JP5104159B2 - 包接水和物生成用の水溶液、蓄熱剤、包接水和物又はそのスラリーの製造方法、蓄放熱方法並びに潜熱蓄熱剤又はその主成分を生成するための水溶液の調製方法 - Google Patents
包接水和物生成用の水溶液、蓄熱剤、包接水和物又はそのスラリーの製造方法、蓄放熱方法並びに潜熱蓄熱剤又はその主成分を生成するための水溶液の調製方法 Download PDFInfo
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(1)複数の分子が適当な条件下で組み合わさって結晶ができるとき、一方の分子(ホスト分子)が籠状、トンネル形、層状または網状構造をつくり、その隙間に他の分子(ゲスト分子)が入りこんだ構造の化合物(包接化合物)のうち、ホスト分子が水分子であるものを「包接水和物」という。
ホスト分子である水分子が構成する籠状、トンネル形、層状または網状構造が不完全であっても、その隙間に他の分子(ゲスト分子)が入りこんだ構造の化合物であれば「包接水和物」に含まれる。簡便のため、「包接水和物」を「水和物」と略称する場合がある。
(4)「調和融点」とは原料溶液を冷却することにより水和物を生成させる際、水溶液(液相)から水和物(固相)に変相する前後の組成が変わらない場合(例えばもとの水溶液中のゲスト分子濃度と同じゲスト分子濃度の水和物が冷却されて生成するとき)の温度をいう。水溶液のゲスト分子の濃度により包接水和物が生成する温度(融点)が変動するが、縦軸を融点温度、横軸を濃度とした状態図では極大点が調和融点となる。
(5)「調和濃度」とは、調和融点を与える原料溶液の濃度をいう。
(6)「調和水溶液」とは、調和融点を与える濃度の原料溶液をいう。
包接水和物は、潜熱に相当する熱エネルギーを蓄積する効果又は性質を有し、蓄熱用途に使用されるので、「蓄熱剤」、特に「潜熱蓄熱剤」となり得る。
包接水和物又はそのスラリーが蓄熱剤又はその「主成分」として使用される場合、その包接水和物のゲスト分子は当該蓄熱剤の「主成分」となり得る。
包接水和物のゲスト分子の調和水溶液は、それを原料溶液として冷却すると、液相から固相に変相する前後で組成が変わらず、調和水溶液それ自体が包接水和物に変相してゆく様相を呈する。この点に着目すると、包接水和物が蓄熱剤又はその「主成分」として使用される場合、そのゲスト分子の調和水溶液はそれ自体で蓄熱剤の「主成分」であるといえ、他面において、特に冷却されて固化した後においては蓄熱剤そのものといえる。
蓄熱剤の「主成分」を「蓄熱剤主成分」という場合がある。
テトラアルキルアンモニウム化合物の包接水和物は、その生成の際の潜熱が大きいため、比較的蓄熱量が大きく、パラフィンのように可燃性ではないため取り扱いも容易であり、非常に有用な蓄熱剤である。また、テトラアルキルアンモニウム化合物の包接水和物は、調和融点が氷の融点の0℃よりも高いため、蓄熱剤を冷却して水和物を生成する際の冷媒の温度が高くてよく、冷凍機の成績係数(COP)が高くなり省エネルギーが図れるという利点もある(特許文献3)。
この脱酸型腐食抑制剤を添加する方法は蓄熱剤を使用する環境が空気や酸素の遮断された環境である場合には有効であるが、弗化テトラnブチルアンモニウムを添加した蓄熱剤を使用する環境に空気や酸素が断続的または連続的に侵入する場合、あるいは該蓄熱剤を大気開放下で使用する場合には、存在する酸素の量に応じた量の脱酸型腐食抑制剤が存在するように濃度を維持して添加しなければならない。空気、または酸素の侵入が長期間にわたって継続する場合、これに対応して脱酸型腐食抑制剤を添加すると脱酸型腐食抑制剤と酸素との反応生成物が蓄積され、蓄熱剤の組成バランスが崩れ、融点の変化、使用温度範囲における潜熱量の減少、過冷却防止効果の低下を招く恐れがある。
2.0%以下であることを特徴とするものである。
2.0%以下であることを特徴とするものである。
2.0%以下とすることを特徴とするものである。
これらの被膜形成型腐食抑制剤と前述した脱酸型腐食抑制剤の亜硫酸塩またはチオ硫酸塩を併用することにより、さらに腐食を抑制することができる。
さらに、密閉された環境に適用可能な他の腐食抑制剤として亜硝酸塩、ベンゾトリアゾール、ヒドラジン、エリソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、糖類が挙げられる。
蓄熱剤に前述した亜鉛、マグネシウム又はカルシウムの臭化物や硫酸塩を添加し、さらに、ナトリウムやカリウム、リチウムなどのリン酸塩の中から選ばれた少なくとも1種のリン酸塩を添加して、リン酸イオンと亜鉛イオン、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンとを結合させてリン酸塩を生成し、このリン酸塩を金属材表面に沈着させて被膜を形成して腐食を抑制することができる。ナトリウムやカリウム、リチウムなどのリン酸塩は溶解度が大きいため、効率よく被膜を形成して腐食を抑制することができる。沈殿被膜を形成させるリン酸イオンには、更に有効な効果がある。リン酸塩はpH調整剤としての作用もあるため、大気からの炭酸ガスの溶解や腐食生成物の加水分解によりpHが低くなることを防止することができる。
即ち、潜熱蓄熱剤を用いた空調においては、冷熱源からの冷熱を潜熱として貯めている蓄熱剤と空調負荷の空気とを直接又は媒体を介して熱交換を行い、熱交換後の空気を空調対象の空間に送り出すことにより、その空間の温度や湿度を調整している。多くの場合、冷房空調において室内機から吹き出す冷空気の温度は一般に15℃程度であり、高くとも17℃程度である。それ以上に高い温度であると、空調対象の空間に向けて送り出すべき空気量を増やさない限り、同レベルの空調効果を得ることが困難になり、それどころか却って空調効率が低下する。そのため、冷空気に冷熱を供給する潜熱蓄熱剤は、空気との熱交換に必要な温度差(約2℃)を考慮して、15℃以下の潜熱を蓄熱できるものであることが要求される。また、空調向けの潜熱蓄熱剤の典型例である氷の場合、0℃より低い温度で冷却する必要があるため、冷凍機のCOPが低くなり、蓄冷に必要なエネルギーが大きくなり省エネルギー化ができないという問題がある。COPを高いまま維持し、省エネルギー化を実現するためには、空調向けの潜熱蓄熱剤は、5℃以上、低くとも3℃以上で蓄熱できるものであることが要求される。それ故、3〜15℃の温度範囲で蓄熱できる潜熱蓄熱剤が空調用途に向いているとされる。
例えば、トリメチロールエタン、水及び尿素を含有する水和物系の蓄熱剤主成分に、ポリグリセリンを添加した蓄熱剤(融点は10〜25℃)がある。この蓄熱剤については特開2000−256659号公報に詳しいが、その記載による限り、凝固・融解の繰返しを確認した回数は高々100回程度に留まっている。この程度の繰返し使用回数では、使用目的は限られるし、水溶液中における成分物質の分離や濃度の偏り又は冷却により生成した水和物と母相との相分離が生じると過冷却防止の効果も低下してしまうので、広く実際の使用(特に民需の使用)に耐え得るものとは言い難い。
なお、便宜的に、臭化テトラnブチルアンモニウムを「TBAB」と、臭化テトラisoペンチルアンモニウムを「TiPAB」とそれぞれ略記する場合がある。
(ア) 臭化テトラnブチルアンモニウムは包接水和物を形成し、その調和融点はおよそ12℃であり、この調和融点における潜熱量は178J/gである。臭化テトラnブチルアンモニウムをゲスト分子とする包接水和物を含む蓄熱剤(特に当該包接水和物を主成分として含む蓄熱剤)に関して、臭化テトラnブチルアンモニウムを溶質として含む原料溶液を冷却する際に生じる過冷却を防止又は抑制する効果を発揮する又は維持することができる物質及びその配合組成を検討し、当該物質として臭化テトラisoペンチルアンモニウム又はその水溶液を添加することが有効であることを見出した。
即ち、臭化テトラisoペンチルアンモニウムは水和物の調和融点が28℃であり、臭化テトラnブチルアンモニウムを溶質として含む原料溶液から生成される水和物の融点或いは臭化テトラnブチルアンモニウム水和物の融点より十分に高い。このため上記の原料溶液を冷却すると、臭化テトラisoペンチルアンモニウム水和物が臭化テトラnブチルアンモニウム水和物より先に形成される。すると、臭化テトラisoペンチルアンモニウム水和物が臭化テトラnブチルアンモニウム水和物の形成の契機又は誘発原因となる核(生成核)になり、蓄熱剤主成分となる水和物を短時間で生成させる結果、過冷却が防止又は抑制される。また、臭化テトラisoペンチルアンモニウム水和物は臭化テトラnブチルアンモニウム水和物の類縁物質であり、相溶性があり、結晶構造なども類似しているため、効果的に過冷却が防止又は抑制される。
このような臭化テトラisoペンチルアンモニウムは弗化テトラnブチルアンモニウムに比べて水和物を形成しやすい傾向にあることは、過冷却防止剤としてより効果的であることを意味し、また、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に過冷却防止剤として臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加する量を、過冷却防止剤として弗化テトラnブチルアンモニウムを添加する場合に比べて少なくすることができ、過冷却防止剤の添加に起因する、水和物又はこれを主成分として含む蓄熱剤の熱的性質への悪影響を極力小さく抑えることできる。
それ故、臭化テトラisoペンチルアンモニウムの添加を適量(又は適量の範囲)にすることにより、過冷却防止剤の添加による蓄熱剤主成分の熱的性質への悪影響を極力低減しつつ、過冷却防止の効果をより確実に又は効果的になものにすることができる。
<測定・評価方法>
(ア) ある濃度に調製された臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に、臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加率(臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液に対する添加した臭化テトラisoペンチルアンモニウムの重量比率)を変えて添加することにより、水和物生成用の水溶液(原料溶液)を準備する(因みに、この水溶液を冷却することにより生成する水和物は、それ自体で又は水溶液に分散又は懸濁してなるスラリーとして蓄熱剤(特に潜熱蓄熱剤)又はその主成分として使用され得るものである)。また、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加しない原料溶液も準備する。
臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液について、その濃度が調和濃度であるとき冷却して生成される水和物の潜熱量が最大となることから、まず調和濃度(40重量%)の臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加した原料溶液を調製して評価し、次いで35重量%から15重量%までの臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加した原料溶液も調製して評価することとした。
上記の要領により調製した原料溶液を3℃で24時間冷却し、水和物の結晶が生成するか否かを調べた。水和物結晶が生成すれば過冷却防止性又は過冷却防止の効果が認められると評価する。さらに、この原料溶液を3℃に冷却して水和物を生成させ、その後40℃に加熱して生成した水和物を融解させるという水和物の生成又は凝固と融解とを1000回繰返して、過冷却防止性の低下がないと認められたときに過冷却防止性能の低下がない又は過冷却防止効果の耐久性があると評価する。
上記の要領により調製した原料溶液の差動走査型熱量計(DSC)測定を実施し潜熱量を測定する。上記の要領により調製した原料溶液を以下の手順で加熱、冷却し、冷却することにより生成される固相物の融解時の熱量を3〜15℃の温度範囲で計測することにより潜熱量を求める。ここでいう潜熱量とは、3〜15℃の温度範囲における、潜熱に相当する熱エネルギーをいう。
1)試料を15℃まで+5℃/minの加熱速度で加熱し、試料を15℃で5分間保持する。
2)試料を15℃から3℃まで−5℃/minの冷却速度で冷却し、試料を3℃で5分間保持する。
3)試料を3℃から15℃まで+5℃/minの加熱速度で加熱し、試料を15℃で5分間保持する。
(イ)臭化テトラnブチルアンモニウムの40.5重量%濃度水溶液
臭化テトラnブチルアンモニウムの調和融点を与える濃度(40.5重量%)の水溶液(調和水溶液)に、臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加することにより、水和物生成用の水溶液を準備した。より具体的には、臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液の重量に対する臭化テトラisoペンチルアンモニウムの重量の比率(重量%)(TiPAB添加率)が異なる複数の原料溶液を準備し、かくして準備された各原料溶液に対して、上記(1)及び(2)に記載の計測と評価を行った。その結果を表1に示す。
過冷却防止の効果又は過冷却防止性があり、1000回の凝固融解繰返し後もその低下が認められなかった場合には○を、過冷却が解除されず水和物の結晶が生成しなかった場合、すなわち過冷却の効果又は過冷却防止性がない或いはその低下が認められた場合には×を、過冷却の効果又は過冷却防止性が部分的に認められた場合には△を記した。
また、過冷却が解除されず水和物の結晶が生成しなかった場合には、潜熱量は計測できなかった。
〔a〕 TiPAB添加率が0.1重量%を下回ると、過冷却防止の効果がない。
〔b〕 TiPAB添加率が0.5重量%の場合に潜熱量が最大であり、2.0重量%を超えると、潜熱量比は大きく減少し、水和物が蓄熱剤又はその主成分として使用されるときの実用上の変動許容幅(20%)を超える。
DSC測定結果を分析した結果、TiPAB添加率が2.0重量%より大きくなると、潜熱を持つ範囲が高温側に移動している傾向がある。この現象が、TiPAB添加率が2.0重量%より大きくなると3〜15℃の温度範囲の潜熱量が減少する理由であると推定される。
次に、35重量%の臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加することにより調製又は準備される複数の原料溶液に対して、上記(2−1)及び(2−2)に記載の計測と評価を行った。その結果を表2に示す。表2におけるTiPAB添加率、○、×、△の意味は、表1の場合と同じである。
〔c〕 TiPAB添加率が0.1重量%を下回ると、過冷却防止の効果がない。
〔d〕 TiPAB添加率が0.25重量%の場合に潜熱量が最大であり、TiPAB添加率が2.0重量%を超えると、潜熱量比は大きく減少し、実用上の変動許容幅(20%)を超える。
更に、30重量%の臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加することにより調製又は準備される複数の原料溶液に対して、上記(2−1)及び(2−2)に記載の計測と評価を行った。その結果を表3に示す。
表3におけるTiPAB添加率、○、×、△の意味は、表1の場合と同じである。
〔e〕 TiPAB添加率が0.1重量%を下回ると、過冷却防止の効果がない。
〔f〕 TiPAB添加率が0.25重量%の場合に潜熱量が最大であり、TiPAB添加率が2.0重量%を超えると、潜熱量比は大きく減少し、実用上の変動許容幅(20%)を超える。
更に、25重量%の臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加することにより調製又は準備される複数の原料溶液に対して、上記(2−1)及び(2−2)に記載の計測と評価を行った。その結果を表4に示す。
表4におけるTiPAB添加率、○、×、△の意味は、表1の場合と同じである。
〔g〕 TiPAB添加率が0.1重量%を下回ると、過冷却防止の効果がない。
〔h〕 TiPAB添加率が0.5重量%の場合に潜熱量が最大であり、TiPAB添加率が2.0重量%を超えると、潜熱量比は大きく減少し、実用上の変動許容幅(20%)を超える。
更に、20重量%の臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加することにより調製又は準備される複数の原料溶液に対して、上記(2−1)及び(2−2)に記載の計測と評価を行った。その結果を表5に示す。
表5におけるTiPAB添加率、○、×、△の意味は、表1の場合と同じである。
〔i〕 TiPAB添加率が0.1重量%を下回ると、過冷却防止の効果がない。
〔j〕 TiPAB添加率が0.1重量%の場合に潜熱量が最大であり、TiPAB添加率が2.0重量%を超えると、潜熱量比は大きく減少し、実用上の変動許容幅(20%)を超える。
更に、15重量%の臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加することにより調製又は準備される複数の原料溶液に対して、上記(2−1)及び(2−2)に記載の計測と評価を行った。その結果を表6に示す。
表6におけるTiPAB添加率、○、×、△の意味は、表1の場合と同じである。
〔k〕 TiPAB添加率が0.1重量%を下回ると、過冷却防止の効果がない。
〔l〕 TiPAB添加率が0.5重量%の場合に潜熱量が最大であり、TiPAB添加率が2.0重量%を超えると、潜熱量比は大きく減少し、実用上の変動許容幅(20%)を超える。
これまでに、臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加しない場合には、調和濃度(40.5重量%)の臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液から生成する水和物の融解潜熱量が、調和濃度でない臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液から生成する水和物の融解潜熱量より大きく、最大となることが確認されている。
臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液を冷却すると、まず第一水和物が生成され、さらに低温に冷却されると第二水和物が生成される。第一水和物から第二水和物に変化する現象も生じる。第二水和物は第一水和物よりゲスト分子を包接する水分子の数が多く(水和数が多く)、蓄熱する潜熱量が大きいという特性をもつ。
臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加することにより、第二水和物の生成が誘発されることが確認されており、特に濃度が30重量%又は35重量%の臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加した場合には、他の濃度に比べて第二水和物が多く生成され、その結果、融解潜熱量が大きくなる。
臭化テトラnブチルアンモニウムを溶質として含み臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加した水溶液には、臭素イオンが存在し炭素鋼やアルミニウムの腐食の原因となるので、腐食抑制剤を添加することが好ましい。
さらに、密閉された環境に適用可能な他の腐食抑制剤として亜硝酸塩、ベンゾトリアゾール、ヒドラジン、エリソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、糖類が挙げられる。
蓄熱剤に前述した亜鉛、マグネシウム又はカルシウムの臭化物や硫酸塩を添加し、さらに、ナトリウムやカリウム、リチウムなどのリン酸塩の中から選ばれた少なくとも1種のリン酸塩を添加して、リン酸イオンと亜鉛イオン、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンとを結合させてリン酸塩を生成し、このリン酸塩を金属材表面に沈着させて被膜を形成して腐食を抑制することができる。ナトリウムやカリウム、リチウムなどのリン酸塩は溶解度が大きいため、効率よく被膜を形成して腐食を抑制することができる。
臭化テトラnブチルアンモニウムの40.5重量%濃度水溶液に、臭化テトラisoペンチルアンモニウムを臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液重量に対して0.5重量%添加した基準原料溶液に腐食抑制剤を添加して密閉環境下と大気開放環境下における腐食抑制効果について評価した。
基準原料溶液に表7に示す各腐食抑制剤を添加して、被検原料溶液(1〜4)を調製し、密閉容器中で炭素鋼板とアルミニウム板を浸漬し90℃にて1週間保持したのち、重量減少量を測定して腐食速度を求めた。その結果を表7に併せて示す。
ポリリン酸ナトリウムを添加した場合(被検原料溶液2)にも、腐食抑制剤を添加しない場合(被検原料溶液4)に比して、炭素鋼では腐食速度が0.19mm/年から0.06mm/年になり、アルミニウムでは腐食速度が0.004mm/年から0.001mm/年になった。いずれの場合にも亜硫酸ナトリウムを添加した場合と同様に腐食速度を数分の1以下に抑制でき、腐食抑制効果が認められた。
亜硫酸ナトリウムとポリリン酸ナトリウムを併用した場合(被検原料溶液3)には、腐食抑制剤を添加しない場合(被検原料溶液4)に比して、炭素鋼では腐食速度が0.19mm/年から0.03mm/年になり、アルミニウムでは腐食速度が0.004mm/年から0.001mm/年になった。炭素鋼では各腐食抑制剤を単独で用いたときよりも高い腐食抑制効果が認められた。
いずれの場合でも炭素鋼もアルミニウムも全面腐食の形態を呈しており、局部腐食の発生はなかった。なお、上述した他の腐食抑制剤でも同様に腐食を十分に抑制できる効果があることを確認した。
基準原料溶液に表8に示す各腐食抑制剤を添加して、被検原料溶液(5〜8)を調製し、リービッヒ冷却管を付けて、蒸発を防止しながら被検原料溶液が大気と接するようにした容器中で炭素鋼板とアルミニウム板を浸漬し90℃にて1週間保持したのち、重量減少量を測定して腐食速度を求めた。その結果を表8に併せて示す。
ポリリン酸ナトリウムを添加した場合(被検原料溶液6)にも、腐食抑制剤を添加しない場合(被検原料溶液8)に比して、炭素鋼では腐食速度が0.35mm/年から0.16mm/年になり、アルミニウムでは腐食速度が0.007mm/年から0.003mm/年になり、孔食を防止した。いずれの場合にも硫酸亜鉛を添加した場合と同様に腐食速度を2分の1以下に抑制でき、腐食抑制効果が認められた。
硫酸亜鉛とポリリン酸ナトリウムを併用した場合(被検原料溶液7)には、腐食抑制剤を添加しない場合(被検原料溶液8)に比して、炭素鋼では腐食速度が0.35mm/年から0.06mm/年になり、アルミニウムでは腐食速度が0.007mm/年から0.001mm/年になり、孔食を防止した。炭素鋼では各腐食抑制剤を単独で用いたときよりも高い腐食抑制効果が認められた。
いずれの腐食抑制剤を添加した場合でも炭素鋼もアルミニウムも全面腐食の形態を呈しており、孔食など局部腐食の発生はなかった。特に孔食は配管や容器内部の蓄熱材の漏洩に繋がるため、腐食抑制剤を添加することで、孔食を抑制できることは効果が大きい。なお、上述した他の腐食抑制剤でも同様に腐食を十分に抑制できる効果があることを確認した。
(ア) 15重量%以上40.5重量%(調和濃度)以下の濃度に調製された臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に、臭化テトラisoペンチルアンモニウム又は臭化テトラisoペンチルアンモニウムの水溶液を添加して水和物生成用或いは蓄熱剤又はその主成分を生成するための水溶液を準備する。このとき、臭化テトラisoペンチルアンモニウム又は臭化テトラisoペンチルアンモニウムの水溶液の添加量は、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に対する臭化テトラisoペンチルアンモニウムの重量比率が0.1%以上2.0%以下となるように添加する。このように調製することにより、過冷却防止性が優れて、かつ、3〜15℃の温度範囲の潜熱量の低下が少ない水和物であって、蓄熱剤若しくはその主成分となるものを得ることができる。
調和濃度より小さい濃度又は大きい濃度の臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液を用いれば、水和物生成用の水溶液の冷却により生成する水和物の融点を調和融点より低くすることができる。
臭化テトラisoペンチルアンモニウムとリン酸水素二ナトリウムを過冷却防止剤として併用して添加して、より効果的に過冷却を防止することができる。例えば、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加する際、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に対してリン酸水素二ナトリウムを添加し、臭化テトラisoペンチルアンモニウムと併用すれば、臭化テトラisoペンチルアンモニウムだけを添加した場合に比して、過冷却防止の効果が高まる。それ故、この併用によれば、臭化テトラisoペンチルアンモニウムの添加率を低減させても同水準の過冷却防止の効果を得ることができるとともに、臭化テトラisoペンチルアンモニウムの添加に起因する、水和物又はこれを主成分として含む蓄熱剤の潜熱量の変化を小さく抑えることできる。
臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に添加される臭化テトラisoペンチルアンモニウムが、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に対する臭化テトラisoペンチルアンモニウムの重量比率が0.1%以上2.0%以下となる範囲内である場合には、リン酸水素二ナトリウムの添加量は、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に対して0.1〜2.0重量%とするのが好適である。
臭化テトラisoペンチルアンモニウムと脂肪族カルボン酸の金属塩を過冷却防止剤として併用して添加して、より効果的に過冷却を防止することができる。例えば、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加する際、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に対して脂肪族カルボン酸の金属塩を添加し、臭化テトラisoペンチルアンモニウムと併用すれば、臭化テトラisoペンチルアンモニウムだけを添加した場合に比して、過冷却防止の効果が高まる。それ故、この併用によれば、臭化テトラisoペンチルアンモニウムの添加率を低減させても同水準の過冷却防止の効果を得ることができるとともに、臭化テトラisoペンチルアンモニウムの添加に起因する、水和物又はこれを主成分として含む蓄熱剤の潜熱量の変化を小さく抑えることできる。
臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に添加される臭化テトラisoペンチルアンモニウムが、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に対する臭化テトラisoペンチルアンモニウムの重量比率が0.1%以上2.0%以下となる範囲内である場合には、脂肪族カルボン酸の金属塩の添加量は、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に対して0.1〜2.0重量%とするのが好適である。
Claims (11)
- 臭化テトラnブチルアンモニウムを溶質として含み、臭化テトラisoペンチルアンモニウムが過冷却防止剤として添加されていることを特徴とする包接水和物生成用の水溶液。
- 臭化テトラnブチルアンモニウムを溶質として含む水溶液に対する臭化テトラisoペンチルアンモニウムの重量比率が、0.1%以上 2.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の包接水和物生成用の水溶液。
- 臭化テトラnブチルアンモニウムの濃度が15重量%以上40.5重量%以下であり、臭化テトラnブチルアンモニウムを溶質として含む水溶液に対する臭化テトラisoペンチルアンモニウムの重量比率が、0.1%以上 2.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の包接水和物生成用の水溶液。
- 腐食抑制剤が添加されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の包接水和物生成用の水溶液。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の包接水和物生成用の水溶液が水和物生成温度以下に冷却されることにより生成される包接水和物を含むことを特徴とする蓄熱剤。
- 請求項1乃至4のいずれに記載の包接水和物生成用の水溶液が水和物生成温度以下に冷却されることにより生成される包接水和物がその水溶液又は水溶媒に分散又は懸濁してなるスラリーを含むことを特徴とする蓄熱剤。
- 臭化テトラnブチルアンモニウムと、過冷却防止剤としての臭化テトラisoペンチルアンモニウムと、水を含んでなることを特徴とする蓄熱剤。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の包接水和物生成用の水溶液を準備する工程と、前記水溶液を冷却して包接水和物を生成させる工程とを有することを特徴とする包接水和物又はそのスラリーの製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれに記載の包接水和物生成用の水溶液を冷却し、包接水和物を生成させることにより熱エネルギーを蓄積し、生成した包接水和物を融解させることにより熱エネルギーを放出することを特徴とする蓄放熱方法。
- 潜熱蓄熱剤又はその主成分を生成するための水溶液の調製方法であって、臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に、臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加する工程とを有することを特徴とする水溶液の調製方法。
- 臭化テトラnブチルアンモニウムの水溶液に対する臭化テトラisoペンチルアンモニウムの重量比率を、0.1%以上 2.0%以下とすることを特徴とする請求項10に記載の水溶液の調製方法。
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