JP4656804B2 - ワイヤソーを用いる切断方法および希土類磁石の製造方法 - Google Patents

ワイヤソーを用いる切断方法および希土類磁石の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤソーを用いる切断方法およびワイヤソー装置ならびに希土類磁石の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
希土類合金は、例えば、強力な磁石の材料として利用されている。希土類合金を着磁することによって得られる希土類磁石は、例えば、磁気記録装置の磁気ヘッドの位置決めに用いられるボイスコイルモータ用の磁石として好適に用いられている。
【0003】
希土類合金のインゴット(焼結体を含むものとする。)を切断する方法としては、従来から、例えば回転するスライシングブレードを用いてインゴットをスライスする技術が採用されている。しかしながら、スライシングブレードで切断する方法によれば、切断刃の厚さは比較的大きいため、削り代が多くなり、希土類合金材料の歩留まりが低く、希土類合金製品(例えば希土類磁石)のコストを上昇させる要因となっている。
【0004】
スライシングブレードよりも削りしろが少ない切断方法として、ワイヤを用いた方法がある。例えば、特許文献1は、高強度の芯線の周面上に超砥粒をボンド層により固定したワイヤ(「固定砥粒ワイヤ」と呼ばれることもある。)を用いて、シリコン、サファイア、水晶、ガラス、ネオジム、フェライト等の硬脆材料を切断できることを開示している。
【0005】
上述のような固定砥粒ワイヤを用いて、希土類合金の塊(インゴット)から少ない削り代で所定厚さの板を多数枚同時に作製することができれば、希土類磁石の製造コストが大幅に低減される。しかしながら、固定砥粒ワイヤを用いて希土類合金を量産レベルで切断したとの報告は未だに無い。
【0006】
発明者が種々検討した結果から、この主な原因として、希土類合金、特に、焼結法によって製造された希土類合金(以下、「希土類焼結合金」を呼ぶ。)の機械的な性質が、シリコン等と大きく異なることが挙げられる。具体的には、希土類焼結合金は、主に脆性的な破壊を起こす硬い主相(R2Fe14B相)と、延性的な破壊を起こす粒界相(Rリッチ相)とを有するので、シリコンに代表される硬脆材料と異なり、切削され難い。すなわち、シリコン等の硬脆材料を切断する場合に比べて、切削抵抗が高く、その結果、発熱量も多い。また、希土類合金の比重は、約7.5とシリコン等の材料に比べて大きく、切削によって生成される切削屑(スラッジ)が切削部から排出され難い。
【0007】
従って、希土類合金を、高い加工精度で、効率良く切削するためには、切削抵抗を十分に低下させるとともに、切削時に発生する熱を効率良く放熱する、すなわち切削部を効率良く冷却する必要がある。また、切削によって生成される切削屑を効率良く排出する必要がある。
【0008】
潤滑性に優れた冷却液(「切削液」ともいう。)を希土類合金の切削部に十分に供給することによって、切削抵抗を低下するとともに、切削時に発生する熱を効率良く放散することができる。発明者による実験の結果、油性の冷却液を用いて、ワイヤを十分な量の冷却液で濡らしておけば、走行するワイヤによって、狭い切削部に冷却液を十分に供給することができる。
【0009】
しかしながら、油性の冷却液には、環境破壊を起こさないように廃液を処理するためにコストがかかること、および、廃液中の切削屑を分別することが困難であり、廃液や切削屑の再利用が困難であるという問題がある。また、希土類合金の切削屑を再利用する際に、原料中の炭素含有量が増加し、磁気特性を低下させるため好ましくないという問題もある。これらのことを考慮すると、冷却液としては水(または水溶性の冷却液)が好ましいのであるが、水を冷却液として用いると、水は粘度(動粘度:1.0mm2/s)が低いので、走行するワイヤに十分な量を付着させることができないので、ワイヤを水で濡らしても切削部に十分な量の水を供給することができない。
【0010】
特許文献1は、冷却液の槽からオーバーフローする冷却液中にワイヤを走行させることによって、固定砥粒ワイヤを高速(例えば2000m/min)で走行させる場合においても、冷却液をワイヤに確実に付着させることができることを開示している。しかしながら、本発明者の実験によると、オーバーフローしている水の中にワイヤ(例えば、特許文献1に開示されている)を走行させながら希土類合金を切削しても、砥粒の脱落や、ひどい場合にはワイヤの断線が発生する。この不具合は、ワイヤの走行速度が例えば800m/min程度でも発生した。これは、上記の方法を採用しても、切削抵抗が高く、また、水が切削部に十分に供給されないためと考えられる。
【0011】
本発明者が種々検討した結果、25℃における表面張力が25mN/m〜60mN/mの範囲内(または動摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内)にある水を主成分とする冷却液を切削部に供給することによって、ワイヤを効率良く冷却することができることを見出した(特願2000−358462号および特願2001−318867号)。上記の範囲内の表面張力または動摩擦係数を有する冷却液は、水に比べて、希土類合金および/またはワイヤに対する濡れ性(またはなじみ)が優れるので、切削部(希土類合金とワイヤとが互いに接触し、希土類合金が切削される部分。切削溝ともいう。)に冷却液が効率よく浸透するためと考えられる。勿論、水を主成分とする冷却液は、油性冷却液(例えば鉱油)に比べ比熱が高いので、冷却効率が高い。なお、本明細書において、「水を主成分とする冷却液」とは、全体の70重量%以上が水である冷却液をいうものとする。
【0012】
【特許文献1】
特開平11−198020号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者がさらに検討した結果、水を主成分とする冷却液を用いると、ワイヤが巻き付けられるリールボビンにおいて、ワイヤ同士の接触摩擦によって、砥粒がワイヤから剥がれる(脱粒と呼ぶことがある。)という現象が生じるという問題があることがわかった。
【0014】
これは、水を主成分とする冷却液は油性の冷却液に比べてワイヤに対する付着力が低く且つ蒸発しやすいので、リールボビンに巻き取られるときにはワイヤに付着している冷却液は僅かまたはほとんど無く、ワイヤ同士の摩擦による発熱および機械的な摩擦力を低減することができないためであることがわかった。すなわち、これは切断部には冷却液がワイヤに供給されるものの、リールボビンに巻きとられるまでに走行中において冷却液がはじき飛ばされるからであると推測される。
【0015】
また、ワイヤ同士の摩擦は、砥粒の脱粒に至らなくとも、砥粒に機械的なダメージを与えるので、切削精度を低下させたり、切削効率が低下したりする。さらにひどい場合には、砥粒が樹脂層(ボンド層)とともに剥がれてしまうこともある。すなわち、水を主成分とする冷却液を用いると、リールボビンにおけるワイヤ同士の摩擦によってワイヤの寿命が短くなる。固定砥粒ワイヤは比較的高価なので、切断加工にかかる費用を低減するためにも、ワイヤの寿命を長くすることが望ましい。
【0016】
また、芯線の外周面に形成された樹脂層によって砥粒が固着されたワイヤを用いると、樹脂層が芯線から剥離(離脱)する「樹脂剥がれ」が発生することがある。種々検討した結果、この樹脂剥がれの原因は、上述したワイヤ同士の接触摩擦によるダメージだけでなく、樹脂層が水を主成分とする冷却液(特に、アルカリ性の防錆剤などのアミン類を含む冷却液)によってダメージを受けることにも一因があることがわかった。
【0017】
上述したように、特に、希土類合金はワイヤソーを用いて切断することが難しいが、水を主成分とする冷却液を用いるとワイヤの寿命が短くなるという問題は、シリコン、サファイア、水晶、ガラス、ネオジム、フェライト等の硬脆材料を切断する場合にも発生する。
【0018】
本発明は上記の諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、水を主成分とする冷却液を用いてワイヤソー装置で切断する際のワイヤの寿命を長くすることにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明の切断方法は、芯線の外周面に形成された樹脂層によって砥粒が固着されたワイヤを用いる切断方法であって、表面がグリコールを含む潤滑液によって被覆されたワイヤをリールボビンに巻く準備工程と、前記リールボビンに巻かれたワイヤを複数のローラの間で走行させる工程と、ワークピース(被切削物)が前記ワイヤによって切削される部分に水を主成分とする第1冷却液を供給しながら、走行している前記ワイヤでワークピースを切削する工程とを包含し、そのことによって、上記目的が達成される。特に、樹脂剥がれの問題の発生を抑制することができる。
【0020】
前記リールボビンに巻かれた前記ワイヤまたは前記リールボビンの近傍を走行する前記ワイヤに、水を主成分とする第2冷却液を供給する工程をさらに包含することが好ましい。
【0021】
前記第2冷却液は、希土類合金に対する25℃における動摩擦係数が0.3以下であることが好ましい。
【0022】
前記第2冷却液はグリコールを含んでもよい。
【0023】
前記第2冷却液は噴霧法によって前記ワイヤに供給されてもよい。
【0024】
前記準備工程において、前記リールボビンに前記ワイヤを巻くときの張力は7N以上15N以下の範囲内にあることが好ましい。
【0025】
前記リールボビンに前記ワイヤを巻くときのピッチは前記ワイヤの外径の2倍未満であることが好ましく、外径の100%超190%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
前記第1冷却液は、希土類合金に対する25℃における動摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内にあることが好ましい。
【0027】
前記樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0028】
前記ワイヤの走行方向における、互いに隣接する前記砥粒間の平均距離は、前記砥粒の平均粒径の100%〜600%の範囲内にあり、且つ、前記砥粒が前記樹脂層の表面から突出している部分の平均高さは、10μm〜40μmの範囲内にあることが好ましい。
【0029】
前記第2冷却液は前記第1冷却液よりも粘度が高いことが好ましい。
【0030】
前記第1冷却液および前記第2冷却液の温度は15℃から35℃の範囲にあることが好ましい。
【0031】
前記複数のローラのそれぞれは、案内溝が形成された高分子層を有し、前記案内溝は、少なくとも一方の斜面が前記ローラの半径方向に対して25°以上45°未満の角度を成す一対の斜面を有し、前記ワイヤは前記一対の斜面の間を走行させられることが好ましい。
【0032】
ワークピースは、R−Fe−B系希土類焼結合金であってよく、例えば、ワークピースは、Nd−Fe−B系希土類焼結合金であってもよい。
【0033】
本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類合金粉末から希土類磁石の焼結体を作製する工程と、上記のいずれかの切断方法を用いて、前記焼結体から複数の希土類磁石を分離する工程とを包含することを特徴とする。
【0034】
本発明のワイヤソー装置は、芯線の外周面に形成された樹脂層によって砥粒が固着されたワイヤと、前記ワイヤがその周辺に巻きつけられるリールボビンと、前記リールボビンに巻きつけられた前記ワイヤを引き出し、走行させる複数のローラと、前記ワイヤがワークピースを切削する部分に第1冷却液を供給する装置と、前記リールボビンに巻き付けられている前記ワイヤまたは前記リールボビンの近傍を走行する前記ワイヤにグリコールを含む第2冷却液を供給する装置とを備え、そのことによって上記目的が達成される。
【0035】
前記第2冷却液を供給する装置は噴霧装置を備えている構成としても良い。
【0036】
本発明の希土類磁石の製造方法によって製造された希土類磁石は、ボイスコイルモータに好適に用いられる。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明による実施形態の切断方法を説明する。
【0038】
本発明による切断方法は、芯線(典型的にはピアノ線)に砥粒(典型的にはダイヤモンド砥粒)を固着させたワイヤ(固定砥粒ワイヤ)を用いる。一対のリールボビンに巻かれたワイヤを複数のローラの間で走行させ、走行しているワイヤに希土類合金(ワーク)を押し当てながら切断する。このとき、希土類合金がワイヤによって切削される部分に水を主成分とする冷却液(第1冷却液)を供給しながら切削を行う。ここで、ワイヤをリールボビンに巻く準備工程において、ワイヤの表面をグリコールを含む潤滑液によって被覆することによって、芯線の外周面に形成された樹脂層によって砥粒が固着されたワイヤにおける樹脂剥離の発生を抑制することができる。
【0039】
グリコールを含む潤滑液はグリコール原液またはグリコールを50質量%以上含む水溶液を好適に用いることができる。グリコールとしては、例えば、ポリオキシアルキレンを好適に用いることができる。グリコールは、樹脂層よりも親水性(保水性)が高いので、樹脂層が水を吸湿することを防止するように作用するものと考えられる。また、ワイヤをリールボビンに巻く準備工程においてワイヤに付与されるグリコールを含む潤滑液は、切削される部分に供給され冷却液よりも潤滑性が高いことが好ましい。
【0040】
グリコールを含む潤滑剤でワイヤの表面を覆う工程は、ワイヤソー装置のリールボビンにワイヤを巻く際に実行することが好ましい。グリコール(またはグリコール水溶液)をワイヤ表面に付与する方法としては、スプレーによる散布法や、滴下法、塗布法、浸漬法などを適宜用いることができる。ワイヤをリールボビンに巻くときの張力は7N以上15N以下の範囲内にあることが好ましい。張力が7Nよりも低いとワイヤの巻き込みが発生することがあり、15Nを超えるとワイヤ同士の摩擦による損傷が発生しやすくなる。また、張力をこの範囲に設定すると、良好な切断精度を得ることができるので好ましい。
【0041】
また、リールボビンにワイヤを巻くときのピッチ(ワイヤの中心間距離)はワイヤの外径の2倍未満であることが好ましく、外径の100%超190%以下であることがさらに好ましい。このように巻き取りの際のピッチを調整することによって、リールボビンに先に巻かれたワイヤの間に次のワイヤが入り込むことが防止され、ワイヤの撓みやワイヤ同士の摩擦の発生を抑制することができる。
【0042】
このように、ワイヤソー装置の準備工程において、リールボビンにワイヤを巻く際にグリコールを含む潤滑液でワイヤを被覆すると、ワイヤを保存している状態における吸湿によるワイヤの樹脂層の劣化を抑制することが出来る。グリコールを含む潤滑液のワイヤへの付与は、準備工程に限られず、例えば、上記第2冷却液中にグリコールを添加・混合してもよい。
【0043】
ワイヤの寿命を長くするために、さらに、一対のリールボビンに巻かれたワイヤまたは一対のリールボビンの近傍を走行するワイヤにも水を主成分とする冷却液(第2冷却液)を供給することが好ましい。リールボビンに巻かれたワイヤにも冷却液を供給することによって、リールボビンにおけるワイヤ同士の摩擦による発熱および機械的な摩擦力が低減される。その結果、ワイヤが受ける機械的なダメージが低減されるので、切削精度や切削効率の低下が抑制され、且つ、ワイヤの寿命が長くなる。
【0044】
第1冷却液は、希土類合金に対する25℃における動摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内にあることが好ましい。また、第2冷却液は、希土類合金に対する25℃における動摩擦係数が0.3以下であることが好ましく、0.15以下であることがさらに好ましい。なお、以下の実施形態で示す動摩擦係数は、R−Fe−B系希土類合金の焼結体を用いて四球式摩擦試験機で求めた値である。R−Fe−B系希土類磁石として好適に用いられる希土類合金の組成および製造方法は、例えば、米国特許第4,770,723号および米国特許第4,792,368号に記載されている。
【0045】
なお、25℃の動摩擦係数を用いて、本発明の切断方法で用いられる第1および第2冷却液を特定したが、実際に使用する際の冷却液の温度は、25℃に限られない。但し、本発明の効果を得るためには、15℃〜35℃の範囲内に温度制御された冷却液を用いることが好ましく、20℃〜30℃の範囲内にあることがさらに好ましい。よく知られているように、冷却液の動摩擦係数は温度に依存するので、実際に使用する冷却液の温度が上記の温度範囲からあまり外れると、冷却液の動摩擦係数が上記の数値範囲から外れた状態と良く似た状態となり、冷却効率が低下する。
【0046】
上記の動摩擦係数を有する冷却液を用いることによって、ワイヤの温度の異常上昇を効果的に抑制することができるので、砥粒の異常脱粒やワイヤの断線を効果的に抑制・防止することができる。その結果、加工精度の低下が防止されるとともに、従来よりも長い期間に亘ってワイヤを使用することが可能となるので製造コストを低減することができる。
【0047】
この効果は、切削部に供給する第1冷却液およびリールボビンに巻かれたワイヤまたは一対のリールボビンの近傍を走行するワイヤに供給する第2冷却液に共通であるので、第1冷却液と第2冷却液として同じ冷却液を用いても良い。但し、第2冷却液がリールボビンに巻かれたワイヤまたはリールボビンの近傍を走行するワイヤに付着しやすいように、第1冷却液より粘度の高い冷却液を用いてもよい。なお、第2冷却液および第1冷却液としては、粘度が1mPa・sから50mPa・s(動粘度:1mm2/sから50mm2/s)の冷却液を好適に用いることができる。第2冷却液のワイヤへの付着性を高めるためには、5mPa・s以上の粘度(5mm2/s以上の動粘度)を有する冷却液を用いることが好ましい。冷却液の粘度は、後述する水と混合する潤滑剤の濃度を制御することによって調整することができる。
【0048】
第2冷却液は、切削工程の全期間に亘って供給する必要は必ずしも無く、リールボビンに巻かれたワイヤに十分な量の冷却液が付与された状態を維持できるのであれば、第2冷却液を間欠的に供給していても良い。なお、水を主成分とする冷却液(特にアルカノールアミンなどを含むもの)は油性冷却液よりも樹脂に対して悪影響を及ぼすので、樹脂層を用いて砥粒を固定したワイヤを用いる場合には、冷却液の量は少ない方が好ましい。従って、リールボビンに巻かれたワイヤまたはリールボビンの近傍を走行するワイヤに対しては、噴霧法や滴下法を用いて冷却液を供給することが好ましい。特に、噴霧法は少量の冷却液をリールボビンに巻かれたワイヤに均一に供給することができるので好ましい。冷却液の供給量は、ワイヤの種類、長さ、走査速度などに適宜設定すればよく、例えば、50ml/min〜500ml/minの範囲に設定される。但し、電着ワイヤ(例えばNiめっき層を用いて砥粒を固定したワイヤ)など水系冷却液に対する耐性に優れたワイヤを用いる場合には、例えばリールボビン全体を冷却液に浸漬してもよい。
【0049】
上記の冷却液は、界面活性剤や、いわゆる「シンセティック(Synthetic)」と呼ばれる合成潤滑剤を水に添加することによって調製される。種類や添加量を調整することによって、所定の動摩擦係数を得ることができる。また、水を主成分とする冷却液を用いると、比較的粘度が低いので、切削によって生成したスラッジから磁石を用いて希土類合金の切削屑を容易に分別することが可能で、冷却液を再利用することができる。また、冷却液の廃棄処理によって自然環境に悪影響を及ぼすことを防止することができる。また、スラッジ中に含まれる炭素の量を減らすことができ、スラッジから回収された切削屑を原料とする磁石の磁気特性を向上することができる。
【0050】
ワイヤを高速で走行させながら切削を行うと、冷却液が発泡し、冷却効率が低下することがある。消泡剤を含む冷却液を用いることによって、冷却液の発泡による冷却効率の低下を抑制することができる。さらに、PHが8〜11の範囲内にある冷却液を用いることによって、希土類合金の腐食を抑制することができる。また、防錆剤を含む冷却液を用いることによって、希土類合金の酸化を抑制することができる。これらは、希土類合金の種類や切断条件等を考慮して、適宜調整すればよい。
【0051】
ワイヤとしては、ダイヤモンド系砥粒を樹脂で固着したものが好適に用いられる。すなわち、芯線(典型的にはピアノ線)の外周面にダイヤモンド系砥粒を樹脂を用いて固着したワイヤを好適に用いることができる。そのなかでも、樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂およびポリイミド樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂は、ピアノ線(硬鋼線)の外周面への接着強度が高く、また後述する冷却液に対する濡れ性(浸透性)にも優れる。また、電着法を用いて製造されるワイヤよりも安価であり、希土類合金の切断にかかるコストを低減することができる。なお、ワイヤの芯線は、ピアノ線に限られず、Ni−CrやFe−Ni等の合金、WやMo等の高融点金属から形成されたもの、またはナイロン繊維などの高強度繊維を束ねたものから形成されていても良い。また、砥粒の材料はダイヤモンドに限定されず、SiC、B、C、CBN(Cubic Boron Nitride)等であってもよい。
【0052】
切削しろが少ないという利点を得るためには、ワイヤの外径は、0.3mm以下が好ましく、0.25mm以下であることがさらに好ましい。ワイヤの外径の下限値は、十分な強度が得られるように設定され、且つ、所定の大きさの砥粒を十分な強度で固着するために、0.12mm〜0.20mm程度の直径の芯線が用いられる。砥粒の平均粒径Dは、切削効率の観点から、20μm≦D≦60μmの関係を満足することが好ましく、特に、40μm≦D≦60μmの関係を満足することが好ましい。また、切削効率と切削屑(スラッジ)の排出効率の観点から、ワイヤの走行方向における、互いに隣接する砥粒間の平均距離は、砥粒の平均粒径Dの100%〜600%の範囲内にあることが好ましく、且つ、砥粒がフェノール樹脂層の表面から突出している部分の平均高さは、10μm〜40μmの範囲内にあることが好ましい。このワイヤは、上記の仕様を指定すれば一般のワイヤの製造業者(例えば、株式会社アライドマテリアル)から供給され得る。
【0053】
このようなワイヤを用いると、良好な切削効率が実現でき、且つ、切削屑の排出性にも優れるので、比較的高い走行速度(例えば1000m/min)でも切削できる。また、上記の冷却液によって効率良く冷却されるので、良好な加工精度で、長期間に亘って安定に希土類合金を切削することができる。水を主成分とする冷却液を用いると、油性の冷却液を用いる場合よりも、走行速度を20〜30%程度速く(例えば、1100m/min〜1200m/min)設定することによって、切削効率を最適化できる。
【0054】
本発明の切断方法に用いる水を主成分とする冷却液は、粘度が低い(動粘度が約1mm2/s)ので、切削屑の排出性が油性の冷却液(一般に動粘度は5mm2/s以上)よりも低い。そこで、切削屑の排出性を高めるために、切削工程において、切削部が槽内に収容された冷却液に浸漬された状態で維持され、且つ、冷却液は、槽の底部から槽内に供給されるとともに、槽の開口部から供給されることによって、槽の開口部から溢れ出る状態に維持されることが好ましい。
【0055】
粘度の低い冷却液中に排出された切削屑は、容易に沈降し、槽の開口部付近に浮遊する切削屑は僅かである。切削部を冷却液中に浸漬した状態で切削するためには、ワイヤは槽の開口部付近の冷却液中を走行するように配置されるので、ワイヤは切削屑の少ない冷却液中を走行し、切削部には切削屑の少ない冷却液が供給される。特に、槽の開口部からも冷却液を供給し、開口部から溢れる状態に維持することによって、切削部に供給される冷却液中の切削屑の量を低下させることができる。さらに、槽の開口部から供給される冷却液の流れによって、ワイヤに付着した切削屑を機械的に洗い流す効果も得られる。冷却液が1分間に溢れ出る量は、槽の容積の50%以上であることが好ましい。また、開口部から供給される冷却液の量は、槽の底部から供給される冷却液の量よりも多いことが好ましい。
【0056】
さらに、槽の開口部にカーテン状の冷却液流(または気流)を形成し、冷却液が槽の開口部から溢れ出るのを抑制することによって、溢れ出る冷却液の液面を槽の壁よりも高くすると、より多くの冷却液が切削部の周囲に供給されることになるので、冷却液中の切削屑の量をさらに低下させることができる。ここでは、ワイヤの走行方向と交差する槽の開口部の辺上にカーテン状に冷却液流を形成した。冷却液流を形成するための吐出圧は、0.2MPa(2kg/cm2)〜1.0MPa(10kg/cm2)の範囲内にあることが好ましく、0.4MPa(4kg/cm2)〜0.6MPa(6kg/cm2)の範囲内にあることがさらに好ましい。この範囲よりも吐出圧が低いと充分な効果が得られないことがあり、この範囲よりも高いとワイヤがたわみ、加工精度が低下することがある。
【0057】
また、ワイヤを走行させるために設けられるメインローラのうち、槽の両側に配置され、ワイヤの走行位置を規制する一対のメインローラにも冷却液を吐出することが好ましい。これらのメインローラに冷却液を吐出することによって、メインローラの表面に設けられている、ワイヤを案内するための溝を有する有機高分子層(例えばウレタンゴム層)の温度上昇を抑制するとともに、ワイヤまたは案内溝に付着または滞留した切削屑(またはスラッジ)を洗い流すことによって、ワイヤの走行位置がずれたり、ワイヤが溝から外れたりするのを防止することができる。
【0058】
また、切削工程で生成された、希土類合金の切削屑を含むスラッジと冷却液とからなるダーティ液を回収し、スラッジのなかから希土類合金の切削屑を磁石を用いて分別することによって、冷却液を再利用(例えば、循環的に使用)することができる。上述したように、水を主成分とする冷却液は粘度が低いので、切削屑を容易に分別することができる。また、希土類合金の切削屑を分別することによって、冷却液の廃液処理を容易に且つ環境にダメージを与えないように実施することができる。さらに、切削屑を希土類合金の再生原料として利用することもできる。本発明の切断方法に用いられる冷却液は水を主成分とするので、切削屑から再生された希土類合金に含まれる炭素の量を低くすることが容易なので、希土類磁石の材料として用いられる原料を得ることができる。スラッジからの切削屑の分別方法は、例えば、本願出願人が特願2000−224481号に開示した方法を用いることができる。
【0059】
本発明による切断方法は、上述したように、切断が難しい希土類焼結合金、特に、R−Fe−B系希土類焼結合金の切断に好適に適用される。本発明による切断方法によって切断された希土類合金を着磁することによって、希土類磁石が得られる。着磁工程は、切削工程の前に行ってもよいし、後に行ってもよい。R−Fe−B系希土類焼結合金を用いて製造される希土類焼結磁石は、磁気ヘッドの位置決めに用いられるボイスコイルモータ用の材料として好適に用いられる。本発明による切断方法は、特に、本願出願人らによる米国特許第4,770,723号明細書および米国特許第4,792,368号明細書に開示されているR−Fe−B系希土類焼結磁石(合金)の切断に好適に用いられる。さらに、そのなかでも、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)およびホウ素(B)を主成分とし、正方晶構造のNd2Fe14B金属間化合物からなる硬い主相(鉄リッチ相)と、Ndリッチな粘りのある粒界相とを有する希土類焼結磁石(合金)(以下、「ネオジム磁石(合金)」と称する。)の切断および製造に好適に適用される。ネオジム磁石の代表的な例として、住友特殊金属社製、商品名NEOMAXがある。
【0060】
本発明による切断方法を採用すると、希土類合金を高精度で且つ効率良く切断できるので、例えば、磁気ヘッドの位置決めに用いられるボイスコイルモータ用の小さな希土類磁石(例えば、厚さが0.5mm〜3.0mm)を高精度で且つ効率良く製造することができる。
【0061】
上述の本発明の実施形態において、さらに、ワイヤを走行させるローラの高分子層に形成された案内溝が、少なくとも一方の斜面がローラの半径方向に対して25°以上45°未満の角度を成す一対の斜面を有する構成を採用し、ワイヤが一対の斜面の間を走行させることによって、水を主成分とする冷却液を用いた場合に発生するワイヤの切断を抑制することができる。勿論、一対の斜面がローラの半径方向に対して25°以上45°未満の角度を成すことが好ましい。特に、ローラ間を走行させられるワイヤの張力は25N以上35N以下であることが好ましい。なお、ローラの表面とは、ローラの軸方向に平行な平面である。
【0062】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明による切断方法の実施形態をさらに具体的に説明する。本実施形態では、上述のネオジム磁石の製造に用いられるネオジム磁石焼結体の切断方法を説明する。
【0063】
ネオジム(Nd−Fe−B)焼結磁石を作製する方法を簡単に説明する。なお、磁石材料としての希土類合金を作製する方法は、例えば、上述の米国特許第4,770,723号明細書およびに米国特許第4,792,368号明細書に詳細に開示されている。
【0064】
まず、原料金属を所定の成分比に正確に秤量した後、真空またはアルゴンガス雰囲気で高周波溶解炉にて原料金属を溶解する。溶解した原料金属を水冷の鋳型に鋳込み、所定の組成の原料合金を形成する。この原料合金を粉砕し、平均粒径3〜4μm程度の微粉末を作製する。この微粉末を金型に入れ、磁界中でプレス成形する。このとき必要に応じて微粉末を潤滑剤と混合してからプレス成形を行う。次に、約1000℃〜約1200℃程度の焼結工程を行えばネオジム磁石焼結体を作製することができる。この後、磁石の保磁力を向上させるために約600℃での時効処理を実行し、希土類磁石焼結体の作製を完了する。焼結体のサイズは、例えば30mm×50mm×50mmである。
【0065】
得られた焼結体の切断加工を行い、焼結体から切断した複数の薄板(基板またはウェハと称される場合がある)を形成する。得られた焼結体の薄板のそれぞれに対して研磨による仕上げ加工を行い、寸法と形状を整えた後、長期的な信頼性を向上させるため、表面処理を施す。この後、着磁工程を実行した後、検査工程を経てネオジム永久磁石が完成する。なお、着磁工程を切断工程の前に行ってもよい。
【0066】
次に、本発明による切断方法を図1から図4を参照しながら説明する。
【0067】
図1は、本発明による実施形態の切断方法を実行するために好適に用いられるワイヤソー装置100を示す概略構成図である。
【0068】
ワイヤソー装置100は、3本のメインローラ10a、10bおよび10cと、一対のリールボビン40aおよび40bとを有している。冷却液を収容する槽30の下部に設けられているメインローラ10aが駆動ローラで、槽30の両側に設けられているメインローラ10bおよび10cは従動ローラである。ワイヤ20は、往復走行しながら、例えば、一方のリールボビン40aから他方のリールボビン40bに巻き取られる。このとき、リールボビンの40aの巻き取り時間を他方のリールボビン40bの巻き取り時間よりも長くすることによって、ワイヤ20を往復走行させながら、リールボビン40a側に新しいワイヤ20を供給することができる。ワイヤ20の走行速度は、例えば、200m/minから1500m/minの範囲であり、新線を供給する速度は、例えば、0m/min〜5m/minの範囲である。
【0069】
メインローラ10a、10bおよび10cの間には、ワイヤ20が例えば150列に張設される。ワイヤ20の走行位置を決めるために、メインローラ10a、10bおよび10cの表面には、ワイヤ20を案内するための溝(例えば深さ約0.6mm、不図示)を有する有機高分子層(例えばウレタンゴム層)が設けられている。ワイヤ20の列間の間隔は、この案内溝のピッチによって決められる。案内溝のピッチは、ワークから切り出すべき板の厚さに応じて設定される。
【0070】
リールボビン40aおよび40bの近傍には、巻き取り位置を調整するためのトラバーサ42aおよび42bがそれぞれ設けられている。リールボビン40aおよび40bからメインローラ10aに至るまでの経路中には、それぞれの側に5つのガイドローラ44と、1つのテンションローラ46とが設けられており、ワイヤ20を案内するとともに、その張力が調整される。ワイヤ20の張力は、種々の条件(切削長、切断速度、走行速度など)に応じて適宜変更され得るが、例えば20N〜40Nの範囲に設定される。
【0071】
なお、リールボビン40aおよび40bに巻き取られたワイヤ20が互いに摩擦し合うことによって受けるダメージは、ワイヤ20の張力にも依存する。そこで、リールリボン40aおよび40bに巻き取るための張力を低減する機構を設けることが好ましい。巻き取り張力を低減する機構としては、例えば、特開平9−29607号公報、特開平9−314548号公報、特開平10−166353号公報や特開平10−277914号公報に記載されているような機構を用いることができる。リールボビン40aおよび40bにおける巻取り張力は7N以上15N以下の範囲内にすることが好ましい。
【0072】
ワイヤソー装置100は、さらにリールボビン40aおよび40bに巻き取られているワイヤ20に冷却液を供給するための噴霧装置80aおよび80bを備えている。本実施形態では、樹脂で砥粒を固定したワイヤ20を用いるので、少量の冷却液を効率的にワイヤ20に付与するために噴霧法を採用する。
【0073】
噴霧装置80aおよび80bは、例えば、図2に示したように、冷却液(例えば200ml/min)とエアー(例えば0.4MPa)と噴霧ノズルに供給することによって、後述する冷却液60切削部に供給される後述の冷却液と同じものを用いる。リールボビン40a、40b(例えば、芯外径170mm、高さ340mm)に巻き付けられているワイヤ20の全体に亘って冷却液を噴霧することができる。ここでは、冷却液として、後述する冷却液タンク60に貯蔵されている冷却液を共通に用い、吐出ポンプによって配管を介して噴霧装置80aおよび80bまでそれぞれ圧送される。勿論、噴霧装置80aおよび80bに冷却液を供給するために冷却液タンクを別途設け、切削部に供給する冷却液と異なる冷却液を用いてもよい。
【0074】
さらに、冷却液によるワイヤ20へのダメージおよび/または冷却液の使用量を減らすために、冷却液を噴霧する領域を限定してもよい。図1に示したトラバーサ42aおよび42bの動きに同期させ、巻き取り(および送り出し)動作が行われ、ワイヤ20同士の摩擦が発生している領域に選択的に冷却液を供給する機構としても良い。特に、例示したようにワイヤ20を往復走行させる場合、走行方向の反転時にリールボビン40aおよび40bに巻かれたワイヤ20同士に強い摩擦力が発生するので、少なくともこの領域に冷却液を供給することが好ましい。
【0075】
冷却液を供給する手段は、例示した噴霧装置80aおよび80bに限られず滴下装置などを用いても良い。比較的多くの冷却液を供給する場合には、必要に応じて、リールボビン40aおよび40bの下部に余剰の冷却液を回収、再利用するための回収用パンを設けることが好ましい。冷却液の回収経路にはフィルタおよび/またはマグネットセパレータを設け、回収した冷却液に含まれる切屑を分別除去することが好ましい。
【0076】
なお、本実施形態では、リールボビン40aおよび40bに巻き取られたワイヤ20に冷却液を噴霧する構成を例示したが、リールボビン40aおよび40bに巻き取られる直前(または送り出された直後)のワイヤ20に対して冷却液を供給しても良い。互いに接触するワイヤの少なくとも一方が濡れた状態であれば砥粒へのダメージを小さくすることができる。また、リールボビン40aおよび40bから送り出された直後のワイヤ20に冷却液を供給することによって、ワイヤ20が、ガイドローラ44、テンションローラ46やメインローラ10a、10bおよび10cの案内溝と接触することによって生じる損傷を低減することもできる。
【0077】
上述したようにして作製された焼結体ワーク50は、以下の様にして、ワイヤソー装置100にセットされる。
【0078】
複数のワーク50は、例えばエポキシ系またはホットメルト系の接着剤(不図示)によって相互に固着され、複数のブロックとして組み立てられた状態で、炭素ベースプレート52を間に介して、鉄製のワークプレート54に固定される。
ワークプレート54、ワーク50の各ブロックおよび炭素ベースプレート52も接着剤(不図示)によって互いに固着されている。炭素製ベースプレート52は、ワーク50の切断加工が終了した後、ワークプレート54の下降動作が停止するまでワイヤ20による切断加工を受け、ワークプレート54を保護するというダミーとして機能する。
【0079】
本実施形態では、ワイヤ20の走行方向に沿って計測した各ブロックのサイズが100mm程度になるように各ブロックの大きさを設計している。従って、ここでは、ワイヤ20による切削長さは、約200mmである。本実施形態では上述のようにワーク50を複数のブロックに分割して配置しているが、ワイヤ20の走行方向におけるサイズをどの程度の大きさに設定すべきかは、冷却液の動摩擦係数や走行速度によっても変化する。また、各ワーク50の大きさによって、ひとつのブロックを構成するワーク50の数や配置も変化する。これらを考慮して、適宜最適なサイズのブロックに分けてワーク50を配置すればよい。
【0080】
上述のようにセットされたワーク50は、モータ58を備える昇降装置によって下降され、走行するワイヤ20に押し付けられ、切削加工される。ワーク50の下降速度は、種々の条件に応じて変化し得るが、例えば、20mm/hr〜50mm/hrの範囲内に設定される。
【0081】
冷却液タンク60に貯蔵されている冷却液は、吐出ポンプ62によって、配管63を介して圧送される。配管63は、途中で、下部配管64と上部配管66とに分岐されている。下部配管64および上部配管66には、それぞれへの冷却液の流量を調整するためのバルブ63bおよび63aが設けられている。下部配管64は、切削部を浸漬するための槽30の底部に設けられた下部ノズル64aに接続されている。上部配管66は、槽30の開口部から冷却液を供給するための上部ノズル66a、66bおよび66cと、メインローラ10bおよび10cをそれぞれ冷却するために設けられた上部ノズル66dおよび66eとに接続されている。
【0082】
槽30には、上部ノズル66a、66bおよび66cと下部ノズル64aとから冷却液が供給され、少なくとも切削工程の間は、図1中に矢印Fで示したように、冷却液が槽30の開口部から溢れ出る状態に維持される。槽30から溢れ出た冷却液は、槽30の下方に設けられた回収用パン70によって回収タンク72に導かれ、蓄積される。回収された冷却液は、例えば図1に示したように、吐出ポンプ74によって循環用配管76を介して、冷却液タンク60に送られる。循環用配管76の途中には、フィルタ78が設けられており、回収された冷却液に含まれる切削屑が分別除去される。回収方法は、これに限られず、磁力を利用して切削屑を分別する機構を設けてもよい(例えば特願2000−224481号参照)。
【0083】
次に、図3を参照しながら、本発明による切断工程をさらに詳細に説明する。
【0084】
槽30は、ワイヤ20の走行方向と交差する側壁の開口部付近に補助壁32を有している。この補助壁32は、プラスチック板(例えばアクリル板)で形成されており、図3中に破線で示した無負荷時におけるワイヤの走行位置と近接するように設けられている。切断するためにワーク50を下降し、ワイヤ20に接触させるとワイヤ20はたわみ、図3中に実線で示したように、槽30内の冷却液に切削部が浸漬された状態となる。このとき、ワイヤ20がたわむに連れて、ワイヤ20は補助壁32を切削し、スリットを形成する。ワイヤ20による切削が定常状態になると、たわみ量は一定し、ワイヤ20は補助壁32に形成されたスリット内を通過しながら、ワーク50を切削する。従って、補助壁32に形成されたスリットは、ワイヤ20の走行位置を規制するように機能し、加工精度の安定にも寄与する。
【0085】
槽30は、例えば約35l(リットル)の容量を有しており、切削工程中は、下部ノズル64aから約30l/minの流量で冷却液が供給され、上部ノズル66a、66bおよび66cから約90l/minの流量で冷却液が供給され、常に冷却液が開口部から溢れ出る状態に維持される。ワイヤ20に冷却液を供給することだけを考えると、図3に示したように、切削中はワイヤ20がたわむので、冷却液を溢れさせる必要は必ずしも無いが、例示するネオジム磁石焼結体を切断するときには切削屑の排出性を向上するために、上記のような構成を採用することが好ましい。
【0086】
切削屑の排出性を高めるためには、切削部付近の冷却液内に含まれる切削屑の量を減らすことが有効である。十分な排出性を得るためには、冷却液が1分間に溢れ出る量は、槽の容積の50%以上であることが好ましい。さらに、新鮮な冷却液は、槽30の底部よりも開口部から多く供給することが好ましい。水を主成分とする粘度の低い冷却液を用いているので、冷却液中に排出された切削屑は容易に沈降するので、槽30の底部から多くの冷却液を供給すると、沈降した切削屑が切削部近傍に浮遊する原因となるので好ましくない。
【0087】
また、開口部からワイヤ20(つまり切削溝)に供給される新鮮な冷却液が占める割合を多くするために、走行するワイヤ20よりも上方から供給される冷却液を多くすることが好ましい。すなわち、槽30の開口部からも冷却液を供給し、開口部から溢れる状態に維持することによって、切削部に供給される冷却液に含まれる切削屑の量を低下させることができる。さらに、槽30の開口部から供給される冷却液の流れによって、ワイヤ20に付着した切削屑を機械的に洗い流す効果も得られる。
【0088】
また、上述した補助壁32は、ワイヤ20によって形成されたスリット以外の部分は、槽30の側壁として機能するので、冷却液の液面Sを高く保つように機能する。さらに、槽30の開口部のワイヤ20の走行方向と交差する辺に、ノズル66bおよび66cを用いて、カーテン状の冷却液流を形成し、冷却液が槽30の開口部から溢れ出るのを抑制する。これにより、溢れ出る冷却液の液面Sを槽30の補助壁32よりも高くすると、より多くの冷却液が切削部の周囲に供給されることになるので、冷却液中の切削屑の量をさらに低下させることができる。冷却液流を形成するための吐出圧は、0.2MPa(2kg/cm2)〜1.0MPa(10kg/cm2)の範囲内にあることが好ましく、0.4MPa(4kg/cm2)〜0.6MPa(6kg/cm2)の範囲内にあることがさらに好ましい。この範囲よりも吐出圧が低いと充分な効果が得られないことがあり、この範囲よりも高いとワイヤ20にぶれが発生し、その結果、加工精度が低下することがある。
【0089】
また、槽30の両側に配置され、ワイヤ20の走行位置を規制する一対のメインローラ10bおよび10cにも冷却液を吐出することが好ましい。これらのメインローラ10bおよび10cに冷却液を吐出することによって、メインローラ10bおよび10cの表面に設けられている、ワイヤ20を案内するための溝を有する有機高分子層(例えばウレタンゴム層)の温度上昇を抑制するとともに、ワイヤ20または案内溝に付着または滞留した切削屑(またはスラッジ)を洗い流すことができるので、ワイヤ20の走行位置がずれたり、ワイヤ20が溝から外れたりするのを防止することができるとともに、排出性を向上する効果も得られる。
【0090】
水を主成分とする冷却液に添加される界面活性剤としては、アニオン系として、脂肪酸石鹸やナフテン酸石鹸等の脂肪酸誘導体、又は長鎖アルコール硫酸エステルや動植物油の硫酸化油等の硫酸エステル型、又は石油スルホン酸塩等のスルホン酸型、非イオン系として、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルやポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン系、ソルビタンモノ脂肪酸エステル等の多価アルコール系、又は脂肪酸ジエタノールアミド等のアルキロールアミド系を用いることができる。具体的には、ケミカルソリューションタイプのJP−0497N(カストロール社製)を水に2重量%程度添加することによって、動摩擦係数を所定の範囲内に調整することができる。
【0091】
また、シンセティックタイプ合成潤滑剤としては、シンセティック・ソリューションタイプ、シンセティック・エマルションタイプおよびシンセティックソリュブルタイプを用いることができ、そのなかでも、シンセティック・ソリューションタイプが好ましく、具体的には、グリコールおよびアルカノールアミン等を含む潤滑剤(ユシロ化学工業社製#830および#870)や、シンタイロ9954(カストロール社製)を挙げることができる。いずれも、水に2重量%〜10重量%程度添加することによって、動摩擦係数を好適な範囲内に調整することができる。
【0092】
また、錆止め剤を含有させることで、希土類合金の腐食を防止することができる。特に、R−Fe−B系希土類合金を切断する際には、PHを8〜11とすることが好ましい。錆止め剤としては、有機系として、オレイン酸塩や安息香酸塩等のカルボン酸塩、又はトリエタノールアミン等のアミン類、無機系として、りん酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、又は炭酸塩を用いることができる。
【0093】
また、非鉄金属防食剤としては、例えばベンズトリアゾール等の窒素化合物を、防腐剤としては、ヘキサハイドロトリアジン等のホルムアルデヒド供与体を用いることができる。
【0094】
また消泡剤としては、シリコーンエマルジョンを用いることができる。消泡剤を含有させることで、冷却液の泡立ちを少なくし、冷却液の浸透性をよくし、冷却効果を高め、ワイヤ20での温度上昇を防ぎ、ワイヤ20の温度の異常上昇や異常摩耗が起こりにくくなる。
【0095】
図4を参照しながら、本実施形態で好適に用いられるワイヤ20の構造を説明する。なお、図中では、ワイヤ20の一点鎖線で示した中央線から下半分は簡略化している。
【0096】
ワイヤ20としては、芯線(ピアノ線)22の外周面にダイヤモンド砥粒24を樹脂層26で固着したものが好適に用いられる。そのなかでも、樹脂としてフェノール樹脂、エポキシ樹脂またはポリイミド樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂は、ピアノ線(硬鋼線)22の外周面への接着強度が高く、また上述した冷却液に対する濡れ性(浸透性)にも優れる。また、砥粒としては、ダイヤモンド砥粒の他にSiCなどを用いてもよい。
【0097】
好適なワイヤ20の具体例としては、直径が約0.18mmのピアノ線22の外周に、平均粒径が約45μmのダイヤモンド砥粒を、フェノール樹脂層26で固着し、外径が約0.24mmのワイヤ20が挙げられる。また、切削効率と切削屑(スラッジ)の排出効率の観点から、ワイヤ20の走行方向(軸方向:図中の一点破線に平行な方向)における、互いに隣接する砥粒24間の平均距離は、砥粒の平均粒径Dの100%〜600%の範囲内にあるものが好ましい。さらに、砥粒22がフェノール樹脂層26の表面から突出している部分の平均高さは、10μm〜40μmの範囲内にあることが好ましい。このようなワイヤ20は、砥粒22間に適度な大きさの空間(「チップポケット」と呼ばれることもある)28が形成されているので、良好な切削効率を有するとともに、良好な排出性を有する。
【0098】
上述のワイヤソー装置100で、ワイヤとして上述の仕様を満足するアライドマテリアル製のワイヤを用いて、上述のネオジム磁石合金を切断した場合の効果を検証した。冷却液としてユシロ化学製#830の約10%水溶液(液温23℃)を供給量200ml/minでリールボビンに噴霧しながら、最大走行速度1100m/分、張力30N、切り込み量40mm/時間、新線供給量2m/分の条件で、ワイヤを双方向に走行させながら切断した。その結果、リールボビン40aおよび40b(ワイヤ長38km)に冷却液を噴霧しない場合に比べ、砥粒および樹脂層の脱離量が3分の1程度に低減した。ユシロ化学製#830の濃度を調節することによって得られた、動摩擦係数0.11〜0.13、表面張力33〜36mN/m、粘度1〜4mPa・s(動粘度1〜4mm2/s)の冷却液を用いた場合にほぼ同様の結果が得られた。
【0099】
また、冷却液を噴霧する前にワイヤの表面をグリコールで被覆することによって、樹脂剥がれが抑制されることを確かめた。ワイヤ表面のグリコールによる被覆は以下のようにして実行した。
【0100】
上記ワイヤ(ワイヤ外径0.24mm)をリールボビンに巻き取る際に、巻き取り張力を約10N、巻き取りピッチを約0.46mmとして、巻き取りながら、グリコールを染み込ませた布を用いて、ワイヤの表面をグリコール(例えば、ポリオキシアルキレンの原液)で被覆した。
【0101】
グリコール被覆したワイヤを用いることによって、グリコール被覆を施さないワイヤを用いた場合、樹脂剥がれの発生率が約20%(382/1900)であったものを、約2%(3/237)まで低下できた。なお、新線供給量を3m/分とした以外の条件は、上記と同じである。また、表面をグリコールを含む潤滑剤で被覆することによって、ワイヤを保存している期間、保存環境による、樹脂剥がれの発生率のばらつきを低減する効果も認められた。ここで、樹脂剥がれの評価は、以下のようにして行った。上記条件でネオジム磁石合金を5時間切断加工した後で、切断に使用したワイヤ(約900m)に5mm以上の樹脂剥がれが発生したものを樹脂剥がれ不良発生とした。
【0102】
グリコールは非常に親水性(保水性)が強いので、樹脂層が空気中に含まれている水を吸収するのを防止するように作用すると考えられる。グリコールのこの効果を効率的に発揮させるためには、グリコールを直接ワイヤの表面に付与することが好ましいが、水で希釈して用いても良い。この場合、付与方法にも依存するが、グリコール濃度が50質量%以上の水溶液として用いることが好ましい。
ここで、水溶液とするのは、冷却液として水系冷却液を用いるので、冷却液と混合した際に、冷却液の作用に悪影響を及ぼさないためである。グリコールは水に対する溶解性に優れ、且つ、潤滑性にも優れるので、水系冷却液と混合されても、悪影響を及ぼすことがない。
【0103】
なお、ここでは、グリコールを含む潤滑剤で表面を被覆したワイヤを用い、さらにリールボビンに冷却液を噴霧しながら、切断工程を実行する実施形態を例示したが、リールボビンに冷却液を噴霧する工程を省略しても、グリコールを予め塗布することによって樹脂剥がれを抑制する効果を得ることができる。もちろん、例示したように、併用することが最も好ましい。
【0104】
次に、実施形態1のワイヤソー装置100のメインローラ10a、10bおよび10cの好ましい構造を説明する。
【0105】
水を主成分とする冷却液を用いると、油性の冷却液を用いた場合よりもワイヤの断線率が増加(すなわち、より短い時間で断線)するとともに、加工精度が低下するという問題が発生する。本発明者が種々検討した結果、図5に模式的に示すように、ローラ10a、10bおよび10cの高分子層10Pに形成された案内溝10Gの断面形状を、案内溝10Gが有する一対の斜面10Sがローラ10aの半径方向10Rに対して25°以上45°未満の角度(以下、「傾斜角(α)」という。)を成す構成を採用することによって、ワイヤ20の断線の発生を抑制するとともに、十分な加工精度を得ることができることがわかった。傾斜角は、30°以上35°以下であることがさらに好ましい。
【0106】
なお、例示したように、案内溝10Gが有する一対の斜面10Sの両方がローラ10aの半径方向10Rに対して上記の範囲の傾斜角を有することが好ましいが、一対の斜面10Sの内の少なくとも一方が上記の範囲の傾斜角を有していれば、断線の発生を抑制する効果および十分な加工精度を得ることができる。
【0107】
従来は、例えば図6に示すように、案内溝10Gの斜面10Sがローラの半径方向10Rに対して45°以上の傾斜角を成す構造を採用していた。これは、案内溝10Gから効率よくスラッジを十分に排出させるためであり、特に、希土類合金は脆性的な破壊を起こす主相と延性的な破壊を粒界相とを有するために切削抵抗が高く、且つ、比重が大きいのでスラッジの排出性が悪いため、スラッジの排出性を高めるために、傾斜角を45°超としていた。
【0108】
しかしながら、本発明者が検討した結果、斜面10Sの傾斜角を45°よりも大きくすると、断線発生率はそれほど低下せず、むしろ、加工精度が低下するという問題が発生することがわかった。以下に、図7を参照しながら、この現象を説明する。
【0109】
図7は、ローラの案内溝の斜面10Sの傾斜角とワイヤの捻れ角との関係を示すグラフである。捻れ角Ωは、ワイヤ20がロールから受ける捻回力に比例し、捻れ角Ω=360°のときワイヤが一回捻回されていることを示す。なお、図7に示した結果は、以下で説明する構成についての力学的なモデル計算から求めた。なお、斜面10Sの傾斜角は、両側の斜面で等しいとした。結果を示している。
【0110】
450mmの間隔(スパン)で配置した一対のローラ(図1のローラ10bと10d)直径170mm)の間に、ワイヤ20を張力30N(3kgf)で200条配設する。新線供給量は2m/分で、120秒サイクルで往復走行させる。このとき、ワイヤ20は、約190回往復走行された後、ローラから脱出することになる。
【0111】
ここで、種々実験した結果、1スパン(450mm)の間でワイヤが5回(Ω=1800°)捻回する力を受けると、ワイヤ20が200条分走行する間に、約500回捻回した。すなわち、200条×5回=1000回分捻回する力を受けたとき、その約50%分が実際の捻回として蓄積された。そこで、図7における縦軸の捻れ角Ωは、力学的なモデル計算から求められる捻回力に対応する捻れ角に0.5を乗じた値を示している。また、静的な捻れ破断強度試験から、ワイヤ20に実際に蓄積される捻れ角が1800°(5回捻回)となったときに、10%の確率でワイヤが破断すると見積もった。
【0112】
図7からわかるように、捻回力(捻れ角)は、溝10Gの傾斜角αが大きくなるにつれて単調に減少する。単純に捻回力のみよるワイヤ20の破断を考えると、ワイヤ20が細い場合(直径d=0.19mm)には傾斜角を10°以上、太い場合(直径が0.25mm)でも傾斜角を25°以上とすれば、ワイヤ20の破断を抑制できることになる。
【0113】
しかしながら、実験によると、いずれのワイヤ20を用いた場合も、傾斜角が45°以上になると、断線発生率があまり低下しなかった。また、傾斜角が45°以上になると加工精度が低下するという問題が発生した。
【0114】
これは、傾斜角が大きくなると、案内溝10Gの幅10W(図5参照)が大きくなり、ワイヤ20が案内溝10G内で振れたり、更には、隣接する案内溝10Gに飛び移ったりするため、ワイヤ20に掛かる張力や念回力が不均一となり、局所的に大きな応力が発生する結果、ワイヤ20の断線が発生するものと考えられる。また、ワイヤ20が案内溝10G内を安定に走行しない結果、加工精度が低下するものと考えられる。なお、実験には、高分子層10Pとしてウレタンゴム層を用い、冷却液としてはユシロ化学工業社製#830の約10%水溶液を用いた。また、実施形態1と同じ希土類焼結磁石のワークピースを切断した。
【0115】
上述の結果から、案内溝10Gの斜面10Sの傾斜角は、25°以上45°未満であることが好ましい。なお、ワイヤ20の断線をなるべく抑制するためには、念回力が低下するように、傾斜角を30°以上とすることが好ましく、高い加工精度を得るためには傾斜角を35°以下とすることが好ましい。また、なお、案内溝10Gの底部10Bは、ワイヤ20の半径よりもやや小さめの曲率半径に加工しておくことが好ましい。
【0116】
ここでは、ワイヤ20の張力を20Nとした場合の結果を説明したが、ワイヤの張力が20N以上35N以下である場合にほぼ同様の結果を得ることができる。
【0117】
ワイヤソー装置100および200を例示しながら本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限られず、単一のリールボビンを用いるエンドレス型のワイヤソー装置(例えば特開平11−198018号公報参照)に適用することができる。
【0118】
上述したように、本発明の実施形態によると、ワイヤソー装置で水を主成分とする冷却液を用い希土類合金を切断する際のワイヤの寿命を長くすることが可能となる。希土類合金は、脆性的な破壊を起こす硬い主相と延性的な破壊を起こす粒界相とを有するため、ワイヤソーを用いて切断することが特に難しいので、本発明の効果が特に顕著である。本発明の実施形態による切断方法を採用すると、希土類合金を切断する場合に限られず、シリコン、サファイア、水晶、ガラス、ネオジム、フェライト等の硬脆材料を、水を主成分とする冷却液を用いて切断する場合にも、ワイヤの寿命を長くすることができる。
【0119】
【発明の効果】
上述したように、本発明によると、水を主成分とする冷却液を用いてワイヤソー装置で切断する際のワイヤの寿命を長くすることが可能となる。
【0120】
本発明の切断方法を用いると、水を主成分とする冷却液を用いて、高い加工精度で、且つ、少ない切削しろで、希土類合金や他の硬脆材料を切断することができる。従って、材料の歩留まりが向上するとともに、冷却液として水を主成分とする冷却液を用いるので、環境に優しく、また、切断後の洗浄工程を簡略化することが可能で、さらに、廃液の処理のコストを低減することもできる。
【0121】
本発明の切断方法は、シリコンなどの硬脆材料よりも切断し難い希土類合金を切断する場合に顕著な効果を奏する。希土類合金の材料は高価なので、材料の歩留まりを向上することによるコストメリットが大きい。また、廃液から切削屑を分別し、冷却液の循環使用を容易に実現できるので、環境に優しく、また、廃液の処理のコストを低減することができる。従って、希土類合金の加工コストが低減され、切断品、例えば、磁気ヘッド用のボイスコイルモータを低価格で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による実施形態の切断方法を実行するために好適に用いられるワイヤソー装置100を示す模式図である。
【図2】ワイヤソー装置100におけるリールボビン40aおよび40bに巻かれたワイヤ20に冷却液を供給するための構造を模式的に示す図である。
【図3】図1に示したワイヤソー装置100の切削部近傍の構成を示す模式図である。
【図4】本発明による実施形態の切断方法を実行するために好適に用いられるワイヤ20の断面構造を模式的に示す図である。
【図5】ワイヤソー装置100および200に好適に用いられるローラの断面構造を模式的に示す図である。
【図6】従来のローラの断面構造を模式的に示す図である。
【図7】ローラの案内溝の斜面10Sの傾斜角とワイヤ捻れ角との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10a、10b、10c メインローラ
20 ワイヤ
30 槽
40a、40b リールボビン
42a、42b トラバーサ
50 ワーク
60 冷却液タンク
70 回収用パン
80a、80b 噴霧装置

Claims (14)

  1. 芯線の外周面に形成された樹脂層によって砥粒が固着されたワイヤを用いる切断方法であって、
    表面がグリコールを含む潤滑液によって被覆されたワイヤをリールボビンに巻く準備工程と、
    前記リールボビンに巻かれたワイヤを複数のローラの間で走行させる工程と、
    ワークピースが前記ワイヤによって切削される部分に水を主成分とする第1冷却液を供給しながら、走行している前記ワイヤで前記ワークピースを切削する工程と、
    前記リールボビンに巻かれた前記ワイヤに水を主成分とする第2冷却液を供給する工程と包含し、
    前記第2冷却液はグリコールを含む、切断方法。
  2. 前記第2冷却液は、希土類合金に対する25℃における動摩擦係数が0.3以下である、請求項1に記載の切断方法。
  3. 前記第2冷却液は噴霧法によって前記ワイヤに供給される、請求項1または2に記載の切断方法。
  4. 前記準備工程において、前記リールボビンに前記ワイヤを巻くときの張力は7N以上15N以下の範囲内にある、請求項1から3のいずれかに記載の切断方法。
  5. 前記リールボビンに前記ワイヤを巻くときのピッチは前記ワイヤの外径の2倍未満である、請求項1から4のいずれかに記載の切断方法。
  6. 前記第1冷却液は、希土類合金に対する25℃における動摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内にある、請求項1から5のいずれかに記載の切断方法。
  7. 前記樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはポリイミド樹脂である、請求項1から6のいずれかに記載の切断方法。
  8. 前記ワイヤの走行方向における、互いに隣接する前記砥粒間の平均距離は、前記砥粒の平均粒径の100%〜600%の範囲内にあり、且つ、前記砥粒が前記樹脂層の表面から突出している部分の平均高さは、10μm〜40μmの範囲内にある、請求項1から7のいずれかに記載の切断方法。
  9. 前記第2冷却液は前記第1冷却液よりも粘度が高い、請求項1から8のいずれかに記載の切断方法。
  10. 前記第2冷却液および前記第1冷却液の温度は、15℃から35℃の範囲にある、請求項1から9のいずれかに記載の切断方法。
  11. 前記複数のローラのそれぞれは、案内溝が形成された高分子層を有し、前記案内溝は、少なくとも一方の斜面が前記ローラの半径方向に対して25°以上45°未満の角度を成す一対の斜面を有し、前記ワイヤは前記一対の斜面の間を走行させられる、請求項1から10のいずれかに記載の切断方法。
  12. 前記ワークピースは、R−Fe−B系希土類焼結合金から形成されている請求項1から11のいずれかに記載の切断方法。
  13. 前記ワークピースは、Nd−Fe−B系希土類焼結合金から形成されている、請求項12に記載の切断方法。
  14. 希土類合金粉末から希土類磁石の焼結体を作製する工程と、
    請求項1から13のいずれかに記載の切断方法を用いて、前記焼結体から複数の希土類磁石を分離する工程と、
    を包含する、希土類磁石の製造方法。
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