JP4556348B2 - 歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板およびその製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP4556348B2 JP4556348B2 JP2001162628A JP2001162628A JP4556348B2 JP 4556348 B2 JP4556348 B2 JP 4556348B2 JP 2001162628 A JP2001162628 A JP 2001162628A JP 2001162628 A JP2001162628 A JP 2001162628A JP 4556348 B2 JP4556348 B2 JP 4556348B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- less
- steel sheet
- group
- hot
- age hardening
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Landscapes
- Heat Treatment Of Sheet Steel (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板およびその製造方法に関する。
本発明において、化学成分含有量(濃度)の単位は質量%であり、%と略記される。また、本発明において、「N/Al」、「固溶N」、「超高強度」、「歪時効硬化特性に優れた」なる用語はそれぞれ以下の通りに定義される。
【0002】
N/Al=== N含有量(%)/Al含有量(%)
固溶N=== 固溶状態のN
超高強度=== 引張強さ(以下、TSと記す)が780MPa以上であること
歪時効硬化特性に優れた=== 引張歪(予歪量)5%の予変形後、170 ℃の温度に20分保持する条件で時効処理したとき、この時効処理前後の変形応力増加量(以下、BHと記す;BH=時効処理後の降伏応力−時効処理前の予変形応力)が80MPa 以上であり、かつ歪時効処理(前記予変形+前記時効処理)前後のTS増加量(以下、ΔTSと記す;ΔTS=時効処理後のTS−予変形前のTS)が40MPa 以上であること
前記超高強度熱延鋼板は、主として自動車用構造部材およびバンパー、インパクトビームなど衝突部材に適用される高加工性熱延薄鋼板に属しうる。さらに、冷延鋼板の代替となる薄物熱延鋼板にも属しうる。この薄物熱延鋼板は、従来は熱延での製造が困難ということで、冷延鋼板が適用されていた板厚4.0 mm程度以下の薄物製品である。この薄物製品は、軽度の曲げ加工やロールフォーミングしてパイプに成形されるような比較的軽加工用途に適するものであり、これを母板とした電気めっき鋼板、溶融Znめっき鋼板なども同用途に適する。
【0003】
【従来の技術】
自動車の車体用素材には、多くの薄鋼板が適用されているが、優れた成形性が要求される用途にはこれまで冷間圧延鋼板が使われていた。しかし、鋼組成(化学成分)の調整および熱間圧延条件の最適化により、高成形性(高加工性)熱延鋼板が製造できるようになり、同鋼板の自動車の車体用素材への用途が拡大しつつある。
【0004】
昨今の地球環境問題からの排出ガス規制に関連し、車体重量の軽減は極めて重要な課題である。車体重量軽減のためには鋼板を高張力化して鋼板板厚を低減することが有効である。しかし、高張力化・薄肉化の対象となる自動車部品を考えると、これらの部品ではその役割に応じて課されるパフォーマンスが必要かつ十分に発揮されなければならない。かかるパフォーマンスとしては、例えば曲げ、ねじり変形に対する静的強度、疲労強度、耐衝撃特性などがある。したがって、適用される高張力鋼板は、成形加工後に、かかる特性にも優れる必要がある。
【0005】
一方、部品を作る過程においては、鋼板に対してプレス成形が行われるが、鋼板の強度が高すぎると、
・形状凍結性が劣化する、
・延性が劣化するため成形時に割れやネッキングなどの不具合を生ずる、
・耐デント性(局部的な圧縮荷重負荷により生ずる凹みに対する耐性)が劣化する、
といった問題が生じ、これらの問題が自動車車体への高張力鋼板の適用拡大を阻んでいた。
【0006】
これを打開するための手法として、例えば外板パネル用の冷延鋼板では、例えば極低炭素鋼を素材とし、最終的に固溶状態で残存するC量を適正範囲に制御する鋼板製造技術が知られている。この技術は、プレス成形後に行われる 170℃×20分程度の塗装焼付け工程で起こる歪時効硬化現象を利用することで、成形時は軟質に保って形状凍結性、延性を確保し、成形後は歪時効硬化による降伏応力(以下、YSと記す)上昇を得て耐デント性を確保しようとするものである。しかし、この技術では、表面欠陥となるストレッチャーストレインの発生を防止する観点から、そのYS上昇量は低く抑えられ、実際の鋼板の薄肉化に寄与するところは小さいという難点があった。
【0007】
一方、外観があまり問題とならない用途に対しては、固溶Nを用いて焼付け硬化量をさらに増加させた鋼板(特公平7−30408 号公報)や、組織をフェライトとマルテンサイトからなる複合組織とすることで焼付け硬化性をより一層向上させた鋼板(特公平8−23048 号公報)などが提案されている。
しかし、特公平7−30408 号公報に開示される鋼板では、塗装焼付け後にYSがある程度上昇し高い焼付け硬化量が得られるものの、TSまでは上昇させることはできず、成形後の耐疲労特性、耐衝撃特性の大きな向上が期待できない。このため、耐疲労特性、耐衝撃特性が要求される使途への適用ができないという問題があった。また、特公平8−23048 号公報に開示される鋼板は、製造時に複合組織化のための冷却パターンの制御が必要であり、また極低温巻取を必須としているため、特に板厚が薄い鋼板を製造しようとすると安定製造が困難であり、YSの増加量が大きくばらつくなど機械的性質の変動も大きいため、現在要望されている自動車部品の軽量化に寄与できるほどの鋼板の薄肉化が期待できないという問題もあった。さらに、とくに薄肉化を達成するために板厚が2.0 mm以下の薄物の鋼板を製造する場合には、鋼板の形状が大きく乱れるため、プレス成形が著しく困難になるという問題もあった。
【0008】
さらに、超高強度熱延鋼板に目を向けると、特開平6−145894号公報にTS780MPa以上の熱延鋼板を得る技術が開示されはいるものの、加工熱処理による歪時効硬化によりTSが増加するという知見は得られていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の限界を打破し、高い成形性と安定した品質特性を有するうえ、自動車部品に成形したのちに十分な自動車部品強度が得られ、自動車車体の軽量化に十分に寄与できる、歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板を、その有利な、すなわち該鋼板を工業的に安価にかつ形状を乱さずに製造できる製造方法とともに提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の問題を解決するために成分および製造法を種々変えて鋼板を製造し、多くの材質評価実験を行った。その結果、高加工性が要求される分野では従来あまり積極的に利用されることがなかったNを強化元素として、かかる強化元素の作用により発現する大きな歪み時効硬化現象を有利に活用することにより、成形性の向上と成形後の高強度化とを容易に両立させうることを知見した。
【0011】
さらに、本発明者らは、Nによる歪時効硬化現象を有利に活用するためには、Nによる歪時効硬化現象を自動車の塗装焼付け条件、あるいはさらに積極的に成形後の熱処理条件と有利に結合させる必要があり、このために、熱延条件を適正化して鋼板の微視組織と固溶N量とをある範囲に制御することが有効であることを見いだした。また、Nによる歪時効硬化現象を安定して発現させるためには、組成の面で、特にAl含有量をN含有量に応じて制御することが極めて重要であることも見いだした。さらに、微視組織を有利に制御して超高強度を得るためには、Mnを増量し、かつTi,Nbを複合添加することが有効であることも見いだした。
【0012】
すなわち、Nを強化元素として用い、キーとなる元素であるAl含有量と適正な範囲に制御し、さらに熱延条件を適正化して微視組織と固溶Nを最適化することにより、従来の固溶強化型のC−Mn鋼板、析出強化鋼板(従来鋼板)に比べて格段に優れた成形性とこれらの従来鋼板にない優れた歪時効硬化特性を有する鋼板(本発明鋼板)が得られる。さらに、Mn増量とTi,Nb複合添加とにより微視組織を有利に制御できて超高強度を達成することができる。
【0013】
また、従来は引張試験結果を基に焼付け硬化性を評価していた。しかし、本発明者らの検討によれば、従来鋼板では引張試験により所望の焼付け硬化性を有すると評価されたものであっても実プレス条件に沿って塑性変形させたときの強度に大きなばらつきが存在し、信頼性を要求される部品に適用するには必ずしも十分とはいえない。これに対し、本発明鋼板では、引張試験による焼付け硬化性の評価値が従来鋼板よりも高位にあるのみならず、実プレス条件に沿って塑性変形させたときの強度のばらつきが小さく、安定した部品強度特性が得られることがわかった。
【0014】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) C:0.05〜0.10%、Si:0.05〜1.5 %、Mn:2.5 〜3.5 %、P:0.05%以下、S:0.0050%以下、Al:0.02%以下、Ti:0.001 〜0.050 %、Nb:0.005 〜0.100 %、N:0.0050〜0.0250%、固溶N:0.0010%以上を含有し、かつN/Alが0.3 以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板。
【0015】
(2) C:0.05〜0.10%、Si:0.05〜1.5 %、Mn:2.5 〜3.5 %、P:0.05%以下、S:0.0050%以下、Al:0.02%以下、Ti:0.001 〜0.050 %、Nb:0.005 〜0.100 %、N:0.0050〜0.0250%、固溶N:0.0010%以上を含有し、さらに、下記A群〜D群の何れか1群または2群以上を含有し、かつN/Alが0.3 以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板。
【0016】
記
A群:Cu、Ni、Cr、Mo:1種または2種以上合計1.0 %以下
B群:V、Zr :1種または2種合計0.1 %以下
C群:B :0.005 %以下
D群:Ca、REM :1種または2種合計0.005 %以下
(3) (1)または(2)に記載の熱延鋼板の表面に金属めっき層を有してなることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた超高強度めっき鋼板。
【0017】
(4) C:0.05〜0.10%、Si:0.05〜1.5 %、Mn:2.5 〜3.5 %、P:0.05%以下、S:0.0050%以下、Al:0.02%以下、Ti:0.001 〜0.050 %、Nb:0.005 〜0.100 %、N:0.0050〜0.0250%を含有し、あるいはさらに前記A群〜D群の何れか1群または2群以上を含有し、かつN/Alが0.3 以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを1000℃以上に加熱後、粗圧延してシートバーとなし、該シートバーを仕上圧延出側温度800 ℃以上として仕上圧延した後、0.5 秒以内に冷却速度40℃/s以上で冷却し、 650℃以下で巻き取ることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板の製造方法。
【0018】
(5) 巻取後の鋼板に、調質圧延および/またはレベラ掛けによる伸び率0.5 〜10%の加工と酸洗とを、この順またはこの逆の順に施すことを特徴とする(4)記載の方法。
【0019】
【発明の実施の形態】
まず、本発明における鋼の組成(化学組成)について説明する。
C:0.05〜0.10%
Cは、低温変態相を利用して鋼を強化するために必要不可欠な元素あるが、0.05%未満ではTS780MPa以上を達成できず、一方、0.10%超では鋼中の炭化物分率が増加し鋼板の延性が顕著に悪化して成形性が劣化するうえ、スポット溶接性、アーク溶接性なども顕著に低下し、さらには、比較的広幅薄肉鋼板の熱間圧延時に、特にオーステナイト低温域以下で変形抵抗が顕著に増加し、圧延荷重が急上昇して、とくに薄物の熱延鋼板に関わる本発明鋼板の製造を困難にする。よって、Cは0.05〜0.10%とする。なお、成形性を向上させる観点からは、0.08%以下が好ましい。
【0020】
Si:0.05〜1.5 %
Siは、鋼の延性を顕著に低下させることなく鋼板を高強度化できる有用な強化元素であるが、0.05%未満ではその効果が得られず、一方、多量すぎると変態点(=Ar3 変態点)が高くなりすぎて仕上圧延時に多量のフェライト相が生じ、あるいは、表面性状とくに美麗さを損なうようになるが、1.5 %以下であればMn量の調整によりSiの顕著な変態点上昇作用を抑制でき、良好な表面性状も確保できる。よって、Siは0.05〜1.5 %とする。なお、TS780MPa超級で高延性を確保したい場合は、強度と延性のバランスの観点から、0.5 %以下が好ましい。
【0021】
Mn:2.5 〜3.5 %
Mnは、これの変態点下降作用をSiの変態点上昇作用に対抗させうるほか、Sによる熱間割れの防止に有効な元素であり、熱間割れ防止の観点からはS量に応じて添加するのが好ましい。また、Mnは結晶粒を微細化する効果があるため、積極的に添加して材質改善に利用することが望ましい。とくにTS780MPa級鋼板についてSを安定して固定するには、Mnは2.5 %以上、好ましくは2.7 %以上、特にTS980MPa級とするためには3.0 %超、とする必要がある。Mn量をこのレベルまで高めると、熱延条件の変動に対する鋼板の機械的性質および歪時効硬化特性のばらつきが低減するので、品質安定化にも効果的である。
【0022】
しかし、Mnが3.5 %を超過すると、詳細な機構は不明であるが、鋼板の熱間変形抵抗が増加する傾向があり、また、溶接性や溶接部の成形性にも悪化の傾向が現れ、そればかりか、フェライトの生成が顕著に抑制されて延性が劣化するため、Mnは3.5 %以下に限ることとした。
P:0.05%以下
Pは、鋼の固溶強化元素として有用であるが、過度に含有すると鋼を脆化させ、さらに鋼板の伸びフランジ加工性を悪化させ、また、鋼中で偏析する傾向が強いためそれに起因した溶接部の脆化をもたらすことから、0.05%以下とした。なお、伸びフランジ加工性や溶接部靱性が特に重要視される場合は0.04%以下が好ましい。
【0023】
S:0.0050%以下
Sは、介在物として存在し、鋼板の延性を劣化させ、さらに耐食性の劣化をももたらす元素なので、0.0050%以下に制限する。特に良好な加工性が要求される用途においては、0.0030%以下が望ましい。さらに、特にS量に敏感な伸びフランジ性での要求レベルが高い場合は、0.0015%以下が好ましい。また詳細な機構は不明であるが、Sを0.0030%以下まで低減すると、熱延鋼板の歪時効硬化特性の高位安定化傾向が強まるため、この点からも0.0030%以下が好ましい。
【0024】
Al:0.02%以下
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有効な元素であり、鋼の組織微細化のためにも添加が望ましい元素である。しかし、本発明では過剰のAl添加は表面性状の悪化につながり、また固溶Nを確保し難くなる。また、固溶Nを確保できたとしても、Alが0.02%を超えると製造条件の変動による歪時効硬化特性のばらつきが大きくなる。そのためAlは0.02%以下に制限される。なお、材質安定性の観点からは、0.001 〜0.020 %がさらに望ましい。
【0025】
Ti:0.001 〜0.050 %
Tiは、加熱および熱延時の溶解・析出挙動を通じてスラブ加熱時の結晶粒粗大化を防止し、最終的に得られる組織を微細化する効果があるが、0.001 %未満ではかかる効果に乏しく、一方、0.050 %超では鋼中に硬質な炭化物などを形成し、伸びフランジ性を低下させるなど材料特性に悪影響をおよぼす。したがって、Tiは0.001 〜0.050 %とする。なお、好ましくは0.005 〜0.020 %である。
【0026】
Nb:0.005 〜0.100 %
Nbは、NbC などの析出物の存在形態や再結晶温度への影響を介して熱延後の結晶粒成長を抑制して組織を微細化かつ均一化する効果があるが、0.005 %未満ではかかる効果に乏しく、一方、0.100 %超では鋼中に硬質な析出物を多量に形成し、材料特性、なかでも特に伸びフランジ性を低下させる。したがって、Nbは0.005 〜0.100 %とする。なお、好ましくは0.010 〜0.050 %である。
【0027】
N:0.0050〜0.0250%
Nは、本発明においては最も重要な成分元素である。すなわち、Nを適量添加して製造条件を制御することにより、母板(熱延ままの鋼板)で固溶Nを必要かつ十分な量だけ確保することができ、それによって固溶強化と歪時効硬化での強度上昇硬化が十分に発揮され、TS780MPa以上、BH80MPa 以上、ΔTS40MPa 以上という本発明鋼板の機械的性質要件を安定して満足することができる。また、Nには鋼の変態点を下げる働きもあり、薄物で変態点を大きく割り込んだ圧延が忌避される状況下での操業安定化にも有用である。
【0028】
Nが0.0050%未満では、上記の強度上昇効果が安定して発現しにくい。一方、Nが0.0250%超では、鋼板の内部欠陥発生率が高くなるとともに、連続鋳造時のスラブ割れなどが多発するようになる。よって、Nは0.0050〜0.0250%とした。なかでも、製造工程全体を考慮した材質の安定性・歩留り向上の観点からは、0.0070〜0.0170%が好ましい。なお、本発明範囲内のN量であれば、溶接性への悪影響は全くなく、また、熱間変形抵抗の増加も殆どない。
【0029】
固溶N:0.0010%以上
母板で十分な強度が確保され、さらにNによる歪時効硬化が十分に発揮される、すなわちBHを80MPa 以上かつΔTSを40MPa 以上とするには、鋼中に固溶Nが0.0010%以上存在する必要がある。なお、より高位のBH、ΔTSを達成するには0.0020%以上、さらに高位の場合は0.0030%以上が好ましい。
【0030】
ここで、固溶N量は、鋼中の全N量から析出N量を差し引いて求める。析出Nの抽出法、すなわち地鉄を溶解する方法としては、酸分解法、ハロゲン法および電解法があるが、本発明者らがこれら抽出法について比較検討した結果、電解法は炭化物、窒化物等の極めて不安定な析出物を分解することなく、安定して地鉄のみを溶解できる。このため、本発明では電解法により析出Nを抽出するものとする。また、電解液としてアセチル・アセトン系の液を用い、低電位にて電解する。以上の電解法により抽出した残渣を化学分析して、残渣中のN量を求め、これを析出N量とする。
【0031】
N/Al:0.3 以上
前述のように、製造条件の変動によらず安定して母板に固溶Nを0.0010%以上残すには、Nを強力に固定する元素であるAlの量を制限する必要があり、Alを0.02%以下とする必要がある。本発明の組成範囲内でN量とAl量の組合せを広範囲に変えた鋼について熱延後の固溶Nが0.0010%以上になる条件を探索した結果、かかる条件を成立させるには、N/Alを0.3 以上として、仕上圧延後の冷却条件および巻取温度条件を後述の範囲とする必要があることがわかった。したがって、Al量はN/0.3 以下に制限される。
【0032】
A群:Cu、Ni、Cr、Mo:1種または2種以上合計1.0 %以下
A群の元素Cu、Ni、Cr、Moは、何れも鋼板の強度上昇に寄与するので適宜単独または複合添加することができる。しかし、量が多すぎると熱間変形抵抗の増加、化成処理性や広義の表面処理特性の悪化、溶接部の硬化に由来する溶接部成形性の劣化などをもたらすので、A群は合計で1.0 %以下が好ましい。なお、前記効果を得るためにはA群は合計で0.05%以上含有することが好ましい。
【0033】
B群:V、Zr:1種または2種合計0.1 %以下
B群の元素V、Zrは、何れも結晶粒径の微細化・均一化に寄与するので適宜単独または複合添加することができる。しかし、量が多すぎると熱間変形抵抗の増加、化成処理性や広義の表面処理特性の悪化、溶接部の硬化に由来する溶接部成形性の劣化などをもたらすので、B群は合計で1.0 %以下が好ましい。なお、前記効果を得るためにはB群は合計で0.001 %以上含有することが好ましい。
【0034】
C群:B:0.005 %以下
C群の元素Bは、鋼の焼入れ性を向上させる効果があるので、フェライト以外の組織相を低温変態相にして鋼の強度を増加させる目的で適宜添加することができる。しかし、量が多すぎるとBNとして析出して固溶Nの確保が困難となるなどの問題をもたらすので、添加する場合はBは0.005 %以下とする必要がある。
【0035】
なお、前記効果を得るためにはBは0.0004%以上含有することが好ましい。
D群:Ca、REM :1種または2種合計0.005 %以下
D群の元素Ca、REM はそれぞれ介在物形態制御に役立つものであり、特に伸びフランジ成形性に寄与するので、適宜単独または複合添加することができる。しかし、合計が0.005 %を超えると表面欠陥の発生が目立つようになる。よって、D群は合計で0.005 %以下の範囲で添加することが好ましい。
【0036】
なお、前記効果を得るためにはD群は合計で0.0005%以上含有することが好ましい。
次に、鋼板の組織および機械的性質について説明する。
組織の平均結晶粒径:10μm以下
本発明では、結晶粒径として、ナイタールエッチングにより結晶粒界を現出させた試料の断面組織のSEM観察写真からASTMに規定の求積法により算出した値と、同じく切断法により求めた公称粒径(例えば梅本ら:熱処理24(1984)334 参照)との、何れか大きい方を採用する。
【0037】
本発明の鋼板の組織は、1相からなる単相組織、2相以上からなる複合組織のいずれであってもよく、また、組織構成相は、フェライト相、パーライト相、ベイナイト相、マルテンサイト相、残留オーステナイト相のうち何れの1種または2種以上であってもよいが、強度確保の点からは、べイナイト相またはマルテンサイト相が35vol %以上あるいは、これらの合計で35vol %以上であることが好ましい。また、組織の平均結晶粒径は10μm以下でなければならない。組織構成相毎の粒界の判別は、SEM観察写真より行える。
【0038】
なおここで、フェライトとしては通常の意味のフェライト(ポリゴナルフェライト)のみならず、炭化物を含まないベイニティックフェライト、アシキュラーフェライトをも含むものとする。また、鋼板中に残留オーステナイト相を含有すると延性は向上するが、穴拡げ率は低下するため、良好な穴拡げ率−延性バランスを確保するためには残留オーステナイト相は3vol %未満であることが好ましい。
【0039】
本発明では、母板で固溶Nを確保するが、固溶N量を一定に保っても鋼板組織の平均結晶粒径が10μmを超えると歪時効硬化特性に大きなばらつきが生じる。この理由は、詳細な機構は不明であるが、結晶粒界への合金元素の偏析と析出、さらにはこれらに及ぼす加工、熱処理の影響に関係するものと推定されるが、理由はどうあれ、歪時効硬化特性の安定化を図るには、平均結晶粒径は10μm以下とする必要がある。なお、BHおよびΔTSのさらなる高位安定化の観点からは、前記平均結晶粒径は8μm以下が好ましい。
【0040】
TS:780MPa以上
TSが780MPaを下回る鋼板では、構造部材的または衝突部材的な要素をもつ部材に広く適用することができないため、TSは780MPa以上であるものとする。なお、衝突部材により一層適合させる観点からは、TS980MPa以上のものが望ましい。
【0041】
歪時効硬化特性について
本発明において、「歪時効硬化特性に優れた」とは、前述のように、引張歪5%の予変形(予歪付与)後、170 ℃の温度に20分保持する条件で時効処理を行うという歪時効処理を行ったとき、前記時効処理前後の変形応力増加量(BHと記す;BH=時効処理後の降伏応力−時効処理前の予変形応力)が80MPa 以上であり、かつ前記歪時効処理(前記予変形+前記時効処理)前後の引張強さ増加量(ΔTSと記す;ΔTS=時効処理後の引張強さ−予変形前の引張強さ)が40MPa 以上であることを意味する。
〔引張歪5%の予変形〕
歪時効硬化特性を規定する場合、予歪(予変形)量が重要な因子となる。本発明者らは、自動車用鋼板に適用される変形様式を想定して、歪時効硬化特性に及ぼす予歪量の影響について調査し、その結果、▲1▼前記変形様式における変形応力は、極めて深い絞り加工の場合を除き、概ね1軸相当歪(引張歪)量で整理できること、▲2▼実部品ではこの1軸相当歪量が概ね5%を上回っていること、▲3▼部品強度(実部品の強度)が、予歪5%の歪時効処理後に得られる強度と良く対応することを突き止めた。この知見をもとに、本発明では、歪時効処理の予変形を引張歪5%に定めた。
〔時効処理条件:(加熱温度)170 ℃×(保持時間)20分〕
従来の塗装焼付け処理条件は、170 ℃×20分が標準として採用されている。このため、170 ℃×20分を時効処理条件に定めた。なお、多量の固溶Nを含む本発明鋼板に5%以上の歪が加わる場合は、より緩やかな(低温側の)処理でも硬化が達成され、言い換えれば時効条件をより幅広くとることも可能である。また、一般に、硬化量を稼ぐには、軟化させない限りにおいて、より高温により長時間保持することが有利である。
【0042】
具体的に述べると、本発明鋼板では、予変形後に硬化が顕著となる加熱温度の下限は概ね100 ℃である。一方、加熱温度が300 ℃を超えると硬化が頭打ちとなり、逆にやや軟化する傾向が現れるほか、熱歪やテンパーカラーの発生が目立つようになる。また、保持時間については、加熱温度200 ℃程度のとき概ね30秒程度以上とすれば略十分な硬化が達成される。さらに大きな安定した硬化を得るには保持時間60秒以上が好ましい。しかし、20分を超える保持では、さらなる硬化を望みえないばかりか、生産効率も著しく低下して実用面では不利である。
【0043】
以上のことから、本発明鋼板を使用する際には、加工の後に、時効処理条件の加熱温度を100 〜300 ℃、保持時間を30秒〜20分とすることが好ましい。本発明では、従来の塗装焼付け型鋼板では十分な硬化が達成されない低温加熱・短時間保持の時効処理条件下でも、大きな硬化が得られるという利点をも有する。なお、加熱の仕方はとくに制限されず、通常の塗装焼付けに採用されている炉による雰囲気加熱のほか、たとえば誘導加熱や、無酸化炎、レーザ、プラズマなどによる加熱などのいずれも好ましく用いうる。
〔BH:80MPa 以上、ΔTS:40MPa 以上〕
自動車用の部品強度は外部からの複雑な応力負荷に抗しうる必要があり、それゆえ素材鋼板では小さな歪域での強度特性だけでなく大きな歪域での強度特性も重要となる。本発明者らはこの点に鑑み、自動車部品の素材となすべき本発明鋼板のBHを80MPa 以上に制限するとともに、ΔTSを40MPa 以上に制限した。より好ましくは、BHでは100MPa以上、ΔTSでは50MPa 以上である。なお、以上の制限範囲は5%予歪付与後170 ℃×20分の時効処理という条件におけるBH,ΔTSを規定するものであるが、BHとΔTSは、時効処理の加熱温度をより高温側に、および/または、保持時間をより長時間側に、設定することによっても大きくすることが可能である。
【0044】
また、本発明鋼板には、成形加工後に、加熱による加速時効(人工的な時効)を行わずとも、室温で放置しておくだけで、最低限でも完全時効時の40%程度に相当する強度増加が期待でき、しかも、一方において、成形加工されない状態では、室温で長時間放置されても時効劣化(YSが増加しかつEl(伸び)が減少する現象)は起こらないという、従来にない利点が備わっている。
【0045】
ところで、本発明の効果は製品板厚が比較的厚い場合でも発揮されうるが、製品板厚が4.0mm を超える場合は、鋼板製造段階の塑性加工(圧延加工)の面で変形抵抗に対する規制がそれほど厳しくないことに加え、自動車用鋼板の用途では対象となる部品が限定されるため、本発明の優位性が目立たなくなる。したがって、本発明鋼板は、板厚4.0 mm以下のものが好ましい。
【0046】
また、本発明では、母板に電気めっきまたは溶融めっきを施したものも、めっき前と同程度のTS、BH、ΔTSを有する。めっきの種類としては、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、電気錫めっき、電気クロムめっき、電気ニッケルめっき等、いずれも好ましく適用しうる。
次に本発明鋼板の製造方法について説明する。
【0047】
本発明鋼板は、基本的に、本発明範囲内の組成になる鋼スラブを加熱後粗圧延してシートバーとなし、該シートバーを仕上圧延後、冷却して巻き取る熱延工程により製造される。スラブは、成分のマクロな偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが望ましいが、造塊法、薄スラブ連鋳法で製造してもよい。また、スラブを製造後いったん室温まで冷却して再度加熱する通常プロセスのほか、冷却せず温片のままで加熱炉に挿入する、あるいは僅かの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。とくに、固溶Nを有効に確保するには、直送圧延は有用な技術の一つである。
【0048】
熱延条件は以下のように規定される。
スラブ加熱温度:1000℃以上
初期の固溶N量を確保して製品での固溶N量の目標(0.0010%以上)を満たすには、スラブ加熱温度(SRTと記す)を1000℃以上とする。なお、酸化重量の増加に伴うロスの増大を避ける観点からはSRTは1280℃以下が好ましい。
【0049】
加熱後のスラブをシートバーにする粗圧延は常法により行えばよい。
粗圧延後は、シートバーに仕上圧延を施す。なお、本発明では、粗圧延と仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延することが好ましい。接合手段としては、溶融圧接法、レーザ溶接法、電子ビーム溶接法などを適宜に用いうる。
【0050】
これにより、仕上圧延およびその後の冷却において形状の乱れを生じやすい非定常部(被処理材の先端部および後端部)の存在割合が減少し、安定圧延長さ(同一条件で圧延できる連続長さ)および安定冷却長さ(張力をかけたまま冷却できる連続長さ)が延長して、製品の形状・寸法精度および歩留りが向上する。
また、従来のシートバー毎の単発圧延では通板性や噛込み性の問題により実施が難しかった薄物・広幅に対する潤滑圧延が容易に実施できるようになり、圧延荷重およびロール面圧が低減してロール寿命が延長する。
【0051】
また、本発明では、粗圧延と仕上圧延の間で、シートバー幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、シートバー長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用して、シートバーの幅方向および長手方向の温度分布を均一化することが好ましい。これにより、鋼板内の材質ばらつきをさらに小さくすることができる。シートバーエッジヒータ、シートバーヒータは誘導加熱方式のものが好ましい。
【0052】
使用手順は、まずシートバーエッジヒータにより幅方向の温度差を補償することが望ましい。このときの加熱量は、鋼組成などにもよるが、仕上圧延出側での幅方向温度範囲が概ね20℃以下となるように設定するのが好ましい。次いでシートバーヒータにより長手方向の温度差を補償する。このときの加熱量は、長さ端部温度が中央部温度よりも20℃程度高くなるように設定するのが好ましい。
【0053】
仕上圧延出側温度:800 ℃以上
仕上圧延では、鋼板の組織を均一かつ微細に整えるために、仕上圧延出側温度(FDTと記す)を800 ℃以上とする。FDTが800 ℃を下回ると仕上圧延温度が低くなりすぎて組織が不均一となり、一部に加工組織が残留したりして、プレス成形時に種々の不具合を発生する危険性が高まる。かかる加工組織の残留は、高温巻取により回避できるが、高温巻取を行うと粗大粒が発生して強度が低下し、また固溶N量も大きく低下するため、目標TS780MPa以上を得ることが困難となる。なお、機械的性質をさらに改善させるには、FDTは820 ℃以上が望ましい。
【0054】
また、とくに仕上圧延において、熱間加工時に荷重を低減するために潤滑圧延を行うことは、形状・材質の均一化のために有効である。その場合、摩擦係数は0.25〜0.10の範囲が好ましく、さらに、前述の連続圧延との併合実施が、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
圧延後の冷却:圧延後0.5 秒以内に開始する冷却速度40℃/s以上の冷却
圧延終了後は、直ちに(概ね0.5 秒以内に)冷却を開始し、該冷却は平均冷却速度を40℃/s以上の急冷とする必要がある。この要件が満足されないと、粒成長が進みすぎて結晶粒径の微細化が達成されず、また、圧延で導入された歪エネルギーによるAlN の析出が進みすぎて固溶N量が欠乏する。なお、材質・形状の均一性を確保する観点からは、平均冷却速度は300 ℃/s以下が好ましい。
【0055】
巻取温度:650 ℃以下
巻取温度(CTと記す)の低下につれて鋼板強度は増加し、CT650 ℃以下で目標TS780MPa以上に達するため、CTは650 ℃以下とする。なお、CTが200 ℃を下回ると鋼板形状が乱れやすくなり、実使用上の不具合を生じる危険性が高まるので、CTは200 ℃以上が望ましい。また、材質均一性の面からはCT300 ℃以上、強度確保の点では、特にTS980MPa級とするためには450 ℃以下が望ましい。
【0056】
さらに、本発明では、巻取後、調質圧延、レベラ掛けのいずれか一方または両方により伸び率0.5 〜10%の加工(熱延後加工)を行うことが好ましい。ここに、調質圧延での伸び率は圧下率と同値である。
調質圧延やレベラ掛けは、通常は表面粗さ調整や形状矯正のために行われるが、本発明では、それのみならず、BH、ΔTSをさらに増大かつ安定化させる効果がある。この効果は伸び率0.5 %以上で顕現するが、一方、伸び率10%超では延性が劣化する。よって、熱延後加工は伸び率0.5 〜10%の範囲で行うのが望ましい。なお、調質圧延とレベラ掛けとでは加工様式が相異なる(前者は圧延、後者は反復曲げ伸ばし)が、両者の伸び率は、本発明鋼板の歪時効硬化特性に対する影響の度合いが略同等である。また、本発明では、熱延後加工の前あるいは後に酸洗を行ってもかまわない。
【0057】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成になる鋼を転炉で溶製し、連続鋳造によりスラブとなし、該スラブを表2に示す各No.の条件で熱間圧延し、さらに調質圧延して、板厚1.8 mmの熱延鋼板を得た。仕上圧延ではシートバーを接合せず個別にタンデム圧延した。表2の「冷却遅れ時間」は、仕上圧延完了から冷却開始までの時間を意味する(以下同じ)。なお、冷却は水冷とした(以下同じ)。
【0058】
得られた熱延鋼板について、固溶N、微視組織、引張特性、穴拡げ率、曲げ割れ、遅れ破壊、歪時効硬化特性を以下の要領で調査した。
・固溶N量:前記方法により測定する。
・微視組織:C断面(圧延方向に直交する断面)の表裏各々から厚み表層各10%を除く部分について腐食現出組織の拡大像を画像解析し、相構成(体積%)と平均結晶粒径を測定する。
【0059】
・引張特性:引張試験によりYS,TS,伸び(El)を測定する(TS測定値=TS0 )。
・穴拡げ率:日本鉄鋼連盟規格JFS T1001に規定される穴拡げ試験にて測定する。穴拡げ率λ(%)は次式で定義する。
λ=(Dh −Do )/Do ×100
Do :初期穴径(Do =10mm)
Dh :破断後の穴径(mm)
・曲げ割れ:先端部の角度60°かつ曲げ半径3mmRのV曲げ時に割れ発生の有無で評価する。
【0060】
・遅れ破壊:曲げ半径4mmRの180 °U曲げにて加工した試験片を240 時間、大気中に放置、エチルアルコールに浸漬、純水中浸漬にて、それぞれ割れ発生の有無で評価する。
・歪時効硬化特性:引張試験により予歪量x(%)で予変形して変形応力を測定(測定値をFS(x) とする)し、除荷して時効温度Θ(℃)×時効時間τ(秒)の時効熱処理を施し、再び引っ張ってYS,TSを測定する(YS測定値=YS1 ,TS測定値=TS1 )手続きにおいて、標準条件(x=5%,Θ=170 ℃,τ=1200秒(20分))での変形応力増加量YS1-FS(5) (すなわちBH)およびTS増加量TS1-TS0 (すなわちΔTS)を求め、あるいはさらに、非標準条件(#)での変形応力増加量YS1-FS(x) (BH#と記す)およびTS増加量TS1-TS0 (ΔTS#と記す)を求める。
【0061】
・引張特性と歪時効硬化特性の調査に係る引張試験は、JIS5号試験片を用いJISZ2241に準拠した方法で行う。
結果を表3に示す。同表のNo.1,2,8〜23は本発明例であり、これら本発明例では何れにおいてもTS≧780MPa、BH≧80MPa 、ΔTS≧40MPa が達成され、さらに、広範囲な非標準条件(#)での歪時効処理でも、BH#≧80MPa 、ΔTS#≧40MPa が得られた。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
(実施例2)
0.078%C-0.15%Si-3.15%Mn-0.12%P-0.0015%S-0.012%Al-0.0135%N の組成になる鋼を転炉で溶製し、連続鋳造によりスラブとなし、該スラブを、SRT=1150℃の条件で加熱し、粗圧延して板厚25mmのシートバーとなし、該シートバーを表4に示す各No.の条件で処理したのち、FDT= 870℃の条件で仕上圧延し、冷却遅れ時間= 0.4秒、平均冷却速度=90℃/sの条件で冷却し、CT= 420℃の条件で巻き取り、さらに圧下率 0.8%で調質圧延して、板厚 1.6mmの熱延鋼板を得た。なお、シートバー接合は、相前後するシートバーの相互対向端部を高周波加熱して溶融させ圧接する方法により行った(以下同じ)。
【0066】
得られた熱延鋼板について、固溶N、微視組織、引張特性、穴拡げ率、曲げ割れ、遅れ破壊、歪時効硬化特性を調査した(調査要領は実施例1に同じ)。また、各鋼板の熱延仕上板厚精度を±30μmオンゲージ率(%)で比較した。
結果を表4に示す。同表のNo.26〜30はすべて本発明例であり、何れにおいてもTS≧780MPa、BH≧80MPa 、ΔTS≧40MPa が達成され、さらに、予歪量x=8%の場合でもBH#≧80MPa 、ΔTS#≧40MPa となった。また、熱延仕上板厚精度は、シートバーヒータ、シートバーエッジヒータの活用により相当向上し、シートバー接合による無端仕上圧延の実施によりさらに一段と向上することが認められた。
【0067】
【表4】
【0068】
(実施例3)
0.075%C-0.18%Si-2.84%Mn-0.009%P-0.0014%S-0.012%Al-0.0142%Nの組成になる鋼を転炉で溶製し、連続鋳造によりスラブとなし、該スラブを、SRT=1105℃の条件で加熱し、粗圧延して板厚25mmのシートバーとなし、該シートバーを表5に示す各No.の条件で処理したのち、FDT=890 ℃の条件で仕上圧延し、冷却遅れ時間= 0.4秒、平均冷却速度= 100℃/sの条件で冷却し、CT= 400℃の条件で巻き取り、さらに圧下率 0.7%で調質圧延して、板厚1.8mm の熱延鋼板を得た。さらに条件32〜36については、熱延鋼板を酸洗したのち連続溶融亜鉛めっきライン(該ライン内での焼鈍温度= 750℃)に通して溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
【0069】
得られた熱延鋼板または溶融亜鉛めっき鋼板について、固溶N、微視組織、引張特性、穴拡げ率、曲げ割れ、遅れ破壊、歪時効硬化特性を調査した(調査要領は実施例1に同じ)。また、各鋼板の熱延仕上板厚精度を±30μmオンゲージ率(%)で比較した。
結果を表5に示す。同表のNo.31〜36はすべて本発明例(No.31は熱延鋼板、No.32〜36は溶融亜鉛めっき鋼板)であり、めっき後に若干TSが低下する(No.31、32の比較)ものの、何れにおいてもTS≧780MPa、BH≧80MPa 、ΔTS≧40MPa が達成され、さらに、予歪量x=7%,時効時間τ=1000秒の場合でもBH#≧80MPa 、ΔTS#≧40MPa となった。また、熱延仕上板厚精度は、シートバーヒータ、シートバーエッジヒータの活用により相当向上し、シートバー接合による無端仕上圧延の実施によりさらに一段と向上することが認められた。
【0070】
【表5】
【0071】
【発明の効果】
本発明の超高強度熱延鋼板は、固溶Nを適切に活用したことにより、TS780MPa以上のなかでも高位なTS880 〜1180MPa 程度の母板強度特性を有し、歪時効処理された後に、BH80MPa 以上、ΔTS40MPa 以上を安定してクリアできる優れた歪時効硬化特性を有し、また、めっき後も同様の特性を有し、しかも形状を乱さず安価に熱延製造でき、また、酸洗なしで表面スケール層を利用する用途にも適用できて、自動車部品用鋼板の板厚を例えば2.0 mm程度から1.6 mm程度へと1グレード低減することができ、自動車車体の軽量化推進に大きく寄与するという優れた効果を奏する。
Claims (5)
- 質量%で
C:0.05〜0.10%、 Si:0.05〜1.5 %、 Mn:2.5 〜3.5 %、
P:0.05%以下、 S:0.0050%以下、 Al:0.02%以下、
Ti:0.001 〜0.050 %、 Nb:0.005 〜0.100 %、 N:0.0050〜0.0250%、
固溶N:0.0010%以上
を含有し、かつN/Alが0.3 以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板。 - 質量%で
C:0.05〜0.10%、 Si:0.05〜1.5 %、 Mn:2.5 〜3.5 %、
P:0.05%以下、 S:0.0050%以下、 Al:0.02%以下、
Ti:0.001 〜0.050 %、 Nb:0.005 〜0.100 %、 N:0.0050〜0.0250%、
固溶N:0.0010%以上
を含有し、さらに、下記A群〜D群の何れか1群または2群以上を含有し、かつN/Alが0.3 以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板。
記
A群:Cu、Ni、Cr、Mo:1種または2種以上合計1.0 %以下
B群:V、Zr :1種または2種合計0.1 %以下
C群:B :0.005 %以下
D群:Ca、REM :1種または2種合計0.005 %以下 - 請求項1または2に記載の熱延鋼板の表面に金属めっき層を有してなることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた超高強度めっき鋼板。
- 質量%で
C:0.05〜0.10%、 Si:0.05〜1.5 %、 Mn:2.5 〜3.5 %、 P:0.05%以下、 S:0.0050%以下、 Al:0.02%以下、
Ti:0.001 〜0.050 %、 Nb:0.005 〜0.100 %、 N:0.0050〜0.0250%
を含有し、あるいはさらに下記A群〜D群の何れか1群または2群以上を含有し、かつN/Alが0.3 以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを1000℃以上に加熱後、粗圧延してシートバーとなし、該シートバーを仕上圧延出側温度800 ℃以上として仕上圧延した後、0.5 秒以内に冷却速度40℃/s以上で冷却し、 650℃以下で巻き取ることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板の製造方法。
記
A群:Cu、Ni、Cr、Mo:1種または2種以上合計1.0 %以下
B群:V、Zr :1種または2種合計0.1 %以下
C群:B :0.005 %以下
D群:Ca、REM :1種または2種合計0.005 %以下 - 巻取後の鋼板に、調質圧延および/またはレベラ掛けによる伸び率0.5 〜10%の加工と酸洗とを、この順またはこの逆の順に施すことを特徴とする請求項4記載の方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2001162628A JP4556348B2 (ja) | 2000-08-16 | 2001-05-30 | 歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
Applications Claiming Priority (3)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2000246701 | 2000-08-16 | ||
JP2000-246701 | 2000-08-16 | ||
JP2001162628A JP4556348B2 (ja) | 2000-08-16 | 2001-05-30 | 歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2002129279A JP2002129279A (ja) | 2002-05-09 |
JP4556348B2 true JP4556348B2 (ja) | 2010-10-06 |
Family
ID=26597992
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2001162628A Expired - Fee Related JP4556348B2 (ja) | 2000-08-16 | 2001-05-30 | 歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP4556348B2 (ja) |
Families Citing this family (8)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP4580157B2 (ja) * | 2003-09-05 | 2010-11-10 | 新日本製鐵株式会社 | Bh性と伸びフランジ性を兼ね備えた熱延鋼板およびその製造方法 |
BRPI0414674B1 (pt) * | 2003-09-30 | 2016-11-01 | Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp | chapas de aço de alta razão de escoamento e alta resistência e métodos de produção das mesmas |
JP4486334B2 (ja) * | 2003-09-30 | 2010-06-23 | 新日本製鐵株式会社 | 溶接性と延性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板及び高降伏比高強度溶融亜鉛めっき鋼板、並びに、高降伏比高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法 |
JP4513552B2 (ja) * | 2003-12-26 | 2010-07-28 | Jfeスチール株式会社 | 焼付硬化性と耐常温時効性に優れた高張力熱延鋼板およびその製造方法 |
JP5035162B2 (ja) * | 2008-07-23 | 2012-09-26 | 住友金属工業株式会社 | 熱延鋼板およびその製造方法 |
JP5228722B2 (ja) * | 2008-09-10 | 2013-07-03 | 新日鐵住金株式会社 | 合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 |
JP5582284B2 (ja) * | 2009-09-04 | 2014-09-03 | Jfeスチール株式会社 | 高い比例限を有する薄鋼板およびその製造方法 |
CN115537664B (zh) * | 2022-10-13 | 2023-05-30 | 马鞍山钢铁股份有限公司 | 一种搪烧后屈服强度≥300MPa级热轧酸洗搪瓷用钢及其生产方法 |
Citations (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2000109951A (ja) * | 1998-08-05 | 2000-04-18 | Kawasaki Steel Corp | 伸びフランジ性に優れる高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
JP2000178684A (ja) * | 1998-12-11 | 2000-06-27 | Nippon Steel Corp | 熱処理硬化能に優れた薄鋼板及び高強度プレス成形体の製造方法 |
JP2001303180A (ja) * | 2000-04-21 | 2001-10-31 | Kawasaki Steel Corp | 加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 |
-
2001
- 2001-05-30 JP JP2001162628A patent/JP4556348B2/ja not_active Expired - Fee Related
Patent Citations (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2000109951A (ja) * | 1998-08-05 | 2000-04-18 | Kawasaki Steel Corp | 伸びフランジ性に優れる高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
JP2000178684A (ja) * | 1998-12-11 | 2000-06-27 | Nippon Steel Corp | 熱処理硬化能に優れた薄鋼板及び高強度プレス成形体の製造方法 |
JP2001303180A (ja) * | 2000-04-21 | 2001-10-31 | Kawasaki Steel Corp | 加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2002129279A (ja) | 2002-05-09 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP5163356B2 (ja) | 歪時効硬化特性に優れた高張力熱延鋼板およびその製造方法 | |
JP4524850B2 (ja) | 延性および歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板および高張力冷延鋼板の製造方法 | |
JP4265545B2 (ja) | 歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板およびその製造方法 | |
KR100611541B1 (ko) | 변형시효 경화특성이 우수한 냉연강판 및 그 제조방법 | |
JP4730056B2 (ja) | 伸びフランジ成形性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法 | |
KR100595946B1 (ko) | 변형 시효 경화특성이 우수한 고장력 냉연 강판 및 그제조 방법 | |
JP3846206B2 (ja) | 歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板およびその製造方法 | |
WO2001090431A1 (fr) | Tole d'acier laminee a froid et tole d'acier galvanisee possedant des proprietes de durcissement par ecrouissage et par precipitation et procede de production associe | |
JP4206642B2 (ja) | 歪時効硬化特性に優れた高張力熱延鋼板およびその製造方法 | |
JP3812279B2 (ja) | 加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 | |
JP4752522B2 (ja) | 深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法 | |
JP4839527B2 (ja) | 歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板およびその製造方法 | |
JP4665302B2 (ja) | 高r値と優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板およびその製造方法 | |
JP4362948B2 (ja) | 高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 | |
JP4556348B2 (ja) | 歪時効硬化特性に優れた超高強度熱延鋼板およびその製造方法 | |
JP2003313636A (ja) | 高延性かつ高強度の溶融めっき鋼板およびその製造方法 | |
JP4519373B2 (ja) | 成形性、歪時効硬化特性および耐常温時効性に優れた高張力冷延鋼板およびその製造方法 | |
JP3870868B2 (ja) | 伸びフランジ性、強度−延性バランスおよび歪時効硬化特性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板およびその製造方法 | |
JP5035268B2 (ja) | 高張力冷延鋼板 | |
JP4622187B2 (ja) | 歪時効硬化特性に優れるとともに室温時効劣化のない冷延鋼板および冷延めっき鋼板ならびにそれらの製造方法 | |
JP4747473B2 (ja) | 伸びフランジ加工性に優れた熱延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板とそれらの製造方法 | |
JP3959934B2 (ja) | 歪時効硬化特性、耐衝撃特性および加工性に優れた高張力冷延鋼板およびその製造方法 | |
JP2004218018A (ja) | 加工性と歪時効硬化特性に優れる高強度冷延鋼板および高強度めっき鋼板ならびにそれらの製造方法 | |
JP2002115027A (ja) | 薄物溶融亜鉛めっき軟鋼板およびその製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20080423 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20100623 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20100629 |
|
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20100712 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130730 Year of fee payment: 3 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |