JP4747324B2 - 硬質被覆層が高速重切削ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、通常、1〜12μmの平均層厚、厚膜化した状態も含めると20μm以下の平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層(以下、蒸着α型Al2O3層で示す)、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることは良く知られている。
(a)上記の従来被覆サーメット工具の硬質被覆層としての蒸着α型Al2O3層は、一般に、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.02〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1100℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の条件(以下、通常条件という)で形成されるが、この通常条件形成の蒸着α型Al2O3層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)および図2(a),(b)に概略説明図で示される通り、工具基体表面と平行な研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、それぞれ0〜45度および45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成すると、図5(測定傾斜角:0〜45度)および図6(測定傾斜角:45〜90度)に例示される通り、(0001)面の測定傾斜角の分布が0〜45度および45〜90度のいずれの範囲内でも不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すこと。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.02〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:20〜30kPa、
の相対的に低温高圧条件(反応ガス組成は上記の通常条件と同じ)で形成すると、この結果形成された蒸着α型Al2O3層は、同じく電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に示される通り、同じく上記工具基体表面と平行な研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで現した場合、図4に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、試験結果によれば、化学蒸着装置における反応雰囲気圧力を、上記の通り20〜30kPaの範囲内で変化させると、上記シャープな最高ピークの現れる位置が傾斜角区分の75〜90度の範囲内で変化すると共に、前記75〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占めるようになり、この結果の傾斜角度数分布グラフにおいて75〜90度の範囲内に傾斜角区分の最高ピークが現れる蒸着α型Al2O3層は、上記の通常条件形成の蒸着α型Al2O3層に比して、相対的に高い高温硬さを有すること。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:0.1〜2%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.5〜1%、Ar:20〜35%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1000〜1100℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件、すなわち反応ガス組成を調整して上記の通常条件の反応ガス組成とは異なった反応ガス組成とした条件(反応雰囲気の温度および圧力は上記の通常条件と同じ)で形成すると、この結果形成された蒸着α型Al2O3層は、同じく電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に示される通り、工具基体表面と平行な研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで現した場合、図3に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、試験結果によれば、化学蒸着装置における反応雰囲気圧力を、上記の通り6〜10kPaの範囲内で変化させると、上記シャープな最高ピークの現れる位置が傾斜角区分の0〜15度の範囲内で変化すると共に、前記0〜15度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占めるようになり、この結果の傾斜角度数分布グラフにおいて0〜15度の範囲内に傾斜角区分の最高ピークが現れる蒸着α型Al2O3層は、上記の通常条件形成の蒸着α型Al2O3層に比して、相対的にすぐれた高温強度を有すること。
以上(a)〜(d)に示される研究結果を得たのである。
(a)下部層が、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、20μm以下の平均層厚を有する蒸着α型Al2O3層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆サーメット工具において、
上記蒸着α型Al2O3層を、それぞれ2〜18μmの平均層厚(ただし、合計平均層厚は20μm以下)を有する下位層と上位層からなる上下2層構造とし、さらに電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体表面と平行な研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、前記上位層については0〜45度、上記下位層については45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで現した場合、
(A)上記蒸着α型Al2O3層の上位層は、0〜15度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜15度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(B)上記蒸着α型Al2O3層の下位層は、75〜90度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記75〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示してなる、
硬質被覆層が高速重切削ですぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)Ti化合物層(下部層)
Ti化合物層は、基本的には蒸着α型Al2O3層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層が高温強度を具備するようにするほか、工具基体と蒸着α型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有するが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
上記の通り、蒸着α型Al2O3層の上位層および下位層の傾斜角度数分布グラフにおける測定傾斜角の最高ピーク位置は、いずれも化学蒸着装置における反応雰囲気圧力を変化させることによって変化するが、試験結果によれば、前記反応雰囲気圧力を、前記上位層では6〜10kpa、前記下位層では20〜30kPaとすると、最高ピークが、前記上位層では0〜15度、前記下位層では75〜90度の範囲内の傾斜角区分に現れると共に、前記0〜15度および75〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、いずれの場合も傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになるものであり、したがって、前記反応雰囲気圧力がそれぞれ前記範囲から低い方に外れても、また高い方に外れても、それぞれ前記0〜15度および75〜90度の範囲内に測定傾斜角の最高ピークが現れなくなり、このような場合には所望のすぐれた高温強度および高温硬さを具備することができないものである。
また、蒸着α型Al2O3層は、上位層のすぐれた高温強度と下位層のすぐれた高温硬さによってすぐれた高温強度と高温硬さを具備するようになるが、前記上位層および下位層の平均層厚がそれぞれ2μm未満になると、前記2層のそれぞれのもつすぐれた高温強度および高温硬さを確保することができず、また、前記上位層および下位層の平均層厚がそれぞれ18μmを越えると、一方の平均層厚を最低平均層厚である2μmにしても合計平均層厚は20μmを越えてしまい、このように前記上位層および下位層の平均層厚がそれぞれ18μmを越えても、また、前記上位層および下位層の合計平均層厚が20μmを越えても、チッピングが発生し易くなることから、前記上位層および下位層の平均層厚をそれぞれ2〜18μm、合計平均層厚を20μm以下と定めた。
(a)まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4,5に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(b)ついで、反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2.2%、CO2:5%、HCl:2%、H2S:0.15%、H2:残り、
反応雰囲気温度:850℃、
反応雰囲気圧力:20〜30kPaの範囲内の所定の圧力、
の低温高圧条件で表4,5に示される目標層厚で、上部層である蒸着α型Al2O3層の下位層を蒸着形成し、
(c)さらに、反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2.2%、CO2:5%、HCl:2%、H2S:0.75%、Ar:26.5%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1050℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPaの範囲内の所定の圧力、
の反応ガス組成調整条件で同じく表4,5に示される目標層厚で、同じく上部層である蒸着α型Al2O3層の上位層を蒸着形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2.2%、CO2:5%、HCl:2%、H2S:0.15%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1000℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPaの範囲内の所定の圧力、
の通常条件で、表6,7に示される通りの目標層厚で形成する以外は、上記の本発明被覆サーメット工具1〜13と同一の条件で従来被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の本発明被覆サーメット工具1〜13の蒸着α型Al2O3層の上位層および下位層について、それぞれ工具基体表面と平行な面をそれぞれ研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、前記上位層については0〜45度、前記下位層については45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
また、従来被覆サーメット工具1〜13の蒸着α型Al2O3層についても、工具基体表面と平行な面の任意研磨面を同一の条件で観察し、同一な条件で傾斜角度数分布グラフを作成した。
また表4〜7には、上記の各種の蒸着α型Al2O3層の傾斜角度数分布グラフにおいて、それぞれ0〜15度および75〜90度の範囲内の傾斜角区分に存在する全傾斜角度数の傾斜角度数分布グラフ全体に占める割合を示した。
なお、図3は、本発明被覆サーメット工具1の蒸着α型Al2O3層の上位層の傾斜角度数分布グラフ、図4は同下位層の傾斜角度数分布グラフ、図5,6は従来被覆サーメット工具1の蒸着α型Al2O3層のそれぞれ0〜45度および45〜90度の傾斜角区分を示す傾斜角度数分布グラフである。
被削材:JIS・S35Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:330m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.55mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Aという)での炭素鋼の乾式断続高速高送り切削試験(通常の切削速度および送りは250m/min.および0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・SNCM439の丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:3.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:8分、
の条件(切削条件Bという)での合金鋼の乾式連続高速高切り込み切削試験(通常の切削速度および切り込みは180m/min.および1.5mm)、さらに、
被削材:JIS・FC300の丸棒、
切削速度:420m/min.、
切り込み:3mm、
送り:0.35mm/rev.、
切削時間:8分、
の条件(切削条件Cという)での鋳鉄の乾式連続高速高切り込み切削試験(通常の切削速度および切り込みは300m/min.および1.5mm)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有し、かつ20μm以下の平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆サーメット製切削工具において、
上記酸化アルミニウム層を、それぞれ2〜18μmの平均層厚(ただし、合計平均層厚は20μm以下)を有する下位層と上位層からなる上下2層構造とし、さらに電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体表面と平行な研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、前記上位層については0〜45度、上記下位層については45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで現した場合、
(A)上記酸化アルミニウム層の上位層は、0〜15度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜15度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(B)上記酸化アルミニウム層の下位層は、75〜90度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記75〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
を特徴とする硬質被覆層が高速重切削ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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