JP4010931B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電動パワーステアリング装置では、車輪の縁石での乗り上げ等に基づき、タイヤ側から操舵装置に過大なトルクが作用すると、電動モータや操舵装置のトルク伝達ギヤ等の破損を生ずる。そこで、特許文献1に記載の如く、電動モータの回転軸と操舵装置のアシスト軸の間に電動モータの回転軸に作用するトルクがリミットトルク(滑りトルク)を越えるとき、回転軸とアシスト軸の摺動面で相対滑りを生じさせ、その回転軸を空転させる。
【0003】
【特許文献1】
特開平9-221045([0007]、図3、図4)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1の電動パワーステアリング装置では、電動モータの回転軸とアシスト軸の何れか一方の内周と、何れか他方の外周との間に、トルクリミッタを介装するに際し、トルクリミッタの内周側と外周側の摩擦係数が同じであれば、トルクリミッタの小径の内周側で滑るはずになる。ところが、トルクリミッタは回転軸とアシスト軸の接続部の、極力半径方向サイズの狭い領域に設けられているため、トルク伝達時にトルクリミッタと回転軸の接触面で作用する荷重と、トルクリミッタとアシスト軸の接触面で作用する荷重は略同じになり、上述の両方の接触面で滑りを生じてしまう。これは、トルクリミッタのリミットトルクを管理する上で、不安定要素であり、リミットトルクの安定化を望まれる。
【0005】
本発明の課題は、電動パワーステアリング装置において、電動モータの回転軸とアシスト軸の接続部にトルクリミッタを介装するとき、リミットトルクの安定化を図ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、電動モータをハウジングに固定し、該ハウジングに操舵装置のアシスト軸を支持し、電動モータの回転軸とアシスト軸の一方に歯付嵌合部を介して回転方向に一体結合した接続環を設け、接続環の内周と、回転軸とアシスト軸の他方の外周との間に、トルクリミッタを介装してなる電動パワーステアリング装置において、前記トルクリミッタが、該トルクリミッタの外周側に位置する接続環とそれらの回転方向で係合する係合部を備え、トルクリミッタの係合部が接続環の歯付嵌合部の歯溝により形成された凹部と係合し、トルクリミッタは回転軸とアシスト軸の他方との接触面においてのみ相対滑りを生ずるようにしたものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
図1は電動パワーステアリング装置を一部破断して示す正面図、図2は図1のII−II線に沿う断面図、図3は図2のIII−III線に沿う断面図、図4は図3の要部拡大図、図5はトルクリミッタを示す斜視図、図6は図4のVI−VI線に沿う矢視図、図7は本発明の変形例を示す要部拡大図である。
【0012】
電動パワーステアリング装置10は、図1、図2に示す如く、不図示のブラケットにより車体フレーム等に固定されるアルミ合金製のギヤハウジング11(第1〜第3のギヤハウジング11A〜11C)を有する。そして、ステアリングホイールが結合されるステアリング軸12にトーションバー13を介してピニオン軸14を連結し、このピニオン軸14にピニオン15を設け、このピニオン15に噛合うラック16Aを備えたラック軸16を第1ギヤハウジング11Aに左右動可能に支持している。ステアリング軸12とピニオン軸14の間には、操舵トルク検出装置17を設けてある。尚、ステアリング軸12とピニオン軸14は軸受12A、14A、14Bを介してギヤハウジング11に支持される。
【0013】
操舵トルク検出装置17は、図2に示す如く、ステアリング軸12、ピニオン軸14に係合している円筒状のコア17Cを囲む2個の検出コイル17A、17Bを第3ギヤハウジング11Cに設けている。コア17Cは、ピニオン軸14のガイドピン17Dに係合する縦溝17Eを備えて軸方向にのみ移動可能とされるとともに、ステアリング軸12のスライダピン17Fに係合するスパイラル溝17Gを備える。これにより、ステアリングホイールに加えた操舵トルクがステアリング軸12に付与され、トーションバー13の弾性ねじり変形により、ステアリング軸12とピニオン軸14の間に回転方向の相対変位を生ずると、ステアリング軸12とピニオン軸14の回転方向の変位がコア17Cを軸方向に変位させるものとなり、このコア17Cの変位による検出コイル17A、17Bの周辺の磁気的変化に起因する検出コイル17A、17Bのインダクタンスが変化する。即ち、コア17Cがステアリング軸12側へ移動すると、コア17Cが近づく方の検出コイル17Aのインダクタンスが増加し、コア17Cが遠ざかる方の検出コイル17Bのインダクタンスが減少し、このインダクタンスの変化により操舵トルクを検出できる。
【0014】
第1ギヤハウジング11A内でラック軸16の一端を挟んでピニオン15と相対する部分に設けられているシリンダ部18には、図2に示す如く、ラックガイド19が内蔵され、ラックガイド19(ブッシュ19A)はシリンダ部18に被着されるキャップ20により背面支持されるばね21によりラック軸16の側に弾発され、ラック軸16のラック16Aをピニオン15に押し付けるとともに、ラック軸16の一端を摺動自在に支持する。尚、ラック軸16の他端側は軸受22により支持される。また、ラック軸16の中間部には連結ボルト22A、22Bにより左右のタイロッド23A、23Bが連結される。
【0015】
第2ギヤハウジング11Bには、図3に示す如く、中間壁24を介して、ボルト25により、電動モータ30のモータケース31が固定される。中間壁24は、短柱状をなし、両端部のそれぞれをハウジング11Bとモータケース31に液密に嵌合される。電動モータ30の回転軸32には接続環80を介してアシスト軸33が結合され、アシスト軸33はボールベアリング等の軸受73、74により第2ギヤハウジング11Bに両端支持されている。そして、アシスト軸33の中間部にウォームギヤ37を一体に備え、このウォームギヤ37に噛合うウォームホイール38をピニオン軸14の中間部に固定してある。電動モータ30の発生トルクは、ウォームギヤ37とウォームホイール38の噛合い、ピニオン15とラック16Aの噛合いを介してラック軸16に操舵アシスト力となって付与され、運転者がステアリング軸12に付与する操舵力をアシストする。
【0016】
ここで、電動モータ30は固定子51を有する。固定子51は、図3に示す如く、鉄等の磁性材料により形成される筒状のヨーク52(モータケース31と同じ)と、ヨーク52の内周の周方向複数位置にマグネット収容区画を形成する絶縁性樹脂材料により形成されたマグネットホルダ53と、マグネットホルダ53のマグネット収容区画に収容されて位置決め保持されるマグネット54と、マグネットホルダ53に位置決め保持されたマグネット54の内側に圧入される非磁性材料の極薄板により成形されたマグネットカバー55(不図示)とからなる。
【0017】
また、電動モータ30は、固定子51の内側に挿入されて回転軸32に固定される回転子56を有する。回転子56は、回転軸32の外周に設けられるアマチュアコア57とコンミテータ58とからなる。
【0018】
また、電動モータ30は、回転子56のコンミテータ58に接触せしめられるブラシ61と、ブラシ61を位置決め保持するブラシホルダ62を有する。また、電動モータ30は、ブラシホルダ62に位置決め保持されたブラシ61にピグテールを介して接続される給電コネクタ63を有する。
【0019】
電動モータ30は、ブラシ61から回転子56のコンミテータ58を経てアマチュアコア57に給電されると、アマチュアコア57の磁力線が固定子51のマグネット54で発生している磁界を切ることにより、回転子56が回転する。
【0020】
尚、電動モータ30の回転軸32は、一端部をモータケース31の一端閉塞部の中心部に設けた軸受71に支持され、他端部を中間壁24に埋設した軸受72に支持され、ハウジング11Bの側に突設している。
【0021】
また、アシスト軸33は、ウォームギヤ37の両側の軸受73、74によりハウジング11Bに両端支持され、かつ軸受73の内輪と軸受74の内輪に対して軸方向に相対移動可能にされている。そして、アシスト軸33は、軸受73に対するウォームギヤ37の側に設けたつば状内輪係止部と該軸受73の内輪の間に弾性変形具75を介装し、かつ軸受74に対するウォームギヤ37の側に設けたつば状内輪係止部と該軸受74の内輪の間に弾性変形具76を介装してある。弾性変形具75と弾性変形具76は、四角断面円環状のゴムからなる弾性体と、弾性体の両側面に焼付きにて結合した平板円板状座金とからなり、アシスト軸33への上述の装填状態下で、弾性体に一定の予圧縮量(一定の衝撃緩和性能)を付与して組込まれ、結果として、アシスト軸33を軸方向の双方向に弾性支持する。
【0022】
しかるに、電動モータ30の回転軸32とアシスト軸33は、接続環80(接続部)を介して以下の如くに結合される(図4〜図6)。
【0023】
回転軸32の軸受72から突設する端部と、アシスト軸33の軸受73から突設する端部とは、図4に示す如く、接続環80により接続される。
【0024】
アシスト軸33と接続環80は、アシスト軸33の端部に設けた歯付嵌合軸部33Aを接続環80の右端側に設けた歯付嵌合孔部80Aにがたなく相対回転不能に嵌合し(JIS B 1603のインボリュートスプライン大径合わせ)、一体結合される。
【0025】
回転軸32と接続環80は、接続環80の内周と回転軸32の外周との間にトルクリミッタ81を介装して以下の如くに結合される。即ち、トルクリミッタ81は、接続環80の内周と回転軸32の外周の間に圧入等されて径方向に弾発支持されるばね、樹脂等の弾性リングからなり、電動パワーステアリング装置10の通常使用されるトルク(リミットトルクより小なるトルク)では、弾性リングの弾発力により接続環80と回転軸32を滑りなく結合し続け、他方、タイヤが操舵中に縁石に乗り上げる等により、ラック軸16のストロークが急停止せしめられたときの電動モータ30のトルクがその弾性リングの弾発力を越える衝撃トルク(リミットトルク以上のトルク)に対しては、回転軸32を接続環80に対して滑らせて空転させ、電動モータ30のトルクを接続環80の側に伝達させないように機能する。トルクリミッタ81は、図5に示す如く、割り溝81Aを有するC字リングをなし、軸方向の両端の拡径部81Bと中央の縮径部81Cを備える。トルクリミッタ81は、回転軸32の外周と接続環80の内周のそれぞれにそれらの縮径部81Cと拡径部81Bのそれぞれを圧接して挟み込まれることにより弾性変形し、その径方向変形量に対応する荷重を接続環80と回転軸32に発生させる摩擦抵抗により、回転軸32から接続環80へトルク伝達可能にする。
【0026】
このとき、トルクリミッタ81は軸方向の一端側の拡径部81Bの周方向の一部に軸方向に突出する突起状係合部81Dを備える。そして、トルクリミッタ81の係合部81Dは、図4、図6に示す如く、トルクリミッタ81の外周側(拡径部81Bの側)に位置する接続環80の内周の周方向の一部に設けた凹部80Bと、それらの回転方向で係合している。接続環80の凹部80Bは、歯付嵌合孔部80Aのアシスト軸33の歯付嵌合軸部33Aとの噛合い部の延長上で、歯付嵌合孔部80Aの1つの歯溝そのものを利用し、又は該歯溝を深く加工することにて形成できる。また、接続環80は、焼結により歯付嵌合孔部80Aと同時に凹部80Bを型形成することもできる。
【0027】
尚、回転軸32の接続環80に挿入されている端部で、軸受72の側は大径部32A(軸受部)、自由端側は小径部32Bとし、小径部32Bにトルクリミッタ81の縮径部81Cを装填している。そして、回転軸32の大径部32Aは、接続環80の左端側の内周を互いにがたなく相対滑り回転可能にインロー結合する状態で支持し、回転軸32と接続環80を同軸配置する。大径部32Aは、回転軸32に圧入したブッシュによって構成するものでも良い。
【0028】
本実施形態によれば以下の作用効果がある。
▲1▼トルクリミッタ81は、電動モータ30の回転軸32と、アシスト軸33と回転方向に一体結合された接続環80のいずれか一方、本実施形態では接続環80と回転方向で係合していて相対回転しない。従って、トルクリミッタ81は、回転軸32と接続環80の他方、本実施形態では回転軸32との接触面においてのみ相対滑りを生ずるものになる、リミットトルクの安定化を図ることができる。
【0029】
▲2▼トルクリミッタ81の係合部81Dが、回転軸32と接続環80のうちで、トルクリミッタ81の外周側に位置する接続環80に設けた凹部80Bに係合する。従って、トルクリミッタ81との相対滑りは、トルクリミッタ81の内周側の回転軸32との小径接続部との間で生ずる。このとき、トルクリミッタ81の係合部81Dに作用する回転方向荷重は、その係合部81Dをトルクリミッタ81の内周側の接続部たる回転軸32に係合させる場合に比して、回転軸32と接続環80の回転半径比L(I)/L(O)(内周側半径たる回転軸32の半径をL(I)、外周側半径たる接続環80の半径をL(O)とする)だけ小さくなり、係合部81Dの耐久上有利になる。即ち、P(O)を外周側の接続環80との大径接続部に作用する回転方向荷重、P(I)を内周側の回転軸32との小径接続部に作用する回転方向荷重とするとき、P(O)=P(I)×[L(I)/L(O)]になる。
【0030】
図7の変形例が図4の実施形態と異なる点は、回転軸32の小径部32Bにおけるトルクリミッタ81の装填部よりも先端部にブッシュ83(軸受部)を圧入等により固定したことにある。これにより、回転軸32の接続環80に挿入されている端部で、トルクリミッタ81を挟む軸方向の左右両側には、大径部32A(軸受部)とブッシュ83(軸受部)が設けられ、大径部32Aとブッシュ83はそれらの切削加工された外周に、接続環80の内周をトルクリミッタ81の軸方向の両側で互いにがたなく滑り回転可能にインロー結合する状態で支持し、回転軸32と接続環80を同軸配置する。
【0031】
この変形例によれば、以下の作用効果がある。
▲1▼電動モータ30の回転軸32と、アシスト軸33と回転方向に一体結合された接続環80を互いに相対回転可能に支持する軸受部としての大径部32Aとブッシュ83を、トルクリミッタ81を挟む軸方向の両側に設け、回転軸32と接続環80を同軸配置するようにした。従って、電動モータ30の回転軸32に作用するトルクがリミットトルクを越えてその回転軸32が空転し、回転軸32と接続環80が滑り始めても、回転軸32と接続環80がトルクリミッタ81の両側で同軸配置されていてそれらの間に軸芯の振れや傾きがないため、それらの摺動面にかじりを生ずることなく相対滑りできる。
【0032】
▲2▼トルクリミッタ81の両側の軸受部を、電動モータ30の回転軸32に圧入したブッシュ32A、83により構成することにより、回転軸32と接続環80を簡易かつ確実に同軸配置し、それらの摺動面にかじりを生ずることなく相対滑りできる。
【0033】
本発明の実施において、電動モータ30の回転軸32とアシスト軸33は、回転軸32の端部に設けた歯付嵌合軸部に接続環80の歯付嵌合孔部を相対回転不能に嵌合し、接続環80の内周とアシスト軸33の外周との間にトルクリミッタ81を介装して結合されるものでも良い。
【0035】
また、電動モータ30の回転軸32とアシスト軸33の接続部(接続環80を介する接続部、又は接続環80を介さない直結の接続部)で、トルクリミッタ81を挟む軸方向の両側に設けられる軸受部は、ブッシュに限らず、回転軸32のむく表面又はアシスト軸33のむく表面により形成されるものでも良い。
【0036】
また、トルクリミッタ81の係合部は、複数箇所に周設しても良く、トルクリミッタ81の内周側に位置する回転軸32(又はアシスト軸33)の外周の周方向の一部と回転方向で係合するものでも良い。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を図面により記述したが、本発明の具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、電動パワーステアリング装置において、電動モータの回転軸とアシスト軸の接続部にトルクリミッタを介装するとき、リミットトルクの安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は電動パワーステアリング装置を一部破断して示す正面図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図4は図3の要部拡大図である。
【図5】図5はトルクリミッタを示す斜視図である。
【図6】図6は図4のVI−VI線に沿う矢視図である。
【図7】図7は本発明の変形例を示す要部拡大図である。
【符号の説明】
10 電動パワーステアリング装置
11 ハウジング
30 電動モータ
32 回転軸
32A 大径部(軸受部)
33 アシスト軸
80 接続環(接続部)
81 トルクリミッタ
81D 係合部
83 ブッシュ(軸受部)
Claims (1)
- 電動モータをハウジングに固定し、該ハウジングに操舵装置のアシスト軸を支持し、電動モータの回転軸とアシスト軸の一方に歯付嵌合部を介して回転方向に一体結合した接続環を設け、
接続環の内周と、回転軸とアシスト軸の他方の外周との間に、トルクリミッタを介装してなる電動パワーステアリング装置において、
前記トルクリミッタが、該トルクリミッタの外周側に位置する接続環とそれらの回転方向で係合する係合部を備え、
トルクリミッタの係合部が接続環の歯付嵌合部の歯溝により形成された凹部と係合し、
トルクリミッタは回転軸とアシスト軸の他方との接触面においてのみ相対滑りを生ずることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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