しかし、OFDR−OCTには、ダイナミックレンジ(識別可能な信号の最小値と最大値の比率)がTD−OCTに比べて狭いとい問題点がある。TD-OCTのダイナミックレンジは100dBに及ぶが、OFDR−OCTのダイナミックレンジは高々50dB程度である。このようにダイナミックレンジが狭い原因は、断層像を得るための信号処理過程にその原因がある。以下、その原因について説明する。
まず、本発明に関連するOFDR−OCTの装置構成について説明し、続いてOFDR−OCTの動作と信号処理について説明する。最後に、信号処理の問題点について説明する。
(1)OFDR−OCT装置の構成
図23は、OFDR−OCT装置(関連技術)の構成を説明する図である。
超周期構造回折格子分布反射型半導体レーザ光発生装置(非特許文献4)のような、出射光の波数を、所定の波数の範囲内で変化させることのできる可変波長光発生装置2の光出射口が、光を測定光と参照光に分割(例えば90:10)する方向性結合器からなる光分岐器4の光受入口に光学的に接続されている。光学的接続は、実線で示された光ファイバによって行われる。
測定光を出射する光分岐器4の一方側(分割割合90%側)の光送出口は、第1のオプティカルサーキュレータ6の光受入口6aに光学的に接続されている。第1のオプティカルサーキュレータ6の光出射口兼光受入口6bは、測定光を測定対象8に照射する共に測定光が測定対象8によって反射又は後方散乱された信号光を捕捉する第1の光照射兼捕捉装置10に接続されている。第1のオプティカルサーキュレータ6の光出射口6cは、方向性結合器(分割比50:50)からなる光結合器12の一方側の光受入口に接続されている。
尚、測定光とは、光分岐器4で分割された可変波長光発生装置2の出射光のうち、測定対象8に照射されるものを言う。また、光分岐器4で分割された可変波長光発生装置2の出射光の他方側は、参照光と呼ばれる。測定光が測定対象8によって後方散乱され、再度干渉計(光分岐器4、光結合器12、第1及び第2のサーキュレータ6,20、及び参照ミラー21からなる光学系)に入射した光は信号光と呼ばれる。
第1の光照射兼捕捉装置10は、オプティカルサーキュレー6の光出射口兼光受入口6bから出射された測定光を平行ビームに整形するコリメートレンズ14と、この平行ビームを測定対象8に集光するフォーカシングレンズ16と、測定光を偏向することによって測定対象8の表面で直線状に測定光を走査するガルバノミラー18とを備えている。
参照光を出射する光分岐器4の他方側(分割割合10%側)の光送出口は、第2のオプティカルサーキュレータ20の光受入口20aに光学的に接続されている。第2のオプティカルサーキュレータ20の光出射口兼光受入口20bは、参照ミラー21に参照光を照射する共に参照ミラー21によって反射された参照光を捕捉する第2の光照射兼捕捉装置22に接続されている。参照ミラー21は、前後に移動可能な支持体に担持され、参照光路32と試料光路34の光路長が略等しくなるようにその位置が調整されている。
そして、第2のオプティカルサーキュレータ20の光出射口20cは、方向性結合器(分割比50:50)からなる光結合器12の他方側の光受入口に光学的に接続されている。従って、光結合器12は、同一周波数を有する信号光と参照光とを結合し干渉光を出射する。
光結合器12の一方側及び他方側の光送出口は、量子効率が同一の第1及び第2の光検出装置24,26に光学的に接続されている。第1及び第2の光検出装置24,26の出力は、差動増幅器28に電気的に接続されている。
差動増幅器28の出力部は、反射光又は後方散乱光の深さ方向の強度分布を合成する演算制御装置30の入力部に図示しないアナログデジタル変換器を介して電気的に接続されている。演算制御装置30の出力部は、演算結果を表示するモニタやプリンタ等の表示装置(図示せず)の入力部に電気的に接続されている。この演算制御装置30は、入力された情報に基づいて、可変波長光発生装置2及び第1の光照射兼捕捉装置10のガルバノミラー18を制御する。
(2)OFDR−OCT装置の動作
断層像の構築は、以下のように行われる。
演算制御装置30の指令を受けた可変波長光発生装置2は、波数を、所定の波数の範囲内で、微小波数間隔ずつ逐次変化させながら光を出射する。
可変波長光発生装置2の出射光は、干渉計(光分岐器4、光結合器12、第1及び第2のサーキュレータ6,20、及び参照ミラー21からなる光学系)に入射し、測定光と参照光に分割される。測定光は、測定対象8によって散乱され信号光となる。
同一周波数を有する信号光と参照光は、光結合器12で結合されて干渉光になる。干渉光の強度は第1及び第2の光検出装置24,26で検出され、干渉光に含まれる直流成分(参照光強度と信号光強度の和)が差動増幅器28によって除去される。その結果、信号光と参照光の干渉に起因する信号(以下、干渉信号電流と呼ぶ)のみが演算制御装置30に入力される。
演算制御装置30は、可変波長光発生装置2の出射するレーザ光の波数と、そのレーザ光に対する干渉信号電流の強度を全ての波数に対して記録する。可変波長光発生装置2の波数走査が終わると、演算制御装置30は記録した干渉信号電流の強度を波数に対してフーリエ変換する。すなわち、演算制御装置30は、光検出装置24,26によって波数毎に測定される干渉光の光強度(干渉信号電流)を、波数に対してフーリエ変換する。フーリエ変換された結果は、測定光が測定対象8によって反射又は後方散乱された位置とその反射光又は後方散乱光の強度の関数になる。
すなわち、演算制御装置30は、検出器24,26によって波数毎に測定される(干渉信号電流が相当する)干渉光の光強度を、波数に対してフーリエ変換して、測定対象8に関する反射率分布を特定する。
更に、演算制御装置30は、ガルバノミラー18を制御して、測定光の照射位置を測定対象8の表面で直線に沿って少しずつ移動させながら、後方散乱率分布を計測して行く。
そして、演算制御装置30は、このようにして測定対象8の表面上の直線に沿って測定した後方散乱率分布を平面上に配列して、測定対象8の断層像を構築する。
(3)OFDR−OCT装置の信号処理
測定対象8は、多数の光反射面(又は後方散乱面;以下、単に反射面と呼ぶ)の集合体と考えることができる。そこで、説明を簡単にするため、一つの反射面からなる測定対象8を例として、OFDR−OCTにおける信号処理について説明する。
今、測定光の照射方向に沿った位置座標をzとする。そして、反射率r2を有する反射面が位置z0に存在しているとする。尚、試料光路34の光路長Lsと参照光路32の光路長Lrが一致する点が、位置座標zの原点である。すなわち、図24のような位置に反射面36が存在している場合を考える。
ここで、可変波長光発生装置2は、波数間隔δkで一定強度の光を出射するものとする。また、可変波長光発生装置2が出射する光の波数範囲38の始点をks、その終点をke、その幅をΔk(=ke-ks)とする(図25参照)。従って、可変波長光発生装置2は、波数ki(=k0+δk・i)の光を順次出射する(但し、k0=ks−δk;i=1,2,3,・・・,N;N=Δk/δk+1)。
可変波長光発生装置2が波数kiの光を出射している間、差動増幅器28は次式で表される干渉信号電流(interference signal current)Is,iを増幅し(電圧として)出力する。尚、干渉信号電流とは、上述したように、光検出装置24,26が検出する光電流のうち直流成分(参照光強度Prに相当する光電流と信号光強度Psに相当する光電流の和)を除去したものである。
尚、P
sは信号光の強度である。また、P
rは、参照光の強度である。ここで、測定光の強度をP
0とすると、P
s=r
2P
0である(但し、干渉計による光の損失はないものとする。)。また、Aは差動増幅器28の増幅率、ηは光検出装置24,26の量子効率、qは電子の電荷、hはプランク定数、νは可変波長光発生装置2の出射する光(可変波長光)の周波数である。
式(1)は、z=z0に位置する反射面からの干渉信号電流Is,iは、波数kに対してz0/πの周波数で振動することを示している。すなわち、干渉信号電流の波数に対する周波数を測定すれば、反射面の位置を知ることできる。
実際の測定対象は多数の反射面によって構成されているので、OFDR−OCTでは干渉信号電流を波数に対してフーリエ変換して、反射面(又は後方散乱面)の位置と反射光強度(又は後方散乱光強度)を特定している。
なお、干渉信号電流は波数に対して離散的に測定されるので、干渉信号電流は離散フーリエ変換DFTによって信号処理される。具体的には、次式によってフーリエ余弦変換Fc(z)とフーリエ正弦変換Fs(z)を離散的に求め、その絶対値の二乗Ft(z)2を求める(非特許文献3)。
ここで、I(k
i)は、一又は複数の反射面を有する一般的な測定対象に対する干渉信号電流を表すものとする。
以後、特に断らない限りフーリエ変換と言った場合、この絶対値の二乗Ft(z)2を求めることを言うものとする。
(4)問題点
フーリエ変換は、任意の関数f(x)を三角関数の線形結合で表すものである。フーリエ変換では、関数f(x)も三角関数も無限区間(-∞,∞)で定義される関数として取り扱われる。
しかし、実際のデータを数値的にフーリエ変換する場合には、無限区間は扱えないので、有限区間[a,b]でフーリエ変化を行い区間外は無視することになる。
有限区間で関数f(x)をフーリエ変換した結果は、当然、無限区間で関数f(x)をフーリエ変換した結果とは異なっている。
例えば、図26(a)及び(b)は、一の反射面で構成された測定対象に対する干渉信号電流を表すIs,i(式(1))を有限区間、例えば[ks, ke]でフーリエ変換した結果の一例を表したものである。但し、Pr及びPsは定数と仮定した。すなわち、可変波長光発生装置2の出射する光の強度は、波数によらず一定と仮定した。また、z0=1.0mmとした。
図26(a)及び(b)の横軸は座標z(測定光の照射方向に沿った位置座標)である。また、縦軸は、干渉信号電流Is,iを有限区間[ks, ke]でフーリエ変換したデータの絶対値の二乗Ft(z)2である。図26(a)の縦軸は線形表示であり、一方図26(b)の縦軸は対数表示である。ここで、図26(a)は、z=z0(=1.0mm)の近傍のみを表したものである。一方、図26(b)は、より広い範囲を表したものである。
比較のため、図27(a)及び(b)に、式(1)で表される干渉信号電流を表すIs,iを無限区間でフーリエ変換した結果の一例を示す。
式(1)で表されるIs,i(ki)を有限区間[ks, ke]でフーリエ変換すると、図26(a)のように反射面の存在する位置z=z0(=1.0mm)に反射光強度に比例するピーク40が現れる。この点では、図27(a)に示す無限区間でIs,i(ki)をフーリエ変換した結果は同じである。
しかし、無限区間でフーリエ変換した場合z=z0(=1.0mm)に現れるピークの幅は零であるが、有限区間でフーリエ変換した場合、このピークは一定の幅を有する。
更に、図27(b)に示すように、無限区間でIs,i(ki)をフーリエ変換して得られる関数Ft(z)2は、z=z0(=1.0mm)以外の点では零である。しかし、有限区間でフーリエ変換した場合、Ft(z)2は、z=z0(=1.0mm)以外の点でも図26(b)に示すように零にならない。
すなわち、式(1)のような三角関数(すなわち、単一周波数成分からなる関数)を有限区間でフーリエ変換すると、本来は単一であるはずの周波数(位置座標z/π)の幅が広がる。更に、無限区間(-∞,∞)でフーリエ変換した場合にはダイナミックレンジは無限大であるが、有限区間でフーリエ変換した場合にはダイナミックレンジ(ピーク40の強度とピーク40から十分に離れた点44の強度の比)が有限の値になる。
尚、図26(b)及び図27(b)には、z=z0(=1.0mm)以外の点にもピーク42が現れているが、これは離散フーリエ変換を行うことによって本来の信号(z=z0におけるピーク)に付随して表れる信号(折り返し信号)である。
ところで、OFDR−OCTの分解能は、位置座標(周波数)の広がりによって決定される。また、OFDR−OCTのダイナミックレンジは、最終的には、上述したフーリエ変換のダイナミックレンジによって決定される。
上記関連技術におけるOFDR−OCTの分解能は10μm前後と、TD−OCTの分解能と同程度である。この点では、OFDR−OCTはTD−OCTと比肩できる。しかし、TD−OCTのダイナミックレンジが100dB程度であるに対して、OFDR−OCTのダイナミックレンジは高々50dB程度とかなり狭い。
このように、OFDR−OCTのダイナミックレンジが狭い理由としては、干渉信号電流に含まれる雑音に起因するバックグラウンド(ピーク40から十分に離れた点44の強度)の上昇と、フーリエ変換に起因するバックグラウンドの上昇が考えられる。
図26(b)に示されているように、式(1)で示される一の反射面からの理論上の干渉信号電流Is,iをフーリエ変換した信号Ft(z)2における、ピーク40の強度とこのピークから十分離れた点44での強度比は〜50dBになる。この値は、実際のOFDR−OCTに於けるダイナミックレンジとよく一致している。
このことは、OFDR−OCTのダイナミックレンジは、干渉信号電流の雑音ではなく、その信号処理すなわち有限区間で行われるフーリエ変換によって決定されることを示している。
ところで、後述するように、一般的には、有限区間で行われるフーリエ変換の分解能とダイナミックレンジはトレードオフの関係になる。即ち、一方を改善すると他方が劣化する。
そこで、発明の目的は、高い分解能と広いダイナミックレンジの達成を同時に可能する(有限区間における)フーリエ変換を実現し、このようなフーリエ変換を用いて断層像を構築するOFDR−OCT装置を提供することである。
(第1の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、出射光の波数を、所定の波数の範囲内で変化させる可変波長光発生装置と、前記出射光を、測定光と参照光とに分割する光分岐器と、
前記測定光を測定対象に照射すると共に、前記測定光が前記測定対象によって反射又は後方散乱されてなる信号光を捕捉する光照射兼光捕捉装置と、前記信号光と前記参照光とを結合する光結合器と、前記光結合器が出射する干渉光の光強度を測定する光検出装置と、前記光検出装置によって前記波数毎に測定される前記干渉光の前記光強度を、前記波数に対してフーリエ変換し、前記測定対象に於ける、前記測定光の照射方向に対する前記測定光の反射位置又は後方散乱位置と反射光の強度又は後方散乱光の強度とを特定する演算制御装置とを具備するオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置において、前記演算制御装置が、前記干渉光の前記光強度に代え、前記光強度に窓関数を乗じて得られる修正値を、前記波数に対してフーリエ変換する演算制御装置であって、
前記窓関数W(k)が、式
但し、式中、0<α<0.5且つ0<β<0.5であり、kは前記波数を表し、Δkは前記所定の波数範囲の幅を表し、k
sは前記所定の波数範囲の始点を表し、k
eは前記所定の波数範囲の終点を表す、
であることを特徴とする。
(第2の発明)
第1の側面において、前記演算制御装置が、前記修正値を前記波数に対してフーリエ変換して得られる、フーリエ余弦変換とフーリエ正弦変換からなるフーリエ変換データの絶対値の2乗を算出することを特徴とする。
(第3の発明)
第1又は2の側面において、前記演算制御装置が、前記干渉光の前記光強度を、前記波数が同一の前記出射光の強度で除して規格化光強度を算出し、前記干渉光の前記光強度に代え、前記規格化光強度に前記窓関数を乗じて得られる修正値を、前記波数に対してフーリエ変換する演算制御装置であることを特徴とする。
(第4の発明)
第1乃至3の側面において、前記α及び前記βが、0.02以上且つ0.12以下であることを
特徴とする。
(第5の発明)
第1乃至4の側面において、前記可変波長光発生装置が、波数を階段状に変化させることを特徴とする。
(第6の発明)
第1乃至4の側面において、前記可変波長光発生装置が、波数を連続的に変化させることを特徴とする。
本発明では、波数に対して後述する矩形窓に匹敵する広い半値全幅を有し、同じく波数に対して後述するハニング窓と同じように余弦関数によって両端がナダラカに零になる窓関数を用いて、干渉信号電流をフーリエ変換する。従って、本発明によれば、矩形窓を用いた場合に匹敵する高分解能を有し、且つハニング窓を用いた場合に迫る広ダイナミックレンジを備えたOFDR−OCT装置を提供することができる。
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。なお、図面が異なっても対応する部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
本実施の形態におけるオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置によれば、両端が余弦関数からなる窓関数(両端余弦窓)を干渉光の強度に乗じてフーリエ変換を行うので、分解能を低化させることなく、OFDR−OCTのダイナミックレンジを広くすることができる。更に、ハニング窓を用いた場合と同程度の広いダイナミックレンジを保持しつつ、分解能を高くすることができる。
(1)実施の形態例1
(i)構成
本実施の形態例1は、両端余弦窓を干渉光強度に乗じてフーリエ変換を行う演算制御装置30を備えたOFDR−OCT装置に係るものである。
本実施の形態に係るOFDR−OCTの装置の構成は、基本的には図23に示すOFDR−OCT装置(関連技術)と同じである。但し、演算制御装置30が、光検出装置24,26によって検出される干渉光の光強度に、両端が余弦関数によってナダラカに零になる窓関数を乗じてフーリエ変換を行う点で相違する。
図1は、本実施の形態例に係るOFDR−OCT装置の構成を説明する図である。
本実施の形態例に係るOFDR−OCT装置50は、出射光の波数を、所定の波数の範囲内で変化させる可変波長光発生装置2を有している。
また、OFDR−OCT装置50は、可変波長光発生装置2の出射光を、測定光と参照光とに分割する光分岐器4を有している。
また、OFDR−OCT装置50は、測定光を測定対象8に照射すると共に、測定光が測定対象8によって反射又は後方散乱されてなる信号光を捕捉する光照射兼光捕捉装置10を有している。
また、OFDR−OCT装置50は、信号光と参照光とを結合する光結合器12を有している。
また、OFDR−OCT装置50は、光結合器12が出射する干渉光の光強度を測定する光検出装置24,26を有している。
そして、OFDR−OCT装置50は、光検出装置24,26によって波数毎に測定される干渉光の光強度を、波数に対してフーリエ変換して、測定対象8に於ける、測定光の照射方向に対する測定光の反射位置(又は後方散乱位置)と反射光の強度(又は後方散乱光)の強度とを特定する演算制御装置30を具備している。
但し、演算制御装置30は、干渉光の光強度を単にフーリエ変換するのではなく、光検出装置24,26によって波数毎に測定される干渉光の光強度に、下記窓関数W(k)を乗じて得られる修正値を、波数に対してフーリエ変換する。
ここで、窓関数W(k)は、次式で表される。
但し、式中、0<α<0.5且つ0<β<0.5であり、kは上記波数を表し、Δkは上記所定の波数範囲の幅を表し、k
sは上記所定の波数範囲の始点を表し、k
eは上記所定の波数範囲の終点を表す。
式(3)で表される窓関数を、以後両端余弦窓と呼ぶ。
図2は、この両端余弦窓52の一例を波数に対して示した図である。図2から明らかなように、両端余弦窓は、矩形窓54(有限区間[ks,ke]内では1、その外で0)の両端が余弦関数によってナダラカに零になる関数である。
このような構成により、本実施の形態例に係るOFDR−OCT装置は、計測される反射率分布の分解能を劣化させることなく、そのダイナミックレンジを広くすることができる。
(ii)原理
次に、式(3)で表される両端余弦窓を用いることによって、分解能を低化させずにダイナミックレンジを広くすることができる理由について説明する。
(a)窓関数
上述した関連技術では、干渉信号電流Is,iを有限な波数区間[ks,ke]でフーリエ変換する。
干渉信号電流Is,iは特定の波数区間[ks,ke]だけで発生するものではなく、本来は無限の波数区間(-∞,∞)のどこでも発生し得るものである。しかし、実際には、可変波長光発生装置2が出射する光の波数範囲が限られている等の理由により、特定の有限波数区間[ks,ke]でしか干渉信号電流Is,iが得られない。このため、干渉信号電流Is,iのフーリエ変換は、特定の有限波数区間[ks, ke]で行われる。
このように有限波数区間[ks, ke]でフーリエ変換することは、無限波数区間(-∞,∞)で計測した本来の干渉信号電流Is,iに、有限波数区間[ks, ke]内では1であり有限波数区間[ks, ke]の外では0となる関数を乗じてからフーリエ変換することに等しい。
フーリエ変換される関数(例えば、干渉信号電流Is,i)に乗ぜられる関数としては、ある有限区間[a,b]の外で0となる関数であれば他の関数あってもよい。このような関数は、窓関数と呼ばれている。窓関数としては、今日まで色々なものが提案されている。
例えば、有限区間[ks,ke]では1でありその外では0となる上記窓関数は、矩形窓と呼ばれている。矩形窓以外にも、窓関数には、ガウス窓やハニング窓等がある。
上記関連技術に係るOFDR−OCT装置は、矩形窓を用いて(すなわち、乗じて)干渉信号電流Is,iをフーリエ変換するものと考えることができる。そして、ダイナミックレンジが狭いという、関連技術に係るOFDR−OCTの問題点は、まさしく矩形窓を用いたフーリエ変換の問題点に他ならない。
矩形窓以外の窓関数を用いれば、ダイナミックレンジを広くすることも可能である。しかし、ダイナミックレンジと分解能はトレードオフの関係にあり、他の窓関数を用いると分解能が低化してしまう。
本実施の形態例では、窓関数として最も広く用いられているハニング窓を改良した新しい窓関数(両端余弦窓)を用いて、高い分解能と広いダイナミックレンジの達成を同時に可能とする(有限区間における)フーリエ変換を実現し、このようなフーリエ変換を用いて断層像を構築するOFDR−OCT装置を開示する。
(b)矩形窓とハニング窓
(b1)矩形窓
図3は、式(1)で表されるような単一周波数成分z0/πで振動する関数に矩形窓を乗じてからフーリエ変換した場合に得られるスペクトルの概略を表した図である。横軸は位置座標z(周波数に相当する)であり、縦軸は夫々の周波数(位置座標)における周波数成分の強度(離散フーリエ変換の絶対値の二乗Ft(z)2)である。但し、縦軸は、周波数成分の強度の対数をとって、更に10を乗じた値である(即ち、デシベルである。)。尚、縦軸は、メインピーク58の高さで規格されている(即ち、メインピーク58で0dB)。
図3に示すように、矩形窓を用いてフーリエ変換をすると、上記単一周波数z0/πに相当する位置座標z0に大きなメインピーク58が現れる。更に、メインピーク58の両側には、多数の小さな山(サイドロブ59)が発生する。
メインピーク58の裾野にサイドロブが形成さえる理由は、離散フーリエ変換を行うからである。しかし、離散フーリエ変換でなく、有限区間で通常のフーリエ変換を行っても、メインピーク58は有限の幅と裾野を備えた関数になる。すなわち、有限区間でフーリエ変換を行う限り、ダイナミックレンジは有限の値になり、分解能は0にはならない。
このメインピークの半値全幅56が分解能であり、メインピークから十分離れた位置(サイド・ロブの高さが最小になる位置)に於けるサイド・ロブの高さとメインピークの高さの比がダイナミックレンジの理論値である。
このような一定の幅を備えたメインピークとサイド・ロブは、他の窓関数を用いても発生する。どのような窓関数を用いるかによって、分解能とダイナミックレンジの広さが決まる。そして両者は、トレードオフの関係にある。
尚、図28は、下記式(4)で表される干渉信号電流Is,iをフーリエ変換したスペクトルである。zを10mm/1024づつ増加させながらフーリエ変換を実行したので、図3のようにピーク間の谷は十分には落ちきってはいない。
図4は、関連技術に於けるOFDR−OCT装置で干渉信号電流Is,iに乗じられていると見做される矩形窓の一例を示す図である。横軸は波数であり、縦軸は窓関数の値である。この窓関数は、有限波数区間[1.6×106π m-1,1.7×106π m-1]で1になり、この区間の外で0になる。尚、この有限区間の始点の正確な値は1.6×106π+100π m-1であり、終点の正確な値は1.6×106π+100π×1024 m-1である。また、フーリエ変換(離散フーリエ変換)を行う波数間隔δkは、100π m-1である。
図5は、次式で表される干渉信号電流Is,iに、図4に示す矩形窓を乗じてフーリエ変換した例である。縦軸は、フーリエ変換の絶対値の二乗Ft(z)2(dB)である。横軸は、位置座標zである。
図5の横軸の始点は0mmであり、終点は10mmである。図5には、区間[0 mm,10 mm]だけを示してある。この範囲の外では、図5に示したスペクトルと同じスペクトルが10mmの周期で繰り返される。この周期Lは、離散フーリエ変換に於ける波数間隔δkに反比例し次式で表される。
上記区間[0 mm,10 mm]の中央62を中心として、メインピーク58とは対称な位置にも同じ形のピーク60が現れている。これは、メインピークに付随して現れる折り返しピークである。尚、パワー密度(F
t(z)
2)は、図3に示したようにサイドロブ59の間で一旦零になる。しかし、図面が見にくくならないよう、図5では、サイドロブ59とメインピーク59の頂上だけをプロットしてある。
図5から明らかなように、サイドローブの高さは、区間[0 mm,10 mm]の中央62で最も低くなっている。従って、ダイナミックレンジは、この点に於けるサイドロブの高さとメインピークの高さの比になる。図5の例では、ダイナミックレンジは52dBである。
図6は、メインピークの近傍を線形プロットで示した図である。この図からメインピークの幅64(半値全幅)すなわち分解能が分かる。図6の例では、分解能は8.4μmである。
(b2)ハニング窓
ハニング窓は、ダイナミックレンジを広くするために有効な窓関数である。このため、最もよく用いられる窓関数である。
波数区間[ks, ke]に対するハニング窓Wh(k)は、次式で表される。尚、Δk=ke-ksである。
図7は、このハニング窓W
h(k)を表した図である。ここでフーリエ変換区間[k
s, k
e]は、図4の矩形窓と同じである。即ち、k
s=1.6×10
6π+100π m
-1であり、k
e=1.6×10
6π+100π×1024m
-1である。また、Δk=1024×100πm
-1である。尚、縦軸及び横軸は、図4と同じである。
図8は、このハニング窓Wh(k)を用いて、式(4)で表される干渉信号電流Is,iをフーリエ変換(離散フーリエ変換)して得た信号である。縦軸及び横軸は、図5と同じである。図9は、図8のメインピーク58の近傍を線形プロットで示した図である。
図8では、図5と同様、メインピーク58とサイドロブの頂上だけをプロットしてある。図5に示す矩形窓をフーリエ変換した場合と同様、サイドロブの高さは位置座標zの中央62で最低となる。しかし、その値は、矩形窓の場合より100dB以上低い。図8に示した例では、ダイナミックレンジは163dBに及ぶ。
しかし、メインピーク58の近傍を線形表示で示す図9から明らかなように、メインピークの幅64(半値全幅)すなわち分解能は、14.3μmと矩形窓を用いた場合の分解能8.4μmより5.9μm(約70%)も大きくなっている。
(c)両端余弦窓
以上、説明したように、ハニング窓を用いると矩形窓を用いた場合に比べて、ダイナミックレンジは格段に向上する。一方、ハニング窓を用いると分解能が、矩形窓を用いた場合より大きくなってしまう。
矩形窓でダイナミックレンジが狭くなる理由は、有限区間[ks, ke]の両端で急激に窓関数が1から0になるからである。これに対して、ハニング窓は、図7に示すように、有限区間[ks, ke]の両端が余弦関数によってナダラカに0になっている。このため、ハニング窓のダイナミックレンジは広くなる。
一方、本発明者が種々の窓関数について検討したところによると、フーリエ変換して得られるピークの分解能は、窓関数の幅66に略反比例する。従って、窓の幅66が最大になる矩形窓で、分解能が最高になる。一方、幅66の狭いハニング窓では、分解能が低下する(図6及ぶ図9参照)。
このような知見に基づいて、本発明者は、フーリエ変換を実行する区間[ks, ke]の両端は、ハニング窓と同じように余弦関数によってナダラカに0になり、且つ窓の幅を矩形窓と略同じにすることのできる上記両端窓関数W(k)(式(3)参照)を発明した。
図10は、この両端余弦窓を表した図である。両端余弦窓52では、フーリエ変換を実行する区間(以下、フーリエ変換区間68と呼ぶ)の両端70が、ハニング窓と同じように余弦関数によってナダラカに0になる。一方、両端を除くフーリエ変換区間72は、矩形窓と同じく1になる。従って、両端余弦窓52によれば、ダイナミックレンジを広くし且つ高分解能を実現することができる。
図10に示す両端余弦窓52のパラメータα及びβは、共に50/1024(=4.8%)である。また、フーリエ変換区間[ks, ke]は、図4の矩形窓と同じである。即ち、ks=1.6×106π+100π m-1であり、ke=1.6×106π+100π×1024m-1である。また、Δk=1024×100πm-1である。尚、縦軸及び横軸は、図4と同じである。
図11は、この両端窓関数W(k)を用いて、式(4)で表される干渉信号電流Is,iをフーリエ変換(離散フーリエ変換)して得た信号である。縦軸及び横軸は、図5と同じである。図12は、このメインピーク58の近傍を線形プロットで示した図である。縦軸及び横軸は、図6と同じである。
図11は、9.8μm(=10mm/1024)毎に、フーリエ変換の信号(Ft(z)2)をプロットした点を曲線で結んだ図である。図11から明らかように、サイドロブの高さは位置座標zの中央62で最低となる。しかし、その値は、矩形窓の場合(図5参照)より80dB以上低い。すなわち、図11に示した例では、ダイナミックレンジは128dBに及ぶ。この値は、ハニング窓を用いた場合よりは狭いが、TD−OCTのダイナミックレンジ100dBより30dB近くも広い。従って、当然、この値は、矩形窓を用いた場合より格段に広い。
更に、図12に示すように、メインピークの幅64(半値全幅)すなわち分解能は、8.6μmと矩形窓を用いた場合の分解能8.4μmと殆ど変わらない。
即ち、両端余弦窓を用いる本実施の形態例では、分解能は矩形窓を用いる場合(関連技術)と殆ど同じであり、一方ダイナミックレンジはハニング窓を用いる場合に迫るほど広くなる。
(iii)効果
(a)α=βの場合
図13は、パラメータαとβが等しい場合に、これらの値γ(=α=β)に対して、分解能とダイナミックレンジがどのように変わるかを示したものである。干渉信号電流Is,i、フーリエ変換区間[ks, ke]、及びフーリエ変換を行う波数間隔δkは、図11及び図12に示した例と同じである。
横軸は、フーリエ変換後の信号のダイナミックレンジであり、縦軸はその分解能である。図中に描いた曲線74は、両側余弦窓に対するダイナミックレンジと分解能を表す曲線である。この曲線の左端76は、矩形窓を用いた場合のダイナミックレンジ及び分解能を表すプロット「□」に一致している。一方、右端78は、ハニング窓を用いた場合のダイナミックレンジ及び分解能を表すプロット「○」に一致している。また、両端以外のプロット「●」は、夫々、γ=0.002, 0.005, 0.01, 0.05,0.1, 0.12, 0.49の各値に於けるダイナミックレンジと分解能を示している。
曲線74は二つの領域からなっている。
第1の領域aは、0<γ≦0.12の領域である。この領域では、矩形窓と同程度の高分解を保ったまま、僅かなγの増加でダイナミックレンジが急速に広くなるという効果が奏される。
第2の領域bは、0.12<γ<0.5の領域である。この領域では、ハニング窓と同程度の広いダイナミックレンジを保ったまま、僅かなγの減少で分解能が急速に高くなるという効果が奏される。
尚、参考として、ガウス窓を用いたフーリエ変換によって得られる信号(Ft(z)2)のダイナミックレンジ及び分解能を、図13に示す。ガウス窓は次式で表され、フーリエ変換後のダイナミックレンジ及び分解能は破線80のようになる。
この曲線80上のプロット「▲」は、σを100πで規格した値Σ(=σ/100π)が、1024、500、300、及び200の場合のダイナミックレンジと分解能を表している。
Σ=1024の場合には、ダイナミックレンジ及び分解能が矩形窓「□」と殆ど一致している。Σが小さくなるに従って、ダイナミックレンジは次第に広くなる。しかし、分解能が急激に低化してしまう。干渉信号電流の関数形が完全なガウス関数である場合には、ダイナミックレンジは最も広くなる。このため、ガウス関数は窓関数として好ましいようにも思われる。しかし、ガウス窓は完全なガウス関数ではなく、フーリエ変換区間の両端で突然零になる。この不連続性によってダイナミックレンジが狭くなるので、ガウス窓は窓関数には適していない。
(b)αとβが独立の場合
図14は、α及ぶβが独立に変化した場合の分解能を表した図である。図15は、α及ぶβが独立に変化した場合のダイナミックレンジを表した図である。横軸は、図14及び図15共にαを対数表示したものである。図14の縦軸は分解能(線形表示)である。一方、図15の縦軸は、ダイナミックレンジ(対数表示)である。
図14及び図15には、分解能及びダイナミックレンジを表す曲線がβをパラメータとして示されている。図14及び図15には、式(4)で表される干渉信号電流Is,iに矩形窓及びハニング窓を作用させた場合の分解能とダイナミックレンジが夫々破線で示されている。
図14及び図15に示された領域82は、0<α<0.5且つ0<β<0.5である両側余弦窓を式(4)で表される干渉信号電流Is,iに乗じた後、フーリエ変換して得られる信号(Ft(z)2)の分解能とダイナミックレンジである。
図14及び図15から明らかなように、この領域82では、分解能及びダイナミックレンジとも矩形窓とハニング窓の間にある。すなわち、両側余弦窓を乗じてフーリエ変換すると、その結果得られる信号(Ft(z)2)は、ダイナミックレンジは矩形窓より広く、分解能はハニングの窓より高くなる。
ところで、領域82は、4つの領域に分けることができる。第1の領域Iは、0<α≦0.12且つ0<β≦0.12の領域である。尚、図14及び図15には、α=βの場合を示す曲線84を破線で示した。図14から明らかように、この領域Iでは、分解能は、矩形窓を用いた場合と同程度に高い。一方、ダイナミックレンジは、例えば図15のβ=0.12に対する曲線を見れば明らかように、α又はβの僅かな増加で急激に広くなる(効果1)。
第2の領域IIは、0.12<α<0.5且つ0.12<β<0.5の領域である。この領域IIでは、ハニング窓と同程度の広いダイナミックレンジを保ったまま、僅かなα又はβの減少で分解能が急速に高くなる(効果2)。
第3の領域IIIは、0<α≦0.12且つ0.12<β≦0.5の領域である。また、第4の領域IVは、0.12<α≦0.5且つ0<β≦0.12の領域である。
第1及ぶ第2の領域I,IIでは、α≒βである。しかし、第3の領域III及び第4の領域IVでは、α<β又はα>βである。すなわち、第3及び第4の領域では、両端余弦窓の右端86及び左端88の非対称性が大きくなっている。
第3び第4の領域に於ける効果は、第1及ぶ第2の領域ほど顕著ではない。しかし、第3の領域では、αの増加に対して第1の領域と同様ダイナミックレンジが拡大する。一方、第4の領域では、αの減少に対して分解能が高くなる(効果2)を奏する。尚、第3の領域では、βの減少に対して分解能が高くなる。第4の領域では、βの増加に対してダイナミックレンジが広くなるに類似した効果が奏される。
(2)実施の形態例2
本実施の形態例は、実施の形態例1のオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置において、パラメータα及びβを、0.002以上且つ0.12以下(又は0.005以上且つ0.05以下)としたオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置に係るものである。
図16及び図17は、0.002<α≦0.12且つ0.002<β≦0.12の場合に於ける分解能とダイナミックレンジを夫々示したものである。干渉信号電流Is,i、フーリエ変換区間[ks, ke]、及びフーリエ変換を行う波数間隔δkは、実施の形態例1と同じである。
図16及び図17に示された例は、図14及び図15の第1の領域Iを、狭くした領域である。従って、第1の領域Iの領域と同じ効果(分解能は矩形窓を用いた場合と同程度に高く一方、ダイナミックレンジはα又はβの僅かな増加で急激に広くなる)を奏するが、第1の領域Iよりα及びβが狭い。このような範囲(0.002<α≦0.12且つ0.002<β≦0.12)は、実施の形態例1の範囲より好ましい。
図18及び図19は、0.005<α≦0.05且つ0.005<β≦0.05の場合に於ける分解能とダイナミックレンジを示したものである。図18及び図19に示された例は、図16及び図17に示されたα及びβの範囲を、更に狭くした例である。
図18及び図19に示された範囲(0.005<α≦0.05且つ0.005<β≦0.05)は、図16及び図17に示された範囲(0.002<α≦0.12且つ0.002<β≦0.12)より更に好ましい。
(3)変形例
以上の例では、演算制御装置30は、干渉信号電流I(ki)に両端窓関数を乗じて離散フーリエ変換し得られた信号の絶対値の二乗Ft(z)2を求める。しかし、必ずしも、Ft(z)2を求める必要はない。
演算制御装置30は、干渉信号電流I(ki)(干渉光の光強度に相当する)に両端窓関数を乗じて得られる修正値を、フーリエ変換するものであればよい。
例えば、演算制御装置30は、干渉信号電流I(ki)に両端窓関数を乗じて得られる修正値をフーリエ変換して得られたフーリエ余弦変換Fc(z)(又は、フーリエ正弦変換Fs(z))の包落線を検出するものであってもよい。
フーリエ余弦変換Fc(z)(又は、フーリエ正弦変換Fs(z))は、測定に用いた可変波長光発生装置30の出射する光の波数(正確には、波数範囲の中央値)の2倍の周期で激しく振動する。そして、その包落線はフーリエ変換の絶対値Ft(z)になっている(特許文献2)。
従って、フーリエ余弦変換Fc(z)(又は、フーリエ正弦変換Fs(z))の包落線を検出すれば反射率分布を得ることができる。
本実施例におけるオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置は、出射光の波数を階段状に変化させる可変波長光発生装置2と、両端余弦窓を干渉光強度に乗じてフーリエ変換を行う演算制御装置30を備えたOFDR−OCT装置に係るものである。
(1)装置構成
図1は、本実施例に係るOFDR−OCT装置50の構成を説明する図である。
本実施例に係るOFDR−OCT装置50の構成は、実施の形態例1で述べたOFDR−OCT装置50と同じである。以下、装置構成を実施の形態例1より詳しく説明する。
超周期構造回折格子分布反射型半導体レーザ光発生装置(非特許文献4)のような、出射光の波数を、所定の波数の範囲内で変化させることのできる可変波長光発生装置2の光出射口が、光を測定光と参照光に分割(例えば90:10)する方向性結合器からなる光分岐器4の光受入口に光学的に接続されている。光学的接続は、実線で示された光ファイバによって行われる。
ここで、可変波長光発生装置2は、出射光の波数を図20のように階段状に変化させる。図20の横軸は時間であり、縦軸は波数である。出射光の波数は、1.6001×106π m-1に始まり1.7024×106π m-1で終わる。波数間隔δkは、100πm-1である。可変波長光発生装置2は、出射光の波数を500ns保持し、その後即座に出射光の波数を次の値に切換える。本実施例では、可変波長光発生装置2が出射する波数は、全部で1024通りである。従って、全ての光を出射するために要する時間は、512μsである。また、出射光の強度は、波数に依らず一定に制御されている。
測定光を出射する光分岐器4の一方側(分割割合90%側)の光送出口は、第1のオプティカルサーキュレータ6の光受入口6aに光学的に接続されている。第1のオプティカルサーキュレータ6の光出射口兼光受入口6bは、測定光を測定対象8に照射する共に測定光が測定対象8によって反射又は後方散乱されてなる信号光を捕捉する第1の光照射兼捕捉装置10に接続されている。第1のオプティカルサーキュレータ6の光出射口6cは、方向性結合器(分割比50:50)からなる光結合器12の一方側の光受入口に接続されている。
尚、測定光とは、光分岐器4で分割された可変波長光発生装置2の出射光のうち、測定対象8に照射されるものを言う。また、光分岐器4で分割された可変波長光発生装置2の出射光の他方側は、参照光と呼ばれる。測定光が測定対象8によって反射又は後方散乱され、再度干渉計(光分岐器4、光結合器12、第1及び第2のサーキュレータ6,20、及び参照ミラー21からなる光学系)に入射した光は信号光と呼ばれる。
第1の光照射兼捕捉装置10は、オプティカルサーキュレー6の光出射口兼光受入口6bから出射された測定光を平行ビームに整形するコリメートレンズ14と、この平行ビームを測定対象8に集光するフォーカシングレンズ16と、測定光を偏向することによって測定対象8の表面で直線状に測定光を走査するガルバノミラー18とを備えている。
参照光を出射する光分岐器4の他方側(分割割合10%側)の光送出口は、第2のオプティカルサーキュレータ20の光受入口20aに光学的に接続されている。第2のオプティカルサーキュレータ20の光出射口兼光受入口20bは、参照ミラー21に参照光を照射する共に参照ミラー21によって反射された参照光を捕捉する第2の光照射兼捕捉装置22に接続されている。参照ミラー21は、前後に移動可能な支持体に担持され、参照光路32と試料光路34の光路長が略等しくなるようにその位置が調整されている。
そして、第2のオプティカルサーキュレータ20の光出射口20cは、方向性結合器(分割比50:50)からなる光結合器12の他方側の光受入口に光学的に接続されている。従って、光結合器12は、同一周波数を有する信号光と参照光とを結合し干渉光を出射する。
光結合器12の一方側及び他方側の光送出口は、量子効率が同一の第1及び第2の光検出装置24,26に光学的に接続されている。第1及び第2の光検出装置24,26の出力は、差動増幅器28に電気的に接続されている。
差動増幅器28の出力部は、反射光又は後方散乱光の深さ方向の強度分布(反射率分布又は後方散乱率分布に相当する;以後、反射率分布(reflectivity profile)と呼ぶ)を合成する演算制御装置30の入力部に図示しないアナログデジタル変換器を介して電気的に接続されている。
演算制御装置30の出力部は、演算結果を表示するモニタやプリンタ等の表示装置(図示せず)の入力部に電気的に接続されている。この演算制御装置30は、入力された情報に基づいて可変波長光発生装置2及び第1の光照射兼捕捉装置10のガルバノミラー18を制御する。
(2)動作
断層像の構築は、演算制御装置30によって以下のように行われる。
演算制御装置30の指令を受けた可変波長光発生装置2は、波数(=2π/波長)を、所定の波数の範囲内[1.6001×106π m-1, 1.7024×106π m-1]で微小波数間隔δk(=100π)ずつ変化させながらレーザ光を出射する。各波数の保持時間は、500nsである。また、可変波長光発生装置2の出射する光の強度は波数に依らず一定である。
可変波長光発生装置2の出射光は、干渉計(光分岐器4、光結合器12、第1及び第2のサーキュレータ6,20、及び参照ミラー21からなる光学系)に入射し、測定光と参照光に分割される。測定光は、測定対象8によって反射または散乱され信号光となる。
同一周波数を有する信号光と参照光は、光結合器12で結合されて干渉光になる。干渉光の強度は第1及び第2の光検出装置24,26で検出され、干渉光に含まれる直流成分(参照光強度と信号光強度の和)が差動増幅器28によって除去される。その結果、干渉成分(以下、干渉信号電流と呼ぶ)のみが演算制御装置30に入力される。
演算制御装置30は、可変波長光発生装置2の出射するレーザ光の波数と、そのレーザ光に対する干渉信号電流の強度を全ての波数に対して記録する。可変波長光発生装置2の波数走査が終わると、演算制御装置30は記録した干渉信号電流の強度を波数に対してフーリエ変換する(式(2)参照)。すなわち、演算制御装置30は、光検出装置24,26によって波数毎に測定される干渉信号電流の強度(干渉光の光強度に相当する)を、波数に対してフーリエ変換する。干渉信号電流をフーリエ変換して得られる信号(Ft(z)2)は、測定光が測定対象8によって反射又は後方散乱された位置とその反射光又は後方散乱光の強度の関数になる。尚、信号処理する波数の総数は、1024(=(1.7024×106π-1.6001×106π)/100π)である。
但し、演算制御装置30は、干渉光の光強度を単にフーリエ変換するのではなく、光検出装置24,26によって波数毎に測定される干渉光の光強度(干渉信号電流)に、図10に示すような下記両端余弦窓W(k)を乗じて得られる修正値を、波数に対してフーリエ変換する。
ここで、窓関数W(k)は、次式で表される。
但し、式中kは波数を表し、Δkは上記所定の波数範囲の幅を表し、k
sは所定の波数範囲の始点(すなわち、1.6001×10
6π m
-1)を表し、k
eは上記所定の波数範囲の終点(すなわち、1.7024×10
6π m
-1)を表す。また、α=β=50/1024(=4.8%)である。
図11(縦軸対数表示)及び図12(縦軸線形表示)は、位置座標z=1.0mmに配置されたミラーによって生じる干渉信号電流Is,i(式(4))に、上記両端余弦窓を乗じてフーリエ変換して得た信号(Ft(z)2)を示したものである。
一方、両端余弦窓を用いない場合(すなわち、図4のような矩形窓を用いる場合)には、干渉信号電流Is,iをフーリエ変換して得られる信号(Ft(z)2)は、図5(縦軸対数表示)及び図6(縦軸線形表示)のようになる。
両端余弦窓を用いた場合のダイナミックレンジは、128dBである。これに対して、両端余弦窓を用いない場合(矩形窓を用いる場合)のダイナミックレンジ52dBである。すなわち、両端窓関数を用いることによって、ダイナミックレンジは顕著に広くなる。この点、図11と図5を比較すると明白である。
一方、両端余弦窓を用いた場合の分解能は8.6μmである。これに対して、両端余弦窓を用いない場合(矩形窓を用いる場合)の分解能は8.4μmである。すなわち、両端余弦窓を用いた場合と用いない場合で、分解能に差は殆ど存在しない。この点は、図12と図6を比較すると明らかである。
このように、本実施例に係るOFDR−OCT装置を用いると、計測される反射率分布の分解能を低下させることなく、ダイナミックレンジを広くすることができる。
(変形例)
尚、本実施例では、方向性結合器からなる光結合器12が出射する干渉光の光強度から、差動増幅器18によって直流成分を除去した後に、両端余弦窓を用いて干渉光の光強度(すなわち、干渉信号電流)をフーリエ変換にしている。しかし、必ずしも直流成分を除去する必要はなく、干渉光の光強度を、両端余弦窓を用いて直接フーリエ変換にしてもよい。
本実施例におけるオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置は、可変波長光発生装置2の出射光の強度で干渉光の強度を除して当該出射光の強度の変動(波数に対する変動)を補正してから、両端余弦窓をこの補正値に乗じてフーリエ変換を行う演算制御装置30を有するOFDR−OCT装置に係る。
(1)装置構成
図21は、本実施例に於けるOFDR−OCT装置の構成を説明する図である。
本実施例に於けるOFDR−OCT装置は、基本的には実施例1に於けるOFDR−OCT装置と同じである。ただし、出射光の波数を階段状に変化させる可変波長光発生装置2に代えて、出射光の波数を連続的に変化させるスウェップトレーザ(非特許文献5)からなる可変波長光発生装置92を用いる。更に、可変波長光発生装置92の光出射口は、方向性結合器からなる第2の分岐器94(分割比90:10)の光受入口に接続されている。
第2の光分岐器94の一方側(分割割合90%)の光送出口は、光を測定光と参照光に分割(分割比90:10)する方向性結合器からなる第1の光分岐器4の光受入口に接続されている。
一方、第2の光分岐器94の他方側(分割割合10%)の光送出口は、第3の光検出装置96に光学的に接続されている。第3の光検出装置96の出力は、反射率分布(reflectivity profile)を合成する演算制御装置30の入力部に図示しない第1のアナログデジタル変換器を介して電気的に接続されている。ここで、第2のアナログデジタル変換器は、一定の時間間隔Δt毎に、第3の光検出装置96の出力を平均化しその後数値化する。
また、演算制御装置98には、図示しない第1のアナログデジタル変換器を介して差動増幅器28が電気的に接続されている。第2のアナログデジタル変換器は、第1のアナログデジタル変換器と同様に、一定の時間間隔Δt毎に、差動増幅器2の出力を平均化しその後数値化する。
ここで、演算制御装置98は、実施例1の演算制御装置30とは異なり、(光結合器12で信号光と(参照光が結合して発生する)干渉光の光強度を、可変波長光発生装置92の出射光の強度をモニタする第3の光検出装置96の出力で除してから、両側窓関数を乗じてフーリエ変換を行う。
すなわち、演算制御装置98は、まず、干渉光の光強度を、波数が同一の可変波長光発生装置92の出射光の強度で除して規格化光強度を算出する。次に、干渉光の光強度に代え、この規格化光強度に両端余弦窓を乗じて得られる補正値を、波数に対してフーリエ変換する。
以上の点を除き、本実施例に於けるOFDR−OCT装置の構成は、実施例1のOFDR−OCT装置と略同じである。
(2)動作
実施例1の可変波長光発生装置2(超周期構造回折格子分布反射型半導体レーザ光発生装置)は、光強度が一定になるよう制御された光を出射する。従って、干渉光の強度に所定の窓関数を乗じてフーリエ変換すれば、理論通りの分解能とダイナミックレンジを得ることができる。
しかし、本実施例の可変波長光発生装置92(スウェップトレーザ)の出射光の光強度は、図22のように波数に対して一定ではない。
このような場合、式(3)で表される両端余弦窓を乗じても期待通りの効果を得ることはできない。そこで、本実施例では、可変波長光発生装置92(スウェップトレーザ)の出射光の光強度を光検検出器96でモニタし、可変波長光発生装置92の出射光が擬似的に一定になるように干渉光の強度を補正してから、両端余弦窓を利用したフーリエ変換を行う。
本実施例に於けるOFDR−OCT装置の具体的動作は、以下の通りである。
可変波長光発生装置92を出射した光は、第2の光分岐器94(分割比90:10)によってその一部(10%)が分岐され、その主たる部分(分割割合90%)は光分岐器4に入射する。
光分岐器4に入射した光は、実施例1に於ける可変波長光発生装置2の出射光と同じ経路を辿り光検出装置24、26に入射し、干渉信号電流I(ki)(差動増幅器28の出力)に変換される。
この干渉信号電流I(ki)は、第1のアナログデジタル変換器によって、一定の時間間隔Δt毎に平均化され、その後数値化される。可変波長光発生装置92が出射する光の波数は、時間に対して略直線的に変化する。従って、時間間隔Δt毎に、干渉信号電流I(ki)を平均化してから数値化すると、一定の波数間隔δk毎の干渉光の強度を測定することができる。但し、このような平均化によって、フーリエ変換して得られる信号(Ft(z)2)の強度はz=0から離れるに従って弱くなる。
一方、第2の光分岐器94によって分岐された出射光(分割割合10%)は、第3の光検出装置96に入射する。第3の光検出装置96の出力は、図示しない第2のデジタルアナログ変換器によって数値化(アナログデジタル変換)され、演算制御装置98に入力される。第1のアナログデジタル変換器は、一定の時間間隔Δt毎に第3の光検出装置96の出力を平均化し、その平均値をアナログデジタル変換する。ここで、第2のアナログデジタル変換器が第3の光検出装置96の出力をアナログデジタル変換するタイミングは、第1のルアナログデジタ変換器が差動増幅器28の出力をアナログデジタル変換するタイミングに同期している。
すなわち、一定の波数間隔δk毎に、夫々の波数に於ける可変波長光発生装置92が出射する光の強度と干渉光の強度が演算制御装置98に入力される。
演算制御装置98は、夫々の波数に於いて、可変波長光発生装置92の出射光の強度で干渉光の強度を除して、干渉光強度を規格化する。その後、演算制御装置98は、この規格化した光強度(規格化光強度)に両端余弦窓を乗じて、フーリエ変換を行う。
すなわち、演算制御装置98は、干渉光の上記光強度を、波数が同一の可変波長光発生装置92の出射光の強度で除して規格化光強度を算出する。更に、演算制御装置98は、干渉光の光強度に代え、この規格化光強度に両端余弦窓を乗じて得られる修正値を、波数に対してフーリエ変換する。但し、可変波長光発生装置92の出射光の強度が弱い領域で、規格化光強度を算出すると誤差が大きくなるので、フーリエ変換は出射光の強度が十分に大きい領域で行うことが望ましい。
従って、本実施例に於けるOFDR−OCT装置によれば、可変波長光発生装置92の出射光の強度が波数に対して一定している実施例1と同様に、高分解能と広ダイナミックレンジを同時に得ることができる。