JP4641605B2 - 接着剤、セラミック構造体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多孔質セラミックからなる多孔質セラミック部材を接合するための接着剤、該接着剤を用いた粒子捕集用フィルタとして用いられるセラミック構造体、及び、該セラミック構造体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排気ガス中に含有されるパティキュレートを捕集するためのセラミック構造体(セラミックフィルタ)、熱交換器用部材、高温流体、高温蒸気の濾過フィルタ等の様々な用途に、多孔質セラミックからなるセラミック製品が製造されている。
【0003】
このようなセラミック構造体を製造する際には、まず、原料であるセラミック粒子の他に溶剤やバインダー等を含む混合組成物を調製し、この混合組成物を用いて押出成形等を行い、セラミック成形体を作製する。そして、このセラミック成形体に乾燥、脱脂、焼成の各処理を施すことで、多孔質セラミック部材を製造した後、この多孔質セラミック部材を接着剤を介して積層することによりセラミックブロックを組み上げ、所定形状に切削することによりセラミック構造体を製造していた。
【0004】
上記セラミック構造体の製造工程において、多孔質セラミック部材を積層することにより組み上げたセラミックブロックは、その形状を保ち、その後の切削工程やセラミックフィルタとして使用中に、上記多孔質セラミック部材がばらばらに崩れることがないように、各多孔質セラミック部材同士がしっかりと接合されている必要がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、先に、特開平8−28246号公報に開示されているような、各多孔質セラミック部材が耐熱性の無機繊維や無機バインダー、有機バインダー及び無機粒子等を含むシール材(接着層)で接合されたセラミック構造体を開発した。
【0006】
このセラミック構造体中のシール材(接着層)は、そのなかに含まれる無機繊維と有機バインダー、及び、無機繊維と無機バインダーとの絡み合いの効果により、ある程度の接着強度を有するとともに、熱伝導率を確保することができるものであった。
【0007】
しかしながら、このシール材(接着層)は、多孔質セラミック部材との馴染みが良好なものではなく、多孔質セラミック部材とシール材(接着層)との間で、剥離が起きてしまう場合があり、その接着力は未だ充分といえるものではなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、多孔質セラミックからなる多孔質セラミック部材との馴染みがよく、上記多孔質セラミック部材同士を高い接着強度で強固に接合するとともに、優れた熱伝導率を有する接着剤を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、接着層の接着強度が大きいため、振動や熱応力等により上記接着層にクラック等が生ずることがない耐久性に優れるセラミック構造体、及び、その製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
第一の本発明の接着剤は、多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材を接合するために用いられる接着剤であって、少なくともヒドロキシル基を有する直鎖型高分子化合物、上記直鎖型高分子化合物以外の有機バインダー、無機バインダー及び無機繊維を含むことを特徴とするものである。
【0011】
第二の本発明の接着剤は、多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材を接合するために用いられる接着剤であって、少なくともヒドロキシル基を有する直鎖型高分子化合物、上記直鎖型高分子化合物以外の有機バインダー、無機バインダー、無機繊維及び無機粒子を含むことを特徴とするものである。
【0012】
本発明のセラミック構造体は、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された角柱形状の多孔質セラミック部材が接着層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成されたセラミック構造体であって、上記接着層は、第一又は第二の本発明の接着剤を用いて形成されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明のセラミック構造体の製造方法は、上記セラミック構造体の製造方法であって、多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材の側面に、第一又は第二の本発明の接着剤を塗布し、上記接着剤の上に他の多孔質セラミック部材を積層する工程を繰り返して、セラミックブロックを組み上げる工程を含むことを特徴とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、第一及び第二の本発明の接着剤、本発明のセラミック構造体及びその製造方法について説明する。
【0015】
初めに、第一の本発明の接着剤について説明する。
第一の本発明の接着剤は、多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材を接合するために用いられる接着剤であって、少なくともヒドロキシル基を有する直鎖型高分子化合物(以下、ヒドロキシ含有化合物ともいう)、上記直鎖型高分子化合物以外の有機バインダー(以下、他の有機バインダーともいう)、無機バインダー及び無機繊維を含むことを特徴とするものである。
【0016】
このような組成からなる第一の本発明の接着剤は、多孔質セラミックからなる多孔質セラミック部材との馴染みがよく、接着強度が優れたものとなる。
この理由は明確ではないが、以下の通りであると考えられる。
【0017】
第一の本発明の接着剤は、2種類の有機バインダー、即ち、上記ヒドロキシ含有化合物と、上記他の有機バインダーとを含むものである。
【0018】
上記ヒドロキシ含有化合物は、親水基であるヒドロキシル基を有するとともに直鎖型であるため、第一の本発明の接着剤中で上記ヒドロキシ含有化合物と接着剤中の水分子とが水素結合を形成していると考えられる。
そして、多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材上に、第一の本発明の接着剤で接着層を形成すると、接着層中の水分子が、毛細管現象により多孔質セラミック部材表面に存在する多数の開放気孔に吸引されるが、その際に、水分子と強固な水素結合を形成している上記ヒドロキシ含有化合物も水とともに吸引される。その結果、上記多孔質セラミック部材の開放気孔中、及び、その界面近傍に、多数のヒドロキシ含有化合物(有機バインダー)が存在することになるものと考えられる。
【0019】
一方、上記他の有機バインダーは、その性状が親油性であるものが多く、上記他の有機バインダーは、通常、接着剤中の水分子と親和性が低いと考えられる。従って、上記多孔質セラミック部材上に、第一の本発明の接着剤で接着層を形成しても、上記他の有機バインダーの大部分は、この多孔質セラミック部材の開放気孔中に吸収されず、多孔質セラミック部材の間に存在する接着層中に残っていると考えられる。
【0020】
従って、第一の本発明の接着剤は、上記ヒドロキシ含有化合物が、接着剤と多孔質セラミック部材との馴染みを良好なものとし、上記他の有機バインダーが、接着剤中の無機バインダー等との接着力を確保することで、第一の本発明の接着剤全体の接着力が良好なものになると考えられる。
【0021】
ここで、従来の接着剤も、その組成中に有機バインダーを含むものであったが、このような従来の接着剤に使用されていた有機バインダーは、ポリビニルアルコールのような親水性の化合物とその他の化合物とを併用していなかった。そのため、接着剤と多孔質セラミック部材との馴染みが良好とは言えず、多孔質セラミック部材を高い接着強度で接着することができなかった。
【0022】
上記ヒドロキシ含有化合物は、ポリビニルアルコールであることが好ましい。水分子と良好な水素結合を形成し、また、汎用されているので、安価である。
【0023】
上記ポリビニルアルコールの添加量は、固形分で0.2〜2.0重量%であることが好ましい。上記添加量が0.2重量%未満であると、接着剤と多孔質セラミック部材との界面での馴染みが低下してしまう。一方、上記添加量が2.0重量%を超えると、後の脱脂工程で、分解、除去される有機バインダーの量が多くなりすぎ、接着強度の低下を招く。
【0024】
上記ヒドロキシ含有化合物のその他の例としては、例えば、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。これらの化合物の添加量は、各分子量及びその親水性等を考慮して適宜調整されるが、添加される化合物中のヒドロキシル基の数は、上記ポリビニルアルコールのヒドロキシル基の数と概ね同数となるように調整されることが望ましい。
【0025】
上記他の有機バインダーとしては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の環状化合物等を挙げることができる。
上記他の有機バインダーの添加量は、固形分で、0.1〜5.0重量%が好ましく、0.2〜1.0重量%がより好ましく、0.4〜0.8重量%がさらに好ましい。他の有機バインダーの含有量が0.1重量%未満であると、接着層中のその他の成分を均一に分散させることが困難となり、一方、5.0重量%を超えると、接着層が高温に曝された場合に、有機バインダーが焼失し、接着強度が低下する。
【0026】
上記無機バインダーとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、シリカゾルが好ましい。
上記無機バインダーの添加量は、固形分で、1〜40重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましく、5〜15重量%がさらに好ましい。無機バインダーの添加量が1重量%未満であると、接着層の接着強度の低下を招き、一方、40重量%を超えると、熱伝導率の低下を招く。
【0027】
上記無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ、ムライト、アルミナ及びシリカから選ばれる少なくとも1種以上のセラミックファイバー等を挙げることができる。このような無機繊維は、上記有機バインダーや無機バインダーと絡み合うことで、接着層の接着強度をより向上させることができる。
【0028】
上記無機繊維がシリカ−アルミナセラミックファイバーである場合、そのショット含有率は1〜10重量%であることが好ましく、1〜5重量%であることがより好ましく、1〜3重量%であることが最も好ましい。ショット含有率を1重量%未満にすることは、製造上困難であり、一方、10重量%を超えると、被接着面である多孔質セラミック部材表面を傷つける恐れがある。
その繊維長は1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましく、1〜20μmであることが最も好ましい。繊維長が1μm未満であると、その性質が粒子に近くなり接着強度の低下を招く。一方、100μmを超えると、接着層中に均一に分散させることが困難となり、やはり接着強度の低下を招く。
【0029】
また、その繊維径は、3〜15μmであることが好ましい。繊維径が3μm未満であると、その強度が低下し容易に切断されてしまうため、接着強度の低下を招く。一方、15μmを超えると、有機バインダーや無機バインダーとの絡み合いが阻害され、やはり接着強度の低下を招く。
上記シリカ−アルミナセラミックファイバーの添加量は、固形分で、10〜70重量%であることが好ましく、10〜40重量%がより好ましく、20〜30重量%がさらに好ましい。その添加量が10重量%未満であると、接着層の接着強度の低下を招く。一方、70重量%を超えると、熱伝導率の低下を招く。
【0030】
また、第一の本発明の接着剤において、上記無機繊維の代わりに、上記炭化珪素繊維を添加してもよい。接着強度とともに、熱伝導率を高いレベルで維持することができるからである。
【0031】
これは、接着層中の炭化珪素繊維と無機バインダー、及び、炭化珪素繊維と上記ヒドロキシ含有化合物及び上記他の有機バインダーとが絡み合うことにより、接着層の接着強度の向上を図ることができるとともに、無機粒子を添加するのに比べ、接着層中で炭化珪素繊維同士が絡み合うことでその接触面積が増加し、熱伝導率が向上するものと考えられる。
【0032】
上記炭化珪素繊維の繊維長は、20〜300μmであることが好ましく、50〜200μmであることがより好ましい。繊維長が20μm未満であると、その性質が粒子に近くなり接着強度の低下を招く場合がある。一方、300μmを超えると、接着層中に均一に分散させることが困難となり、やはり接着強度の低下を招く場合がある。
また、その繊維径は、3〜15μmであることが好ましい。繊維径が3μm未満であると、炭化珪素繊維の強度が低下し容易に切断されてしまうため接着強度の低下を招く場合があり。一方、15μmを超えると、シリカゾルとの絡み合いが阻害され、接着強度の低下を招く場合があり、また、このような太い炭化珪素繊維を得ること自体が困難であり原料コストの高騰を招く。
【0033】
接着層中に上記炭化珪素繊維を添加する場合、接着層中の炭化珪素繊維の含有量は、固形分で、3〜80重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましく、40〜60重量%がさらに好ましい。炭化珪素繊維の含有量が3重量%未満であると、熱伝導率の低下を招き、一方、80重量%を超えると、接着層11が高温に曝された場合に、接着強度の低下を招く。
【0034】
上述の通り、第一の本発明の接着剤は、多孔質セラミック部材上に接着層を形成した際、該接着剤と多孔質セラミック部材との界面近傍では、水分子と水素結合を形成したヒドロキシル基を有する直鎖型高分子化合物が有機バインダーとして機能し、その他の部分では、上記直鎖型高分子化合物以外の有機バインダーが機能するため、多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、優れた接着力を有するものとなる。
【0035】
次に、第二の本発明の接着剤について説明する。
第二の本発明の接着剤は、多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材を接合するために用いられる接着剤であって、少なくともヒドロキシル基を有する直鎖型高分子化合物、上記直鎖型高分子化合物以外の有機バインダー、無機バインダー、無機繊維及び無機粒子を含むことを特徴とするものである。
【0036】
第二の本発明の接着剤においては、第一の本発明の接着剤で説明したヒドロキシ含有化合物、他の有機バインダー、無機バインダー及び無機繊維を含むとともに、さらに、無機粒子を含むものである。
このように、上記無機粒子を含むことで、第二の本発明の接着剤は、多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、接着強度が優れたものとなるとともに、その熱伝導率に優れたものとなる。
【0037】
上記多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、接着強度が優れたものとなる理由は、上述した第一の本発明の接着剤において説明したので、ここでは、その説明を省略する。
また、上記無機粒子を添加することで、熱伝導率が優れたものとなる理由は、上記無機粒子が上記無機繊維の表面や上記無機バインダーの表面及び内部に介在するためであると考えられる。
【0038】
また、上記ヒドロキシ含有化合物、他の有機バインダー、無機バインダー及び無機繊維については、上記第一の本発明の接着剤において説明したものと同様のものであるため、ここでは、その説明を省略する。
【0039】
上記無機粒子としては、例えば、炭化珪素、窒化珪素及び窒化硼素から選ばれる少なくとも1種以上の無機粉末又はウィスカーが挙げられる。
また、上記無機粒子の平均粒径は0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜15μmであることがより好ましく、0.1〜10μmであることが最も好ましい。平均粒径が0.01μm未満であると、ある程度の熱伝導率を確保するためには大量の無機粒子が必要となり、また、このような粒径の小さな無機粒子を得ること自体が困難で、製造コストの高騰を招く。一方、平均粒径が100μmを超えると、逆に接着力及び熱伝導率の低下を招く。
【0040】
上記無機粒子が炭化珪素である場合、その添加量は、固形分で、3〜80重量%であることが好ましく、10〜60重量%がより好ましく、20〜40重量%が最も好ましい。その添加量が3重量%未満であると、熱伝導率の低下を招き、一方、80重量%を超えると、高温時での接着強度の低下を招く。
【0041】
また、第二の本発明の接着剤においては、上記無機繊維及び無機粒子の代わりに、上記炭化珪素繊維を使用してもよい。上述した通り、上記無機繊維は、接着層の接着強度を向上させる目的で添加され、上記無機粒子は、接着層の熱伝導率を向上させる目的で添加されるものである。しかしながら、上記無機粒子は、接着層の接着強度を減退させる傾向があるため、接着層の接着強度及び熱伝導率の両方を高いレベルで確保するには一定の限界がある。
しかしながら、上記無機繊維及び無機粒子の代わりに上記炭化珪素繊維を使用することで、接着層の接着強度と熱伝導率とを高いレベルで確保することができるようになる。
【0042】
上述の通り、第二の本発明の接着剤は、上記第一の本発明の接着剤と同様に、多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、優れた接着力を有するとともに、その組成中の無機粒子が、無機繊維の表面や無機バインダーの表面及び内部に介在することで熱伝導率が優れたものとなる。
【0043】
次に、本発明のセラミック構造体について説明する。
本発明のセラミック構造体は、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された角柱形状の多孔質セラミック部材が接着層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成されたセラミック構造体であって、上記接着層は、第一又は第二の本発明の接着剤を用いて形成されてなることを特徴とする。
【0044】
図1は、本発明のセラミック構造体の一実施形態を模式的に示した斜視図であり、図2は本発明のセラミック構造体を構成する多孔質セラミック部材を模式的に示した斜視図である。
【0045】
図2に示したように、セラミック構造体を構成する多孔質セラミック部材20には、多数の貫通孔21が形成されており、これら貫通孔21を有する多孔質セラミック部材20の一端部は、市松模様に充填材22が充填されている。また、図示しない他の端部においては、一端部に充填材が充填されていない貫通孔21に充填材が充填されている。
【0046】
このセラミック部材20を構成する多数の貫通孔21は、いずれか一端部のみに充填材22が充填されているため、開口している一の貫通孔21の一端部より流入した排気ガスは、隣接する貫通孔21との間を隔てる多孔質の隔壁23を必ず通過し、他の貫通孔21を通って流出する。
そして、排気ガスが隔壁23を通過する際に、排気ガス中のパティキュレートが捕捉されることになる。
【0047】
図1は、図2に示した多孔質セラミック部材20を複数個結束させたセラミック構造体10を示している。また、図1においては、多孔質セラミック部材20に形成された貫通孔21を省略している。
【0048】
このセラミック構造体10では、多孔質セラミック部材20が接着層11を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、この接着層11は、少なくとも無機バインダー、有機バインダー及び炭化珪素繊維を含むものである。また、セラミックブロックの外周部の全体に、シール材12がコーティングされてセラミック構造体10が形成されている。
上記セラミック構造体の形状は特に限定されず、円柱形状でも角柱形状でも構わないが、通常、図1に示したように円柱形状のものがよく用いられている。
【0049】
セラミック構造体10を構成する多孔質セラミック部材の材質は特に限定されず、種々のセラミックが挙げられるが、これらのなかでは、耐熱性が大きく、機械的特性に優れ、かつ、熱伝導率も大きい炭化珪素が好ましい。
【0050】
これらのセラミックの粒径も特に限定されるものではないが、後の焼成工程で収縮が少ないものが好ましく、例えば、0.3〜50μm程度の平均粒径を有する粉末100重量部と0.1〜1.0μm程度の平均粒径を有する粉末5〜65重量部とを組み合わせたものが好ましい。
また、シール材12を構成する材料も特に限定されるものではないが、無機繊維、無機バインダー等の耐熱性の材料を含むものが好ましい。シール材12は、接着層11と同じ材料により構成されていてもよい。
【0051】
接着層11を構成する材料は、上述した第一又は第二の本発明の接着剤であるのでここでは、その説明は省略する。
【0052】
上述の通り、本発明のセラミック構造体は、複数のセラミック部材を結束する接着層に、第一又は第二の本発明の接着剤を用いたものであるため、多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、また、その接着強度、又は、その接着強度及び熱伝導率の両方に優れたものとなる。従って、本発明のセラミック構造体は、振動や排気ガスの圧力等により接着層にクラックが生ずることはなく、耐久性に優れたものとなり、また、耐久性に優れるとともに、その再生処理において、堆積したパティキュレートを完全に燃焼除去することができる。
【0053】
次に、本発明のセラミック構造体の製造方法について説明する。
本発明のセラミック構造体の製造方法は、上記セラミック構造体の製造方法であって、多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材の側面に、第一又は第二の本発明の接着剤を塗布し、上記接着剤の上に他の多孔質セラミック部材を積層する工程を繰り返して、セラミックブロックを組み上げる工程を含むことを特徴とするものである。
【0054】
本発明のセラミック構造体の製造方法では、初めに、セラミック成形体を作製する。
この工程においては、セラミック粉末とバインダーと分散媒液とを混合して成形体製造用の混合組成物を調製した後、この混合組成物の押出成形を行うことにより、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック成形体を作製し、この後、この成形体を乾燥させることにより分散媒液を蒸発させ、セラミック粉末と樹脂とを含むセラミック成形体を作製する。
なお、このセラミック成形体には、少量の分散媒液が含まれていてもよい。
【0055】
このセラミック成形体の外観の形状は、図2に示した多孔質セラミック部材20とほぼ同形状であるほか、楕円柱状や三角柱状等であってもよい。
なお、本工程では、充填材22に相当する部分は空洞となっている。
【0056】
上記バインダーとしては特に限定されず、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
上記バインダーの配合量は、通常、上記セラミック粉末100重量部に対して、1〜10重量部程度が好ましい。
【0057】
上記分散媒液としては特に限定されず、例えば、ベンゼン等の有機溶媒;メタノール等のアルコール、水等を挙げることができる。上記分散媒液は、上記樹脂の粘度が一定範囲内となるように、適量配合される。
【0058】
次に、封口工程として、作製されたセラミック成形体の上記貫通孔を充填ペーストにより封口パターン状に封口する工程を行う。
この際には、セラミック成形体の貫通孔に、封口パターン状に開孔が形成されたマスクを当接し、充填ペーストを上記マスクの開孔から上記貫通孔に侵入させることにより、充填ペーストで一部の貫通孔を封口する。
【0059】
上記充填ペーストとしては、セラミック成形体の製造の際に使用した混合組成物と同様のものか、又は、上記混合組成物にさらに分散媒を添加したものが好ましい。
【0060】
次に、脱脂工程として、上記工程により作製されたセラミック成形体中の樹脂を熱分解する工程を行う。
この脱脂工程では、通常、上記セラミック成形体を脱脂用治具上に載置した後、脱脂炉に搬入し、酸素含有雰囲気下、400〜650℃に加熱する。
これにより、バインダー等の樹脂成分が揮散するとともに、分解、消失し、ほぼセラミック粉末のみが残留する。
【0061】
次に、焼成工程として、脱脂したセラミック成形体を、焼成用治具上に載置して焼成する工程を行う。
この焼成工程では、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、2000〜2200℃で脱脂したセラミック成形体を加熱し、セラミック粉末を焼結させることにより、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック焼結体を製造する。
【0062】
なお、脱脂工程から焼成工程に至る一連の工程では、焼成用治具上に上記炭化珪素成形体を載せ、そのまま、脱脂工程及び焼成工程を行うことが好ましい。脱脂工程及び焼成工程を効率的に行うことができ、また、載せ代え等において、セラミック成形体が傷つくのを防止することができるからである。
【0063】
このようにして、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設され、上記隔壁がフィルタとして機能するように構成された多孔質セラミック焼結体を製造した後、この多孔質炭化珪素焼結体の結束工程として、多孔質セラミック焼結体の外壁部分に上述した接着層を形成し、所定の大きさになるように上記多孔質セラミック焼結体を複数個結束してセラミックブロックを作製する。
【0064】
この多孔質セラミック部材の結束工程においては、図3に示したように、断面がV字形状に構成された台60の上に、斜めに傾斜した状態で載置した多孔質セラミック部材20の上側を向いた2つの側面20a、20bに、第一又は第二の本発明の接着剤を、例えば、刷毛、スキージ、ロール等を用いて印刷して、所定の厚さの接着層61を形成する。
【0065】
次に、この接着層61の上に他の多孔質セラミック部材20を積層する。そして、このような多孔質セラミック部材20の側面に接着層61を形成してから、他の多孔質セラミック部材20を積層する工程を繰り返して行い、所定の大きさの角柱状のセラミックブロックを作製する。
【0066】
その後、このセラミックブロックを50〜100℃、1時間の条件で加熱して乾燥、硬化させ、その後、例えば、ダイヤモンドカッター等を用いて、その外周部を図1に示したセラミック構造体10とほぼ同様に切削した後、その外周部にシール材12を形成することにより、本発明のセラミック構造体の製造を終了する。
【0067】
以上説明した各工程を実施することで、各セラミック部材の接着強度に優れ、熱伝導率も高いセラミック構造体を製造することができる。
【0068】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
実施例1
A.接着剤の調製
PV−5(マルバン社製、ポリビニルアルコール含有率10重量%)6.4重量%、カルボキシメチルセルロース0.4重量%、シリカゾル(シリカ含有率30重量%)24.2重量%、シリカ−アルミナセラミックファイバー48.2重量%、トリエタノールアミン1.2重量%、スチレン無水マレイン酸共重合アルキルエステルアンモニウム塩水溶液(ELF Atochem North America Inc製、SMA)0.1重量%及び水19.5重量%を混合、混練し、多孔質セラミック部材接着用の接着剤Aを調製した。
【0070】
B.多孔質セラミック部材の製造
平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末70重量部、平均粒径0.7μmのβ型炭化珪素粉末30重量部、メチルセルロース5重量部、分散剤4重量部、水20重量部を配合して均一に混合することにより、原料の混合組成物を調製した。この混合組成物を押出成形機に充填し、押出速度2cm/分にてハニカム形状の生成形体を作製した。この生成形体は、図2に示した多孔質セラミック部材20とほぼ同様であり、その大きさは33mm×33mm×300mmで、平均気孔径が1〜40μm、貫通孔の数が31/cm2 で、隔壁の厚さが0.35mmであった。
【0071】
この生成形体の乾燥体に、上記混合組成物と同成分の充填剤ペーストを用いて、炭化珪素焼結体の貫通孔の所定箇所に充填剤を充填した後、450℃で脱脂し、さらに、2200℃で加熱焼成することで、その大きさが33mm×33mm×300mmの多孔質炭化珪素部材を製造した。
【0072】
次に、上記Bで製造した多孔質炭化珪素部材の一の外周面に上記Aで調製した接着剤Aを貼着し、接着層を形成した。そして、この接着層の上に他の多孔質炭化珪素部材を載置し、100℃、1時間で乾燥、硬化させ、3つの多孔質炭化珪素部材が連続して結合した多孔質炭化珪素部材の結合体を作製した。
【0073】
実施例2
A.接着剤の調製
PV−5(マルバン社製、ポリビニルアルコール含有率10重量%)5.08重量%、カルボキシメチルセルロース0.32重量%、シリカゾル(シリカ含有率30重量%)18.93重量%、シリカ−アルミナセラミックファイバー37.86重量%、炭化珪素粉末(屋久島電工社製、GC−15)24.57重量%、トリエタノールアミン0.97重量%、スチレン無水マレイン酸共重合アルキルエステルアンモニウム塩水溶液(ELF Atochem North America Inc製、SMA)0.08重量%及び水12.19重量%を混合、混練し、多孔質セラミック部材接着用の接着剤Bを調製した。
【0074】
B.多孔質セラミック部材の製造
平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末70重量部、平均粒径0.7μmのβ型炭化珪素粉末30重量部、メチルセルロース5重量部、分散剤4重量部、水20重量部を配合して均一に混合することにより、原料の混合組成物を調製した。この混合組成物を押出成形機に充填し、押出速度2cm/分にてハニカム形状の生成形体を作製した。この生成形体は、図2に示した多孔質セラミック部材20とほぼ同様であり、その大きさは33mm×33mm×300mmで、平均気孔径が1〜40μm、貫通孔の数が31/cm2 で、隔壁の厚さが0.35mmであった。
【0075】
この生成形体の乾燥体に、上記混合組成物と同成分の充填剤ペーストを用いて、炭化珪素焼結体の貫通孔の所定箇所に充填剤を充填した後、450℃で脱脂し、さらに、2200℃で加熱焼成することで、その大きさが33mm×33mm×300mmの多孔質炭化珪素部材を製造した。
【0076】
次に、上記Bで製造した多孔質炭化珪素部材の一の外周面に上記Aで調製した接着剤Bを貼着し、接着層を形成した。そして、この接着層の上に他の多孔質炭化珪素部材を載置し、100℃、1時間で乾燥、硬化させ、3つの多孔質炭化珪素部材が連続して結合した多孔質炭化珪素部材の結合体を作製した。
【0077】
比較例1
有機バインダーとしてPV−5(マルバン社製、ポリビニルアルコール含有率10重量%)11.73重量%、無機繊維としてアルミナシリカからなるセラミックファイバー59.13重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiO2 の含有量:30重量%)16.19重量%および水12.95重量%を用いて多孔質セラミック部材用接着剤を調製したほかは、実施例1と同様にして多孔質炭化珪素部材の結合体を作製した。
【0078】
比較例2
有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース0.5重量%、無機繊維としてシリカ−アルミナセラミックファイバー23.3重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiO2 の含有量:30重量%)7重量%、平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.2重量%、及び、水39重量%を調製して、多孔質セラミック部材用接着剤を調製したほかは、実施例1と同様にして多孔質炭化珪素部材の結合体を作製した。
【0079】
実施例1〜2及び比較例1〜2で製造した多孔質炭化珪素部材の結合体の性能評価を以下に示す方法にて測定した。
【0080】
評価方法
(1)接着強度の測定
図4に示すように、台の上に2個の角柱状部材を配置し、続いて、上記結合体を、両端の多孔質炭化珪素部材が上記角柱状部材の上に載るように載置し、中心の多孔質炭化珪素部材に荷重をかけ、接着層に剥がれが生じた時の荷重を測定し、その曲げ強度を求めた。また、実際の使用では、室温〜900℃程度までの急熱、急冷が予想されるため、室温〜900℃のヒートサイクル試験(100回)を行った後のものについても同様の評価を行った。
その結果を下記の表1に示す。
【0081】
(2)熱伝導率の測定
図5に示すように、上記結合体を積み重ねるように載置した後、その外周を断熱材30で囲い、ヒータ31の上に設置して600℃で30分間加熱することにより、上部の温度T1と下部の温度T2との温度差を測定した。
その結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜2に係る多孔質炭化珪素部材の結合体の接着層の代表的な接着強度は0.7〜0.8MPaであり、その上端と下端との温度差は150〜170℃であるが、比較例1〜2に係る多孔質炭化珪素部材の結合体の接着層の代表的な接着強度は0.1〜0.2MPa、その温度差は250〜260℃といずれも、実施例に係る多孔質炭化珪素部材の結合体よりも劣ったものであった。
なお、本実施例及び比較例においては、多孔質炭化珪素部材を3個だけ連続して結合したものを使用して、その接着強度及び熱伝導率を測定したが、実際のセラミック構造体には、多数の多孔質炭化珪素部材を結合するため、接着強度及び熱伝導率の値の差はさらに顕著なものとなる。
【0084】
【発明の効果】
第一の本発明の接着剤は、上述の通りであるので、多孔質セラミックからなる多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、上記多孔質セラミック部材同士を高い接着強度で強固に接合することができる。
【0085】
また、第二の本発明の接着剤は、上述の通りであるので、多孔質セラミックからなる多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、上記多孔質セラミック部材同士を高い接着強度で強固に接合することができるとともに、上記接着層の熱伝導率を高いレベルで維持することができる。
【0086】
本発明のセラミック構造体は、上述の通り、第一又は第二の本発明の接着剤を用いて形成されているので、多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、接着強度及び熱伝導率に優れたものとなる。
【0087】
本発明のセラミック構造体の製造方法は、上述の通りであるので、多孔質セラミック部材と接着層との馴染みがよく、接着強度及び熱伝導率に優れたセラミック構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のセラミック構造体の一実施形態を模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明のセラミック構造体を構成する多孔質セラミック部材を模式的に示した斜視図である。
【図3】セラミックブロックを作製する様子を模式的に示した説明図である。
【図4】接着強度の測定試験の説明図である。
【図5】熱伝導率の測定試験の説明図である。
【符号の説明】
10 セラミック構造体
11 接着層
12 シール材
20 多孔質セラミック部材
21 貫通孔
22 充填材
23 隔壁
30 断熱材
31 ヒータ
Claims (5)
- 多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材を接合するために用いられる接着剤であって、
ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、無機バインダー及び無機繊維を含むことを特徴とする接着剤。 - 多孔質セラミックから構成される多孔質セラミック部材を接合するために用いられる接着剤であって、
ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、無機バインダー、無機繊維及び無機粒子を含むことを特徴とする接着剤。 - ポリビニルアルコールの添加量は、0.2〜2.0重量%である請求項1又は2記載の接着剤。
- 多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された角柱形状の多孔質セラミック部材が接着層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、前記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成されたセラミック構造体であって、
前記接着層は、請求項1〜3のいずれか1記載の接着剤を用いて形成されてなることを特徴とするセラミック構造体。 - 多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された角柱形状の多孔質セラミック部材が接着層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、前記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成されたセラミック構造体の製造方法であって、
前記多孔質セラミック部材の側面に、請求項1〜3のいずれか1に記載の接着剤を塗布し、
前記接着剤の上に他の多孔質セラミック部材を積層する工程を繰り返して、セラミックブロックを組み上げる工程を含むことを特徴とするセラミック構造体の製造方法。
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