JP4156175B2 - タンタル酸リチウム/ニオブ酸リチウム単結晶材料用精密研磨組成物 - Google Patents
タンタル酸リチウム/ニオブ酸リチウム単結晶材料用精密研磨組成物 Download PDFInfo
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Description
【技術分野】
本発明は、タンタル酸リチウム/ニオブ酸リチウム単結晶材料用精密研磨組成物に係り、特に、タンタル酸リチウム単結晶材料やニオブ酸リチウム単結晶材料の如き硬脆材料を研磨加工するに際して、精密で綺麗な面質を与えると共に、優れた研磨効率、研磨寿命を有する硬脆材料用精密研磨組成物に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、テレビの中間周波数フィルタや共振器等のエレクトロニクス部品として、圧電体における圧電効果により発生する弾性表面波(SAW)を利用した弾性表面波デバイスが、広く用いられてきており、特に、近年においては、そのような弾性表面波デバイスが用いられる携帯電話の普及率が著しく拡大しているが、また、それに伴って、かかる弾性表面波デバイスを構成する圧電体ウェーハの需要も指数関数的に増大してきている。そして、そのような圧電体ウェーハ材料としては、圧電性、焦電性、電気光学効果に優れたタンタル酸リチウム単結晶材料やニオブ酸リチウム単結晶材料といった硬脆材料が、広く採用されているのである。
【0003】
そして、そのような硬脆材料からなる弾性表面波デバイス用ウェーハにあっては、通常、電極が写真印刷せしめられる表面には、精密研磨加工が施されて、該表面が鏡面と為されるのであって、具体的には、ポリウレタン等からなる研磨布を貼った定盤を用いて、かかる定盤を回転せしめると共に、スラリー状の研磨材を研磨布面上に供給しつつ、被加工材料としてのウェーハを研磨布面に押圧せしめることにより、ウェーハ表面が精密研磨(ポリッシング)されるように為し、以て精密研磨加工が施されることとなる。
【0004】
また、この精密研磨加工において用いられる研磨材としては、被加工材料(ウェーハ)表面を、高度に精密研磨仕上げせしめ得るものであることは勿論、その研磨効率乃至は研磨速度において優れたものであることが、望まれているのである。しかも、そのような研磨材は、経済的な理由から、一般に、その一定量を循環させることにより、繰り返し使用されるものであり(所謂、循環供給方式)、そして、そのような使用に際しては、研磨効率の減少に応じて研磨材の一部を新しい研磨材と交換したり、或いはまた、所定の研磨時間の経過後にその全てを新しいものに交換する必要性が不可避的に生じるところから、研磨効率(速度)が長時間に亘って一定に維持され得る、換言すれば研磨寿命の良好なものであることが、要請されている。
【0005】
ところで、上述の如きウェーハ材料として用いられるタンタル酸リチウム単結晶材料等の硬脆材料にあっては、硬くて脆いものであるところから、研磨材として仕上研磨に通常用いられる、粒子が粗く且つ硬い性質を有するアルミナや、ダイヤモンド等の硬質研磨材を採用すると、研磨速度は上がるものの、研磨表面にピットやスクラッチが生じたり、ウェーハ表面内部に加工歪みが残ったり、また表面精度が極めて悪くなる等といった問題を内在しているため、実用化は極めて困難であったのであり、また、化学的に安定な材料であるところから、メカノケミカル作用による研磨効果が極めて低く、これまでに、そのようなメカノケミカル作用に基づいた有用な研磨促進効果も報告されておらず、有効な研磨促進剤も見出されていないのである。
【0006】
そこで、かくの如きウェーハの精密研磨材としては、特開昭58−225177号公報、特開昭62−30333号公報、特開平5−154760号公報等に開示されている如き、コロイダルシリカを主成分として含むシリコンウェーハ用研磨材が、採用されてきたのであるが、そのようなコロイダルシリカ研磨材にあっては、表面及び内面に欠陥を惹起することなく、研磨面の精度を高度に達成し得るという特徴を有する一方で、研磨速度(研磨効率)が充分であるとは言い難く、研磨時間の短縮を図る上で、大きな障害となっていたのであり、また、研磨時間の経過に従って、研磨速度が顕著に低下するといった不具合をも惹起するものであるところから、上述の如く、循環供給方式を採用する場合にあっては、研磨材の交換を頻繁に行なう必要性が生じているのであるのである。このため、そのような方式には、作業効率及び作業性が悪化し、また研磨材や設備に要されるコストの上昇を惹起する等といった問題があったのである。
【0007】
そして、そのような問題に対処するために、特開平5−1279号公報には、硬脆材料用の表面精密研磨材として、BET比表面積が10〜60m2 /gであり、二次粒子の平均粒子径が0.5〜5μmである微粒子状二酸化珪素のみを固形成分として含む、水性スラリー分散液が提案されており、そこでは、研磨面の表面精度が良好に維持され、且つ、上述のコロイダルシリカ研磨材に比して、研磨寿命が向上されてはいるものの、研磨速度に関しては、未だ改善の余地が存している。
【0008】
また、特開平6−191988号公報には、特定のコロイダルシリカ、つまり、pH=9〜14の塩基性水溶液中に、粒径30〜70nmの固形成分(シリカ)が分散せしめられたコロイダルシリカのみからなる研磨材が提案されているが、そこでは、光学ウエハーの研磨面を鏡面にすることによって、エピタキシャル成長層を形成した後の光学ウエハーの反りを防止することが開示されているに過ぎず、研磨速度や研磨寿命については、検討されていない。
【0009】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、タンタル酸リチウム/ニオブ酸リチウム単結晶材料(以下、硬脆材料という)の精密研磨加工において、該硬脆材料に、ピット、スクラッチ、突起、及び加工歪み等の研磨不良を生じることなく、表面を高精度に研磨せしめることが出来ると共に、優れた研磨速度と研磨寿命とを実現し得る硬脆材料用精密研磨組成物を提供することにある。
【0010】
そして、本発明者らは、上述の如き課題を解決すべく鋭意検討した結果、研磨組成物における主たる成分であるベース研磨材としてのコロイダルシリカに対して、ヒュームド・アルミナ、無晶形二酸化珪素、ヒュームド・シリカ、若しくはベース研磨材とは異なる粒子径のコロイダルシリカ、又はキレート性化合物を添加することにより、優れた研磨面精度、研磨速度及び研磨寿命を実現し得る事実を見出したのである。
【0011】
従って、本発明は、かくの如き知見に基づいて完成されたものであって、その要旨の一つとするところは、コロイダルシリカに対して、平均1次粒子径が10〜40nmで、BET比表面積が40〜100m2 /gのヒュームド・アルミナ、平均粒子径が1.0〜5.0μmで、BET比表面積が110〜420m2 /gの無晶形二酸化珪素、及び平均1次粒子径が12〜40nmで、BET比表面積が50〜200m2 /gのヒュームド・シリカのうちの少なくとも何れか一つを分散、含有せしめたことを特徴とする硬脆材料用精密研磨組成物にある。
【0012】
このような、本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、ベース研磨材としての比較的軟らかなコロイダルシリカに対して、該コロイダルシリカよりも、構造的な見地より、硬度が高いと推定される、所定のヒュームド・アルミナ、無晶形二酸化珪素、ヒュームド・シリカのうちの何れか1種が、均一に分散せしめた状態で、更に配合せしめられるものであるところから、加工歪みが効果的に回避され得ると共に、研磨面にスクラッチやピット等の損傷が付与されたり、研磨面の表面粗度を悪化するようなことが、有利に阻止乃至は解消され得ることとなり、以て、硬脆材料の表面を極めて綺麗な鏡面に精密研磨せしめると共に、研磨速度が有利に向上され得て、研磨時間を効果的に短縮せしめることが出来るのであり、また、その繰り返しの使用に際して、研磨速度が長時間に亘って維持され得、特に優れた研磨寿命が実現され得るのである。そして、そのような優れた研磨速度及び研磨寿命によって、硬脆材料の精密研磨加工における作業能率及び作業性の飛躍的な向上と良好な経済性という効果をも享受し得るのである。
【0013】
なお、かかる本発明に従う研磨組成物の好ましい態様の一つによれば、前記コロイダルシリカとしては、5〜150nmの粒子径の範囲のものが採用され、これによって、硬脆材料の研磨面が綺麗な鏡面に効果的に仕上げられることとなる。
【0014】
また、本発明によれば、前記コロイダルシリカは固形分で10〜50重量%の割合において含有される一方、前記ヒュームド・アルミナ、無晶形二酸化珪素及びヒュームド・シリカのうちの少なくとも何れか一つは、合計量で、2〜25重量%の割合において含有せしめられ、それによって、研磨組成物のシリカ粒子及び/又はアルミは粒子の安定した分散が確保され得、以て、上述した効果がより一層効果的に発揮されるのである。
【0015】
また、本発明においては、前述の課題を解決するために、第一のコロイダルシリカに対して、該第一のコロイダルシリカとは平均粒度が異なる第二のコロイダルシリカの少なくとも1種を添加、含有せしめたことを特徴とする硬脆材料用精密研磨組成物をも、その要旨とするものである。
【0016】
このような本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、平均粒度、従って粒度分布の異なる複数のコロイダルシリカを組み合わせたところに、大きな特徴を有しており、それにより、研磨特性の有効な向上が図られ得ているのである。即ち、そのような粒度の異なるコロイダルシリカ同士を組み合わせるところから、コロイダルシリカ中のシリカの粒度分布が広範囲なものと為されることにより、研磨不良を生じることなく、極めて優れた面質が確保されると共に、研磨速度とその維持において、良好な機能が実現され得るのである。
【0017】
さらに、本発明にあっては、前述せる課題を解決するために、コロイダルシリカに対して、キレート性化合物を研磨促進剤として添加、含有せしめてなることをも、その要旨としている。
【0018】
この本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、所定のキレート性化合物が、研磨促進剤として添加せしめられて、構成されるところに、大きな特徴があり、そのような研磨組成物にあっては、研磨の際の研磨抵抗が適度に緩和されること等により、従来のコロイダルシリカのみからなる、研磨促進剤を何等含有していない研磨組成物に比して、より一層、研磨速度が向上せしめられると共に、そのような研磨速度が長期間に亘って維持され、優れた研磨寿命を奏し得るのである。
【0019】
加えて、本発明にあっては、前述せる課題を解決するために、また、コロイダルシリカに対して、シリカ粒子及びアルミナ粒子のうちの少なくとも何れか一つを分散、含有せしめると共に、更に、キレート性化合物を添加、含有せしめてなることを特徴とする硬脆材料用精密研磨組成物をも、その要旨としている。
【0020】
このような本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子と共に、キレート性化合物が、所定のコロイダルシリカ中に含有せしめられることによって、より一層優れた研磨特性の改善効果が得られることとなる。
【0021】
そして、また、本発明にあっては、前述せる課題を解決するために、第一のコロイダルシリカに対して、該第一のコロイダルシリカとは平均粒度が異なる第二のコロイダルシリカの少なくとも1種を添加、含有せしめると共に、更に、キレート性化合物を添加、含有せしめてなることを特徴とする硬脆材料用精密研磨組成物をも、その要旨とするものである。
【0022】
かかる硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、異なる平均粒度を有する複数のコロイダルシリカを組み合わせることによる上述せる如き効果と、キレート性化合物による研磨促進効果が相俟って、研磨加工の際に、より優れた研磨表面が得られると共に、研磨速度、及びその持続性が有利に向上されることとなる。
【0023】
さらに、本発明において、前述せる課題を解決するために、別の要旨とするところは、第一のコロイダルシリカに対して、該第一のコロイダルシリカとは平均粒度が異なる第二のコロイダルシリカの少なくとも1種を添加、含有せしめると共に、更に、シリカ粒子及びアルミナ粒子のうちの少なくとも何れか一つを分散、含有せしめてなることを特徴とする硬脆材料用精密研磨組成物にある。
【0024】
このような硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、平均粒度の異なるコロイダルシリカの複数を組み合わせることにより、極めて広い粒度分布のシリカが分散せしめられることとなり、更に、それに対して、所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子を分散せしめるところから、前述した種々の優れた効果が、より一層効果的に実現され得るのである。
【0025】
また更に、本発明においては、先述せる課題を解決するために、第一のコロイダルシリカに対して、該第一のコロイダルシリカとは平均粒度が異なる第二のコロイダルシリカの少なくとも1種を添加、含有せしめると共に、シリカ粒子及びアルミナ粒子のうちの少なくとも何れか一つを分散、含有せしめ、更に、キレート性化合物を研磨促進剤として添加、含有せしめてなることを特徴とする硬脆材料用精密研磨組成物をも、その要旨をしている。
【0026】
かかる硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、ベース研磨材たるコロイダルシリカに対して、上述の如き優れた研磨特性を付与する所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子、ベース研磨材とは平均粒度の異なるコロイダルシリカ、及びキレート性化合物が共に含有せしめられてなるところから、より一層優れた研磨特性が奏され得ることとなる。
【0027】
また、かくの如き本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物の好ましい態様の一つによれば、前記第一のコロイダルシリカが固形分で10〜50重量%の割合において含有せしめられていると共に、該第一のコロイダルシリカと前記第二のコロイダルシリカとが、固形分の合計量で、20〜60重量%の割合において含有せしめられる。
【0028】
さらに、かかる本発明の別の好ましい態様によれば、前記第一のコロイダルシリカの平均粒子径が30〜60nmである一方、前記第二のコロイダルシリカの平均粒子径が5〜22nmまたは80〜100nmであり、且つ該第一のコロイダルシリカと該第二のコロイダルシリカとが固形分の重量比で60〜80%と40〜20%の割合となるように用いられる。これにより、前述した各種の効果が、より一層効果的に向上せしめられ得るのである。
【0029】
なお、本発明に従う研磨組成物にあっては、前記研磨促進剤としては、ポリアミノカルボン酸系キレート性化合物及び有機フォスフォン酸系キレート性化合物のうちの少なくとも1種が、有利に用いられる。
【0030】
また、そのような本発明に従う研磨組成物に添加せしめられる、前記研磨促進剤は、0.1〜5.0重量%の割合において含有せしめられることが望ましく、これによって、より一層優れた研磨効率が得られることとなる。
【0031】
さらに、本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、前記シリカ粒子及びアルミナ粒子として、無晶形二酸化珪素、ヒュームド・シリカ及びヒュームド・アルミナが、有利に用いられることとなる。
【0032】
加えて、そのような本発明に従う研磨組成物の好ましい態様の一つによれば、前記シリカ粒子及びアルミナ粒子のうちの少なくとも何れか一つが、合計量で、2〜25重量%の割合において含有せしめられ、これにより、シリカ粒子及び/又はアルミナ粒子の均一単分散化が可能となり、以て、研磨組成物のゲル化が阻止され得て、極めて綺麗な研磨鏡面が得られる等といった各種の優れた効果が発揮されるのである。
【0033】
そして、上述の如き本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、pHが7〜11のアルカリ性に調整されていることが望ましく、それによって、粒子間において働く電気的な反発力が、各粒子に効果的に作用して、固形成分は、均等に分散されることとなるところから、それら微粒子が凝集して固まることにより、研磨精度が低下したり、循環利用が困難となる等といった不具合を惹起するようなことが、有利に抑制乃至は防止され得るのである。
【0034】
また、このような本発明にあっては、前述せるように、かかる硬脆材料としては、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料が対象とされるのである。
【0035】
【発明の実施の形態】
要するに、かかる本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物(研磨材)にあっては、珪酸のコロイド溶液であるシリカゾルの中でも、特に、特殊処理によってその分散状態が安定化せしめられたシリカゾルであるコロイダルシリカをベース研磨材として用い、それに対して、他の研磨材としての所定のシリカ粒子、アルミナ粒子、又は、平均粒度の異なるコロイダルシリカ、或いは研磨促進剤としてのキレート性化合物のうちの少なくとも一つを、更に分散乃至は溶解させて、配合せしめたものであるところから、硬脆材料の精密研磨加工の際に、優れた面性状を確保すると共に、研磨効率、研磨寿命が極めて効果的に向上せしめられ得ることとなるのであるが、このような本発明において、ベース研磨材として用いられるコロイダルシリカは、上述の各種の研磨特性の中でも特に研磨材料である硬脆材料の研磨表面の面質を高度に維持する上において、必要不可欠の成分なのである。
【0036】
ところで、そのようなコロイダルシリカとしては、かかるコロイダルシリカ中の固形成分であるシリカが公知の如何なる粒子径や含有量(固形分量)のものでも採用することが出来るが、研磨面を極めて綺麗な鏡面に仕上げるためには、その粒子径としては、5〜150nmの範囲にあるものが、好適に採用され、また、コロイダルシリカの固形分量としては、研磨材の安定した分散状態の確保やその経済性等を考慮して、10〜50重量%が望ましく、更には、それらの粒子径及び固形分量の中でも、粒子径が大きく、固形分量の高いものが、高い研磨速度を得る上で、有利に用いられることとなる。なお、そのようなコロイダルシリカの粒子径が5nmより小さい場合にあっては、有効な研磨速度が得られないこととなり、150nmより大きい場合には、面質が悪化すると共に、コストも高くなってしまうのである。また、固形分が10重量%未満である場合には、コロイダルシリカによる研磨効果、特に優れた面質が得られないのであり、50重量%を超える場合には、コストの急騰が惹起されるのみならず、ベース研磨材としてのコロイダルシリカ以外の研磨材やその他の配合剤を更に配合せしめる際に、凝集やゲル化が発生し易くなるといった問題が生ずるのである。
【0037】
そして、本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物の一つは、このようなコロイダルシリカに対して、所定のシリカ粒子及びアルミナ粒子のうちの少なくとも1種が適宜に選択されて、それが細かな微粒子状態において、分散せしめられてなる構成とされており、それによって、ピットやスクラッチ、加工歪み等の研磨不良が効果的に回避され、硬脆材料の表面が極めて綺麗な鏡面に精密研磨せしめられ得ると共に、研磨速度が有利に向上され得て、研磨時間を効果的に短縮せしめることが出来るようになったのであり、また、特に、それを循環利用するに際して、研磨速度が長時間に亘って維持される、優れた研磨寿命が実現され得たのである。そして、そのような研磨速度と研磨寿命の向上により、精密研磨加工における作業効率及び作業性の向上と、良好な経済性が奏され得ることとなったのである。
【0038】
そのようなシリカ粒子及びアルミナ粒子には、精密研磨加工の際に、前述せる如きコロイダルシリカによる優れた表面性状を悪化させないものであることが求められ、特に、極めて細かな微粉末状のものが好適に採用されることとなる。具体的には、シリカ粒子としては、無晶形二酸化珪素やヒュームド・シリカが挙げられる一方、アルミナ粒子としては、ヒュームド・アルミナが挙げられ、このような微粒子状のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子が配合せしめられることによって、優れた研磨速度、研磨寿命を実現し得るのであるが、その理由としては、本発明者らの推察によれば、かかるシリカ粒子やアルミナ粒子が、コロイダルシリカに比して適度に硬いものであるところに起因すると考えられる。なお、そのようなコロイダルシリカやシリカ粒子、アルミナ粒子の硬度は実測されてはいないのであるが、無晶形二酸化珪素やヒュームド・シリカは、球状シリカが水溶液中で網の目状や、鎖状に分散しているのに対して、コロイダルシリカは球状シリカがコロイド状に単分散しているために、コロイダルシリカがより軟らかく挙動するものと推定され、また、ヒュームド・アルミナにあっては、その材質上、コロイダルシリカより硬いものと考えられるのである。
【0039】
詳細には、本発明に用いられる無晶形二酸化珪素は、湿式法(代表的な方法として、珪酸ナトリウムを酸で中和する方法がある)にて製造される微粉末状の非晶質シリカ(湿式法シリカ)であり、ゲル状にして製造されるために、シリカ粒子間は単なる凝集ではなく融合した状態となっており、最終的に乾燥された製品は、一般に、一定の2次粒子となっている。そのような2次粒子からなる無晶形二酸化珪素の中でも、優れた表面性状を維持しつつ、研磨速度及び研磨寿命を上げるためには、粒子径の細かなものを選択することが望ましく、一般に、平均粒子径:1.0〜5.0μm、BET比表面積:110〜420m2 /gのものが有利に採用される。
【0040】
一方、本発明に用いられるヒュームド・シリカは、微粉末状の非晶質シリカの中でも、気相反応法乃至は乾式法にて製造されるシリカ(気相法シリカ)であって、気相にて製造されるものであるところから、エアロゾルに近い、極めて細かな粒子径を有する、1次粒子からなるものである。そして、かかるヒュームド・シリカの中でも、優れた表面性状を維持しつつ、研磨速度及び研磨寿命を上げるためには、比表面積が小さく、1次粒子の大きなものを選択することが望ましく、1次粒子の平均粒子径:12〜40nm、BET比表面積:50〜200m2 /gのものが、より好適に用いられる。なお、上記の気相反応法とは、金属化合物(珪素化合物)蒸気と反応ガスとの反応(酸化反応)であり、具体的には、四塩化珪素蒸気を水素と酸素により、1000℃以上の高温で燃焼加水分解される方法等が挙げられる。また、本発明においては、このような気相合成時に、塩化アルミニウムを混ぜる等といった手法を採用して、特殊硬化処理を施したヒュームド・シリカも、高い研磨速度を得る上で、好適に用いられるのである。
【0041】
また、 本発明で使用されるヒュームド・アルミナにあっても、上述のヒュームド・シリカと同様に、気相反応法で製造されるアルミナ(気相法アルミナ)であり、塩化アルミニウムを加熱して蒸気化し、そこに水蒸気等を導入することによって、気相中で製造されるものであるところから、極めて微細な1次粒子からなっている。そして、そのようなヒュームド・アルミナの中でも、研磨速度並びに研磨寿命の効果的な向上を図るためには、比表面積が小さく、1次粒子の大きなものが良く、具体的には、1次粒子の平均粒子径:10〜40nm、BET比表面積:40〜100m2 /gのものがより好適に用いられる。そして、かかるヒュームド・アルミナは、シリカに比して硬いアルミナから構成されるものであるために、上述の無晶形二酸化珪素やヒュームド・シリカに増して研磨速度を向上せしめる作用が高く、また、アルミナの中でも比較的軟質で適度な硬さとなっているために、被研磨材料の研磨表面に、ピット、スクラッチ等の損傷を生じて面質を下げるようなことはない。
【0042】
そして、かくの如きシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子は、合計量において、2〜25重量%となるように配合することが好ましく、かかる配合割合が2重量%よりも少ない場合には、それを添加することによる効果は殆ど無く、逆に25重量%より多くした場合にあっては、コストが嵩むばかりでなく、組成物全体の分散状態を悪化せしめ、具体的には、凝集、ゲル化を誘引し、ひいては、研磨面の面性状が悪化することとなるのである。特に、ヒュームド・アルミナを採用した場合には、その少量の配合でも、研磨速度が有利に向上せしめられ、逆に、その配合量が多くなると、組成物の粘性を著しく上昇させてしまうこととなるのである。
【0043】
また、本発明においては、上述の如きベース研磨材としてのコロイダルシリカ(第一のコロイダルシリカ)に対して、更に、該コロイダルシリカとは平均粒度が異なる別のコロイダルシリカ(第二のコロイダルシリカ)の少なくとも1種を添加、含有せしめることによっても、有効な硬脆材料用精密研磨組成物が形成される。
【0044】
すなわち、そのような硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、異なる平均粒度のコロイダルシリカが組み合わされることにより、コロイダルシリカ中の固形分(シリカ)の粒度分布が広範囲なものとなり、それによって、硬脆材料の精密研磨加工の際に、研磨不良を惹起することなく、研磨表面が鏡面とされると共に、優れた研磨速度と研磨寿命が得られるのであるが、本発明者らの考察によれば、そのような広い分布範囲とされたコロイダルシリカ中の固形分の中でも、平均粒子径が大きいものが研磨速度を高め、より小さな平均粒度のものが研磨面の仕上がり状態を良くするように作用するものと考えられる。
【0045】
そして、そのような2種以上の平均粒度の異なるコロイダルシリカを組み合わせるに際しては、それらのコロイダルシリカ中の固形分の含有割合は、要求される研磨特性等を考慮して、適宜に決定されることとなるのであるが、ベース研磨材としての固形分量10〜50重量%の第一のコロイダルシリカに対して、第二のコロイダルシリカを、それら第一のコロイダルシリカと第二のコロイダルシリカを合わせた全固形分量が20〜60重量%の割合で含有せしめることが、好ましく、更には、20〜50重量%となるように配合することがより望ましいのである。
【0046】
なお、そのような第一のコロイダルシリカと第二のコロイダルシリカを合わせた固形分が20重量%未満である場合は、上述せる如き複数のコロイダルシリカを組み合わせることによる研磨速度の向上等の効果が得られず、また、60重量%を超えるようになると、非経済的であるばかりか、コロイダルシリカ中のシリカの分散状態が不安定化され、均一な分散が為され得なくなるといった問題も生じることとなる。また、一般に、市販のコロイダルシリカの固形分の最大含有量は約50重量%であるが、濾過膜、フィルター等によって濃縮すれば、50重量%以上の固形分のコロイダルシリカを製造することは可能である。しかし、濃縮によって、部分的に安定なコロイダルシリカ構造が壊れ易くなることから、上記したような分散の不均一化等の問題を考慮して、60重量%以下にすることが望ましく、そうすることによって、コロイダルシリカ中のシリカが単一且つ均一に分散され得、以て、研磨組成物中のシリカ粒子による凝集、ゲル化等の不具合が阻止乃至は防止され得、ピットやスクラッチ等の研磨不良や研磨精度の低下等が、極めて効果的に回避され得るのである。
【0047】
ところで、上述のようなコロイダルシリカの組み合わせとしては、実用的には、第一のコロイダルシリカとして、平均粒度が30〜60nmであるものを採用し、第二のコロイダルシリカとして、平均粒度が5〜22nm及び/又は80〜100nmのものを採用することが望ましく、それによって、上述せる如き効果がより一層効果的に発揮されることとなる。特に、第二のコロイダルシリカとして、平均粒度が5〜22nmのものを採用した場合にあっては、面質がより一層良好なものとなり、且つ、コストダウンも有利に達成せしめられる一方、第二のコロイダルシリカとして、平均粒度が80〜100nmのものを採用した場合には、研磨速度が効果的に向上することとなる。
【0048】
また、そのような複数の平均粒度のコロイダルシリカを配合する際には、第一のコロイダルシリカと第二のコロイダルシリカは、固形分の重量比でそれぞれ、60〜80%と40〜20%の割合となるように配合することが望ましい。けだし、そのような配合割合は、最密充填化せしめるための適正な分布範囲であり、その範囲を採用することによって、研磨速度と面質が有利に向上せしめられると共に、良好な経済性が実現され得るからである。また、第二のコロイダルシリカの配合割合が20%未満である場合には、その配合による効果は何等発揮されないのである。
【0049】
加えて、本発明に従う研磨組成物の別の一つによれば、コロイダルシリカに対して、キレート性化合物を研磨促進剤として添加し、それを溶解、含有せしめた形態のものがあるが、そのような研磨組成物は、キレート性化合物が添加されることによって、研磨の際の研磨抵抗が適度に緩和されること等により、研磨速度が有利に向上せしめられると共に、そのような研磨速度が長期間に亘って維持され、優れた研磨寿命が実現されるのである。
【0050】
なお、そのようなキレート性化合物としては、例えば、ポリアミノカルボン酸系キレート性化合物や有機フォスフォン酸系キレート性化合物等が挙げられ、それらのうちの少なくとも一つが適宜に選択されて使用されることが望ましいのである。かかるポリアミノカルボン酸系キレート性化合物としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸や、それらのナトリウム塩、アンモニウム塩及びカルシウム塩等が、好適に採用され、また、有機フォスフォン酸系キレート性化合物としては、フォスフォノブタントリカルボン酸(PBTC)、ヒドロキシエタンジフォスフォン酸、アミノトリスメチレンフォスフォン酸やそれらの塩が、有利に用いられる。
【0051】
そして、上述の如きキレート性化合物は、0.1〜5.0重量%の割合で添加されることが好ましく、より好ましくは、0.5〜3.0重量%の配合割合が良い。けだし、かかる配合割合が、0.1重量%より少ない場合には、研磨速度の向上は発現されず、5.0重量%より多い場合には、コストの上昇を招くばかりでなく、それに見合うだけの効果が得られないからである。
【0052】
また、本発明においては、ベース研磨材としてのコロイダルシリカに対して、上述の如き所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子を分散させ、更に上述の如きキレート性化合物を研磨促進剤として添加した硬脆材料用精密研磨組成物や、ベース研磨材としてのコロイダルシリカに対して、該ベース研磨材としてのコロイダルシリカとは平均粒度の異なるコロイダルシリカの少なくとも1種を配合せしめ、更に、所定のキレート性化合物を研磨促進剤として添加した硬脆材料用精密研磨組成物、また、平均粒度の異なるコロイダルシリカを2種以上配合し、更に、研磨促進剤としての所定のキレート性化合物を添加した硬脆材料用精密研磨組成物、更には、平均粒度の異なるコロイダルシリカを2種以上配合し、それに対して、所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子を分散させ、更に、研磨促進剤としての所定のキレート性化合物を添加した硬脆材料用精密研磨組成物も、有利に採用され得るものである。なお、それらの硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子、ベース研磨材と異なる平均粒度を有するコロイダルシリカ、キレート性化合物のうちの複数が、適宜に選択され、ベース研磨材としてのコロイダルシリカに配合せしめられるものであることにより、それらのうちの一つを単独でベース研磨材に配合せしめる場合に比べて、一層優れた研磨特性乃至は研磨効果を発揮するのである。
【0053】
また、本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、そのpH値が7〜11のアルカリ性に調整されていることが望ましく、それによって、硬脆材料用精密研磨組成物の粘度が低減し、可及的に単一且つ均一な分散が出来ると共に、研磨組成物中のシリカの含有量をより多くすることが出来る。尤も、pHが7未満、特にpHが5〜6付近となるような場合には、粒子間の電荷のバランスが崩れ、粒子同士が接合し、増粘、ゲル化、及び微粒子の凝集が惹起されて、均等に分散され得なくなり、従って、研磨精度が低下したり、繰り返しの使用が困難となるのであり、また一方、pHが11程度を越えるようになると、徐々にシリカ表面が溶解し、研磨組成物としての作用を有効に発揮し得なくなる。
【0054】
例えば、粒径の極めて細かなヒュームド・シリカにあっては、その細かさのために、嵩張り易く、ひいては、増粘及びゲル化を惹起し易いのであり、そのために、pHの影響を特に受け易いのである。詳細には、ヒュームド・シリカの等電点はpH=2付近にあり、pH=4〜5が分散域、pH=7〜8が増粘域、pH=9〜10が分散域となっており、このことから分かるように、ヒュームド・シリカを単に水(pH=7程度)に分散させると増粘し、攪拌すると、時にはゲル状に急激に増粘してしまうため、後述する如く、予めアルカリ性に調整された溶液に分散せしめる手法が有利に用いられるのである。
【0055】
また、そのようなpHの調整には、研磨組成物に配合する研磨材や配合剤に応じて、各種のpH調整剤が適宜に選択され、所望のpHとなるように用いられるのである。そのようなpH調整剤としては、例えば、NaOH、KOH、アンモニア等が挙げられる。
【0056】
さらに、本発明に従う硬脆材料用精密研磨組成物にあっては、必要に応じて、固形成分をより確実に分散せしめて、更なる研磨促進を図るべく、従来から公知の分散剤、例えば、有機アミンやアニオン系、ノニオン系界面活性剤等を添加せしめたり、また、他の金属材料の表面加工の際に使用されるエッチャント等、例えば、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化第一鉄等の鉄塩、クエン酸等の有機酸を添加しても良く、また更に、その他、研磨組成物に添加される従来からの公知の各種の添加剤も、上述せる効果を阻害しないものであれば、適宜に選択して、適量にて添加しても良い。
【0057】
そして、本発明に従う精密研磨組成物は、各種の硬脆材料の精密研磨加工に用いられることとなるのであるが、そのような硬脆材料の中でも、特に、タンタル酸リチウム単結晶材料若しくはニオブ酸リチウム単結晶材料に対して、有利に適用され得、それによって、上述の如き種々の優れた効果が効果的に発揮され得るのである。
【0058】
ところで、本発明の目的とする硬脆材料用精密研磨組成物を製造するに際しては、以下の如き方法を、例示することが出来る。なお、本発明に従う硬脆材料用研磨組成物の調製方法は、例示の方法に限定されるものでは、決してなく、配合される研磨材や添加剤等に応じて、種々の態様にて実施され得る。
【0059】
コロイダルシリカ+シリカ粒子及び/又はアルミナ粒子からなる研磨組成物
予め、所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子を、所定のpH(アルカリ性)に調整された水溶液中に添加し、次いで、高剪断攪拌機や媒体ミル攪拌で、所定時間、攪拌することで、所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子の分散液(スラリー)を準備し、次いで、必要に応じて、そのように準備された分散液に、各種添加剤を所望の割合で添加した後、かかる分散液を、所望の配合量になるように、コロイダルシリカに加えて、羽根攪拌機又は反転式攪拌機等の公知の攪拌機にて、所定時間、混合攪拌することにより、目的とする硬脆材料用精密研磨組成物を得るのである。このように、特に増粘化やゲル化等の問題を惹起し易い研磨材の分散液を得る際には、かかる問題を回避するために、それらの粒子が分散せしめられるpH範囲(分散域)の水溶液を予め用意し、それに対して、それらの粒子を添加して、分散せしめて、予め粒子分散液を作り、次いでコロイダルシリカに加えて混合する手法を採用することが、望ましいのである。
【0060】
第一のコロイダルシリカ+第二のコロイダルシリカからなる研磨組成物
第一のコロイダルシリカに、第二のコロイダルシリカ、及び、必要に応じて、pH調整剤、更には、各種の添加剤の水溶液を、所望の配合量となるように添加し、混合攪拌することにより、目的とする硬脆材料用精密研磨組成物を得る。
【0061】
コロイダルシリカ+研磨促進剤からなる研磨組成物
予め、所定のpH(アルカリ性)に調整された水溶液に、研磨促進剤、及び、必要に応じて、各種添加剤を添加することで、研磨促進剤液を準備した後、そのような研磨促進剤液を、コロイダルシリカに加えて、混合攪拌することにより、目的とする硬脆材料用精密研磨組成物を得る。このように、アンモニア水や水酸化ナトリウム等のpH調整剤にて、予めアルカリ性に調整された水溶液にキレート性化合物を添加することが望ましいのである。けだし、これらのキレート性化合物を添加する際、特に、キレート性化合物が酸である場合には、その添加により、硬脆材料用精密研磨組成物のpHが低下することとなり、コロイダルシリカの性状が破壊されたり、ゲル化を惹起する等の不具合が生じるおそれがあるからである。
【0062】
そして、本発明に従う精密研磨組成物を用いて、硬脆材料に精密研磨加工を施す際には、 従来から公知の各種の研磨手法が適宜に選択され、実施されることとなるのである。例えば、所定量の硬脆材料用精密研磨組成物を研磨機に設けられた供給容器に投入し、かかる供給容器からノズルやチューブ等を用いて、研磨機の定盤上に貼付されたポリウレタン等からなる研磨布に対して研磨組成物を滴下して供給する一方、硬脆材料(ウェーハ)の研磨面を研磨布面に押圧せしめ、かかる定盤を所定の回転速度にて回転せしめることにより、ウェーハ表面を精密研磨(ポリッシング)するのである。
【0063】
【実施例】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが理解されるべきである。
【0064】
硬脆材料用精密研磨組成物の調製
下記表1及び表2の配合割合となるように、 以下に示す方法で、実験例1〜13、及び、比較例1〜5の各種の研磨組成物の調製を行なった。
【0065】
実験例 1
市販の無晶形二酸化珪素(平均粒子径:1.8μm、BET比表面積:180m2 /g)100gを、水酸化ナトリウムにてpH=9.5に調整したアルカリ性水溶液500gに添加し、次いで、高剪断攪拌機ホモミキサーにて30分間、攪拌、分散して得られた無晶形二酸化珪素の分散水溶液600gに、市販のアルカリ性コロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)400gを加えて、羽根攪拌機で30分間、混合、攪拌せしめることにより、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0066】
実験例 2
実験例1と同様にして、無晶形二酸化珪素の代わりに、市販のヒュームド・シリカ(1次粒子平均粒子径:16nm、BET比表面積:130m2 /g)100gを用い、 研磨組成物を1kgを得た。
【0067】
実験例 3
市販の無晶形二酸化珪素(平均粒子径:1.8μm、BET比表面積:180m2 /g)100gを、水酸化ナトリウムにてpH=9.5に調整したアルカリ性水溶液450gに添加し、次いで、高剪断攪拌機ホモミキサーにて30分間、攪拌、分散せしめて得られた無晶形二酸化珪素の分散水溶液550gに、市販のアルカリ性コロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)400gを加え、 更に、これに、研磨促進剤としてのエチレンジアミンテトラ酢酸二アンモニウム塩(EDTA・2NH4 )8gを溶解した水溶液50gを添加して、羽根攪拌機で30分間、混合、攪拌せしめることにより、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0068】
実験例 4,5
市販のアルカリ性のコロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)600gに、それとは平均粒子径の異なるコロイダルシリカ(平均粒子径:80nm又は15nm、固形分量:40重量%、pH=10)250gを混合及び攪拌し、更に5%の水酸化ナトリウム水溶液にて、pH=9.5に調整したアルカリ性水溶液150gを添加して、攪拌せしめることにより、コロイダルシリカの合計固形分量が40重量%とされた、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0069】
実験例 6
実験例5と同様に、市販のアルカリ性のコロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)400gに、それとは平均粒子径の異なるコロイダルシリカ(平均粒子径:15nm、固形分量:40重量%、pH=10)250gを混合及び攪拌し、更に、そこに、市販の無晶形二酸化珪素(平均粒子径:3.6μm、BET比表面積:150m2 /g)100gを、5%水酸化ナトリウム水溶液でpH=9.5に調整したアルカリ性の水溶液250gに、高剪断攪拌機で分散せしめられた無晶形二酸化珪素の分散水溶液(シリカスラリー)を添加して、羽根攪拌機で混合、 攪拌せしめることにより、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0070】
実験例 7
実験例6と同様に、市販のアルカリ性のコロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)600gに、それとは平均粒子径の異なるコロイダルシリカ(平均粒子径:15nm、固形分量:40重量%、pH=10)250gを混合、攪拌し、更にこれに、研磨促進剤としてのEDTA・2NH4 の8gが、5%水酸化ナトリウム水溶液にてpH=9.5に調整したアルカリ性の水溶液に溶解せしめられてなる溶液150gを添加し、羽根攪拌機で30分間、混合、攪拌することにより、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0071】
実験例 8〜10
市販のアルカリ性コロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)800gに、8gのEDTA・2NH4 、又はフォスフォノブタントリカルボン酸(PBTC)、或いはエチレンジアミンテトラ酢酸二カルシウム塩(EDTA・2Ca)を、5%水酸化ナトリウム水溶液にてpH=9.5に調整したアルカリ性の水溶液に溶解した溶液200gを添加し、攪拌することにより、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0072】
実験例 11
市販のアルカリ性コロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)800gに、ヒュームド・アルミナ(1次粒子平均粒子径:20nm、BET比表面積:100m2 /g)6gが、5%水酸化ナトリウム水溶液にてpH=9.5に調整したアルカリ性の水溶液に高剪断攪拌機で分散せしめられたスラリー200gを添加して、最後に羽根攪拌機で30分間、混合、攪拌せしめることにより、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0073】
実験例 12
実験例11と同様に、市販のアルカリ性コロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)800gに、ヒュームド・アルミナ(1次粒子平均粒子径:20nm、BET比表面積:100m2 /g)6gが、5%水酸化ナトリウム水溶液にてpH=9.5に調整されたアルカリ性の水溶液に高剪断攪拌機で分散せしめられたスラリー192gを加え、 更に、8gのEDTA・2NH4 を添加して、羽根攪拌機で混合、攪拌せしめることにより、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0074】
実験例 13
実験例6と同様に、市販のアルカリ性のコロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)400gに、それとは平均粒子径の異なるコロイダルシリカ(平均粒子径:15nm、固形分量:40重量%、pH=10)250gを混合及び攪拌し、更に、そこに、市販のヒュームド・シリカ(1次粒子平均粒子径:16nm、BET比表面積:130m2 /g)100gが、5%水酸化ナトリウムにてpH=9.5に調整されたアルカリ性の水溶液に高剪断攪拌機で分散せしめられたスラリー342gを加え、更に8gのEDTAの二ソーダ塩(EDTA・2Na)を添加して、羽根攪拌機で混合、攪拌せしめることにより、均一な研磨組成物1kgを得た。
【0075】
比較例 1〜4
実験例1〜13との比較のために、粒子径の同じ、1種のコロイダルシリカが単独で配合される、研磨組成物1kgを調製した。なお、比較例1は、上述のコロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)600gに、5%水酸化ナトリウム水溶液で、pH=9.5に調整したアルカリ性の水溶液400gを混合、攪拌することにより調製し、また、比較例2,3では、平均粒子径:80nm又は15nmのコロイダルシリカ(固形分量:40重量%)1kgをそれぞれ、そのまま使用し、比較例4では、コロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)800gに、pH=9.5に調整された水溶液200gを加えることで、それぞれ、1kgの均一な研磨組成物を準備した。
【0076】
比較例 5
また、コロイダルシリカ(平均粒子径:40nm、固形分量:50重量%、pH=11)に対して、コロイダルシリカに比して極めて硬質なα−アルミナ(平均粒子径:0.5μm、BET比表面積:5m2 /g)を分散、含有せしめた研磨組成物を比較のために、調製した。即ち、先ず、α―アルミナ100gと分散水500gをポットミルに加え、70時間粉砕し且つ分散させたα―アルミナ分散溶液(α―アルミナスラリー)を準備し、このように準備されたα―アルミナスラリー600gをコロイダルシリカ400gと攪拌混合して、1kgの研磨組成物を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
研磨試験
上記で得られた実験例1〜13及び比較例1〜5の各1kgの研磨組成物を、それぞれ、研磨機(不二越社製:SLM−100、ポリッシング定盤直径:350mm)に設けられた研磨材供給容器に導入した後、該研磨機を用いて、タンタル酸リチウム単結晶材料からなるウェーハ(直径:75mm)の表面を5時間、ポリッシング(精密研磨)せしめた。なお、かかるポリッシングに際して、定盤の回転速度(回転数)は、60rpmに設定され、また、研磨圧力は、200g/cm2 であった。また、研磨組成物は、チューブポンプを用いて、200mL/minの供給速度にて、定盤上に貼られた研磨布面上に供給されると共に、溢れ出した研磨組成物が容器に戻される、所謂、循環供給方式によって、繰り返し用いられた。
【0080】
そして、上述の如くしてウェーハの表面をポリッシングしつつ、研磨時間が1時間経過する毎に、マイクロメータ(三豊製、測定精度:1μm)を用いて、ウェーハの厚みを測定し、それより、1時間毎の研磨速度(μm/Hr)を求め、また、微分干渉顕微鏡(独国ライカ社製:マイクロスコープ)を用いて、40倍の倍率にて、ウェーハの研磨面を十文字観察し、スクラッチ乃至はピットの有無により、研磨初期における研磨面の表面状態を評価し、それらの結果を下記表3に併せ付した。
【0081】
【表3】
【0082】
かかる表3から明らかなように、コロイダルシリカに対して、無晶形二酸化珪素、ヒュームド・シリカ、ヒュームド・アルミナの何れかを分散、配合した実験例1,2,11にあっては、粒度分布の狭い1種のコロイダルシリカのみからなる比較例1〜4の研磨組成物に比して、研磨面の表面性状を良好に維持しつつ、研磨速度を2倍以上に向上させ、特に、優れた研磨寿命を実現しているのである。また、粒度の異なる2つのコロイダルシリカを配合し、その粒度分布が広範囲とされた実験例4,5にあっても、より粒度分布の狭い比較例1〜4と比較して、優れた研磨面の表面性状を確保しつつ、研磨速度及び研磨寿命の向上が見られる。そして、コロイダルシリカに対して、研磨促進剤としてのキレート性化合物が添加された実験例8〜10にあっても、そのような研磨促進剤が添加されない比較例1〜4に比して、優れた研磨速度と研磨寿命の向上が達成されているのである。加えて、ベース研磨材としてのコロイダルシリカに対して、無晶形二酸化珪素、ヒュームド・シリカ、ヒュームド・アルミナ、粒度の異なるコロイダルシリカ、又はキレート性化合物のうちの複数を組み合わせてなる実験例3,6,7,12、13にあっては、それらの複数を組み合わせるところから、より一層優れた研磨特性が付与されていることがわかる。
【0083】
また、コロイダルシリカに対して、極めて硬質な研磨材であるα−アルミナ(平均粒子径:0.5μm、BET比表面積5m2 /g)を配合した比較例5にあっては、研磨速度は極めて高くなるものの、ピット、スクラッチ等の表面不良を引き起こすことがわかるのである。
【0084】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明に従うタンタル酸リチウム/ニオブ酸リチウム単結晶材料用精密研磨組成物、つまり、コロイダルシリカ(ベース研磨材)に対して、所定のシリカ粒子及び/又はアルミナ粒子を組み合わせたタンタル酸リチウム/ニオブ酸リチウム単結晶材料用精密研磨組成物にあっては、ピットやスクラッチ、加工歪み等の研磨不良の発生を効果的に回避し、硬脆材料の表面を極めて綺麗な鏡面に精密研磨せしめことが出来ると共に、研磨速度が有利に向上され得、研磨に費やす時間の短縮化が実現され、更には、その研磨速度が長時間に亘って維持されるといった優れた研磨寿命が実現され得るのである。また、そのような研磨速度と研磨寿命の向上により、精密研磨加工における作業効率及び作業性の向上と、良好な経済性をも享受され得るのである。
Claims (3)
- タンタル酸リチウム単結晶材料又はニオブ酸リチウム単結晶材料を精密研磨加工するための組成物であって、コロイダルシリカに対して、平均1次粒子径が10〜40nmで、BET比表面積が40〜100m2 /gのヒュームド・アルミナ、平均粒子径が1.0〜5.0μmで、BET比表面積が110〜420m2 /gの無晶形二酸化珪素、及び平均1次粒子径が12〜40nmで、BET比表面積が50〜200m2 /gのヒュームド・シリカのうちの少なくとも何れか一つを分散、含有せしめてなると共に、前記コロイダルシリカが固形分で10〜50重量%の割合において含有される一方、前記ヒュームド・アルミナ、無晶形二酸化珪素及びヒュームド・シリカのうちの少なくとも何れか一つが、合計量で2〜25重量%の割合において含有せしめられていることを特徴とするタンタル酸リチウム/ニオブ酸リチウム単結晶材料用精密研磨組成物。
- 前記コロイダルシリカが、5〜150nmの粒子径の範囲にある請求項1に記載の精密研磨組成物。
- pHが7〜11のアルカリ性に調整されている請求項1又は請求項2に記載のタンタル酸リチウム/ニオブ酸リチウム単結晶材料用精密研磨組成物。
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