材料は、絶縁性が要求される用途では、その体積固有抵抗が、1010Ωcm以上であることが好ましく、1014Ωcm以上であることがより好ましい。体積固有抵抗の測定は、4探針法で測定することができる。
本発明の複合材料又は放熱材料は、電気絶縁性にも優れているので、これら用途のうち、電子機器に好適である。
1000ミリリットルビーカーに水106ミリリットル、エタノール(純正化学製)480ミリリットルおよび29%アンモニア水20ミリリットル(純正化学製)を仕込み混合した。その混合液に炭素繊維(昭和電工製:平均繊維径150nm、気相法炭素繊維)28グラムを分散させ、懸濁液1を調製した。
別に、テトラエトキシシラン(ナカライテスク製)105ミリリットルと水39.5ミリリットルとエタノール65.5ミリリットルとを混合し、溶液1を調製した。
KBr法により、シリカ被覆炭素繊維の透過赤外吸収スペクトル(日本分光製FT−IR−8000)を測定したところ、1000〜1200cm−1にSi−O−Si伸縮振動由来の吸収が観測されたが、2800〜3000cm−1にCーH伸縮振動由来の吸収は観測されず、生成した被膜がシリカであることが同定された。
シリカ膜の平均厚は、無作為に選択した5箇所の平均で20nmであり、測定値は全て平均膜厚の±10%の範囲にあった。
実施例1で得られたシリカ被覆炭素繊維40部とポリエチレンテレフタレート60部とを混合して、複合材料を調製した。複合材料中の炭素繊維はマトリックス中に無秩序に(すなわち無配向に)分散していた。この複合材料の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法による測定で2Wm−1K−1であった。また、体積固有抵抗は2x1015Ωcmであった。
気相法炭素繊維(昭和電工製:平均繊維径150nm)92部と、メチルハイドロジェンポリシロキサン(KF−99P、信越化学工業社製)8部とをイソプロピルアルコール(IPA)中に投入しよく撹拌した。次いで該液を減圧下に加熱してIPAを除去した。固形分を高温焼成炉を用いて空気中で800℃で2時間加熱処理し、目的とするシリカ被覆炭素繊維を得た。但し、高温焼成炉は、被焼成物を投入後、室温から連続的に昇温させ、800℃で2時間維持した後、空冷によって冷やした。
得られたシリカ被覆炭素繊維のシリカ膜の平均厚は、無作為に選択した5箇所の平均で15nmであり、測定値は全て平均膜厚の±30%の範囲にあった。
気相法炭素繊維(昭和電工製:平均繊維径150nm)95部を攪拌し、それにメチルハイドロジェンポリシロキサン(KF−9901、信越化学工業社製)5部をスプレー散布した。次いで180℃にて1時間予備加熱処理した。さらに、高温焼成炉を用いて空気中で700℃で1時間加熱処理し、目的とするシリカ被覆炭素繊維を得た。
得られたシリカ被覆炭素繊維のシリカ膜の平均厚は、無作為に選択した5箇所の平均で10nmであり、測定値は全て平均膜厚の±30%の範囲にあった。
Claims (2)
- 炭素繊維と有機溶媒と水とアルカリとからなる懸濁液を調製し、この懸濁液に、溶媒で希釈したテトラアルコキシシランを添加することを特徴とするシリカ被覆炭素繊維の製造方法。
- オルガノシロキサン類及びシリコーン樹脂から選ばれる1種以上の化合物を非気相状態で炭素繊維に被覆した後、酸素含有雰囲気中で600〜1000℃の温度にて加熱することを特徴とするシリカ被覆炭素繊維の製造方法。
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