JP5075641B2 - 遺伝子改変動物およびその用途 - Google Patents

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Description

本発明は、GPR40遺伝子導入非ヒト哺乳動物および該遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物、並びにそれらを用いたインスリン分泌および/または耐糖能調節薬、抗肥満薬およびインスリン感受性調節薬等のスクリーニング方法などに関する。
発明の背景
GPR40はリガンド未知のオーファンGタンパク質共役受容体として1997年に報告され(非特許文献1、特許文献1)、その後、同受容体が膵臓に発現し、そのリガンドが遊離脂肪酸であることが報告された(特許文献2)。さらに、遊離脂肪酸が同受容体を介して膵臓β細胞由来細胞株からのインスリン分泌を促進することが示されている(非特許文献2、特許文献3)。
これらの知見から、GPR40に特異的に作用する化合物は、血中インスリン濃度をコントロールできる可能性が考えられ、GPR40作動薬は糖尿病に対する新規の作用メカニズムを有する予防・治療薬として期待されている。しかしながら、GPR40の生体での機能については、まだ十分に解明されていない点も多い。
膵β細胞障害が糖尿病の基盤でもあり、インスリン分泌障害の改善は治療面からも有効である。したがって、GPR40遺伝子の生体での役割を明らかにすることは、基礎研究のみならず、創薬研究の観点からも重要である。
遺伝子の機能解析においては、トランスジェニックマウスやノックアウトマウス等の遺伝子改変動物が大いに威力を発揮する。GPR40の遺伝子導入マウスおよび遺伝子欠損マウスも報告されている(非特許文献3、特許文献4)。それによると、GPR40遺伝子欠損マウスは高脂肪食負荷による耐糖能悪化に対して抵抗性であるのに対し、GPR40遺伝子導入マウスはインスリン分泌不全を伴う糖尿病を発症する。
国際出願公開第2000/22129号パンフレット 国際出願公開第02/057783号パンフレット 国際出願公開第03/068959号パンフレット 国際出願公開第2005/015990号パンフレット Biochem. Biophys. Res. Commun., 1997, 239(2): 543-7 Nature, 2003, 422(6928): 173-6 Cell Metabol., 2005, 1: 245-58
本発明の目的は、GPR40遺伝子の生体内での機能を解明すべく、GPR40遺伝子導入および遺伝子発現不全動物を作製し、解析することであり、さらに得られた遺伝子改変動物を用いて、糖尿病予防・治療薬のスクリーニングおよび薬効評価系を提供することである。
EdlundとWalkerら(上記非特許文献3、特許文献4)の作製したGPR40遺伝子導入マウスはIPF1プロモーターによりGPR40を過剰発現させていた。これに対し、本発明者らは、インスリンプロモーターの制御下にヒトGPR40遺伝子を導入して、トランスジェニック(Tg)マウスを作製した。その結果、該Tgマウスでは、対応する非トランスジェニックマウスに比べて、インスリン分泌能の増大とそれに伴う耐糖能の改善が認められた。即ち、本発明によるトランスジェニックマウスの表現型は、in vitroで明らかとなっていたGPR40のインスリン分泌促進の成績を支持し、GPR40の活性増強による糖尿病予防・治療というコンセプトを支持するものである。
他方、本発明者らは、相同組換えを用いてGPR40遺伝子を破壊したGPR40遺伝子ノックアウト(KO)動物を作出することにも成功した。該KOマウスをC57BL/6J系統に戻し交配した結果得られたコンジェニック系統においては、野生型マウスと比較して顕著な表現型は認められなかった。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1]外来性GPR40をコードするDNAを発現可能な状態で保持するトランスジェニックマウスであって、対応する非トランスジェニックマウスと比較して
(1)インスリン分泌能が増大している、および/または
(2)耐糖能が改善されている
ことを特徴とするマウスまたはその生体の一部、
[2]外来性GPR40をコードするDNAがインスリンプロモーターの制御下にある上記[1]記載のマウスまたはその生体の一部、
[3]外来性GPR40が配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する上記[1]記載のマウスまたはその生体の一部、
[4]上記[1]記載のマウスまたはその生体の一部に試験化合物を適用し、GPR40アゴニスト活性またはGPR40アンタゴニスト活性を検定することを特徴とするGPR40アゴニストまたはGPR40アンタゴニストのスクリーニング方法、
[5]上記[1]記載のマウスまたはその生体の一部に試験化合物を適用し、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能を測定することを特徴とする、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能調節薬のスクリーニング方法、
[6]インスリンプロモーターの制御下にある外来性GPR40をコードするDNAを保持するマウスの受精卵、
[7]外来性GPR40がマウスにとって異種であり、かつ内在性GPR40遺伝子発現不全である上記[1]記載のマウスまたはその生体の一部、
[8]異種GPR40がヒト由来である上記[7]記載のマウスまたはその生体の一部、
[9]上記[7]記載のマウスまたはその生体の一部に試験化合物を適用し、GPR40アゴニスト活性またはGPR40アンタゴニスト活性を検定することを特徴とする異種GPR40アゴニストまたは異種GPR40アンタゴニストのスクリーニング方法、
[10]上記[7]記載のマウスまたはその生体の一部に試験化合物を適用し、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能を測定することを特徴とする、異種哺乳動物における(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能調節薬のスクリーニング方法、
[11]上記[1]記載のマウスと他の病態モデルマウスとの交配によって生じる病態モデルマウスまたはその生体の一部、
[12]上記[1]記載のマウスに対する薬剤誘発またはストレス負荷によって生じる病態モデルマウスまたはその生体の一部、
[13]上記[11]または[12]記載のマウスまたはその生体の一部に試験化合物を適用し、病態の改善を検定することを特徴とする該病態を伴う疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法、
[14]病態もしくは疾患が、代謝性症候群またはその1以上の症候である上記[13]記載の方法、などを提供するものである。
本発明のGPR40遺伝子改変動物は、正常なGPR40機能をより反映した表現型を示すという効果を奏し、インビボでのGPR40作用調節薬のスクリーニング・薬効評価系となり得る。
(A)ヒトGPR40遺伝子発現ユニットの構造を示す図である。マウスインスリンII遺伝子プロモーターの下流にpoly(A)+付加シグナルを含むヒトGPR40遺伝子が連結された構造である。(B)ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスの膵臓における発現を示す図である。各系統の8週齢マウス膵臓におけるヒトGPR40遺伝子発現量を示す。バーおよびエラーバーはそれぞれ、平均および標準偏差を示す(Mean±SE, n=3〜6)。但し、47M系、54M系、23F系、および、61F系のエラーバーは平均からの乖離を示す(Mean±SE, n=2)。NonTg:対照マウス。 トランスジェニックマウス47M系および23F系における単離ラ氏島でのヒト(A)およびマウス(B)GPR40遺伝子発現を示す図である。動物は8週齢から8週間低脂肪食負荷または高脂肪食負荷を行った。ヒトまたはマウスGPR40遺伝子発現量は18SリボソームRNA遺伝子発現量に対する比で表した。バーおよびエラーバーはそれぞれ、平均および標準偏差を示す(Mean±SE, n=3〜4)。LF: 低脂肪食負荷群、HF: 高脂肪食負荷群、N: 対照マウス、T: トランスジェニックマウス。 トランスジェニックマウスの耐糖能試験の結果を示す図である。通常食で飼育した16週齢の47M系(A, C)マウス、および18週齢の23F系(B, D)マウスに対して16時間絶食後に耐糖能試験を行った。(A, B)は血漿グルコース値を、(C, D)は血漿インスリン値を示す(Mean±SE, 47M n=8; 23F n=12)。NonTg: 対照マウス、Tg: トランスジェニックマウス。 トランスジェニックマウスの脂肪食負荷群における耐糖能試験の結果を示す図である。トランスジェニックマウス47M系について、8週齢から9週間、10 kcal% fatの低脂肪食負荷(A, D)、45 kcal% fatの高脂肪食負荷(B, E)、および、60 kcal% fatの高脂肪食負荷(C, F)後に、16時間絶食を行い、耐糖能試験を実施した。(A, B, C)は血漿グルコース値を、(D, E, F)は血漿インスリン値を示す(Mean±SE, n=10)。NonTg: 対照マウス、Tg: トランスジェニックマウス47M系。 トランスジェニックマウスのグルコース刺激時のインスリン分泌を示す図である。(A)トランスジェニックマウス47M系における、3 mMグルコースまたは16 mMグルコース存在下でのインスリン分泌を示す。(B)トランスジェニックマウス47M系における、11 mMグルコース存在下での0.5 mMパルミチン酸添加時または無添加時のインスリン分泌を示す。縦軸は分泌されたインスリン量を示し、バーおよびエラーバーはそれぞれ、平均および標準偏差を示す(Mean±SE, n=3)。NonTg: 対照マウス、Tg: トランスジェニックマウス47M系。 GPR40遺伝子ホモ欠損マウスにおけるマウスGPR40遺伝子発現を示す図である。8週齢膵臓におけるマウスGPR40遺伝子発現を示す。マウスGPR40遺伝子発現量はアクチン遺伝子発現量に対する比で表した。バーおよびエラーバーはそれぞれ、平均および標準偏差を示す(Mean±SE, n=3)。Wild:対照マウス、Hetero:GPR40遺伝子へテロ欠損マウス、Homo:GPR40遺伝子ホモ欠損マウス。 GPR40遺伝子ホモ欠損マウスにおける一般性状を示す図である。GPR40遺伝子ホモ欠損マウスについて、8週齢から8週間、10 kcal% fatの低脂肪食負荷(A, B, C, D)または60 kcal% fatの高脂肪食負荷(E, F, G, H)を行った。(A, E)、(B, F)、(C, G)、および(D, H)はそれぞれ体重、カロリー摂取量、血漿グルコース値、および血漿インスリン値を示す(Mean±SE, n=10)。WT:対照マウス、KO:GPR40遺伝子ホモ欠損マウス、LF: 低脂肪食負荷群、HF: 高脂肪食負荷群。 GPR40遺伝子ホモ欠損マウスの脂肪食負荷群における耐糖能試験の結果を示す図である。GPR40遺伝子ホモ欠損マウスについて、8週齢から11週間、10 kcal% fatの低脂肪食負荷(A, C)、または、60 kcal% fatの高脂肪食負荷(B, D)後に、16時間絶食を行い、耐糖能試験を実施した。(A, B)は血漿グルコース値を、(C, D)は血漿インスリン値を示す(Mean±SE, n=8)。WT: 対照マウス、KO: GPR40遺伝子ホモ欠損マウス、LF: 低脂肪食負荷群、HF: 高脂肪食負荷群。
外来性GPR40をコードするDNAを発現可能な状態で保持するトランスジェニック非ヒト哺乳動物(以下、「本発明のTg動物」という場合もある)は、外来性GPR40をコードするDNAを発現可能な状態で安定に保持する。「安定に保持」するとは、該動物の細胞内に外来性GPR40をコードするDNAが発現可能な状態で永続的に存在することを意味し、該DNAが宿主染色体上に組み込まれていても、あるいは染色体外DNAとして安定に存在していてもよいが、好ましくは、該DNAは宿主染色体上に組み込まれた状態で保持される。
本発明のTg動物は、非ヒト哺乳動物の受精卵や、未受精卵、***およびその前駆細胞(始原生殖細胞、卵原細胞、卵母細胞、卵細胞、精原細胞、***細胞、精細胞等)などに、好ましくは受精卵の胚発生の初期段階(さらに好ましくは8細胞期以前)において、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE-デキストラン法などの遺伝子導入法によって、目的とする外来性GPR40をコードするDNAを導入することにより作製される。また、該遺伝子導入法により、非ヒト哺乳動物の体細胞、組織、臓器などに目的とするDNAを導入し、細胞培養、組織培養などに利用することもでき、さらに、この細胞を上述の胚(もしくは生殖)細胞と公知の細胞融合法を用いて融合させることによりTg動物を作製することもできる。あるいは、ノックアウト動物を作製する場合と同様に、非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞(ES細胞)に上記の遺伝子導入法を用いて目的とするDNAを導入し、予め該DNAが安定に組み込まれたクローンを選択した後に、該ES細胞を胚盤胞に注入するかあるいはES細胞塊と8細胞期胚とを凝集させてキメラマウスを作製し、生殖系列に導入DNAが伝達されたものを選択することによってもTg動物を得ることが可能である。
また、このようにして作製されたTg動物の生体の一部(例えば、(1)外来性GPR40をコードするDNAを安定に保持する細胞、組織、臓器など、(2)これらに由来する細胞または組織を培養し、必要に応じて継代したものなど)も、本発明の「外来性GPR40をコードするDNAを発現可能な状態で保持する非ヒト哺乳動物の生体の一部」として、本発明の「外来性GPR40をコードするDNAを発現可能な状態で保持する非ヒト哺乳動物」と同様な目的に用いることができる。
本発明のTg動物の生体の一部としては、膵臓、肝臓、脂肪組織、骨格筋、腎臓、副腎、血管、心臓、消化管、脳などの臓器や、当該臓器由来の組織片および細胞などが好ましく例示される。
本発明で対象とし得る「非ヒト哺乳動物」は、トランスジェニック系が確立されたヒト以外の哺乳動物であれば特に制限はなく、例えば、マウス、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスターなどが挙げられる。好ましくは、マウス、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター等であり、なかでも疾患モデル動物作製の面から個体発生および生物サイクルが比較的短く、繁殖が容易なマウス(例えば、純系としてC57BL/6系統、DBA2系統など、交雑系としてB6C3F1系統、BDF1系統、B6D2F1系統、BALB/c系統、ICR系統など)が好ましい。
また、哺乳動物以外にもニワトリなどの鳥類が本発明で対象とする「非ヒト哺乳動物」と同様の目的に用いることができる。
「外来性GPR40をコードするDNA」は、遺伝子導入の対象となる非ヒト哺乳動物が本来有している内在性GPR40 DNAではなく、外部より導入されたものであれば特に制限はなく、導入対象の非ヒト哺乳動物(例えば、マウス)由来のGPR40 DNAであってもよいし、異種哺乳動物(例えば、ヒト、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラットなど)由来のGPR40もしくはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAであってもよい。好ましくは、本発明の外来性GPR40をコードするDNAは、導入対象の非ヒト哺乳動物にとって異種のGPR40もしくはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAであり、より好ましくはヒトGPR40もしくはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAである。ヒトGPR40をコードするDNAとしては、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列をコードするDNA、好ましくは配列番号:1で表わされる塩基配列を含むDNAが挙げられる。「実質的に同一のアミノ酸配列」としては、例えばヒトGPR40の場合、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。アミノ酸配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
「実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」としては、例えばヒトGPR40の場合、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質が好ましい。「実質的に同質の活性」としては、例えば、リガンド[即ち、遊離脂肪酸など(アゴニスト、アンタゴニストを含む)]結合活性、細胞内Ca++濃度上昇作用、cAMP生成抑制作用、膵β細胞からのインスリン分泌促進作用などが挙げられる。実質的に同質とは、それらの活性が定性的に同等であることを示す。したがって、リガンド結合活性、細胞内Ca++濃度上昇作用、cAMP生成抑制作用、インスリン分泌促進作用などの活性が同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例、約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍)や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。リガンド結合活性、細胞内Ca++濃度上昇作用、cAMP生成抑制作用、インスリン分泌促進作用などの活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、上記特許文献3に記載されるスクリーニング方法等に従って測定することができる。
ヒト以外の哺乳動物由来のGPR40をコードするDNAとしては、上記特許文献3に記載されるマウス、ラット、ハムスター由来DNA等が挙げられる。
外来性GPR40をコードするDNAは、例えば配列番号:1で表わされる塩基配列を含むDNAのように、イントロンを含まない形態(即ち、相補DNA)であることが好ましいが、イントロンの5’および3’末端配列はほとんどの真核生物遺伝子で共通であるので、別の実施態様においてはイントロンを含む形態(即ち、ゲノムDNA)もまた、好ましく用いられ得る[但し、ヒトGPR40のORF(配列番号:1)はヒト19番染色体(GenBank accession No. NC_000019 (VERSION: NC_000019.8 GI:42406306))の40534295位〜40535197位と、マウスGPR40のORF(GenBank accession No. NM_194057.1)はマウス7番染色体(GenBank accession No. NC_000073 (VERSION: NC_000073.3 GI:83280982))の113965103位〜113966005位(逆鎖)とそれぞれ一致するので、少なくともヒトおよびマウスGPR40遺伝子にはイントロンは存在しない]。
外来性GPR40をコードするDNAは、ヒトや各種非ヒト哺乳動物(ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)の膵臓、肝臓、脂肪組織、骨格筋、腎臓、副腎、血管、心臓、消化管、脳などに由来するDNAおよび市販の各種ゲノムDNAライブラリーに由来するゲノムDNAの全てあるいは一部を原料として用い、あるいはヒトや各種非ヒト哺乳動物の膵臓、肝臓、脂肪組織、骨格筋、腎臓、副腎、血管、心臓、消化管、脳などに由来するRNAから公知の方法により調製されたcDNAを原料として用い、公知のGPR40遺伝子配列をもとに作製したオリゴヌクレオチドをプローブもしくはプライマーとして、ハイブリダイゼーション法もしくはPCR法などにより単離することができる。
本発明のTg動物は、外来性GPR40をコードするDNAを「発現可能な状態で」保持している。したがって、当該DNAを対象動物に導入するにあたっては、当該DNAを対象動物の細胞内で機能し得るプロモーターの下流に連結した発現カセットを含む形態(例、発現ベクターなど)で用いるのが一般に有利である。
外来性GPR40をコードするDNAを担持するベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスなどの動物もしくは昆虫ウイルスなどが用いられる。なかでも、プラスミド(好ましくは大腸菌由来、枯草菌由来または酵母由来、特に大腸菌由来のプラスミド)や、動物ウイルス(好ましくはレトロウイルス、レンチウイルス)が好ましい。
外来性GPR40の遺伝子発現調節を行うプロモーターとしては、例えばウイルス(サイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルス、JCウイルス、乳癌ウイルスなど)に由来する遺伝子のプロモーター、各種哺乳動物(ヒト、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)および鳥類(ニワトリなど)に由来する遺伝子[例えば、アルブミン、エンドセリン、オステオカルシン、筋クレアチンキナーゼ、I型およびII型コラーゲン、サイクリックAMP依存蛋白キナーゼβIサブユニット、心房ナトリウム利尿性因子、ドーパミンβ-水酸化酵素、ニューロフィラメント軽鎖、メタロチオネインIおよびIIA、メタロプロテイナーゼ1組織インヒビター、平滑筋αアクチン、ポリペプチド鎖伸長因子1α(EF1-α)、βアクチン、αおよびβミオシン重鎖、ミオシン軽鎖1および2、ミエリン塩基性蛋白、血清アミロイドPコンポーネント、レニンなど]のプロモーターなどが挙げられる。好ましくは、目的とする疾患モデルに応じて、標的組織で外来性GPR40を特異的もしくは高発現させ得るプロモーター[例:膵臓で特異的に発現可能なインスリンIおよびIIプロモーター(以下、包括してインスリンプロモーターともいう)、あるいはGPR40本来のプロモーター;肝臓で高発現可能な血清アミロイドPコンポーネント(SAP)、アルブミン、トランスフェリン、フィブリノーゲン、アンチトロンビンIII、α1-アンチトリプシンなどの遺伝子プロモーター;脂肪組織で特異的に発現可能なアディポネクチンなどのアディポサイトカイン遺伝子プロモーター;骨格筋で特異的に発現可能なマスクリンなどの遺伝子プロモーター;腎臓で高発現可能なPTH/PTHrP受容体などの遺伝子プロモーター;副腎で高発現可能なACTH受容体などの遺伝子プロモーター;血管で特異的に発現可能なプレプロエンドセリン-1などの遺伝子プロモーター;心臓で高発現可能なαおよびβミオシン重鎖、ミオシン軽鎖1および2などの遺伝子プロモーター;消化管で高発現可能な脂肪酸結合蛋白質などの遺伝子プロモーター;脳で高発現可能なミエリン塩基性蛋白、グリア線維性酸性蛋白などの遺伝子プロモーター等]を適宜選択することができるが、好ましくは、内在のGPR40遺伝子の生理的条件下での発現と類似した時間的・空間的発現プロファイルを付与し得るプロモーター、例えば、インスリンプロモーター、GPR40プロモーターなど、より好ましくはインスリンIIプロモーターが用いられる。
外来性GPR40をコードするDNAの下流には、Tg動物において目的とするメッセンジャーRNAの転写を終結させる配列(ポリアデニレーション(polyA)シグナル、ターミネーターとも呼ばれる)を有していることが好ましく、例えば、ウイルス遺伝子由来、あるいは各種哺乳動物または鳥類の遺伝子由来のターミネーター配列を用いて、効率よい導入遺伝子の発現を達成することができる。好ましくは、シミアンウイルスのSV40ターミネーターなどが用いられる。その他、目的の遺伝子をさらに高発現させる目的で、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核遺伝子のイントロンの一部を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも目的により可能である。
また、胚性幹細胞(ES細胞)を用いてTg動物を作製する場合、上記のベクターは、導入DNAが安定に組み込まれたクローンを選択するための選択マーカー遺伝子(例:ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子)をさらに含むことが好ましい。さらに、相同組換えにより宿主染色体の特定の部位に導入DNAを組み込むこと(即ち、ノックイン動物の作製)を意図する場合には、上記のベクターは、ランダムな挿入を排除するために、標的部位と相同なDNA配列の外側に単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子やジフテリア毒素遺伝子をネガティブ選択マーカー遺伝子としてさらに含むことが好ましい。これらの実施態様については後で詳述する。
上記のプロモーター、外来性GPR40をコードするDNA、ターミネーターなどは、適当な制限酵素およびDNAリガーゼ等を用いた通常の遺伝子工学的手法により、上記のベクター中に正しい配置で、即ちTg動物において外来性GPR40を発現可能な配置で、挿入することができる。
好ましい一実施態様においては、上記のようにして得られる外来性GPR40をコードするDNAを含む発現ベクターは、マイクロインジェクション法により対象となる非ヒト哺乳動物の初期胚に導入される。
対象非ヒト哺乳動物の初期胚は、同種の非ヒト哺乳動物の雌雄を交配させて得られる体内受精卵を採取するか、あるいは同種の非ヒト哺乳動物の雌雄からそれぞれ採取した卵と***を体外受精させることにより得ることができる。
用いる非ヒト哺乳動物の齢や飼育条件等は動物種によってそれぞれ異なるが、例えばマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF1など)を用いる場合は、雌が約4〜約6週齢、雄が約2〜約8ヶ月齢程度のものが好ましく、また、約12時間明期条件(例えば7:00-19:00)で約1週間飼育したものが好ましい。
体内受精は自然交配によってもよいが、性周期の調節と1個体から多数の初期胚を得ることを目的として、雌非ヒト哺乳動物に性腺刺激ホルモンを投与して過剰***を誘起した後、雄非ヒト哺乳動物と交配させる方法が好ましい。雌非ヒト哺乳動物の***誘発法としては、例えば初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン、一般にPMSGと略する)、次いで黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、一般にhCGと略する)を、例えば腹腔内注射などにより投与する方法が好ましいが、好ましいホルモンの投与量、投与間隔は非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる。例えば、非ヒト哺乳動物がマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF1など)の場合は、通常、卵胞刺激ホルモン投与後、約48時間後に黄体形成ホルモンを投与し、直ちに雄マウスと交配させることにより受精卵を得る方法が好ましく、卵胞刺激ホルモンの投与量は約20〜約50IU/個体、好ましくは約30IU/個体、黄体形成ホルモンの投与量は約0〜約10IU/個体、好ましくは約5IU/個体である。
一定時間経過後、膣栓の検査等により交配を確認した雌非ヒト哺乳動物の腹腔を開き、卵管から受精卵を取り出して胚培養用培地(例:M16培地、修正Whitten培地、BWW培地、M2培地、WM-HEPES培地、BWW-HEPES培地等)中で洗って卵丘細胞を除き、微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下でDNA顕微注入まで培養する。直ちに顕微注入を行わない場合、採取した受精卵を緩慢法または超急速法等で凍結保存することも可能である。
一方、体外受精の場合は、採卵用雌非ヒト哺乳動物(体内受精の場合と同様のものが好ましく用いられる)に上記と同様に卵胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモンを投与して***を誘発させた後、卵子を採取して受精用培地(例:TYH培地)中で体外受精時まで微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で培養する。他方、同種の雄非ヒト哺乳動物(体内受精の場合と同様のものが好ましく用いられる)から精巣上体尾部を取り出し、***塊を採取して受精用培地中で前培養する。前培養終了後の***を卵子を含む受精用培地に添加し、微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で培養した後、2個の前核を有する受精卵を顕微鏡下で選抜する。直ちにDNAの顕微注入を行わない場合は、得られた受精卵を緩慢法または超急速法等で凍結保存することも可能である。
受精卵へのDNAの顕微注入は、マイクロマニピュレーター等の公知の装置を用いて常法に従って実施することができる。簡潔に言えば、胚培養用培地の微小滴中に入れた受精卵をホールディングピペットで吸引して固定し、インジェクションピペットを用いてDNA溶液を雄性もしくは雌性前核、好ましくは雄性前核内に直接注入する。導入DNAはCsCl密度勾配超遠心または陰イオン交換樹脂カラム等で高度に精製したものを用いることが好ましい。また、導入DNAは制限酵素を用いてベクター部分を切断し、直鎖状にしておくことが好ましい。
DNA導入後の受精卵は胚培養用培地中で微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で1細胞期〜胚盤胞期まで培養した後、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の卵管または子宮内に移植される。受胚用雌非ヒト哺乳動物は移植される初期胚が由来する動物と同種のものであればよく、例えば、マウス初期胚を移植する場合は、ICR系の雌マウス(好ましくは約8〜約10週齢)などが好ましく用いられる。受胚用雌非ヒト哺乳動物を偽妊娠状態にする方法としては、例えば、同種の精管切除(結紮)雄非ヒト哺乳動物(例えば、マウスの場合、ICR系の雄マウス(好ましくは約2ヶ月齢以上))と交配させて、膣栓の存在が確認されたものを選択する方法が知られている。
受胚用雌は自然***のものを用いてもよいし、あるいは精管切除(結紮)雄との交配に先立って、黄体形成ホルモン放出ホルモン(一般にLHRHと略する)もしくはその類縁体を投与し、受精能を誘起させたものを用いてもよい。LHRH類縁体としては、例えば、[3,5-DiI-Tyr5]-LH-RH、[Gln8]-LH-RH、[D-Ala6]-LH-RH、[des-Gly10]-LH-RH、[D-His(Bzl)6]-LH-RHおよびそれらのEthylamideなどが挙げられる。LHRHもしくはその類縁体の投与量、ならびにその投与後に雄非ヒト哺乳動物と交配させる時期は、非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる。例えば、非ヒト哺乳動物がマウス(好ましくはICR系のマウスなど)の場合には、通常、LHRHもしくはその類縁体を投与した後、約4日目に雄マウスと交配させることが好ましく、LHRHあるいはその類縁体の投与量は、通常、約10〜60μg/個体、好ましくは約40μg/個体である。
通常、移植される初期胚が桑実胚期以後の場合は受胚用雌の子宮に、それより前(例えば、1細胞期〜8細胞期胚)であれば卵管に胚移植される。受胚用雌は、移植胚の発生段階に応じて偽妊娠からある日数が経過したものが適宜使用される。例えばマウスの場合、2細胞期胚を移植するには偽妊娠後約0.5日の雌マウスが、胚盤胞期胚を移植するには偽妊娠後約2.5日の雌マウスが好ましい。受胚用雌を麻酔(好ましくはAvertin、ネンブタール等が使用される)後、切開して卵巣を引き出し、胚培養用培地に懸濁した初期胚(約5〜約10個)を胚移植用ピペットを用いて、卵管腹腔口もしくは子宮角の卵管接合部付近に注入する。
移植胚が首尾よく着床し受胚雌が妊娠すれば、自然分娩もしくは帝王切開により仔非ヒト哺乳動物が得られる。自然分娩した受胚雌にはそのまま哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(例えばマウスの場合、通常に交配・分娩した雌マウス(好ましくはICR系の雌マウス等))に哺乳させることができる。
受精卵細胞段階における外来性GPR40をコードするDNAの導入は、導入DNAが対象非ヒト哺乳動物の生殖系列細胞および体細胞のすべてに存在するように確保される。導入DNAが染色体DNAに組み込まれているか否かは、例えば、産仔の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることにより検定することができる。上記のようにして得られる仔非ヒト哺乳動物(F0)の生殖系列細胞において外来性GPR40をコードするDNAが存在することは、その後代(F1)の動物全てが、その生殖系列細胞および体細胞のすべてに外来性GPR40をコードするDNAが存在することを意味する。
通常、F0動物は相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体として得られる。また、個々のF0個体は相同組換えによらない限り異なる染色体上にランダムに挿入される。相同染色体の両方に外来性GPR40をコードするDNAを有するホモ接合体を得るためには、F0動物と非トランスジェニック動物とを交雑してF1動物を作製し、相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体の兄妹同士を交雑すればよい。1遺伝子座にのみ導入DNAが組み込まれていれば、得られるF2動物の1/4がホモ接合体となる。
別の一実施態様においては、外来性GPR40をコードするDNAを含む発現ベクターは、エレクトロポレーション法等の公知の遺伝子導入法により対象となる非ヒト哺乳動物のES細胞に導入される。
ES細胞は胚盤胞期の受精卵の内部細胞塊(ICM)に由来し、インビトロで未分化状態を保ったまま培養維持できる細胞をいう。ICMの細胞は将来、胚本体を形成する細胞であり、生殖細胞を含むすべての組織の基になる幹細胞である。ES細胞としては、既に樹立された細胞株を用いてもよく、また、EvansとKaufmanの方法(ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年)に準じて新しく樹立したものでもよい。例えば、マウスES細胞の場合、現在、一般的には129系マウス由来のES細胞が使用されているが、免疫学的背景がはっきりしていないので、これに代わる純系で免疫学的に遺伝的背景が明らかなES細胞を取得するなどの目的で、例えば、C57BL/6マウスやC57BL/6の採卵数の少なさをDBA/2との交雑により改善したBDF1マウス(C57BL/6とDBA/2とのF1)から樹立されるES細胞なども良好に用いることができる。BDF1マウスは、採卵数が多く、かつ卵が丈夫であるという利点に加えて、C57BL/6マウスを背景に持つので、これ由来のES細胞は疾患モデルマウスを作製したとき、C57BL/6マウスと戻し交雑することでその遺伝的背景をC57BL/6マウスに代えることが可能である点で有利に用い得る。
ES細胞の調製は、例えば以下のようにして行うことができる。交配後の雌非ヒト哺乳動物[例えばマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF1など)を用いる場合は、約2ヶ月齢以上の雄マウスと交配させた約8〜約10週齢程度の雌マウス(妊娠約3.5日)が好ましく用いられる]の子宮から胚盤胞期胚を採取して(あるいは桑実胚期以前の初期胚を卵管から採取した後、胚培養用培地中で上記と同様にして胚盤胞期まで培養してもよい)、適当なフィーダー細胞(例えばマウスの場合、マウス胎仔から調製される初代繊維芽細胞や公知のSTO繊維芽細胞株等)層上で培養すると、胚盤胞の一部の細胞が集合して将来胚に分化するICMを形成する。この内部細胞塊をトリプシン処理して単細胞を解離させ、適切な細胞密度を保ち、培地交換を行いながら、解離と継代を繰り返すことによりES細胞が得られる。
ES細胞は雌雄いずれを用いてもよいが、通常雄のES細胞の方が生殖系列キメラを作製するのに都合が良い。また、煩雑な培養の手間を削減するためにもできるだけ早く雌雄の判別を行なうことが望ましい。ES細胞の雌雄の判定方法としては、例えば、PCR法によりY染色体上の性決定領域の遺伝子を増幅、検出する方法が、その1例としてあげることができる。この方法を使用すれば、従来、核型分析をするのに約106個の細胞数を要していたのに対して、1コロニー程度のES細胞数(約50個)で済むので、培養初期におけるES細胞の第一次セレクションを雌雄の判別で行なうことが可能であり、早期に雄細胞の選定を可能にしたことにより培養初期の手間は大幅に削減できる。
また、第二次セレクションとして、例えば、G-バンディング法による染色体数の確認等により行うことができる。得られるES細胞の染色体数は正常数の100%が望ましいが、細胞株樹立の際の物理的操作等の関係上困難な場合は、ES細胞への遺伝子導入の後、正常細胞(例えば、マウスでは染色体数が2n=40である細胞)に再びクローニングすることが望ましい。
このようにして得られるES細胞株は、未分化幹細胞の性質を維持するために注意深く継代培養することが必要である。例えば、STO繊維芽細胞のような適当なフィーダー細胞上で、分化抑制因子として知られるLIF(1〜10,000U/ml)存在下に炭酸ガス培養器内(好ましくは、5%炭酸ガス/95%空気または5%酸素/5%炭酸ガス/90%空気)で約37℃で培養するなどの方法で培養し、継代時には、例えば、トリプシン/EDTA溶液(通常0.001〜0.5%トリプシン/0.1〜5mM EDTA、好ましくは約0.1%トリプシン/1mM EDTA)処理により単細胞化し、新たに用意したフィーダー細胞上に播種する方法などがとられる。このような継代は、通常1〜3日毎に行なうが、この際に細胞の観察を行い、形態的に異常な細胞が見受けられた場合はその培養細胞は放棄することが望まれる。
ES細胞は、適当な条件により、高密度に至るまで単層培養するか、または細胞集塊を形成するまで浮遊培養することにより、頭頂筋、内臓筋、心筋などの種々のタイプの細胞に分化させることが可能であり〔M. J. Evans及びM. H. Kaufman, ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年;G. R. Martin, プロシーディングズ・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.)第78巻、7634頁、1981年;T. C. Doetschmanら, ジャーナル・オブ・エンブリオロジー・アンド・エクスペリメンタル・モルフォロジー、第87巻、27頁、1985年〕、本発明の外来性GPR40をコードするDNAを導入されたES細胞を分化させて得られる外来性GPR40発現非ヒト哺乳動物細胞は、インビトロにおける外来性GPR40の細胞生物学的検討において有用である。
ES細胞への遺伝子導入には、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE-デキストラン法などのいずれも用いることができるが、簡便に多数の細胞を処理できること等の点からエレクトロポレーション法が一般的に選択されている。エレクトロポレーションには通常の動物細胞への遺伝子導入に使用されている条件をそのまま用いればよく、例えば、対数増殖期にあるES細胞をトリプシン処理して単一細胞に分散させた後、106〜108細胞/mlとなるように培地に懸濁してキュベットに移し、外来性GPR40をコードするDNAを含むベクターを10〜100μg添加し、200〜600V/cmの電気パルスを印加することにより行なうことができる。
導入DNAが組み込まれたES細胞は、単一細胞をフィーダー細胞上で培養して得られるコロニーから分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることによっても検定することができるが、ES細胞を用いるトランスジェニック系の最大の長所は、薬剤耐性遺伝子やレポーター遺伝子の発現を指標として細胞段階で形質転換体を選択できることである。したがって、ここで使用される導入ベクターは、外来性GPR40をコードするDNAを含む発現カセットに加えて、薬剤耐性遺伝子(例:ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)遺伝子など)やレポーター遺伝子(例:β-ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)遺伝子など)等の選択マーカー遺伝子をさらに含むことが望ましい。例えば、選択マーカー遺伝子としてnptII遺伝子を含むベクターを用いた場合、遺伝子導入処理後のES細胞をG418などのネオマイシン系抗生物質を含有する培地中で培養し、出現した耐性コロニーをそれぞれ培養プレートに移してトリプシン処理、培地交換を繰り返した後、一部を培養用として残し、残りをPCRもしくはサザンハイブリダイゼーションにかけて導入DNAの存在を確認する。
導入DNAの組込みが確認されたES細胞を同種の非ヒト哺乳動物由来の胚内に戻すと、宿主胚のICMに組み込まれてキメラ胚が形成される。これを仮親(受胚用雌)に移植してさらに発生を続けさせることにより、キメラトランスジェニック動物が得られる。キメラ動物の中でES細胞が将来卵や***に分化する始原生殖細胞の形成に寄与した場合には、生殖系列キメラが得られることとなり、これを交配することにより導入DNAが遺伝的に固定されたTg動物を作製することができる。
キメラ胚の作製方法としては、桑実胚期までの初期胚同士を接着させて集合させる方法(集合キメラ法)と、胚盤胞の割腔内に細胞を顕微注入する方法(注入キメラ法)とがある。ES細胞によるキメラ胚の作製においては従来より後者が広く行なわれているが、最近では、8細胞期胚の透明帯内へのES細胞の注入により集合キメラを作る方法や、マイクロマニピュレーターが不要で操作が容易な方法として、ES細胞塊と透明帯を除去した8細胞期胚とを共培養して凝集させることによって集合キメラを作製する方法も行われている。
いずれの場合も、宿主胚は受精卵への遺伝子導入における採卵用雌として使用され得る非ヒト哺乳動物から同様にして採取することができるが、例えばマウスの場合、キメラマウス形成へのES細胞の寄与率を毛色(コートカラー)で判定し得るように、ES細胞の由来する系統とは毛色の異なる系統のマウスから宿主胚を採取することが好ましい。例えば、ES細胞が129系マウス(毛色:アグーチ)由来であれば、採卵用雌としてC57BL/6マウス(毛色:ブラック)やICRマウス(毛色:アルビノ)を用い、ES細胞がC57BL/6もしくはDBF1マウス(毛色:ブラック)由来やTT2細胞(C57BL/6とCBAとのF1(毛色:アグーチ)由来)であれば、採卵用雌としてICRマウスやBALB/cマウス(毛色:アルビノ)を用いることができる。
また、生殖系列キメラ形成能はES細胞と宿主胚との組み合わせに大きく依存するので、生殖系列キメラ形成能の高い組み合わせを選択することがより好ましい。例えばマウスの場合、129系統由来のES細胞に対してはC57BL/6系統由来の宿主胚等を用いることが好ましく、C57BL/6系統由来のES細胞に対してはBALB/c系統由来の宿主胚等が好ましい。
採卵用雌マウスは約4〜約6週齢程度が好ましく、交配用の雄マウスとしては約2〜約8ヶ月齢程度の同系統のものが好ましい。交配は自然交配によってもよいが、好ましくは性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、次いで黄体形成ホルモン)を投与して過剰***を誘起した後に行なわれる。
胚盤注入法による場合は、胚盤胞期胚(例えばマウスの場合、交配後約3.5日)を採卵用雌の子宮から採取し(あるいは桑実胚期以前の初期胚を卵管から採取した後、上述の胚培養用培地中で胚盤胞期まで培養してもよい)、マイクロマニピュレーターを用いて胚盤胞の割腔内に外来性GPR40をコードするDNAが導入されたES細胞(約10〜約15個)を注入した後、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の子宮内に移植する。受胚用雌非ヒト哺乳動物は受精卵への遺伝子導入における受胚用雌として使用され得る非ヒト哺乳動物を同様に用いることができる。
共培養法による場合は、8細胞期胚および桑実胚(例えばマウスの場合、交配後約2.5日)を採卵用雌の卵管および子宮から採取して(あるいは8細胞期以前の初期胚を卵管から採取した後、上述の胚培養用培地中で8細胞期または桑実胚期まで培養してもよい)酸性タイロード液中で透明帯を溶解した後、ミネラルオイルを重層した胚培養用培地の微小滴中に外来性GPR40をコードするDNAが導入されたES細胞塊(細胞数約10〜約15個)を入れ、さらに上記8細胞期胚または桑実胚(好ましくは2個)を入れて一晩共培養する。得られた桑実胚または胚盤胞を上記と同様にして受胚用雌非ヒト哺乳動物の子宮内に移植する。
移植胚が首尾よく着床し受胚雌が妊娠すれば、自然分娩もしくは帝王切開によりキメラ非ヒト哺乳動物が得られる。自然分娩した受胚雌にはそのまま哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(通常に交配・分娩した雌非ヒト哺乳動物)に哺乳させることができる。
生殖系列キメラの選択は、まずES細胞の雌雄が予め判別されている場合はES細胞と同じ性別のキメラマウスを選択し(通常は雄性ES細胞が使用されるので、雄キメラマウスが選択される)、次いで毛色等の表現型からES細胞の寄与率が高いキメラマウス(例えば、50%以上)を選択する。例えば、129系マウス由来の雄性ES細胞であるD3細胞とC57BL/6マウス由来の宿主胚とのキメラ胚から得られるキメラマウスの場合、アグーチの毛色の占める割合の高い雄マウスを選択するのが好ましい。選択されたキメラ非ヒト哺乳動物が生殖系列キメラであるか否かの確認は、適当な系統の同種動物との交雑により得られるF1動物の表現型に基づいて行なうことができる。例えば、上記キメラマウスの場合、アグーチはブラックに対して優性であるので、雌C57BL/6マウスと交雑すると、選択された雄マウスが生殖系列キメラであれば得られるF1の毛色はアグーチとなる。
上記のようにして得られる外来性GPR40をコードするDNAが導入された生殖系列キメラ非ヒト哺乳動物(ファウンダー)は、通常、相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体として得られる。また、個々のファウンダーは相同組換えによらない限り異なる染色体上にランダムに挿入される。相同染色体の両方に外来性GPR40をコードするDNAを有するホモ接合体を得るためには、上記のようにして得られるF1動物のうち相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体の兄妹同士を交雑すればよい。ヘテロ接合体の選択は、例えばF1動物の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることにより検定することができる。1遺伝子座にのみ導入DNAが組み込まれていれば、得られるF2動物の1/4がホモ接合体となる。
発現ベクターとしてウイルスを用いる場合の別の好ましい一実施態様として、外来性GPR40をコードするDNAを含むウイルスで、非ヒト哺乳動物の初期胚もしくはES細胞を感染させる方法が挙げられる(例えば、プロシーディングズ・オヴ・ナショナル・アカデミー・オヴ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)第99巻, 第4号, 第2140-2145頁, 2002年参照)。例えば、レトロウイルスやレンチウイルスを用いる場合、ディッシュなどの適当な培養器に細胞(受精卵は透明帯を除いておくことが好ましい)を播き、培養液にウイルスベクターを加えて(所望によりポリブレンを共存させてもよい)、1〜2日間培養後、初期胚であれば、上述のように偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の卵管または子宮内に移植し、ES細胞であれば、上述のようにG418やハイグロマイシンなどの選択薬剤を添加して培養を続け、ベクターが組み込まれた細胞を選択する。
さらに、プロシーディングズ・オヴ・ナショナル・アカデミー・オヴ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)第98巻, 第13090-13095頁, 2001年に記載されるように、雄非ヒト哺乳動物から採取した精原細胞をSTOフィーダー細胞と共培養する間にウイルスベクターに感染させた後、雄性不妊非ヒト哺乳動物の精細管に注入して雌非ヒト哺乳動物と交配させることにより、効率よく外来性GPR40へテロTg(+/-)産仔を得ることができる。
本発明のTg動物は、対応する非トランスジェニック動物と比較して、以下の特性:
(1)インスリン分泌能が増大している、および/または
(2)耐糖能が改善されている
を有することを特徴とする。
従来公知のGPR40 Tgマウス(非特許文献3、特許文献4を参照)はインスリン分泌不全を伴う糖尿病を発症した。しかしながら、上記の本発明のTg動物の表現型は、GPR40作動薬が膵β細胞からのインスリン分泌を促進し、糖尿病の予防・治療薬として有用であるとのコンセプトを支持するものである。即ち、本発明のTg動物では、外来性GPR40をコードするDNAはインスリンプロモーターの制御下であり、本来のβ細胞の機能亢進が達成されたと考えられる。また、本発明のTg動物の表現型は、実施例に記載するように2系統において認められたことから、導入遺伝子に基づく効果であり、正常なGPR40機能を反映していることが支持される。これに対し、公知のGPR40 TgマウスはIpf-1プロモーターによる発現マウスであり、用いたプロモーターが異なり、発現部位、発現時期、発現レベル、染色体への挿入場所の違い、または何らかの理由で表現型に相違がみられたと考えられる。
本発明のTg動物は、上述のように、GPR40作動薬による糖尿病の予防・治療というコンセプトを実証するだけでなく、GPR40調節薬(作動薬、拮抗薬を含む)の評価系などに用いることができる。
したがって、本発明はまた、本発明のTg動物またはその生体の一部に被験物質を適用し、GPR40アゴニスト活性またはGPR40アンタゴニスト活性を検定することを特徴とする、GPR40アゴニストまたはGPR40アンタゴニストのスクリーニング方法を提供する。また、ヒト型遺伝子を発現させた場合は、ヒト型遺伝子のみに作用する化合物の評価に有用となる。
ここで「アゴニスト活性」とは、GPR40に特異的に結合し、GPR40の活性型と不活性型の平衡状態をより活性側にシフトさせる性質をいい、その程度は特に限定されない。従って、「アゴニスト活性を有する物質(作動薬)」には、いわゆるフルアゴニストの他、パーシャルアゴニストも包含される。一方、「アンタゴニスト活性」とは、GPR40のリガンド結合部位に拮抗的に結合するが、活性型と不活性型の平衡状態にほとんど又は全く影響を及ぼさない性質、あるいはGPR40の任意の部位に結合して、GPR40の活性型と不活性型の平衡状態をより不活性側にシフトさせる性質をいう。従って、本明細書において「アンタゴニスト活性を有する物質(拮抗薬)」とは、いわゆるニュートラルアンタゴニストとインバースアゴニストの両方を包含する概念として定義されるものとする。
具体的には、本発明のスクリーニング方法では、本発明のTg動物に被験物質を投与する。被験物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質、DNAライブラリーなどの他に、例えば哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられる。被験物質のGPR40アゴニスト/アンタゴニスト活性は、例えば、リガンド(即ち、遊離脂肪酸など)結合活性、細胞内Ca++濃度上昇作用、cAMP生成抑制作用、膵β細胞からのインスリン分泌促進作用などを指標として検定することができる。これらは自体公知の方法に準じて測定することができる。
このようにして選択されたGPR40作動薬は、哺乳動物における安全で低毒性な糖尿病(I型およびII型)、耐糖能障害、高脂血症、代謝性症候群などの疾患に対する予防・治療剤、膵臓機能調節剤(例、膵臓機能改善剤)、インスリン分泌促進剤、血糖低下剤、膵β細胞保護剤として有用である。その他、ケトーシス、アシドーシス、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、動脈硬化、性機能障害、皮膚疾患、関節症、骨減少症、血栓性疾患、消化不良、記憶学習障害などの疾患に対する予防・治療剤としても使用することができる。
GPR40作動薬は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。該作動薬は、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。これら製剤における有効成分量は後述する投与量を考慮して適宜選択される。
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノールなど)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM、HCO-50など)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)、好ましくは外来性GPR40の由来する動物(好ましくはヒト)に対して投与することができる。
GPR40作動薬の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で経口投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき約0.1mg〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgである。非経口投与の場合、当該作動薬の投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で注射剤として成人(体重60kg)に投与する場合、一日につき約0.01〜約30mg程度、好ましくは約0.1〜約20mg程度、より好ましくは約0.1〜約10mg程度である。投与対象がヒト以外の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
また、本発明のスクリーニング法により選択されたGPR40拮抗薬は、哺乳動物(好ましくは外来性GPR40の由来する動物、さらに好ましくはヒト)における安全で低毒性な肥満、高脂血症、II型糖尿病、インスリン抵抗性症候群などの疾患に対する予防・治療剤、膵臓機能調節剤(例、膵臓機能改善剤)、インスリン分泌抑制剤、血糖上昇剤として有用である。その他、低血糖症、高血圧、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、浮腫、不安定糖尿病、脂肪萎縮、インスリンアレルギー、インスリノーマ、動脈硬化、血栓性疾患、脂肪毒性、癌などの疾患に対する予防・治療剤としても使用することができる。GPR40拮抗薬は、上記GPR40作動薬と同様の方法により製剤化され、経口的もしくは非経口的に哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に投与することができる。
GPR40拮抗薬の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、肥満の治療目的で経口投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき約0.1mg〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgである。非経口投与の場合、当該拮抗薬の投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、肥満の治療目的で注射剤として成人(体重60kg)に投与する場合、一日につき約0.01〜約30mg程度、好ましくは約0.1〜約20mg程度、より好ましくは約0.1〜約10mg程度である。投与対象がヒト以外の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
上述のように、本発明のTg動物は、対応する非トランスジェニック動物と比較して、
(1)インスリン分泌能が増大している、および/または
(2)耐糖能が改善されている
ことを特徴とすることから、該動物は、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能調節薬のスクリーニングに特に有用である。
したがって、本発明はまた、本発明のTg動物またはその生体の一部に被験物質を適用し、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能を測定することを特徴とする、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能調節薬のスクリーニング方法を提供する。
具体的には、該スクリーニング方法では、本発明のTg動物に被験物質を投与する。被験物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質、DNAライブラリーなどの他に、例えば哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられる。被験物質のインスリン分泌調節作用および耐糖能調節作用は、それぞれ自体公知の方法、例えば、後記実施例において用いられる方法などに準じて測定することができる。
該スクリーニング法により選択されたインスリン分泌/耐糖能調節薬は、哺乳動物(好ましくは外来性GPR40の由来する動物、さらに好ましくはヒト)におけるインスリン分泌および/または耐糖能の改善に使用することができる。該調節薬は、上記GPR40作動薬と同様の方法により製剤化され、経口的もしくは非経口的に哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に投与することができる。
該インスリン分泌/耐糖能調節薬の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で経口投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき約0.1mg〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgである。非経口投与の場合、当該調節薬の投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で注射剤として成人(体重60kg)に投与する場合、一日につき約0.01〜約30mg程度、好ましくは約0.1〜約20mg程度、より好ましくは約0.1〜約10mg程度である。投与対象がヒト以外の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
GPR40遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物とは、内在性GPR40の発現が不活性化された非ヒト哺乳動物を意味し、GPR40遺伝子がノックアウト(KO)されたES細胞から上記の方法に従って作製されるGPR40 KO動物の他、アンチセンスもしくはRNAi技術によりGPR40遺伝子の発現が不活性化されたノックダウン(KD)動物なども含まれる。ここで「ノックアウト(KO)」とは、内在性遺伝子を破壊したり、除去したりすることにより完全なmRNAを産生不能にすることを意味し、他方、「ノックダウン(KD)」とは、mRNAから蛋白質への翻訳を阻害することにより、結果的に内在性遺伝子の発現を不活性化することを意味する。
本発明のGPR40遺伝子KO/KD動物(以下、単に「本発明のKO/KD動物」という場合がある)において、対象とし得る「非ヒト哺乳動物」は、トランスジェニック系が確立されたヒト以外の哺乳動物であれば特に制限はなく、例えば、マウス、ラット、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスターなどが挙げられる。好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター等であり、なかでも疾患モデル動物作製の面から個体発生および生物サイクルが比較的短く、繁殖が容易な齧歯動物がより好ましく、とりわけマウス(例えば、純系としてC57BL/6系統、DBA2系統など、交雑系としてB6C3F1系統、BDF1系統、B6D2F1系統、BALB/c系統、ICR系統など)およびラット(例えば、Wistar、SDなど)が好ましい。
GPR40遺伝子をノックアウトする具体的な手段としては、対象非ヒト哺乳動物由来のGPR40遺伝子(ゲノムDNA)を常法に従って単離し、例えば、(1)そのエキソン部分やプロモーター領域に他のDNA断片(例えば、薬剤耐性遺伝子やレポーター遺伝子等)を挿入することによりエキソンもしくはプロモーターの機能を破壊するか、(2)Cre-loxP系やFlp-frt系を用いてGPR40遺伝子の全部または一部を切り出して該遺伝子を欠失させるか、(3)蛋白質コード領域内へ終止コドンを挿入して完全な蛋白質の翻訳を不能にするか、あるいは(4)転写領域内部へ遺伝子の転写を終結させるDNA配列(例えば、polyA付加シグナルなど)を挿入して、完全なmRNAの合成を不能にすることによって、結果的に遺伝子を不活性化するように構築したDNA配列を有するDNA鎖(以下、ターゲッティングベクターと略記する)を、相同組換えにより対象非ヒト哺乳動物のGPR40遺伝子座に組み込ませる方法などが好ましく用いられ得る。
該相同組換え体は、例えば、本発明のTg動物の作製方法の1つである、ES細胞への外来性GPR40をコードするDNAの導入において、外来性GPR40をコードするDNAの代わりに上記ターゲッティングベクターを用いることにより取得することができる。ターゲッティングベクターが、GPR40遺伝子のエキソンもしくはプロモーター部分に薬剤耐性もしくはレポーター遺伝子が挿入されたものである場合、当該薬剤耐性もしくはレポーター活性を指標として遺伝子導入ES細胞を選択することができる。薬剤耐性もしくはレポーター遺伝子は、哺乳動物細胞内で機能し得る任意のプロモーターを含む発現カセットの形態であることが好ましいが、レポーター遺伝子がGPR40遺伝子の内在性プロモーターの制御下におかれるようにGPR40遺伝子内に挿入される場合、該レポーター遺伝子のベクターにはプロモーターを必要としない。
通常、哺乳動物における遺伝子組換えは大部分が非相同的であり、導入されたDNAは染色体の任意の位置にランダムに挿入される。したがって、薬剤耐性やレポーター遺伝子の発現を検出するなどの選択によっては相同組換えにより標的となる内在性GPR40遺伝子にターゲッティングされたクローンのみを効率よく選択することができず、選択されたすべてのクローンについてサザンハイブリダイゼーション法もしくはPCR法による組込み部位の確認が必要となる。そこで、ターゲッティングベクターの標的配列に相同な領域の外側に、例えば、ガンシクロビル感受性を付与する単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子を連結しておけば、該ベクターがランダムに挿入された細胞はHSV-tk遺伝子を有するため、ガンシクロビル含有培地では生育できないが、相同組換えにより内在性GPR40遺伝子座にターゲッティングされた細胞はHSV-tk遺伝子を有しないので、ガンシクロビル耐性となり選択される。あるいは、HSV-tk遺伝子の代わりに、例えばジフテリア毒素遺伝子を連結すれば、該ベクターがランダムに挿入された細胞は自身の産生する該毒素によって死滅するので、薬剤非存在下で相同組換え体を選択することもできる。出現した耐性コロニーをそれぞれ培養プレートに移してトリプシン処理、培地交換を繰り返した後、一部を培養用として残し、残りをPCRもしくはサザンハイブリダイゼーションにかけて導入DNAの存在を確認する。
キメラ胚の作製、ファウンダーの樹立、ホモ接合体の作製等は、ES細胞を用いた本発明のTg動物の作製方法において上記したと同様の方法を用いて行うことができる。
GPR40遺伝子をノックダウンする具体的な手段としては、GPR40のアンチセンスRNAもしくはsiRNA(shRNAを含む)をコードするDNAを、上記のいずれかのトランスジェニック作製技術を用いて導入し、対象非ヒト哺乳動物細胞内で発現させる方法などが挙げられる。
目的のポリヌクレオチドの標的領域と相補的な塩基配列を含むDNA、即ち、目的のポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるDNAは、該目的のポリヌクレオチドに対して「アンチセンス」であるということができる。
GPR40をコードするポリヌクレオチドの塩基配列に、相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有するアンチセンスDNAとしては、GPR40をコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含有し、該ポリヌクレオチドの発現を抑制し得る作用を有するものであれば、いずれのアンチセンスDNAであってもよい。
GPR40をコードするポリヌクレオチドに実質的に相補的な塩基配列とは、例えば、該ポリヌクレオチドの相補鎖の塩基配列と、オーバーラップする領域に関して、約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列である。本明細書における塩基配列の相同性は、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
特に、GPR40をコードするポリヌクレオチドの相補鎖の全塩基配列のうち、(a)翻訳阻害を指向したアンチセンスDNAの場合は、GPR40蛋白質のN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスDNAが、(b)RNaseHによるRNA分解を指向するアンチセンスDNAの場合は、イントロンを含むGPR40をコードするポリヌクレオチドの全塩基配列の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスDNAがそれぞれ好適である。
具体的には、対象非ヒト哺乳動物がマウスの場合、GenBank accession No. NM_194057 (VERSION: NM_194057.1 GI:34610212)として登録されている塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列、またはその一部を含むアンチセンスDNA、好ましくは、該塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含むアンチセンスDNAなどが挙げられる。
GPR40をコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有するアンチセンスDNA(以下、「本発明のアンチセンスDNA」ともいう)は、クローン化した、あるいは決定されたGPR40をコードするDNAの塩基配列情報に基づき設計し、合成しうる。かかるアンチセンスDNAは、GPR40遺伝子の複製または発現を阻害することができる。即ち、本発明のアンチセンスDNAは、GPR40遺伝子から転写されるRNA(mRNAまたは初期転写産物)とハイブリダイズすることができ、mRNAの合成(プロセッシング)または機能(蛋白質への翻訳)を阻害することができる。
本発明のアンチセンスDNAの標的領域は、アンチセンスDNAがハイブリダイズすることにより、結果としてGPR40蛋白質への翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、該蛋白質をコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約10塩基程度、長いものでmRNAまたは初期転写産物の全配列が挙げられる。具体的には、GPR40遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6-ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、蛋白質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域または3’端ヘアピンループなどが、アンチセンスDNAの好ましい標的領域として選択しうるが、GPR40遺伝子内の如何なる領域も対象として選択しうる。例えば、該遺伝子のイントロン部分を標的領域とすることもできる。
さらに、本発明のアンチセンスDNAは、GPR40のmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして蛋白質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるGPR40遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAの転写を阻害し得るものであってもよい。あるいはDNA:RNAハイブリッドを形成してRNaseHによる分解を誘導するものであってもよい。
GPR40をコードするmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムをコードするDNAもまた、本発明のアンチセンスDNAに包含され得る。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイムは、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。GPR40 mRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
本明細書においては、GPR40のmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相同なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆる単鎖干渉RNA(siRNA)もまた、本発明のKD動物作製のために用いることができる。siRNAを細胞内に導入するとそのRNAに相同なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が動物細胞でも広く起こることが確認されて以来[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として汎用されている。siRNAは標的となるmRNAの塩基配列情報に基づいて、市販のソフトウェア(例:RNAi Designer; Invitrogen)を用いて適宜設計することができる。
本発明のアンチセンスオリゴDNA及びリボザイムは、GPR40のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。合成されたアンチセンスオリゴDNAまたはリボザイムは、必要に応じて適当なリンカー(アダプター)配列を介して発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、アンチセンスオリゴRNAまたはリボザイムをコードするDNA発現ベクターを調製することができる。ここで用いられ得る発現ベクターとしては、本発明のTg動物において上記した通りのものが同様に好ましく例示される。
より長いアンチセンスRNA(例えば、GPR40 mRNAの相補鎖全長など)をコードするDNA発現ベクターは、常法によりクローニングしたGPR40 cDNAを、必要に応じて適当なリンカー(アダプター)配列を介して発現ベクターのプロモーターの下流に逆方向に挿入することにより調製することができる。
一方、siRNAをコードするDNAは、センス鎖またはアンチセンス鎖をコードするDNAとして別個に合成し、それぞれを適当な発現ベクター中に挿入することにより調製することができる。siRNAの発現ベクターとしては、U6やH1などのPol III系プロモーターを有するものが用いられ得る。この場合、該ベクターが導入された動物細胞内で、センス鎖とアンチセンス鎖がそれぞれ転写されてアニーリングすることにより、siRNAが形成される。shRNAはセンス鎖およびアンチセンス鎖を適当なループ構造を形成しうる長さ(例えば15から25塩基程度)を間に挿入したユニットを適当な発現ベクター中に挿入することにより調製することができる。shRNAの発現ベクターとしてはU6やH1などのPol III系プロモーターを有するものが用いられ得る。この場合、該発現ベクターを導入された動物細胞内で転写されたshRNAは、自身でループを形成した後に、内在の酵素ダイサー(dicer)などによってプロセシングされることにより成熟siRNAが形成される。あるいは、Pol II系プロモーターで、ターゲットのsiRNA配列を含むマイクロRNA(miRNA)を発現させてRNAiによりノックダウンを達成することも可能である。この場合には組織特異的発現を示すプロモーターにより、組織特異的ノックダウンも可能となる。
GPR40のアンチセンスRNA、siRNA、shRNA、もしくはmiRNAをコードするDNAを含む発現ベクターを細胞に導入する方法としては、本発明のTg動物において上記したいずれかの方法が、標的細胞に応じて適宜用いられる。例えば、受精卵などの初期胚への導入については、マイクロインジェクション法が用いられる。また、ES細胞への導入については、リン酸カルシウム共沈殿法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE-デキストラン法などが用いられ得る。あるいは、ベクターとしてレトロウイルスやレンチウイルスなどを用いる場合には、初期胚やES細胞にウイルスを添加して1〜2日培養し、該細胞を該ウイルスに感染させることにより、簡便に遺伝子導入を達成し得る場合がある。
初期胚、ES細胞からの個体再生(ファウンダーの樹立)、継代(ホモ接合体の作製)等は、本発明のTg動物において上記したと同様の方法により行うことができる。
129/sv/Evマウス由来のES細胞をもとに作製された本発明のKOマウス
をC57BL/6Jマウスに戻し交配して得られたコンジェニック系のマウスでは、野生型マウスと比較して顕著な表現型を認めなかった。
本発明のKO動物が、GPR40遺伝子内にレポーター遺伝子を挿入することにより該遺伝子を破壊して作製され、該レポーター遺伝子がGPR40遺伝子の内在性のプロモーターの制御下にある位置に挿入されている場合、該動物またはその生体の一部に被験物質を適用し、レポーター遺伝子の発現を検出することにより、GPR40遺伝子に対するプロモーター活性の調節薬をスクリーニングすることができる。レポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ等をコードするDNAが挙げられるが、これらに限定されない。レポーター活性は、用いられるレポーター遺伝子に応じて、それぞれ自体公知の方法により測定することができる。
被験物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質、DNAライブラリーなどの他に、例えば哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられる。
被験物質を適用していない動物またはその生体の一部と比較して、レポーター活性に有意な差が認められた場合、該被験物質をGPR40遺伝子のプロモーター活性を調節する物質として選択することができる。
該スクリーニング法により選択されたGPR40プロモーター活性増強薬は、上記GPR40作動薬と同様の効果をもたらし得るので、糖尿病(I型およびII型)、耐糖能障害、高脂血症、代謝性症候群などの疾患に対する予防・治療剤、膵臓機能調節剤(例、膵臓機能改善剤)、インスリン分泌促進剤、血糖低下剤、膵β細胞保護剤として有用である。その他、ケトーシス、アシドーシス、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、動脈硬化、性機能障害、皮膚疾患、関節症、骨減少症、血栓性疾患、消化不良、記憶学習障害などの疾患に対する予防・治療剤としても使用することができる。該活性増強薬は、GPR40作動薬と同様の方法により製剤化され、経口的もしくは非経口的に哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に投与することができる。
該GPR40プロモーター活性増強薬の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で経口投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき約0.1mg〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgである。非経口投与の場合、当該調節薬の投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で注射剤として成人(体重60kg)に投与する場合、一日につき約0.01〜約30mg程度、好ましくは約0.1〜約20mg程度、より好ましくは約0.1〜約10mg程度である。投与対象がヒト以外の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
該スクリーニング法により選択されたGPR40プロモーター活性抑制薬は、上記GPR40拮抗薬と同様の効果をもたらし得るので、肥満、高脂血症、II型糖尿病、インスリン抵抗性症候群などの疾患に対する予防・治療剤、膵臓機能調節剤(例、膵臓機能改善剤)、インスリン分泌抑制剤、血糖上昇剤として有用である。その他、低血糖症、高血圧、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、浮腫、不安定糖尿病、脂肪萎縮、インスリンアレルギー、インスリノーマ、動脈硬化、血栓性疾患、脂肪毒性、癌などの疾患に対する予防・治療剤としても使用することができる。該活性抑制薬は、GPR40作動薬と同様の方法により製剤化され、経口的もしくは非経口的に哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に投与することができる。
該GPR40プロモーター活性抑制薬の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、肥満の治療目的で経口投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき約0.1mg〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgである。非経口投与の場合、当該調節薬の投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、肥満の治療目的で注射剤として成人(体重60kg)に投与する場合、一日につき約0.01〜約30mg程度、好ましくは約0.1〜約20mg程度、より好ましくは約0.1〜約10mg程度である。投与対象がヒト以外の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
本発明のTg動物は、外来性GPR40に対する被験物質の作用を定量的に測定可能な程度に外来性GPR40の発現量が確保される限り、内在性GPR40の発現については特に制限はない。しかしながら、例えば、外来性GPR40が内在性GPR40に対して異種であり、本発明のTg動物を該異種GPR40だけでなく内在性GPR40にも作用し得る薬剤の評価に使用する場合は、内在性GPR40の発現を不活性化することが望ましい。内在性GPR40の発現が不活性化された本発明のTg動物は、公知の方法(例えば、上記非特許文献3参照)または本明細書において上述した方法により選択されるGPR40遺伝子がノックアウトされたES細胞、あるいは該ES細胞から上記の方法に従って作製されるGPR40 KO動物由来の初期胚もしくはES細胞に、上記の方法に従って異種GPR40をコードするDNAを導入することによって得ることができる。あるいはまた、内在性GPR40の発現が不活性化された本発明のTg動物は、上述のように、アンチセンスもしくはRNAi技術によりGPR40遺伝子の発現が不活性化されたKD動物由来の初期胚もしくはES細胞に、上記の方法に従って異種GPR40をコードするDNAを導入することによっても得ることができる。
また、内在性GPR40の発現が不活性化し、異種GPR40のみを発現するTg動物は、内在性GPR40をノックアウト(もしくはノックダウン)された動物と、上述の外来性(異種)GPR40を導入された、該KO(もしくはKD)動物と同種の動物とを交配することによっても得ることができる。例えば、内在性GPR40ホモ欠損(-/-)マウスと、ヒトGPR40Tg(+/-)マウスとを交配して得られる産仔(内在性GPR40ヘテロ欠損(+/-)・ヒトGPR40ヘテロTg(+/-)マウス)の雌雄同士をさらに交配して、ヒトGPR40 Tg(+/-)およびマウスGPR40の欠損が確認されたマウスを選択することにより、内在性GPR40(-/-)・ヒトGPR40 Tg(+/-)マウスを作製することができる。
あるいは、内在性GPR40の発現が不活性化されたTg動物は、相同組換えを用いた遺伝子ターゲッティングにより異種GPR40をコードするDNAで内在性GPR40遺伝子を置換したノックイン(KI)動物であってもよい。
KI動物はKO動物と基本的に同様の手法に従って作製することができる。例えば、対象非ヒト哺乳動物由来のGPR40遺伝子のORFを含む領域を適当な制限酵素を用いて切除し、代わりに異種GPR40遺伝子の対応する領域を挿入することにより得られるDNAを含むターゲッティングベクターを、上記の方法に従って対象非ヒト哺乳動物由来のES細胞に導入し、相同組換えにより該動物の内在性GPR40遺伝子座に異種GPR40をコードするDNAが組み込まれたES細胞クローンを選択すればよい。クローン選択はPCR法やサザン法を用いて行なうこともできるが、例えば、ターゲッティングベクターのGPR40遺伝子の3’非翻訳領域などにネオマイシン耐性遺伝子等のポジティブ選択用マーカー遺伝子を挿入し、さらに標的配列と相同な領域の外側にHSV-tk遺伝子やジフテリア毒素遺伝子等のネガティブ選択用マーカー遺伝子を挿入すれば、薬剤耐性を指標にして相同組換え体を選択することができる。
また、ポジティブ選択用マーカー遺伝子が導入された異種GPR40の発現を妨げる場合があるので、ポジティブ選択用マーカー遺伝子の両端にloxP配列もしくはfrt配列を配したターゲッティングベクターを用い、相同組換え体選択後の適当な時期にCreもしくはFlpリコンビナーゼまたは該リコンビナーゼ発現ベクター(例:アデノウイルスベクターなど)を作用させることにより、ポジティブ選択用マーカー遺伝子を切り出すことが好ましい。あるいは、Cre-loxP系やFlp-frt系を用いる代わりに、ポジティブ選択用マーカー遺伝子の両端に標的配列と相同な配列を同方向に繰り返して配置し、該配列間での遺伝子内組換えを利用してポジティブ選択用マーカー遺伝子を切り出してもよい。
上記のようにして得られる、内在性GPR40 KO/KD×異種GPR40 Tg動物またはKI動物を用いて、上記の外来性GPR40 Tg動物と同様に、GPR40作動薬および拮抗薬、あるいはインスリン分泌/耐糖能調節薬のスクリーニングを行うことができる。かかるKO/KD×Tg動物またはKI動物は、内在性GPR40を発現しないか無視し得る程度に発現が低下しているので、異種GPR40だけでなく内在性GPR40に対しても作用する薬剤についても、異種GPR40に対する作用を定量的に評価することができる点で有用である。
本発明のTg動物および本発明のKO/KD動物は、外来性GPR40をコードするDNAを発現可能な状態で安定に保持すること(Tg動物)、内在性GPR40遺伝子の発現が不活性化されていること(KO/KD動物)に加えて、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせるような、1以上の他の遺伝子改変を有していてもよい。
「GPR40の活性調節が関与する疾患」とは、GPR40活性の異常に起因するかもしくは結果的にGPR40活性の異常を生じる疾患だけでなく、GPR40活性を調節することにより予防および/または治療効果が得られ得る疾患をも含めた概念として把握されるべきである。
例えば、GPR40を活性化することにより予防・治療可能な疾患として、糖尿病(I型およびII型)、耐糖能障害、高脂血症、代謝性症候群、その他、ケトーシス、アシドーシス、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、動脈硬化、性機能障害、皮膚疾患、関節症、骨減少症、血栓性疾患、消化不良、記憶学習障害などが、GPR40を阻害することにより予防・治療可能な疾患として、肥満、高脂血症、II型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、その他、低血糖症、高血圧、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、浮腫、不安定糖尿病、脂肪萎縮、インスリンアレルギー、インスリノーマ、動脈硬化、血栓性疾患、脂肪毒性、癌などがそれぞれ挙げられる。
「他の遺伝子改変」としては、自然突然変異により内在性遺伝子に異常を有する自然発症疾患モデル動物、他の遺伝子をさらに導入されたTg動物、GPR40遺伝子以外の内在性遺伝子を不活化されたKO/KD動物(挿入突然変異等による遺伝子破壊のほか、アンチセンスDNAや中和抗体をコードするDNAの導入により遺伝子発現が検出不可能もしくは無視し得る程度にまで低下したTg動物を含む)、変異内在性遺伝子が導入されたドミナントネガティブ変異Tg動物などが含まれる。
「GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変を有する疾患モデル」としては、例えば、糖尿病モデルとしてNODマウス(Makino S.ら、エクスペリメンタル・アニマル(Exp. Anim.)、第29巻、第1頁、1980年)、BBラット(Crisa L.ら、ダイアビーティス・メタボリズム・レヴュー(Diabetes Metab. Rev.)、第8巻、第4頁、1992年)、ob/obマウス、db/dbマウス(Hummel L.ら、サイエンス(Science)、第153巻、第1127頁、1966年)、KKマウス、KKAマウス、GKラット(Goto Y.ら、トウホク・ジャーナル・オヴ・エクスペリメンタル・メディシン(Tohoku J. Exp. Med.)、第119巻、第85頁、1976年)、Zucker fattyラット(Zucker L.M.ら、アニュアル・オヴ・ニューヨーク・アカデミー・オヴ・サイエンス(Ann. NY Acad. Sci.)、第131巻、第447頁、1965年)、ZDFラット、OLETFラット(Kawano K.ら、ダイアビーティス(Diabetes)、第41巻、第1422頁、1992年)等が、肥満モデルとしてob/obマウス、db/dbマウス、KKマウス、KKAマウス、Zucker fattyラット、ZDFラット、OLETFラット等が、高脂血症もしくは動脈硬化症モデルとしてWHHLウサギ(低比重リポ蛋白レセプター(LDLR)に変異を有する;Watanabe Y.、アテロースクレローシス(Atherosclerosis)、第36巻、第261頁、1980年)、SHLM(apoE欠損変異を有する自然発症マウス;Matsushima Y.ら、マンマリアン・ゲノム(Mamm. Genome)、第10巻、第352頁、1999年)、LDLR KOマウス(Ishibashi S.ら、ジャーナル・オヴ・クリニカル・インヴェスティゲーション(J. Clin. Invest.)、第92巻、第883頁、1993年)、apoE KOマウス(Piedrahita J.A.ら、プロシーディングズ・オヴ・ナショナル・アカデミー・オヴ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、第89巻、第4471頁、1992年)、ヒトapo A・ヒトapoB ダブルTgマウス(Callow M.J.ら、プロシーディングズ・オヴ・ナショナル・アカデミー・オヴ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、第91巻、第2130頁、1994年)等が、低血糖モデルとしてSPC2 KOマウス(Furuta M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第94巻、6646頁、1997年)等が、脂肪肝モデルとしてob/obマウス(Herberg L.及びColeman D.L.、メタボリズム(Metabolism)、第26巻、第59頁、1977年)、KKマウス(Nakamura M.及びYamada K.、ダイアベトロジア(Diabetologia)、第3巻、第212頁、1967頁)、FLSマウス(Soga M.ら、ラボラトリー・オヴ・アニマル・サイエンス(Lab. Anim. Sci.)、第49巻、第269頁、1999年)、虚血性心疾患モデルとしてCD55・CD59 ダブルTgマウス(Cowan P.J.ら、Xenotransplantation、第5巻、第184-90頁、1998年)等が、皮膚炎モデルとしてインターロイキン1 Tgマウス(Groves R.W. ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第92巻、11874頁、1995年)等が、アルツハイマー病モデルとして変異アミロイド前駆体蛋白質遺伝子導入マウス等が、貧血性低酸素症モデルとしてbeta SAD (beta S-Antilles-D Punjab) Tgマウス(Trudel M.ら、EMBO J、第10巻、3157頁、1991年)等が、性腺障害モデルとしてSteroidogenic factor 1 KOマウス(Zhao L.ら、Development、第128巻、147頁、2001年)等が、肝臓癌モデルとしてp53 KOマウス(Kemp C.J. Molecular Carcinogenesis, 第12巻、132頁、1995年)等が、乳癌モデルとしてc-neu Tgマウス(Rao G.N.ら、Breast Cancer Res Treat, 第48巻、265頁、1998年)等が、子宮内膜炎モデルとしてperforin・Fas-ligandダブルKOマウス(Spielman J.ら、J Immunol. , 第161巻、7063頁、1998年)等が、知られている。
これらの「他の遺伝子改変を有する疾患モデル」は、例えば、米国のJackson研究所などから購入可能であるか、あるいは周知の遺伝子改変技術を用いて容易に作製することができる。
本発明のTg動物または本発明のKO/KD動物に、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変を導入する方法は特に制限はなく、例えば、(1)本発明のTg動物または本発明のKO/KD動物と、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変を有する同種の非ヒト哺乳動物とを交雑する方法;(2)GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変を有する非ヒト哺乳動物の初期胚やES細胞に、上述の方法により外来性GPR40をコードするDNAを導入してTg動物を得る方法(GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変を有する非ヒト哺乳動物の初期胚やES細胞を上述の方法により処理し、内在性GPR40遺伝子の発現を不活性化してKO/KD動物を得る方法);(3)外来性GPR40をコードするDNAを導入された非ヒト哺乳動物の初期胚やES細胞に、上述の方法により、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変を導入する方法(内在性GPR40遺伝子が不活性化された非ヒト哺乳動物の初期胚やES細胞に、上述の方法により、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変を導入する方法)等が挙げられる。また、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変が、外来遺伝子やドミナント変異遺伝子の導入による場合、野生型非ヒト哺乳動物の初期胚やES細胞に、該外来遺伝子等と外来性GPR40をコードするDNA(またはターゲッティングベクター/アンチセンスRNAもしくはsiRNAをコードするDNA)とを同時にもしくは順次導入してTg(またはKO/KD)動物を得てもよい。さらに、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変が内在性遺伝子の破壊による場合は、外来性GPR40をコードするDNAを破壊すべき内在性遺伝子にターゲッティングされ得るようにデザインして野生型非ヒト哺乳動物のES細胞に導入してもよい。この場合、ターゲッティングベクターは、内在性GPR40遺伝子を破壊されるべき内在性遺伝子に置き換える以外は、上記のKI動物の作製に関して例示したものが好ましく使用され得る。
本発明のTg動物または本発明のKO/KD動物と、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の他の遺伝子改変を有する同種の疾患モデル非ヒト哺乳動物とを交雑する場合、ホモ接合体同士を交雑することが望ましい。例えば、外来性GPR40をコードするDNAが1遺伝子座に組み込まれたホモ接合体マウスと、db/dbマウス(糖尿病・肥満モデル)とを交雑して得られるF1は両遺伝子についてヘテロである。このF1同士を兄妹交配して得られるF2個体の1/16は外来性GPR40(+/+)×db/dbとなる。
本発明のTg動物または本発明のKO/KD動物は、GPR40の活性調節が関与する疾患と同一もしくは類似の病態を生じさせる1以上の非遺伝的処理を施されていてもよい。「非遺伝的処理」とは対象非ヒト哺乳動物における遺伝子改変を生じさせない処理を意味する。このような処理としては、例えば、STZなどの薬剤誘発処理、高脂肪食負荷、糖負荷、絶食等の食餌的ストレス負荷、UV、活性酸素、熱、血管結紮/再灌流等の外的ストレス負荷などが挙げられるが、これらに限定されない。
上記のように、本発明のTg動物または本発明のKO/KD動物に他の遺伝子改変もしくは非遺伝的処理を施して得られる病態モデル動物は、該動物が発現する病態と同一もしくは類似の病態を伴う疾患の予防・治療効果を示す物質のスクリーニングに用いることができる。即ち、該病態モデル動物またはその生体の一部に被験物質を適用し、病態の改善を検定することにより、該病態と同一もしくは類似の病態を伴う疾患の予防・治療物質を選択することができる。
具体的な病態としては、好ましくは、代謝性症候群にみられる症候、例えば、糖尿病、インスリン抵抗性、耐糖能異常、肥満、高血圧、動脈硬化、高TG血症、高LDL-C血症、低HDL-C血症等が挙げられる。
具体的には、該スクリーニング方法では、上記病態モデル動物に被験物質を投与する。被験物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質、DNAライブラリーなどの他に、例えば哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられる。
被験物質を投与していない動物と比較して有意な病態の改善が認められた場合、該被験物質を該病態を伴う疾患の予防・治療活性を有する物質として選択することができる。
該スクリーニング法により選択された疾患予防・治療薬は、上記GPR40作動薬と同様の方法により製剤化され、経口的もしくは非経口的に哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に投与することができる。
該予防・治療薬の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で経口投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき約0.1mg〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgである。非経口投与の場合、当該予防・治療薬の投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で注射剤として成人(体重60kg)に投与する場合、一日につき約0.01〜約30mg程度、好ましくは約0.1〜約20mg程度、より好ましくは約0.1〜約10mg程度である。投与対象がヒト以外の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
本発明の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号:1〕ヒトGPR40をコードするDNA(CDS)の塩基配列を示す。
〔配列番号:2〕ヒトGPR40のアミノ酸配列を示す。
本願明細書において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を次に挙げる。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
A :アデニン
T :チミン
G :グアニン
C :シトシン
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
dATP :デオキシアデノシン三リン酸
dTTP :デオキシチミジン三リン酸
dGTP :デオキシグアノシン三リン酸
dCTP :デオキシシチジン三リン酸
ATP :アデノシン三リン酸
EDTA :エチレンジアミン四酢酸
SDS :ドデシル硫酸ナトリウム
Gly :グリシン
Ala :アラニン
Val :バリン
Leu :ロイシン
Ile :イソロイシン
Ser :セリン
Thr :スレオニン
Cys :システイン
Met :メチオニン
Glu :グルタミン酸
Asp :アスパラギン酸
Lys :リジン
Arg :アルギニン
His :ヒスチジン
Phe :フェニルアラニン
Tyr :チロシン
Trp :トリプトファン
Pro :プロリン
Asn :アスパラギン
Gln :グルタミン
pGlu :ピログルタミン酸
Me :メチル基
Et :エチル基
Bu :ブチル基
Ph :フェニル基
TC :チアゾリジン−4(R)−カルボキサミド基
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
実施例1 ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウス作出用発現ベクターの構築
ヒトGPR40遺伝子をマウス膵臓で高発現させるために、マウスインスリンIIプロモーターの下流に3’非翻訳領域を含むヒトGPR40遺伝子を導入したプラスミド pISLII4/GPR40を以下のようにして作製した。
マウスゲノム DNA (クロンテック社製)から、5’端にHindIIIおよびMluI 制限酵素部位を含むプライマー(5’-ATTAGAAAGCTTACGCGTGAGAGATAGAGGAGGAGGGACCATTAAGTG-3’;配列番号:3)、5’端にSalI 制限酵素部位を含むプライマー(5’-GTCGACACAATAACCTGGAAGATAGGCTGGGTTGAGGATAGCAAA-3’;配列番号:4)、および、KOD polymerase(東洋紡社製)を用いて94℃ 2 min→(94℃ 15sec →68℃ 45sec)×25 回の条件にてPCRを行い、マウスインスリンIIプロモーターを含む断片を pCR4-TOPO Blunt(インビトロジェン社製)にサブクローニングした。同様に、ヒトゲノム DNA (クロンテック社製)から、5’端にSalI制限酵素部位を含むプライマー(5’-ATTATTGTCGACCACCATGGACCTGCCCCCGCAGCTCTCCTTCGGCCTCTATGTGG-3’;配列番号:5)、5’-TATGCACGCAAACACAAACTCTAT-3’(配列番号:6)の配列を有するプライマー、および、KOD polymerase(東洋紡社製)を用いて94℃ 2 min →(94℃ 15sec →68℃ 3min)×25 回の条件にてPCRを行い、ヒトGPR40遺伝子コーディング領域および3’非翻訳領域を含むDNA断片をpCR4-TOPO Blunt(インビトロジェン社製)にサブクローニングした。
マウスインスリンIIプロモーターをサブクローニングしたプラスミドをHindIIIとSalIで二重消化し、得られた673bpのマウスインスリンIIプロモーター断片をpCAN618(WO 00/14226に記載)のHindIIIおよびSalI部位に導入した。次に、このプラスミドを SalIとSpeIで二重消化した部位に、ヒトGPR40遺伝子コーディング領域と3’非翻訳領域をサブクローニングしたプラスミドからSalIとSpeIの二重消化で得られた2256bpのDNA断片を挿入し、マウスインスリンIIプロモーター制御下でのヒトGPR40遺伝子発現プラスミドpISLII4/GPR40を作製した。これを大腸菌DH5αに導入して、形質転換体Escherichia coli DH5α/pISLII4/GPR40を得た。該菌株は2005年12月1日付で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM BP-10462として寄託されている。
上記のpISLII4/GPR40をMluI、KpnI、および、SpeIで三重消化した後、低融点アガロースゲル(宝酒造社製)電気泳動にかけ、2928bpのDNA断片を切り出した。DNA断片をNucleotrap(日本ジェネティックス社製)で精製することにより、ヒトGPR40遺伝子発現ユニットを含むDNA断片を取得した(図1A)。
実施例2 ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスの作製
マイクロインジェクションによるトランスジェニックマウス作製はHoganらの方法(Manipulating the mouse embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press. 1994)に従って行った。実施例1にて作製したヒトGPR40遺伝子発現ユニットを含むDNA断片は1/10 TE溶液 (1mM Tris-HCl, 0.1mM EDTA, pH8.0)にて1〜3.3 μg/ml の濃度に調整した。C57BL/6J系統由来受精卵をミネラルオイルで覆われたM2培地のドロップ中に入れてホールディングピペットで吸引固定し、上記のDNA溶液をインジェクションピペットに吸引し、マイクロマニピュレーター(ナリシゲ社製)を用いて受精卵の雄性前核に注入した。インジェクションした受精卵を偽妊娠雌マウスに移植し、飼育した。得られた産仔のうち、離乳した154匹のマウスについて、4週齢に達した時点で、尾からDNAを採取した。取得したDNAに対して、5'-GGAGTGTGGTGCTTAATCCGCTGGT-3'(配列番号:7)および5'-AGACTGCCTCCTCCTTCCCGTAAGTACAA-3'(配列番号:8)の配列を有するプライマーセットを用いてPCRを行い、27匹のトランスジェニックマウスを取得した。
実施例3 ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスの発現とゲノム解析
取得されたヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスが8週齢以降に達した段階でC57BL/6J系統マウスと交配を行い、産仔を得て、実施例2と同様のPCR法にてトランスジェニックマウス個体を選別した。トランスジェニックマウス産仔について、8週齢の膵臓からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いて、添付のプロトコールに従ってtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNA 1μgを、ランダムプライマーおよびSuperScript II 逆転写酵素(インビトロジェン社製)を用いて、first strand cDNAを合成し、エタノール沈殿後、40μlのTEに溶解した。そのうち、RNAで25 ngに相当するcDNAをTaqMan解析のテンプレートとした。プライマーとして、ヒトGPR40遺伝子の検出には、Forward primer(5'-GCCCGCTTCAGCCTCTCT-3';配列番号:9)、Reverse primer(5'-GAGGCAGCCCACGTAGCA-3';配列番号:10)、および、FAM標識TaqMan primer probe(5'-TCTGCCCTTGGCCATCACAGCCT-3';配列番号:11)のセットを用い、TaqMan解析(TaqMan7700および7700SDSソフトウェア、アプライドバイオシステムズ社製)を実施した。コピー数算出に用いた検量線は、増幅領域全長を含む濃度既知のヒトGPR40 cDNA断片をウエル当り10コピーからウエル当り101コピーの対数6点となるようにして測定したCT値から作成した。
ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウス各系統の8週齢での膵臓におけるヒトGPR40遺伝子の発現を図1Bに示す。調べたほぼすべての系統でヒトGPR40遺伝子の発現が認められた。14M系、41M系、および23F系を含む複数の系統に比べて、47M系および81M系は高い発現レベルを示した。
上記14M系、41M系、47M系、81M系、および、23F系のトランスジェニックマウス5系統について、ゲノムDNAをサザンハイブリダイゼーション法により解析した。すなわち、5μgのDNAをEcoRIおよびBglIIで切断し、1.0%アガロースゲル電気泳動後、ナイロンフィルターへ移した。このフィルターを、DIG RNAラベリングキット(ロッシュ・ダイアグノスティックス社製)で標識したヒトGPR40遺伝子含有DNA断片のプローブと一晩ハイブリダイズし、2xSSC、0.1%SDSにて室温で2回洗浄し、次に0.1xSSC、0.1%SDSにて68℃で2回洗浄した。検出にはDIG蛍光検出キット(ロッシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いた。その結果、これら5系統から約2.9 kbpのバンドが確認され、ヒトGPR40遺伝子の導入が確認された。また、導入遺伝子が高コピーで染色体に組み込まれた系統は14M系、47M系および81M系であり、低コピーで染色体に組み込まれた系統は23F系と41M系であることもわかった。ヒトGPR40遺伝子発現量の成績と染色体に組み込まれたコピー数の成績とはおおむね相関しており、高発現系統として47M系を、標準的な発現系として23F系を選択し、以後の解析を行った。上記マウスは、C57BL/6J系統のマウスと交雑することにより、繁殖および維持を行った。
実施例4 ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスラ氏島におけるGPR40の遺伝子発現
8週齢時から、トランスジェニックマウス47M系、および、23F系を8週間低脂肪食(D12450B、10 kcal% fat、リサーチダイエット社製)または高脂肪食(D12492、60 kcal% fat、リサーチダイエット社製)にて飼育した。16週齢マウスに対して、十二指腸側を結紮し、総胆管へのカニュレーションを行い、1mg/mlコラゲナーゼ溶液(和光純薬社製)をマウス膵臓に注入した。充填された膵臓を切り出して、同コラゲナーゼ溶液中のチューブに入れて37℃ 20分間振とうした。その後、30秒間激しく混和し、10%FBSを含むQuenching buffer溶液(0.001% DNaseI、25mM HEPESを含むHanks Balanced Salt Solution)で20mlにメスアップした。溶液をシャーレに移し、Quenching buffer溶液で2回洗浄後、ラ氏島を顕微鏡下でピペットにより回収し、検体に供する試料とした。各個体から100個程度のラ氏島を単離した。
単離したラ氏島を18ゲージ針にてISOGEN中でホモジナイズし、total RNAを抽出した。次に、RNeasy Micro kit(キアゲン社製)を用いてさらに精製し、最後にDNase処理により混在するDNAを除去した。1μg以下のtotal RNAに対して、First strand cDNA synthesis kit(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いてプロトコールに従ってcDNA合成を行い、TaqMan解析のテンプレートとした。ヒトGPR40遺伝子の検出には、実施例3に記載したプライマーセットを用いてTaqMan解析を行った。マウスGPR40遺伝子の検出にはAssay on demand (アプライドバイオシステムズ社製)を、内部標準である18SリボソームRNA遺伝子の検出にはTaqman Ribosomal RNA Control Reagents VIC Probeセット(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。コピー数算出に用いた検量線は、増幅領域全長を含む濃度既知のヒトGPR40 cDNA、マウスGPR40 cDNA、またはマウス18SリボソームRNA遺伝子をコードするDNA断片をウエル当り106コピーからウエル当り103コピーの対数4点となるようにして測定したCT値から作成した。
図2Aに示されるように、単離ラ氏島において、導入したヒトGPR40遺伝子は47M系および23F系共に、トランスジェニックマウスにのみ発現しており、その発現量は47Mにおいて高く、膵臓における発現レベルと相関していた(図1B参照)。また、47M系および23F系共に、低脂肪食負荷群のヒトGPR40遺伝子発現量と高脂肪食負荷群のそれとの間に有意な差はなかった。一方、マウス内在性GPR40遺伝子発現量についても、47M系および23F系共に対照マウスとトランスジェニックマウスとの間に有意な差はなく、低脂肪食負荷群におけるマウスGPR40遺伝子発現量と高脂肪食負荷群におけるそれもほぼ同じレベルであった(図2B)。また、ラ氏島におけるヒトGPR40遺伝子発現量はマウス内在性GPR40遺伝子のそれに比べて47M系で70倍、23F系で30倍程度の増大であり、作製されたトランスジェニックマウスが生理的にも十分な作用を有することが期待された。
実施例5 ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスの一般性状と耐糖能試験
トランスジェニックマウス47M系と23F系を、通常食(CE-2、12 kcal% fat、日本クレア社製)にて飼育した。体重測定後、眼底よりヘパリン処理済みキャピラリー(ドラモンドサイエンティフィックカンパニー社製)にて採血し、遠心分離により血漿を取得した。血漿成分についてグルコース値は富士ドライケム(富士フイルムメディカル社製)により測定し、インスリン値はモリナガインスリンELISAキット(森永生科学研究所製)により測定した。
耐糖能試験は以下のようにして実施した。即ち、絶食を開始してから16時間後のマウス眼底からヘパリン処理済みキャピラリーにて採血を行い、0分目の試料とした。次に、10%グルコース溶液を体重1kg当り1gとなるよう経口投与し、その7.5分後、15分後、30分後、60分後、および、120分後に眼底からヘパリン処理済みキャピラリーにて採血し、それぞれの時間の試料とした。これらの試料を遠心分離により、血漿成分を単離し、グルコースおよびインスリン値を上記と同様にして測定した。
16週齢時の飽食時および絶食時の体重値は47M系および23F系共に、それぞれの対照マウスとの間に差はなかった(表1)。絶食時の血漿グルコース値はトランスジェニックマウスにおいて低い傾向を示した(表1)。16週齢時の47M系および18週齢時の23F系マウスについて耐糖能試験を実施したところ、47M系および23F系共に、トランスジェニックマウスの血漿グルコース値は対照マウスのそれよりも低い値を示したのに対し、トランスジェニックマウスの血漿インスリン値は高い値を示した(図3)。以上の成績は、トランスジェニックマウスにおいては、インスリン分泌亢進に伴い、耐糖能が良好になったことを示していると考えられる。2系統のトランスジェニックマウスで同様な成績が得られたことから、以後の解析には主に47M系を用いた。
Figure 0005075641
実施例6 ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスの脂肪食負荷条件下での耐糖能試験
高脂肪食条件下での影響を調べるため、トランスジェニックマウス47M系について、8週齢時から9週間低脂肪食(D12450B、10 kcal% fat、リサーチダイエット社製)、45 kcal% fat含有の高脂肪食(D12451、リサーチダイエット社製)、および、60 kcal% fat含有の高脂肪食(D12492、リサーチダイエット社製)にて飼育後、17週齢時マウスに対して耐糖能試験を実施した。
図4に示されるように、対照マウスにおける耐糖能は、低脂肪食負荷群よりも45 kcal% fat含有の高脂肪食負荷群、および、60 kcal% fat含有の高脂肪食負荷群において悪化しており、高脂肪食効果が明確に現れていた。このとき、対照マウスとトランスジェニックマウス47M系とを比較すると、低脂肪食負荷群、45 kcal% fat含有の高脂肪食負荷群、および、60 kcal% fat含有高脂肪食負荷群共に、トランスジェニックマウスの耐糖能は対照マウスのそれよりも良好であることが判明した。いずれの場合もインスリン分泌はトランスジェニックマウスにおいて亢進傾向にあり、高脂肪食負荷群において顕著であった。このとき、インスリン感受性は対照マウスおよびトランスジェニックマウス間で大きな差はなかった。以上の成績は、トランスジェニックマウスではインスリン分泌亢進を伴って耐糖能が良好になったことを示していると考えられる。また、高脂肪食負荷群ではインスリン分泌亢進が顕著であることから、GPR40遺伝子に基づく結果であることが示唆された。
実施例7 ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウス由来単離ラ氏島のグルコース刺激時のインスリン分泌
トランスジェニックマウス47M系由来単離ラ氏島のグルコース刺激に対するインスリン分泌を調べた。通常食で飼育した10から13週齢のマウスから、実施例4で示した方法によりラ氏島を単離した。11mM グルコース、1mM HEPES、および、10%FBSを含むRPMI1640培地 (インビトロジェン社製)で16時間培養後、1 mM グルコースおよび0.2% BSAを含むKrebs Ringer bicarbonate buffer (116 mM NaCl、4.7 mM KCl、1.17 mM KH2PO4、1.17 mM MgSO4・7H2O、25 mM NaHCO3、2.52 mM CaCl2、24 mM HEPES、0.2% BSA)で30分間培養した。次に、3 mM グルコースまたは16 mM グルコースを含む Krebs Ringer bicarbonate bufferに置換して、1時間培養した。パルミチン酸添加実験の場合には、11mMグルコースを含むKrebs Ringer bicarbonate bufferにパルミチン酸を0.5 mMとなるよう添加して1時間培養した。培養後の培養上清について、モリナガインスリンELISAキット(森永生科学研究所製)によりインスリン量を測定した。一方、培養後のラ氏島はソニケーター(エムエス機器社製)により超音波破砕を行い、Quant-iTTM Picogreen ds DNA Assay kit (モレキュラープローブズ社製)によりDNA量を測定して、インスリン分泌量を補正した。
3 mMグルコース存在下でのインスリン分泌量は対照マウスと47M系において差は認められなかった(図5A)。それに対して、16 mMグルコース存在下においては、47M系のインスリン分泌量は、対照マウスのそれよりも高かった(図5A)。また、GPR40のリガンドのひとつであるパルミチン酸の添加実験において、対照マウスのパルミチン酸添加群のインスリン分泌量は、無添加群のそれよりも1.5倍程度の上昇であったのに対し、トランスジェニックマウスにおいては6倍程度の上昇を示した(図5B)。以上の成績から、トランスジェニックマウス由来ラ氏島における高濃度グルコース刺激時のインスリン分泌量は、対照マウスのそれよりも亢進していること、および、パルミチン酸に対する反応性も対照マウスに比べて高いことが判明した。いずれも、GPR40遺伝子高発現に起因していることが示唆される。
実施例8 GPR40遺伝子欠損マウス作製のための相同組換えES細胞体の取得
GPR40遺伝子ターゲッティングベクターは特許文献3の実施例21に記載済みである。また、該ベクターで形質転換した大腸菌、Escherichia coli DH5α/pGT-GPR40は、2002年12月11日から独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号FERM BP-8259として寄託されている。
制限酵素NotIで線状化したGPR40遺伝子ターゲッティングベクター20μgをES 細胞 (AB2.2 prime、レキシコン社製)に electroporationにより導入した。選択された G418耐性株 384 クローンについて、PCRにより相同組換え体候補株を選別した。即ち、Primer #1、および、#2 (#1 5'-CAGCCAGTCCCTTCCCGCTTCA-3'(配列番号:12)はターゲッティングベクター中の Neor 内の配列、#2 5'-GCAGGTCCGAAATGGTCAGGTTTAGCA-3'(配列番号:13)はターゲッティングベクターの3’側アームの外側の配列)、および、LA Taq polymerase (宝酒造社製)を用いて、94℃ 1 min →(98℃ 10sec→70℃ 5min30sec)×35 回→ 72℃ 10 min のPCRを行った。その結果、陽性 7クローンおよび擬陽性 12 クローンの計 19クローンについて、約 5.1kbp のバンドを得た。このうち、陽性 7クローンを含む 10クローンについて、再度、同条件でPCRを行ったところ、No.85, 231, 247, 325, 373, 374、および 391 の 7 クローンが陽性であった。
次に、GPR40遺伝子座への相同組換えの有無を調べるため、サザンハイブリダイゼーションを行った。即ち、ターゲッティングベクターの 3’側アームの外側に存在する1.2kbpの SacI-EcoRI 断片をプローブとして、ES 細胞の DNA を EcoRI 消化した後、サザンハイブリダイゼーションを行った。これにより、wild allele からは 9.7Kbp の、targeted allele からは 4.6kbp のバンドが得られる。また、ターゲッティングベクターの 5’側アームの外側に存在する0.9kbpの SacI-BamHI 断片をプローブとして、ES 細胞の DNA を SacI 消化した後、サザンハイブリダイゼーションを行った。これにより、wild allele からは 14.2Kbpのバンドが得られ、targeted allele からは 17.4kbp のバンドが得られる。
先のPCR判定で陽性であった 7 クローン を含む 9 クローン についてサザンハイブリダイゼーションを実施した。3’側アームについては以下のように行った。それぞれの クローン の DNA と マウスゲノムDNA 2μg をEcoRIで消化した後、0.4% TAEアガロースゲルにて電気泳動を行い、ナイロンフィルターにブロッティングした。3’側アームの外側のEcoRI-SacI 1.2kbp DNA 断片を [α-32P] dCTP(NEG513Z, デュポン社製)を用いてランダムプライム法(Multiprime DNA labeling system RPN.1601Y, アマシャムファルマシアバイオテク社製)によりラベルして、プローブとした。ハイブリダイゼーションはhybridization buffer (0.5M Na+- phosphatebuffer pH.7.2, 7% SDS, 1%BSA, 1mM EDTA)中で 65℃、一晩行った。洗浄は最終的に 0.1×SSC, 0.1% SDS で 20min×2回 洗浄し、 BAS2000(富士フィルム社製)を用いてオートラジオグラムをとった。5’側アームについては、それぞれの クローン の DNA と マウスゲノムDNA 2μg をSacIで消化し、5’側アームの外側のSacI-BamHI 0.9kbp DNA 断片をプローブとして、先と同様にサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、3’側アーム領域で相同組換えが起こった際に観察される 4.6kbp のバンド、および、5’側アーム領域で相同組換えが起こった際に観察される 17.4kbp のバンドの両方が得られたNo.85,231,247,325,373,および、374 の6クローンが相同組換え体の候補株となった。しかしながら、17.4kbp のバンドが各クローンによってヘテロであったため、この領域についてさらに解析した。
ターゲッティングベクターが相同組換え領域以外の染色体上に挿入されていないか、また相同組換え部位にタンデムに挿入されていないか、などを確認するために、5’側アームの外側領域のサザンハイブリダイゼーション解析に用いたメンブレンフィルターをリプローブした後、ターゲッティングベクター内の Neor 領域に相当する1.9kbp のBamHI-EcoRI断片をプローブとしてサザンハイブリダイゼーションを行った。このとき、相同組換え体が正しく1 コピー挿入された場合には、17.4kbp のバンドが検出される。No.247, 373, および、374 クローンについては複数のバンドが観察されたことから、ターゲッティングベクターが非相同組換えによりゲノム上に挿入されている可能性が考えられた。また、No. 85 クローンについては、バンドは1本のみ得られたが、他のクローンと比較してバンドが濃いことから、相同組換え領域にタンデムに組み込まれた可能性が示唆された。最終的に、17.4kbp のバンド 1本のみが得られたNo. 231および 325 の 2クローンを相同組換え体と判定した。
実施例9 GPR40遺伝子ホモ欠損マウスの作製とホモ欠損マウスにおけるGPR40遺伝子発現
相同組換えES細胞株No.231をC57BL/6J系統マウス由来胚盤胞に注入した。注入された胚盤胞を偽妊娠マウス卵管に移植して、キメラマウス31匹を得た。ES細胞寄与率50%以上の雄の高キメラ率を示すマウスについて交配を実施し、106 匹のES細胞由来マウスを取得することにより、生殖系列移行を確認した。これらのマウス尾からゲノム DNA を精製し、実施例8に記載したプライマー#1および#2を用いたPCRによる遺伝子型判定を行ったところ、48個体がヘテロ欠損マウスであることが判明した。次に、ヘテロ欠損マウス同士を交配することにより、得られた産仔の遺伝子型判定を以下のようにして行った。尾から調製したDNAを鋳型として、実施例8に記載したプライマー#1およびプライマー#2を用いて、94℃ 1 min →(98℃ 10sec→70℃5min30sec)×25回→ 72℃ 10 minの条件にてPCRを行った。ワイルドマウスの検体からはバンドが検出されず、ヘテロ欠損マウスおよびホモ欠損マウスの検体からは約5.1 kbpのバンドが検出される。同様に、プライマー#3(5'-GCCCGCCCTGCCCGTCTCA-3'(配列番号:14)はマウスGPR40遺伝子の欠損した部分内の配列)およびプライマー#4(5'-AACGTTCGATGCTCACCGCCGTCA-3'(配列番号:15)はターゲッティングベクターの3’側アームの外側の配列)を用いて、94℃ 1 min → (98℃ 10sec → 70℃5min30sec)×30回→ 72℃ 10 min の条件にてPCRを行った。ホモ欠損マウスの検体からはバンドが検出されず、ワイルドマウスおよびヘテロ欠損マウスの検体からは約5.4 kbpのバンドが検出される。上記のようにしてワイルドマウス、ヘテロ欠損マウス、および、ホモ欠損マウスを取得した。以後はホモ欠損マウス同士の交配により維持および繁殖を行い、対照マウスはワイルドマウス同士の交配により維持および繁殖を行い、実験に供した。
GPR40遺伝子ホモ欠損マウス、GPR40遺伝子へテロ欠損マウス、および、対照マウスについて、8週齢の膵臓からISOGENを用いて、添付のプロトコールに従ってtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNA 1μgを、ランダムプライマーおよびSuperScript II 逆転写酵素を用いて、添付のプロトコールに従ってfirst strand cDNAを合成し、エタノール沈殿後、40μlのTEに溶解した。そのうち、RNAで25 ngに相当するcDNAをテンプレートとして、TaqMan解析を実施した。マウスGPR40遺伝子の検出には、Forward primer(5'-TTTGCGCTGGGCTTTCC -3';配列番号:16)、Reverse primer(5'-GCTGGGAGTGAGTCGCAGTT -3';配列番号:17)、およびFAM標識TaqMan primer probe(5'-CCATCCGAGGCGCAGTGTCCC -3';配列番号:18)のプライマーセットを用い、アクチン遺伝子の検出には、Forward primer(5'-CGTGAAAAGATGACCCAGATCA -3';配列番号:19)、Reverse primer(5'-CACAGCCTGGATGGCTACGT -3';配列番号:20)、およびFAM標識TaqMan primer probe(5'-TGAGACCTTCAACACCCCAGCCATG -3';配列番号:21)のプライマーセットを用いた。コピー数の算出に用いた検量線は、増幅領域全長を含む濃度既知のマウスGPR40遺伝子含有プラスミドDNA、またはマウスアクチン遺伝子の一部の合成DNA断片 (シグマジェノシス社製、5'-CCAACCGTGAAAAGATGACCCAGATCATGTTTGAGACCTTCAACACCCCAGCCATGTACGTAGCCATCCAGGCTGTGCTGTC-3';配列番号:22)をウエル当り106コピーからウエル当り101コピーの対数6点となるようにして測定したCT値から作成した。マウスGPR40遺伝子の発現レベルは、アクチン遺伝子の発現レベルに対する比で表した。
図6に示されるように対照マウスの膵臓においては、マウスGPR40遺伝子発現レベルが明確であったのに対し、GPR40遺伝子へテロ欠損マウス膵臓の発現レベルは対照マウスのそれの約半分に低下しており、さらに、GPR40遺伝子ホモ欠損マウス膵臓での発現は消失していた。上記の成績から、これらマウスの発現レベルは、マウスGPR40遺伝子量と相関していることが判明し、取得されたGPR40遺伝子ホモ欠損マウスは、GPR40遺伝子欠損に伴う表現型が観察されることが期待された。
次に、上記のヘテロ欠損マウスまたはホモ欠損マウスをC57BL/6Jマウスと交配することにより、ヘテロ欠損マウスを取得した(第一世代目)。この交配を5回繰り返して得たヘテロ欠損マウス(第五世代目)同士を交配して、対照マウスおよびホモ欠損マウスを取得した。以後はヘテロ欠損マウス同士の交配、または、対照マウス同士またはホモ欠損マウス同士の交配により、維持繁殖を行ない、実験に供した。
実施例10 GPR40遺伝子ホモ欠損マウスの一般性状
GPR40遺伝子ホモ欠損マウスについて、8週齢時から、8週間低脂肪食(D12450B、10 kcal% fat、リサーチダイエット社製)または高脂肪食(D12492、60 kcal% fat、リサーチダイエット社製)にて飼育した。脂肪食負荷開始後から、体重測定を毎週実施し、場合により血液パラメーターを測定した。即ち、眼底よりヘパリン処理済みキャピラリーにて採血を行い、遠心分離により血漿成分を取得し、実施例5に記載した方法により、血漿グルコース値および血漿インスリン値を測定した。1日当りのカロリー摂取量は以下のようにして測定した。測定開始前日に給餌金網上の餌の重量を測定し、次の日に再度金網上の餌の重量とケージ中に散在した餌の重量を測定することにより摂取した餌の重量を求め、各餌のカロリー量を乗じることにより、1日当りのカロリー摂取量を算出した。
低脂肪食負荷群および高脂肪食負荷群共に、GPR40遺伝子ホモ欠損マウスの体重値は、対照マウスのそれと同等であり(図7AとE)、カロリー摂取量も、対照マウスのそれと差はなかった(図7BとF)。血漿グルコース値および血漿インスリン値は共に、低脂肪食負荷群においても高脂肪食負荷群においても対照マウスとホモ欠損マウスとの間に有意な差は認められなかった(図7CとDとGとH)。以上のことからGPR40遺伝子ホモ欠損マウスの体重、カロリー摂取量、血漿グルコース値、および、血漿インスリン値は対照マウスと大きな差がないと考えられた。
実施例11 GPR40遺伝子ホモ欠損マウスの耐糖能
GPR40遺伝子ホモ欠損マウスについて、8週齢から11週間低脂肪食(D12450B、10 kcal% fat、リサーチダイエット社製)または高脂肪食(D12492、60 kcal% fat、リサーチダイエット社製)にて飼育した。19週齢時マウスに対して実施例5と同様に、耐糖能試験を実施した。
低脂肪食群および高脂肪食群共に、耐糖能は対照マウスとホモ欠損マウスとの間で大きな差はなかった。上記の成績から、GPR40遺伝子欠損は耐糖能に影響を及ぼさないと考えられた。
実施例12 ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスとGPR40遺伝子ホモ欠損マウスとの交雑マウス
ヒトGPR40遺伝子のみを発現するマウスを作製するため以下のことを行った。即ち、実施例3で取得されたヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウス47M系と実施例9で取得されたGPR40遺伝子ホモ欠損マウスとを交雑することにより、ヒトGPR40遺伝子を保持し、かつ、マウスGPR40遺伝子欠損がヘテロ接合体を示す個体を取得した。上記で得られた雄のトランスジェニックマウスに対しては、雌のGPR40遺伝子ホモ欠損マウスを、雌のトランスジェニックマウスに対しては雄のGPR40遺伝子ホモ欠損マウスを交雑して、ヒトGPR40遺伝子を保持し、かつ、マウスGPR40遺伝子欠損がホモ接合体である交雑マウス(47M TgxKO)を取得した。このとき、GPR40遺伝子欠損がホモ接合体でヒトGPR40遺伝子を持たない対照マウス(NonTgxKO)も同時に取得された。以後は、47M TgxKOとNonTgxKOとを交雑して得たマウスに対してヒトGPR40遺伝子の有無を判定することにより、47M TgxKOおよびNonTgxKOを選別した。ヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウス23F系についても、上記と同様にして、ヒトGPR40遺伝子を保持し、かつマウスGPR40遺伝子欠損がホモ接合体となる交雑マウス(23F TgxKO)とその対照マウス(NonTgxKO)を作製した。47M TgxKOと23F TgxKOマウスはマウスGPR40遺伝子発現が消失し、ヒトGPR40遺伝子のみを発現している性質を有するマウスであると考えられる。
実施例13 KKAyマウスの遺伝背景を有するヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウス
GPR40遺伝子高発現が高血糖および肥満を呈するKKAyマウスに及ぼす影響を調べるため、KKAyマウスの遺伝背景を有するヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウスを作製した。即ち、実施例3で取得されたヒトGPR40遺伝子トランスジェニックマウス47M系とKKAyマウスとを交雑することにより、ヒトGPR40遺伝子を保持し、かつ、毛色からAy遺伝子を有するマウス(47M Tg/KKAy)を取得した。このとき、ヒトGPR40遺伝子を保持するが、Ay遺伝子を有さないマウス(47M Tg/KK)の取得も行った。同様にして、23F Tg/KKAy、および23F Tg/KKも作製した。いずれの場合もNonTg/KKAyおよびNonTg/KKをそれぞれの対照マウスとした。
本発明のTgおよびKO/KD動物は、正常なGPR40機能をより反映した表現型を示すので、インビボでのGPR40作用調節薬のスクリーニング・薬効評価系として有用である。
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
本出願は、日本国で出願された特願2006-022913を基礎としており、そこに開示される内容は本明細書にすべて包含されるものである。また、ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。

Claims (12)

  1. インスリンIIプロモーターの制御下にある外来性GPR40をコードするDNAを発現可能な状態で保持するトランスジェニックマウスであって、対応する非トランスジェニックマウスと比較して
    (1)インスリン分泌能が増大している、および/または
    (2)耐糖能が改善されている
    ことを特徴とするマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島
  2. 外来性GPR40が配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する請求項1記載のマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島
  3. 請求項1記載のマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島に試験化合物を適用し、GPR40アゴニスト活性またはGPR40アンタゴニスト活性を検定することを特徴とするGPR40アゴニストまたはGPR40アンタゴニストのスクリーニング方法。
  4. 請求項1記載のマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島に試験化合物を適用し、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能を測定することを特徴とする、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能調節薬のスクリーニング方法。
  5. 外来性GPR40がマウスにとって異種であり、かつ内在性GPR40遺伝子発現不全である請求項1記載のマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島
  6. 異種GPR40がヒト由来である請求項記載のマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島
  7. 請求項記載のマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島に試験化合物を適用し、GPR40アゴニスト活性またはGPR40アンタゴニスト活性を検定することを特徴とする異種GPR40アゴニストまたは異種GPR40アンタゴニストのスクリーニング方法。
  8. 請求項記載のマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島に試験化合物を適用し、(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能を測定することを特徴とする、異種哺乳動物における(1)インスリン分泌および/または(2)耐糖能調節薬のスクリーニング方法。
  9. 請求項1記載のマウスと他の病態モデルマウスとの交配によって生じる病態モデルマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島
  10. 請求項1記載のマウスに対する薬剤誘発またはストレス負荷によって生じる病態モデルマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島
  11. 請求項または10記載のマウスまたはそのマウス由来の単離ラ氏島に試験化合物を適用し、病態の改善を検定することを特徴とする該病態を伴う疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法。
  12. 病態もしくは疾患が、代謝性症候群またはその1以上の症候である請求項11記載の方法。
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