JP4281988B2 - 配向熱電材料の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、熱電材料の製造方法に関し、さらに詳しくは、結晶配向性を有する配向熱電材料の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、世界のエネルギーは、その多くを化石燃料の燃焼エネルギーに依存しているが、熱サイクルを使用する発電システムの場合、そのエネルギーの多くを廃熱として未利用のまま廃棄しているのが現状である。一方、地球環境の保全が世界的規模で議論されるようになり、エネルギーの未利用分の有効利用技術開発が精力的に進められている。
【0003】
この中で、熱電変換を用いた発電は、比較的低品質の熱においても直接電気に変換することが可能であるため、現状の未利用の廃熱を回収できる技術であり、最近のエネルギー問題や環境問題の深刻化に伴い、熱電変換に対する期待度はますます大きくなっている。
【0004】
この熱電変換とは、異なる2種の金属やp型半導体とn型半導体等の熱電変換材料に温度差を与えると、両端に熱起電力が発生するゼーベック効果を利用して、熱エネルギーを直接電力に変換する技術であり、モーターやタービン等の可動部が全くなく、また、老廃物もないという優れた特徴を有している。
【0005】
ここで、配向熱電特性の性能評価に用いられる性能指数Zは、下記の式で表される。
Z=α2/(κ・ρ)
α:ゼーベック係数
κ:熱伝導率
ρ:比抵抗
【0006】
すなわち、ゼーベック係数が大きく、熱伝導率と比抵抗が小さいことが必要である。ここで、ゼーベック係数は物性値であるため、材料によって決まってしまうが、熱伝導率と比抵抗は、材料の微細組織や配向性によっても大きく変化させることが可能なため、熱伝導率や比抵抗を小さくするための結晶組織制御方法が検討されている。すなわち、結晶組織の配向性を向上させることにより、ある方向において、熱伝導率および比抵抗を小さくすることが可能で、その方向における熱電特性を向上することができるわけである。
【0007】
例えば、特開2000−211971号公報(特許文献1)には、AxB2Oy(A:Na,Li,K,Ca,Sr,Ba,Bi,Y,La、B:Mn,Fe,Co,Ni,Cu、1≦x≦2、2≦y≦4)型構造を有する熱電素子材料、特にNaCo2O4系熱電素子材料は、水酸化コバルトまたは酸化コバルトの板状粒子とナトリウム金属塩とを混合し、これを前記水酸化コバルトまたは酸化コバルト粒子が一方向に配向するように成形し、この成形体を焼成して緻密化させることによりC軸方向が配向した焼結体が作製される、という内容の熱電素子材料およびその製造方法が提案されている。
【0008】
また、特開2002−16297号公報(特許文献2)には、結晶配向材料のテンプレートとなる物質である形状異方性を有するZnOまたはその前駆体粉末材料と、このZnOまたはその前駆体粉末材料との反応によって結晶異方性のある導電性酸化物を生成する物質とを混合し、この混合材料を前記異方形状粉末が一方向に配向するように常温下で成形し、この成形物を熱処理することにより合成し、その後に焼結する。という内容の結晶配向バルクZnO系焼結体材料の製造方法およびそれにより製造された熱電変換デバイスが提案されている。
【0009】
さらに、特開2001−223396号公報(特許文献3)には、V族元素とVI族元素からそれぞれ選択した一種以上の元素の組み合わせを主成分とする熱電材料若しくは金属と半金属系材料の組み合わせを主成分とする熱電材料またはこれらに酸化物、炭化物、窒化物若しくはこれらの混合物を添加した熱電材料の直流通電加圧による焼結に際し、100〜15000Aの可変電流範囲で通電するとともに、磁束密度0.1T≦H≦2.0T(T:テスラ)の範囲で磁場をかけながら焼結し、焼結体組織の電気的配向性を得ることを特徴とする熱電材料の製造方法が提案されている。
【0010】
【特許文献1】
特開2000−211971号公報
【特許文献2】
特開2002−16297号公報
【特許文献3】
特開2001−223396号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1および上記特許文献2により提案された方法によると、確かにある程度配向された試料を提供することが可能であるが、いずれもその配向度には限界があり、さらに、配向した成形物を焼結あるいは焼成して緻密化する際に配向度が低下するため、その配向性がまだ十分ではないという不具合が生じている。
【0012】
また、上記特許文献3により提案された方法によると、磁場中において焼結を行うことにより、電気的配向性を得ているのみであり、磁場強度が小さいため、結晶そのものを配向することができず、かえって電気抵抗や熱伝導率等の物理的特性の異方性を減少または消失させてしまって、結晶組織の配向度を大きくしある方向における熱伝導率や比抵抗を小さくするための結晶組織制御方法という目的では用いることができないのが現状である。
【0013】
これより熱電材料の結晶配向度を大きくでき、その配向度を減少させることなく熱電材料を製造できる方法並びに十分な配向度を有した熱電材料が切望されていた。
【0014】
そこで本発明の目的は、磁化率の異方性を利用することにより、磁場中にて熱電材料あるいは熱電材料成形体を形成し、さらに磁場中にて熱処理による緻密化を行う等により、結晶配向度が大きく優れた熱電特性を有する配向熱電材料を製造する配向熱電材料の製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、次の構成を採用した。
a)請求項1記載の発明は、工程中に磁場を印加する工程を具備する配向熱電材料の製造方法において、熱電材料微粒子を溶媒に分散して分散液を生成する工程と、前記分散液を10T以上の磁場中に挿入することにより配向成形体とする工程と、前記配向成形体を磁場中で熱処理により緻密化を行う工程とを具備したことを特徴としている。
【0018】
b)請求項2記載の発明は、前記分散液を磁場中に挿入することにより配向成形体とする工程は、前記分散液を磁場中で乾燥することにより行なうことを特徴としている。
【0019】
c)請求項3記載の発明は、前記分散液を磁場中に挿入することにより配向成形体とする工程は、前記分散液あるいは該分散液を乾燥した微粒子を磁場中で加圧成形することにより行うことを特徴としている。
【0020】
d)請求項4記載の発明は、上記配向熱電材料を製造方法において、熱電材料微粒子として形状異方性を有する微粒子を用いたことを特徴としている。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の製造工程の一例を示したものである。
【0022】
初めに、熱電材料微粒子を合成する(図1のステップS10)。この微粒子は、磁化率の異方性を有していることが必要である。すなわち、任意の方向には磁化率:χが小さく、他の任意の方向においては磁化率が大きく、その両方向の磁化率の差:Δχはできるだけ大きい方が配向熱電材料を製造するには好ましい。
【0023】
また、この微粒子が形状異方性を有している方が、配向熱電材料を製造するには好ましい。ここで、微粒子の短径をdとし、長径をaとした場合に、aをdで割った値、すなわちa/dが1より大きいことが必要である。微粒子の大きさによって、磁化率の異方性が変化するため、磁場を用いて配向熱電材料を製造するためには、この微粒子の粒径が均一である方が、印加する磁場の設定等、生産性を向上させる観点から好ましい。
【0024】
また、上記のように微粒子の方向によるの磁化率の差:Δχは大きい方が好ましいが、特に、微粒子の長径方向に磁化率が大きくなるように微粒子を合成すると、磁場による配向がしやすいため、好ましい。
【0025】
また、もともと結晶構造に異方性がある場合は、それによって磁化率の異方性をも有することが可能である。この意味からも酸化物の層状化合物は配向熱電材料を製造するための原料として好ましい。この化合物は層状になっているため、層の積層方向とそれに垂直方向で磁化率が大きく異なっており、磁場で配向することによって熱電特性を向上させることが可能になるわけである。
【0026】
次の工程は、上記のように合成した微粒子を溶媒中に分散する分散液作製の工程である(ステップS20)。分散媒としては、水、有機溶媒、無機溶媒、いずれを用いても特に問題ない。いずれの場合にも、微粒子が、凝集することなく溶媒中に分散していることが必要である。そのために、必要に応じて超音波分散を行ったり、あるいは、界面活性剤等を添加しても問題ない。
【0027】
次の工程は、上記の熱電微粒子の集合体を磁場中に挿入し、成形体とする工程である(図1のステップS30)。磁化率の異方性を有した微粒子は、磁場により配向させることが可能である。
【0028】
微粒子が置かれている状態にもよるが、磁場強度をHとすると、
H2≫2kT/Δχ
k:ボルツマン定数
T:絶対温度
Δχ:磁化率の異方性
の関係を満たすような磁場強度の場合に、磁化率の大きい方向を磁場印加方向に配向させることが可能になる。
【0029】
しかしながら、熱電材料は一般的には強磁性体ではないので、その配向のためには、非常に大きい磁場強度を必要とする。この磁場強度としては、2Tより大きい場合が、熱電材料を配向するためには好ましく、より好ましくは5T以上の磁場であり、さらに好ましくは10T以上の磁場である。
【0030】
成形体とするために、分散液を磁場中で乾燥する。溶媒の乾燥は自然乾燥でも良いし、必要に応じて熱の印加を行っても問題ない。また、この成形体を形成する際、加圧成形を行うことにより、より強度の大きい成形体を得ることができる。
この工程により、磁化率の異方性を有した微粒子が磁化率の大きい方向を印加した磁場の方向に配向した成形体が形成される。
【0031】
続いての工程は、この成形体を熱処理により緻密化を行い、強度の大きいバルク体を形成する磁場中熱処理の工程である(図1のステップS40)。この熱処理による緻密化工程には、微粒子原料をバルク化する焼結の工程も含まれる。
【0032】
従来の配向熱電材料を製造する方法では、配向した成形体を形成した後、この熱処理による緻密化を行う工程で、その配向度を小さくしてしまっていた。これは、熱処理により、せっかく配向していた粒子等がその一部の領域がランダムな方向を向いてしまうためである。
【0033】
これに対して、本発明のように磁場中での熱処理(焼結も含む)を行うことにより緻密化を行う場合は、この工程においても配向度を維持することが可能になるため、極めて配向性の良い熱電材料のバルク体を形成することができるわけである。
【0034】
但し、この場合は、温度が高温になるため、磁化率が低下し、それによって磁化率の異方性が減少することが考えられ、その場合には、それに応じた磁場強度にすることが必要になる。
【0035】
以上は、熱電材料を配向成形体にした後、熱処理により緻密化する場合を説明したが、熱電材料の前駆体を同様な方法で配向成形体とし、熱処理により熱電材料を合成することも可能である。
【0036】
図2は、結晶の配向性を有していない熱電材料(多結晶体)の概念図を示す図であり、磁化率の異方性がばらばらの方向を向いていることを示している。同図において、1は熱電材料の結晶粒であり、2は点線の方向が磁化率の大きい方向に相当する様子を示している。
【0037】
それに対し、本発明により製造した配向熱電材料(多結晶体)は、図3にその概念図を示したように、全体が磁化率の異方性に沿って配向している。すなわち、同図の参照符号4で示すように、磁化率の大きい方向が試料全体で揃っており、例えば、この磁化率の異方性に対して比抵抗あるいは熱伝導率等の電気的特性の異方性が対応する酸化物の層状化合物から構成される熱電材料等では、特定の方向において、熱電特性を向上させることが可能になる。
【0038】
例えば、特定の方向において比抵抗を小さくすることができれば、その他の物理定数が一緒であってもその方向における性能指数Zは大きくなり、その方向で優れた熱電特性が得られることになる。
【0039】
また、熱伝導率の小さい方向を利用して、一端を高温とし、多端を低温とすることにより、両端での温度差を大きく取ることが可能になり、それによって取り出せる電力を向上することが可能になるわけである。
【0040】
このように本発明を用いると、形状異方性を有し、さらに磁化率の異方性を有する材料を溶媒中に分散し、磁場中で配向成形体を形成することにより、磁化率の異方性に沿って配向した成形体を得ることができる。
【0041】
さらに磁場中で熱処理を行い、配向成形体の緻密化を行うことにより、磁化率の異方性に沿って配向したままの(配向性を低下させないで)強度の大きいバルク体を形成することが可能になる。
【0042】
以上説明したように、非常に簡便な方法にて、従来その製造が困難であった非常に良好な配向性を有した熱電材料の製造が可能になり、本発明で製造した配向性熱電材料は、特定の方向において非常に高い熱電特性を有することができるものである。
【0043】
以下、具体的な実施例を説明する。
(実施例1)
Co3O4粉末とNa2CO3粉末を、十分に混合した後、電気マッフル炉にて、880℃にて20時間焼成を行った。
【0044】
焼成後、この試料を粉砕することにより、NaxCo2Oy(1≦x≦2、2≦y≦4)微粒子を合成した。この微粒子を純水に添加し、超音波を用いて分散を行った。
この微粒子分散液を、磁場を印加せずに乾燥した場合は、微粒子はその結晶軸がランダムな方向を向いていた。(試料1)
【0045】
これに対し、超伝導マグネットを用いて10T(テスラ)の磁場を印加しながら乾燥した場合は、1軸方向に配向した(試料2)。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同様な方法を用いて、NaxCo2Oy(1≦x≦2、2≦y≦4)微粒子を合成し、同様に分散液を作製した。この微粒子分散液を型に挿入し、加圧成形を行った。加圧成形を行う際に、磁場を印加しなかった場合は、微粒子はその結晶軸がランダムな方向を向いていた(試料3)。
【0047】
これに対し、超伝導マグネットを用いて10Tの磁場を印加しながら加圧成形を行った場合は、1軸方向に配向した(試料4)。また、試料4は、試料2と比較して成形体の強度が大きかった。
【0048】
(実施例3)
実施例1と同様の方法を用いて、NaxCo2Oy(1≦x≦2、2≦y≦4)微粒子を合成した。この微粒子の短径をd、長径をaとした場合、a/dが1付近である微粒子(微粒子A)と、a/dが5〜10の微粒子(微粒子B)を採取した。
【0049】
この2種類の微粒子を純水に添加し、超音波を用いて分散を行った。これらの微粒子分散液を型に挿入し、10Tの磁場を印加しながら加圧成形を行った。
両成形体共に1軸配向性を有していたが、微粒子Bの形状異方性を有した微粒子を用いた場合の方が、配向性は良好であった。
【0050】
(実施例4)
実施例1と同様な方法を用いて、NaxCo2Oy(1≦x≦2、2≦y≦4)微粒子を合成し、同様に分散液を作製した。
【0051】
この分散液を遠心分離機を用いて、上澄み液と沈殿物に分離し、上澄み液を採取した後純水を添加し、再度超音波分散を行った。遠心分離機の回転数を変化させながらこの分離を繰り返すことによって、概ね均一の粒径を有する微粒子を採取した。この微粒子を再度水に分散させた分散液を作製し、この微粒子分散液を型に挿入し、10Tの磁場を印加しながら加圧成形を行った。
成形体は1軸配向性を有しており、その配向性は微粒子の粒径を均一にしていない試料4と比較し、良好であった。
【0052】
【発明の効果】
本発明の効果を、請求項毎に述べる。
a)請求項1〜3記載の発明によれば、簡便な方法を用いて熱電微粒子の配向成形体を製造することが可能になった。
b)請求項4記載の発明によれば、簡便な方法を用いて配向性の良好な熱電微粒子の配向成形体を製造することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造工程の一例を示したものである。
【図2】結晶の配向性を有していない熱電材料(多結晶体)の概念図である。
【図3】微粒子が磁化率の大きい方向に1軸配向した配向成形体の様子を示した概念図である。
【符号の説明】
1:熱電材料の結晶粒
2:点線の方向が磁化率の大きい方向
3:結晶粒の磁化率の異方性はランダム
4:熱電材料微粒子
Claims (4)
- 工程中に磁場を印加する工程を具備する配向熱電材料の製造方法において、
熱電材料微粒子を溶媒に分散して分散液を生成する工程と、
前記分散液を10T以上の磁場中に挿入することにより配向成形体とする工程と、
前記配向成形体を磁場中で熱処理により緻密化を行う工程とを具備したことを特徴とする配向熱電材料の製造方法。 - 前記分散液を磁場中に挿入することにより配向成形体とする工程は、前記分散液を磁場中で乾燥することにより行なうことを特徴とする請求項1に記載の配向熱電材料の製造方法。
- 前記分散液を磁場中に挿入することにより配向成形体とする工程は、前記分散液あるいは該分散液を乾燥した微粒子を磁場中で加圧成形することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の配向熱電材料の製造方法。
- 請求項1から3のいずれかに記載の配向熱電材料を製造する方法において、前記熱電材料微粒子として形状異方性を有する微粒子を用いたことを特徴とする配向熱電材料の製造方法。
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