本発明の電動機システムの制御装置の一実施形態を図1〜図7を参照して説明する。まず、図1を参照して、本実施形態の電動機システムに備えた電動機の要部の機構的な構成を説明する。図1は、該電動機の要部を該電動機の軸心方向で見た図である。
この電動機1は、2重ロータ構造のDCブラシレスモータであり、出力軸2、外ロータ3、および内ロータ4を同軸に備える。外ロータ3および内ロータ4はそれぞれ本発明における第1ロータ、第2ロータに相当する。外ロータ3の外側には、電動機1のハウジング(図示省略)に固定されたステータ5を有し、このステータ5には図示を省略する電機子巻線(3相分の電機子巻線)が装着されている。なお、電動機1は、例えば、図示しないハイブリッド車両や電動車両の推進力発生源として該車両に搭載される。
外ロータ3は環状に形成されており、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石6を備える。本実施形態では、この永久磁石6は、長尺の方形板状に形成されており、その長手方向を外ロータ3の軸方向に向け、且つ、法線方向を外ロータ3の径方向に向けた状態で、外ロータ3に埋め込まれている。
内ロータ4も環状に形成されている。この内ロータ4は、外ロータ3の内側に該外ロータ3と同軸に配置されている。そして、この内ロータ4の軸心部を、該内ロータ4および外ロータ3と同軸に出力軸2が貫通している。
この場合、出力軸2は、内ロータ4の軸方向の一端側または両側に設けられる図示しない連結部材を介して外ロータ3に連結されており、外ロータ3と一体に回転可能とされている。そして、内ロータ4は、該外ロータ3および出力軸2に対して相対回転可能に設けられ、この相対回転によって、両ロータ3,4間の位相差が変更可能とされている。
また、内ロータ4は、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石8を備える。本実施形態では、この永久磁石8は、外ロータ3の永久磁石6と同形状で、外ロータ3の場合と同様の形態で、内ロータ4に埋め込まれている。そして、永久磁石8の個数は、外ロータ3の永久磁石6と同じである。
なお、本実施形態では、外ロータ3および内ロータ4は円筒型であるので、非突極型のロータである。
ここで、図1において、外ロータ3の永久磁石6のうちの白抜きで示す永久磁石6aと、点描を付した永久磁石6bとは、外ロータ3の径方向における磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石6aは、その外側(外ロータ3の外周面側)の面がN極、内側(外ロータ3の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石6bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。同様に、内ロータ4の永久磁石8のうちの白抜きで示す永久磁石8aと、点描を付した永久磁石8bとは、内ロータ4の径方向での磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石8aは、その外側(内ロータ4の外周面側)の面がN極、内側(内ロータ4の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石8bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。
そして、本実施形態では、外ロータ3においては、互いに隣り合された永久磁石6a,6aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石6b,6bの対とが、外ロータ3の周方向に交互に配列されている。同様に、内ロータ4においては、互いに隣り合された永久磁石8a,8aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石8b,8bの対とが、内ロータ4の周方向に交互に配列されている。
以上のように構成された電動機1にあっては、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させ、両ロータ3,4間の位相差(以下、ロータ間位相差θdという)を変化させることで、内ロータ4の永久磁石8a,8bによって発生する界磁磁束と外ロータ3の永久磁石6a,6bによって発生する界磁磁束とを合成してなる合成界磁磁束の強さ(ステータ5に向かう径方向の磁束の強さ)が変化することとなる。以降、その合成界磁磁束の強さが最大となる状態を界磁最大状態、該合成界磁磁束の強さが最小となる状態を界磁最小状態という。
図2(a)は界磁最大状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図であり、図2(b)は界磁最小状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図である。
図2(a)に示す如く、界磁最大状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが異極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最大状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6aに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6bに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6a,6bのそれぞれの磁束Q2の向きとが同一となるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁磁束の強さ)が最大となる。
また、図2(b)に示す如く、界磁最小状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが同極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最小状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6bに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6aに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6b,6aのそれぞれの磁束Q2の向きとが逆向きとなるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁磁束の強さ)が最小となる。
本実施形態では、前記内ロータ4は、外ロータ3に対して、前記合成界磁磁束が界磁最大状態となる回転位置と、界磁最小状態となる回転位置との間の範囲内で相対回転可能とされている。その相対回転可能範囲、すなわち、ロータ間位相差θdの変更可能範囲は、例えば電気角で180[deg]の範囲である。なお、その範囲の境界は、例えば、内ロータ4と一体に回転可能な部材と、外ロータ3と一体に回転可能な部材との接触などによって機構的に規定される。
そして、本実施形態では、前記界磁最大状態におけるロータ間位相差θdを0[deg]、前記界磁最小状態におけるロータ間位相差θdを180[deg]と定義する。ただし、最大界磁状態におけるロータ間位相差θdを0[deg]と定義する必要はなく、ロータ間位相差θdの零点やスケールは、任意に設定してよい。
上記のようにロータ間位相差θdを変化させて、合成界磁磁束の強さを増減させることにより、電動機1の誘起電圧定数Keが変化することとなる。該誘起電圧定数Keは、電動機1の出力軸2の角速度と、この角速度に応じて電機子に生じる誘起電圧(実効値)との関係を規定する比例定数である。図3は、本実施形態の電動機1の誘起電圧定数Keと、ロータ間位相差θdとの関係を例示するグラフである。図示のように、電動機1の誘起電圧定数Keの値は、ロータ間位相差θdを0[deg]から180[deg]まで増加させていくに伴い、小さくなる。これは、θdの増加に伴い、合成界磁磁束の強さが弱くなり、ひいては、出力軸2の回転角速度を一定とした場合における電機子の誘起電圧(逆起電圧)が小さくなるからである。従って、誘起電圧定数Keの値は、合成界磁磁束の強さの程度を示す指標となり、該合成界磁磁束の強さが大きいほど、誘電電圧定数Keの値が大きくなる。
補足すると、前記永久磁石6,8の配列形態は、他の形態であってもよい。例えば、外ロータ3に備える方形板状の複数の永久磁石を、その法線方向(厚み方向)を外ロータ3の周方向に向けた状態で、該外ロータ3の周方向に等角度間隔で配列すると共に、該外ロータ3の周方向で互いに隣り合う2つの永久磁石の互いに対向する面の磁極が同極となるように(互いに隣り合う2つの永久磁石の磁化の向きが外ロータ3の周方向で互いに逆向きになるように)してもよい。また、ロータ間位相差θdの変更可能範囲は、必ずしも電気角で180[deg]の範囲である必要はなく、それよりも大きいか、もしくは小さい範囲であってもよい。
また、本実施形態では、電動機1の出力軸2と外ロータ3とが一体に回転するように構成したが、出力軸と内ロータとが一体に回転するようにして、これらの出力軸および内ロータに対して外ロータが相対回転し得るように構成してもよい。
次に図4を参照して、前記電動機1のロータ間位相差θdを変化させる位相差変更駆動手段と、該電動機1および位相差変更駆動手段の動作制御を行う制御装置とを説明する。図4は、該制御装置の機能的構成を示すブロック図である。この場合、図4には、電動機1と位相差変更駆動手段とを簡略化して図示している。
図4を参照して、本実施形態の電動機システムは、電動機1の内ロータ4を外ロータ3に対して相対回転させる駆動力を両ロータ3,4間に付与する位相差変更駆動手段10を備える。詳細な図示は省略するが、この位相差変更駆動手段10は、駆動力を発生するアクチュエータ11と、このアクチュエータ11の駆動力を両ロータ3,4間に伝達する位相可変機構12とから構成される。
このような位相差変更駆動手段10は、例えば、前記特許文献2に示したような油圧装置により構成することができる。この場合、前記位相可変機構12は、内ロータ4の内周面と出力軸2の外周面との間の空間に油室を形成し、その油室の体積の増減に連動してロータ間位相差θdが変化するように構成される。そして、その油室に対する作動油の供給・排出を行う油圧源装置(ポンプ、圧力制御弁などを含む装置)が前記アクチュエータ11として電動機1の外部に備えられる。
あるいは、位相差変更駆動手段10を、例えば、前記特許文献1に示したような装置により構成してもよい。この場合、位相可変機構12は、遊星歯車機構により構成され、この遊星歯車機構に回転駆動力を入力する電動式または油圧式のロータリアクチュエータが前記アクチュエータ11として電動機1の外部に備えられる。
かかる位相差変更駆動手段10および前記電動機1を備える本実施形態の電動機システムの動作制御を行う制御装置50は、基本的には、いわゆるd−qベクトル制御により電動機1の電機子巻線の通電を制御する。すなわち、制御装置50は、電動機1を、界磁方向(前記合成界磁磁束の方向)をd軸としてd軸と直交する方向をq軸とする座標系であるd−q座標系での等価回路に変換して取り扱う。その等価回路は、d軸上の電機子(以下、d軸電機子という)と、q軸上の電機子(以下、q軸電機子という)とを有する。d−q座標系は、電動機1の出力軸2に対して固定された回転座標系である。そして、制御装置50は、外部から与えられるトルク指令値Tr_c(電動機1の出力トルクの目標値)のトルクを電動機1の出力軸2に発生させるように電動機1の電機子巻線(3相分の電機子巻線)の通電電流を制御する。また、制御装置50は、この通電制御と並行して、電動機1の誘起電圧定数Keを所要の目標値に一致させるように、ロータ間位相差θdを前記位相差変更駆動手段10を介して制御する。
これらの制御を行なうために、本実施形態の電動機システムには、電動機1の電機子巻線の3相のうちの2つの相、例えばU相およびW相のそれぞれの電流を検出する電流検出手段としての電流センサ41,42と、電動機1の出力軸2または外ロータ3の回転角度(電動機1のステータ5に対して固定された座標系での回転角度)を検出する回転角度検出手段としてのレゾルバ43とが備えられている。そして、それらの電流センサ41,42およびレゾルバ43の出力(検出値)が制御装置50に入力される。以降、電流センサ41で検出されたU相電機子巻線の電流値をU相電流検出値Iu_s、電流センサ42で検出されたW相電機子巻線の電流値をW相電流検出値Iw_s、レゾルバ43で検出された出力軸2の回転角度(=外ロータ3の回転角度)の値を角度検出値θm_sという。
制御装置50は、CPU、メモリ等を含む電子回路ユニットであり、その制御処理が所定の演算処理周期で逐次実行される。以下に、制御装置50の機能的な手段を具体的に説明する。
制御装置50は、レゾルバ43による角度検出値θm_sを微分することで、電動機1の出力軸2の回転速度(=外ロータ3の回転速度)の検出値(観測値)としての速度検出値Nm_sを求める回転速度算出部51と、電動機1の各相の電機子巻線の通電電流をインバータ回路(図示省略)を介して制御する通電制御部52とを備える。なお、回転速度算出部51が求める速度検出値Nm_sは、本実施形態では、出力軸2の機械角での回転速度の検出値であるが、これに電動機1の極対数を乗じることによって、電気角での回転速度の検出値を求めるようにしてもよい。また、前記通電制御部52は、本発明における通電制御手段に相当する。
通電制御部52は、前記電流センサ41,42によるU相電流検出値Iu_sおよびW相電流検出値Iw_sと、前記レゾルバ43による角度検出値θm_sとから、3相−dq変換により、d軸方向の電流成分としてのd軸電機子の電流(以下、d軸電流という)の検出値Id_sとq軸方向の電流成分としてのq軸電機子の電流(以下、q軸電流という)の検出値Iq_sを算出する3相−dq変換部61を備える。なお、3相−dq変換は、U相電流検出値Iu_sと、W相電流検出値Iw_sと、これらから求められるV相電流検出値(=−Iu_s−Iw_s)との組を、角度検出値θm_s(より詳しくは電気角での出力軸2の回転角度)に応じた変換行列によりd軸電流の検出値Id_sとq軸電流の検出値Iq_sとの組に変換する処理である。
また、通電制御部52は、d軸電流の指令値であるd軸電流指令値Id_cとq軸電流の指令値であるq軸電流指令値Iq_cとを決定する電流指令算出部62と、d軸電流指令値Id_cを補正するための補正値ΔIdaを求める界磁制御部63と、この補正値ΔIdaによりd軸電流指令値Id_cを補正したもの(Id_c+ΔIda)とd軸電流の検出値Id_sとの偏差ΔId(=Id_c+ΔIda−Id_s。以下、d軸電流偏差ΔIdという)を求める演算部64と、q軸電流指令値Iq_cを補正するための補正値ΔIqaを求める電力制御部65と、この補正値ΔIqaによりq軸電流指令値Iq_cを補正したもの(Iq_c+ΔIqa)とq軸電流の検出値Iq_sとの偏差ΔIq(=Iq_c+ΔIqa−Iq_s。以下、q軸電流偏差ΔIqという)を求める演算部66とを備える。本実施形態では、上記Id_c+ΔIda、Iq_c+ΔIqaが、それぞれ、d軸電流の目標値、q軸電流の目標値に相当する。
ここで、電流指令算出部62には、制御装置50に外部から与えられるトルク指令値Tr_cと、前記回転速度算出部51で求められた速度検出値Nm_sと、後述するKe推定部53で求められた電動機1の実際の誘起電圧定数Keの推定値Ke_e(以下、誘起電圧定数推定値Ke_eという)とが入力される。そして、電流指令算出部62は、これらの入力値から、あらかじめ設定されたマップに基づいて、前記d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cを決定する。このd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cは、トルク指令値Tr_cのトルクを電動機1の出力軸2に発生させるためのd軸電流およびq軸電流のフィードフォワード指令値としての意味を持つ。
なお、トルク指令値Tr_cは、例えば電動機1を推進力発生源として搭載した車両(ハイブリッド車両や電動車両)のアクセル操作量(アクセルペダルの踏み込み量)や走行速度に応じて決定される。また、トルク指令値Tr_cには、力行トルクの指令値と回生トルクの指令値とがあり、それらの指令値は、正負の極性が異なるものとされる。
また、前記界磁制御部63で決定される補正値ΔIdaは、d軸電機子の電圧とq軸電機子の電圧との合成ベクトルの大きさが電動機1の電源電圧Vdc(より詳しくは、インバータ回路の電源電圧)に応じた電圧円内に収まるようにするためのd軸電流の操作量(フィードバック操作量)を意味する。この補正値ΔIdaは、後述する電流フィードバック制御部67で決定されたd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_c(前回の演算処理周期で決定された値)と、電源電圧Vdcの値とに応じて決定される。例えば、前回の演算処理周期で決定されたVd_cおよびVd_qの合成ベクトルの大きさと、電源電圧Vdcに応じて決定した目標値(電圧円の半径)との偏差に応じて、適宜のフィードバック制御則により、補正値ΔIdaが決定される。
また、前記電力制御部65で決定される補正値ΔIqaは、、電動機1の運転時における前記永久磁石6,8の温度変化と電機子の温度変化とが、電動機1の出力トルクに及ぼす影響を補償するためのものである。永久磁石6,8の温度が変化すると、一般には、ロータ間位相差θdが一定であっても電動機1の誘起電圧定数Keが変化し、また、電機子巻線の抵抗が変化する。このため、q軸電流指令値Iq_cが一定であっても、永久磁石6,8や電機子の温度変化の影響で、電動機1の出力トルクが変化する。そこで、本実施形態では、この影響をq軸電流補正値ΔIq_aにより補償する。このq軸電流補正値ΔIq_aは、U相電流検出値Iu_sまたはW相電流検出値Iw_sのサンプリング値から推定される電機子巻線の抵抗や、後述するKe推定部53で求められた誘起電圧定数推定値Ke_e等に基づいて決定される。なお、電力制御部65は省略してもよい。その場合には、前記演算部66の処理では、q軸電流指令値Iq_cと、q軸電流の検出値Iq_sとの偏差(=Iq_c−Iq_s)をq軸電流偏差ΔIqとして求めるようにすればよい。
通電制御部52はさらに、前記演算部64,66でそれぞれ求められたd軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqに応じて、d軸電機子の電圧指令値(d軸電圧の目標値)であるd軸電圧指令値Vd_cと、q軸電機子の電圧指令値(q軸電圧の目標値)であるq軸電圧指令値Vq_cとを決定する電流フィードバック制御部(電流FB制御部)67を備える。この電流フィードバック制御部67は、d軸電流偏差ΔIdに応じて、該偏差ΔIdを0に近づけるようにPI制御則(比例・積分制御則)などのフィードバック制御則によりd軸電圧指令値Vd_cを決定する。同様に、電流フィードバック制御部68は、q軸電流偏差ΔIqに応じて、該偏差ΔIqを0に近づけるようにPI制御則などのフィードバック制御則によりq軸電圧指令値Vq_cを決定する。
なお、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとを決定するとき、d軸電流偏差ΔId、q軸電流偏差ΔIqからフィードバック制御則によりそれぞれ求められるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に、d軸とq軸との間で干渉し合う速度起電力の影響を打ち消すための非干渉成分を付加することで、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cを求めることが好ましい。
さらに、通電制御部52は、電流フィードバック制御部67で決定したd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cと、前記レゾルバ43による電動機1の出力軸2の角度検出値θm_sとから、dq−3相変換によりU相、V相、W相の各相の相電圧指令値Vu_c,Vv_c,Vw_cを求めるdq−3相変換部68と、これらの相電圧指令値Vu_c,Vv_c,Vw_cに応じて、電動機1の各相の電機子巻線にPWM制御によりインバータ回路(図示省略)を介して通電するPWM制御部69とを備える。この場合、PWM制御部69は、インバータ回路の各スイッチング素子のON・OFFを制御することで、各相の電機子巻線に通電する。なお、dq−3相変換は、d軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cの組を、角度検出値θm_s(より詳しくは電気角での出力軸2の回転角度)に応じた変換行列により相電圧指令値Vu_c,Vv_c,Vw_cの組に変換する処理である。
以上説明した通電制御部52の機能によって、d軸電圧とq軸電圧との合成電圧が、電源電圧Vdcに応じた目標値(前記電圧円の半径)を超えないようにしつつ、電動機1の出力軸2に発生するトルク(電動機1の出力トルク)をトルク指令値Tr_cに従わせるように(ΔId,ΔIqが0に収束するように)、d軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cの組が決定される。そして、このd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cに応じて、電動機1の各相の電機子巻線の通電電流が制御される。
制御装置50は、前記回転角度算出部51および通電制御部52のほか、前記誘起電圧定数推定値Ke_sを求めるKe推定部53と、電動機1の誘起電圧定数の目標値である誘起電圧定数指令値Ke_cを決定するKe指令算出部54と、誘起電圧定数推定値Ke_sを誘起電圧定数指令値Ke_sに一致させるように前記位相差変更駆動手段10を制御する位相差制御部55とを備える。
なお、本実施形態では、本発明における「特性パラメータ」として、誘起電圧定数Keを用いる。従って、Ke指令算出部54で決定される誘起電圧定数指令値Ke_cは、本発明における特性パラメータの目標値に相当する。また、Ke推定部53で求められる誘起電圧定数推定値Ke_eは、本発明における特性パラメータの推定値に相当する。そして、Ke指令算出部54と位相差制御部55とから本発明におけるロータ間位相差制御手段が実現され、Ke推定部53により、本発明における特性パラメータ推定手段が実現される。
Ke指令算出部54には、前記トルク指令値Tr_cと、速度検出値Nm_sと、電動機1の電源電圧Vdcの値とが逐次入力される。そして、Ke指令算出部54は、これらの入力値Tr_c,Nm,Vdcからあらかじめ設定されたマップに従って、電動機1の誘起電圧定数指令値Ke_cを逐次決定する。
この場合、上記マップは、例えば、電動機1の実際の誘起電圧定数が該マップにより決定される誘起電圧定数指令値Ke_cに一致しているときに、トルク指令値Tr_cと速度検出値Nm_sと電源電圧Vdcの値との組に対して、電動機1のd軸電圧とq軸電圧との合成電圧(ベクトル和)の大きさが電源電圧Vdcに応じた電圧円内に収まるようにしつつ、電動機1のエネルギー効率(入力エネルギーに対する出力エネルギーの割合)をできるだけ高めることができるように設定されている。
ここで、一般的には、誘起電圧定数を小さくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを大きくするほど)、電動機1の出力軸2をより高速域で回転させることが可能となると共に、電動機1のエネルギー効率が高効率となる領域を高速回転側にずらすことができる。また、誘起電圧定数を大きくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを小さくするほど)電動機1の出力トルクを大きくすることができる。従って、誘起電圧定数指令値Ke_cは、上記のような電動機1の特性と、電動機1の要求される運転形態とを考慮して設定すればよく、種々様々な設定の仕方が可能である。
本実施形態では、Ke指令算出部54では、速度検出値Nm_sと電源電圧Vdcの値とを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、トルク指令値Tr_cの絶対値|Tr_c|が大きくなるほど、Ke_cの値が大きくなるように設定される。
また、トルク指令値Tr_cと電源電圧Vdcの値とを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、速度検出値Nm_sが高速となる領域で、該速度検出値Nm_sが大きくなるほど、Ke_cの値が小さくなるように設定される。また、トルク指令値Tr_cと速度検出値Nm_sとを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、電源電圧Vdcの値が小さくなるほど、Ke_cの値が小さくなるように設定される。
補足すると、誘起電圧定数指令値Ke_cを設定するとき、電動機1の過熱防止などの要求を考慮して設定してもよい。
前記Ke推定部53には、誘起電圧定数Keを推定するために用いる電動機1の所定種類の複数の状態量として、前記電流フィードバック制御部67で決定されたq軸電圧指令値Vq_cと、前記3相−dq変換部61で求められたd軸電流検出値Id_sおよびq軸電流検出値Iq_sと、前記回転速度算出部51で求められた速度検出値Nm_sと、Ke指令算出部54で決定された誘起電圧定数指令値Ke_cと、前記トルク指令値Tr_cとが逐次入力される。そして、Ke推定部53は、これらの入力値Vq_c、Id_s、Iq_s、Nm_s、Ke_c、Tr_cから誘起電圧定数推定値Ke_eを求める。
ここで、電動機1の鉄損が無い場合には、電動機1のd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとd軸電流Idとq軸電流Iqと誘起電圧定数Keとの間には、一般に、次の関係式(1)が成立する。なお、ωは電動機1の出力軸2の電気角での回転角速度、Rは電機子巻線の抵抗、Ldはd軸電機子のインダクタンスである。
Ke・ω+R・Iq=Vq−ω・Ld・Id ……(1)
従って、電動機1の鉄損が無い場合には、上記式(1)を変形した次式(2)により、誘起電圧定数Keを精度よく推定することが可能である。
Ke=(Vq−ω・Ld・Id−R・Iq)/ω ……(2)
一方、電動機1の鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損とからなる。そして、ヒステリシス損は、電動機1の出力軸2の回転周波数に比例し、渦電流損は電動機1の出力軸2の回転周波数の2乗に比例する。このため、これらのヒステリシス損と渦電流損との総和の鉄損は、電動機1の出力軸2の回転速度に応じて変化する。
図5のグラフは、該回転速度と鉄損との関係を例示するグラフである。図示のように、電動機1の鉄損は、出力軸2の回転速度が比較的高い高速域で、急激に増加する。なお、図5に示す3つのグラフは、それぞれ、電動機1の実際の誘起電圧定数Keが互いに異なるものとなっている。
前記式(1)の関係式は、電動機1の鉄損の影響が考慮されていないので、電動機1の鉄損が比較的大きなものとなる状態では、前記式(2)により算出される誘起電圧定数Keの値の誤差が大きくなる。そこで、本実施形態では、式(2)の演算により算出される誘起電圧定数Keの値を該誘起電圧定数Keの基本推定値とし、この基本推定値に、鉄損に起因する推定誤差を低減するための補正を施すことによって、誘起電圧定数推定値Ke_eを求める。
図6は、本実施形態におけるKe推定部53の処理機能を示すブロック図である。図示のように、Ke推定部53は、前記式(2)の右辺の演算によって、誘起電圧定数Keの基本推定値Ke_ebを算出するKe基本推定値演算部53aと、その基本推定値Ke_ebを補正するKe補正部53bとから構成される。そして、本実施形態では、Ke補正部53bは、基本推定値Ke_ebを補正するための補正値ΔKeを求めるKe補正値演算部53cと、この補正値Keを基本推定値Ke_ebに加算することで、該基本推定値Ke_ebを補正する補正演算部53dとから構成される。
なお、Ke基本推定値演算部53aは、本発明における基本推定値演算手段に相当し、Ke補正部53bは、本発明における補正手段に相当する。
この場合、Ke基本推定値演算部53aは、Ke推定部53に入力される電動機1の複数の状態量の値(Vq_c、Id_s、Iq_s、Nm_s、Ke_c、Tr_c)のうち、式(2)の右辺の演算に必要な状態量の値として、電機子巻線の電圧の観測値としてのq軸電圧指令値Vq_cと、電機子巻線の電流の観測値としてのd軸電流検出値Id_sおよびq軸電流検出値Iq_sと、出力軸2の回転速度の観測値としての速度検出値Nm_sとを取得する。そして、Ke基本推定値演算部53aは、入力されたVd_c、Id_s、Iq_sをそれぞれ式(2)の右辺のVd、Id、Iqの値として用いると共に、入力されたNm_sに対応する電気角速度(Nm_sに電動機1の極対数を乗じてなる値)を式(2)の右辺のωの値として用いることによって、式(2)の右辺の演算を行う。これにより、Ke基本推定値演算部53aは、誘起電圧定数推定値Ke_eの基本推定値Ke_ebを算出する。
なお、本実施形態では、式(2)の右辺のR,Ldの値としては、あらかじめ定められた値(固定値)が用いられる。ただし、Rの値を、例えばU相電流検出値Iu_sもしくはW相電流検出値Iw_sのサンプリング値から推定するようにしてもよい。また、Ldの値を、d軸電流指令値Id_cからあらかじめ定められたテーブルなどにより可変的に設定するようにしてもよい。
また、Ke補正部53bのKe補正値演算部53cには、前記補正値ΔKeを求めるために、電動機1の鉄損と相関性を有する電動機1の状態量の値として、出力軸2の回転速度の観測値としての前記速度検出値Nm_sと、誘起電圧定数Keの目標値としての誘起電圧定数指令値Ke_cと、電動機1の出力トルクの目標値としてのトルク指令値Tr_cとが入力される。
ここで、電動機1の鉄損は、前記したように、電動機1の出力軸2の回転速度に応じて変化するだけでなく、電動機1のステータ5(より詳しくは電機子巻線を装着した磁性体)における最大磁束密度にも依存し、該最大磁束密度が大きいほど、鉄損(ヒステリシス損および渦電流損の両者)が増加する。そして、上記最大磁束密度は、主に、前記両ロータ3,4の永久磁石6,8の合成界磁磁束の強さの影響を受け、その合成界磁磁束の強さは、前記ロータ間位相差θdに応じて、あるいは、該ロータ間位相差θdに対応する誘起電圧定数Keに応じて変化する。この場合、ロータ間位相差θdが小さいほど(電動機1の誘起電圧定数Keが大きいほど)、前記合成界磁磁束の強さが大きくなり、ひいては、前記最大磁束密度も大きくなる。このため、電動機1の鉄損は、前記図5のグラフに示される如く、電動機1の出力軸2の回転速度(速度検出値Nm_s)を一定とした場合、電動機1の誘起電圧定数Keが大きいほど(ロータ間位相差θdが小さいほど)、大きくなる。
さらには、前記最大磁束密度は、電機子巻線の通電によって発生する磁束の影響も受け、その磁束の強さは電動機1の出力トルク、あるいは、その出力トルクを発生させるために電機子巻線に流す電流(特に前記q軸電流)に応じて変化する。この場合、電動機1の出力トルク、あるいは、その出力トルクを発生させるために電機子巻線に流す電流が大きいほど、前記最大磁束密度、ひいては、前記鉄損が大きくなる。
そこで、本実施形態では、電動機1の鉄損と相関性を有する電動機1の状態量として、前記速度検出値Nm_sと、誘起電圧定数指令値Ke_cと、トルク指令値Tr_cとをKe補正値演算部53cに入力する。そして、該Ke補正値演算部53cは、これらの状態量の入力値から、あらかじめ設定されたマップに基づいて前記補正値ΔKeを求める。
図7(a),(b)は、そのマップを代表的に例示するグラフである。本実施形態では、誘起電圧定数指令値Ke_cの複数種類の値をあらかじめ定めておき、その各種類の値の誘起電圧定数指令値Ke_c毎に、速度検出値Nm_sおよびトルク指令値Tr_cの組と、補正値ΔKeとの関係を規定するマップ(二次元マップ)が用意されている。図7(a),(b)はそれぞれ、誘起電圧定数指令値Ke_cの値が、ある2種類の値Ke_c1、Ke_cn(Ke_c1>Ke_cn)である場合のマップを代表的に例示している。この場合、各マップにおいては、速度検出値Nm_sが大きいほど、また、トルク指令値Tr_cが大きいほど、補正値ΔKe(>0)が大きくなるように、Nm_sおよびTr_cの組と、ΔKeとの関係が設定されている。また、これらのマップは、Nm_sおよびTr_cの組を一定とした場合、誘起電圧定数指令値Ke_cの値が大きいほど(ロータ間位相差θdが小さいほど)、ΔKeが大きくなるように設定されている。
Ke補正値演算部53cは、入力された速度検出値Nm_sと、誘起電圧定数指令値Ke_cと、トルク指令値Tr_cとから、上記のように設定されたマップを基に、補正値ΔKeを求める。
そして、このようにしてKe補正値演算部53cにより求められた補正値ΔKeと、前記Ke基本推定値演算部53aにより算出された基本推定値Ke_ebが補正演算部53dに入力される。そして、該補正演算部53dは、基本推定値Ke_ebに補正値ΔKeを加算することで、基本推定値Ke_ebを補正し、これにより、誘起電圧定数推定値Ke_e(=Ke_eb+ΔKe)を求める。
以上説明したKe推定部53の処理が逐次実行され、誘起電圧定数推定値Ke_eが逐次求められる。なお、本実施形態では、Ke補正値演算部53cは、基本推定値Ke_ebに加算する補正値ΔKeを求めるようにしたが、基本推定値Ke_ebに乗算する補正値を求めるようにしてもよい。
上記のようにしてKe推定部53で求められた誘起電圧定数推定値Ke_eと、前記Ke指令算出部54で決定された誘起電圧定数指令値Ke_cとが、前記位相差制御部55に逐次入力される。
該位相差制御部55は、誘起電圧定数推定値Ke_eを誘起電圧定数指令値Ke_cに一致させるように(収束させるように)、前記位相差変更駆動手段10から両ロータ3,4間に付与する駆動力(トルク)を規定する操作量(制御入力)としてのアクチュエータ操作指令を逐次生成し、そのアクチュエータ操作指令を位相差変更駆動手段10のアクチュエータ11に出力することで、該位相差変更駆動手段10の動作を制御する。すなわち、誘起電圧定数推定値Ke_eを誘起電圧定数指令値Ke_cに一致させるのに必要なトルクが、位相差変更駆動手段10から両ロータ3,4間に付与されるように、位相差変更駆動手段10の動作を制御する。
この場合、位相差制御部55は、例えば、次のようにアクチュエータ操作指令を生成する。すなわち、位相差制御部55は、誘起電圧定数推定値Ke_eと誘起電圧定数指令値Ke_cとの偏差を逐次求め、その偏差から、PI則などのフィードバック制御則により、アクチュエータ操作指令を生成する。
あるいは、位相差制御部55は、前記図3に示した誘起電圧定数Keとロータ間位相差θdとの間の関係を表すマップ(あるいは演算式)に基づいて、誘起電圧定数推定値Ke_eと誘起電圧定数指令値Ke_cとをそれぞれ、ロータ間位相差θdの推定値、ロータ間位相差θdの指令値に変換する。そして、位相差制御部55は、そのロータ間位相差θdの推定値と指令値との偏差から、PI則などのフィードバック制御則により、アクチュエータ操作指令を生成する。
なお、例えば、誘起電圧定数推定値Ke_e(またはロータ間位相差θdの推定値)に応じて決定したアクチュエータ操作指令のフィードフォワード成分と、誘起電圧定数推定値Ke_eと誘起電圧定数指令値Ke_cとの偏差(または、ロータ間位相差θdの推定値と指令値との偏差)に応じてフィードバック制御則により決定したフィードバック成分とを加え合わせることで、アクチュエータ操作指令を決定するようにしてもよい。
以上説明した位相差制御部55の処理により、誘起電圧定数推定値Ke_eを誘起電圧定数指令値Ke_cに一致させるように、あるいは、Ke_eに対応するロータ間位相差θdの推定値を、Ke_cに対応するロータ間位相差θdの指令値に一致させるように、アクチュエータ操作指令が逐次生成される。そして、このアクチュエータ操作指令に応じて位相差変更駆動手段10から両ロータ3,4間に付与される駆動力(トルク)が制御される。
この場合、誘起電圧定数推定値Ke_eは、電動機1の鉄損に起因する誤差を低減するように求められているので、実際の誘起電圧定数Keの推定値としての精度が高い。このため、ロータ間位相差θdを、電動機1の実際の誘起電圧定数Keが誘起電圧定数指令値Ke_cに精度よく合致するような位相差に制御することができる。
そして、このように、ロータ間位相差θdを所望の位相差(実際の誘起電圧定数Keが誘起電圧定数指令値Ke_cとなる位相差)に精度よく制御できるため、電動機1を効率よく運転させることができると共に、前記した通電制御部52による通電制御によって、電動機1の出力トルクを、目標とするトルク指令値Tr_cに適切に制御することができる。
なお、以上説明した実施形態では、誘起電圧定数Keを本発明における特性パラメータとして用いたが、ロータ間位相差θdを本発明における特性パラメータとして用いてもよい。この場合には、ロータ間位相差θdの目標値を、例えば電動機1の電源電圧Vdcとトルク指令値Tr_cと速度検出値Nm_sとから、マップなどに基づいて逐次設定し、あるいは、前記Ke指令算出部54で求めた誘起電圧定数指令値Ke_cに対応するロータ間位相差θdの目標値を、該Ke_cから、図3のグラフで示される関係を表すデータテーブルに基づいて設定すればよい。また、ロータ間位相差θdの推定値は、例えば、前記Ke推定部53で求めた誘起電圧定数推定値Ke_eから、図3のグラフで示される関係を表すデータテーブルに基づいて求めるようにすればよい。あるいは、誘起電圧定数Keの前記基本推定値Ke_ebから、図3のグラフで示される関係を表すデータテーブルに基づいて求められるロータ間位相差θdの基本推定値を、速度検出値Nm_sと、誘起電圧定数指令値Ke_c(またはロータ間位相差θdの目標値)と、トルク指令値Tr_cとから、前記Ke補正値演算部53cと同様にマップを用いて求めた補正値によって補正することで、ロータ間位相差θdの推定値を求めるようにしてもよい。
また、前記実施形態では、誘起電圧定数Keの基本推定値Ke_ebを求めるために前記式(2)の右辺の演算を行う場合に、q軸電圧指令値Vq_c、d軸電流検出値Id_s、q軸電流検出値Iq_sを用いたが、例えば、各相の電機子巻線の電圧を検出するようにした場合には、その検出値から求められるq軸電圧の検出値(観測値)をVq_cの代わりに用いてもよい。また、d軸電流検出値Id_sの代わりに、d軸電流の目標値(本実施形態ではId_c+ΔIda)を用いてもよい。また、q軸電流検出値Iq_sの代わりに、q軸電流の目標値(本実施形態ではIq_c+ΔIqa)を用いてもよい。
さらに、前記式(1)を、各相電流と相電圧とを含む関係式に変換してなる式や、電動機1のステータ5に対して固定された静止座標系としての所謂α−β座標系での電圧および電流を含む関係式に変換してなる式に基づいて、誘起電圧定数Keの基本推定値Ke_eb(あるいはKe_ebに対応するロータ間位相差θdの基本推定値)を求めるようにしてもよい。その場合、その式に含まれる変数に応じて基本推定値を求めるために必要な状態量を定めればよい。
また、前記実施形態では、誘起電圧定数Keの基本推定値Ke_eb(あるいは、ロータ間位相差θdの基本推定値)を補正するために、電動機1の鉄損と相関性を有する状態量として、前記速度検出値Nm_sと、誘起電圧定数指令値Ke_cと、トルク指令値Tr_cとを用いたが、誘起電圧定数Keやロータ間位相差θdの基本推定値の補正用の状態量(鉄損と相関性を有する状態量。以下、基本推定値補正用状態量という)の組み合わせはこれに限られるものではない。例えば、前記実施形態のように両ロータ3,4を非突極型のロータとした場合には、次の表1のNo.1〜6に示すような、基本推定値補正用状態量の組み合わせパターンを使用することができる。
この場合、表1のNo.1の組み合わせパターンでは、誘起電圧定数の目標値(前記誘起電圧定数指令値Ke_c)、または、ロータ間位相差θdの目標値と、電動機1の出力軸2の回転速度の観測値(前記速度検出値Nm_s)との2つの状態量を基本推定値補正用状態量として用いる。
No.2の組み合わせパターンでは、No.1の組み合わせパターンの状態量のうちの、回転速度の観測値の代わりに、d軸電流の観測値(前記q軸電流検出値Id_s)を基本推定値補正用状態量として用いる。
No.3の組み合わせパターンでは、誘起電圧定数の目標値(前記誘起電圧定数指令値Ke_c)、または、ロータ間位相差θdの目標値と、電動機1の出力軸2の回転速度の観測値(前記速度検出値Nm_s)と、電動機1の出力トルクの目標値(前記トルク指令値Tr_c)との3つの状態量を基本推定値補正用状態量として用いる。このNo.3の組み合わせパターンは、前記実施形態の組み合わせパターンに相当する。
No.4の組み合わせパターンでは、No.3の組み合わせパターンの状態量のうちの、回転速度の観測値の代わりに、d軸電流の観測値(前記d軸電流検出値Id_s)または目標値(前記実施形態では、Idc+ΔIda)を基本推定値補正用状態量として用いる。
No.5の組み合わパターンでは、No.3の組み合わせパターンの状態量のうちの、出力トルクの目標値の代わりに、q軸電流の観測値(前記q軸電流検出値Iq_s)または目標値(前記実施形態では、Iqc+ΔIqa)を基本推定値補正用状態量として用いる。
No.6の組み合わせパターンでは、No.3の組み合わせパターンの状態量のうちの、回転速度の観測値の代わりに、d軸電流の観測値(前記d軸電流検出値Id_s)または目標値(前記実施形態では、Idc+ΔIda)を基本推定値補正用状態量として用いると共に、出力トルクの目標値の代わりに、q軸電流の観測値(前記q軸電流検出値Iq_s)または目標値(前記実施形態では、Iqc+ΔIqa)を基本推定値補正用状態量として用いる。
誘起電圧定数Keあるいはロータ間位相差θdを適切に推定する上では、上記表1に示す如く、少なくとも、誘起電圧定数Keの目標値とロータ間位相差θdの目標値とのうちのいずれ一方と、電動機1の出力軸2の回転速度の観測値とd軸電流の観測値または目標値とのうちのいずれか一方との2つの状態量を基本推定値補正用状態量として使用すればよい。そして、誘起電圧定数Keあるいはロータ間位相差θdの推定精度をより高める上では、上記2つの状態量に加えて、電動機1の出力トルクの目標値と、q軸電流の観測値または目標値とのうちのいずれか一方をさらに、基本推定値補正用状態量として用いることが好ましい。
補足すると、両ロータ3,4を突極型のロータとした場合には、一般には、電動機の出力軸の回転速度と、d軸電流との相関性が崩れる。このため、両ロータ3,4を突極型のロータとした場合には、表1のNo.1、3、5の組み合わせパターンでの状態量を基本推定値補正用状態量として用いることが好ましい。
1…電動機、2…出力軸、3…外ロータ、4…内ロータ、6,8…永久磁石、10…位相差変更駆動手段、50…制御装置、52…通電制御部(通電制御手段)、53…Ke推定部(特性パラメータ推定手段)、54…Ke指令算出部(ロータ間位相差制御手段)、55…位相差制御部(ロータ間位相差制御手段)、53a…Ke基本推定値演算部(基本推定値演算手段)、53b…Ke補正部53b(補正手段)。