JP4747387B2 - 厚膜化α型酸化アルミニウム層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents

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Description

この発明は、硬質被覆層の上部層、すなわち化学蒸着形成した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層(以下、α型Al23層で示す)を、特に厚膜化した状態で、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工に用いた場合にも、すぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具(以下、被覆サーメット工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ0.5〜10μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有するα型Al23層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることは良く知られている。
また、一般に、上記の被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層やα型Al23 層が粒状結晶組織を有し、さらに、前記Ti化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている。
特開平6−31503号公報 特開平6−8010号公報
近年の切削装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削工具に対する使用寿命の一層の延命化を図る目的で、特に硬質被覆層を構成する上部層、すなわちすぐれた高温硬さと耐熱性を有するα型Al23 層には一段の厚膜化が強く望まれているが、前記α型Al23 層の層厚を従来実用に供されている最大平均層厚である15μmを越えて厚膜化すると、Al23 結晶粒が急激に粗大化し、かつ層自体の緻密性が著しく低下し、この結果高温強度の低下が避けられなくなることから、かかる厚膜化α型Al23 層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成してなる被覆サーメット工具においては、前記厚膜化α型Al23 層が原因で、切刃部にチッピング(微少欠け)が発生し易くなり、この結果使用寿命のきわめて短いものとなることから、実用に供することができないのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成する1〜15μmの平均層厚を有するα型Al23層に着目し、これの層厚を平均層厚で15μmを越えて厚膜化しても、前記厚膜化α型Al23層が原因のチッピングが切刃部に発生しない被覆サーメット工具を開発するべく研究を行った結果、
(a)上記の従来被覆サーメット工具の硬質被覆層の上部層であるα型Al23層は、一般に、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.02〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1100℃、
反応雰囲気圧力:3〜13kPa、
の条件(以下、通常条件という)で形成されるが、α型Al23層の形成を、同じく通常の化学蒸着装置を用い、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、SF:0.1〜1%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:55〜80kPa、
の相対的に低温高圧条件で、かつ反応ガスとして、H2Sに代ってSFを使用する条件で行うと、その層厚を平均層厚で15μmを越えた16〜30μmに厚膜化して形成しても、この結果の厚膜化α型Al23層(以下、厚膜化改質α型Al23層という)においては、厚膜化したにもかかわらず、Al23結晶粒の粗大化が著しく抑制され、かつ層自体の緻密性が保持されたものになるので、高温強度の低下が防止されるようになること。
(b)上記の厚膜化改質α型Al23層、および上記の従来被覆サーメット工具の硬質被覆層の上部層であるα型Al23層の形成条件と同じ条件(上記の通常条件)で16〜30μmの平均層厚で蒸着形成された厚膜化α型Al23層(以下、厚膜化通常α型Al23層という)について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有するα型Al23結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用い、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記厚膜化通常α型Al23層は、図3に例示される通り、(0001)面の測定傾斜角の分布が45〜90度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記厚膜化改質α型Al23層は、図2に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、このシャープな最高ピークは、化学蒸着装置における反応雰囲気圧力を変化させることによりグラフ横軸の傾斜角区分に現れる位置が変わること。
(c)試験結果によれば、上記の厚膜化改質α型Al23層においては、上記反応雰囲気圧力を上記の通り55〜80kPaの範囲内で変化させると、上記シャープな最高ピークが傾斜角区分の83〜89度の範囲内に現れると共に、83〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜77%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになり、したがって、傾斜角度数分布グラフで83〜89度の範囲内に傾斜角区分の最高ピークが現れ、かつ83〜90度の範囲内に存在する度数割合が45〜77%の割合を占める厚膜化改質α型Al23層を硬質被覆層の上部層として、下部層のTi化合物層と共存した状態で蒸着形成してなる被覆サーメット工具は、上記の厚膜化通常α型Al23層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成した被覆サーメット工具に比して、特に切刃部にチッピングの発生なく、一段とすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成された、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ0.5〜10μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成した状態でα型の結晶構造を有し、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用い、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、83〜89度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、83〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜77%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ16〜30μmの平均層厚を有する厚膜化改質α型Al23層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
また、この発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層において、上記の通りに数値限定した理由を以下に説明する。
(a)Ti化合物層
Ti化合物層は、基本的には厚膜化改質α型Al23層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、工具基体と厚膜化改質α型Al23層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性を向上させる作用を有するが、その平均層厚が0.5μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、切削時の発生熱による熱塑性変形量が許容範囲を越えて大きくなり、この結果上部層である厚膜化改質α型Al23層に割れが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜10μmと定めた。
上記の通り、厚膜化改質α型Al23層の傾斜角度数分布グラフにおける測定傾斜角の最高ピーク位置は、化学蒸着装置における反応雰囲気圧力を変化させることによって変化するが、この場合試験結果によれば、前記反応雰囲気圧力を55〜80kPa範囲内で変化させると、最高ピークが83〜89度の範囲内の傾斜角区分に現れると共に、83〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜77%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになるものであり、したがって、前記反応雰囲気圧力が55kPa未満でも、80kPaを越えても、測定傾斜角の最高ピーク位置が83〜89度の範囲から外れてしまい、この結果として所望の高温強度を保持することが困難になる場合が生じるようになるものである。
また、厚膜化改質α型Al23層は、Al23自体のもつすぐれた高温硬さと耐熱性によって硬質被覆層の耐摩耗性を向上させると共に、厚膜化通常α型Al23層に比して、一段とすぐれた高温強度を有するので、厚膜化した硬質被覆層にチッピングが発生するのを抑制する作用をもつが、その平均層厚が16μm未満では厚膜化の要求に十分満足に対応することができず、一方その平均層厚が30μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を16〜30μmと定めた。
なお、被覆サーメット工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、硬質被覆層の最表面層として必要に応じて蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよく、これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由からである。
この発明の被覆サーメット工具は、これの硬質被覆層を構成する厚膜化改質α型Al23層が、図2に例示される通り83〜89度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れる傾斜角度数分布グラフを示し、平均層厚で16〜30μmの層厚に厚膜化しても、すぐれた耐チッピング性を発揮することから、各種の鋼や鋳鉄の切削加工で、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮し、使用寿命の一段の延命化を可能とするものである。
つぎに、この発明の被覆サーメット工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 2 粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜d,fを形成した。
ついで、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜d,fのそれぞれを、通常の化学蒸着装置に装入し、まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、ついで、表3に示される低温高圧条件で、表4に示される組み合わせおよび目標層厚で、厚膜化改質α型Al23層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜12をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、硬質被覆層の上部層として、表3に示される通常条件で、表6に示される組み合わせおよび目標層厚で、厚膜化通常α型Al23層を蒸着形成する以外は、上記の本発明被覆サーメット工具1〜12のそれぞれと対応して同じ条件で比較被覆サーメット工具1〜12をそれぞれ製造した。
上記の本発明被覆サーメット工具1〜12および比較被覆サーメット工具1〜12の硬質被覆層の上部層を構成する厚膜化改質α型Al23層および厚膜化通常α型Al23層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の各種厚膜化α型Al23層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
この結果得られた各種の厚膜化α型Al23層の傾斜角度数分布グラフにおいて、(0001)面が最高ピークを示す傾斜角区分、並びに83〜90度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の傾斜角度数分布グラフ全体の傾斜角度数に占める割合をそれぞれ表4,5にそれぞれ示した。
上記の各種の厚膜化α型Al23層の傾斜角度数分布グラフにおいて、表4,5にそれぞれ示される通り、本発明被覆サーメット工具の厚膜化改質α型Al23層は、いずれも(0001)面の測定傾斜角の分布が83〜89度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れ、かつ83〜90度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の割合が45〜77%である傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、比較被覆サーメット工具の厚膜化通常α型Al23層は、いずれも(0001)面の測定傾斜角の分布が45〜90度の範囲内で不偏的で、最高ピークが存在せず、83〜90度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の割合も30%以下である傾斜角度数分布グラフを示すものであった。
なお、図2は、本発明被覆サーメット工具7の厚膜化改質α型Al23層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、比較被覆サーメット工具7の厚膜化通常α型Al23層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
また、この結果得られた本発明被覆サーメット工具1〜12および比較被覆サーメット工具1〜12の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の各種の被覆サーメット工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆サーメット工具1〜12および比較被覆サーメット工具1〜12について、
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:220m/min、
切り込み:2.2mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:20分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼の乾式断続切削試験、
被削材:JIS・S50Cの丸棒、
切削速度:270m/min、
切り込み:3mm、
送り:0.18mm/rev、
切削時間:20分、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の乾式連続切削試験、さらに、
被削材:JIS・FCD450の丸棒、
切削速度:235m/min、
切り込み:2mm、
送り:0.35mm/rev、
切削時間:20分、
の条件(切削条件Cという)での鋳鉄の乾式連続切削試験を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
Figure 0004747387
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表4〜6に示される結果から、本発明被覆サーメット工具1〜12は、いずれも硬質被覆層の上部層が、(0001)面の傾斜角が83〜89度の範囲内の傾斜角区分で最高ピークを示すと共に、83〜90度の範囲内に存在する合計度数割合が45〜77%を占める傾斜角度数分布グラフを示す厚膜化改質α型Al23層で構成され、平均層厚で16〜30μmと厚膜化したにもかかわらず、鋼や鋳鉄の切削加工で、前記厚膜化改質α型Al23層がすぐれた耐チッピング性を発揮し、切刃部のチッピング発生が著しく抑制され、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示し、使用寿命の延命化を可能とするのに対して、硬質被覆層の上部層が、(0001)面の測定傾斜角の分布が45〜90度の範囲内で不偏的で、最高ピークが存在しない傾斜角度数分布グラフを示す厚膜化通常α型Al23層で構成された比較被覆サーメット工具1〜12においては、いずれも前記厚膜化通常α型Al23層が平均層厚で16〜30μmと厚膜化すると、これの高温強度低下が著しく、この結果切刃部にチッピングが発生し、短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、これの硬質被覆層の上部層であるα型Al23層の層厚を平均層厚で16〜30μmに厚くしても、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工で、すぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮し、使用寿命の延命化を可能とするものであるから、切削加工のFA化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
硬質被覆層を構成する各種厚膜化α型Al23層における結晶粒の(0001)面の傾斜角の測定範囲を示す概略説明図である。 本発明被覆サーメット工具7の硬質被覆層を構成する厚膜化改質α型Al23層の(0001)面の傾斜角度数分布グラフである。 比較被覆サーメット工具7の硬質被覆層を構成する厚膜化通常α型Al23層の(0001)面の傾斜角度数分布グラフである。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ0.5〜10μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
    (b)上部層として、化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有し、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用い、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、83〜89度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、83〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜77%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ16〜30μmの平均層厚を有する厚膜化改質α型酸化アルミニウム層、
    以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる、厚膜化α型酸化アルミニウム層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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