JP4374108B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、変圧器や発電器の鉄心等に供して好適な方向性電磁鋼板、中でも磁気特性と被膜特性の両方に優れる方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板は、軟磁性材料として、主に変圧器や回転機等の鉄心材料として使用されるもので、磁気特性として、磁束密度が高く、かつ鉄損および磁気歪が小さいことが要求される。
【0003】
かかる方向性電磁鋼板は、2次再結晶に必要なインヒビター、例えばMnS,MnSe,AlNおよびBN等を含有する電磁鋼用スラブを、加熱後、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍をはさむ2回以上の冷間圧延によって最終製品板厚とし、ついで脱炭焼鈍を行ったのち、鋼板にMgOなどの焼鈍分離剤を塗布してから、仕上げ焼鈍を施することによって製造される。
また、最近では、脱炭焼鈍の前後で窒化処理を行うことによって、AlN等のインヒビターを析出させる製造法も提案されている。
【0004】
また、このような方向性電磁鋼板の表面には、グラスレスの鏡面化電磁鋼板などの特殊な場合を除いて、フォルステライト(Mg2SiO4)質絶縁被膜が形成されている。この被膜は、表面の電気的絶縁だけでなく、その低熱膨張性を利用して鋼板に引張応力を付与することにより、鉄損さらには磁気歪をも効果的に改善している。
【0005】
上記したフォルステライト質絶縁被膜は、仕上げ焼鈍において形成されるが、その形成挙動は鋼中のMnS,MnSe,AlNおよびBN等のインヒビション効果に影響するため、優れた磁気特性を得る2次再結晶現象そのものにも影響を及ぼす。さらに、形成された被膜は、2次再結晶が完了して不要となったインヒビター成分を被膜中に吸い上げ、鋼を純化することによっても、鋼板の磁気特性の十分な発現を助けている。
【0006】
従って、このような被膜形成過程を制御して均一な被膜を形成することは、方向性電磁鋼板の製品品質を左右する重要なポイントの一つである。
すなわち、形成した被膜は均一で欠陥がなく、かつ剪断、打ち抜きおよび曲げ加工等に耐え得る密着性に優れたものでなければならない。また、平滑で鉄心として積層したときに高い占積率を示すものでなければならない。
【0007】
方向性電磁鋼板にフォルステライト質絶縁被膜を形成させるには、所望の最終厚みに冷間圧延したのち、湿水素雰囲気中にて 700〜900 ℃の温度域で連続焼鈍を行って、冷間圧延後の組織を適正な2次再結晶が起こるように1次再結晶させると同時に、2次再結晶を完全に行わせて磁気特性を向上させるため、鋼板中に0.01〜0.10mass%程度含まれる炭素を、0.003 mass%以下程度まで脱炭する。
さらに、これと同時に酸化によってSiO2を主成分とするサブスケールを鋼板表面に生成させる。
その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板上に塗布してから、コイル状に巻き取り、1000〜1200℃程度の温度域で高温仕上げ焼鈍を施すことにより、以下の式で示される固相反応によってフォルステライト質絶縁被膜を形成させる。
2MgO+SiO2→Mg2SiO4
【0008】
このフォルステライト質絶縁被膜は、1〜2μm 前後の微細結晶が緻密に集積したセラミックス被膜であり、上述したように、脱炭焼鈍において鋼板表面に生成した酸化物であるサブスケールを一方の原料物質として、その鋼板上に形成するものであるから、このサブスケールの種類、量、分布等はフォルステライトの核生成や粒成長挙動に関与すると共に被膜結晶粒の粒界や粒そのものの強度にも影響を及ぼし、従って仕上げ焼鈍後の被膜品質にも多大な影響を及ぼす。
【0009】
また、他方の原料物質であるMgOを主体とする焼鈍分離剤は、一般に水に懸濁したスラリーとして鋼板に塗布されるため、乾燥後も物理的に吸着したH2Oを保有するほか、一部が水和してMg(OH)2 に変化しているため、仕上げ焼鈍中に 800℃あたりまで少量ながらH2Oを放出し続ける。
このため、鋼板表面はこのH2Oにより、いわゆる追加酸化を受ける。この酸化もフォルステライトの生成挙動に影響を与えると共に、インヒビターの酸化や分解につながることから、これが多いと磁気特性が劣化する要因となる。この追加酸化の受け易さも、脱炭焼鈍で生じた鋼板表面のサブスケールの物性に大きく左右される。
【0010】
さらに、AlNをインヒビターとする方向性電磁鋼板においては、このサブスケールの物性が、仕上げ焼鈍中の脱N挙動あるいは焼鈍雰囲気からのNの侵入挙動に影響を及ぼして、磁気特性にも影響を与える。
以上述べたように、脱炭焼鈍における鋼板表層の状態を制御することは、方向性電磁鋼板の製造において極めて重要である。
【0011】
方向性電磁鋼板の脱炭焼鈍に関しては、例えば特開昭59−185725号公報には、焼鈍雰囲気の露点を50〜75℃に制御する方法、また特開昭54−160514号公報には、雰囲気の酸化度を脱炭の前半では0.15以上とし、後半では0.75以下でかつ前半より低くする方法、さらに特開平6−336616号公報には、焼鈍の昇温過程における雰囲気酸化度を均熱過程の雰囲気酸化度よりも低くする方法等が開示されている。
しかしながら、上記の雰囲気制御によっても、必ずしも十分な品質を有するフォルステライト質被膜が生成するとは限らず、密着不良の部分を生じたり、外観、被膜厚みあるいはフォルステライト粒径等が不均一な被膜となる場合が往々にして生じる。さらに、局所的に点状、筋状に被膜が剥離したり、ポーラスな被膜となる場合もあった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記の問題を有利に解決するもので、欠陥のない均一で密着性に優れた被膜を有する低鉄損方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、方向性電磁鋼板の一連の製造過程中、特に脱炭焼鈍工程において鋼板表面に生成するサブスケールについて、従来の雰囲気酸化性の影響だけでなく、1次再結晶粒の結晶方位分布との関係に着目して詳細な研究を行った結果、鋼板表層の隣接する結晶粒同士のなす方位差角が所定の関係を満足する場合に、サブスケールの形成反応が均一となることを新たに見出し、この発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、この発明は、Si:1.5〜7.0mass%を含有し、かつインヒビター元素としてAl:0.006mass%以上 0.06mass%以下、N:20ppm超 100ppm以下を含有する珪素鋼素材を、熱間圧延および冷間圧延によって最終板厚としたのち、脱炭を兼ねた1次再結晶焼鈍を施し、ついで焼鈍分離剤を塗布してから仕上げ焼鈍を行う一連の工程によって方向性電磁鋼板を製造するに際し、
1次再結晶焼鈍後の鋼板表層の集合組織について、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界が全体の40%以上となるように、素材中のAlおよびN添加量、冷間圧延を2回以上行う場合は各圧延の圧下率の組み合わせ、熱延板焼鈍温度および中間焼鈍温度の条件を定め、その条件で製造することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0015】
また、この発明では、脱炭を兼ねた1次再結晶焼鈍で形成される表面酸化物層の単位面積当たりの酸素量を、0.4 g/m2以上、2.4 g/m2以下の範囲に制御することが好ましい。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
C:0.06mass%, Si:3.2 mass%, Mn:0.06mass%, S:0.004 mass%, Se:0.02mass%, Al:0.03mass%, N:90 ppm, Sb:0.07mass%およびCu:0.2 mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなるスラブを、1410℃に加熱したのち、熱間圧延し、ついで熱延板焼鈍後、冷間圧延と中間焼鈍に引き続く温間圧延により板厚:0.22mmに仕上げたのち、温水素雰囲気中で 850℃, 2分間の脱炭焼鈍を兼ねた1次再結晶焼鈍を施した。
かくして得られた1次再結晶焼鈍板の集合組織を、 EBSP(electron back scattering pattern) で、1つ1つの粒について方位解析を行い、隣接する結晶粒の各粒界の方位差角の分布を求めた。
【0017】
ここで、粒界の方位差角とは、その粒界を挟んで隣接する結晶粒の方位を重ね合わせるのに必要な最小回転角であり、電磁鋼を含む立方晶では全ての粒の方位差角は0〜63°で表される。EBSPによる方位測定は、電子線により表面酸化に関与する最表層の結晶粒の方位だけを測定しており、表層から数個の粒を一緒に測定してしまう従来のX線を用いた結果とは異なる。
【0018】
図1は、1次再結晶焼鈍板において、隣接する結晶粒同士の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の粒界全体に占める割合と酸洗減量値との関係を示したもので、酸洗減量値が0.3 g/m2以上となる頻度を評価した。
ここで、酸洗減量値とは、70℃、5%塩酸に1分間鋼板を浸漬し、その酸洗前後における重量差のことで、酸洗減量値が小さいほど、酸による地鉄減量が少なく、サブスケールの表面保護性が高いことを意味する。そして酸洗減量値が0.3g/m2以下の場合、保護性は良好と見なすことができる。
これに対し、酸洗減量値が高い場合には、酸化層は不均一で表面の保護性は低く、鋼板表面の追加酸化や脱窒、浸窒によるインヒビターの酸化や分解を招き、仕上げ焼鈍工程でフォルステライト質被膜の形成が不均一となったり、磁気特性不良を招く。
【0019】
同図から明らかなように、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合が少ない、換言すれば、方位差角が15°以上、45°未満の粒界の割合が多い鋼板では、酸洗減量値が高い。
酸洗減量値の高い鋼板について電子顕微鏡によるミクロ観察を行ったところ、結晶粒表面での酸化よりもむしろ粒界での酸化が主体となり、鋼板表面での酸化膜が薄く、不均一となる傾向が見られた。
【0020】
この理由は定かではないが、結晶粒の方位差角が15°から45°の範囲の粒界は一般に高エネルギー粒界と呼ばれ、活性度が高いと考えられている。また、酸素の拡散は鋼中よりも粒界の方が容易であることから、酸化過程において高エネルギー粒界の多い鋼板では、酸化が結晶粒表面ではなく粒界主体となり、表面酸化層が十分に形成されないため、サブスケールの均一性が低くなるものと推定される。
従って、隣接する結晶粒の方位差角が15°以上、45°未満である粒界の割合が少ないほど、均一なサブスケールが得られると考えられる。
【0021】
次に、先の脱炭焼鈍板にMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、 850℃, 50時間の2次再結晶焼鈍と、引き続く水素雰囲気中での1200℃, 5時間の純化焼鈍を施して、フォルステライト質被膜を形成し、その均一性と被膜密着性について調べた結果を、表1に示す。
なお、被膜密着性は、鋼板を所定の直径の丸棒に巻き付け、被膜が剥離しない最小径で評価した。この剥離径が小さいほど密着性は良好といえる。
【0022】
【表1】
【0023】
同表に示したように、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合が40%以上の場合、光沢のある美麗な灰色の均一なフォルステライト質被膜が得られた。
これに対し、上記のような粒界の割合が40%未満の場合には、光沢が少なく、全体にムラの多い均一性に欠ける被膜となり、密着性にも劣っていた。
【0024】
次に、同じ脱炭焼鈍板に、MgO中に塩化タリウム:1.0 mass%を添加した焼鈍分離剤を塗布し、Ar雰囲気中にて 900℃まで3時間で(昇温速度:30℃/h)昇温し、その後H2中で1200℃まで10℃/hで昇温し、1200℃で6時間焼鈍する、純化焼鈍を兼ねた2次再結晶焼鈍を施したのち、放冷して、フォルステライト質被膜のない鏡面方向性電磁鋼板を作製した。
表2に、1次再結晶焼鈍板において、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合と得られた鏡面電磁鋼板の表面状態、周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.7 Tにおけるヒステリシス損Wh との関係について調べた結果を示す。
【0025】
【表2】
【0026】
同表に示したとおり、被膜のない方向性電磁鋼板の場合にも、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合が多いほど、安定して表面全体が鏡面となった。また、ヒステリシス損Wh も低くなることから、磁気的平滑性も同時に達成されていると考えられる。
この点、前述の高エネルギー粒界に沿った粒界酸化は、均一な表面酸化被膜の形成だけでなく、被膜を意図的に形成させない鏡面電磁鋼板の表面均一化にも有害であると推定される。
従って、上記したような1次再結晶集合組織は、被膜のない方向性電磁鋼板にも有効である。
【0027】
このように、さらなる鏡面化処理として化学研磨や電解研磨を施して、一層のヒステリシス損低減を意図する場合にも、上記の好適条件では高エネルギー粒界が少ないために、粒界に沿った酸化物が鋼板内部の深い位置まで成長するのを効果的に抑制することができ、その結果、表面研磨量を最小限に抑えることが可能という、望外の成果が得られた。
【0028】
次に、C:0.06mass%, Si:3.3 mass%, Mn:0.12mass%, S:0.006 mass%, Sn:0.04mass%, Al:0.03mass%およびN:70 ppmを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなるスラブを、2.0mm に熱間圧延し、1120℃, 2分間の熱延板焼鈍後、酸洗し、ついで冷間圧延を施して板厚:0.22mmの鋼板としたのち、湿水素雰囲気中にて 820℃, 2分間の脱炭焼鈍を行った。ついで、炉温:750 ℃で(N2+H2+HN3)雰囲気中の露点を制御し、増窒素量が 220 ppmとなるような窒化処理を施した。
その後、焼鈍分離剤として、MgO中にTiO2:5mass%, Na2B4O7 :0.4 mass%を含有させた分離剤スラリーを、塗布・乾燥後、(25vol%N2+75vol%H2)混合ガス中で1200℃まで15℃/hの速度で昇温し、ついで100%H2雰囲気中にて1200℃, 20時間保定したのち、冷却する、最終仕上げ焼鈍を行った。
かくして得られたフォルステライト質被膜の外観と被膜密着性について調査した結果を表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
同表に示したとおり、脱炭焼鈍後、仕上げ焼鈍を行うまでの間に窒化処理を施す場合でも、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合を40%以上とすることによって、被膜外観および密着性が向上することが分かる。
高エネルギー粒界での粒界酸化による表面酸化の不均一は、鋼中の増窒素のための窒化処理にも何らかの影響を及ぼし、最終的にフォルステライト質被膜の形成にも悪影響を及ばすと推定される。よって、増窒素処理を含む方向性電磁鋼板における良好な被膜形成に対しても、この発明は有効である。
【0031】
この発明に従い、1次再結晶焼鈍板の集合組織において、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合を高める手段としては、出鋼時のインヒビター成分の調整、熱延温度や熱延板仕上げ厚みなどの熱間圧延条件や熱延板焼鈍条件、冷間圧延を2回以上行う場合には圧下率の組合せ、脱炭焼鈍中の昇温速度やヒートパターン条件等々、非常に多様多種であり、統一的に規定することはできないが、手段の如何にかかわらず上記したように粒界の割合を40%以上にすることで、フォルステライト質被膜の外観、密着性等の被膜特性を改善することができる。さらには、仕上げ焼鈍中に形成されるフォルステライト質被膜を通じて多大な影響を受ける2次再結晶組織自身も改善し、それを反映した磁気特性も向上させることができる。
【0032】
また、脱炭を兼ねた1次再結晶焼鈍時に形成される表面酸化物層の酸化量については、単位面積当たりの酸素量で0.4 g/m2以上、2.4 g/m2以下程度とすることが好ましい。というのは、0.4 g/m2未満では、フォルステライト質被膜の原料物質として不十分であり、また最終仕上げ焼鈍時の雰囲気ガスに対する表面保護性も不足するため、インヒビターの酸化や分解挙動に悪影響を及ぼし、磁気特性の劣化を招く。逆に2.4 g/m2を超えた場合には、最終仕上げ焼鈍中にフォルステライト質被膜が厚くなりすぎてしまい、密着性の低下や被膜自身の剥落を招く。
【0033】
次に、この発明における素材の好適成分組成について説明する。
この発明で使用される素材の成分としては、Siを 1.5〜7.0 mass%の範囲で含有させる必要がある。すなわち、Siは、製品の電気抵抗を高め鉄損を低減するのに有効な成分であるが、7.0 mass%を超えると硬度が高くなって製造や加工が困難となりがちとなり、一方1.5 mass%未満では最終仕上げ焼鈍中に変態を生じて安定した2次再結晶組織が得られない。
【0034】
また、インヒビター元素としてAlを初期鋼中に0.006 mass%以上含有させることによって、結晶配向性をより一層向上させることができる。上限は0.06mass%で、これを超えると再び結晶配向の劣化が生じる。Nも同様の効果があり、上限はふくれ欠陥の発生から100ppm、下限は20ppm以下まで工業的に低下させるのは経済的に困難であるので、20ppm超とした。
さらに、この発明では、1次再結晶焼鈍後に増窒素処理を行う工程も適合する。かような増量化処理を行わない場合には、初期鋼中に(Se+S)で0.01mass%以上、0.06mass%以下を含有させることが重要であり、加えてMn化合物として析出させるために0.02〜0.2 mass%程度のMnを含有させる必要がある。それぞれ少なすぎると2次再結晶を生じさせるための析出物が過少となり、また多すぎると熱延前の固溶が困難となる。なお、増窒化処理を行わない場合には必ずしもMnは必要ではないが、鋼の延性改善などの目的で適宜添加可能である。
【0035】
上記の元素の他に、方向性電磁鋼板の製造に適するインヒビター成分として、B, Bi, Sb, Mo, Te, Sn, P, Ge, As, Nb, Cr, Ti, Cu, Pb, ZnおよびInなどが知られていて、これらの元素を単独、または複合で含有させることができる。
また、C,S,Nなどは磁気特性上有害な作用があり、特に鉄損を劣化させるので、製品板では、それぞれC:0.003 mass%以下、S:0.002 mass%以下、N:0.002 mass%以下まで低減させることが好ましい。
【0036】
次に、この発明の電磁鋼板の製造工程について説明する。
所定の成分組成に調整された鋼スラブは、通常スラブ加熱に供されたのち、熱間圧延により熱延コイルとされるが、このスラブ加熱温度については1300℃以上の高温度とする場合と1250℃以下の低温度とする場合のいずれでも良い。また、近年、スラブ加熱を行わず、連続鋳造後、直接熱間圧延を行う方法が開発されているが、この方法で熱間圧延される場合でも本法は適用できる。
【0037】
熱間圧延後の鋼板は、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、1回の冷延もしくは中間焼鈍を挟む複数回の圧延によって最終冷延板とされる。これらの圧延については、動的時効を狙ったいわゆる温間圧延や静的時効を狙ったパス間時効を施すものであっても良い。
【0038】
最終冷延後の鋼板は、脱炭焼鈍を兼ねた1次再結晶焼鈍を施されるが、この発明では、これまで説明してきたとおり、この1次再結晶焼鈍後の鋼板表層の集合組織について、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界が全体の40%以上となるような集合組織とすることが重要である。
【0039】
かかる1次再結晶焼鈍後、最終仕上げ焼鈍により2次再結晶処理が施される。最終仕上げ焼鈍を行う場合には、通常1次再結晶焼鈍後に焼鈍分離剤を塗布し、これにより酸化物被膜を形成させるが、この焼鈍分離剤の組成を調整して、鋼板表面における酸化物被膜の生成を抑制することもできる。
【0040】
このようにして得られた鋼板表面に、さらに絶縁コーティングを被覆して製品とするが、絶縁コーティングとしては、張力付与効果を有している方が鉄損値低減により有効であり、絶縁性を有するものであれば一般的なコーティングで構わない。
張力コーティングの種類としては、従来からフォルステライト被膜を有する方向性電磁鋼板に用いられているリン酸塩−コロイダルシリカ−クロム酸系のコーティング等が、その効果およびコスト、均一処理性などの点から好適である。コーティングの厚みとしては、張力付与効果や占積率、被膜密着性等の点から0.3〜10μm 程度とするのがが好ましい。
【0041】
一方、意図的に被膜を形成させない鏡面仕上げの方向性電磁鋼板の場合には、1)Cu, Ni, Cr等の金属めっき後に張力コーティングを塗布、2)Al2O3, TiN, SiC等の酸化物、窒化物、炭化物などのセラミックス被膜のドライプレーティング、3)リン酸−コロイダルシリカ−クロム系のコーティング、4)ゾル−ゲル法で形成されるホウ酸−アルミナなどの無機被膜、5)これらの被膜を多層構造にしたもの等が挙げられる。
【0042】
このようにして得られた鋼板に、さらなる鉄損低減を目的としてレーザーあるいはプラズマ炎等を照射して、磁区の細分化を行っても絶縁コーティングの密着性には何ら問題はない。また、この発明の方向性電磁鋼板の製造工程の任意の段階で磁区細分化のため、表面にエッチングや歯形ロールで一定間隔の溝を形成することも、一層の鉄損低減を図る手段として有効である。
【0043】
【実施例】
実施例1
C:0.05mass%, Si:3.2 mass%, Mn:0.06mass%, S:0.03mass%, Se:0.001 mass%, Al:0.02mass%, N:80 ppmおよびCu:0.2 mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなるスラブを、1370℃に加熱したのち、熱間圧延を施した。
ついで、この鋼板を2分割し、グループ1については、熱延後の板厚を 1.8〜3.5 mmの範囲で変更し、その後中間焼鈍を含む2回の冷間圧延により最終板厚:0.22mmに仕上げた。その際、2回の冷間圧延の圧下率の組み合わせを種々に変化させた。
一方、グループ2については、熱延後の板厚を 2.0mmとして、熱延板焼鈍温度を 850〜1150℃の間で変更し、さらに2回冷延に挟まれる中間焼鈍の温度を 900〜1200℃の範囲で変化させた。最終仕上げ板厚は0.22mmとした。
【0044】
その後、両者とも(H2−N2−H2O)雰囲気中にて 850℃, 2分間の脱炭を兼ねた1次再結晶焼鈍を施した。ついで、MgO主体(TiO2:3mass%を含む)の焼鈍分離剤を塗布してから、H2雰囲気中で1200℃, 10時間の2次再結晶、純化焼鈍に供した。その後、燐酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とするコーティングを施した。
かくして得られた製品板について、 1.7T、50Hzにおける鉄損値W17/50値、磁界:800A/mにおける磁束密度B8値ならびに被膜の曲げ密着性および被膜外観について調査した。
得られた結果を、1次再結晶焼鈍板において隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合と共に、表4,5に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
表4,5から明らかなように、1次再結晶焼鈍板全体に占める、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合が40%に満たないNo.4, 5, 9, 10はいずれも、良好な被膜外観および被膜密着性が得られなかった。これに対し、好適な粒界の割合が40%以上であるNo.1〜3, 6〜8 はいずれも、被膜外観および被膜密着性ともに優れ、磁気特性も良好であった。
【0048】
実施例2
C:0.06mass%, Si:3.2 mass%, Mn:0.06mass%, Sb:0.10mass%, Bi:0.0005mass%を含み、かつAlとNをそれぞれAl:0.01〜0.03mass%、N:30〜120 ppm の範囲で変更しつつ含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなるスラブを、1150℃に加熱後、熱間圧延により2.0 mm厚の熱延板とし、ついで熱延板焼鈍後、冷間圧延により最終板厚:0.22mmに仕上げた。
その後、(H2−N2−H2O)雰囲気中にて 830℃, 2分間の脱炭を兼ねた1次再結晶焼鈍を施した。ついで、MgO主体(塩化鉛:1.5 mass%を含む)の焼鈍分離剤を塗布し、Ar雰囲気で 900℃まで30℃/hの速度で昇温し、その後H2雰囲気中にて1200℃まで10℃/hの速度で昇温し、5時間の純化を兼ねた2次再結晶焼鈍を行い、フォルステライト質被膜のない鏡面方向性電磁鋼板を得た。
かくして得られた製品板について、 1.7T、50Hzにおける鉄損値W17/50値、磁界:800A/mにおける磁束密度B8 値ならびに酸素目付量および被膜外観について調査した。
得られた結果を、1次再結晶焼鈍板において隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合と共に、表6に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
同表から明らかなように、1次再結晶焼鈍板全体に占める、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の割合が40%に満たないNo.4, 5は、表面全体が鏡面とはならず、表面に少量の酸化物が残留した。
これに対し、好適な粒界の割合が40%以上であるNo.1〜3はいずれも、全面が美麗な鏡面となり、磁気特性も良好であった。
【0051】
【発明の効果】
かくして、この発明に従い、1次再結晶焼鈍板の集合組織、とくに特定の方位差角を有する粒界の割合を所定の範囲に制御することによって、被膜特性に優れかつ磁気特性も良好な方向性電磁鋼板を安定して得ることができ、その産業上のメリットは極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 1次再結晶焼鈍板において、隣接する結晶粒同士の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界の粒界全体に占める割合と酸洗減量値との関係を示した図である。
Claims (2)
- Si:1.5〜7.0mass%を含有し、かつインヒビター元素としてAl:0.006mass%以上 0.06mass%以下、N:20ppm超 100ppm以下を含有する珪素鋼素材を、熱間圧延および冷間圧延によって最終板厚としたのち、脱炭を兼ねた1次再結晶焼鈍を施し、ついで焼鈍分離剤を塗布してから仕上げ焼鈍を行う一連の工程によって方向性電磁鋼板を製造するに際し、
1次再結晶焼鈍後の鋼板表層の集合組織について、隣接する結晶粒の方位差角が15°未満または45°以上となる粒界が全体の40%以上となるように、素材中のAlおよびN添加量、冷間圧延を2回以上行う場合は各圧延の圧下率の組み合わせ、熱延板焼鈍温度および中間焼鈍温度の条件を定め、その条件で製造することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 脱炭を兼ねた1次再結晶焼鈍で形成される表面酸化物層の単位面積当たりの酸素量を、0.4 g/m2以上、2.4 g/m2以下の範囲に制御することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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