近年、画像処理等の分野において、ハードコピーのカラー化に対するニーズが高まってきている。このニーズに対して、従来、昇華型熱転写方式、溶融熱転写方式、インクジェット方式、電子写真方式及び熱現像銀塩方式等のカラーコピー方式が提案されている。
これらの方式のうちインクジェット方式は、液体吐出ヘッドであるプリンタヘッドに設けられたノズルから記録液(インク)の液滴を飛翔させ、記録対象に付着してドットを形成するものであり、簡易な構成により高画質の画像を出力することができる。このインクジェット方式は、ノズルからインク液滴を飛翔させる方法の相違により、静電引力方式、連続振動発生方式(ピエゾ方式)及びサーマル方式に分類される。
これらの方式のうちサーマル方式は、インクの局所的な加熱により気泡を発生し、この気泡によりインクをノズルから押し出して印刷対象に飛翔させる方式であり、簡易な構成によりカラー画像を印刷することができるようになされている。
このようなサーマル方式によるプリンタヘッドは、インクを加熱する発熱素子が発熱素子を駆動するロジック集積回路による駆動回路と共に一体に半導体基板上に形成される。これによりこの種のプリンタヘッドにおいては、発熱素子を高密度に配置して確実に駆動できるようになされている。
すなわちこのサーマル方式のプリンタにおいて、高画質の印刷結果を得るためには、発熱素子を高密度で配置する必要がある。具体的に、例えば600〔DPI〕相当の印刷結果を得るためには、発熱素子を42.333〔μm〕間隔で配置することが必要になるが、このように高密度で配置した発熱素子に個別の駆動素子を配置することは極めて困難である。これによりプリンタヘッドでは、半導体基板上にスイッチングトランジスタ等を作成して集積回路技術により対応する発熱素子と接続し、さらには同様に半導体基板上に作成した駆動回路により各スイッチングトランジスタを駆動することにより、簡易かつ確実に各発熱素子を駆動できるようになされている。
またサーマル方式によるプリンタにおいては、発熱素子への所定電力の印加によりインクに気泡が発生し、ノズルからインクが飛び出すと、この気泡が消滅する。これにより発泡、消泡を繰り返す毎にキャビテーションによる機械的な衝撃を受ける。さらにプリンタは、発熱素子の発熱による温度上昇と温度下降とが、短時間〔数μ秒〕で繰り返され、これにより温度による大きなストレスを受ける。
このためプリンタヘッドは、半導体素子が作成されてなる半導体基板上に層間絶縁膜が形成され、この層間絶縁膜上にタンタル(Ta)、タンタルアルミ(TaAl)、タンタルナイトライド(TaNX )等による発熱素子が形成され、この層間絶縁膜により半導体素子と発熱素子とが絶縁され、またこの層間絶縁膜を蓄熱層として利用して発熱素子の熱をインクに効率良く伝搬するようになされている。また続いてこの発熱素子の上層に窒化シリコン(Si3 N4 )等による絶縁保護層、β−タンタル(正方晶構造のタンタル)による耐キャビテーション層が順次形成される。プリンタヘッドは、この絶縁保護層により発熱素子を電源、駆動回路に接続する配線パターンと発熱素子とが絶縁されるのに対し、耐キャビテーション層によりキャビテーションによる機械的な衝撃が緩和され、さらには発熱素子からの熱をインクに伝搬する際にインク成分による化学反応が低減され、これらにより発熱素子を保護して信頼性を確保するようになされている。
プリンタヘッドは、このように発熱素子等が形成されてなる基板上に感光性樹脂等による流路形成部材が形成され、この流路形成部材によりインク液室の隔壁、インク流路の隔壁等の流路パターンが作成される。プリンタヘッドは、さらにこの流路形成部材上にニッケル(Ni)又はニッケルとコバルトとの合金(Ni−Co)によるノズルプレート、若しくは感光性樹脂によるノズルプレートが接着により積層され、これによりノズル、インク液室、このインク液室にインクを導くインク流路等が形成されて作成される。
プリンタヘッドは、このようにして作成されたインク流路によりインク液室にインクが導かれた後、半導体素子の駆動により発熱素子が発熱し、インク液室のインクを局所的に加熱する。プリンタヘッドは、この加熱により、このインク液室に気泡を発生してインク液室の圧力を増大させ、ノズルよりインクを押し出して印刷対象に飛翔させるようになされている。
このように構成されるプリンタヘッドにおいては、インク液室、インク流路内にインクが充填されることにより、このインク液室等を構成する基板と流路形成部材とが常にインクに接し、この流路形成部材と基板の密着性が不十分であると、インク成分による浸食により基板からこの流路形成部材が浮き上がる不具合がある。
このためプリンタヘッドにおいては、基板と流路形成部材との間に有機系樹脂又は感光性アクリル系樹脂による密着層が形成され、この密着層により基板と流路形成部材の密着性を向上するようになされ、具体的に例えば特開平11−348290号公報に開示されているように、この密着層の材料に有機系樹脂であるポリエーテルアミド樹脂が適用されるようになされている。
これに対して特開2001−10070号公報、特開2001−130003号公報においては、このような密着層の材料層であるポリエーテルアミド樹脂層を所望形状に加工する場合に、4フッ化炭素(CF4 )ガスと酸素(O2 )ガスとによる混合ガス又は酸素(O2 )ガスを用いてドライエッチングする方法が提案されるようになされている。
しかしながら4フッ化炭素ガスと酸素ガスとによる混合ガス又は酸素ガスは、ポリエーテルアミド樹脂層のエッチャントとして機能するものの、ポリエーテルアミド樹脂層に対して過剰に作用し、ポリエーテルアミド樹脂層に激しいダメージを加えてしまう。
すなわち4フッ化炭素ガス及び酸素ガスを用いたドライエッチングにおいては、図15(A)及び(B)にそれぞれ示すように、プラズマにより乖離されてそれぞれフッ素ラジカル(F* )及び酸素ラジカル(O* )を生成し、このフッ素ラジカル、酸素ラジカルにより余剰な部位のポリエーテルアミド樹脂層を除去する。具体的には、ポリエーテルアミド樹脂層に対するフッ素ラジカルのエッチングは、等方性であることにより、インク液室壁面等を構成するポリエーテルアミド樹脂層の側壁面を弓形(ボーウィング)形状にエッチングする。またポリエーテルアミド樹脂層に対する酸素ラジカルのエッチングも、等方性であり、かつフッ素ラジカルに比してエッチング速度が速いことにより、ポリエーテルアミド樹脂層の側壁面を一段と弓形形状にエッチングする。
またこのような4フッ化炭素ガス及び酸素ガスを用いたドライエッチングにおいて、ポリエーテルアミド樹脂層においては、フッ素ラジカル及び酸素ラジカルがこの側壁面より侵入し、これによりポリエーテルアミド樹脂層自体を脆弱化する。
具体的に酸素ガスを用いたドライエッチングにより加工したポリエーテルアミド樹脂層を加熱し、この加熱によりポリエーテルアミド樹脂層から発生するガス成分の質量を分析したところ、ポリエーテルアミド樹脂層から多量の二酸化炭素(CO2 )ガスが発生し、これによりこのポリエーテルアミド樹脂層においては、ポリエーテルアミド樹脂成分中の炭素が酸素ラジカルにより過剰に酸化されて脆弱になっていることが確認された。
これによりポリエーテルアミド樹脂により密着層を形成し、これら特開2001−10070号公報、特開2001−130003号公報に開示の手法によりこの密着層をパターニングしてプリンタヘッドを作成した場合に、側壁面が弓形形状に加工されることによりフッ素ラジカル及び酸素ラジカルが基板と密着層との界面に及び易く、またこのように基板と密着層との界面にフッ素ラジカル及び酸素ラジカルが及ぶと、基板と密着層との密着力を弱め、長期の使用により基板から流路形成部材が浮き上がり、結局、プリンタヘッドの信頼性が劣化する恐れがあった。
特開平11−348290号公報
特開2001−10070号公報
特開2001−130003号公報
(1)実施例の構成
図2は、本発明の実施例1に係るプリンタを示す斜視図である。このラインプリンタ1は、全体が長方形形状の筐体2に収納されて形成され、印刷対象である用紙3を収納した用紙トレイ4をこの筐体2の正面に形成されたトレイ出入口より装着することにより、用紙3を給紙できるようになされている。
用紙トレイ4は、このようにトレイ出入口よりラインプリンタ1に装着されると、所定の機構により用紙3が給紙ローラ5に押し当てられ、この給紙ローラ5の回転により、矢印Aにより示すように、用紙3が用紙トレイ4よりラインプリンタ1の背面側に向かって送り出される。ラインプリンタ1は、この用紙送りの側に反転ローラ6が配置され、この反転ローラ6の回転等により、矢印Bにより示すように、正面方向に用紙3の送り方向が切り換えられる。
ラインプリンタ1は、このようにして用紙送り方向が矢印Bで示す方向に切り換えられてなる用紙3が用紙トレイ4上を横切るように拍車ローラ7等により搬送され、矢印Cにより示すように、ラインプリンタ1の正面側に配置された排出口より排出される。ラインプリンタ1は、この拍車ローラ7から排出口までの間に、矢印Dにより示すように、ヘッドカートリッジ8が交換可能に配置される。
ヘッドカートリッジ8は、それぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのラインヘッドをそれぞれ配置してなるプリンタヘッド9が所定形状のホルダー10の下面側に配置され、このホルダー10に順次イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)のインクカートリッジが交換可能に配置されて形成されるようになされている。これによりラインプリンタ1は、これら各色のインクに対応するラインヘッドより用紙3にインクを付着させて画像を印刷できるようになされている。
ここで図3は、図2の用紙3側より見たプリンタヘッドの配列構成の一部を拡大した平面図である。プリンタヘッド9は、図3に示すように、各色のインクのインク流路11の両側に、交互(千鳥状に)に同一構成によるヘッドチップ12がノズルプレート上に配置して構成される。また、各へッドチップ12においては、それぞれ発熱素子がインク流路11側となるように配置されており、つまりインク流路11側を介して両側のヘッドチップ12は向きが180度回転させた関係となるように配置されている。これによりプリンタヘッド9は、それぞれ各色において1系統のインク流路11で各ヘッドチップ12にインクを供給できるようになされ、その分、簡易な構成により印刷精度を高解像度化することができるようになされている。
また、ヘッドチップ12は、このようにして180度回転して配置した場合でも、微小なインク吐出口であるノズル13の並ぶ方向には接続用パッド14の位置が変化しないように、これらノズル13の並ぶ方向(印刷幅方向)のほぼ中央に接続用パッド14が配置され、これによりプリンタヘッド9では、隣り合うヘッドチップ12の接続用パッド14に接続するフレキシブル配線基板が近接することを防止する、つまりフレキシブル配線基板の一部への集中を防止するようになされている。
なお、このようにしてノズル13をシフトさせた場合、インク流路11の上方及び下方に配置されるヘッドチップ12においては、駆動信号に対して発熱素子の駆動順序が逆転することになる。各ヘッドチップ12は、このような駆動順序に対応するように、駆動回路における駆動順序を切り換えることができるように構成されている。
図1は、このラインプリンタに適用されるプリンタヘッドを示す断面図である。プリンタヘッド9は、シリコン基板によるウエハ上に複数ヘッド分の駆動回路、発熱素子等が作成された後、各ヘッドチップ12にスクライビング処理され、各ヘッドチップ12にインク液室20等を作成して形成される。
すなわち図4(A)に示すように、プリンタヘッド9は、ウエハによるシリコン基板21が洗浄された後、シリコン窒化膜(Si3 N4 )が堆積される。続いてプリンタヘッド9は、リソグラフィー工程、ドライエッチング工程によりシリコン基板21が処理され、これによりトランジスタを形成する所定領域以外の領域よりシリコン窒化膜が取り除かれる。これらによりプリンタヘッド9は、シリコン基板21上のトランジスタを形成する領域にシリコン窒化膜が形成される。
続いてプリンタヘッド9は、熱酸化工程によりシリコン窒化膜が除去されている領域に熱シリコン酸化膜が膜厚500〔nm〕により形成され、この熱シリコン酸化膜によりトランジスタを分離するための素子分離領域(LOCOS: Local Oxidation Of Silicon )22が形成される。なおこの素子分離領域22は、その後の処理により最終的に膜厚260〔nm〕に形成される。さらに続いてプリンタヘッド9は、シリコン基板21が洗浄された後、トランジスタ形成領域にタングステンシリサイド/ポリシリコン/熱酸化膜構造のゲートが作成される。さらにソース・ドレイン領域を形成するためのイオン注入工程、熱処理工程によりシリコン基板21が処理され、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor )型によるトランジスタ23、24等が作成される。なおここでスイッチングトランジスタ23は、18〜25〔V〕程度の耐圧を有するMOS型ドライバートランジスタであり、発熱素子の駆動に供するものである。これに対してスイッチングトランジスタ24は、このドライバートランジスタを制御する集積回路を構成するトランジスタであり、5〔V〕の電圧により動作するものである。なおこの実施例においては、ゲート/ドレイン間に低濃度の拡散層が形成され、その部分で加速される電子の電界を緩和することで耐圧を確保してドライバートランジスタ23が形成されるようになされている。
このようにしてシリコン基板21上に、半導体素子であるトランジスタ23、24が作成されると、プリンタヘッド9は、続いてCVD(Chemical Vapor Deposition )法によりリンが添加されたシリコン酸化膜であるPSG(Phosphorus Silicate Glass )膜、ボロンとリンが添加されたシリコン酸化膜であるBPSG(Boron Phosphorus Silicate Glass)膜25が順次膜厚100〔nm〕、500〔nm〕により作成され、これにより全体として膜厚が600〔nm〕による1層目の層間絶縁膜が作成される。
続いてフォトリソグラフィー工程の後、C4 F8 /CO/O2 /Ar系ガスを用いたリアクティブイオンエッチング法によりシリコン半導体拡散層(ソース・ドレイン)上にコンタクトホール26が作成される。
さらにプリンタヘッド9は、希フッ酸により洗浄された後、スパッタリング法により、膜厚30〔nm〕によるチタンコンタクトメタル、膜厚70〔nm〕による窒化酸化チタンバリアメタル、膜厚30〔nm〕によるチタン、シリコンが1〔at%〕添加されたアルミニューム、または銅が0.5〔at%〕添加されたアルミニュームが膜厚500〔nm〕により順次堆積される。続いてプリンタヘッド9は、膜厚10〔nm〕によるチタン、反射防止膜である窒化酸化チタンが膜厚25〔nm〕により堆積され、これらにより配線パターン材料が成膜される。さらに続いてプリンタヘッド9は、フォトリソグラフィー工程、塩素系ガスを主体に用いたドライエッチング工程により、成膜された配線パターン材料が選択的に除去され、これにより上層側から見て窒化酸化チタン反射防止膜、チタン、シリコンが1〔at%〕添加されたアルミニュームまたは銅が0.5〔at%〕添加されたアルミニューム、チタン、窒化酸化チタンバリアメタル、チタンコンタクトメタルにより構成される1層目の配線パターン27が作成される。プリンタヘッド9は、このようにして作成された1層目の配線パターン27により、駆動回路を構成するMOS型トランジスタ24を接続してロジック集積回路が形成される。
続いてプリンタヘッド9は、TEOS(テトラエトキシシラン:Si(OC2 H5 )4 )を原料ガスとしたCVD法により層間絶縁膜であるシリコン酸化膜が堆積される。続いてプリンタヘッド9は、SOG(Spin On Glass )を含む塗布型シリコン酸化膜の塗布とエッチバックとにより、シリコン酸化膜が平坦化され、これらの工程が2回繰り返されて1層目の配線パターン27と続く2層目の配線パターンとを絶縁する膜厚440〔nm〕のシリコン酸化膜による2層目の層間絶縁膜28が形成される。
プリンタヘッド9は、続いて図4(B)に示すように、スパッタリング法により膜厚83〔nm〕によるタンタル膜が堆積され、これによりシリコン基板21上に抵抗体膜29が形成される。具体的にプリンタヘッド9は、タンタルをターゲットに用いたDCマグネトロン・スパッタリング装置内のスパッタ成膜チェンバーに搭載された後、アルゴンガス雰囲気によりグロー放電が開始され、これにより抵抗体膜29が成膜される。なおこの場合、基板温度は、200〜400度、直流パワーは、2〜4〔kW〕であり、アルゴンガス流量は、25〔sccm〕で一定にした。
プリンタヘッド9は、続いて感光性樹脂であるフォトレジストが全面に塗布されて露光装置に搬送され、所定形状を描画してなるマスクがシリコン基板21上に載置されて紫外線が照射される。さらにプリンタヘッド9は、現像液に浸漬されて紫外線の照射を受けた部位が溶解され、これにより抵抗体膜29上にフォトレジスト30による発熱素子の作成領域がマスクされる。さらに続いて図5(C)に示すように、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング工程により、マスクパターンによって余剰な部位の抵抗体膜29が除去される。
続いて図5(D)に示すように、プリンタヘッド9は、酸素プラズマアッシング装置に搭載された後、酸素ラジカルを含むプラズマ流がシリコン基板21に照射されることによりシリコン基板21上のレジストが短時間により除去される。これらによりこの実施例においては、正方形形状又は一端を配線パターンに接続する折り返し形状の発熱素子31が作成される。
このようにして発熱素子31が形成されると、プリンタヘッド9は、図6(E)に示すように、シリコン基板21が洗浄された後、CVD法により膜厚300〔nm〕によるシリコン窒化膜が堆積され、発熱素子31の絶縁保護層32が形成される。続いて図6(F)に示すように、フォトリゾグラフィー工程、CHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、所定箇所のシリコン窒化膜32が除去され、これにより発熱素子31を配線パターンに接続する部位が露出される。さらにCHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、層間絶縁膜28に開口を形成してビアホール33が作成される。
プリンタヘッド9は、さらに図7(G)に示すように、スパッタリング法により、膜厚200〔nm〕によるチタン、シリコンを1〔at%〕添加したアルミニューム、または銅を0.5〔at%〕添加したアルミニュームが膜厚600〔nm〕により順次堆積される。続いてプリンタヘッド9は、膜厚25〔nm〕による窒化酸化チタンが堆積され、これにより反射防止膜が形成される。これらによりプリンタヘッド9は、シリコン又は銅を添加したアルミニューム等による配線パターン材料層34が成膜される。
続いて図7(H)に示すように、フォトリソグラフィー工程、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング工程により成膜した配線パターン材料層34が選択的に除去され、2層目の配線パターン35が作成される。プリンタヘッド9は、この2層目の配線パターン35により、電源用の配線パターン、アース用の配線パターンが作成され、またドライバートランジスタ24を発熱素子31に接続する配線パターンが作成される。なお発熱素子31の上層に取り残されたシリコン窒化膜32にあっては、この配線パターン作成の際のエッチング工程において、発熱素子31の保護層として機能する。
続いて図8(I)に示すように、プリンタヘッド9は、CVD法によりインク保護層、絶縁層として機能するシリコン窒化膜36が膜厚400〔nm〕により堆積される。さらに熱処理炉において、4〔%〕の水素を添加した窒素ガスの雰囲気中で、又は100〔%〕の窒素ガス雰囲気中で、400度、60分間の熱処理が実施される。これによりプリンタヘッド9は、トランジスタ23、24の動作が安定化され、さらに1層目の配線パターン27と2層目の配線パターン35との接続が安定化されてコンタクト抵抗が低減される。
プリンタヘッド9は、続いてDCマグネトロン・スパッタリング装置内のスパッタ成膜チェンバーに搭載された後、スパッタリング法によりβ−タンタルによる耐キャビテーション層材料膜が膜厚200〔nm〕により堆積される。続いてプリンタヘッド9は、フォトレジスト工程により耐キャビテーション層材料膜が所望の形状にマスクされ、さらにBCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング工程によりこのマスクによってエッチング処理され、これにより耐キャビテーション層37が形成される。
このようにしてシリコン基板21上に発熱素子31、絶縁保護層36、耐キャビテーション層37が順次形成されると、プリンタヘッド9は、図8(J)に示すように、スピンコーターにより密着層材料層38が膜厚0.5〜2.0〔μm〕によりシリコン基板21上に形成される。
ここでこの実施例において、密着層材料層38には、感光性のアクリル樹脂が適用され、この密着層材料層38を所望の形状にパターニングして密着層が作成される。またこの密着層材料層38のエッチング処理において、露光、現像液によるウエットエッチングにより余剰な部位が溶解されてパターニングされた後、水素原子成分及び窒素原子成分を含むエッチングガスを用いたドライエッチングによりウエットエッチングによるアクリル樹脂の残渣を除去する。
具体的にプリンタヘッド9は、図9(K)に示すように、70度、2分間のプリベークが実施された後、流路形成部材の形状によるマスク39がシリコン基板21上に載置されて露光される。さらに続いて図9(L)に示すように、現像液に浸漬されて露光を受けた部位が溶解され、これによりフォトリソグラフィーの手法を適用して密着層40がパターニングされる。
しかしてこのようなウエットエッチングにおいては、フッ素ラジカル、酸素ラジカルによるドライエッチングに比して、過剰な作用を防止し得、これによりプリンタヘッド9では、密着層40の側壁面における弓形形状のエッチングを防止し、さらには密着層40の脆弱化を防止するようになされている。しかしながらこのようなウエットエッチングにおいては、耐キャビテーション層37の表面に密着層の材料が残渣41として残ることになる。このため続いて図10(M)に示すように、60秒間流水により洗浄された後、ドライエッチング装置又はアッシング装置に搭載され、窒素(N2 )ガスと水素(H2 )ガスとによる混合ガス又はアンモニア(NH3 )ガスを用いたドライエッチングにより耐キャビテーション層37の表面から残渣41が除去される。
ここで窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスを用いたドライエッチングにおいては、窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスを励起して活性な水素原子、NHラジカル等を含むプラズマ流が生成され、これにより水素原子成分、窒素原子成分を含むエッチングガスが生成される。またエッチングガスであるプラズマ流を加工対象に照射し、これによりプラズマ中の活性な水素原子、NHラジカルにより加工対象を還元して除去するものである。
すなわちこのドライエッチングによれば、耐キャビテーション層37の表面においては、プラズマ中の活性な水素原子、NHラジカル等により残渣41が還元され、耐キャビテーション層37の表面から残渣41が除去されるのに対し、露光を受けた部位である密着層40の側壁面等においては、殆どダメージを与えないようにすることができる。
しかしてプリンタヘッド9は、これら露光現像、残渣除去処理により密着層40が形成されることにより、ドライエッチングによる密着層40の側壁面へのダメージが有効に回避され、これにより基板21との界面における脆弱化が防止され、密着力の劣化が防止されるようにされている。なお実験した結果によれば、窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスの何れを用いた場合でも、所望のほぼ垂直な断面形状により密着層40の側壁面を作成することができた。またこの場合、密着層材料層38には、露光を受けた部位が反応により現像液に溶解されないネガタイプの感光性アクリル樹脂を適用した。また残渣除去処理において、電源電力は、100〜500〔W〕、活性な水素原子、NHラジカル等を含むプラズマ流の照射時間は、10〜30秒間であり、窒素ガス流量及び水素ガス流量は、それぞれ25及び75〔sccm〕に設定したのに対し、アンモニアガス流量は、30〜100〔sccm〕に設定した。
このようにして密着層40が作成されると、プリンタヘッド9は、続いて図10(N)に示すように、流路形成部材42となる有機系樹脂がスピンコート法により膜厚9.5〔μm〕により塗布され、85度、15分間のプリベークが実施される。さらに露光現像工程によりインク液室20、インク流路11に対応する部位が取り除かれた後、30秒間流水により洗浄され、85度、5分間のベークが実施されて流路形成部材42が硬化される。これによりプリンタヘッド9は、この有機系樹脂による流路形成部材42と上述した密着層40とによりインク液室20の隔壁、インク流路11の隔壁等の流路パターンが作成される。これらによりプリンタヘッド9は、流路形成部材42とシリコン基板21の密着力が確保され、これにより長期間使用してもシリコン基板21からの流路形成部材の浮き上がりを有効に回避して信頼性を確保するようになされている。
プリンタヘッド9は、続いて図1に示すように、各ヘッドチップ12にスクライビングされた後、ニッケルとコバルトとの合金(Ni−Co)によるノズルプレート43が積層される。ここでノズルプレート43は、発熱素子31の上にノズル13を形成するように所定形状に加工された板状部材であり、流路形成部材42上に接着により保持される。これによりプリンタヘッド9は、ノズル13、インク液室20、このインク液室20にインクを導くインク流路11等が形成されて作成される。
プリンタヘッド9は、このようなインク液室20が紙面の奥行き方向に連続するように形成され、これによりラインヘッドを構成するようになされている。
(2)実施例の動作
以上の構成において、プリンタヘッド9は、半導体基板であるシリコン基板21に素子分離領域22が作成されて半導体素子であるトランジスタ23、24が作成され、絶縁層25により絶縁されて1層目の配線パターン27が作成される。また続いて発熱素子31が作成された後、2層目の配線パターン35が作成される。また続いて絶縁保護層36が作成された後、熱処理により配線パターン27及び35間、配線パターン35と発熱素子31等との間の接続が安定化され、耐キャビテーション層37が形成される。また続いて密着層40、流路形成部材42が順次形成されて流路パターンが作成され、ノズルプレート43の積層によりインク液室20、ノズル13が形成されて作成される(図1、図4〜図10)。
このラインプリンタ1は、このようにして作成されたプリンタヘッド9のインク液室20にヘッドカートリッジ8に保持されてなるインクがインク流路11により導かれ(図3)、発熱素子31の駆動によりインク液室20に保持したインクが加熱されて気泡が発生し、この気泡によりインク液室20内の圧力が急激に増大する。ラインプリンタ1では、この圧力の増大によりインク液室20のインクがノズル13からインク液滴として飛び出し、ローラ5、6、7等により用紙トレイ4から搬送された印刷対象である用紙3にこのインク液滴が付着する。
ラインプリンタ1では、このような発熱素子31の駆動が間欠的に繰り返され、これにより所望の画像等が用紙3に印刷されて排出口より排出される(図2)。しかしてプリンタヘッド9においては、この発熱素子31の間欠的な駆動により、インク液室20内において、気泡の発生、気泡の消滅が繰り返され、これにより機械的な衝撃であるキャビテーションが発生する。プリンタヘッド9では、インク液室20の発熱素子31側に設けられた保護層である耐キャビテーション層37によりこのキャビテーションによる機械的な衝撃が緩和され、発熱素子31がこの衝撃から保護される。また耐キャビテーション層37、絶縁保護層36により発熱素子31へのインクの直接の接触が防止され、これによっても発熱素子31が保護される。
プリンタヘッド9では、このような発熱素子31の間欠的な駆動によりインク流路11を介してインク液室20内にインクが順次充填され、これにより流路形成部材42と基板21とが常にインクと接することになる。このためプリンタヘッド9では、密着層作成工程により、この流路形成部材42の、基板21への密着力を増大させる密着層40が作成されるものの、このような密着層40を酸素ラジカル、フッ素ラジカルによるドライエッチングによりパターニングして作成した場合にあっては、長期の使用により基板21から流路形成部材42が浮き上がり、これにより信頼性が劣化することが心配される。
しかしながらプリンタヘッド9では、露光、現像液によるウエットエッチングにより高い精度で密着層40がパターニングされ、またウエットエッチングにより余剰な部位が除去されることにより、密着層40の脆弱化が十分に防止される。またこのようなウエットエッチングにより余剰な部位を除去して残る残渣41が、窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスを用いたドライエッチングにより除去され、この窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスを用いたドライエッチングにおいては、密着層40へのダメージを十分に防止し得、これによってもプリンタヘッド9では、密着層40の脆弱化が防止される。
しかしてこのような窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスを用いたドライエッチングにおいては、水素原子成分、窒素原子成分を含むエッチングガスによるエッチングであり、このようなエッチングガスによるエッチングにおいては、酸素ラジカル、フッ素ラジカルによりエッチングする場合に比して、エッチング対象への過剰な作用を防止することができ、これにより密着層の脆弱化を確実に防止することができる。
プリンタヘッド9では、さらにこのようにして作成された密着層40の上層に流路形成部材42が形成され、これによりこの流路形成部材42とシリコン基板21の密着力が密着層40により十分に確保され、長期間使用しても基板21からの流路形成部材42の浮き上がりが有効に防止される。これによりプリンタヘッド9では、流路形成部材42の浮き上がりを防止して信頼性を確保することができるようになされている。
(3)実施例の効果
以上の構成によれば、密着層を作成する工程において、少なくとも水素原子成分及び窒素原子成分を含むエッチングガスにより密着層の材料をエッチングするドライエッチング工程を設けることにより、流路形成部材の浮き上がりを防止して信頼性を確保することができる。
すなわち露光、現像液による現像によるパターニング工程により密着層をパターニングした後、少なくとも水素原子成分及び窒素原子成分を含むエッチングガスにより密着層の材料をエッチングして残渣を除去することにより、流路形成部材の浮き上がりを防止して信頼性を確保することができる。
またこのドライエッチング工程が、水素ガス及び窒素ガスの混合ガス、又はアンモニアガスを用いたドライエッチングであることにより、具体的にエッチングガスを適用して、流路形成部材の浮き上がりを防止して信頼性を確保することができる。
また密着層の材料が、感光性アクリル系樹脂であることにより、このようなエッチングガスによるドライエッチング工程により、流路形成部材の浮き上がりを防止して信頼性を確保することができる。
この実施例においては、感光性アクリル樹脂による密着層に代えて、ポリエーテルアミド樹脂により密着層を作成する。なおこの実施例においては、密着層の材料が異なる点、さらには密着層に関連する作成工程が異なる点を除いて、実施例1に係るプリンタヘッドと同一に構成されることにより、対応する符号を付して示し、重複した説明は省略する。
すなわち図11(A)に示すように、プリンタヘッド49は、シリコン基板21上にMOS型によるトランジスタ23、24が作成され、絶縁層25により絶縁されて1層目の配線パターン27が作成される。また続いてタンタルによる発熱素子31が作成された後、2層目の配線パターン35が作成される。また続いて発熱素子31の上層に絶縁保護層36、耐キャビテーション層37が順次形成される。
続いてプリンタヘッド49は、スピンコート法によりポリエーテルアミド樹脂による密着層材料層50が膜厚0.5〜2.0〔μm〕によりシリコン基板21上に形成され、その後、90〜100度による20〜30分間のプリベーク、250度による1時間のベークが順次実施される。
続いてプリンタヘッド49は、窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスを用いたドライエッチングによりこの密着層材料層50が選択的にエッチング処理され、これにより密着層51がパターニングされる。
具体的にプリンタヘッド49は、図11(B)に示すように、耐エッチングマスクとなる有機系樹脂によるフォトレジストが密着層材料層50上に塗布された後、露光現像工程によりフォトレジスト52がパターニングされ、このフォトレジスト52により密着層を形成する領域がマスクされる。
プリンタヘッド49は、続いて図12(C)に示すように、ドライエッチング装置に搭載された後、窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスの雰囲気によりエッチング処理が実行される。この処理において、プリンタヘッド49は、窒素ガスと水素ガスとが励起されて、又はアンモニアガスが励起されて、活性な水素原子、NHラジカル等を含むプラズマ流が生成され、これにより水素原子成分、窒素原子成分を含むエッチングガスが生成される。またこのようなエッチングガスであるプラズマ流がシリコン基板21に照射され、これによりプラズマ中の活性な水素原子、NHラジカルにより余剰な部位のポリエーテルアミド樹脂層50が還元されて除去される。
このときプリンタヘッド49は、図13に示すように、プラズマ中の窒素原子成分によりフォトレジスト52から一部の炭素原子等が還元され、この還元された化合物(CN等)がポリエーテルアミド樹脂層50の側壁面に堆積する。プリンタヘッド49では、この堆積した化合物がドライエッチングに対する側壁面の保護層として機能し、これによりポリエーテルアミド樹脂層50の側壁面に殆どダメージを与えないようにすることができる。
これによりこのドライエッチングによれば、高い精度により密着層51がパターニングされ、また密着層51へのダメージを十分に防止し得、これによりプリンタヘッド49では、基板21との界面における脆弱化が防止され、密着層51の劣化が防止される。なお実験した結果によれば、窒素ガスと水素ガスとによる混合ガス又はアンモニアガスの何れを用いた場合でも、所望のほぼ垂直な断面形状により密着層51の側壁面を作成することができた。またこの場合、フォトレジスト52には、フェノールノボラック樹脂を骨格高分子とするノボラック系ポジ型レジストを適用した。またドライエッチング処理において、電源電力は、100〜500〔W〕であり、窒素ガス流量及び水素ガス流量は、それぞれ25及び75〔sccm〕に設定したのに対し、アンモニアガス流量は、30〜100〔sccm〕に設定した。因みにノボラック系ポジ型レジストは、露光を受けた部位が反応により現像液に溶解されるものであり、現像液による膨潤、変形が少なく、かつ高い解像度とドライエッチング耐性とを有することが知られている。
このようにして密着層51が形成されると、プリンタヘッド49は、続いて図12(D)に示すように、フォトレジスト52が除去され、また続いて図14(E)に示すように、実施例1について説明したと同様に流路形成部材42が形成される。また続いて図1に示すように、ノズルプレート43が積層され、これによりプリンタヘッド49は、ノズル13、インク液室20、このインク液室20にインクを導くインク流路11等が形成されて作成される。
これによりこの実施例のように、水素原子成分及び窒素原子成分を含むエッチングガスによるドライエッチング工程により密着層の材料をエッチングして密着層を直接パターニングするようにしても、実施例1と同様の効果を得ることができる。
またこのように密着層を直接パターニングする処理において、マスクと窒素原子成分との反応物により密着層の材料層に保護層を形成しながら密着層をエッチングすることにより、密着層の側壁面へのダメージを緩和することができ、これによっても流路形成部材の浮き上がりを防止して信頼性を確保することができる。
1……プリンタ、9、49……プリンタヘッド、11……インク流路、20……インク液室、21……基板、31……発熱素子、40、51……密着層、42……流路形成部材、43……ノズルプレート、52……フォトレジスト