本発明の電動機システムの制御装置の第1実施形態を図1〜図6を参照して説明する。まず、図1を参照して、本実施形態の電動機システムに備えた電動機の要部の機構的な構成を説明する。図1は、該電動機の要部を該電動機の軸心方向で見た図である。
この電動機1は、2重ロータ構造のDCブラシレスモータであり、出力軸2、外ロータ3、および内ロータ4を同軸に備える。外ロータ3および内ロータ4はそれぞれ本発明における第1ロータ、第2ロータに相当する。外ロータ3の外側には、電動機1のハウジング(図示省略)に固定されたステータ5を有し、このステータ5には図示を省略する電機子巻線(3相分の電機子巻線)が装着されている。なお、電動機1は、例えば、図示しないハイブリッド車両や電動車両の推進力発生源として該車両に搭載される。
外ロータ3は環状に形成されており、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石6を備える。本実施形態では、この永久磁石6は、長尺の方形板状に形成されており、その長手方向を外ロータ3の軸方向に向け、且つ、法線方向を外ロータ3の径方向に向けた状態で、外ロータ3に埋め込まれている。
内ロータ4も環状に形成されている。この内ロータ4は、外ロータ3の内側に該外ロータ3と同軸に配置されている。そして、この内ロータ4の軸心部を、該内ロータ4および外ロータ3と同軸に出力軸2が貫通している。
この場合、出力軸2は、内ロータ4の軸方向の一端側または両側に設けられる図示しない連結部材を介して外ロータ3に連結されており、外ロータ3と一体に回転可能とされている。そして、内ロータ4は、該外ロータ3および出力軸2に対して相対回転可能に設けられ、この相対回転によって、両ロータ3,4間の位相差が変更可能とされている。
また、内ロータ4は、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石8を備える。本実施形態では、この永久磁石8は、外ロータ3の永久磁石6と同形状で、外ロータ3の場合と同様の形態で、内ロータ4に埋め込まれている。そして、永久磁石8の個数は、外ロータ3の永久磁石6と同じである。
なお、本実施形態では、外ロータ3および内ロータ4は円筒型であるので、非突極型のロータである。
ここで、図1において、外ロータ3の永久磁石6のうちの白抜きで示す永久磁石6aと、点描を付した永久磁石6bとは、外ロータ3の径方向における磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石6aは、その外側(外ロータ3の外周面側)の面がN極、内側(外ロータ3の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石6bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。同様に、内ロータ4の永久磁石8のうちの白抜きで示す永久磁石8aと、点描を付した永久磁石8bとは、内ロータ4の径方向での磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石8aは、その外側(内ロータ4の外周面側)の面がN極、内側(内ロータ4の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石8bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。
そして、本実施形態では、外ロータ3においては、互いに隣り合された永久磁石6a,6aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石6b,6bの対とが、外ロータ3の周方向に交互に配列されている。同様に、内ロータ4においては、互いに隣り合された永久磁石8a,8aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石8b,8bの対とが、内ロータ4の周方向に交互に配列されている。
以上のように構成された電動機1にあっては、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させ、両ロータ3,4間の位相差(以下、ロータ間位相差θdという)を変化させることで、内ロータ4の永久磁石8a,8bによって発生する界磁磁束と外ロータ3の永久磁石6a,6bによって発生する界磁磁束とを合成してなる合成界磁磁束の強さ(ステータ5に向かう径方向の磁束の強さ)が変化することとなる。以降、その合成界磁磁束の強さが最大となる状態を界磁最大状態、該合成界磁磁束の強さが最小となる状態を界磁最小状態という。
図2(a)は界磁最大状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図であり、図2(b)は界磁最小状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図である。
図2(a)に示す如く、界磁最大状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが異極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最大状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6aに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6bに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6a,6bのそれぞれの磁束Q2の向きとが同一となるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁磁束の強さ)が最大となる。
また、図2(b)に示す如く、界磁最小状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが同極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最小状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6bに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6aに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6b,6aのそれぞれの磁束Q2の向きとが逆向きとなるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁磁束の強さ)が最小となる。
本実施形態では、前記内ロータ4は、外ロータ3に対して、前記合成界磁磁束が界磁最大状態となる回転位置と、界磁最小状態となる回転位置との間の範囲内で相対回転可能とされている。その相対回転可能範囲、すなわち、ロータ間位相差θdの変更可能範囲は、例えば電気角で180[deg]の範囲である。なお、その範囲の境界は、例えば、内ロータ4と一体に回転可能な部材と、外ロータ3と一体に回転可能な部材との接触などによって機構的に規定される。
そして、本実施形態では、前記界磁最大状態におけるロータ間位相差θdを0[deg]、前記界磁最小状態におけるロータ間位相差θdを180[deg]と定義する。ただし、最大界磁状態におけるロータ間位相差θdを0[deg]と定義する必要はなく、ロータ間位相差θdの零点やスケールは、任意に設定してよい。
上記のようにロータ間位相差θdを変化させて、合成界磁磁束の強さを増減させることにより、電動機1の誘起電圧定数Keが変化することとなる。該誘起電圧定数Keは、電動機1の出力軸2の角速度と、この角速度に応じて電機子に生じる誘起電圧(実効値)との関係を規定する比例定数である。図3は、本実施形態の電動機1の誘起電圧定数Keと、ロータ間位相差θdとの関係を例示するグラフである。図示のように、電動機1の誘起電圧定数Keの値は、ロータ間位相差θdを0[deg]から180[deg]まで増加させていくに伴い、小さくなる。これは、θdの増加に伴い、合成界磁磁束の強さが弱くなり、ひいては、出力軸2の回転角速度を一定とした場合における電機子の誘起電圧(逆起電圧)が小さくなるからである。従って、誘起電圧定数Keの値は、合成界磁磁束の強さの程度を示す指標となり、該合成界磁磁束の強さが大きいほど、誘電電圧定数Keの値が大きくなる。
補足すると、前記永久磁石6,8の配列形態は、他の形態であってもよい。例えば、外ロータ3に備える方形板状の複数の永久磁石を、その法線方向(厚み方向)を外ロータ3の周方向に向けた状態で、該外ロータ3の周方向に等角度間隔で配列すると共に、該外ロータ3の周方向で互いに隣り合う2つの永久磁石の互いに対向する面の磁極が同極となるように(互いに隣り合う2つの永久磁石の磁化の向きが外ロータ3の周方向で互いに逆向きになるように)してもよい。また、ロータ間位相差θdの変更可能範囲は、必ずしも電気角で180[deg]の範囲である必要はなく、それよりも大きいか、もしくは小さい範囲であってもよい。
また、本実施形態では、電動機1の出力軸2と外ロータ3とが一体に回転するように構成したが、出力軸と内ロータとが一体に回転するようにして、これらの出力軸および内ロータに対して外ロータが相対回転し得るように構成してもよい。
次に図4を参照して、前記電動機1のロータ間位相差θdを変化させる位相差変更駆動手段と、該電動機1および位相差変更駆動手段の動作制御を行う制御装置とを説明する。図4は、該制御装置の機能的構成を示すブロック図である。この場合、図4には、電動機1と位相差変更駆動手段とを簡略化して図示している。
図4を参照して、本実施形態の電動機システムは、電動機1の内ロータ4を外ロータ3に対して相対回転させる駆動力を両ロータ3,4間に付与する位相差変更駆動手段10を備える。詳細な図示は省略するが、この位相差変更駆動手段10は、駆動力を発生するアクチュエータ11と、このアクチュエータ11の駆動力を両ロータ3,4間に伝達する位相可変機構12とから構成される。
このような位相差変更駆動手段10は、例えば、前記特許文献2に示したような油圧装置により構成することができる。この場合、前記位相可変機構12は、内ロータ4の内周面と出力軸2の外周面との間の空間に油室を形成し、その油室の体積の増減に連動してロータ間位相差θdが変化するように構成される。そして、その油室に対する作動油の供給・排出を行う油圧源装置(ポンプ、圧力制御弁などを含む装置)が前記アクチュエータ11として電動機1の外部に備えられる。
あるいは、位相差変更駆動手段10を、例えば、前記特許文献1に示したような装置により構成してもよい。この場合、位相可変機構12は、遊星歯車機構により構成され、この遊星歯車機構に回転駆動力を入力する電動式または油圧式のロータリアクチュエータが前記アクチュエータ11として電動機1の外部に備えられる。
かかる位相差変更駆動手段10および前記電動機1を備える本実施形態の電動機システムの動作制御を行う制御装置50は、基本的には、いわゆるd−qベクトル制御により電動機1の電機子巻線の通電を制御する。すなわち、制御装置50は、電動機1を、界磁方向(前記合成界磁磁束の方向)をd軸としてd軸と直交する方向をq軸とする座標系であるd−q座標系での等価回路に変換して取り扱う。その等価回路は、d軸上の電機子(以下、d軸電機子という)と、q軸上の電機子(以下、q軸電機子という)とを有する。d−q座標系は、電動機1の出力軸2に対して固定された回転座標系である。そして、制御装置50は、外部から与えられるトルク指令値Tr_c(電動機1の出力トルクの目標値)のトルクを電動機1の出力軸2に発生させるように電動機1の電機子巻線(3相分の電機子巻線)の通電電流を制御する。また、制御装置50は、この通電制御と並行して、電動機1の誘起電圧定数Keを所要の目標値に一致させるように、ロータ間位相差θdを前記位相差変更駆動手段10を介して制御する。
これらの制御を行なうために、本実施形態の電動機システムには、電動機1の電機子巻線の3相のうちの2つの相、例えばU相およびW相のそれぞれの電流を検出する電流センサ41,42と、2つの相の電機子巻線の電圧の総和である相間電圧(U相−V相間、V相−W相間、W相−U相間の相関電圧)のうちの2つの相間電圧、例えばU相−V相間の相間電圧およびV相−W相間の相間電圧をそれぞれ検出する電圧センサ43,44と、電動機1の出力軸2または外ロータ3の回転角度(電動機1のステータ5に対して固定された座標系での回転角度)を検出する回転角度検出手段としてのレゾルバ45とが備えられている。そして、それらの電流センサ41,42、電圧センサ43,44およびレゾルバ45の出力(検出値)が制御装置50に入力される。以降、電流センサ41で検出されたU相電機子巻線の電流値をU相電流検出値Iu_s、電流センサ42で検出されたW相電機子巻線の電流値をW相電流検出値Iw_s、電圧センサ43で検出されたU相−V相間の相間電圧をU−V相関電圧検出値Vuv_s、電圧センサ44で検出されたV相−W相間の相間電圧をV−W相関電圧検出値Vvw_s、レゾルバ45で検出された出力軸2の回転角度(=外ロータ3の回転角度)の値を角度検出値θm_sという。
制御装置50は、CPU、メモリ等を含む電子回路ユニットであり、その制御処理が所定の演算処理周期で逐次実行される。以下に、制御装置50の機能的な手段を具体的に説明する。
制御装置50は、レゾルバ45による角度検出値θm_sを微分することで、電動機1の出力軸2の回転速度(=外ロータ3の回転速度)の検出値(観測値)としての速度検出値Nm_sを求める回転速度算出部51と、電動機1の各相の電機子巻線の通電電流をインバータ回路(図示省略)を介して制御する通電制御部52とを備える。回転速度算出部51は、本発明における回転速度検出手段に相当し、通電制御部52は、本発明における通電制御手段に相当する。なお、回転速度算出部51が求める速度検出値Nm_sは、本実施形態では、出力軸2の機械角での回転速度の検出値であるが、これに電動機1の極対数を乗じることによって、電気角での回転速度の検出値を求めるようにしてもよい。
通電制御部52は、前記電流センサ41,42によるU相電流検出値Iu_sおよびW相電流検出値Iw_sと、前記レゾルバ45による角度検出値θm_sとから、3相−dq変換により、d軸方向の電流成分としてのd軸電機子の電流(以下、d軸電流という)の検出値Id_sとq軸方向の電流成分としてのq軸電機子の電流(以下、q軸電流という)の検出値Iq_sを算出する3相−dq変換部61を備える。なお、3相−dq変換は、U相電流検出値Iu_sと、W相電流検出値Iw_sと、これらから求められるV相電流検出値(=−Iu_s−Iw_s)との組を、角度検出値θm_s(より詳しくは電気角での出力軸2の回転角度)に応じた変換行列によりd軸電流の検出値Id_sとq軸電流の検出値Iq_sとの組に変換する処理である。また、本実施形態では3相−dq変換部61と前記電流センサ41,42とにより、本発明における電流検出手段が実現される。
また、通電制御部52は、d軸電流の指令値であるd軸電流指令値Id_cとq軸電流の指令値であるq軸電流指令値Iq_cとを決定する電流指令算出部62と、d軸電流指令値Id_cを補正するための補正値ΔIdaを求める界磁制御部63と、この補正値ΔIdaによりd軸電流指令値Id_cを補正したもの(Id_c+ΔIda)とd軸電流の検出値Id_sとの偏差ΔId(=Id_c+ΔIda−Id_s。以下、d軸電流偏差ΔIdという)を求める演算部64と、q軸電流指令値Iq_cを補正するための補正値ΔIqaを求める電力制御部65と、この補正値ΔIqaによりq軸電流指令値Iq_cを補正したもの(Iq_c+ΔIqa)とq軸電流の検出値Iq_sとの偏差ΔIq(=Iq_c+ΔIqa−Iq_s。以下、q軸電流偏差ΔIqという)を求める演算部66とを備える。本実施形態では、上記Id_c+ΔIda、Iq_c+ΔIqaが、それぞれ、d軸電流の目標値、q軸電流の目標値に相当する。
ここで、電流指令算出部62には、制御装置50に外部から与えられるトルク指令値Tr_cと、前記回転速度算出部51で求められた速度検出値Nm_sと、後述するKe推定部55で求められた電動機1の実際の誘起電圧定数Keの推定値Ke_e(以下、誘起電圧定数推定値Ke_eという)とが入力される。そして、電流指令算出部62は、これらの入力値から、あらかじめ設定されたマップに基づいて、前記d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cを決定する。このd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cは、トルク指令値Tr_cのトルクを電動機1の出力軸2に発生させるためのd軸電流およびq軸電流のフィードフォワード指令値としての意味を持つ。
なお、トルク指令値Tr_cは、例えば電動機1を推進力発生源として搭載した車両(ハイブリッド車両や電動車両)のアクセル操作量(アクセルペダルの踏み込み量)や走行速度に応じて決定される。また、トルク指令値Tr_cには、力行トルクの指令値と回生トルクの指令値とがあり、それらの指令値は、正負の極性が異なるものとされる。
また、前記界磁制御部63で決定される補正値ΔIdaは、d軸電機子の電圧とq軸電機子の電圧との合成ベクトルの大きさが電動機1の電源電圧Vdc(より詳しくは、インバータ回路の電源電圧)に応じた電圧円内に収まるようにするためのd軸電流の操作量(フィードバック操作量)を意味する。この補正値ΔIdaは、後述する電流フィードバック制御部67で決定されたd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_c(前回の演算処理周期で決定された値)と、電源電圧Vdcの値とに応じて決定される。例えば、前回の演算処理周期で決定されたVd_cおよびVd_qの合成ベクトルの大きさと、電源電圧Vdcに応じて決定した目標値(電圧円の半径)との偏差に応じて、適宜のフィードバック制御則により、補正値ΔIdaが決定される。
また、前記電力制御部65で決定される補正値ΔIqaは、、電動機1の運転時における前記永久磁石6,8の温度変化と電機子の温度変化とが、電動機1の出力トルクに及ぼす影響を補償するためのものである。永久磁石6,8の温度が変化すると、一般には、ロータ間位相差θdが一定であっても電動機1の誘起電圧定数Keが変化し、また、電機子巻線の抵抗が変化する。このため、q軸電流指令値Iq_cが一定であっても、永久磁石6,8や電機子の温度変化の影響で、電動機1の出力トルクが変化する。そこで、本実施形態では、この影響をq軸電流補正値ΔIq_aにより補償する。このq軸電流補正値ΔIq_aは、U相電流検出値Iu_sまたはW相電流検出値Iw_sのサンプリング値から推定される電機子巻線の抵抗や、後述するKe推定部53で求められた誘起電圧定数推定値Ke_e等に基づいて決定される。なお、電力制御部65は省略してもよい。その場合には、前記演算部66の処理では、q軸電流指令値Iq_cと、q軸電流の検出値Iq_sとの偏差(=Iq_c−Iq_s)をq軸電流偏差ΔIqとして求めるようにすればよい。
通電制御部52はさらに、前記演算部64,66でそれぞれ求められたd軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqに応じて、d軸電機子の電圧指令値(d軸電圧の目標値)であるd軸電圧指令値Vd_cと、q軸電機子の電圧指令値(q軸電圧の目標値)であるq軸電圧指令値Vq_cとを決定する電流フィードバック制御部(電流FB制御部)67を備える。この電流フィードバック制御部67は、d軸電流偏差ΔIdに応じて、該偏差ΔIdを0に近づけるようにPI制御則(比例・積分制御則)などのフィードバック制御則によりd軸電圧指令値Vd_cを決定する。同様に、電流フィードバック制御部67は、q軸電流偏差ΔIqに応じて、該偏差ΔIqを0に近づけるようにPI制御則などのフィードバック制御則によりq軸電圧指令値Vq_cを決定する。
なお、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとを決定するとき、d軸電流偏差ΔId、q軸電流偏差ΔIqからフィードバック制御則によりそれぞれ求められるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に、d軸とq軸との間で干渉し合う速度起電力の影響を打ち消すための非干渉成分を付加することで、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cを求めることが好ましい。
さらに、通電制御部52は、電流フィードバック制御部67で決定したd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cと、前記レゾルバ45による電動機1の出力軸2の角度検出値θm_sとから、dq−3相変換によりU相、V相、W相の各相の相電圧指令値Vu_c,Vv_c,Vw_cを求めるdq−3相変換部68と、これらの相電圧指令値Vu_c,Vv_c,Vw_cに応じて、電動機1の各相の電機子巻線にPWM制御によりインバータ回路(図示省略)を介して通電するPWM制御部69とを備える。この場合、PWM制御部69は、インバータ回路の各スイッチング素子のON・OFFを制御することで、各相の電機子巻線に通電する。なお、dq−3相変換は、d軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cの組を、角度検出値θm_s(より詳しくは電気角での出力軸2の回転角度)に応じた変換行列により相電圧指令値Vu_c,Vv_c,Vw_cの組に変換する処理である。
以上説明した通電制御部52の機能によって、d軸電圧とq軸電圧との合成電圧が、電源電圧Vdcに応じた目標値(前記電圧円の半径)を超えないようにしつつ、電動機1の出力軸2に発生するトルク(電動機1の出力トルク)をトルク指令値Tr_cに従わせるように(ΔId,ΔIqが0に収束するように)、d軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cの組が決定される。そして、このd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cに応じて、電動機1の各相の電機子巻線の通電電流が制御される。
制御装置50は、前記回転角度算出部51および通電制御部52のほか、電動機1のロータ間位相差θdの目標値である位相差指令値θd_cを決定する位相差指令算出部53を備える。また、制御装置50は、前記電圧センサ43,44によるU−V相間電圧検出値Vuv_sおよびV−W相間電圧検出値Vvw_と前記レゾルバ45による電動機1の出力軸2の角度検出値θm_sとから、3相−dq変換により、d軸電機子の電圧の検出値としてのd軸電圧検出値Vd_sとq軸電機子の電圧の検出値としてのq軸電圧検出値Vq_sとを算出する3相−dq変換部54と、前記誘起電圧定数推定値Ke_sを求めるKe推定部55と、該誘起電圧定数推定値Ke_sを実際のロータ間位相差θdの推定値としての位相差推定値θd_eに変換する位相差推定部56と、その位相差推定値θd_eを前記位相差指令値θd_cに一致させるように前記位相差変更駆動手段10を制御する位相差制御部57とを備える。さらに、制御装置50は、前記位相差変更駆動手段10の動作異常の有無を判定する異常判定部58を備える。
ここで、前記3相−dq変換部54の3相−dq変換は、U相−V相間の相間電圧、V相−W相間の相間電圧、およびW相−U相間の相間電圧の組を、角度検出値θm_s(より詳しくは電気角での出力軸2の回転角度)に応じた変換行列によりd軸電圧およびq軸電圧の組に変換する処理である。この場合、U相、V相、W相の各相の電機子巻線の電圧の総和が“0”であること(ひいてはU相−V相間の相間電圧、V相−W相間の相間電圧、およびW相−U相間の相間電圧の総和が“0”であること)を考慮すると、前記3相−dq変換部54の3相−dq変換は、次式(1)により与えられる。
なお、式(1)におけるθeは、電気角での出力軸2の回転角度(θm_sに電動機1の極対数を乗じた値)である。
補足すると、本実施形態では、前記3相−dq変換部54と、前記電圧センサ43,44とにより、本発明における電圧検出手段が実現される。また、本実施形態では、d軸電圧検出値Vd_sとq軸電圧検出値Vq_sとを得るために、U相−V相間の相間電圧およびV相−W相間の相間電圧を検出するようにしたが、U相−V相間の相間電圧およびV相−W相間の相間電圧のいずれか一方と、W相−U相間の相間電圧とを検出するようにしてもよい。あるいは、U相−V相間の相間電圧、V相−W相間の相間電圧、およびW相−U相間の相間電圧の全ての相間電圧を検出するようにしてもよい。
また、本実施形態では、本発明における「特性パラメータ」として、ロータ間位相差θdを用いる。従って、位相差指令算出部53で決定される位相差指令値θd_cは、本発明における特性パラメータの目標値に相当する。また、位相差推定部56で求められる位相差推定値θd_eは、本発明における特性パラメータの推定値に相当する。そして、Ke推定部55と位相差推定部56とにより、本発明における特性パラメータ推定手段が実現され、位相差指令算出部53と位相差制御部57とにより、本発明におけるロータ間位相差制御手段が実現される。さらに、異常判定部58により、本発明における異常検知手段が実現される。
位相差指令算出部53には、前記トルク指令値Tr_cと、速度検出値Nm_sと、電動機1の電源電圧Vdcの値とが逐次入力される。そして、位相差指令算出部54は、これらの入力値Tr_c,Nm,Vdcからあらかじめ設定されたマップに従って、電動機1の位相差指令値θd_cを逐次決定する。
この場合、上記マップは、例えば、電動機1の実際のロータ間位相差θdが該マップにより決定される位相差指令値θd_cに一致しているときに、トルク指令値Tr_cと速度検出値Nm_sと電源電圧Vdcの値との組に対して、電動機1のd軸電圧とq軸電圧との合成電圧(ベクトル和)の大きさが電源電圧Vdcに応じた電圧円内に収まるようにしつつ、電動機1のエネルギー効率(入力エネルギーに対する出力エネルギーの割合)をできるだけ高めることができるように設定されている。
ここで、一般的には、誘起電圧定数を小さくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを大きくするほど)、電動機1の出力軸2をより高速域で回転させることが可能となると共に、電動機1のエネルギー効率が高効率となる領域を高速回転側にずらすことができる。また、誘起電圧定数を大きくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを小さくするほど)電動機1の出力トルクを大きくすることができる。従って、位相差指令値θd_cは、上記のような電動機1の特性と、電動機1の要求される運転形態とを考慮して設定すればよく、種々様々な設定の仕方が可能である。
本実施形態では、位相差指令算出部53では、速度検出値Nm_sと電源電圧Vdcの値とを一定としたとき、位相差指令値θd_cは、基本的には、トルク指令値Tr_cの絶対値|Tr_c|が大きくなるほど、θd_cの値が小さくなるように(θd_cに対応する誘起電圧定数Keの値が大きくなるように)設定される。
また、トルク指令値Tr_cと電源電圧Vdcの値とを一定としたとき、位相差指令値θd_cは、基本的には、速度検出値Nm_sが高速となる領域で、該速度検出値Nm_sが大きくなるほど、θd_cの値が大きくなるように(θd_cに対応する誘起電圧定数Keの値が小さくなるように)設定される。また、トルク指令値Tr_cと速度検出値Nm_sとを一定としたとき、位相差指令値θd_cは、基本的には、電源電圧Vdcの値が小さくなるほど、θd_cの値が大きくなるように(θd_cに対応する誘起電圧定数Keの値が小さくなるように)設定される。
補足すると、位相差指令値θd_cを設定するとき、電動機1の過熱防止などの要求を考慮して設定してもよい。
前記Ke推定部55には、誘起電圧定数Keを推定するために用いる電動機1の複数の状態量として、前記3相−dq変換部54で求められたd軸電圧検出値Vd_sおよびq軸電圧検出値Vq_sのうちのd軸電圧検出値Vd_sと、前記3相−dq変換部61で求められたd軸電流検出値Id_sおよびq軸電流検出値Iq_sと、前記回転速度算出部51で求められた速度検出値Nm_sとが逐次入力される。そして、Ke推定部54は、これらの入力値Vd_s、Id_s、Iq_s、Nm_sから誘起電圧定数推定値Ke_eを求める。
なお、図4では、Ke推定部55に、q軸電圧検出値Vq_sが破線の矢印で示す如く入力されるようになっているが、これは、後述する第2実施形態に関するものである。本実施形態では、Ke推定部55に、q軸電圧検出値Vq_sを入力する必要はない。
ここで、電動機1のd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとd軸電流Idとq軸電流Iqと誘起電圧定数Keとの間の関係に関して、一般に、次の関係式(2),(3)が成立する。なお、ωは電動機1の出力軸2の電気角での回転角速度、Rは電機子巻線の抵抗、Ldはd軸電機子のインダクタンス(以下、d軸インダクタンスLdとう)、Lqはq軸電機子のインダクタンス(以下、q軸インダクタンスLqという)である。
Vd=R・Id−ω・Lq・Iq ……(2)
Vq=Ke・ω+R・Iq+ω・Ld・Id ……(3)
また、q軸インダクタンスLqは、q軸電流Iqと、誘起電圧定数Keとに高い相関性を有する。そこで、本実施形態では、Ke推定部55は、上記式(2)と、Lq、IqおよびKeの間の相関性とを利用して、誘起電圧定数Keを求める。
具体的には、Ke推定部55は、まず、式(2)を変形した次式(4)により、q軸インダクタンスLqの推定値を求める。
Lq=(R・Id−Vd)/(ω・Iq) ……(4)
この場合、Ke推定部55は、入力されたVd_s、Id_s、Iq_sをそれぞれ式(4)の右辺のVd、Id、Iqの値として用いると共に、入力されたNm_sに対応する電気角速度(Nm_sに電動機1の極対数を乗じてなる値)を式(4)の右辺のωの値として用いることによって、式(4)の右辺の演算を行う。この式(4)は、Lq、Vd、Id、Iqの間の相関関係を表す演算式としての意味を持ち、前記第2発明における所定の演算式に相当するものである。
なお、本実施形態では、式(4)の右辺のRの値としては、あらかじめ定められた値(固定値)が用いられる。ただし、Rの値を、例えばU相電流検出値Iu_sもしくはW相電流検出値Iw_sのサンプリング値から推定するようにしてもよい。
次いで、Ke推定部55は、上記の如く式(4)により求めたq軸インダクタンスLqの推定値と、入力されたq軸電流検出値Iq_s(式(4)で使用した値と同じIq_s)とから、これらと誘起電圧定数Keとの相関関係を表すものとしてあらかじめ定められたマップ(相関データ)に基づいて、誘起電圧定数推定値Ke_eを求める。
以上説明したKe推定部55の処理が逐次実行され、誘起電圧定数推定値Ke_eが逐次求められる。
上記のようにしてKe推定部55で求められた誘起電圧定数推定値Ke_eが位相差推定部56に逐次入力される。該位相差推定部56は、前記図3に示した誘起電圧定数Keとロータ間位相差θdとの間の関係を表すマップ(あるいは演算式)に基づいて、入力された誘起電圧定数推定値Ke_eを位相差推定値θd_eに変換する。これにより、位相差推定値θd_eが逐次求められる。
なお、誘起電圧定数Keとロータ間位相差θdとの間の関係を表すマップ(あるいは演算式)と、前記Ke推定部55で使用するマップとは、前記第2発明における相関データに相当するものである。
補足すると、ロータ間位相差θdと誘起電圧定数Keとは、図3のグラフで示すような相関性があるので、q軸インダクタンスLqと、q軸電流Iqと、ロータ間位相差θdとの間にも相関性を有する。従って、その相関関係をマップ化しておき、q軸インダクタンスLqの推定値と、入力されたq軸電流検出値Iq_sとから、そのマップに基づいて、位相差推定値θd_eを直接的に求めるようにしてもよい。
上記のようにして位相差推定部56で求められた位相差推定値θd_eと、前記位相差指令算出部53で決定された位相差指令値θd_cとが、前記位相差制御部57に逐次入力される。
該位相差制御部57は、位相差推定値θd_eを位相差指令値θd_cに一致させるように(収束させるように)、前記位相差変更駆動手段10から両ロータ3,4間に付与する駆動力(トルク)を規定する操作量(制御入力)としてのアクチュエータ操作指令を逐次生成し、そのアクチュエータ操作指令を位相差変更駆動手段10のアクチュエータ11に出力することで、該位相差変更駆動手段10の動作を制御する。すなわち、位相差推定値θd_eを位相差指令値θd_cに一致させるのに必要なトルクが、位相差変更駆動手段10から両ロータ3,4間に付与されるように、位相差変更駆動手段10の動作を制御する。
この場合、位相差制御部57は、例えば、次のようにアクチュエータ操作指令を生成する。すなわち、位相差制御部57は、位相差推定値θd_eと位相差指令値θd_cとの偏差を逐次求め、その偏差から、PI則などのフィードバック制御則により、アクチュエータ操作指令を生成する。
なお、位相差指令値θd_cを逐次決定する代わりに、θd_cに対応する誘起電圧定数Keの指令値(目標値)を逐次生成し、あるいは、位相差指令値θd_cを図3のグラフの関係に従って誘起電圧定数Keの指令値(目標値)に変換し、Ke推定部55で求めた誘起電圧定数推定値Ke_eを、誘起電圧定数Keの指令値に一致させるように、アクチュエータ操作指令を生成するようにしてもよい。この場合には、位相差推定部56は不要である。そして、誘起電圧定数Keが本発明における特性パラメータに相当するものとなる。
さらに、例えば、位相差推定値θe_e(または誘起電圧定数推定値Ke_e)に応じて決定したアクチュエータ操作指令のフィードフォワード成分と、位相差推定値θd_eと位相差指令値θd_cとの偏差(または、誘起電圧定数推定値Ke_eと誘起電圧定数Keの指令値との偏差)に応じてフィードバック制御則により決定したフィードバック成分とを加え合わせることで、アクチュエータ操作指令を決定するようにしてもよい。
以上説明した位相差制御部57の処理により、位相差推定値θd_eを位相差指令値θd_cに一致させるように、あるいは、誘起電圧定数推定値Ke_eを位相差指令値θd_cに対応する誘起電圧定数Keの指令値に一致させるように、アクチュエータ操作指令が逐次生成される。そして、このアクチュエータ操作指令に応じて位相差変更駆動手段10から両ロータ3,4間に付与される駆動力(トルク)が制御される。
この場合、位相差推定値θeは、実際のd軸電流およびq軸電流を表すd軸電流検出値Id_sおよびq軸電流検出値Iq_sと、実際のd軸電圧を表すd軸電圧検出値Vd_sと、出力軸2の実際の回転速度を表す速度検出値Nm_sとから推定された誘起電圧定数である誘起電圧定数推定値Ke_eに対応するロータ間位相差θdの値である。このため、ロータ間位相差θdの推定値である位相差推定値θd_eを、前記PWM制御部69に備えるスイッチ素子の特性のばらつきに依存することなく、精度よく求めることができる。ひいては、ロータ間位相差θdを、位相差指令値θd_cに精度よく制御することができる。
そして、このように、ロータ間位相差θdを所望の位相差(実際の誘起電圧定数Keが位相差指令値θd_cに対応する誘起電圧定数Keの目標値になるような位相差)に精度よく制御できるため、電動機1を効率よく運転させることができると共に、前記した通電制御部52による通電制御によって、電動機1の出力トルクを、目標とするトルク指令値Tr_cに適切に制御することができる。
また、本実施形態では、前記異常判定部58には、前記電流フィードバック制御部67で決定されたd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cと、前記3相−dq変換部54で求められたd軸電圧検出値Vd_sおよびq軸電圧検出値Vq_sとが逐次入力される。そして、異常判定部58は、これらの入力値に基づいて、位相差変更駆動手段10の異常(換言すれば、ロータ間位相差θdの変更動作の異常)の有無を判定し、その判定結果を示す異常判定情報を出力する。
以下に、この異常判定部58の詳細を図5および図6を参照して説明する。図5は、この異常判定部58の処理機能を示すブロック図、図6は、図5に示す判定処理部58eの処理を示すフローチャートである。
図5に示す如く、異常判定部58は、d軸電圧指令値Vd_cとd軸電圧検出値Vd_sとの偏差ΔVdを算出する演算部58aと、q軸電圧指令値Vq_cとq軸電圧検出値Vq_sとの偏差ΔVqを算出する演算部58bと、偏差ΔVd,Vqをそれぞれ積分する(累積加算する)積分器58c,58dと、演算部58a,58bおよび積分器58c,58dのそれぞれの演算結果から、異常判定情報を決定して出力する判定処理部58eとから構成される。
この場合、判定処理部58eは、図6のフローチャートに示す処理を所定の演算処理周期で逐次実行することにより異常判定情報を決定する。
すなわち、判定処理部58eは、演算部58a,58bでそれぞれ算出した偏差ΔVd,ΔVqと、積分器58c,58dでそれぞれ算出した積分値∫ΔVd,∫ΔVqとをそれぞれに対応してあらかじめ定めた上限値と比較し、該上限値よりも大きいか否かを判断する(STEP1)。
このとき、偏差ΔVd,ΔVqおよび積分値∫ΔVd,∫ΔVqのいずれもが、上限値以下となっている場合(STEP1の判断結果が否定的である場合)には、判定処理部58eは、さらに、偏差ΔVd,ΔVqおよび積分値∫ΔVd,∫ΔVqを、それぞれに対応してあらかじめ定めた下限値と比較し、該下限値よりも小さいか否かを判断する(STEP2)。
そして、このSTEP2の判断結果が否定的である場合、すなわち、偏差ΔVd,ΔVqおよび積分値∫ΔVd,∫ΔVqのいずれもが、それぞれに対応する上限値と下限値との間の適正範囲に収まっている場合には、判定処理部58は、異常判定情報を、異常無しを示す情報に設定する(STEP6)。
一方、STEP1の判断結果が肯定的である場合(偏差ΔVd,ΔVqおよび積分値∫ΔVd,∫ΔVqのいずれかが上限値よりも大きい場合)、あるいは、STEP2の判断結果が肯定的である場合(偏差ΔVd,ΔVqおよび積分値∫ΔVd,∫ΔVqのいずれかが下限値よりも小さい場合)には、判定処理部58は、その状態が所定時間以上、継続したか否かを判断する(STEP3)。そして、このSTEP3の判断結果が否定的である場合、偏差ΔVd,ΔVqおよび積分値∫ΔVd,∫ΔVqのいずれかが、適正範囲から上限値側または下限値側に逸脱した状態が所定時間以上、継続した場合には、異常判定情報を、異常検知中を示す情報に設定する(STEP5)。
また、STEP3の判断結果が肯定的である場合には、判定処理部58は、異常判定情報を、異常有りを示す情報に設定する(STEP4)。
以上のようにして、判定処理部58eにより設定された異常判定情報が、異常判定部58から外部に出力されう。
ここで、前記位相差変更駆動手段10の動作異常が発生し、内ロータ3が外ロータ4に対して円滑に相対回転できないような状況になると、d軸電圧指令値Vd_cに対する実際のd軸電圧(d軸電圧検出値Vd_s)の誤差、または、q軸電圧指令値Vq_cに対する実際のq軸電圧(q軸電圧検出値Vq_s)の誤差が、定常的に生じる状況が多くなる。このため、前記偏差ΔVd,ΔVqおよび積分値∫ΔVd,∫ΔVqのいずれかが、それぞれに対応する上限値と下限値との間の適正範囲を逸脱する状況が多くなる。従って、前記した判定処理部58eの処理によって、位相差変更駆動手段10の異常の有無を適正に判断することができる。
なお、異常判定部58が出力される異常判定情報は、電動機1の運転の制御に利用される。例えば、異常判定部58から、位相差変更駆動手段10の異常が発生したことを示す異常判定情報が出力された場合には、電動機1の運転を停止したり、電動機1の出力トルクを制限するなどの処理が実行される。
次に、本発明の第2実施形態を前記図4を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は、Ke推定部55の処理と、該Ke推定部55に対する一部の入力だけが、第1実施形態と相違するものであるので、第1実施形態と同一の参照符号を使用して説明する。
図4を参照して、本実施形態では、Ke推定部55には、d軸電圧検出値Vd_sの代わりに、図中の破線の矢印で示す如く、q軸電圧検出値Vq_sが3相−dq変換部54から入力される。従って、本実施形態では、Ke推定部55には、誘起電圧定数Keを推定するために用いる電動機1の複数の状態量として、前記3相−dq変換部54で求められたd軸電圧検出値Vd_sおよびq軸電圧検出値Vq_sのうちのd軸電圧検出値Vd_sと、前記3相−dq変換部61で求められたd軸電流検出値Id_sおよびq軸電流検出値Iq_sと、前記回転速度算出部51で求められた速度検出値Nm_sとが逐次入力される。そして、本実施形態のKe推定部55は、これらの入力値から、誘起電圧定数推定値Ke_eを求める。
ここで、前記式(3)における誘起電圧定数Keと、d軸インダクタンスLdとd軸電流Idとの積(=Ld・Id)との総和をΨとおく。すなわち、Ψを次式(5)により定義する。
Ψ≡Ke+Ld・Id ……(5)
この場合、誘起電圧定数Keは、両ロータ3,4の永久磁石6,8による合成界磁磁束の強さの程度を示し、また、Ld・Idは、電動機1の電機子巻線の通電によって、上記合成界磁磁束の方向に発生する磁束(以下、巻線電流磁束という)の強さの程度を示す。従って、Ψは、上記合成界磁磁束と、巻線電流磁束との総和の磁束の強さの程度を示す指標となる。以下、Ψをq軸総磁束量という。なお、このq軸総磁束量Ψは、本発明における補助パラメータに相当するものである。
そして、式(5)におけるd軸インダクタンスLdは、d軸電流Idに応じて変化する傾向があるため、上記q軸総磁束量Ψは、誘起電圧定数Keおよびd軸電流Idとの間に高い相関性を有する。そこで、本実施形態では、Ke推定部55は、前記式(3)と、Ψ、KeおよびIdの間の相関性とを利用して、誘起電圧定数Keを求める。
具体的には、Ke推定部55は、まず、式(3)に式(5)を適用して変形した次式(6)により、q軸総磁束量Ψを求める(推定する)。
Ψ=(Vq−R・Iq)/ω ……(6)
この場合、Ke推定部55は、入力されたVq_s、Iq_sをそれぞれ式(6)の右辺のVq、Iqの値として用いると共に、入力されたNm_sに対応する電気角速度(Nm_sに電動機1の極対数を乗じてなる値)を式(6)の右辺のωの値として用いることによって、式(6)の右辺の演算を行う。
なお、本実施形態では、式(6)の右辺のRの値としては、あらかじめ定められた値(固定値)が用いられる。ただし、Rの値を、例えばU相電流検出値Iu_sもしくはW相電流検出値Iw_sのサンプリング値から推定するようにしてもよい。また、式(6)は、前記第3発明における所定の演算式に相当するものである。
次いで、Ke推定部55は、上記の如く式(6)により求めたq軸総磁束量Ψの推定値と、入力されたd軸電流検出値Id_sとから、これらと誘起電圧定数Keとの相関関係を表すものとしてあらかじめ定められたマップに基づいて、誘起電圧定数推定値Ke_eを求める。
本実施形態では、以上説明したKe推定部55の処理が逐次実行され、誘起電圧定数推定値Ke_eが逐次求められる。補足すると、前記第1実施形態で説明した誘起電圧定数Keとロータ間位相差θdとの間の関係を表すマップ(あるいは演算式)と、前記Ke推定部55で使用するマップとは、前記第3発明における相関データに相当するものである。
以上説明した以外の構成および処理は、前記第1実施形態と同じである。
なお、本実施形態においても、第1実施形態に関して説明した如く、位相差指令値θd_cを逐次決定する代わりに、θd_cに対応する誘起電圧定数Keの指令値(目標値)を逐次生成し、あるいは、位相差指令値θd_cを図3のグラフの関係に従って誘起電圧定数Keの指令値(目標値)に変換し、Ke推定部55で求めた誘起電圧定数推定値Ke_eを、誘起電圧定数Keの指令値に一致させるように、アクチュエータ操作指令を生成するようにしてもよい。この場合には、位相差推定部56は不要である。そして、誘起電圧定数Keが本発明における特性パラメータに相当するものとなる。
かかる本実施形態においても、第1実施形態と同様に、ロータ間位相差θdの推定値である位相差推定値θd_eを、前記PWM制御部69に備えるスイッチ素子の特性のばらつきに依存することなく、精度よく求めることができる。ひいては、ロータ間位相差θdを、位相差指令値θd_cに精度よく制御することができる。
また、前記第1実施形態と全く同様に、位相差変更駆動手段10の動作異常の有無を的確に検知できる。
次に本発明の第3実施形態を図7を参照して説明する。図7は、本発明における要部構成を示すブロック図である。なお、本実施形態は、前記第1実施形態または第2実施形態と、電圧検出手段のみが相違するので、第1実施形態または第2実施形態と同一部分については、第1実施形態または第2実施形態と同一の参照符号を用いて説明を省略する。また、図7における電動機1では、位相差変更駆動手段10および両ロータ3,4の図示を省略し、U相、V相、W相の電機子巻線1u,1v,1wを図示している。
図7を参照して、本実施形態では、U相、V相、W相の電機子巻線1u,1v,1wのうちの2つの相の電機子巻線、例えば、U相電機子巻線1uおよびV相電機子巻線1vのそれぞれの電圧を検出する電圧センサ43’,44’が備えられ、これらの電圧センサ43’,44’による電圧検出値が、制御装置50’に入力されるようになっている。以降、電圧センサ43’,44’によりそれぞれ検出された電圧をU相電圧検出値Vu_s、V相電圧検出値Vv_sという。
そして、本実施形態における制御装置50’には、上記U相電圧検出値Vu_sおよびV相電圧検出値Vv_sと、レゾルバ45による電動機1の出力軸2の角度検出値θm_sとから、3相−dq変換により、d軸電圧検出値Vd_sとq軸電圧検出値Vq_sとを算出する3相−dq変換部54’が備えられている。本実施形態では、この3相−dq変換部54’と、前記電圧センサ43’,44’とにより、本発明における電圧検出手段が実現される。
この場合、3相−dq変換部54’の3相−dq変換は、U相、V相、W相の電機子巻線の電圧の組を、角度検出値θm_s(より詳しくは電気角での出力軸2の回転角度)に応じた変換行列によりd軸電圧およびq軸電圧の組に変換する処理である。この場合、U相、V相、W相の各相の電機子巻線の電圧の総和が“0”であることを考慮すると、前記3相−dq変換部54’の3相−dq変換は、次式(7)により与えられる。
なお、式(7)におけるθeは、電気角での出力軸2の回転角度(θm_sに電動機1の極対数を乗じた値)である。
補足すると、本実施形態では、d軸電圧検出値Vd_sとq軸電圧検出値Vq_sとを得るために、U相の電圧およびV相の電圧を検出するようにしたが、U相の電圧およびV相の相電圧のいずれか一方と、W相の電圧とを検出するようにしてもよい。あるいは、U相、V相、およびW相の電圧の全ての電圧を検出するようにしてもよい。
以上説明した以外の構成および処理は、前記第1実施形態または第2実施形態と同じである。
かかる本実施形態においても、第1実施形態と同様に、ロータ間位相差θdの推定値である位相差推定値θd_eを、前記PWM制御部69に備えるスイッチ素子の特性のばらつきに依存することなく、精度よく求めることができる。ひいては、ロータ間位相差θdを、位相差指令値θd_cに精度よく制御することができる。
また、前記第1実施形態と全く同様に、位相差変更駆動手段10の動作異常の有無を的確に検知できる。
なお、前記第1実施形態または第3実施形態において、前記式(4)を、各相電流と相電圧とを含む関係式に変換してなる式や、電動機1のステータ5に対して固定された静止座標系としての所謂α−β座標系での電圧および電流を含む関係式に変換してなる式を用いて、q軸インダクタンスLqを推定するようにしてもよい。同様に、前記第2実施形態または第3実施形態において、前記式(6)を、各相電流と相電圧とを含む関係式に変換してなる式や、電動機1のステータ5に対して固定された静止座標系としての所謂α−β座標系での電圧および電流を含む関係式に変換してなる式を用いて、q軸総磁束量Ψを推定するようにしてもよい。
また、前記各実施形態では、両ロータ3,4を非突極型のロータとしたが、突極型のロータにしてもよい。
1…電動機、2…出力軸、3…外ロータ、4…内ロータ、6,8…永久磁石、10…位相差変更駆動手段、41,42…電流センサ(電流検出手段)、43,44,43’,44’…電圧センサ(電圧検出手段)、50,50’…制御装置、52…通電制御部(通電制御手段)、53位相差指令算出部(ロータ間位相差制御手段)、54,54’…3相−dq変換部(電圧検出手段)、55…Ke推定部(特性パラメータ推定手段)、56…位相差推定部(特性パラメータ推定手段)、57…位相差制御部(ロータ間位相差制御手段)、58…異常判定部(異常検知手段)、61…3相−dq変換部(電流検出手段)。
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