以下、本発明の気相反応装置と、この気相反応装置において行われる気相反応について、図に示す実施形態を参照しながら具体的に説明する。
図1は本発明の気相反応装置について、その実施形態を例示した概略断面図であり、また図2は図1の気相反応装置における反応室及び予備加熱室を拡大して示す概略断面図である。
図1及び図2において、気相反応装置1は、投入室10、予備加熱室20、反応室30、冷却室40、回収室50を備えている。これらの室のうち、反応室30以外の各室10、20、40、50には、不活性ガス供給部60と真空排気部70が連結され、また、反応室30には、反応ガス供給部80と反応室不活性ガス供給部90と反応室真空排気部100が連結されている。予備加熱室20は、予備加熱ヒーター21をブラケット22を介して内側に設けている。反応室30は、ほぼ中央に反応場32を位置させ、また反応室30の外側にヒーター31が覆うように設置し、反応場32を500℃以上、好ましくは600℃以上の実質的一定の温度に加熱するようになっている。
上記気相反応装置1には、最初に被反応物を保持した把持体2が投入室10にセットされ、次いで被反応物を保持した把持体2は予備加熱室20に移され、ここで所定温度に予備加熱される。しかる後、被反応物を保持した把持体2は加熱された温度を保持して反応室30に装填され、被反応物が導入された反応ガスと加熱下に接触することにより気相反応を行う。把持体2上に生成した反応生成物は予備加熱室20を経由して冷却室40に搬送され、冷却室40で冷却された後、回収室50へ搬送される。
上記一連の気相反応操作を連続バッチ的に行うとき、予備加熱室20で予備加熱ヒーター21により行う予備加熱処理は、反応室30で先行する反応工程と平行して、次の反応工程のために供される把持体2に保持された被反応物に対して実施される。通常、気相反応処理は、被反応物を所定温度まで昇温させる昇温工程と、次いで反応ガスと接触させて反応させる反応工程との2工程からなる。本発明では、反応室30で先行の反応工程を行うと同時に、予備加熱室20において次の反応工程に供する被反応物の昇温工程の一部又は全部を行う。そのため、従来方法で反応室において反応工程を行う前に行っていた昇温工程の時間を短縮する。したがって、被反応物が反応室30に滞留する時間(1サイクルの時間)が短縮され、生産性を向上することができる。また、反応室30における反応工程の加熱温度とは無関係に、予備加熱室20において被反応物の加熱温度を最適化することができるので、反応物の品質向上に寄与する。
図2は反応室30の詳細を示しており、ヒーター31により反応場32を実質的に一定の所定温度に加熱するようになっている。反応室30は、高温下の反応ガスに対して耐性を有する材質で設計され、特に石英製の円管形状の反応管300で構成されることが好ましい。また、ヒーター31としては、電気抵抗式ヒーター、電磁加熱式ヒーター、赤外線等を利用した管状光学式ヒーターなどを用いることが好ましい。
ここで実質的に一定の温度とは、気相反応が安定に進行する範囲の温度であれば良いが、一般的には温度分布がプラスマイナス10%、さらに好ましくはプラスマイナス5%の範囲内に制御されるとき実質的に一定の温度という。ヒーター31は、ヒーター近傍に設置された温度制御用熱電対310によって温度を制御する。熱電対310は、必要に応じて多点に配置し、これに応じて、ヒーターを分割するなどして、均等加熱領域を大きくする工夫が好ましい。熱電対310は、反応場32の温度をより厳密に測定するため反応管300内部に設置するようにしても良い。
温度コントローラは、市販のPID制御器、例えばチノー(株)製の”デジタルプログラム調節計・設定器”などで十分安定した制御が可能である。なお、反応場の温度の上限としては、反応装置の耐熱温度以下であればよく、例えば反応管300が石英の場合は1500℃以下、炭素またはハステロイ系のものの場合は2500℃以下で実施することが可能である。
図2に示すように、予備加熱ヒーター21は、予備加熱室20の内部に装填前テーブル201上に載置した把持体2に対向するように設置され、反応室30に装填する前の把持体2に保持された被反応物を予備加熱するようになっており、予備加熱室20の上部に取り付けられたフランジ23にブラケット22を介して支持されている。装填前テーブル201の下方には、反応室30で反応処理後の被反応物の把持体2を一時的に載置する装填後テーブル202が設けられている。
予備加熱ヒーター21としては、所望の加熱速度、温度分布特性を実現し、かつ加熱雰囲気に対する耐性を有するものであれば特に限定されるものではないが、急速加熱に優れるSiCヒーター、赤外線ヒーターが好ましく適用される。特に、大面積が容易で、安価で製作可能なハロゲンランプ等の赤外線ヒーターが適している。
温度制御用熱電対25は、加熱場所に搬送されてきた被反応物付近に設置するのが良いが、困難である場合は、予備加熱ヒーター21内の、例えばランプ27の付近や反射板28の付近に設置しても良い。ヒーター線および熱電対の配線は、フランジ23に設けられた真空にも対応できる配線導入アダプターを介して外部に引き出される。これらの電気配線は予備加熱ヒーター制御部26に接続される。予備加熱ヒーター制御部26は、予備加熱ヒーター21を予め設定した加熱プロファイルにしたがって昇温させるものであれば良く、市販のデジタルプログラム温度調節計等で構成することができる。
また、予備加熱室20および予備加熱ヒーター21の周辺部には、過度に加熱されることを防止するため、冷却水循環ライン(図示せず)を設けるようにするとよい。また、予備加熱手段が赤外線ヒーターの場合は、予備加熱ヒーター21を予備加熱室20の上部に取り付けた透明板を介して予備加熱室20の外部に設置する構成にしてもよい。赤外線が透明板を透過して、被反応物を加熱することができるからである。この構成によると、予備加熱ヒーター21及び配線を予備加熱室20の内部に設置する必要がないため、減圧下で適用する場合に必要な放電対策等の装置的仕様を不要にする利点がある。ここで透明板としては、赤外線を80%以上、好ましくは90%以上透過するものであって、かつ600℃以上の耐熱性を有するものが良い。その透明板の材料としては、使用環境に応じて石英、サファイア、CaF2等が好ましく用いられる。
予備加熱ヒーター21として、ハロゲンランプヒーターを用いる場合の更に好ましい形態を説明する。ハロゲンランプヒーターは急速な加熱が可能であるため、短いサイクルタイムを実現することが可能となり、生産性向上に寄与するが、その半面、加熱部で良好な温度分布が得られにくいという問題がある。そこで、ランプ27の配列ピッチ27aを40mm以下、さらに好ましくは30mm以下の狭い配列ピッチにしたり、反射板28の表面形状として、反射光が散乱光となるような形状を採用したり、ヒーターをゾーン分割して制御したり、ランプと加熱対象である被反応物との距離を60mm以上、より好ましくは80mm以上に確保することにより、均一な温度分布を得ることができる。
予備加熱ヒーター21およびその下方の装填前テーブル201は、断熱材203で覆うのが良い。断熱材203は把持体2の搬送時に退避できるように移動機構(図示せず)に連結させておくのが良い。
次に、同じく図2を参照して、反応室30、予備加熱室20、装填・取出手段111の接続構成について説明する。
反応室30の上下には、ガス排気路330aが形成された上部ホルダー33aと、ガス導入路330bが形成された下部ホルダー33bとが配置されている。Oリング35a、35bが反応管300と上・下部のホルダー33a、33bとの間にセットされ、Oリング押さえ部材34a、34bにより圧縮固定され、シール構造を形成している。また、上・下部のホルダー33a、33bは、それぞれOリング36a、36bを介して、予備加熱室20及び装填機構室110と開口部20a、110aの周辺で接続している。さらに、開口部20a、110aの周辺には、Oリング38a、38bを介してフランジ37a、37bが取り付けられている。フランジ37a、37bの先端部には別のOリング39a、39bがセットされ、それぞれ反応室上部ゲート扉301a、反応室下部ゲート扉301bに押圧されてシール構造を形成し、各室間を遮断するようになっている。
反応室30の上・下部ゲート扉301a、301bは、それぞれスライドガイド302a、302bに沿って水平に移動できる構造になっている。ゲート扉301a、301bを水平移動させるには、図示しないがゲート扉301a、301bにエアー駆動、モーター駆動等のシリンダー機構を接続すれば良い。そして、Oリング39a、39bによりシール構造を形成する場合は、フランジ37a、37bと逆側に取り付けられたエアー駆動あるいはモーター駆動のシリンダー303a、303bをフランジ側に突出させて、反応室上・下部ゲート扉301a、301bを押圧する。なお、ゲート扉301a、301bをスライド移動及び押圧できる機構であれば、上記の構成に限られるものではない。
予備加熱室20は減圧にも対応できるようになっている。好ましくは、チャンバー200によって囲われる。予備加熱室20には、反応前の被反応物および把持体2を保持する装填前テーブル201と、反応後の反応物と把持体2を保持する反応後テーブル202が図示しない部材によってチャンバー200に取り付けられている。予備加熱ヒーター21は装填前テーブル201の上に載せられた被反応物および把持体2を加熱するように設置されている。装填前テーブル201、反応後テーブル202ともにガイドピン等の位置決め機構を有し、所定の位置に把持体がセットされるようにする。位置決め機構は例えば、テーパ形状の位置決め部材が装填前テーブル201の上面に設けられたものでよい。
また、図1に示すように、予備加熱室20は不活性ガス供給部60と真空排気部70とに接続されているので、減圧したり、不活性ガスで置換することができる。不活性ガス供給部60は図示しないボンベ等の不活性ガス供給源にバルブのみを接続する構成でも良いが、流量制御装置61とその前後に設けたバルブ62、63で構成し、さらに、配管64にバルブ65を接続して、予備加熱室20へのガスの導入を制御する。ここで、不活性ガスとは、適用する被反応物、反応ガスと反応しないガスのことであり、アルゴン等の希ガスの他、窒素等も好ましく用いられる。また、流量制御装置61は気体の流量を厳密に制御できるマスフローコントローラであればどのようなものでも良いが、体積式流量制御方式のものや、面積式流量制御方式のもの、ピエゾアクチュエータバルブ、サーマルアクチュエータバルブ、ソレノイドアクチュエータバルブなど種々の流量制御方式のものが市販されているので利用することができる。
また、真空排気部70は真空ポンプ71とバルブ72により構成し、任意に予備加熱室20内を減圧できるようにする。さらに、真空ポンプ71を作動させずに、単に排気する場合に適用するバイパス配管73に排気バルブ74を設ける。そして、バルブ76を間に設けて配管75を予備加熱室20に接続する。上記の構成により、真空ポンプ71を作動させて、バルブ72、76を開くことにより、予備加熱室20を減圧にしたり、さらに、同時にバルブ62、63、65を開けて、流量制御装置61で所望の流量の不活性ガスを導入することも可能となる。減圧下で加熱すれば、速い昇温速度でかつ均一な温度分布での加熱が可能となる。また、予備加熱室20を不活性ガスで置換しておくことにより、高温に加熱された被反応物が酸化等で活性を失うことがない。
また、真空ポンプ71は作動させずに、バルブ62、63、65を開けて、流量制御装置61で所望の流量の不活性ガスを導入すると同時に、排気バルブ74、76を開けて、常圧下で不活性ガスのみを導入・排気することもできる。この動作を被反応物の加熱と同時に行うことにより、被反応物を高温にすることにより発生したガスを不活性ガスで希釈しながら排気することができる。上記の装置の作動条件は、被反応物の所望の加熱プロセスに合わせて最適化すれば良い。
また、予備加熱室20の圧力状態を反応室30と同じにすることにより、予備加熱室20と反応室30との間の搬送を反応物を飛散させることなく、スムーズに行うことができる。
図1及び図2に示すように、反応室30の下方には装填機構室110及び装填機構部111が配置されている。装填機構室110と反応室30は反応室下部ゲート扉301bの開閉によって遮断、連通することができる。装填機構部111は、把持体2の下側を先端の支持台112で支持昇降するシャフト113と、このシャフト113をブラケット114を介して連結するシリンダー115から構成される。なお、シャフト113はシリンダー115の昇降動作に合わせて昇降し、その昇降ストロークは反応管300の長手方向(上下方向)の長さよりも長くしてある。その結果、通常、装填準備室110に退避しているシャフト113が反応室30内を上昇し、予備加熱室20にある把持体2の下側を支持して下降することにより、反応室30内の突出した保持部3に把持体2をセットすることができる。さらに、反応室30内の把持体2の下側を支持して上昇することにより、把持体2を予備加熱室20に取り出すことができる。
ここで、支持台112の上面は、高温の反応場32を通過するとともに、高温の把持体2の下面を支持するので、反応温度以上、好ましくは、1000℃以上の耐熱性を有するアルミナ、シリカ等のセラミックス系断熱材が好ましい。
シャフト113の反応室30への導入部について説明する。シャフト113はフランジ116の内部を通過しながら昇降する。フランジ116の内部には、シャフト113の昇降時の真直度を向上させるためにリニアガイド117が取り付けられ、また、反応室30と連通した時に反応室内のガスが外部に漏れないように、Oリング118がセットされて、シール構造を形成する。
シリンダー115は、エアーシリンダー等の空圧的手段、モーター等の電磁的手段等、昇降作動と位置制御ができるものであれば如何なるものを用いても良い。この場合、2本以上のシャフトを同軸円筒状に配置し、それぞれのシャフトに複数のシリンダーを組み合わせて各シャフトを昇降させてるようにしも良い。この場合、個々のシリンダーストロークの和が反応室30の長手方向の長さより長くなっていれば良いので、シリンダー115の短尺化を図ることができる。すなわち、装置の高さ方向において省スペース化を図ることができる。
図4に示す実施形態のシリンダー機構は、このように複数のシャフトを同軸円筒状に配置し、それぞれのシャフトを駆動する複数のシリンダーを設けることによりシリンダー機構の短縮化を図ったものである。図5〜7は、図4のシリンダー機構によりシャフトを反応室内で上昇移動させる行程を示す。
図4に示すように、シリンダー機構120は反応室30の下方に配置され、反応室上・下部ゲート扉301a、301bを開いたとき、反応室30内にシャフト121、122を上昇進入させるようになっている。
このシリンダー機構120は、上下方向に立設した中空構造の第1シャフト121と、この第1シャフト121の中空内部を上下方向に往復移動する第2シャフト122とを有する。また、これらシャフトの駆動源として、直動シリンダー(第1シリンダー)125と補助シリンダー(第2シリンダー)126との2基を有している。直動シリンダー125はブラケット124を介して第1シャフト121の下端に連結し、その第1シャフト121を上下方向に往復駆動する。また、補助シリンダー126は、補助シリンダー用シャフト123の把持部123aを第2シャフト122の下端に係合させ、その第2シャフト122を第1シャフト121の内部で往復駆動するようにしている。また、補助シリンダー126は、その軸方向(直動方向)と直交する方向に補助シリンダー移動機構127によって往復スライド移動するようになっている。
第1シャフト121は、反応室30下部のチャンバー119に取り付けられたフランジ130内部のガイド部128およびシール部を介して支持されており、そのガイド部128によりシャフト動作の真直度が確保され、かつシール部により反応室30内部の密閉性を確保されるようになっている。このシール構造により、反応室30及びチャンバー119を減圧状態に維持したままでもシリンダー機構120の駆動により被反応物を装填・回収することができる。
また、第1シャフト121の内部には、ガイド部129とOリング等のシール部131がセットされている。このガイド部129とシール部131により第2シャフト122の昇降の真直度を向上させるともに、反応室30内外の密閉性を確保している。また、ガイド部129およびシール部131は、反応室30内に進入したときにも、反応場からは遠い位置となるので、熱による劣化や損傷する懸念がほとんどない。
図示の例では、第1シャフト121は1本の中空軸により構成されているが、これを複数本(例えば、2本)の中空軸をOリング等のシール部を介して直列に着脱可能に連結した構造にするとよい。このように複数本の中空軸の連結構造にすると、ガイド部129やシール部131が摩耗寿命に達したときの交換を、第1シャフト121を分解することで容易行えるため、メンテナンスをしやすくする。なお、このように複数の中空軸を連結した構成にした場合には、つなぎ目で段差が生じないように、つなぎ合わせた後に外周面を仕上げることが好ましい。
以下、図4〜7によりシリンダー機構120による直動部(シャフト)の上昇移動操作を説明する。
先ず、図4の状態から反応室30の上・下部ゲート扉301a、301bを開けた状態にして、図5のように直動シリンダー125を駆動し、ブラケット124を介して連結した第1シャフト121を上昇させ、先端の支持部にワーク、すなわち被反応物を保持した把持体2を把持する。第1シャフト121は、ガイド部128やシール部に沿うように上昇することによりシール性や真直度が確保される(図5参照)。
次に、第2シリンダーを該第2シリンダーの軸方向と直交する方向に往復移動させる駆動装置として、補助シリンダー移動機構127を駆動し、補助シリンダー126を第1シャフト121の真下近傍に移動させ、図6のように補助シリンダー用シャフト123の先端の把持部123aを第2シャフト122の下端に係止させて把持する(図6参照)。
次に、補助シリンダー126を駆動して第2シャフト122を上昇させ、把持体(ワーク)2を上側チャンバーの予熱室20まで搬送する(図7参照)。この時、第2シャフト122のガイド部129やシール部131は管状ヒーター31から遠いため、温度上昇が軽微であり、熱による劣化、損傷を免れることができる。
図8及び図9に示す実施形態は、、同じくシリンダー機構の短縮化を図った別の態様である。
この実施形態は、シリンダー機構として市販の2段階昇降式のテレスコープシリンダー140を適用した場合である。テレスコープシリンダー140は、ケーシング141の内部に中空の第1シャフト142を設け、その第1シャフト142の中空部に第2シャフト143を組み込んでおり、圧縮空気により駆動されるようになっている。このテレスコープシリンダー140がシャフトを上昇させる作用は、空間部144に圧縮空気を導入して第1シャフト142を押し上げると、同時に圧縮空気がスリット145を徐々に通過して、空間部146にも進入することで第2シャフト143も押し上げ、先端の支持部のワーク2が上側の予備加熱室20のチャンバー内に達する(図9参照)。
この実施形態では、図4の実施形態に比べて、ガイド部147やシール部148が管状ヒーター31に近いため、反応室内が高温の場合は熱による劣化や損傷を受けやすく、図4の実施形態よりもガイド部やシール部の交換周期が短くなる問題や、気密性に難があるため、シリンダーが昇降中に反応室内のガスが外部に漏れるという問題が生じ得る。したがって、図4の実施形態の場合は、特に、高温(反応場が500℃以上)かつ長尺(長手方向に500mm以上)の反応室内にバッチ的に被反応物を装填、回収するための機構として適している。
さらに図4の実施形態では、シリンダーを短尺化することができ、その結果、反応室内のガスが漏れたり、真空不良を引き起こす危険性がほとんど無くなるとともに、装置のコンパクト化も可能となる。そして、図4に示すように、縦型炉タイプの反応装置において、被反応物を反応室にバッチ的に装填または回収する機構として、本発明のシリンダー機構を適用すれば、装置の高さを抑制できるとともに、高い位置精度で所定の装填位置または回収位置まで被反応物を搬送することができる。また、第1シャフトを複数の中空軸を直列に連結した構成とすることにより、第1シャフトの中空内部に設置したガイド部やシール部の交換が容易となり、メンテナンス性が向上する。
なお、図4に示すシリンダー機構は、予備加熱室を備えた気相反応装置への適用のみに限定されるものではない。反応室のほか、加熱炉、真空チャンバー等に代表される高温、真空、特殊ガス雰囲気等によって内部が特殊環境に晒される構造物に付設して、処理ワークの搬送手段として適用すれば、コンパクトな装置構成でワークを特殊環境下に対して搬送することができる。特に、500℃以上の反応室への被反応物の装填、取出手段として、このシリンダー機構を適用すれば、ガイド部やシール部などを高温下に晒すことが少なく、シリンダーの耐久性、動作の高い信頼性を確保することができる。また、減圧された反応室への被反応物の装填・取出手段としてこのシリンダー機構を適用すれば、中空構造の第1シャフトの外側と内側に設けたシール部によって反応室内部の密閉性を確保できるので、減圧状態を維持したまま、被反応物の装填・回収が行えて、サイクルタイムの短縮化を可能することができる。
図1及び図2の態様に戻ると、反応室30の下側の装填機構室110は減圧に対応できるようにチャンバー119で覆われている。図示しないが、予備加熱室20と同様に不活性ガス供給部60と真空排気部70と接続されて、任意に減圧したり、不活性ガスで置換できるようにしておくとよい。
上記のように反応室30の下に装填機構室110を、反応室30の上に予備加熱室20を配置することにより、反応管300を高温に保持したまま、予備加熱室20にある被反応物を間欠的に反応室30内に装填し、回収することができる。さらに、予備加熱室20内で予備ヒーター21により上方側から加熱している把持体2を下側から支持して下降搬送し、直下の反応室30にセットするので、加熱状態の被反応物の温度をほとんど下げることなく、さらに、装填機構部111の機械部品を高温に晒すことなく、把持体2を反応室30に装填できる。
また、被反応物の装填・回収動作は上記に説明した装填機構部111を用いて鉛直方向で行う一方、予備加熱室20への被反応物の搬出入動作に対しては該鉛直方向に直角な面内で、水平方向に移動可能な一般的な搬送装置を適用することができる。したがって、予備加熱室20外〜予備加熱室20〜縦型反応管300の間の一連の搬送・装填動作を安定して確実に行うことができる。
上記のように装填用のシャフト113が反応室30の長手方向の長さよりも長くすることにより、駆動しない時は、シャフト113、支持台112等の機構部品を装填機構室110に格納できるので、高温の反応管内で熱劣化することがない。さらに、上記のように管状ヒーター31で覆った反応管300の上部に、面状の予備加熱ヒーター21を配置することにより、被反応物の昇温工程から反応工程までの一連の処理をほぼ連続的に処理することが可能となる。さらに予備加熱ゾーンの省スペース化を図ることができる。
投入室10も減圧に対応できるチャンバー12で構成する。投入室10は予備加熱室20に併設され、室間には上記の予備加熱室入口ゲート扉15が設けられて、開閉により予備加熱室20と任意に遮断、連通する。一方、反対側には外部から被反応物および把持体2を受け入れるために、投入ゲート扉11が設けられ、開閉により外部と任意に遮断、連通する。さらに、投入室10には把持体2を搬送するための搬送装置13が設置される。搬送装置13は直動と昇降の両方の動作が行えるものが良く、先端に取り付けられた投入テーブル14を投入室10と予備加熱室20との間で任意に往復、昇降させる。投入テーブル14は投入室10から予備加熱室20内の装填前テーブル201の上方まで移動した後、下降することにより、投入テーブル14上の把持体2が装填前テーブル201の所定の位置に受け渡される。
また、投入室10は配管75、バルブ77を介して真空排気部70と、配管64、バルブ66を介して不活性ガス供給部60と接続される。投入室10の減圧は、真空排気部70を作動させて、バルブ77を開けることにより行う。そして、不活性ガスで置換する場合は、一度、投入室10を減圧にして、図示しない圧力計により所定圧力に到達した後、バルブ77を閉じる。次に、不活性ガス供給部60を作動させ、バルブ66を開けて、所定流量の不活性ガスを図示しないセンサーで大気圧を検知するまでを導入する。
本来、予備加熱室20内では被反応物の加熱を減圧下もしくは不活性ガス化で行うので、予備加熱室20に空気を持ち込むことは好ましくない。そこで、上記のように、予備加熱室20の前にゲート扉15を介して投入室10を設けることにより、投入室を予め予備加熱室20と同一の雰囲気または圧力状態にしておけるので、把持体2の投入室10から予備加熱室20への搬送を、大気と接触させることなく、かつ反応物を飛散させることなくスムーズに行うことができる。
後側の冷却室40は、減圧に対応できるチャンバー42で構成されている。冷却室40は予備加熱室20に併設され、室間には上記の冷却室入口ゲート扉41が設けられて、開閉により予備加熱室20と任意に遮断、連通する。一方、反対側には回収室入口ゲート扉51を挟んで、回収室50が設置されている。回収室50と冷却室40は、この回収室入口ゲート扉51を開閉することにより任意に遮断、連通することができる。さらに、冷却室40の内部には、把持体2を搬送するための搬送装置43が設けられている。搬送装置43は直動と昇降の両方の動作が行えるものが良く、先端に取り付けられた冷却テーブル44を予備加熱室20と冷却室40の間で任意に往復、昇降させる。なお、冷却テーブル44に冷却水循環系等の冷却機能を設けておき、搬送されてきた把持体2および反応物を急速冷却するようにしても良い。
また、冷却室40は配管75、バルブ78を介して真空排気部70と、配管64、バルブ67を介して不活性ガス供給部60と接続されている。冷却室40の減圧は、真空排気部70を作動させて、バルブ78を開けることにより行う。そして、不活性ガスで置換する場合は、一度、冷却室40を減圧にして、図示しない圧力計により所定圧力に到達した後、バルブ78を閉じる。次に、不活性ガス供給部60を作動させ、バルブ67を開けて、所定流量の不活性ガスを図示しないセンサーで大気圧を検知するまでを導入する。
反応直後の反応物は高温であり、反応後に直ぐに空気を接触させると反応物が酸化反応を起こす可能性が高い。したがって、予め減圧下、もしくは不活性ガス雰囲気下の冷却室40に反応物を搬送し、冷却することにより、反応直後の酸化を防止する。さらに、予備加熱室20内では被反応物の加熱を減圧下もしくは不活性ガス化で行うので、予備加熱室20に空気を持ち込むことは好ましくない。そこで、上記のように、予備加熱室20の後にゲート扉41を介して冷却室40を設けることにより、冷却室40をあらかじめ予備加熱室20と同一の雰囲気および圧力状態にしておけるので、把持体2の予備加熱室20から冷却室40への搬送を、大気と接触させることなく、かつ反応物を飛散させることなくスムーズに行うことができる。
回収室50も減圧にも対応できるようにチャンバー59で囲う構成になっている。また、外部から把持体2を受け取るために、回収ゲート扉52が設けられ、任意に外部と遮断、連通できるようになっている。回収室50の内部には、把持体2を冷却室40と回収室50の間を搬送するための搬送装置53が設けられている。搬送装置53の先端には回収テーブル54が取り付けられた構造になっている。回収テーブル54は、直動機構を駆動することにより、冷却室40と回収室50の間を任意に往復移動できる。
また、回収室50は、配管75、バルブ79を介して真空排気部70と、配管64、バルブ68を介して不活性ガス供給部60と接続されている。回収室50の減圧は、真空排気部70を作動させて、バルブ78を開けることにより行う。そして、不活性ガスで置換する場合は、一度、回収室50を減圧にして、図示しない圧力計により所定圧力に到達した後にバルブ79を閉じる。次に、不活性ガス供給部60を作動させ、バルブ68を開けて、所定流量の不活性ガスを図示しないセンサーで大気圧を検知するまでを導入する。
冷却室40は高温の反応物が反応されてくるので、冷却室に空気を持ち込むことは好ましくない。上記のように、冷却室40の後にゲート扉51を介して回収室50を設けることにより、回収室50を予め冷却室40内と同一の雰囲気及び圧力にしておけるので、把持体2の冷却室40に空気を持ち込むことなく、かつ反応物を飛散させることなく、スムーズに搬送できる。
ここで、粉状あるいは粒子状の被反応物は、微視的に見たときに、ナノメートルオーダーの微粒子あるいはこれらの集合体、あるいはこれら粒子が何らかの担持体に保持された状態、ミクロンオーダー、ミリオーダーでの粉状物や粒子状物であったりするが、これらが、熱により分解し、ナノオーダーでの微粒子状になるものであっても良い。すなわち、単体では飛散してしまい、把持体2により位置が決められるようなものである。したがって、把持体2としては、これら粉状あるいは粒子状物を載せるか、あるいは内部に保持できるような把持体であれば特にその形状等は問わない。しかしながら、本発明で使用する把持体2は、気体が実質的に通過可能で、それに保持させた粉状あるいは粒子状の被反応物とは気体接触可能ならしめるものとする。したがって、粉状あるいは粒子状の被反応物の大きさにもよるが、多孔質セラミックなどが好ましく選択される。
図3は、粉状あるいは粒子状の被反応物の把持体2として好ましい形態を例示する。
図示の把持体2は、金属酸化物繊維210、多孔板211、押さえ部材212から構成されている。粉状あるいは粒子状の被反応物214は、金属酸化物繊維210の上に設置されている。多孔板211は反応領域における金属酸化物繊維210を下側から支持し、金属酸化物繊維210のたわみを防止して、被反応物の装填状態を安定化させる。
また、多孔板211の孔径、孔ピッチ、多孔板の厚み等をガスの流速等の反応条件に合わせて適正化することにより、金属酸化物繊維210上の被反応物でガスの流速のバラツキを抑えることが可能である。反応条件にもよるが、概ね適正な孔径としては0.5mm〜50mm、好ましくは1〜30mmの範囲がよい。適正な孔ピッチは孔径の1.5〜10倍、好ましくは1.5〜5倍がよい。適正な多孔板の厚みは0.1mm〜50mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲にするのがよい。また、金属酸化物繊維210の内部は圧力損失およびガス拡散の効果により、被反応物が設置された全領域で均一なガス流れを形成する。
金属酸化物繊維210の下面周縁部には、反応管内の部材と密着することによりシール部215が形成されている。このシール部215は、押さえ部材212の重力により金属酸化物繊維210が圧縮されて形成されるものであり、ガスの通過を略封止する。さらに、下方よりガスが導入された場合、把持体2の圧損の影響による力を下方から受けても、把持体2の重力がその力より大きければ、把持体は上方に浮くことないので、シール部215でシール性を維持することができる。その結果、下方より導入されたガスは殆ど多孔板211及び金属酸化物繊維210を通過し、被反応物214に均一に接触することができる。
そして、反応部の温度が500℃以上、好ましくは600℃以上の場合にも適用できるように、反応場32の反応熱を考慮して、多孔板211や押さえ部材212はすべて耐熱温度が950℃以上であるものが良い。例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素等の耐熱セラミックス、石英等を挙げることができる。
また、金属酸化物繊維210としては、950℃以上の耐熱性のある耐熱繊維であることが好ましく、その耐熱性があれば特に限定されない。特にSiO2 あるいはAl2 O3 の繊維が好ましい。ニチアス(株)製の”ファインフレックス”、(株)ニチビ製のアルミナ長繊維フェルト、三菱化学産資(株)製の" マフテック" 、イソライト工業(株)社製" イソウール" 等が好適に用いられる。また、耐熱温度が950℃以上の金属フィルター等も好適に利用される。
図示の実施形態では、多孔板211以外の構成部材として押さえ部材212を用いたが、金属酸化物繊維および多孔板の形状、装填形態等に合わせて、適宜、必要な構成部材を準備すれば良い。
次に、反応室30へのガス導入部について説明する。図1に示すように、反応室30の下部は反応ガスの導入口が設けられ、反応ガス供給部80と反応室不活性ガス供給部90に接続されている。反応ガス供給部80は流量制御装置81とその前後にバルブ82、83が接続されている。そして、反応室不活性ガス供給部にも同様に流量制御装置91とその前後にバルブ92、93が接続されている。バルブは自動で制御できるものが好ましく、流量制御装置81、91は導入する気体の流量を厳密に制御できるマスフローコントローラであればどのようなものでも良いが、体積式流量制御方式のものや、面積式流量制御方式のもの、ピエゾアクチュエータバルブ、サーマルアクチュエータバルブ、ソレノイドアクチュエータバルブなど種々の流量制御方式のものを利用することができる。
さらに、反応管300の上部には真空排気部100が接続されている。真空排気部100は真空ポンプ101と真空バルブ102から構成されている。また、真空ポンプ101を作動させなくても反応室30内のガス排気が可能なように、真空ポンプ101と並列に排気バルブ103を設けている。気相反応プロセスの最適な圧力条件に合わせて、真空排気部100を動作させれば良い。真空ポンプ101の選定は、気相反応プロセスで反応中の圧力に応じた選定をすれば、何でも良いが、炭化水素系ガスを使用するため、オイルレスタイプのドライポンプが好ましく採用される。さらに、不活性ガスを流しながら排気すると、圧縮時に炭化水素系ガスや副産物として発生する水素ガスの希釈ができ、余裕をもって爆発限界以下に制御でき、爆発対策としても好ましい。
さらに、常圧プロセスでは、反応後のガスを効率良く排気する意味で、排気バルブ103を開けながら反応ガスを爆発限界以下の濃度となるように不活性ガスも導入しながら気相反応させることが好ましい。
また、反応ガスおよび不活性ガスのように2種類以上の気体を導入する場合、図1に示すように、少なくとも2種のガスを直角方向から導入することで、混合が均一化できるので好ましい。さらに好ましくは、スタティックミキサーのような混合器を配置し、ここで混合を均一化する工夫をすると好ましい。混合を均一化する手段として、スタティックミキサーの他、ガスフィルターを設けても良い。
炭素含有化合物が炭化水素または−OH基を含む炭化水素であって、液体である場合には、液体気化装置を具備するとさらに好ましい。液体気化装置としては、(株)エステック社製のダイレクトインジェクション「VC」を用いた気化システムや、(株)リンテック社製の気化器「VU」シリーズを用いた気化システム等が好ましく適用することができる。
本発明の気相反応装置を用いることによって、気相反応は、以下に説明するようにして行われる。
最初に、投入室10の投入テーブル14の上に、被反応物を保持した把持体2をセットする。セットは、投入ゲート扉11を開けた状態にして、手作業あるいは自動で行う。セットを完了した後、投入ゲート扉11を閉じ、投入室10を不活性ガスで置換する。不活性ガスの置換は、真空排気部70を作動させて投入室10を減圧にした後、不活性ガスを室内がほぼ大気圧になるまで導入する。また、各室を減圧状態にしたまま、ゲート扉を開閉して、把持体2を搬送するようにしてもよい。
次に、予備加熱室入口ゲート扉15を開け、予め投入室10と同様に不活性ガスで置換した予備加熱室20に、投入室10の被反応物を保持した把持体2を搬送する。搬送は搬送装置13の直動機構を駆動し、投入テーブル14を装填前テーブル201の中心付近まで移動させる。移動完了後、搬送装置13の昇降機構を駆動して、投入テーブル14を下降させて、把持体2を装填前テーブル201に受け渡す。受け渡しが完了したら、投入テーブル14を投入室10まで直動退避させる。退避が完了したら、予備加熱室入口ゲート扉15を閉じて予備加熱室20を密閉する。
予備加熱室20では、装填前テーブル201に保持された把持体2を、予備加熱ヒーター21により予め設定した加熱プロファイルにしたがって昇温工程の加熱を開始する。予め、一定温度に加熱した空間に把持体2を搬送するようにしても良いが、被反応物の加熱プロファイルが反応物の品質や収量に影響する場合は、把持体2が装填前テーブル201に載置された後から、予備加熱ヒーター21を指定の加熱プロファイルにしたがって制御する。被反応物等の最適な活性化条件にしたがって、昇温する過程で任意の温度にして一定時間保持することも好ましい。この昇温工程は、先行の被反応物について実施されている反応室30の反応工程と平行して同時に実施され、かつ昇温後の所定温度を次の反応室30に装填するまで保持する。
上記所定の加熱プロファイルでの昇温工程が終了したら、反応室30への装填動作に移る。このように被反応物を反応室30に装填する前に予め加熱しているので、反応室30に装填してから昇温工程を短縮又は不要にできるためサイクルタイムを短縮化することが可能になる。また、前の予備加熱室20において、反応室30の反応工程とは独立に被反応物を最適化された加熱プロファイルで昇温することができるので、被反応物を高い活性状態にし、高品質の反応生成物を得ることができる。なお、予備加熱は、その被反応物の最適な加熱条件にしたがって減圧下で行ったり、不活性ガスを導入しながら行ったりすれば良い。
予備加熱室20における昇温工程は、反応室30で先工程の被反応物の反応処理を行っている場合、装填前テーブル201上にある把持体2を反応室30への装填動作に移るまで所定温度に保持する。温度の低下による被反応物の活性低下を防止し、さらに反応室30に装填してからの被反応物の昇温時間を短縮することができるからである。
次に、予備加熱室20で予備加熱された被反応物が装填される反応室30は、ヒーター31により予め反応場32が反応温度に加熱されている。反応室30の内部にある保持部3に把持体2を設置するように装填動作を行う。
まず、予備加熱室20と反応室30を密閉仕切っている反応室上部ゲート扉301aと反応室20と装填機構室110を密閉仕切っている反応室下部ゲート扉301bを開け、予め不活性ガスで置換されている反応室30と予備加熱室20とに、装填機構部111の駆動により反応室30から予備加熱室20の内部までシャフト113上端の支持台112を上昇させ、把持体2の下側を支持する。その後、シャフト113を下降させることにより、把持体2の下面周縁部215を反応室30の保持部3の上に載置し、さらにシャフト113上端の支持台112を反応室30の下側に退避させ、反応室上・下部ゲート扉301a、301bを閉じる。
なお、ガス導入時や、真空引きを行う場合には、被反応物が飛散したり、吸引排出されるのを防止するため、被反応物の上側にさらに金属酸化物繊維等の耐熱性の通気材を設置するようにすることが好ましい。
次に、被反応物をさらに反応温度まで加熱する昇温工程に進む。予め予備加熱室20で加熱されているため、短時間で被反応物を反応温度まで昇温することができる。なお、昇温工程では、所望の圧力条件、不活性ガス供給条件で行う。例えば、不活性ガスを流しながら常圧下で加熱する場合は、反応室不活性ガス供給部90を作動させるとともに、排気バルブ103を開けて、適正な流量の不活性ガスを一定に制御して導入しながら、被反応物の加熱を行う。また、減圧下で加熱を行う場合は、真空排気部100を作動させ、必要に応じて、反応室30に不活性ガスを供給しながら行う。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムが良く用いられ、また、触媒金属の活性化に効果的な水素を含有させることも好ましい。
次に、反応場32に反応ガスを導入しながら気相反応させる反応工程に進む。
本発明では、前記昇温工程を実施した直後に、反応工程を実施するのが好ましく、昇温工程から引き続き反応工程を実施するのが好ましい。反応場32は減圧下であっても、常圧下であってもどちらでも良く、その反応プロセスに適合した圧力条件に設定する。減圧条件は、真空排気部100を作動させて実現する。そして、所望の条件で反応室不活性ガス供給部90により不活性ガスが導入しながら、反応ガス供給部80を作動させて、所定流量の反応ガスを導入する。反応室30内に導入された反応ガスは、把持体2に保持された被反応物と接触して触媒反応を起こし、反応生成物が生成される。なお、反応ガス種、流速及び圧力等は、その反応プロセスに最適な条件を選択すれば良いが、反応ガスに炭素含有化合物を適用する場合は、適正な不活性ガスで希釈されたものも含む。そして、反応管300を通過するガスの流速は、1cm/秒〜100cm/秒の範囲が好ましい。1cm/秒未満では置換の効率が悪く、また、100cm/秒超では把持体2での圧力損失が大きく、把持体2の上下での圧力差により、被反応物が舞い上がったり、動いたりするので良くない。
反応ガスを所定時間導入した後、反応ガス供給部80による反応ガスの導入を停止し、その後、反応室不活性ガス供給部90を作動させて、残存する反応ガスを完全に排除するのが良い。その後、反応室上・下部ゲート扉301a、301bを開け、シャフト113上端の支持台112を昇降させて、把持体2を上昇させ、予備加熱室20にある反応後テーブル202に受け渡す。その後、シャフト113を下降させて、支持台112を装填機構室110に格納した後、反応室上・下部ゲート扉301a、301bを閉じる。
そして、予備加熱室20と冷却室40を密閉して仕切る冷却室入口ゲート扉41を開け、予め不活性ガスで置換した冷却室40にある搬送装置43を作動させ、冷却室テーブル44を反応後テーブル202の中心付近まで直進させ、その後、上昇させて、把持体2を冷却室テーブル44上に受け取る。その後、冷却室テーブル44を冷却室40まで戻し、冷却室入口ゲート扉41を閉じる。冷却室40では所定時間、反応物を冷却する。冷却は冷却水を循環させた冷却室テーブル44により行っても良いし、不活性ガス雰囲気下で指定時間、静置しているだけでも良い。
冷却が完了すれば、冷却室40と回収室50とを密閉して仕切る回収室入口ゲート扉51を開け、予め不活性ガスで置換した回収室50にある搬送装置53を作動させ、回収テーブル54を冷却室テーブル44付近まで直進させる。その後、冷却室テーブル44を下降させて、把持体2を回収テーブル54上に受け取り、回収室50まで移動させ、回収室入口ゲート扉51を閉じる。
回収テーブル54に載置された把持体2を、回収ゲート扉52を開けて、手作業あるいは自動で取り出す。取り出し前に回収室50を空気で置換すると安全上さらに良い。
本発明の気相反応装置を用いて行われる気相反応方法は、中空カーボンファイバーの製造に好適に使用することができる。すなわち、担体に触媒金属を担持させ、500℃〜1200℃、好ましくは600℃〜950℃の温度で触媒金属と炭素含有化合物とを接触させて気相反応を行わせることにより、電子放出特性、導電性、強度、触媒担持分散性に優れた特に単層〜3層を主成分とする直径が細く、高品質のカーボンナノチューブを製造することができる。
本発明において、金属触媒を担持する担体としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライトの群から選ばれた少なくとも1種を主成分とする材料が好ましく用いられる。
マグネシアの種類は特に限定されるものではなく、市販品であっても、合成したものであってもよい。マグネシアの製法としては、金属マグネシウムを空気中で加熱する、水酸化マグネシウムを850℃以上で加熱する、炭酸水酸化マグネシウム3MgCO3 ・Mg(OH)2 ・3H2 Oを950℃以上に加熱する等の方法があるが、これらに限定されるものではない。マグネシアの中でも、軽質マグネシアやメソポーラスマグネシアが好ましく、特に軽質マグネシアが好ましい。
ゼオライトとは、分子サイズの細孔径を有する結晶性無機酸化物からなるものである。ここで分子サイズとは、世の中に存在する分子のサイズの範囲であり、一般的には、0.2nmから2nm程度の範囲を意味する。さらに具体的には、結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、或いは結晶性メタロアルミノフォスフェート等で構成された結晶性マイクロポーラス物質のことである。
結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、結晶性メタロアルミノフォスフェートとしては、特に種類は制限されないが、例えば、アトラス オブ ゼオライト ストラクチュア タイプス(マイヤー、オルソン、バエロチャー、ゼオライツ、17(1/2)、1996)( Atlas of Zeolite Structure types (W. M. Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Zeolites, 17(1/2), 1996 )に掲載されている構造をもつ結晶性無機多孔性物質が挙げられる。また、本発明におけるゼオライトは、本文献に掲載されているものに限定されるものではなく、近年次々と合成されている新規な構造を有するゼオライトも含む。好ましい構造としては、入手が容易なFAU型、MFI型、MOR型、BEA型、LTL型、LTA型であるが、これらに限定されるものではない。
本発明において使用するゼオライトとしては、耐熱性が高いものが好ましい。耐熱性が高いとは、具体的には、実質的に4価の金属(Si,Ti,Ge,Zr等)と酸素で骨格が構成されているゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)>200)と、3価以下の金属を骨格中に含むゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)<200)であって、900℃での耐熱性を有するものである。ここで、4価の金属の主成分はSiである。3価以下の金属を骨格中に含むゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)<200)においては、一般にSi原子以外の原子(ヘテロ原子)が少ない方が耐熱性が高い。ゼオライト骨格中のSi/ヘテロ原子の比が10以上のものが耐熱性が高く好ましく、さらに好ましくは15以上のものがよい。ゼオライト骨格中のSi/ヘテロ原子の比は、29Si MAS NMRで測定することができる。最も好ましくは、4価の元素と酸素のみで構成されたゼオライトがよい。
ゼオライトは、その骨格が4面体の中心にSi又はAlやチタン等のヘテロ原子(Si以外の原子)、4面体の頂点に酸素を有するシリケート構造を有している。したがって、4価の金属がその4面体構造の中心に入るのが最も安定であり、耐熱性が期待できる。したがって、理想的には、Al等の3価の成分を実質的に含まないか、或いは少ないゼオライトが耐熱性が高い。これらの製造法としては、従来公知の水熱合成法などで直接合成するか、後処理で3価の金属を骨格から抜く方法が好ましく用いられる。
金属触媒の担体としては、メソポーラス材料を適用すれば、不純物が少なくて細いカーボンナノチューブを生成することができる。
メソポーラス材料とは、2〜50nm程度の直径を有する細孔を持つ材料であって、界面活性剤と無機物質の協奏的な自己組織化により合成される。メソポーラス材料は大きい比表面積と高い安定性など、触媒や吸着剤としての優れた基本物性を有する。この様な材料のメソポーラス細孔は、担体上でカーボンナノチューブを合成する際に金属担持する細孔として有用である。代表的物質としてメソポーラスシリカが挙げられる。メソポーラスシリカの結晶構造は特に限定されないが、例えば、モービル社が開発したヘキサゴナル構造をもつMCM−41、キュービック構造をもつMCM−48、層状すなわちラメラ構造をもつMCM−50があり、特に規則的な六角形の細孔が平行に配列したMCM−41構造が好んで用いられる。
メソポーラス材料は、大きい比表面積と高い安定性など、触媒や吸着剤としての優れた基本物性を有する。また、均一で規則的な配列は有していないが、一般的な多孔性無機材料で、メソポーラス細孔を有する材料として、ゼオライト、アルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニアなどが挙げられる。この様な材料のメソポーラス細孔は、担体上でカーボンナノチューブを合成する際に金属担持する細孔として有用である。
担体に担持する金属の種類は、特に限定されないが、好ましくは3〜12族の金属、特に好ましくは、5〜11族の金属を挙げることができる。中でも、V,Mo,Fe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh、W、Cu等が特に好ましく、さらに好ましくは、Fe,Co,Niが用いられる。ここで金属とは、0価の状態とは限らない。反応中では0価の金属状態になっていると推定できるが、広く金属を含む化合物又は金属種という意味で解釈してよい。
また、金属は微粒子であることが好ましい。微粒子とは、粒径が0.5〜10nmであることが好ましい。金属の粒径が小さいと、直径の細いカーボンナノチューブが生成しやすい。
金属は1種類だけを担持させても、2種類以上を担持させてもよいが、2種類以上を担持させるようにした方が好ましい。2種類の金属を担持させる場合は、Co,Ni,Pd,Pt,Rhと他の金属の組み合わせが特に好ましい。CoとFe,Ni,V,Mo,Pdの1種以上とを組み合わせる場合が最も好ましい。
担体に対する金属の担持方法は、特に限定されない。例えば、担持したい金属の塩を溶解させた非水溶液中(例えばエタノール溶液)又は水溶液中に、担体を含浸し、充分に分散混合した後、乾燥させることで担体に金属を担持することができる。さらにその後、窒素、水素、不活性ガスまたはその混合ガス又は真空中で高温(300〜600℃)で加熱しても良い(含浸法)。
上記金属塩としては特に限定されない。例えば、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、チオシアン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、硫化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、アセチルアセトン錯体、シクロペンタジエニル錯体などが挙げられ、中でも酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、クエン酸塩が好ましい。
最適な金属担持量は、酸化物の細孔容量や外表面積、担持方法によって異なるが、担体に対して0.1〜10重量%の金属を担持することが好ましい。2種類以上の金属を使用する場合、その比率は限定されない。そして、使用する炭素含有化合物は、特に限定されないが、好ましくは炭化水素又は一酸化炭素を使うとよい。
炭化水素は芳香族であっても、非芳香族であってもよい。芳香族の炭化水素では、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン又はこれらの混合物などを使用することができる。また、非芳香族の炭化水素では、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレンもしくはアセチレン、又はこれらの混合物等を使用することができる。炭化水素には、また酸素を含むもの、例えばエタノール若しくはメタノール、プロパノール、ブタノールのごときアルコール類、アセトンのごときケトン類、及びホルムアルデヒドもしくはアセトアルデヒドのごときアルデヒド類、トリオキサン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルのごときエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類又はこれらの混合物であってもよい。
上記の生成したカーボンナノチューブは共鳴ラマン分光法により評価が可能である。ラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトはグラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm-1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いほどグラファイト化度が高く、高品質なカーボンナノチューブを意味する。本発明の気相反応方法を用いればG/D比が10以上、好ましくは20以上、さらに好ましくは25以上の単層〜3層を主体としたカーボンナノチューブを容易に生成することができる。そして、このカーボンナノチューブは高い導電性、表面積、強度の特性から電子放出材料、電池電極材料、高強度樹脂、導電性樹脂、電磁波シールド材の材料として最適である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
以下に説明する実施例及び比較例において使用する元素分析及びラマン分光測定は、以下の測定方法により行ったものである。
(元素分析)
日本電子(株)社製の走査電子顕微鏡(JSM−6301F)に付属のEDSで元素分析を行った。
(ラマン分光測定)
堀場ジョバンイボン社製のラマン分光測定装置INF−300を使用し、レーザー波長532nmでラマン分光測定を行い、ラマンスペクトルを得た。ラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトはグラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm-1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いほどグラファイト化度が高く、高品質なカーボンナノチューブを意味する。以下の実施例では、10点の測定スペクトルからG/D比の平均を計算した。このG/D比が高い場合には高い電気、熱伝導性や強度、耐熱性という特性を有することを意味する。
実施例1
(1)触媒作成(チタノシリケートゼオライトへの金属塩の担持)
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.2gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク社製)4.2gとをエタノール(ナカライテスク社製)800mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に、TS−1ゼオライト(エヌイーケムキャット製、ケイ素/チタン比50)を40.0g加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でエタノールを除去して、TS−1型ゼオライト粉末に金属塩(酢酸第一鉄および酢酸コバルト4水和物)が担持された固体触媒を得た。このバッチ処理を繰り返すことにより必要量の固体触媒を得た。
(2)カーボンナノチューブの合成
内径250mm、肉厚5mmの石英製縦型反応管のほぼ中央部を電気管状炉で覆い、あらかじめアルゴンで満たした反応管内部の温度が800℃となるように加熱している。第1のバッチである固体触媒10gを図3に示す把持体に保持した状態で、図1に示す気相反応装置の投入室にセットする。その後、投入室をアルゴンで置換して、装置を作動させて、アルゴンで満たした予備加熱室に触媒を搬送した後、予備加熱ヒーターを作動する。予備加熱ヒーターはハロゲンランプから構成されるもので、800℃まで5分で昇温できるように設定する。次に、反応室の下部に配した装填機構を駆動して、あらかじめ800℃に加熱した反応室に装填する。反応室は内径250mmの石英反応管であり、触媒の装填前にあらかじめアルゴンで満たしておく。
固体触媒を装填後、ゲート扉を閉じて反応管の上下端を密閉し、反応管にアルゴンを20L/分の流量で導入しながら固体触媒を800℃になるまで加熱した。これに要する時間は1分であった。なお、反応管へのガスの導入は反応管内下側にある1箇所の入口から供給し、反応管上側にある4箇所の排気口から排気することにより行う。このとき、導入されたガスはほぼすべて固体触媒に接触する。
次に、アルゴンをキャリアーガスとして20L/分の流量で反応管内に導入を続けながら、アセチレンを40cc/分の流量で15分間導入する。
次に、アセチレンの導入を停止し、1分間、アルゴンを20L/分の流量で導入した。その後、ゲート扉を開けて、反応管内の上下端を開放し、装填機構を駆動して触媒を予備加熱室に搬送する。その後、あらかじめアルゴンで満たした冷却室で10分間、静置冷却した後、回収室に搬送し、回収ゲート扉から人手により回収した。
反応管で反応処理が行われている間に、第2のバッチを投入室にセットし、アルゴンで置換した後、予備加熱室に搬送しておく。予備加熱室では第1のバッチと同じ加熱プロファイルで第2のバッチの予備加熱を行う。加熱プロファイルでの昇温が終了後、触媒が800℃で維持できるように加熱保持する。そして、第1のバッチが冷却室に搬送された後に、第2のバッチを反応室に装填する。なお、第2のバッチが予備加熱位置に保持されている間は予備加熱ヒーターは作動している。第1のバッチと同様に第2のバッチも反応処理を行い、予備加熱室に搬送し、冷却室で冷却してから回収室に搬送した。
第2のバッチと同様に第3以降のバッチについても処理を行い、合計20バッチ処理した。サイクルタイムは20分であった。
(3)カーボンナノチューブの焼成
合成で得たカーボンナノチューブ含有組成物、約200gを、大気雰囲気で400℃(昇温時間40分)に加熱した。400℃で60分保持した後、室温まで冷却した(降温時間60分)。
(4)カーボンナノチューブの分離回収
焼成後のカーボンナノチューブ含有組成物、約200gを、トルエン2000mlとイオン交換水2000mlを入れたタンクに投入し、60分間超音波照射した後、分液ロートに移し、30分静置した。上層部(トルエン側)と下層部(イオン交換水側)を分液、それぞれ回収し、回収した上層部(トルエン側)は、イオン交換水1000mlを加えてタンクに投入した。このような撹拌、超音波処理、静置、分液、回収した上層部(トルエン側)にイオン交換水を追加する一連の操作を1回として、3回繰り返し、最後に得られた上層部(トルエン側)を濾過、乾燥した。
(5)カーボンナノチューブの分析
上記(4)で回収したカーボンナノチューブ含有組成物は18.5gであった。これをEDSで元素分析を行った結果、炭素の純度は91.5%であった。また、ラマンG/D比を測定した結果、11.1であった。
実施例2
(1)触媒作成(USY型ゼオライトへの金属塩の担持)
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)6.4gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)8.8gとをエタノール(ナカライテスク社製)70mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に、USY型ゼオライト(東ソー製HSZ-390HUA、シリカ/アルミナ比390)を100g加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でエタノールを除去して、USY型ゼオライト粉末に金属塩が担持された触媒を得た。このバッチ処理を繰り返すことにより必要量の固体触媒を得た。
(2)カーボンナノチューブの合成
内径250mm、肉厚5mmの石英製縦型反応管のほぼ中央部を電気管状炉で覆い、あらかじめアルゴンで満たした反応管内部の温度が800℃となるように加熱している。第1のバッチである固体触媒10gを図3に示す把持体に保持した状態で、図1に示す気相反応装置の投入室にセットする。その後、投入室、予備加熱室、反応室、装填準備室、冷却室を100Pa以下まで減圧する。その後、予備加熱室に触媒を搬送して、予備加熱ヒーターを作動する。予備加熱ヒーターはハロゲンランプから構成されるもので、300℃まで1分で昇温し、5分間保持した後、800℃まで1分で昇温した。次に、反応室の下部に配した装填機構を駆動して、あらかじめ800℃に加熱した反応室に装填する。反応室は内径250mmの石英反応管であり、100Pa以下の減圧状態に保持されている。
固体触媒を装填後、ゲート扉を閉じて反応管の上下端を密閉し、真空ポンプで引き続けながら固体触媒を800℃になるまで加熱した。これに要する時間は1分であった。
次に、アルゴンをキャリアーガスとして1L/分の流量で反応管内に導入を続けながら、エタノール蒸気を1g/分の流量で15分間導入する。エタノールの蒸気化には(株)リンテック社製のVU−430を適用した。このときの反応室内の圧力は500Paであった。次に、エタノール蒸気の導入を停止し、真空ポンプで1分間排気を継続した。
その後、ゲート扉を開けて、反応管内の上下端を開放し、装填機構を駆動して触媒を100Pa以下に保持された予備加熱室に搬送する。その後、100Pa以下に保持された冷却室に搬送した後、アルゴンを導入して大気圧になってから10分間、静置冷却した。その後、あらかじめアルゴンで満たした回収室に搬送し、回収ゲート扉から人手により回収した。反応管で反応処理が行われている間に、第2のバッチをアルゴンで大気圧まで戻した投入室にセットし、100Pa以下まで減圧した後、100Pa以下に減圧保持されている予備加熱室に搬送しておく。予備加熱室では第1のバッチと同じ加熱プロファイルで第2のバッチの予備加熱を行う。加熱プロファイルでの昇温が終了後、触媒が800℃で維持できるように加熱保持する。そして、第1のバッチが冷却室に搬送された後に、第2のバッチを反応室に装填する。なお、第2のバッチが予備加熱位置に保持されている間は予備加熱ヒーターは作動している。第1のバッチと同様に第2のバッチも反応処理を行い、予備加熱室に搬送し、冷却室で冷却してから回収室に搬送する。
第2のバッチと同様に第3以降のバッチについても処理を行い、合計20バッチ処理した。サイクルタイムは20分であった。
(3)カーボンナノチューブの焼成
実施例1と全く同様にカーボンナノチューブ含有組成物を焼成した。
(4)カーボンナノチューブの分離回収
実施例1と全く同様にカーボンナノチューブ含有組成物の分離回収処理を行った。
(5)カーボンナノチューブの分析
上記(4)で回収したカーボンナノチューブ含有組成物は16.2gであった。これをEDSで元素分析を行った結果、炭素の純度は93.3%であった。また、ラマンG/D比を測定した結果、28.7であった。
比較例1
(1)触媒作成(チタノシリケートゼオライトへの金属塩の担持)
実施例1とまったく同じ方法で触媒を作成した。
(2)カーボンナノチューブの合成
予備加熱室に予備加熱ヒーターがない気相反応装置を用いて、予備加熱を行わなかった以外は実施例1と全く同様にカーボンナノチューブを合成した。合計20バッチ処理し、サイクルタイムは34分であった。予備加熱した場合(実施例1)に比べて1.7倍長くかかった。
(3)カーボンナノチューブの焼成
実施例1と全く同様にカーボンナノチューブ含有組成物を焼成した。
(4)カーボンナノチューブの分離回収
実施例1と全く同様にカーボンナノチューブ含有組成物の分離回収処理を行った。
(5)カーボンナノチューブの分析
上記(4)で回収したカーボンナノチューブ含有組成物は16.1gであった。これをEDSで元素分析を行った結果、炭素の純度は87.5%であった。また、ラマンG/D比を測定した結果、6.2であった。予備加熱した場合(実施例1)に比べて純度、G/D比ともに低かった。
比較例2
(1)触媒作成(USY型ゼオライトへの金属塩の担持)
実施例2と全く同様に触媒を作成した。
(2)カーボンナノチューブの合成
予備加熱室に予備加熱ヒーターがない気相反応装置を用いて、予備加熱を行わなかった以外は実施例2と全く同様にカーボンナノチューブを合成した。合計20バッチ処理し、サイクルタイムは34分であり、予備加熱した場合(実施例2)に比べて1.7倍長くかかった。
(3)カーボンナノチューブの焼成
実施例1と全く同様にカーボンナノチューブ含有組成物を焼成した。
(4)カーボンナノチューブの分離回収
実施例1と全く同様にカーボンナノチューブ含有組成物の分離回収処理を行った。
(5)カーボンナノチューブの分析
上記(4)で回収したカーボンナノチューブ含有組成物は15.9gであった。これをEDSで元素分析を行った結果、炭素の純度は91.0%であった。また、ラマンG/D比を測定した結果、21.6であった。予備加熱した場合(実施例2)に比べて純度、G/D比ともに低かった。