JP4573790B2 - 独立ガラスフィルムの製造方法 - Google Patents
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Description
ゾル-ゲル法を用いたSiO2ガラスの作製方法も従来より知られており、非特許文献1に紹介されているが、その多くは、金属アルコキシド溶液を用いてガラスや導体等の基板上に、基板と一体として形成された1μm未満の薄いコーティング膜の作製方法である。ゾル-ゲル法を用い、基板等とは別体の独立したバルク状のSiO2ガラス体の作製方法についても検討されているが、乾燥工程でのクラックの発生を防止するため、一般に非常に特殊な乾燥機(超臨界乾燥)を必要とする。また、そうでない場合でも、非常にゆっくりした乾燥を必要とする。例えば、特許文献1(特開昭61−236619号公報)はゾル-ゲル法による石英ガラスの製造法を記載している。その乾燥方法では20℃で一晩放置した後、容器の蓋として所定の開口率のものを用いて、60℃で10日間乾燥させている。また、特許文献2(特開平4−292425号公報)においてゾル-ゲル法によるシリカガラスの製造法を教示している。そこでは原料ゾルをシャーレに入れ、室温でゲル化させた後、シャーレの蓋を穴のあいたものに代えて、60℃で100日間乾燥させている。このような長時間の乾燥は製造を非常に困難なものにしている。
また、これまでゾル−ゲル法で作製されたバルク状のSiO2ガラスは、数10mm以上の厚みを持つバルク体が主体であり、基板と別体で、支持体を必要としない独立した薄いフィルム状のガラス(以下、「独立ガラスフィルム」という)を作製する方法は知られていない。
ホウ酸とアルカノールアミンを含むホウ酸水溶液を調製する工程と、
前記ホウ酸水溶液と、コロイダルシリカゾルと、バインダーとを含む混合液を作製する工程と、
前記混合液を基材上に塗布する工程と、
塗布された前記混合液を乾燥して、前記基材上に前駆体フィルムを形成する工程と、
前記前駆体フィルムを前記基材から剥離する工程と、
剥離された前記前駆体フィルムを焼成する工程と、
を含む、独立ガラスフィルムの製造方法を提供する。
また、本発明は、別の態様によると、上述の製造方法により作製された独立ガラスフィルムを提供する。
また、混合液を作製する際に、シリカゾルと、バインダー以外に、アルカノールアミンを加えることにより、フィルム乾燥時のクラック発生を効果的に防止することができ、このため、クラックがない独立ガラスフィルムを長時間の乾燥を必要とせずに製造することができる。
また、ホウ酸を、モノエタノールアミンをはじめとするアルカノールアミンと混合し、室温での水への溶解度を向上させているため、ホウ酸単独添加では実現できない量の酸化ホウ素添加を可能とする。このため、低い軟化点のガラスフィルムを低い焼成温度で形成することが可能である。
[ホウ酸水溶液調整工程、混合液作製工程]
ホウ酸−アルカノールアミン水溶液
ホウ酸とアルカノールアミンとを水中で混合し、ホウ酸水溶液を調製する。ホウ酸は室温における水中での溶解度が低いために、アルカノールアミンの添加なしでは、5〜6%程度の濃度でしか溶液をえることができない。しかし、ホウ酸とアルカノールアミンとを組み合わせることでホウ酸の水中での溶解度を向上させることができるため、後述する焼成工程において、より焼成温度を下げることができる。アルカノールアミンとホウ酸との間で、溶解性の高い水溶性化合物が形成されるためと考えられる。また、アルカノールアミンの添加は、後述する乾燥工程において、前駆体フィルムのクラックを抑制する効果がある。
ホウ酸水溶液へのアルカノールアミンの添加量は、多い程、ホウ酸の溶解度を上げることができるが、好ましいアルカノールアミンの添加量は、その種類によって多少変化する。例えば、ホウ酸1モルに対し、モノエタノールアミンの場合は0.25モル以上、ジエタノールアミンの場合は0.3モル以上、さらにトリエタノールアミンの場合は0.5モル以上の添加がそれぞれ望ましい。このような割合で添加することでホウ酸の水中での溶解度を実質的に高めることができる。
また、混合液中のアルカノールアミン類有機添加剤の添加量は、混合液中の無機固体成分であるシリカ及び酸化ホウ素(SiO2+B2O3)換算質量に対して100質量%以下が望ましく、好適には80質量%以下であり、更に好適には50質量%以下である。アルカノールアミン類有機添加剤の添加量が多すぎると、フィルムの乾燥を著しく遅らせることがある。また、アルカノールアミン類有機添加剤は、混合液中のシリカ及び酸化ホウ素(SiO2+B2O3)換算質量に対する質量%で2%以上であることが望ましく、好適には5%以上であり、更に好適には8%以上である。なお、上記混合液中のシリカ及び酸化ホウ素(SiO2+B2O3)換算質量は、最終的に独立ガラスフィルム成分質量に相当する。
混合液中のアルカノールアミン類有機添加剤の添加量が少なすぎると、乾燥および焼成工程でクラックを生じやすくなる。好ましくは、アルカノールアミン類有機添加剤は混合液中のシリカ及び酸化ホウ素(SiO2+B2O3)換算質量に対する質量%で2〜100%である。一方、アルカノールアミンの過剰の添加はホウ酸の結晶化阻害には望ましいが、乾燥工程において、乾燥が不十分になったり、焼成において脱バインダーが難しくなるなどの弊害が生じるため、最小必要量の添加が望ましい。
本発明によるガラスフィルムの製造方法において、シリカ微粒子が分散媒に安定に分散したコロイダルシリカゾルを用いる。本発明におけるコロイダルシリカゾルは水を分散媒とする、いわゆる水性のシリカゾルである。シリカ微粒子の粒子径は、一般に、300nm以下であり、好適には100nm以下であり、更に好適には50nm以下である。シリカ微粒子の径が大きすぎると、透明性をもったフィルムを形成することが困難になる。また、粒子径が大きいものは分散安定性が低下するため不均質になり易い。更には粒子径が大きすぎる場合、粒子間の空隙寸法も大きくなるため緻密化に必要な温度が高温化する。一方、シリカ微粒子の粒子径は好ましくは4nm以上である。更に好ましくは8nm以上である。。粒子径が小さすぎると、クラックを生じやすく、このため、独立フィルムを形成することが困難になる傾向があるからである。
コロイダルシリカゾルは、ホウ酸とアルカノールアミンを含むホウ酸水溶液及びバインダーと混合される。バインダーとしてはアクリルの水系エマルジョンの他、ポリウレタンの水性エマルジョンが挙げられる。混合液中への多量のバインダーの添加は焼成工程前の前駆体フィルムの強度向上には望ましいが、その後の焼成工程で大きな収縮やそれに伴うクラックを発生させる傾向がある。また、多量のバインダーの添加は製造コストを高くしてしまう。このため、バインダー添加量は少ないほうが望ましく、その量は、混合液中の無機固体成分である(SiO2+B2O3)換算質量に対して100質量%以下が望ましい。好適には80質量%以下で、更に好適には50質量%以下である。一方、バインダーの量が少なすぎると、グリーンの強度が十分でなく、焼成前の剥離工程でフィルムが破壊されやすくなる。好ましくは、バインダーの添加量は混合液中のシリカ及び酸化ホウ素の換算質量に対する質量%で5〜100%である。
混合液中には、コロイダルシリカゾル、ホウ酸、アルカノールアミン及びバインダー以外に、必要に応じて、他の添加剤を含むことができる。有機添加剤としてはγ−ブチロラクトン、乳酸、エチレングリコール、グリセリン、1,4ブタンジオールなどの多価アルコール、更にはエチレングリコールモノプロピルエーテルなどの多価アルコール誘導体が挙げられる。これらの有機添加剤はアルカノールアミンと同様にクラックの発生を抑えると共に得られるグリーンシートに可塑性を与え、結果としてハンドリング性を向上させる。これら有機添加剤の添加量は混合液中のシリカ及び酸化ホウ素換算質量に対して100質量%以下が望ましく、好適には80質量%以下であり、更に好適には50質量%以下である。
得られた混合液を、基材上に塗布し、乾燥することでゾル状態の混合液をゲル化し、前駆体フィルムを得る。基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリルフィルム、ポリカーボネート及びポリイミド等、プラスチックフィルムのほか、ガラスやセラミック板、金属板などが挙げられる。基材は、乾燥後のフィルムの剥離を容易にするように、シリコーン処理などの剥離処理を施されたものであってよい。しかし、比較的に薄いフィルムを形成する場合には、フィルム形成能力が低下しないように剥離処理を施さない基材を用いたほうがよい場合もある。基材上への塗布にはスプレーコート、バーコート、ダイコート、ナイフコート、キャスティング、スクリーン印刷などの印刷法等の方法を用いることができる。基材上に塗布された混合液は、室温(25℃)または加熱状態で乾燥する。乾燥は、大気圧又は減圧下のいずれでも行なうことができる。大気圧、室温(25℃)の条件で、乾燥を行う場合も、数時間程度の乾燥で十分である。この乾燥工程により、塗布層は前駆体フィルムとなる。
乾燥後、前駆体フィルムを基材より剥離する。必要に応じて、剥離したフィルムを、適当なサイズに切るなどの加工を行ったのち、焼成する。
前駆体フィルムを焼成前に剥離するのは、剥離しないと、焼成時の加熱によって基材と前駆体フィルムとの間に熱膨張係数の差による応力が生じ、クラックが生じやすいからである。また、焼成前に前駆体フィルムを剥離するため、焼成温度によらず基材を選択することが可能であり、樹脂フィルム等の可とう性基材を使用できる。可とう性基材を使用する場合は、前駆体フィルム剥離時に、フィルムにかかる応力を低減できる。
焼成には電気炉を用いることができ、加熱初期における有機物がバーンアウトされる温度(約450℃〜500℃以下)ではゆっくりとした加熱、たとえば、5℃/分の昇温速度が好ましくは3℃/分、更に好ましくは1℃/分の昇温速度が望ましく、その後、最終温度までは、それより早い昇温速度、たとえば、5〜10℃/分で昇温を行なうことができる。最終温度である焼成温度で15分間以上の焼成で独立ガラスフィルムを形成することができる。焼成温度は、ホウ酸の添加量により変化し、通常、700℃〜1400℃である。
製造されたガラスフィルムは、プラスチックフィルム、金属、木材、コンクリート、セラミックス等に貼り付けて使用できる。本発明で得られたガラスフィルムを他の材料に施すことにより、種々の他の材料の耐熱性を高めたり、耐スクラッチ性、耐化学薬品性を向上させることが可能となる。また、所定の焼成条件でガラスフィルムを形成して、緻密化したフィルムを製造した場合は、ガスバリアー性を向上させることができる。一方、十分な緻密化させずにガラスフィルムを形成した場合には、断熱性を付与することができる。
実施例1:
ホウ酸(和光純薬工業)100gを水200gに加え、更に2−アミノエタノール(和光純薬工業製)25gを添加、混合しホウ酸水溶液を作製した。
コロイダルシリカゾルであるスノーテックス(Snowtex)ST−O(日産化学社製)(粒子径10〜20nm、固体含有率20.5wt%、NaO2含有分330ppm)4.66gに対して、上記で作製したホウ酸水溶液0.29gとモノエタノールアミン(和光純薬工業製)0.3gを溶解させた。混合液中の無機固体成分であるシリカと酸化ホウ素の換算質量に対する酸化ホウ素の質量比(B2O3/(SiO2+B2O3)は5wt%である。
実施例1に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここでは、シリカゾルとしてスノーテックス(SnowTex)ST−Oの代わりに、高いナトリウム濃度のスノーテックス(Snow Tex)ST−C(日産化学社製)(粒子径10〜20nm、固体含有率20.5wt%、NaO2含有分0.11wt%)を用いた。得られたフィルムは1250℃での焼成で透明なガラスフィルムとなった。ガラスフィルムの厚みは0.5mmであった。結果を表1に示す。
実施例2に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここでは表2に示されるようにSiO2−B2O3比を変化させて、幾つかの温度で焼成を行なった。表2中には独立ガラスフィルムが透明になるおおよその下限焼成温度及びフィルムの厚さも示している。
実施例2に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここでは有機バインダーとしてアクリルエマルジョンAE986Aの代わりに水系ポリウレタンエマルジョン レザミンD6060カイ3(大日精化社 固体含有率35wt%)を用いた。ここでも得られたフィルムは1000℃で透明であった。ガラスフィルムの厚みは0.4mmであった。結果は上記の表1に示している。
実施例2に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここではホウ酸溶液としてホウ酸(和光純薬工業)100gを水200gに加え、更にモノエタノールアミン(和光純薬工業製)53gを添加、混合し水溶液としたものを用いた。表3に示すようにホウ酸添加量はそれぞれ、B2O3/(SiO2+B2O3)換算で5wt%、10wt%、15wt%そして20wt%とした。配合、焼成結果及びフィルム厚さを表3に示した。
実施例11〜14に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここではキャストする基材として無処理のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ルミラー50 T−60(東レ社製)を使用した。得られた前駆体フィルムをPETフィルムから剥離し、その後、焼成によりガラスフィルムを得た。ガラスフィルムの厚みは表3に示す。
実施例11〜14に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここでは、ホウ酸溶液としてホウ酸(和光純薬工業)100gを水200gに加え、更にモノエタノールアミン(和光純薬工業製)120gを添加、混合し水溶液としたものを用いた。表4に示すようにホウ酸添加量はそれぞれ、B2O3/(SiO2+B2O3)換算で5wt%、10wt%、15wt%そして20wt%とした。配合、焼成結果及びフィルム厚さを表4に示した。
実施例19〜22に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここではキャストする基材として未処理のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ルミラー50 T−60(東レ社製)を使用した。得られた前駆体フィルムをPETフィルムから剥離し、その後、焼成によりガラスフィルムを得た。ガラスフィルムの厚みは表4に示した。
実施例11〜14に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここではモノエタノールアミン(MEA)の代わりにジエタノールアミン(DEA)を用いた。
それぞれの配合と焼成結果を表5に示す。
実施例27に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここではジエタノールアミン(DEA)の代わりにトリエタノールアミン(TEA)を用いた。
配合と焼成結果を表5に示す。
実施例12〜14に従い、独立ガラスフィルムを作製した。ただし、ここでは有機バインダーとしてアクリルエマルジョンAE986Aの代わりに水系ポリウレタンエマルジョン レザミンD6060カイ3(大日精化社製)(固体分含有率35wt%)を用いた。
それぞれの配合と焼成結果を表6に示す。
実施例1に従い、独立ガラスフィルムの形成を試みた。ただし、ここではホウ酸溶液の代わりにホウ酸粉末0.09gを直接、コロイダルシリカゾルに添加した。得られたゾルは乾燥が進むにつれ中に白色結晶が現れ、最終的には不均質なゲル膜となった。このゲル膜を焼成すると多くのクラックなどが発生した。結果を表1に示す。
Claims (9)
- ホウ酸とアルカノールアミンを含むホウ酸水溶液を調製する工程と、
前記ホウ酸水溶液と、コロイダルシリカゾルと、バインダーとを含む混合液を作製する工程と、
前記混合液を基材上に塗布する工程と、
塗布された前記混合液を乾燥して、前記基材上に前駆体フィルムを形成する工程と、
前記前駆体フィルムを前記基材から剥離する工程と、
剥離された前記前駆体フィルムを焼成する工程と、
を含む、独立ガラスフィルムの製造方法。 - 前記ホウ酸の添加量は、前記混合液中のシリカ及び酸化ホウ素(SiO2+B2O3)換算質量に対してB2O3の換算質量%として表記して35wt%未満である、請求項1記載の独立ガラスフィルムの製造方法。
- 前記アルカノールアミンはトリエタノールアミン、ジエタノールアミン及びモノエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種の有機添加剤である、請求項1又は2記載の独立ガラスフィルムの製造方法。
- 前記アルカノールアミンの添加量は、前記混合液中のシリカ及び酸化ホウ素(SiO2+B2O3)換算質量に対して2〜100質量%の量で添加される、請求項1〜3のいずれか1項記載の独立ガラスフィルムの製造方法。
- 前記バインダーは水系アクリルエマルジョン又は水系ポリウレタンエマルジョンである、請求項1〜4のいずれか1項記載の独立ガラスフィルムの製造方法。
- 前記バインダーは前記混合液中のシリカ及び酸化ホウ素(SiO2+B2O3)換算質量に対して5〜100質量%の量で添加される、請求項1〜5のいずれか1項記載の独立ガラスフィルムの製造方法。
- 前記コロイダルシリカゾルの粒子径は300nm以下である、請求項1〜6のいずれか1項記載の独立ガラスフィルムの製造方法。
- 前記独立ガラスフィルムの厚さは5μm〜2mmである、請求項1〜7のいずれか1項記載の独立ガラスフィルムの製造方法。
- 前記ホウ酸の添加量は、前記混合液中のシリカ及び酸化ホウ素(SiO2+B2O3)換算質量に対してB2O3の質量%として表記して10wt%〜25wt%であり、前記焼成工程における焼成温度は1000℃以下である、請求項1〜8のいずれか1項記載の独立ガラスフィルムの製造方法。
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