JP4578716B2 - ガソリン潤滑摺動部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガソリン浴中において摺動するガソリン潤滑摺動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車などに用いられるガソリン潤滑摺動部材には、例えば燃料ポンプのプランジャ、ピストンのピストンヘッド、燃料噴射弁のバルブニードルなどがある。
これらガソリン潤滑摺動部材の摺動面には、耐摩耗性、耐焼き付き性などを向上させるため、樹脂やセラミックなどによる被膜が形成される場合が多い。例えば、直噴エンジンに用いられる燃料噴射ポンプのプランジャの摺動面には、NiP−PTFE膜が形成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら近年、ガソリン潤滑摺動部材の摺動環境は悪化の一途をたどっている。その理由は、近年における社会的要請により、低燃費化や強化された排ガス規制への対応が急務となっているためである。例えば直噴エンジン用の燃料噴射ポンプにおいては、燃料噴射弁から燃焼室に噴射されるガソリンの微細化を図るため、噴射圧力を上げる必要があり、そのため摺動面に加わる面圧も上がっている。
【0004】
このように悪化した摺動条件下で従来のガソリン潤滑摺動部材を使用すると、母材上の被膜が摩耗したり、また母材から被膜が剥離したりするおそれがある。
【0005】
そこで、従来のガソリン潤滑摺動部材に用いられた被膜よりも、さらに摺動特性に優れた被膜の開発が急務となっている。ここで本発明者は、種々の被膜の中からDLC膜(ダイヤモンド−ライク−カーボン膜)に注目した。DLC膜は非晶質炭素のことであり、微視的にはダイヤモンド結合を有する。このため硬度が非常に高くまた摩擦係数が低い。このような優れた摺動特性を有するため、DLC膜は従来から摺動材として使用されていた。
【0006】
しかしながら、DLC膜は無潤滑条件下で使用される場合が多かった。例えば、磁気ディスクにおける保護膜などでは実績ある被膜と言える。しかし、こういった使用環境では無潤滑状態とはいえ、接触時の荷重が低く、DLC膜と母材は低い密着力であっても機能を満足することができる。しかし、ガソリン摺動部材として用いる場合は、被膜が摩耗して母材が露出したり、密着力が低くて被膜が剥離してしまうと、鋼材同士の摺動となって焼き付きが発生してしまうため、製品機能を満足できなくなってしまう。つまり、ガソリン摺動部材においては、DLC膜の耐焼き付きや耐摩耗性を向上させ、製品機能を保証するために、被膜特性(組成、膜厚、硬さ、密着力等)の最適化が不可欠である。
【0007】
本発明のガソリン潤滑摺動部材は上記課題に鑑みて完成されたものである。すなわち本発明は、耐摩耗性や耐焼き付き性などに優れたガソリン潤滑摺動部材を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明のガソリン潤滑摺動部材は、摺動部と、摺動部の摺動面に形成されるDLC膜と、を備え、前記DLC膜はCとHとSiおよび不可避の不純物とからなり、該DLC膜中のSi/C重量%比は0<Si/C≦0.7であることを特徴とする。
【0009】
つまり、本発明のガソリン潤滑摺動部材は、摺動部の摺動面に、樹脂やセラミックによる被膜ではなく、DLC膜を形成するものである。上述したように、DLC膜は硬度が非常に高く摩擦係数が低い。
【0010】
本発明によると、DLC膜を摺動部の摺動面に形成することより、ガソリン浴中における耐摩耗性および耐焼き付き性に優れたガソリン潤滑摺動部材を提供することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のガソリン潤滑摺動部材の実施の形態について説明する。
【0012】
(1)DLC膜
まず摺動部の摺動面に形成されるDLC膜の実施形態について説明する。DLC膜はCとHとSiおよび不可避の不純物とからなり、このDLC膜中のSi/C重量%比を0<Si/C≦0.7とする。
【0013】
DLC膜をCとHとSiにより構成したのは、これらの元素を用いたDLC膜は、DLC膜特有の高硬度と低摩擦係数という特長を、Si/C重量%比で広範囲において維持することができ、しかもSiを含有させることで成膜速度が向上するからである。
【0014】
また、Si/C重量%比を0<Si/C≦0.7としたのは、後述する実験により明らかになったことだが、ガソリン浴中においては、Si/C重量%比が0.7を超えると耐焼き付き性が低下するためである。
【0015】
DLC膜の膜厚は、0.5μm以上10μm以下とするのが好ましい。0.5μm以上としたのは、0.5μm未満だと耐摩耗性が十分満足できないためである。また10μm以下としたのは、10μmを超えるとDLC膜の母材表面に対する密着力が低下するためである。密着力が低下すると、面圧が高い場合や摺動速度が高い場合にDLC膜が剥離しやすくなる。このため耐焼き付き性が低下する。
【0016】
なおDLC膜の膜厚は、後述するDLC膜形成の際における形成時間やバイアス電圧を制御することにより調整することができる。またDLC膜の膜厚は、例えば摺動部のDLC膜形成部分を膜に対し垂直に切断し、切断面を顕微鏡観察することで測定できる。また、膜厚測定器(商品名:カロテスト)を用いて測定することもできる。
【0017】
またDLC膜の硬さは、HVで2000以上であることが好ましい。HV2000未満だと、ガソリン潤滑摺動部材として充分な耐摩耗性が確保しにくいからである。
【0018】
またDLC膜の密着力は、スクラッチ試験における剥離開始荷重が30N以上であることが好ましい。剥離開始荷重が30N未満だと、摺動時にDLC膜が母材表面から剥離するおそれがあり、耐焼き付き性が低下するためである。
【0019】
ここでスクラッチ試験とは、頂角120゜、先端0.2mmRのダイヤモンドコーンの先端をDLC膜表面に所定の荷重で圧接させ、この状態でダイヤモンドコーンを移動させることによりDLC膜の剥離を観察する試験方法である。荷重は、移動距離1mmに対し10Nの割合で徐々に増加する。そして、DLC膜が剥離し始めた際の荷重を剥離開始荷重とする。
【0020】
DLC膜は、例えばイオンプレーティング法、スパッタリング法のようなPVD(物理真空蒸着)法や、プラズマCVD(化学真空蒸着)法などの方法で形成することができる。プラズマCVD法には、直流(DC)、高周波(RF)、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD法などの手法があるが、中でも好ましくは、直流(DC)プラズマCVD法により形成するものがよい。直流(DC)プラズマCVD法においては、まず密閉容器内にDLC膜を形成する母材を配置し、密閉容器内を例えば0.013Pa以下まで排気する。次に連続排気しながら密閉容器内に水素ガスなどの昇温用ガスを導入する。そして直流放電によりプラズマエネルギを発生させ、母材を昇温する。それから密閉容器内にDLC膜形成ガスを導入し放電させ、母材表面上にDLC膜を形成させる。このときの密閉容器内の圧力は、1.3〜1330Pa程度に調整する。ここでDLC膜形成ガスは、DLC膜原料ガスと雰囲気ガスとからなる。このうちDLC膜原料ガスは、珪素化合物ガスと炭素化合物ガスと水素ガスとからなる。珪素化合物ガスとしては、例えばテトラメチルシラン(Si(CH3)4)、シラン(SiH4)、四塩化珪素(SiCl4)などを用いることができる。また炭素化合物ガスとしては、例えばメタン(CH4)などの炭化水素ガスなどを用いることができる。また雰囲気ガスとしては、水素ガス、アルゴンガスなどを用いることができる。
【0021】
CVD法によりDLC膜を形成すると、CとHとSiとにより構成される被膜を比較的簡単な製法で得ることができる。さらにプラズマCVD法によれば鋼のような母材に対しても比較的低温で処理でき、かつ、比較的表面積の大きな部品に対しても生産性よく表面全体を処理できる。さらに直流プラズマCVD法によれば簡便な装置で処理が可能である。
【0022】
(2)DLC膜を形成する母材
次にDLC膜を形成する母材の実施形態について説明する。DLC膜が形成されている摺動部の母材表面はDLC膜の密着力を高めるため、高さ10nm以上200nm以下であるとともに平均幅300nm以下の凸部を持つ微小凹凸を備えるものがよい。母材表面に凹凸を形成すると母材表面とDLC膜とがジグザグ状に噛み合う。これにより母材表面とDLC膜との密着力が増す効果、いわゆるアンカー効果が得られる。微小凹凸の高さを10nm以上としたのは、10nm未満だと充分なアンカー効果が得られず、密着力が低下するためである。また微小凹凸の高さを200nm以下としたのは、200nmを超えると平滑な面が得られないからである。DLC膜の表面が平滑でないと、当然耐摩耗性、耐焼き付き性は低下する。また凹凸の平均幅を300nmとしたのは、ガソリン浴中においては、幅がこの値より大きくても小さくても充分なアンカー効果が得られないからである。
【0023】
凸部の形状は、例えば半球状あるいはコーン状などとすることができる。凸部の高さとは、凸部を半円球状と見なした場合における凸部の底から頂点までの距離をいう。また凸部の幅とは、凸部を半円球状と見なした場合における凸部の底面の最大径をいう。なお、これらの凸部の高さおよび幅は、SEM(走査型電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)などにより形状を観察して測定する。
【0024】
母材表面に微小凹凸を形成する方法としては、凹凸形成ガスと凹凸促進ガスとの混合ガスを用いて摺動面をイオン衝撃する方法がある。ここで凹凸形成ガスとしては、アルゴン、ヘリウムなどの希ガスや水素ガスなどを用いることができる。また凹凸促進ガスとしては、窒素ガスや酸素ガスなどを用いることができる。
【0025】
この方法においては、まずこれらの凹凸形成ガスと凹凸促進ガスとを混合し混合ガスを調製する。次に圧力0.1〜2700Pa程度の密閉容器内に、摺動部の摺動面を配置する。それからこの密閉容器内に先程調製した混合ガスを導入する。そして最後にグロー放電やイオンビームなどによりイオン衝撃を行う。このようにして摺動面上に微小凹凸を形成する。
【0026】
また摺動部は、DLC膜と母材の界面において母材の内部方向に20nm以上の深さの炭素拡散層を備えるものである方が好ましい。この炭素拡散層は、母材表面上に形成されるDLC膜中の炭素を拡散させて形成する。このため炭素拡散層を形成させる方が、より母材とDLC膜との結合が緊密となり密着力が向上する。ここで炭素拡散層の深さを20nm以上としたのは、20nm未満だと充分な密着力が得られにくく、敢えて炭素拡散層を形成する意義が小さくなるためである。
【0027】
なお、炭素拡散層の深さはAES(オージェ電子分光)を用いて測定することができる。
【0028】
また母材を鋼製とする場合は、摺動部の母材表面に5μm以上の深さの窒化層を備えるものである方が好ましい。窒化層においては窒素が母材に拡散し窒素拡散層を形成する。この窒素拡散層はDLC膜中の炭素を比較的取り込みやすい。
したがって窒化層を形成すると、よりDLC膜中の炭素が母材表面へ拡散しやすくなる。このため母材とDLC膜との密着力が向上する。窒化層の厚さを5μm以上としたのは、5μm未満だと母材とDLC膜との間に充分な密着力が得られにくいからである。なお窒化層深さは、断面組織観察や断面からのEPMA(電子線プローブ微小分析)などを用いて測定することができる。
【0029】
窒化層はガス窒化法、ガス軟窒化法、塩浴窒化法、イオン窒化法のいずれかの方法により形成するのが好ましい。ガス窒化法とは、加工材料をアンモニアガスを主体とする雰囲気の中で加熱し窒化をする方法である。またガス軟窒化法とは、加工材料を軟窒化性雰囲気の中で加熱し軟窒化する方法である。また塩浴軟窒化法とは、加工材料を軟窒化性塩浴の中で加熱し軟窒化する方法である。またイオン窒化法とは、減圧した窒化性雰囲気の中で陰極とした加工材料を陽極との間に生じるグロー放電によるプラズマを用いて窒化する方法である。窒化層を形成するのにこれらの方法が好ましい理由は、比較的コストがかからず簡便に窒化できるからである。
【0030】
なかでもイオン窒化法は、上記DLC膜の形成に用いる炉と同一の炉で引き続き作業を行うことが可能であり工程を簡略化できるため特に好ましい。
【0031】
摺動部の摺動面の硬さは、HV500以上である方が好ましい。HV500未満だと高面圧下での母材の変形が大きくなり、DLC膜がその変形に耐えられず割れて剥離してしまうため、必要な耐摩耗性が得られにくいからである。
【0032】
(3)その他
以上、本発明のガソリン潤滑摺動部材の実施の形態について説明したが、実施の形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的、改良的形態で実施することもできる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明のガソリン潤滑摺動部材について行った実験について説明する。
なお実験において用いるのは、実際のガソリン潤滑摺動部材ではなく、鋼板と鋼板上に形成されたDLC膜とからなるサンプルである。なお鋼材はマルテンサイト系ステンレスとした。
【0034】
(1)サンプルの作製
〈試料1〉
試料1のサンプルは以下の手順により作製した。
【0035】
まず、母材の配置された密閉容器内を0.001Pa以下まで排気した。続いて連続排気しながら密閉容器を電熱器により昇温した。
【0036】
それから密閉容器内にアルゴンガスを導入して放電させ、母材表面上に真空蒸着法を用いてSi層を形成した。このときの密閉容器内の圧力は0.5Pa程度に調整した。また、このSi層の厚さは0.1μmとした。
【0037】
続いて密閉容器内にDLC形成ガスを導入して放電させ、Si層表面上にDLC膜を生長させた。このときの密閉容器内の圧力は、10Pa程度に調整した。
DLC膜形成ガスは、DLC膜原料ガスとしてのメタンガス(CH4)のみであった。このことから、DLC膜組成はCとHからのみなり、SiとCとの重量%比はSi/C=0である。
【0038】
上記手順により作製したサンプルについて試料1とし、被膜特性(膜厚、密着力、膜硬さ)の評価結果を表1中試料1に示す。
【0039】
〈試料2〉
試料2のサンプルは以下の手順により作製した。
【0040】
まず、母材の配置された密閉容器を0.013Pa以下まで排気した。次に連続排気しながら密閉容器内の圧力が470Paとなるように水素ガスを導入した。そして直流放電によりプラズマエネルギを発生させ、母材を昇温した。
【0041】
次に、母材表面に窒化層を形成した。この窒化層はイオン窒化法により形成した。なお窒化層の母材表面からの深さは20μmに調整した。
【0042】
続いて窒化層を形成した母材表面に、微小凹凸を形成した。微小凹凸は以下の様に形成した。まず、アルゴンガスと水素ガスを混合して混合ガスを調製した。
そして、連続排気しながら密閉容器内の圧力が約470Paとなるように混合ガスを導入した。そして放電出力を500Wとしイオン衝撃を行った。このようにして、高さ25nm、平均幅60nmの凸部を持つ微小凹凸を形成した。
【0043】
それから微小凹凸を形成した母材表面上に、DLC膜を形成した。DLC膜は以下のように形成した。まず密閉容器内にDLC膜形成ガスを導入し放電させ、母材表面上にDLC膜を生成させた。このときの密閉容器内の圧力は、600Pa程度に調整した。DLC膜形成ガスは、DLC膜原料ガスとしてのメタンガス(CH4)とテトラメチルシラン(Si(CH3)4)と、雰囲気ガスとしてのアルゴンガスと水素ガスとから構成した。このうちDLC膜原料ガスの組成は、SiとCとの重量%比がSi/C=約0.2となるように調整した。
【0044】
上記手順により作製したサンプルについて試料2とし、被膜特性(膜厚、密着力、膜硬さ)の評価結果を表1中試料2に示す。
【0045】
〈試料3〉
試料3のサンプルも、上記試料2を作製した場合と同様の手順により作製した。試料2を作製した場合との相違点は、DLC膜原料ガスの組成を、SiとCとの重量%比がSi/C=約0.44となるように調整した点である。すなわち試料3と試料2とはSi/C重量%比が異なり、試料3のSi/C重量%比は約0.44である。また被膜特性(膜厚、密着力、膜硬さ)の評価結果を表1中試料3に示す。
【0046】
〈試料4〉
試料4のサンプルも、上記試料2を作製した場合と同様の手順により作製した。試料2を作製した場合との相違点は、DLC膜原料ガスの組成を、SiとCとの重量%比がSi/C=約0.68となるように調整した点である。すなわち試料4と試料2とはSi/C重量%比が異なり、試料4のSi/C重量%比は約0.68である。また被膜特性(膜厚、密着力、膜硬さ)の評価結果を表1中試料4に示す。
【0047】
〈試料5〉
試料5のサンプルも、上記試料2を作製した場合と同様の手順により作製した。試料2を作製した場合との相違点は、DLC膜原料ガスの組成を、SiとCとの重量%比がSi/C=約0.82となるように調整した点である。すなわち試料5と試料2とはSi/C重量%比が異なり、試料5のSi/C重量%比は約0.82ある。また被膜特性(膜厚、密着力、膜硬さ)の評価結果を表1中試料5に示す。
【0048】
〈試料6〉
試料6のサンプルも、上記試料2を作製した場合と同様の手順により作製した。試料2を作製した場合との相違点は、DLC膜原料ガスの組成を、SiとCとの重量%比がSi/C=約1.0となるように調整した点である。すなわち試料6と試料2とはSi/C重量%比が異なり、試料6のSi/C重量%比は約1.0である。また被膜特性(膜厚、密着力、膜硬さ)の評価結果を表1中試料6に示す。
【0049】
〈試料7〉
試料7のサンプルも、上記試料2を作製した場合と同様の手順により作製した。試料2を作製した場合との相違点は、DLC膜原料ガスの組成を、SiとCとの重量%比がSi/C=約1.08となるように調整した点である。すなわち試料7と試料2とはSi/C重量%比が異なり、試料7のSi/C重量%比は約1.08である。また被膜特性(膜厚、密着力、膜硬さ)の評価結果を表1中試料7に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
(2)実験方法
以上のようにして作製したサンプルに対し、耐焼き付き性および相手攻撃性を測定する実験を行った。なお、DLC膜表面の面粗さはRZ0.4以下とした。
【0052】
〈耐焼き付き性〉
耐焼き付き性の測定は、バーベルプレート試験により行う。バーベルプレート試験とは、ガソリン浴中においてバーベル形状の相手材をプレートのDLC膜表面に接触させ、この状態で荷重を加えながら相手材を回転させることにより、相手材の表面とDLC膜の表面とを摺動させる試験である。相手材はφ13mm×厚さ5mmの二つの円盤とこれら二つの円盤の中央部分を連結する軸とからなるマルテンサイト系ステンレスである。このうちDLC膜表面と摺接するのは円盤の周縁部分である。ここで、圧接荷重は50N毎分で階段状に増加させながら試験を実施し、摺動による摩擦力が急激に増加した時点での荷重を焼付荷重とし、測定パラメータとした。
【0053】
〈相手攻撃性〉
相手攻撃性の測定は、DLC膜との摺動による相手材の摩耗程度を調査するために行った。測定するパラメータは、相手材の摩耗面積である。相手攻撃性の測定実験はバーベルプレート試験により行った。前述DLC膜表面と摺接する円盤の周縁部分は、DLC膜との摺動により摩耗し、徐々に平板状となっていく。本実験においては、この平板状部分の面積を摩耗面積とした。
【0054】
(3)実験結果
〈耐焼き付き性〉
各々のサンプルについて2回ずつ焼き付き荷重を測定した結果のグラフを図1に示す。グラフにプロットされたデータは、左から右に試料1〜試料7の順番に並んでいる。サンプル全般において良好な焼き付き荷重が測定できたが、試料2〜試料4に対し、試料1と試料5〜試料7は耐焼き付き性が著しく低下することが判る。このため耐焼き付き性という観点から特に好ましい組成範囲は、0<Si/C重量%比≦0.7であるといえる。
【0055】
〈相手攻撃性〉
各々のサンプルについて2回ずつ相手材の摩耗面積を測定した結果のグラフを図2に示す。グラフにプロットされたデータは、左から右に試料1〜試料7の順番に並んでいる。摩耗面積についてもサンプル全般において良好な結果が得られた。ただし、試料1および試料5〜試料7の場合、摩耗面積が広くなることが判る。このため相手攻撃性という観点からも特に好ましい組成範囲は、0<Si/C重量%比≦0.7であるといえる。
【0056】
【発明の効果】
本発明のガソリン潤滑摺動部材によると、ガソリン中において良好な耐摩耗性、耐焼き付き性を有する摺動部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 試料サンプルの焼き付き荷重を測定した結果を示すグラフである。
【図2】 試料サンプルの相手材の摩耗面積を測定した結果を示すグラフである。
Claims (10)
- 摺動部と、該摺動部の摺動面に形成されるDLC膜と、を備え、
前記DLC膜はCとHとS i および不可避の不純物とからなり、該DLC膜中のS i /C重量%比は0<S i /C≦0.7であることを特徴とするガソリン潤滑摺動部材。 - 前記DLC膜の膜厚は、0.5μm以上10μm以下である請求項1に記載のガソリン潤滑摺動部材。
- 前記DLC膜の硬さは、Hv2000以上である請求項1又は2に記載のガソリン潤滑摺動部材。
- 前記DLC膜は、スクラッチ試験における剥離開始荷重が30N以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のガソリン潤滑摺動部材。
- 前記摺動部のDLC形成面の母材表面は、高さ10nm以上200nm以下であるとともに平均幅300nm以下の凸部を持つ微小凹凸を備える請求項1〜4のいずれか1項に記載のガソリン潤滑摺動部材。
- 前記摺動部は、前記摺動面のDLC膜と母材の界面において母材の内部方向に20nm以上の深さの炭素拡散層を備える請求項1〜5のいずれか1項に記載のガソリン潤滑摺動部材。
- 前記摺動部の母材は鋼製であり、該摺動部の前記摺動面の母材表面に5μm以上の深さの窒化層を備える請求項1〜6のいずれか1項に記載のガソリン潤滑摺動部材。
- 前記窒化層は、ガス窒化法、塩浴窒化法、ガス軟窒化法、イオン窒化法のいずれかにより形成される請求項7に記載のガソリン潤滑摺動部材。
- 前記摺動部の前記摺動面の母材の硬さは、Hv500以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載のガソリン潤滑摺動部材。
- 前記DLC膜は、プラズマCVD法により前記摺動部の前記摺動面の母材に形成される請求項1〜9のいずれか1項に記載のガソリン潤滑摺動部材。
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