JP3973834B2 - 高強度高伸度合成繊維とその製造方法および製造装置 - Google Patents
高強度高伸度合成繊維とその製造方法および製造装置 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3973834B2 JP3973834B2 JP2000360828A JP2000360828A JP3973834B2 JP 3973834 B2 JP3973834 B2 JP 3973834B2 JP 2000360828 A JP2000360828 A JP 2000360828A JP 2000360828 A JP2000360828 A JP 2000360828A JP 3973834 B2 JP3973834 B2 JP 3973834B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- fiber
- strength
- yarn
- stretching
- elongation
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Images
Landscapes
- Artificial Filaments (AREA)
- Yarns And Mechanical Finishing Of Yarns Or Ropes (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、複屈折率が0.05以下で、結晶化度が10%以下である合成繊維原料糸条を25℃以下に冷却し、前記冷却された糸条に照射区間で繊維温度を100〜400K上昇させる強力な赤外線光束を照射して加熱軟化させ、該冷却と少なくとも3倍以上の延伸により該原料繊維の延伸前応力を少なくとも40MPaとして延伸して巻き取ることによって得られた少なくとも10%の伸度、少なくとも1.2GPa以上の強度、及び強度と伸度の積が180MPa以上である高強度高伸度の合成繊維、該高強度高伸度の合成繊維該製造方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
代表的な高強度・高弾性率繊維の強度と伸度をまとめたものを図1に示す〔I.M.Ward “Development in Oriented Polymers 2” Elsevier,p.65より。〕。一般に高強度・高弾性率繊維とされているアラミド繊維や炭素繊維、高性能ポリエチレン繊維、ガラス繊維等は、強度が2〜3GPaに達するものの、一般に5%以下の伸度しか持たないことが多く、製布等の加工に際して取り扱いに困難を伴う。また、これらの材料は高強度・高弾性率ではあるが、その材料コストもしくは製造コストが高く、汎用繊維とはなり得ない。材料コスト・製造コスト面で優れているのはポリエステル繊維やナイロン繊維等の汎用繊維であるが、これらは製布(編織)等の加工上充分である10%以上(編み特性としては好ましくは15%の伸度が必要)の伸度を示すものの、強度・弾性率が劣っている。結局、いわゆる高強度・高弾性率繊維は充分な強度を持つものの伸度は小さく、いわゆる汎用繊維は充分な伸度を持つものの強度には乏しい。
すなわち、図1に示した点線の右上に属する、1.2GPa以上の強度、180MPa以上の強度伸度積、および10%以上の伸度を併せ持つ繊維はほとんど存在しない。これらのうち、ポリエチレンなどのように明瞭な結晶分散を示す繊維材料の場合、溶解再結晶化等の方法によってあらかじめ分子鎖の絡み合いを少なくした糸条を結晶分散温度以上で延伸することにより、高強度・高弾性率の繊維を製造できる。また、この方法は結晶を破壊することなく結晶中から分子鎖を引き出す必要があるため、結晶分散温度以上で延伸することが不可欠である。この方法は明瞭な結晶分散温度が観察される高分子、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等ではたいへん有効な分子鎖配列方法であるが、明瞭な結晶分散が見られない繊維材料、即ちポリエステル繊維やナイロン繊維などには前記の高強度・高弾性率の繊維を製造する方法を適用できない。それは、これらの高分子では、延伸過程で配向結晶化することによっていわゆる繊維構造を形成するが、この構造は強固であり、一旦配向結晶が形成されてしまうと再構成することは難しいからである。従って、ポリエステル繊維やナイロン繊維などの製造においては、配向結晶化による繊維構造を如何に工夫するかが高強・高弾性率の繊維を実現するのに最も重要になる。配向結晶化は延伸工程において急速に起こるから、どれだけ効率的に分子鎖を配向させるような延伸工程を設計できるかが、高強度・高弾性率のポリエステル繊維やナイロン繊維を製造する際のキーポイントとなる。図2は一般的なポリエステル繊維を種々の延伸倍率で延伸した場合の公称応力−公称歪曲線とその破断点である強度および伸度(●)を表したものである。一般に総延伸倍率を高くすると、強度は増加するが伸度は減少してしまい、強度×伸度の値はあまり変化しない。これは、単に延伸倍率を高めても、配向結晶化を起こす段階で分子鎖を配向させる効率に大差が無いためであり、このような条件では、高強度でありながら高伸度である合成繊維は得られない。配向結晶化を起こす段階で分子鎖を配向させる効率を向上させられれば、高強度・高弾性率でありながら高伸度の繊維が得られ、結果として強度×伸度の値は大きくなるはずである。
図2において従来技術での配向結晶条件で得られる繊維の破断点である強度および伸度(●)を結ぶ点線と平行に本実施例の高応力延伸した場合の破断点である強度および伸度の特性が存在することが推測でき、高応力延伸の実現は、従来のものと全く異なる繊維の微細構造を実現しているものと推測できる。このように配向結晶化を起こす段階で分子鎖を配向させる効率を向上させるためには、延伸工程において、繊維が配向結晶化する前に高応力により分子鎖が引きそろえられることが実現できる条件を達成すことが重要である。従来、合成高分子繊維の延伸過程では、繊維の加熱方法として、加熱ピンや加熱ローラー等の接触式加熱手段を用いるもの、および加熱空気またはスチームなどの加熱気流を用いたものなどがあるが、いずれも熱の移動は主に繊維表面を介しての熱伝達によって行われるため、熱移動の効率が悪く、急速で均一な加熱は難しい。従って、繊維断面内に顕著な温度差が生じ、不均一な変形や不均質な構造を招きやすい。急速かつ均一な加熱ができないために、繊維の長さ方向での温度変化(この点に延伸点を生じさせるような)に乏しく、延伸前の糸条に加え得る応力は著しい制限を受ける。この理由は、繊維の長さ方向への温度変化に乏しいため、ローラーやピンの表面での摩擦力によって延伸点の位置を固定しているにもかかわらず、単位長さあたりの摩擦力には限界があるため、ある程度以上の延伸応力が加わった場合には延伸点位置が不安定になることが避けられないからである。これに対して、赤外線光束を照射することによって延伸点位置を固定する方法が、公開特許48−45612号公報において開示されている。しかし、ここで目的としていることは、得られる糸条の均質性を高めることであり、これにより高強度・高弾性率合成繊維を製造することについての明示の言及はない。また、米国特許第4,113,821号明細書においてスチーム等による延伸点位置固定法が開示されており、その方法中にレーザーを使用することの言及も有るが、赤外線照射による技術的意味についての言及はない。糸条の均一加熱手段ということに限れば赤外線を利用する方法としては、上記のほか公開特許48−85808号公報、昭48−8886特許公報、特開平4−281011号公報、特開平5−132816号公報において開示されていが、高強度の合成繊維を製造する方法における利用については言及していない。また、赤外線照射によって繊維を急速に加熱・延伸することにより、均一かつ高配向なポリエステル繊維、もしくは高配向度かつ低比重のポリエステル繊維を製造することにより、結果として高強度・高弾性率合成繊維を得る方法が、特公昭60−94619号公報および特開昭61-75811号公報に開示されている。しかし具体例としては、複数の延伸法を採用する場合においても1つの段での延伸倍率範囲は従来の延伸法において一般的な延伸倍率である1.29〜4.3倍を採用しているが、高応力を実現する工夫についての教示は全くないし、まして、高応力をかけて高倍率まで延伸することで、1.2GPa以上の高強度であるが、織物の製造に要求される少なくとも5%の伸度、好ましくは10%以上の伸度を持つ高強度高伸度合成繊維を製造する技術について教示していない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の課題は、糸条を均一かつ急速に加熱できる赤外線照射の特性を最大限有効に利用し、糸条が配向結晶化する前に高応力をかけて分子鎖を引きそろえることによって、高強度でありながら高伸度を示す、換言すれば高強度にした場合には、低伸度(5%未満)となる相容れない特性を同時に満足する高強度高伸度の合成繊維を提供することである。第2の課題は、該合成繊維を十分に高速な生産速度で能率的に加工する方法および該方法を効率的に実施する装置を提供することである。本発明者は、前記課題を解決するために、赤外線照射による合成繊維およびモノフィラメントの製造における加熱手段を利用して、従来にない延伸前における応力を高める方法を鋭意検討し、複屈折率が0.05以下で、結晶化度が10%以下である合成繊維原料糸条を用い、該原糸を25℃以下に冷却して、照射区間で繊維温度を100〜400K上昇させる強力な赤外線光束による加熱延伸と組み合わせることにより延伸前応力を少なくとも40MPa以上にすることができることを発見し前記本発明の第1の課題を解決した。更に該赤外線光束の照射手段を、該合成繊維原料糸条を25℃以下に冷却する装置内に配置することにより効率的に高強度高伸度合成繊維を製造できることを発見し本発明の第2の課題を解決した。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1は、複屈折率が0.05以下で、結晶化度が10%以下である合成繊維原料糸条を25℃以下に冷却し、前記冷却された糸条に照射区間で繊維温度を100〜400K上昇させる強力な赤外線光束を照射して加熱軟化させ、該冷却と少なくとも3倍以上の延伸により該原料繊維の延伸前応力を少なくとも40MPaとして延伸して巻き取ることによって得られたり少なくとも10%の伸度少なくとも1.2GPa以上の強度、及び強度と伸度の積が180MPa以上である高強度高伸度の合成繊維である。好ましくは、25℃以下に冷却した原料糸条を毎秒0.1〜200mで走行させつつ、赤外線光束を該被加熱糸条の0.1〜100mmの区間に照射して照射区間内で繊維温度を100〜400K上昇させてガラス転移温度以上まで加熱軟化させることを特徴とする前記各高強度高伸度の合成繊維であり、より好ましくは、合成繊維がポリエステル繊維またはナイロン繊維であることを特徴とする前記各高強度高伸度の合成繊維であり、一層好ましくは、複屈折0〜0.020の未延伸繊維を使用し、冷却温度を15℃以下とし、6倍以上延伸して得られたものであることを特徴とする前記各高強度高伸度のポリエステル繊維である。
【0005】
本発明の第2は、複屈折が0.05以下で、結晶化度が10%以下である合成繊維原料糸条を25℃以下に冷却し、前記冷却された糸条に繊維温度を0.1〜100mmの区間において100〜400K上昇させる強力な赤外線光束を照射して加熱軟化させ、該冷却と少なくとも3倍以上の延伸により該原料繊維の糸条の延伸前応力を少なくとも40MPaとして延伸して巻き取ることを特徴とする前記の高強度高伸度合成繊維の製造方法である。好ましくは、前記延伸工程が、紡糸口金より溶融紡出した糸条を一旦冷却して固化して合成繊維原料糸条を製造する工程に引き続いていることを特徴とする前記高強度高伸度合成繊維の製造方法であり、より好ましくは、赤外線光束の照射に、レーザーによるコヒーレント光源を用いることを特徴とする前記各高強度高伸度合成繊維の製造方法である。
【0006】
本発明の第3は、赤外線光束の照射に、レーザーによるコヒーレント光源を用いることを特徴とする請求項5または6に記載の高強度高伸度合成繊維の製造方法。
請求項8 複屈折率が0.05以下で、結晶化度が10%以下である合成繊維原料糸条を25℃以下に冷却し、前記冷却された糸条に繊維温度を0.1〜100mmの区間において100〜400K上昇させる強力な赤外線光束を照射して加熱軟化させ、該冷却と少なくとも3倍以上の延伸により該原料繊維の糸条の延伸前応力を少なくとも40MPaとして延伸して巻き取り少なくとも10%の伸度、少なくとも1.2GPa以上の強度、及び強度と伸度の積が180MPa以上である高強度高伸度合成繊維の製造装置において該原料糸条を25℃以下にする冷却を冷却槽中を走行する糸条に冷風を吹き付ける装置が配置された該冷却槽中で行うことを特徴とする高強度高伸度合成繊維の製造装置である。
【0007】
【発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。赤外線光束を照射して急速かつ均一に加熱し、瞬間的に延伸する工程において、延伸中の糸条に加え得る最大の応力は赤外線照射範囲以前での糸条が降伏する際の糸張力と延伸倍率によって制限される。また、前記高応力を用いて延伸することによって高強度高伸度の繊維が得られるためには、複屈折が0.05以下、好ましくは0.02以下であり、結晶化度が10%以下であることが該延伸において配向を十分に発達させて結晶化が起こさせるための必要条件である。更に該結晶は、該延伸において配向を改善することができない配向結晶が少ないことが好ましい。従って、合成繊維原料糸条の特性は、その生産方法には関係なく、複屈折が0.05以下、好ましくは0.02以下であり、結晶化度が10%以下であればよい。
【0008】
本発明における延伸前の応力とは、測定される応力、換言すれば糸条に加わる巻き取り張力を延伸前の繊維の断面積で除した値のことである。延伸中の糸条に作用させ得る応力を高める方法としては、延伸する前の糸条の降伏応力を高めることである。糸条の降伏応力には温度依存性が有り、一般に低温ほど大きくなる。従って、合成繊維原料糸条を25℃以下、好ましくは15℃以下に冷却した状態で照射区間で繊維温度を100〜400K上昇させる強い赤外線を照射することがよい。
図3に、延伸に供される繊維の温度と応力の関係を示す〔S.W.Allison & I.M.Ward, Brit.J.Appl.Phys.18,1151 (1967)より。〕。降伏応力は温度上昇にしたがって急激に低下し、ガラス転移温度(80℃付近)でほぼ消失する。25℃での降伏応力は約40MPaであり、冷却することにより増加する。
【0009】
赤外線光束照射加熱によって糸条を急速かつ均一に加熱する場合、延伸点の位置は充分に安定であり、これを前記冷却と組み合わせることにより、高強度高伸度繊維を製造できる。糸条の走行速度としては、毎秒0.1〜200mが好適である。また赤外線光束を照射して照射区間で繊維温度を100〜400K上昇させることが好適である。延伸時の糸条に作用させる糸張力は、赤外線照射区間以前に糸条が降伏しない範囲で、できるだけ大きいことが望ましい。
【0010】
原材料のポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルのほか、ブチレンテレフタレートもしくはプロピレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルを溶融紡糸した繊維が使用できる。これらに従来公知の酸成分もしくアルコール成分を共重合したものであってもよく、ポリエステルが実質的に線状である範囲で、従来公知の重合停止剤が含まれていてもよい。また、従来公知の添加物が含まれていてもよい。
【0011】
原材料のナイロン繊維とは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などを主たる繰り返し単位とする高分子を溶融紡糸した繊維が使用できる。これらに従来公知の酸成分もしくはアミン成分を共重合したものであってもよく、実質的に線状である範囲で、従来公知の重合停止剤が含まれていてもよい。また、従来公知の添加物が含まれていてもよい。
【0012】
糸条の軸方向0.1〜100mmの区間に渡り赤外線光束を照射して糸条1を急速に加熱し、繊維温度をこの区間内で100〜400K上昇させて軟化させ延伸する。この結果、延伸によって加えられる真歪の多くの部分、典型的には50%以上が上記の加熱領域内に含まれる。主に変形する位置は、赤外線照射強度が最大になる点よりもいくぶん手前である方が安定な延伸状態を実現しやすく、望ましくは赤外線照射強度の増加率が最大になる点付近になるようにすることが好ましい。瞬間的に加熱された糸条は、外力によって瞬間的に延伸されることによって分子鎖を高度に配向させ、高強度高伸度の繊維を得ることができる。糸条は、単一の繊維に限らず複数繊維の束でもよい。
【0013】
赤外線光束の光源としては、合成繊維の糸条が吸収し軟化に資する赤外線波長0.7μm〜100μmを発するもの、具体的には高温の発熱体を利用した連続スペクトル光源、アーク放電を利用したアーク光源、レーザー発振を利用したコヒーレント光源である。アーク光源としては、高輝度であることからキセノンランプが適している。またレーザー光源は、光線の平行性が高いために集光や平行光束の形成が容易であること、および大きな出力が得られることから適している。レーザーには、気体、固体、半導体、色素、エキシマー、自由電子を放出源としたものが使用可能であるが、二酸化炭素気体を放出源とする発振波長9〜12μmのもの、Nd3+を微量加えたイットリウムアルミニウムガーネット(3Y2O3・5Al2O3)を放出源とする発振波長0.9〜1.2μmのものが優れている。このうち、特に二酸化炭素レーザーは、ポリエステル・ナイロンの合成繊維材料が適度な吸収を示す波長帯であるため、実施に有効である。糸条が吸収する赤外線のエネルギー量は、赤外線の波長、および糸条の直径、糸速度、密度、熱容量、赤外線吸収率に依存する。赤外線照射による温度上昇を△Tと表現すると、糸条の走行が定常状態になっていると仮定できるとき、一般に△T=Q/WCの関係がある。ここでQは照射により糸条が単位時間に吸収するエネルギー量、Wは糸条の質量流量、Cは糸条の比熱である。糸条に照射される単位時間あたりの赤外線エネルギーをiとすると、Q=Ki、ただしKは糸条による赤外線エネルギーの吸収率である。典型的条件としてK=0.6とし、比熱1.17kJ/kg・K、密度1.32Mg/m3、直径0.1mmの円形断面単繊維が速度10m/sで走行することを仮定すると、△T=5iになる。すなわち、糸条に1W(ワット)の赤外線が照射されたとき、糸条の温度は5ケルビンだけ上昇する。尚、糸条の温度は繊維の変形自体によっても上昇する。従って、ガラス転移温度付近まで加熱された繊維が軟化して延伸される場合、粘性変形もしくは塑性変形によって生じる熱によってさらに温度が上昇し、さらに軟化するといった連鎖的変化を生じ、たいへん狭い範囲内に変形を集中させることができる。また、本発明における赤外線の照射領域とは、糸条に照射される赤外線光束の強度が、糸条中で最大になる位置での強度と比較して1/e2以上である範囲をいう。ただし、eは自然対数の底である。
【0014】
本発明の高強度高伸度の合成繊維の製造方法について説明する。図4に示すように、合成繊維糸条1を、ロール2から一定の供給速度vで供給し、延伸前応力を高めるための一定の温度に冷却すための装置4を経た後、レーザーを含む赤外線照射手段5により赤外線光束を糸条1に照射することで糸条1をガラス転移温度以上に加熱して軟化させ、供給速度vよりも早い速度Vでロール2に糸条1を巻き取ることで延伸する。一定の温度に冷却すための装置4と、赤外線光束を照射するレーザーを含む赤外線照射手段5は一体化していても良い。
【0015】
図5に、直接紡糸延伸法による本発明の高強度高伸度の合成繊維の製造方法を示す。合成繊維の原材料である溶融高分子を溶融紡糸ノズル6から押し出し、いったんガラス転移温度以下まで冷却して固化させた糸条1を、回転するローラー7表面に巻き付け、速度vで引き取り送り出し、延伸された後に作用させ得る応力を高めるための処理を施すための装置4を経た後、赤外線照射手段5で糸条1を軟化させ、供給速度vよりも早い速度Vでロール3に糸条1を巻き取ることで延伸する。
【0016】
図6、7は、本発明の繊維加工装置に装備されている赤外線照射手段の好ましい例が示されている。図6の例では、赤外線照射手段はレーザー8からの赤外線IRをレンズ9により集光している。糸条1の位置は焦点の後方を例示にしてあるが、焦点の前方であってもかまわない。このように糸条1を焦点からずらすことによって、赤外線IRの照射領域を幅のあるものにしている。糸条1のさらに後方には空冷または水冷された遮光板10が配置されており、糸条に吸収されなかった赤外線を吸収するために設けてある。材料としては、煉瓦等の耐熱素材、表面を粗面化して耐熱塗料を塗布した金属等が適している。レーザー8からの赤外線IRは平行光線のままでも良く、集光手段としてはレンズ、シリンドリカルレンズの他、プリズム、反射ミラー、導波路を用いても良い。
【0017】
図7の例では、赤外線照射手段5の他の例を示す。レーザー8からの赤外線IRを導波路である光ファイバー11により回転楕円体内面ミラー12に導入している。光ファイバー11の出射端を回転楕円体の第1焦点、糸条1の延伸部位を第2焦点近傍に位置することで、糸条1を効率的に加熱できる。ミラーの形態としては、楕円シリンドリカル内面ミラーを使用することもできる。レンズ9、プリズム、導波路11、またはミラー12の材質としては、赤外線を透過または反射する物質である必要がある。前者の例としては波長が9〜12μm程度ならばセレン化亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、カルコゲナイドガラスなど、波長が0.9〜1.2μm程度ならば石英やフッ化リチウム、フッ化バリウム、フッ化物ガラスなどが挙げられる。後者の例としては金属の鏡面を挙げることができる。また、内面に反射膜を付加した中空管を導波路11として使用してもよい。
【0018】
図8に示した例では、糸条を冷却することによって延伸された後に作用させ得る応力を高めるための処理を施すための装置を示している。糸条1に外部から冷風導入口から冷風16を吹き付け冷媒槽14中を走行する糸条を冷却する。延伸前原料糸条に高応力を加えるためには、赤外線照射前に原料糸条を一定温度に十分に冷却することが重要である。 張力付加装置15の表面を冷却することで、冷却を向上させることができる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されない。実施例および比較例用いられた原料糸条はポリエチレンテレフタレートを紡糸温度295℃、ノズル直径0.5mm、1hole(L/D=5)、吐出量毎分5.01g、巻取速度毎分300mの条件で溶融紡糸して製造した繊維を用いた。この繊維は、直径133μm、複屈折0.001、強度0.11GPa、弾性率1.7GPa、降伏応力39.9MPaであった。また、ISO 1628−5の基準でオルトクロロフェノールを使用して測定した濃度0.5g/dlでの還元粘度は、0.87dl/gである。また実施例および比較例1、2使用した共通の延伸条件は以下のとおりである。光源としてのレーザーは二酸化炭素気体レーザーで、発振波長は10.6μm、ビーム径5.0mm、ビーム広がり角1.0mradである。図7に示す赤外線照射手段12で、レンズによりビームを集光している。レンズの焦点距離は50mmである。糸条は焦点の後方に位置させ、レーザーの光軸と垂直方向に毎秒0.166mで走行させた。レーザーの出力は22.5W、照射位置でのビーム直径は4mmである。糸条の巻き取り張力を東レエンジニアリング社製TTM-201型テンションメータで測定し、延伸前の繊維断面積で除すことによって、本発明で定義した延伸前応力を算出した。延伸前の繊維の降伏応力と比較するために、延伸前応力を表1に掲載した。未延伸繊維、実施例および比較例1、2の強度、伸度および初期弾性率の試験は、把持部を紙及び接着剤で補強した繊維試料を、初期のチャック間隔40mmで把持し、毎秒0.67mmの速度で1軸引張試験を行って得た応力−歪曲線の破断点から読みとった公称応力、公称歪を使って計算した。測定温度は25℃、初期弾性率は歪0の点での傾き、強度、伸度、および降伏応力は破断点および降伏点での応力および歪から求めた。実施例および比較例1、2の延伸糸の試験結果が表1に示してある。
【0020】
【表1】
【0021】
実施例1繊維の糸条に冷風を吹き付け、15℃に冷却した状態で赤外線を照射し、加熱・延伸して高強度合成繊維を試作した。冷却によって原材料繊維の降伏応力を増大させた結果、25℃での降伏応力を超える45.5MPaの延伸前応力を加えることが可能になり、6.5倍まで安定的に伸長できた。得られた高強度合成繊維の力学的性質は、室温(25℃)で最大近くまで延伸した比較例1試料と比較して、強度で1.21倍、初期弾性率で1.22倍に達する。また伸度も比較例1より大きく、10%以上の伸度を保持しつつより高強度化できる余地が有ることを示している。強度×伸度の値は206MPaに達し、比較例1の1.29倍に達する。結局、本実施例の繊維は1.2GPa以上の強度と180MPa以上の強度伸度積を併せ持つ繊維となっている。赤外線照射を利用しないで最大まで伸長した比較例2と比較すると、強度で2.30倍、初期弾性率で1.78倍に達する。実施例2原材料繊維をあらかじめ60℃で1時間熱処理して十分“体積緩和”させた後、表1の条件で赤外線照射加熱により延伸した。その結果、比較例7と比較して、強度で@倍、初期弾性率で@倍に増加した。比較例1実施例と同じ原材料繊維を表1の条件で赤外線照射加熱により延伸した。延伸前応力が原繊維の降伏応力とほぼ一致する延伸倍率約6.3倍以上では、安定的に巻き取ることができず、短時間で破断する。引張試験での歪速度と本実施例および比較例1の延伸工程での歪速度は106倍ほども違い,実施温度も2K違うため、厳密な比較は難しいが、おおよそ延伸前繊維が降伏する張力が加わった場合には延伸が不安定になり、破断に至ることが分かる。得られた合成繊維は、熱伝達により加熱して延伸された比較例2の試料繊維よりは高強度・高弾性率であるが、実施例には及ばない。比較例2毎秒0.01mで供給した糸条を80℃のシリコンオイル中で4倍まで連続延伸した繊維である。これ以上の延伸倍率では延伸点位置が不安定になり、延伸することができない。延伸時の応力は測定していないが、原繊維の降伏応力に近い延伸前応力が作用していると考えられる。強度×伸度の値は364MPaと大きいが、これは伸度が必要以上に大きいためであり、強度は従来使用されているポリエステル繊維と同等以下に過ぎず、高強度繊維とは言えない。
【0022】
【発明の効果】
本発明の高強度高伸度の合成繊維は、従来の高強度合成繊維に比較して、強度および弾性率がさらに高くなっているにも係わらず、製布等の加工に必要充分な伸度を保ち、強度と伸度の積は180MPa以上に達する。また従来、高強度で高弾性率を持つ合成繊維に加工するには、多段の工程と加熱エネルギーを多く必要としていたが、本発明の合成繊維の延伸方法によれば、きわめて高強度かつ高弾性率でありながら高伸度に能率良く加工できるから、そのような合成繊維を安価に大量生産できる。さらに高強度合成繊維の加工装置は、簡便な構成でありながら加熱エネルギーを節約して高強度合成繊維への加工ができる装置となっている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 代表的な高強度繊維素材の典型的な強度と伸度の関係(●)。更に、実施例1(■)および比較例1(□)を示す。
【図2】 一般的なポリエステル繊維を種々の延伸倍率で延伸した場合の公称応力−公称歪曲線とその破断点である強度および伸度(●)を示す。更に、実施例1(■)および比較例1、2(□)を示す。
【図3】 降伏応力の試験温度依存性を示す
【図4】 本発明の高強度繊維の製造工程の一形態を示す概略図。
【図5】 直接紡糸延伸法による本発明の高強度高伸度の合成繊維の製造方法
【図6】 本発明の繊維加工装置に装備されている赤外線照射手段5の一形態を示す概略図。
【図7】本発明の繊維加工装置に装備されている赤外線照射手段5の異なる形態を示す概略図。
【図8】 本発明の繊維加工装置に装備されている、延伸中の糸条に作用させ得る応力を高めるために糸条を冷却する処理を施すための装置4の一形態を示す概略図。
【符号の説明】
1・・・糸条、2・・・第1引き取りローラー、3・・・第2引き取りローラー、4・・・応力付加処理手段、5・・・赤外線照射手段、6・・・溶融紡糸ノズル、7・・・ローラー、8・・・赤外線源、9・・・レンズ、10・・・遮光版、11・・・光導波路、12・・・集光ミラー、14・・・冷気槽、15・・・ローラー、16・・・冷風、
Claims (8)
- 複屈折率が0.05以下で、結晶化度が10%以下である合成繊維原料糸条を25℃以下に冷却し、前記冷却された糸条に照射区間で繊維温度を100〜400K上昇させる強力な赤外線光束を照射して加熱軟化させ、該冷却と少なくとも3倍以上の延伸により該原料繊維の延伸前応力を少なくとも40MPaとして延伸して巻き取ることによって得られた少なくとも10%の伸度、少なくとも1.2GPa以上の強度、及び強度と伸度の積が180MPa以上である高強度高伸度の合成繊維。
- 25℃以下に冷却した原料糸条を毎秒0.1〜200mで走行させつつ、赤外線光束を該被加熱糸条の0.1〜100mmの区間に照射して照射区間内で繊維温度を100〜400K上昇させてガラス転移温度以上まで加熱軟化させることを特徴とする請求項1に記載の高強度高伸度の合成繊維。
- 合成繊維がポリエステル繊維またはナイロン繊維であることを特徴とする1または2に記載の高強度高伸度の合成繊維。
- 複屈折0〜0.020の未延伸繊維を使用し、冷却温度を15℃以下とし、6倍以上延伸して得られたものであることを特徴とする請求項3に記載の高強度高伸度のポリエステル繊維。
- 複屈折が0.05以下で、結晶化度が10%以下である合成繊維原料糸条を25℃以下に冷却し、前記冷却された糸条に繊維温度を0.1〜100mmの区間において100〜400K上昇させる強力な赤外線光束を照射して加熱軟化させ、該冷却と少なくとも3倍以上の延伸により該原料繊維の糸条の延伸前応力を少なくとも40MPaとして延伸して巻き取ることを特徴とする請求項1に記載の高強度高伸度合成繊維の製造方法。
- 前記延伸工程が、紡糸口金より溶融紡出した糸条を一旦冷却して固化して合成繊維原料糸条を製造する工程に引き続いていることを特徴とする請求項5に記載の高強度高伸度合成繊維の製造方法。
- 赤外線光束の照射に、レーザーによるコヒーレント光源を用いることを特徴とする請求項5または6に記載の高強度高伸度合成繊維の製造方法。
- 複屈折率が0.05以下で、結晶化度が10%以下である合成繊維原料糸条を25℃以下に冷却し、前記冷却された糸条に繊維温度を0.1〜100mmの区間において100〜400K上昇させる強力な赤外線光束を照射して加熱軟化させ、該冷却と少なくとも3倍以上の延伸により該原料繊維の糸条の延伸前応力を少なくとも40MPaとして延伸して巻き取り少なくとも10%の伸度、少なくとも1.2GPa以上の強度、及び強度と伸度の積が180MPa以上である高強度高伸度合成繊維の製造装置において該原料糸条を25℃以下にする冷却を冷却槽中を走行する糸条に冷風を吹き付ける装置が配置された該冷却槽中で行うことを特徴とする高強度高伸度合成繊維の製造装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2000360828A JP3973834B2 (ja) | 2000-11-28 | 2000-11-28 | 高強度高伸度合成繊維とその製造方法および製造装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2000360828A JP3973834B2 (ja) | 2000-11-28 | 2000-11-28 | 高強度高伸度合成繊維とその製造方法および製造装置 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2002161451A JP2002161451A (ja) | 2002-06-04 |
JP3973834B2 true JP3973834B2 (ja) | 2007-09-12 |
Family
ID=18832361
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2000360828A Expired - Fee Related JP3973834B2 (ja) | 2000-11-28 | 2000-11-28 | 高強度高伸度合成繊維とその製造方法および製造装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3973834B2 (ja) |
Families Citing this family (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
KR101096124B1 (ko) | 2003-03-07 | 2011-12-19 | 고쿠리츠다이가쿠호징 야마나시다이가쿠 | 연신된 코어ㆍ클래드형 필라멘트 |
WO2006095661A1 (ja) * | 2005-03-11 | 2006-09-14 | University Of Yamanashi | 全芳香族ポリエステル極細フィラメントの製造手段 |
-
2000
- 2000-11-28 JP JP2000360828A patent/JP3973834B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2002161451A (ja) | 2002-06-04 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP2004107851A (ja) | 延伸されたフィラメントの製造方法およびその製造装置および高度に分子配向した極細フィラメント | |
CN1802460B (zh) | 芯鞘型拉伸长丝 | |
WO2000073556A1 (fr) | Fibres synthetiques tres resistantes, leur procede de traitement et dispositif de traitement connexe | |
JPS5947726B2 (ja) | ポリエステル繊維の製造法 | |
JP2021120501A (ja) | 高強度ポリエチレンテレフタレート原糸の製造方法 | |
JP3973834B2 (ja) | 高強度高伸度合成繊維とその製造方法および製造装置 | |
JP2576555B2 (ja) | ポリエステル繊維の直接紡糸延伸方法 | |
SK8622002A3 (en) | Apparatus for manufacturing optical fiber made of semi-crystalline polymer | |
JP2021516730A (ja) | 高強度原糸を製造するための紡糸パック、原糸の製造装置および原糸の製造方法 | |
JPH0261109A (ja) | ポリエステル繊維 | |
JP3888164B2 (ja) | ポリエステルモノフィラメントおよびその製造方法 | |
JP2008031617A (ja) | 生分解性モノフィラメントとその製造方法 | |
JP2002020926A (ja) | ポリプロピレンマルチフィラメントの製造方法 | |
JP2528985B2 (ja) | ポリエステル繊維の溶融紡糸方法 | |
JPS5915513A (ja) | ポリエステル繊維の製造方法 | |
JP2002115117A (ja) | 低分子配向繊維およびその製造方法 | |
KR20020061368A (ko) | 형태안정성이 우수한 고강력 폴리에스터 원사 및 그제조방법 | |
JPS63315608A (ja) | ポリエステル繊維 | |
KR100192096B1 (ko) | 초고속방사법에 의한 폴리에스테르 이수축혼섬사의 제조방법 | |
TW538156B (en) | High-strength synthetic fiber and method and apparatus for fabricating the same | |
JPH07268721A (ja) | ポリエステル繊維の熱処理装置 | |
JPH09316726A (ja) | 極細ポリエステル繊維の製造方法 | |
JPS5951603B2 (ja) | 重合フイラメント状物の製造法 | |
KR0132395B1 (ko) | 초고속방사법에 의한 폴리에스테르섬유의 제조방법 | |
JP2023543600A (ja) | 後加工性が向上したポリエチレン原糸およびそれを含む原反 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
RD02 | Notification of acceptance of power of attorney |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7422 Effective date: 20040213 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20050624 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20051206 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20051216 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20070515 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20070521 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20070612 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20070613 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100622 Year of fee payment: 3 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |