JP4759790B2 - 希土類合金の切断方法および希土類合金磁石の製造方法 - Google Patents

希土類合金の切断方法および希土類合金磁石の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP4759790B2
JP4759790B2 JP2000224481A JP2000224481A JP4759790B2 JP 4759790 B2 JP4759790 B2 JP 4759790B2 JP 2000224481 A JP2000224481 A JP 2000224481A JP 2000224481 A JP2000224481 A JP 2000224481A JP 4759790 B2 JP4759790 B2 JP 4759790B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cutting
rare earth
earth alloy
cutting fluid
wire
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Lifetime
Application number
JP2000224481A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2002036113A (ja
Inventor
禎彦 近藤
章 宮地
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Hitachi Metals Ltd
Original Assignee
Hitachi Metals Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Hitachi Metals Ltd filed Critical Hitachi Metals Ltd
Priority to JP2000224481A priority Critical patent/JP4759790B2/ja
Publication of JP2002036113A publication Critical patent/JP2002036113A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4759790B2 publication Critical patent/JP4759790B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Lifetime legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • HELECTRICITY
    • H01ELECTRIC ELEMENTS
    • H01FMAGNETS; INDUCTANCES; TRANSFORMERS; SELECTION OF MATERIALS FOR THEIR MAGNETIC PROPERTIES
    • H01F41/00Apparatus or processes specially adapted for manufacturing or assembling magnets, inductances or transformers; Apparatus or processes specially adapted for manufacturing materials characterised by their magnetic properties
    • H01F41/02Apparatus or processes specially adapted for manufacturing or assembling magnets, inductances or transformers; Apparatus or processes specially adapted for manufacturing materials characterised by their magnetic properties for manufacturing cores, coils, or magnets
    • H01F41/0253Apparatus or processes specially adapted for manufacturing or assembling magnets, inductances or transformers; Apparatus or processes specially adapted for manufacturing materials characterised by their magnetic properties for manufacturing cores, coils, or magnets for manufacturing permanent magnets

Landscapes

  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Power Engineering (AREA)
  • Manufacturing & Machinery (AREA)
  • Grinding-Machine Dressing And Accessory Apparatuses (AREA)
  • Processing Of Stones Or Stones Resemblance Materials (AREA)
  • Finish Polishing, Edge Sharpening, And Grinding By Specific Grinding Devices (AREA)
  • Manufacturing Cores, Coils, And Magnets (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、希土類合金の切断方法および切断装置に関する。より詳細には、ダイヤモンド砥粒等の超砥粒を固着させたワイヤを用いて希土類合金を切断する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、シリコンのインゴットから多数のウェハを切り出すためにワイヤソーを用いてインゴットを切断する技術が開発され、例えば特開平6−8234号公報に開示されている。このような技術によれば、走行するマルチワイヤに対して研削砥粒を含むスラリを供給しながらインゴットの切削・切断加工を実行し、一定の厚さのウェハを多数枚同時に切り出すことが可能になる。
【0003】
一方、希土類合金のインゴットを切断する方法としては、従来から、例えば回転するスライシングブレードを用いてインゴットをスライスする技術が知られている。しかし、スライシングブレードで切断する方法によれば、切断刃の厚さはワイヤ径に比べて大きいため、どうしても削り代が多くなり、資源の有効利用がはかれない。
【0004】
希土類合金は、例えば磁石材料として好適に用いられている。磁石の用途は多様化し、各種の電子機器にも広く使用されているため、ワイヤソーによって希土類合金のインゴットから少ない削り代にて所定厚さのウェハを多数枚同時に作製することができれば、希土類磁石の製造コストが大幅に低減される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、実用的なワイヤソー技術を用いて希土類合金を切断したとの報告は未だに無い。発明者らの実験によれば、遊離砥粒型ワイヤソーによる切断加工処理を希土類合金のインゴットに対して実行しようとすると、ワイヤソー加工によって発生した微粉・研削くず(きりこ若しくはスラッジ)のためにスラリ循環パイプが極めて短時間で詰まってしまう結果、ワイヤ上にスラリが供給されなくなり、ワイヤ切れが生じてしまうということがわかった。この問題を回避するためにスラリ全体を数時間ごとに完全に交換すると、スラリ交換の都度ワイヤソーによる加工を中断しなければならなくなるため、量産には適さず、実用化が不可能になる。また、スラッジは切削溝内にもたまりやすく、そのせいで切削抵抗が著しく増加し、ワイヤ切れがいっそう生じやすくなることもわかった。更に、切断加工処理中、スラッジはローラの溝にもたまりやすく、ワイヤが巻き付けられているローラからワイヤが脱溝するなど現象が頻発し、切断精度が著しく低下するという問題のあることもわかった。これらの問題は、何れも、従来のワイヤソー技術によってシリコンやガラスのインゴットを切断する際には現れなかったものである。
【0006】
また、砥粒をスラリ中に浮遊させたタイプの遊離砥粒型ワイヤソーによれば、切断加工時に砥粒が転動するため、単位時間あたりの切削量(切断速度)の向上が難しいという問題もあった。特に希土類合金はシリコンやガラスに比べて硬く、粘り気があり、切断しにくい材料であるため、遊離砥粒型ワイヤソーを用いて希土類合金を切断した場合には切断速度がかなり遅くなる。
【0007】
特開平8−126953号公報は、固定砥粒を有するワイヤを用い、水をクーラントとしてシリコンインゴットを切断する技術を開示している。しかし、この技術を希土類合金の切断に用いると、希土類合金のスラッジは排出性が悪いため、遊離砥粒の場合と同様の問題が生じる。
【0008】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ワイヤ切れを防止して長時間の連続運転を可能にするとともに、切断速度を向上させることができる希土類合金の切断方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、上記希土類合金の切断方法を用いた希土類合金磁石の製造方法、ならびに当該希土類合金磁石を備えたボイスコイルモータを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の希土類合金の切断方法は、砥粒を固着させたワイヤを用いる希土類合金の切断方法であって、前記ワイヤと前記希土類合金との間に、25℃における表面張力が33mN/m〜49mN/mの範囲内にある水系切削液を供給しながら前記希土類合金を切断することを特徴とする。
【0011】
前記水系切削液として、グリコールを含むものを好適に用いることができる。
【0012】
あるいは、前記水系切削液として、合成潤滑剤を含むものを用いることもできる。
【0013】
前記水系切削液は消泡剤を含んでもよい。また、前記水系切削液はPHが9〜11であることが好ましい。前記水系切削液は防錆剤を含んでもよい。
【0014】
前記ワイヤとして、フェノール樹脂によって固着させた砥粒を含むものを好適に用いることができる。砥粒としては、ダイヤモンド砥粒が好適に用いられる。
【0015】
前記水系切削液の温度を制御する工程を包含することが好ましい。
【0016】
前記希土類合金を切断する際に生じた前記希土類合金のスラッジを含む水系切削液を回収する工程と、前記水系切削液の温度を制御する前に、前記回収された水系切削液からスラッジを除去する工程とをさらに包含することが好ましい。
【0017】
前記水系切削液の温度を制御する工程は、スラッジが除去された一部の水系切削液の温度を調節する工程と、前記温度が調節された一部の水系切削液と温度が調節されていない残りの水系切削液とを混合する工程とを包含し、前記混合された水系切削液を前記ワイヤと前記希土類合金との間に供給するようにしてもよい。
【0018】
前記希土類合金を切断する際に生じた前記希土類合金のスラッジを前記水系切削液内から磁力によって分離するようにしてもよい。
【0019】
前記スラッジを回収する領域において0.27テスラ以上の磁力を示すマグネットセパレータを用いることが好ましい。
【0020】
前記の希土類合金の切断方法は、外周にリング状の複数の溝が所定のピッチで形成され、回転可能に支持された複数のローラと、前記ローラを回転させながら前記ローラの前記溝に巻き付けた前記ワイヤを走行させる駆動手段とを備えたワイヤソー装置を用いて、好適に実行することができる。
【0021】
前記ワイヤに対して、上方から下方に向かって前記希土類合金を降下させながら前記希土類合金を切断することが好ましい。
【0022】
前記希土類合金を複数のブロックに分割した状態で保持し、前記水系切削液の供給の少なくとも一部を前記複数のブロックの間隙を介して行うようにしてもよい。あるいは、前記切削液の供給を、切削液槽の開口部から供給される前記切削液中に前記ワイヤを走行させることによって行ってもよい。
【0023】
本発明による希土類合金板の製造方法は、希土類合金のインゴットを作製する工程と、上述の希土類合金の切断方法を用いて前記希土類合金のインゴットから複数の希土類合金板を分離する工程とを包含することを特徴とする。
【0024】
本発明による希土類合金磁石の製造方法は、希土類磁石合金粉末から焼結体を作製する工程と、上述の希土類合金の切断方法を用いて前記焼結体から複数の希土類合金磁石を分離する工程とを包含することを特徴とする。
【0025】
本発明によるボイスコイルモータは、前記希土類合金磁石の製造方法によって作製された希土類合金磁石を備えていることを特徴とする。
【0026】
前記希土類合金磁石の厚さは、0.5〜3.0mmの範囲にあってもよい。
【0027】
【発明の実施の形態】
本願発明者は、切断速度を向上させる目的のため、砥粒を固着させたワイヤを用いて希土類合金を切断した。砥粒がワイヤに固定されることによって切削時における砥粒の転がりを阻止できるため、切断速度が向上する。この方法による場合、砥粒を浮遊させるためのスラリが不要になるが、スラッジを切削部から洗い流す(排出する)ためには、切削液を切断加工部分に十分に供給する必要がある。本発明者の実験によれば、切削液として水(水道水)を用いた場合、希土類合金のスラッジが切削溝内にたまりやすく、そのせいで切削抵抗が著しく増加し、ワイヤ切れが生じやすくなることがわかった。このような現象は、前述のように遊離砥粒型の場合にも見られたものである。しかし、砥粒を固着させたワイヤを用いる場合、切断対象である希土類合金から単位時間に削り取られるスラッジの量が多くなるため、切削抵抗の増大は、より大きな問題となる。
【0028】
また、切削液として水を用いて希土類合金を切断した場合、固定砥粒を有するワイヤの摩耗が激しく、ワイヤの切削能力が短時間の間に低下する結果、切断速度が大きく低下することがわかった。希土類合金は硬くて粘り気が高い材料であるため、切断時においてワイヤと希土類合金との間で生じる摩擦が大きい。切削液として水を用いて希土類合金を切断する場合は、この摩擦を十分に低減することができないものと考えられる。このことも、希土類合金よりも切断が容易であるシリコンやガラスのインゴットを切断する際には、大きな問題にはなっていなかった。
【0029】
また、凝集したスラッジがワイヤソー装置内の切削液循環パイプ内で切削液の循環を阻害すると、それによって切削液循環パイプが詰まるため、切削液の交換を頻繁に行わない限り長時間の連続運転を実施することが不可能になる。スラッジの沈殿・凝集は、希土類合金を構成する鉄および希土類元素の比重が大きいために生じると考えられる。ワイヤソーを用いてシリコンや石英ガラスのインゴットを切断した場合は、スラッジは切削液によって速やかに洗い流され、スラッジの沈殿・凝集はほとんど生じず、そのことに起因する大きな問題は今まで特に発生していなかった。
【0030】
本発明者は、切削液として水を用いる代わりに、所定範囲の表面張力を有する水系切削液を用いることによって、切削抵抗を低減できることを見出した。後述するように、水系切削液の25℃における表面張力は33mN/m〜49mN/mの範囲内にあることが望ましい。上記の範囲内の表面張力を有する水系切削液は、水に比べて、ダイヤモンド系砥粒を含む切削端に対する浸透性(濡れ性またはなじみ)が優れるので、切削部(希土類合金と切削端とが接触し、希土類合金が切削される部分)に水系切削液が効率よく浸透するためと考えられる。なお、切削液の表面張力は、よく知られているデュヌイ表面張力計を用いて測定される。また、水系切削液は、水を主成分とするので、一般的に切削油(典型的に鉱物油を含む)に比べて比熱が大きいので、冷却効率に優れる。さらに、切削液の廃棄処理によって自然環境に悪影響を及ぼすことを防止することができる利点もある。
【0031】
25℃の表面張力を用いて、本発明の切削方法で用いられる水系切削液を特定したが、実際に使用する際の水系切削液の温度は、25℃に限られない。但し、本発明の効果を得るためには、15℃〜35℃の範囲内に温度制御された水系切削液を用いることが好ましい。例えば、切削液を循環させて使用する場合、初期には室温程度の比較的低い温度で供給される切削液の温度は、ワイヤと希土類合金との間で発生する摩擦熱を切削液が吸収することによって段々と上昇する。切削液を循環させて使用するうちに、切削液の温度は約50℃を上回り得る。よく知られているように、液体の表面張力は温度に依存するので、実際に使用する水系切削液の温度が上記の温度範囲からあまり外れると、水系切削液の表面張力が上記の数値範囲から外れた状態と良く似た状態となり、切削効率が低下する。
【0032】
水系切削液の表面張力は、添加する、グリコール(グリコール誘導体を含む)、界面活性剤の種類や量を調整することによって、上記の範囲内に容易に調整することができる。これらに代えて、いわゆる「シンセティック(Synthetic)」と呼ばれる合成潤滑剤を水に添加することによって、上記範囲の表面張力を得ることもできる。これらを混合して用いることもできる。
【0033】
切削液として水を用いた場合には、以下の理由で上述の不具合が発生したものと考えられる。
【0034】
ワイヤによって希土類合金に形成される切削溝の幅は狭い(例えば、0.3mm以下)ので、切削溝に直接切削液を供給することが困難であり、切削液はワイヤに対して供給され、ワイヤに付着させた状態で切削溝内に供給される。このような方法で供給される切削液のワイヤに対する濡れ性が低いと、ワイヤから脱離しやすくなり、十分な量が切削溝内に供給されなくなり、切削液の効果が低下する。さらに、切削液の切削端への浸透性も低下する。
【0035】
すなわち、切削溝内に十分な量の切削液が供給されず、切削端への浸透性が低いと、切削抵抗は増加し、切削効率が低下し、ワイヤ切れが発生する可能性が高くなり、さらには希土類磁石の切断面の加工精度が低下するという問題も生じる。また、スラッジの排出性も低下し、比重の大きい希土類合金のスラッジは、切削溝から排出されにくくなり、その結果、溝内にたまったスラッジによって切削抵抗が増加する。希土類合金のスラッジはシリコンなどのスラッジに比べて硬いため、スラッジが排出されない場合には切削抵抗が著しく増加することになる。また、ワイヤを十分に冷却することができず、ワイヤの温度が異常上昇し、ワイヤの異常摩耗や、砥粒(典型的にはダイヤモンド系砥粒)の異常脱粒が生じ、切削効率や加工精度が低下する。
【0036】
上記範囲の表面張力を有する水系切削液は、ワイヤ(および希土類合金)に対して適度な濡れ性を有し、狭い切削溝に十分に供給される。また、切削液を循環させて使用する場合において、切削液の温度を調整することによって、長時間にわたって連続運転を行ったときにも、切削液を所定範囲の温度に維持できるとともに、切削液の表面張力を常に所望の範囲内に制御することができる。これにより、切削抵抗の増加を防いで効率的に精度良く希土類合金を切断することが可能になる。なお、切削液の潤滑性や粘度(動粘度)も切削性能に影響するため、切削液の好ましい表面張力の範囲は、用いる切削液の種類によって多少異なり得る。
【0037】
なお、切削液の粘度は、スラッジの排出性に特に影響する。水系切削液の動粘度は、切削油に比べて一般に低く、グリコール系以外の水系切削液の動粘度は、温度によらずほぼ1mm/sであるが、グリコールを含む切削液の動粘度は比較的高く、且つ、温度依存性も大きい。動粘度が67mm/sを超えると、上記範囲の表面張力を有していても、切削溝に十分に供給され難くなることがあるので、ワイヤと希土類合金との間に供給される切削液の動粘度は、67mm/s以下であることが好ましい。勿論この場合にも、切削液の温度は、15℃から35℃の範囲内にあることが好ましい。さらに、切削液の温度は、20℃から25℃の範囲内にあることが好ましい。
【0038】
また、水系切削液は、比較的粘度が低いので、切削によって生成したスラッジから磁石を用いて希土類合金屑を容易に分別することが可能で、水系切削液を再利用することができる。例えば、水系切削液を循環使用する場合、切削液の循環パイプ内での詰まりを防止するとともに、切削液の頻繁な交換をほとんど不要とし、連続運転時間を従来技術に比較して著しく改善することができる。また、水系切削液の廃棄処理によって自然環境に悪影響を及ぼすことを防止することができる。なお、希土類合金が水系切削液に曝される時間は、比較的短いので、その間の酸化によって希土類合金の特性が劣化することはない。
【0039】
ワイヤの走行速度は速い(例えば、数百メータ/分〜数千メータ/分)ので、水系切削液が発泡し、冷却効率が低下することがある。消泡剤を含む水系切削液を用いることによって、水系切削液の発泡による冷却効率の低下を抑制することができる。さらに、PHが9〜11の範囲内にある水系切削液を用いることによって、希土類合金の腐食を抑制することができる。また、防錆剤を含む水系切削液を用いることによって、希土類合金の酸化を抑制することができる。これらは、希土類合金の種類や加工条件等を考慮して、適宜調整すればよい。
【0040】
(実施形態)
以下、本発明による希土類合金板の製造方法の実施形態を説明する。本実施形態では、希土類合金としてネオジム(Nd)、鉄(Fe)およびホウ素(B)を主成分とする三元系の化合物Nd−Fe−B、またはNd−Fe−BのNdの一部をDy(ジスプロシウム)で置換し、Feの一部をCo(コバルト)で置換したものを用いる。Nd−Fe−Bは、最大エネルギー積が320kJ/mを超える強力なネオジム磁石材料として知られている。
【0041】
図1のフローチャートを参照しながら、Nd−Fe−Bのインゴットを作製する方法を簡単に説明する。なお、磁石材料としての希土類合金を作製する方法は、例えば米国特許第4,770,723号明細書に詳細に開示されている。
【0042】
まず、図1のステップS1で原料を所定の成分比に正確に秤量した後、ステップS2で真空またはアルゴンガス雰囲気の高周波溶解炉にて原料を溶解する。溶解した原料を水冷の鋳型に鋳込み、所定の組成の原料合金を形成する。ステップS3で原料合金を粉砕し、平均粒径3〜4μm程度の微粉末を作製する。ステップS4で微粉末を金型に入れ、磁界中でプレス成形する。このとき必要に応じて微粉末を潤滑剤と混合してからプレス成形を行う。次に、ステップS5で約1000〜1200℃程度の焼結工程を行えばネオジム磁石素材を作製することができる。この後、ステップS6で磁石の保磁力を向上させるために約600℃での時効処理を実行し、希土類合金インゴットの作製を完了する。インゴットのサイズは、例えば30mm×50mm×60mmである。
【0043】
ステップS7では希土類合金インゴットの切断加工を行い、インゴットから切断した複数の薄板(基板またはウェハと称される場合がある)を形成する。ステップS8以降の説明を行う前に、以下において希土類合金のインゴットを本発明によるワイヤソー技術によって切断加工する方法を詳細に説明する。
【0044】
図2(a)および(b)を参照する。まず、上述の方法で作製した複数のインゴット20を例えばエポキシ樹脂からなる接着剤22にて相互に固着し、複数のブロック24a〜24cとして組み立てた状態で鉄製のワークプレート26に固定する。ワークプレート26と各ブロック24a〜24cとの間の固着もまた接着剤22によって達成される。より詳細には、ワークプレート26と各ブロック24a〜24cとの間には、ダミーとして機能する炭素製ベースプレート28が配置され、この炭素製ベースプレート28も接着剤22を介してワークプレート26および各ブロック24a〜24cに固着されている。炭素製ベースプレート28は、ブロック24a〜24cの切断加工が終了した後、ワークプレート26の下降動作が停止するまでワイヤソーによる切断加工を受け、ワークプレート26を保護するというダミーとしての役割を担っている。
【0045】
本実施形態では、図2(a)の矢印Aで示される方向(以下「ワイヤ走行方向」と称する)に沿って計測した各ブロック24a〜24cのサイズが100mm程度になるように各ブロックの大きさを設計している。本実施形態では、ひとつのインゴット20についてワイヤ走行方向に沿って計測したサイズが約50mmであるため、2つのインゴット20をワイヤ走行方向に沿って配列したものを重ね合わせることによって、上記ブロック24a〜24cの各々を構成するようにしている。
【0046】
ワークプレート26に固定された複数のインゴット20を全体として「ワーク」と称するが、このワークを複数のブロックに分割することによって、次のような利点が生まれる。
【0047】
一塊りのワークについて、ワイヤ走行方向サイズ(切削溝の長さ)が切削液の引き込み量を越えて大きくなりすぎると、ワークの切断加工部分のうち切削液供給が不十分になる領域が発生し、このことによってワイヤ断線の生じるおそれがある。しかし、本実施形態のワークは適当なサイズのブロック24a〜24cに分割されているため、ブロック24a〜24cの隙間に切削液を供給することが可能になり、切削液供給不足の問題を解消できる。また、これにより、砥粒間にたまったスラッジを洗い流すこともできるため、切断効率も向上する。
【0048】
ブロック24a〜24cの隙間に切削液を供給するため、本実施形態では、2本の切削液供給パイプ29をワークプレート28の上部に配置しており、スリット状ノズル29aを介して切削液供給パイプ29内から新鮮な切削液を下方向に噴射するようにしている。切削液供給パイプ29は、後述する切削液供給タンクからスラッジを含まない新鮮な切削液またはスラッジの除去された切削液を受け取る。切削液供給パイプ29は、例えば二重管式の構造を持ち、下方のスリット29aの幅は長手方向に変化し、均一な切削液供給を実現するように設計されている。
【0049】
本実施形態では上述のようにワークを複数のブロックに分割しているが、各ブロック24a〜24cの各々についてのワイヤ走行方向サイズをどの程度の大きさに設定すべきかは、切削液の表面張力やワイヤ走行速度によっても変化する。また、各インゴット20の大きさによって、ひとつのブロックを構成するインゴット20の数や配置も変化する。これらを考慮して、適宜最適なサイズのブロックにワークを分割すればよい。また、本実施形態では、ワークプレート26の上側に切削液供給パイプ29を設けているがワークプレート26の下側でブロック間に切削液を供給するようにしてもよい。
【0050】
次に、図3Aおよび図3Bを参照しながら、本実施形態で好適に使用されるワイヤソー装置の主要部30を説明する。このワイヤソー装置には、一本のワイヤ32が何重にも巻き付けられる3つのメインローラ34a〜34cが備えつけられている。このうち、二つのメインローラ34aおよび34bは、ワイヤソー装置によって回動自在に支持されているが、モータなどの駆動手段には直接的に接続されておらず、従動ローラとして機能する。これに対して、メインローラ34cは不図示の駆動源例えばモータに接続されており、この駆動源によって所望の回転力を受け、設定速度で回転することができる。メインローラ34cはワイヤ32を介して二つのメインローラ34aおよび34bに回転力を伝達するため、駆動ローラとして機能する。
【0051】
ワイヤ32は、メインローラ34a〜34cの回転に応じて数キログラム重の張力を受けながら案内され、所定速度(例えば600〜1000m/分)で往復走行しながら不図示のリールから他の不図示のリールに巻きとられていく。
【0052】
メインローラ34a〜34cの外周表面には、複数の溝が等間隔で形成されており、一本のワイヤ32が多数の溝内にはめ込まれるようにして各ローラに巻き付けられる。ワイヤ32の配列ピッチ(ワイヤ列の間隔)は、この溝のピッチによって規定される。本実施形態では、このピッチを約2.0mmに設定している。このピッチは切断加工によって切り出すべき薄板の厚さに応じて設定されるため、適宜適切なピッチを持った多溝ローラ34a〜34cを選択して使用することになる。
【0053】
ワイヤ32は、例えば硬鋼線(ピアノ線)から形成され、その太さは0.06〜0.25mm程度のものが使用される。ワイヤの断面構成を図6に示す。図6からわかるように、本実施形態で用いるワイヤ芯線61の表面には粒径が30〜60μmのダイヤモンド砥粒62が樹脂膜63によって固着されている。樹脂膜63は例えばフェノール樹脂などから形成され、その膜厚は例えば30〜60μmである。固着された状態にある砥粒62どうしの間隔は、砥粒62の直径の約2〜4倍であることが好ましい。また樹脂膜63に代えて、Ni等の金属膜でダイヤモンド砥粒62を固定することもできる。
【0054】
なお、ワイヤ芯線61は、Ni−CrやFe−Ni等の合金、WやMo等の高融点金属、またはナイロン繊維を束ねたものから形成されていても良い。また、砥粒の材料はダイヤモンドに限定されず、SiC、B、C、CBN(Cubic Boron Nitride)等であってもよい。
【0055】
切断加工処理に際して、ワークは走行するワイヤ32のうちメインローラ34aとメインローラ34bとの間に張り渡された部分に押しあてられる。本実施形態では、切削液を少なくとも3カ所からワイヤ32上に供給することができ、そのうち2カ所からの切削液供給は、ワークプレート26の上部に配置したパイプ29およびスリット状ノズル29aを用いブロックの隙間を利用して行う。残り一カ所からの切削液供給は、図3Bにおいてワークの左側からノズル36を用いて行う。切削液の供給は、これらのノズル29aおよび36に加えて、他のノズルを用い、例えば図3Bにおいてワークの右側の位置から付加的に行ってもよい。
【0056】
さらに、特に粘度の低い切削液を用いる場合や、ワイヤ32の走行速度が速い(例えば1000m/分以上)場合のように、ワイヤ32に切削液を供給し難い場合には、図3Bに示すように、ワイヤ32を切削液槽38開口部から溢れて供給される切削液中を走行させることによって、ワイヤ32に切削液をより確実に供給することができる(例えば、特開平11−198020号公報参照)。
【0057】
本実施形態では、ワークとワイヤとの間に、表面張力が33mN/m〜49mN/mの範囲内の水系切削液を供給する。ワークに形成される切削溝の幅は典型的には約0.3mm以下と非常に狭く、切削溝に切削液を直接的に供給することは困難である。このため、ワイヤに対して切削液を供給し、これをワイヤによって溝内に引き込ませ、その後、溝外へと排出させている。このようにして供給される表面張力が33mN/mよりも低いか、あるいは49mN/mよりも高いと、ワイヤに対する濡れ性が悪く、十分な量の切削液が溝内に供給されず、比重が大きい希土類合金から形成されるスラッジは切削溝から排出され難くなり、その結果、切削抵抗が上昇する。また、十分な量の切削液が切削溝内に供給されないと、ワイヤと希土類合金との間で十分な潤滑性が得られず(切れ味が低下する)、切断面の面粗度や寸法精度が悪くなる。また、切削端の摩擦係数が適正な範囲にコントロールされず、その結果、砥粒の異常摩耗が起こり、ワイヤの摩耗性が高くなるという問題も生じる。その結果、切断効率が大きく低下するとともに、ワイヤの寿命が短くなる。
【0058】
これに対し、上記範囲内の表面張力を有する水系切削液を使用すれば、十分な量の切削液が溝内に供給されるので、希土類合金の切削溝内で生じたスラッジ(すなわち、比重の大きい希土類合金粉末(例えば、ネオジム合金の比重は約7.5))は、速やかに切削溝の外部へ流れだし(高い排出効率)、切削加工領域から排除される。このため、切削溝内にたまったスラッジがワイヤの走行を強く妨げることもなく、切削抵抗増加によるワイヤ切れや切断効率低下の問題を解決できる。また、切削端における摩擦係数も適正な範囲にコントロールされる。さらに、水系切削液は、切削油に比べて比熱が高いので、冷却効率にも優れ、摩擦による温度の異常上昇を効率的に抑制・防止することができる。また、水系切削液は比較的粘性が低いので、走行するワイヤによってメインローラにまで運ばれるスラッジの量も低減され、メインローラ上の溝内にスラッジがたまるという現象も抑制できる。この結果、ワイヤ切れが防止され、また、ワーク切断終了後にワークからワイヤを簡単にはずすことができるという利点もある。
【0059】
水系切削液としては、例えば、グリコール系切削液(ユシロ化学工業株式会社製:WL−2)を用いることができる。用いるグリコールの種類や分子量によって、水への添加量を調整することによって、所望の表面張力の水系切削液を調製することができる。
【0060】
また、水に界面活性剤を添加した切削液を用いることもできる。界面活性剤としては、アニオン系として、脂肪酸石鹸やナフテン酸石鹸等の脂肪酸誘導体、又は長鎖アルコール硫酸エステルや動植物油の硫酸化油等の硫酸エステル型、又は石油スルホン酸塩等のスルホン酸型、非イオン系として、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルやポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン系、ソルビタンモノ脂肪酸エステル等の多価アルコール系、又は脂肪酸ジエタノールアミド等のアルキロールアミド系を用いることができる。具体的には、ケミカルソリューションタイプのJP−0497N(カストロール社製)を水に2重量%程度添加することによって、表面張力を好適な範囲内に調整することができる。
【0061】
さらに、水に合成潤滑剤を添加した切削液を用いることもできる。シンセティックタイプ合成潤滑剤としては、シンセティック・ソリューションタイプ、シンセティック・エマルションタイプおよびシンセティックソリュブルタイプを用いることができ、そのなかでも、シンセティック・ソリューションタイプが好ましく、具体的には、シンタイロ9954(カストロール社製)や#870(ユシロ化学工業社製)を挙げることができる。いずれも、水に2重量%程度添加することによって、表面張力を好適な範囲内に調整することができる。
【0062】
また、切削液に錆止め剤を含有させることで、希土類合金の腐食を防止することができる。ここで、PHは9〜11とすることが好ましい。錆止め剤としては、有機系として、オレイン酸塩や安息香酸塩等のカルボン酸塩、又はトリエタノールアミン等のアミン類、無機系として、りん酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、又は炭酸塩を用いることができる。
【0063】
また、非鉄金属防食剤としては、例えばベンズトリアゾール等の窒素化合物を、防腐剤としては、ヘキサハイドロトリアジン等のホルムアルデヒド供与体を用いることができる。
【0064】
また消泡剤としては、シリコーンエマルジョンを用いることができる。消泡剤を含有させることで、切削液の泡立ちを少なくし、切削液の切削溝への浸透性が改善され、冷却効果が高まり、ワイヤ32の温度の異常上昇や異常摩耗が起こりにくくなる。
【0065】
このような水系切削液は不水溶性切削液(油)に比べ環境を汚染し難い。また、水系切削液は、発煙、引火の危険性が少なく安全であり、オイルミストを発生させないことから、水系切削液を用いれば作業環境を改善することができる。さらに、スラッジを除去することが容易であるため、水系切削液は再使用(循環使用)に適した材料でもある。
【0066】
図3Bを参照する。ワークプレート26はワークの切断加工処理に際し、不図示の駆動装置によって所定の速度(例えば0.5〜1.0mm/分)で下方向へ矢印Dに沿って動かされ、ワークプレート26に固定されたワークを、水平横方向(矢印A方向)に走行するワイヤ32に押しつける。ワークとワイヤ32との間に充分な量の切削液を供給することによってワークとワイヤ32との間からスラッジを排出し、それによってワークを連続的に切削することができる。ワークプレート26の降下速度を速くすると、切断効率は向上するが、切削抵抗が上昇するためワイヤ32の波打ち現象が発生し、ワーク切断面の平面度が悪くなるおそれがある。ワーク切断面の平面度劣化は、あとの工程での研磨作業に要する時間を増大させたり、不良品の発生確率を増加させる。従って、ワークの降下速度、つまりワークの切断速度を適切な範囲内に設定する必要が生じる。
【0067】
ワークの降下によって、一定ピッチで配列されたワイヤ32がマルチワイヤソーとしてワークを研削し、それに伴って多数の加工溝(切削溝)をワークに同時形成しながらその溝深さを増大させ、切断加工を進行させることになる。加工溝が各インゴットを完全に横切ったときに、そのインゴットの切断加工が達成され、ワイヤ列のピッチおよびワイヤの太さによって決まる厚さの多数のウェハが同時に切り出される。全てのインゴット20の切断が完了した後、前述の駆動装置によってワークプレート26は矢印Dに沿って上昇させられる。その後、各ブロックがワークプレート26から分離されるとともに、切断されたウェハが各ブロックから分離されることになる。
【0068】
本実施形態では、ワイヤ32の上方からワークを降下させながら切断加工を実行するため、切断加工を受けたインゴット20は接着剤によってなおもワークプレート26に結合した状態のまま、ワークプレート26ともに下降してゆく。このように切断加工を受けたインゴット20はワイヤの下方に位置するため、ワークの切断加工済み部分がワーク本体から分離・脱落したとしても、その脱落部分がワイヤ32と再度接触するおそれはない。そのため、切断加工済みの合金板は高い品質状態で次の工程に回されることになる。
【0069】
次に、図4を参照しながら、ワイヤソー装置40の切削液循環システムの概略構成を説明する。図4に模式的に示すように、装置40内にはワイヤソー装置の主要部30に切削液を供給するとともに、加工により形成されたスラッジを含む使用済み切削液を回収するための切削液循環システムが設けられている。
【0070】
この装置40の場合、ワークの切断加工に際して、切削液供給タンク42から第1の循環パイプ44を介して、図3Aおよび図3Bに示すワークプレート26上の切削液供給パイプ29およびノズル36、または図3Cの切削液槽38に切削液が供給される。このとき、ポンプP1が用いられる。切断加工のために用いられた切削液は、加工部分およびその周辺から滴下し、下方に位置する回収ドレイン37およびその下方に設けられている加工機ドレイン37’によって受け取られるようになっている。切削液は回収ドレイン37および加工機ドレイン37’から第2の循環パイプ46を介して分離漕54に運ばれ、そこで、後述するマグネットセパレータ50によるスラッジ分離処理を受けたのち回収タンク48にためられる。このスラッジ分離処理によって切断加工前の状態に近い状態に戻った切削液は、第3の循環パイプ49を介して切削液供給タンク42に送られる。このときは中継ポンプP2が用いられる。第3の循環パイプ49の途中にはフィルタFが挿入されており、フィルタFは、マグネットセパレータ50によって除去されなかったスラッジを除去することができる。フィルタFとしては袋状のバッグフィルタが好適に用いられる。
【0071】
なお、切削液供給タンク42は、フィルタFを透過し得た微細なスラッジを沈殿させることができる。このため、第1の循環パイプ44を介して主要部30に送られる切削液中に残存しているスラッジの量を更に低減することが可能である。このとき、マグネットセパレータ50によって微細なスラッジは磁化されているので凝集し、沈殿しやすくなっている。
【0072】
このように本実施形態では、切削液の供給および回収を循環的に実行しながら、スラッジの分離除去(フィルタリング)を効率的に実行するため、切削液交換作業の間隔が著しく延び、切断加工処理を長時間にわたって連続的に続けることが可能になる。なお、切削液の表面張力を所望の範囲内に維持するために、適当な時間間隔で、水または新しい切削液を補給してもよい。この場合、定期的に切削液の表面張力を実測し、表面張力が設定範囲内から外れる場合に、随時水または新しい切削液を装置内(例えば、切削液供給タンク42)に補給するようにしてもよい。このような切削液の部分的な補給は、切断加工処理を中断することなく行える点で切削油の全量的交換と大きく異なっている。
【0073】
次に、図5を参照しながらマグネットセパレータ50を説明する。このマグネットセパレータ50は、スラッジを含む使用済み切削液(ダーティ液)52を貯えた分離槽54から、磁力を用いてスラッジを分離することができる。分離槽54には分離壁54aが設けられている。この分離壁54aは、大きなスラッジを分離槽54に沈降させる機能を持つ。ダーティ液52中に浮遊し、ダーティ液52とともに分離壁54aを乗り越えることができた細かいスラッジは、以下に詳述する方法によって磁気的に分離されることになる。
【0074】
マグネットセパレータ50は、内側に強力な磁石が配置されたドラム56と、ドラム56の外周面の一部に密着しながら回転する絞りローラ57とを備えている。ドラム56は固定軸を中心に回転可能に支持されながら、分離槽54内で切削液52に部分的に接触するように配置されている。絞りローラ57は、耐油性ゴムなどから形成されており、ドラム56の外周面に対してバネの付勢力によって圧接される。ドラム56が不図示のモータによって矢印の方向に回転すると、その回転が絞りローラ57に摩擦力を与え、絞りローラ57を回転駆動させる。
【0075】
回転するドラム56の外周面には、切削液52中に浮遊するスラッジがドラム56内の磁石によって吸着する。ドラム56の外周面に吸着したスラッジはドラム56の回転に伴って切削液52内から取り除かれ、ドラム56と絞りローラ57との間を通過する。スラッジは、やがてスクレイパ58によってドラム56の表面から掻き取られ、スラッジボックス59内に集められる。このようにしてスラッジが除去された切削液はドラム56の長手方向における端部からパイプ60によって回収タンク48に運ばれる。このようなマグネットセパレータ50として使用可能なスラッジ除去手段の構造は、例えば実公昭63−23962号公報に開示されている。のちに説明する発明者の実験によると、切削液中の希土類合金のスラッジをドラム56の表面に引き寄せるには、切削液52内におけるドラム56の外周面(スラッジ回収面)での磁力を0.27テスラ以上にすることが好ましく、0.3テスラ以上にすることが更に好ましい。粘度の低い水系切削液を使用したことによって、マグネットセパレータ50による希土類合金スラッジの回収を容易にするという利点をも得ることができる。切削液52中に形成された磁界中を移動するスラッジの受ける粘性抵抗が低減されるため、多くのスラッジを効率よく回収することが可能になるからである。
【0076】
このようなセパレータを用いて効率的にスラッジを除去すれば、循環使用される切削液に含まれるスラッジの濃度を低く維持することができ、切削液とともに切削端に供給されるスラッジを少なくすることができるので、ワーク切断面でワイヤの受ける切断負荷を長期間にわたって充分に小さいレベルに保つことができる。
【0077】
以下、図7および図8を参照しながら、温度調節機を備えた別形態の切削液循環システム70の構成を説明する。なお、上記図4および図5に示した循環システムに対して同様の構成を有する部分については同様の参照符号を付している。以下には、上記図4および図5に示した循環システムとは異なる構成を有する部分について主に説明する。
【0078】
図7に示す切削液循環システム70では、ワークの切断加工に際して、浄化装置72から第1の循環パイプ76を介して、ワイヤソー装置の主要部30に切削液が供給される。一方、主要部30に設けられた回収ドレイン37および加工機ドレイン37’によって受け取られたダーティ液は、第2の循環パイプ78を介して浄化装置72に運ばれ、そこで、前述のマグネットセパレータ50およびバッグフィルタ84によるスラッジ分離処理を受けたのち回収タンク48(分離槽82および温度調節槽92)にためられる。
【0079】
主要部30において、ワイヤと希土類磁石との間で発生する摩擦熱を吸収することによって、循環システム70を循環する切削液の温度は全体的に上昇する。切削液の温度が上昇すると、切削液の表面張力に起因する切削液の切削溝への供給不足と、冷却効率の低下とにより、切断における切削抵抗が増加してしまう。これに対し、循環システム70では、浄化装置72に接続された温度調節機74を用いて、循環使用される切削液の温度を所定の温度範囲内に維持することができる。温度調節機74としては、熱交換器等を備えた公知の温度調節機(例えば特公平8−25125号公報に記載の温度制御装置など)を使用することができ、好ましくは、温度調節機74は冷却機能と加熱機能との両方を備えている。
【0080】
温度調節機74は、例えば、切削液の温度が所定値を超えて上昇した場合に作動するように制御されており、主要部30に供給される切削液の温度を所定範囲内に制御することができる。このように切削液の温度調節を行えば、ワイヤと希土類磁石との間に供給される切削液の表面張力を適切な範囲内に維持し、切削抵抗を増加させることがないので、切削液の交換を行わずとも希土類磁石の切断を連続して行うことができる。
【0081】
次に、図8を参照しながら浄化装置72の構成を説明する。この浄化装置72は、前述のマグネットセパレータ50および分離槽82を備える分離部80と、温度調節槽92を備える温度調節部90とから構成されている。分離槽82と温度調節槽92とは隔壁88によって隔てられており、隔壁88は、切削液が槽間を自由に移動することを阻止する。隔壁88の上部において、連通部88a(図8に示す形態においては、各槽82および92の側壁の高さよりも低い高さを有する隔壁部分上方の隙間)が形成されており、切削液は、連通部88aを通って槽間を移動することができる。すなわち、分離槽82と温度調節槽92とは、各槽の上部の位置においてのみ流体が移動できるように、連通可能に接続されている。
【0082】
分離部80において、ワイヤソー装置から運ばれたダーティ液は、マグネットセパレータ50およびバッグフィルタ84に供給される。マグネットセパレータ50は大量の切削液を短時間に処理する能力を有し、比較的大きいスラッジを除去するのに適している。一方、バッグフィルタは比較的小さいスラッジを除去するのに適している。各分離装置(マグネットセパレータ50およびバッグフィルタ84)の処理能力や、切削液に含まれるスラッジの大きさ、量などに応じて、各分離装置への切削液の供給割合を適切に設定すれば、スラッジを効率良く分離させることが可能である。マグネットセパレータ50およびバッグフィルタ84への切削液の供給割合は、例えば8:2に設定される。ただし、分離装置の形態はこれに限られず、例えば、マグネットセパレータ50を出た切削液の一部をバッグフィルタ84で濾過する形態であってもよい。
【0083】
マグネットセパレータ50によってスラッジが除去された切削液は、ドラム56の長手方向における端部からパイプ85によって分離槽82に運ばれる。また、バッグフィルタ84によってスラッジが除去された切削液は、パイプ86によって分離槽82に運ばれる。分離槽82の容積は、例えば約200Lに設定されている。
【0084】
パイプ85および86の開口から分離槽82に流れ込んだ切削液は、隔壁88によって一時的に分離槽82に滞留し、温度調節槽92に直接に流れこむことがない。したがって、マグネットセパレータ50やバッグフィルタ84で除去しきれなかったスラッジを分離槽82において沈降させることができる。その結果、分離槽82における切削液の上澄み部分のみが隔壁88を超えて温度調節槽92に流入する。
【0085】
分離槽82で沈降したスラッジは、スラッジ吸収ポンプ87によってマグネットセパレータ50に戻される。これにより、分離槽82内のスラッジの量を低減させることができ、かつ、このようなスラッジを再度マグネットセパレータ50によって分離させる機会を得ることができる。このようにすれば、浄化装置72のスラッジ除去性能を向上させることができる。
【0086】
なお、切削液の液面近くにスラッジが舞い上がることを防止しつつスラッジ吸収ポンプ87の吸入口の近傍においてスラッジを沈降させるために、図8に示すように隔壁88に傾斜部を設けてスラッジを集めたり、パイプ85および86の開口の位置を設定したりすることが望ましい。
【0087】
分離槽82おいて形成された切削液の上澄み部分は、連通部88aを通って温度調節槽92に移動する。温度調節槽92の容積は、例えば400Lに設定されている。温度調節槽92に供給される切削液は、スラッジをほとんど含んでいない。
【0088】
このようにして温度調節槽92にためられた切削液は、ポンプP3を用いて温度調節機74(図7参照)に送られ、温度が下げられた後、再び温度調節槽92に戻される。切削液を温度調節機74に送る前に、分離部80においてスラッジの除去を行うようにしているので、温度調節機74においてスラッジがパイプ内に溜まることなどによって熱交換効率が低下することがなく、切削液の温度調節を効果的に行うことができる。
【0089】
本実施形態では、温度調節槽92内の切削液の温度が所定の温度以上になったときに、ポンプP3および温度調節機74を作動させ、その後、温度調節槽92内の切削液の温度が所定の温度以下になったときに、ポンプP3および温度調節機74を停止させている。従って、温度調節機74には、温度調節槽92に収容された切削液の全てが送られるわけではなく、所定の期間において切削液の一部が送られる。温度調節されて戻された一部の切削液と温度調節槽92内の残りの切削液とは、攪拌機94によって混合(攪拌)され、これにより、温度調節槽92内の切削液の温度が均一化される。このようにすれば、温度調節した切削液を直接ワイヤソー装置の主要部に送る場合に比べて、ワイヤソー装置の主要部に供給される切削液の温度が急激に変化することが防止される。ワイヤソー装置の主要部に安定した温度で切削液を供給することができれば、切削液の表面張力などが大きく変化しないため、ワイヤソー装置は安定した切削を行うことができる。このようにして、本実施形態では、温度調節機74を効果的に動作させながら、温度調節槽92内の切削液の温度を所定の温度範囲に維持することができる。
【0090】
一方、室温などの影響によって切削液の温度が低下し、切削液の表面張力が所定の範囲を超えて大きくなる場合がある。この場合、切削液が切削溝に十分に供給され難くなり、スラッジの排出性が低下し、切断抵抗が増加する。また、マグネットセパレータによるスラッジ除去能力の低下も生じ得る。さらに、切削端での摩擦係数が上昇し、砥粒の摩耗が激しくなる。このようなときには、温度調節機72を用いて切削液の温度を上昇させ、切削液の表面張力を低下させることが有利である。
【0091】
また、グリコールを含む切削液は、動粘度が比較的高く、且つ、動粘度の温度依存性も大きい。動粘度が67mm/sを超えると、上記範囲の表面張力を有していても、切削溝に十分に供給され難くなることがあるので、ワイヤと希土類合金との間に供給される切削液の動粘度は、67mm/s以下であることが好ましい。従って、グリコールを含む切削液を用いる場合には、表面張力が上記範囲にあるとともに、動粘度が67mm/s以下となるように、温度を制御することが好ましい。
【0092】
温度調節槽92において温度制御された切削液は、ポンプP4によってワイヤソー装置の主要部30(図7)へと送られる。ワイヤと希土類磁石との間に供給される切削液の温度は、好ましくは15℃〜35℃となるように制御され、さらに好ましくは20℃〜25℃に制御される。
【0093】
上述の実施形態では、切削液の供給および回収を循環的に実行しながら、スラッジの分離除去を効率的に実行するとともに、切削液の温度制御を行うことによって切削液の表面張力を適切な範囲に維持する。このようにすれば、切削溝からスラッジを適切に排出し、切削抵抗を低いレベルに維持することによって、切断効率を高め、切断面の精度を高くすることができる。従って、切削液の交換作業の間隔が著しく延び、切断加工処理を長時間にわたって連続的に続けることが可能になる。
【0094】
次に、図9および図10を参照しながら、グリコール含有水系切削液を用いた場合における、切断性能に対する表面張力の影響について説明する。
【0095】
図9は、後述する図10に示す実験を行った試験機(評価機)10の構成を示す。試験機10は、外周面に切断用ワイヤ12が巻回され、回転軸が駆動モータ(不図示)に接続された巻きドラム102と、巻きドラム102から、被切断物(ワーク)14を切断する切断部104を介して再び巻きドラム102へとワイヤ12を案内する複数のプーリ106と、切断部104において、ワイヤ12に向かって被切断物14を直線的に移動させる(押し当てる)ことができる移動装置108とを備えている。また、ワイヤ12の経路の途中には、テンション調節装置110が設けられている。テンション調節装置110は、ワイヤ12が巻き掛けられた可動プーリ112に外側への付勢力Fを与えることによってワイヤ12に張力を付与し、これにより、ワイヤ12の弛みを防止することができる。さらにテンション調節装置110は、ワーク14の押し当てなどによってワイヤ12に所定以上の張力が働く場合には、上記付勢力Fに対抗して可動プーリ112が内側に移動することできるように構成されている。これにより、ワイヤ12に加えられる張力を緩和しながら、ワイヤ12がワーク14に対して与える応力を平衡に保つ(すなわち、ワーク14に対して一定圧力でワイヤの押し当てを行う)ことができる。ワイヤ12として、芯線径0.18mmφ、仕上がり径0.24mmφ、破断荷重7〜8.5kgf、砥粒径40〜60μm、フェノール樹脂被膜厚さ30μm〜60μmを用いた。
【0096】
切断部104のワイヤ12’の上方には、切削液供給ノズル114が設けられており、ノズル114からワイヤ12’へ切削液が滴下または噴射される。ワイヤ12’に供給された切削液は循環使用されずに廃棄されており、従ってワイヤ12’に供給される切削液の温度は、ほぼ一定に保たれている。
【0097】
この試験機10を用いて、グリコール含有水系切削液をノズル114からワイヤ12’に滴下させ、切断性能を測定した。なお、巻きドラム102の回転方向を定期的に反転させることによって、ワイヤ12’を線速200m/minで双方向移動させた。また、付勢力Fおよび移動装置108の移動速度を適切に設定することによって、ワイヤ12’に対しワーク14を定圧4Nで押し当て、定圧荷重にて切断を行った。なお、ワーク14は、ブロック状の希土類焼結磁石から形成している。
【0098】
切削液としては、表面張力の異なる種々のグリコール含有水系切削液(ユシロ化学工業株式会社製:WL−1〜WL−5)を約25℃の温度で用いた。用いた切削液の25℃における表面張力は、33.6mN/m〜48.9mN/mである。また、切削油(ユシロ化学工業株式会社製:HT−9、25℃の表面張力:29.6mN/m)を参照試料とした。
【0099】
図10は、試験機10を用いて得られた、切削液の表面張力[mN/m]と、切れ味低下係数α[%/単位対数時間]および切断性能定数γ[%]との関係を示すグラフである。切断性能定数γは、切断初期における切断性能(切れ味)を示すパラメータであり、特にスラッジ排出性などに影響されるものと考えられる。切れ味低下係数αは、時間に関する切断性能の低下率(α<0)を表すパラメータであり、特にワイヤの摩耗を示すものと考えられる。具体的は、切断性能定数γおよび切れ味低下係数αは、以下の式(1)を満足する値である。
【0100】
Y=αln(t)+γ (1)
式(1)において、tは切断時間(ただし3分を1単位とする)を表し、Yは切断性能比を表す。切断性能比Yは、上記切削油を用いた場合の初期切断性能を100としたときの切断性能として定義する。切断性能は、ワイヤによって希土類合金に形成された切削溝の深さを測定することによって決定している。なお、式(1)から、切断性能定数γは3分後(t=1)の切断性能比(対切削油)を表し、切れ味低下係数αは対数時間(ln(t))に対する切削性能の変化率を表していることがわかる。
【0101】
図10のグラフからわかるように、25℃における表面張力が33.6mN/m〜48.9mN/mのグリコール含有水系切削液を用いた場合、切断性能定数γは100[%]未満であり、上記切削油を用いた場合よりは切断性能が低い。しかし、各水溶性切削液の切断性能定数γは75[%]を上回っており、この程度の切断性能が得られれば、比較的効率良く希土類合金の切断を行うことが可能である。また、上記範囲の表面張力を有するグリコール含有水系切削液を用いた場合、切れ味低下係数αは−16.5[%/単位対数時間]以上であり、長時間連続して切断を行った場合にも切れ味がそれほど大きく低下しないことがわかる。この切れ味低下係数αの値は、切削水(水道水)を用いた場合の切れ味低下係数に比べれば十分に良好な値であった。
【0102】
このようにグリコール含有の水系切削液を用いる場合、特定の切削油を用いる場合に比べ、切削効率は悪くなるが、その反面、オイルミストなどが発生しないため作業性が良くなるという利点が得られる。また、水系切削液は環境を汚染し難く、この点では切削油よりも水系切削液を用いるほうが望ましい。また、水系切削液からはスラッジを除去することが比較的容易であるため、切削液を循環して使用する場合には、水系切削液は切削油よりも好適な材料であり得る。
【0103】
上述の結果および種々検討した結果から、25℃における表面張力が約33mN/m〜約49mN/mの水系切削液を用いることが好ましい。特に、25℃での表面張力が35mN/m〜45mN/mの水系切削液(例えば、ユシロ化学工業株式会社製:WL−2)を用いることが好ましい。このような水系切削液を用いれば、環境汚染などを引き起こすことなく、効率良く希土類合金の切断を行うことが可能である。
【0104】
図11は、マグネットセパレータのスラッジ回収面(スラッジ回収領域)における磁力とワーク切断面の平面度との関係、およびマグネットセパレータのスラッジ回収面(スラッジ回収領域)における磁力とスラッジ排出量(切削液から取り除かれるスラッジの1時間あたりの量)との関係を示している。なお、図11に示すデータは、1kg/時間のスラッジがワーク切断面から切削液中に取り込まれる条件のもとで得られた。このときの磁力(表面磁束密度)は、ガウスメータおよびプローブ(ともにベル社製)を用い、プローブをスラッジ回収面に接触させて測定した。
【0105】
図11からわかるようにマグネットセパレータの磁力が増加すると、それに伴ってスラッジ排出量が増加し、ワーク切断面の平面度が向上してゆく。マグネットセパレータによる切削液からのスラッジ排出量が少ない場合、スラッジの回収分離が充分に達成されず、スラッジ濃度が上昇する。このことは、ワイヤによる加工が行われている部分に供給される切削液中のスラッジ濃度を高めることにつながる。その結果、ワイヤに対する切削抵抗が増加し、ワイヤがたわむために、加工面の平坦度が低下すると考えられる。なお、マグネットセパレータによって希土類合金スラッジを適切に除去すれば、平面度が改善する以外にも、ワイヤ切削液の全量交換を実行しなくても長期間の連続運転が可能になるという効果が得られる。
【0106】
ワーク切断面の平面度が100μmを超えると、あとの研磨工程に要する時間を考慮した場合の全体としての作業効率が低下するため、平面度は15μm以下になることが好ましく、磁力も加工面の平面度が15μm以下になるように調整されることが好ましい。そのためには、マグネットセパレータのドラム表面における磁力を0.27テスラ以上に設定することが好ましく、0.30テスラ以上にすることが更に好ましい。
【0107】
再び、図1を参照する。上記方法を用いて切断加工した希土類合金板のそれぞれに対して研磨による仕上げ加工を行い、寸法と形状を整えた後、長期的な信頼性を向上させるため、ステップS8で合金板に表面処理を施す。ステップS9で着磁工程を実行した後、検査工程を経てネオジム永久磁石が完成する。
【0108】
(実施例1)
図7に示したワイヤソー装置を利用して、希土類合金の切断を行った。切削液としては、ユシロ化学工業株式会社製のグリコール含有水系切削液(WL−2)を使用した。温度調節機としては、関東精機株式会社製の自動温度調節機(KTC−3B)を用いた。この装置は、冷却と加熱との両方の機能を有している。
【0109】
また、切断用ワイヤとしては、芯線径:0.18mm、フェノール樹脂の厚さ:20μm、砥粒材質:ダイヤモンド、砥粒径:40〜60μm、平均砥粒間隔:100μmのワイヤを用いた。このワイヤを線速800m/minで往復走行させ、新線供給量:2m/min、ワイヤテンション:30Nの条件で装置を動作させた。被切削物としては、20mm×40mm×60mmの希土類合金を7段積みして接着し、これを40mm/minの降下速度でワイヤに接触させた。上記条件の下で、温度調節機を稼動させ、切削油の温度を25℃〜28℃の範囲に維持しながら希土類合金の切断を実行した。
【0110】
希土類合金を180mmまで切り込み、切断面を観察したところ、面精度Raは0.8μm以下、Rmaxは7μm以下であり、平滑な面が形成された。切断された希土類合金は、ボイスコイル用モータに使用される磁石として要求される品質を満たしていた。また、切断中、ワイヤのたわみ量は略一定に維持され、切削抵抗の増加はなかった。
【0111】
(比較例1)
温度調節機を稼動しないことを除いて、上記実施例1と同様にして希土類合金の切断を行った。グリコール含有水系切削液の温度は当初20℃であったが、切断が進むに連れて上昇し、50℃以上に達した。
【0112】
希土類合金を180mmまで切り込み、切断面を観察したところ、後に切断した部分ほど面精度が低下しており、切断面の面精度Raは1.5μm以上、Rmaxは15μm以上であり、凹凸が大きい面が形成された。切断された希土類合金は、ボイスコイル用モータに使用する磁石として要求される品質を満たしていなかった。また、切断中、ワイヤのたわみ量は徐々に増加し、切削抵抗の増加が認められた。
【0113】
以上説明してきたように、上記希土類合金板品の製造方法によれば、以下に示すような数多くの有利な効果が得られる。
【0114】
1.ワーク切断面からの切削液の排出効率が向上するため、ワイヤの受ける切削抵抗が低減され、長時間の連続切断作業が可能になる。
【0115】
2.ワーク切断面の平面度を向上させることが可能になる。このため、製品の製造歩留まりが改善される。
【0116】
3.希土類合金に対するワイヤソー切断の効率が最適化される。
【0117】
4.切削液中のスラッジを効率的に除去できるため、切削液の交換を頻繁に実施しなくとも、ワーク切断面で受けるワイヤの切断負荷を低減し、それによって切断速度を向上させることが可能になる。
【0118】
5.ワークの崩れが生じても、ワイヤとの接触によって製品の品質が劣化することが防止される。
【0119】
なお、希土類合金板の製造方法について本発明の実施形態を説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、板状以外の加工形状をもつ希土類合金製品・部品を作製するために、本発明の切断方法を好適に用いることができる。
【0120】
また、被加工対象して、Nd−Fe−Bの希土類合金磁石材料を用いた実施形態を説明したが、切削抵抗が大きく、スラッジが凝集しやすいという性質は希土類合金全体に共通するため、本発明は他の希土類合金を被加工物として用いても上記実施形態について述べた効果と同様の効果を得ることができる。
【0121】
上述の方法を用いて作製した希土類合金磁石は、外周刃を用いて希土類合金インゴットを切断する場合に比較して切断代が少なく、薄型の磁石(例えば、厚さ0.5〜3.0mm)を製造するのに適している。近年、ボイスコイルモータに使用される希土類磁石は益々薄くなってきているため、本発明の方法を用いて製造した上記の薄い希土類合金磁石をボイスコイルモータに取り付ければ、高い性能を持つ小型ボイスコイルモータを提供することができる。
【0122】
【発明の効果】
本発明によれば、希土類合金に対してワイヤソーによる切断加工を実行しようとする場合においても、ワイヤ切れが防止され、必要な切削液の交換回数も著しく低減される結果、長時間の連続運転が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Nd−Fe−B永久磁石の作製手順を示すフローチャートである。
【図2】(a)はワークプレートに固定されたインゴットブロックを示す正面図であり、(b)はその側面図である。
【図3A】本発明の実施形態で好適に使用されるワイヤソー装置の主要部を示す斜視図である。
【図3B】本発明の実施形態で好適に使用される前記ワイヤソー装置の主要部を示す正面図である。
【図3C】本発明の実施形態で好適に使用される他のワイヤソー装置の主要部を示す正面図である。
【図4】前記ワイヤソー装置の切削液循環システムを示す概略構成図である。
【図5】前記ワイヤソー装置に備えつけられたマグネットセパレータ装置を示す斜視図である。
【図6】ワイヤの断面図である。
【図7】図4とは別形態のワイヤソー装置の切削液循環システムを示す概略構成図である。
【図8】図7に示す循環システムに備え付けられた浄化装置を示す斜視図である。
【図9】グリコール含有水系切削液のと切断性能との関係を調べるために用いた試験機である。
【図10】グリコール含有水系切削液のと切断性能との関係を示すグラフである。
【図11】マグネットセパレータの磁力とワーク切断面の平面度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
20 希土類合金のインゴット
22 接着剤
24a〜24c インゴットのブロック(ワークブロック)
26 ワークプレート
28 炭素製ベースプレート
29 切削液供給パイプ
29a スリット状ノズル
30 ワイヤソー装置の主要部
32 ワイヤ
34a〜34c メインローラ(多溝ローラ)
36 ノズル
37 スラリの回収ドレイン
37’ 加工機ドレイン
38 切削液槽
40 ワイヤソー装置
42 切削液供給タンク
44 第1の循環パイプ
46 第2の循環パイプ
48 切削液回収タンク
49 第3の循環パイプ
50 マグネットセパレータ
52 スラッジを含む使用済み切削液(ダーティ液)
54 分離漕
54a 分離漕に設けられた開口部
56 ドラム
57 絞りローラ
58 スクレイパ
59 スラッジボックス

Claims (15)

  1. 砥粒を固着させたワイヤを用いる希土類合金の切断方法であって、
    5℃における表面張力が33mN/m〜49mN/mの範囲内にある水系切削液の温度を15℃〜35℃の範囲に制御する工程と、
    前記希土類合金を切断する際に生じた前記希土類合金のスラッジを含む水系切削液を回収する工程と、
    前記水系切削液の温度を15℃〜35℃の範囲に制御する前に、前記回収された水系切削液からスラッジを除去する工程とを包含し、
    前記水系切削液の温度を15℃〜35℃の範囲に制御する工程は、スラッジが除去された一部の水系切削液の温度を低下させる工程と、前記温度が低下させられた一部の水系切削液と温度が低下させられていない残りの水系切削液とを混合する工程とを包含し、
    前記ワイヤと前記希土類合金との間に前記混合された水系切削液を供給しながら前記希土類合金を切断することを特徴とする希土類合金の切断方法。
  2. 前記水系切削液はグリコールを含む、請求項1に記載の希土類合金の切断方法。
  3. 前記水系切削液は合成潤滑剤を含む、請求項1に記載の希土類合金の切断方法。
  4. 前記水系切削液は消泡剤を含む、請求項1から3のいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  5. 前記水系切削液はPHが9〜11である、請求項1から4のいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  6. 前記水系切削液は防錆剤を含む、請求項1から5のいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  7. 前記ワイヤは、フェノール樹脂によって固着させた砥粒を含む、請求項1から6のいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  8. 前記希土類合金を切断する際に生じた前記希土類合金のスラッジを前記水系切削液内から磁力によって分離することを特徴とする請求項1からの何れかに記載の希土類合金の切断方法。
  9. 前記スラッジを回収する領域において0.27テスラ以上の磁場を生成するマグネットセパレータを用いることを特徴とする請求項に記載の希土類合金の切断方法。
  10. 外周にリング状の複数の溝が所定のピッチで形成され、回転可能に支持された複数のローラと、
    前記ローラを回転させながら前記ローラの前記溝に巻き付けた前記ワイヤを走行させる駆動手段と、
    を備えたワイヤソー装置を用いることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の希土類合金の切断方法。
  11. 前記ワイヤに対して、上方から下方に向かって前記希土類合金を降下させながら前記希土類合金を切断することを特徴とする請求項10に記載の希土類合金の切断方法。
  12. 前記希土類合金を複数のブロックに分割した状態で保持し、前記水系切削液の供給の少なくとも一部を前記複数のブロックの間隙を介して行うことを特徴とする請求項11に記載の希土類合金の切断方法。
  13. 前記切削液の供給を、切削液槽の開口部から供給される前記切削液中に前記ワイヤを走行させることによって行うことを特徴とする請求項11に記載の希土類合金の切断方法。
  14. 希土類合金のインゴットを作製する工程と、
    請求項1から13の何れかに記載の希土類合金の切断方法を用いて前記希土類合金のインゴットから複数の希土類合金板を分離する工程と、
    を包含することを特徴とする希土類合金板の製造方法。
  15. 希土類磁石合金粉末から焼結体を作製する工程と、
    請求項1から13の何れかに記載の希土類合金の切断方法を用いて前記焼結体から複数の希土類合金磁石を分離する工程と、
    を包含することを特徴とする希土類合金磁石の製造方法。
JP2000224481A 2000-07-25 2000-07-25 希土類合金の切断方法および希土類合金磁石の製造方法 Expired - Lifetime JP4759790B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2000224481A JP4759790B2 (ja) 2000-07-25 2000-07-25 希土類合金の切断方法および希土類合金磁石の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2000224481A JP4759790B2 (ja) 2000-07-25 2000-07-25 希土類合金の切断方法および希土類合金磁石の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2002036113A JP2002036113A (ja) 2002-02-05
JP4759790B2 true JP4759790B2 (ja) 2011-08-31

Family

ID=18718439

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2000224481A Expired - Lifetime JP4759790B2 (ja) 2000-07-25 2000-07-25 希土類合金の切断方法および希土類合金磁石の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4759790B2 (ja)

Families Citing this family (10)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP4497767B2 (ja) * 2001-09-06 2010-07-07 ユシロ化学工業株式会社 固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液組成物
JP4497768B2 (ja) * 2001-09-06 2010-07-07 ユシロ化学工業株式会社 固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液組成物
WO2003033207A1 (fr) 2001-10-17 2003-04-24 Neomax Co., Ltd. Procede de decoupe au moyen d'un fil helicoidal, dispositif de decoupe a fil helicoidal, et procede de fabrication d'un aimant permanent a base de terres rares
CN1328008C (zh) * 2002-03-01 2007-07-25 株式会社新王磁材 稀土类合金的切断方法
JP2007098484A (ja) * 2005-09-30 2007-04-19 Hoya Corp 磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスクの製造方法
WO2010071868A2 (en) * 2008-12-20 2010-06-24 Cabot Microelectronics Corporation Wiresaw apparatus and method for continuous removal of magnetic impurities during wiresaw cutting
JP5406119B2 (ja) * 2010-05-26 2014-02-05 直江津電子工業株式会社 ウエハ製造方法及びウエハ製造装置
JP7243698B2 (ja) * 2020-09-28 2023-03-22 株式会社プロテリアル R-t-b系焼結磁石の製造方法
JP7232390B2 (ja) * 2020-09-28 2023-03-03 株式会社プロテリアル R-t-b系焼結磁石の製造方法
WO2023181772A1 (ja) * 2022-03-22 2023-09-28 株式会社プロテリアル R-t-b系焼結磁石の製造方法

Family Cites Families (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH0970821A (ja) * 1995-09-06 1997-03-18 Seiko Epson Corp ワイヤー式加工切断装置
JP3933748B2 (ja) * 1997-05-27 2007-06-20 株式会社ネオス ワイヤソー用水溶性切削液
JP3927676B2 (ja) * 1998-02-03 2007-06-13 住友電気工業株式会社 ワイヤーソーの製造方法並びにワイヤーソー
JP3296781B2 (ja) * 1998-04-21 2002-07-02 信越半導体株式会社 水性切削液、その製造方法、ならびにこの水性切削液を用いた切削方法
JP3001876B1 (ja) * 1998-09-01 2000-01-24 住友特殊金属株式会社 ワイヤソ―による希土類合金の切断方法および希土類合金板の製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2002036113A (ja) 2002-02-05

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US6443143B1 (en) Method and apparatus for cutting rare earth alloy
US6408840B2 (en) Method and apparatus for cutting a rare earth alloy
US6381830B1 (en) Method for cutting rare earth alloy, method for manufacturing rare earth alloy plates and method for manufacturing rare earth alloy magnets using wire saw, and voice coil motor
US6945242B2 (en) Cutting method using wire saw, wire saw device, and method of manufacturing rare-earth magnet
US6896595B2 (en) Method for cutting rare earth alloy, method for manufacturing rare earth magnet, and wire-saw machine
JP4759790B2 (ja) 希土類合金の切断方法および希土類合金磁石の製造方法
WO2003074229A1 (fr) Technique de coupe d'un alliage a base de terre rare
US8636560B2 (en) Wiresaw apparatus and method for continuous removal of magnetic impurties during wiresaw cutting
JP4656804B2 (ja) ワイヤソーを用いる切断方法および希土類磁石の製造方法
JP2002096251A (ja) 希土類合金の切断方法および切断装置
EP2759386A1 (en) Device and method for cleaning the wire of a wire saw
JP4961647B2 (ja) 希土類合金の切断方法および希土類磁石の製造方法
JP3770879B2 (ja) 希土類合金の切断方法
JP2003191158A (ja) 希土類合金の切断方法および希土類磁石の製造方法ならびにワイヤソー装置
JP2001138205A (ja) 希土類合金の切断方法および切断装置
JP3001876B1 (ja) ワイヤソ―による希土類合金の切断方法および希土類合金板の製造方法
JP4852806B2 (ja) 希土類磁石の面取り方法およびその装置
JP4912714B2 (ja) 固定砥粒ワイヤソー用加工液
CN1133525C (zh) 稀土族合金的加工方法及应用该方法的稀土族磁石的制造方法
JP2001246545A (ja) 希土類合金の切断方法および切断装置
JP2003311619A (ja) 磁性部材の研削方法および研削装置
JP2001025967A (ja) 希土類合金の加工方法およびそれを用いた希土類磁石の製造方法
JP2005252297A (ja) 焼結磁石の製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20070309

A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A712

Effective date: 20070608

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20090225

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20100622

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20100818

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20110215

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110413

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20110510

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20110523

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140617

Year of fee payment: 3

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Ref document number: 4759790

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

EXPY Cancellation because of completion of term