JP4412098B2 - 溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents

溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板及びその製造方法 Download PDF

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本発明は、建築、海洋構造物、ラインパイプ、造船、土木、建設機械等の分野での使用に好適な、溶接部も含めて高靱性を要求される、溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板とその製造方法に関するものである。
近年、溶接構造用鋼材においては、高強度、高靱性に加え、耐震性の観点から低降伏比化も要求されている。一般に、鋼材の金属組織を、フェライトの様な軟質相の中に、ベイナイトやマルテンサイトなどの硬質相が適度に分散した組織にすることで、鋼材の低降伏比化が可能であることが知られている。
上記のような軟質相の中に硬質相が適度に分散した組織を得る製造方法として、焼入れ(Q)と焼戻し(T)の中間に、フェライトとオーステナイトの2相域からの焼き入れ(Q’)を施す熱処理方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この熱処理方法では、Q’温度を適当に選択することにより、低降伏比化が達成可能であるが、熱処理工程数が増加するため、生産性の低下、製造コストの増加を招く。
製造工程が増加することがない方法として、Ar3温度以上で圧延終了後、鋼材の温度がフェライトが生成するAr3変態点以下になるまで加速冷却の開始を遅らせる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、圧延終了から加速冷却開始までの温度域を放冷程度の冷却速度で冷却する必要があるため、生産性が極端に低下する。
特許文献1、特許文献2に開示されている様な複雑な熱処理を行わずに低降伏比化を達成する技術として、Ar3変態点以上で鋼材の圧延を終了し、その後の加速冷却速度と冷却停止温度を制御することで、針状フェライトとマルテンサイトの2相組織とし、低降伏比化を達成する方法が知られている(例えば特許文献3参照。)。
特開昭55−97425号公報 特開昭55−41927号公報 特開平1−176027号公報
しかし、特許文献3に記載の技術では、その実施例が示すように、引張強さで590N/mm(60kg/mm)級の鋼材とするために鋼材の炭素含有量を高めるか、あるいはその他の合金元素の添加量を増やした成分組成とする必要があるため、素材コストの上昇を招くだけでなく、溶接熱影響部靭性の劣化が問題となる。
このように従来の技術では、生産性を低下させることなく、または素材コストを上昇させることなく、低降伏比高強度高靱性鋼板を製造することは困難である。
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、多量の合金元素等を添加して素材コストを上昇させることなく、高製造効率、低コストで製造できる、溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板及びその製造方法を提供することにある。
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)、質量%で、C:0.03〜0.1%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.2〜2.5%、Mo:0.05〜0.4%、Ti:0.008〜0.025%、N:0.004〜0.007%、Al:0.08%以下を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、Ti量とN量との比であるTi/Nが2〜4であり、原子%でのC量とMo、Tiの合計量との比であるC/(Mo+Ti)が1.2〜3であり、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとの合計の体積分率が97%以上であり、島状マルテンサイトの面積分率が3〜20%であることを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板。
(2)、さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.07%および/またはV:0.005〜0.1%を含有し、原子%でのC量とMo、Ti、Nb、Vの合計量との比であるC/(Mo+Ti+Nb+V)が1.2〜3であることを特徴とする(1)に記載の溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板。
(3)、質量%で、C:0.03〜0.1%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.2〜2.5%、Ti:0.008〜0.025%、N:0.004〜0.007%、Al:0.08%以下を含有し、Nb:0.005〜0.07%および/またはV:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつTi量とN量との比であるTi/Nが2〜4であり、原子%でのC量とNb、Vの合計量との比であるC/(Nb+V)が1.2〜6であり、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとの合計の体積分率が97%以上であり、島状マルテンサイトの面積分率が3〜20%であることを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板。
(4)、さらに、質量%で、Ca:0.001〜0.003%を含有し、不純物として含有されるO、SがO:0.003%以下、S:0.005%以下であり、かつCa、O、Sの含有量が下記(a)式を満たすことを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の溶接熱影響部靱性に優れた低降伏比高強度鋼板。
0.4≦(1−130×[O])×[Ca]/(1.25×[S])≦0.8 …(a)
但し、(a)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
(5)、さらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.005%以下の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板。
(6)、(1)ないし(5)のいずれかに記載の成分組成を有する鋼を、1000〜1300℃の温度に加熱し、Ar3温度以上の圧延終了温度で熱間圧延した後、5℃/s以上の冷却速度で450〜650℃まで加速冷却を行い、その後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜750℃まで再加熱を行うことを特徴とする、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとの合計の体積分率が97%以上であり、島状マルテンサイトの面積分率が3〜20%である溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板の製造方法。
本発明によれば、溶接熱影響部靱性に優れた低降伏比高強度鋼板を、多量の合金元素を添加することなく、低コストで製造することができる。このため建築、海洋構造物、ラインパイプ、造船、土木、建設機械等の溶接構造物に使用する鋼板を、安価で大量に安定して製造することができ、生産性および経済性を著しく高めることができる。
本発明者らは前記課題を解決するために、まず、鋼の溶接熱影響部の細粒化に関して種々の検討を行った結果、多量のTiおよびNを添加することにより、鋼の鋳造過程で生成するTiNの固溶温度が上昇し、かつ添加TiとNの比をある範囲に制御することによって上記凝固過程でTiNが微細分散し、その結果溶接熱影響部の組織の粗大化を抑制しうること、さらに、鋼中不純物であるO、S量に応じて適切なCa添加を行うことで、上記細粒化に加えて、細かい粒界フェライト生成が促進され、鋼の合金設計によらず一定の溶接部靭性向上効果が得られることを見出した。
さらに、鋼板の製造方法、特に制御圧延後の加速冷却とその後の再加熱という製造プロセスについて鋭意検討した結果、以下の(A)〜(C)の知見を得た。
(A)、加速冷却過程でベイナイト変態途中すなわち未変態オーステナイトが存在する温度領域で冷却を停止し、その後直ちにベイナイト変態終了温度(以下Bf点と記載する。)以上から再加熱を行うことにより、鋼板の金属組織を、フェライト、ベイナイトの混合相中に硬質相である島状マルテンサイト(以下MAと記載する。)が均一に生成した3相組織となり、低降伏比化が可能である。MAは、たとえば3%ナイタール溶液(nitral:硝酸アルコール溶液)でエッチング後、電解エッチングして観察すると、容易に識別可能である。図1、2は走査型電子顕微鏡(SEM)で鋼板のミクロ組織を観察した場合の写真であるが、MAは白く浮き立った部分として観測され、フェライト、ベイナイトの混合組織にMAが均一に生成している様子が確認できる。
(B)、本プロセスを用いることで、加速冷却時のベイナイト変態による強化に加え、再加熱時の未変態オーステナイトからのフェライト変態時に析出する微細析出物による析出強化が得られるため、合金元素が少ない低成分系の鋼においても高強度化が可能になる。そして、Mo、Tiを含有する鋼を用いることで、極めて微細なMoと、Tiとの複合炭化物の分散析出が得られ、また、NbやVを複合添加する場合でも、Ti、MoとNbおよび/またはVを含む複合炭化物を分散析出させることによってフェライト相の高強度化が達成できる(第一の実施形態として以下に記載)。また、Nb、Vを含有する鋼を用いることで、凝固段階で生成した微細TiNを核として極めて微細なNb、Vを含有する複合炭窒化物を分散析出させることによってフェライト相の高強度化が達成できる(第二の実施形態として以下に記載)。
(C)、上記(A)、(B)の効果は、Mn等の焼入性向上元素を添加しMAの生成を促進すると共に、Ti、Nの制御とMo、Ti等の炭化物形成元素を添加した鋼や、Ti、Nの制御とNb、V等の炭化物形成元素を添加した鋼を用いることで得られる。
本発明は上記の知見により得られたもので、まず溶接熱影響部細粒化のためのTi、N添加あるいはさらにCa添加と、圧延後の加速冷却によって生成したベイナイト相と、その後の再加熱によって生じるTi、Moを基本として含有する析出物や、微細TiNを核として生じるNb、Vを含有する析出物が分散析出したフェライト相と、硬質相であるMAが均一に生成した3相組織を有する低降伏比高強度鋼板に関するものである。溶接熱影響部組織を、Ti窒化物の均一分散による粗大化抑制と、さらにフェライト変態の核生成を促進するCa−Mn複合酸硫化物により細粒フェライト−ベイナイト組織とすることで、大幅に靱性を向上させることができる。
まず、本発明の鋼板の組織について説明する。
本発明では、フェライト相、ベイナイト相に硬質相であるMAが均一に生成した組織とすることで、低降伏比化を達成している。本発明における、MA生成のメカニズムは以下の通りである。まず、加速冷却をベイナイト変態途中すなわち未変態オーステナイトが存在する温度域で終了し、その後に再加熱を行うことで未変態オーステナイトからのフェライト変態を生じるが、その際にCが未変態オーステナイトに排出されるため、フェライト変態が進行するに従ってオーステナイト中のC量が増加する。このとき、焼き入れ性を高め、オーステナイト安定化元素である、Mn、Cu、Ni等が一定以上含有されていると、再加熱終了時でもCが濃縮した未変態オーステナイトが残存し、その後の冷却でMAへと変態するものである。本発明では、ベイナイト変態途中で加速冷却を停止し、その後連続的に再加熱を行うことで、製造効率を低下させることなく硬質相であるMAを生成させることができ、硬質相を含んだ複合組織である3相組織とすることで低降伏比が達成できる。3相組織中のMAの割合は、MAの面積分率(鋼板の任意の断面におけるMAの面積の割合)で、3〜20%とすることが望ましい。MAの面積分率が3%未満では低降伏比化を達成するには不十分であり、また20%を超えると母材靱性を劣化させる場合がある。また、低降伏比化および母材靭性の観点から、MAの面積分率は5〜15%とすることが特に望ましい。なお、MAの面積分率は、例えばSEM観察により得られたミクロ組織を画像処理することによってMAの占める面積率を求めることで得ることができる。また、MAが粗大であると破壊の起点となり母材靭性を劣化させるため、MAの平均粒径は、10μm以下であることが望ましい。なお、MAの平均粒径は、SEM観察により得られたミクロ組織を画像処理し、個々のMAと同じ面積の円の直径を個々のMAについて求め、それらの直径の平均値として求めることができる。
また、高強度化を達成するために、加速冷却時のベイナイト変態による変態強化と、加速冷却後に再加熱してフェライト中に析出する微細析出物による析出強化を複合して活用することにより、合金元素を多量に添加することなく高強度化を達成することができる。フェライト相は延性に富んでおり、一般的には軟質であるが、本発明では以下に述べる微細な析出物により高強度化する。合金元素を多量に添加しない場合には、加速冷却で得られるベイナイト単相組織だけでは強度不足であるが、析出強化されたフェライト相により十分な強度を有するものとなる。析出強化を活用した鋼板では一般的に高降伏比となるが、本発明では他相と硬度差の大きなMAを均一に生成させることにより低降伏比化を実現している。
なお、金属組織が、実質的にフェライトとベイナイトとMAとの3相組織からなるとは、本発明の作用効果を無くさない限り、フェライト、ベイナイトおよびMA以外の組織を含有するものが、本発明の範囲に含まれることを意味する。
フェライトとベイナイトとMAとの3相組織に、パーライトなどの異なる金属組織が1種または2種以上混在する場合は、強度が低下するため、フェライト相、ベイナイト相およびMA以外の組織分率は少ない程良い。しかし、フェライト相、ベイナイト相およびMA以外の組織の体積分率が低い場合は影響が無視できるため、トータルの体積分率で3%未満の他の金属組織を、すなわちパーライトやセメンタイト等を1種または2種以上含有してもよい。また、強度確保の観点からフェライトの体積分率を5%以上に、母材の靭性確保の観点からベイナイトの体積分率を10%以上にする事が望ましい。
次に、上記のフェライト相内に析出する微細な析出物について説明する。
第1の実施形態における本発明の鋼板では、フェライト相中のMoとTiとを基本として含有する析出物による析出強化を利用している。Mo及びTiは鋼中で炭化物を形成する元素であり、MoC、TiCの析出により鋼を強化することは従来行われているが、本発明ではMoとTiを複合添加して、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を鋼中に微細に分散析出させることにより、MoCまたはTiCの析出強化の場合に比べて、より大きな強度向上効果が得られることが特徴である。この従来にない大きな強度向上効果は、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物が安定でかつ成長速度が遅いので、粒径が10nm未満の極めて微細な析出物が得られることによるものである。
MoとTiとを基本として含有する複合炭化物は、Mo、Ti、Cのみで構成される場合は、MoとTiの合計とCとが原子比で1:1の付近で化合しているものであり、高強度化に非常に効果がある。本発明では、Nbおよび/またはVを複合添加することにより、析出物がMo、TiとNbおよび/またはVを含んだ複合炭化物となり、同様の析出強化が得られることを見出した。
また、第2の実施形態として、凝固過程で生成した微細TiNを核としてフェライト相中のNb、Vの中から選ばれる1種以上を含有する複合炭化物の析出強化を利用している。Nb、Vは鋼中で炭化物を形成する元素であり、個々の炭化物の析出により鋼を強化することは従来行われているが、本発明ではNb、Vの中から選ばれる1種以上を複合添加して、既に存在するTiNを核とした複合炭窒化物を鋼中に微細析出させることにより、個々の炭化物による析出強化の場合に比べて、より大きな強度向上効果が得られることが特徴である。この従来にない大きな強度向上効果は、この複合炭窒化物が安定でかつ成長速度が遅いので、粒径が20nm未満の極めて微細な析出物が得られることによるものである。
本発明の第2の実施形態において鋼板内に分散析出する析出物である、Nb、Vの中から選ばれる1種以上を含有する複合炭化物は、Nb、Vの合計とCとが原子比で1:1の付近で化合しているものであり、高強度化に非常に効果がある。また、この微細炭化物は主にフェライト相中に析出するが、化学成分、製造条件によってはベイナイト相からも析出する場合がある。
この複合炭化物の微細析出物の個数率はTiNを除いた全析出物の95%以上であることが好ましい。なお、この微細な複合炭化物の析出物の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真を画像処理し、個々の析出物と同じ面積の円の直径を個々の複合炭化物について求め、それらの直径の平均値として求めることができる。
次に、本発明の高強度鋼板の溶接熱影響部組織について説明する。
本発明では、Ti窒化物の均一分散による溶接熱影響部組織の粗大化抑制により、溶接熱影響部の靭性を向上させる。また、さらに溶接熱影響部組織をフェライト変態の核生成を促進するCa−Mn複合酸硫化物によって得られる細粒フェライト−ベイナイト組織とすることで、溶接熱影響部の靭性を大幅に向上させることができる。
本発明の鋼板は以上のように、析出物が微細析出したフェライトと、ベイナイトと、MAとの3相からなる複合組織を有するが、このような組織は以下のような組成の鋼を用いて、以下のような方法で製造することにより得ることができる。
まず、本発明の高強度鋼板の化学成分について説明する。以下の説明において%で示す単位は全て質量%である。
C:0.03〜0.1%とする。Cは炭化物として析出強化に寄与し、且つMA生成に重要な元素であるが、0.03%未満ではMAの生成に不十分であり、また十分な強度が確保できない。0.1%を超える添加はHAZ靭性を劣化させるため、C含有量を0.03〜0.1%に規定する。さらに好適には、0.03〜0.08%である。
Si:0.01〜0.5%とする。Siは脱酸のため添加するが、0.01%未満では脱酸効果が十分でなく、0.5%を超えると靭性や溶接性を劣化させるため、Si含有量を0.01〜0.5%に規定する。さらに好適には、0.01〜0.3%である。
Mn:1.2〜2.5%とする。Mnは強度、靭性向上、更に焼き入れ性を向上しMA生成を促すために添加するが、1.2%未満ではその効果が十分でなく、2.5%を超えると靱性ならびに溶接性が劣化するため、Mn含有量を1.2〜2.5%に規定する。成分や製造条件の変動によらず、安定してMAを生成するためには、1.5%以上の添加が望ましい。
Ti:0.008〜0.025%とする。Tiは0.008%以上、Nと同時に添加することで鋼中でのTi窒化物の平衡固溶温度が1300℃を超える。また、0.008%以上添加することで、Moと複合析出物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。しかし、0.0025%を超える添加は溶接熱影響部靭性の劣化を招くため、Ti含有量を0.008〜0.025%に規定する。さらに、Ti含有量が0.02%未満であると、よりすぐれた靭性を示すため、Ti含有量を0.008〜0.02%未満とすることが好ましい。
N:0.004〜0.007%とする。Nは0.004%以上、Tiと同時に添加することで鋼中でのTi窒化物の平衡固溶温度が1300℃を超える。しかし、0.007%を超えて添加すると、Ti窒化物にならない固溶したNが靱性に悪影響を及ぼすため、N含有量を0.004〜0.007%に規定する。
Ti/N:2〜4とする。Ti量とN量との比であるTi/Nを4以下とすることで、Ti窒化物が鋳造時に微細分散析出するため、溶接熱影響部においてオーステナイトの粒成長を全面的に抑制することが可能である。一方で、Ti/Nが2未満の場合は、相対的にTiが不足することから固溶したNが靱性に悪影響を及ぼすため、Ti/Nを2〜4とすることが望ましい。Ti/Nを2〜4とすることで、窒化物を析出させて、Mn等の焼入性の高い元素を添加しても溶接熱影響部の靱性を良好とすることができる。
Al:0.08%以下とする。Alは脱酸剤として添加されるが、0.08%を超えると鋼の清浄度が低下し、靱性が劣化するため、Al含有量は0.08%以下に規定する。好ましくは、0.01〜0.08%とする。
第1の実施形態における本発明の鋼板はMoを含有する。
Mo:0.05〜0.4%とする。Moは、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を析出させる場合に重要な元素であり、添加する場合は0.05%以上含有させることで、熱間圧延後冷却時のパーライト変態を抑制しつつ、Tiとの微細な複合析出物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。しかし、Moは微細炭化物を形成する元素の一つでありCを消費するため、0.4%を超えるとMA生成に必要な余剰Cが不足することから、Mo含有量を0.05〜0.4%に規定する。さらに、溶接熱影響部靭性の観点からMo含有量を0.1〜0.3%とすることが好ましい。
本発明の高強度鋼板がMoを含有する第1の実施形態の場合、TiとMoを含有する複合炭化物の微細析出物が得られるが、析出強化を最大限に利用し且つMAを生成させるためには、炭化物を形成する元素の含有量の割合を以下のように制限することが望ましい。すなわち、原子%でのC量とMo、Tiの合計量との比である、C/(Mo+Ti)を1.2〜3とする。本発明による高強度化はTi、Moを含む析出物によるものである。この複合析出物による析出強化を有効に利用するためには、C量と炭化物形成元素であるMo、Ti量の関係が重要であり、これらの元素を適正なバランスのもとで添加することによって、熱的に安定かつ非常に微細な複合析出物を得ることが出来る。また、低降伏比化を達成するためには、析出物で消費されるCより過剰にCを添加する必要がある。このとき原子%でのC量とMo、Tiの合計量との比である、C/(Mo+Ti)の値が1.2未満の場合、Cが全て微細複合析出物に消費され、MAが生成しないため低降伏比化が達成できない。また、原子%でのC量とMo、Tiの合計量との比であるC/(Mo+Ti)の値が3を越える場合はCが過剰であり、溶接熱影響部に島状マルテンサイトなどの硬化組織が形成し溶接熱影響部靭性の劣化を招くため、C/(Mo+Ti)の値を1.2〜3とする。なお、質量%の含有量を用いる場合には、各元素記号を質量%での各元素の含有量として(C/12.01)/(Mo/95.9+Ti/47.9)の値を1.2〜3とする。さらに好適には、1.4〜3である。
本発明の鋼板はNbおよび/またはVを含有する場合がある。
Nb:0.005〜0.07%とする。Nbは組織の微細粒化により靭性を向上させるが、鋼板がMoを含有する第1の実施形態の場合はTi及びMoと共に複合析出物を形成し、強度上昇に寄与する。またMoを含有しない第2の実施形態の場合でも、TiNが微細分散している場合、これを核として複合炭窒化物を形成し、強度上昇に寄与する。Vが存在する場合はVと共に、複合炭窒化物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.07%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、Nb含有量は0.005〜0.07%に規定する。
V:0.005〜0.1%とする。Vも鋼板がMoを含有する第1の実施形態の場合は、Nbが存在する場合はNbと共に、Ti及びMoと共に複合析出物を形成し、強度上昇に寄与する。またMoを含有しない第2の実施形態の場合でも、TiNが微細分散している場合、これを核として複合炭窒化物を形成し、強度上昇に寄与する。Nbが存在する場合はNbと共に、TiNを核として複合炭窒化物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.1%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、V含有量は0.005〜0.1%に規定する。
鋼板がMoを含有する第1の実施形態の場合に、Nbおよび/またはVを含有する場合には、原子%でのC量とMo、Ti、Nb、Vの合計量の比である、C/(Mo+Ti+Nb+V)は1.2〜3とする。Moを含有する第1の実施形態の場合の高強度化はTi、Moを含む析出物によるが、Nbおよび/またはVを含有する場合はそれらを含んだ複合析出物(主に炭化物)となる。このとき各元素の原子%の含有量で表される、C/(Mo+Ti+Nb+V)の値が1.2未満の場合、Cが全て微細複合析出物に消費され、MAが生成しないため低降伏比化が達成できない。また、3を越える場合はCが過剰であり、溶接熱影響部に島状マルテンサイトなどの硬化組織が形成し溶接熱影響部靭性の劣化を招くため、C/(Mo+Ti+Nb+V)の値を1.2〜3とする。なお、質量%の含有量を用いる場合には、各元素記号を質量%での各元素の含有量として(C/12.01)/(Mo/95.9+Ti/47.9+Nb/92.91+V/50.94)の値を1.2〜3とする。さらに好適には、1.4〜3である。
鋼板がMoを含有しない第2の実施形態の場合には、原子%でのC量とNb、Vの合計量の比である、C/(Nb+V)は1.2〜6とする。本発明の第2の実施形態による高強度化はTiNを核としたNb、Vのいずれか1種以上を含有する微細炭窒化物の析出によるものである。このとき各元素の原子%の含有量で表される、C/(Nb+V)の値が1.2未満の場合、Cが全て微細複合析出物に消費され、MAが生成しないため低降伏比化が達成できないうえに、粒界の相対的強度が著しく低下するので粒界破壊を伴う脆化が起こる場合がある。また、6を超える場合はCが過剰であり、再加熱時にMA生成に先立ってセメンタイトの生成が起きてしまい、低降伏比化に必要な硬質相の硬さが低下するため、C/(Nb+V)の値を1.2〜6とする。なお、質量%の含有量を用いる場合には、各元素記号を質量%での各元素の含有量として(C/12.01)/(Nb/92.91+V/50.94)の値を1.2〜6とする。
本発明では、さらに、Caを含有し、不純物として含有されるO、Sの含有量を所定の範囲とすることが望ましい。
Ca:0.001〜0.003%とする。製鋼プロセスにおいて、Ca添加量が0.001%未満の場合、脱酸反応支配でCaSの確保が難しく靱性改善効果が得られないので、Caの下限を0.001%とした。一方、Ca添加量が0.003%を超えた場合、粗大CaOが生成しやすくなり、母材を含めて靱性が低下するうえに、取鍋のノズル閉塞の原因となり、生産性を阻害するため、上限は0.003%とする。
O:0.003%以下とする。粗大で靱性に悪影響を及ぼす介在物生成抑制の観点からO含有量を0.003%以下とする。
S:0.005%以下とする。粗大で靱性に悪影響を及ぼす介在物生成抑制の観点からS含有量を0.005%以下とする。
Ca、O、Sの含有量が下記(a)式を満足することが望ましい。但し、(a)式および以下の(b)〜(e)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
0.4≦(1−130×[O])×[Ca]/(1.25×[S])≦0.8・・・(a)
通常、CaはHICやラミネーションの原因となるMnS生成を抑制し、無害なCaS化するために鋼中のS量に対し化学量論的に余るように添加されている。しかし、本発明者らは一部のSがMnと結合してMnSが生成する組成比を選ぶことで、溶接熱履歴中にCaとMnの複合析出が起こり、さらに得られた酸硫化物がフェライト変態の核生成能を持つことを見いだした。すなわち、粗大で靱性に悪影響を及ぼす介在物生成抑制の観点から、O≦0.003%、S≦0.005%とした上で、CaO生成分を除いた有効Ca量(Ca*)を実験結果の回帰による下記(b)式を用いて計算し、
Ca*=(1−130×[O])×[Ca]・・・(b)
さらにCaとSの化学量論比1.25で有効Ca量(Ca*)を割った値が下記(c)式を満たすようにCaを添加した場合は、鋼中SがすべてCaSを形成し、
[S]<Ca*/1.25・・・(c)
下記(d)式を満たすようにCaを添加した場合は、鋼中Sの一部がCaSとなり、残りはMnSとなる。
0<Ca*/1.25<[S]・・・(d)
(d)式を満たす範囲でCaの含有量を種々変化させた鋼を用いて入熱40kJ/cmに相当する熱履歴を加える再現熱サイクル試験を行い、その結果、Ca*/1.25の範囲を下記(e)式とすることで、溶接熱影響部の粒界フェライト生成促進と、それに伴う靱性の著しい向上が得られることを見出し、
0.4[S]≦Ca*/1.25≦0.8[S]・・・(e)
これにより上記(a)式が導出された。
本発明では、鋼板の強度靱性をさらに改善し、且つ焼き入れ性を向上させMAの生成を促す目的で、以下に示すCu、Ni、Cr、Bの1種又は2種以上を含有してもよい。
Cu:0.5%以下とする。Cuは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素である。その効果を得るためには、0.1%以上添加することが好ましいが、多く添加すると溶接性が劣化するため、添加する場合は0.5%を上限とする。
Ni:0.5%以下とする。Niは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素である。その効果を得るためには、0.1%以上添加することが好ましいが、多く添加するとコスト的に不利になり、また、溶接熱影響部靱性が劣化するため、添加する場合は0.5%を上限とする。
Cr:0.5%以下とする。CrはMnと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素である。その効果を得るためには、0.1%以上添加することが好ましいが、多く添加すると溶接性を劣化するため、添加する場合は0.5%を上限とする。
B:0.005%以下とする。Bは強度上昇、HAZ靭性改善に寄与する元素である。その効果を得るためには、0.0005%以上添加することが好ましいが、0.005%を超えて添加すると溶接性を劣化させるため、添加する場合は0.005%以下とする。
上記以外の残部は実質的にFeからなり、不可避不純物をはじめ、本発明の作用効果を害さない元素を微量に添加することができる。例えば、Mg、REM、W、Zrをそれぞれ、0.02%以下添加しても良い。
次に、本発明の高強度鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高強度鋼板は上記の成分組成を有する鋼を用い、加熱温度:1000〜1300℃、圧延終了温度:Ar3温度以上で熱間圧延を行い、その後5℃/s以上の冷却速度で450〜600℃まで加速冷却を行い、その後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜750℃の温度まで再加熱を行うことで、金属組織をフェライトとベイナイトの2相組織とし、MoとTiとを主体とする微細な複合炭化物や、TiNを核としたNb、Vのいずれか1種以上を含有する微細な複合炭窒化物をフェライト相中に分散析出することができる。ここで、温度は鋼板の平均温度とする。平均温度は、スラブもしくは鋼板の表面温度より、板厚、熱伝導率等のパラメータを考慮して、計算により求めたものである。また、冷却速度は、熱間圧延終了後、冷却終了温度(450〜650℃)まで冷却に必要な温度差をその冷却を行うのに要した時間で割った平均冷却速度である。また、昇温速度は、冷却後、再加熱温度(550〜750℃)の温度までの再加熱に必要な温度差を再加熱するのに要した時間で割った平均昇温速度である。以下、各製造条件について詳しく説明する。
加熱温度:1000〜1300℃とする。加熱温度が1000℃未満では炭化物の固溶が不十分で必要な強度ならびに降伏比が得られず、1300℃を超えると母材靭性が劣化するため、1000〜1300℃とする。
圧延終了温度:Ar3温度以上とする。圧延終了温度がAr3温度未満であると、その後のフェライト変態速度が低下するため、再加熱によるフェライト変態時に十分な微細析出物の分散析出が得られず、強度が低下する。また、再加熱時の未変態オーステナイトへのCの濃縮が不十分となりMAが生成しないため、圧延終了温度をAr3温度以上とする。
圧延終了後、直ちに5℃/s以上の冷却速度で冷却する。冷却速度が5℃/s未満では冷却時にパーライトを生成するため、MAが生成せず、またベイナイトによる強化が得られないため、十分な強度が得られない。よって、圧延終了後の冷却速度を5℃/s以上に規定する。また、冷却開始温度がAr3温度以下となりフェライトが生成すると、再加熱時に微細析出物の分散析出が得られず強度不足を招き、且つMAの生成も起こらないため、冷却開始温度をAr3温度以上とする。このときの冷却方法については製造プロセスによって任意の冷却設備を用いることが可能である。本発明では、加速冷却によりベイナイト変態領域まで過冷することにより、その後の再加熱時に温度保持することなくフェライト変態を完了させることが可能である。
冷却停止温度:450〜650℃とする。このプロセスは本発明において、重要な製造条件である。本発明では再加熱後に存在するCの濃縮した未変態オーステナイトがその後の空冷時にMAへと変態する。すなわち、ベイナイト変態途中の未変態オーステナイトが存在する温度域で冷却を停止する必要がある。冷却停止温度が450℃未満では、ベイナイト変態が完了するため空冷時にMAが生成せず低降伏比化が達成できない。650℃を超えると冷却中にパーライトが析出するため微細炭化物の析出が不十分となり十分な強度が得られず、また、パーライトにCが消費されMAが生成しないため、加速冷却停止温度を450〜650℃に規定する。MA生成の観点からは、好ましくは500〜650℃であり、より好ましくは530〜650℃である。
加速冷却停止後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜750℃の温度まで再加熱を行う。このプロセスも本発明において重要な製造条件である。強化に寄与する微細複合炭化物の析出物は、再加熱時に析出する。さらに、再加熱時の未変態オーステナイトからフェライト変態と、それに伴う未変態オーステナイトへのCの排出により、再加熱後の空冷時にCが濃化した未変態オーステナイトがMAへと変態する。このような微細複合炭化物の析出物ならびにMAを得るためには、加速冷却後Bf点以上の温度から550〜750℃の温度域まで再加熱する必要がある。昇温速度が0.5℃/s未満では、目的の再加熱温度に達するまでに長時間を要するため製造効率が悪化し、またパーライト変態が生じるため、微細析出物の分散析出が得られず十分な強度を得ることができない。再加熱温度が550℃未満では十分な析出駆動力が得られず微細析出物の量が少ないため、十分な析出強化が得られず、750℃を超えると析出物が粗大化し十分な強度が得られないため、再加熱の温度域を550〜750℃に規定する。本発明では、加速冷却後、未変態オーステナイトが存在する温度域から再加熱を行うことが重要であり、再加熱開始温度がBf点以下となるとベイナイト変態が完了し未変態オーステナイトが存在しなくなるため、再加熱開始はBf点以上とする必要がある。確実にフェライト変態させるためには、冷却後の温度より50℃以上昇温することが望ましい。再加熱温度において、特に温度保持時間を設定する必要はない。本発明の製造方法を用いれば再加熱後直ちに冷却しても、十分な微細析出物が得られるため高い強度が得られる。しかし、十分な微細析出物を確保するために、30分以内の温度保持を行うことができる。30分を超えて温度保持を行うと、析出物の粗大化を生じ強度が低下する場合がある。また、再加熱後の冷却過程において冷却速度によらず微細析出物は粗大化しないため、再加熱後の冷却速度は基本的には空冷とすることが好ましい。
図1に上記の製造方法を用いて製造した本発明鋼板(0.05mass%C−0.2mass%Si―1.5mass%Mn−0.003mass%S−0.2mass%Mo−0.015mass%Ti―0.002mass%Ca―0.006mass%O―0.0065mass%N)を、図2に上記の製造方法を用いて製造した本発明鋼板(0.05mass%C−1.8mass%Mn−0.012mass%Ti−0.04mass%Nb−0.05mass%V-0.0045%N)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を示す。図1、2によれば、フェライト(F)、ベイナイト(B)の混合組織に、島状マルテンサイト(MA)が均一に生成している様子が確認できる。
加速冷却後の再加熱を行うための設備として、加速冷却を行うための冷却設備の下流側に加熱装置を設置することができる。加熱装置としては、鋼板の急速加熱が可能であるガス燃焼炉や誘導加熱装置を用いることが好ましい。
本発明の製造方法を実施するための設備の一例を図2に示す。図2に示すように、圧延ライン1には上流から下流側に向かって熱間圧延機3、加速冷却装置4、誘導加熱装置5、ホットレベラー6が配置されている。誘導加熱装置5あるいは他の熱処理装置を、圧延設備である熱間圧延機3およびそれに引き続く冷却設備である加速冷却装置4と同一ライン上に設置することによって、圧延、冷却終了後迅速に再加熱処理が行えるので、圧延冷却後の鋼板温度を過度に低下させることなく加熱することができる。
表1に示す化学成分の鋼(鋼種A〜K)を連続鋳造法によりスラブとし、これを用いて板厚18mmの厚鋼板(No.1〜12)を製造した。なお、表1におけるAr3温度は下記(f)式を用いて導出した。但し、(f)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
Ar3(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo…(f)
加熱したスラブを熱間圧延により圧延した後、直ちに水冷型の加速冷却設備を用いて冷却を行い、誘導加熱炉またはガス燃焼炉を用いて再加熱を行った。誘導加熱炉は加速冷却設備と同一ライン上に設置した。各鋼板(No.1〜12)の製造条件を表2に示す。
以上のようにして製造した鋼板の引張特性を測定した。測定結果を表2に併せて示す。引張特性は、圧延垂直方向の全厚試験片を引張試験片として引張試験を行い、引張強度を測定した。引張強度580MPa以上を本発明に必要な強度とし、降伏比80%以下を本発明に必要な降伏比とした。母材靭性については、圧延垂直方向のフルサイズシャルピーVノッチ試験片を用いシャルピー試験を行い、−10℃での吸収エネルギーが200J以上のものを良好とした。
溶接熱影響部(HAZ)靭性については、再現熱サイクル装置によって入熱40kJ/cmに相当する熱履歴を加えた試験片を用いて−10℃、−30℃でシャルピー試験を行った。そして、−30℃でのシャルピー吸収エネルギー(vE−30)が100J以上のものを良好とした。さらに、―30℃でのシャルピー延性破面率(SA−30)が70%を超えるものを極めて良好とした。
表2において、本発明例であるNo.1〜8はいずれも、化学成分および製造方法が本発明の範囲内であり、引張強度580MPa以上の高強度で降伏比80%以下の低降伏比であり、母材ならびに溶接熱影響部の靭性は良好であった。特に、Caの制御添加を行った鋼種B、D、Fを用いた、No.2、5、7、8は溶接熱影響部のシャルピー延性破面率が70%以上と極めて優れた靱性を示した。また、鋼板の組織はフェライト、ベイナイト、島状マルテンサイトの3相組織であり、島状マルテンサイトの面積分率は3〜20%の範囲内であった。
No.9〜12は化学成分が本発明の範囲外であるので、溶接熱影響部靱性が劣っていた。
表3に示す化学成分の鋼(鋼種A2〜L2)を連続鋳造法によりスラブとし、これを用いて板厚20、25mmの厚鋼板(No.21〜35)を製造した。表3におけるAr3温度も上記(f)式を用いて導出した。
加熱したスラブを熱間圧延により圧延した後、直ちに水冷型の加速冷却設備を用いて冷却を行い、誘導加熱炉またはガス燃焼炉を用いて再加熱を行った。誘導加熱炉は加速冷却設備と同一ライン上に設置した。各鋼板(No.21〜35)の製造条件を表4に示す。
以上のようにして製造した鋼板の引張特性を測定した。測定結果を表4に併せて示す。引張特性は、圧延垂直方向の全厚試験片を引張試験片として引張試験を行い、引張強度を測定した。引張強度580MPa以上を本発明に必要な強度とし、降伏比80%以下を本発明に必要な降伏比とした。母材靭性については、圧延垂直方向のフルサイズシャルピーVノッチ試験片を用いシャルピー試験を行い、−10℃での吸収エネルギーが200J以上のものを良好とした。
溶接熱影響部(HAZ)靭性については、再現熱サイクル装置によって入熱40kJ/cmに相当する熱履歴を加えた試験片を用いて−10℃および−30℃でシャルピー試験を行った。そして、−30℃でのシャルピー吸収エネルギー(vE−30)が100J以上のものを良好とした。さらに、―30℃でのシャルピー延性破面率(SA−30)が70%を超えるものを極めて良好とした。
表4において、本発明例であるNo.21〜28はいずれも、化学成分および製造方法が本発明の範囲内であり、引張強度580MPa以上の高強度で降伏比80%以下の低降伏比であり、母材ならびに溶接熱影響部の靭性は良好であった。特に、Ca制御添加した鋼種B、D、Fを用いたNo.22、25、26、28は溶接熱影響部のシャルピー延性破面率(SA―30)が70%以上と極めて良好な値を示した。一方、鋼板の組織はフェライト、ベイナイト、島状マルテンサイトの3相組織であり、島状マルテンサイトの面積分率は3〜20%の範囲内であった。また、透過型電子顕微鏡観察、エネルギー分散型X線分光法による分析の結果、フェライト相中にNbおよび/またはVを含む粒径20nm未満の微細な複合炭化物の分散析出が観察された。
No.29、30は、化学成分は本発明の範囲内であるが、製造方法が本発明の範囲外であるため、組織がフェライト、ベイナイトであり、降伏比が不十分であった。No.31〜35は化学成分が本発明の範囲外であるので、十分な強度が得られないか、降伏比が高いか、溶接部靭性が劣っていた。
本発明の鋼板の一例を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真。 本発明の鋼板の一例を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真。 本発明の製造方法を実施するための製造ラインの一例を示す概略図。
符号の説明
1 圧延ライン
2 鋼板
3 熱間圧延機
4 加速冷却装置
5 誘導加熱装置
6 ホットレベラー
F フェライト
B ベイナイト
MA 島状マルテンサイト

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.03〜0.1%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.2〜2.5%、Mo:0.05〜0.4%、Ti:0.008〜0.025%、N:0.004〜0.007%、Al:0.08%以下を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、Ti量とN量との比であるTi/Nが2〜4であり、原子%でのC量とMo、Tiの合計量との比であるC/(Mo+Ti)が1.2〜3であり、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとの合計の体積分率が97%以上であり、島状マルテンサイトの面積分率が3〜20%であることを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板。
  2. さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.07%および/またはV:0.005〜0.1%を含有し、原子%でのC量とMo、Ti、Nb、Vの合計量との比であるC/(Mo+Ti+Nb+V)が1.2〜3であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板。
  3. 質量%で、C:0.03〜0.1%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.2〜2.5%、Ti:0.008〜0.025%、N:0.004〜0.007%、Al:0.08%以下を含有し、Nb:0.005〜0.07%および/またはV:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつTi量とN量との比であるTi/Nが2〜4であり、原子%でのC量とNb、Vの合計量との比であるC/(Nb+V)が1.2〜6であり、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとの合計の体積分率が97%以上であり、島状マルテンサイトの面積分率が3〜20%であることを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板。
  4. さらに、質量%で、Ca:0.001〜0.003%を含有し、不純物として含有されるO、SがO:0.003%以下、S:0.005%以下であり、かつCa、O、Sの含有量が下記(a)式を満たすことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の溶接熱影響部靱性に優れた低降伏比高強度鋼板。
    0.4≦(1−130×[O])×[Ca]/(1.25×[S])≦0.8 …(a)
    但し、(a)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
  5. さらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.005%以下の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の成分組成を有する鋼を、1000〜1300℃の温度に加熱し、Ar3温度以上の圧延終了温度で熱間圧延した後、5℃/s以上の冷却速度で450〜650℃まで加速冷却を行い、その後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜750℃まで再加熱を行うことを特徴とする、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとの合計の体積分率が97%以上であり、島状マルテンサイトの面積分率が3〜20%である溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度鋼板の製造方法。
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