JP2013091823A - 摺動部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】無潤滑または境界潤滑環境下での使用において、DLCなどの従来の非晶質炭素皮膜と同等の低摩擦性を有し、かつ従来の非晶質炭素皮膜よりも優れた耐摩耗性を有する皮膜が形成された摺動部品を提供する。
【解決手段】本発明に係る摺動部品は、無潤滑または境界潤滑環境下で使用される摺動部品であり、前記摺動部品を構成する基材の摺動面に非晶質硬質皮膜が形成された摺動部品であって、前記非晶質硬質皮膜は、硼素、炭素、窒素および酸素を少なくとも含有し、前記硼素、前記炭素、前記窒素および前記酸素の合計を100原子%とした場合に、前記炭素の含有率が12原子%以上であり、前記窒素の含有率が10原子%以上であり、前記硼素の含有率が前記炭素および前記窒素のそれぞれの含有率よりも高く、前記酸素の含有率が5原子%以上12原子%以下であり、前記非晶質硬質皮膜の厚さが0.08μm以上10μm以下であることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、無潤滑または境界潤滑環境下で使用される摺動部品に関し、特に摺動面に非晶質の硬質皮膜が形成された摺動部品に関するものである。
自動車部品をはじめとした摺動箇所での低摩擦化を主目的として、硬質皮膜を摺動面に形成した摺動部品が精力的に研究開発されている。硬質皮膜としては、a-C(アモルファスカーボン)、a-C:H(水素化アモルファスカーボン)、i-C(アイカーボン)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、硬質炭素などと呼称される薄膜状の非晶質炭素材料がしばしば用いられている。
非晶質炭素皮膜は、炭素原子同士の結合としてsp2結合とsp3結合の両方を含み、明確な結晶構造を持たない(粒界を持たない)構造体であり、高硬度と高靭性とを両立しかつ低摩擦性をも有する特長がある。そのため非晶質炭素皮膜は、TiN(窒化チタン)、TiAlN(窒化チタンアルミニウム)やCrN(窒化クロム)などの結晶性の硬質皮膜と比較して破壊靭性が高く摩擦低減の効果が優れているとされている。
一方、非晶質炭素皮膜は、高温環境(例えば、350℃程度以上)において、熱力学的により安定であるが機械的に脆弱なミクロ構造へ変化することが知られており、TiNの耐熱温度(約500℃)やTiAlNの耐熱温度(約800℃)などと比較すると著しく低く、高温環境下での耐摩耗性が低いという問題があった。また、非晶質炭素皮膜を潤滑油が共存する環境下で使用した場合に、期待される低摩擦性が十分に得られないという問題があった。
そのような問題を解決するために、非晶質炭素の組成を変えた皮膜が種々検討されている。例えば、特許文献1には、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する転動装置において、硼素(B)と窒素(N)を含有するダイヤモンドライクカーボン膜からなるB-C-N層が転動面に形成された転動装置が開示されている。前記B-C-N層中の硼素と窒素の含有率は、B-C-N層全体で、硼素:40原子%以下、窒素:58原子%以下、硼素と窒素の合計:80原子%以下が好ましいとされている。特許文献1によると、硼素と窒素を含有しないDLC膜が形成されている場合よりも、耐焼き付き性(潤滑性)および耐摩耗性が高くなるとされている。
特許文献2には、締結治具部材の締結摺動面の摩擦抵抗を減少させるために、炭素の一部を硼素及び窒素で置換した炭窒化硼素の硬質被膜を締結摺動面の全面または一部分に被覆した締結治具部材が開示されている。硬質皮膜としては、40原子%以上99原子%未満の炭素および1原子%以上40原子%未満の水素からなる皮膜をベースとし、その炭素の一部を硼素および窒素で置換した炭窒化硼素皮膜(合計置換量が10〜80%)が好ましいとされている。
特許文献3には、モリブデンを含む潤滑油を用いた湿式条件で使用され、基材と該基材の表面に形成され相手材と摺接する非晶質硬質炭素膜とを備える低摩擦摺動部材であって、前記非晶質硬質炭素膜は、炭素(C)を主成分とし、該非晶質炭素膜全体を100原子%としたときに、水素(H)を5原子%以上25原子%以下含み、所定量の硼素(B)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)またはマンガン(Mn)を含む低摩擦摺動部材が開示されている。特許文献3によると、モリブデンを含む潤滑油を用いた湿式条件において、大幅に摩擦が低減されるとされている。
特許文献4には、潤滑油中で使用される摺動部材において、少なくとも表面層が硬質炭素皮膜からなり、硬質炭素皮膜表面に窒素および/または酸素を含有させた硬質炭素皮膜摺動部材が開示されている。硬質炭素皮膜としては、表面の水素含有量が10原子%以下であり、表面の窒素および/または酸素含有量が0.5原子%以上30原子%以下であることが好ましいとされている。特許文献4によると、潤滑油中であっても硬質炭素皮膜の固体潤滑性を有効に機能させることができるので、潤滑性および耐摩耗性に優れた超寿命の硬質炭素皮膜摺動部材を提供できるとされている。
特許文献5には、潤滑油の存在下で摺動される摺動面を持つ基材と、該摺動面の少なくとも一部に固定した被膜とからなる摺動部材であって、前記被膜は、炭素を主成分とし、1〜5原子%の珪素と20〜40原子%の水素とを含むダイヤモンドライクカーボンからなる摺動部材が開示されている。前記被膜は、1原子%未満の窒素および5原子%未満の酸素の少なくとも1種を含んでいる。特許文献5によると、該摺動部材は、潤滑油中の高面圧あるいは高速度な摺動環境下で、優れた耐摩耗性と高耐焼付き性を示すとされている。
特開2004−60668号公報 特開2005−282668号公報 特開2011−32429号公報 特開2000−297373号公報 特開2003−336542号公報
E. H. A. Dekempeneer et al., "Tribological properties of r. f. PACVD amorphous B-N-C coatings", Thin Solid Films, 281-282 (1996) pp. 331-333.
上述したように、非晶質炭素の組成を変えた従来の皮膜は、潤滑油が共存する環境下で使用した場合でも低摩擦性が発揮されたり、耐摩耗性が向上したりするとされている。しかしながら、無潤滑または境界潤滑(潤滑剤が十分でない潤滑)環境下において、非晶質炭素の組成を変えた従来の皮膜は、通常の非晶質炭素皮膜(例えば、DLC)よりも摩擦係数が高くなるという弱点がある(例えば、非特許文献1参照)。一方、前述したように、DLCなどの非晶質炭素皮膜は、低摩擦性という利点を有するが、大きな摩擦熱が発生する環境下では該摩擦熱によって脆弱化されるため、耐摩耗性が低いという弱点も有する。
したがって、本発明の目的は、無潤滑または境界潤滑環境下での使用において、DLCなどの従来の非晶質炭素皮膜と同等の低摩擦性を有し、かつ従来の非晶質炭素皮膜よりも優れた耐摩耗性を有する皮膜が形成された摺動部品を提供することにある。
本発明の一つの態様は、上記目的を達成するため、無潤滑または境界潤滑環境下で使用される摺動部品であり、前記摺動部品を構成する基材の摺動面に非晶質硬質皮膜が形成された摺動部品であって、前記非晶質硬質皮膜は、硼素、炭素、窒素および酸素を少なくとも含有し、前記硼素、前記炭素、前記窒素および前記酸素の合計を100原子%とした場合に、前記炭素の含有率が12原子%以上であり、前記窒素の含有率が10原子%以上であり、前記硼素の含有率が前記炭素および前記窒素のそれぞれの含有率よりも高く、前記酸素の含有率が5原子%以上12原子%以下であり、前記非晶質硬質皮膜の厚さが0.08μm以上10μm以下であることを特徴とする摺動部品を提供する。
なお、本発明において、含有率とは皮膜中の平均含有率と定義する(局所的な含有率ではない)。また、本発明において、無潤滑または境界潤滑環境とは、一時的に無潤滑または境界潤滑の状態になる場合(例えば、コールドスタート時)を含むものとする。
また、本発明は、上記の発明に係る摺動部品において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記非晶質硬質皮膜は、前記硼素の一部で該硼素の代わりに珪素が含有されている。言い換えると、前記非晶質硬質皮膜は、硼素、珪素、炭素、窒素および酸素を少なくとも含有し、前記硼素、前記珪素、前記炭素、前記窒素および前記酸素の合計を100原子%とした場合に、前記炭素の含有率が12原子%以上であり、前記窒素の含有率が10原子%以上であり、前記硼素と前記珪素との合計含有率が前記炭素および前記窒素のそれぞれの含有率よりも高く、前記酸素の含有率が5原子%以上12原子%以下であり、前記非晶質硬質皮膜の厚さが0.08μm以上10μm以下である。
(ii)前記非晶質硬質皮膜は、非晶質の母相中に直径10 nm以下の結晶粒子が分散している微細構造を有する。
(iii)前記非晶質硬質皮膜は、前記硼素、前記炭素、前記窒素および前記酸素の合計を100原子部とした場合に、10原子部以下の水素および8原子部以下のアルゴンを更に含有する。なお、前記硼素の一部で該硼素の代わりに珪素が含有されている場合は、前記硼素、前記珪素、前記炭素、前記窒素および前記酸素の合計を100原子部とする。
(iv)前記摺動部品は、前記非晶質硬質皮膜と前記基材との間に複数の中間層が介在し、前記複数の中間層は、前記基材の直上に形成され珪素、クロム、チタンおよびタングステンから選ばれる1種以上の元素からなる第1中間層と、前記第1中間層の直上に形成され前記第1中間層の元素と前記非晶質硬質皮膜を構成する元素とからなる第2中間層とを備え、前記第2中間層は、前記第1中間層の元素の含有率が漸減するとともに前記非晶質硬質皮膜を構成する元素の含有率が漸増する。
(v)前記摺動部品は、内燃機関内に配されるバルブリフタ、アジャスティングシム、カム、カムシャフト、ロッカーアーム、タペット、ピストン、ピストンピン、ピストンリング、タイミングギア、タイミングチェーン、および燃料供給システム内に配されるインジェクタ、プランジャ、シリンダ、カム、ベーンのいずれかである。
(vi)前記摺動部品の製造方法であって、前記非晶質硬質皮膜の形成は、非平衡マグネトロンスパッタ装置を用いた反応性スパッタ法によって前記基材の摺動面に対して行われ、硼素成分および炭素成分の供給源として炭化硼素ターゲットを少なくとも用い、窒素成分および酸素成分の供給源として窒素と酸素とを少なくとも含む混合ガスを用いる。
本発明によれば、無潤滑または境界潤滑環境下での使用において、DLCなどの従来の非晶質炭素皮膜と同等の低摩擦性を有し、かつ従来の非晶質炭素皮膜よりも優れた耐摩耗性を有する皮膜が形成された摺動部品を提供することができる。
本発明に係る摺動部品の1例の断面模式図と該断面における組成分布のイメージ図である。 潤滑環境下での摩擦摩耗試験の概略を示す断面模式図である。 無潤滑環境下での摩擦摩耗試験の概略を示す斜視模式図である。
(本発明の硬質皮膜の基本思想)
本発明に係る摺動部品の摺動面に形成される硬質皮膜は、非晶質窒化硼化炭素の皮膜をベースとし、制御された量の酸素を含有している。非晶質窒化硼化炭素は、硼素と窒素と炭素との結合が非晶質炭素における炭素同士の結合と同じ形態をとる特徴があり、sp2結合およびsp3結合を同時に含んだ非晶質構造を形成する。
前述したように、非晶質炭素は、熱エネルギー(例えば、摩擦熱)を受けると炭素同士のsp3結合の一部がsp2結合に変化してグラファイト構造(sp2結合で構成される層構造)を局部的に形成し、自己潤滑(固体潤滑)による低摩擦メカニズムを持つ。言い換えると、これは、構造が熱的に不安定であることを意味し、耐摩耗性に劣る要因でもあった。
一方、非晶質窒化硼化炭素は、硼素と窒素との結合の熱的安定性が優れているためにsp3結合がsp2結合に容易に変化せず、非晶質炭素と同様の高硬度および高靭性に加えて、耐熱性と高い耐摩耗性とを発揮することが可能である。しかしながら、低摩擦性に関しては、他の窒化物などよりは優れているものの、非晶質炭素に比べると低いとは言えない弱点がある。
そこで、本発明においては、非晶質窒化硼化炭素に制御された量の酸素を意図的に含有させる。含有させた酸素は、窒化硼化炭素中の硼素と主に結合する。これにより、非晶質窒化硼化炭素皮膜中に硼素と酸素との結合(B-O結合)が部分的に形成される。酸素と硼素で構成される酸化硼素は、層状構造を形成することで自己潤滑メカニズムに準じた低摩擦性を発揮することができる。なお、硬質皮膜内の酸化硼素の組成は、常温で安定なB2O3に限定されるものではなく、BO3の積層構造に由来してB1~2O3の組成範囲をとることができる。
以下、本発明に係る実施形態について、より具体的に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
(硬質皮膜の構成)
前述したように、本発明に係る摺動部品の摺動面に形成される硬質皮膜は、その成分として、硼素、炭素、窒素および酸素を少なくとも含有する。硼素、炭素、窒素および酸素の合計を100原子%とした場合に、炭素の含有率が12原子%以上であり、窒素の含有率が10原子%以上であり、硼素の含有率が炭素および窒素のそれぞれの含有率よりも高く、酸素の含有率が5原子%以上12原子%以下である。
炭素の含有率が12原子%未満になると、安定した非晶質構造を維持することが困難になる。窒素の含有率が10原子%未満になると、耐熱性に寄与する結合(B-N結合、C-N結合およびC=N結合)が少なくなることから、耐熱性が低下する。硼素の含有率が、炭素の含有率または窒素の含有率よりも低くなると、耐熱性および耐摩耗性が低下する。
本発明は、非晶質窒化硼化炭素に制御された量の酸素を意図的に含有させることに最大のポイントがある。酸素含有率が5原子%未満になると、酸化硼素構造(B-O結合)が不足して十分な低摩擦性を得ることができない。一方、酸素含有率が12原子%超になると、非晶質皮膜内に脆弱な原子結合(脆弱構造)を形成して膜硬度および耐摩耗性が低下する。
また、本発明の非晶質硬質皮膜の厚さは、0.08μm以上10μm以下が好ましい。実用上十分な耐久性(摩耗により下地が露出しない耐久性)を確保するためには、0.08μm以上の厚さが必要である。一方、厚さが10μm超となると、剥離しやすくなることから好ましくない。
また、本発明の非晶質硬質皮膜は、硼素成分の一部をIV族元素で置き換えるように含有させることは好ましい。含有させるIV族元素としては、Si、Ge、Snの少なくとも1種を利用することができるが、特に、原子半径が炭素に近い珪素を含有させることが好ましい。これにより、高硬度を向上させることができる。
本発明の硬質皮膜は、非晶質構造を主体とするが、非晶質の母相中に直径10 nm以下の微細な結晶粒子(例えば、酸化硼素結晶粒子や酸化珪素結晶粒子)が分散していても良い。ただし、分散する結晶粒子の大きさが10 nmを超えると、非晶質硬質皮膜本来の高靭性が損なわれて破壊強度が低下するため、直径10 nm以下の微細結晶粒子が望ましい。
硬質皮膜の組成およびミクロ構造の分析には、ラマン分光法、透過型電子顕微鏡(TEM)、オージェ電子分光(AES)、電子エネルギー損失分光法(EELS)、X線回折法(XRD)、電子線回折法(LEED/RHEED)、X線光電子分光法(XPS)および核磁気共鳴法(NMR)などで行うことができる。この内、皮膜の厚さ方向の組成分布や微細結晶粒子の組織は、試験片の断面観察において、エネルギー分散型X線分光装置を供えた高分解能透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)やオージェ電子分光(AES)によって好適に分析することができる。
本発明の硬質皮膜は、その製造上の不可避元素として水素やアルゴンが混入する場合がある(製造方法は後述する)。その場合、硼素、炭素、窒素および酸素の合計を100原子部としたときに、水素は10原子部以下、アルゴンは8原子部以下に制御することが好ましい。該規定の範囲を超えると、皮膜が脆弱化することから好ましくない。なお、皮膜に珪素が含有されている場合は、硼素、珪素、炭素、窒素および酸素の合計を100原子部と見なす。
(基材)
本発明において、非晶質硬質皮膜を形成する基材に特段の限定はないが、耐久性などを考慮すると、例えば鉄鋼材、アルミ材、エンジニアリングプラスチック、およびセラミックスを好適に使用できる。また、基材に鉄鋼材を用いる場合、皮膜密着性を高めるために硬質の鉄鋼材を用いることが好ましいが、軟質の鉄鋼材の表面に窒化、浸炭、炭窒化などの表面処理を施して硬化させたものでもよい。なお、基材の表面粗さが形成する皮膜厚さの1/10よりも大きいと低摩擦効果を十分に発揮できないため、基材表面は予め仕上げ加工(例えば、平均表面粗さRaが0.1μm以下)を施しておくことが望ましい。
(中間層)
図1は、本発明に係る摺動部品の1例の断面模式図と該断面における組成分布のイメージ図である。図1に示したように、本発明に係る摺動部品1は、基材2の摺動面に非晶質硬質皮膜3が形成されている。非晶質硬質皮膜3は、基材2上に直接成膜されてもよいが、基材2との密着性を向上させるために中間層4を設けた構造にすることはより好ましい。
中間層4としては、基材2の直上に金属のみからなる第1中間層41が形成され、第1中間層41の直上に第1中間層41の元素と非晶質硬質皮膜3を構成する元素とからなる第2中間層42が形成され、第2中間層42の厚さ方向の組成プロフィールが第1中間層41との界面から非晶質硬質皮膜3との界面まで連続的に変化していることが望ましい。言い換えると、第2中間層42は、第1中間層41の元素の含有率が漸減するとともに非晶質硬質皮膜3を構成する元素の含有率が漸増し、上部にいくほど非晶質硬質皮膜3に近い組成を有する。このような多層構造を形成することにより、非晶質硬質皮膜3の内部応力が緩和されるとともに基材2との密着性が向上し、界面剥離を抑止して耐久性をさらに向上させることができる。第1中間層41に用いる金属元素は、珪素(Si)、クロム(Cr)、チタン(Ti)およびタングステン(W)の少なくとも1種であることが好ましい。
(摺動部品)
本発明に係る摺動部品は、無潤滑または境界潤滑環境下(一時的に無潤滑または境界潤滑の状態になる場合(例えば、コールドスタート時)を含む)で使用されるものに好適である。例えば、内燃機関内に配される摺動部品としては、バルブリフタ、アジャスティングシム、カム、カムシャフト、ロッカーアーム、タペット、ピストン、ピストンピン、ピストンリング、タイミングギア、およびタイミングチェーン等が挙げられる。また、燃料供給システム内に配される摺動部品としては、インジェクタ、プランジャ、シリンダ、カム、ベーン等が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されるものではなく、他の摺動部品へも広く適用可能である。
(製造方法)
本発明の非晶質硬質皮膜は高融点の材料であり、通常の熱処理(例えば、電気炉)を利用して基材上に形成しようとすると、基材に対する悪影響が懸念される。そのため、低温で高エネルギーを実現できるプラズマを利用した製造方法が好ましい。
本発明の非晶質硬質皮膜の成膜方法としては、スパッタ法や、プラズマCVD法、イオンプレーティング法など既存の方法を用いることができるが、反応性スパッタ法を用いることが特に望ましい。反応性スパッタ法は、皮膜表面を平滑に作製でき、かつ硼素と炭素と窒素とが結合した非晶質窒化硼化炭素皮膜を作製しやすい成膜方法である。また、窒素および酸素の供給源として、窒素ガス、アンモニアガス、酸素ガスおよび空気のいずれかまたは複数を使用した反応性スパッタ法を実施することにより、より硬質の皮膜を作製することができる。
反応性スパッタ法を実施するにあたり、非平衡マグネトロンスパッタ(UBMS)技術および/または高出力パルススパッタ(HPPMS)技術を導入した製造装置を用いることが好ましい。従来のスパッタ装置を用いた場合、プラズマの持つエネルギーに制約があるとともに、プラズマがターゲット付近で主に励起されるため、被成膜材である基材付近で高い励起状態を保つことが困難である。
これに対し、非平衡マグネトロンスパッタ技術は、プラズマ分布を制御して基材側でのプラズマ密度を高めることができる技術である。また、高出力パルススパッタ技術は、ターゲット上でのプラズマ発生効率を向上できる技術である。これらの技術を利用した装置で反応性スパッタを実施した場合、プラズマ密度の向上によってより硬質の皮膜が形成できる。
本発明の窒化硼化炭素皮膜(BCNO皮膜)を作製する場合、炭素成分および硼素成分の供給源として炭化硼素ターゲット、または炭化硼素ターゲットとグラファイトターゲットとの組み合せを用い、窒素成分および酸素成分の供給源として窒素と酸素とを少なくとも含む混合ガス(例えば、窒素ガスと酸素ガスとアルゴンガスとの組み合せ、窒素ガスとアンモニアガスと空気とアルゴンガスとの組み合せ)を用いることが望ましい。還元反応を強化する目的で、水素ガスや炭化水素ガスを併用してもよいが、非晶質硬質皮膜内に残留する水素はできるだけ減らすことが好ましい。
また、BCNOの硼素成分の代わりに珪素成分を含有させた本発明の窒化硼化炭化珪素皮膜(SiBCNO皮膜)を作製する場合、前記のBCNO皮膜の製造方法に加えて、珪素成分の供給源として珪素ターゲットまたは炭化珪素ターゲットを用いることが好ましい。珪素成分の供給源としてシランガスやテトラメチルシランガス等のガスを用いてもよいが、非晶質硬質皮膜内に残留する水素ができるだけ少なくなるように制御することが好ましい。
以下、実施例により本発明の具体例を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1の作製)
非平衡マグネトロンスパッタ装置内に、基材(表面研磨した浸炭焼入れ鉄鋼)、クロムターゲット、炭化硼素ターゲットをセットした。アルゴンガスを流入させながらクロムターゲットに電力を投入して基材の表面に第1中間層(厚さ0.1μm)を成膜した。引き続いて、炭化硼素ターゲットに電力を追加投入し、窒素ガスと酸素ガスとを追加流入させて第2中間層(厚さ0.5μm)を成膜した。第2中間層の成膜では、クロム濃度が漸減するとともに炭素濃度と硼素濃度とが漸増するようにターゲット電力とガス流量とを調整した。その後、クロムターゲットの電力を遮断し、アルゴンガスと窒素ガスと酸素ガスとを継続流入させながら炭化硼素ターゲットに電力を継続投入して実施例1の非晶質BCNO皮膜(厚さ1.7μm)を成膜した。
得られたBCNO皮膜の平均表面粗さRaを測定したところ、基材のそれと同じ0.02μmであった。試験片の断面に対してイオンミリング加工を行い、BCNO皮膜の組成分析をAESにより行った。AESのプローブ径を25 nmとし、27 nm間隔で測定した。その結果、平均原子濃度比は「B:C:N:O=49.5:14.5:27.5:8.5」であり所望の組成が得られていることが確認された。H成分およびAr成分の含有量は、B、C、N、Oの合計を100原子部としたときに、それぞれ10原子部以下、8原子部以下であることを確認した。また、BCNO皮膜の厚さ方向において、ほぼ一様な組成分布であることも確認した。BCNO皮膜の膜硬度を微小押込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス、ENT−110a)で測定したところ、15 GPaであった。皮膜の性状を表1に示す。
(実施例2〜6および比較例1〜7の作製)
非平衡マグネトロンスパッタ装置を用い、グライファイトターゲットを加え、実施例1と同様の手順によって実施例2〜5および比較例1〜7を作製した。このとき、ターゲット投入電力、ガス流量、および成膜時間をそれぞれ調整し、異なる組成や膜厚を有する非晶質BCNO皮膜を成膜した。得られたBCNO皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。各皮膜の性状を表1に示す。
(実施例7の作製)
高出力パルススパッタ装置(ハウザーテクノコーティングB.V.社)内に、基材(表面研磨した浸炭焼入れ鉄鋼)、クロムターゲット、炭化硼素ターゲットをセットした。アルゴンガスを流入させながらクロムターゲットに電力を投入して基材の表面に第1中間層(厚さ0.1μm)を成膜した。その後、クロムターゲットの電力を遮断し、アルゴンガスと窒素ガスと酸素ガスとを流入させながら炭化硼素ターゲットに電力を投入して酸素濃度が実施例7の非晶質BCNO皮膜(厚さ1.7μm)を成膜した。第2中間層は形成しなかった。得られたBCNO皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。実施例7の性状を表1に示す。
(実施例8の作製)
非平衡マグネトロンスパッタ装置内に、基材(表面研磨した浸炭焼入れ鉄鋼)、珪素ターゲット、グライファイトターゲット、炭化硼素ターゲットをセットした。アルゴンガスを流入させながら珪素ターゲットに電力を投入して基材の表面に第1中間層(厚さ0.1μm)を成膜した。引き続いて、グライファイトターゲットと炭化硼素ターゲットとに電力を追加投入し、窒素ガスと酸素ガスとを追加流入させて第2中間層(厚さ0.5μm)を成膜した。第2中間層の成膜では、珪素濃度が漸減するとともに炭素濃度と硼素濃度とが漸増するようにターゲット電力とガス流量とを調整した。その後、アルゴンガスと窒素ガスと酸素ガスとを継続流入させながら珪素ターゲットとグライファイトターゲットと炭化硼素ターゲットとに電力を継続投入して実施例8の非晶質SiBCNO皮膜(厚さ1.9μm)を成膜した。得られたSiBCNO皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。実施例8の性状を表1に示す。
(実施例9〜10および比較例8〜12の作製)
非平衡マグネトロンスパッタ装置を用い、実施例8と同様の手順によって実施例9〜10および比較例8〜12を作製した。このとき、ターゲット投入電力、ガス流量、および成膜時間をそれぞれ調整し、異なる組成や膜厚を有する非晶質SiBCNO皮膜を成膜した。得られたSiBCNO皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。各皮膜の性状を表1に示す。
(実施例11の作製)
高出力パルススパッタ装置(ハウザーテクノコーティングB.V.社)内に、基材(表面研磨した浸炭焼入れ鉄鋼)、珪素ターゲット、珪素および炭化硼素の複合ターゲットをセットした。アルゴンガスを流入させながら珪素ターゲットに電力を投入して基材の表面に第1中間層(厚さ0.1μm)を成膜した。その後、珪素ターゲットの電力を遮断し、アルゴンガスと窒素ガスと酸素ガスとを流入させながら複合ターゲットに電力を投入して実施例11の非晶質SiBCNO皮膜(厚さ1.9μm)を成膜した。第2中間層は形成しなかった。得られたSiBCNO皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。実施例11の性状を表1に示す。
(実施例12の作製)
高出力パルススパッタ装置を用い、実施例11と同様の手順によって実施例12を作製した。このとき、ターゲット投入電力、ガス流量、および成膜時間をそれぞれ調整し、異なる組成や膜厚を有する非晶質SiBCNO皮膜を成膜した。得られたSiBCNO皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。実施例12の性状を表1に示す。
(比較例13の作製)
非平衡マグネトロンスパッタ装置内に、基材(表面研磨した浸炭焼入れ鉄鋼)、クロムターゲット、グライファイトターゲットをセットした。アルゴンガスを流入させながらクロムターゲットに電力を投入して基材の表面に第1中間層(厚さ0.1μm)を成膜した。引き続いて、グライファイトターゲットに電力を追加投入し、メタンガスを追加流入させて第2中間層(厚さ0.5μm)を成膜した。第2中間層の成膜では、クロム濃度が漸減するとともに炭素濃度が漸増するようにターゲット電力とガス流量とを調整した。その後、クロムターゲットの電力を遮断し、アルゴンガスとメタンガスとを継続流入させながらグラファイトターゲットに電力を継続投入して比較例13のDLC皮膜(厚さ1.8μm)を成膜した。得られたDLC皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。比較例13の性状を表1に示す。
(比較例14の作製)
非平衡マグネトロンスパッタ装置を用い、窒素ガスを追加流入させた以外は比較例13と同様の手順によって比較例14の非晶質窒化炭素皮膜(CN)を成膜した。得られたCN皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。比較例14の性状を表1に示す。
(比較例15の作製)
非平衡マグネトロンスパッタ装置内に、基材(表面研磨した浸炭焼入れ鉄鋼)、クロムターゲット、窒化硼素(h-BN)ターゲットをセットした。アルゴンガスを流入させながらクロムターゲットに電力を投入して基材の表面に第1中間層(厚さ0.1μm)を成膜した。引き続いて、窒化硼素ターゲットに電力を追加投入し、メタンガスと酸素ガスとを追加流入させて第2中間層(厚さ0.5μm)を成膜した。第2中間層の成膜では、クロム濃度が漸減するとともに硼素濃度が漸増するようにターゲット電力とガス流量を調整した。その後、クロムターゲットの電力を遮断し、アルゴンガスとメタンガスと酸素ガスとを継続流入させながら窒化硼素ターゲットに電力を継続投入して比較例15のBNO皮膜(厚さ1.6μm)を成膜した。得られたBNO皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。比較例15の性状を表1に示す。
(比較例16の作製)
アークイオンプレーティング(AIP)装置を用い、基材(表面研磨した浸炭焼入れ鉄鋼)上に窒化チタン皮膜(TiN、厚さ2.0μm)を成膜した。得られたTiN皮膜の性状を実施例1と同様に調査した。比較例16の性状を表1に示す。
(比較例17の用意)
硬質皮膜を形成していない浸炭焼入れ鉄鋼を表面研摩し、基材のみの試験片(比較例17)を用意した。比較例17の性状を実施例1と同様に調査したところ、平均表面粗さはRa=0.02μmであり、浸炭表面の硬さはロックウェル硬度で58 HRcを示した。
Figure 2013091823
(微細構造解析および微細構造観察)
成膜した各皮膜(実施例1〜12および比較例1〜16)に対して、透過型電子顕微鏡の電子線回折図形を用いて微細構造を解析した。その結果、比較例13以外の皮膜では、全て非晶質を示すハローパターンが見られ、非晶質を主体とする構造であることが確認された。一方、比較例13のTiN皮膜は、透過型電子顕微鏡の電子線回折において明瞭な回折パターンを示し、結晶質の皮膜であることが確認された。
また、成膜した各皮膜に対して、高分解能機能像による微細構造観察を行った。その結果、実施例1、実施例3、実施例4〜6および実施例9〜12は、非晶質の母相中に直径2〜8 nmの結晶粒子が分散した構造が確認された。一方、比較例4〜5および比較例11は、非晶質の母相中に直径20 nm程度の結晶粒子が分散した構造が確認され、比較例6および比較例12は、非晶質の母相中に直径100 nm以上の結晶粒子が分散した構造が確認された。
(摩擦摩耗試験)
前述したように、本発明は、境界潤滑または無潤滑環境下での使用において、DLCなどの従来の非晶質炭素皮膜と同等の低摩擦性を有し、従来の非晶質炭素皮膜よりも優れた耐摩耗性を有する皮膜が形成された摺動部品の提供を目的とする。そこで、作製した各種硬質皮膜を有する試験片を用いて摩擦摩耗の加速試験を行い、境界潤滑環境下および無潤滑環境下での摩擦係数と摩耗速度とを測定した。摩耗速度が小さいほど耐摩耗性が高いと見なすことができる。摩擦摩耗試験には松原式摩擦摩耗試験機(株式会社オリエンテック、型式:EFM-III)を用いた。
図2は、潤滑環境下での摩擦摩耗試験の概略を示す断面模式図である。図2に示したように、摩擦摩耗試験装置10は、プレート試験片11、リング試験片12、加熱用ヒータ13、トルク測定用アーム14、ロードセル15、浴槽16、浸漬液17、および保温用オイル18から構成されている。プレート試験片11は、鉄鋼板(SUS440B、幅3 mm、長さ20 mm)を基材に用い、摺動面となる基材表面に各種皮膜を形成したものである。リング試験片12は、摺動の相手材となるものであり、表面をガス窒化処理した鉄鋼管(SKD10、外半径5.5 mm、内半径3.5 mm)を用いた。プレート試験片11とリング試験片12との見掛けの接触面積は12.2 mm2である。浸漬液17にはポリアルファオレフィンを用い、浴槽16を満たした。
摩擦摩耗試験は、摺動部外周の周速度が0.5 m/sとなるようにプレート試験片11を回転させながら、リング試験片12に対する荷重を0 kgfから10 kgfまで増加させ、面圧8.0 MPaで10時間保持(5.2×105回転)とした。また、保温用オイル18の温度を測定し、試験温度が90℃になるように加熱ヒータ13で調整して試験を実施した。
摩擦係数は、10時間保持中に計測される摩擦係数を平均して求め、摩耗速度は、摺動面における試験前後の膜厚の差分を保持時間で除して求めた。なお、摩耗速度が大きい皮膜においては、試験後の膜厚がゼロにならないように保持時間を調整して摩耗速度を測定した。
面接触の摺動試験において、潤滑油の油膜厚さtは、潤滑油の粘度をη、速度をv、見掛けの接触面積をa、摩擦係数をμ、および荷重をPとしたときに次式(1)で概算することができる。
Figure 2013091823
油温100℃のときのポリアルファオレフィンの粘度はη=1.60×10-3 Pa・sであり、油温40℃のときのポリアルファオレフィンの粘度はη=5.11×10-3 Pa・sである。式(1)にv=0.5 m/s、a=1.22×10-5 m2、代表的な摩擦係数としてμ=0.15をそれぞれ代入すると、油温を90℃に設定したときの油膜厚さtは「6.6×10-10 m<t<2.1×10-9 m」の範囲であることが分かる。
摩擦摩耗試験に用いたプレート試験片11およびリング試験片12の平均表面粗さはRa>10-8 mであることから、油膜厚さtは摺動面の平均表面粗さに比べて十分に薄い。すなわち、本摩擦摩耗試験における潤滑条件は、摺動面に介在する潤滑剤が分子レベルの厚さであり、試験片同士の固体接触の影響が無視できない「境界潤滑」の状態にあると言える。試験結果を表2に示す。
図3は、無潤滑環境下での摩擦摩耗試験の概略を示す斜視模式図である。図3に示したように、摩擦摩耗試験装置20は、ディスク試験片21、ボール試験片22、トルク測定用アーム14、およびロードセル15から構成されている。ディスク試験片21は、鉄鋼盤(SUS440B、直径20 mm)を基材に用い、摺動面となる基材表面に各種皮膜を形成したものである。ボール試験片22は、摺動の相手材となるものであり、表面をガス窒化処理した鉄鋼球(SKD10、直径4 mm)を用いた。
摩擦摩耗試験は、室温(20〜25℃)で行い、摺動部の周速度が0.5 m/sとなるようにディスク試験片21を回転させながら、ボール試験片22に対する荷重を10kgfとし、面圧を1670 MPaとして10分間保持した。なお、面圧は、ヘルツの接触応力における「球面と平面との接触」の場合として求めた。
摩擦係数は、10分間保持中に計測される摩擦係数を平均して求め、摩耗速度は、摺動部における試験前後の膜厚の差分を保持時間で除して求めた。なお、摩耗速度が大きい皮膜においては、試験後の膜厚がゼロにならないように保持時間を調整して摩耗速度を測定した。試験結果を表2に示す。
Figure 2013091823
表2に示したように、比較例13(DLC皮膜)は、境界潤滑および無潤滑環境下のいずれの場合でも、摩擦係数は低いが、摩耗速度が著しく大きいことが確認された。これは、DLC皮膜の自己潤滑(固体潤滑)メカニズムに起因すると考えられた。比較例14(CN皮膜)は、DLC皮膜よりも摩耗速度が低減した(耐摩耗性が向上した)が、摩擦係数が1.4〜1.7倍に増大した。比較例15(BNO皮膜)は、摩擦係数がDLC皮膜の1.2倍未満と低かったが、摺動中に膜の剥離が発生して損傷した。比較例16(TiN膜)は、摩擦係数が非常に大きく、無潤滑環境下では焼付きを起こしたため、試験を中断せざるを得なかった。比較例17(皮膜をコーティングしなかった試験片)は、境界潤滑および無潤滑のいずれの環境下でも焼付きを起こした。
これらに対し、本発明に係る実施例1〜12(BCNO皮膜、SiBCNO皮膜)は、境界潤滑環境下の摩擦係数が0.100以下でありDLC皮膜と同等な低摩擦性を示しながら、境界潤滑環境下の摩耗速度をDLC皮膜よりも1〜2桁低減し、無潤滑環境下の摩耗速度をDLC皮膜よりも1桁以上低減できることが確認された。
一方、酸素濃度が本発明の規定よりも少ない皮膜(比較例1〜3、比較例8〜10)は、境界潤滑環境下の摩擦係数が0.110超と大きくなった。また、酸素濃度が本発明の規定よりも多い皮膜(比較例4〜6、比較例11〜12)は、摩耗速度が増大し(耐摩耗性が低下し)、試験中に皮膜が剥離してしまう試料もあった。これは、過剰酸素が皮膜中で脆弱な構造(脆弱な結合)を形成したためと考えられた。
また、皮膜の組成がほぼ同じであり膜厚の異なる実施例4と実施例5と比較例7とを比較すると、実施例4では、膜厚が0.08μmと非常に薄いにもかかわらず、良好な耐摩耗性を示した。実施例5も良好な耐摩耗性を示した。本摩擦摩耗試験は、非常に厳しい条件による加速試験であることから、本試験で良好な耐摩耗性を示したことは、実用上で必要十分な耐摩耗性を有することを意味している。一方、比較例7は、試験中に皮膜が剥離した。これは、比較例7の膜厚が厚過ぎたために摺動中の応力に耐えられなかったためと考えられた。この結果から、本発明の非晶質硬質皮膜の厚さは、0.08〜10μmが好ましいと言える。
以上示したように、本発明に係る摺動部品は、無潤滑または境界潤滑環境下での使用において、DLCなどの従来の非晶質炭素皮膜が形成された摺動部品と同等の低摩擦性を有しながら、該従来の摺動部品よりも優れた耐摩耗性を有することが実証された。
1…摺動部品、2…基材、3…非晶質硬質皮膜、
4…中間層、41…第1中間層、42…第2中間層、
10,20…摩擦摩耗試験装置、11…プレート試験片、12…リング試験片、
13…加熱用ヒータ、14…トルク測定用アーム、15…ロードセル、16…浴槽、
17…浸漬液、18…保温用オイル、21…ディスク試験片、22…ボール試験片。

Claims (7)

  1. 無潤滑または境界潤滑環境下で使用される摺動部品であり、前記摺動部品を構成する基材の摺動面に非晶質硬質皮膜が形成された摺動部品であって、
    前記非晶質硬質皮膜は、硼素、炭素、窒素および酸素を少なくとも含有し、
    前記硼素、前記炭素、前記窒素および前記酸素の合計を100原子%とした場合に、
    前記炭素の含有率が12原子%以上であり、
    前記窒素の含有率が10原子%以上であり、
    前記硼素の含有率が前記炭素および前記窒素のそれぞれの含有率よりも高く、
    前記酸素の含有率が5〜12原子%であり、
    前記非晶質硬質皮膜の厚さが0.08〜10μmであることを特徴とする摺動部品。
  2. 請求項1に記載の摺動部品において、
    前記非晶質硬質皮膜は、前記硼素の一部で該硼素の代わりに珪素が含有されていることを特徴とする摺動部品。
  3. 請求項1または請求項2に記載の摺動部品において、
    前記非晶質硬質皮膜は、非晶質の母相中に直径10 nm以下の結晶粒子が分散している微細構造を有することを特徴とする摺動部品。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の摺動部品において、
    前記非晶質硬質皮膜は、前記硼素、前記炭素、前記窒素および前記酸素の合計を100原子部とした場合に、
    10原子部以下の水素および8原子部以下のアルゴンを更に含有することを特徴とする摺動部品。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の摺動部品において、
    前記摺動部品は、前記非晶質硬質皮膜と前記基材との間に複数の中間層が介在し、
    前記複数の中間層は、前記基材の直上に形成され珪素、クロム、チタンおよびタングステンから選ばれる1種以上の元素からなる第1中間層と、前記第1中間層の直上に形成され前記第1中間層の元素と前記非晶質硬質皮膜を構成する元素とからなる第2中間層とを備え、
    前記第2中間層は、前記第1中間層の元素の含有率が漸減するとともに前記非晶質硬質皮膜を構成する元素の含有率が漸増することを特徴とする摺動部品。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の摺動部品において、
    前記摺動部品は、内燃機関内に配されるバルブリフタ、アジャスティングシム、カム、カムシャフト、ロッカーアーム、タペット、ピストン、ピストンピン、ピストンリング、タイミングギア、タイミングチェーン、および燃料供給システム内に配されるインジェクタ、プランジャ、シリンダ、カム、ベーンのいずれかであることを特徴とする摺動部品。
  7. 請求項1に記載の摺動部品の製造方法であって、
    前記非晶質硬質皮膜の形成は、非平衡マグネトロンスパッタ装置を用いた反応性スパッタ法によって前記基材の摺動面に対して行われ、
    硼素成分および炭素成分の供給源として炭化硼素ターゲットを少なくとも用い、
    窒素成分および酸素成分の供給源として窒素と酸素とを少なくとも含む混合ガスを用いることを特徴とする摺動部品の製造方法。
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