以下、本発明の熱可塑性重合体について具体的に説明する。
本発明の熱可塑性重合体(A)とは、上記のごとく、(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位、および/または、(iv)その他のビニル系単量体単位を有する共重合体である。
(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
本発明における熱可塑性重合体(A)中に含まれる(i)グルタル酸無水物含有単位は共重合体中に、25〜50重量%であり、好ましくは30〜45重量%である。グルタル酸無水物含有単位が25重量%未満である場合、耐熱性向上効果が小さくなるだけでなく、光学等方性や表面硬度が低下する傾向がある。また、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位は50〜75重量%であり、好ましくは55〜70重量%である。また、(iii)不飽和カルボン酸単位は5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは3重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。また、(iv)その他のビニル系単量体単位は10重量%以下であり、5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは3重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。
本発明における熱可塑性重合体(A)は、該重合体中の(i)グルタル酸無水物単位の組成割合をX(重量%)、(iii)不飽和カルボン酸系単位の組成割合をY(重量%)とした場合に、0≦Y/X≦0.2であることが必要である。より好ましくは、0≦Y/X≦0.15であり、最も好ましくは、0≦Y/X≦0.1である。Y/Xが0.2よりも大きい場合には、ハードコート層との接着性が低下すること、また優れた表面硬度が発現せず、本発明の目的を達成できない。
本発明の熱可塑性重合体(A)における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物含有単位は、1800cm−1および1760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、1H−NMR法では、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。例えば、グルタル酸無水物含有単位、メタクリル酸単位、およびメタクリル酸メチル単位からなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属は、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークがポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークがメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH3)の水素、12.4ppmのピークメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
前記不飽和カルボン酸単位(iii)としては、下記一般式(2)で表される構造を有するものが好ましい。
(ただし、R
3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す)
前記不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)としては、下記一般式(3)で表される構造を有するものが好ましい。
(ただし、R
4は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、R
5は炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基または1個以上炭素数以下の数の水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基を示す)
また熱可塑性重合体(A)は、重量平均分子量が3万〜15万であることが好ましく、より好ましくは5万〜13万、特に7万〜11万が好ましい。重量平均分子量が、この範囲にあることにより、後工程の加熱脱気時の着色を低減でき、黄色度の小さい重合体を得ることができるとともに、成形品の機械的強度も高くすることができる。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
また、熱可塑性重合体(A)はガラス転移温度(Tg)が130℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度は、140℃以上がより好ましく、150℃以上が特に好ましい。また、上限としては、通常、170℃程度である。ガラス転移温度が130℃未満ではハードコート性を有する被膜の被膜形成、反射防止性付与などの後加工工程の際に基材が変形するなどの問題が生じる可能性がある。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度(Tg)である。
このような本発明の上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位を含有する熱可塑性重合体(A)は、基本的には以下に示す方法により製造することができる。すなわち、後の加熱工程により上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位(i)を与える不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を共重合させ、原共重合体(a)を得る。その際、前記その他のビニル単量体単位(iv)を含む場合には該単位を与えるビニル単量体を共重合させてもよい。得られた原共重合体(a)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより、熱可塑性重合体(A)を製造することができる。この場合、典型的には、原共重合体(a)を加熱することにより、隣接する2単位の不飽和カルボン酸単位(iii)のカルボキシル基の間の脱水反応により、あるいは、隣接する不飽和カルボン酸単位(iii)と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)の間の脱アルコール反応により、1単位の前記(i)グルタル酸無水物含有単位が生成される。
この際に用いられる不飽和カルボン酸単量体としては、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸単量体として、下記一般式(4)
(ただし、R
3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す)
で表される化合物、マレイン酸、および無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられる。特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると上記一般式(2)で表される構造の不飽和カルボン酸単位(iii)を与える。
また不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい例として、下記一般式(5)で表されるものを挙げることができる。
(ただし、R
4は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、R
5は炭素数1〜6の脂肪族基もしくは脂環式炭化水素基を示す。ここで、R
5は1個以上炭素数以下の数の水酸基もしくはハロゲンで置換されていてもよい。)
これらのうち、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(5)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記一般式(3)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)を与える。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−へキシル、メタクリル酸n−へキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸クロロメチル、メタクリル酸クロロメチル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルおよびメタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
また、本発明で用いる共重合体(a)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル単量体を用いてもかまわない。このその他のビニル単量体は、共重合すると前記のその他のビニル単量体単位(iv)を与える。その他のビニル単量体の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを挙げることができる。透明性、光学等方性、耐溶剤性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
共重合体(a)の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、乳化重合等の公知の重合方法を用いることができる。不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合、沈殿重合が特に好ましく、中でも、重合溶媒として水を使用しない溶液重合、沈殿重合が好ましい。水を媒体とする重合方法(例えば、懸濁重合や乳化重合)の場合、不飽和カルボン酸単量体の水への溶解度が大きいため、不飽和カルボン酸エステルとの共重合が仕込み設計どおりに進行しない傾向が見られ、強いては本発明の樹脂成形品中に外観欠点、粗大異物が多く観察される傾向が見られる。
重合温度については、色調の観点から、95℃以下の重合温度で重合することが好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために、好ましい重合温度は85℃以下であり、特に好ましくは75℃以下である。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、50℃以上が好ましく、より好ましくは60℃以上である。重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温することも可能である。この場合も昇温する上限温度は95℃以下に制御することが好ましく、重合開始温度も75℃以下の比較的低温で行うことが好ましい。また重合時間は、必要な重合度を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜180分間の範囲が特に好ましい。
本発明において、共重合体(a)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物全体を100重量%として、不飽和カルボン酸単量体が15〜50重量%、より好ましくは20〜45重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は50〜85重量%、より好ましくは55〜80重量%である。これらに共重合可能な他のビニル単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜10重量%である。他のビニル単量体が、芳香族ビニル単量体である場合、その好ましい割合は0〜5重量%であり、より好ましい割合は0〜3重量%である。
不飽和カルボン酸単量体の含有量が15重量%未満の場合には、共重合体(a)の加熱により、熱可塑性重合体(A)を製造する際に、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位(i)の生成量が少なくなり、熱可塑性重合体(A)の耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体(iii)の含有量が50重量%を超える場合には、共重合体(a)の加熱により、熱可塑性重合体(A)を製造する際に、不飽和カルボン酸単位(iii)が多量に残存する傾向があり、熱可塑性重合体(A)の無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
また、前記のように、本発明の熱可塑性重合体(A)は、重量平均分子量が3万〜15万であることが好ましい。このような分子量を有する熱可塑性重合体(A)は、共重合体(a)の製造時に、共重合体(a)を重量平均分子量で3万〜15万に予め制御しておくことにより、達成することができる。
共重合体(a)の分子量制御方法については、例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用することができる。
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
これらアルキルメルカプタンの添加量としては、好ましい分子量に制御するために、単量体混合物の全量100重量部に対して、0.2〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜4重量部、さらに好ましくは0.4〜3重量部である。
本発明における共重合体(a)を加熱し、脱水および/または脱アルコールにより分子内環化反応を行い、グルタル酸無水物含有単位を含有する熱可塑性重合体(A)を製造する方法は、最終的に熱可塑性重合体の共重合組成が、本発明の範囲内であれば、特に制限はないが、共重合体(a)をベントを有する加熱した押出機に通す方法や不活性ガス雰囲気または真空下で加熱脱揮する方法が好ましい。酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、系内を窒素などの不活性ガスで十分に置換することが好ましい。特に好ましい装置として、例えば、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができる。
また、この際の加熱脱揮する時間は、熱可塑性重合体の共重合組成を本発明の範囲内とするためには、3分間〜60分間が好ましく、より好ましくは5分間〜30分間、とりわけ好ましくは7〜20分間の範囲である。加熱脱揮装置として、押出機を用いる場合は、十分な分子内環化反応を進行させること、および異常な加熱滞留を防止する観点から、押出機スクリューの長さ/直径比(L/D)が30以上、110以下であることが好ましい。特に、40以上、90以下である押出機が好ましく使用できる。L/Dの短い押出機を使用した場合、熱可塑性重合体の共重合組成を本発明の範囲内とすることが困難であり、すなわち、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向やハードコート後も、十分な表面硬度が得られない傾向がある。
また、押出機の中でも、二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、極めて無色透明性に優れ、かつハードコートした樹脂成形品も表面硬度に優れる傾向があるため、好ましく使用することができる。ここで、二軸・単軸複合型連続混練押出機とは、押出機ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出機を言い、市販されているこのタイプの押出機としては、CTE社製の「HTM型押出機」が挙げられる。原料となる共重合体(a)を、連続式で加熱処理し環化反応を進行させる際、反応の進行に従い、溶融粘度が高くなることに起因し、押出装置のせん断による発熱が大きくなり、分子主鎖の熱分解による着色が大きくなる傾向が見られる。また、該せん断発熱は、単軸スクリューよりも二軸スクリューで溶融混練した場合に大きくなる。一方、反応速度の観点からは、二軸スクリューで溶融混練することが好ましい。以上のことから、特定の二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、溶融粘度が比較的低い反応初期段階では、二軸スクリューで、十分な反応速度を確保しながら、溶融粘度が比較的高くなる反応後期段階では、せん断発熱を抑制した単軸スクリュー部で加熱処理することにより、分子主鎖の熱分解が抑制されつつ、十分反応が進行するものと考えられる。
かくして得られる熱可塑性重合体(A)は色調、機械特性に優れ、ハードコートした後の樹脂成形品の特異的に優れた表面硬度、ハードコート性を有する被膜との優れた密着性に繋がったものと推察される。
また、窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有した装置が、より好ましい。例えば、二軸押出機に、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパー上部および/または下部より、10〜100リットル/分程度の不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
なお、上記の方法により加熱脱揮する温度は、脱水および/または脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度で、最終的に熱可塑性重合体の共重合組成が本発明の範囲内となれば、特に制限はないが、好ましくは180〜320℃の範囲、特に好ましくは200〜300℃の範囲である。
さらに本発明では、共重合体(a)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリおよび塩化合物から選ばれた1種以上を添加することができる。その添加量は、共重合体(a)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類等が挙げられる。さらに、塩化合物触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩、各種アルキルアンモニウム塩を含むアンモニウム塩等が挙げられる。ただし、その触媒の色が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。中でも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられる。とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、および酢酸ナトリウムを好ましく使用することができる。
また、本発明で用いる熱可塑性重合体(A)は、通常、その表面硬度が、鉛筆硬度(JIS−K−5401)で測定して3H以上であり、好ましい態様においては4H以上の表面硬度を有する。そのため、膜厚が比較的薄くても十分なハードコートの性能が得られる。
また、本発明に用いる熱可塑性共重合体の全光線透過率は、80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上、さらに好ましいのは90%以上である。
本発明においては、上記の(A)熱可塑性重合体に(B)ゴム質含有重合体を含有せしめることにより、(A)熱可塑性重合体の優れた特性を大きく損なうことなく優れた耐衝撃性を付与することができる。
(B)ゴム質含有重合体としては、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成され、かつ、内部に1層以上のゴム質重合体を含む層を有する構造の、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体が使用できる。
本発明に使用されるコアシェル型の多層構造重合体を構成する層の数は、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に1層以上のゴム層(コア層)を有する多層構造重合体である。ゴム層の種類は、アクリル成分、スチレン成分を重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴムである。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴムも好ましい。例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴムが挙げられる。これらのうち、アクリル酸アルキルエステル単位、および、置換または無置換のスチレン単位を含有するゴムが、透明性および機械特性の点から、最も好ましい。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位およびブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴムも好ましい。
本発明の多層構造重合体において、ゴム層以外の層の種類は、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であり、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位から選ばれる1種以上の単位を含有する重合体が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含有する重合体が好ましく、それに加えて不飽和ジカルボン酸無水物単位から選ばれる1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
上記不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の原料となる単量体としては、メタクリル酸メチルが使用される。
上記不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、およびさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられる。特に熱安定性が優れる点でアクリル酸およびメタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
本発明のゴム質重合体を含有する多層構造重合体において、最外層(シェル層)の種類は、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体である。
本発明では、上記の多層構造重合体における最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体であり、加熱することにより、前述した本発明の熱可塑性共重合体(A)の製造時と同様に、分子内環化反応が進行し、前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位が生成することを見出した。従って、最外層に不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体を有する多層構造重合体を熱可塑性共重合体(A)に配合し、適当な条件で、加熱溶融混練することにより、最外層に前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位を含有する多層構造重合体が得られる。これにより、連続相(マトリックス相)となる熱可塑性共重合体(A)中に、多層構造重合体が、凝集することなく、良好に分散することが可能となり、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が発現しうるものと考えられる。
ここでいう不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の原料となる単量体としては、メタクリル酸メチルが使用される。
また、不飽和カルボン酸単位の原料となる単量体としては、メタクリル酸が使用される。
本発明の多層構造重合体としては、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸共重合体であるものが挙げられる。ここで、“/”は共重合を示す。さらに、ゴム層または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるものが、連続相(マトリックス相)である熱可塑性共重合体(A)との屈折率を近似させること、および樹脂組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、近年より高度化する要求を満足しうる透明性が発現するため、好ましく使用することができる。
本発明の多層構造重合体(B−1)の平均粒子径については、0.01μm以上、1000μm以下であることが好ましい。平均粒子径は、0.02μm以上、100μm以下がより好ましく、0.05μm以上、10μm以下がさらに好ましく、0.05μm以上、1μm以下が最も好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性組成物の衝撃強度が低下する傾向を生じ、上記の範囲を越えると透明性が低下する場合がある。
本発明の多層構造重合体において、コアとシェルの重量比は、多層構造重合体全体に対して、コア層が50重量%以上、90重量%以下であることが好ましく、さらに、60重量%以上、80重量%以下であることがより好ましい。
本発明の多層構造重合体としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよく、また公知の方法により作製して用いることもできる。
本発明におけるゴム質含有重合体(B)の製造方法には、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合などの公知の重合法により得ることができる。
また、(A)熱可塑性重合体および(B)ゴム質含有重合体のそれぞれの屈折率が近似している場合、透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができるため、好ましい。具体的には、両者の屈折率の差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。このような屈折率条件を満たすためには、(A)熱可塑性重合体の各単量体単位組成比を調整する方法、および/または(B)ゴム質含有重合体に使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成比を調製する方法などが挙げられる。
なお、ここで言う屈折率差とは、以下に示す方法で測定した値である。(A)熱可塑性重合体が可溶な溶媒に、本発明の熱可塑性樹脂組成物を適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離する。この可溶部分((A)熱可塑性重合体を含む部分)と不溶部分((B)ゴム質含有重合体を含む部分)をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を屈折率差と定義する。
また、樹脂組成物中での(A)熱可塑性重合体と(B)ゴム質含有重合体の共重合組成は、上記の溶媒による可溶成分と不溶成分の分離操作の後に、各成分を個別に分析する。
本発明において、(B)ゴム質含有重合体の添加量は、(A)熱可塑性重合体100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは5〜90重量部、特に10〜80重量部の範囲であることが最も好ましい。
本発明において(A)熱可塑性重合体と(B)ゴム質含有重合体を配合する方法としては、(A)熱可塑性重合体とその他の任意成分を予めブレンドした後、通常200〜350℃において、一軸または二軸押出機により均一に溶融混練する方法が好ましく用いられる。また、(A)成分および(B)成分を、両者を溶解可能な溶媒の溶液中で混合した後に溶媒を除く方法も用いることができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法として、前述の共重合体(a)と(B)ゴム質含有重合体を予めブレンドした後、通常200〜350℃において、一軸または二軸押出機により均一に溶融混練することにより、前述した環化反応による共重合体(a)の熱可塑性重合体(A)への変換を行うと同時に、(B)成分の配合を行うことができる。また、この際、(B)成分の一部に不飽和カルボン酸単量体単位および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位からなる共重合体を含む場合の環化反応も同時に行うことができる。
さらに、本発明で用いる熱可塑性重合体には、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。これらの添加剤は、例えば押出機を用いた溶融混練や射出成形時に添加するなどの方法により、熱可塑性重合体に配合することができる。
本発明の熱可塑性重合体は、機械的特性、成形加工性にも優れており、溶融成形可能であるため、押出成形、射出成形、プレス成形などが可能であり、シート、管、ロッド、その他の希望する任意の形状と大きさを有する成形品に成形して使用することができる。
例えばシートに成形する場合、公知の方法を使用することができる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法等の製造方法が使用できる。好ましくは、インフレーション法、T−ダイ法、キャスト法またはホットプレス法が使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明のフィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。また、流延法によりシート化する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能である。好ましい溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン等である。該フィルムは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を前記の1種以上の溶剤に溶かし、その溶液をバーコーター、Tダイ、バー付きTダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶剤を蒸発除去する乾式法あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることにより製造できる。
尚、本発明に使用される熱可塑性重合体(A)からなるシートの厚みは、通常0.03〜30mm、好ましくは、0.05〜20mm、最も好ましくは、0.1〜10mmである。厚みが、0.03mmより薄いと、後工程となるハードコート時を施す際にシワが発生するなど取り扱いにくく、30mmより厚いと、シートを製造する際に平滑な表面を得られにくい傾向があるため、好ましくない。
本発明では、上記の方法により得られた熱可塑性重合体(A)からなる熱可塑性樹脂成形品が、ハードコート性を有する被膜を形成した場合、過酷な湿熱環境下でも、極めて強固なハードコート層との接着性を有し、表面硬度の高い、耐傷つき性に優れた樹脂成形品が得られることを見出した。ここで、好ましい態様においては、ハードコート性を有する被膜表面の、鉛筆硬度(JIS−K−5401)で表される表面硬度が、6H以上、特に好ましい態様では、7H以上の耐傷つき性が得られる。
本発明で言うハードコート性とは、熱可塑性重合体からなる基材の表面硬度を補い、耐傷つき性を向上せしめるべく熱可塑性重合体よりも高硬度な被膜を付与する性質を示す。
本発明で使用可能なハードコート性を有する皮膜は、特に限定するものではなく、メラミン系、アクリル系、シリコン系のハードコート被膜などが使用できるが、硬いハードコート皮膜が得られる点で、アクリル系、シリコン系のハードコート被膜が好ましい。
本発明におけるアクリル系ハードコート皮膜の好ましい様態として、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物含むコーティング剤を塗布後、重合、及び/または反応せしめることにより樹脂とした被膜が好ましく用いられる。
本発明における1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基(但し、本発明における「(メタ)アクリロイル基」の記載は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基とを略して表示したものである)を有する多官能(メタ)アクリレート化合物としては、1分子中に2個以上のアルコール性水酸基を有する多価アルコールの該水酸基が2個以上の(メタ)アクリル酸のエステル化物となっている化合物などを用いることができる。具体的には、(a)炭素数2〜12のアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステル類:エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレートなど、(b)ポリオキシアルキレングリコールの(メタ)アクリレート酸ジエステル類:ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなど、(c)多価アルコールの(メタ)アクリル酸ジエステル類:ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートなど、(d)ビスフェノールAあるいはビスフェノールAの水素化物のエチレンオキシド及びプロピレンオキシド付加物の(メタ)アクリル酸ジエステル類:2,2’−ビス(4−アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロポキシフェニル)プロパンなど、(e)ジイソシアネート化合物と2個以上のアルコール性水酸基含有化合物を予め反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物に、更にアルコール性水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られる分子内に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するウレタン(メタ)アクリレート類、(f)分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物にアクリル酸又はメタクリル酸を反応させて得られる分子内に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するエポキシ(メタ)アクリレート類、などが挙げられる。
特に、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体の少なくとも1種を含むハードコート層を形成する化合物組成であることが、硬度ならびに硬化性はもちろん、耐摩耗性と可撓性に優れるので好ましい。
具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用してもよい。
これらの1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体の使用割合は、固形分総量に対して50〜95重量%が望ましい。上記単量体の使用割合が50重量%未満の場合には、十分な耐摩耗性を有する硬化被膜が得られ難く、またその量が95重量%を超える場合は、重合による収縮が大きく、硬化被膜に歪みが残ったり、被膜の可撓性が低下する傾向を示すので好ましくない。
上記ハードコート層の化合物組成を重合、及び/または反応させる方法として紫外線を照射する方法が挙げられるが、この場合には前記組成物に光重合開始剤を加えることが望ましい。
光重合開始剤の具体的な例としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、メチルベンゾイルフォメート、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、α−ヒドロキシイソブチルフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のカルボニル化合物、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントンなどの硫黄化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等のパーオキサイド化合物が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせてもよい。光重合開始剤の使用量は、固形分中、0.01〜10重量部が適当である。
また他の方法として電子線又は放射線を重合、及び/または反応手段として用いることができる。電子線又は放射線を用いる場合は必ずしも重合開始剤を添加する必要はない。
本発明に用いられるハードコート層を形成する化合物組成には、製造時の熱重合や貯蔵中の暗反応を防止するために、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,5−t−ブチルハイドロキノンなど、公知の熱重合防止剤を加えることが望ましい。熱重合防止剤の添加量は、固形分中、0.005〜0.05重量%が好ましい。
本発明に用いられるハードコート層を形成する化合物組成には、塗工時の作業性の向上、塗工膜厚のコントロールを目的として、本発明の目的を損なわない範囲において、有機溶剤を配合することができる。
有機溶剤としては、基材が基本的に侵されない溶剤種を選択する必要があるが、通常、沸点が50〜150℃のものが、塗工時の作業性、重合、及び/または反応前後の乾燥性の点から用いやすい。具体的な例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、トルエンなどの芳香族系溶剤、ジオキサンなどの環状エーテル系溶剤などを挙げることができる。これらの溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
上記のアクリル系ハードコート層の塗布手段としては、スプレー法、浸漬(ディップ)法、ロールコーティング法、ダイスコーティング法、グラビアコーティング法など、公知の方法が挙げられる。
本発明におけるシリコン系ハードコート皮膜の好ましい様態として、(a)一般式(6)
(ただしR
6は炭素数1〜5の炭化水素基または炭素数1〜4のアシル基である)で示されるケイ素化合物の加水分解物100重量部、(b)一般式(7)
(ただしR
7は炭素数1または2の炭化水素基、R
8は炭素数1〜5の炭化水素基または炭素数1〜4のアシル基である)で示されるケイ素化合物の加水分解物400〜20重量部、および(c)硬化剤からなる組成物が例示できる。一般式(6)で示されるケイ素化合物において、R
6の具体例はメチル、エチル、プロピルなどのアルキル基やアセチル基などのアシル基である。また一般式(7)のケイ素化合物における炭素数1または2の炭化水素とはメチルまたはエチル基であり、さらにR
8はR
6と同一群から選ばれるものであるが、両基は同一のものであっても異なっていてもよい。これらのケイ素化合物は既知の化合物であり、公知の方法により調製し得る。
一般式(6)および(7)のケイ素化合物はそれぞれ別々にまたは混合して、水単独または水と溶液(有機溶媒)と必要に応じて少量の酸を添加することにより加水分解される。
上記(c)の硬化剤とは炭素数1〜4の有機カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)、亜硝酸、亜硫酸、アルミン酸および炭酸の各アルカリ金属塩中の少なくとも1種、または水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラn−ブチルホスホニウム、第四アンモニウムヒドロキシド、第四ホスホニウムヒドロキシドが例示できる。(c)硬化剤は上記(a)、(b)のケイ素化合物の加水分解物溶液に均一に溶解させ使用する。溶剤としては通常ジオキサン、アルコール類が好ましく使用できる。上記の溶液を熱可塑性樹脂成形品からなる基体に塗布し、ついでその表面を加熱することにより、ハードコート性を有するコーティング皮膜が形成される。塗布の方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法、ロール塗りなど公知の方法を用いることができる。加熱条件については100℃以下の低温で硬化が可能である。
さらに、ハードコート性を有するシリコン系皮膜の別の好ましい様態として、(d)一般式(8)
(ただし式中R
9は炭素数1〜6の炭化水素基、メタクリロキシ基またはエポキシ基を有する有機基、R
10は炭素数1〜4の炭化水素基、R
11は炭素数1から5の炭化水素基、アルコキシアルキル基または水素原子、mは0または1を表す)で示される有機ケイ素化合物の1種もしくは2種以上、(e)粒子径1〜100nmのシリカ微粒子、(f)多官能エポキシ化合物および(g)硬化触媒からなる組成物の溶液を熱可塑性樹脂成形品からなる基体に塗布した後、加熱硬化させる手法が挙げられる。
上記一般式(8)で示されるケイ素化合物として、具体的には、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等およびその加水分解物が例示できる。(e)シリカ微粒子としては一般的にコロイダルシリカあるいはシリカゾルと呼ばれる水またはアルコール系溶媒微粒子が分散されたものが好ましい。
(f)多官能エポキシ化合物としては、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジグリシジルエーテルなどの多官能アルコールのグリシジルエーテル類が具体的に例示できる。また、(g)硬化触媒としては過塩素酸類が好適なエポキシ硬化触媒として例示できる。
本発明に用いられるハードコート層を形成する化合物組成には、塗工時の作業性の向上、塗工膜厚のコントロールを目的として、本発明の目的を損なわない範囲において、有機溶剤を配合することができる。有機溶剤としては、基材が基本的に侵されない溶剤種を選択する必要があるが、通常、沸点が50〜150℃のものが、塗工時の作業性、重合、及び/または反応前後の乾燥性の点から用いやすい。
具体的な例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、トルエンなどの芳香族系溶剤、ジオキサンなどの環状エーテル系溶剤などを挙げることができる。これらの溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
本発明におけるハードコート性を有する被膜の屈折率は反射防止性の付与あるいは干渉縞のない樹脂成形品を得るために1.40〜1.65の間で好ましく用いられる。また干渉縞のない高品質な樹脂成形品を得るためには、熱可塑性重合体基材とハードコート性を有する被膜の屈折率差を±0.05に設定することが好ましい。特に干渉縞の発生を極力抑えることが必要な用途においてはその屈折率差を±0.02以内に設定することが好ましい。この屈折率差は、熱可塑性重合体基材の共重合組成変更、または、ハードコート層を形成する化合物組成物の変更などにより、調節可能である。本発明におけるハードコート性を有する被膜の膜厚は特に限定されないが、密着強度の保持、耐すり傷性などの点から10〜20,000nmの間で好ましく用いられる。すなわち、10nm未満では被覆効果が認められず、20,000nmを越えると塗りむらなどが生じ易くなる。
また、本発明の樹脂成形品は、熱可塑性重合体からなる基材とハードコート性を有する被膜の間に、プライマー層と呼ばれる中間層を形成したものであっても構わない。ここで、プライマー層とは熱可塑性重合体からなる基材とハードコート性を有する皮膜の密着性を高める、あるいは可撓性や耐衝撃性を高めることを目的に施すことができる。
本発明の樹脂成形品に施すプライマー層としては、公知のプライマー層である、ポリウレタン系、エポキシ系、アクリル系および/またはメタクリル系化合物とスチレンの共重合体の硬化物などがいずれも好ましく使用できる。
本発明においてプライマー層として好ましく使用できるポリウレタン系プライマーとしては、両末端に活性水素を有する化合物とジイソシアネート化合物の反応により得られる熱可塑性ポリウレタン、ポリオールとポリイソシアネートに硬化触媒を作用させ、加熱により硬化反応させることにより得られる熱硬化性ポリウレタンが挙げられる。
熱可塑性ポリウレタンの場合、両末端に活性水素を有する化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのアルキレングリコール類、ポリテトラメチレンアジペートなどのポリアルキレンアジペート類、ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリアルキレンカーボネート類、シリコーンポリオール類などと、ジイソシアネート化合物、例えばトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート等を触媒存在下で反応させた熱可塑性ポリウレタンを適宜溶剤で希釈し、レンズ基材上に塗布した後、加熱乾燥させることによりプライマー層を形成することができる。熱可塑性重合体からなる基材への塗布方法としては、スピンコート法、ディッピング法など公知の塗布方法から選択できる。
一方、熱硬化性ポリウレタンの場合、熱可塑性重合体からなる基材上にポリオール化合物とポリイソシアネート化合物、硬化触媒からなる組成物を塗布し、加熱により硬化させることでプライマー層を形成することができる。この場合、ポリイソシアネート化合物として非ブロック型、ブロック型のいずれも使用可能であるが、非ブロック型では室温で硬化反応が進行するため、組成物のポットライフが短いという問題があり、加熱によるブロッキング剤の脱離により初めて硬化反応が進行するブロック型のイソシアネートが好ましく使用できる。ポリオール化合物の具体例としては、分子内に複数個の水酸基を有するポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリカーボネートなどが例示できる。ブロック型ポリイソシアネートとしては市販のものが使用できるが、各種ジイソシアネート化合物の数量体をアセト酢酸、マロン酸などでブロックした化合物が使用できる。熱可塑性重合体からなる基材への塗布については適宜溶媒による希釈を行い、スピンコート法、ディッピング法等の公知の方法で行うことができる。硬化反応は適宜設定した温度と反応時間で行うが、通常100℃以上の温度で10分から2時間の硬化時間を要する。
エポキシ系のプライマー層としては、ジオールあるいはポリオールのジグリシジルエーテルをエポキシ硬化触媒により硬化させたものが例示できる。具体的にはグリセリン、ソルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジグリシジルエーテルを過塩素酸類等のエポキシ硬化触媒により硬化させたプライマー層が挙げられる。
熱可塑性重合体からなる基材への塗布に際しては、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法等、公知の方法が適用可能である。エポキシ化合物と硬化触媒からなる組成物を塗布した後、適宜設定した温度、好ましくは100℃以上の温度で通常1〜60分加熱することによりプライマー層を形成することができる。
そのほか、アクリル系および/またはメタクリル系化合物とスチレンの共重合体の硬化物をプライマー層として使用することも可能である。
プライマー層をレンズ基材に塗布する際に、必要に応じてレベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、顔料、フォトクロ剤などの添加剤を添加してレンズに各種機能を付与することもできる。
本発明の樹脂成形品においては、さらに必要に応じて反射防止性を付与することができる。反射防止性とは、透明成形体を通して物を見る場合、反射光が強く、反射像が明瞭であることはわずらわしく、反射像を生じて眼に不快感を与えるので、これを防止することであり、例えば単層の反射防止膜においては、基材より低屈折率の被膜を光学的膜厚が光波長の1/4ないしはその奇数倍になるように選択することによって極小の反射率すなわち極大の透過率を与えることである。ここで光学的膜厚とは、被膜の屈折率と該被膜の膜厚の積で与えられるものである。反射防止性を付与する方法としては、ウエットコーティングあるいは真空蒸着するなどのドライコーティングが挙げられる。また、反射防止性を付与する膜構成は単層であっても多層であっても良く、その材質も熱可塑性透明樹脂の屈折率、ハードコート性を有する被膜の屈折率および膜厚、あるいは要求される反射防止性能などによってその最適な組合せは決定される。尚、反射防止特性に関しては既に多くの組合せが提案されており(光学技術コンタクト,Vol.9,No.8.17〜23.(1971),OPTICS OF THIN FILMS,159〜282.A.VASICEK(NORTH−HOLLAND PUBLISHING COMPANY).AMSTERDAM(1960))、本発明においてもこれらの組合せを用いることは何ら問題ないが、ハードコート性を有する被膜がアクリル系ハードコート層である場合には、TiO2、ZrO2、ITO、SnO2、Y2O3、ZnO、SiO2、MgF2などの金属酸化物が好ましい。また、各層間の密着性向上手段として前述のプライマー層の形成等の前処理などが有効である。
また、本発明の樹脂成形品は、特にその良好な透明性、機械特性、耐傷つき性、また成形加工性に優れ、大型成形品あるいは精密成形品への適用が容易であり、さらに耐熱性、耐候性を有していることから、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
上記成形品の具体的用途としては、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、これら各種の用途にとって極めて有用である。
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各測定および評価は次の方法で行った。
(1)各成分組成
重ジメチルスルフォキシド中、30℃で1H−NMRを測定し、熱可塑性重合体の各共重合単位の組成決定を行った。
(2)ガラス転移温度(Tg)
熱可塑性重合体のTgは、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
(3)透明性(全光線透過率、ヘイズ)
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、各種成形品の23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(曇度)(%)を測定し、透明性を評価した。
(4)表面硬度(鉛筆硬度)
各種成形品のハードコート性を有する被膜表面もしくは反射防止膜表面について、JIS−5400に従い、1kg荷重下での鉛筆硬度を測定した。
(5)密着性
被膜面に1mmの基材に達する碁盤目を被膜の上から綱ナイフで100個入れて、セロハン粘着テープ(商品名“セロテープ(登録商標)”ニチバン(株)製)を強く貼り付け90度方向に急速に剥がして被膜剥離の無いものをを○とした。
(6)落球衝撃強度
射出成形により得られた3mm厚み角板に、ハードコート性を有する被膜を形成した樹脂成形品に、重さ1kgの鉄球を落とし、樹脂成形品にひびが入る高さを測定した。
<参考例(1)共重合体(a)の合成>
(a−1):懸濁重合法
メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部およびイオン交換水1500重量部を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保った。単量体が完全に、重合体に転化するまで反応を続け、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体の水溶液を得た。得られた水溶液を懸濁剤として使用した。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、前記のメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を供給し、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(a−1)を得た。この共重合体(a−1)の重合率は98%であり、重量平均分子量は13万であった。
メタクリル酸 27重量部
メタクリル酸メチル 73重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.4重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.2重量部。
(a−2):懸濁重合法
単量体混合物および連鎖移動剤の仕込み組成を下記に変更した以外は(a−1)と同様の製造方法で共重合体(a−2)を得た。重合率は95%、重量平均分子量は10万であった。
メタクリル酸 15重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
スチレン 10重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.8重量部。
(a−3)沈殿重合法
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点を重合開始とし、内温を80℃に90分間保ち、95℃に昇温した後、さらに90分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系を冷却し、得られたスラリーを遠心分離し、乾燥を行い、粉末状の共重合体(a−3)を得た。尚、共重合体(a−3)の共重合組成はMMA/MAA(重量比)=72/28であった。重合率は75%であった。重量平均分子量は13万であった。
メタクリル酸 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
酢酸ブチル 900重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.9重量部。
<参考例(2)熱可塑性重合体(A)の製造>
<A−1>
参考例(1)で得られた共重合体(a−1)を38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性重合体<A−1>を得た。
<A−2>
参考例(1)で得られた共重合体(a−1)100重量部に、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、<A−1>と同様に、二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製)、L/D=47.5)に供給し、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性重合体<A−2>を得た。
<A−3>
参考例(1)で得られた共重合体(a−1)100重量部に、触媒として水酸化ナトリウム0.03重量部を配合し、これを44mmφ二軸押出機(TEX−44(日本製鋼所社製、L/D=28.0)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度280℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性重合体<A−3>を得た。
<A−4>
参考例(1)で得られた共重合体(a−2)100重量部に、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、<A−1>と同様に、二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5)に供給し、ペレット状の熱可塑性重合体<A−2>を得た。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性重合体<A−4>を得た。
<A−5>
参考例(1)で得られた共重合体(a−3)を38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性重合体<A−5>を得た。
<参考例(3)ゴム質含有重合体(B)の製造>
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に初期調整溶液として下記組成物を添加した。
脱イオン水:120質量%
炭酸カリウム:0.5質量%
スルホコハク酸ジオクチル:0.5質量%
過硫酸カリウム:0.005質量%。
上記初期調整溶液を窒素雰囲気下で撹拌しながら、下記組成物を添加して、70℃で30分間反応させて、ゴム質重合体を得た。
アクリル酸ブチル:53質量%
スチレン:17質量%
メタクリル酸アリル(架橋剤):1質量%。
引き続き撹拌しながら、下記組成物70℃、90分間で連続的に添加し、添加終了後さらに90分間保持して、シェル層を形成した。
メタクリル酸メチル:21質量%
メタクリル酸:9質量%
過硫酸カリウム:0.005質量%。
上記重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、コアシェル型のゴム質含有重合体<B−1>を得た。電子顕微鏡で測定したゴム質含有重合体<B−1>のゴム質重合体部分の平均粒子径は170nmであった。
<参考例(4)熱可塑性樹脂組成物の製造>
上記参考例(2)で得た熱可塑性重合体<A−5>100重量部に対して、参考例(3)で得たゴム質含有重合体<B−1>を20重量部を配合し、日本製鋼社製2軸押出機TEX30(L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量10kg/時間、シリンダ温度280℃で混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物<C−1>を得た。
得られたペレット、およびPMMA(住友化学社製”スミペックスLG”)、PC(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、”ユーピロンH4000”)について、1H−NMRにより定量した各共重合成分組成およびガラス転移温度の評価結果、および各ペレットを、射出成形機(名機製作所社製M−50AII−SJ)に供して、80mm×80mm×3mm厚みの角板状試験片を成形し(成形条件は成形温度:ガラス転移温度+150℃、金型温度:80℃、射出速度:90cm3/秒、射出時間:10秒、冷却時間:30秒、成形圧力:金型に樹脂が全て充填される圧力(成形下限圧力)+1MPaで行った)、得られたそれぞれの角板状試験片の表面硬度、全光線透過率を表1に示す。
<参考例(5)ハードコート性を有する被覆の形成>
<ハードコート法−1>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)社製)90重量部、マクロモノマーAN−6S(末端基がメタクリロイル基で高分子量(セグメント)の成分がスチレン/アクリロニトリルであり、数平均分子量が6,000のマクロモノマー)(東亞合成(株)社製、固形分40重量%)20重量部、光開始剤1−ヒドロキシフェニルケトン(チバ・スペシャリテイ・ケミカルズ(株)社製) 5重量部、トルエン50重量部、メチルエチルケトン50重量部を攪拌混合して塗液Aとした。各樹脂成形品の上面に上記塗液Aを乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布し、オーブンで、80℃で5分、100℃で5分の2段階乾燥を行った後、塗膜からの高さ12cmにセットした80W/cmの強度を有する高圧水銀ランプ灯で5分照射し、ハードコート層を形成した。
<ハードコート法−2>
市販のポリウレタン溶液LQ3510(三洋化成(株)製、固形分濃度30%、トルエン/イソプロピルアルコール溶液)をさらに、トルエン/イソプロピルアルコール(容積比2/1)で希釈し、固形分濃度を10%に調整し、この溶液100重量部に対して、さらにシリコン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、L−7002)を0.05重量部添加し、プライマー溶液とした。この溶液を各樹脂成形品の両面にディッピング法で塗布した。プライマー溶液を塗布後、110℃で40分間加熱処理し、各樹脂成形品にプライマー層(C−1)を形成させた。次いで、ビニルトリエトキシシラン130重量部、メチルトリメトキシシラン190重量部を混合し、これに0.01Nの塩酸110重量部を加え、加水分解を行い、透明均一な溶液になるまで攪拌を続け、室温まで自然冷却した後、ジオキサン250重量部、氷酢酸1.2重量部、および酢酸ナトリウム0.8重量部を添加し調製した塗液Bをディッピング法で塗布し、90℃、30分間加熱乾燥しハードコート膜を硬化させた。
<参考例6> 反射防止膜の形成
上記ハードコート性を有する被膜を形成させた樹脂成形品のハードコート被膜の上に無機物質であるZnO2/SiO2の混合物(光学的膜厚nd=λ/2)、ZnO2(nd=λ/2)、SiO2(nd=λ/4)を順次真空蒸着法で多層被覆した。
〔実施例1、比較例1〜8〕
参考例(2)で得られた各ペレット状の熱可塑性重合体、または参考例(4)で得られた熱可塑性樹脂組成物を、100℃で3時間乾燥した後、射出成形機(名機製作所社製M−50AII−SJ)に供して、80mm×80mm×3mm厚みの角板状試験片を成形した。成形条件は成形温度:熱可塑性重合体のガラス転移温度+150℃、金型温度:80℃、射出速度:90cm3/秒、射出時間:10秒、冷却時間:30秒、成形圧力:金型に樹脂が全て充填される圧力(成形下限圧力)+1MPaで行った。得られたそれぞれの角板状試験片を、表2に示したハードコート法(参考例(3)に記載した方法)で処理を行い、各種特性を評価した。尚、比較例2、3には、それぞれPMMA(住友化学社製”スミペックスLG”)、PC(三菱エンジニアリングプラスチックス社製”ユーピロンH4000”を用い、上記の熱可塑性重合体の成形条件での射出成形法、ハードコート法と同様に、ハードコート層を有する角板状試験片を作成して評価した。
実施例1および比較例1〜8の結果より、共重合組成を本発明の範囲内に制御した熱可塑性重合体(A)100重量部に対して、(B)ゴム質含有重合体1〜100重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、透明性、耐熱性、落球衝撃強度に優れ、かつ高度な表面硬度と、湿熱処理後も強固なハードコート層との接着性を有した樹脂成形品が得られることが分かる。また、ゴム質含有重合体を添加した熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性重合体(A)本来の特性を大きく損なうことなく、衝撃強度を向上できることがわかる。
〔実施例2、比較例9〕
参考例(4)で得られた熱可塑性樹脂組成物(C−1)を、100℃で3時間乾燥した後、65mmφの単軸押出機(日本製鋼所社製、NS65)を用いてリップ間隙0.5mmのTダイ(設定温度270℃)を介して押出し、表面仕上げ1Sのステンレス製ポリシングロール(70℃)に両面を完全に接着させるようにして冷却して、厚み200μmのシートを得た。得られたシートを、表3に示したハードコート法(参考例(5)に記載した方法)で処理を行った後、参考例(6)に記載した反射防止膜を形成させて、各種特性を評価した。
実施例2および比較例9の結果より、シートにした場合も、共重合組成を本発明の範囲内に制御した熱可塑性重合体(A)に(B)ゴム質含有重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、高度な表面硬度と、湿熱処理後もハードコート層との強固な接着性を有し、かつ反射防止膜とも十分に強固な接着性を有した樹脂成形品が得られることが分かる。