従来から、電解質薄膜を支持するための多孔質支持体を製造する方法は、原料、添加する気孔形成剤、焼成方法等の観点から種々提案されてきた。例えば、La1-xAexMO3(但し、AeはBa,Sr,Caの少なくとも一種、MはFe,Mn,Ga,Ti,Co,Ni,Al,In,Sn,Znの少なくとも一種。)から成る平均粒径が10(μm)以上の原料を使用し、高温で、好ましくは多孔質支持体の上に設けられる電解質膜の焼成温度よりも高い温度で焼成するものがある(例えば特許文献5を参照。)。また、AFexO3-δ(但し、AはBa,Sr,Caの少なくとも一種。)から成る混合伝導性酸化物原料に樹脂を混合して成形および焼成して多孔質支持体を得るに際して、混合する樹脂量、成形圧力、焼成温度を調整することによって、その気孔率を変化させるものがある(例えば特許文献6を参照。)。また、ABB'O3(但し、Aは酸素で12配位される金属成分、B、B'は酸素で6配位される成分。)から成る原料にカーボンビーズを混合して成形し、酸化雰囲気で焼成することによりそのカーボンビーズを焼失させて、焼失痕を気孔とするものがある(例えば特許文献2を参照。)。また、ランタン系ペロブスカイト原料に微粉状で比表面積の大きい炭素粉末、例えば、平均粒径が1〜10(μm)で比表面積が200(m2/g)以上の炭素粉末を混合し、酸化雰囲気で焼成してその炭素粉末を焼失させることによって気孔を形成するものがある(例えば特許文献7,8を参照。)。上記何れの製造方法によっても、酸素透過を阻害しないような細孔径および気孔率の範囲の多孔質支持体が得られていた。
ところで、近年、固体電解質膜や触媒の性能向上に伴い、多孔質支持体のガス拡散性能が酸素分離膜の性能を律するようになってきた。そのため、多孔質支持体のガス拡散性能の一層の向上が求められている。ガス拡散性能を向上させるためには、多孔質支持体の細孔径および気孔率を一層大きくすることが考えられる。しかしながら、細孔径および気孔率を大きくするほど多孔質支持体の機械的強度は低下する。例えば、気孔率を90(%)程度まで高めると、材料強度が10(MPa)程度まで低下して、取扱い性や耐久性が不十分になる。しかも、上記各公報に記載された製造方法では、粒子間の空隙で連通孔が形成される。そのため、連通孔が著しく屈曲していることから、気孔率や細孔径を大きくしても、ガス拡散性能を十分に高めることは困難であった。
一方、支持体上に膜を設けた分離膜としては、通気用の多数の孔が開いた金属製のベースパイプを支持体として用い、その外周面に水素透過性金属箔を重ね合わせたものが提案されている(例えば、特許文献9,10を参照。)。このような支持体の肉厚方向に直線的に貫通する直管状の孔は、屈曲する連通孔に比べて通気抵抗が著しく小さいため、これらによれば、ガス拡散性能を著しく高めることができる。
しかしながら、上記特許文献9,10に記載されているベースパイプは、水素分離に用いることを目的とした金属製多孔質支持体であって、そのまま酸素分離に適用できるものでは無い。酸素分離用途では、高温、高圧、還元雰囲気、或いは水蒸気雰囲気に曝されるため、耐還元性、耐水蒸気性、および高い機械的強度を有するセラミックスで支持体を構成することが望まれる。金属製円筒には直管孔を容易に設けることができるが、機械加工性に劣るセラミックスに多数の直管孔を設けることは極めて困難である。例えば、成形体や焼結体に機械加工を施すことで特許文献9,10に記載されているものと同様な孔を設けようとすると、一度に形成できる孔数は1乃至数個、多くとも10個未満であるため、多大な手間が必要となる。しかも、曲面に貫通孔を形成するので、位置や寸法形状精度等を確保するためには、複雑な制御が必要となる問題もある。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、ガス拡散性能の高い直管孔を有するセラミック製筒状支持体および酸素透過速度の高い酸素分離膜を提供することにある。
斯かる目的を達成するため、第1発明の酸素分離膜用のセラミック直管孔筒状支持体の要旨とするところは、(a)内周部に厚み方向に貫通する貫通孔をそれぞれ有し且つその厚み方向に所定の相互間隔を以て連なるセラミック製の複数の孔明き板状部と、(b)それら複数の孔明き板状部の環状端面間にその周方向に所定の相互間隔を以て配置され且つそれら複数の孔明き板状部を相互に接続するセラミック製の複数の連結部とを含んで、全体が筒状を成すことにある。
また、前記目的を達成するための第2発明の酸素分離膜の要旨とするところは、前記第1発明のセラミック直管孔筒状支持体の表面に混合伝導体から成る緻密膜が固着されたことにある。
第1発明によれば、セラミック直管孔筒状支持体は、セラミック製の複数の孔明き板状部が、それらの環状端面間に設けられたセラミック製の連結部で相互に接続されることによって構成される。このとき、複数の孔明き板状部がその厚み方向に連なるので、それらの貫通孔によってその厚み方向に沿って伸びる孔が内周側に実質的に形成され、支持体は全体として筒状を成す。しかも、複数の連結部は環状端面の周方向に所定の相互間隔を以て配置されることから、複数の孔明き板状部の環状端面間の各々の連結部相互間には、その孔明き板状部の外周面側から内周面側に向かって直線的に貫通する直管孔が備えられる。すなわち、第1発明の支持体は、全体として筒状を成し且つ側壁に内外周面間を直線的に貫通する多数の直管孔を備えたものとなる。この直管孔の孔径は、孔明き板状部の相互間隔と、環状端面の周方向における連結部の相互間隔とによって定められることから、これらの大きさを適宜定めることによって、所望するガス拡散性能に応じた適当な大きさの直管孔が得られる。したがって、ガス拡散性能の高い直管孔を有するセラミック筒状支持体が得られる。
また、第2発明によれば、ガス拡散性能の高い直管孔を有するセラミック筒状支持体の表面に混合伝導体から成る緻密膜が固着されていることから、その緻密膜(すなわち電解質膜)に好適に酸素を含む気体が供給され、或いは、緻密膜を透過した酸素が支持体を好適に通過させられる。そのため、支持体のガス拡散性能が酸素分離膜の酸素透過性能を律することを好適に緩和でき或いは避けることができるので、酸素透過速度の高い酸素分離膜が得られる。
なお、「環状端面間に」とは、連結部の少なくとも一部が環状端面に接する状態に配置されていることを意味し、例えば柱状等を成す連結部材の全体が環状端面上に設けられていてもよいが、一部が環状端面の外周側または内周側にはみ出していても差し支えない。また、連結部は、孔明き板状部の厚み方向において一様な断面を備えたものに限られず、例えば、中間部の断面積が両端に比較して大きく或いは小さくされていても差し支えない。例えば、中間部が小面積にされると共に、環状端面よりも外周側に位置することとなっていてもよい。
また、連結部は、周方向において少なくとも2つに分割されていればよく、分割数や相互間隔の大きさは特に問わない。但し、環状端面上において連結部の占める面積が大きくなるほど、機械的強度が高くなる反面で支持体全体を筒状体と捉えた場合のその側壁における空隙率が低下し、延いてはガス拡散性能が低下するため、その面積は、空隙率が小さくなりすぎない範囲で強度を確保できるように定めることが好ましい。支持体の機械的強度は、例えば曲げ強度で30(MPa)以上あることが好ましい。なお、上記「側壁における空隙率」は、支持体を構成する複数の孔明き板状部の外周面および内周面をそれぞれ結んで作られる外周側筒状曲面および内周側筒状曲面を考えたとき、それらの間の部分の体積に対する空隙の割合を意味するものである。本願においては、第1発明の支持体について、この空隙率を気孔率として取り扱う。なお、第1発明の支持体以外、すなわち、その構成要素や後述する中間層や従来の支持体等における気孔率は、通常の定義に従い、水銀圧入法等によって測定される値である。
また、貫通孔は、複数の孔明き板状部において同軸的に備えられていることが好ましいが、複数の貫通孔で形成される孔が、ガス流通に支障が生じ延いては酸素透過速度に著しい影響を及ぼす程度まで屈曲しているのでなければ、同軸的に設けられていなくとも差し支えない。また、複数の貫通孔の各々の大きさも、一様であることが好ましいが、同様な観点で酸素透過速度に著しい影響を及ぼさない範囲でばらついていても差し支えない。
また、複数の孔明き板状部の外周縁の形状や大きさも、一様であることが好ましいが、電解質膜を固着するに際して支障の無い範囲でばらついていても差し支えない。
ここで、好適には、前記セラミック直管孔筒状支持体は、一般式Ln1-xAexMO3(ここでLnはランタノイドから選択される少なくとも一種、AeはSr,Ca,Baから選択される少なくとも一種、MはFe,Mn,Ga,Ti,Co,Ni,Al,In,Sn,Zr,V,Cr,Zn,Ge,Sc,Yから選択される少なくとも一種、0≦x≦1)で表されるペロブスカイト複合酸化物、安定化ジルコニア、酸化セリウム、これらのうちの少なくとも二種の複合材料、および、これらのうちの少なくとも一種と酸化珪素、窒化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウムから選択される少なくとも一種との複合材料の中から選択される少なくとも一種のセラミックス材料から成るものである。このようにすれば、上記ペロブスカイト複合酸化物、安定化ジルコニア、および酸化セリウムは、セラミック材料の中でも比較的高い酸素イオン伝導性を有する傾向にある。そのため、これら或いはこれらの複合材料で支持体を構成すると、酸素が支持体の直管孔だけでなく支持体内をも通過することから、支持体における酸素の透過抵抗が一層小さくなる。したがって、これらの材料で構成された支持体を用いれば、酸素透過速度の一層高い酸素分離膜が得られる。なお、酸化珪素、窒化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウムは、酸素イオン伝導性が低いが、機械的強度が比較的高く且つ安価であることから、これらとペロブスカイト複合酸化物等の酸素イオン伝導性の高い材料との複合材料から成る支持体は、比較的高い酸素イオン伝導性を有し且つ高強度で安価に製造できる利点がある。
また、上記ペロブスカイト複合酸化物は、構成元素やAサイト元素およびBサイト元素の構成比にもよるが、一般に、高い酸素イオン伝導性および高い電子伝導性を共に備えた混合伝導体であり、ペロブスカイト複合酸化物と上記他の材料との複合材料も混合伝導体となる。このような混合伝導体で支持体を構成した場合には、支持体における酸素の透過抵抗が一層低くなることに加えて、酸素分離膜を構成するに際して外部電極や外部回路を設ける必要が無いので、装置構成が簡単になる利点がある。
また、上記ペロブスカイト化合物等は、酸素分離膜を構成するための電解質膜と熱膨張係数が近似するので、製造工程や使用時に加熱或いは冷却された場合にも熱膨張量の相違に起因して破損することが好適に抑制される利点もある。
また、第1発明および第2発明で用いられるランタノイド系ペロブスカイト複合酸化物としては、例えば、LaSrTiFeO3、LaSrGaFeO3、LaSrMnFeO3等が挙げられる。これらはイオン伝導性および電子伝導性が高く、且つ支持体自体も酸素透過作用を有する利点がある。
また、安定化ジルコニアや酸化セリウムは、上記ランタノイド系に比較すると酸素イオン伝導性および電子伝導性に劣るが、その一方、これらに比較すると高強度を有する。したがって、要求される機械的強度が比較的高い場合にはこれらを用いることも好ましい。
上記安定化ジルコニアの安定化剤は特に限定されず、イットリア、セリア、マグネシア等、種々の安定化剤を添加したものを用いることができる。
また、酸化アルミニウム、酸化珪素、窒化珪素、酸化チタンは、電子伝導性が低く、酸素イオン伝導性もランタノイド系に比較すると著しく低いが、原料が比較的安価で機械的強度が高い利点がある。したがって、ペロブスカイト複合酸化物、安定化ジルコニア、酸化セリウムとの複合材料に限られず、これら酸化アルミニウム、酸化珪素、窒化珪素、酸化チタンで支持体を構成することも有効である。
また、好適には、前記複数の孔明き板状部の相互間隔は0.01乃至50(mm)の範囲内の大きさである。支持体におけるガス拡散抵抗を十分に小さくするためには、相互間隔を0.01(mm)以上にすることが好ましい。一般に、多孔質体においては、細孔径が1(μm)以上であれば、気体分子の平均自由行程との関係でガスの流通抵抗にならない。上記相互間隔が支持体の内外周間を貫通する直管孔の孔径に相当するものであるから、製造バラツキなどを考慮しても、0.01(mm)以上であればガス拡散抵抗を考慮する必要がない。また、支持体上に電解質膜を容易に形成すると共に、その保持強度を十分に高くするためには、電解質膜の形成方法にもよるが、相互間隔を50(mm)以下にすることが好ましい。
また、一層好適には、上記相互間隔は、5(mm)以下である。5(mm)以下であれば、支持体上に後述する中間層を形成する際にその中間層が破損する可能性が十分に低いので、工程が簡単になる利点がある。
また、好適には、前記複数の孔明き板状部は同軸的に位置し、且つそれらの外周面および内周面をそれぞれ含む外周側筒状曲面および内周側筒状曲面の間の部分は20乃至95(%)の範囲内の空隙率である。前述したように、この空隙率は、実質的に支持体の側壁における気孔率に相当する。十分に高いガス拡散性能を得るためには、空隙率を20(%)以上にすることが好ましく、機械的強度を確保するためには、空隙率を95(%)以下に留めることが好ましい。
また、第1発明の支持体を構成する前記複数の連結部は、孔明き板状部の環状端面上の各所に設けられるものが各々独立した部材で構成されてもよいが、一つの環状端面上に設けられるものが孔明き板状部の厚み方向における一部において相互に連結されていてもよい。また、連結部は、孔明き板状部の厚み方向において連続する部材のうちその孔明き板状部の相互間に位置する部分によって構成されていてもよい。
また、孔明き板状部とその環状端面上に位置する連結部とは、一体的に構成されていてもよい。例えば、孔明き板状部の一方の環状端面上の例えば外周縁部に、その厚み方向に突き出す複数個の突起を適当な相互間隔で設けた部材を用意し、これを複数個重ね合わせて相互に接合することで支持体を構成することもできる。
また、連結部の形状は例えば円柱状であるが、これに限られず、角柱状その他適宜の形状とすることができる。
また、好適には、孔明き板状部には、連結部の断面形状に合わせた凹所または貫通孔(前記内周部の貫通孔とは異なる他の貫通孔)が備えられ、その連結部は、それら凹所または他の貫通孔に嵌め入れられるものである。このようにすれば、連結部が環状端面上でその面に沿ってずれることが抑制されるので、複数の孔明き板状部が相互にずれて支持体全体としての真直性が低下することが好適に抑制される。また、連結部の位置ずれが抑制されるので、直管孔が所望の位置および大きさで形成される。連結部が孔明き板状部と一体に構成されている場合にも、他の孔明き板状部のその連結部に対応する位置に凹所或いは他の貫通孔を設けることにより、同様な効果を享受し得る。
また、好適には、複数の孔明き板状部には、前記内周部の貫通孔の他に、他の貫通孔が備えられ、本発明の支持体には、連結部の他に、その他の貫通孔を刺し通す案内用長尺棒が備えられる。このようにすれば、連結部で孔明き板状部の相互間隔が定められる一方、案内用長尺棒で孔明き板状部のその軸方向に垂直な方向における位置ずれが抑制される。
また、好適には、前記孔明き板状部および連結部は、互いに同一材料から成るものである。すなわち、一体的に構成されない場合にも、これらは同一材料で構成されることが好ましい。このようにすれば、同一材料であることから製造工程における取扱いが容易であると共に、熱膨張係数が同一であることから、製造工程および使用時において熱膨張量の相違に起因して破損することが好適に抑制される。
また、本発明の支持体を用いて酸素分離膜を構成するに際しては、支持体と混合伝導体から成る緻密膜との間に、支持体の空隙率(すなわち気孔率)よりも気孔率の小さい中間層が設けられる。このようにすれば、支持体上に直接設ける場合に比較して緻密膜を容易に形成できる利点がある。なお、この中間層は、孔明き板状部および連結部と同一材料で構成してもよいが、異なる材料で構成してもよい。同一材料で構成する場合には、焼成収縮が十分に小さくなるように、孔明き板状部の原料よりも粒径の大きい原料を用いることが好ましい。異なる材料で構成する場合には、孔明き板状部および緻密膜との熱膨張係数の相違が可及的に小さく、且つ、その緻密膜との反応性の低い材料を用いることが好ましい。また、中間層は、細孔径が0.1〜10(μm)程度の範囲内で気孔率が20(%)以上であることが好ましい。一層好適には、細孔径が5(μm)以上、気孔率が20〜30(%)程度である。
また、本発明の支持体は、孔明き板状部および連結部をそれぞれ緻密質に構成し、それらを空隙が生ずるように接合することで支持体全体として適当な空隙を有するものとすることが好ましい。このようにすれば、支持体全体を一体的に構成する場合に比較して製造が容易になる。また、支持体の構成要素の各部が緻密質であることから、高い機械的強度を有するので、接合後の全体に高い機械的強度を与えることが容易である。すなわち、孔明き板状部および連結部は、多孔質であっても緻密質であっても差し支えないが、可及的に高い機械的強度を得るためには緻密質に構成することが好ましい。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例のセラミック直管孔筒状支持体10(以下、支持体10という)の全体を示す斜視図である。支持体10は、例えば全体が外径20(mm)×内径14(mm)×長さ300(mm)程度の大きさを備えた略円筒形状を成すものであり、複数枚の孔明き円板12が支柱14を介して積層された状態で相互に固着されることにより構成されている。本実施例においては、孔明き円板12が孔明き板状部に、支柱14が連結部にそれぞれ相当する。
上記の孔明き円板12は、内周部に厚み方向に貫通する貫通孔16を外周縁と同心に有するものであり、外径20(mm)×内径14(mm)×厚さ1.5(mm)程度の大きさを備えている。また、前記支柱14は、各々が直径1.5(mm)×長さ1.5(mm)程度の円柱形状を成すものであり、その孔明き円板12の環状端面18上において、周方向に等間隔で4個が配置されている。したがって、複数枚の孔明き円板12の相互間の各々には、1.5(mm)×10(mm)程度の開口径を備えて環状端面18の外周縁から内周縁に直線的に貫通する4つの直管孔20がそれぞれ備えられている。
また、上記の孔明き円板12および支柱14は、例えば何れもLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3(以下、LSTFという)やLa0.6Sr0.4Zr0.2Fe0.8O3(以下、LSZFという)等のランタン系ペロブスカイト複合酸化物から成る緻密体であり、1(%)未満の気孔率を備え、焼成処理を施すことによって強固に接合されることによって一体化させられている。なお、複数個の孔明き円板12は、全て同一形状および同一寸法に構成されており、その外周面および内周面は、それぞれ一つの円筒面上に位置する。
また、上述したように、支持体10は、緻密質の構成部材のみで構成されているが、前記のように孔明き円板12の相互間には4つの直管孔20がそれぞれ備えられている。そのため、支持体10全体としてみれば、孔明き円板12の外周面を含む外周側円筒面と、その内周面を含む内周側円筒面との間の部分は、例えば48(%)程度の気孔率を備えた多孔質円筒である。また、この多孔質円筒の外内周面間のガス透過率は、例えば1.2×10-3(mol/Pa/m2/s)程度の極めて高い値である。
上記の支持体10は、例えば図2に示すように、外周面に混合伝導体から成る緻密膜(電解質膜)22が形成されることにより、酸素分離膜24として用いられる。このとき、支持体10と緻密膜22との間には、その支持体10よりも十分に気孔率および細孔径の小さい多孔質の中間層26が必要に応じて備えられる。上記の緻密膜22は、高い酸素透過速度を得るためには可及的に薄くされることが好ましく、例えば100(μm)程度の厚さ寸法で設けられる。そのため、このような薄い膜を支持体10の外周面に直接設けることは困難である場合には、中間層26が設けられるのである。中間層26は、それ自体が支持体10上で形状を維持し得るように、例えば、0.1〜0.3(mm)程度の厚さ寸法で設けられる。また、中間層26の細孔径は例えば0.1〜10(μm)程度、気孔率は20(%)以上である。
なお、上記の緻密膜22は、例えば、LSTFから成るものである。すなわち、緻密膜22は、支持体10と同一材料で構成することができる。また、上記の中間層26は、例えばLSTFやLSZF等から成るものである。中間層26も支持体10と同一材料で構成することが好ましい。
以上のように構成された支持体10は、孔明き円板12がその環状端面18間に設けられた支柱14で相互に接続されることによって構成されることから、全体として、支持体10の長手方向に伸びる孔が内周側に備えられる。しかも、支柱14は、環状端面18の周方向に4つが等間隔で配置されることから、それら支柱14相互間には支持体10の外周面から内周面に直線的に貫通する孔径が1.5(mm)程度の直管孔20が備えられ、全体として円筒状を成す支持体10は、45(%)程度の高い気孔率を有するものとなる。したがって、本実施例によれば、ガス拡散性能の高い直管孔20を有する支持体10が得られる。
また、前記酸素分離膜24は、上記のようなガス拡散性能の高い支持体10の外周面に緻密膜22を固着することによって構成されていることから、支持体10が酸素分離膜24全体の酸素透過速度を律することが好適に抑制される。したがって、その緻密膜22の構成材料や膜厚などに応じた高い酸素透過速度を有する酸素分離膜24が得られる。
ところで、上記の支持体10は、例えば、以下のようにして製造される。以下、図3の工程図を参照しつつ製造方法の一例を説明する。
先ず、混合工程PS1においては、孔明き円板12および支柱14を構成するためのLSTFやLSZF等のペロブスカイト複合酸化物の原料粉末に、バインダーおよび分散剤を混合する。原料粉末は、市販の適宜のものを用いることができ、例えば、平均粒径が1(μm)程度のものが用いられる。次いで、造粒工程PS2においては、この混合物を噴霧造粒等の適宜の方法で造粒する。造粒後の粒子径は例えば60(μm)程度である。
次いで、成形工程PS3においては、上記の造粒原料を用いて、粉末プレス成形法等の適宜の成形方法を利用して、孔明き円板12および支柱14をそれぞれ製造するための成形体を成形する。前者の成形寸法は、例えば外径25(mm)、内径17(mm)、厚さ2(mm)程度である。また、後者の成形寸法は、例えば直径2〜3(mm)、厚さ2(mm)程度である。これらには、必要に応じて例えば150(MPa)程度の湿式静水圧加圧(CIP)を更に施す。
次いで、焼成工程PS4においては、上記の成形体に大気中において焼成処理を施す。焼成処理は、例えば200〜500(℃)程度の温度で10時間程度保持して有機物を分解した後、1000〜1600(℃)程度まで昇温して3時間程度保持することにより行う。次いで、研磨工程PS5では、得られた焼成物に機械研磨を施すことにより、所望の寸法に加工する。加工後の厚さ寸法は、例えば1.5(mm)程度である。必要に応じ、孔明き円板12の内径および外径、支柱14の外径を研磨しても良く、これらの研磨加工後の寸法は、孔明き円板12が内径14(mm)、外径20(mm)程度、支柱14が外径1.5(mm)程度である。図4、図5に、研磨を施した後の焼成物すなわち孔明き円板12および支柱14を示す。
次いで、接合工程PS7においては、上記孔明き円板12および支柱14を重ね合わせ、例えば1300〜1600(℃)程度の温度で焼成処理を施すことにより、これらを接合する。これにより、前記図1に示されるような支持体10が得られる。したがって、本実施例によれば、孔明き円板12および支柱14をそれぞれ作製し、これらを接合するだけで支持体10が得られることから、直管孔20を有し且つ気孔率の高い支持体10を極めて容易に得ることができる。
また、前記酸素分離膜24は、上記のようにして製造した支持体10を用いて例えば図6に示される工程に従って製造される。
先ず、シート成形工程PR1においては、例えば、平均粒径が20〜50(μm)程度のLSTF或いはLSZF原料を用意し、これに溶媒、バインダー、可塑剤、および分散剤を加えて、混合してスラリーを調製し、例えばドクターブレード法を利用してシートを成形する。成形寸法は例えば幅寸法100(mm)、長さ1000(mm)、厚さ100〜300(μm)程度である。なお、中間層26は、前述したように多孔質とする必要があるため、孔明き円板12等を製造するための原料に比較して粗大なものを用いる。次いで、巻き付け工程PR2においては、このシート状成形体を所望の大きさおよび形状に切断し、前記支持体10の外周面に巻き付ける。なお、シート成形体が十分な可塑性を有する場合には、そのまま巻き付けても支持体10から剥離することはないが、剥離する場合には、支持体10の表面またはシート成形体の表面に少量の可塑剤を塗布してから巻き付ければよい。
次いで、中間層焼成工程PR3においては、シート状成形体を巻き付けた支持体10を、例えば大気中において1000〜1600(℃)程度の温度で3時間程度保持することにより、焼成処理を施す。これにより、シート状成形体から多孔質の中間層26が生成される。生成された中間層26は、例えば、細孔径が5〜10(μm)程度、気孔率が20〜30(%)程度である。
次いで、製膜工程PR4においては、例えば、平均粒径が1〜2(μm)程度のLSTF粉末に溶媒、バインダー、可塑剤、および分散剤等を加えて、混合してスラリーを調製し、このスラリー中に中間層26が生成された支持体10をディッピングしてその外周面にスラリーを塗布する。塗布厚みは例えば100(μm)程度である。次いで、膜焼成工程PR5において、大気中で1000〜1600(℃)程度の温度で3時間程度保持することにより、スラリーから前記緻密膜22を生成する。これにより、前記酸素分離膜24が得られる。
なお、上記製造方法は、中間層26を支持体10と同一材料で構成する場合について説明したが、中間層26は、支持体10と異なる材料で構成しても良い。例えば、孔明き円板12および支柱14は緻密質に構成する必要があるため焼結性の高い原料を用いることが好ましいが、中間層26は多孔質に構成する必要があるため、それよりも十分に焼結性の低い原料を用いることが好ましい。例えば、孔明き円板12等を構成するLSTFおよびLSZFのBサイト元素の一部を変更すれば、熱膨張係数を大きく変化させない範囲で、中間層26に適当な難焼結性の原料が得られる。
例えば、中間層26の構成材料としては、平均粒径が10(μm)程度のLa0.6Sr0.4Zr0.3Fe0.7O3や、La0.85Sr0.15MnO3等を用いることができる。これらの原料粉末に前記シート成形工程PR1と同様にして溶媒等を加えてスラリーを調製し、同様にしてシートを成形する。このスラリーから得られる中間層26は、例えば、細孔径が1〜3(μm)、気孔率が30(%)程度である。
以下、上記のような構成例および製造方法例において、種々の原料を用いて支持体10および酸素分離膜24を製造して、特性を評価した結果を説明する。
下記の表1は評価結果をまとめたものである。表1において、「筒状支持体」欄は、支持体10の構成材料および形状を表している。また、「膜」欄は、その支持体上に形成した緻密膜22の構成材料を表している。また、「支持体細孔径」、「気孔率」欄は、それぞれ支持体の細孔径と気孔率を表している。また、「ガス透過率」欄には、支持体単独で測定したガス透過率を、「酸素透過速度」欄には、支持体に緻密膜22を設けた状態で1000(℃)で測定した酸素透過速度を示している。
なお、表1において、支持体細孔径は、直管孔のものすなわち実施例については、孔明き円板12の相互間隔すなわち支柱14の高さ寸法を用いている。一方、非直管孔のものすなわち比較例については、水銀圧入法で測定した実測値である。また、気孔率は、実施例については、内外周面間の体積およびそのうちの空間体積を計算で算出し、その空間部分を気孔として算出した値である。比較例については、水銀圧入法で測定した値である。また、ガス透過率は、支持体の両端部を気密にシールすると共にそのうちの一端にガス供給路を設け、そのガス供給路から支持体内に空気を供給して、供給ガス圧と流量との関係から算出した値である。また、酸素透過速度は、ガス透過率測定と同様にして測定を行い、緻密膜22を透過した酸素流量、供給したガス中の酸素濃度、および酸素分離膜24の酸素透過部面積から算出した。
上記の表1中、No.1〜5、7〜11、13〜16は、本発明の範囲内の実施例であり、No.6、12は、本発明の範囲外の比較例である。これら比較例は、例えば以下のようにして支持体を製造した。
すなわち、例えば平均粒径が20〜50(μm)程度のLSTFおよびLSZF原料粉末を用意し、それぞれにバインダーおよび分散剤を混合して、噴霧造粒等の適宜の方法を用いて造粒する。造粒後の平均粒径は例えば80(μm)程度である。これを円柱状の金型に充填し、湿式静水圧成形法を用いて例えば150(MPa)程度の圧力で加圧成形する。次いで、得られた成形体に大気中において焼成処理を施す。焼成処理は、例えば200〜500(℃)で10時間程度保持し、その後、1000〜1600(℃)で3時間程度保持するものとした。この焼成体に機械研磨を施すことにより、比較例の支持体が得られる。すなわち、比較例の支持体は、原料粉末として平均粒径の大きいものを用いることにより、その粒子間に生じる空隙で細孔を形成する従来の多孔質支持体である。
また、上記の表1において、LSAFは、La0.6Sr0.4Al0.1Fe0.9O3であり、LSGFは、La0.7Sr0.3Ga0.6Fe0.4O3であり、LSMFは、La0.6Sr0.4Mn0.3Fe0.7O3である。また、No.16は、LSTFと3molY安定化ジルコニアを1:1の質量比で混合した複合材料である。
上記の評価結果に示すように、比較例の支持体は細孔径が10(μm)程度に過ぎず、気孔率も30(%)程度に留まるのに対し、実施例の支持体10は、支柱14の厚さ寸法に応じた極めて大きな細孔径を有し、気孔率も40(%)以上である。この結果、支持体10のガス透過率は、高いものでは9.5×10-3(mol/Pa/m2/s)に達し、低いものでも1.2×10-3(mol/Pa/m2/s)程度であったが、比較例では6.5×10-5(mol/Pa/m2/s)に留まった。そのため、実施例の支持体10を用いた酸素分離膜24は、支持体10のガス拡散性能が酸素分離膜24の特性を律することが無いため、13〜19(cc/min/cm2)程度の高い酸素透過速度を得ることができた。これに対して、比較例では支持体のガス透過率が低いことから、緻密膜22の特性が十分に発揮されないため、2〜3(cc/min/cm2)程度の低い酸素透過速度に留まった。
上記の評価結果によれば、本実施例の支持体10および酸素分離膜24によれば、従来に比較して著しく高い特性を有することが明らかである。また、細孔径すなわち孔明き円板12の相互間隔は、500〜5000(μm)の範囲内の何れでも使用可能であることが明らかである。なお、上記表1には示さないが、相互間隔を7000(μm)或いは10000(μm)とした場合には、中間層26の形成時に一部に変形が見られ、緻密膜22の焼成時に割れが生ずる場合があり、安定して酸素分離膜24を製造することができなかった。
なお、実施例中でも、LSTF直管孔の支持体を用いたものでは、支持体細孔径が1000(μm)以下の範囲において、LSZF直管孔の支持体を用いたものでは、支持体細孔径が500(μm)以下の範囲において、それぞれそれらを超える細孔径のものよりも僅かに特性が劣る。したがって、望ましい細孔径は、支持体10や緻密膜22の構成材料等にもよるが、1000(μm)或いは1500(μm)以上である。
図7は、本発明の他の実施例のセラミック直管孔筒状支持体を構成するための孔明き円板部28および支柱部30,32が一体に備えられた支柱一体型円板34を示す斜視図である。図7において、支柱一体型円板34は、一方の環状端面36に4つの支柱部30が周方向において等間隔に備えられると共に、他方の環状端面38に4つの支柱部32が周方向において等間隔に備えられている。これら支柱部30,32は、略矩形の平面形状を備えて互いに同様な高さ寸法を有し、且つ、互いに他方の周方向における中間部に位置しており、それらの周方向寸法の和は、環状端面36,38の外周縁の円周よりも短くなっている。また、支柱部30,32の大きさは、例えば3×3×1.5(mm)程度で、孔明き円板部28の環状端面の外周縁から内周縁に亘る範囲に配置されている。
そのため、このような支柱一体型円板34を重ね合わせると、それら周方向寸法の和と外周縁の円周との差に応じた周方向寸法を有し且つ支柱部30,32の高さ寸法に等しい高さ寸法を備えた隙間が、支柱一体型円板34の内外周間に直線的に貫通して備えられることになる。したがって、この態様によれば、支柱として機能する部材を別に製造する場合に比較して、1種類の部品を製造するだけで足りると共に、その部品を単に重ね合わせて接合するだけで、前記支持体10と同様な支持体が得られるため、製造工程が一層簡単になる利点がある。
図8は、図7と同様に支柱部40,42が孔明き円板部44の両面に一体的に備えられた支柱一体型円板46を示す図であるが、この実施例では、両面の支柱部40,42が孔明き円板部44の周方向における同一位置に備えられている。これら支柱部40,42の各々は、例えば、3×1×1.5(mm)程度の大きさで、孔明き円板部44の環状端面の径方向に沿って、外周縁から内周縁に亘る範囲に配置されている。そのため、この支柱一体型円板46を使用するに際しては、例えば、上下に接して配置されるものを支柱部40の周方向における中心間隔の半分の長さだけ周方向に互いに回転させて重ね合わせることにより、図7と同様な支持体を構成し得る。
なお、図8に示す例では、支柱40,42が両面でそれぞれ6個ずつ備えられているが、これらの個数は適宜変更できる。また、同数を等間隔で配置することが好ましいが、必須ではなく、両面で個数が異なっていても差し支えない。また、図7、図8何れの実施例においても、支柱部30,32,40,42の形状は任意に定めることができる。これらの実施例では角板状乃至角柱状とされているが、円柱形状や扇形等であっても差し支えない。
図9は、孔明き円板48および支柱50の更に他の構成例を説明する図である。この実施例の孔明き円板48には、その一方の環状端面52に支柱50の外径よりも僅かに大きい内径寸法の円形のくぼみ54が2つ備えられている。このくぼみ54は、図示するように、支柱50を嵌め入れるために設けられているものである。これら孔明き円板48および支柱50を用いて支持体を作製するに際しては、支柱50を複数枚の孔明き円板48のくぼみ54にそれぞれ嵌め入れ、その後、支柱50と一体にした孔明き円板48を重ね合わせて焼成処理を施す。そのため、支柱50の位置ずれが抑制されるので、支持体の製造が一層容易になる利点がある。
なお、上記の態様において、孔明き円板48の他方の環状端面56にもくぼみ54と同様なくぼみを設けることができる。このようにすれば、孔明き円板48を重ね合わせるに際して、その環状端面56のくぼみが位置決め機能を有するので、位置合せが容易になる利点がある。
図10は、複数枚の孔明き円板58の径方向における相対位置を定めるためのガイドとして機能する長尺棒60を用いる構成例を示す斜視図である。この実施例においては、孔明き円板58に長尺棒60を刺し通すための貫通孔62が、例えば2個の支柱64の周方向における中間部に備えられている。そのため、孔明き円板58を重ね合わせるに際して、それぞれを長尺棒60に刺し通すだけで位置決めされるため、位置合せが容易になる利点がある。
なお、貫通孔62は、例えば、その中心が支柱64の端面の中心と同一円周上に位置するように設けられているが、それよりも外周側または内周側に位置しても差し支えない。また、支柱64と同一径で設けられても、それよりも小径または大径で設けられてもよい。また、この実施例では、貫通孔62が周方向における2箇所に設けられているが、1箇所であっても位置合わせ効果を得ることができる。また、3箇所以上設けられていても差し支えない。貫通孔62は、2箇所以上に設けられている場合には周方向に均等に配置されていることが好ましいが、必須ではない。また、この実施例では長尺棒60が円柱形状を成しているが、その断面形状は円形に限られず矩形等の適宜の形状とすることができる。更に、上記の実施例において、支柱64は、孔明き円板58に一体的に設けられていても良く、図1や図9に示される実施例に示すように別に製造されたものであっても良い。
また、長尺棒60は、そのまま支持体を構成部材としても差し支えないが、位置決め後或いは焼成処理の後に取り外して再利用することもできる。焼成処理後に取り外して再利用する場合には、焼成処理の際に接合することのないように貫通孔62を大きめの寸法にすればよい。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。