JP4304977B2 - ベアリング構成部品の製造方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、転動体とこれを転動させる軌道溝が形成された二つの部材とを備えたベアリング(例えば、転がり軸受、リニアガイド装置やボールねじ装置等の直動案内装置)に関する。
【0002】
【従来の技術】
転がり軸受や直動案内装置(以下「転がり軸受等」と称する。)は、互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材(内輪および外輪、レールおよびスライダ、ねじ軸およびナット)と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するように構成されている。このような転がり軸受等において、転動体と両部材の軌道溝との転がり接触面には、高い面圧がかかるとともに高速滑りが発生するため、弾性流体潤滑(転がり接触面に弾性流体潤滑による油膜を生じさせること)により、転がり接触面に摩耗や焼き付きが生じることを防止している。
【0003】
そして、従来より、転がり軸受等の耐摩耗性および耐焼き付き性をさらに向上させるための提案がなされている。
例えば下記の特許文献1には、転がり軸受等の転動体の転動面あるいは第1および第2部材の軌道溝に、0.05〜0.5μmの厚さで潤滑性の化学反応膜層を設けることが開示されている。ここでは、金属製の転動体あるいは第1および第2部材を処理液に浸漬して所定温度で所定時間保持することにより、処理液に含まれている化合物(例えば、有機リン化合物や有機硫黄化合物)と転動体あるいは第1および第2部材をなす金属とを反応させて、転動体の転動面あるいは第1および第2部材の軌道溝に化学反応膜層を形成している。
【0004】
下記の特許文献2には、転がり軸受の金属製摩擦面に、前記金属とリン酸エステルとの化学反応によるリン酸金属塩被膜を形成する方法が開示されている。この文献には、前記被膜は分子膜の厚さと同程度の厚さで形成されると記載されている。また、この文献の技術は、ミニアチュア軸受(軸受外径が9mm以下の転がり軸受)や小径軸受(軸受内径が10mm未満の転がり軸受)等を対象としている。ミニアチュア軸受や小径軸受は、ハードディスクドライブ(HDD)、ビデオテープレコーダ(VTR)、ディジタルオーディオテープ(DAT)、レーザービームプリンタ(LBP)等のように、高精度且つ低騒音を要求される回転支持に使用されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平2−256920号公報(特許第2969700号)
【特許文献2】
特開平11−037165号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術を、ミニアチュア軸受や小径軸受等のように、表面粗さを0.01μm以下とする用途に適用すると、要求される回転精度や音響特性を満足させることが困難になる。これは、表面粗さが0.01μm以下に調整された後の軌道溝等に、この表面粗さよりも大きな寸法(厚さ0.05〜0.5μm)の化学反応膜層を形成することによって、軌道溝等の表面粗さが大きくなるためである。
【0007】
また、上記特許文献2に開示された技術は、前述のように、ミニアチュア軸受や小径軸受等を対象としたものであるが、分子膜の厚さ(数nm)程度のリン酸金属塩被膜で十分な潤滑性能の改善効果を得ることは困難である。
本発明は、このような従来技術の課題に着目してなされたものであり、ミニアチュア軸受や小径軸受等の小型の転がり軸受等であっても、十分な潤滑性能(耐摩耗性および耐焼き付き性)の向上効果が得られ、しかも要求される回転精度や音響特性を満足させることができる技術を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するベアリングにおいて、第1部材の軌道溝、第2部材の軌道溝、および転動体の転動面のうちの少なくとも一つは、硫黄(S)を含む組成の酸化膜を表面に有し、この酸化膜の硫黄含有率〔S1 〕は当該軌道溝または転動面を形成する材料の硫黄含有率〔S0 〕よりも高いことを特徴とするベアリングを提供する。
【0009】
本発明のベアリングにおいては、第1部材、第2部材、および転動体のうちの少なくとも一つが、当該軌道溝または転動面に、硫黄(S)を含み且つその硫黄含有率〔S1 〕が当該軌道溝または転動面をなす材料の硫黄含有率〔S0 〕よりも高い酸化膜を有するため、これを満たさない組成の酸化膜(単なる表面酸化膜)を有する場合よりも高い潤滑性能が得られる。
【0010】
本発明のベアリングとしては、前記酸化膜の硫黄含有率〔S1 〕は膜厚方向で変化し、表面からの深さが10nm以下の範囲で極大値〔S1 MAX となるものが挙げられる。
本発明のベアリングとしては、前記酸化膜の硫黄含有率〔S1 〕は膜厚方向で変化し、表面からの深さが1.5nm以上7.5nm以下の範囲で極大値〔S1 MAX となるものが挙げられる。
【0011】
本発明のベアリングとしては、前記軌道溝または転動面を形成する材料の硫黄含有率〔S0 〕に対する前記極大値〔S1 MAX の比は1.5以上10以下であるものが挙げられる。
本発明はまた、互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するベアリングを構成する、前記第1部材、第2部材、または転動体を製造するベアリング構成部品の製造方法において、第1部材の軌道溝、第2部材の軌道溝、または転動体の転動面に対して、硫黄化合物を含有する加工油を用いて超仕上げ加工を行う工程を有し、この工程で、当該軌道溝または転動面をなす材料と硫黄化合物とを反応させて、硫黄(S)を含む組成の酸化膜を、当該軌道溝または転動面に形成することを特徴とするベアリング構成部品の製造方法を提供する。
【0012】
この方法では、超仕上げ加工時に前記軌道溝または転動面をなす材料と硫黄化合物とが反応して、当該軌道溝または転動面の表面酸化膜(大気中の酸素で酸化されて生じた酸化膜)に対して硫黄が導入されるため、前記軌道溝または転動面に、硫黄(S)を含み且つその硫黄含有率〔S1 〕が当該軌道溝または転動面をなす材料の硫黄含有率〔S0 〕よりも高い酸化膜が形成される。したがって、この方法により、本発明のベアリングを構成する、特定の酸化膜を軌道溝および転動面に有するベアリング構成部品(第1部材、第2部材、転動体)が得られる。
【0013】
また、この方法によれば、前記酸化膜(硫黄含有率〔S1 〕が〔S0 〕よりも高い酸化膜)の形成を、表面粗さを調整する工程である超仕上げ加工と同時に行うため、例えば表面粗さが0.01μm以下となるまで超仕上げ加工を行うことによって、前記軌道溝または転動面に前記酸化膜が形成され且つその表面粗さが0.01μm以下に調整される。すなわち、表面粗さの調整と潤滑特性向上のための処理が一度に行えるため、表面粗さの調整を行った後に潤滑特性向上のための処理を行う方法のように、潤滑特性向上のための処理を行うことで寸法精度や面精度が変化するということがない。
【0014】
超仕上げ加工の加工油としては、一般に石油系溶剤に精製鉱油を混合したものが使用されているが、本発明の方法ではこれに硫黄化合物を添加したものを用いる。使用する硫黄化合物は、当該軌道溝または転動面をなす材料と化学反応して表面酸化膜中に硫黄を導入できるものであれば、有機硫黄化合物および無機硫黄化合物のいずれであってもよい。
【0015】
使用可能な硫黄化合物としては、硫化油脂類、硫化オレフィン類、メルカプタン類、サルファイド類、スルホキシド類、スルホン類、金属ジヒドロカルビルジチオフォスフェート類、および金属ジヒドロカルビルジチオカーバメート類が挙げられる。これ以外に、公知のリン系極圧剤、酸化防止剤、清浄分散剤が添加されたものを使用しても良い。
【0016】
硫化油脂類としては硫化鯨油が挙げられる。
硫化オレフィン類としては、炭素数が2〜8である硫化オレフィン、炭素数が2〜8である硫化オレフィンを重合させて得られる低分子量硫化ポリオレフィンが挙げられる。これらのうち、硫化ペンテン、硫化ブチレン、硫化オクテン等を使用することが好ましい。
【0017】
メルカプタン類としては、炭素数が4〜20であるアルキルメルカプタン及びメルカプト脂肪酸エステルが挙げられる。これらのうち、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、第三ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、第三ノニルメルカプタン、第三ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸ブチル、チオロピオン酸エチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等を使用することが好ましい。
【0018】
サルファイド類としては、炭素数が4〜18である炭化水素類(例えば、アルキル、フェニル、ベンジル、シンナミル、アリル)のモノサルファイド(−S−)、ジサルファイド(−S−S−)、およびポリサルファイド(−S−S−S−)が挙げられる。これらのうち、ジブチルモノサルファイド、ジブチルジサルファイド、ジフェニルサルファイド、ジベンジルサルファイド(二硫化ジベンジル)等を使用することが好ましい。
【0019】
スルホキシド類としては、炭素数が4〜20である炭化水素類(例えば、アルキル、フェニル、ベンジル、シンナミル、アリル)のスルホキシドが挙げられる。これらのうち、ジブチルスルホキシド、ジベンジルスルホキシド等を使用することが好ましい。
スルホン類としては、炭素数が4〜20である炭化水素類(例えば、アルキル、フェニル、ベンジル、シンナミル、アリル)のスルホンが挙げられる。これらのうち、ジブチルスルホン、ジドデシルスルホン、フェニルスルホン等を使用することが好ましい。
【0020】
金属ジヒドロカルビルジチオフォスフェート類としては、各ヒドロカルビル基の炭素数が4〜20であるものが挙げられる。これらのうち、Znジメチルジチオフォスフェート、Znブチルイソオクチルジチオフォスフェート、Znジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオフォスフェート、Znジ(テトラプロペニルフェニル)ジチオフォスフェート、Zn(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオフォスフェート、Zn(イソオクチル)ジチオフォスフェート、Zn(エチルフェニル)ジチオフォスフェート、Zn(アミル)ジチオフォスフェート、Znジ(ヘキシル)ジチオフォスフェート、および上記各物質の金属が亜鉛(Zn)に代えて鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、またはモリブデン(Mo)であるもの等を使用することが好ましい。
【0021】
金属ジヒドロカルビルジチオカーバメート類としては、各ヒドロカルビル基の炭素数が4〜20であるものが挙げられる。これらのうち、Znジメチルジチオカーバメート、Znブチルイソオクチルジチオカーバメート、Znジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオカーバメート、Znジ(テトラプロペニルフェニル)ジチオカーバメート、Zn(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオカーバメート、Zn(イソオクチル)ジチオカーバメート、Zn(エチルフェニル)ジチオカーバメート、Zn(アミル)ジチオカーバメート、Znジ(ヘキシル)ジチオカーバメート、および上記各物質の金属が亜鉛(Zn)に代えて鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、またはモリブデン(Mo)であるもの等を使用することが好ましい。
【0022】
本発明はまた、互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するベアリングにおいて、第1部材の軌道溝、第2部材の軌道溝、および転動体の転動面のうちの少なくとも一つは、モリブデン(Mo)を含む組成の酸化膜からなる表面層を有し、この表面層のモリブデン含有率〔Mo1 〕は当該軌道溝または転動面を形成する材料のモリブデン含有率〔Mo0 〕よりも高いことを特徴とするベアリングを提供する。
【0023】
図1および2は、このベアリングを構成する第1部材または第2部材の軌道溝あるいは転動体の転動面を説明するための断面図である。これらの図に示すように、前記表面層(モリブデン含有率が〔Mo0 〕よりも高い酸化膜:高モリブデン層)は、▲1▼軌道溝または転動面に形成された表面酸化膜全体からなる場合(図1の構造)と、▲2▼前記表面酸化膜の表層部からなる場合(図2の構造)がある。
【0024】
▲1▼の場合には、図1に示すように、前記軌道溝あるいは転動面の表面に酸化膜100が形成され、この酸化膜100のモリブデン含有率〔Mo1 〕は、酸化膜100の直下の部分101をなす材料(当該軌道溝または転動面を形成する材料)のモリブデン含有率〔Mo0 〕よりも高い。
▲2▼の場合には、図2に示すように、前記軌道溝あるいは転動面の表面酸化膜200が表層部200aと内層部200bに分けられ、表層部(表面層)200aのモリブデン含有率〔Mo1 〕は、表面酸化膜200の直下の部分201のモリブデン含有率〔Mo0 〕よりも高い。内層部200bのモリブデン含有率は、表面酸化膜200の直下の部分201のモリブデン含有率〔Mo0 〕とほぼ同じである。
【0025】
このベアリングにおいては、第1部材、第2部材、および転動体のうちの少なくとも一つが、当該軌道溝または転動面に前記表面層(高モリブデン層)を有することにより、このような高モリブデン層を有さない場合よりも高い潤滑性能が得られる。
前記表面層は、例えば、当該軌道溝または転動面の表面酸化膜に対して表面加工時にモリブデンを導入することにより形成することができる。
【0026】
前記表面層のモリブデン含有率〔Mo1 〕は膜厚方向で変化し、前記軌道溝または転動面を形成する材料のモリブデン含有率〔Mo0 〕に対する前記表面層のモリブデン含有率の極大値〔Mo1 MAX の比は3以上6以下であることが好ましい。
前記表面層の厚さは2.5nm以上7.5nm以下であることが好ましい。
【0027】
本発明はまた、互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するベアリングを構成する、前記第1部材、第2部材、または転動体を製造するベアリング構成部品の製造方法において、第1部材の軌道溝、第2部材の軌道溝、または転動体の転動面に対して、モリブデン化合物を含有する加工油を用いて超仕上げ加工を行う工程を有し、この工程で、当該軌道溝または転動面をなす材料とモリブデン化合物とを反応させて、モリブデン(Mo)を含む組成の酸化膜を、当該軌道溝または転動面に形成することを特徴とするベアリング構成部品の製造方法を提供する。
【0028】
この方法では、超仕上げ加工時に前記軌道溝または転動面をなす材料とモリブデン化合物とが反応して、当該軌道溝または転動面に予め存在していた表面酸化膜(大気中の酸素で酸化されて生じた酸化膜)に対してモリブデンが導入されるため、前記軌道溝または転動面に、モリブデン(Mo)を含み且つそのモリブデン含有率〔Mo1 〕が当該軌道溝または転動面をなす材料のモリブデン含有率〔Mo0 〕よりも高い表面層(高モリブデン層)が形成される。
【0029】
したがって、この方法により、本発明のベアリングを構成する、特定の酸化膜(高モリブデン層のみからなる図1に示す構造か、高モリブデン層の下にモリブデン含有率が〔Mo0 〕とほぼ同じ酸化膜を有する図2に示す構造の酸化膜)を軌道溝および転動面に有するベアリング構成部品(第1部材、第2部材、転動体)が得られる。
【0030】
また、この方法によれば、前記高モリブデン層(モリブデン含有率〔Mo1 〕が〔Mo0 〕よりも高い酸化膜)の形成を、表面粗さを調整する工程である超仕上げ加工と同時に行うため、例えば表面粗さが0.01μm以下となるまで超仕上げ加工を行うことによって、前記軌道溝または転動面に前記酸化膜が形成され且つその表面粗さが0.01μm以下に調整される。すなわち、表面粗さの調整と潤滑特性向上のための処理が一度に行えるため、表面粗さの調整を行った後に潤滑特性向上のための処理を行う方法のように、潤滑特性向上のための処理を行うことで寸法精度や面精度が変化するということがない。
【0031】
超仕上げ加工の加工油としては、一般に石油系溶剤に精製鉱油を混合したものが使用されているが、本発明の方法ではこれにモリブデン化合物を添加したものを用いる。使用するモリブデン化合物は、当該軌道溝または転動面をなす材料と化学反応して表面酸化膜中にモリブデンを導入できるものであれば、有機モリブデン化合物および無機モリブデン化合物のいずれであってもよい。
【0032】
使用可能なモリブデン化合物としては、モリブデンジヒドロカルビルジチオフォスフェート類およびモリブデンジヒドロカルビルジチオカーバメート類が挙げられる。なお、モリブデン化合物以外に、公知のリン系極圧剤、酸化防止剤、清浄分散剤が添加された加工油を使用しても良い。
モリブデン(Mo)ジヒドロカルビルジチオフォスフェート類としては、各ヒドロカルビル基の炭素数が4〜20であるものが挙げられる。これらのうち、Moジメチルジチオフォスフェート、Moブチルイソオクチルジチオフォスフェート、Moジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオフォスフェート、Moジ(テトラプロペニルフェニル)ジチオフォスフェート、Mo(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオフォスフェート、Moジ(イソオクチル)ジチオフォスフェート、Mo(エチルフェニル)ジチオフォスフェート、Moジ(アミル)ジチオフォスフェート、Moジ(ヘキシル)ジチオフォスフェート等を使用することが好ましい。
【0033】
モリブデン(Mo)ジヒドロカルビルジチオカーバメート類としては、各ヒドロカルビル基の炭素数が4〜20であるものが挙げられる。これらのうち、Moジメチルジチオカーバメート、Moブチルイソオクチルジチオカーバメート、Moジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオカーバメート、Moジ(テトラプロペニルフェニル)ジチオカーバメート、Mo(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオカーバメート、Moジ(イソオクチル)ジチオカーバメート、Mo(エチルフェニル)ジチオカーバメート、Moジ(アミル)ジチオカーバメート、Moジ(ヘキシル)ジチオカーバメート等を使用することが好ましい。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
図3は、本発明に係るベアリングの一実施形態に相当する転がり軸受を示す断面図である。
【0035】
この転がり軸受1は、JIS呼び番号695(内径5mm,外径13mm,幅4mm)の単列深みぞ玉軸受であり、内輪(第1部材または第2部材)2、外輪(第2部材または第1部材)3、玉(転動体)4と、ポリアミド樹脂製の冠形保持器5と、図示しない非接触ゴムシール(V形)とから構成されている。内輪2の外周面には軌道溝2aが、外輪の内周面には軌道溝3aがそれぞれ形成されている。これらの軌道溝2a,3aが対向配置され、その間に7個の玉4が転動自在に配設されている。玉4の直径は2mmである。
【0036】
内輪2、外輪3、および玉4は、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)からなる素材を切削加工により所定形状とした後に、通常の熱処理を行い、最終仕上げ工程として、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aに対して超仕上げ加工を行い、玉4の表面(転動面)に対してラップ仕上げを行った。
また、内輪2と外輪3と前記非接触ゴムシールとにより囲まれる空間には、グリースが充填されている。このグリースは、エステル油系の基油とリチウム12−ヒドロキシステアレート(増ちょう剤)とからなるもので、そのちょう度は「JIS K2220」のNo. 3に相当する。グリースの添加量は、前記空間に対する占有容積率が15%となる量とした。
【0037】
内輪2の軌道溝2aに対する超仕上げ加工は、図4に示す超仕上げ加工装置を用いて行った。この超仕上げ加工装置は、内輪2を支持して回転させる回転支持装置21と、回転支持装置21に取り付けられた内輪2の軌道溝2aを研磨する砥石装置22とで構成されている。
回転支持装置21は、ワーク主軸装置10と、バッキングプレート14と、プレッシャプレート15と、シュー16とで構成されている。バッキングプレート14はワーク主軸装置10に固定され、プレッシャプレート15は、ワーク主軸装置10と対向配置された回転部材11に固定されている。ワークである内輪2は、バッキングプレート14とプレッシャプレート15との間に、押し付け状態で挟持される。
【0038】
シュー16は内輪2を径方向で支持するものであり、内輪2の軸を入れる穴に挿入される。シュー16上の内輪2の中心とバッキングプレート14の中心との間に適当な大きさの偏心を持たせてあり、これにより回転中の内輪2が常にシュー16に対して押し付けられた状態となる。
したがって、ワークである内輪2は、ワーク主軸装置10の駆動により、径方向の位置が固定された状態で、バッキングプレート14およびプレッシャプレート15と一体に、主軸の軸線L10まわりに回転する。
【0039】
砥石装置22は、回転支持装置21に取り付けられた内輪2の上側に、この内輪2の軌道溝2aに柱状砥石13の先端が接触するように配置される。この砥石装置22は、図5に示すように、柱状砥石13と、柱状砥石13を保持する砥石ホルダ17と、砥石ホルダ17の基端を内挿するスリーブ18と、柱状砥石13を昇降させる加圧ピストン12と、柱状砥石13を砥石ホルダ17内に保持するOリング19と、柱状砥石13を軸線L13上の点を中心に揺動させる機構(図示しない)とで構成されている。
【0040】
砥石ホルダ17は、柱状砥石13を遊嵌する筒状体であって、長さが柱状砥石13より短い。砥石ホルダ17の長さ方向は二重のフランジ構造となっており、両フランジ(スリーブ18の下端面に付き当てる中間フランジ17aと、先端フランジ17b)の間に、Oリング19を入れる溝17cが設けてある。この溝17cの一部に、砥石ホルダ17の内部と連通する穴を設け、溝17cに嵌めたOリング19の一部を柱状砥石13と接触させている。これにより、Oリング19の適度な張力で、柱状砥石13は砥石ホルダ17内に装着されている。
【0041】
また、スリーブ18内に加圧ピストン12が配設され、この加圧ピストン12に柱状砥石13の基端が固定されている。この加圧ピストン12を空圧付加手段などによって昇降させることにより、柱状砥石13は、Oリング19による適度な押し付け力により、砥石ホルダ17に支持された状態で昇降可能となる。
したがって、この超仕上げ加工装置を使用する際には、回転支持装置21に内輪2を取り付けた後、砥石装置22の柱状砥石13を加圧ピストン12で降下させて、内輪2の幅方向中心線L2aと柱状砥石13の軸線L13とを合わせて(すなわち図6(A)に示す状態となるようにして)、この内輪2の軌道溝2aに押し当る(加圧力Fs)。この状態で、回転支持装置21により内輪2をその軸線を中心に回転させながら、柱状砥石13を所定の振り角θsで揺動させる。
【0042】
揺動の中心Os は、内輪2の幅方向中心線L2a上であって軌道溝2aの断面円弧の中心(O2a)近傍に設定する。揺動の振り角θsは、時計回りの場合に図6(B)となるように設定する。
この超仕上げ加工装置を用い、石油系溶剤に精製鉱油とエステル系油性剤と二硫化ジベンジルを加えた加工油を用いて、内輪2の軌道溝2aを超仕上げ加工した。加工油中の二硫化ジベンジルの含有率は5体積%とした。加工後の内輪2の軌道溝2aについて、玉接触部の真円度を測定した。その結果を図7(A)および図7(B)に示す。この内輪2の軌道溝2aは、最大直径が7.5mmであり、最小直径が7mmであり、幅が1.1mmである。また、軌道溝2aの断面円弧の半径は玉の半径(2mm)と同じである。真円度の測定は、ランクテーラーホブソン社の「タリロンド73」を使用して行った。
【0043】
図7(A)は、内輪2の軌道溝2aの玉接触部全周の表面状態(うねり状態)を拡大して示した図である。図7(B)は、真円度ハーモニクス解析の結果を示す表である。
図7(B)で「UPR」とは1回転当たりの山数(角数)のことであり、この表には、1回転当たりの山数(角数)毎の片振幅がμm単位で表示してある。表の横欄の「N+n(n=0〜4)」に縦欄のNの値を足した値が、表の各位置での「UPR」を示す。
【0044】
したがって、この表から、UPR=1で片振幅0.052μm、UPR=2で片振幅0.013μm、UPR=3で片振幅0.006μm、UPR=4で片振幅0.002μm、UPR=5で片振幅0.002μm、UPR≧6で測定限界(片振幅0.001μm)以下となっていることが分かる。すなわち、UPRが6(玉数−1)以上の全ての角数で、片振幅0.001μm(1nm)以下となっており、前述の方法で内輪2の軌道溝2aを極めて高精度の表面状態に仕上げることができた。
【0045】
また、前述の方法で超仕上げ加工された内輪2の軌道溝2aについて、深さ方向に元素分析を行った。その結果を図8にグラフで示す。このグラフは、オージェ電子強度と深さ(軌道溝の表面からの距離)との関係を示す。
分析にはアルバックファイ株式会社製の走査型オージェ電子分光分析機「SAM650」を用い、分析条件は、電子線の加速電圧:5kV、試料電流:30nA、アルゴンイオン:1kV−25mA(作動圧力15mPa)、アルゴンイオン照射角:30度とした。分析機の較正は酸化タンタルを用いて行った。すなわち、酸化タンタルの標準片を深さ25nmまでスパッタリングすることにより、そのスパッタ率を測定した。この測定値(1.46nm/min)を用いて、スパッタリング時間から深さを換算した。
【0046】
酸素強度は約4分後に略一定(バックグランドレベル:SUJ2の酸素強度)になった。この結果から酸化膜の厚さは約6nmと分かった。また、図8に示すように、酸素強度は表面で最も高く、バックグランドレベルまでは内部に向かうにつれて低下したが、硫黄強度は表面とバックグランドレベルとの間に極大値があった。この極大値は、鉄の強度は、表面から内部に向かうにつれて増加した後に、高い強度で一定になった。
【0047】
ここで、測定される強度は、測定点における深さ(膜厚)方向各位置での各元素含有量に比例する。また、酸化膜およびその下地(SUJ2製の内輪)は同じ深さ位置で均一な組成に形成されている。そのため、この測定で得られる硫黄強度は深さ方向各位置での硫黄含有率に比例する。
この結果から、前述の方法で超仕上げ加工された内輪2の軌道溝2aには、硫黄(S)を含む組成の酸化膜であって、この酸化膜の硫黄含有率〔S1 〕が軌道溝2aをなす材料(SUJ2)の硫黄含有率〔S0 〕(バックグラウンドレベル)よりも高い酸化膜が形成されていることが分かる。また、この酸化膜の硫黄含有率〔S1 〕は膜厚方向で変化し、表面からの深さが1.5nmの位置で極大値〔S1 MAX となっており、SUJ2の硫黄含有率〔S0 〕に対するこの極大値〔S1 MAX の比は約2.5であることが分かる。
【0048】
なお、形成される酸化膜の厚さは加工条件や被加工材の材質によって異なり、前述の方法の場合は例えば4nm以上10nm以下の範囲で変化する。また、酸化膜中の硫黄含有率〔S1 〕や極大値〔S1 MAX となる位置も、加工条件や被加工材の材質によって異なる。
次に、加工油中に硫黄化合物を添加しなかった点以外は全て前述と同じ方法で超仕上げ加工された内輪2の軌道溝2aについて、深さ方向に元素分析を行った結果を図9にグラフで示す。分析条件等は全て前記と同様である。
【0049】
この結果から、この内輪2の軌道溝2aには、硫黄(S)を含む組成の酸化膜が形成されているが、この酸化膜の硫黄含有率〔S1 〕は軌道溝2aをなす材料(SUJ2)の硫黄含有率〔S0 〕(バックグラウンドレベル)と同等程度である。すなわち、この酸化膜は単なる表面酸化膜であって、本発明で特定する「硫黄を含む組成の酸化膜(バックグラウンドレベルより硫黄含有率が高い酸化膜)」とは異なる。
【0050】
外輪3の軌道溝3aに対する超仕上げ加工は、従来より公知の超仕上げ加工装置を用いて行った。この超仕上げ加工装置は、外輪3を支持して回転させる回転支持装置と、回転支持装置に取り付けられた外輪3の軌道溝3aを研磨する砥石装置とで構成されている。
この超仕上げ加工装置を用い、石油系溶剤に精製鉱油とエステル系油性剤と二硫化ジベンジルを加えた加工油を用いて、外輪3の軌道溝3aを超仕上げ加工した。加工油中の二硫化ジベンジルの含有率は5体積%とした。
【0051】
加工後の外輪3の軌道溝3aには、硫黄(S)を含む組成の酸化膜であって、この酸化膜の硫黄含有率〔S1 〕が軌道溝3aをなす材料(SUJ2)の硫黄含有率〔S0 〕よりも高い酸化膜が形成されていた。また、この酸化膜の硫黄含有率〔S1 〕は膜厚方向で変化し、表面からの深さが1.5nmの位置で極大値〔S1 MAX となっており、SUJ2の硫黄含有率〔S0 〕に対するこの極大値〔S1 MAX の比は約2.5であった。また、この外輪3の軌道溝3aの玉接触部の真円度についても、前述の内輪2の軌道溝2aとほぼ同じ結果が得られた。
【0052】
また、加工油中に硫黄化合物を添加しなかった点以外は全て前述と同じ方法で軌道溝3aを超仕上げ加工した外輪3も用意した。これにより、この外輪3の軌道溝3aの玉接触部の真円度は前述の内輪2の軌道溝2aと同じとなり、軌道溝3aには通常の表面酸化膜が形成された。
玉4の表面に対しては、従来より公知のラップ盤を用い、石油系溶剤に精製鉱油とエステル系油性剤を加えた加工油(二硫化ジベンジルは添加しない)を用いて、ラップ仕上げを行った。これにより、玉4の真円度は前述の内輪2の軌道溝2aと同じとなり、玉4の表面には通常の表面酸化膜が形成された。
【0053】
このようにして作製された内輪2、外輪3、玉4を、下記の表1に示す組み合わせで用いて、上記構成の転がり軸受1を組み立てた。
すなわち、No. 1−1では、内輪2および外輪3として、軌道溝2a,3aが二硫化ジベンジルを添加した加工油で超仕上げ加工されて、軌道溝2a,3aにSUJ2より硫黄含有率が大きな酸化膜(〔S1 〕>〔S0 〕の酸化膜)が形成されたものを使用している。
【0054】
No. 1−2では、外輪3として、軌道溝3aに〔S1 〕>〔S0 〕の酸化膜が形成されたものを、内輪2として、軌道溝2aに〔S1 〕=〔S0 〕の酸化膜(通常の表面酸化膜)が形成されたものを使用している。
No. 1−3では、内輪2として、軌道溝2aに〔S1 〕>〔S0 〕の酸化膜が形成されたものを、外輪3として、軌道溝3aに〔S1 〕=〔S0 〕の酸化膜(通常の表面酸化膜)が形成されたものを使用している。
【0055】
No. 1−4では、内輪2および外輪3として、軌道溝2a,3aに〔S1 〕=〔S0 〕の酸化膜(通常の表面酸化膜)が形成されたものを使用している。
なお、玉4としては、全てのサンプルで〔S1 〕=〔S0 〕の酸化膜(通常の表面酸化膜)が形成されたものを使用している。
No. 1−1〜No. 1−4の転がり軸受(各1000個)について、以下の方法で音響特性を調べる試験を行った。すなわち、アンデロメータを用い、潤滑剤を封入した直後と5000時間回転後に、音響特性を示す量(アンデロン値)を測定した。測定条件は以下の通りである。
<試験条件>
回転速度:4,800min-1(内輪回転)
アキシャル荷重:20N
雰囲気温度:70℃
得られた結果より、潤滑剤を封入した直後のアンデロン値について、No. 1−4に対するNo. 1−1〜No. 1−3の相対値を算出した。
【0056】
また、各サンプルについて、潤滑剤を封入した直後のアンデロン値(初期音響)に対する、5000時間回転後のアンデロン値の上昇値を算出し、この上昇値が1.0を超えたサンプルを不合格とした。そして、同じ構成のサンプル1000個における不合格サンプルの割合を不合格率(%)として算出した。次に、No. 1−1〜No. 1−3の不合格率をNo. 1−4の不合格率で除算して、No. 1−4の不合格率を「1」としたNo. 1−1〜No. 1−3の不合格率の相対値を算出した。
これらの結果も下記の表1に併せて示す。
【0057】
【表1】
Figure 0004304977
【0058】
表1の結果から分かるように、本発明の実施例に相当するNo. 1−1〜No. 1−3と比較例に相当するNo. 1−4とを比較すると、初期音響特性にはほとんど差はないが、5000時間回転後の不合格率がNo. 1−1〜No. 1−3でNo. 1−4の1/6〜1/8倍になっている。すなわち、本発明の構成とすることで潤滑特性が向上し、良好な音響特性が長時間保持できたことが分かる。
[第2実施形態]
図3と同じ構造の転がり軸受1として、JIS呼び番号608(内径8mm,外径22mm,幅7mm)の単列深みぞ玉軸受を作製した。玉4の直径は3.97mmである。
【0059】
内輪2、外輪3、および玉4は、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)からなる素材を切削加工により所定形状とした後に、通常の熱処理を行い、最終仕上げ工程として、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aに対しては超仕上げ加工を行い、玉4の表面(転動面)に対してはラップ仕上げを行った。なお、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aの断面円弧の半径を玉4の半径と同じにした。
【0060】
また、内輪2と外輪3と前記非接触ゴムシールとにより囲まれる空間には、グリースを充填した。このグリースは、エステル油系の基油とリチウム12−ヒドロキシステアレート(増ちょう剤)とからなるもので、そのちょう度は「JISK2220」のNo. 3に相当する。グリースの添加量は、前記空間に対する占有容積率が15%となる量とした。
【0061】
内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aに対する超仕上げ加工および玉4の表面に対するラップ仕上げは第1実施形態と同じ方法で行った。ただし、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aの超仕上げ加工で二硫化ジベンジルを含有する加工油を用いて行う際に、二硫化ジベンジルの添加量を0.1体積%〜10体積%の範囲で変化させることにより、酸化膜の硫黄含有率が異なるサンプル(No. 2−2〜2−10)を得た。なお、No. 2−1では、二硫化ジベンジルを添加しない加工油を用いて超仕上げ加工をしている。
【0062】
得られた内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aについて、深さ方向の元素分析を第1実施形態と同じ方法で行い、酸化膜の厚さ、軌道溝2a,3aをなす材料(SUJ2)の硫黄含有率〔S0 〕に対する酸化膜中の硫黄含有率の極大値〔S1 MAX 、および極大値〔S1 MAX となる膜厚方向の位置(表面からの深さ)を調べた。その結果を下記の表2に示す。
【0063】
【表2】
Figure 0004304977
【0064】
このようにして作製された内輪2、外輪3、玉4を用い、酸化膜が同じ構成である内輪および外輪を組み合わせて、上記構成の転がり軸受1を組み立てた。なお、玉4としては、全てのサンプルで〔S1 〕=〔S0 〕の酸化膜(通常の表面酸化膜)が形成されたものを使用している。
No. 2−1〜No. 2−10の転がり軸受(各1000個)について、以下の方法で音響特性を調べる試験を行った。すなわち、アンデロメータを用い、潤滑剤を封入した直後と5000時間回転後に、音響特性を示す量(アンデロン値)を測定した。測定条件は以下の通りである。
<試験条件>
回転速度:1,800min-1(内輪回転)
アキシャル荷重:30N
雰囲気温度:70℃
得られた結果より、潤滑剤を封入した直後のアンデロン値について、No. 2−1に対するNo. 2−2〜No. 2−10の相対値を算出した。
【0065】
また、各サンプルについて、潤滑剤を封入した直後のアンデロン値(初期音響)に対する、5000時間回転後のアンデロン値の上昇値を算出し、この上昇値が1.0を超えたサンプルを不合格とした。そして、同じ構成のサンプル1000個における不合格サンプルの割合を不合格率(%)として算出した。次に、No. 2−2〜No. 2−10の不合格率をNo. 2−1の不合格率で除算して、No. 2−1の不合格率を「1」としたNo. 2−2〜No. 2−10の不合格率の相対値を算出した。
【0066】
これらの結果を、酸化膜の硫黄含有率が極大値〔S1 MAX となる膜厚方向の位置(表面からの深さ)との関係で、図10および図11のグラフに示す。図10は、酸化膜の硫黄含有率が極大値〔S1 MAX となる膜厚方向の位置(表面からの深さ)と、初期音響値(潤滑剤を封入した直後のアンデロン値)の相対値との関係を示すグラフである。図11は、酸化膜の硫黄含有率が極大値〔S1 MAX となる膜厚方向の位置(表面からの深さ)と、不合格率の相対値との関係を示すグラフである。
【0067】
図10および11の結果から分かるように、本発明の実施例に相当するNo. 2−2〜No. 2−10と比較例に相当するNo. 2−1とを比較すると、5000時間回転後の不合格率がNo. 2−2〜No. 2−10でNo. 2−1の2/5以下となっている。すなわち、本発明の構成とすることで潤滑特性が向上し、良好な音響特性が長時間保持できることが分かる。
【0068】
また、〔S1 MAX となる膜厚方向の位置が1.4nm以上10nn以下であるNo. 2−2〜No. 2−7は、不合格率がNo. 2−1の1/5以下となり、且つ初期音響値がNo. 2−1の1.1倍以下となるため好ましい。さらに、〔S1 MAX となる膜厚方向の位置が1.5nm以上7.5nn以下であるNo. 2−3〜No. 2−6は、不合格率がNo. 2−1の1/5以下となり、且つ初期音響値がNo. 2−1の1.05倍以下となるため特に好ましい。
[第3実施形態]
図3は、本発明に係るベアリングの一実施形態に相当する転がり軸受を示す断面図である。
【0069】
この転がり軸受1は、JIS呼び番号695(内径5mm,外径13mm,幅4mm)の単列深みぞ玉軸受であり、内輪(第1部材または第2部材)2、外輪(第2部材または第1部材)3、玉(転動体)4と、ポリアミド樹脂製の冠形保持器5と、図示しない非接触ゴムシール(V形)とから構成されている。内輪2の外周面には軌道溝2aが、外輪の内周面には軌道溝3aがそれぞれ形成されている。これらの軌道溝2a,3aが対向配置され、その間に7個の玉4が転動自在に配設されている。玉4の直径は2mmであり、接触角は17°である。
【0070】
内輪2、外輪3、および玉4は、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)からなる素材を切削加工により所定形状とした後に、通常の熱処理を行い、最終仕上げ工程として、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aに対しては超仕上げ加工を行い、玉4の表面(転動面)に対してはラップ仕上げを行った。なお、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aの断面円弧の半径を玉4の半径と同じにした。
【0071】
また、内輪2と外輪3と前記非接触ゴムシールとにより囲まれる空間には、グリースを充填した。このグリースは、エステル油系の基油とリチウム12−ヒドロキシステアレート(増ちょう剤)とからなるもので、そのちょう度は「JISK2220」のNo. 3に相当する。グリースの添加量は、前記空間に対する占有容積率が15%となる量とした。
【0072】
内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aに対する超仕上げ加工および玉4の表面に対するラップ仕上げは第1実施形態と同じ方法で行った。ただし、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aの超仕上げ加工の際には、石油系溶剤に精製鉱油とエステル系油性剤とモリブデンブチルイソオクチルジチオフォスフェートを加えた加工油を用いて行った。加工油中のモリブデンブチルイソオクチルジチオフォスフェートの含有率は0.5体積%とした。
【0073】
また、前述の方法で超仕上げ加工された内輪2の軌道溝2aについて、深さ方向に元素分析を行った。その結果を図12にグラフで示す。このグラフは、オージェ電子強度と深さ(軌道溝の表面からの距離)との関係を示す。
分析にはアルバックファイ株式会社製の走査型オージェ電子分光分析機「SAM650」を用い、分析条件は、電子線の加速電圧:5kV、試料電流:30nA、アルゴンイオン:1kV−25mA(作動圧力15mPa)、アルゴンイオン照射角:30度とした。分析機の較正は酸化タンタルを用いて行った。すなわち、酸化タンタルの標準片を深さ25nmまでスパッタリングすることにより、そのスパッタ率を測定した。この測定値(1.46nm/min)を用いて、スパッタリング時間から深さを換算した。
【0074】
酸素強度は約4.9分後に略一定(バックグランドレベル:SUJ2の酸素強度)になった。図12に示すように、酸素強度は表面で最も高く、内部に向かうにつれて低下し、表面からの深さが約7.2nmの位置で一定になった。モリブデン強度は、表面近傍(表面からの深さが約0.2nmの位置)で極大値をとった後、内部に向かうにつれて低下したが、酸素強度が一定になる手前(表面からの深さが約5.8nmの位置)で一定になった。鉄の強度は、表面から内部に向かうにつれて増加した後に、高い強度で一定になった。
【0075】
この結果から、前述の方法で超仕上げ加工された内輪2の軌道溝2aの表面酸化膜は、図2に示すように、モリブデン含有率が軌道溝2aをなす材料(SUJ2)のモリブデン含有率〔Mo0 〕(バックグラウンドレベル)と同じである内層部200bと、〔Mo0 〕よりも高いモリブデン含有率〔Mo1 〕の表層部(表面層)200aとからなり、表面酸化膜200全体の厚さが約7.2nmであり、表層部(表面層)200aの厚さが約5.8nmであることが分かる。
【0076】
また、この表面層(酸化膜)のモリブデン含有率〔Mo1 〕は膜厚方向で変化し、表面からの深さが0.2nmの位置で極大値〔Mo1 MAX となっており、SUJ2のモリブデン含有率〔Mo0 〕に対するこの極大値〔Mo1 MAX の比は約6.0であることが分かる。
なお、形成される酸化膜の厚さは加工条件や被加工材の材質によって異なり、前述の方法の場合は例えば2nm以上10nm以下の範囲で変化する。また、酸化膜中のモリブデン含有率〔Mo1 〕や高モリブデン層の厚さも、加工条件や被加工材の材質によって異なる。
【0077】
次に、加工油中にモリブデン化合物を添加しなかった点以外は全て前述と同じ方法で超仕上げ加工された内輪2の軌道溝2aについて、深さ方向に元素分析を行った結果を図13にグラフで示す。分析条件等は全て前記と同様である。
この結果から、この内輪2の軌道溝2aには、モリブデン(Mo)を含む組成の酸化膜が形成されているが、この酸化膜のモリブデン含有率は軌道溝2aをなす材料(SUJ2)のモリブデン含有率〔Mo0 〕(バックグラウンドレベル)と同等程度である。すなわち、この酸化膜は単なる表面酸化膜であって、本発明で特定する「モリブデンを含む組成の表面層(バックグラウンドレベルよりモリブデン含有率が高い酸化膜)」とは異なる。また、この酸化膜の厚さは約5nmであり、加工油中にモリブデン化合物を添加して得られた酸化膜全体の厚さよりも薄い。
【0078】
また、加工油中にモリブデン化合物を添加しなかった点以外は全て前述と同じ方法で軌道溝3aを超仕上げ加工した外輪3も用意した。これにより、この外輪3の軌道溝3aの玉接触部の真円度は前述の内輪2の軌道溝2aと同じとなり、軌道溝3aには通常の表面酸化膜が形成された。
このようにして作製された内輪2、外輪3、玉4を、下記の表3に示す組み合わせで用いて、上記構成の転がり軸受1を組み立てた。
【0079】
すなわち、No. 3−1では、内輪2および外輪3として、軌道溝2a,3aがモリブデンブチルイソオクチルジチオフォスフェートを添加した加工油で超仕上げ加工されて、軌道溝2a,3aに図2の構造の酸化膜(すなわち、表層部(表面層)200aと内層部200bとからなり、全体の厚さが約7.2nm、表層部200aの厚さが約5.8nm)200が形成されたものを使用している。
【0080】
No. 3−2では、外輪3として、軌道溝3aに図2の構造の酸化膜200が形成されたものを、内輪2として、軌道溝2aにモリブデン含有率が〔Mo0 〕とほぼ同じ酸化膜(通常の表面酸化膜)のみが形成されたものを使用している。
No. 3−3では、内輪2として、軌道溝2aに図2の構造の酸化膜200が形成されたものを、外輪3として、軌道溝3aに通常の表面酸化膜のみが形成されたものを使用している。
【0081】
No. 3−4では、内輪2および外輪3として、軌道溝2a,3aに通常の表面酸化膜のみが形成されたものを使用している。
なお、玉4としては、全てのサンプルで通常の表面酸化膜のみが形成されたものを使用している。
No. 3−1〜No. 3−4の転がり軸受(各1000個)について、以下の方法で音響特性を調べる試験を行った。すなわち、アンデロメータを用い、潤滑剤を封入した直後と5000時間回転後に、音響特性を示す量(アンデロン値)を測定した。測定条件は以下の通りである。
<試験条件>
回転速度:4,800min-1(内輪回転)
アキシャル荷重:20N
雰囲気温度:70℃
得られた結果より、潤滑剤を封入した直後のアンデロン値について、No. 3−4に対するNo. 3−1〜No. 3−3の相対値を算出した。
【0082】
また、各サンプルについて、潤滑剤を封入した直後のアンデロン値(初期音響)に対する、5000時間回転後のアンデロン値の上昇値を算出し、この上昇値が1.0を超えたサンプルを不合格とした。そして、同じ構成のサンプル1000個における不合格サンプルの割合を不合格率(%)として算出した。次に、No. 3−1〜No. 3−3の不合格率をNo. 3−4の不合格率で除算して、No. 3−4の不合格率を「1」としたNo. 3−1〜No. 3−3の不合格率の相対値を算出した。
これらの結果も下記の表3に併せて示す。
【0083】
【表3】
Figure 0004304977
【0084】
表1の結果から分かるように、本発明の実施例に相当するNo. 3−1〜No. 3−3と比較例に相当するNo. 3−4とを比較すると、初期音響特性にはほとんど差はないが、5000時間回転後の不合格率がNo. 3−1〜No. 3−3でNo. 3−4の1/10になっている。すなわち、本発明の構成とすることで潤滑特性が向上し、良好な音響特性が長時間保持できたことが分かる。
[第4実施形態]
図3と同じ構造の転がり軸受1として、JIS呼び番号608(内径8mm,外径22mm,幅7mm)の単列深みぞ玉軸受を作製した。玉4の直径は3.97mmである。
【0085】
内輪2、外輪3、および玉4は、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)からなる素材を切削加工により所定形状とした後に、通常の熱処理を行い、最終仕上げ工程として、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aに対しては超仕上げ加工を行い、玉4の表面(転動面)に対してはラップ仕上げを行った。なお、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aの断面円弧の半径を玉4の半径と同じにした。
【0086】
また、内輪2と外輪3と前記非接触ゴムシールとにより囲まれる空間には、グリースを充填した。このグリースは、エステル油系の基油とリチウム12−ヒドロキシステアレート(増ちょう剤)とからなるもので、そのちょう度は「JISK2220」のNo. 3に相当する。グリースの添加量は、前記空間に対する占有容積率が15%となる量とした。
【0087】
内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aに対する超仕上げ加工および玉4の表面に対するラップ仕上げは第1実施形態と同じ方法で行った。ただし、内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aの超仕上げ加工でモリブデンブチルイソオクチルジチオフォスフェートを含有する加工油を用いて行う際に、モリブデンブチルイソオクチルジチオフォスフェートの添加量を0.1体積%〜10体積%の範囲で変化させることにより、酸化膜のモリブデン含有率が異なるサンプル(No. 4−2〜4−10)を得た。なお、No. 4−1では、モリブデンブチルイソオクチルジチオフォスフェートを添加しない加工油を用いて超仕上げ加工をしている。
【0088】
得られた内輪2および外輪3の軌道溝2a,3aについて、深さ方向の元素分析を第1実施形態と同じ方法で行い、▲1▼表面酸化膜全体の厚さ、▲2▼軌道溝2a,3aに形成された表面酸化膜の構造が、図1のように表面酸化膜=表面層(〔Mo1 〕>〔Mo0 〕の酸化膜)であるか、図2のように表面酸化膜の表層部=表面層(〔Mo1 〕>〔Mo0 〕の酸化膜)であって、その下にモリブデン含有率が〔Mo0 〕とほぼ同じ酸化膜を有するか、通常の表面酸化膜(モリブデン含有率が〔Mo0 〕とほぼ同じ酸化膜)のみからなるか、▲3▼表面層(〔Mo1 〕>〔Mo0 〕の酸化膜:高モリブデン層)の厚さ、▲4▼軌道溝2a,3aをなす材料(SUJ2)のモリブデン含有率〔Mo0 〕に対する酸化膜中のモリブデン含有率の極大値〔Mo1 MAX を調べた。その結果を下記の表4に示す。
【0089】
【表4】
Figure 0004304977
【0090】
このようにして作製された内輪2、外輪3、玉4を用い、酸化膜が同じ構成である内輪および外輪を組み合わせて、上記構成の転がり軸受1を組み立てた。なお、玉4としては、全てのサンプルで通常の表面酸化膜のみが形成されたものを使用している。
No. 4−1〜No. 4−11の転がり軸受(各1000個)について、以下の方法で音響特性を調べる試験を行った。すなわち、アンデロメータを用い、潤滑剤を封入した直後と5000時間回転後に、音響特性を示す量(アンデロン値)を測定した。測定条件は以下の通りである。
<試験条件>
回転速度:1,800min-1(内輪回転)
アキシャル荷重:30N
雰囲気温度:70℃
得られた結果より、潤滑剤を封入した直後のアンデロン値について、No. 4−1に対するNo. 4−2〜No. 4−10の相対値を算出した。
【0091】
また、各サンプルについて、潤滑剤を封入した直後のアンデロン値(初期音響)に対する、5000時間回転後のアンデロン値の上昇値を算出し、この上昇値が1.0を超えたサンプルを不合格とした。そして、同じ構成のサンプル1000個における不合格サンプルの割合を不合格率(%)として算出した。次に、No. 4−2〜No. 4−11の不合格率をNo. 4−1の不合格率で除算して、No. 4−1の不合格率を「1」としたNo. 4−2〜No. 4−11の不合格率の相対値を算出した。
【0092】
これらの結果を、高モリブデン層(表面層である〔Mo1 〕>〔Mo0 〕の酸化膜)の厚さとの関係で、図14および図15のグラフに示す。図14は、高モリブデン層の厚さと、初期音響値(潤滑剤を封入した直後のアンデロン値)の相対値との関係を示すグラフである。図15は、高モリブデン層の厚さと、不合格率の相対値との関係を示すグラフである。
【0093】
図14および15の結果から分かるように、本発明の実施例に相当するNo. 4−2〜No. 4−11と比較例に相当するNo. 4−1とを比較すると、5000時間回転後の不合格率がNo. 4−2〜No. 4−11でNo. 4−1の半分程度あるいは半分以下となっている。すなわち、本発明の構成とすることで潤滑特性が向上し、良好な音響特性が長時間保持できることが分かる。特に、高モリブデン層の厚さが2.5nm以上7.5nm以下であるNo. 4−4〜No. 4−8は、不合格率がNo. 4−1の1/5以下となり、且つ初期音響値がNo. 4−1の1.1倍以下となるため好ましい。
【0094】
従って、これら各実施形態の単列深みぞ玉軸受は、HDD、VTR、DAT、LBP等の情報機器用のミニアチュア軸受として好適に使用できる。また、これ以外の低騒音を求められる小型の転がり軸受(例えば内径が約15mmの転がり軸受)としても好適に使用できる。
なお、これらの実施形態においては、内輪2、外輪3、転動体4の材料としてSUJ2を用いているが、SUJ2以外の高炭素クロム軸受鋼、浸炭鋼、中炭素合金鋼、機械構造用鋼等を用いても良いし、窒化ケイ素,炭化ケイ素などの非酸化物系セラミックスを用いてもよい。
また、これらの実施形態では単列深みぞ玉軸受について記載しているが、本発明は、これ以外の転がり軸受、およびリニアガイド装置やボールねじ装置等にも適用可能である。
【0095】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のベアリングによれば、第1および/または第2部材の軌道溝、あるいは転動体の転動面に特殊な構成の酸化膜を形成することにより、ミニアチュア軸受や小径軸受等の小型の転がり軸受であっても、効果的に潤滑性能(耐摩耗性および耐焼き付き性)が向上でき、しかも要求される回転精度や音響特性を満足させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のベアリングを構成する第1部材または第2部材の軌道溝あるいは転動体の転動面を説明するための断面図である。
【図2】本発明のベアリングを構成する第1部材または第2部材の軌道溝あるいは転動体の転動面を説明するための断面図である。
【図3】本発明に係るベアリングの一実施形態に相当する転がり軸受を示す断面図である。
【図4】実施形態において、内輪の軌道溝に対する超仕上げ加工を行った際に使用した超仕上げ加工装置を示す概略構成図である。
【図5】図4の超仕上げ加工装置を構成する砥石装置を示す断面図である。
【図6】超仕上げ加工時の砥石装置の柱状砥石と内輪の軌道溝との接触状態を示す説明図である。
【図7】加工後の内輪軌道溝の玉接触部の真円度を測定して得られた、玉接触部全周の表面状態(うねり状態)を拡大して示した図(A)と、真円度ハーモニクス解析の結果を示す表(B)である。
【図8】加工油に二硫化ジベンジルを添加して超仕上げ加工された内輪軌道溝の深さ方向元素分析の結果を示すグラフであって、オージェ電子強度と深さ(軌道溝の表面からの距離)との関係を示す。
【図9】加工油に二硫化ジベンジルを添加しないで超仕上げ加工された内輪軌道溝の深さ方向元素分析の結果を示すグラフであって、オージェ電子強度と深さ(軌道溝の表面からの距離)との関係を示す。
【図10】第2実施形態の試験結果を示す図であって、内輪および外輪に形成された酸化膜の硫黄含有率が極大値〔S1 MAX となる膜厚方向の位置(表面からの深さ)と、転がり軸受の初期音響値(潤滑剤を封入した直後のアンデロン値)の相対値との関係を示すグラフである。
【図11】第2実施形態の試験結果を示す図であって、内輪および外輪に形成された酸化膜の硫黄含有率が極大値〔S1 MAX となる膜厚方向の位置(表面からの深さ)と、転がり軸受の不合格率の相対値との関係を示すグラフである。
【図12】加工油にモリブデンブチルイソオクチルジチオフォスフェートを添加して超仕上げ加工された内輪軌道溝の深さ方向元素分析の結果を示すグラフであって、オージェ電子強度と深さ(軌道溝の表面からの距離)との関係を示す。
【図13】加工油にモリブデンブチルイソオクチルジチオフォスフェートを添加しないで超仕上げ加工された内輪軌道溝の深さ方向元素分析の結果を示すグラフであって、オージェ電子強度と深さ(軌道溝の表面からの距離)との関係を示す。
【図14】第4実施形態の試験結果を示す図であって、内輪および外輪に形成された酸化膜の高モリブデン層の厚さと、転がり軸受の初期音響値(潤滑剤を封入した直後のアンデロン値)の相対値との関係を示すグラフである。
【図15】第4実施形態の試験結果を示す図であって、内輪および外輪に形成された酸化膜の高モリブデン層の厚さと、転がり軸受の不合格率の相対値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 転がり軸受(ベアリング)
2 内輪
2a 軌道溝
3 外輪
3a 軌道溝
4 転動体
5 冠形保持器
10 ワーク主軸装置
11 回転部材
12 加圧ピストン
13 柱状砥石
14 バッキングプレート
15 プレッシャプレート
16 シュー
17 砥石ホルダ
17a 中間フランジ
17b 先端フランジ
17c 溝
18 スリーブ
19 Oリング
21 回転支持装置
22 砥石装置
100 酸化膜
101 酸化膜の直下の部分
200 表面酸化膜
200a 表面酸化膜の表層部(高モリブデン層)
200b 表面酸化膜の内層部
201 表面酸化膜の直下の部分
2a 内輪の軌道溝の幅方向中心線
10 ワーク主軸装置の主軸の軸線
13 柱状砥石の軸線
2a 内輪の軌道溝の断面円弧の中心
s 柱状砥石の揺動の中心

Claims (5)

  1. 互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するベアリングを構成する、前記第1部材、第2部材、または転動体を製造するベアリング構成部品の製造方法において、
    第1部材の軌道溝、第2部材の軌道溝、または転動体の転動面に対して、硫黄化合物を含有する加工油を用いて表面粗さが0.01μm以下となるまで超仕上げ加工を行う工程を有し、この工程で、当該軌道溝または転動面をなす材料と硫黄化合物とを反応させて、硫黄(S)を含み、硫黄含有率〔S 1 〕が膜厚方向で変化し、表面からの深さが1.5nm以上7.5nm以下の範囲で極大値〔S 1 MAX となる組成の酸化膜を、当該軌道溝または転動面に形成することを特徴とするベアリング構成部品の製造方法
  2. 前記硫黄化合物は、硫化油脂類、硫化オレフィン類、メルカプタン類、サルファイド類、スルホキシド類、スルホン類、金属ジヒドロカルビルジチオフォスフェート類、および金属ジヒドロカルビルジチオカーバメート類の何れか1つであることを特徴とする請求項1記載のベアリング構成部品の製造方法
  3. 互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するベアリングを構成する、前記第1部材、第2部材、または転動体を製造するベアリング構成部品の製造方法において、
    第1部材の軌道溝、第2部材の軌道溝、または転動体の転動面に対して、モリブデン化合物を含有する加工油を用いて表面粗さが0.01μm以下となるまで超仕上げ加工を行う工程を有し、この工程で、当該軌道溝または転動面をなす材料とモリブデン化合物とを反応させて、モリブデン(Mo)を含む組成の酸化膜からなる表面層を、モリブデン含有率〔Mo 1 〕が膜厚方向で変化し、前記軌道溝または転動面を形成する材料のモリブデン含有率〔Mo 0 〕に対する前記表面層のモリブデン含有率の極大値〔Mo 1 MAX の比が3以上6以下となるように、且つ、厚さ2.5nm以上7.5nm以下で、当該軌道溝または転動面に形成することを特徴とするベアリング構成部品の製造方法
  4. 前記モリブデン化合物は、モリブデンジヒドロカルビルジチオフォスフェート類およびモリブデンジヒドロカルビルジチオカーバメート類のいずれかである請求項3記載のベアリング構成部品の製造方法
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により、軸受内径が8mm以下の転がり軸受を構成する内輪、外輪、または転動体を製造するベアリング構成部品の製造方法
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