以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明に係る一実施形態の、自動変速機を含む駆動系の概略構成図である。自動変速機50の入力軸3は、図外のエンジンのクランク軸(エンジンの出力軸)に接続されている。自動変速機50は、入力軸3に連結されたトルクコンバータ51(流体伝動装置)と、このトルクコンバータ51の出力軸であるタービンシャフト59に連結された多段変速機構52(変速装置)とを備え、これらに含まれる複数の摩擦要素67〜71を適宜組合せで締結させることにより、段階的(前進4段、後退1段)に変速させるように構成されている。
上記トルクコンバータ51は、入力軸3に連結されたポンプカバー53と、このポンプカバー53に一体に形成されたポンプインペラ54と、これに対向するように設置されたタービン(タービンライナ)55と、その間でワンウェイクラッチ56を介してケース57に取付けられたステータ58とを備えている。上記ポンプカバー53内の空間には、作動流体としてのオイル(作動油。ATFともいう)が充満され、ポンプインペラ54の駆動力がこの作動油を介してタービン55に伝達されるように構成されている。そしてその駆動力は、タービン55に連結されたタービンシャフト59を介して多段変速機構52に伝達される。
またトルクコンバータ51のポンプカバー53とタービン55との間に、円板状のロックアップ(L/U)クラッチ64が設けられている。L/Uクラッチ64は、タービンシャフト59と一体回転するとともに、その軸方向に移動可能となっている。L/Uクラッチ64の、ポンプカバー53に対向する面の外縁付近には、中空円板状の摩擦材が貼付されている。
L/Uクラッチ64がポンプカバー53から離れる方向に移動しているとき、L/Uクラッチ64は解放状態(L/Uオフ)となる。L/Uオフのときは、ポンプインペラ54とタービン55との相対回転が許容され、ポンプインペラ54からタービン55へのトルク伝達が内部のATFを介してなされる。
一方、L/Uクラッチ64がポンプカバー53側に移動し、L/Uクラッチ64の摩擦材がポンプカバー53に押圧されているとき、ロックアップクラッチ64は締結状態(L/Uオン)となる。L/UオンのときはL/Uクラッチ64ポンプカバー53と一体回転するので、入力軸3とタービンシャフト59も一体回転する。つまり入力軸3とタービンシャフト59とが直結状態となる。
L/Uのオン/オフは、L/Uクラッチ64の板面に作用するATFの圧力差によって制御される。つまり後述する油圧制御機構20がトルクコンバータ51に給排する油圧によって制御される。
ポンプインペラ54には中空回転シャフト60が連結され、このシャフト60の後端部(入力軸3と反対側の端部)にオイルポンプ61が取付けられている。オイルポンプ61は、自動変速機50の油圧機構の油圧発生源となる。
多段変速機構52は、第1および第2遊星ギヤ機構65,66と、この遊星ギヤ機構65,66を含む動力伝達経路を切替える締結要素(クラッチプレートやバンドブレーキ等の複数の摩擦要素67〜71及びワンウェイクラッチ72)とを備え、これらの締結要素67〜72の締結・解放の組合せによって所定の変速段が実現されるように構成されている。
第1および第2遊星ギヤ機構65,66は、それぞれ、サンギヤ65a,66aと、これらのサンギヤ65a,66aの周りに配置され、これらに噛合する複数個(例えば各3個)の遊星ギヤ65b,66bと、これらの遊星ギヤ65b,66bを支持するキャリヤ65c,66cと、遊星ギヤ65b,66bの周りを取り囲むように配置され、これらに噛合するリングギヤ65d,66dとを備え、第1遊星ギヤ機構65のリングギヤ65dと第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cとが連結されているとともに、第1遊星ギヤ機構65のキャリヤ65cと第2遊星ギヤ機構66のリングギヤ66dとが連結され、各遊星ギヤ機構65,66が連動し得るものとなされている。
摩擦要素は、上記タービンシャフト59および第1遊星ギヤ機構65のサンギヤ65aの間に介在するフォワードクラッチ67と、タービンシャフト59と第2遊星ギヤ機構66のサンギヤ66aとの間に介在するリバースクラッチ68と、タービンシャフト59と第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cとの間に介在する3−4クラッチ69と、第2遊星ギヤ機構66のサンギヤ66aを固定する2−4ブレーキ70と、第1遊星ギヤ機構65のリングギヤ65d及び第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cを固定するローリバースブレーキ71等とを備える。またワンウェイクラッチ72は、リングギヤ65d及びキャリヤ66cの一方向(入力軸3の駆動方向)への回転のみを可能ならしめ(アンロック)、逆方向へは回転しないようにロックする。これらの締結要素67〜72が断続されて出力ギヤ73に繋がる動力伝達経路が変更ないし断絶されるものとなされている。
そして、この出力ギヤ73が回転することにより、駆動力が駆動輪側、すなわち伝動ギヤ74,75,76および差動機構77を介して左右の車軸78,79に伝達されるようになっている。車軸78,79は、図外の車輪(駆動輪)と一体回転するように構成されている。
なお、ここで固定するとは、固設部材(ケース57またはこれと一体化されたもの)と一体化させることをいう。
またケース57には、タービンシャフト59の回転速度(タービン回転速度)を検出するタービン回転速度センサ36(入力回転速度検出手段)が設けられている。具体的にはタービン回転速度センサ36は、タービンシャフト59と一体的に回転するフォワードクラッチ67の外周面に対向した状態で設けられており、フォワードクラッチ67のドラム外周面に設けられたスプライン状の凹凸がドラムの回転によって変位することによって生じる誘導電圧の周期的変化を検知することによりタービン回転速度を検出するように構成されている。
図2は自動変速機50の概略制御ブロック図である。自動変速機50の制御は、トルクコンバータ51や摩擦要素67〜71に対して直接油圧の給排を行う油圧制御機構20と、油圧制御機構20に含まれる複数のソレノイドバルブ25を電気的に制御するコントロールユニット2とを基幹部とする。コントロールユニット2は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータ等からなり、具体的には、予めROM(又はRAM)に記憶されているプログラムがCPUによって実行されることによって、油圧制御機構20のソレノイドバルブ25等が制御される。コントロールユニット2には、上述のタービン回転速度センサ36に加え、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ30、車速を検知する車速センサ38、運転者のアクセル踏込み量を検出するアクセル開度センサ40、エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度センサ42等からのからの信号が入力される。また油圧制御機構20に設けられて作動油の温度(ATF温度)を検出する油温センサ27からの信号が入力される。
コントロールユニット2には、例えば車速やアクセル開度、或いはATF温度等の運転状態をパラメータとして変速段やL/Uの有無を決定するシフトスケジュールが予め設定され、記憶されている。コントロールユニット2は、そのシフトスケジュールと各種検出信号とを参照し、運転状態に最適な変速段を決定する。そしてその変速段を達成すべく油圧制御機構20の各ソレノイドバルブ25に所定の駆動信号を出力する。
またコントロールユニット2は、油圧制御機構20の作動油圧(ライン圧)が運転状態に応じた最適値になるように設定し、ライン圧制御用のソレノイドバルブ25に駆動信号を出力する。
さらにコントロールユニット2は、準インターロック制御部10を機能的に含んでいる。準インターロック制御部10は、後に詳述する準インターロック制御を必要に応じて実行する。
油圧制御機構20は、図示したソレノイドバルブ25や油温センサ27に加え、図外の各種調圧バルブや切換バルブを内蔵する。油圧制御機構20は、オイルポンプ61から供給されたATFの圧力が所定のライン圧となるように、ライン圧用調圧バルブによって調圧する。このライン圧は、上述のライン圧用のソレノイドバルブ25からのパイロット圧(信号圧)に応じた高さに調圧される。従って運転状態に応じた最適なライン圧が得られる。
そして油圧制御機構20は、シフト用のソレノイドバルブ25の駆動によって切換えられる切換バルブにより、ライン圧を摩擦要素67〜71に選択的に給排する。このライン圧の給排によって各摩擦要素67〜71が締結または解放し、コントロールユニット2で決定された変速段が達成される。
また油圧制御機構20は、トルクコンバータ51にもATFを供給する。トルクコンバータ51へのATFの供給形態は少なくとも2形態有り、一方の形態はL/Uクラッチ64の前面(ポンプカバー53に対向する面)側の油圧が、その背面側の油圧よりも低くなる形態である。この供給形態をとると、L/Uクラッチ64は低圧側、すなわちポンプカバー53側に移動し押圧される。従ってトルクコンバータ51はL/Uオン状態となる。さらに、L/Uクラッチ64の板面に作用するATFの圧力差を適宜調節し、動力を伝達しつつもある程度の回転速度差(スリップ)を許容する弱L/Uができるようにしても良い。
他方の形態はL/Uクラッチ64の前面側の油圧が、その背面側の油圧よりも高くなる形態である。この供給形態をとると、L/Uクラッチ64は低圧側、すなわちポンプカバー53から遠ざかる方向に移動する。従ってトルクコンバータ51はL/Uオフ状態となる。
トルクコンバータ51へのATF供給形態の切換は、油圧制御機構20に含まれるL/Uコントロール用のソレノイドバルブ25および図外の切換バルブによってなされる。
図3は、締結要素67〜72の断続状態と変速段との関係を示す図である。図3には、Dレンジ第1速〜第4速について示している。○印は各摩擦要素67〜71が締結された状態を示す。(○)印は、ワンウェイクラッチ72が、駆動時(エンジンからの駆動力が駆動輪側へ向かう場合)にはロックされて駆動力を伝達可能とし、逆駆動時(駆動輪からの逆駆動力がエンジン側へ向かう場合)にはアンロックされて逆駆動力を伝達しないことを示す。無印は各締結要素67〜72が解放またはアンロックされた状態を示している。
この図に示すように、Dレンジの第1速段ではフォワードクラッチ67が締結されるとともにワンウェイクラッチ72が駆動側ロック状態かつ逆駆動側アンロック状態とされ、第2速段ではフォワードクラッチ67および2−4ブレーキ70が締結され、第3速段ではフォワードクラッチ67および3−4クラッチ69が締結され、第4速段では3−4クラッチ69および2−4ブレーキ70が締結される。なお図では省略しているが、後退時(Rレンジ)にはリバースクラッチ68とローリバースブレーキ71とが締結する。
▲印は、当該摩擦締結要素が、その変速段におけるインターロック要素であることを示す。インターロック要素とは、締結すればインターロックとなる摩擦締結要素を指す。インターロックは周知の現象であり、多段変速機構52に入力されたトルクの全部または一部が多段変速機構52内で内部循環し、出力トルクが得られなかったり本来の値よりも減少したりする現象である。
このようにインターロックは本来望ましくない現象であるが、自動変速機50は、そのインターロックを利用して車両の振動低減を図ることができる。ここで、車両の振動低減に利用可能な、適切にコントロールされたインターロックを通常のインターロックと区別して準インターロックと称する。具体的には、準インターロックとは、インターロック要素を所定の適度なトルク容量で半締結させるものである。上述の準インターロック制御部10や油圧制御機構20、及び図3に示す各インターロック要素等が準インターロックを実現する準インターロック手段を構成する。
図3に示すように、第1速段では3−4クラッチ69とローリバースブレーキ71とがインターロック要素となっている。従って第1速における準インターロック制御では、フォワードクラッチ67が締結されるとともに、さらに3−4クラッチ69とローリバースブレーキ71とが適度なトルク容量を持つように半締結される。
また第2速段では3−4クラッチ69がインターロック要素となっている。従って第2速における準インターロック制御では、フォワードクラッチ67および2−4ブレーキ70が締結されるとともに、さらに3−4クラッチ69が適度なトルク容量を持つように半締結される。
この他にもインターロック要素となる摩擦締結要素はあるが、当実施形態では制御性を考慮して図3に示すインターロック要素を設定している。例えば第1速段において、3−4クラッチ69に代えて2−4ブレーキ70をインターロック要素とすることができる。しかしブレーキバンドである2−4ブレーキ70よりも多板クラッチである3−4クラッチ69の方が制御性が良いので、3−4クラッチ69が採用されている。また第2速において、3−4クラッチ69に代えてローリバースブレーキ71をインターロック要素とすることができる。しかし図1に示すようにローリバースブレーキ71よりも3−4クラッチ69の方が小径の多板クラッチであり、制御性が良い。従って3−4クラッチ69が採用されている。
なお、第3速段、第4速段についてもインターロック要素があるが、当実施形態では準インターロック制御を第2速段以下で行うので省略している。
次に、多段変速機構52の駆動力伝達形態について説明する。まず、準インターロック制御を行わない、通常の場合について説明する。
図4は、Dレンジ第1速段における多段変速機構52の駆動力伝達状態、つまりトルクの伝達経路と各部の回転方向を示す模式図である。この図において、左手前側から見て左回転を正転方向、右回転を逆転方向とする。エンジンが通常の運転状態にあるとき、タービンシャフト59は正転方向に回転する。また車両が前進状態にあるとき、伝動ギヤ76は車軸78,79と一体となって正転方向に回転する。
図4に示す第1速段のとき、タービンシャフト59が正転方向に回転しつつ、その回転とトルクがフォワードクラッチ67を介してサンギヤ65aに伝達される。さらにそれが遊星ギヤ65bに伝達され、この遊星ギヤ65bは逆転方向に回転する。ここで、ワンウェイクラッチ72がロックされる(経路βで示す)ことによってリングギヤ65dの逆転方向の回転が規制されているので、遊星ギヤ65bは、その支持軸(キャリヤ65c)を中心に逆転方向に回転しつつ、キャリヤ65cと一体的にサンギヤ65aの周囲を正転方向に回転する。つまりキャリヤ65cが正転方向に回転する。このキャリヤ65cの正転方向の回転とトルク力が出力ギヤ73および伝動ギヤ74,75,76に伝達される。以下図1に示すように差動機構77を介して車軸78,79へと伝達される。
なお、ワンウェイクラッチ72によってロックされたリングギヤ65dと一体のキャリヤ66cが固定され、キャリヤ65cと一体のリングギヤ66dが正転方向に回転するので、遊星ギヤ66bは軸停止状態で正転する。従って遊星ギヤ66bに噛合するサンギヤ66aは逆転方向に回転する。サンギヤ66aの逆転は、リバースクラッチ68及び2−4ブレーキ70が解放状態であることによって許容されている。
図5は、Dレンジ第2速段における多段変速機構52の駆動力伝達状態を示す模式図である。回転方向の定義は図4に準ずる。
このDレンジ第2速は、図3に示すように、フォワードクラッチ67が締結しているDレンジ第1速の状態から、さらに2−4ブレーキ70を締結させたものである。上述したようにDレンジ第1速ではサンギヤ66aが逆転方向に回転している。この状態から2−4ブレーキ70を締結させると、サンギヤ66aが停止する。このため、遊星ギヤ66bは、その支持軸(キャリヤ66c)を中心に正転方向に回転しつつ、キャリヤ66cと一体的にサンギヤ66aの周囲を正転方向に回転する。つまりDレンジ第1速ではワンウェイクラッチ72によって逆転方向の回転が規制され、停止していたキャリヤ66cが正転方向に回転するのである。なお、キャリヤ66cの回転速度はタービンシャフト59の回転速度(タービン回転速度)よりも低い。
このとき、遊星ギヤ65bは、第1速と同様、キャリヤ65cを中心に逆転方向に回転しつつ、キャリヤ65cと一体的にサンギヤ65aの周囲を正転方向に回転する。この場合、第1速と異なり、リングギヤ65dが正転方向に回転しているのでキャリヤ65cの回転速度は第1速の場合よりも相対的に速くなる。但しタービンシャフト59の回転速度よりは減速されている。以下第1速と同様、キャリヤ65cの正転方向の回転と駆動力が出力ギヤ73および伝動ギヤ74,75,76へと伝達される。
Dレンジ第3速の場合は特に図示しないが、次のような駆動力伝達状態となっている。フォワードクラッチ67と3−4クラッチ69とが締結することにより、タービンシャフト59の駆動力がサンギヤ65aとキャリヤ66cとから並列的に伝達される。従って、サンギヤ65a,66a、遊星ギヤ65b,66b、キャリヤ65c,66cおよびリングギヤ65d,66dがタービンシャフト59と一体となって同一回転する。つまりタービンシャフト59から入力されたトルクに等しいトルクが、タービンシャフト59の回転速度と同速度で出力ギヤ73に出力される(直結状態)。
Dレンジ第4速の場合も図示を省略するが、3−4クラッチ69と2−4ブレーキ70とが締結し、タービンシャフト59から入力された駆動力がタービンシャフト59の回転速度よりも増速されてキャリヤ65cを経由して出力ギヤ73に出力される。
次に、準インターロック制御実行時の駆動力伝達状態について説明する。まず第1速段の場合について図4を参照して説明する。第1速の準インターロック制御では、まずローリバースブレーキ71が半締結される(この場合完全に締結させても良い)。これによってリングギヤ65d及びキャリヤ66cがケース57に固定される方向の作用が生じる(経路α)が、元々駆動状態の第1速時にはワンウェイクラッチ72によってこれらの要素がロックされている。従ってローリバースブレーキ71が締結または半締結しただけではインターロックとはならない。
第1速の準インターロック制御では、さらに3−4クラッチ69が半締結される。これによってタービンシャフト59からの入力トルクの一部がキャリヤ66cに伝達される。従ってキャリヤ66cは正転方向に回転しようとする。しかしキャリヤ66cの回転はローリバースブレーキ71の締結(半締結)によって阻止される(換言すれば準インターロック制御におけるローリバースブレーキ71のトルク容量は、キャリヤ66cの回転を阻止し得る程度に設定されている)。従ってキャリヤ66cから入力されたトルクは出力に寄与することなく内部循環する。一方、タービンシャフト59からフォワードクラッチ67を介してサンギヤ65aに入力されるトルクは、3−4クラッチ69を介してキャリヤ66cに流れた分だけ目減りする。このため、サンギヤ65aから出力ギヤ73に至るまでに伝達されるトルクも全体的に減少し、最終的には車軸78,79に伝達される出力トルクも減少する。
次に、第2速段における準インターロック制御実行時の駆動力伝達状態について図5を参照して説明する。第2速の準インターロック制御では、3−4クラッチ69が半締結される。これによってタービンシャフト59のトルクの一部が3−4クラッチ69を介してキャリヤ66cに伝達される。つまりキャリヤ66cをタービン回転速度で回転させようとする作用が生じる。しかし上述のように第2速においてキャリヤ66cはタービン回転速度よりも低速で回転している。従って、3−4クラッチ69から入力されたトルクはキャリヤ66cの円滑な動作を妨げる抵抗として内部循環する。一方、タービンシャフト59からフォワードクラッチ67を介してサンギヤ65aに入力されるトルクは、3−4クラッチ69を介してキャリヤ66cに流れた分だけ目減りする。このため、サンギヤ65aから出力ギヤ73に至るまでに伝達されるトルクも全体的に減少し、最終的には車軸78,79に伝達される出力トルクも減少する。
なお、第1速の場合も第2速の場合も、3−4クラッチ69のトルク容量が大きいほど出力トルクの減少量が大きくなり、準インターロックの作用が増大する。
図6は、準インターロックによって車両振動が低減されることを示すタイムチャートである。このタイムチャートは、第2速における準インターロックのシミュレーション結果である。横軸に時間tを示し、上段縦軸には車軸78,79への出力トルク(ドライブシャフトトルク)を示す。また下段縦軸には入力軸3への入力トルク及び準インターロック制御による3−4クラッチ69のトルク容量を示す。
下段の特性105は、入力軸3への入力トルクである。この特性は、短時間で急峻に立ち上がる単発的な入力トルクの変動であって、例えばアクセル開度全閉付近かつL/Uオンでの走行中に運転者が急速にアクセルペダルを踏込んだ場合のエンジントルクの変動に相当する。
上段の特性101,102は、入力トルク105に対する出力トルクであって、実線で示す特性101は準インターロック制御を行った場合、破線で示す特性102は準インターロックを行わない従来技術の場合をそれぞれ示す。何れも入力トルク105の変動による変速が伴わない状況のものである。
準インターロック制御を行わない場合の出力トルク(特性102)は、最初に入力トルク105の増大に伴って増大するが、入力トルク105の増大が急峻であるため、大きくオーバーシュートする(時点ta)。その後、その反動で大きく揺り戻し、減少方向にオーバーシュートしている(時点ta+ts)。以降、周期2tsで減衰振動を繰り返し、最終的に入力トルク105の変化後のトルク(約185N・m)に対応する出力トルク(約1000N・m)に収束している。この大きなトルク変動がチップインショックと呼ばれる車両振動となる。このようなトルク変動が生じる主な要因は、自動変速機50内における駆動系の捩り共振である。
一方、準インターロック制御を実行した場合の出力トルク(特性101)は、時点ta+tsまでは特性102と同様であるが、その後の減衰振動の収束が特性102に比べて格段に速やかになっている。これは下段の特性107に示すように、時点ta+tsからta+2tsの間(長さts)、準インターロック制御を実行し、3−4クラッチ69に油圧を供給して半締結状態にさせたことによる効果である。この期間にインターロック要素である3−4クラッチ69に適度なトルク容量Ta(≒80N・m)を持たせたことにより、多段変速機構52が準インターロック状態となり、伝達トルクの増大が抑制され、2回目のトルクのピーク(時点ta+2ts)が格段に小さくなっている。このため、減衰振動が急速に収束したのである。
効果的な準インターロックを行わせるには、次の3つのポイントに配慮する必要がある。第1のポイントは、準インターロック要素に持たせるトルク容量(必要トルクTa)、第2のポイントは準インターロックを実行する期間(準インターロック期間)、第3のポイントは準インターロックを実行する回数(必要回数Na)である。
第1のポイントである必要トルクTaについて説明する。上述のように、準インターロックの強さ(準インターロック作用の大きさ)は、準インターロック要素である3−4クラッチ69のトルク容量が大きいほど強くなる。準インターロックが弱すぎると振動抑制効果が少なく、また強すぎると振動を抑制するあまり出力トルクの低減にまで至ってしまう(従来好ましくないとされていたインターロックの作用が表面化する)。従って、必要トルクTaは、入力トルクの大きさに応じ、入力トルクが大きいほど大きなトルク容量となるように設定するのが良い。
実際には実験等によってチップインショック発生条件(アクセル操作前の運転状態、アクセル操作量、アクセル操作速度、スロットル開度TVOの変化量、TVOの変化速度等)に基く好適な必要トルクTaを予め求めておき、マップ化して準インターロック制御部10に記憶させておき、そのマップからチップインショック発生条件に対応する必要トルクTaを読込むことにより、最適な必要トルクTaを設定するようにすれば良い。
第2のポイントである準インターロック期間について説明する。準インターロックは伝達トルクの増大中(トルクの谷から次のトルクのピークまでの期間)に実行し、減少中(トルクのピークから次のトルクの谷までの期間)には行わないようにするのが望ましい。準インターロックは伝達トルクを低減する方向に作用するので、トルク増大中に実行すればその抑制効果を発揮するが、トルク減少中に実行すれば振動を助長してしまう虞があるからである。
また、図6に示すようにチップインショックは減衰振動であり、振動初期であるほど振幅が大きい。従って、振幅の大きな時期、つまり可及的早期に実行することが望ましい。上述したようにトルク変動が大きいほど強い準インターロックを適正に行うことができ、大きな振動抑制効果が得られるからである。
この点、特性107における準インターロック期間は、トルク振動の最初のトルクの谷(時点ta+ts)から次のトルクのピーク(時点ta+2ts)までの期間の全域に亘っている。従って、上記望ましい準インターロック期間の条件に合致している。
ところで、準インターロックの実行にあたり、仮にトルクの谷が検出された時点(ta+ts)で準インターロックの動作を開始したとしても、準インターロック手段の動作遅れ(例えば3−4クラッチ69のクラッチピストンの作動遅れ)等のために、実際に準インターロックの作用が得られるまでにタイムラグが生じてしまう懸念がある。同様にトルクのピークが検出された時点(ta+2ts)で準インターロックの解除動作を開始したとしても、実際にはタイムラグが生じ、伝達トルクの減少中にまで準インターロックの作用が及んでしまう懸念がある。
そのような懸念を払拭するために、準インターロック制御部10は次のような制御を実行する。まず準インターロック制御部10は、最初にトルクがピークを示す時点を検出し、それを基準時点taとする。
具体的には、準インターロック制御部10は基準時点taを次のようにして求める。コントロールユニット2には入力回転速度検出手段であるタービン回転速度センサ36からの信号が入力される。準インターロック制御部10は、このタービン回転速度センサ36を、トルク関連情報検出手段として利用する。まず準インターロック制御部10は、タービン回転速度センサ36の検出値であるタービン回転速度から、その変化度合(時間微分)である入力回転加速度を演算する。伝達トルクの増大中は入力回転加速度がプラス、減少中はマイナスになるので、準インターロック制御部10は、入力回転加速度がプラスからマイナスに転じた時点をもって基準時点taを定義する。
トルクのピーク時点である基準時点taを、このように従来から変速制御用に用いられている高精度のタービン回転速度センサ36を用いて求めることにより、別途トルクセンサ等を設けることなく、簡単な構造で高精度の検出を行うことができる。
次に準インターロック制御部10は、基準時点taから第1所定時間経過後(ta+ts)を準インターロックの開始時期に設定し、第2所定時間経過後(ta+2ts)を解除時期に設定する。ここで期間tsは、図6に示すようにトルク振動の半周期とするのが好ましい。トルク振動の周期2tsは、変速段位に固有の周期(低変速段位ほど長くなる)である。従って、これを予め実験等によって求め、記憶しておくことができる。
こうして準インターロック制御部10は、基準時点taが検出された時点で、準インターロックの開始時点(ta+ts)と解除時点(ta+2ts)を設定する。タイムラグ等を考慮した補正を行う場合は、これらの時点から必要な補正量だけ前倒しして制御を実行すれば良い。
このような制御を行うことにより、準インターロックの実効期間を、より理想的な期間(トルクの谷からピークまで)に近づけることができる。
第3のポイントである必要回数Naについて説明する。図6に示す例では、1回の準インターロック制御(特性107)で充分な効果が得られている。しかしインターロック期間が最大tsに制限されているので、入力トルク変動値によっては必ずしも1回の準インターロックで充分であるとは限らない。そのような場合、或いはそのようであると想定される場合には、準インターロックを複数回行っても良い。その場合、2回目の準インターロックは、図6に二点鎖線で示す特性108のように、初回の準インターロック解除後、時間ts経過後に開始するようにすれば良い。3回目以降も同様である。
準インターロックの必要回数Naは、上述の必要トルクTaと同様に、実験等によってチップインショック発生条件に基く値を予め求めておき、マップ化したものを読込むようにすれば良い。
なお図6はチップインショックの場合を示したものであるが、アクセル開度を急減させる方向のチップアウトショックについても同様である。その場合はトルクの減少から始まるが、その後トルクの谷を経て最初にトルクのピークに達した時点を基準時点taとし、その後の時点ta+tsを準インターロックの開始時点とすれば良い。
以上説明したように、当実施形態の車両の振動低減装置によれば、準インターロック制御を行うことにより、駆動系の捩り共振を弱め、また減衰を促進することができるので、低変速段(第1速段および第2速段)でのチップイン・チップアウトショックを、変速比を変化させることなく効果的に抑制することができる。従って、乗り心地の悪化を抑制しつつこれらの低変速段にまでL/Uオン領域を拡大することができ、燃費のさらなる向上を図ることができる。
図7は、準インターロック制御を含む制御の概略フローチャートである。このフローチャートがスタートすると、まず各種センサからのデータを読込み(ステップS1)、次にL/Uオンであるか否かを判定する(ステップS2)。L/Uオン(ステップS2でYES)であれば、次にスロットル開度TVO(スロットル開度センサ42の検出値)の変化速度が所定値より大きいか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3でYESの場合、さらに上記スロットル開度TVOの変化に伴うエンジントルクの変動量が所定値より大きいか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4でYESの場合、さらに上記スロットル開度TVOの変化をもたらしたアクセル開度の変化が変速を伴うものであるか否かを判定する(ステップS5)。
ステップS5でNOの場合、大きなチップイン・チップアウトショックが懸念される状態となっている。そこで以下の準インターロック制御を実行する。まずタービン回転速度センサ36の検出値からショックトルクのピーク時点taを検出する(ステップS6)。次に、準インターロック制御の必要トルクTaと必要回数Naを設定する(ステップS7)。そして実行回数iに1を入力する(ステップS8)。次に現在の変速段位における半周期値tsを用いて、現時点tがta+(2・i−1)・ts以上となったか(i=1のときはtがta+ts以上となったか)否かを判定する(ステップS9)。ステップS9でNOの場合、YESとなるまで待機する。
ステップS9でYESとなると、トルクの谷を経過し、トルク上昇局面となっている。そこで変速段位に応じた準インターロック要素に必要トルクTa相当の油圧を供給する(ステップS10)。これによって準インターロックが行われ、トルク上昇の抑制がなされる。
次に現時点tがta+2・i・ts以上となったか(i=1のときはtがta+2ts以上となったか)否かを判定する(ステップS11)。ステップS11でNOの場合、YESとなるまで準インターロックを継続する。
ステップS11でYESとなると、トルクのピークを経過し、トルク下降局面となっている。そこで準インターロック要素の油圧を解放し、準インターロックを解除する(ステップS12)。
次に実効回数i=必要回数Naであるか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13でNOの場合、実行回数iに1を加え(ステップS14)、次回の準インターロックに移行する(ステップS9へ)。こうしてステップS13でYESとなるまで(必要回数Naの準インターロックが完了するまで)ステップS9〜S14のルーチンを繰り返す。ステップS13でYESとなったら、必要な準インターロックが全て完了したので、リターンする。
遡って、ステップS2、ステップS3、ステップS4の何れかでNOの場合、およびステップS5でYESの場合は、チップイン・チップアウトショックの懸念が小さいので、準インターロックを実行せず、そのままリターンする。
なお上記フローチャートは、油圧の供給から実際にインターロック要素が所定のトルク容量を持つまでの時間を考慮に入れない場合のものである。これを考慮する場合には、ステップS9及びステップS11における条件式を補正し、油圧の供給を適宜前倒しすれば良い。
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、インターロック要素として、図3に▲印で示したものに限定するものではなく、他の摩擦締結要素を適用しても良い。
また当実施形態では、振動検出手段として動力伝達系上の所定位置における伝達トルクに関する情報を検出するトルク関連情報検出手段を用い、そのトルク関連情報検出手段としてタービン回転速度センサ36(入力回転速度検出手段)を用いたが、トルク関連情報手段として例えばトルクセンサ等を用いても良く、また振動検出手段として車両の加速度センサ(Gセンサ)等を用いても良い。
また準インターロック制御を、第3速段や第4速段で実行しても良い。但しL/Uオン時のチップイン・チップアウトショックに対して不利である低速段(第1速段や第2速段)での実行がより効果的である。
また当実施形態の準インターロック制御を、他の振動低減手段(例えばエンジンのトルク制御や弱L/Uによる振動低減等)と併用しても良い。