以下この発明のいくつかの実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明による無線周波信号の同定装置の実施の形態1を示すブロック図である。
実施の形態1の無線周波信号の同定装置100Aは、A/D変換器10と、無線周波信号特徴抽出手段20Aと、記録保存手段50Aと、照合手段60Aを備えている。この同定装置100Aの無線周波信号特徴抽出手段20Aと記録保存手段50Aと照合手段60Aは、例えばコンピュータによって構成される。無線周波信号特徴抽出手段20Aおよび照合手段60Aは、コンピュータのCPUによって実行される機能ブロックである。記録保存手段50Aは、例えばコンピュータに内蔵または付属するメモリ、ハードディスクなどによって構成される。
A/D変換器10は、受信した未知の無線周波信号SRをディジタル化する。無線周波信号特徴抽出手段20Aは、ディジタル化された無線周波信号SRを受けて、その振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPの無線周波信号特徴パターンCP1を出力する。無線周波信号特徴抽出手段20Aは、信号抜出手段21と、振幅・位相抽出手段22と、包絡線パターン抽出手段23と、正規化手段24と、振幅対位相特性抽出手段25を有する。振幅対位相特性抽出手段25は、未知の無線周波信号SRの無線周波信号特徴パターンCP1を出力する信号特徴パターン出力手段26を構成する。実施の形態1では、振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPにおける無線周波信号SRの位相変化Pθの位相変化量が、例えば2π以下の変化範囲に収まるような無線周波信号SRを前提とする。
無線周波信号SRは、無線周波搬送波を、変調信号に基づいて変調した信号である。この無線周波信号SRは、例えばパルスレーダ信号SR1または無線通信信号SR2である。まず、パルスレーダ信号SR1は、空間における目的物体の標定を行なうために、パルスレーダ機器から放射される無線周波信号である。このパルスレーダ信号SR1の一例が、図2(a)に示される。図2(a)において、縦軸はパルスレーダ信号SR1の振幅Aであり、横軸は時間tである。
図2(a)に示すパルスレーダ信号SR1は、1つのパルス波形11を含み、このパルス波形11は、立上り部分11aと立下り部分11bを含む。立上り部分11aでは、パルスレーダ信号SR1の振幅が0からピーク値PPまで過渡的に上昇している。立下り部分11bでは、パルスレーダ信号SR1の振幅がピーク値PPから0まで過渡的に減少している。無線周波信号SRは、無線周波数帯の無線周波搬送波をパルス変調した信号である。
パルスレーダ信号SR1は、立上り部分11aおよび立下り部分11bに、それぞれ振幅変化部分ACを含んでいる。この各振幅変化部分ACは、閾値THとピーク値PPとの間の振幅変化部分であり、立上り部分11aにおける振動変化部分ACは、無線周波信号SRの振幅が上昇する部分であり、立下り部分11bにおける振幅変化部分ACは、無線周波信号SRの振幅が減少する部分である。図2(a)において、SRPは振幅変化部分ACを含む2つの信号部分を示し、それぞれ振幅変化部分ACとそれに連続しピーク値PPに対応した振幅を持った振幅飽和部分APとだけを含んでいる。TPは、これらの各信号部分SRPに対応する信号抜出期間であり、信号部分SRPでは、この信号抜出期間TPにおいて、パルスレーダ信号SR1の振幅が閾値THとピーク値PPとの間で変化している。
図2(b)は、無線通信信号SR2の一例として、PSK信号を示す。この図2(b)において、縦軸は無線通信信号SR2の振幅Aであり、横軸は時間tである。
図2(b)に示す無線通信信号SR2は、あるビット値に対応する波形部分12Aと、それに続く他のビット値に対応する波形部分12Bと、それらの間で振幅Aが過渡的に変化し、位相θがステップ状に変化する信号変化部分12Cを含んでいる。波形部分12A、12Bは、それらの間の信号変化部分12Cで切換わる。波形部分12A、12Bでは、無線通信信号SR2の変調位相が反転している。信号変化部分12Cでは、無線通信信号SR2の包絡線が一定ではなく、位相θの変化点を中心にその両側で包絡線の大きさ、すなわち振幅が零近くまで落ち込んでいる。この振幅の落ち込みに伴ない、波形部分12Aは、その終期に無線通信信号SR2の振幅が減少する立下り部分12aを含み、波形部分12Bはその初期に無線通信信号SR2の振幅が増大する立上り部分12bを含んでいる。
無線通信信号SR2は、立下り部分12aと立上り部分12bに、それぞれ振幅変化部分ACを含んでいる。これらの振幅変化部分ACは、閾値THとピーク値PPとの間の振幅変化部分であり、立下り部分12aの振幅変化部分ACでは、無線通信信号SR2の振幅がピーク値PPから閾値THまで減少し、また立上り部分12bの振幅変化部分ACでは、無線通信信号SR2の振幅が閾値THからピーク値PPまで増大する。図2(b)において、SRPは振幅変化部分ACを含む2つの信号部分を示し、それぞれ振幅変化部分ACとそれに連続しピーク値PPに対応した振幅を持った振幅飽和部分APとだけを含んでいる。TPは、これらの各信号部分SRPに対応する信号抜出期間であり、信号部分SRPでは、この信号抜出期間TPにおいて、無線通信信号SR2の振幅が閾値THとピーク値PPとの間で変化している。
図2(a)(b)の各振幅変化部分ACでは、無線周波信号SR、例えばパルスレーダ信号SR1、無線通信信号SR2の振幅Aの変化に対応して、その位相θが変化することが知られている。この無線周波信号SRの振幅変化に対応する位相変化を、振幅対位相特性PAθと呼ぶが、この振幅対位相特性PAθは、無線機器、例えば多くのパルスレーダ機器、無線通信機器のそれぞれにおいて、固有に変化する特性であり、実施の形態1の無線周波信号の同定装置100Aでは、この振幅対位相特性PAθが、未知の無線周波信号SRを同定するのに使用され、またこの未知の無線周波信号SRを放射した無線機器を特定するのに使用される。無線機器の送信機または送信回路は、電力増幅器を含んでいる。振幅対位相特性PAθは、この送信機または送信回路の電力増幅器に固有の特徴である。この振幅対位相特性PAθは、無線機器の運用目的に応じて、その変調方式、変調回路、変調諸元が切り換えられても、そのまま残存するので、無線周波信号SRを同定し、またその無線周波信号SRを放射した無線機器を特定するのに有効である。
図1の信号抜出手段21は、ディジタル化した未知の無線周波信号SRを受けて、その信号抜出期間TPの信号部分SRPを抜出す。具体的には、無線周波信号SRが、図2(a)に示すパルスレーダ信号SR1であれば、信号抜出手段21は、図2(a)の立上り部分11Aまたは立下り部分11Bにおける振幅変化部分ACと、それに連続しピーク値PPに対応した振幅を持った振幅飽和部分APとだけを含んだ信号部分SRPを、その信号抜出期間TPの全期間に亘り抜出す。また、無線周波信号SRが、図2(b)に示す無線通信信号SR2であれば、信号抜出手段21は、図2(b)の立下り部分12aまたは立上り部分12bにおける振幅変化部分ACと、それに連続しピーク値PPに対応した振幅を持った振幅飽和部分APとだけを含んだ信号部分SRPを、その信号抜出期間TPの全期間に亘り抜出す。
無線通信信号SR2では、位相変調された無線周波信号の急激な位相のステップ変化に伴なって現われる信号の占有帯域幅の拡大を抑える目的で無線通信信号SR2に施されたろ波の結果として生じる振幅変化部分とそれに連続した振幅飽和部分を含んだ信号部分、または位相変調回路の帯域幅に起因して急激な位相のステップ変化部分の現われる振幅変化部分とそれに連続した振幅飽和部分を含んだ信号部分を、信号抜出手段21が抜出すように構成することもできる。
図3は、信号抜出手段21が、無線周波信号SR、例えばパルスレーダ信号CR1の立上り部分11Aまたは無線通信信号CR2の立上り部分12Bにおける振幅変化部分ACと、それに連続しピーク値PPに対応した振幅を持った振幅飽和部分APとだけを含んだ信号部分SRPを抜出す動作のフローチャートである。この図3のフローチャートは、3つのステップS11、S12、S13を含む。ステップS11では、無線周波信号SRの振幅Aのピーク値PPを測定する。ステップS12では、ピーク値PPの規定割合を閾値THとして演算する。次のステップS13では、振幅Aが閾値THに達した時点から規定時間を信号抜出期間TPとして設定する。この信号抜出期間TPは、閾値THからピーク値PPまでの振幅変化部分ACと、それに連続しピーク値PPに対応した振幅を持った振幅飽和部分APとだけを含んだ信号部分SRPを抜出すように設定される。
図1の振幅・位相抽出手段22は、振幅変化抽出手段22Aと位相変化抽出手段22Bを含む。振幅・位相抽出手段22は、信号抜出手段21により抜出された振幅変化部分ACと振幅飽和部分APとだけを含んだ信号部分SRPを受けて、この信号部分SRPの無線周波信号SRを分析し、その振幅Aおよび位相θを抽出する。この振幅・位相抽出手段22による無線周波信号SRの分析に基づき、振幅変化抽出手段22Aは、振幅変化部分ACと振幅飽和部分APとだけを含んだ信号部分SRPにおける振幅変化PAを抽出し、また、位相変化抽出手段22Bは、振幅変化部分ACと振幅飽和部分APとだけを含んだ信号部分SRPにおける位相変化Pθを抽出する。振幅変化抽出手段22Aは、信号抜出期間TPの全期間における信号部分SRPの振幅変化PAを時間tに沿って抽出する。位相変化抽出手段22Bは、信号抜出期間TPの全期間における信号部分SRPの位相変化Pθを時間tに沿って抽出する。
図4は、振幅・位相抽出手段22による信号部分SRPの振幅Aと位相θの抽出動作の説明図である。図4(a)では、図2(a)に示したパルスレーダ信号SR1の立上り部分11aにおける振幅変化部分ACについて、2つのサイクル部分Pi、Pjが、代表的に点線の枠で囲んで図示されている。図4(b)では、図2(b)に示した無線通信信号SR2の立上り部分12bにおける振幅変化部分ACについて、2つのサイクル部分Pi、Pjが、代表的に点線の枠で囲んで図示される。なお、サイクル部分Pi、Pjは、振幅変化部分ACに含まれる無線周波搬送波に対応する。
振幅・位相抽出手段22によるサイクル部分Piの位相θiの抽出動作を説明する。θiの添字iは、正の整数であり、位相θiは、任意の時刻を基準としたサイクル部分Piの総位相回転量φiを2niπで除算した剰余であり、次式で表わされる。
φi=2niπ+θi
この式でπは円周率、niは、剰余θiが、0≦θi<2πを満足する整数であり、2niπは2πを単位としたサイクル部分Piの総位相回転量を表わす。
サイクル部分Piの位相θiの抽出は、任意の時刻を基準にして、サイクル部分Piの波形形状に、媒介変数(A、ω、α)によって規定される関数
Pi(t)=Asin(ωt+α)
をあてはめることによって行なう。この関数において、Aは振幅、ωは角周波数、αは初期位相である。
振幅Aの値は、サイクル部分Piの時系列の波形データの最大値から得られるので、媒介変数のうち、この振幅Aがすでに既知とすると、サイクル部分Piの少なくとも3つの時系列の波形データPi(t)を前記関数に代入することにより、ω、Δt、αを求めることができる。
すなわち、
Pi(t)=Asin(ωt+α)
=Asin(ωtN+ωΔt+α)
=Asin(ωΔt+α)
この式において、tNは位相角ωtが2πの整数倍となるt以下の最大値、Δtはtと
tNとの差である。
関数Pi(t)の位相角ωt+αは、サイクル部分Piの総位相回転量φiに相当し、
Asin(ωt+α)=Asin(ωΔt+α)
=Asin(φi)
=Asin(2niπ+θi)
=Asin(θi)
であることから、サイクル部分Piの位相θiを求めることができる。同様にして、サイクル部分Pjの位相θjも求めることができる。このようにして、振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPに含まれるすべてのサイクル部分について位相θを抽出する。
位相変化抽出手段22Bは、振幅変化部分SRPのすべてのサイクル部分について抽出された位相θを受け、信号抜出期間TPに対する位相変化Pθを抽出する。
図1の包絡線パターン抽出手段23は、信号抜取手段21で抜き出された信号部分SRPを受けて、その包絡線パターンPEを抽出する。この包絡線パターンPEは、信号部分SRPにおける無線周波信号SRの各サイクルの最大値を、信号抜出期間TPの全期間に亘り繋いだパターンである。
図1の正規化手段24は、振幅変化抽出手段22Aからの振幅変化PAと、包絡線パターン抽出手段23からの包絡線パターンPEとを受け、振幅変化PAを正規化する。この正規化では、振幅飽和部分APにおける振幅値PPを基準にして正規化が行なわれる。正規化手段25は、無線周波信号SRがパルスレーダ信号SR1である場合には、振幅変化PAを、媒介変数x=(x1、x2、x3)によって規定される関数
hx(t)=x1(1+tanh(x2(t−x3))
によって近似し、振幅変化PAをこの関数で記述する。図5(a)は、この関数を示す。
また、正規化手段24は、無線周波信号SRが無線通信信号SR2である場合には、振幅変化PAを、媒介変数x=(x1、x2、x3)によって規定される関数
hx(t)=x1(0+tanh(x2(t−x3)) (t≧0)
=0 (t<0)
によって近似し、振幅変化PAをこの関数で記述する。図5(b)は、この関数を示す。
図1の振幅対位相特性抽出手段25は、正規化手段24からの正規化された振幅変化PAnと、位相変化抽出手段22Bからの位相変化Pθを受けて、振幅対位相特性PAθを抽出する。振幅対位相特性抽出手段25は、正規化された振幅変化PAnと、位相変化Pθについて、それぞれの信号抜出期間TPの時間軸tを一致させた上で、正規化された振幅変化PAnに対する位相変化Pθの特性を表わす振幅対位相特性PAθを抽出する。
図6は、振幅対位相特性抽出手段25から出力される振幅対位相特性PAθの一例を示す。図6において、横軸は正規化された振幅変化PAnであり、信号部分SRPのピーク値PPが1に正規化されている。図6において、縦軸は位相変化Pθである。図6に示す振幅対位相特性PAθは、無線周波信号SRを放射した多くの無線機器について固有の特性を表わす。
図1の振幅対位相特性抽出手段25は、信号特徴パターン出力手段26を構成し、振幅対位相特性PAθを、未知の無線周波信号SRの無線周波信号特徴パターンCP1として出力する。
図1の記録保存手段50Aは、未知の無線周波信号特徴パターンCP1と照合される多数の照合信号特徴パターンCP1refを記録保存する。この照合信号特徴パターンCP1refは、既知の多数の無線機器、すなわちパルスレーダ機器、無線通信機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP1を予め抽出したものである。この記録保存手段50Aは、既知の各無線機器からの無線周波信号SRを実際に受信し、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP1を、図1の無線周波信号特徴抽出手段20Aにより抽出し、これらの既知の無線周波信号特徴パターンCP1を照合信号特徴パターンCP1refとして、予め記憶する。または、図1の無線周波信号特徴抽出手段20Aによらずに、それと同様な手段により、既知の各無線機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP1を予め入手し、それを記録保存手段50Aに照合信号特徴パターンCP1refとして記憶することもできる。各照合信号特徴パターンCP1refには、対応する無線機器名、またはその無線機器名を表わすユニークな識別番号が併せて記録保存される。
図1の照合手段60Aは、信号特徴パターン出力手段26からの未知の無線周波信号特徴パターンCP1と、記録保存手段50Aに記憶された既知の照合信号特徴パターンCP1refをと照合する。この照合は、一般的な手法、すなわち閾値を基準として、無線周波信号パターンCP1と照合信号特徴パターンCP1refとの数値比較を行なう。例えば、両信号特徴パターンCP1、CP1refの相関係数が閾値を越えると、それらが一致すると判定する。または両信号特徴パターンCP1、CP1refの差の二乗和が閾値以下であると、それらが一致すると判定する。
照合手段60Aは、未知の無線周波信号特徴パターンCP1が信号特徴パターン出力手段26から照合手段60Aに入力されたときに、記録保存手段50Aに記録された既知の多数の照合信号特徴パターンCP1refを照合手段60Aに順次入力し、順次それらが一致するかどうかを確認する。一致する既知の照合信号特徴パターンCP1refが見出されると、入力された未知の無線周波信号特徴パターンCP1は、それと一致した既知の照合信号特徴パターンCP1refと同じと判定され、その既知の照合信号特徴パターンCP1refに付加された無線機器名、またはその識別番号から、その無線周波信号CP1を放射した無線機器が特定される。もし、記録保存手段50Aに記録されたすべての照合信号特徴パターンCP1refが、未知の無線周波信号特徴パターンCP1と一致しない場合には、その未知の無線周波信号特徴パターンCP1は、記録保存手段50Aに記録されていない新たな無線周波信号SRの無線周波信号特徴パターンであると識別され、その無線周波信号特徴パターンSP1が、新たな照合信号特徴パターン1CPrefとして記録保存手段50Aに記録される。
以上のように実施の形態1は、無線周波信号SRの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPにおける振幅対位相特性PAθに基づいて、無線周波信号特徴パターンCPを抽出するものであり、この無線周波信号特徴パターンCPは、付与される変調により直接的に生成される特徴ではなく、無線周波信号SRの振幅変化部分ACに間接的に生成される特徴を含み、多くの無線機器に固有の特徴を有するので、未知の無線周波信号SRの同定性能を向上することができる。
振幅対位相特性PAθに基づいて抽出された無線周波信号特徴パターンCPは、その無線周波信号SRを放射した無線機器における送信機、または送信回路の電力増幅器に固有の特徴を含むので、実施の形態1によれば、無線機器の運用目的に応じて、その変調方式、変調回路、変調諸元が切り換えられても、無線周波信号特徴パターンCPの特徴は、そのまま残存し、この無線周波信号特徴パターンCPに基づいて、より正確に無線周波信号SRの同定およびその無線周波信号SRを放射した無線機器の特定を行なうことができる。
また実施の形態1は、無線周波信号SRの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPから無線周波信号特徴パターンCPを抽出するものであり、無線機器のオン、オフに伴なう無線周波信号SRの過渡応答を利用しないので、無線機器がオン状態を継続しても、その振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPを抜出すことにより、未知の無線周波信号SRの同定およびその無線周波信号SRを放射した無線機器の特定を行なうことができる。
また実施の形態1は、無線周波信号SRの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPから無線周波信号特徴パターンCPを抽出するものであり、無線機器で用いられる電力増幅器の入出力信号波形を比較してその特徴を抽出するものではないので、未知の無線周波信号SRを同定するのに受信した無線周波信号SRからその特徴を抽出する必要がある電波監視装置においても、実施の形態1の無線周波信号の同定装置は有効に機能を発揮する。
また実施の形態1は、正規化手段24において、信号部分SRPの振幅変化PAを、振幅変化部分ACを含む信号部分SRPの包絡線パターンPEにより正規化しているので、信号部分SRPのピーク値PPの絶対値に左右されずに、未知の無線周波信号SRを同定し、その無線周波信号SRを放射した無線機器を特定することができる。
また実施の形態1は、無線周波信号SRがパルスレーダ信号SR1である場合に、このパルスレーダ信号SR1の立上り部分11aまたは立下り部分11bの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPを抜出すので、これらの立上り部分11aまたは立下り部分11bの傾斜またはその時間幅が変化しても、パルスレーダ信号SR1を同定し、そのパルスレーダ信号SR1を放射した無線機器を特定することができる。
また実施の形態1は、無線周波信号SRが無線通信信号SR2である場合に、その無線通信信号SR2の位相が切換わり、無線通信信号の位相、振幅がステップ状に変化する立下り部分12aまたは立上り部分12bで、その無線通信信号SR2の振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPを抜出すようにしているので、無線通信信号SR2も同定し、またその無線通信信号SR2を放射した無線機器を特定することができる。
なお、実施の形態1において、無線周波信号特徴抽出手段20Aへの無線周波信号SRの振幅変化に対応する位相変化量が極めて小さく、位相変化抽出手段22Bによる位相変化Pθの抽出が困難な場合には、図7に示す光ファイバループ遅延線回路15を、図1のA/D変換器10の前に配置し、無線周波信号SRの位相変化量を拡大する。
図7に示す光ファイバループ遅延線回路15は、スイッチ機能付カップラ16と光ファイバループ17を有し、光ファイバループ17は、光増幅器17a、光ファイバ17b、アイソレータ17c、ループスイッチ17dを含んでいる。スイッチ機能付カップラ16は、入力線16aと出力線16bを有し、入力線16aには無線周波信号SRで強度変調された光信号が入力される。この光信号は、光ファイバループ17を複数回循環して増幅され、出力線16bから出力される。出力線16bに出力される増幅された光信号は、電気信号に変換され、A/D変換器10に供給される。
この光ファイバループ遅延線回路15は、例えば、2004年12月に発行された雑誌「アイ イーイーイー トランザクションズ オン アンテナ アンド プロパゲーション(IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION)」のVol.5、No.12の3319〜
3328ページに掲載された、ミン チャン リィ(Ming-Chiang Li)によるA High Precision Doppler Radar Based on Optical Fiber Delay Loopsと題する論文に紹介されて
いる。また、光ファイバループ遅延線回路15の光ファイバを、位相の変化量を一層拡大できる分散型光ファイバとすることもできる。
実施の形態2.
図8は、この発明による無線周波信号の同定装置の実施の形態2を示すブロック図である。この実施の形態2の無線周波信号の同定装置100Bは、無線周波信号特徴抽出手段20Bと、記録保存手段50Bと、照合手段60Bを備えている。この同定装置100Bの無線周波信号特徴抽出手段20B、記録保存手段50B、照合手段60Bも、例えばコンピュータによって構成される。無線周波信号特徴抽出手段20Bおよび照合手段60Bは、コンピュータのCPUによって実行される機能ブロックである。記録保存手段50Bは、例えばコンピュータに内蔵または付属するメモリ、ハードディスクなどで構成される。
この実施の形態2の無線周波信号の同定装置100Bは、無線周波信号特徴抽出手段20Bが、無線周波信号SRの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPにおける瞬時周波数変化特性Pfを無線周波信号特徴パターンCP2として出力し、記録保存手段50Bもこの無線周波信号特徴パターンCP2に対応して、同定すべき多数の無線機器が放射する無線周波信号SRの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPにおける瞬時周波数変化特性Pfに対応した照合信号特徴パターンCP2refを記録し、照合手段60Bが、無線周波信号特徴抽出手段20Bからの未知の無線周波信号特徴パターンCP2と、記憶手段50Bからの既知の照合信号特徴パターンCP2refを照合する。
無線周波信号特徴抽出手段20Bは、A/D変換器10からのディジタル化された無線周波信号SRを受けて、その振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPにおける無線周波信号特徴パターンCP2を出力する。無線周波信号特徴抽出手段20Bは、信号抜出手段21と、瞬時周波数抽出手段31と、瞬時周波数特性抽出手段35を有する。瞬時周波数特性抽出手段35は、無線周波信号特徴パターンCP2を出力する信号特徴パターン出力手段36を構成する。
実施の形態2における無線周波信号SRは、実施の形態1における無線周波信号SRと基本的に同じ無線周波信号であるが、実施の形態1における無線周波信号SRは、その振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPが2π以下の位相変化を含んでいることを前提としたのに対し、実施の形態2の無線周波信号SRは、その信号部分SRPが、瞬時周波数fの変動を含む。言い換えれば、実施の形態2の無線周波信号SRは、その信号部分SRPに実施の形態1よりも大きな位相変化を含み、この位相変化が、瞬時周波数fの変化として捉えられる。
実施の形態2における無線周波信号SRも、無線周波搬送波を、変調信号に基づいて変調した信号である。この実施の形態2における無線周波信号SRも、例えば図2(a)に示すパルスレーダ信号SR1、または図2(b)に示す無線通信信号SR2である。図8に示す信号抜出手段21は、実施の形態1における信号抜出手段21と同じであり、図2(a)に示すパルスレーダ信号SR1または図2(b)に示す無線通信信号SR2の振幅変化部分ACと、それに連続しピーク値PPに対応した振幅を持った振幅飽和部分APとだけを含んだ信号部分SRPを抜出す。図8の信号抜出手段21も、図3に示すフローチャートに従って動作する。
図8に示す瞬時周波数抽出手段31は、位相変化抽出手段32と、近似線分あてはめ手段33と、近似線分の勾配抽出手段34を有する。位相変化抽出手段32は、実施の形態1における位相変化抽出手段22Bと同様に、信号抜出手段21で抜出された信号部分SRPを受け、その信号抜出期間TPにおける時間tに対する位相変化Pθを抽出する。この位相変化抽出手段32は、例えば高速フーリエ変換を用いて、図4(a)(b)に示した2つの代表サイクルPi、Pjの位相θi、θjと同様に、信号部分SRPのすべてのサイクルの位相θを求め、時間tに対する位相変化Pθを抽出する。
近似線分あてはめ手段33は、位相変化Pθを受け、この位相変化Pθについて、その近似線分のあてはめを行なう。近似線分あてはめ手段33は、移動窓を用いて近似線分のあてはめを行なう。移動窓は、図4(a)または(b)に示す信号部分SRPについて、その信号抜出時間TPの時間軸に沿って、移動される。近似線分あてはめ手段33は、こ
の移動窓を時間軸方向に順次移動させながら、移動窓に含まれる位相変化Pθの各部分について、その位相変化に近似する近似線分を順次あてはめる。
近似線分の勾配抽出手段34は、近似線分あてはめ手段33により、あてはめられた各近似線分のそれぞれについて勾配を抽出する。この各近似線分の勾配は、信号部分SRPの瞬時周波数fを示す。
瞬時周波数特性抽出手段35は、信号部分SRPにおける瞬時周波数特性Pfを抽出する。この瞬時周波数特性Pfは、信号抜出期間TPに対する瞬時周波数fの変化を示す。瞬時周波数特性抽出手段35は、信号特徴パターン出力手段36を構成し、瞬時周波数特性Pfを無線周波信号特徴パターンCP2として出力する。
図8の記録保存手段50Bは、図1の記録保存手段50Bと同様に、未知の無線周波信号特徴パターンCP2と照合される多数の既知の照合信号特徴パターンCP2refを記録する。この照合信号特徴パターンCP1refは、同定すべき多数の既知の各無線機器、すなわちパルスレーダ機器、無線通信機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2を予め抽出し、その無線機器名、またはその識別番号とともに、記録保存手段50Bに記録保存される。この記録保存手段50Bは、多数の既知の各無線機器からの無線周波信号SRを実際に受信し、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2を、図8の無線周波信号特徴抽出手段20Bにより抽出し、これらの無線周波信号特徴パターンCP2を照合信号特徴パターンCP2refとして、予め記憶する。または、図8の無線周波信号特徴抽出手段20Bによらずに、それと同様な手段により、多数の既知の無線機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2を予め入手し、それを記録保存手段50Bに照合信号特徴パターンCP2refとして記憶することもできる。
図8の照合手段60Bは、信号特徴パターン出力手段36からの未知の無線周波信号特徴パターンCP2と、記録保存手段50Bに記録された既知の照合信号特徴パターンCP2refをと照合する。未知の無線周波信号特徴パターンCP2が信号特徴パターン出力手段36から照合手段60Bに入力されたときに、記録保存手段50Bに記憶された多数の既知の照合信号特徴パターンCP2refを照合手段60Bに順次入力し、順次それらが一致するかどうかを確認する。一致する照合信号特徴パターンCP2refが見出されると、入力された未知の無線周波信号特徴パターンCP2は、それと一致した既知の照合信号特徴パターンCP2refと同じと判定され、それに付加された無線機器名、またはその識別番号から、それを放射した無線機器も特定される。もし、記録保存手段50Bに記録されたすべての既知の照合信号特徴パターンCP2refが、無線周波信号特徴パターンCP2と一致しない場合には、その未知の無線周波信号特徴パターンCP2は、記録保存手段50Bに記憶されていない新たな無線周波信号SRの信号特徴パターンであると識別され、その無線周波信号特徴パターンCP2が、新たな照合信号特徴パターンCP2refとして記録保存手段50Bに記憶される。
図8の照合手段60Bは、L2ノルム計算手段61と、同一性判定手段62を有する。L2ノルム計算手段61には、信号特徴パターン出力手段36からの未知の無線周波信号特徴パターンCP2と、記録保存手段50Bからの既知の照合信号特徴パターンCP2refが入力され、L2ノルム計算手段61は、それらの無線周波信号特徴パターンCP2と、照合信号特徴パターンCP2refとの差であるパターン差L2ノルムPDL2を計算する。同一性判定手段62は、L2ノルム計算手段61で計算したパターン差L2ノルムPDL2の大小から未知の無線周波信号特徴パターンCP2と、既知の照合信号特徴パターンCP2refの同一性を判定する。
実施の形態2の無線周波信号の同定装置100Bにおける位相変化抽出手段32、近似線分あてはめ手段33、および近似線分の勾配抽出手段34の動作についてさらに詳しく説明する。まず、位相変化抽出手段32は、無線周波信号SRにおける搬送波信号の位相の時間変化を、無線周波信号SRの中心周波数を基準にしてフーリエ変換により抽出する。
すなわち、無線周波帯、RF帯域における無線周波信号SRを、局部発振器により中間周波帯(IF帯域)の中間周波信号(IF信号)に落としたものを
で求められる。図11(a)はIF信号から抽出した振幅変化(包絡線パターン)の変化を示し、図11(b)はそれに対応した位相変化を示す。
なお、位相変化Pθをフーリエ変換により抽出する代わりに、無線周波信号SRをI、Q検波によりベースバンド信号に変換し、ベースバンドのI、Q各成分の振幅比の逆正接を求めることにより、位相変化Pθを求めることもできる。またI、Q検波は、正弦波と余弦波による乗積検波であっても、あるいは、これと等価なヒルベルト変換であってもよい。
次いで、近似線分あてはめ手段33は、振幅変化PAが小さい部分、すなわち、無線周波信号SRがパルスレーダ信号SR1の場合には、パルス波形11の振幅飽和部分AP、例えばパルス波形11の中央部のパルス幅の1/3の区間Jについて、図12に示す近似直線Sをあてはめ、その勾配からパルスレーダ信号SR1のIF帯域での中心周波数f0
を求める。振幅変化PAの小さい部分を使うには、その部分の周波数が比較的安定していると見なせるからである。
振幅変化が小さい区間Jについて近似直線Sを最小2乗法であてはめる場合の評価関数は、
で求められる。
さらに、近似線分あてはめ手段33は、図12に示す区分S1のように、信号部分SRPについて、移動窓を用いて順次近似直線をあてはめる。なお、図12は、図11(b)と同じ位相変化に対して、近似線分のあてはめ区分S、S1を追加したものである。
近似線分の勾配抽出手段34は、近似線分あてはめ手段33が、移動窓を用いて順次あてはめた近似線分について、それぞれの近似線分の時間軸(横軸)に対する勾配を求め、瞬時周波数fを求める。移動窓の幅を2ω+1とする。時間tnにおける瞬時周波数fnは、前記と全く同様にして、
であり、瞬時周波数fnの時間に対する変化特性が、瞬時周波数特性抽出手段35により、瞬時周波数特性Pfとして抽出される。この瞬時周波数特性Pfが無線周波信号特徴パターンCP2として、信号特徴パターン出力手段36から出力される。
L2ノルム計算手段61は、次式により、無線周波信号特徴パターンCP2と、照合信号特徴パターンCP2refとの隔たりを示すL2ノルムを計算する。この式のルートの中がL2ノルムである。
この式で、f
(i)は無線周波信号特徴パターン、f
(j)は照合信号特徴パターンである。N
edgeは振幅変化部分SRPの時間幅であり、信号抜出期間TPに等しい。fn(i)は無線周波信号特徴パターンCP2の瞬時周波数であり、fn(j)は照合信号特徴パターンCP2refの瞬時周波数であり、n=1、2、3・・・である。
無線周波信号特徴パターンCP2と照合信号特徴パターンCP2refとを時間軸上ですらしながら比較する場合には、次式により、周波数距離d(i,j)を求める。
この式でτmaxは時間軸でのずらしの上限である。この式でもルートの中がL2ノルムである。
同一性判定手段62は、式32のL2ノルムまたは式33の周波数距離を、閾値と比較し、閾値以下であれば、無線周波信号特徴パターンCP2と照合信号特徴パターンCP2refが同一と判定する。
以上のように実施の形態2は、無線周波信号SRの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPにおける瞬時周波数特性Pfに基づいて、無線周波信号特徴パターンCP2を抽出するものであり、この無線周波信号特徴パターンCP2は、付与される変調により直接的に生成される特徴ではなく、無線周波信号SRの振幅変化部分SRPに間接的に生成される特徴を含み、多くの無線機器に固有の特徴を有するので、未知の無線周波信号SRの同定性能を向上することができる。
瞬時周波数特性Pfに基づいて抽出された無線周波信号特徴パターンCP2は、その無線周波信号SRを放射した無線機器における送信機、または送信回路の電力増幅器に固有の特徴を含むので、実施の形態2によれば、無線機器の運用目的に応じて、その変調方式、変調回路、変調諸元が切り換えられても、無線周波信号特徴パターンCP2の特徴は、そのまま残存し、この無線周波信号特徴パターンCP2に基づいて、より正確に未知の無線周波信号SRの同定およびその無線周波信号SRを放射した無線機器の特定を行なうことができる。パルスレーダ機器、無線通信機器の送信機、送信回路に用いられるマグネトロン、クライストロン、TWT、半導体増幅器などは、無線周波信号SRの振幅変化部分ACで、瞬時周波数変化をもたらす。とくにマグネトロン、クライストロンは、振幅変化部分ACにおける瞬時周波数変化が比較的大きく、実施の形態2では、これらの振幅変化部分ACで瞬時周波数変化を伴なう無線機器からの無線周波信号SRを同定し、その無線機器を特定することができる。
また、実施の形態2では、位相変化抽出手段32、近似線分あてはめ手段33、および近似線分の勾配抽出手段34を用いて瞬時周波数抽出手段31を構成したので、瞬時周波数抽出手段31における演算量が抑えられ、無線周波信号SRの識別を高速で行なうことができる。
また、実施の形態2では、L2ノルム計算手段61と、同一性判定手段62により照合手段60Bを構成したので、より正確に、無線周波信号特徴パターンCP2の同定を行なうことができる。
実施の形態3.
図13は、この発明による無線周波信号の同定装置の実施の形態3を示すブロック図である。この実施の形態3の無線周波信号の同定装置100Cは、図8に示す実施の形態2で使用した無線周波信号特徴抽出手段20Bに、特徴点抽出手段40と、記録保存手段50Cと、照合手段60Cとを組み合わせたものである。この同定装置100Cの無線周波信号特徴抽出手段20B、記録保存手段50Cおよび照合手段60Cも、例えばコンピュータによって構成される。無線周波信号特徴抽出手段20Bおよび照合手段60Cは、コンピュータのCPUによって実行される機能ブロックである。記録保存手段50Cは、コンピュータに内蔵または付属するメモリ、ハードディスクなどによって構成される。
特徴点抽出手段40は、無線周波信号特徴抽出手段20Bの信号特徴パターン出力手段36から無線周波信号特徴パターンCP2を受け、サポートベクター回帰により、特徴点抽出を行ない、特徴点情報CC2を出力する。無線周波信号特徴抽出手段20Bの信号特徴パターン出力手段36から出力される未知の無線周波信号特徴パターンCP2は、記録保存手段50Cにも記録される。
記録保存手段50Cは、未知の無線周波信号特徴パターンCP2に加えて、この無線周波信号特徴パターンCP2と照合される多数の既知の照合信号特徴パターンCP2refと、この照合信号特徴パターンCP2refのそれぞれに対応する多数の照合特徴点情報CC2refを記録保存する。この照合信号特徴パターンCP2refと照合特徴点情報CC2refは、既知の多数の無線機器、すなわちパルスレーダ機器、無線通信機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2と、その特徴点情報CC2を予め抽出して記録したものである。この記録保存手段50Cは、既知の各無線機器からの無線周波信号SRを実際に受信し、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2を、図13の無線周波信号特徴抽出手段20Bにより抽出し、また、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2の特徴点情報CC2を、図13の特徴点抽出手段40により抽出し、これらの無線周波信号特徴パターンCP2と特徴点情報CC2を、照合信号特徴パターンCP2refと照合特徴点情報CC2refとして、予め記録保存する。または、図13の無線周波信号特徴抽出手段20Bと特徴点抽出手段40によらずに、それらと同様な手段により、既知の各無線機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2とその特徴点情報CC2を予め入手し、それを記録保存手段50Cに照合信号特徴パターンCP2ref、照合特徴点情報CC2refとして記憶することもできる。
照合手段60Cは、距離算出手段63と、同一性判定手段64を有する。距離算出手段63は、信号特徴パターン出力手段36から出力され記録保存手段50Cに記録された未知の無線周波信号特徴パターンCP2と、記録保存手段50Cに記録された既知の照合信号特徴パターンCP2ref、照合特徴点情報CC2refとに基づき、未知の無線周波信号特徴パターンCP2と既知の照合信号特徴パターンCP2refとの最小距離情報MDを算出する。同一性判定手段64は、距離算出手段63からの最小距離情報MDに基づき、未知の無線周波信号特徴パターンCP2と既知の照合信号特徴パターンCP2refとの同一性判定を行なう。
この実施の形態3の無線周波信号の同定装置100Cは、特徴点抽出手段40において、とくにサポートベクター回帰により無線周波信号特徴パターンCP2のデータ圧縮を行なうことを特徴とする。このサポートベクター回帰について簡単に説明する。このサポートベクター回帰については、ジョン ワイリー アンド サンズ(John Wiley & Sons)から1998年に発行されたブイ、エヌ、バプニック(V.N.Vapnik)による「スタティスティカルラーニング セオリー(Statistical Learning Theory)」と題する著書に詳しく説明されている。
サポートベクター回帰は、入力xi∈R
n,i=1,2,・・・,lを回帰する手法である。入力x∈R
nを特徴空間へ非線形写像xからΦ(x)を考え、特徴空間において線形回帰を行なう。この実施の形態3で利用するε―SVRは、次の(式34)から(式37)により定式化される。予め定められたC>0、ε>0に対して、(式35)から(式37)の制約条件の下に、(式34)を求める。
実際には、次の(式38)から(式40)の双対問題を解く。この双対問題を解く場合、(式39)(式40)の制約条件の下に、(式38)を求める。
ここで、Qij=k(xi,xj)である。k(xi,xj)はカーネル関数であり、k(xi,xj)=Φ(xi)
TΦ(xj)である。回帰関数は次の(式41)となる。
この実施の形態3では、カーネル関数として、ラジアルベイシス(radical basis)関数k(xi,xj)=exp[−|xi−xj|
2/2σ
2]を用いる。
図14は、特徴点抽出手段40において、サポートベクター回帰により特徴点を抽出するフローチャートであり、ステップS41からS44の4つのステップを含む。ステップS41では、無線周波信号特徴パターンCP2をサポートベクター回帰により回帰し、サポートベクター回帰パターンを構成するサポートベクターを求める。ステップS42では、ステップS41で求めたサポートベクターから、予め定めた規定値δ以下の間隔で連続したサポートベクターの集合を算出する。規定値δ以下の間隔で連続する特徴点がない場合には、要素数1の集合とする。
ステップS43では、ステップS42で求めたサポートベクターの集合の中で、サポートベクターの係数の絶対値|−αi+α*|が最大のサポートベクターを、そのサポートベクターの集合の代表点とする。ステップS44では、ステップS43で求めた代表点が、予め定めた規定間隔τ以上離れて隣接する場合に、それらの隣接する代表点間に、規定間隔τで追加点を補完し、代表点、追加点と併せて特徴点とする。
図15は、無線周波数信号特徴パターンCP2の一例とともに、特徴点抽出手段40がステップS41において求めたサポートベクターと、それによって構成されたサポートベクター回帰パターンCP2Sを示す。図15の横軸はサンプル点、縦軸は信号部分CRPの瞬時周波数fである。無線周波信号特徴パターンCP2は、図15に実線の曲線で示され、サポートベクター回帰パターンCP2Sは、点線の曲線で示される。ステップS41で求めたサポートベクターが記号+で無線周波信号特徴パターンCP2上に示される。サポートベクター回帰パターンCP2Sは、瞬時周波数fが0から1の範囲に入るように適当にスケーリングした無線周波信号特徴パターンCR2を、σ=25、ε=0.01、C=1としてε−SVRにより回帰したものである。なお、無線周波信号特徴パターンCP2のスケーリングは、図16、図17でも同様に適用する。
図16は、図15と同じ無線周波信号特徴パターンCP2と、サポートベクター回帰パターンCP2Sに加えて、特徴点抽出手段40のステップS42、S43による代表点を記号+で示す。ステップS42では、図15に示したサポートベクター+の中で、規定値δ以下の間隔で連続したサポートベクターの集合を算出し、ステップS43では、そのサポートベクターの集合の中で、サポートベクターの係数の絶対値|−αi+α*|が最大のサポートベクターを、そのサポートベクターの集合の代表して、代表点とする。図16では、規定値δ=3とし、δ=3以下の間隔で連続したサポートベクターからサポートベクターの集合を算出し、サポートベクターの係数の絶対値が最も大きなサポートベクターを、そのサポートベクターの集合の代表点として記号+で示している。
図17は、図16に対し、特徴点抽出手段40のステップS44による追加点οを追加して示す。ステップS44では、図16の代表点+の中で、規定間隔値τ以上離れて隣接する代表点+の間に、間隔τで追加点を追加するが、図17では、規定間隔値τ=30として、追加点が2点以上となるところでは、両端の間隔が互いに等しくなるようにして、追加点οを追加している。
ステップS41からS44を実行する特徴点抽出手段40を用いることにより、無線周波信号SRの振幅変化部分ACを含む信号部分SRPからの無線周波信号特徴パターンCP2について、その信号同定のために情報を残しながら、データ圧縮を行なうことができる。図17では、225個のサンプル点についての情報を、ステップS43で求められた8個の代表点+と、ステップS44で追加された4個の追加点οからなる特徴点情報CC2に圧縮している。
図18は、照合手段60Bを構成する距離算出手段63と、同一性判定手段64の動作フローチャートであり、ステップS61からステップS69の9つのステップを含む。ステップS61からS68までが距離算出手段63の動作フローチャートであり、ステップS69が同一性判定手段64の動作フローチャートである。
距離算出手段63の最初のステップS61では、無線周波信号特徴抽出手段20Bの信号特徴パターン出力手段36から出力され記録保存手段50Cに記憶された無線周波信号特徴パターンCP2と、記録保存手段50Cに保存された1つの照合信号特徴パターンCP2refとを時間軸の任意位置に固定する。照合信号特徴パターンCP2refには、それに対応する照合特徴点情報CC2refにより、特徴点が付加されている。次のステップS62では、無線周波信号特徴パターンCP2と照合信号特定パターンCP2refとが重複する重複区間において、照合信号特徴パターンCP2refの特徴点を無線周波信号特徴パターンCP2の照合点に設定する。例えば照合信号特徴パターンCP2refを図15〜図17に示す無線周波信号特徴パターンCP2と同じとすると、この照合信号特徴パターンCP2refの特徴点に対応して、無線周波信号特徴パターンCP2に照合点を設定する。次のステップS63では、無線周波信号特徴パターンCP2の端点に対応する位置に照合信号特定パターンCP2refが存在すれば、その端点を照合点に加える。
次のステップS64では、ステップS62、S63で設定した各照合点における照合信号特徴パターンCP2refのデータ値の平均値と、無線周波信号特徴パターンCP2のデータ値の平均値を求め、これらの平均値のどちらかをオフセットさせて平均値を揃える。次のステップ65では、照合信号特徴パターンCP2refの各照合点のデータ値と、無線周波信号特徴パターンCP2の各照合点のデータ値との差の標準偏差を算出し、この標準偏差を照合信号特徴パターンCP2refと無線周波信号特徴パターンCP2の距離情報とする。次のステップS66では、ステップS65で求めた距離情報に、それぞれ照合点重複区間比(照合信号特徴パターンCP2refの両端に位置する特徴点間の区間長)/(照合信号特徴パターンCP2refと無線周波信号特徴パターンCP2との重複区間において両端に位置する照合点間の区間長)を乗じて、距離情報値を求める。
次のステップS67では、ステップS64からステップS66までの演算において、演算対象とした照合点が参照信号特徴パターンCP2refの最終の照合点かどうかを判定し、その判定結果がNOならばステップS68において照合信号特徴パターンCP2refを無線周波信号特徴パターンCP2に対して順次シフトしながら、照合信号特徴パターンCP2refと無線周波信号特徴パターンCP2の間の距離情報値を求め、その中の最小距離情報MDを算出する。この最小距離情報MDは、照合信号特徴パターンCP2refと無線周波信号特徴パターンCP2との間の最小距離を表わす。なお、ステップS68は、ステップS62にリターンするが、このステップS62において、改めて照合信号特徴パターンCP2refと無線周波信号特徴パターンCP2との重複区間の特徴点を照合点に設定し、ステップS63からS67を通じて、最小距離情報MDを求める。
同一性判定手段64を構成するステップS69では、ステップS67で算出した最小距離情報MDが、閾値以下かどうかの判定を行なう。このステップS69の判定結果がYESであれば、照合された1つの既知の照合信号特徴パターンCP2refが、信号特徴パターン抽出手段36からの未知の無線周波信号特徴パターンCP2と同一と判定する。ステップS69の判定結果がNOであれば、照合された1つの照合信号特徴パターンCP2refは、未知の無線周波信号特徴パターンCP2とは異なると判断され、記録保存手段50Cに記録された次の参照信号特徴パターンCP2refとの照合が、同様に実行される。記録保存手段50Cに記憶されたすべての照合信号特徴パターンCP2refが、無線周波信号特徴パターンCP2と異なると判定されると、その無線周波信号特徴パターンCP2は、記録保存手段50Cに未登録の信号特徴パターンと見なされ、記録保存手段50Bに新たに記録され登録される。
なお、ステップS68では、高速処理のために、複数のサンプル点に亘り同時にシフトすることもできる。また無線周波信号特徴パターンCP2が照合信号特徴パターンCP2refよりも長い場合は、照合信号特徴パターンCP2refが無線周波信号CRの同定のために適切に処理されているとの前提に立って、ステップSS63、S66を省略することもできる。
図19は、照合手段60Bの同一性判定手段64が実行するステップS69において、ある照合信号特徴パターンCP2refが無線周波信号特徴パターンCP2と同一と判定される場合の距離のヒストグラムを示す。図20は、ステップS69において、ある照合信号特徴パターンCP2refが無線周波信号特徴パターンCP2と異なると判定される場合の距離にヒストグラムを示す。図19、20において、横軸は距離、縦軸は頻度を示す。図20において、1つの照合点で距離が小さいものがあるが、ステップS69における閾値を0.05とすることにより、無線周波信号CRの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPにおける無線周波信号特徴パターンCP2の同定を正確に行ない得ることが解る。実施の形態3では、無線周波信号SRの信号部分SRPにおける無線周波信号特徴パターンCP2の同定に必要な時間を、実施の形態2に比べて大きく短縮できる。
実施の形態4.
図21は、この発明による無線周波信号の同定装置の実施の形態4を示すブロック図である。この実施の形態4の無線周波信号の同定装置100Dは、実施の形態1で使用した無線周波信号特徴抽出手段20Aに、記憶手段50Dと、実施の形態3で使用された特徴点抽出手段40と照合手段60Cを組み合わせたものである。この同定装置100Dの無線周波信号特徴抽出手段20A、記録保存手段50Dおよび照合手段60Cも、例えばコンピュータによって構成される。無線周波信号特徴抽出手段20Aおよび照合手段60Cは、コンピュータのCPUによって実行される機能ブロックである。記録保存手段50Dは、コンピュータに内蔵または付属するメモリ、ハードディスクなどによって構成される。
実施の形態4における特徴点抽出手段40は、実施の形態1で使用した無線周波信号特徴抽出手段20Aの信号特徴パターン出力手段26から無線周波信号特徴パターンCP1を受ける。この特徴点抽出手段40は、実施の形態3で使用された特徴点抽出手段40と同じに構成され、図14に示したフローチャートと同様のフローチャートで、無線周波信号特徴パターンCP1からその特徴点情報CC1を出力する。言い換えれば、実施の形態3の特徴点抽出手段40は、無線周波信号特徴パターンCP2を入力としてその特徴点情報CC2を出力するが、実施の形態4の特徴点抽出手段40は、無線周波信号特徴パターンCP1を入力としてその特徴点情報CC1を出力するように、その入出力が変更されるが、入出力が変更されるだけで、その内部構成および動作フローチャートは、実施の形態3の特徴点抽出手段40と同じである。無線周波信号特徴抽出手段20Aの信号特徴パターン出力手段26から出力される未知の無線周波信号特徴パターンCP1は、記録保存手段50Dにも記憶される。
記録保存手段50Dは、未知の無線周波信号特徴パターンCP1に加えて、この無線周波信号特徴パターンCP1と照合される多数の既知の照合信号特徴パターンCP1refと、この照合信号特徴パターンCP1refのそれぞれに対応する多数の照合特徴点情報CC1refを記録保存する。この照合信号特徴パターンCP1refと照合特徴点情報CC1refは、既知の多数の無線機器、すなわちパルスレーダ機器、無線通信機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP1と、その特徴点情報CC1を予め抽出して記録したものである。この記録保存手段50Dは、既知の各無線機器からの無線周波信号SRを実際に受信し、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP1を、図21の無線周波信号特徴抽出手段20Aにより抽出し、また、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP1の特徴点情報CC1を、図21の特徴点抽出手段40により抽出し、これらの無線周波信号特徴パターンCP1と特徴点情報CC1を、照合信号特徴パターンCP1refと照合特徴点情報CC1refとして、予め記録保存する。または、図21の無線周波信号特徴抽出手段20Aと特徴点抽出手段40によらずに、それらと同様な手段により、既知の各無線機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP1とその特徴点情報CC1を予め入手し、それを記録保存手段50Dに照合信号特徴パターンCP1ref、照合特徴点情報CC1refとして記憶することもできる。
照合手段60Cは、実施の形態3で使用された照合手段60Cと同じであり、距離算出手段63と、同一性判定手段64を有する。距離算出手段63は、記録保存手段50Dからの照合信号パターンCP1ref、その照合特徴点情報CC1refと、照合すべき無線周波信号パターンCP1に基づき、既知の照合信号特徴パターンCP1refと未知の無線周波信号特徴パターンCP1の最小距離情報MDを算出する。同一性判定手段64は、距離算出手段63からの最小距離情報MDに基づき、無線周波信号特徴パターンCP1と照合信号特徴パターンCP1refとの同一性判定を行なう。言い換えれば、実施の形態3の距離算出手段63は、照合信号特徴パターンCP2、その照合特徴点情報CC2ref、照合すべき無線周波信号特徴パターンCP2を入力として、無線周波信号特徴パターンCP2と照合信号特徴パターンCP2refとの最小距離情報MDを出力するが、実施の形態4の距離算出手段63は、それらの入力を照合信号パターンCP1ref、その照合特徴点情報CC1ref、および無線周波信号特徴パターンCP1に置き換えただけで、距離算出手段63と同様な処理を行ない、未知の無線周波信号特徴パターンCP1と既知の照合信号特徴パターンCP1refとの最小距離情報MDを出力する。
この実施の形態4によれば、無線周波信号SRの振幅変化部分ACを含んだ信号部分SRPにおける振幅対位相特性PAθとして出力される無線周波信号特徴パターンCP1を、圧縮された特徴点情報CC1を用いて、より短時間に処理することができる。
実施の形態5.
図22は、この発明による無線周波信号の同定装置の実施の形態5を示すブロック図である。この実施の形態5の無線周波信号の同定装置100Eは、無線周波信号特徴抽出手段20Eと、記録保存手段50Eと、照合手段60Eを備えている。無線周波信号特徴抽出手段20Eは、実施の形態2で使用した無線周波信号特徴抽出手段20Bに正規化ブロック38を追加したものである。記録保存手段50Eは、特徴量算出手段51を有する。この同定装置100Eの無線周波信号特徴抽出手段20E、記録保存手段50Eおよび照合手段60Eも、例えばコンピュータによって構成される。無線周波信号特徴抽出手段20E、照合手段60Eおよび記録保存手段50Eの特徴量算出手段51は、コンピュータのCPUによって実行される機能ブロックである。記録保存手段50Eは、コンピュータに内蔵または付属するメモリ、ハードディスクなどによって構成される。
この実施の形態5の無線周波信号の同定装置100Eは、とくに記録保存手段50Eが、未知の無線周波信号特徴パターンCP2およびこれと照合される複数の既知の照合信号特徴パターンCP2記録し、また記録保存手段50Eが特徴量算出手段51を有し、この特徴量算出手段51が、未知の無線周波信号特徴パターンCP2の特徴量CC2Vと、既知の複数の照合信号特徴パターンCP2refの照合特徴量CC2Vrefを算出して、記録保存手段50Eに記録する。未知の無線周波信号特徴パターンCP2の特徴量CC2Vは、照合信号特徴パターンCP2refについて算出した所定値より大きな特異値を持つ特異ベクトルと、無線周波信号特徴パターンCP2との内積値とされる。複数の各照合信号特徴パターンCP2refのそれぞれにも、同様な内積値が照合特徴量CC2Vrefとして記録される。
複数の既知の照合信号特徴パターンCP2refと照合特徴量CC2Vrefは、既知の多数の無線機器、すなわちパルスレーダ機器、無線通信機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2と、その特徴量CC2Vを予め抽出して記録したものである。記録保存手段50Eは、既知の各無線機器からの無線周波信号SRを実際に受信し、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2を、図22の無線周波信号特徴抽出手段20Eにより抽出し、また、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2の特徴量CC2Vを、図22の特徴量算出手段51により抽出し、これらの無線周波信号特徴パターンCP2と特徴点情報CC2Vを、照合信号特徴パターンCP2refと照合特徴量CC2Vrefとして、予め記録保存する。または、図22の無線周波信号特徴抽出手段20Eと特徴量算出手段51によらずに、それらと同様な手段により、既知の各無線機器について、それぞれの無線周波信号特徴パターンCP2とその特徴量CC2Vを予め入手し、それを記録保存手段50Eに照合信号特徴パターンCP2ref、照合特徴量CC2Vrefとして記録することもできる。
実施の形態5の無線周波信号特徴抽出手段20Eの正規化ブロック38は、包絡線パターン抽出手段23と、正規化手段37を含む。正規化手段37は、包絡線パターン抽出手段23からの包絡線パターンPEに基づいて、無線周波信号特徴抽出手段20Bの信号特徴パターン出力手段36からの無線周波信号特徴パターンCP2を正規化する。
図23は、正規化手段37と特徴量算出手段51のフローチャートを示す。この図23のフローチャートは、3つのステップS51〜S53を含んでいる。ステップS51は、正規化手段37による正規化動作であり、ステップS52、S53は、特徴量算出手段51の動作ステップである。
実施の形態5において、M個の信号特徴パターンCPを正規化して記録保存手段50Eに記録し、またその信号特徴パターンCPのそれぞれの特徴量CCVを算出する動作を説明する。この動作は、第1段階ST1と第2段階ST2で実行される。第1段階ST1では、M個の信号特徴パターンCPは、そのすべてが既知の照合信号特徴パターンCP2とされ、それらに対するM個の照合特徴量CC2Vrefが算出して記録される。
まず第1段階ST1について説明する。ステップS51では、M個の信号特徴パターンCPのそれぞれについて、その標本d(tn)[tnは、t1、t2、・・・tnの標本化時刻]を媒介変数x=(x1,x2,x3)によって規定される関数
hx(t)=x1(1+tanh(x2(t−x3)))
によって近似する。この近似は、変数xに対する2乗誤差関数
に対して、この関数を最小化する値として決定する。
この決定には、3次元ニュートン(Newton)法など既知の非線形最小2乗法を用いることができる。この非線形最小2乗法は、例えば1991年に丸善株式会社から発行された広中平祐他編集の「現代数理科学事典」のXVI章数値[6]1−3節、914−916頁の「非線形最小2条法」に紹介されている。
予め定められた観測時刻の集合S={s1,・・・sN}に対して、得た変数を用いて正規化された無線周波信号特徴パターンCPを、f(sn)=d(round(sn+x3)),(sn∈S)として定義する。ここで関数round(z)は、実数zに最も近い整数を表わす。
ステップS52では、特徴量算出手段51は、M個の正規化された信号特徴パターンCPを含む集合を構成し、この集合についてデータ行列Dを定義する。M個の信号特徴パターンCPは、実施の形態5では、いずれも振幅変化部分ACを含む信号部分CRPから抽出された瞬時周波数特性Pfである。このデータ行列Dは、M個の正規化された信号特徴パターンCPを、fm(sn)(m=1,・・・M,n=1,・・・、N)とし、このfm(sn)を第m行n列に持つデータ行列である。
ステップS53では、データ行列Dに特異値分解演算を実行し、M個の信号特徴パターンCPのそれぞれについて、特徴量CCVを算出する。そのために、まずデータ行列Dの特異値分解D=UΣVtを計算する。この計算には、例えば1991年に丸善株式会社か
ら発行された広中平祐他編集の「現代数理科学事典」のXVI章数値[6]2−4節、916頁に紹介された「特異値分解の計算法」を用いることができる。
ここで、行列UはM次の直交行列、行列VはN次の直交行列であり、行列V^
tは行列
Vの転換行列である。行列Vの各列を成分に持つN次元のベクトルをv1,・・・,vMとする。V=(v1・・・vN)である。また、M行N列の行列Σは、次の形を持つ。
ここで、Δr=diag(λ1、・・・,λr)はr次の対角行列であり、λ1≧・・・≧λr>0であり、r列は行列Dの階数である。λ1,・・・,λrは特異値である。
ステップS53では、次いで、予め定めた自然数Kに対し、基底v1,・・・,vKに対して、M個の信号特徴パターンCP、すなわちfm=(fm(s1),・・・,fm(sN))の成分cm,n=fm・vn(m=1,・・・,M,n=1,・・・,K)を計算する。そして、特徴量CCVとして、特異ベクトルv1,・・・,vKと、それらに対する信号特徴パターンCPの特徴量cm,n(m=1、・・・,M,n=1,・・・,K)を記録保存手段50Eに登録する。特徴量cm,nは1つの信号特徴パターンCPについて算出された特異ベクトルと、他の信号特徴パターンCPについて算出された所定値よりも大きな特異値を持つ特異ベクトルとの内積値である。
第2段階ST2では、ステップS51〜S53と同様にして、未知の無線周波信号特徴パターンCP2について、特異ベクトルV1、・・・,vKに対する特徴量cn(n1,・・・,K)を求め、これを記録保存手段50Eに記録する。未知の無線周波信号パターンCP2の特徴量cnは、集合を構成する照合信号特徴パターンCP2refについて算出した所定値よりも大きな特異値を持つ特異ベクトルと、無線周波信号特徴パターンCP2について算出したベクトルとの内積値である。
照合手段60Eは、L2ノルム計算手段65と、同一性判定手段66を有する。この照合手段60Eの動作フローチャートを図24に示す。このフローチャートは、3つのステップS71〜S73を含む。照合手段60Eは、第2段階ST2の後で実行される。ステップS71は、正規化のステップであるが、第2段階ST2のステップS51において、未知の無線周波信号特徴パターンCP2に対する正規化が実行されていれば、このステップS71は省略することもできる。
ステップS72では、L2ノルム計算手段65が、未知の無線周波信号特徴パターンCP2について求めた特徴量cnと、照合信号特徴パターンCP2refについての特徴量cm,nとのL2ノルムを次の式で計算する。
ステップS73では、同一性判定手段66が、このL2ノルムが閾値以下がどうかの判定を行なう。L2ノルムが閾値以下と判定されると、未知の無線周波信号特徴パターンCP2は、比較された照合信号特徴パターンCP2refと同一と判定される。比較された照合信号特徴パターンCP2refが未知の無線周波信号特徴パターンCP2とは異なる場合には、順次次の照合信号特徴パターンCp2refの特徴量との比較を行なう。すべての照合信号特徴パターンCP2と異なると判断された場合には、未知の無線周波信号特徴パターンCP2は、未登録の無線周波信号特徴パターンと判定される。
この実施の形態5では、実施の形態2と同様な効果を得ることができることに加え、特異値分解演算により特徴量CC2Vおよび照合特徴量CC2Vrefが算出され、これを用いて同一性判定手段66が、未知の無線周波信号パターンCP2と照合信号パターンCP2refとの照合を行なうので、圧縮された特徴量により、簡単に照合を行なうことができる。
実施の形態6.
図25は、この発明による無線周波信号の同定装置の実施の形態6を示すブロック図である。この実施の形態6の無線周波信号の同定装置100Fは、実施の形態5の照合手段60Eを、照合手段60Fに代えたものであり、この照合手段60Fは、L2ノルム計算手段65を使わずに、同一性判定手段67だけを使用する。この同一性判定手段67は、未知の無線周波信号特徴パターンCP2の特徴量cnと、照合信号特徴パターンCP2refの特徴量Cm,nを直接比較し、それらの同一性を判定する。
この実施の形態6では、実施の形態5よりも簡単に、未知の無線周波信号パターンCP2と照合信号特徴パターンCP2refとの照合を行なうことができる。
実施の形態7.
図26は、この発明による無線周波信号の同定装置の実施の形態7を示すブロック図である。この実施の形態7の無線周波信号の同定装置100Gは、実施の形態1で使用した無線周波信号特徴抽出手段20Aに、実施の形態5、6で使用した特徴量算出手段51を有する記録保存手段50Fと、実施の形態5、6の照合手段60Eまたは60Fを組み合わせたものである。
この実施の形態7では、無線周波信号特徴抽出手段20Aの信号特徴パターン出力手段26からの未知の無線周波信号特徴パターンCP1と、この無線周波信号特徴パターンCP1と照合される既知の照合信号特徴パターンCP1refとが記録保存手段50Fに記録されるが、加えて特徴量算出手段51は、照合信号特徴パターンCP1refに対する照合特徴量CC1Vrefおよび無線周波信号特徴パターンCP1に対する特徴量CC1Vを、実施の形態5、6の参照特徴量CC2Vrefおよび特徴量CC2Vと同様に算出して、記録保存手段50Fに記録する。
なお、無線周波信号特徴抽出手段20Aは、正規化手段24を有しているが、特徴量算出手段51が、図23のステップS51と同様に、包絡線パターン抽出手段23からの包絡線パターンPEを使って、既知の照合信号特徴パターンCP1refと未知の無線周波信号特徴パターンCP1の正規化を行なうようにすることもできる。
この実施の形態7では、実施の形態1と同様な効果を得ることができることに加え、特異値分解演算により特徴量CC1Vおよび参照特徴量CC1Vrefが算出され、これを用いて同一性判定手段66が、未知の無線周波信号パターンCP1と照合信号パターンCP1refとの照合を行なうので、圧縮された特徴量により、簡単に照合を行なうことができる。