JP5064480B2 - セルロース繊維の懸濁液とその製造方法 - Google Patents

セルロース繊維の懸濁液とその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、酸素バリア膜の製造用として適したセルロース繊維の懸濁液とその製造方法、それを用いた成形体とその製造方法に関する。
現状の酸素、水蒸気等のガスバリア用材料は、主として化石資源から製造されているため、非生分解性であり、焼却処分せざるを得ない。そこで、再生産可能なバイオマスを原料として、生分解性のある酸素バリア材料を製造することが検討されている。
特許文献1は、微結晶セルロースを含有するコーティング剤と、それを基材に塗布した積層材料に関する発明である。原料となる微結晶セルロース粉末は、平均粒径が100μm以下のものが好ましいことが記載され、実施例では、平均粒径が3μmと100μmのものが使用されているだけであり、後述の繊維の微細化処理についての記載は一切なく、塗布したコーティング剤層の緻密性や膜強度、基材との密着性に改善の余地がある。
特許文献2には微細セルロース繊維に関する発明が開示されており、コーティング材として使用できる可能性が記載されているが、具体的な効果が示された用途については記載されていない。
非特許文献1には、酸素バリア等のガスバリア性を発揮することについての開示は全くなされていない。
特許文献3には、ポリアクリル酸とポリアルコール系ポリマーを主構成成分とする膜状物を形成し、熱処理した後、金属を含む媒体中に浸漬してイオン架橋させるガスバリア性フィルムの製造方法が開示されている(請求項15、実施例1等)。
特許文献4には、ポリカルボン酸系重合体(実施例ではポリアクリル酸)、多価金属化合物、揮発性塩基を含む溶液を基材上に塗工し、加熱処理するフィルムの製造方法が開示されている(請求項8、実施例1等)。
特開2002−348522号公報 特開2008−1728号公報 特開2005−126539号公報 特開平10−237180号公報
Bio MACROMOLECULES Volume7, Number6,2006年6月,Published by the American Chemical Society
本発明は、酸素バリア膜の製造用として適したセルロース繊維の懸濁液とその製造方法を提供することを課題とする。
本発明は、セルロース繊維の懸濁液を用いて製造される、酸素バリア性が優れた膜状成形体と複合成形体を提供することを他の課題とする。
本願発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
(1)セルロース繊維、多価金属及び揮発性塩基を含有するセルロース繊維の懸濁液であって、前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下で、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものである、セルロース繊維の懸濁液。
(2)前記セルロース繊維のカルボキシル基含有量に対して、1〜500化学当量の揮発性塩基を含むこと特徴とする、請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液。
(3)前記セルロース繊維のカルボキシル基含有量に対して、0.1〜1.5化学当量の多価金属を含むこと特徴とする、請求項1記載のセルロース繊維懸濁液。
(4)請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液から形成された、膜状成形体。
(5)基材上に請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液から形成された層を有する、複合成形体。
(6)セルロース繊維と酸の水溶液を混合する工程であり、前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下で、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものであり、
前工程で得られた混合物をろ過する工程、
前工程で得られたろ過物を、多価金属と揮発性塩基を含有する水溶液と混合する工程、を有している、セルロース繊維の懸濁液の製造方法。
(7)前記セルロース繊維が有するカルボキシル基の構造が、
前記セルロース繊維と酸の水溶液を混合する工程の前ではCOO-Na+の構造であり、
前記酸の水溶液と混合する工程ではCOOHの構造であり、
前記多価金属と揮発性塩基を含有する水溶液と混合する工程ではCOO-+(B+は揮発性塩基の共役酸)である、請求項6記載のセルロース繊維の懸濁液の製造方法。
(8)成形用の硬質表面に対して、前記セルロース繊維の懸濁液を付着させる工程、前記セルロース繊維の懸濁液を乾燥して膜状成形体を得る工程、30〜300℃で、1〜300分間加熱する工程を有している、請求項4記載の膜状成形体の製造方法。
(9)前記基材表面に対して、前記セルロース繊維の懸濁液を付着させる工程、前記セルロース繊維の懸濁液を乾燥して複合成形体を得る工程、30〜300℃で、1〜300分間加熱する工程を有している、請求項5記載の複合成形体の製造方法。
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、酸素ガス等のガスバリア性を有する膜材料として適している。前記懸濁液から得られる膜は、高い酸素ガスバリア性を有している。
<セルロース繊維の懸濁液とその製造方法>
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、以下に説明する製造方法により製造することができるものであるが、前記製造方法は、前記懸濁液の製造に適した方法である。よって、本発明のセルロース繊維の懸濁液は、前記製造方法の一部工程を改変した方法でも得ることができる。
〔特定のセルロース繊維の製造〕
本発明で用いるセルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下のものであり、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmのものである。平均繊維径は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
本発明で用いるセルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、高いガスバリア性を得ることができる観点で、0.1〜2mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.6〜1.8mmol/gであり、更に好ましくは0.6〜1.6mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。カルボキシル基含有量が0.1mmol/g未満であると、後述の繊維の微細化処理を行っても、セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下に微細化されない。
なお、本発明で用いるセルロース繊維は、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が上記範囲のものであるが、実際の製造過程における酸化処理等の制御状態によっては、酸化処理後のセルロース繊維中に前記範囲を超えるものが不純物として含まれることもあり得る。
本発明で用いるセルロース繊維は、平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものである。平均アスペクト比は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
本発明で用いるセルロース繊維は、例えば、次の方法により製造することができる。まず、原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理して、スラリーにする。
原料となる天然繊維としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。
次に、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用して、前記天然繊維を酸化処理する。触媒としては他に、TEMPOの誘導体である4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
TEMPOの使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、0.1〜10質量%となる範囲である。
酸化処理時には、TEMPOと共に、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を共酸化剤として併用する。
酸化剤は次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸などが使用可能であるが、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムなどのアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜100質量%となる範囲である。
共酸化剤としては、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムを使用することが好ましい。共酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜30質量%となる範囲である。
スラリーのpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲で維持されることが望ましい。
酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また反応時間は1〜240分間が望ましい。
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗等により除去する。この段階では反応物繊維は微細化されていないので、水洗とろ過を繰り返す精製法で行うことができる。必要に応じて乾燥処理した繊維状や粉末状の酸化セルロースを得ることができる。
その後、該酸化セルロースを水等の溶媒中に分散し、微細化処理をする。微細化処理は、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサーで所望の繊維幅や長さに調整することができる。この工程での固形分濃度は50質量%以下が好ましい。それを超えると分散にきわめて高いエネルギーを必要とすることから好ましくない。
このような微細化処理により、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を得ることができ、更に平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものであるセルロース繊維を得ることができる。
その後、必要に応じて固形分濃度を調整した懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)又は必要に応じて乾燥処理した粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状物であり、セルロース粒子を意味するものではない)を得ることができる。なお、懸濁液にするときは、水のみを使用したものでもよいし、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用したものでもよい。
このような酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、前記カルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのセルロースからなる、平均繊維径が200nm以下の微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。
この高結晶性セルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有している。これは、このセルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化されて、微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維はその生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造が構築されているが、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、アルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、さらに微細化処理を経ることで微細セルロース繊維が得られる。
そして、酸化処理条件を調整することにより、前記のカルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前述の微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
上記の酸化処理、微細化処理によって得られたセルロース繊維は、下記の(I)、(II)、(III)の要件を満たすことができる。
(I):固形分0.1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中のセルロース繊維質量に対して、目開き16μmのガラスフィルターを通過できるセルロース繊維の質量分率が5%以上である、性能の良好なガスバリア用材料を得ること。
(II):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中に、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体を含まないこと。
(III):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液の光透過率が、0.5%以上になること。
要件(I):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分0.1質量%の懸濁液は、目開き16μmのガラスフィルターを通過させたときに、該ガラスフィルター通過前の懸濁液中に含まれる全セルロース繊維量に対して質量分率5%以上が該ガラスフィルターを通過できるものである(該ガラスフィルターを通過できる微細セルロース繊維の質量分率を微細セルロース繊維含有率とする)。ガスバリア性の観点から、微細セルロース繊維含有率は、好ましくは30%以上、より好ましくは90%以上である。
要件(II):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%の懸濁液は、原料として用いた天然繊維が微細化されており、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体は含まないものが好ましい。ここで、粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。この粒状体の有無の判定は、後述の光学顕微鏡による観察で行った。
要件(III):前記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%のセルロース繊維懸濁液は、光透過率が0.5%以上であることが好ましく、ガスバリア性の観点から、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上である。
本発明のセルロース繊維懸濁液は、目的に応じた成形ができるように固形分濃度を調整すればよく、例えば、固形分濃度は0.05〜30質量%の範囲にすることができる。
〔セルロース繊維と酸水溶液を混合する工程〕
上記した特定のセルロース繊維は、製造工程に由来して、セルロース分子中に−COONaを有している。本工程では、前記セルロース繊維と塩酸等の酸の水溶液を撹拌混合することで、Cell−COO-Na+→Cell−COOHの置換反応を生じさせる。この反応後、それまで分散状態であったセルロース繊維は、凝集を生じる。なお、本発明のセルロース繊維の懸濁液の製造に際しては、本工程を行うことが好ましいが、本工程と次工程を省略して、その後の多価金属と揮発性塩基を含有する水溶液と混合する工程から開始してもよい。
上記のCell−COO-Na+→Cell−COOHの置換反応の進行は、赤外吸収スペクトルや蛍光X線等の元素分析等から定性、定量に確認できる。
酸の水溶液として1M塩酸水溶液を用いるときは、セルロース中のカルボキシル基に対して2化学当量程度になるようにする。
〔前工程で得られた混合物(凝集物)をろ過する工程〕
次の工程にて、前工程で得られた混合物(凝集物)をろ過して、水で洗浄する。
洗浄に使用する水の量は、ろ過により得られたろ過物(含水状態の固形物)の質量に対して100〜10,000倍量程度である。
〔前工程で得られたろ過物を、多価金属と揮発性塩基を含有する水溶液と混合する工程〕
次の工程にて、前工程で得られたろ過物と多価金属と揮発性塩基を含有する水溶液を撹拌混合する。
多価金属としては、亜鉛、コバルト、ニッケル、銅等の酸化物、水酸化物、炭酸塩を挙げることができる。
揮発性塩基としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等を挙げることができる。揮発性塩基は、懸濁液中で多価金属とアンモニウム錯体(例えば、亜鉛アンモニウム、銅アンモニウムなど)として存在する。
多価金属の使用量は、セルロース繊維中のカルボキシル基量に対して0.05〜1.5化学当量であることが、後に膜状成形体にしたときのバリア性の観点から好ましく、0.3〜1.0化学当量がより好ましく、0.4〜0.6化学当量がさらに好ましい。1.5化学当量以下では、膜中にセルロース繊維と未反応の多価金属が残存することが抑制できるので、緻密な膜構造を形成することができ、0.1化学当量以上では、セルロース繊維との架橋構造の形成量が十分であるため、後に膜状成形体にしたときに良好なバリア性が得られるので好ましい。
揮発性塩基の使用量は、セルロース繊維中のカルボキシル基量に対して1〜500化学当量であり、好ましくは2〜100化学当量であり、さらに好ましくは5〜50化学当量である。揮発性塩基の使用量が1化学当量以下ではセルロース繊維が均一に分散した懸濁液が得がたく、500化学当量以下では、後の膜状成形体や複合成形体の製造工程において、製膜性が良くなる。
本工程では、次に示す反応式のように、多価金属と揮発性塩基の錯体が形成される(酸化亜鉛とアンモニアを用いた場合)。
そして前記セルロース繊維は揮発性塩基を加えることでCell−COOH→Cell−COO-+(B+は揮発性塩基の共役酸を示す。次反応式ではNH4 +)の置換反応が生じ、凝集物が再び均一に分散し、セルロース繊維の懸濁液が得られる。そして、前記セルロース繊維の懸濁液から揮発性塩基と水が気化された後、セルロース繊維では、−COO−M−OOC−(Mは、多価金属を示す。次反応式ではZn。)の結合(架橋結合)が形成されることになるが、懸濁液中では、揮発性塩基と水を含んだ状態のものであるから、前記結合(架橋結合)は生じていない。
ZnO + 4NH3 + H2O → [Zn(NH3)4]2+ (OH-)2
上記のCell−COOH→Cell−COO-+の置換反応の進行は、赤外吸収スペクトルや蛍光X線等の元素分析から定性、定量に確認できる。
以上の製造方法により得られた本発明のセルロース繊維の懸濁液は、非常に微細なセルロース繊維を含有しているものであるため、セルロース繊維濃度が50質量%以下の懸濁液の場合、肉眼では透明である。
なお、本発明では、混合した後の多価金属が、揮発性塩基によって完全に錯体を形成せず、セルロース繊維の懸濁液中に一部溶け残っていてもよい。
本工程で得られるセルロース繊維の懸濁液は、多価金属が揮発性塩基によってアルカリ性の錯体として存在しているため、セルロース繊維が均一に分散した状態を維持することができる。従って、より均一な膜状成形体を作製する材料として用いることができる。例えば、揮発性塩基を用いず、多価金属塩(例えばZnCl2)をセルロース懸濁液に添加した場合には、セルロース繊維の凝集が生じて、均一な膜状成形体を作成する材料として好ましくない。
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、塗料として使用することができ、その場合には、必要に応じて水と有機溶媒を含む懸濁液にしてもよい。
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、膜状に成形したとき、酸素バリア性や水蒸気バリア性等のガスバリア性を有する。よって、それ自体を製膜材料としてフィルム等の膜状成形体を製造することもできるし、既存の平面状の成形体及び立体状の成形体の表面に対して、塗布、スプレー、浸漬等の公知の方法により付着させることで、表面外観を損なうことなく、表面を改質する(即ち、ガスバリア性や耐湿性等を付与する)こともできる。
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、用途に応じて、紫外線吸収剤、着色剤等を含有させることもできる。
次に、本発明のセルロース繊維の懸濁液を用いて、膜状成形体と複合成形体を製造する実施形態について説明する。
<膜状成形体>
本発明の膜状成形体は、セルロース繊維の懸濁液からなるものであり、次の製造方法により、得ることができる。
まず、最初の工程にて、セルロース繊維の懸濁液を基板上に付着させて、膜状物を形成させる。
具体的には、ガラス、金属等の硬質表面等の基板上に、粘度が10〜5000mPa・s程度のセルロース繊維の懸濁液を流延(又は塗布、スプレー、浸漬等)して膜状成形体を形成させる。この方法では、セルロース繊維の懸濁液に含まれるセルロース繊維のカルボキシル基量やアスペクト比及びガスバリア性成形体の厚みを制御することにより、仕様(ハイバリア性、透明性など)に応じた膜状成形体を得ることができる。
次に、室温(20〜25℃)で乾燥した後、必要に応じて30〜300℃、より好ましくは60〜200℃、さらに好ましくは100〜160℃で1〜300分間、より好ましくは5〜60分間加熱処理して、膜状成形体を得ることができる。前工程及び本工程の処理において、セルロース繊維の懸濁液に含まれていた揮発性塩基と水(場合により、有機溶媒)は気化により除去され、上記反応式で示したとおり、Cell−COO−M−OOC−Cell(Cellはセルロースを示し、Mは多価金属を示す。)の結合(架橋結合)が形成される。この架橋反応は、加熱処理することにより進行が促進されるため、膜状成形体の製造過程において加熱処理することにより、前記架橋反応が速やかに進行して、緻密な膜構造が形成されることになる。
その後、必要に応じて冷却・乾燥して、ガラス板等の基板から剥がして、膜状成形体を得る。このようにして得られた膜状成形体は、セルロース繊維間で架橋構造が形成されているため、ガスバリア性が向上されている。
本発明の膜状成形体は、架橋構造を形成することで耐湿化(強度やバリア性)しているので、ガスバリア材の他にも、水浄化用分離膜やアルコール分離膜、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、ディスプレイ用フレキシブル透明基盤、燃料電池用セパレーター、結露防止シート、反射防止シート、紫外線遮蔽シート、赤外線遮蔽シート等として用いることもできる。
<複合成形体>
本発明の複合成形体は、基材とセルロース繊維の層からなるものであり、次の製造方法により、得ることができる。
まず、最初の工程にて、基材表面にセルロース繊維を含む懸濁液を付着(塗布、スプレー、浸漬、流延等による付着)させて、基材上(基材の一面又は両面)にセルロース繊維層が形成された一次複合成形体を得る。
また、基材に対して、予め成形した上記の膜状成形体を貼り合わせて積層する方法を適用することができる。貼り合わせる方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着法等の公知の方法を適用できる。
次に、室温(20〜25℃)で乾燥した後、必要に応じて30〜300℃、より好ましくは60〜200℃、さらに好ましくは100〜160℃で、1〜300分間、より好ましくは5〜60分間加熱処理して、基材とセルロース繊維層からなる複合成形体を得ることができる。前工程及び本工程の処理において、セルロース繊維の懸濁液に含まれていた揮発性塩基と水(場合により、有機溶媒)は気化により除去され、上記したとおり、Cell−COO−M−OOC−Cell(Cellはセルロースを示し、Mは多価金属を示す。)の結合(架橋結合)が形成される。
その後、必要に応じて冷却・乾燥して、複合成形体を得る。このようにして得られた複合成形体は、セルロース繊維間で架橋構造が形成されているため、ガスバリア性が向上されている。
本発明の複合成形体は、架橋構造を形成することで耐湿化(強度やバリア性)しているので、ガスバリア材の他にも、水浄化用分離膜やアルコール分離膜、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、ディスプレイ用フレキシブル透明基盤、燃料電池用セパレーター、結露防止シート、反射防止シート、紫外線遮蔽シート、赤外線遮蔽シート等として用いることも出来る。
セルロース繊維からなる層の厚みは、用途に応じて適宜設定することができるが、ガスバリア性複合成形体として用いる場合、20〜900nmが好ましく、より好ましくは50〜700nm、更に好ましくは100〜500nmである。
基材となる成形体は、所望形状及び大きさのフィルム、シート、織布、不織布等の薄状物、各種形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を用いることができる。これらの成形体は、紙、板紙、プラスチック、金属(多数の穴の開いたものや金網状のもので、主として補強材として使用されるもの)又これらの複合体等からなるものを用いることができ、それらの中でも、紙、板紙等の植物由来材料、生分解性プラスチック等の生分解性材料又はバイオマス由来材料にすることが好ましい。基材となる成形体は、同一又は異なる材料(例えば接着性やぬれ性向上剤)の組み合わせからなる多層構造にすることもできる。
基材となるプラスチックは、用途に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、66、6/10、6/12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、セルロース等のセロハン、三酢酸セルロース(TAC)等から選ばれる1又は2以上を用いることができる。
基材となる成形体の厚みは特に制限されるものではなく、用途に応じた強度が得られるように適宜選択すればよく、例えば、1〜1000μmの範囲にすることができる。
(1)セルロース繊維の平均繊維径、平均アスペクト比
セルロース繊維の平均繊維径は、0.0001質量%に希釈した懸濁液をマイカ上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製,プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)使用)で繊維高さを測定した。セルロース繊維が確認できる画像において、5本以上抽出し、その繊維高さから平均繊維径を求めた。
平均アスペクト比は、セルロース繊維を水で希釈した希薄懸濁液(0.005〜0.04質量%)の粘度から算出した。粘度の測定には、レオメーター(MCR300、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて、20℃で測定した。セルロース繊維の質量濃度とセルロース繊維懸濁液の水に対する比粘度の関係から、次式でセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、セルロース繊維の平均アスペクト比とした。
Figure 0005064480
(The Theory of Polymer Dynamics, M.DOI and D.F.EDWARDS, CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)を利用した(ここでは、剛直棒状分子=セルロース繊維とした)。(8.138)式と Lb2×ρ0=M/NAの関係から数式1が導出される。ここで、ηspは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρsは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρs)、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す)。
(2)セルロース繊維のカルボキシル基含有量(mmol/g)
酸化したパルプの絶乾重量約0.5gを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えてパルプ懸濁液を調製し、パルプが十分に分散するまでスタラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
天然セルロース繊維は、セルロース分子約20〜1500本が集まって形成される高結晶性ミクロフィブリルの集合体として存在する。本発明で採用しているTEMPO酸化反応では、この結晶性ミクロフィブリル表面に選択的にカルボキシル基を導入することができる。したがって、現実には結晶表面にのみカルボキシル基が導入されているが、上記測定方法によって定義されるカルボキシル基含有量はセルロース重量あたりの平均値である。
(3)光透過率
分光光度計(UV−2550、株式会社島津製作所製)を用い、濃度1質量%の懸濁液の波長660nm、光路長1cmにおける光透過率(%)を測定した。
(4)セルロース繊維懸濁液中の微細セルロース繊維の質量分率(微細セルロース繊維含有率)(%)
セルロース繊維懸濁液を0.1質量%に調製して、その固形分濃度を測定した。続いて、そのセルロース繊維懸濁液を目開き16μmのガラスフィルター(25G P16,SHIBATA社製)で吸引ろ過した後、ろ液の固形分濃度を測定した。ろ液の固形分濃度(C1)をろ過前の懸濁液の固形分濃度(C2)で除した(C1/C2)値を微細セルロース繊維含有率(%)として算出した。
(5)懸濁液の観察
固形分1質量%に希釈した懸濁液をスライドガラス上に1滴滴下し、カバーガラスをのせて観察試料とした。この観察試料の任意の5箇所を光学顕微鏡(ECLIPSE E600 POL NIKON社製)を用いて倍率400倍で観察し、粒子径が1μm以上のセルロース粒状体の有無を確認した。粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。このときクロスニコル観察によって、より明瞭に確認することもできる。
(6)酸素透過度(等圧法)(cm3/m2・day・Pa)
JIS K7126−2 付属書Aの測定法に準拠して、酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21(型式ML&SL、MODERN CONTROL社製)を用い、23℃、湿度50%RHの条件で測定した。具体的には、23℃、湿度50%RHの酸素ガス、23℃、湿度50%の窒素ガス(キャリアガス)環境下で測定を行った。
製造例1〔セルロース繊維の製造〕
(1)原料、触媒、酸化剤、共酸化剤
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))。
(2)製造手順
まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。
次に、120分の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行った。その後、酸化パルプ4.5gとイオン交換水295.5gをミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪化学(株)製)にて120分間攪拌することにより、繊維の微細化処理を行い、懸濁液を得た。得られたセルロース繊維の懸濁液中の固形分濃度は、1.5質量%であった。セルロース繊維は、平均繊維径3.1nm、平均アスペクト比240、カルボキシル基量1.2mmol/gであり、粒子径が1μm以上のセルロース粒状体は存在しなかった。またセルロース繊維懸濁液の光透過率は97.1%で、微細セルロース繊維含有率は90.9%であった。
実施例1(セルロース繊維の懸濁液の製造)
製造例1で得られたセルロース繊維懸濁液に対して、セルロース繊維のカルボキシル基に対して2化学当量(eq)となる量の1M塩酸水溶液を添加した。その後、60分間撹拌すると、凝集が生じた。
次に、前工程で生じた凝集物を口径16μmのガラスフィルターでろ過した。ろ過物(セルロース繊維固形分3g)に対して1000倍量のイオン交換水で洗浄した。
次に、洗浄後のろ過物を三角フラスコに入れ、そこにセルロース繊維に対して10質量%アンモニア水と酸化亜鉛の混合液(それぞれ12.6g、0.24g)を加えた。セルロース繊維の固形分1.3質量%になるようにイオン交換水を加え、120分間マグネチックスターラーで撹拌して、本発明のセルロース繊維の懸濁液を得た。本懸濁液中、アンモニアはセルロース繊維のカルボキシル基に対して20化学当量、酸化亜鉛は0.8化学当量であった。
実施例2(セルロース繊維の懸濁液の製造)
実施例1と同様にセルロース繊維の凝集物を洗浄、ろ過後、セルロース繊維に対して10質量%アンモニア水と酸化亜鉛の混合液(それぞれ24.6g、0.24g)を加えた。セルロース繊維の固形分1.3質量%になるようにイオン交換水を加え、120分間マグネチックスターラーで撹拌して、本発明のセルロース繊維の懸濁液を得た。本懸濁液中、アンモニアはセルロース繊維のカルボキシル基に対して40化学当量、酸化亜鉛は0.8化学当量であった。
実施例3(セルロース繊維の懸濁液の製造)
実施例1と同様にセルロース繊維の凝集物を洗浄、ろ過後、セルロース繊維に対して10質量%アンモニア水と酸化亜鉛の混合液(それぞれ3.2g、0.24g)を加えた。セルロース繊維の固形分1.3質量%になるようにイオン交換水を加え、120分間マグネチックスターラーで撹拌して、本発明のセルロース繊維の懸濁液を得た。本懸濁液中、アンモニアはセルロース繊維のカルボキシル基に対して5化学当量、酸化亜鉛は0.8化学当量であった。
実施例4(セルロース繊維の懸濁液の製造)
実施例1において、1M塩酸水溶液を用いた最初の工程とろ過工程を行わず、製造例1で得られたセルロース繊維懸濁液200g(固形分1.5質量%)に対して、10質量%アンモニア水と酸化亜鉛の混合液(それぞれ12.6g、0.24g)を加えた。セルロース繊維の固形分1.3質量%になるようにイオン交換水を加え、120分間マグネチックスターラーで撹拌して、本発明のセルロース繊維の懸濁液を得た。本懸濁液中、アンモニアはセルロース繊維のカルボキシル基に対して20化学当量、酸化亜鉛は0.8化学当量であった。
実施例5〜8(複合成形体の製造)
実施例1〜4で得たセルロース繊維の懸濁液をポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み25μm)の片側面上にバーコーター(#50)で塗布した。常温で120分間乾燥した後、表1に示す加熱温度に維持した恒温槽で30分間保持した。常温で2時間以上放熱して、PET上にセルロース繊維層を有する複合成形体を得た。相対湿度50%における酸素透過度の測定結果を表1に示す。
比較例1
製造例1で得たセルロース繊維懸濁液を1.3質量%になるようにイオン交換水を加え、120分間マグネチックスターラーで撹拌してから、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み25μm)の片側面上にバーコーター(#50)で塗布した。常温で120分間乾燥した後、表1に示す加熱温度に維持した恒温槽で30分間保持した。常温で2時間以上放熱して、PET上にセルロース繊維層を有する複合成形体を得た。相対湿度50%における酸素透過度の測定結果を表1に示す。
比較例2
酸化亜鉛を加えずにアンモニア水とイオン交換水だけを加えた以外は、実施例1と同様にしてセルロース繊維の懸濁液を得た。比較例1と同様にして、セルロース繊維層を有する複合成形体を得た。比較例2は、カルボキシル基のNaをNH4で置換したセルロース繊維の懸濁液を用いて得られるセルロース繊維層(但し、酸化亜鉛を使用せず、アンモニアだけ加えているので、「NH4型」とした)を有する複合成形体の例である。相対湿度50%における酸素透過度の測定結果を表1に示す。
Figure 0005064480
表1から明らかなとおり、加熱温度が高いほど、複合成形体の酸素バリア性が高かった。この結果は、加熱温度が高いほど、セルロース繊維表面のカルボキシル基と亜鉛との間の架橋反応の程度が大きくなり、緻密な構造の膜が形成されたためと考えられる。
また、表1から明らかなとおり、加熱処理を行った複合成形体では、実施例7(アンモニア添加量が5化学当量である実施例3から得られた複合成形体)は、実施例5(アンモニア添加量が20化学当量である実施例1から得られた複合成形体)や実施例6(アンモニア添加量が40化学当量である実施例2から得られた複合成形体)に比べて酸素バリア性が高かった。これはアンモニア添加量が多い場合、塗料の均一な製膜が阻害されていると考えられる。
また実施例1〜4より得られる実施例5〜8の酸素バリア性は、Na型、NH4型セルロース繊維懸濁液から同加熱条件において得られた比較例1〜2に比べて、酸素バリア性が高かった。このことから本発明における、多価金属及び揮発性塩基を含有するセルロース繊維の懸濁液が、酸素バリア膜の製造用として適したセルロース繊維の懸濁液であることが示された。
実施例8は実施例5に比べて酸素バリア性が低かった。これは一度塩酸を加えてCell−COO-Na+→Cell−COOHの構造を経たセルロース繊維の方が、その後の製造工程で亜鉛による−COO−M−OOC−の架橋構造を形成しやすいことを示している。
実施例9
実施例1と同様にセルロース繊維の凝集物を洗浄、ろ過後、セルロース繊維に対して10質量%アンモニア水と酸化亜鉛の混合液(それぞれ12.8g、0.15g)を加えた。セルロース繊維の固形分1.3質量%になるようにイオン交換水を加え、120分間マグネチックスターラーで撹拌して、本発明のセルロース繊維の懸濁液を得た。本懸濁液中、アンモニアはセルロース繊維のカルボキシル基に対して20化学当量、酸化亜鉛は0.5化学当量であった。
前記セルロース繊維の懸濁液をポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み25μm)の片側面上にバーコーター(#50)で塗布した。常温で120分間乾燥した後、表2に示す加熱温度に維持した恒温槽で30分間保持した。常温で2時間以上放熱して、PET上にセルロース繊維層を有する複合成形体を得た。相対湿度50%における酸素透過度の測定結果を表2に示す。
実施例10
10質量%アンモニア水と酸化亜鉛の混合液(それぞれ12.8g、0.03g)以外は実施例9と同様にしてセルロース繊維の懸濁液を調製し、複合成形体を得た。相対湿度50%における酸素透過度の測定結果を表2に示す。
実施例11
酸化亜鉛の代わりに酸化銅を加えた以外は実施例9と同様にしてセルロース繊維の懸濁液を調製し、複合成形体を得た。相対湿度50%における酸素透過度の測定結果を表2に示す。
Figure 0005064480
実施例9、10、及び実施例5(表1)は、酸化亜鉛の添加量の異なるセルロース懸濁液から得られた複合成形体である。酸化亜鉛の添加量が0.1〜0.8化学当量である実施例5、9、10では、Na型、NH4型セルロース繊維懸濁液から得られた表1に示す比較例1、2に比べて酸素バリア性が高かった。また亜鉛は2価の金属であるため、セルロース繊維のカルボキシル基含有量に対して0.5化学当量添加した実施例9において最も高い酸素バリア性が得られた。
実施例11は、多価金属として銅を用いて得られた複合成形体である。表1に示す比較例1、2に比べて、酸素バリア性が高かった。このことから本発明における、多価金属及び揮発性塩基を含有するセルロース繊維の懸濁液が、酸素バリア膜の製造用として適したセルロース繊維の懸濁液であることが示された。

Claims (9)

  1. セルロース繊維、多価金属及び揮発性塩基を含有するセルロース繊維の懸濁液であって、前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下で、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものである、セルロース繊維の懸濁液。
  2. 前記セルロース繊維のカルボキシル基含有量に対して、1〜500化学当量の揮発性塩基を含むこと特徴とする、請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液。
  3. 前記セルロース繊維のカルボキシル基含有量に対して、0.1〜1.5化学当量の多価金属を含むこと特徴とする、請求項1記載のセルロース繊維懸濁液。
  4. 請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液から形成された、膜状成形体。
  5. 基材上に請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液から形成された層を有する、複合成形体。
  6. セルロース繊維と酸の水溶液を混合する工程であり、前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下で、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものであり、
    前工程で得られた混合物をろ過する工程、
    前工程で得られたろ過物を、多価金属と揮発性塩基を含有する水溶液と混合する工程、を有している、セルロース繊維の懸濁液の製造方法。
  7. 前記セルロース繊維が有するカルボキシル基の構造が、
    前記セルロース繊維と酸の水溶液を混合する工程の前ではCOO-Na+の構造であり、
    前記酸の水溶液と混合する工程ではCOOHの構造であり、
    前記多価金属と揮発性塩基を含有する水溶液と混合する工程ではCOO-+(B+は揮発性塩基の共役酸)である、請求項6記載のセルロース繊維の懸濁液の製造方法。
  8. 成形用の硬質表面に対して、前記セルロース繊維の懸濁液を付着させる工程、前記セルロース繊維の懸濁液を乾燥して膜状成形体を得る工程、30〜300℃で、1〜300分間加熱する工程を有している、請求項4記載の膜状成形体の製造方法。
  9. 前記基材表面に対して、前記セルロース繊維の懸濁液を付着させる工程、前記セルロース繊維の懸濁液を乾燥して複合成形体を得る工程、30〜300℃で、1〜300分間加熱する工程を有している、請求項5記載の複合成形体の製造方法。
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