JP4408464B2 - 結晶性乱層構造窒化硼素含有複合セラミックス焼結体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は結晶性乱層構造窒化硼素粒子を含む新規な複合セラミックス焼結体に関する。
【0002】
【従来の技術】
窒化硼素(BN)は硼素と窒素からなる化合物であるが、炭素とほぼ同じ結晶構造を有する多形が存在する。すなわち、窒化硼素には無定形窒化硼素(以下、a−BNという)、六角形の網目層が二層周期で積層した構造を持つ六方晶系の窒化硼素(以下、h−BNという)、六角形の網目が三層周期で積層した構造を持つ菱面体晶の窒化硼素(以下、r−BNという)、六角形の網目層がランダムに積層した構造を持つ乱層構造の窒化硼素(以下、t−BNという)、高圧下の安定相であるジンクブレンド型の窒化硼素(以下、c−BNという)及びウルツアイト型の窒化硼素(以下、w−BNという)が知られている。
【0003】
上記の窒化硼素の多形の内、実用に供されているのはh−BNとc−BNのみである。h−BNは黒鉛より耐酸化性に優れている安定相であり、合成された結晶性h−BN粉末の粒子は通常六角板状の自形を有しており、黒鉛と同様に良好な耐熱性、機械加工性(切削加工性)及び固体潤滑性を有しているが、黒鉛と異なり優れた絶縁性を有する。他方a−BNは不安定で吸湿性があるため、a−BNの状態では使用できない。典型的なh−BNとa−BNのCuKα線による粉末X線回折図を図1と図2に示す。
【0004】
図1から分かるように、h−BNの粉末X線回折図では[002][100][101][102]及び[004]の回折線が顕著である。これに対して図2のa−BNの粉末X線回折図ではh−BNの粉末X線回折図の[100]回折線及び[101]回折線の位置にある[100]及び[101]回折線が合体したブロードな(半価幅の大きい)回折線と、h−BNの粉末X線回折図の[002]回折線の位置にあるブロードな(半価幅の大きい)回折線とがあるのみで、他の回折線が見当らないか、存在したとしてもブロードで存在が不明確な低い回折線しか存在しない。このa−BNの構造は硼素と窒素からなる六角網目層が発達しておらず、発達していない六角網目層の積層構造にも規則性のない状態のものである。
【0005】
h−BNの結晶では硼素と窒素からなる六角網目層が・・aa’aa’aa’aa’a・・のパターンで積層した結晶構造を有しており、六角網目層が3層周期で積層したものがr−BNである。他方、六角網目層は発達しているが六角網目層の積層構造に規則性のないものがt−BNである。t−BNの粉末X線回折図の一例を図3に示す。図3から分かるように、この粉末X線回折図ではh−BNの粉末X線回折図の[002]及び[004]回折線に対応する回折線がシャープな回折線となっているが、[100]回折線が高角度側に広がった形をしていて[101]の回折線が弱くて目立たず、[102]の回折線が存在しないか、存在しても非常に弱い。この[102]回折線は六角網目層が規則的に積層していることによって始めて現れる回折線である。
【0006】
広義に解釈するとa−BNも乱層構造の窒化硼素であるので、たとえば資源・素材学会誌Vol.105(1989)No.2,P201〜204では粉末X線回折図がブロードな回折線しか示さない窒化硼素をt−BNと記載しているが、こに窒化硼素はa−BNであるとするのが妥当である。
【0007】
従来の窒化硼素を含む複合セラミックス焼結体としては次のような例が知られている。特開昭60−195059号、特開平2−252662号にはh−BN粉末を窒化アルミニウムと複合したマシナブル(切削加工性)で熱伝導率の大きい複合セラミックス焼結体が開示されている。また、特公平5−65467号及び特開平1−305861号には、a−BN粉末を原料に用いて窒化硼素を窒化アルミニウム、窒化けい素又は炭化けい素と複合した、h−BNを含む高強度で機械加工性が良好な複合セラミックス焼結体が開示されている。また、特開平7−330421号には酸化物、窒化物及び炭化物等からなる多孔質のセラミックスに硼酸水溶液を含浸して乾燥し、これをアンモニア雰囲気中で加熱して還元かつ窒化し、多孔質焼結体中に窒化硼素(加熱温度からこの段階ではa−BNになっていると推定される)を生成させる。この方法の場合、多量の窒化硼素を複合させた複合セラミックス焼結体を得るには、含浸、乾燥及び窒化の工程を繰り返す必要がある。次いでこれ焼結温度で焼成して相変化したh−BN粒子を含む強度が大きく潤滑性のある各種の複合セラミックス焼結体を得る。
【0008】
しかし、上述の各種窒化硼素から高圧下で安定な結晶相であるc−BNとw−BNを除いた窒化硼素の内、結晶性のt−BNやr−BNについては実験室でごく少量合成された報告があるのみで(たとえばJournal of Solid State Chemistry Vol.109,No.2,p384−390(1994)参照)、本発明者らの関知する限りにおいて、結晶性t−BN粉末を原料に使用した焼結体、さらには結晶性t−BNを含有する焼結体は未だ知られていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、先に出願した特願平9−21052号に結晶性t−BN微粉末と生産性に優れた結晶性t−BN微粉末の製造方法を提案した。本発明は、特願平9−21052号に記載した結晶性t−BN微粉末の有する特徴である、湿気に対して安定であり、結晶粒子径(一次粒子径)が細かく、揃っていて、焼結性についても良好な結晶性t−BNの微粉末を利用した、新規かつ有用な複合セラミックス焼結体を提案するものである。本発明はまた、従来のh−BNを主体とする窒化硼素を含有する複合セラミックス焼結体とは、異なった新規かつ優れた特性を有する複合セラミックス焼結体を提供することを一課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の複合セラミックス焼結体は、焼結体中に有効量(好ましくは5重量%以上)の結晶性t−BN粒子を含むことを特徴とする。結晶性t−BNの有効量は、所要目的に応じて定められるが、およそ0.1重量%以上から、0.5、1、2、3、4の各重量%以上等に設定できる。また焼結は結晶性t−BNが実質的(例えば10%以上)に或いは所定量以上(70%、50%、30%、20%以上等これらの中間を含む任意の量)相転移を生じない条件下において行うことができる。これにより、結晶性t−BN含有複合セラミックス結晶体が得られる。
【0011】
結晶性t−BNを含む複合セラミックス焼結体を得る好ましい方法は、前述の特願平9−21052号に記載された方法で合成された結晶性t−BN粉末を原料に用いることである。複合セラミックス焼結体は多くの場合多孔質の焼結体になるが、結晶性t−BN微粉末はサブミクロン(好ましくは0.4μm以下、特に0.1〜0.3μm)の微結晶の一次粒子からなっているので、気孔率の大きさの割りに強度が大きい焼結体が得られる。また、微細な結晶性t−BN粒子を有効量(好ましくは5重量%以上)含んでいることによって、微細な結晶性t−BN粒子が気孔を細かく区画しており、焼結体中の気孔は、たとえばサブミクロンオーダーの微細な平均気孔径を有するものとなる。特に結晶性t−BN微粉末を用いると、焼結性がよく、高性能かつ高機能の複合セラミックス焼結体が得られる。
【0012】
特願平9−21052号に記載されている結晶性t−BN粉末の合成方法は、たとえば次の通りである。出発原料に尿素と硼酸の窒素成分が過剰な混合物を用い、硼酸ナトリウムの共存下で加熱して950℃以下で反応させ、a−BNの他に硼酸及びナトリウムイオンを含むカルメ焼き状の中間生成物を得る。次いでこの中間生成物を1mm以下に粉砕して窒素雰囲気中で約1300℃に加熱し、結晶化させると結晶性t−BNが生成する。この結晶化させた反応物を純水で洗浄して精製すると純度が高く、円板状又は球状の形状を有する微細な一次粒子からなる結晶性t−BN微粉末が得られる。この微細な一次粒子は集合してミクロンオーダーの二次粒子を形成しているが、アトリションミルなどで湿式粉砕すれば、微細な一次粒子にまで容易に微粉砕することできる。微粉砕された結晶性t−BN粉末の一次粒子は、微細な円板状又は球状であることによって微粉砕された混合粉末を成形するときに粒子が6角板状のh−BN粒子とは異って配向しにくく、焼結体としても熱膨張率等の性質の方向による差異が殆どない焼結体が得られるという利点がある。
【0013】
本発明では、h−BNの[004]回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下と小さくシャープな回折線を示す結晶性の窒化硼素であって、h−BNの[100]、[101]及び[102]回折線に対応する各回折線の占める面積(回折線の強度を意味する)S100、S101及びS102の間にS102/(S100 +S101 )≦0.02の関係を充たす窒化硼素を結晶性t−BNという。結晶性 t−BN は前述の製造方法によって高純度の粉末を入手できる(但し、後述のとおり、必ずしも高純度のものを出発材料として用いる必要はない)。本発明の複合セラミックス焼結体の製造に用いる結晶性t−BN微粉末としては、h−BNの[004]回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.5°以下の結晶性t−BN微粉末を使用するのが好ましい。したがって、複合セラミックス焼結体中に含まれる結晶性t−BNの含有量は、焼結体を構成するセラミックス粉末を別途混合して複数の標準試料を作成し、標準試料の粉末X線回折図中の結晶性t−BNの回折線の強度を、粉砕した複合セラミックス焼結体の粉末X線回折図中の結晶性t−BN強度とを比較すれば求めることができる。
【0014】
結晶性t−BN粉末を複合セラミックス焼結体の原料に用いる利点は、通常入手しうるh−BN粉末と比べて焼結しやすく、多孔質な焼結体となっても強度が比較的大きく、結晶性t−BNの状態で残留するかぎりにおいて微細で揃った大きさの気孔を有する複合セラミックス焼結体が得られる点である。その理由としては、結晶性t−BNの性質に負うところが大であり、特に一次粒子が微細であることも寄与していると考えられる。また、原料にa−BN粉末を使用方法と比較すると、結晶性t−BN微粉末はa−BN粉末と比べて湿気などの水分に対して安定であるので原料として使いやすく、a−BN粉末を用いた複合セラミックス焼結体と比べて密度の大きい成形体が得られ、焼結体の密度も大きくなる点である。従来のh−BNを含む複合セラミックス焼結体の場合と同じく、本発明の結晶性t−BN含有複合セラミックス焼結体においても、結晶性t−BNの微粒子を含有していることによってヤング率が小さいので耐熱衝撃性に優れ、固体潤滑性があり、溶融金属に対する優れた耐食性を有し、電気絶縁性が良好である等の利点がある。
【0015】
【発明の実施形態】
結晶性t−BN粉末の粉砕や他のセラミックス粉末との混合は分散性のよいアルコールなどを媒体とする湿式のボールミルやアトリションミルで行なって均一な混合物とするのが好ましい。複合セラミックス焼結体の焼結方法としては、無加圧焼結又は加圧焼結のいずれを採用してもよい。無加圧焼結を採用すれば、製造できる焼結体の形状に自由度があり、各種の形状と寸法の複合セラミックス焼結体を製造できる点で好ましい。ただし、原料に用いる結晶性t−BN微粉末は通常1450℃以上において高温で安定なh−BN結晶に相変化するので、1450℃で焼結するときは焼結体中に有効量(好ましくは5重量%以上)の結晶性t−BNが残留するように短時間の焼結を行なう。焼結温度としては、1400℃以下で焼結できる組み合わせの複合セラミックス焼結体原料を選択すれば、出発原料の混合粉末中に配合したのとほぼ同量の結晶性t−BNを含む複合セラミックス焼結体が得られる。成形体の焼成温度を約1450℃或いはこれ以上(特に1500℃未満の範囲)とするときには、焼結時間とともに結晶性t−BNがh−BNに相変化するので、焼結時間によって結晶性t−BNの含有量が変化することになる。さらに焼結温度を高くすると(約1500℃以上では特に)焼結は速やかに進行するが、結晶性t−BNは速やかにh−BNに相変化し、同時にh−BN結晶粒子の成長が起きる。いずれにしても、最終焼結体におけるBNの所望焼結状態(乱層t−BNのみが実質的に乱層でもt−BNとするか、所定比以下の乱層t−BNとするか)に従って、最高焼結温度は、時間との関係で定めることができる。
【0016】
複合する他のセラミックス粉末としては、上述の理由により比較的低温で焼結が可能なセラミックス粉末、特に比較的焼結温度の低い酸化物系のセラミックス粉末を主成分とするのが好ましい。しかし、これ以外に補助的成分として少量の改質剤ないし高耐火性物質を含むことは差し支えない。複合する窒化硼素以外のセラミック原料の配合量としては、強度の大きい複合セラミックス焼結体が得られるように、窒化硼素以外のセラミックス粉末を主成分とすることが好ましく、特に窒化硼素以外のセラミクッス粉末を60〜95重量%(さらには、70〜90重量%、80重量%以上等)混合したセラミックス混合粉末を原料に用いるのが好ましい。この場合、残部(5〜40重量%等)が結晶性t−BN微粉末である。結晶性t−BN微粉末と混合する窒化硼素以外のセラミック原料としては、一般に1450℃程度以下(ないし1430℃、1400℃程度以下)の温度で焼結可能なセラミック原料を用いることができ、粉末に限らず沈澱法、ゾルゲル法、或いはこれらの混合形式、天然又は合成物質いずれも任意に選択して用いることができる。さらにこれらのセラミック原料としては、1450℃以上で焼結されるものを用いることもできる。これらのセラミック原料としては、酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物、けい化物、これらの複合化合物もしくはこれらと酸化物との複合化合物などの一種以上を用いることができる。これらのセラミック原料を例示すると、コージライト、ムライト、ジルコン、ジルコニア、アルミナ、スピネル、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、硼化ジルコニウム、硼化チタン、サイアロン等を使用できる。これらの内、特に強度の大きい焼結体が得られ、多くの用途を期待できるアルミナ、ジルコニア、窒化けい素又は窒化アルミニウムを組み合わせたセラミック混合原料を用いて複合セラミックス焼結体を得るのが好ましい。難焼結性の非酸化物系セラミックスとの複合セラミックス焼結体を製造する場合は、焼結温度を低くして緻密に焼結できるように所定の(好ましくは非酸化物系セラミックス用の)焼結助剤(各セラミック材料で公知のものを選択できる)を添加して焼結するのが好ましい。なお、密度について言うと、本発明の焼結性t−BNを用いる場合、約10重量%以下の配合では、実質的に極めて高密度(低気孔率)の焼結体を製造できることが判った。実際に対理論密度比で95%以上、98%以上から99%以上のものも焼結できる。
【0017】
また、機械加工性(切削加工性に同じ)を備えた複合セラミックス焼結体とする場合には、超硬チップ等による切削加工が容易となるように、結晶性t−BNを10重量%以上含む焼結体とするのが好ましい。他方、目的とする焼結体の密度にもよるが、結晶性t−BNを35重量%を超えて含む複合セラミックス焼結体は強度が小さいので、結晶性t−BNの含有量は35重量%以下とするのが好ましい。複合セラミックス焼結体中の結晶性t−BN粒子の平均結晶粒径が小さければ、焼結体中の気孔の平均気孔径が小さくなって、焼結体の強度が大きくなるので、焼結体中の結晶性t−BNの平均結晶粒径は0.5μm以下であるのが好ましい。
【0018】
水銀ポロシメータで測定される焼結体の平均気孔径はより大きい強度を確保できるように1μm以下であるのが好ましい。結晶性t−BN粒子を複合して平均気孔径が1μmより小さくなった複合セラミックス焼結体では、微細で揃った気孔径分布を有する焼結体が得られることから、アルミニウム等の鋳造鋳型内から残留空気を逃がす目詰まりしない通気性鋳型部材や微細な粒子を分離するフィルタ材料等として有用である。また、複合セラミックス焼結体を強度を必要とする部材に使用したり、複合セラミックス焼結体に良好な機械加工性を付与したい場合には、強度が5kg/mm2以上ある 複合セラミックス焼結体が好ましい。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の一実施例であって本発明を限定するものではない。
【0020】
結晶性t−BN微粉末を次のようにして合成した。無水硼酸(B2O3)3.5kg、尿素((NH2)2CO)5.3kg、硼砂(Na2B4O7・10H2O)0.63kgからなる混合物を出発原料とし、この混合物を直径530mmの蓋付きステンレス鋼製容器に入れ、この反応容器を炉内に入れて250〜500℃、500〜600℃、600〜700℃、700〜800℃、800〜900℃の各段階にそれぞれ10分かけて昇温し、最後は900±1℃に10分間保持して反応させた(合計1時間)。この間100℃を超えたところで水蒸気が噴出し始め、200℃で成分が溶融し始め、ぶくぶくと泡が出てガスの放出を伴って反応が進んだ。350〜400℃まで主に水蒸気を放出し、900℃に10分間保持したところガスの放出が減少した。
【0021】
この後放冷して冷却後反応容器の蓋を開けたところ、反応容器中の混合物はB2O3が反応を完了してカルメ焼き状の反応物となっていた。このカルメ焼き状の反応物を反応容器中で解砕し、真空吸引して反応容器中から取り出し、粉砕機で粉砕して1mm目の篩を通した。この粉砕した反応物をアルミナ製の蓋付き匣鉢に入れて蓋を閉じ、窒素雰囲気とした電気炉中で1300℃まで10時間かけて昇温し、この温度で2時間保持し、その後放冷した。匣鉢から取り出した粉末を80〜85℃に暖めたイオン交換水で洗浄してアルカリ成分を除き、次いで希塩酸で中和し、さらに暖めたイオン交換水で洗浄して乾燥し、結晶性t−BN微粉末を得た。この一連の工程による結晶性t−BN微粉末の収量は出発原料10kgに対して約2.8kgであり、出発原料中の仕込み硼素量に基づく製造歩留は70%以上であった。
【0022】
得られた結晶性t−BN粉末をエタノールを媒体として2時間直径1.2mmのジルコニアビーズを用いるアトリションミル(芦沢鉄工所製パールミル)によって2時間微粉砕した。微粉砕後の結晶性t−BN微粉末について粒度分布を測定した(堀場製粒度分布アナライザLA−700使用)結果、約95%が1μm以下の微粒子となっており、平均粒径は約0.30μmであった。また、窒素吸着法で測定した粉末の比表面積は12m2/gであった。 この結晶性t−BN微粉末のCuKα線による粉末X線回折図を図3に、13300倍に拡大した同微粉末の顕微鏡写真を図4に、同結晶性t−BN微粉末をアトリションミルで粉砕後の粒度分布グラフを図5にそれぞれ示す。図3の粉末X線回折図から、h−BNの[004]回折線に対応する回折線は55°にあり、その2θの半価幅は0.47°であり、S102/(S100+S101)の値はほぼゼロであった。また、図4の顕微鏡写真から分か るように、この粉末の一次粒子の平均結晶粒径は約0.2μmであり、結晶性t−BN微粉末の一次粒子は円板状又は球状の粒子からなる。
【0023】
なお、このようにして得られる結晶性t−BN微粉末の純度は90%(重量比)以上となり、洗浄の程度によって97%以上に達する(残部は主としてB2O3)。焼結体の出発原料とする場合、残留分B2O3が焼結助剤として作用するので、それほど高純度にする必要はない。
[焼結の実施例]
[例1〜5]
結晶性t−BN微粉末と混合するセラミックス粉末にアルミナ粉末(純度92%、他にSiO2、MgOなど8重量%を含む平均粒径3.5μmのマルスゆう薬製)を選び複合セラミックス燒結体を試作した。すなわち、このアルミナ粉末に水分重量25%とポリアクリル酸アンモニューム塩の解こう剤を固形分0.3重量%添加してボールミルで12時間分散混合して調製した。また上記結晶性t−BN微粉末に水分重量45%重量%とポリカルボン酸アンモニューム塩の解こう剤を固形分2重量%添加してボールミルで12時間分散混合して調製した。その後、両者のスラリーを混合して結晶性t−BN微粉末の配合量がゼロ重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%の混合スラリーとし、各混合スラリーに成形助剤としてワックスバインダー及びポリビニールアルコール樹脂バインダーを固形分3重量%添加して、その後スプレードライヤーを用いて造粒粉を作製した。
この造粒粉末を金型プレス成形機で、1000kg/cm2の成形圧力で加圧して成形体を得た。この成形体を還元雰囲気中で1480℃で2時間燒結して寸法が大凡15cm×15cm×2cmの複合セラミックス燒結体を得た。得られた各複合燒結体について測定した特性を表1に示した。各燒結体を粉砕して粉末X線回折で調べた結果、複合した窒化ホウ素粉末はすべて元の結晶性t−BNの状態で燒結体中に残存していた。なお、表1に示した燒結体のかさ密度、気孔率、吸水率はアルキメデス法で測定し、曲げ強度はJIS1601に規定する方法で測定した。また、硬度はビッカース硬度計を用いて測定した。
【0024】
[例6、7]
比較のため、同じアルミナ粉末に前記結晶性t−BN微粉末を窒素雰囲気中で、4時間1750℃で加熱して得たh−BN粉末(平均粒径4.8μm、平均一次粒子径1.5μm、比表面積12m2/gの六角板状の結晶粒子からなる粉末)及びh−BN粉 末(平均粒径0.5μm、比表面積25m2/gの六角板状の結晶粒子からなる粉末)をそれぞれ15重量%混合した混合スラリーを例1と同様にして複合セラミックス焼結体を作り、その特性を表1に併せて示した。なお、超硬バイトで切削加工を試みたところ、例2〜7のいずれの複合セラミックス焼結体についても良好な機械加工性があることを認められた。
【0025】
【表1】
【0026】
[例8〜12]
結晶性t−BN微粉末と組み合わせて複合するセラミックス粉末にアルミナ粉末(純度99.99%、平均粒径0.4μmの大明化学製)を選び複合セラミックス焼結体を試作した。すなわち、このアルミナ粉末に水分重量25%とポリカルボン酸アンモニューム塩の解こう剤を固形分0.6重量%添加してボールミルで12時間分散混合して調製した。また、上記結晶性t−BN微粉末に水分重量45重量%とポリカルボン酸アンモニューム塩の解こう剤を固形分2重量%添加してボールミルで12時間分散混合して調製した。その後、両者のスラリーを混合して結晶性t−BN微粉末の配合量がゼロ重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%の混合スラリーとし、各混合スラリーに成形助剤としてワックスバインダー及びポリビニールアルコール樹脂バインダーを固形分3重量%添加して、その後スプレードライヤーを用いて造粒粉を作製した。
この造粒粉末を金型プレス成形機で、1000kg/cm2の成形圧力で加圧して成形体を得た。この成形体を還元雰囲気中で1350℃で2時間燒結して寸法が大凡15cm×15cm×2cmの複合セラミックス燒結体を得た。得られた各複合燒結体について測定した特性を表2にまとめて示した。各燒結体を粉砕して粉末X線回折で調べた結果、複合した窒化ホウ素粉末はすべて元の結晶性t−BNの状態で燒結体中に残存していた。
【0027】
[例13、14]
比較のため、同じアルミナ粉末に前記結晶性t−BN微粉末を窒素雰囲気中で、4時間1750℃で加熱して得たh−BN粉末(平均粒径4.8μm、平均一次粒子径1.5μm、比表面積12m2/gの六角板状の結晶粒子からなる粉末)及びh−BN粉末(平均粒径約0.5μm、比表面積25m2/gの六角板状の結晶粒子からなる粉末)をそれぞれ15重量%配合した混合スラリーを例1と同様にして複合セラミックス燒結体を作り、その特性を表2に併せて示した。なお、超硬バイトで切削加工を試みたところ、例9〜14のいずれの複合セラミックス焼結体についても良好な機械加工性があることを認められた。
【0028】
【表2】
【0029】
[例15〜19]
結晶性t−BN微粉末と組み合わせて複合するセラミックス粉末にα窒化けい素粉末(平均粒径0.6μm、比表面積22m2/gのY2O3を6重量%とAl2O3を4重量%を含む秩父小野田製の窒化けい素粉末)を選び複合セラミックス焼結体を試作した。すなわち、この窒化けい素粉末に水分重量25%とポリカルボン酸アンモニューム塩の解こう剤を固形分0.5重量%添加してボールミルで12時間分散混合して調製した。また、上記結晶性t−BN微粉末に水分重量45重量%とポリカルボン酸アンモニューム塩の解こう剤を固形分2重量%添加してボールミルで12時間分散混合して調製した。
その後、両者のスラリーを混合して結晶性t−BN微粉末の配合量がゼロ重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%の混合スラリーとし、各混合スラリーに成形助剤としてワックスバインダー及びポリビニールアルコール樹脂バインダーを固形分3重量%添加して、その後スプレードライヤーを用いて造粒粉を作製した。
この造粒粉末を金型プレス成形機で、1000kg/cm2の成形圧力で加圧して成形体を得た。この成形体を窒素雰囲気中で1800℃で5時間燒結して寸法が大凡15cm×15cm×2cmの複合セラミックス燒結体を得た。得られた各複合燒結体について測定した特性を表3に併せて示した。また例16〜19の各燒結体を粉砕して粉末X線回折で調べた結果、複合した窒化ホウ素粉末はすべてh−BN結晶に相転移していることが分かった。
【0030】
[例20、21]
比較のため、同じ窒化けい素粉末に前記結晶性t−BN微粉末を窒素雰囲気中で、4時間1750℃で加熱して得たh−BN粉末(平均粒径約4.8μm、平均一次粒子径1.5μm、比表面積12m2/gの六角板状の結晶粒子からなる粉末)及びh−BN粉末(平均粒径0.5μm、比表面積25m2/gの六角板状の結晶粒子からなる粉末)をそれぞれ15重量%配合した混合スラリーを例1と同様にして複合セラミックス焼結体を作り、その特性を表3に併せて示した。なお、超硬バイトで切削加工を試みたところ、例16〜21のいずれの複合セラミックス焼結体についても良好な機械加工性があることを認められた。
【0031】
【表3】
【0032】
[例22〜26]
結晶性t−BN微粉末と組み合わせて複合するセラミックス粉末に窒化アルミニウム粉末(平均粒径1.4μm、比表面積2.7m2/gのY2O3を5重量%含むダウケミカル製のアルミニウム粉末)を選び、複合セラミックス焼結体を試作した。すなわち、この窒化アルミニウム粉末にエチルアルコール重量45%添加してボールミルで12時間分散混合して調製した。また、上記結晶性t−BN微粉末にエチルアルコール重量45重量%添加してボールミルで12時間分散混合して調製した。その後、両者のスラリーを混合して結晶性t−BN微粉末の配合量がゼロ重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%の混合スラリーとし、各混合スラリーに成形助剤としてポリビニールブチラール樹脂バインダーを固形分3重量%添加して、その後スプレードライヤーを用いて造粒粉を作製した。
この造粒粉末を金型プレス成形機で、1000kg/cm2の成形圧力で加圧して成形体を得た。この成形体を窒素雰囲気中で1800℃で5時間燒結して寸法が大凡15cm×15cm×2cmの複合セラミックス燒結体を得た。得られた各複合燒結体について測定した特性を表4に示した。また例23〜26の各燒結体を粉砕して粉末X線回折で調べた結果、複合した窒化ホウ素粉末はすべてh−BN結晶に相転移していることが分かった。
【0033】
[例27、28]
比較のため、同じ窒化アルミニウム粉末に前記結晶性t−BN微粉末を窒素雰囲気中で、4時間1750℃で加熱して得たh−BN粉末(平均粒径4.8μm、平均一次粒子径1.5μm、比表面積12m2/gの六角板状の結晶粒子からなる粉末)及びh−BN粉末(平均粒径0.5μm、比表面積25m2/gの六角板状の結晶粒子からなる粉末)をそれぞれ15重量%配合した混合スラリーを例1と同様にして複合セラミックス焼結体を作り、その特性を表4に併せて示した。なお、超硬バイトで切削加工を試みたところ、例23〜28のいずれの複合セラミックス焼結体についても良好な機械加工性があることを認めた。
【0034】
【表4】
【0035】
上記の例1〜28の内、例2〜5、例8〜12、例15〜19及び例22〜26は本発明の実施例であり、例1、例6、例7、例13、例14、例20、例21、例27及び例28は本発明の比較例である。上記の結果から、本発明による結晶性t−BN微粉末を混合して焼結した複合セラミックス焼結体は、h−BN粉末を混合して焼結した複合セラミックス焼結体と比較して焼結性がよく、曲げ強度が大きいことが分かる。また、表に示していないが、窒化硼素を20重量%複合した焼結体について熱膨張率を測定したところ、結晶性t−BN微粉末を混合して焼結した複合セラミックス焼結体の厚さ方向と厚さに直角な方向の熱膨張率の比はほぼ1であり、成形時の加圧方向による方向性の差異が殆どないことが分かった。
【0036】
なお、結晶性t−BN微粉末は非常に細かい結晶であり、一般に凝集していることが多い。したがって、成形の原料調製過程で、いかに凝集紛体を分散してマトリクスとなる原料と均一に混合するかが最終的な焼結体特性に大きく影響してくる。本発明の製造工程において、混合する粉体を個々に均一分散する処理をすることにより特性が大きく変わることを留意しておく必要がある。
【0037】
【発明の効果】
上記の結果から分かるように、本発明のt−BNを含む複合セラミックス焼結体は多孔質であり、気孔は微細であると同時に殆ど連通した開気孔となっている。また、本発明の結晶性t−BNを含む複合セラミックス焼結体では、結晶性t−BN微粉末の一次粒子が微細な結晶粒子であることによって焼結性がh−BNを含む複合セラミックス焼結体より良好である。さらに、焼結体中に結晶性t−BNが相変化しないでとどまっている限りにおいて結晶性t−BNは微細な結晶粒子の状態を保持しており、これによって焼結体中の気孔も微細である。また、焼結体の組織が微細であることによって、同程度の気孔率を有するh−BNを含む複合セラミックス焼結体と比較して本発明による微細な結晶性t−BNの結晶粒子を含む複合セラミックス焼結体の方が強度が大きくその他の面でも優れている。即ち、同じ配合割合のBN(実施例では15%で比較)でも、従来のh−BN含有複合セラミックス焼結体に比べて、易焼結性に優れ、焼結体の各種特性が向上する。詳しくは、気孔率が小さく緻密化が可能であり、曲げ強度、ヤング率、硬度等の増大が達成される。
さらに、本発明のt−BNを含む複合セラミックス焼結体はh−BNを複合した複合セラミックス焼結体が保有する好ましい特性、たとえば優れた機械加工性(切削加工性)、熱伝導性、電気絶縁性、耐熱衝撃性等の他、溶融金属に対する濡れにくさと耐食性を兼ね備えている。
【0038】
このような特性を有する本発明の複合セラミックス焼結体は、多くの場合1400℃以下の無加圧焼結によって焼結できるので、前述の製造技術が確立されたことによって従来より格段に安価に高純度の結晶性t−BN微粉末を調達できるようになった。したがって、各種の形状を有する高強度の焼結体を容易に安く提供でき、さらに機械加工性が良好であることによって複雑な形状の高精度な焼結部材を提供できる。したがって、分離用の膜材料、ミクロフィルタ材料、強度が大きい構造材料、耐久性のある通気性の多孔質溶融金属用鋳型材料、などとしての用途を期待できるので、本発明の複合セラミックス焼結体は産業上の利用価値が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の典型的なh−BN粉末の粉末X線回折図。
【図2】従来のa−BN粉末の粉末X線回折図。
【図3】本発明の例1の複合セラミックス焼結体の原料に使用された結晶性t−BN粉末の一例の粉末X線回折図。
【図4】図3の結晶性t−BN微粉末の13300倍の顕微鏡写真。
【図5】本発明の例1の複合セラミックス焼結体の原料に使用された、アトリションミルによる粉砕後の結晶性t−BN微粉末の粒度分布を示すグラフ。
Claims (10)
- 焼結体中に有効量の結晶性乱層構造窒化硼素粒子を含み、
前記結晶性乱層構造窒化硼素粒子のCuKα線による粉末X線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下であり、
六方晶窒化硼素のCuKα線による粉末X線回折図における[100][101]及び[102]回折線に対応する該X線回折図中の各回折線の占める面積S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦0.02の関係が充たされていることを特徴とする複合セラミックス焼結体。 - 焼結体中に5重量%以上の結晶性乱層構造窒化硼素粒子を含み、
前記結晶性乱層構造窒化硼素粒子のCuKα線による粉末X線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下であり、
六方晶窒化硼素のCuKα線による粉末X線回折図における[100][101]及び[102]回折線に対応する該X線回折図中の各回折線の占める面積S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦0.02の関係が充たされていることを特徴とする複合セラミックス焼結体。 - 焼結体が1450℃以下で焼結されたものである請求項1又は2に記載の複合セラミックス焼結体。
- 焼結体が40重量%以下の結晶性乱層構造窒化硼素粒子と60〜95重量%の酸化物粒子を主成分とするものである請求項1〜3のいずれかに記載の複合セラミックス焼結体。
- 酸化物粒子が実質的にアルミナ及び/又はジルコニアである請求項4に記載の複合セラミックス焼結体。
- 焼結体が10〜35重量%の結晶性乱層構造窒化硼素粒子を含み、機械加工性を有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の複合セラミックス焼結体。
- 焼結体中の結晶性乱層構造窒化硼素粒子の平均結晶粒径が0.5μm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の複合セラミックス焼結体。
- 焼結体の水銀ポロシメータで測定された平均気孔径が1.0μm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の複合セラミックス焼結体。
- 焼結体が5kg/mm2以上の曲げ強度を有するものである請求項1〜8のい ずれかに 記載の複合セラミックス焼結体。
- 結晶性乱層構造窒化硼素粒子の出発材料として純度90%以上、残部は主としてB2O3のものを用いて焼結されたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の複合セラミックス焼結体。
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