JP4030466B2 - 小麦の精麦方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は玄麦の表面の外皮物質(種皮、外胚乳・珠心層、胡粉層)及び胚芽を除去する精麦方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
小麦の製粉加工は、精選して水分調整された原料小麦の外皮物質を剥すことなく、そのまま挽き砕いて、製品粉となる胚乳部(原料小麦に対する重量比率約84%)と、製品粉に混入するのは好ましくない外皮物質(同13.5%)及び胚芽(同2.5%)とを分離する方法が広く実施されている。灰分を多く含む外皮物質の混入は製品粉の品質を低下させるので、この外皮物質の混入をできるだけ少なくするため、製粉に先立って製品粉に混在させたくない外皮物質を前工程で剥離・除去する精麦が知られている。
【0003】
具体的には、精選された玄麦を表皮が軟化するためのわずかな加水が行われた後、直ちに、摩擦機(摩擦式精麦機)や研磨機(研削式精麦機)を使用して精麦を行うものである。
【0004】
しかし精麦小麦に対して加水が行われるため小麦のでんぷん層が溶出し、小麦粒同士が付着し合って塊が生じてしまうし、これを解決するためには玄麦に対して加水・調質した後に精麦することが考えられるが、加水して調質した小麦の外皮は強靭化するので、従来の研削式精麦機では十分精白が進行せず、また、胚乳部が軟質化しているため、摩擦式精麦機においては、砕け粒が多発するという問題点がある。
【0005】
前記の問題を解決する手段として、精麦装置そのものの改良が提案されている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−100396号公報
【0007】
また小麦は、玄麦または製麦の後に製粉され、小麦粉状態で二次加工が施され、種々の食品に加工されている。玄麦に対して製粉歩止りは約72%程度といわれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
精麦装置自体の改良は、装置の複雑化を招き、コスト高につながる。そこで本発明は、精麦装置そのもの改善ではなく、精麦前処理によって、精麦時の砕け粒の多発を防止すると共に、製麦後の二次加工性を向上させる製麦方法を提案したものである。
【0009】
【課題を解決する手段】
本発明に係る精麦方法は、玄麦を除菌洗浄水切りの後、所定の仕込液(乳酸発酵を行うのに必要な乳酸菌を含有する仕込液、又は前記乳酸菌とセルロースやヘミセルロースを分解する酵素を含有する仕込液)を調整し、前記仕込液を使用して乳酸菌による発酵処理、又は前記乳酸菌による発酵処理とセルロースやヘミセルロースを分解する酵素による酵素処理の双方を同時に行った後、所定の水分まで水洗乾燥した後精麦することを特徴とするものである。
【0010】
また特に前記の発酵処理や酵素処理を、乳酸菌を含有した仕込液中に浸漬し、液切りして一晩密封放置して発酵させる手段や、又は乳酸菌並びに酵素を含有した仕込液中に浸漬し、液切りして一晩密封放置して発酵させる手段、或いは前記又は乳酸菌並びに酵素を含有した仕込液中に所定時間浸漬して発酵させる手段(液有り発酵手段)を採用してなることを特徴とするものである。
【0011】
従って発酵(液有り、液なしに関わらず)することで小麦の表皮が乳酸菌によって生成された乳酸で軟化される。そして従前と同様に精麦を行うことで外皮が剥離しやすく、且つ砕け粒の発生率を少なくすることができる。
【0012】
また酵素処理においては、小麦の表皮や胚乳中に含まれているセルロースやヘミセルロースが分解されることにより、特にセルロースやヘミセルロースの含有量の多い表皮が軟化される。また胚乳でもセルロースやヘミセルロースが分解されることにより、水が浸透しやすくなり、精麦の際に外皮が剥離しやすく、且つ砕け粒の発生率を少なくすることができるし、粒のまま加工を行ったときの二次加工性が向上する。
【0013】
さらに本発明(請求項3)は、前記の発酵処理に際して仕込液に適宜量のスクロースを加えてなることを特徴とするもので、スクロースを加えることによって乳酸菌の発酵が促進され、またスクロースを含有する水は、小麦中に含浸しやすいので、液切り後には、小麦の胚乳へ浸透した水によって小麦粒の堅さが均一化される。
【0014】
また本発明(請求項4)は、乳酸菌としてヘテロ発酵の乳酸菌を使用してなるもので、これによって表皮の内側に炭酸ガスが生成され、外皮の剥離性を高める。
【0015】
更に本発明(請求項5)は、乳酸菌として増粘多糖類を生成する乳酸菌を使用してなるもので、これによって小麦組織中に、デキストラン等の増粘多糖類が生成され、小麦粒の組織構造が強化され、粒の粉砕が防止される。
【0016】
【実施の形態】
次に本発明の実施の形態について説明する。実施形態に示した精麦方法は、洗浄工程、仕込工程、発酵等の処理工程、乾燥工程、精麦工程の順序でなされる。
【0017】
洗浄工程は、玄麦表面の汚れや雑菌を除去するもので、原料である玄麦(以下重量表示は、原料「2kg」を使用した時の数値である)を、0.2%クエン酸液2kg68℃の溶液に入れて3分間撹拌し、その後水切り(1分間)を行い、更にオーバーフロー状態で水洗してゴミ等を洗い流し、再度水切り(1分間)を行う。
【0018】
仕込工程は、発酵処理、発酵酵素処理、酵素処理のいずれかを採用することで仕込液が相違する。
【0019】
発酵処理を採用する仕込液Aは、水(30〜40℃)2kgに、スクロース40g及び種菌40g(乳酸菌スターター:仕込液中に乳酸菌が106〜108個/ml程度存在するように調整する)を加えて調製したもので、前記仕込液Aに洗浄処理後の玄麦を投入して、30〜40℃状態で浸漬する。
【0020】
発酵酵素処理を採用する仕込液Bは、水(30〜40℃)2kgに、スクロース40g及び種菌(乳酸菌スターター)40g、更に酵素(ヘミセルラーゼ)1gを加えて調製したもので、前記仕込液Bに洗浄処理後の玄麦を投入して、30〜40℃状態で浸漬する。
【0021】
酵素処理を採用する仕込液Cは、水(30〜40℃)2kgに、雑発酵を抑えるために乳酸0.2gを加え、これに酵素(ヘミセルラーゼ)1gを加えて調製したもので、前記仕込液Cに洗浄処理後の玄麦を投入して、30〜40℃状態で浸漬する。
【0022】
そして発酵処理は、1時間の浸漬の後に、玄麦表面に付着水が残る程度の水切りを行った後、適宜な袋内に封入し、30〜40℃の雰囲気中で18〜24時間程度放置して、発酵を行う。
【0023】
発酵酵素処理は液なし処理と液有り処理のいずれでも選択でき、液なし処理は、前記1時間の浸漬の後に、玄麦表面に付着水が残る程度の水切りを行った後、適宜な袋内に封入し、30〜40℃で16〜24(平均で18時間程度)時間放置して、発酵を行うものである。また液有り処理は、浸漬状態のまま密封し、30〜40℃で16〜24(平均で18時間程度)時間程度放置して、発酵を行う。
【0024】
酵素処理は、仕込液(酵素液)Cに浸漬状態のまま密封し、30〜40℃で16〜24(平均で18時間程度)時間程度放置して、酵素処理を行う。
【0025】
前記の発酵処理、発酵酵素処理、酵素処理がなされると、玄麦表面に付着した仕込液等を水で洗い流す。
【0026】
前記の水通しを終了すると乾燥工程を行うもので、乾燥は、30〜45℃の送風乾燥やその他の乾燥手段を採用して、水分13.5%以下まで乾燥し、所定の精麦を施し小麦粒とするものである。
【0027】
而して前記の実施形態のうち、発酵処理を行った玄麦(発酵処理玄麦)と、比較対照するために水洗し加水して密封放置し、所定の水分に調整した玄麦(対象玄麦)とを(水分調整は表1の通り)、各200gを3分間及び4分間の精麦を3連で行って、精麦率と精麦精度を測定した結果が表2である。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
尚精麦率%=精麦後の小麦重量/精麦前の小麦重量、精麦精度=精麦後の千粒重/精麦前の千粒重×100−精麦率、で求めた。また灰分は、小麦粒をマッフル炉で灰化し、灰重量のサンプル重量に対する百分率で求めた。
【0031】
前記の結果から、対象玄麦に対して、精麦率が僅かに改良されているが、精麦精度が大きく改善された。即ち精麦後の割れが著しく減少したものである。
【0032】
また前記の乳酸発酵処理(仕込液Aによる処理)による玄麦と、乳酸発酵並びに酵素処理併用の液有り方式で処理(仕込液Bによる処理)した玄麦とを対比したら、精麦率、精麦精度、灰分重量の結果が同程度であった。
【0033】
更に前記の乳酸処理玄麦並びに乳酸酵素併用処理玄麦の精麦後の小麦粒の二次加工性を確認するために、前記小麦粒を製粉せずにそのまま粒状態として使用し、製パン試験(官能試験)を行った結果、両者共に、パン生地作製時に小麦粒が潰れやすくなっており、スダチがきめ細やかで、後者(併用処理粉使用)が前者(発酵処理粉使用)よりも、潰れずに残っている小麦粒が少なく、カマのびが良いという結果を得た。
【0034】
この結果から、本発明方法を採用して製麦すると、製粉処理を行わなくとも、製パン及び製菓等(二次加工)が実施でき、製粉エネルギーの消費がなくなり、また小麦粉に比較して澱粉やグルテンが傷つくことなく、二次加工品の風味が深くなる。更に製粉によるふすま量(全量は玄麦の約28%)よりも、製麦時のふすま量(約20%)が少なく、小麦が有効に使用されることになる。
【0035】
また前記の仕込液Aにおいて、スクロースを使用しない仕込液a(仕込液Bにおいてスクロースを使用しない仕込液bも同様である)を使用して、同一条件で発酵処理(発酵酵素処理)を行った場合でも、未処理玄麦に比較すると表3に示すように、精麦効果において優れていることが認められた。
【0036】
【表3】
【0037】
【発明の効果】
以上のように本発明は、玄麦を除菌洗浄水切りの後、所定の仕込液を調整し、前記仕込液を使用して乳酸菌による発酵処理又はセルロースやヘミルロース等を分解する酵素による酵素処理或いは前記発酵処理と酵素処理の双方を同時に行った後、所定の水分まで水洗乾燥した後精麦する精麦方法で、小麦の胚乳へ浸透した水によって小麦粒の堅さが均一化され、更に発酵(液有り、液なしに関わらず)によって小麦の表皮が乳酸菌によって生成された乳酸で軟化され、酵素処理においては、小麦の表皮や胚乳中に含まれているセルロースやヘミセルロース等が分解されることにより、特にセルロースやヘミセルロースの含有量の多い表皮が軟化され、また胚乳でもセルロースやヘミセルロース等が分解されることにより、水が浸透しやすくなるので、従前と同様に精麦を行うことで外皮が剥離しやすく、且つ砕け粒の発生率を少なくすることができたものである。更に、製麦後の小麦粒は二次加工性が向上し、小麦の有効利用を実現するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の工程図。
Claims (6)
- 玄麦を、除菌洗浄水切りの後、乳酸発酵可能な分量の乳酸菌を含有した仕込液に浸漬し、液切りした後密封放置して乳酸発酵を行い、小麦の表皮を乳酸発酵で生成された乳酸で軟化させた後、所定の水分まで乾燥して精麦することを特徴とする小麦の精麦方法。
- 玄麦を、除菌洗浄水切りの後、乳酸発酵可能な乳酸菌及びセルロースやヘミセルロースを分解する酵素を含有した仕込液に浸漬し、液切りして密封した状態又は浸漬したままの状態で、乳酸発酵並びにセルロースやヘミセルロースの分解を行い、小麦の表皮を軟化させた後、所定の水分まで乾燥して精麦することを特徴とする小麦の精麦方法。
- 仕込液に適宜量のスクロースを加えてなる請求項1又は2記載の小麦の精麦方法。
- ヘテロ発酵の乳酸菌を使用してなる請求項1乃至3記載のいずれかの小麦の精麦方法。
- 増粘多糖類を生成する乳酸菌を使用してなる請求項1乃至3記載のいずれかの小麦の精麦方法。
- 酵素としてヘミセルラーゼを使用してなる請求項2記載の小麦の精麦方法。
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