JP4614197B2 - 金属酸化物短繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属酸化物短繊維を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ウィスカ等の単結晶或いは多結晶から成る金属酸化物短繊維は、例えば、ガス・センサ、電極材料、触媒材料等の種々の用途に適用することが期待されている。例えば、酸化錫焼結体等は、その優れた耐薬品性および耐熱性と、添加物を調節することにより導電性を容易に制御できる利点等から大気中のガス成分を検出するためのガス・センサに用いられているが、体積当たりの表面積が小さいことから検出感度、応答速度、および消費電力の面で何れも不十分であるため、短繊維でガス・センサを構成することが望まれているのである。なお、薄板状の酸化錫焼結体を用いれば、体積当たり表面積を増大できるが機械的強度が不足する。また、金属細線の外周面に酸化錫等の酸化物半導体を固着させた素子も提案されているが、固着強度が十分ではない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来、上記のような金属酸化物短繊維を製造する方法として、例えば、特開昭60−54997号公報、特開昭60−161337号公報、或いは特開昭62−158199号公報等に記載されているような溶融析出法でウィスカを製造する方法や、特開平4−352807号公報、特開平5−117906号公報、或いは特開平5−179512号公報に記載されているようなゲルファイバーを曳糸、熱処理する方法等が用いられていた。
【0004】
しかしながら、前者の方法では、酸化錫を溶質として含む銅溶液を、例えば4〜20日程度の長期間に亘って1050〜1250(℃)程度の高温に維持することで酸化錫繊維を析出させることから、処理時間が極めて長いため、工業的に用い得ない。しかも、半導体ガス・センサは粒界部分の抵抗変化を検知するため、粒界の無い単結晶のウィスカでは高感度が得られない問題もある。また、後者の方法では、金属塩化物等をアルコール等の有機溶剤に溶解した溶液を濃縮した高粘性のゾルを引き上げることによってゲルファイバーを作製した後、このゲルファイバーを1日放置して乾燥する処理が必要であるため、溶融析出法の場合ほどではないものの処理時間が比較的長くなる問題がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、金属酸化物短繊維を短時間で製造する方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、所定の金属イオンを含む酸性溶液を作製する工程と、その酸性溶液にアルカリ水溶液を添加することによりその所定の金属の水酸化物微粒子を析出させる析出工程とを含み、その金属の酸化物短繊維を製造する方法であって、(a)前記金属水酸化物が析出した溶液からその金属水酸化物を回収する水酸化物回収工程と、(b)その金属水酸化物にカーボン微粒子を混合するカーボン混合工程と、(c)その混合物を非還元雰囲気中において900(℃)以上の所定温度で熱処理することにより金属酸化物短繊維を得る熱処理工程とを、含むことにある。
【0007】
【発明の効果】
このようにすれば、析出工程において析出させられ且つ水酸化物回収工程において回収された金属水酸化物は、カーボン混合工程においてカーボン微粒子と混合された後、熱処理工程において非還元雰囲気中で900(℃)以上の温度で熱処理を施されることにより金属酸化物短繊維に変化させられる。そのため、所謂無機塩化学プロセスを利用した製造工程において、析出した水酸化物の熱処理に先立ってこれにカーボン微粒子を混合し、所定の温度で熱処理を施すだけで金属酸化物短繊維が得られることから、溶液から酸化物繊維を析出させる場合や、ゲルファイバーを曳糸、熱処理する場合のような処理に長時間を必要とすることが無いので、金属酸化物短繊維を短時間で容易に製造することができる。しかも、特殊な原料や設備も必要とせず、簡便な水系合成プロセスで金属酸化物短繊維が得られることから、量産性に優れ且つ低コストで更に環境負荷が低い利点がある。なお、熱処理温度が900(℃)未満では結晶成長が生じないか成長速度が極めて遅くなる。900(℃)以上の温度であれば、短繊維が保たれる温度、すなわち金属酸化物が昇華し或いは溶融しない範囲で適宜の温度で処理することができる。
【0008】
因みに、無機塩化学プロセスは、図1に工程図を示すものであって、例えばThe Stanic oxide Gas Sensor, CRC Press(1994年刊)11〜47頁等に記載されている金属酸化物合成方法である。この合成方法によれば、析出した水酸化物を乾燥して非還元雰囲気中で熱処理することにより、容易に金属酸化物が生成される。しかしながら、この合成方法では、析出したnmレベルの水酸化物微粒子が乾燥および熱処理過程で凝集させられることにより粗大粒子(二次粒子)となる。そのため、従来は、この粗大粒子を機械的な方法で粉砕することによって微粉末を得ていたことから、無機塩化学プロセスを利用して金属酸化物短繊維を得ることはできなかった。
【0009】
これに対して、本発明者等は、先に出願した未公開の特願2000−399199号において、析出した水酸化物にカーボン微粒子を混合して熱処理を施すことにより微細な粉末を得ることを要旨とする金属酸化物微粒子の製造方法を提案した。カーボン微粒子の添加により金属水酸化物微粒子相互の結合が抑制され延いては微細な粉末が得られるのは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、従来において粉末合成のために施されていた熱処理では、水酸化物の一次粒子が相互に結合させられて粗大になることから、その一次粒子がナノスケールの微粒子であっても粗大な二次粒子しか得られなかった。しかしながら、金属水酸化物にカーボン微粒子が混合されると、そのカーボン微粒子は熱処理工程において加熱されることにより酸化させられて、水酸化物の塊の中で二酸化炭素にガス化して高圧力を発生させる。そのため、その圧力で乾燥状態の二次粒子が数十(nm)レベルの一次粒子に粉砕され、そのまま酸化されて金属酸化物微粒子に生成されるのである。なお、カーボン微粒子はこのようにガス化して焼失させられるため、添加されたカーボン微粒子が金属酸化物微粒子中に残留し、その純度を低下させることはない。
【0010】
本発明者等は、上記のような金属酸化物微粒子の製造方法において、適切な処理条件を見出すべく種々検討を重ねるうち、熱処理温度を高くすると生成した金属酸化物微粒子の結晶が一方向に成長(異方粒成長)するため繊維状となることを見出した。本発明は斯かる知見に基づいて為されたものである。なお、従来の無機塩化学プロセスでは、金属塩化物を出発原料に用い且つこれを溶媒に溶解して酸性溶液を作成していた。しかしながら、本発明は、酸とアルカリの中和反応による金属酸化物の析出を利用するものであるので、酸化物を得ようとする金属のイオンを含む酸性溶液が得られるのであれば、その作成方法は特に限定されない。
【0011】
【発明の他の態様】
ここで、好適には、前記カーボン微粒子は、前記金属水酸化物に対して質量比で1.5(%)以上の割合で混合されるものである。このようにすれば、金属水酸化物に対するカーボン微粒子の混合割合が適度な範囲に設定されていることから、金属水酸化物の塊が一層確実に一次粒子に分解され、その一次粒子から好適に金属酸化物短繊維が成長する。なお、塊を個々の一次粒子に分解するために必要な量以上にカーボン微粒子を過剰に混合した場合には、その過剰量のカーボン微粒子が無駄に消費されることにはなるが、適量が混合された場合と同様に、nmオーダの微細な粒子径を備えた金属酸化物微粒子が生成し、延いては金属酸化物短繊維を得ることができる。すなわち、カーボン微粒子の混合割合は、塊に含まれる金属水酸化物の全量を一次粒子に分解するために十分な割合であれば、その上限は特に限定されない。
【0012】
また、好適には、前記カーボン微粒子は、1乃至50(nm)の一次粒子径を備えたものである。このようにすれば、添加するカーボン微粒子の粒子径が十分に小さいことから、水酸化物中において高い分散性が得られるので、少ない添加量で水酸化物の全量を一次粒子に分解することができる。なお、一次粒子径が1(nm)未満になると凝集等に起因して却って水酸化物に一様に混合することが困難になる。
【0013】
また、好適には、前記カーボン微粒子は、乱層黒鉛構造を備えたものである。このようなカーボン微粒子は流動性に富むため、水酸化物中における分散性を一層高めることができる。
【0014】
また、好適には、前記所定の金属は、シリコン、マンガン、ジルコニウム、クロム、鉄、ニッケル、錫、亜鉛、インジウム、アルミニウム、セリウム、マグネシウム、およびチタンのうちから選択された一乃至複数の金属である。これらの金属は、その水酸化物が水に不溶であることから、容易に酸化物を合成することができる。
【0015】
また、好適には、前記酸性溶液を作成する工程は、前記所定の金属の塩を溶媒に溶解するものである。すなわち、金属イオンを含む酸性溶液は、その金属の塩を溶媒に溶解するだけで容易に製造することができる。一層、好適には、前記金属の塩は、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、および塩化物の何れかである。
【0016】
また、好適には、前記アルカリ水溶液は、アンモニア水である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の金属酸化物短繊維の製造方法は、金属イオンを含む酸性溶液を作製する酸性溶液作成工程と、析出工程と、水酸化物回収工程と、カーボン混合工程と、熱処理工程とから成る。金属酸化物短繊維の用途は、例えば、ガス・センサ等の電子セラミックス用材料、新機能性材料、および強化繊維等が挙げられるが、これらの他、種々の用途に用いられる金属酸化物短繊維の製造方法にも本発明は適用される。本発明は、酸性溶液を構成する溶媒に不溶或いは難溶な水酸化物を形成し得るものであれば、種々の金属に適用し得る。
【0018】
酸性溶液作成工程は、所定の金属すなわち製造しようとする金属酸化物を構成する金属のイオンを含む酸性溶液を作成し得るものであれば、その方法は特に限定されない。すなわち、前記従来の無機塩化学プロセスの如く塩化物を溶媒に溶解する溶解工程であってもよく、他の種々の無機塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等)や有機塩(例えば、酢酸塩等)等の金属化合物を溶媒に溶解する工程や、金属を酸に溶解する工程、キレート(錯体)に酸を加える工程等であってもよい。溶媒に金属化合物を溶解する場合には、その金属化合物は、例えば、スピネルやペロブスカイト等の構造を備えたものであってもよい。
【0019】
例えば、金属化合物を溶媒に溶解して酸性溶液を作成する場合には、目的生成物である金属酸化物短繊維を構成する金属の適宜の塩であって、水溶液が酸性となるものを出発原料に用いることができる。例えば、酸化錫(SnO2)を製造する場合には四塩化錫(SnCl4)等が、酸化亜鉛(ZnO)を製造する場合には、塩化亜鉛(ZnCl2)等が、酸化アルミニウム(Al2O3)を製造する場合には、塩化アルミニウム(AlCl3)や酢酸アルミニウム(Al(CH3COO)3)等が、酸化セリウム(CeO2)を製造する場合には、硝酸セリウム(Ce(NO3)3)や塩化セリウム(CeCl3)等が、酸化クロム(Cr2O3等)を製造する場合には、酢酸クロム(Cr(CH3COO)3)が、酸化マンガン(MnO2等)を製造する場合には、酢酸マンガン(Mn(CH3COO)3)等が好適に用いられるが、この他、硫酸塩、炭酸塩等を用いることもできる。また、金属の塩が溶解させられる溶媒は、例えば蒸留水であるが、水溶性のアルコール等を混合しても差し支えない。溶媒と金属の塩との混合割合すなわち酸性溶液(金属溶液)の濃度は、所望とする金属水酸化物の一次粒子径延いては短繊維径等に応じて、予備実験等に基づいて適宜定められる。
【0020】
また、金属を酸に溶解して酸性溶液を作成する方法は、例えば、ニッケルや鉄等の金属に適用することができ、金属を溶解させる酸は、塩酸(HClの水溶液)等を用いることができる。例えば、ニッケルに塩酸を作用させればニッケル・イオン(Ni2+)を含む酸性溶液が得られ、鉄に塩酸を作用させれば鉄イオン(Fe2+)を含む酸性溶液が得られる。なお、金属は、板状或いは粉状等の適宜の形態のものを用い得る。
【0021】
また、キレートに酸を加えて酸性溶液を作成する方法は、例えば、エチレンジアミン四酢酸とNiとにより構成されたエチレンジアミンテトラアセタト錯体や、Ni吸着イミノ2酢酸型キレート樹脂等のキレートに適用することができ、これらに作用させる酸は、例えば塩酸を用いることができる。これらに塩酸を作用させるとNi2+が放出され、Ni2+を含む酸性溶液が得られる。
【0022】
また、析出工程において酸性溶液から金属水酸化物を析出させるためにこれに添加されるアルカリ水溶液としては、例えば、アンモニア水等が好適に用いられる。但し、アルカリ水溶液は、酸性溶液を金属の種類毎に定められる水酸化物の析出に好適な適宜のpH(水素イオン指数)のアルカリ性に変化させ得ると共に、金属水酸化物の析出および回収の妨げと成らないものであれば、水溶性アミン類等、適宜のものを用い得る。上記のアンモニア水は、種々の金属材料に対して上記の条件を満たしており汎用性の高いものである。析出する金属水酸化物の粒径は、その金属の種類やアルカリ水溶液を添加した後のpHに影響されるため、そのアルカリ水溶液の濃度および添加量は、所望とする短繊維径に応じて適宜変更すべきものである。
【0023】
また、金属水酸化物が析出した溶液からその金属水酸化物を回収する水酸化物回収工程は、溶液から金属水酸化物を選択的に回収し得るものであれば適宜の方法を採用し得る。例えば、水溶液の濾過工程および洗浄工程による方法が簡便である。これらの工程により、析出した金属水酸化物以外の成分、すなわち酸性溶液中に存在していた陰イオンおよびアルカリ水溶液から生じた陽イオンが除去され、目的生成物である金属水酸化物だけを回収することができる。また、遠心分離法を用いて金属水酸化物を回収することも可能である。
【0024】
また、カーボン混合工程において上記のようにして回収された金属水酸化物に混合されるカーボン微粒子は、例えば、一次粒子径が1〜50(nm)程度で流動性に優れ、炭素の乱層黒鉛構造を備えた所謂粉状のカーボン・ブラックである。このようなカーボン・ブラックは、水中分散性が良好で、CO2に酸化し易い、すなわち燃え抜け易い利点がある。なお、カーボン微粒子は、粉状のものの方がこれを造粒した粒状のものよりも分散性の点で好ましい。
【0025】
そして、熱処理工程では、例えば、金属水酸化物の塊に残留していた水分が十分に除去される程度にその金属水酸化物とカーボン微粒子との混合物を乾燥し、更に、非還元雰囲気中において、水酸化物から酸化物が生成する所定温度で熱処理(結晶化)する。このとき、乾燥温度および熱処理温度は、金属の種類や金属水酸化物の粒径等に応じて、確実に酸化物が生成し、且つ所望の長さおよび直径の短繊維が得られる程度まで結晶成長が十分に進む範囲で適宜選ばれる。例えば、酸化錫短繊維を得る場合には、乾燥温度が例えば50〜200(℃)程度、熱処理温度が例えば900〜1850(℃)程度の範囲内で設定される。この熱処理温度の上限は、酸化錫の昇華温度に略等しい。なお、非還元雰囲気としては、例えば、酸化雰囲気の他、大気雰囲気等が挙げられる。また、熱処理時間が長いほど太く且つ長い短繊維が得られるが、好適な熱処理時間は、例えば、5分〜100時間程度である。5分未満では十分に結晶成長が進まないので繊維状のものが殆ど得られず、100時間を越えると等方的な粒成長が起こって繊維状にならないものも生じてくるため収率が低下する傾向がある。
【0026】
【実施例】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図2は、金属(錫)の塩である四塩化錫を出発原料として酸化錫短繊維を製造する場合の工程流れ図の一例である。図において、溶解工程10においては、四塩化錫、例えば四塩化錫5水和物18(g)に蒸留水500(ml)を加え、十分に攪拌することにより溶解して四塩化錫水溶液を作製する。この場合、四塩化錫水溶液の濃度は、2.6(%)程度になる。この水溶液中において、四塩化錫は錫イオンSn4+およびCl-にイオン化しており、本実施例においては、このような出発原料がイオン化した水溶液の状態から合成が開始する。すなわち、上記の溶解工程10が、酸性溶液作成工程に対応する。次いで、攪拌工程12においては、その水溶液を攪拌しつつ、例えば25(%)アンモニア水を20(ml)滴下する。これにより、下記の反応式(1)に示される反応により、水酸化錫(Sn(OH)4)が白色沈殿となって析出する。本実施例においては、この攪拌工程12が析出工程に対応する。なお、析出した水酸化錫は、平均粒径が数(nm)程度のナノ粒子である。また、このとき、水溶液中には塩素イオンCl-およびアンモニウム・イオンNH4 +が存在している。
【0028】
SnCl4+4NH4OH → Sn(OH)4+4Cl-+4NH4 + ・・・(1)
【0029】
続く濾過工程14および洗浄工程16においては、白色沈殿が析出した水溶液の濾過および蒸留水による沈殿物の洗浄を複数回(例えば3回程度)繰り返すことにより、水酸化錫を回収する。すなわち、沈殿物からアンモニウム・イオンや塩化物イオン等の不純物を除去する。本実施例においては、これら濾過工程14および洗浄工程16が水酸化物回収工程に対応する。このようにして回収された沈殿物は、僅かに流動性を有する微細な水酸化錫粒子(無機塩)の塊であり、酸化錫に換算して例えば5(%)程度の濃度で錫を含む。
【0030】
続く混合工程18においては、上記の水酸化錫粒子の塊6(g)にカーボン・ブラックを1(g)の割合、すなわち質量比で水酸化錫の塊100(%)に対して17(%)程度の割合で混合する。これらの割合は、体積比では水酸化錫(100vol%)に対してカーボン微粒子が100(vol%)程度である。このカーボン・ブラックと水酸化錫との混合は、例えばミキサ、ローラ、乳鉢等適宜の方法で行うことができる。
【0031】
続く乾燥工程20においては、上記のようにカーボン・ブラックを混合した塊を、大気雰囲気中において、内部に含まれる水分が十分に除去できる程度の温度および時間、例えば70(℃)程度の温度で18時間程度乾燥する。なお、乾燥処理を施した後には、錫と酸素との緩やかな結合状態が生じ、X線回折によって酸化錫のブロードなピークが認められる。
【0032】
そして、熱処理工程22においては、上記の乾燥処理を施した塊を、大気雰囲気中すなわち非還元雰囲気において、水酸化錫粒子から酸化錫が生成されるような所定の温度および時間、例えば1000(℃)程度の温度で2時間程度の加熱処理(焼成処理)を施す。これにより、酸化錫が生成されると同時に、塊であった乾燥体が熱処理の過程で平均粒径で50(nm)程度の粒子単位に分解され、更に、その酸化錫が異方粒成長し、直径が0.2〜5(μm)程度で長さ寸法が5〜100(μm)程度の種々の大きさの酸化錫短繊維(例えばウィスカ)が得られる。このようにして得られた短繊維は例えば多結晶体であって、そのアスペクト比は例えば20以上であった。
【0033】
要するに、本実施例によれば、攪拌工程12において析出させられ且つ濾過工程14および洗浄工程16において回収された水酸化錫粒子は、カーボン混合工程18においてカーボン微粒子と混合された後、熱処理工程22において非還元雰囲気中で900(℃)以上の温度で熱処理を施されることにより酸化錫短繊維に変化させられる。そのため、従来から知られる無機塩化学プロセスを用いた酸化錫微粒子の合成工程において、水酸化錫の乾燥工程20および熱処理工程22等の加熱処理に先立ってカーボン微粒子を混合し、所定の温度で熱処理を施すだけで酸化錫短繊維が得られることから、溶液から酸化錫繊維を析出させる場合や、ゲルファイバーを曳糸、熱処理する場合のような処理に長時間を必要とすることが無いので、酸化錫短繊維を短時間で容易に製造することができる。しかも、従来に比較して特に工程が複雑化することも無く且つ特殊な原料や設備も必要とせず、簡便な水系合成プロセスで短繊維が得られることから、量産性に優れ且つ低コストで更に環境負荷が低い利点がある。
【0034】
そのため、このようにして製造された酸化錫短繊維は、ガス・センサ等の電子セラミックス、或いは量子効果を利用した新機能性セラミックス等に好適に用いることができる。
【0035】
ここで、前記の製造工程における処理条件等を種々変更して生成される酸化錫の形態を確かめた実験結果について説明する。下記の表1において、「実施例1」は、前述の製造方法と同じ条件で処理したものである。「比較例1」は熱処理温度を800(℃)とした他は実施例1と同じ条件とした。また、「比較例2」は、比較例1で得られた微粒子を、放冷後、更に1000(℃)で熱処理したものである。また、「比較例3」は、カーボンを添加しない他は実施例1と同じ条件で処理したものである。なお、比較例2で得られた微粒子は、比較例1のものよりも粗大であった。
【0036】
【0037】
上記の表1から明らかなように、処理温度が800(℃)では微粒子が生成されるのみで短繊維は得られない。また、比較例2のように800(℃)で熱処理をした後、更に1000(℃)で再熱処理を施しても、生成された微粒子から異方結晶成長は生じず、短繊維は得られなかった。これは、微粒子が冷却されると結晶が安定化するためと考えられる。また、比較例3に示すように、カーボンを添加しない場合には、二酸化炭素ガスによる凝集粒の破壊効果が得られないため、1000(℃)で熱処理しても粒子が粗大化するだけである。
【0038】
また、前記の熱処理工程22における処理温度を800〜1400(℃)の範囲で種々変更して生成物を確認したところ、900,910,920,930,940,1100,1200,1300,1400(℃)の各温度において何れも短繊維が生成されることが確かめられた。なお、処理時間は、何れも2時間とした。図3〜図14は、800,910,920,940,1000,1200,1300,1400(℃)の各温度で処理した場合の生成物の顕微鏡写真である。処理温度、倍率、およびスケールは個々の写真の左下部分に示した。
【0039】
図3〜図5は、800(℃)で処理したものを5000倍、10000倍、15000倍の各倍率で観察した写真である。この温度では微粒子が存在するのみであって、短繊維は全く見出すことができなかった。前述したように、短繊維の生成には800(℃)では不十分である。
【0040】
図6は、910(℃)で処理したものを5000倍で観察した写真である。微粒子も相当量残存するが、直径が0.5(μm)程度以上、長さ寸法が10(μm)程度以上の短繊維も多数見られる。図7は、920(℃)で処理したものを5000倍で観察した写真である。直径が1(μm)程度まで増大していることが判る。また、図8に示すように、940(℃)で処理したものは更に成長し、直径が数(μm)程度に、長さ寸法が50(μm)程度以上にまで増大する。すなわち、処理温度が高温になるほど、結晶成長が著しくなる。また、900(℃)以上の温度で熱処理すれば短繊維を得られることが判る。なお、図8では、短繊維を1000倍で観察した。
【0041】
また、図9〜図11に示すように、1000(℃)で処理すると、更に直径、長さ寸法共に増大すると共に、何ら拘束されることなく結晶成長して酸化錫特有の六角柱状の自形を有することとなった短繊維が顕著に見られる。各図において、写真の拡大率はそれぞれ1000倍、5000倍、10000倍であり、図10は図9の中央部、図11は図10の中央部をそれぞれ拡大したものである。この程度の温度になると酸化錫微粒子は殆ど見られず、大部分が短繊維に成長するものと考えられる。また、1200〜1400(℃)では、図12〜図14に示すように、更に結晶成長が著しくなる傾向が見られ、1400(℃)では長さ寸法が1(cm)程度のものも見出された。図12,13は1000倍、図14は35倍にそれぞれ拡大して示した。
【0042】
以上のように、900(℃)以上の温度範囲では、焼成温度が高くなるほど短繊維が太く且つ長くなることが確かめられたが、実験した範囲では処理温度の上限を見出すことはできなかった。酸化錫は1850(℃)程度で昇華することが知られており、この温度までは上記の傾向が維持されるものと考えられる。すなわち、酸化錫短繊維は、900(℃)〜1850(℃)の範囲内の温度で熱処理すれば得ることができる。
【0043】
次に、本発明の他の実施例を説明する。図15は、硝酸セリウムを出発原料として酸化セリウムを製造する場合の工程流れ図の一例である。この工程流れ図は、前記図2に示される工程流れ図において、洗浄工程16が設けられていない他は、出発原料と生成物が異なるのみである。
【0044】
図において、溶解工程10では、硝酸セリウム六水和物22(g)に蒸留水500(ml)を加え、十分に攪拌することにより溶解して無色透明の硝酸セリウム水溶液を作製する。この水溶液中においても、四塩化錫の場合と同様に、硝酸セリウムはセリウム・イオンCe3+および硝酸イオンNO3 -にイオン化している。次いで、攪拌工程12においては、その水溶液を攪拌しつつ、例えば25(%)アンモニア水を50(ml)滴下する。これにより前記の反応式(1)と同様な中和反応が生じ、水酸化セリウム(Ce(OH)3)が褐色沈殿となって析出する。なお、このようにして析出した水酸化セリウムも、平均粒径が数(nm)程度のナノ粒子である。
【0045】
続く濾過工程14においては、褐色沈殿が析出した水溶液を吸引濾過することにより、水酸化セリウムを回収する。この回収物も、僅かに流動性を有する微細な水酸化セリウム粒子(無機塩)の塊である。なお、水酸化セリウムは塩基性(pH>7)の水溶液中のみに存在し得るので、水洗を施すと再溶解して沈殿を回収できない。また、水洗を施さなくとも長時間放置して水溶液中のアンモニアが減少し、pHが低くなった場合も同様である。このため、本実施例のように酸化セリウムを製造する場合には、沈殿が生じたら水洗することなく速やかに沈殿物を回収し、次工程に進む必要がある。したがって、回収した沈殿物中には、硝酸イオン(NO3 -)やアンモニウム・イオン(NH4 +)等が含まれている。
【0046】
続く混合工程18においては、上記の水酸化セリウム粒子の塊7(g)にカーボン・ブラックを1.1(g)の割合、すなわち質量比で水酸化セリウムの塊100(%)に対して16(%)程度の割合で混合する。これらの割合は、体積比では水酸化セリウム(100vol%)に対してカーボン微粒子が100(vol%)程度である。このカーボン・ブラックと水酸化セリウムとの混合は、例えばミキサ、ローラ、乳鉢等適宜の方法で行うことができる。なお、ここで添加するカーボンの適量は、前述した酸化錫の場合と略同じであった。
【0047】
続く乾燥工程20においては、上記のようにカーボン・ブラックを混合した塊を、大気雰囲気中において、内部に含まれる水分が十分に除去できる程度の温度および時間、例えば70(℃)程度の温度で18時間程度乾燥する。乾燥処理を施した後には、セリウムと酸素との緩やかな結合状態が生じ、X線回折によって酸化セリウムのブロードなピークが認められる。
【0048】
そして、熱処理工程22においては、上記の乾燥処理を施した塊を、大気雰囲気中すなわち非還元雰囲気において、水酸化セリウム粒子から酸化セリウムが生成されるような所定の温度および時間、例えば1000(℃)程度の温度で2時間程度の加熱処理(焼成処理)を施す。なお、沈殿物中に残存していた硝酸イオンおよびアンモニウム・イオン等は、この過程で除去される。これにより、酸化セリウムが生成されると同時に、塊であった乾燥体が熱処理の過程で平均粒径で50(nm)程度の粒子単位に分解され、更に、その酸化セリウムが異方粒成長して、酸化セリウム短繊維(例えばウィスカ)が得られる。
【0049】
すなわち、無機塩化学プロセスを利用した酸化セリウムの合成において、回収された水酸化錫粒子がカーボン微粒子と混合された後、非還元雰囲気中で結晶成長が生じるような900(℃)以上の温度で熱処理を施されるため、簡単な工程で酸化セリウム短繊維を得ることができるのである。
【0050】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施できる。
【0051】
例えば、実施例においては、電子セラミックス等に好適な酸化錫短繊維および酸化セリウム短繊維の製造方法に本発明が適用されていたが、本発明は異方粒成長が生じ得る種々の金属酸化物或いはそれに類するものの短繊維の製造方法に適用し得るので、繊維化することで性能向上が期待できる種々の用途の金属酸化物短繊維の製造方法にも同様に適用される。
【0052】
また、実施例においては、カーボン微粒子に粉状のものを用いていたが、その形状や物性は、金属酸化物の種類に応じて、所望の粒径の粉末が得られるように適宜変更される。例えば、粒状のカーボンを用いることもできる。
【0053】
なお、実施例ではカーボンを水酸化錫や水酸化セリウムの100(%)に対して質量比で16〜17(%)程度、体積比で100(vol%)程度添加していたが、添加量は、例えば水酸化物100(%)に対して質量比で1.5(%)程度、体積比で10(vol%)程度以上であれば十分である。
【0054】
また、実施例においては、酸化錫短繊維を得るための焼成温度の上限が例えば1850(℃)程度であったが、この温度は金属酸化物の種類毎の昇華或いは溶融温度に応じて、それよりも低い温度に設定される。
【0055】
また、実施例においては、塩化物および硝酸塩が出発原料として用いられた場合について説明したが、これらの他、酢酸塩や硫酸塩等の金属の種類に応じた適宜の塩や、金属、キレート等を出発原料として用いることができる。
【0056】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の酸化錫の合成方法を説明する工程図である。
【図2】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の製造方法を説明する工程図である。
【図3】比較例の熱処理後の酸化錫の形状を示す顕微鏡写真である。
【図4】図3の酸化錫の形状を更に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図5】図3の酸化錫の形状を更に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図6】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図7】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図8】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図9】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図10】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図11】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図12】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図13】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図14】本発明の一実施例の酸化錫短繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図15】本発明の他の実施例の酸化セリウム短繊維の製造工程を説明する工程図である。
【符号の説明】
{14 濾過工程、16 洗浄工程}(水酸化物回収工程)
18 混合工程
22 熱処理工程
Claims (5)
- 所定の金属イオンを含む酸性溶液を作製する工程と、その酸性溶液にアルカリ水溶液を添加することによりその所定の金属の水酸化物微粒子を析出させる析出工程とを含み、その金属の酸化物短繊維を製造する方法であって、
前記金属水酸化物が析出した溶液からその金属水酸化物を回収する水酸化物回収工程と、
その金属水酸化物にカーボン微粒子を混合するカーボン混合工程と、
その混合物を非還元雰囲気中において900(℃)以上の所定温度で熱処理することにより金属酸化物短繊維を得る熱処理工程と
を、含むことを特徴とする金属酸化物短繊維の製造方法。 - 前記カーボン微粒子は、前記金属水酸化物に対して質量比で1.5(%)以上の割合で混合されるものである請求項1の金属酸化物短繊維の製造方法。
- 前記所定の金属は、シリコン、マンガン、ジルコニウム、クロム、鉄、ニッケル、錫、亜鉛、インジウム、アルミニウム、セリウム、マグネシウム、およびチタンのうちから選択された一乃至複数の金属である請求項1の金属酸化物短繊維の製造方法。
- 前記酸性溶液を作成する工程は、前記所定の金属の塩を溶媒に溶解するものである請求項1の金属酸化物短繊維の製造方法。
- 前記金属の塩は、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、および塩化物の何れかである請求項4の金属酸化物短繊維の製造方法。
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