JP5051453B2 - 非晶質炭素膜、その形成方法、および非晶質炭素膜を備えた高耐摩耗摺動部材 - Google Patents

非晶質炭素膜、その形成方法、および非晶質炭素膜を備えた高耐摩耗摺動部材 Download PDF

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Description

本発明は、炭素を主成分とする非晶質炭素膜、その形成方法、および非晶質炭素膜を備えた高耐摩耗摺動部材に関する。
エンジンを構成するピストンや動弁系部品等の摺動部材には、摩耗や焼付きを抑制すべく、種々の表面処理が施されている。特に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜と呼ばれる非晶質炭素膜は、耐摩耗性、固体潤滑性等の機械的特性に優れるため、摺動部材の摺動性を高める被膜として広く利用されている。また、非晶質炭素膜の機械的特性をさらに向上させるため、その膜組成や成膜方法について種々の研究がなされている。例えば、特許文献1には、ケイ素を含有させた非晶質炭素膜、およびその成膜方法が示されている。また、特許文献2には、ケイ素および窒素を含有させた非晶質炭素膜、およびその成膜方法が示されている。
特開平3−240957号公報 特開平7−54150号公報
例えば、自動車エンジンの摺動部は、かなりの高面圧になる場合がある。よって、非晶質炭素膜には高い耐摩耗性が求められる。しかし、特許文献1および2では、非晶質炭素膜の摩耗特性を、5〜6Nという低荷重の摺動条件下で評価しているにすぎない。そして、両文献に記載された非晶質炭素膜の摩耗量は、低荷重の摺動条件下にもかかわらず、0.2〜0.3μmである。つまり、従来の非晶質炭素膜は、低荷重の摺動条件の割に摩耗量が多く、耐摩耗性が充分とはいえない。
また、耐久性の観点から、非晶質炭素膜の膜厚を厚くしたい場合がある。上記特許文献1および2に記載の非晶質炭素膜は高硬度である。高硬度の非晶質炭素膜は、通常、弾性率も高い。このため、高硬度の非晶質炭素膜の膜厚を厚くすると、膜の内部応力が大きくなり、基材からの膜の剥離や破壊が生じ易い。よって、従来の非晶質炭素膜では、10μm以上の厚膜化は難しい。
本発明は、このような実状を鑑みてなされたものであり、厚膜化が可能であり、かつ、耐摩耗性に優れた非晶質炭素膜を提供することを課題とする。また、そのような非晶質炭素膜の形成方法、および非晶質炭素膜を被覆した高耐摩耗摺動部材を提供することを課題とする。
(1)炭素原子には、sp混成軌道を持つ炭素(Csp)、sp混成軌道を持つ炭素(Csp)、sp混成軌道を持つ炭素(Csp)の三種類がある。例えば、ダイヤモンドはCspのみからなる。つまり、隣接する炭素原子が、sp混成軌道により四方向(正四面体の中心から各頂点へ向かう方向)に共有結合し、これが三次元に連なった構造を持つ。一方、グラファイトは、Cspのみからなる。つまり、隣接する炭素原子が、sp混成軌道により同一平面内で三方向に共有結合して炭素六員環層を形成し、この炭素六員環層が積層した構造を持つ。本明細書では、sp混成軌道を作って結合する炭素を、「sp混成軌道を持つ炭素」または「Csp」と称す。同様に、sp混成軌道を作って結合する炭素を、「sp混成軌道を持つ炭素」または「Csp」と称す。
一般に、Cspのみからなるダイヤモンドの方が、Cspのみからなるグラファイトよりも高い耐摩耗性を示すと言われている。グラファイトは、炭素六員環層内にCspによる炭素−炭素二重結合(C=C結合)を持つ。C=C結合は、Cspによる炭素−炭素結合(C−C結合)よりも強いため、耐摩耗性に関して矛盾するように見える。しかし、グラファイトの炭素六員環層は、ファンデルワールス力により結合されている。このため、炭素六員環層間の結合は弱く、互いに剥離し易い。よって、グラファイトは、炭素六員環層間のすべりにより潤滑性に優れるものの、摩耗し易い。
本発明者は、炭素を主成分とする非晶質炭素膜について鋭意研究を重ねた。その結果、非晶質炭素膜にケイ素を所定量添加し、かつ、Csp2の含有割合を制御することで、非晶質炭素膜の耐摩耗性の向上と非晶質炭素膜の厚膜化とを実現できるとの知見に至った。すなわち、本発明の非晶質炭素膜は、
炭素の全体量を100at%とした場合に、70at%以上90at%以下のsp2混成軌道を持つ炭素を含む主成分としての炭素と、
非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上10at%以下のケイ素と、
非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、10at%以上25at%以下の水素と、
を含有することを特徴とする。
本発明の非晶質炭素膜を構成する炭素は、CspとCspとの二種類であると考えられる。本発明の非晶質炭素膜では、全炭素に占めるCspの割合が多い。また、本発明の非晶質炭素膜はケイ素(Si)を含む。ケイ素は、立体的なsp混成軌道を作って結合する。これより、本発明の非晶質炭素膜では、Cspからなる炭素六員環層が、ケイ素や立体的なsp混成軌道を持つ炭素と共有結合を作る。つまり、本発明の非晶質炭素膜は、強固なC=C結合を持つ炭素六員環層が、CspやSiを仲立ちとして立体的に結合した構造をもつ。したがって、本発明の非晶質炭素膜は、潤滑性を維持しつつ高い耐摩耗性を示す。
また、Cspの割合が多い場合には、炭素原子が無理な原子位置に入りこむため歪みが生じ、膜の内部応力が大きくなると考えられる。一方、本発明の非晶質炭素膜では、Cspの割合が多く、Cspの割合が少ない。このため、C−C結合の歪みが少なく、膜の内部応力は小さい。よって、膜厚を厚くしても、基材からの膜の剥離や破壊が生じ難い。つまり、本発明の非晶質炭素膜では、10μm以上の厚膜化が可能である。
また、本発明者の分析によれば、本発明の非晶質炭素膜はSiを含むため、相手材と摺接した際、非晶質炭素膜の表面にはシラノール(SiOH)が生成される。シラノールは、摺動雰囲気中の水分を吸着し、摺動部材間にはたらく剪断力を低下させると考えられる。このため、本発明の非晶質炭素膜は、優れた潤滑性から低摩擦係数を示す。
(2)また、本発明は、直流プラズマ化学蒸着により、基材の表面に、炭素の全体量を100at%とした場合に、60at%以上90at%以下のsp 2 混成軌道を持つ炭素を含む主成分としての炭素と、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上10at%以下のケイ素と、を含有する非晶質炭素膜を形成する非晶質炭素膜の形成方法であって、
前記基材を反応容器内に配置し、該反応容器内に、トルエンおよびナフタレンから選ばれる一種以上と、ケイ素化合物ガスと、を含有する反応ガスを導入して放電することを特徴とする。
本発明の非晶質炭素膜の形成方法では、トルエンおよびナフタレンから選ばれる一種以 上を含有する反応ガスを用いる。トルエンおよびナフタレンは、Csp2を含む炭化水素ガスである。このため、形成される非晶質炭素膜中のCsp2の割合は多くなる。また、Csp2の割合が多いと、膜の内部応力は小さくなり、膜厚が厚くなっても基材からの剥離なく成膜することができる。このため、本発明の形成方法によれば、10μm以上の厚膜の非晶質炭素膜を形成することができる。
(3)本発明の高耐摩耗摺動部材は、基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成された非晶質炭素膜と、を備える高耐摩耗摺動部材であって、
該非晶質炭素膜は、炭素の全体量を100at%とした場合に、70at%以上90at%以下のsp2混成軌道を持つ炭素を含む主成分としての炭素と、
該非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上10at%以下のケイ素と、
非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、10at%以上25at%以下の水素と、
を含有することを特徴とする。
本発明の高耐摩耗摺動部材は、上記本発明の非晶質炭素膜を備える。本発明の非晶質炭素膜を本発明の高耐摩耗摺動部材の摺動面とすることで、本発明の高耐摩耗摺動部材は、高耐摩耗性、低摩擦係数を示す。また、上述したように、本発明の非晶質炭素膜は厚膜化が可能である。このため、厚膜の非晶質炭素膜を形成することで、本発明の高耐摩耗摺動部材の耐久性をさらに向上させることができる。
本発明の非晶質炭素膜は、炭素だけでなくケイ素を含み、全炭素に占めるCspの割合が多い。このため、Cspからなる炭素六員環層が、sp混成軌道を持つ炭素やケイ素と共有結合を作り、立体構造をなす。したがって、本発明の非晶質炭素膜は、潤滑性を維持しつつ高い耐摩耗性を示す。また、本発明の非晶質炭素膜は、内部応力が小さいため、厚膜化も可能である。本発明の非晶質炭素膜の形成方法によれば、上記本発明の非晶質炭素膜を、実用的な成膜速度で容易に形成することができる。また、本発明の高耐摩耗摺動部材は、高耐摩耗性、低摩擦係数を示し、耐久性に優れる。
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。以下では、本発明の非晶質炭素膜、およびその形成方法について説明するが、その内容は、適宜選択され、または組み合わされて、本発明の高耐摩耗摺動部材にも適用可能である。
〈非晶質炭素膜〉
本発明の非晶質炭素膜は、主成分としての炭素と、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上10at%以下のケイ素と、10at%以上25at%以下の水素と、を含有する。炭素は、炭素の全体量を100at%とした場合に、70at%以上90at%以下のsp2混成軌道を持つ炭素を含む。
Csp、Cspの定量法としては、ラマン散乱法、赤外分光法(フーリエ変換赤外分光法;FT−IR)、X線光電子分光法(XPS)等が挙げられる。例えば、可視光源を用いたラマン散乱法を用い、1580cm−1付近のGバンドと1350cm−1付近のDバンドとの強度比「I(D)/I(G)」から、Csp、Cspの量比を求めるといった手法が紹介されている。ところが、最近の研究では、DバンドにおけるCspの感度はCspの感度の1/50〜1/260であることがわかっている(「MATERIALS SCIENCE & ENGINEERING R-REPORTS 37 (4-6) p.129 2002」)。よって、ラマン散乱法では、Cspの量を議論することはできない。また、FT−IRでは、2900cm−1付近のC−H結合を定性的に評価することはできるが、Csp、Cspの定量化はできないというのが一般的な解釈である(「Applied Physics Letters 60 p.2089 1992」)。また、XPSでは、C1sの結合エネルギーからC=C結合、C−C結合をピーク分離することにより、Csp、Cspの仮の量比を求められなくはない。しかし、C=C結合およびC−C結合の結合エネルギーの差は小さく、多くはモノモーダルなピークであることから、ピーク分離は多分に恣意的にならざるを得ない。また、XPSの分析領域は、光電子の脱出可能な数nm程度の最表面に限られている。最表面は、未結合手や酸化の影響を受け易いため、最表面の構造は内部の構造と異なる。このため、最表面の構造をもって膜全体の構造を特定することには大きな問題がある。内部構造を知るために、アルゴンイオンのスパッタリング処理を行いながら、その場でXPSスペクトルを得る手法もある。しかし、イオンボンバードにより内部構造が変質することとなり、この手法を用いたとしても必ずしも真の姿が捉えられるわけではない。
このように、上記方法では、Csp、Cspを正確に定量することはできない。したがって、本明細書では、多くの有機材料の構造規定において最も定量性の高い核磁気共鳴法(NMR)を採用する。Csp量、Csp量の測定には、固体NMRで定量性のあるマジックアングルスピニングを行う高出力デカップリング法(HD−MAS)を用いた。図1に、本発明の一例である非晶質炭素膜に関する13C NMRスペクトルのNMRチャートを示す。図1に示すように、130ppm付近、30ppm付近に、それぞれCsp、Cspに起因する明確に分離したピークが見られる。それぞれのピークとベースラインとにより囲まれる部分の面積比から、全炭素におけるCsp、Cspの含有割合を算出した。
Csp2量がこのようにして算出される場合、本発明の非晶質炭素膜は、炭素の全体量を100at%とした場合に、70at%以上90at%以下のCsp2を含有する。Csp2量が60at%未満の場合には、強固なC=C結合が少なくなり、耐摩耗性が低下する。一方、Csp2量が90at%を超えると、炭素六員環層の層状化が進行し、粉末状の非晶質炭素が形成されるため、緻密な膜とならない。Csp2量は、炭素の全体量を100at%とした場合に、85at%以下が好ましく、80at%以下がより好ましい。なお、本発明の非晶質炭素膜を構成する炭素は、Csp2とCsp3との二種類であると考えられる。したがって、本発明の非晶質炭素膜のCsp3量は、全炭素量を100at%とした場合、10at%以上30at%以下である。
本発明の非晶質炭素膜は、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、at%以上10at%以下のケイ素(Si)を含有する。Si含有量が0.1at%未満の場合には、非晶質炭素膜の耐摩耗性の向上効果および摩擦係数の低減効果が小さい。Si含有量は、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上と、より好ましくは2at%以上さらには3at%以上である。一方、Si含有量が10at%を超えると、非晶質炭素膜の耐摩耗性が低下する。Si含有量は、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、7at%以下とするのが好ましく、より好ましくは5at%以下さらには4at%以下である。
本発明の非晶質炭素膜は、炭素およびケイ素に加えて、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、さらに、10at%以上25at%以下の水素を含有する。水素含有量が10at%未満の場合には、非晶質炭素膜の硬さが大きくなり、基材への密着性や靱性が低下する。水素含有量は、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、15at%以上とするのが好ましく、より好ましくは17at%以上さらには20at%以上である。一方、水素含有量が30at%を超えると、非晶質炭素膜の硬さが小さくなることに加え、非晶質炭素膜を形成する分子がC−H結合により終端化されて膜の耐摩耗性が低下する。水素含有量は、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、25at%以下とし、好ましくは22at%以下である。このように、本発明の非晶質炭素膜では、Csp3量が少なく、かつ、水素量が少ないため、C−H結合による非晶質炭素膜を形成する分子の終端化が生じ難い。このため、本発明の非晶質炭素膜は、摩耗し難いと考えられる。
本発明の非晶質炭素膜の硬さは、特に限定されるものではないが、10GPa以上が好ましく、より好ましくは10GPa以上20GPa以下さらには12GPa以上18GPa以下である。本明細書では非晶質炭素膜の硬さとして、トライボスコープ(HYSITRON社製)による測定値を採用する。また、本発明の非晶質炭素膜の膜厚は、0.05μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上20μm以下さらには1μm以上15μm以下とすることができる。例えば、ピストンリング等のように、摺動面圧の高い摺動環境で使用される部材に本発明の非晶質炭素膜を被覆する場合には、耐久性の観点から、膜厚は厚い方がよい。このような場合には、本発明の非晶質炭素膜の膜厚を5μm以上、好ましくは10μm以上とすればよい。例えば、切削ドリルやタップ等の工具では、膜の剥離を少なくするため、膜厚を0.05μm以上1.0μm以下とするとよい。
〈非晶質炭素膜の形成方法〉
炭素の全体量を100at%とした場合に、60at%以上90at%以下のsp 2 混成軌道を持つ炭素を含む主成分としての炭素と、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上10at%以下のケイ素と、を含有する非晶質炭素膜は、プラズマ化学蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等、既に公知の化学蒸着(CVD)法、物理蒸着(PVD)法により形成することができる。しかし、スパッタリング法に代表されるように、PVD法では、成膜に指向性がある。よって、装置内に複数のターゲットを配置したり、成膜対象となる基材を回転させたりすることが必要となる。その結果、成膜装置の構造が複雑化し、高価になる。また、PVD法では、基材の形状によっては成膜し難い場合がある。一方、プラズマCVD法は、反応ガスにより成膜するため、基材の形状に関わらず成膜することができる。また、プラズマCVD法は、成膜装置の構造も単純で安価である。
プラズマCVD法により本発明の非晶質炭素膜を形成する場合、まず、真空容器内に基材を配置して、反応ガスおよびキャリアガスを導入する。次いで、反応ガスの放電によりプラズマを生成させて、イオン化されたガスを基材に付着させて本発明の非晶質炭素膜を形成すればよい。反応ガスには、炭化水素ガスとケイ素化合物ガスとの混合ガスを用いればよい。例えば、炭化水素ガスとしては、メタン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、シクロヘキサン等、珪素化合物ガスとしては、Si(CH[TMS]、SiH、SiCl、SiH等が挙げられる。また、キャリアガスには、水素ガス、アルゴンガス等を用いればよい。
プラズマCVD法には、例えば、高周波放電を利用する高周波プラズマCVD法、マイクロ波放電を利用するマイクロ波プラズマCVD、直流放電を利用する直流プラズマCVD法がある。なかでも、直流プラズマCVD法が好適である。直流プラズマCVD法によれば、成膜装置を真空炉と直流電源とから構成すればよく、様々な形状の基材に対して容易に成膜できる。また、反応ガス濃度を高くして、成膜圧力を100Pa以上としても、直流プラズマCVD法では安定した放電が得られる。
以下、プラズマCVD法を用いた好適な態様として、本発明の非晶質炭素膜の形成方法を説明する。本発明の非晶質炭素膜の形成方法は、基材を反応容器内に配置し、該反応容器内に、sp混成軌道を持つ炭素を含む炭化水素ガス、および放電により分解しsp混成軌道を持つ炭素を生じる炭化水素ガスから選ばれる一種以上と、ケイ素化合物ガスと、を含有する反応ガスを導入して放電する。なお、この方法は、後述する本発明の高耐摩耗摺動部材の製造方法としても把握することができる。
基材には、金属、セラミックス、樹脂等から選ばれる材料を用いればよい。例えば、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄、アルミニウム合金、チタン合金等の金属製基材、超鋼、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス製基材、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂製基材等が挙げられる。
また、基材と非晶質炭素膜との密着性を向上させるという観点から、基材の表面に、予めイオン衝撃法による凹凸形成処理を施しておくとよい。具体的には、まず、容器内に基材を設置し、容器内のガスを排気して所定のガス圧とする。次に、凹凸形成用ガスの希ガスを容器内に導入する。次に、グロー放電またはイオンビームによりイオン衝撃を行い、基材の表面に凹凸を形成する。また、基材の表面に、均一で微細な凹凸を形成するため、凹凸形成処理の前に、窒化処理を施しておくとよい。窒化処理の方法としては、例えば、ガス窒化法、塩浴窒化法、イオン窒化法がある。窒化処理の後、その表面を十点平均粗さがRzjis0.5μm以下となるよう研磨加工してから、上述したイオン衝撃を加えるとよい。なお、十点平均粗さRzjisは、JIS B0601で定義される。
反応ガスには、Csp2を含む炭化水素ガス、および放電により分解しCsp2を生じる炭化水素ガスから選ばれる一種以上と、ケイ素化合物ガスとを用いる。Csp2を含む炭化水素、言い換えれば、炭素−炭素二重結合を持つ炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等が挙げられるが、本発明の非晶質炭素膜の製造方法では、トルエンおよびナフタレンから選ばれる一種以上を必須として用いる。また、直流プラズマCVD法では、プラズマ密度が比較的小さいため、反応ガスは分解し難いと考えられる。よって、直流プラズマCVD法において、反応ガスとして解離エネルギーの低いベンゼンガス等を使用すると、非晶質炭素膜中のCsp2の増加に効果的である。
また、放電により分解しCsp2を生じる炭化水素は、炭化水素ガスの状態では炭素−炭素二重結合を持たないが、sp2混成軌道により結合する炭素を生成する。このような炭化水素としては、メタン、プロパン、ヘキサン等が挙げられる。例えば、メタンはCsp3からなるが、Csp3は放電により分解されてCsp2を生じる。したがって、反応ガスとして、これら、Csp2を含む炭化水素ガス、および放電により分解しCsp2を生じる炭化水素ガスのうちいずれか一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよいが、本発明の非晶質炭素膜の形成方法では、トルエンおよびナフタレンから選ばれる一種 以上を必須として用いる。
ケイ素化合物としては、上述したように、TMS、SiH、SiCl、SiH等を用いればよい。特に、TMSは空気中で化学的に安定で、取り扱いが容易であり好適である。
また、反応ガスとともに、キャリアガスを導入してもよい。キャリアガスを使用する場合には、反応ガスおよびキャリアガスにより非晶質炭素膜を形成する雰囲気が形成される。キャリアガスとしては、上述したように、水素ガス、アルゴンガス等を用いればよい。反応ガスおよびキャリアガスは、得られる非晶質炭素膜の組成が所望の組成となるよう、その種類、流量比を適宜選択すればよい。例えば、炭化水素ガスとしてベンゼンガス、ケイ素化合物としてTMSガスを含む反応ガスを用いる場合には、反応ガスは、TMSガスを1として流量比で0.1〜1000のベンゼンガスを含み、キャリアガスは、0.1〜1000の水素ガスや0.1〜1000のアルゴンガスを含むとよい。TMSガスを1として流量比で、ベンゼンガスを1〜200、水素ガスを1〜200、アルゴンガスを1〜200とするとさらに好適である。
薄膜形成雰囲気の圧力は、10Pa以上1300Pa以下とすると好適である。300Pa以上667Pa以下とするとさらに好適である。成膜圧力を高くすると、反応ガスの濃度が高くなる。よって、成膜速度が大きく、実用的な速さで厚膜を形成することができる。また、上述のように、成膜圧力が高くても安定した放電が得られるという観点から、直流プラズマCVD法が好適である。
成膜温度は600℃以下が好ましい。成膜温度が600℃を超えると、膜の表面にいくらか欠陥ができる。また、成膜温度が低すぎると、放電が不安定になる。このため、成膜温度は200℃以上が好ましい。より好ましい成膜温度の範囲は、400℃以上550℃以下さらには450℃以上500℃以下である。
上記実施形態に基づいて、種々の基材の表面に種々の非晶質炭素膜を形成し、二種類の摺動試験を行って、形成した非晶質炭素膜の摩擦摩耗特性を評価した。以下、各摺動試験の試験方法および非晶質炭素膜の摩擦摩耗特性の評価方法について説明する。
(1)ボール・オン・ディスク試験による摩擦摩耗特性の評価
(a)Si含有非晶質炭素膜の形成
図2に示す直流プラズマCVD成膜装置を用いて、基材の表面に、Siを含有する非晶質炭素膜(以下「DLC−Si膜」と称す)を形成した。図2に示すように、直流プラズマCVD成膜装置1は、ステンレス鋼製の容器10と、基台11と、ガス導入管12と、ガス導出管13とを備える。ガス導入管12は、バルブ(図略)を介して各種ガスボンベ(図略)に接続される。ガス導出管13は、バルブ(図略)を介してロータリーポンプ(図略)および拡散ポンプ(図略)に接続される。
まず、容器10内に設置された基台11の上に、基材15を配置した。基材15は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440C(焼入れ焼戻し品、ロックウェルC硬さHRC58〜60)製のディスク試験片(直径30mm、厚さ3mm、十点平均粗さRzjis0.1μm)とした。次に、容器10を密閉し、ロータリーポンプおよび拡散ポンプにより、容器10内のガスを排気した。容器10内にガス導入管12から水素ガスを15sccm(standard cc/min)の流量で導入し、ガス圧を約133Paとした。その後、容器10の内側に設けた陽極板14と基台11との間に200Vの直流電圧を印加して、放電を開始した。そして、基材15の温度が500℃になるまで、イオン衝撃による昇温を行った。次に、窒素ガス500sccmおよび水素ガス40sccmを容器10内に導入し、圧力約800Pa、電圧400V(電流1.5A)、温度500℃に調整して、プラズマ窒化処理を1時間行った。プラズマ窒化処理後、基材15の断面組織を観察したところ、窒化深さは30μmであった。
プラズマ窒化処理後、容器10に、ガス導入管12から水素ガスとアルゴンガスとを30sccmずつ導入し、圧力約533Pa、電圧300V(電流1.6A)、温度500℃に調整して、1時間スパッタリングし、基材15の表面に微細な凹凸を形成した(凹凸形成処理)。凸部の平均幅は60nm、平均高さは30nmであった。次に、ガス導入管12から反応ガス、さらに水素ガスとアルゴンガスとを容器10に導入し、圧力約533Pa、電圧320V(電流1.8A)、温度500℃に調整して、成膜した。なお、反応ガスの成分は、下記表1に示すように変更され、それぞれ、表1に示すような流量で導入された。また、水素ガスおよびアルゴンガスは、30sccmずつ導入された。成膜時間を変えることにより、DLC−Si膜の膜厚を調整した。
このような方法で、六枚のディスク試験片に、それぞれ膜組成の異なる六種類のDLC−Si膜を形成した。形成したDLC−Si膜を、それぞれ#1〜#6と番号付けした。表1に、#1〜#6のDLC−Si膜の成膜条件(反応ガス種および流量)、膜組成、および全炭素に占めるCsp2、Csp3の割合を示す。ここで、#〜#6のDLC−Si膜は、本発明の非晶質炭素膜に含まれる。以下の試験では、各ディスク試験片に形成されたDLC−Si膜が、相手材との摺動面となる。
DLC−Si膜中の炭素(C)量、ケイ素(Si)量は、電子プローブ微小部分析法(EPMA)、X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、ラザフォード後方散乱法(RBS)により定量した。また、水素(H)量は、弾性反跳粒子検出法(ERDA)により定量した。ERDAは、2MeVのヘリウムイオンビームを膜表面に照射して、膜からはじき出される水素イオンを半導体検出器により検出し、膜中の水素濃度を測定する方法である。
Figure 0005051453
(b)摩擦摩耗特性の評価
#1〜#6のDLC−Si膜が形成された各ディスク試験片を用いて、ボール・オン・ディスク試験を行った。図3に、ボール・オン・ディスク試験装置の概略図を示す。図3に示すように、ボール・オン・ディスク試験装置3は、ディスク試験片30と、相手材となるボール31とから構成される。ディスク試験片30とボール31とは、ディスク試験片30に形成されたDLC−Si膜300とボール31とが当接する状態で設置される。ボール31は、直径6.35mmの軸受け鋼SUJ2ボール(ヴィッカース硬さHv750〜800、表面粗さRzjis0.1μm以下)である。
まず、無負荷の状態でディスク試験片30を回転させた後、ボール31の上から9.8Nの荷重をかけた。そして、ディスク試験片30上でボール31を摺動速度0.2m/sで相対的に摺動させた。60分間摺動させた後、摩擦摩耗特性を測定した。測定した摩擦摩耗特性は、ディスク試験片30とボール31との間の摩擦係数、ディスク試験片30の最大摩耗深さ、および、ディスク試験片30の摩耗幅である。ここで、摩耗深さは、膜を含む試験片全体に対する深さである。なお、摺動時にディスク試験片30とボール31との間にはたらく実面圧は約1.3GPaであった。
表2に、それぞれのDLC−Si膜とボール31との間の摩擦係数、それぞれのDLC−Si膜の最大摩耗深さおよび摩耗幅の測定結果を示す。なお、DLC−Si膜を形成していないディスク試験片自体(SUS440C)についても、上記同様のボール・オン・ディスク試験を行った。その結果を「SUS440C」として表2に示す。
Figure 0005051453
表2に示すように、#1のDLC−Si膜が形成されたディスク試験片(以下単に「#1の試験片」と称す)は、ボール31との摩擦係数は低いものの、摩耗幅と最大摩耗深さがともに大きくなった。つまり、#1のDLC−Si膜は耐摩耗性に劣る。#1のDLC−Si膜は、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、Siを12at%と多く含む。このため、#1のDLC−Si膜は、69kcal/molと低い結合エネルギーのC−Si結合の割合が多くなり、剪断に対する抵抗力が小さいと考えられる。
これに対して、#3〜#5の試験片では、低摩擦係数に加えて、摩耗幅および最大摩耗深さがともに小さくなった。つまり、#3〜#5のDLC−Si膜は耐摩耗性に優れることがわかる。#6の試験片では、摩耗幅は大きいものの、最大摩耗深さは小さくなった。ここで、Si含有量がほぼ同じ#3のDLC−Si膜と#5のDLC−Si膜とを比較すると、#5の方が耐摩耗性に優れる。#5のDLC−Si膜の方が、#3よりもCspの割合が多いため、強固なC=C結合(147kcal/mol)により#5のDLC−Si膜の剪断抵抗が増加したと考えられる。また、#5の試験片の結果より、膜厚が厚い場合にも、高い耐摩耗性を示すことがわかる。一方、#2の試験片では、最大摩耗深さがやや大きくなった。#2のDLC−Si膜におけるH含有量とCspの割合は比較的多い。このため、#2のDLC−Si膜は、C−H結合による分子の終端化が進み、摩耗し易くなったと考えられる。
(2)リング・オン・ブロック試験による摩擦摩耗特性の評価
(a)DLC−Si膜の形成
上記(1)(a)と同様の方法で、ブロック試験片に膜組成の異なる三種類のDLC−Si膜を形成した。基材となるブロック試験片は、高さ6.3mm、長さ15.7mm、幅10.1mmのマルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cであり、その表面粗さはRzjis0.1μm以下である。形成したDLC−Si膜の成膜条件、膜組成は、前出表1に示した#1、#3および#5とそれぞれ同じとした。
(b)摩擦摩耗特性の評価
DLC−Si膜を形成した各ブロック試験片を用いて、リング・オン・ブロック試験を行った。図4に、リング・オン・ブロック型摩擦試験機(FALEX社製LFW−1)の概略図を示す。図4に示すように、リング・オン・ブロック型摩擦試験機2は、ブロック試験片20と、相手材となるリング試験片21とから構成される。ブロック試験片20とリング試験片21とは、ブロック試験片20に形成されたDLC−Si膜200とリング試験片21とが当接する状態で設置される。リング試験片21はオイルバス22中に回転可能に設置される。本試験では、リング試験片21として、本摩擦試験機2の標準試験片であるS−10リング試験片(材質:SAE4620スチール浸炭処理材、形状:φ35mm、幅8.8mm、表面粗さ:Rzjis1.5〜2.0μm、FALEX社製)を用いた。また、オイルバス22には、80℃に加熱保持したエンジン油(5W−30)を用いた。
まず、無負荷の状態で、リング試験片21を回転させた。次いで、ブロック試験片20の上から300Nの荷重(ヘルツ面圧310MPa)をかけ、ブロック試験片20上でリング試験片21を摺動速度0.3m/sで摺動させた。30分間摺動させた後、摩擦摩耗特性を測定した。測定した摩擦摩耗特性は、ブロック試験片20とリング試験片21との間の摩擦係数、ブロック試験片20の最大摩耗深さ、および、ブロック試験片20の摩耗幅である。ここで、ヘルツ面圧とは、ブロック試験片20とリング試験片21との接触部の弾性変形を考慮した実面圧の最大値である。
表3に、それぞれのDLC−Si膜とリング試験片21との間の摩擦係数、それぞれのDLC−Si膜の最大摩耗深さおよび摩耗幅の測定結果を示す。なお、DLC−Si膜を形成していないブロック試験片自体(SUS440C)についても、上記同様のリング・オン・ブロック試験を行った。表3には、その結果を「SUS440C」として示す。
Figure 0005051453
表3に示すように、いずれのブロック試験片20においても、上記無潤滑条件下のボール・オン・ディスク試験に供されたディスク試験片30と比較して、耐摩耗性が向上した。これは、エンジン油下で行った本試験では、流体潤滑割合が増加したためである。なかでも、#3、#5のDLC−Si膜が形成されたブロック試験片20は、高い耐摩耗性を示した。
(3)内部応力測定
上記(1)(a)と同様の方法で、Siウエハの表面に、前出表1に示した#1、#5と同じ膜組成のDLC−Si膜をそれぞれ形成した。そして、各DLC−Si膜の内部応力を、Siウエハの反りから次式により算出した。
内部応力={(Siウエハのヤング率)×(Siウエハの厚さ)}/{6×(Siウエハのポアソン比)×(曲率半径)×(DLC−Si膜の厚さ)}
その結果、#1のDLC−Si膜は1.2GPa、#5のDLC−Si膜は0.5GPaとなった。つまり、ベンゼンを用いて形成した#5のDLC−Si膜(Csp:75at%)の方が、メタンを用いて形成した#1のDLC−Si膜(Csp:67at%)よりも、内部応力が小さくなった。これより、Cspの割合が多いと、膜の内部応力が小さくなることがわかる。
(4)#7および#8のDLC−Si膜
表4に示すように、メタンおよびベンゼンを含まずトルエンを含む反応ガスを用いた他は、上記と同様の方法でDLC−Si膜を成膜した。
Figure 0005051453
得られたDLC−Si膜を、それぞれ#7および#8とした。#7および#8のDLC−Si膜は、摩擦摩耗特性を測定するために、既に説明したボール・オン・ディスク試験およびリング・オン・ブロック試験に同様に供された。測定結果を表5および表6に示す。ここで、#8のDLC−Si膜は、本発明の非晶質炭素膜に含まれる。また、#7のDLC−Si膜は、本発明の非晶質炭素膜の参考例であって、本発明の非晶質炭素膜の形成方法により得られる。
Figure 0005051453
Figure 0005051453
表5および表6からわかるように、#7および#8のDLC−Si膜は、#2〜#6のDLC−Si膜と同様な摩擦摩耗特性を示した。すなわち、#7および#8のDLC−Si膜は、反応ガスにメタンとベンゼンが含まれなくても、優れた摺動特性と高い耐摩耗性とを示した。さらに、#6のDLC−Si膜と同様に、#7および#8のDLC−Si膜では、摩耗幅は比較的大きいが、最大摩耗深さが低減された。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
本発明の一例である非晶質炭素膜に関する13C NMRスペクトルのNMRチャートである。 直流プラズマCVD成膜装置の概略図である。 ボール・オン・ディスク試験装置の概略図である。 リング・オン・ブロック型摩擦試験機の概略図である。

Claims (6)

  1. 炭素の全体量を100at%とした場合に、70at%以上90at%以下のsp2混成軌道を持つ炭素を含む主成分としての炭素と、
    非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上10at%以下のケイ素と、
    非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、10at%以上25at%以下の水素と、
    を含有することを特徴とする非晶質炭素膜。
  2. 膜厚が5μm以上である請求項1に記載の非晶質炭素膜。
  3. 直流プラズマ化学蒸着により、基材の表面に、炭素の全体量を100at%とした場合に、60at%以上90at%以下のsp 2 混成軌道を持つ炭素を含む主成分としての炭素と、非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上10at%以下のケイ素と、を含有する非晶質炭素膜を形成する非晶質炭素膜の形成方法であって、
    前記基材を反応容器内に配置し、該反応容器内に、トルエンおよびナフタレンから選ばれる一種以上と、ケイ素化合物ガスと、を含有する反応ガスを導入して放電することを特徴とする非晶質炭素膜の形成方法。
  4. 前記非晶質炭素膜を形成中の成膜温度が、400℃以上550℃以下である請求項に記載の非晶質炭素膜の形成方法。
  5. 前記非晶質炭素膜は、炭素の全体量を100at%とした場合に、70at%以上90at%以下のsp 2 混成軌道を持つ炭素を含有し、さらに、
    非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、10at%以上25at%以下の水素を含有する請求項3または4に記載の非晶質炭素膜の形成方法。
  6. 基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成された非晶質炭素膜と、を備える高耐摩耗摺動部材であって、
    該非晶質炭素膜は、炭素の全体量を100at%とした場合に、70at%以上90at%以下のsp2混成軌道を持つ炭素を含む主成分としての炭素と、
    該非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、1at%以上10at%以下のケイ素と、
    非晶質炭素膜全体を100at%とした場合に、10at%以上25at%以下の水素と、
    を含有することを特徴とする高耐摩耗摺動部材。
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