JP4633974B2 - セルロースアシレートフイルムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースアシレートフイルムと、その製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースアシレートフイルムは、その強靭性と難燃性から各種の写真材料や光学材料に用いられている。セルロースアシレートフイルムは、代表的な写真感光材料の支持体である。また、セルロースアシレートフイルムは、その光学的等方性から、近年市場の拡大している液晶表示装置にも用いられている。液晶表示装置における具体的な用途としては、偏光板の保護フイルムおよびカラーフィルターが代表的である。
【0003】
セルロースアシレートフイルムは、一般にソルベントキャスト法またはメルトキャスト法により製造する。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを溶媒中に溶解した溶液(ドープ)を金属支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。メルトキャスト法では、セルロースアシレートを加熱により溶融したものを金属支持体上に流延し、冷却してフイルムを形成する。ソルベントキャスト法の方が、メルトキャスト法よりも平面性の高い良好なフイルムを製造することができる。このため、実用的には、ソルベントキャスト法の方が普通に採用されている。ソルベントキャスト法については、多くの文献に記載がある。最近のソルベントキャスト法では、ドープを金属支持体上へ流延してから、金属支持体上の成形フイルムを剥離するまでに要する時間を短縮して、製膜工程の生産性を向上させることが課題になっている。例えば、特公平5−17844号公報には、高濃度ドープを冷却ドラム上に流延することにより、流延後、剥ぎ取りまでの時間を短縮することが提案されている。
【0004】
ソルベントキャスト法に用いる溶媒は、単にセルロースアシレートを溶解することだけでなく、様々な条件が要求される。平面性に優れ、厚みの均一なフイルムを、経済的に効率よく製造するためには、適度な粘度とポリマー濃度を有する保存安定性に優れた溶液(ドープ)を調製する必要がある。ドープについては、ゲル化が容易であることや金属支持体からの剥離が容易であることも要求される。そのようなドープを調製するためは、溶媒の種類の選択が極めて重要である。溶媒については、蒸発が容易で、フイルム中の残留量が少ないことも要求される。セルロースアシレートの溶媒として、様々な有機溶媒が提案されているが、実用化されている有機溶媒は、実質的にはメチレンクロリドに限られていた。
【0005】
しかしながら、メチレンクロリドのような塩素系溶剤は、近年、地球環境保護の観点から、その使用は著しく規制される方向にある。また、メチレンクロリドは、低沸点(41℃)であるため、製造工程において揮散しやすい。このため、作業環境においても問題である。これらの問題を防止するため、製造工程のクローズド化が行なわれているが、密閉するにしても技術的な限界がある。従って、メチレンクロリドの代替となるような、セルロースアシレートの溶媒を捜し求めることが急務となっている。
【0006】
ところで、汎用の有機溶剤であるアセトン(沸点:56℃)は、比較的低い沸点を有し、乾燥負荷がそれほど大きくない。また、人体や地球環境に対しても、塩素系有機溶剤に比べて問題が少ない。しかし、アセトンは、セルロースアシレートに対する溶解性が低い。置換度2.70(酢化度58.8%)以下のセルロースアセテートに対しては、アセトンは若干の溶解性を示す。セルロースアシレートの置換度が2.70を越えると、アセトンの溶解性がさらに低下する。置換度2.80(酢化度60.1%)以上のセルロースアシレートとなると、アセトンは膨潤作用を示すのみで溶解性を示さない。
【0007】
J.M.G.Cowie他の論文、Makromol,chem.,143巻,105頁(1971年)は、置換度2.80から置換度2.90のセルロースアシレートを、アセトン中で−80℃から−70℃に冷却した後、加温することにより、アセトン中にセルロースアシレートが0.5乃至5質量%に溶解している希薄溶液が得られたことを報告している(ただし、ここでのアシル基はアセチル基に限定されている)。以下、このように、セルロースアシレートと有機溶媒との混合物を冷却して、溶液を得る方法を「冷却溶解法」と称する。また、セルロースアシレートのアセトン中への溶解については、上出健二他の論文「三酢酸セルロースのアセトン溶液からの乾式紡糸」、繊維機械学会誌、34巻、57頁(1981年)にも記載がある。この論文は、その標題のように、冷却溶解法を紡糸方法の技術分野に適用したものである。論文では、得られる繊維の力学的性質、染色性や繊維の断面形状に留意しながら、冷却溶解法を検討している。この論文では、繊維の紡糸のために10乃至25質量%の濃度を有するセルロースアセテートの溶液を用いている。
【0008】
本発明者らは、セルロースアシレート溶剤の種類および製膜方法について検討し、ドープ中へのアルコール添加により流延後の金属支持体からのフイルムの剥離、および乾燥途中での搬送性が大きく向上することを見いだした。しかしながら一方でアルコール添加はドープの安定性を悪化させることも確認した。
すなわち、フイルムが簡単に剥離できること、および剥離した未乾状態のフイルムが搬送工程で変形しない強度を有していることは実現可能であるが、ドープの安定性との両立が困難であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ドープの経時安定性に優れ、かつ生産性に優れたセルロースアシレート溶液を提供することである。
また本発明の目的は、ドープの経時安定性に優れ、かつ面状の優れたセルロースアシレートフイルムを製造することでもある。
さらにまた本発明の目的は、面状に優れたセルロースアシレートフイルムからなる偏光板保護膜を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記の(1)〜(13)のセルロースアシレートフイルムの製造方法、下記(14)および(15)のセルロースアシレートフイルム、そして下記(16)に記載の偏光板保護膜により達成された。
(1)セルロースアシレートを、実質的に非塩素系溶剤から構成される単独または複数の主溶剤に溶解後、流延製膜することを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法であって、該セルロースアシレート溶液へのアルコール添加を流延直前に行うことを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(2)該アルコールが、炭素数6以下の脂肪族系アルコールであることを特徴とする(1)に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(3)アルコールの添加をインライン添加で行うことを特徴とする(1)もしくは(2)に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【0011】
(4)共流延法により二層以上の層を流延製膜することを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法であって、内部層の溶液中、外部層の溶液に共にアルコールを添加することを特徴とする(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(5)内部層のみにアルコールを直前添加するか、または外部層に対して内部層へのアルコール添加量が1.05倍乃至6.0倍であることを特徴とする(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(6)該セルロースアシレート溶液の主溶剤が、少なくとも溶解度パラメータ19乃至21のケトン類と溶解度パラメータ19乃至21エステル類の混合溶剤からなることを特徴とする(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【0012】
(7)アルコールの添加量が、全溶剤に対して2乃至30質量%の範囲にあることを特徴とする(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(8)溶剤とセルロースアシレートの混合物を、−80〜−10℃、又は80〜220℃の温度に曝して溶解することを特徴とする(1)乃至(7)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(9)セルロースアシレートフイルムが二層以上の多層構造を有し、該セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の側の外部層の厚さが1〜50μmの範囲にあることを特徴とする(4)乃至(8)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【0013】
(10)セルロースアシレートフイルムが三層以上の多層構造を有し、該セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の側の外部層の厚さが1〜50μmの範囲にあることを特徴とする(4)乃至(8)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(11)外部層の厚さが、1〜20μmの範囲にある(9)もしくは(10)に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(12)各層を同時に流延製膜することを特徴とする(4)乃至から(11)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(13)少なくとも一方の外部層に剥離剤を含有することを特徴とする(4)乃至(12)のうちのいずれかに記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【0014】
(14)(1)乃至(13)のうちのいずれかに記戟の方法で形成されたセルロースアシレートフイルム。
(15)シリカ粒子、可塑剤および紫外線吸収剤が添加された(14)に記戟のセルロースアシレートフイルム。
(16)(14)もしくは(15)に記載のセルロースアシレートフイルムから形成されたことを特徴とする偏光板保護膜。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレート原料綿については発明協会公開技報2001−1745,7頁右段の26行目以降に記載の「4.セルロースアシレート原料綿」に関する記載事項を用いることができる。
【0016】
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフイルムを製造することが好ましく、セルロースアシレートドープを用いてフイルムは製造される。用いられる有機溶媒は特に限定されないが、ケトン類、エステル類を混合したものであり、その溶解度パラメータは19乃至21の溶剤が好ましく用いられる。これらのエステル類、ケトン類は環状構造を有していてもよく、二種類以上の官能基を有するものでもよい。
【0017】
エステル類の例には、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。このうち酢酸メチルが特に好ましい。ケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。このうちアセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが特に好ましい。
【0018】
次に、溶剤の溶解度パラメータについて記載する。溶解度パラメータは、液体のモル蒸発熱をΔH、モル体積をVとするとき(ΔH/V)1/2 で定義される量であり、溶解度は両者の溶解度パラメータの差が小さいほど大きくなる。
溶解度パラメータについて記載された書籍は多数あるが、例えばJ.Brandrup,E.Hらの文献(Polymer Handbook(fourth edition),VII/671〜VII/714 )に詳細に記載されている。
主なケトン類の溶解度パラメータを以下に示す。アセトン(20.3)、メチルエチルケトン(19.0)、ジエチルケトン(18.2)、ジイソブチルケトン(18.0)、シクロペンタノン(20.9)、シクロヘキサノン(20.3)およびメチルシクロヘキサノン(20.1)。
また、エステル類の溶解度パラメータを以下に示す。蟻酸エチル(19.2)、蟻酸プロピル(18.4)、蟻酸n−ペンチル(18.1)、酢酸メチル(19.6)、酢酸エチル(18.2)および酢酸n−ペンチル(17.6)。
【0019】
ところで地球環境や作業環境の観点では、有機溶媒は塩素系溶剤を実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」とは、有機溶媒中の塩素系溶剤の割合が10質量%未満であり、好ましくは5質量%未満、より好ましくは3質量%未満であることを意味する。また、製造したセルロースアシレートフイルムから、メチレンクロリドのような塩素系溶剤が全く検出されないことが好ましい。
【0020】
また、アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールおよびシクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノールなどである。このうち炭素数6以下のアルコールが好ましく用いられ、特に好ましいのはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールである。
【0021】
実際の溶媒系は、エステル類が全溶剤の40〜95質量%、好ましくは50〜80質量%であり、ケトン類は全溶剤の5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%であることが好ましい。更にケトン類およびエステル類が全溶媒の70質量%以上であることが好ましい。また、アルコール類は全溶剤の2〜30質量%含まれることが好ましい。
【0022】
本発明で好ましいこれらの溶媒の組み合わせの具体例は発明協会公開技報2001−1745,15頁右段の1行目から16頁左段の8行目に記載のものを挙げることができる。また、塩素系溶媒の使用についても特に限定されない。
【0023】
セルロースアシレート溶液を作製するには、室温下でタンク中の溶剤を撹拌しながら上記セルロースアシレートを添加することでまず溶剤への膨潤を行う。膨潤時間は最低10分以上が必要であり、10分以下では不溶解物が残存する。また、セルロースアシレートを十分膨潤させるためには溶剤の温度は0から40℃が好ましい。0℃以下では膨潤速度が低下し不溶解物が残存する傾向にある、40℃以上では膨潤が急激に起こるために中心部分が十分膨潤しない。
膨潤工程の後にセルロースアシレートを溶解するには、冷却溶解法、高温溶解法のいずれか、あるいは両方を用いることが好ましい。
【0024】
冷却溶解法、高温溶解法に関する具体的な方法としては、発明協会公開技報2001−1745,24頁左段の15行目から25頁左段の9行目の(冷却溶解法)、(高温溶解法)に記載のものを挙げることができる。
【0025】
上記で得られたドープのセルロースアシレートは場合により、更に溶解し易くするために低い濃度で溶解してから、しかる後に濃縮手段を用いて濃縮してもよい。具体的な方法としては、発明協会公開技報2001−1745,25頁左段の10行目から同28行目の(溶液濃縮)に記載のものを挙げることができる。
【0026】
溶液は流延に先だって金網、紙やネルなどの適当な濾材を用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を濾過除去しておくのが好ましい具体的な方法としては、発明協会公開技報2001−1745,25頁左段の29行目から右段の33行目の(ろ過)に記載のものを挙げることができる。
【0027】
本発明のセルロースアシレート溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤を加えることができる。添加剤の例としては、可塑剤、紫外線防止剤や劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)、剥離剤、微粒子等が挙げられる。具体的には発明協会公開技報2001−1745,16頁左段の28行目から22頁右段の下から5行目までに記載のものを挙げることができる。
【0028】
本発明のセルロースアシレート溶液を用いたフイルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフイルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフイルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解タンク(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)をストックタンクで一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡したり最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフイルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。
【0029】
本発明においては、得られたセルロースアシレート溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層流延するか、または二層以上のセルロースアシレート液を共流延する。共流延において、例えば、複数のセルロースアシレート溶液を流延する場合に、金属支持体の進行方向に間隔をおいて配置された複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフイルムを製造することができる。このような流延方法については、例えば、特開平11−198285号公報に記載されている。また、二つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってフイルムを製造することもできる。このような流延方法については、特開平6−134933号公報に記載されている。また、特開昭56−162617号公報に記載の、高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出す流延方法によりフイルムを製造することもできる。このような共流延を行なうことにより、前述の様に表面の乾燥における平滑化が進行するため面状の大幅な改良が期待できる。
【0030】
共流延の場合、各層の厚さに特に限定されないが、好ましくは外部層が内部層より薄いことが好ましい。その際の外部層の膜厚は、1〜50μmであることが好ましく、特に好ましくは1〜30μmである。ここで、外部層とは、二層の場合はバンド面(ドラム面)ではない面、三層以上の場合は完成したフイルムの両表面側の層を示す。内部層とは、二層の場合はバンド面(ドラム面)。三層以上の場合は外部層より内側に有る層を示す。
さらにセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)を同時に流延することもできる。
【0031】
本発明における、外部層、内部層を構成する溶液について記載する。単層流延の場合には外部層、内部層の区別はないが、共流延の場合には前記のように層を区別して考える。流延によって得られた未乾のフイルムは金属支持体から剥離が必要であり、実際には未乾フイルムを冷却してゲル化させ、剥離することになる。本発明者らの鋭意検討の結果、内部層にアルコール類を多量に添加することにより全体のゲル化が進行しやすくなり未乾燥状態での搬送性が向上することが明らかとなった。しかしながらアルコール添加により液安定性が低下するため、アルコールを直前に添加して直ちに流延することにより、液が白濁、析出する前に製膜を行うことができる。流延直前に添加するとは流延を行う1時間以内にアルコールを混合することを意味し、より好ましくは10分以内、更に好ましくは3分以内が好ましい。また、流延中にインラインで添加することにより添加1分以内に流延が行えるため、インライン添加が最も好ましい。
【0032】
共流延の場合、アルコール添加量は内外層同量であっても問題はないが、内部層のみにアルコールを添加するか、内部層に多く添加することがフイルム全体のゲル化適性、面状の観点から好ましい。
【0033】
金属支持体上におけるドープの乾燥温度は、30〜250℃であることが好ましく、40〜180℃であることがさらにが好ましい。ドープの乾燥温度については、特公平5−17844号公報に記載がある。更には、積極的に幅方向に延伸する方法もあり、本発明では、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、および同11−48271号の各公報に記載の延伸方法を用いることができる。フイルムの延伸は、一軸延伸でも二軸延伸でもよい。フイルムの延伸倍率(元の長さに対する延伸による増加分の比率)は、10〜30%であることが好ましい。
【0034】
乾燥後のセルロースアシレートフイルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常5〜500μmの範囲にあり、20〜250μmの範囲にあることが好ましく、30〜180μmの範囲にあることが最も好ましい。なお、フイルムの厚さは、光学用途としては、30〜110μmの範囲にあることが特に好ましい。フイルム厚さの調製は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0035】
ここで場合により、セルロースアシレートフイルムの表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフイルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。具体的には発明協会公開技報2001−1745,32頁左段の16行目から32頁右段の42行目に記載のものをあげることができる。
【0036】
用途によっては、セルロースアシレートフイルムの少なくとも一層に帯電防止層を設けたり、偏光子と接着するための親水性バインダー層が設けられることが好ましい。具体的には発明協会公開技報2001−1745,32頁右段の下から12行目から45頁左段の下から3行目に記載の層を設けることができる。
【0037】
セルロースアシレート溶液からなるセルロースアシレートフイルムは、様々な用途で用いることができる。具体的には、発明協会公開技報2001−1745,45頁右段の下から5行目以降に記載されている「14.用途」の項目を挙げることができる。
【0038】
【実施例】
各実施例において、セルロースアシレート、溶液およびフイルムの化学的性質および物理的性質は、以下のように測定および算出した。
【0039】
(0)セルロースアシレートの置換度(%)
酢化度はケン化法により測定した。乾燥したセルロースアシレートを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶媒(容量比4:1)に溶解した後、所定量の1N−水酸化ナトリウム水溶液を添加し、25℃で2時間ケン化した。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、上記と同様の方法により、ブランクテストを行った。そして、下記式に従って酢化度(%)を算出した。
酢化度(%)=(6.005×(B−A)×F)/W
式中、Aは試料の滴定に要した1N−硫酸量(ml)、Bはブランクテストに要した1N−硫酸量(ml)、Fは1N−硫酸のファクター、Wは試料質量を示す。
尚、複数のアシル基を含有する系では、そのpKaの差を使って、各アシル基の量を求めた。また、公知文献(T.Sei,K.Ishitani,R.Suzuki,K.Ikematsu Polymer Journal 17 1065(1985))に記載の方法によっても同様に求め、その値が正しいことを別途確認した。
さらに、これらにより求められた酢化度、その他のアシル基の量からモル分子量を考慮して置換度に換算した。
【0040】
(1)セルロースアシレートの粘度平均重合度(DP)
絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
ηrel =T/T0 T: 測定試料の落下秒数
[η]=(1nηrel )/C T0 :溶剤単独の落下秒数
DP=[η]/Km C: 濃度(g/l)
Km:6×10-4
【0041】
(2)溶液の安定性
得られた溶液またはスラリーの状態を常温(23℃)で20日間静置保存したまま観察し、以下のA、B、C、Dの4段階に評価した。
A:透明性と液均一性を示す。
B:若干の溶け残りがある、または少し白濁が見られる。
C:明らかな溶け残りがある、または溶液がゲル化している。
D:液は膨潤・溶解が見られず不透明性で不均一な溶液状態である。
【0042】
(3)溶液の粘度
作製したセルロースアシレート溶液の0℃および50℃における見掛け粘度はCone-plate型のセンサを用い、Rheometer( TA Instruments社)にて測定した。
【0043】
(4)フイルム面状
フイルムを目視で観察し、その面状を以下の如く評価した。
A:フイルム表面は平滑であり、きわめて面状が良好である。
B:フイルム表面は平滑であるが、まれに凹凸が認められる。
C:フイルム表面は平滑であるが、弱い凹凸が比較的多数見られる。
D:フイルム全面に弱い凹凸が認められる。
E:フイルムに強い凹凸が見られ、異物が見られる。
【0044】
(5)フイルムのヘイズ
ヘイズ計(1001DP型、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0045】
以下に実施例を挙げるが、これらの限定されるものではない。
(1−1)セルロースアシレート溶液の作製
下記の二種の溶解方法にてセルロースアシレート溶液を作製した。各本発明および比較例の詳細な溶剤組成については表1に記載した。なお、シリカ粒子(粒径20nm)、トリフェニルフォスフェート/ビフェニルジフェニルフォスフェート(1/2)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジンをそれぞれセルロースアシレートの0.5質量%、10質量%、1.0質量%添加した。また、剥離剤としてクエン酸をセルロースアシレートに対して200ppm添加した。尚、本発明における共流延の内部層、外部層を形成する液としてはアルコールを含まないでセルロースアシレート溶液を作製し、直前にアルコールを添加した。詳細は表1に合わせて示した。
【0046】
(1−1a)冷却溶解(表1に「冷却」と記載)
溶剤中に、よく攪拌しつつ表1記載のセルロースアシレートを徐々に添加し、室温(25℃)にて3時間放置し膨潤させた。得られた膨潤混合物をゆっくり撹拌しながら、−8℃/分で−30℃まで冷却、その後表1記載の温度まで冷却し6時間経過した後、+8℃/分で昇温し内容物のゾル化がある程度進んだ段階で、内容物の撹拌を開始した。50℃まで加温しドープを得た。
(1−1b)高圧高温溶解(表1に「高温」と記載)
溶剤中に、よく攪拌しつつ表1記載のセルロースアシレートを徐々に添加し、室温(25℃)にて3時間放置し膨潤させた。得られた膨潤混合物を、二重構造のステンレス製密閉容器に入れた。容器の外側のジャケットに高圧水蒸気を通すことで+8℃/分で加温し1MPa下、表1記載の温度で5分間保持した。この後外側のジャケットに50℃の水を通し−8℃/分で50℃まで冷却し、ドープを得た。
【0047】
(1−2)セルロースアシレート溶液の濾過
次に得られたドープを50℃にて、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)で濾過し、さらに絶対濾過精度0.0025mmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過した。
【0048】
(1−3)(1−2)の溶液を、特開昭56−162617号公報に記載の流延機を用いて流延し、120℃の環境下で30分乾燥して溶剤を蒸発させセルロースアシレートフイルムを得た。層構成は本発明においては二層または三層であり、二層ではバンド面から内部層/外部層の構成、三層では外部層/内部層/外部層のサンドイッチ型構成であった。詳細は表1に示した。
また、一部の実施例については、インラインでアルコールを添加し、流延直前で溶液を作製した。この系では、アルコール添加から1分以内に流延が行われていることになる(表中には「インライン添加」と記載)
【0049】
【表1】
【0050】
(1−3)結果
得られたセルロースアシレートの溶液およびフイルムを上述の項目に従って評価した。本発明のセルロースアシレート溶液およびフイルムは、フイルムの機械物性、光学物性において特に問題は認められなかった。一方、比較例では得られたフイルムの面状に問題が認められた。
【0051】
また、これらのフイルムを、製膜工程中の乾燥工程中にオンラインで、あるいはその後オフラインで130℃にて10%〜30%MD、TD延伸延伸した。これらは、延伸倍率に比例し40nm〜160nmにレターデーションを増加させることができた。
このようにして得たセルロースアシレートフイルムを、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載のVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載のOCB型液晶表示装置に用いたところ良好な性能が得られた。さらに、特開昭54−016575号公報に記載の偏光板として用いたところ、良好な性能が得られた。
【0052】
【表2】
【0053】
【発明の効果】
セルロースアシレートを実質的に非塩素系溶剤から構成される主溶剤とアルコールとの混合溶剤に溶解後、流延製膜することを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法であって、該セルロースアシレート溶液へのアルコール添加を流延直前に行うことを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法により、フイルムの面状を改良すると共に機械特性等で問題のないセルロースアシレートフイルムの製造方法を達成した。
Claims (11)
- セルロースアシレートを、実質的に非塩素系溶剤から構成される単独または複数の主溶剤に溶解後、流延製膜することを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法であって、該セルロースアシレート溶液へのアルコール添加を流延直前に行うことを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 該アルコールが、炭素数6以下の脂肪族系アルコールであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- アルコールの添加をインライン添加で行うことを特徴とする請求項1もしくは2に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 共流延法により二層以上の層を流延製膜することを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法であって、内部層の溶液中、外部層の溶液に共にアルコールを添加することを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 内部層のみにアルコールを直前添加するか、または外部層に対して内部層へのアルコール添加量が1.05倍乃至6.0倍であることを特徴とする請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 該セルロースアシレート溶液の主溶剤が、少なくとも溶解度パラメータ19乃至21のケトン類と溶解度パラメータ19乃至21エステル類の混合溶剤からなることを特徴とする請求項1乃至5のうちのいずれかの項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 溶剤とセルロースアシレートの混合物を、−80〜−10℃、又は80〜220℃の温度に曝して溶解することを特徴とする請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- セルロースアシレートフイルムが二層以上の多層構造を有し、該セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の側の外部層の厚さが1〜50μmの範囲にあることを特徴とする請求項4乃至7のうちのいずれかの項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- セルロースアシレートフイルムが三層以上の多層構造を有し、該セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の側の外部層の厚さが1〜50μmの範囲にあることを特徴とする請求項4乃至7のうちのいずれかの項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 各層を同時に流延製膜することを特徴とする請求項4乃至から9のうちのいずれかの項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 少なくとも一方の外部層に剥離剤を含有することを特徴とする請求項4乃至10のうちのいずれかの項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
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