半導体素子は、半導体基板表面に微細なパターンを形成したものであるが、近年CMP等のプレーナ技術を用いることにより、さらに、そのパターンは微細化されてきている。このような半導体素子の表面状態の観察及び欠陥検査に用いられる物体検査装置には、例えば0.1μmの検出感度が要求される。かかる検出感度や検査速度の高速化の要求を満たすものとして、走査型電子顕微鏡等の荷電粒子ビームを用いた荷電粒子線顕微鏡が物体検査装置として用いられてきている。とりわけ、低エネルギー電子ビームは、半導体素子に入射時の損傷を与えず、また、絶縁体の帯電効果等が低減されるため、半導体素子のパターン検査等に広く利用され、電子ビーム検査(EBI; Electron Beam Inspection)として知られている。
従来、電子ビームを用いた物体検査装置として、例えば、下記特許文献1などに記載されたものが知られている。すなわち、荷電粒子ビームとしての電子ビームは、荷電粒子源である電子銃で生成され、一次の荷電粒子ビームとして、一次光学系により検査対象の物体としての半導体素子等の試料の表面に照射される。これにより、この試料から、二次電子、反射電子、後方散乱電子が得られる。二次電子の発生確率が物体表面の物性に依存することから、二次電子が表面検査用の二次の荷電粒子ビームとして移送され、二次光学系によって像面としての検出装置の検出面上に結像される。
また、検出装置には、近年、検査効率を上げ、スループットの向上を図る目的で、例えば、下記特許文献2などに記載されたTDI(Time-Delay-Integration;時間遅延積分型)アレイCCD(以後TDIセンサと称する)が用いられてきている。このTDIセンサは、ラインスキャンCCDに比べて高解度の画像を短時間で撮像することができるという特徴を有している。
ラインスキャンCCDの場合、試料表面に電子ビームを集束させて輝度を高くして照射し、かつ、その照射位置をスキャンすることで撮像が行われる。短時間で撮像を行うためには電子ビームの電流を増加させてさらに輝度を増加させなければならないが、電子ビームのエネルギーが低いためクーロン力によりビームが発散して解像度が低下するという問題を生じる。このため、ラインスキャンCCDを用いると、自ずと撮像時間の短縮には限界が伴い、しかも、試料の撮像領域への搬送、及び撮像領域からの取出しの途中の時間は撮像には用いられないという時間の無駄も存在している。
これに対して、TDIセンサの場合、後述するように、試料を搬送しながら撮像ができるため撮像時間に無駄がなく、試料表面を一様に電子ビームによって照射することから、試料表面を電子ビームでスキャンする時間を省くことができ、かつ、輝度も抑えられてクーロン力によるビームの発散等の問題が低減される。
ここで、検出装置とTDIセンサによる撮像について図14及び図15を用いて説明する。
図14は、検出装置600を示す図である。像面としての検出面600a上に結像される二次の荷電粒子ビームとしての電子ビームは、第1のMCP(Micro-Channel-Plate)601に入射され、第1のMCP601と第2のMCP602内を通過するうちにその電流量が増幅され、蛍光面603に衝突する。蛍光面603では、電子が光子に変換され、その出力画像はFOP(Fiber-Optic-Plate)604を介してTDIセンサを搭載したカメラ605に照射される。ここで、FOP604は、蛍光面603での画像サイズとカメラ605の撮像サイズを合わせるように画像を縮小するように構成されている。
図15は、カメラ605におけるTDIセンサのブロック図である。TDIセンサは、図中X方向にC(1),C(2)・・・C(M−1),C(M)のM個並んだライン状のCCD画素列が、図中Y方向にROW(1),ROW(2)・・・ROW(N−1),ROW(N)のN個並べられて構成されている。各CCD画素列上の蓄積電荷は、外部から供給される1垂直クロック信号により、一度にY方向へCCD1画素分だけ転送されるようになっている。
試料を移動させ、ある時点でROW(1)上に結像された試料の画像が、試料の移動とともにY方向に1画素列分だけ移動すると、それと同期して垂直クロック信号が与えられ、ROW(1)に撮像されたM個のライン画像は、ROW(2)に転送される。そこで同じ画像を撮像し続けるので、蓄積される画像の電荷は2倍になる。続けて画像がY方向にさらに1画素分移動し、同期クロック信号が与えられると、蓄積画像はROW(3)に転送され、そこで画像電荷を3倍になるまで蓄積する。以下順々に、画像の移動に追随してROW(N)まで電荷の転送と撮像を繰り返し終わると、N倍の画像電荷を蓄積した結果が水平レジスタからシリアルに画像データとして取り出される。
以上説明した動作が、各画素列ROW(1)〜ROW(N)で同時に行われ、2次元の画像(M画素×N画素)を垂直方向に送りながら、1画素で蓄積される画像電荷のN倍になるまで蓄積された画像電荷が1ラインずつ同期して取り出される。
図16には、上述のような方法で、試料400上の或る一つの物点をTDIセンサを用いて撮像する様子が示されている。すなわち、試料400が図16(a)中に矢印で示されるy方向に400’の位置まで移動するのにともなって、図16(a)に示す観察領域中の点P
1に位置する試料400上の物点が、観察領域中の点P
2の位置まで移動すると、その一方で、点P
1に位置する試料400上の物点が図16(b)に示すようなTDIセンサ上の点P
1’に像点として検出され、この像点が、試料400の400’への移動とともに、点P
1’よりY方向にm×pだけ移動した点P
2’まで移動する。ここで、pは、TDIセンサ上におけるY方向の1画素に対応する幅とする。そして、ROW(k)からROW(k+m)の間の画素C(l)において画像電荷が蓄積される。試料400上の他の物点についても同様であり、TDIセンサの全域を用いながら、試料400上の全ての物点の撮像が行なわれる。
特開平11−135056号公報
特開平10−197462号公報
ところで、上述のような構成とされたTDIセンサは、Y方向には、十分な電荷を蓄えるに足るだけの画素数があれば良いのに対し、X方向には、試料の幅に相当する画素数が必要とされるため、一般には、例えば、X方向とY方向の長さの比が4:1といったような、全体にX方向に長く延在した細長い長方形状を呈する。したがって、試料上の荷電粒子ビームによる照射領域、ならびに、この照射領域が結像される検出面上の像も、一方向に延在した細長い長方形状となる。
荷電粒子ビームの単色収差によるビームの拡がりは、光軸から離れる程大きくなり、しかも、子午面方向(長方形状の面内の中心方向)の拡がりの方が、子午面方向と垂直なサジタル面方向の拡がりよりも大きくなるから、前記検出面上における前記照射領域の像が延在する方向における端部、すなわち、図16(b)に示されるTDIセンサのX方向の端部の位置において、X方向の単色収差による像点の拡がりが最も大きく、この拡がりが物体検査装置全体の解像度を決定してしまうという問題が存在している。
また、物体検査装置にTDIセンサが用いられる場合には、荷電粒子ビームが物体の照射領域全体に一度に照射されるため、ラインスキャンCCDを用いる場合に比べて、荷電粒子ビームの電流密度が低減されるものの、それでもやはり、物体検査装置が、例えば5keV程度の低エネルギーの電子ビームといったように、依然として低エネルギーの荷電粒子ビームが用いられていることに変わりは無い。クーロン力による単色収差ならびに色収差による像面上での荷電粒子ビームの拡がりは、ビームのエネルギーの逆数に比例するから、低エネルギーの荷電粒子ビームを用いている限り、収差による解像度の低下の問題は避けられない。
荷電粒子ビームに働くクーロン力の影響について詳しく考察すると、その影響は、荷電粒子ビーム内での荷電粒子の空間的な分布の統計的な変動により生じるBoersch効果により算出することができ、一に、ビームの進行方向に垂直な方向のクーロン力の成分によってビームの径方向への拡がりが発生し、二に、ビームの進行方向に平行な方向のクーロン力の成分によって荷電粒子ビームのエネルギー幅がそれぞれ発生するというものに分けられる。このうち、像面上でのクーロン力による径方向へのビームの拡がり、ないし像点の拡がりは、荷電粒子ビームの電流をIとし、物面から像面までの距離をLとし、荷電粒子ビーム径をrとし、荷電粒子ビームが主荷電粒子線となす最大角度をα、荷電粒子ビームのエネルギーをΦとすると、
によって表される。ここで、a,b,c,d,eは、0.5より大きく1.5より小さい値とされている。TDIセンサを用いた物体検査装置では、一般に、上式で表される径方向へのビーム拡がりよりはむしろ、Boersch効果により生じた荷電粒子ビームのエネルギー幅ΔΦにより、
δx
c=C
1・ΔΦ/Φ・α
x+C
2・ΔΦ/Φ・X
δy
c=D
1・ΔΦ/Φ・α
y+D
2・ΔΦ/Φ・Y
で表される色収差による像点の拡がりδx
c,δy
cが生じる問題が大きい。ここで、光軸からのX方向及びY方向に関する距離X及びY、ならびにC
1,C
2及びD
1,D
2を係数として用いた。なお、添え字のx,yは、本明細書中でもそうだが、それぞれ上記X方向及びY方向に関する量であることを示す。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、色収差による像点の拡がり、すなわち像面上における色収差による荷電粒子ビームの拡がりを低減することができる荷電粒子ビーム光学装置、及び荷電粒子ビーム制御方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、TDIセンサを用いる場合のように、物面上の一方向に延在した領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に前記物面上の領域を結像させる際、前記領域の延在方向での前記領域の端部の一点から放出された前記荷電粒子ビームが前記像面上において有する単色収差による拡がりを低減して解像度を向上することのできる荷電粒子ビーム光学装置、及び荷電粒子ビーム制御方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するため、本発明は実施の形態に示す各図に対応付けした以下の構成を採用している。但し、各要素に付した括弧付き符号はその要素の例示に過ぎず、各要素を限定するものではない。
本発明の第一の態様に従えば、荷電粒子源(10)からの一次荷電粒子ビーム(B1)の照射により試料(4)から得られる電子を二次荷電粒子ビーム(B2)として検出する荷電粒子ビーム光学装置であって、荷電粒子ビーム光学装置は、試料(4)に対してX軸方向に延在した長方形状の領域を一次荷電粒子ビーム(B1)で照射する一次光学系(11)と、試料(4)から放出された二次荷電粒子ビーム(B2)を開口絞り(AS)を通して検出面上に検出させる二次光学系(20)とを備え、開口形状は、X軸方向に直交したY軸方向に長軸を有する楕円形に形成されていることを特徴とする荷電粒子ビーム光学装置(2)が提供される。
すなわち、本発明者らは、Boersch効果に基づいて、荷電粒子ビーム内の荷電粒子同士によるクーロン力によって生じる荷電粒子ビームのエネルギー幅を数値計算から算定し、開口形状により荷電粒子ビームの一部を通過させる際、荷電粒子ビームの電流値が同じでも、ビームの断面形状が楕円であれば最終的に得られる荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くすることができるという知見を得て本発明に至った。
一般に、荷電粒子ビームが非点収差を有して集束し、再び発散していく過程(以後、荷電粒子ビームが集束し、再び発散して行く過程をクロスオーバーと称する場合もある)では、非点収差が無い状態で荷電粒子ビームが集束し、発散していく過程よりもBoersch効果によるエネルギー幅の発生が少ないことが知られている(例えば Optik 57 (1980) No.3, 339-364 を参照)。そこで、荷電粒子ビームのクロスオーバーに非点収差を有するような荷電粒子ビーム光学系を構成しようとすると、ビーム光学系の調整が難しくなり、さらには、光軸の回りに対称な荷電粒子ビーム光学系によって全てを構成する場合に比べると、部品点数も多くなってしまう。これに比べて、本発明の第一の態様のように、荷電粒子ビームの軌道上に、従来は円形とされる開口形状の代わりに、楕円形の開口形状を設けて荷電粒子ビームを通過させると、概ね非点収差的なクロスオーバーを生じさせるのと同様の効果をもたらし、開口形状を通過させる荷電粒子ビームの電流値は同じでも、クーロン力により生じる荷電粒子ビームのエネルギー幅が低減される。
このように、本発明の第一の態様により、荷電粒子ビーム光学系を構成する他の素子は一切変更することなく、楕円形に形成された開口形状を用いて荷電粒子ビームの断面形状を整えるだけで、荷電粒子ビームのエネルギー幅が低減される。なお、前記開口形状は、物面もしくは像面に対するフーリエ変換面に形成されていることが好ましい。
そして、色収差を低減することができることから、前記荷電粒子ビーム光学系が、物面上の所定の領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に前記物面上の領域を結像させるように構成されている場合、色収差による像面上での荷電粒子ビームの拡がり、ないしは像点の拡がりを低減することができる。
また、本発明の荷電粒子ビーム光学装置(2)は、物面(OB)上の一方向に延在した領域(OF)から放出される荷電粒子ビームを導いて像面(IM)上に前記物面(OB)上の領域(OF)を結像させる荷電粒子ビーム光学系(20)を有し、該荷電粒子ビーム光学系(20)は、前記荷電粒子ビームの軌道上に、前記荷電粒子ビームの一部を通過させる開口絞り(AS)を有している荷電粒子ビーム光学装置(2)において、前記開口絞り(AS)は、前記物面(OB)上の領域(OF)が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形の開口形状を有し、前記領域(OF)が延在する方向の前記領域(OF)の端部の一点から放出された前記荷電粒子ビームが、前記像面(IM)上において、前記領域(OF)の像(IF)が延在する方向とこの方向に直交する方向にそれぞれ略等しい大きさの収差による拡がりを有するよう、前記開口形状の楕円形の長軸と短軸の比が設定されている構成を採用できる。
この場合においては、荷電粒子ビーム光学系を構成する素子の内部の光軸から遠い領域における電磁場の歪等による影響を少なくするために、開口絞りによって、前記光軸に近い部分を荷電粒子ビームが通過するようにし、単色収差による荷電粒子ビームの前記像面上の拡がりを低減する。このとき、前記開口絞りの開口形状を楕円形にすることで、前記領域が延在する方向に直交する方向の開口に対して、前記領域が延在する方向の開口を狭くし、これにより、前記領域の像が延在する方向に直交する方向におけるビームの拡がりに対して、前記領域の像が延在する方向におけるビームの拡がりを低減する。
一般に、単色収差による荷電粒子ビームの子午面方向(像面内の像の中心方向)の拡がりは、子午面に垂直なサジタル面方向の拡がりよりも大きい。像面上での像が一方向に延在している場合には、像が延在する方向と子午面方向とは概ね一致するから、上記楕円形の開口形状によって、像が延在する方向の単色収差によるビームの拡がりを低減すれば、子午面方向のビームの拡がりも低減し、サジタル面方向のビームの拡がりとのアンバランスが解消される。このとき、前記開口形状の楕円形の長軸と短軸の比を適切に設定し、前記領域の像が延在する方向ならびにこの方向に直交する方向の収差によるビームの拡がりが略等しい大きさとなるようにする。なお、開口形状を通過する荷電粒子ビームの強度が低下しないように、前記領域が延在する方向の開口を狭くする一方で、前記領域が延在する方向に直交する方向の開口を広げ、開口形状の面積が一定になるようにするのが好ましい。このようにして、専ら子午面方向のビームの拡がりによって決定されていた荷電粒子ビーム光学装置の解像度が子午面方向のビームの拡がりの減少とともに向上する。
また、本発明の荷電粒子ビーム光学装置(2)は、物面(OB)上の一方向に延在した領域(OF)から放出される荷電粒子ビームを導いて像面(IM)上に前記物面(OB)上の領域(OF)を結像させる荷電粒子ビーム光学系(20)を有し、該荷電粒子ビーム光学系(20)は、前記荷電粒子ビームの軌道上の物面(OB)もしくは像面(IM)に対するフーリエ変換面に、前記荷電粒子ビームの一部を通過させる開口絞り(AS)を有している荷電粒子ビーム光学装置(2)において、前記開口絞り(AS)の開口形状は、前記像面(IM)上における前記領域(OF)の像(IF)が延在する方向をX軸方向として、前記像面(IM)上における前記荷電粒子ビーム光学系(20)の光軸からのX軸方向の距離をXとし、該X軸方向に直交する方向をY軸方向として、前記像面(IM)上における前記光軸からのY軸方向の距離をYとし、前記光軸からの距離がX軸方向及びY軸方向にそれぞれX及びYとなる位置に集束される前記荷電粒子ビームが前記物面(OB)上において有するX軸方向及びY軸方向の開口角の半分の角度をそれぞれαX及びαyとし、A1、A2、A11、A12、A13、A14、A15、A16、A17、A18、B1、B2、B11、B12、B13、B14、B15、B16、B17、B18を係数としたとき、集束される前記荷電粒子ビームが前記像面(IM)上で有する3次の単色収差によるX軸方向における拡がり、
δx=A1αX 3+A2αXαy 2+A11αX 2X+A12αy 2X+A13αXαyY+A14αXX2+A15αXY2+A16αyXY+A17X3+A18XY2
及び、Y軸方向における拡がり、
δy=B1αy 3+B2αyαx 2+B11αy 2Y+B12αx 2Y+B13αyαxX+B14αyY2+B15αyX2+B16αxXY+B17Y3+B18YX2
のそれぞれの値が、前記領域(OF)の像のX軸方向における端部の位置において略等しくなるように、αXとαyの比を所定の値にする形状に形成されている構成を採用できる。
すなわち、本発明者らは、Munroによる荷電粒子ビームの単色収差の理論に基づき、前記物面上の或る物点から放出された荷電粒子ビームが、前記荷電粒子ビーム光学系の光軸からの距離がX軸方向及びY軸方向にそれぞれX及びYとなる前記像面上の位置に集束されるとき、この荷電粒子ビームが前記像面上で有する3次の単色収差によるX軸方向及びY軸方向における拡がりが、
δx=A1αX 3+A2αXαy 2+A11αX 2X+A12αy 2X+A13αXαyY+A14αXX2+A15αXY2+A16αyXY+A17X3+A18XY2
δy=B1αy 3+B2αyαx 2+B11αy 2Y+B12αx 2Y+B13αyαxX+B14αyY2+B15αyX2+B16αxXY+B17Y3+B18YX2
で表されることから、ビームの拡がりが前記光軸からの距離X及びYに依存して、荷電粒子ビームが前記光軸から離れた位置に集束されるほどビームの拡がりが大きくなること、そして、前記荷電粒子ビームがこの荷電粒子ビームの主荷電粒子線と物側でなすX軸方向及びY軸方向における最大角度αx及びαyに依存して、開口を大きくすればするほど、前記荷電粒子ビーム光学系内において光軸から遠い領域を通過する荷電粒子が増加し、ビームの拡がりが大きくなること、さらに、X軸上(Y=0)における前記像面上での3次の単色収差による荷電粒子ビームの拡がり、
δx=A1αx 3+A2αxαy 2+A11αx 2X+A12αy 2X+A14αxX2+A17X3
δy=B1αy 3+B2αyαx 2+B13αyαxX+B15αyX2
に着目して、A11αx 2X+A12αy 2X及びB13αyαxXの項の存在により、αX=αyの場合、X軸上のいかなる点においてもδx>δyとなることを見出し、したがって、前記領域が延在するX軸方向の前記領域の端部の一点から放出された前記荷電粒子ビームが前記像面上のX>Yなる位置に結像するとき、この位置でのX軸方向のビームの拡がりδxが前記領域の像の範囲内で略最も大きな拡がりとなり、同時にこの値が荷電粒子ビーム光学装置の解像度の上限を決定するという見解に至り、このとき、αX及びαyの値を調整してαy>αxとするように開口絞りの開口形状を変更すれば、δyに対してδxを低減することができ、これにより解像度の向上を図ることができるという知見を得て本発明に至った。このとき、前記開口形状の楕円形の長軸と短軸の比を適切に設定してαXとαyの比が所定の値となる形状にし、前記像のX軸方向の端部において、ビームの拡がりδx及びδyが略等しくなるようにする。なお、開口形状を通過する荷電粒子ビームの強度が低下しないように、X軸方向の開口を狭くする一方で、Y軸方向の開口を広げ、開口形状の面積を一定に保つようにするのが好ましい。このように、本発明の態様によれば、前記領域の像が延在するX軸方向における前記像の端部でのX軸方向のビームの拡がりを減少させることで、像点の拡がりのうちで略最も大きいビームの拡がりを低減し、荷電粒子ビーム光学装置の解像度を向上することができる。
また、本発明の荷電粒子ビーム光学装置(2)において、前記開口絞り(AS)の開口形状は、δx又はδyの値の最大値が所定の解像度以下の値となるように、αx及びαyの値が前記αxとαyの比の値を保ちながら所定の値以下となる形状に形成されていることが好ましい。
あるいは、本発明の荷電粒子ビーム光学装置(2)において、前記開口絞り(AS)の開口形状は、前記荷電粒子ビームが所定の強度以上で通過するように、αx及びαyの値が前記αxとαyの比の値を保ちながら所定の値以上となる形状に形成されていることが好ましい。
本発明による荷電粒子ビーム光学装置の絞り(AS)は、内部を荷電粒子ビームが導かれる荷電粒子ビーム光学装置(2)の前記荷電粒子ビームの軌道上に配置され、開口形状によって前記荷電粒子ビームの一部を通過させる荷電粒子ビーム光学装置の絞り(AS)において、前記開口形状は、楕円形に形成されていることを特徴とする。
本発明の荷電粒子ビーム光学装置の絞りによれば、クーロン力により生じる荷電粒子ビームのエネルギー幅が低減される。この結果、色収差が低減され、荷電粒子ビーム光学装置が、物面上の所定の領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に前記物面上の領域を結像させるように構成されている場合には、色収差による像面上での荷電粒子ビームの拡がり、ないしは像点の拡がりが低減される。
本発明の第二の態様に従えば、試料(4)に一次荷電粒子ビーム(B1)を照射し、該試料(4)から放出される二次荷電粒子ビーム(B2)を導いて像面(IM)上に二次荷電粒子ビーム(B2)による像を結像させる荷電粒子ビーム制御方法において、荷電粒子ビームの軌道上の物面(OB)もしくは像面(IM)に対するフーリエ変換面に開口絞り(AS)を配置し、該開口絞り(AS)の開口形状を、X軸方向における開口角の半分の角度αxと、Y軸方向における開口角の半分の角度αyとの積を一定に保ちながら変形させることにより、二次荷電粒子ビームを結像させる像面(IM)上におけるX軸方向の像点の拡がりδxとY軸方向の像点の拡がりδyとが等しくなるように調整することを特徴とする荷電粒子ビーム制御方法が提供される。
本発明の第二の態様によれば、荷電粒子ビームの強度を一定に保ちながら、クーロン力により生じる荷電粒子ビームのエネルギー幅を低減できる。この結果、色収差を低減でき、荷電粒子ビーム光学装置が、物面上の所定の領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に前記物面上の領域を結像させるように構成されている場合には、色収差による像面上での荷電粒子ビームの拡がり、ないしは像点の拡がりを低減できる。
また、本発明の荷電粒子ビームの制御方法は、物面(OB)上の一方向に延在した領域(OF)から放出される荷電粒子ビームを導いて像面(IM)上に前記物面(OB)上の領域(OF)を結像させる荷電粒子ビーム制御方法において、前記荷電粒子ビームの軌道上に開口絞り(AS)を配置し、該開口絞り(AS)の開口形状の面積を一定に保ちながら前記物面(OB)上の領域(OF)が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形にして前記荷電粒子ビームの一部を通過させる構成を採用できる。
これによれば、開口形状の面積を一定に保って開口形状が楕円形にするので、荷電粒子ビームの強度を一定に保ちながら、クーロン力により生じる荷電粒子ビームのエネルギー幅を低減できる。この結果、色収差を低減でき、荷電粒子ビーム光学装置が、物面上の所定の領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に前記物面上の領域を結像させるように構成されている場合には、色収差による像面上での荷電粒子ビームの拡がり、ないしは像点の拡がりを低減できる。
ここで、前記荷電粒子ビームの軌道上の物面もしくは像面に対するフーリエ変換面に、前記絞りを配置することが好ましい。
また、本発明の荷電粒子ビーム制御方法は、物面(OB)上の一方向に延在した領域(OF)から放出される荷電粒子ビームを導いて像面(IM)上に前記物面(OB)上の領域(OF)を結像させる荷電粒子ビーム制御方法において、前記荷電粒子ビームの軌道上に開口絞り(AS)を配置し、該開口絞り(AS)の開口形状の面積を一定に保ちながら前記物面(OB)上の領域(OF)が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形にして前記荷電粒子ビームの一部を通過させ、前記領域(OF)が延在する方向の前記領域(OF)の端部の一点から放出された前記荷電粒子ビームが、前記像面(IM)上において、前記領域(OF)の像(IF)が延在する方向とこの方向に直交する方向にそれぞれ略等しい大きさの収差による拡がりを有するように、前記開口形状の楕円形の長軸と短軸の比を調整する構成を採用できる。
これによれば、開口形状の面積を一定に保って開口形状を楕円形にするので、荷電粒子ビームの強度を一定に保つことができる。そして、前記領域の像が延在する方向に直交する方向における荷電粒子ビームの前記像面上の単色収差による拡がりに対して、前記領域の像が延在する方向における荷電粒子ビームの拡がりを低減できる。一般に、単色収差による荷電粒子ビームの子午面方向の拡がりは、サジタル面方向の拡がりよりも大きい。像面上での像が一方向に延在している場合には、像が延在する方向と子午面方向とは概ね一致するから、上記楕円形の開口形状によって、像が延在する方向の単色収差によるビームの拡がりを低減すれば、子午面方向のビームの拡がりも低減し、サジタル面方向のビームの拡がりとのアンバランスを解消できる。
したがって、専ら子午面方向のビームの拡がりによって決定されていた解像度を子午面方向のビームの拡がりの減少とともに向上させることができる。
また、本発明は、荷電粒子源(10)からの一次の荷電粒子ビーム(B1)を物面(OB)上の物体(4)の所定領域(OF)に照射する一次光学系(11)と、前記一次の荷電粒子ビーム(B1)の照射により前記物体(4)から放出される電子を二次の荷電粒子ビーム(B2)として検出面に集束させる二次光学系(20)と、前記検出面に配置され、前記検出面に集束された前記二次の荷電粒子ビーム(B2)の電子を検出して前記物体(4)を撮像する撮像装置(30)とを備えてなる物体検査装置であって、本発明の第一から第四の態様のいずれか一つの態様の荷電粒子ビーム光学装置(2)を備えていることを特徴とする物体検査装置を提供できる。
このような構成としたことにより、物体を検査する際の解像度を向上することができる。
また、本発明は、荷電粒子源(10)からの一次の荷電粒子ビーム(B1)を物面(OB)上の物体(4)の所定領域(OF)に照射する荷電粒子ビーム照射工程と、前記一次の荷電粒子ビーム(B1)の照射により前記物体(4)から得られる電子を二次の荷電粒子ビーム(B2)として検出面に集束させる二次ビーム集束工程と、前記検出面に集束された前記二次の荷電粒子ビーム(B2)の電子を検出して前記物体(4)を撮像する撮像工程とを有する物体検査方法であって、第一から第三の態様のいずれか一つの態様の荷電粒子ビーム制御方法を用いることを特徴とする物体検査方法を提供できる。
本発明により、物体を検査する際の解像度を向上することができる。
また、本発明は、上述の物体検査装置を用いて検査されることを特徴とする半導体素子を提供できる。また、本発明は、上述の物体検査方法を用いて検査されることを特徴とする半導体素子を提供できる。
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明によれば、荷電粒子ビーム光学系により導かれる荷電粒子ビームの軌道上に、荷電粒子ビームの一部を通過させる楕円形に形成された開口形状を有しているので、荷電粒子ビームの電流値が同じでも、最終的に得られる荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くすることができ、色収差を低減することができる。
また、本発明によれば、物面上の一方向に延在した領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上にこの領域を結像させる荷電粒子ビーム光学系が、荷電粒子ビームの軌道上に、荷電粒子ビームの一部を通過させる開口絞りを有し、この開口絞りが、物面上の領域が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形の開口形状を有しているので、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くすることができ、色収差を低減することができる。
また、本発明によれば、物面上の一方向に延在した領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上にこの領域を結像させる荷電粒子ビーム光学系が、荷電粒子ビームの軌道上に、荷電粒子ビームの一部を通過させる開口絞りを有し、この開口絞りが、物面上の領域が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形の開口形状を有し、その楕円形の長軸と短軸の比は、荷電粒子ビームが、領域の像が延在する方向とこの方向に直交する方向に略等しい大きさの収差による拡がりを有するように設定されているので、荷電粒子ビーム光学装置の解像度を向上させることができる。
また、本発明によれば、物面上の一方向に延在した領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上にこの領域を結像させる荷電粒子ビーム光学系が、荷電粒子ビームの軌道上の物面もしくは像面に対するフーリエ変換面に、荷電粒子ビームの一部を通過させる開口絞りを有し、この開口絞りの開口形状は、集束される前記荷電粒子ビームが前記像面上で有する単色収差によるX軸方向における拡がりδx、及びY軸方向における拡がりδyのそれぞれの値が、X軸方向における領域の像の端部の位置で略等しくなるように、αxとαyの比を所定の値にする形状に形成されているので、荷電粒子ビーム光学装置の解像度を向上させることができる。
また、本発明にによれば、荷電粒子ビームの軌道上に配置され、開口形状によってこの荷電粒子ビームの一部を通過させ、この開口形状が楕円形に形成されているので、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くすることができる。
また、本発明によれば、物面上の一方向に延在した領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に物面上の領域を結像させ、荷電粒子ビームの軌道上に絞りを配置し、該絞りの開口形状の面積を一定に保ちながらこの開口形状を楕円形にして荷電粒子ビームの一部を通過させるので、荷電粒子ビームの強度を一定に保ちながら、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くすることができる。
また、本発明によれば、物面上の一方向に延在した領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に前記物面上の領域を結像させ、荷電粒子ビームの軌道上に開口絞りを配置し、該開口絞りの開口形状の面積を一定に保ちながら物面上の領域が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形にして荷電粒子ビームの一部を通過させるので、荷電粒子ビームの強度を一定に保ちながら、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くすることができる。
また、本発明によれば、物面上の一方向に延在した領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に前記物面上の領域を結像させ、荷電粒子ビームの軌道上に開口絞りを配置し、該開口絞りの開口形状の面積を一定に保ちながら物面上の領域が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形にして荷電粒子ビームの一部を通過させ、領域の像が延在する方向におけるこの像の端部に集束される前記荷電粒子ビームが、領域の像が延在する方向とこの方向に直交する方向にそれぞれ略等しい大きさの収差による拡がりを有するように、開口形状の楕円形の長軸と短軸の比を調整するので、荷電粒子ビーム光学装置の解像度を向上させることができる。
また、本発明によれば、物体を検査する際の解像度を向上することができる。
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による荷電粒子ビーム光学装置と、それを用いた物体検査装置について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による物体検査装置の構成を示す図である。なお、以下の説明においては、図1中に示されたXYZ直交座標系を設定し、このXYZ座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。図1に示したXYZ直交座標系では、試料の物体面内にXY平面を設定し、試料の物体面の法線方向をZ軸方向に設定してある。図1中のXYZ座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直下方向に設定される。
本実施形態の物体検査装置は、主として荷電粒子ビームとしての電子ビームを一次ビームB1(一次の荷電粒子ビーム)として試料4(物体)に導くための一次コラム1と、電子ビームを試料に照射した際に得られる二次電子を二次ビームB2(二次の荷電粒子ビーム)として検出装置30の検出面に集束させるための本発明に係る荷電粒子ビーム光学装置としての二次コラム2と、観測対象である試料4を収容するチャンバー3とから構成されている。一次コラム1の光軸は、Z軸に対して斜方向に設定され、二次コラム2の光軸はZ軸とほぼ平行に設定される。よって、一次コラム1から二次コラム2へは、一次ビームB1が斜方向から入射する。一次コラム1、二次コラム2、及びチャンバー3には、真空排気系(図示省略)が繋がっており、真空排気系が備えるターボポンプ等の真空ポンプにより排気されており、これらの内部は、真空状態に維持されるようになっている。
一次コラム1内部には、熱電子放出型の電子銃10が設けられており、この電子銃10から照射される電子ビームの光軸上に一次光学系11が配置されている。ここで、電子銃10のカソードとしては、例えば矩形陰極で大電流を取出すことができるランタンヘキサボライト(LaB6)を用いることが好ましい。一次光学系11は、視野絞りFS1、照射レンズ12,13,14、アライナ15,16、アパーチャ17等で構成されている。ここで、照射レンズ12,13,14は電子レンズであり、例えば円形レンズ、4極子レンズ、8極子レンズ等が用いられる。一次光学系11が備える照射レンズ12,13,14の一次ビームB1に対する収束特性は、印加する電圧値により変化する。なお、照射レンズ12,13,14は、ユニポテンシャルレンズ、またはアインツェルレンズと称される回転軸対称型のレンズであってもよい。
二次コラム2内には、本発明に係る荷電粒子ビーム光学系としての二次光学系20が配置されている。二次光学系20は、試料4に一次ビームB1を照射した際に、物面としての試料表面から生じる二次電子を二次ビームB2として導き、像面としての検出装置30の検出面に集束させる荷電粒子ビーム光学系からなり、試料4側から−Z方向へ順に、カソードレンズ21、アライナ22、本発明に係る荷電粒子ビーム光学装置の絞りとしての開口絞りAS、ウィーンフィルタ23、スチグメータ24、結像レンズ前群25、第2アライナ26、スチグメータ27、視野絞りFS2、結像レンズ後群28が配置されて構成されている。そして、二次ビームB2の最下流側の検出装置30に臨む側には、二次ビームB2を偏向させるためのビーム偏向装置Aが設けられている。
ここで、二次光学系20が備える開口絞りASは、物面としての試料4の表面に対するフーリエ変換面に開口形状を有しており、この開口形状は、X軸方向に短軸、X軸方向に直交するY軸方向に長軸を有する楕円形に形成されている。一方、視野絞りFS2は、カソードレンズ21と結像レンズ前群25に関して、試料4の表面と共役な位置関係に設定されている。また、二次光学系20の主にカソードレンズ21、結像レンズ前群25、及び結像レンズ後群28は、ユニポテンシャルレンズ、またはアインツェルレンズと称される回転軸対称型のレンズとされている。
これら一次光学系10、二次光学系20の各部に供給される電圧、電流値等の値は、主制御系5によって制御されるようになっている。すなわち、主制御系5は、一次光学系制御部51、二次光学系制御部52のそれぞれに制御信号を出力し、一次光学系10と二次光学系20の光学特性の制御等を行うものとされている。
二次光学系20によって検出面上に結像された二次ビームB2を検出する検出装置30は、電子を増幅するためのMCP30aと、電子を光に変換するための蛍光板30bとを有し、さらに、蛍光板30bによって変換された光の信号を伝達するオプティカルファイバからなるFOP31が設けられ、このFOP31を介して光の信号がTDIセンサを搭載したカメラ32に入射するように構成されている。また、カメラ32には、主制御系5に制御されるコントロールユニット33が接続されている。コントロールユニット33は、TDIセンサに画像電荷を蓄積するためのクロック信号を与えるとともに、カメラ32から画像信号をシリアルに読み出し、順次主制御系5へ出力し、記憶装置53に画像データとして蓄積されるように構成されている。なお、コントロールユニット33から主制御系5へ出力される画像信号をCRT(Cathod Ray Tube)等の表示装置へ表示させれば試料4の像は表示装置へ表示されることになる。主制御系5は、こうしてコントロールユニット33から出力される画像信号に対して、例えばテンプレートマッチング等の画像処理を行って試料4の欠陥の有無を判断するように設けられている。
また、チャンバー3の内部には、試料4を載置した状態でXY平面内で移動自在に構成されたXYステージ38が配置されている。XYステージ38上の一端には、L字型の移動鏡39が取り付けられ、移動鏡39の鏡面に対向した位置にレーザ干渉計40が配置されている。レーザ干渉計40は、 移動鏡39からのレーザーの反射光を用いて、XYステージ38のX座標とY座標、ならびに、XY平面内における回転角を計測するように構成されており、この計測結果は、主制御系5に出力され、主制御系5は、この計測結果に基づいて駆動装置41に対して制御信号を出力し、XYステージ38のXY平面内における位置を制御する。主制御系5は、さらに、送光系37a及び受光系37bからなるZセンサに制御信号を出力し、試料4のZ軸方向における位置座標を計測する。図示は省略しているが、Z軸方向における位置座標を計測に基づきXYステージ38以外に試料4のZ軸方向の位置を変化させるZステージや、試料4の物体面のXY平面に対する傾斜を制御するチルトステージを設けることが好ましい。
また、図において42は、試料4に対して負の電圧を設定する可変電源であり、試料4の設定電圧は、主制御系5によって制御される。ここで、試料4を負の電圧に設定するのは、一次ビームB1を試料4に照射したときに放出される二次電子を二次ビームB2として第1前段レンズ21の方向、つまり、−Z方向へ加速させるためである。
本実施の形態による物体検査装置は、上述の構成を備えており、次に、この物体検査装置を用いて試料4の欠陥検査をする本発明に係る物体検査方法を一次ビームB1と二次ビームB2の軌道、及び開口絞りASを用いた本発明に係る荷電粒子ビーム制御方法とについて述べながら詳述する。
荷電粒子源としての電子銃10からの電子ビームを一次ビームB1として物面上の試料(物体)の所定の照射領域(照明領域と称する場合もある)に照射するビーム照射工程(荷電粒子ビーム照射工程)を以下に述べる。まず、図2は、本発明の一実施形態による物体検査装置の一次ビームB1の軌道を示す図である。
ここで、図では理解を容易にするため、一次光学系11が備える部材の一部の図示を省略している。電子銃10から放出された一次ビームB1は、図に示すように照射レンズ12,13,14によって形成された電場の影響を受けて集束、あるいは発散される。ここで、電子銃10が有する矩形形状のカソードの長軸方向をx軸方向に設定し、短軸方向をy軸方向に設定すると、矩形陰極のx軸方向断面に放出された電子の軌道は、図において符号Pxを付して示した軌道となり、矩形陰極のy軸方向断面に放出された電子の軌道は図において符号Pyと付して示した軌道となる。
照射レンズ12,13,14による電場の影響を受けた後、一次ビームB1は、斜め方向からウィーンフィルタ23に入射する。一次ビームB1がウィーンフィルタ23に入射すると、その光路がZ軸に対して略平行な方向に偏向される。
ここで、ウィーンフィルタ23は、荷電粒子の進行方向によって、荷電粒子を偏向させるか直進させるかするビームセパレータである。一次光学系10から入射される一次ビームB1は、ウィーンフィルタ23によって偏向される。一方、試料4から発生した二次ビームB2は、ウィーンフィルタ23の中を直進する。こうして、ウィーンフィルタ23によって偏向された一次ビームB1は、第1アライナ22を通過した後、カソードレンズ21によるレンズ作用を受けて、物面OBとしての試料4の表面を照射する。このとき、試料4上の照明領域は、X軸方向に延在した細長い長方形状の領域であり、本実施形態においては、X軸方向の長辺LXとY軸方向の短辺LYとの比がLX:LY=4:1とされている。
一次ビームB1の照射により試料4から得られる二次電子を、二次ビームB2として本発明に係る荷電粒子ビーム制御方法を用いて検出装置30の検出面に集束させるビーム写像工程(二次ビーム集束工程)を以下に述べる。まず、試料4に一次ビームB1が照射されると、試料4から、試料4の表面形状、材質分布、電位の変化等に応じた分布の二次電子が得られる。この二次電子を二次ビームB2として試料4の表面状態の検査を行う。図3は、本発明の一実施形態による物体検査装置の二次ビームB2の軌道を示す図である。ここで、図では、理解を容易にするため、二次光学系20が備える部材の一部の図示を省略している。試料4から発生した二次電子のエネルギーは低く、0.5〜2eV程度である。この二次電子を二次ビームB2としてカソードレンズ21で加速する。二次ビームB2は、続いて第1アライナ22、開口絞りAS、ウィーンフィルタ23を順に通過する。ウィーンフィルタ23を通過した二次ビームB2は、結像レンズ前群25によって収束され、試料4の像が視野絞りFS2の位置に結像される。視野絞りFS2を通過した二次ビームB2は、結像レンズ後群28によって再度収束されて検出装置30の検出面に試料4の照明領域のおよそ100倍に近い拡大像が結像される。
二次ビームB2の電子を検出して検出面上に結像された試料4の拡大像を撮像する撮像工程は、以下のように行われる。まず、試料4は、その位置が随時レーザ干渉計40により主制御系5に把握されながら、主制御系5が制御する駆動装置41によりY軸正方向に移動させられる。試料4の位置の情報をもとに、主制御系5に制御された検出装置30から試料4の画像データの収集が行われる。例えば、図3に示すように、図中Q1で示される位置において試料4上の所定の物点から二次電子が放出され、二次ビームB2として検出装置30の検出面上のP1で示される位置に結像されるとすると、この点は、試料4の移動とともに検出面上を移動し、試料4上で二次電子を放出する位置が図中Q2で示される位置に到達したとき、検出面上のP2で示される位置まで移動する。この間、カメラ32に搭載されたTDIセンサは、図15及び図16に示す如く画像電荷を蓄積する。こうして蓄積された画像データが主制御系5に読み出され、記憶装置53に蓄えられる。
ところで、本発明の実施形態による物体検査装置は、試料4上の照明領域が一方向(X軸方向)に延在しているため、像面上(検出面上)における像のX軸方向の端部での単色収差による二次ビームB2の拡がりが大きく、像点がぼける。
このため、ビーム写像工程は、照明領域が延在する方向に直交する方向のY軸方向に長軸を有する楕円形の開口形状を有した開口絞りASを用いた荷電粒子ビーム制御方法を用いて行なわれる。
図4は、開口絞りASを有した二次光学系20による荷電粒子ビーム制御方法を説明するための概略図である。図において、符号OBは物面としての試料4の表面、NAは開口絞りASの開口形状が形成される物面OBのフーリエ変換面、IMは像面としての検出面を示し、図中、物面OB、フーリエ変換面NA、像面IMには、参考のために、それぞれX軸方向、Y軸方向と同じ向きで、しかも同じスケールを有した固有の座標軸Xo−Yo、XNA−YNA、Xi−Yiが記載されている。図には、楕円形の開口形状を有した開口絞りASに対して、比較のため、円形の開口形状を有した開口絞りAS0が破線で示されている。なお、図中、二次光学系20を構成する部材は簡略化のため概ね省かれて描かれており、例えば、カソードレンズ21、結像レンズ前群25、結像レンズ後群28は、それぞれ符号L1、L2、L3によって示されている。
図4には、一次光学系11からの一次ビームによって照明される物面OB上の照明領域OFが、二次光学系20によって像面IM上の像IFに結像される様子が示されている。ここで、照明領域OFが延在するX軸方向における照明領域OFの端部の一点、すなわち物点A(Xo−Yo座標の位置(A,0))から放出された二次ビームは、像面IM上の像IFが延在するX軸方向における像IFの端部の位置A’(Xi−Yi座標の位置(A’,0))に集束される。また、照明領域OFが延在するX軸方向に直交するY軸方向における照明領域OFの端部の一点、すなわち物点B(Xo−Yo座標の位置(0,−B))から放出された二次ビームは、像面IM上の像IFが延在するX軸方向に直交するY軸方向における像IFの端部の位置B’(Xi−Yi座標の位置(0,−B’))に集束される。また、照明領域OFの光軸上の一点、物点Oは、像IFの光軸上の位置O’に集束される。この二次光学系20において、フーリエ変換面NAに位置する開口絞りASは、物面OBから放出される二次ビームB2の開口角を制限する。なお、この明細書中、開口絞りASによって制限されるX軸方向及びY軸方向における開口角の半分の角度をαx及びαyとして表すことにする。この明細書中、これらの角度αx及びαyは、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線、つまり光束を導く光学系における主光線に相当する線、に対して試料側(物側)でなすX軸方向及びY軸方向における最大角度と称される場合もある。
図5は、二次光学系20の光軸上に位置する物面OB上の物点O、ならびに照明領域OFのX軸方向の端部に位置する物点Aから放出される二次ビームの伝播経路を主荷電粒子及び周辺の荷電粒子線によって概略的に示す図である。この図において、図4にそれぞれ対応する部分は、同一の符号を付す。図には、開口絞りASによってX軸方向の開口角が制限される様子が示されており、このX軸方向の開口角の半分の角度がαxとして示されている。Y軸方向の開口角については、X軸方向の開口角と同様に考えればよく、ここでは図示しない。
図6は、物面OB上の照射領域OFを二次ビームの進行方向から見た図である。図に示すように、照射領域OFは、X軸方向に延在しており、X軸方向の長さLXとY軸方向の長さLYの比LX:LYは、4:1とされている。この照射領域OFが二次光学系20によって像面IM上の像IFに結像される際、像面IM上の像IFの各位置における3次の単色収差による二次ビームの拡がり、すなわち像点の拡がりは、X軸方向に、
δx=A1αX 3+A2αXαy 2+A11αX 2X+A12αy 2X+A13αXαyY+A14αXX2+A15αXY2+A16αyXY+A17X3+A18XY2
と表され、また、Y軸方向に、
δy=B1αy 3+B2αyαx 2+B11αy 2Y+B12αx 2Y+B13αyαxX+B14αyY2+B15αyX2+B16αxXY+B17Y3+B18YX2
と表される。ここで、X及びYは、二次ビームが集束される像面IM上の位置における二次光学系20の光軸からの距離であり、また、A1、A2、A11、A12、A13、A14、A15、A16、A17、A18、B1、B2、B11、B12、B13、B14、B15、B16、B17、B18はそれぞれ二次光学系20内の荷電粒子ビームに作用する電磁場の分布に依存する係数である。二次光学系20が光軸の回りに概ね対称である本実施形態においては、これらの係数のうち、添え字の等しいものに関して(例えばA11とB11)は、XとYの入れ替えに対してδxとδyが等しくなるという対称性の要請から略同じ値となる。
像面IM上における3次の単色収差による二次ビームのX軸方向及びY軸方向の拡がりδx及びδyを表す式から分かるように、ビームの拡がりは、光軸からの距離X及びYに依存していて、ビームが光軸から遠い位置に集束されるほどその値が大きくなる。したがって、像IFが延在するX軸方向の像IFの端部(例えば位置A’)においては、単色収差によるビームの拡がりが最も大きい。
さらに、光軸回りに対称な二次光学系20では、理解を容易にするため上記の式のうち、一般性を失う事なくX軸上(Y=0)における前記像面上での3次の単色収差による荷電粒子ビームの拡がりを示す項、
δx=A1αx 3+A2αxαy 2+A11αx 2X+A12αy 2X+A14αxX2+A17X3
δy=B1αy 3+B2αyαx 2+B13αyαxX+B15αyX2
に着目すれば、A11αx 2X+A12αy 2X及びB13αyαxXの項の存在により、例えば、αx=αyの場合、X軸上のいかなる点においてもδx>δyとなることが分かる。
以上の2点から、例えば、αx=αyの場合、像IFが延在するX軸方向の像IFの端部(例えば位置A’)におけるX軸方向へのビームの拡がりδxが、像IF内の全ての位置における任意の方向へのビームの拡がりのうち、略最大の大きさを有しており、この値が二次光学系20の解像度、ならびに物体検査装置全体の解像度を決定していることが分かる。
ところで、αx=αyとなるのは、開口絞りが円形の開口形状を有する場合である。図8は、楕円形の開口形状を有する開口絞りASの代わりに、図7に示すような円形の開口形状を有する開口絞りAS0を図4の破線に示す如くフーリエ変換面NAに挿入した際、像面IM上の像IFの位置A’、B’、O’に生じる二次ビームの拡がりを示すものである。図から分かるように、光軸から遠い、像IFのX軸方向の端部の位置A’における像点のX軸方向の拡がりが位置B’、位置O’における像点の拡がりよりも大きくなっていることが分かる。
そこで、再び、像面IM上における3次の単色収差による二次ビームの拡がりを表すδx及びδyの式に着目して、これらのビームの拡がりδx及びδyが、二次ビームが物側で有するX軸方向及びY軸方向における開口角の半分の角度αx及びαyに依存しており、開口を大きくすればするほど、その値が大きくなることから、開口形状がX軸方向に短軸、Y軸方向に長軸を有する楕円形に形成されていれば、δyに対するδxの値が低減されることが分かる。したがって、長軸と短軸の比が適切に設定された楕円形の形状に開口形状を形成し、αx<αyとなる所定のαxとαyの比を設定し、像IFのX軸方向における端部の位置においてδx及びδyの値が略等しくなるようにする。さらに、二次ビームB2全体の強度を一定に保つため、αxとαyの積の値を一定に保つことによって開口形状の面積を一定に保つようにして開口形状を形成する。こうして、δx=δy、及びαx×αy一定という、αx及びαyの二つのパラメータに対する二つの条件から、開口形状の楕円形の形状が一義的に決定される。もっとも、二次ビームの強度に余裕がある場合、そして、解像度をさらに向上させる必要がある場合には、δx又はδyの値の最大値が所定の解像度以下の値となるように、δx=δyの条件から求められたαxとαyの比の値を保ちながら、αx及びαyの値をさらに低下させて設定すればよい。逆に、解像度が十分高く、ビーム強度が求められる場合には、αxとαyの比の値を保ちながら、所定の強度が得られるまで、αx及びαyの値を増加させて設定してもよい。
このように決定された楕円形の開口形状を有する開口絞りASを図9に示す。
図には、物面OB上の領域が延在するX軸方向に直交するY軸方向に長軸を有する楕円形の開口形状が示されている。図10は、楕円形の開口形状を有する開口絞りASを、図6に示す如くフーリエ変換面NAに挿入した際、像面IM上の像IFの位置A’、B’、O’に生じる二次ビームの拡がりを示すものである。図から、像IFのX軸方向の端部の位置A’における二次ビームが、像IFが延在するX軸方向と、この方向に直交する方向とに、それぞれ略等しい大きさの単色収差による拡がりを有していることが分かる。
図11は、位置A’に集束される二次ビーム内の各荷電粒子線が、一点に集束されず、二次ビームが位置A’の周りに拡がりを有している状態を示す図である。図11(a)は、Yi=0のときのXi=A’を中心としたX軸方向の二次ビームの拡がりを示す図であり、縦軸はXi軸、横軸は位置A’に入射する主荷電粒子線と二次ビーム内の各荷電粒子線とがなす角度を示す。±U0は、図4及び図7に示すようなαx=αyとなる円形の開口形状を有する開口絞りAS0を用いた場合に、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線と像側でなすX軸方向における最大角度を示すものである。なお、本実施形態においては、開口絞りによってU0の大きさが決定され、二次光学系20内の他の個所では制限されないようになっている。
図中、δx(位置A’)CAと示された幅が、円形の開口形状を用いた場合の、位置A’の周りのYi=0におけるX軸方向の二次ビームの拡がりを示している。同様に、図11(b)は、Xi=A’のときのYi=0を中心としたY軸方向の二次ビームの拡がりを示す図であり、縦軸はYi軸、横軸は位置A’に入射する主荷電粒子線と二次ビーム内の各荷電粒子線とがなす角度を示す。±U0は、図4及び図7に示すようなαx=αyとなる円形の開口形状を有する開口絞りAS0を用いた場合に、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線と像側でなすY軸方向における最大角度を示すものである。本実施形態においては、開口絞りによってU0の大きさが決定され、二次光学系20内の他の個所では制限されないようになっている。図中、δy(位置A’)CAと示された幅が、円形の開口形状を用いた場合の、位置A’の周りのXi=A’におけるY軸方向の二次ビームの拡がりを示している。
さて、図9に示すような楕円形の開口形状を有する開口絞りASを用い、αxとαyの比を適切に設定してαx<αyとすることにより、図11に示すように、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線と像側でなすX軸方向における最大角度を±U0x、Y軸方向における最大角度を±U0yとすることができ、位置A’の周りのYi=0におけるX軸方向の二次ビームの拡がりδx(位置A’)ECAを位置A’の周りのXi=A’におけるY軸方向の二次ビームの拡がりδy(位置A’)ECAに略等しくすることができる。ここで、U0yの大きさは開口絞りASによって決定され、二次光学系20内の他の個所では二次ビームは制限されないようになっている。このようにして、位置A’におけるY軸方向のビームの拡がりは一方で確かに増加するものの、他方で二次光学系20、ならびに物体検査装置全体の解像度の上限を決定していたX軸方向の二次ビームの拡がりを低減することができ、二次光学系20、ならびに物体検査装置全体の解像度を向上させることができる。
図12及び図13は、位置O’ならびに位置B’に集束される二次ビーム内の各荷電粒子線が、一点に集束されず、二次ビームが位置O’ならびに位置B’の周りに拡がりを有している状態を示す図である。
図12(a)は、Yi=0のときのXi=0を中心としたX軸方向の二次ビームの拡がりを示す図であり、縦軸はXi軸、横軸は位置O’に入射する主荷電粒子線と二次ビーム内の各荷電粒子線とがなす角度を示す。±U0は、図4及び図7に示すようなαx=αyとなる円形の開口形状を有する開口絞りAS0を用いた場合に、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線と像側でなすX軸方向における最大角度を示すものである。図中、δx(位置O’)CAと示された幅が、円形の開口形状を用いた場合に位置O’の周りのYi=0におけるX軸方向の二次ビームの拡がりを示している。同様に、図12(b)は、Xi=0のときのYi=0を中心としたY軸方向の二次ビームの拡がりを示す図であり、縦軸はYi軸、横軸は位置O’に入射する主荷電粒子線と二次ビーム内の各荷電粒子線とがなす角度を示す。±U0は、図4及び図7に示すようなαx=αyとなる円形の開口形状を有する開口絞りAS0を用いた場合に、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線と像側でなすY軸方向における最大角度を示すものである。図中、δy(位置O’)CAと示された幅が、円形の開口形状を用いた場合の、位置O’の周りのXi=0におけるY軸方向の二次ビームの拡がりを示している。
また、図13(a)は、Yi=−B’のときのXi=0を中心としたX軸方向の二次ビームの拡がりを示す図であり、縦軸はXi軸、横軸は位置B’に入射する主荷電粒子線と二次ビーム内の各荷電粒子線とがなす角度を示す。±U0は、図4及び図7に示すようなαx=αyとなる円形の開口形状を有する開口絞りAS0を用いた場合に、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線と像側でなすX軸方向における最大角度を示すものである。図中、δx(位置B’)CAと示された幅が、円形の開口形状を用いた場合の、位置B’の周りのYi=0におけるX軸方向の二次ビームの拡がりを示している。同様に、図13(b)は、Xi=0のときのYi=−B’を中心としたY軸方向の二次ビームの拡がりを示す図であり、縦軸はYi軸、横軸は位置B’に入射する主荷電粒子線と二次ビーム内の各荷電粒子線とがなす角度を示す。±U0は、図4及び図7に示すようなαx=αyとなる円形の開口形状を有する開口絞りAS0を用いた場合に、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線と像側でなすY軸方向における最大角度を示すものである。図中、δy(位置B’)CAと示された幅が、円形の開口形状を用いた場合の、位置B’の周りのXi=0におけるY軸方向の二次ビームの拡がりを示している。
図9に示すような楕円形の開口形状を有する開口絞りASを用い、αxとαyの比を適切に設定してαx<αyとすることにより、図12及び図13に示すように、二次ビームがこの二次ビームの主荷電粒子線と像側でなすX軸方向における最大角度を±U0x、Y軸方向における最大角度を±U0yとすることができ、位置O’や位置B’の周りのYi=0やYi=−B’におけるX軸方向の二次ビームの拡がりδx(位置O’)ECAやδx(位置B’)ECA、ならびに、位置O’やB’の周りのXi=0におけるY軸方向の二次ビームの拡がりδy(位置O’)ECAやδy(位置B’)ECAを変更することができる。この場合、図から分かるように、Y軸方向の二次ビームの拡がりは、円形の開口形状を有する開口絞りAS0を用いた場合よりも、むしろ大きくなってしまうのであるが、それでも、位置A’における二次ビームの拡がりδx(位置A’)ECAないしはδy(位置A’)ECAよりは小さい値であって、物体検査装置全体の解像度を低下させることには至らない。
以上、単色収差によって二次ビームが像面IM上で有する拡がりについて述べたが、二次ビームは、単色収差以外にも、色収差によるビームの拡がりを有している。すなわち、これまで、二次ビームが単一のエネルギーΦを有しているものとしたが、実際には、二次ビームはエネルギー幅ΔΦを有していおり、二次ビームは、このエネルギー幅ΔΦによって生じる色収差によるビームの拡がり
δxc=C1・ΔΦ/Φ・αx+C2・ΔΦ/Φ・X
δyc=D1・ΔΦ/Φ・αy+D2・ΔΦ/Φ・Y
をX軸方向及びY軸方向にそれぞれ有している。
ところで、本実施形態のように、二次ビームの軌道上に、従来は円形とされる開口形状の代わりに、楕円形の開口形状を設けて二次ビームを通過させると、クーロン力により生じる荷電粒子ビームのエネルギー幅が低減される。これは、楕円形の断面形状を有した荷電粒子ビームをクロスオーバーさせることによって、概ね非点収差的なクロスオーバーを生じさせるのと同様の効果がもたらされ、開口形状を通過させる荷電粒子ビームの電流値は同じでも、クーロン力により生じる荷電粒子ビームのエネルギー幅が低減されるからである。実際、数値計算によれば、例えばαx及びαyを30mradとして開口形状を円形にした場合に比較して、αxを26mradとし、αyを35mradとした場合に、エネルギー幅が2%狭くなることが実証された。
したがって、楕円形の開口形状を有する開口絞りASを用いることにより、単色収差によって生じる解像度の低下を改善できるだけでなく、色収差による解像度の低下も改善することができる。
上述のように、本実施の形態によれば、二次ビームのエネルギー幅を低減して、像面IM上における色収差による二次ビームの拡がりを低減することができ、さらに、像面IM上の像IFのX軸方向の端部における単色収差による二次ビームの拡がりを低減して二次光学系20、ならびに物体検査装置の解像度を向上することができる。したがって、本実施の形態による物体検査装置を用いた物体検査方法によれば、従来の半導体素子よりも線幅をさらに狭くした半導体素子を製造することができる。
なお、これまで、低エネルギーの電子ビームを用いて物体の表面を検査する物体検査装置について述べてきたが、電子ビームに限らず、荷電粒子ビームを用いた荷電粒子ビーム光学装置に楕円形の開口形状を有する絞りを用いれば、同じように荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くできるから、荷電粒子ビームは電子ビームに限られないことに留意すべきである。そして、荷電粒子ビームを導く荷電粒子ビーム光学系を有した荷電粒子ビーム光学装置において、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くすることが要求されるような荷電粒子ビーム光学装置であれば、本発明に係る荷電粒子ビーム光学装置を用いることができ、その応用は、上述したような物体検査装置や、さらには、物面から放出された荷電粒子ビームを像面上に結像させる構成を備えた荷電粒子ビーム光学装置に限られるものではない。
荷電粒子ビーム光学装置が、上記の実施形態のように、物面上の一方向に延在した領域から放出される荷電粒子ビームを導いて像面上に物面上の領域を結像させる荷電粒子ビーム光学系を有している場合にも、楕円形の開口形状を有する絞りを用いれば、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くでき、色収差を低減できる。この場合、絞りが、物面上の領域が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形の開口形状を有し、像面上における像が延在する方向と、この方向に直交する方向とに、それぞれ略等しい大きさの単色収差による拡がりを有するように開口形状の楕円形の長軸と短軸の比が設定されれば、荷電粒子ビーム光学装置の解像度を向上させることができるが、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭くするためだけであれば、絞りの開口形状が楕円形に形成されるだけでよく、楕円形の形状に対する制限は必ずしも必要ではない。
また、光軸回りに対称な荷電粒子ビーム光学系に限らず、荷電粒子ビーム光学系一般において、像面上に集束される荷電粒子ビームの単色収差による子午面方向の拡がりは、サジタル面方向の拡がりよりも大きい。そして、像面上での像が一方向に延在している場合には、像が延在している方向の像の端部の位置が光軸から最も遠くなり、この位置での単色収差による拡がりが像内の他の位置での拡がりより最も大きくなる。したがって、像が延在している方向における像の端部の位置での、像が延在する方向へのビームの単色収差による拡がりが、物体検査装置の解像度を決定してしまう。像面上での像が一方向に延在している場合には、像が延在する方向と子午面方向とは概ね一致するから、上記楕円形の開口形状によって、像が延在する方向の単色収差によるビームの拡がりを低減すれば、子午面方向のビームの拡がりも低減し、サジタル面方向のビームの拡がりとのアンバランスが解消される。ここで、前記開口形状の楕円形の長軸と短軸の比を適切に設定し、前記領域の像が延在する方向とこの方向に直交する方向の収差の拡がりが略等しい大きさとなるようにすれば、専ら子午面方向のビームの拡がりによって決定されていた荷電粒子ビーム光学装置の解像度が子午面方向のビームの拡がりの減少とともに向上する。
このように、荷電粒子ビーム光学装置の絞りが、物面上の領域が延在する方向に直交する方向に長軸を有する楕円形の開口形状を有していれば、荷電粒子ビーム光学系が光軸回りに対称でなくとも、像面上に集束される荷電粒子ビームの単色収差による拡がりを低減することができる。さらに、この場合、一方向に延在する像の形状は、本実施形態のように長方形状に限られないことは言うまでもない。
さらに、上記の実施形態においては、予め楕円形の開口形状を決定して絞りを形成し、荷電粒子ビーム光学系内に挿入する構成としたが、絞りの開口形状は、可変とされていてもよく、その都度、必要な解像度、ビーム強度から、像面上でのビームの拡がりを観測しながら、開口形状を楕円形に調整する構成とされていてもよい。