ところで、このような手動による減速度制御および変速制御は、運転者の好みや運転条件等に応じて選択的に行なわれるものであるが、従来は操作部材そのものを別々に設けたり、操作部材は共通であっても操作位置が異なるなど、手動変速用の操作系統と減速度制御用の操作系統とが別々に構成されていたため、部品点数が多くなって高価になるとともに、大きな配置スペースが必要となったり、操作位置が多くなって操作性が損なわれたりする問題があった。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、手動による減速度制御およびマニュアル変速制御が可能な車両の制御装置において、それ等の操作系統を共通化することにより装置を簡単且つ安価でコンパクトに構成するとともに、操作性を向上させることにある。
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 運転者の手動操作に従って自動変速機のギヤ段および変速レンジの少なくとも一方を切り換えるマニュアル変速制御手段と、(b) 運転者の手動操作に従って、前記自動変速機の変速のみで可能な減速度の制御とは異なる態様で車両の減速度を制御する減速度制御手段と、を有する車両の制御装置において、(c) 前記減速度制御手段によって減速度の制御が行なわれる減速度制御モードと、前記マニュアル変速制御手段によって自動変速機の変速制御が行なわれるマニュアル変速モードとを、運転者の操作で選択できるモード選択手段と、(d) 前記減速度制御モードおよび前記マニュアル変速モードにおいて、運転者により共通の手動操作が行なわれる手動操作部材と、(e) その手動操作部材の操作状態を検出する操作検出手段と、(f) 前記モード選択手段によって前記減速度制御モードが選択された場合は、前記操作検出手段によって検出される前記手動操作部材の操作に従って前記減速度制御手段に前記減速度制御を実行させ、そのモード選択手段によって前記マニュアル変速モードが選択された場合は、前記操作検出手段によって検出される前記手動操作部材の操作に従って前記マニュアル変速制御手段に前記自動変速機の変速制御を実行させるモード切換制御手段と、を有することを特徴とする。
第2発明は、第1発明の車両の制御装置において、(a) 前記マニュアル変速制御手段は、運転者の手動操作に従って自動変速機のギヤ段を切り換えるギヤ段切換制御手段、およびその自動変速機の変速レンジを切り換えるレンジ切換制御手段を備えており、(b) 前記モード選択手段は、前記マニュアル変速モードとして前記ギヤ段切換制御手段によってギヤ段が切り換えられるギヤ段切換モード、および前記レンジ切換制御手段によって変速レンジが切り換えられるレンジ切換モードを選択できるとともに、(c) 前記モード切換制御手段は、前記モード選択手段によって前記ギヤ段切換モードが選択された場合は前記ギヤ段切換制御手段に前記ギヤ段の切換制御を実行させ、そのモード選択手段によって前記レンジ切換モードが選択された場合は前記レンジ切換制御手段に前記変速レンジの切換制御を実行させることを特徴とする。
第3発明は、第2発明の車両の制御装置において、前記減速度制御モード、前記ギヤ段切換モード、および前記レンジ切換モードのうち減速度制御モードからギヤ段切換モードへ直接切り換えるモード切換、およびギヤ段切換モードから減速度制御モードへ直接切り換えるモード切換は、前記モード選択手段および前記モード切換制御手段の何れかによって不可とされていることを特徴とする。
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの車両の制御装置において、前記モード切換制御手段は、車両が停車状態にないときは前記モード選択手段の操作に拘らず前記減速度制御モードと前記マニュアル変速モードとの切換を禁止することを特徴とする。
第5発明は、第1発明〜第4発明の何れかの車両の制御装置において、前記減速度制御モードでは、前記減速度を変更する際の前記手動操作部材の操作方法を表示し、前記マニュアル変速モードでは、前記自動変速機をマニュアル変速する際の前記手動操作部材の操作方法を表示するガイド表示手段を有することを特徴とする。
第6発明は、第1発明〜第5発明の何れかの車両の制御装置において、前記モード切換制御手段は、前記減速度制御モードおよび前記マニュアル変速モードの何れか一方が実行不可の時には他方のモードに強制的に切り換えることを特徴とする。
第7発明は、第1発明〜第6発明の何れかの車両の制御装置において、前記モード切換制御手段は、車両のメインスイッチがオン操作された以後の初期モードをそのメインスイッチがオフ操作された時に設定されていた最終のモードに設定する初期モード設定手段を備えることを特徴とする。
第8発明は、第1発明〜第6発明の何れかの車両の制御装置において、前記モード切換制御手段は、車両のメインスイッチがオン操作された以後の初期モードを運転者の手動操作によって設定されたモードに設定する初期モード設定手段を備えることを特徴とする。
第9発明は、第1発明〜第8発明の何れかの車両の制御装置において、(a) 前記手動操作部材は、付勢手段により自動的に復帰する中立位置を挟んで両側に定められた第1位置および第2位置に操作可能な操作レバーであり、(b) 前記減速度制御手段は、前記減速度制御モードが選択された場合に、前記操作レバーが前記第1位置に操作される毎に減速度を小さくし、且つその操作レバーが前記第2位置に操作される毎に減速度を大きくするように車両の減速度を制御し、(c) 前記マニュアル変速制御手段は、前記マニュアル変速モードが選択された場合に、前記操作レバーが前記第1位置に操作される毎に前記自動変速機のギヤ段および変速レンジの少なくとも一方をアップし、その操作レバーが前記第2位置に操作される毎に前記自動変速機のギヤ段および変速レンジの少なくとも一方をダウンすることを特徴とする。
このような車両の制御装置においては、手動操作部材およびその手動操作部材の操作状態を検出する操作検出手段が、減速度制御モードおよびマニュアル変速モードにおいて共通して用いられ、モード選択手段によって減速度制御モードが選択されると、操作検出手段によって検出される手動操作部材の操作に従って減速度制御が行なわれる一方、マニュアル変速モードが選択されると、操作検出手段によって検出される手動操作部材の操作に従って自動変速機の変速制御が行なわれる。このように、運転者の手動操作による減速度制御および変速制御が、共通の手動操作部材および操作検出手段を用いて行なわれるため、それ等の手動操作部材や操作検出手段をモード毎に別々に設ける場合に比較して、装置が全体として簡単且つ安価でコンパクトに構成されるとともに、操作性が向上する。
第2発明では、マニュアル変速モードとしてギヤ段切換モードおよびレンジ切換モードを有しているため、運転者の好みにあったマニュアル変速態様を選択することができる。すなわち、上記変速レンジは、自動的に変速が行われるギヤ段や変速比の範囲で、そのギヤ段や変速比の範囲が異なる複数の変速レンジが定められており、マニュアル変速制御手段は、その複数の変速レンジを運転者の手動操作に従って切り換えたり(レンジ切換モード)、変速比が異なる複数のギヤ段を運転者の手動操作に従って直接切り換えたり(ギヤ段切換モード)することができるように構成され、運転者はモード選択手段によりこれ等のレンジ切換モードおよびギヤ段切換モードを任意に選択できることから、運転者の好みにあったマニュアル変速態様を選択可能となるのである。
第3発明では、減速度制御モードとギヤ段切換モードとの直接切換が不可とされているため、モード選択手段の誤操作などにより、車両の駆動力が大きく変化するなどして運転者に違和感を生じさせることが防止される。すなわち、ギヤ段切換モードは、変速比が異なる複数のギヤ段を運転者の手動操作に従って直接切り換えるものであるため、減速度制御モードとギヤ段切換モードとの直接切換によって生じる駆動力変化は、減速度制御モードとレンジ切換モードとの直接切換によって生じる駆動力変化よりも相対的に大きくなる可能性がある。しかし、減速度制御モードとギヤ段切換モードとの直接切換が不可とされているため、モード選択手段の誤操作などが生じたとしても、駆動力変化が小さくなり、運転者に違和感を生じさせることが防止される。
なお、上記駆動力は、車両を走行させる正側の駆動力だけでなく、エンジンブレーキや回生制動などの動力源ブレーキによる制動力すなわち負の駆動力も含む。
第4発明では、車両が停車状態にないときは、つまり車両の走行中は、モード選択手段の操作に拘らず減速度制御モードとマニュアル変速モードとの切換が禁止されるため、モード選択手段の誤操作などにより、走行中に車両の駆動力が変化するなどして運転者に違和感を生じさせることが防止される。
第5発明では、減速度制御モードおよびマニュアル変速モード毎に手動操作部材の操作方法がガイド表示手段によって表示されるため、単にモード名を表示するだけの場合に比較して、手動操作部材の操作が容易になるとともに誤操作が抑制される。
第6発明では、減速度制御モードおよびマニュアル変速モードの何れか一方がフェール等で実行不可の時には他方のモードに強制的に切り換えられるため、例えば走行中にフェールした場合でも、その他方のモードで駆動力を制御しながら走行することができる。
第7発明では、車両のメインスイッチがオン操作された以後の初期モードとして、メインスイッチがオフ操作された時に設定されていた最終のモードが設定されることから、初期モードの設定に運転者の意図を反映させることができる。
第8発明では、車両のメインスイッチがオン操作された以後の初期モードとして、運転者の手動操作によって設定されたモードが設定されることから、初期モードの設定に運転者の意図を反映させることができる。
第9発明では、操作レバーが中立位置から第1位置に操作されると、減速度制御モードが選択されている場合には車両の減速度が小さくされるとともに、マニュアル変速モードが選択されている場合には自動変速機のギヤ段および変速レンジの少なくとも一方がアップされる。また、操作レバーが中立位置から第2位置に操作されると、減速度制御モードが選択されている場合には車両の減速度が大きくされるとともに、マニュアル変速モードが選択されている場合には自動変速機のギヤ段および変速レンジの少なくとも一方がダウンされる。ここで、車両減速時において、自動変速機のギヤ段および変速レンジの少なくとも一方がアップされると車両の減速度が小さくなり、ギヤ段および変速レンジの少なくとも一方がダウンされると車両の減速度が大きくなる。このように、マニュアル変速モードが選択されている場合であっても、減速度制御モードが選択されている場合と同様、第1位置は車両の減速度を小さくする操作位置とされ、第2位置は車両の減速度を大きくする操作位置とされるので、操作性が向上する。
なお、上記アップは自動変速機の変速比を小さくする変速で、動力源ブレーキによる制動力が小さくなって減速度が小さくなる。また、ダウンは自動変速機の変速比を大きくする変速で、動力源ブレーキによる制動力が大きくなって減速度が大きくなる。
本発明の車両の制御装置は、例えばエンジンおよび回転機が駆動輪との間で動力伝達可能に設けられている車両に好適に適用されるが、エンジンおよび回転機の何れか一方のみが駆動輪との間で動力伝達可能に設けられているものでも良いなど、種々の車両に適用され得る。回転機は回転電気機械(JIS Z9212)のことで、電気エネルギーを回転運動に変換する電動モータや、回転運動を電気エネルギーに変換する発電機、或いはその両方の機能を有するモータジェネレータを含む。
本発明は、エンジンのみを動力源とするエンジン駆動車両や、電動モータ或いはモータジェネレータのみを動力源として備えている電気自動車、エンジンおよび電動モータ或いはモータジェネレータの両方を動力源として備えているハイブリッド車両など、種々の車両に適用され得る。ハイブリッド車両には、エンジンの動力を直接駆動輪に伝達可能なパラレルハイブリッド車両と、エンジンからの動力は発電にのみ使用され駆動輪には直接伝達されないシリーズハイブリッド車両があり、何れにも適用可能である。
減速度制御手段は、例えば手動操作部材の操作に従って設定される目標減速度に応じてブレーキ力を制御するように構成され、例えばエンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機のギヤ段や変速比を変更してエンジンブレーキ力を制御したり、動力伝達経路に接続された回転機のトルクを制御したりして、所定のブレーキ力を発生させる。回転機のトルク制御は、回生制動トルクや逆回転方向の力行トルクによるブレーキ力の増大、或いは正回転方向の力行トルクによるブレーキ力の低減等により、所定のブレーキ力を発生するように行われる。このような動力源ブレーキの他に、車輪に設けられたホイールブレーキ等の他の制動装置を用いてブレーキ力を制御することもできる。エンジンの種類によっては、吸排気バルブの開閉タイミングやリフト量、或いはスロットル弁開度などを制御してエンジンブレーキ力を制御することもできるなど、種々の態様が可能である。
マニュアル変速制御手段は、第2発明のようにギヤ段切換およびレンジ切換の両方が可能なものでも良いが、何れか一方のみが可能であっても良い。自動変速機としては、遊星歯車式や平行軸式等の有段変速機に限らず、ベルト式、トロイダル型等の無段変速機を用いることもできる。
手動操作部材は、操作回数や操作時間により減速度を増減したり、ギヤ段や変速レンジをアップダウンさせたりするシーケンシャル型のものが好適に用いられ、例えば第9発明のように中立位置を挟んで両側に定められた第1位置および第2位置へ操作される単一の操作レバーや、減速度の増加または減少、およびアップシフトまたはダウンシフトで別個に操作される一対の操作レバー、操作スイッチなどで構成される。段階的または連続的に変化する多数の減速度レベルや、ギヤ段、変速レンジに応じて多数の操作位置が設けられた操作レバー、出力が連続的或いは断続的に変化するスライドスイッチのノブ等を手動操作部材として用いることもできる。
手動操作部材は、例えば運転席横のセンターコンソール部分やステアリングホイール、ステアリングコラム、インストルメントパネル等、運転席近傍の種々の部位に配設することが可能で、例えば従来のシフトレバーをそのまま用いることも可能で、減速度制御およびマニュアル変速制御で共通に使用する新たなレバーポジションを設ければ良い。シフトレバーとは別個に手動操作部材を設けても良いことは勿論である。
操作検出手段は、上記手動操作部材の操作によって接点が開閉するON−OFFスイッチや、多数の操作位置に応じて出力が連続的或いは断続的に変化するスライドスイッチなどが用いられる。
モード選択手段は、例えば自動復帰型のON−OFFスイッチにて構成され、オン操作される毎にモードを切り換えるように構成されるが、モードの数だけ選択スイッチを設けたり、2つの接点を有するシーソー型のスイッチを採用したり、或いはタッチパネルなどの初期設定操作装置を用いて予め何れかのモードに設定しておくものでも良いなど、種々の態様が可能である。
第3発明で、「減速度制御モード」と「ギヤ段切換モード」との直接切換を不可とするには、例えばモード切換制御手段によってそのモード切換を禁止するだけでも良いが、単一のON−OFFスイッチの操作に従ってモード切換を行なう場合には、現在のモードが「減速度制御モード」または「ギヤ段切換モード」であれば「レンジ切換モード」に切り換え、現在のモードが「レンジ切換モード」の場合には、例えば一つ前のモードを記憶しておいてそれと別のモードに切り換えたり、加減速等の運転状態に応じて切り換えるべきモードを判断したりするなど、種々の態様が可能である。単純に、オン操作毎に「減速度制御モード」→「レンジ切換モード」→「ギヤ段切換モード」→「レンジ切換モード」→「減速度制御モード」の順番でモード切換を繰り返すだけでも良い。
また、モード選択スイッチとして例えば一対のON−OFFスイッチやシーソー型のスイッチを設け、一方のスイッチのオン操作では「減速度制御モード」→「レンジ切換モード」→「ギヤ段切換モード」の順番でモード切換が行なわれ、他方のスイッチのオン操作では逆方向にモード切換が行なわれるようにしても良い。
第4発明では、例えば車速が略0の所定車速以下か否かを判断してモード切換を許可するように構成されるが、他の発明の実施に際しては、走行中においてもモード切換が許可されるようになっていも良いし、シフトレバーの操作位置が、動力伝達を遮断するN(ニュートラル)や駐車用のP(パーキング)の場合にモード切換を許可するようになっていても良いなど、種々の態様が可能である。
第4発明は減速度制御モードとマニュアル変速モードとの切換に関するものであり、第2発明のように、マニュアル変速モードとしてギヤ段切換モードおよびレンジ切換モードを有する場合には、それ等のギヤ段切換モードとレンジ切換モードとの切換を含めて、車両走行中は全てのモード切換が禁止されるようになっていても良いし、ギヤ段切換モードとレンジ切換モードとの切換については車両走行中でも許可されるようになっていても良い。
第5発明のガイド表示手段は、例えば操作方法を文章で表示するものでも良いが、手動操作部材の操作位置等を図形表示するとともに、各操作位置へ操作した場合の指示内容(減速度の増減やアップシフト、ダウンシフトなど)が一目で分かるように単純化或いは記号化、図式化したものを、操作位置と関連付けて表示することが望ましい。なお、他の発明の実施に際しては、このようなガイド表示は必ずしも必要ない。
第6発明は、減速度制御モードおよびマニュアル変速モードをフェール時に強制的に切り換える場合であるが、マニュアル変速モードとしてギヤ段切換モードおよびレンジ切換モードを有し、減速度制御モードと合わせて3つのモードが存在する場合には、例えば以下のように強制的(自動的)に切り換えることが望ましい。
(1) 1種類のモードが実行不可の場合
減速度制御モードまたはギヤ段切換モードが実行不可の時はレンジ切換モードへ移行し、レンジ切換モードが実行不可の時は減速度制御モードへ移行する。
(2) 2種類のモードが実行不可の場合
残りの正常なモードへ移行する。
(3) 3種類とも実行不可の場合
自動変速モード等の基本運転状態へ移行する。
第7発明では、例えば車両のメインスイッチ(エンジン駆動車両のイグニッションスイッチなど)がオフ操作された時のモードを記憶しておいて、次にメインスイッチがオン操作された時にそのモードが自動的に設定されるように構成される。自動変速機のギヤ段や変速比を予め定められた変速条件(変速マップなど)に従って自動的に切り換える自動変速モード(Dレンジなど)等の所定の基本運転状態を有する場合に、その基本運転状態から前記減速度制御モードまたはマニュアル変速モードへ切り換えられるとともに、その減速度制御モードまたはマニュアル変速モードから基本運転状態へ切り換えられるようになっている場合には、前記メインスイッチのオン時ではなく、その基本運転状態から切り換えられた時に減速度制御モードかマニュアル変速モードかが初期設定されるようにしても良い。その場合は、減速度制御モードまたはマニュアル変速モードから基本運転状態へ切り換えられた時のモードを記憶しておいて、そのモードを初期設定したり、予め運転者が設定したモードを初期設定したりすれば良い。
運転者が選択した最終のモードを初期モードとして設定する場合、そのモードを記憶するタイミングは、必ずしも前記メインスイッチのオフ時や基本運転状態への切換時である必要はなく、モード切換が行なわれる毎に初期モードメモリ等に逐次記憶・更新するようにしても良い。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両用の駆動装置の構成を説明するブロック線図で、燃料の燃焼によって動力を発生するエンジン30、モータジェネレータ32、トルクコンバータ34、および自動変速機10を、その順番で同軸上に備えており、電子制御ユニット100によってそれぞれ作動状態が制御されるとともに、プロペラシャフトや差動歯車装置等を介して左右の駆動輪40を回転駆動する。エンジン30およびモータジェネレータ32は、車両走行用の動力源として使用されるとともに、減速時には動力源ブレーキとしても使用できるもので、クランク軸とモータ軸とが互いに一体的に連結されているが、必要に応じてそれ等の間の動力伝達を接続、遮断するクラッチ等を設けることもできる。モータジェネレータ32には、インバータ等の駆動回路44を介してバッテリ42が接続されており、バッテリ42から電気エネルギーが供給されることにより電動モータとして機能して駆動力を発生する一方、発電機として用いられて回生制御されることにより車両に制動力を作用させるとともにバッテリ42を充電する。トルクコンバータ34は流体式動力伝達装置に相当し、ポンプ翼車がモータジェネレータ32のモータ軸に連結されて一体的に回転駆動されるようになっている。
自動変速機10は、図2の(a) に示すように、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、前記トルクコンバータ34のタービン軸に連結された入力軸22の回転を変速して出力軸24から駆動輪40側へ出力する。なお、自動変速機10やトルクコンバータ34は中心線に対して略対称的に構成されており、図2(a) では中心線の下半分が省略されている。
図3は、上記自動変速機10の第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の回転速度を直線で表すことができる共線図で、下の横線が回転速度「0」で、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸22と同じ回転速度であり、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態(係合、解放)に応じて第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の8つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、第1後進ギヤ段「Rev1」および第2後進ギヤ段「Rev2」の2つの後進ギヤ段が成立させられる。図2の(b) は、上記各ギヤ段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態との関係をまとめて示す作動表で、「○」は係合、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1速前進ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められ、図2(b) に示す変速比は、ρ1=0.463、ρ2=0.463、ρ3=0.415の場合である。なお、図2(a) の符号26はトランスミッションケースである。
図4は、上記自動変速機10やエンジン30などを制御するために車両に設けられた制御系統の概略を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。また、エンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量を制御する電子スロットル弁の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットル弁開度センサ60、エンジン30の冷却水温Tw を検出するためのエンジン冷却水温センサ62、車速V(出力軸24の回転速度Nout に対応)を検出するための車速センサ64、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度Nin)を検出するためのタービン回転速度センサ66、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ68、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、シフトレバー72がE/Sポジションへ操作されたか否かを検出するE/Sポジションスイッチ76、Eモード(減速度制御モード)とSモード(レンジ切換モード)を切り換えるモード切換スイッチ78、Decel/−スイッチ80、Can−Decel/+スイッチ82などが設けられており、エンジン回転速度NE、スロットル弁開度θTH、エンジン冷却水温Tw 、車速V、タービン回転速度NT、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、シフトレバー72がE/Sポジションへ操作されたか否か、モード切換指令SM、Decel/−指令、Can−Decel/+指令、などを表す信号がそれぞれ電子制御ユニット100に供給されるようになっている。また、制御系統全体をオン(アクティブ)、オフ(非アクティブ)するメインスイッチとして機能するIG(イグニッション)スイッチ84から、そのオン、オフ等の操作状態を表す信号が供給される。
電子制御ユニット100にはまた、インストルメントパネル等に設けられたレバーポジションインジケータ102、E/Sモードインジケータ104、レンジインジケータ106、ギヤ段インジケータ108、設定減速度インジケータ110、A/T警告灯112が接続されており、レバーポジションインジケータ102にシフトレバー72の操作ポジションを表示し、E/Sモードインジケータ104に現在のモードがEモード(減速度制御モード)かSモード(レンジ切換モード)かを表示し、レンジインジケータ106に現在の変速レンジを表示し、ギヤ段インジケータ108に現在のギヤ段を表示し、設定減速度インジケータ110に現在の目標減速度を表示し、自動変速機10のフェール等の異常時にA/T警告灯112を点灯表示する。
電子制御ユニット100は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御やモータジェネレータ32の力行/回生制御、自動変速機10の変速制御などを行い、エンジン30およびモータジェネレータ32の作動状態が異なる複数の運転モードで走行する。運転モードとしては、例えばエンジン30だけで駆動力を発生させて走行するエンジン走行モード、エンジン30により駆動力を発生させて走行するとともにモータジェネレータ32を回生制御してバッテリ42を充電する充電走行モード、エンジン30およびモータジェネレータ32の両方で駆動力を発生させて走行するエンジン+モータ走行モード、モータジェネレータ32だけで駆動力を発生させて走行するモータ走行モード、フューエルカットによりエンジン30に対する燃料供給を遮断してエンジンブレーキを発生させるとともに、モータジェネレータ32を力行或いは回生制御したり自動変速機10のギヤ段を切り換えたりすることにより、所定の動力源ブレーキを発生させる前記Eモード(減速度制御モード)などがある。
上記電子制御ユニット100によるエンジン30の出力制御は、前記電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置を制御したり、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置を制御したりする。電子スロットル弁の制御は、実際のアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータを駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させる。
また、自動変速機10の変速制御は、シフトレバー72のレバーポジションPSHに応じて行なわれる。シフトレバー72は運転席の近傍(センターコンソール部分)に配設され、図5に示すシフトパターンに従って「P(パーキング)」、「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、および「E/S」の各レバーポジションPSHへ択一的に操作され、レバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」については前記レバーポジションセンサ74によって検出され、レバーポジション「E/S」については前記E/Sポジションスイッチ76によって検出される。レバーポジション「E/S」を挟んでその前後には、「Can−Decel/+」位置および「Decel/−」位置が設けられている。
上記レバーポジション「P」は駐車位置で、自動変速機10は動力伝達遮断状態とされるとともに、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってパーキングロック機構などにより機械的に出力軸24、すなわち駆動輪が回転不能に固定される。レバーポジション「R」は後進走行を行なう後進走行位置で、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、自動変速機10は前記後進ギヤ段「Rev1」または「Rev2」が成立させられる。レバーポジション「N」は動力伝達遮断位置で、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、自動変速機10はクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2が解放されて動力伝達遮断状態とされる。
レバーポジション「D」は、自動変速機10の前進ギヤ段を自動的に切り換えて前進走行する前進走行位置すなわち前進走行ポジションで、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、総ての前進ギヤ段「1st」〜「8th」を成立させることが可能とされ、それ等の総ての前進ギヤ段「1st」〜「8th」を用いて自動的に変速する最上位のDレンジ(フルレンジ自動変速モード)が成立させられる。すなわち、シフトレバー72がレバーポジション「D」へ操作されると、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断してDレンジを電気的に成立させ、第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて変速制御を行う。具体的には、図示しない油圧制御回路に設けられた複数のATソレノイドの励磁、非励磁を制御することにより油圧回路を切り換え、図2(b) に示すようにクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を変化させて、第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の何れかの前進ギヤ段を成立させるのである。この変速制御は、例えば図8に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された変速マップ等の変速条件に従って行われ、車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側の前進ギヤ段を成立させる。このDレンジは、基本運転状態に相当する。
レバーポジション「E/S」は、前記EモードまたはSモードを成立させる操作ポジションで、Eモードは運転者の手動操作に従って減速度を制御する減速度制御モード、Sモードは運転者の手動操作に従って自動変速機10の変速レンジを電気的に切り換えるレンジ切換モードであり、モード切換スイッチ78の操作に従ってEモードおよびSモードの何れか一方が設定される。モード切換スイッチ78は自動復帰型のON−OFFスイッチで、図5に示すようにシフトレバー72の近傍に設けられており、オン操作される毎にモード切換指令SMを表す信号を出力する。モード切換スイッチ78はモード選択手段に相当し、Sモードすなわちレンジ切換モードはマニュアル変速モードに相当する。
そして、上記「E/S」ポジションの前後に設けられた「Can−Decel/+」位置および「Decel/−」位置にはそれぞれ前記Can−Decel/+スイッチ82、Decel/−スイッチ80が設けられ、シフトレバー72がそれ等の「Can−Decel/+」位置、「Decel/−」位置へ操作されたことを検出するようになっており、その操作回数に応じてシーケンシャル的に減速度制御やレンジ切換制御が行なわれる。「Can−Decel/+」位置および「Decel/−」位置は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に中立位置としてのレバーポジション「E/S」に戻されるとともに、Can−Decel/+スイッチ82、Decel/−スイッチ80は自動復帰型のON−OFFスイッチで、スプリング等の付勢手段により自動的にオフ状態に復帰する。また、E/Sポジションスイッチ76は、シフトレバー72が「Can−Decel/+」位置または「Decel/−」位置へ操作された場合もオン状態に保持され、EモードまたはSモードが継続される。本実施例ではシフトレバー72が手動操作部材を兼ねており、Can−Decel/+スイッチ82およびDecel/−スイッチ80は操作検出手段に相当する。
前記電子制御ユニット100は、上記EモードおよびSモードを実行するために、図7の機能ブロック線図に示すように、モード切換制御手段120、マニュアル変速制御手段124、減速度制御手段126、表示制御手段128を機能的に備えており、モード切換制御手段120は更に初期モード設定手段122を備えている。マニュアル変速制御手段124は、Sモードが設定されている場合に、シフトレバー72が「E/S」ポジションにおいて「Can−Decel/+」位置または「Decel/−」位置へ操作される毎に、図9に示すように変速レンジをアップダウンさせる。すなわち、このSモードでは、「Can−Decel/+」位置は変速レンジを高速側に切り換えるアップシフト位置として機能するとともに、「Decel/−」位置は変速レンジを低速側へ切り換えるダウンシフト位置として機能し、シフトレバー72がそれ等の「Can−Decel/+」位置または「Decel/−」位置へ操作され、そのことが前記Can−Decel/+スイッチ82、Decel/−スイッチ80によって検出されると、それに応じて変速レンジを切り換えるのである。図9は、予め定められた変速レンジとその変速範囲を示す図で、ギヤ段の欄の数字「1」〜「8」は第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」を表しており、変速比が最も大きい最低速前進ギヤ段は何れも第1速前進ギヤ段「1st」で、最高速前進ギヤ段が1つずつ変化している。また、各変速レンジでは、第1速前進ギヤ段「1st」からその最高速前進ギヤ段までの範囲で、前記Dレンジと同じ図8の変速条件に従って自動的に変速が行なわれる。上記マニュアル変速制御手段124は、この実施例ではレンジ切換制御手段として機能している。
減速度制御手段126は、Eモードが設定されている場合に、シフトレバー72が「E/S」ポジションにおいて「Can−Decel/+」位置または「Decel/−」位置へ操作される毎に、図10に示すように目標減速度を増減するとともに、その目標減速度が得られるように動力源ブレーキを制御する。すなわち、このEモードでは、「Can−Decel/+」位置は減速度を小さくする「Can−Decel」位置として機能するとともに、「Decel/−」位置は減速度を大きくする「Decel」位置として機能し、シフトレバー72がそれ等の「Can−Decel/+」位置または「Decel/−」位置へ操作され、そのことが前記Can−Decel/+スイッチ82、Decel/−スイッチ80によって検出されると、それに応じて目標減速度を切り換えるのである。図10は目標減速度の一例で、実線は初期値であり、例えばDレンジすなわちフルレンジ自動変速モードによる自動変速制御の実行時にアクセルオフの惰性走行で、フューエルカット状態のエンジンブレーキのみが作用している場合の減速度であり、車速Vが高くなる程大きくなる。そして、この初期値よりも大きな範囲で、上記シフトレバー操作に従って、例えば一点鎖線で示すように予め定められた一定量ずつ目標減速度が増減させられる。車速Vの他に路面勾配や操舵角等の運転状態を考慮して目標減速度が定められるようにすることもできる。
そして、このように設定された目標減速度が得られるように動力源ブレーキを制御するのであるが、動力源ブレーキトルクは、自動変速機10のギヤ段に応じて得られるエンジンブレーキトルクとモータジェネレータ32の力行トルク或いは回生トルクとを加算したものであるため、図11に実線で示す各前進ギヤ段におけるエンジンブレーキトルクを中心として、モータジェネレータ32を回生制御すれば、その回生トルクに応じて動力源ブレーキトルクをそれぞれ破線で示す範囲まで増大させることができる。また、モータジェネレータ32を力行制御すれば、その力行トルクに応じて動力源ブレーキトルクを一点鎖線で示す範囲まで減少させることが可能で、各ギヤ段において得られる動力源ブレーキトルクの範囲を互いにオーバーラップさせることができる。したがって、基本的にはモータジェネレータ32を回生制御してバッテリ42を充電しつつ目的とするブレーキトルクを発生させるが、バッテリ42が満充電で充電不可の場合には、ギヤ段を下げてエンジンブレーキトルクを増大させるとともに、モータジェネレータ32を力行制御してブレーキトルクを低下させることにより、目的とするブレーキトルクを得ることができる。図11では、第5速前進ギヤ段「5th」までしか記載していないが、それ以下の前進ギヤ段についても同様で、更に大きな動力源ブレーキトルクを発生させることができる。
一方、前記Sモードでは、レバーポジションインジケータ102に設けられたガイド表示部114に、表示制御手段128によって図6の(b) に示すように、「E/S」ポジションが「S」ポジションすなわちレンジ切換モード位置で、「Can−Decel/+」位置が「+」位置すなわちアップシフト位置で、「Decel/−」位置が「−」位置すなわちダウンシフト位置であることを、シフトレバー72の操作位置に合わせて視覚的に表した操作ガイドが表示される。また、Eモードでは、表示制御手段128によって図6の(a) に示すように、「E/S」ポジションが「E」ポジションすなわち減速度制御モード位置で、「Can−Decel/+」位置が「Can−Decel」位置すなわち減速度を小さくする位置で、「Decel/−」位置が「Decel」位置すなわち減速度を大きくする位置あることを、シフトレバー72の操作位置に合わせて視覚的に表した操作ガイドが表示される。このガイド表示部114の操作ガイドは、シフトレバー72が「E/S」ポジション以外の操作ポジションに保持されている場合でも、IGスイッチ84がオンの間は常時表示されるようになっている。上記ガイド表示部114および表示制御手段128によってガイド表示手段が構成されている。
また、図7のモード切換制御手段120は、モード切換スイッチ78のオン操作に従ってモード切換指令SMを表す信号が供給されることにより、EモードとSモードとを切り換えるもので、図12のフローチャートに従って信号処理を実行する。図12のステップS1では、現在のモードが正常状態か否かを制御状態や制御結果、ダイアグノーシス等により判断し、正常状態であればステップS2以下を実行するが、フェール等で正常状態でない場合はステップS6以下を実行する。ステップS6では、A/T警告灯112を点灯するなどのフェール表示を行い、ステップS7では現在と反対のモードが正常状態か否かをダイアグノーシス等により判断する。そして、反対のモードが正常状態であればステップS5を実行するが、反対のモードもフェール等で正常状態でない場合は、ステップS8でDレンジすなわちフルレンジ自動変速モードに強制的に切り換えるとともに、表示制御手段128によりE/Sモードインジケータ104のモード表示やレバーポジションインジケータ102のガイド表示部114の操作ガイドを非表示とする。図6の(c) は、レバーポジションインジケータ102のガイド表示部114が非表示とされた場合である。
現在のモードが正常状態の場合に実行するステップS2では、モード切換スイッチ78がオン操作されたか否かを判断し、モード切換スイッチ78がオン操作されるとステップS3以下を実行するが、オン操作されていない場合はステップS10を実行する。ステップS10では、現在のモードを維持するとともに、表示制御手段128によりE/Sモードインジケータ104のモード表示やレバーポジションインジケータ102のガイド表示部114の操作ガイドを維持する。
モード切換スイッチ78がオン操作された場合に実行するステップS3では、車速Vが予め定められた車速V1(例えば5km/h)以下の停車状態か否かを判断し、停車状態でない場合、つまり走行中である場合には、モード切換を中止して前記ステップS10を実行し、停車状態になったらステップS4を実行する。モード切換スイッチ78がオン操作されたことは、V<V1となるまで記憶されている。なお、走行中のモード切換スイッチ78のオン操作は無効である旨の表示を出して、車両停止時のオン操作のみを有効として処理するようにしても良い。
ステップS4では、切り換えるべきモードすなわち現在と反対のモードが正常状態か否かを、ステップS7と同様にダイアグノーシス等により判断し、正常状態であればステップS5を実行する。ステップS5では、現在と反対のモードに切り換えるとともに、表示制御手段128によりE/Sモードインジケータ104のモード表示やレバーポジションインジケータ102のガイド表示部114の操作ガイドを、その反対のモードに切り換える。
また、上記ステップS4の判断がNO(否定)の場合、すなわち現在と反対のモードがフェール等で正常状態でない場合は、ステップS4に続いてステップS9を実行し、ステップS6と同様にA/T警告灯112を点灯するなどのフェール表示を行った後、ステップS10を実行して現在のモードを維持する。
図7に戻って、初期モード設定手段122は、上記EモードおよびSモードに関する初期モードの設定方法について定めたもので、例えば図13の(a) 、(b) に示すように、IGスイッチ84がOFF位置へ操作(オフ操作)された時の最終のモードを初期モードとして設定する。図13の(a) は、IGスイッチ84がオフ操作された時のモードを初期モードメモリ116(図4参照)に記憶するためのもので、ステップQ1−1ではIGスイッチ84がOFF位置へ操作されたか否かを判断し、OFF位置へ操作されたら、ステップQ1−2を実行してその時のモードを初期モードメモリ116に記憶した後、ステップQ1−3でIGスイッチ84のオフ操作に伴う終了処理(オフ動作)を実行する。また、図13の(b) は、IGスイッチ84がON位置へ操作(オン操作)された時の処理で、ステップQ2−1ではIGスイッチ84がON位置へ操作されたか否かを判断し、ON位置へ操作されたら、ステップQ2−2を実行して初期モードメモリ116に記憶されているモードを読み込んで現在のモードに設定した後、ステップQ2−3でIGスイッチ84のオン操作に伴う起動処理(オン動作)を実行する。初期モードメモリ116は、電源オフでも記憶内容を保持できるSRAMなどで、電子制御ユニット100が備えている。
初期モード設定手段122はまた、運転者が任意に初期モードを設定できるようになっており、図14のフローチャートに従って信号処理を行う。図14のステップR1では、例えばタッチスイッチ機能を有するEMV(エレクトロマルチビジョン)等の操作装置により初期モード設定操作が選択されたか否かを判断し、初期モード設定操作が選択された場合は、ステップR2で初期モード設定画面をEMV等に表示する。そして、ステップR3では、そのEMV等により設定変更操作、すなわちEモードまたはSモードを初期モードとして設定したり、この手動操作による初期モードの設定を解除したりする操作が為されたか否かを判断し、このように設定変更操作が為されたらステップR4で、その設定されたモードを初期モードメモリ116に記憶するか、或いは手動で設定された初期モードを解除する。また、ステップR5では、初期モード設定操作の終了が選択されたか否かを判断し、初期モード設定操作の終了が選択された場合は、ステップR6で終了処理を行う。
このように図14のフローチャートに従って初期モードメモリ116に初期モードが設定されると、前記図13の(a) のフローチャートの実行が禁止され、図14のフローチャートに従って設定された初期モードが図13の(b) のフローチャートに従って常に現在のモードとして初期設定される。また、図14の初期モード設定操作が為されなかった場合、或いはステップR3で手動による初期モードの設定が解除操作された場合は、図13の(a) が実行されてIGスイッチ84のオフ操作時のモードが初期モードに設定される。
ここで、本実施例の車両の制御装置は、シフトレバー72が「E/S」ポジションへ操作されると、モード切換スイッチ78の操作や初期モード設定操作などに従ってEモードおよびSモードの何れか一方が成立させられるとともに、その「E/S」ポジションにおけるシフトレバー72のシーケンス操作を検出するDecel/−スイッチ80およびCan−Decel/+スイッチ82は、そのEモードおよびSモードにおいて共通して用いられ、モード切換スイッチ78等によりEモードが選択されると、Decel/−スイッチ80およびCan−Decel/+スイッチ82はそれぞれDecelスイッチ、Can−Decelスイッチとして機能して、それ等の操作に従って減速度の増減制御が行なわれる一方、Sモードが選択されると、Decel/−スイッチ80およびCan−Decel/+スイッチ82はそれぞれ−スイッチ、+スイッチとして機能して、それ等の操作に従って変速レンジのアップダウン制御が行われる。
このように、運転者の手動操作による減速度制御(Eモード)およびレンジ切換制御(Sモード)が、共通のシフトレバー72およびDecel/−スイッチ80、Can−Decel/+スイッチ82を用いて行なわれるとともに、モード切換スイッチ78等によってEモードとSモードとが切り換えられるようになっているため、それ等の手動操作部材や操作検出手段をモード毎に別々に設ける場合に比較して、装置が全体として簡単且つ安価でコンパクトに構成されるとともに、操作性が向上する。
また、シフトレバー72が「E/S」ポジションから前側に設けられた「Can−Decel/+」位置に操作されると、Eモードが選択されている場合には車両の減速度が小さくされるとともに、Sモードが選択されている場合には変速レンジがアップされる一方、後側に設けられた「Decel/−」位置に操作されると、Eモードが選択されている場合には車両の減速度が大きくされるとともに、Sモードが選択されている場合には変速レンジがダウンされる。ここで、車両減速時にあっては、自動変速機10の変速レンジがアップされると車両の減速度が小さくなり、変速レンジがダウンされると車両の減速度が大きくなる。このように、Sモードが選択されている場合であっても、Eモードが選択されている場合と同様、「Can−Decel/+」位置は車両の減速度を小さくする操作位置とされ、「Decel/−」位置は車両の減速度を大きくする操作位置とされるので、操作性が向上する。「Can−Decel/+」位置は第1位置で、「Decel/−」位置は第2位置に相当する。
また、車両が停車状態にないときには、つまり車両の走行中は、モード切換スイッチ78の操作に拘らずEモードとSモードとの切換が禁止されるため(ステップS3)、モード切換スイッチ78の誤操作などにより、走行中に車両の駆動力(制動力を含む)が大きく変化するなどして運転者に違和感を生じさせることが防止される。
また、図6に示すようにEモードおよびSモード毎にシフトレバー72の操作ガイドすなわち各操作位置における指示内容が、レバーポジションインジケータ102のガイド表示部114に表示されるため、単にモード名を表示するだけの場合に比較して、シフトレバー72の操作が容易になるとともに誤操作が抑制される。
また、EモードおよびSモードの何れか一方がフェール等で実行不可の時には他方のモードに強制的に切り換えられるため(ステップS1、S4、S7)、走行中にフェールした場合でも、その他方のモードで駆動力を制御しながら走行することができる。
また、車両のメインスイッチ(IGスイッチ84)がオン操作された以後の初期モードとして、運転者の手動操作によって設定されたモードが設定されることから(ステップR4)、初期モードの設定に運転者の意図を反映させることができる。手動操作によって初期モードが設定されていない場合は、車両のメインスイッチ(IGスイッチ84)がオン操作された以後の初期モードとして、メインスイッチがオフ操作された時に設定されていた最終のモードが設定されることから(ステップQ2−2)、その場合も初期モードの設定に運転者の意図が反映される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
図15は前記図7に相当する図で、マニュアル変速モードとしてSモード(レンジ切換モード)の他にMモード(ギヤ段切換モード)を選択できる場合であり、マニュアル変速制御手段130はレンジ切換制御手段132およびギヤ段切換制御手段134を備えており、レンジ切換制御手段132は実質的に前記実施例のマニュアル変速制御手段124と同じ機能を有する一方、ギヤ段切換制御手段134は、前記図9に示す各変速レンジの最高速ギヤ段のみを用いて、運転者のシフトレバー72によるアップダウン操作に従って自動変速機10を変速する。そして、この場合のモード切換制御手段136は、EモードとMモードとが直接切り換えられることがないように、例えば図16に示すフローチャートに従ってモード切換を行う。
図16は、車両の走行中においてもモード切換が可能な場合で、ステップSS1では、モード切換スイッチ78がオン操作されたか否かを判断し、オン操作された場合はステップSS2で現在のモードがSモードすなわちレンジ切換モードか否かを判断する。そして、SモードでなければステップSS6を実行し、Sモードへ切り換えるとともに、表示制御手段128によりE/Sモードインジケータ104をSモードとし、レバーポジションインジケータ102のガイド表示部114の操作ガイドを、図17の(b) に示すSモード用に変更する。また、現在のモードがSモードでない場合は、ステップSS3以下を実行する。
ステップSS3では、前回(一つ前)のモードがMモードすなわちギヤ段切換モードか否かを判断し、Mモードの場合は、ステップSS4でEモードへ切り換えるとともに、表示制御手段128によりE/Sモードインジケータ104をEモードとし、レバーポジションインジケータ102のガイド表示部114の操作ガイドを、図17の(a) に示すEモード用に変更する。また、前回のモードがMモードでない場合、すなわちEモードの場合は、ステップSS5でMモードへ切り換えるとともに、表示制御手段128によりE/Sモードインジケータ104をMモードとし、レバーポジションインジケータ102のガイド表示部114の操作ガイドを、図17の(c) に示すMモード用に変更する。
この実施例では、マニュアル変速モードとしてSモード(レンジ切換モード)およびMモード(ギヤ段切換モード)を有し、Eモード(減速度制御モード)と合わせて3つのモードを択一的に選択できるが、自動変速機10のギヤ段が直接設定されるEモードとMモードとの直接切換が不可とされているため、モード切換スイッチ78の誤操作などにより、車両の駆動力(制動力を含む)が大きく変化するなどして運転者に違和感を生じさせることが防止される。すなわち、Mモードは、変速比が異なる複数のギヤ段を運転者の手動操作に従って直接切り換えるものであるため、EモードとMモードとの直接切換によって生じる駆動力変化は、EモードとSモードとの直接切換によって生じる駆動力変化よりも相対的に大きくなる可能性がある。しかし、本実施例ではEモードとMモードとの直接切換が不可とされているため、モード切換スイッチ78の誤操作などが生じたとしても、駆動力変化が小さくなり、運転者に違和感を生じさせることが防止されるのである。
なお、この実施例においても、前記実施例と同様に車両走行中のモード切換を禁止し、停止時(V<V1)にのみモード切換が行われるようにしても良い。
また、前記実施例ではEモードやSモード、Mモード用の手動操作部材としてシフトレバー72が用いられていたが、図18に示すようにステアリングホイール140の近傍のステアリングコラム142に、EモードやSモード、Mモード専用のDecel/−レバー144およびCan−Decel/+レバー146を設け、矢印で示すように回動操作(オン操作)されることにより図示しない操作検出手段(前記Decel/−スイッチ80やCan−Decel/+スイッチ82など)によってその回動操作がそれぞれ検出されるようにしても良い。Decel/−レバー144およびCan−Decel/+レバー146は何れも自動復帰型のレバーで、それぞれスプリング等の付勢手段により自動的に中立位置(オフ状態)まで戻り回動させられる。また、位置固定のステアリングコラム142に設けられているため、運転者がステアリングホイール140を回転操作している最中でも容易に操作できる。なお、シフトレバー72に前記「E/S」ポジションを設けるとともに、ステアリングコラム142にDecel/−レバー144およびCan−Decel/+レバー146を設け、運転者の好みや運転状態などによりどちらを操作しても減速度制御やマニュアル変速制御が可能なように構成することもできる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
10:自動変速機 30:エンジン 32:モータジェネレータ 72:シフトレバー(手動操作部材) 78:モード切換スイッチ(モード選択手段) 80:Decel/−スイッチ(操作検出手段) 82:Can−Decel/+スイッチ(操作検出手段) 84:IGスイッチ(メインスイッチ) 100:電子制御ユニット 114:ガイド表示部(ガイド表示手段) 120:モード切換制御手段 122:初期モード設定手段 124:マニュアル変速制御手段(レンジ切換制御手段) 126:減速度制御手段 128:表示制御手段(ガイド表示手段) 130:マニュアル変速制御手段 132:レンジ切換制御手段 134:ギヤ段切換制御手段 136:モード切換制御手段 144:Decel/−レバー(手動操作部材) 146:Can−Decel/+レバー(手動操作部材)